説明

特異結合分析方法および装置

【目的】汎用性に優れ、迅速な定性、定量測定が可能な特異結合分析方法と、その実施に好適な装置の開発。
【構成】液性試料中の物質をマトリクス内に展開して分析するに際し、例えば、分析対象物と特異的に結合する物質と、この特異結合物質に対して分析対象物と競合する物質であり、かつ信号を発生する信号物質発生体とを用い、分析対象物と特異結合物質との反応によって、信号物質発生体のマトリクス内での分布を変化させ、該分布の変化を、該信号物質発生体から発生される信号物質の物質移動に律速される信号の変調として検出部で検出して試料中の分析対象物を定性もしくは定量する特異結合分析方法およびこれに用いる装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、試料中の分析対象物を簡便・迅速に定性もしくは定量するための特異結合分析方法と、該方法を実施するのに好適な特異結合分析装置に関する。
【0002】より詳細には、■例えば、特異結合物質が不溶化されたマトリクスの場で、分析対象物と競合して特異結合物質と結合するか、または該特異結合物質とは結合せず分析対象物に特異的に結合する物質であるような特異結合に関与する物質であってかつ直接または間接に信号物質を発生できる物質を標識(信号物質発生体)として用い、分析対象物と該分析対象物と特異的に結合する物質(特異結合物質)との少なくとも1つの特異結合反応によって、検出部に対する相対的な標識(信号物質発生体)の位置分布を分析対象物濃度に応じて変化できること、さらに■標識(信号物質発生体)によって発生され、かつ、検出部においてのみ検出可能な信号を発生するあるいは発生させる信号物質を用いて、検出部において観測される信号が、標識と検出部との距離(すなわち信号物質の拡散距離)に応じて変調されることを利用した分析方法とこの方法の実施に好適な装置に関する。
【0003】
【従来の技術】特異結合分析方法としては、抗原抗体反応を応用したイムノアッセイ、受容体を用いたレセプターアッセイ、相補的核酸配列のハイブリダイゼーションを用いた核酸プローブアッセイなど多くの方法が知られており、その特異性の高さから、臨床検査をはじめとする広い分野で繁用されている。
【0004】これらの方法は、一般的に、特異結合反応後、未反応物の分離操作を必要とするヘテロジニアス法と、未反応物の分離操作を必要としないホモジニアス法に分類される。
【0005】ヘテロジニアス法は、未反応物の干渉なしに特異結合反応の程度を検出できるため、比較的高感度の測定が可能で、汎用性に富んでいる。しかしながら、未反応物の分離操作は煩雑で、洗浄装置など、特殊な用具もしくは機器を必要とする場合があり、その簡易化や迅速化が求められている。
【0006】一方、操作を簡便化するために、凝集反応法、EMIT法、酵素チャネリング法などのプロキシマールリンケージイムノアッセイ、免疫クロマトグラフ法など各種のホモジニアス法が開発されてきたが、性能および汎用性の点で、ヘテロジニアス法に及ばないのが現状である。
【0007】例えば、ゲル内免疫拡散法、血球凝集反応法、ラテックス凝集反応法など、抗原抗体反応による凝集塊の形成もしくは形成阻害を利用した凝集反応法は、酵素などの標識を用いた方法に比して、測定感度および測定精度がかなり劣っている。
【0008】酵素などの標識を用いたホモジニアス法としては、特異結合反応に基づく酵素活性自体の変調を利用した測定法(EMIT法など)、および、相互関係を有する2種の標識が特異結合反応によって近接した場合に信号変調を生じるプロキシマールリンケージイムノアッセイ(Proximal Linkage Immunoassay)がある。EMIT法およびその関連技術では、酵素もしくは補酵素成分もしくは酵素阻害剤などを活性を維持しながら分析対象物(もしくは分析対象物類縁物質)で修飾する必要性と、さらに、その修飾物と特異結合物質との結合が酵素活性の有意な変調を引き起こす必要性があり、分析対象物の物理特性(分子量、形状、溶解性など)や化学特性(反応性、官能基の位置など)によっては適用が困難な場合があり、測定感度および汎用性に劣る。他方、プロキシマールリンケージイムノアッセイでは、ヘテロジニアス法で一般に採用されている標識法で適用可能な場合があり、EMIT法などに比して汎用性が高い。しかしながら、特異結合反応および信号検出の面からは標識物を含めた特異結合物質の濃度が高いほど測定感度の増大および測定時間の短縮が期待できるが、この濃度の増大は特異結合反応によらない標識間の接近確率を高めてしまう。この相反する性質は、測定感度の大きな限定要因となっている。プロキシマールリンケージイムノアッセイの例としては、第1酵素の生成物が第2酵素の基質であるような連続する2反応を触媒する2酵素を用いた酵素チャネリング法が知られている。これに関連した先行技術としては、特公昭63-37348号、特公平01-14541号、特公昭63-12260号、特公平01-30109号、特公平03-8513 号、Analytical Biochemistry, Vol.106, 223-229 (1980)がある。しかしながら、いずれの開示例においても、特異結合反応による標識間近接により標識酵素がチャネリング可能なミクロ環境を形成するか、もしくは、チャネリング環境を提供する分散性離散微粒子担体(デキストラン粒子など)あるいは非分散性担体(濾紙など)上に標識酵素が特異結合した時と、標識酵素が遊離で存在する時との間で、全体の酵素反応速度が変調されることに基づいている。従って、液相中の遊離の標識酵素は自由拡散によって固相に接近でき、標識酵素濃度が高い場合にはその非特異的な反応が障害となることに変わりはない。また、もう1つの問題として、第1酵素は第2酵素の近接度とは独立に反応を持続できるから、第2酵素とのチャネリング環境が形成されていない場合、第1酵素反応の生成物は測定系内に蓄積する点が挙げられる。この第1酵素反応の生成物の蓄積も、非特異的反応を上昇させる。これらの問題点の解決のために、チャネリングできなかった第1反応の生成物を除去するスカベンジャーの添加が行われている。しかし、有効濃度のスカベンジャーの添加は、全体反応に対して多少とも競合的妨害効果を有しており、汎用的な解決策ではない。
【0009】一方、特異結合物質を不溶化した多孔性担体あるいは微粒子充填型担体から成るクロマトグラフ域に、標識特異結合物質と共に、あるいは、標識特異結合物質とは別個に、分析対象物を含有することが予測される試料液を浸透展開する操作を含む分析法が知られている。この免疫クロマトグラフ法は、不溶化できる実効表面積が大きい点で、および、特異結合反応を引き起こしうる反応分子間の衝突頻度が液相中の反応に比して大きい点で、測定感度および測定時間の面から有利な場合がある。この場合、標識自体が信号物質である、もしくは、標識自体が信号を発生することも可能であるが、別法として、標識自体が信号を発生するかわりに、信号発生に関与する信号物質が標識によって発生されることも可能である。前者の標識例としては、放射性同位体、色素物質、蛍光物質、もしくは、発光物質などが知られ、後者の標識例としては酵素などが知られている。前者の標識を用いる免疫クロマトグラフ法の先行技術としては、特開昭53-47894号、特表平01-503174 号、特開平01-244370 号などがあり、後者の標識を用いる免疫クロマトグラフ法の先行技術としては、特開昭59-28662号、特表昭61-502214 号、US特許4,956,275 号などがある。放射性同位体を用いずに測定感度を維持したい場合には、後者の標識が一般に有利である。しかしながら、後者の標識例においては、信号物質発生に必要な成分(例えば酵素基質、発色剤など)と標識(酵素など)との接触によって信号物質が発生することから、分析対象物を含有することが予測される試料液および標識特異結合物質を浸透展開する操作を行った後に該接触を行わせる段階(以下、現像段階という)を必要とするため簡便性に欠けていた。
【0010】さらに、免疫クロマトグラフ法に共通の問題点が未解決のままであった。すなわち、標識特異結合物質および試料液を特異結合反応領域内でクロマトグラフ的に特異結合反応させた場合、特異結合反応が少なくとも2分子間の反応確率に依存しているため、該特異結合反応領域内での標識特異結合物質のクロマト方向における結合分布は、多かれ少なかれ、なだらかなグラディエント状もしくはシグモイド状などの曲線性となる。試料液中の分析対象物濃度を変化させると、該反応確率が変化し、特異結合反応領域内での標識の結合分布が変化する。しかし、分布形状の全体的な形状はやはり曲線性である。そのため、例えば現像後の呈色部分の長さもしくは位置、すなわち標識の結合分布の端点までの距離や位置から、試料液中の分析対象物濃度を定性もしくは定量する方法では、呈色部分と非呈色部分の境界線が明瞭でないことが多く、大きな誤差を生じることとなる。測定精度を上げるには、特異結合反応領域内での標識の結合分布を全体的に把握して定量化する必要がある。US特許4,956,275 号には、複数の検出部を検出領域(特異結合反応領域を兼ねている)に設けるとの記載がある。単一検出部の場合に比べて、検出領域に複数の検出部を設置することにより、特異結合反応領域内での標識の結合分布の把握の精度は上がるが、装置が複雑になること、そして、設置できる検出部の数には限界があることから、本質的な改善ではなかった。また、同特許には、酵素チャネリング法に基づいた信号発生系を検出領域に設置することもできる旨の記載がある。しかしながら、この記載においては、該検出領域は不溶化抗体の存在領域を指し、該検出領域に抗体と共に第1酵素をも不溶化し、展開溶液に第1酵素の基質を添加しておくことにより、第2酵素標識物の存在部分のみが信号を発生することができることを記載するにとどまり、現像段階を簡略化することはできても、前述の測定精度および測定感度の面での問題の解決にはならなかった。
【0011】免疫クロマトグラフ法の別法として、多層分析材料から成る特異結合分析装置がある。これに関連した先行技術としては、特開昭57-67860号、特開昭57-200862 号、特開昭58-18167号、特開昭62-192663 号がある。特開昭57-67860号および特開昭57-200862 では、検出層の上に特異結合物質が不溶化されている多孔性部材からなる特異結合層を設置し、特異結合反応の後、検出層に浸透してきた標識物を検出層の試薬で検出する技術が開示されている。また、特異結合層に結合した標識物に由来する信号の悪影響を避けるために、検出層と特異結合層の間に光遮蔽層を設けることも記載されている。しかし、標識が酵素である場合のように、検出層の試薬と反応して信号生成物を生じる場合、試薬の特異結合層への逆拡散と特異結合層での酵素反応生成物の検出層への滲み出しの悪影響は光遮蔽層では抑えられない。また、特開昭58-18167号もしくは特開昭62-192663 号においては、ホモジニアス法の原理もしくは不溶化酵素基質を特異結合層に導入した多層分析材料から成る特異結合分析装置が開示されている。しかし、いずれも先に述べたホモジニアス法の制限を受けるだけでなく、特異結合層での標識の結合分布の曲線性がもたらす悪影響は、クロマト部分が短い薄層であるだけに非常に深刻であった。
【0012】上述のように、簡便性および迅速性を追求した数多くの特異結合分析が知られているが、同時に汎用性を有し、かつ、精度高く分析対象物を半定量もしくは定量できる高感度の特異結合分析方法は未だ知られていないのが現状である。
【0013】ところで、近年、家庭内および地域医療の充実や、緊急性の高い臨床検査等の増加に伴ない、臨床検査の専門家でなくとも、迅速簡便で確実に測定が実施できる特異結合分析方法の開発がとみに望まれるようになってきた。このような中、電気化学センサーをはじめとした各種のセンサーが開発され、生化学的分析方法の分野では、酵素センサー等を用いた簡便で迅速な測定方法が既に開示されている。一例をあげると、特公平02-59424号、特開昭60-17346号、特開昭60-17347号がある。そして、その特異結合分析方法への応用の試みも積極的に行われているが、操作が簡便で汎用性に富んだ分析方法の報告はなかった。特異結合分析センサーの内、酵素など比較的高感度な標識を用いている電気化学センサーには以下のような先行技術がある。
【0014】特開昭58-58467号では、酵素(カタラーゼ)標識抗体を用いた電極表面での特異結合反応が開示されている。同様に、特開平02-179461 では、酵素(グルコースオキシダーゼ)標識物を用いた電極表面での競合的特異結合反応が開示されている。これらの開示例では特異結合物質を電極表面に不溶化しており、電極サイズに限界がある以上、不溶化量にも限界があり、さらに、液相中での反応であるということと相まって、測定感度および測定時間で不利であった。
【0015】特開昭60-17360号では、酸化還元酵素(グルコースオキシダーゼなど)と電子メディエータ(フェロセン誘導体など)で構成される酵素活性検出センサーにおいて、酵素もしくは電子メディエータのいずれかを標識として用い、特異結合反応によって、(a)電子メディエータの有効レベルを変化させる、(b)酵素の有効レベルを変化させる、(c)両者をともに変化させる、(d)電極の有効面積を変化させることにより、その特異結合反応の程度を測定する分析法を開示している。この場合、特異結合反応は、固体(容器の壁または電極)表面で行う(ヘテロジニアス法)か、もしくは、電極が接している溶液中で行う(ホモジニアス法)とされている。しかしながら、この開示例でのヘテロジニアス法は他のヘテロジニアス法と同様、未反応物の分離操作あるいは洗浄操作が必要であること、さらに、不溶化担体も容器壁あるいは電極上を利用しているにとどまり、ヘテロジニアス法の測定性能および簡便性の改善には至っていなかった。また、この開示例でのホモジニアス法に関しても、先に述べたホモジニアス法と実質的に同一であり、ホモジニアス法特有の問題点は未解決のままであった。例えば、リガンド修飾した電子メディエータを利用したホモジニアス法では、電子メディエータは酵素分子のレドックス中心に接近し、そのレドックス中心と電子の授受を行えなければならない。しかし、電子メディエータをリガンドで修飾する際に、リガンドによっては電子メディエータ機能を損なう場合もあり、様々なリガンドに適用できるという汎用性に乏しく、測定感度上も不利であった。これと同様な先行技術として特開平03-25360号があり、やはり、電子メディエータとリガンドをキャリア分子上に結合する際の制限が残っていた。
【0016】その他の同様な先行技術として、特開昭60-127450 号、特表昭61-500706 号、特開昭60-242361 号、特開昭63-139248 号、US特許4,963,245 号、US特許5,066,372 号、Anal. Chem., Vol.56, 2355 -2360(1984) 、Clin. Chem., Vol.31,1449-1452 (1985) がある。これらの内、US特許4,963,245 号、US特許5,066,372 号は、特異結合反応後、未反応物の分離操作を洗浄によって行うかわりに、特異結合物質を不溶化した磁気粒子を電極表面上に磁気分離し洗浄せずに測定する準ホモジニアス法を採っている。しかし、磁気粒子担体を物理的に分離するために磁気分離装置が必要であること、および、先に述べたプロキシマールリンケージイムノアッセイ(酵素チャネリング法など)と同様に、液相中の遊離の標識酵素は自由拡散によって電極に接近でき、その非特異的な反応が障害となることに変わりない。
【0017】また、特開昭62-167465 号には、不活性型の電子メディエータ前駆体(フェロセン結合基質)から活性型の電子メディエータへの変換反応を触媒する酵素(アルカリフォスファターゼ)を標識として用いるヘテロジニアス法の電気化学的な特異結合分析法が開示されている。同様に、PCT出願WO89-05454には、前駆体(NADP+)から酸化還元対(NAD+)への変換反応を触媒する酵素(アルカリフォスファターゼ)を標識とし、生成した酸化還元対の量を電気化学的酵素センサーで測定するヘテロジニアス法の特異結合分析法が開示されている。特開平02-112752 号には、デプスフィルター上にトラップされた生物細胞をフィルター上で酵素標識抗体と反応後、未反応の標識抗体を洗浄除去し、電極を用いた標識酵素活性測定によって生物細胞の検出を行う方法が開示されている。これらは、いずれも、典型的なヘテロジニアス法であり、センサー技術を用いることによって、従来のヘテロジニアス法の測定性能および簡便性の改善に至るものではなかった。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、特異結合分析の原理による、未反応物の分離操作(洗浄操作)を伴なわない簡便な方法であって、汎用性に優れ、迅速な定性および定量測定が可能な特異結合分析方法と、該方法の実施に好適な特異結合分析装置の提供を目的とする。
【0019】すなわち、■比較的小型で簡易な測定装置での測定を可能とする各種のセンサー技術に、好適に適用可能な方法、でかつ、■簡便でしかも高感度化が期待できる各種の免疫クロマトグラフ担体に、好適に適用可能な方法、でかつ、■免疫クロマトグラフ法の障害であった標識の結合分布の曲線性に由来する悪影響を最小限にする方法、でかつ、■比較的高感度な測定が可能な信号物質発生体(酵素など)を、好適に利用可能な方法、でかつ、■ホモジニアス法に特有の各種制限がなく、むしろ、従来の一般的な免疫測定法に用いられている標識方法および不溶化方法を、好適に採用できる非常に汎用性に優れた特異結合分析方法および装置の提供を目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】本発明第一の態様は、分析対象物と、それに特異的に結合する特異結合物質との少なくとも1つの特異結合反応に関連して試料中の分析対象物を定性もしくは定量する方法であって、分析対象物を含有することが予測される液性試料をマトリクス内に導入して、前記分析対象物と前記特異結合物質との特異結合反応によって信号物質発生体を前記マトリクス内に分布させ、前記信号物質発生体によって発生され、かつ、検出部においてのみ検出可能な信号を発生するあるいは発生させる信号物質を媒介として、分析対象物量に応じた前記信号物質発生体の前記マトリクス内での分布の変化を前記検出部における信号の変調の程度として計測することにより、前記試料中の分析対象物を定性もしくは定量することを特徴とする特異結合分析方法である。
【0021】また、本発明第二の態様は、本発明第1の態様の分析方法を実施する装置である。より具体的には試料導入部(a)、マトリクス(b)および検出部(c)が配設され、必要に応じてさらに吸収部(d)が設けられる特異結合分析装置である。
【0022】以下に、本発明を詳細に説明する。はじめに、本明細書中の用語を説明する。
【0023】分析対象物とは、本発明の方法、装置により、定性的あるいは定量的に検出される物質である。具体的には、抗体分子や抗原として機能する各種蛋白質、ポリペプチド、糖蛋白質、多糖類、複合糖脂質、核酸、エフェクター分子、レセプター分子、酵素、インヒビター等が例示され、さらに具体的には、α−フェトプロテイン、癌胎児性抗原(CEA)、CA125、CA19−9等の腫瘍マーカーや、β2 −ミクログロブリン(β2 m)、フェリチンなどの各種蛋白質、糖蛋白質もしくは複合糖脂質、エストラジオール(E2 )、エストリオール(E3 )、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト胎盤ラクトゲン(hPL)などの各種ホルモン、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗原、HBc抗体、HCV抗体、HIV抗体などの各種ウイルス関連抗原あるいはウイルス関連抗体、各種アレルゲンおよびこれに対応するIgE抗体、麻薬性薬物、医療性薬物およびこれらの代謝産物、ウイルスおよび腫瘍関連ポリヌクレオチド配列の核酸等が例示される。
【0024】分析対象物類縁物質とは、後記する特異結合物質との結合反応において、分析対象物と同様の挙動を示す物質をいい、一般的には分析対象物の構造的類縁物質である。具体的には、前記分析対象物の各種構造的アナログが例示され、本発明では、主に、分析対象物が低分子量であり、競合法による特異結合反応が行なわれる場合に、後記する信号物質発生体の構成成分として使用される。
【0025】試料とは、分析対象物が含まれると予測される液体のことであり、具体的には、尿、血清、血漿、全血、唾液、涙液、髄液、乳頭などからの分泌液等が例示されるが、粘液、体組織あるいは細胞等の固形またはゲル状もしくはゾル状物を、緩衝液、抽出液あるいは溶解液等の液体に懸濁もしくは溶解させたものであってもよい。
【0026】特異結合物質とは、分析対象物等のある特定の物質に特異的に結合する、すなわち、特定の物質に特異結合反応しうる物質である。ある特定の物質とそれに対する特異結合物質との組合せとしては、抗原とそれに対する抗体、相補的核酸配列、エフェクター分子とレセプター分子、酵素とインヒビター、糖鎖を有する化合物とレクチン、ある抗体とその抗体に対する抗体、レセプター分子とそれに対する抗体等が例示される。
【0027】また、特異結合物質として、ある特異結合活性が消失しない程度に化学修飾されたもの、あるいは、他の成分と結合してなる複合性物質もあげられる。このような特異結合物質とある特定の物質との組合せとしては、ビオチンで化学修飾された抗体もしくはポリヌクレオチドとアビジン、アビジン共有結合抗体とビオチン等が例示される。なお、本明細書では、次に説明する信号物質発生体のように、その一部に特異結合物質として働く部分を有する物質も、特異結合物質と称することがある。
【0028】信号物質発生体とは、分析対象物と競合して特異結合物質と結合するか、また分析対象物に特異的に結合するような特異結合反応に関与する物質であってかつ直接または間接に信号を発生する物質であり、マトリクス内で分析対象物の量と相関関係を保つ分布の変化を示す物質である。
【0029】すなわち信号物質発生体とは、ある種の特異結合物質として働く部分と、後記する信号物質の生成に寄与する部分とを有する物質、すなわち標識特異結合物質である。
【0030】ここで、特異結合物質として働く部分とは、分析対象物に対して特異結合物質となる構造、あるいは、分析対象物もしくは分析対象物類縁物質の構造を有する部分であり、信号物質の生成に寄与する部分とは、具体的には、通常の免疫反応等で標識剤として使用されている各種酵素等により構成される部分である。
【0031】すなわち、信号物質発生体は、1つの側面として、分析対象物とそれに対する特異結合物質との特異結合反応に参加し、そのマトリクス内での分布が分析対象物量に応じて変化する物質であり、もう1つの側面として、信号物質の生成反応を司る物質であるといえる。
【0032】信号物質とは、信号物質発生体の寄与する反応によって生成される物質であり、後記する検出部において、自身が所定の信号を発するあるいは他の物質に信号を発生させる物質である。
【0033】信号物質の発生に関与する物質とは、字義通りの解釈をすると、前記信号物質発生体も含むが、本発明においては、信号物質発生体以外の、主に、信号物質の前駆物質、および、該前駆物質を信号物質に変化させるに寄与する物質を指す。電子メディエータとは、本発明においては、酵素反応と電極反応との間を媒介して、両反応間の電子移動を可能ならしめる酸化還元化合物の総称して用いられており、その中には、両反応いずれにおいても実質上不可逆な副生成物を生じず、両反応の間をサイクリング可能な物質を含んでいる。
【0034】また、信号の発生に関与する物質とは、前記信号物質が直接には信号を発生せず、他の物質に信号を発生させる物質である場合に、あるいは、前記信号物質が他の物質と協同して信号を発生する物質である場合に、信号の発生に寄与する物質の内、前記信号物質を除いた物質をいう。
【0035】信号としては、電気化学的に計測可能な電子移動、蛍光光度計で計測可能な蛍光、発光光度計で計測可能な発光、目視判定および色差計で計測可能な呈色等が例示される。
【0036】特異結合物質、信号物質発生体、信号物質の発生に関与する物質および信号の発生に関与する物質は、あらかじめ反応系内に存在してもよいし、分析対象物に先だってあるいは同時にあるいは試料の導入後に反応系内に導入されてもよい。あらかじめ反応系内に存在する場合は、反応系内に均質に分布していてもよいし、反応系内の特定の箇所に備えられ、液性試料または試料以外の展開液によって拡散するものであってもよい。
【0037】本発明の装置において、試料導入部とは、試料が導入される部分を指す。
【0038】マトリクスとは、分析対象物および信号物質発生体が展開される場をいう。例えば特異結合物質が不溶化されて、特異結合反応が試料の流れ方向に分布をもって起こる場をいい、具体的な例を挙げれば分析対象物と信号物質発生体が、特異結合物質に対して競合的に特異結合するか、分析対象物が特異結合物質に結合し、さらに信号物質発生体が分析対象物にサンドイッチ型に特異結合する等して、特異結合反応が試料の流れ方向に分布をもって起こる場をいう。特異結合反応等が試料の流れ方向に分布をもって起こる場であるマトリクスは、特異結合物質が不溶化されている例に限定されるものではなく、特異結合反応に伴って起こる分子量変化等を検知してそれを分布として示すものであってもよい。
【0039】検出部とは、信号を検出する部位であり、肉眼での目視で、もしくは、信号の性質に応じた好適な外部の計測器で、信号の変調の程度を計測できる部位である。
【0040】吸収部は、吸水性材料で構成され、必要に応じ、前記信号物質の発生に関与する物質等を保持する部位である。また、導入された試料液を吸収保持する役割もはたす。
【0041】以上のように定義された用語により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0042】本発明の特異結合分析方法は、特異結合反応をマトリクス内で行わせる点、操作上B/F分離を行うことなしに、特異結合反応によってマトリクス内での分布が変化した信号物質発生体によって発生される信号物質を媒介とする信号を、検出部でのみ検出できる点に特徴を有する。なお、ここで、特異結合反応とは、分析対象物とそれに特異的に結合する特異結合物質(含信号物質発生体)との反応、分析対象物に特異的に結合する特異結合物質と信号物質発生体との反応等をいう。より詳細には、■信号物質発生体の標識によって発生され、かつ、検出部においてのみ検出可能な信号を発生するあるいは発生させる信号物質を用いる場合、検出部において観測される信号は、標識と検出部との距離(すなわち信号物質の拡散距離)に応じて変調されること、さらに、■分析対象物と該分析対象物と特異的に結合する物質(特異結合物質)との少なくとも1つの特異結合反応によって、検出部に対する相対的な信号物質発生体すなわち標識の位置分布を分析対象物濃度に応じて変化できることを見いだし、本発明の特異結合分析方法とこの方法の実施に好適な装置の考案に至った。
【0043】本発明の特異結合分析方法は、特異結合反応によって、試料中の分析対象物の量に応じて、信号物質発生体の検出部に対する距離分布を変化させ、この分布の変化を測定する。分布を変化させる方法は、種々の方法が可能であり、以下に記載する方法は一例にすぎない。また、分布が測定可能であるためには、以下の要件が必要を満たしていることが望ましい。
【0044】(a)検出部に対する信号物質発生体の距離の分布が、試料中の分析対象物量の予測される変動範囲に対して、信号物質の物質移動が信号発生の律速となる大きさで変化すること。後に説明する実施例3および4で実証するような酵素−基質−および酵素−基質−電子メディエータの場合には、検出部と信号物質発生体との間の直線距離でL(図3参照)=約0〜500μmまたはL=約0〜1000μmのオーダーである。ただし、この大きさは、マトリクスを構成する材料、信号物質および信号物質発生体の特性、検出部もしくは検出原理の性能によって変えうる。
【0045】(b)試料中の分析対象物量に応じて、距離分布の変化を観測可能なように、信号物質発生体に混在する遊離の酵素を可能な限り少なくする。そして、検出部の検出感度と同程度のオーダーの濃度となるように信号物質発生体を添加する。例えば、後に説明する実施例1(1)、5(1)および8(1)において、信号物質発生体(酵素標識抗体)の調製時に、遊離の酵素を除去している。
(c)信号物質が発生するあるいは発生させる信号の検出に必須な成分、もしくは部材の少なくとも1つが検出部に実質的に不動化されている。例えば、後に説明する実施例1、5、6および8で用いているような電極あるいは酵素電極は、それ自体が不動化された必須部材から構成されており、検出部として好適な例である。
【0046】本発明方法の原理を、図1に基づいて説明する。なお、図1に示す装置は、試料を導入すると、試料は、試料導入部(a)からマトリクス(b)へ導入され、検出部(c)まで達して液流が実質上停止するように構成されている。図1は、マトリクス(b)に導入され、そこで特異結合反応を行なった後のある時点における1つの信号物質発生体11の位置を示す。なお、12は信号物質の発生に関与する物質であり、また、矢印は試料等の移動方向を示すものである。
【0047】図1の(1)は、信号物質発生体11がマトリクス(b)上部にトラップされた、あるいは、移動速度が小さいために、マトリクス(b)上部にとどまっている状態を、また、図1の(2)は、信号物質発生体11がマトリクス(b)下部に到達した状態を示す。
【0048】信号物質発生体11が図1の(1)の状態にある場合、信号物質の発生に関与する物質12の少なくとも一部は、距離x1 を拡散によって信号物質発生体11に到達する。そして、信号物質の発生に関与する物質12は、信号物質発生体11の作用を受けて、信号物質13となる。この信号物質13の少なくとも一部は、距離y1 を拡散によって検出部(c)に到達する。そして、検出部(c)にて信号を発生させる。
【0049】一方、信号物質発生体11が図1の(2)の状態にある場合は、信号物質の発生に関与する物質12の少なくとも一部が信号物質発生体11に到達するのに要する拡散距離x2 は前記x1 より、また、発生した信号物質13の少なくとも一部が検出部(c)に到達するのに要する拡散距離y2 は前記y1 より、共に短いため、信号物質発生体11が図1の(1)の状態にある場合に比べ、信号物質13が検出部(c)に到達する確立が高く、信号発生率(信号強度)および/または信号発生速度が大きい。
【0050】本発明方法は、この図1の(1)の状態にある信号物質発生体11に係る信号と、図1の(2)の状態にある信号物質発生体11に係る信号との信号発生率(信号強度)および/または発生速度の差を利用して、分析対象物量あるいは分析対象物の有無を測定するものである。
【0051】なお、信号物質13が直接には信号を発生しない場合は、図8に示すように、さらに、信号の発生に関与する物質15が検出部(c)近傍に到達あるいは存在することを必要とするが、基本的原理は図1の場合と同様である。
【0052】本発明方法によって測定される信号の強度と信号物質発生体11のマトリクス(b)への導入開始からの時間との関係の一例は、図2に示す通りである。例えば図1の(1)の状態にある信号物質発生体11に係る信号は、図1の(2)の状態にある信号物質発生体11に係る信号より、遅い初速度で発生する。そして、この信号物質発生体11のマトリクス(b)内での分布は、後記するように、試料中の分析対象物量によって規定される。すなわち、試料中の分析対象物量によって、図1の(1)の状態にある信号物質発生体11と、図1の(2)の状態にある信号物質発生体11との比率が変化する。検出部(c)で計測される信号は、図1の(1)および(2)の状態等にある信号物質発生体11に係る信号の総和となるが、図2に示すように、図1の(1)の状態にある信号物質発生体11の比率が高ければ、信号の初速度は遅くなり、図1の(2)の状態にある信号物質発生体11の比率が高ければ、信号の初速度は速くなる。従って、信号の初速度を測定すれば、それを試料中の信号物質発生体の分布の変化すなわち分析対象物量に換算することができる。
【0053】なお、信号の測定は、図2の場合について述べると、任意の時間tでの信号強度(s1 あるいはs2 )であってもよいし、逆に、特定の信号強度に達するまでの時間tであってもよい。あるいは、図2中斜線で示される、時間tまでの信号強度の積分値であってもよい。さらに、特定の2つの時間でそれぞれ信号強度を測定し、その信号強度の差の値を算出してもよい。なお、これらは、信号の測定の一例であり、信号物質発生体11のマトリクス(b)内での信号物質発生体の分布の変化による信号の変調を計測できる測定であれば、いずれの測定も利用できる。
【0054】以上の説明を数学的に模式化し、信号変調の見積りをすると、次のようになる。
【0055】図3は、検出部(c)から距離L離れた所に信号物質発生体11が局在するとした場合の本発明方法を説明するための概念図である。図3では、例えば電極などの検出部(c)から距離L(μm)離れたところに、例えば酵素標識物などの信号物質発生体11が局在し、擬一次反応定数k(1/sec)の速度で連続的に信号物質13を発生するとする。発生した信号物質13は拡散定数D(cm2/sec)を有しており、拡散によって検出部表面に到達した信号物質13はすべて、例えば電流値などの信号Sを発生するとする。信号物質13の発生反応が擬一次反応であることを仮定していること、検出部表面に到達した信号物質13はすべて信号sを発生するとしていること、信号物質発生に関与する物質や信号の発生に関与する物質など他の要素の存在を無視していること、および、信号発生後に信号物質がどうなるかを考慮していないことなど、これはかなり簡略化された模式であり、本発明はこの仮想的な模式に限定されるものではないが、この仮想的な模式は本発明における「信号物質発生体11によって発生され、かつ、検出部(c)においてのみ検出可能な信号を発生する信号物質13を媒介として、信号物質発生体11のマトリクス内での分布の変化を検出部(c)における信号sの変調の程度として計測する」という基本的な状況をよく反映していると思われる。ここで、信号物質13が十分な過電圧が印加されている検出部(電極)表面において酸化還元反応を起こし、信号sとして電流Iを観測しているとした場合で例示すると、図4に示すように、図3に示す仮定に基づいた距離Lに応じた検出部(c)で検出される電流信号の理論的予測図を描くことができ、距離Lによって図4に示す電流信号の変調が予測できる。本発明者はこのような信号変調の可能性を予測し、具体的には実施例3および実施例4のような方法でこれを立証し、このような信号変調を特異結合分析方法に応用すれば極めて有用であることを見いだし、具体的な特異結合分析装置の考案に至ったものである。
【0056】すなわち、先の例では、信号物質発生体11が局在しており、その局在位置と電極との間の距離を変化させた場合の信号変調という、極めて片寄った分布を想定していた。しかし、信号物質13の拡散など、一般に物質拡散は重ね合わせることができるから、免疫クロマトグラフ法での信号物質発生体11の連続曲線的な分布の場合も、微小体積に分割して考えることができる。個々の微小体積中の信号物質発生体11に由来する信号sは先の例のような挙動を示す。それ故、信号物質発生体11の連続曲線的な分布の場合の信号sは、その分布を構成している個々の微小体積の信号物質発生体11に由来する信号sを重ね合わせた総和となる。従って、特異結合反応によって信号物質発生体11の連続曲線的な分布を変化させれば、その総和の信号sが変調を受けることとなる。逆に、このような信号物質発生体11の分布変化を感受性よく信号変調として検出できる位置に検出部(c)を設置すれば、優れた特異結合分析装置を製造できる。後に示す実施例1、実施例5、実施例6、および実施例8はその具体例であるが、マトリクス(b)の形状およびマトリクス(b)と検出部(c)との位置関係はこの他にも各種可能であり、これら実施例に限定されるものではない。また、先の説明および実施例においては、電気化学的信号検出例を例示しているが、信号物質13が検出部(c)において発生するあるいは発生させる信号sであれば、いずれの信号sであっても、本発明の方法および装置は利用できる。
【0057】次に、抗原抗体反応を代表例として、本発明方法を実施した際の、試料中の分析対象物量による信号物質発生体のマトリクス内での分布の変化を、図面に基いて説明する。
【0058】図5は、本発明方法の一態様であって、分析対象物14を競合法によって測定する場合の、マトリクス(b)内における分析対象物14と信号物質発生体11との分布を示すものである。なお、分析対象物14は抗原であり、マトリクス(b)には、該抗原に対する抗体すなわち第1の特異結合物質が不溶化されているものとする。また、信号物質発生体11は、第1の特異結合物質に対して分析対象物と競合する標識抗原とする。信号物質発生体11は、試料とともにマトリクス(b)内に導入される。
【0059】図5の(1)は、試料中に分析対象物14が含まれていなかった場合を示す。この場合は、信号物質発生体11は、マトリクス(b)上部(試料の流れ方向でみて上流側)に不溶化されている抗体と反応し、全て、マトリクス(b)上部にトラップされる。この場合、信号物質発生体11と検出部(c)との間の距離は長いので、所定の時間経過後(まで)に測定される信号は非常に小さいか0である。
【0060】図5の(2)および(3)は、試料中に分析対象物14が含まれていた場合を示す。なお、同図から明らかなように、試料中の分析対象物14の量は、図5の(3)>図5の(2)である。この場合は、試料の流れに沿って、信号物質発生体11と分析対象物(抗原)14とが、競合して、マトリクス(b)に不溶化されている抗体と反応する。そして、分析対象物14の量の増大とともに、信号物質発生体11は、不溶化抗体との結合を阻害される頻度が増大し、マトリクス(b)の上部から中央部にかけて(図5の(2)の場合)、あるいは、上部から下部にかけて(図5の(3)の場合)トラップされる。さらに分析対象物14が多い場合には、信号物質発生体11の一部は、マトリクス(b)にトラップされずに検出部(c)に到達する。
【0061】図5の(2)の場合、信号物質発生体11と検出部(c)との間の距離は、中距離〜長距離であり、また、図5の(3)の場合は、短距離〜長距離である。従って、所定の時間経過後(まで)に測定される信号は、図5の(2)では中程度、図5の(3)では大となる。
【0062】すなわち、図7の(1)に示すように、分析対象物14の量に応じて信号強度は大となる。
【0063】図6は、本発明方法の一態様であって、分析対象物14をサンドイッチ法によって測定する場合の、マトリクス(b)内における分析対象物14と信号物質発生体11との分布を示すものである。なお、分析対象物14は抗原であり、マトリクス(b)には、第1の特異結合物質である該抗原のエピトープAに対する抗体が不溶化されているものとする。また、信号物質発生体11は、第2の特異結合物質である該抗原のエピトープBに対する抗体に標識剤が結合されてなる標識抗体とする。信号物質発生体11は、試料とともにマトリクス(b)内に導入される。
【0064】図6の(1)は、試料中に分析対象物14が含まれていなかった場合を示す。この場合は、マトリクス(b)に分析対象物14である抗原がトラップされないために、信号物質発生体11はマトリクス(b)にトラップされず、マトリクス(b)の下部(試料の流れ方向でみて下流側)まで運ばれる。この場合、信号物質発生体11と検出部(c)との間の距離は短いので、所定の時間経過後(まで)に測定される信号は大である。
【0065】図6の(2)および(3)は、試料中に分析対象物14が含まれていた場合を示す。なお、同図から明らかなように、試料中の分析対象物14の量は、図6R>6の(3)>図6の(2)である。
【0066】この場合は、マトリクス(b)に抗体を介してトラップされた分析対象物(抗原)14の量に対応する量の信号物質発生体11は、分析対象物14と結合してマトリクス(b)の主に上部にトラップされるが、過剰な信号物質発生体11は、マトリクス(b)にトラップされず、マトリクス(b)の下部にむかって運ばれる。
【0067】従って、分析対象物14が信号物質発生体11よりも少ない図6の(2)の場合は、信号物質発生体11は、マトリクス(b)の上部〜中央部にかけて、あるいは、上部〜下部にかけて分布するようになる。
【0068】また、マトリクス(b)内に不溶化されている抗体量および信号物質発生体11に対し、至適量の分析対象物14が存在する図6の(3)の場合は、信号物質発生体11は、主に、マトリクス(b)の上部にトラップされる。
【0069】なお、分析対象物14がさらに多い場合には、分析対象物14がマトリクス(b)の上部から下部にかけてトラップされることとなり、その結果、信号物質発生体11も、マトリクス(b)の上部から下部にかけてトラップされるので、信号物質発生体11の分布は、図6の(2)に近似したものとなる。この場合は、測定範囲外である。
【0070】図6の(2)の場合、信号物質発生体11と検出部(c)との間の距離は、中距離〜長距離、あるいは短距離〜長距離であり、図6の(3)の場合は長距離である。従って、所定の時間経過後(まで)に測定される信号は、図6の(2)では中程度、図6の(3)では非常に小さいか0となる。
【0071】すなわち、図7の(2)に示すように、分析対象物14の量に応じて信号強度は小となり、測定範囲外では、再び信号強度が上昇する。
【0072】上記説明により、本発明方法における分析対象物14の量と信号物質発生体11のマトリクス(b)内での分布状態との関係が明らかとなったと考えるが、ここで、さらに、本発明方法が最もよく適合する免疫反応系の一成分が分析対象物である場合について、マトリクス(b)内での免疫反応(特異結合反応)の例を示す。
【0073】その第一は、分析対象物がハプテン様の低分子量物質の場合に好適な例である。このような場合、マトリクス(b)には、分析対象物と同じ物質あるいはその類縁物質を不溶化させておき、信号物質発生体としては、特異結合物質である抗ハプテン抗体と標識剤(例えば信号物質を発生させる反応に関与する酵素)との結合体を用い、試料中の分析対象物と不溶化された分析対象物(あるいはその類縁物質)とを、信号物質発生体中の抗体部分に対して、競合的に反応させるとよい。その結果、分析対象物量と信号強度との関係は、図7の(1)に示すようになる。
【0074】第二は、分析対象物が複数の抗体と同時に結合しうる高分子量物質の場合に好適な例である。このような場合、マトリクス(b)には、分析対象物の第1の特異結合物質であるエピトープAに対する抗体を不溶化しておき、これに分析対象物を反応させた後、分析対象物の第2の特異結合物質であるエピトープBに対する抗体と標識剤との結合体を信号物質発生体11として分析対象物に反応させるとよい。すなわち、試料中の分析対象物をサンドイッチ型に反応させるのである。その結果、分析対象物量と信号強度との関係は、図7の(2)に示すようになる。
【0075】第三は、やはり、分析対象物がハプテン様の低分子量物質の場合に好適な例である。このような場合、マトリクス(b)には、第1の特異結合物質である抗ハプテン抗体を不溶化しておき、信号物質発生体としては、第1の特異結合物質に対して分析対象物と競合する物質である分析対象物と同じ物質あるいはその類縁物質と標識剤との結合体を用い、試料中の分析対象物と信号物質発生体とを、不溶化された抗ハプテン抗体に対して競合的に反応させるとよい。その結果、分析対象物量と信号強度との関係は、図7の(1)に示すようになる。
【0076】第四も、分析対象物がハプテン様の低分子量物質の場合に好適な例である。このような場合、マトリクス(b)には、特異結合物質に対して分析対象物と競合する物質である分析対象物と同じ物質あるいはその類縁物質を不溶化させておき、かつ、特異結合物質である抗ハプテン抗体を遊離の状態で存在させておく。そして、試料中の分析対象物と不溶化された分析対象物(あるいはその類縁物質)とを、遊離の抗ハプテン抗体に対して競合的に反応させ、次に、抗−抗ハプテン抗体(第二抗体)と標識剤との結合体からなる信号物質発生体を結合させるとよい。その結果、分析対象物量と信号強度との関係は、図7の(1)に示すようになる。
【0077】ところで、上記説明では、マトリクス(b)に抗体を不溶化させ、信号物質発生体や分析対象物を該抗体に直接あるいは間接に結合させたが、信号物質発生体や分析対象物をマトリクス(b)に結合させなくても、すなわち先の例における抗体がマトリクス(b)に不溶化されていなくても、分析対象物の量に応じて信号物質発生体のマトリクス(b)内での分布を変化させることは可能であり、そのような例も、本発明方法に含まれる。
【0078】例えば、分析対象物が微生物(例えば病原性真菌等)であり、信号物質発生体が抗微生物抗体(抗病原性真菌抗体等)と標識剤とが結合してなる標識特異結合物質である場合、分析対象物(微生物)は、信号物質発生体に比べてかなり大であるため、分析対象物と信号物質発生体との複合体と、フリーの信号物質発生体とでは、マトリクス(b)内での移動速度、すなわち到達位置に大きな差を生じる。マトリクス(b)として、例えば多孔性材質のものを用い、そのメッシュ(ポアサイズ)を適正に選択することによって、あるいは、ゲル状もしくはゾル状担体を用い、その粘度を微生物サイズに応じて適正に選択することによって、この到達位置の差異を明瞭化できる。従って、分析対象物は、マトリクス(b)に結合されないが、そのマトリクス(b)内での分布は局在化され、分析対象物と特異結合反応しうる信号物質発生体は、マトリクス(b)内で分析対象物量に応じた分布をするようになる。そして、主に検出部(c)近傍に到達したフリーの信号物質発生体が関与する信号を測定することで、分析対象物を定量できる。
【0079】また、別の例として、フリーの標識抗体とフリーの分析対象物との自発的な沈降性結合物(免疫沈降物)形成(いわゆるゲル内免疫沈降反応)を利用した測定があげられる。この場合には、分析対象物の量に応じて免疫沈降物の形成量が変化し、また、形成された免疫沈降物は、多孔性材質および/またはゲル状担体からなるマトリクス(b)の上部にトラップされるが、免疫沈降反応に関与しなかったフリーの標識抗体は、マトリクス(b)の内部へ侵入し得るため、試料中の分析対象物量に応じて信号物質発生体の分布が変化する。
【0080】あるいは、マトリクス(b)として、適当な大きさの空孔のものを用いることにより、マトリクス(b)上部に分析対象物(微生物)をトラップさせ、それにより、先に説明した図6のように、信号物質発生体を分析対象物量に応じてマトリクス(b)内に分布させることもできる。
【0081】続いて、本発明方法における信号の発生について、具体的に説明する。信号物質発生体が、酵素標識特異結合物質である場合を代表例として、図1、図8および下記表1に基づいて説明する。
【0082】
【表1】


【0083】
【表2】


【0084】表1は、本発明方法における信号の発生を、典型的な5例について説明したものである。なお、表1中の各欄において、上段には、本明細書中の用語を、また下段には、上段の用語で示されるものの具体例を示した。
【0085】まず、■であるが、これは検出部(c)が電極であり、信号が電子移動である例である。図1に基づいて説明する。この場合は、マトリクス(b)内の信号物質発生体(α−ガラクトシダーゼ標識特異結合物質)11に、信号物質の発生に関与する物質(p−アミノフェニル−α−D−ガラクトシド)12が到達すると、信号物質の発生に関与する物質12が信号物質(p−アミノフェノール)13に変化する。この信号物質13が拡散によって検出部(電極)(c)に到達すると、信号物質13は酸化(p−ベンゾキノンモノイミンとなる)され、同時に酸化電流という信号(電子移動)を発生する。そこで、電気量や電流値として、信号である電子移動に係る数値を計測すればよい。
【0086】次に■であるが、これも、検出部(c)が電極であり、信号が電子移動である例である。ただし、電子の受け渡しのための電子メディエータを用いている。これも、図1に基いて説明する。
【0087】この場合は、マトリクス(b)内の信号物質発生体(グルコースオキシダーゼ標識特異結合物質)11に、信号物質の発生に関与する物質(グルコースと電子メディエータであるフェリシニウムイオン)12が到達すると、フェリシニウムイオンが還元されてフェロセンに変化する。このフェロセンが信号物質13である。この信号物質13が拡散によって検出部(電極)(c)に到達すると、信号物質13は酸化(再び酸化状態のフェリシニウムイオンとなる)され、同時に酸化電流という信号(電子移動)を発生する。また、この場合は、電子メディエータ間の電子ホッピング等による電子自体の拡散伝達と、その結果検出部(c)において発生する信号(電子移動)の測定も考えられる。
【0088】■は、検出部(c)が酵素電極であり、信号が電子移動である例である。この例では、酵素電極の性能を上げるために、酵素電極部分に、電子メディエータおよび/または導電性高分子化合物(ポリピロール、ポリチオフェンなど)を構成成分として含ましめることも可能である。酵素電極の構成に関わらず、信号物質が検出部(酵素電極)と反応して信号(電子移動)を発生するあるいは発生させることに変りない。なお、好適な信号物質としては、酵素電極に対する基質、補因子あるいは補酵素が例示できる。また、信号物質が他の物質と協同して信号を発生する場合、すなわち、酵素電極が信号物質と他の信号の発生に関与する物質の存在下で信号を発生する場合には、信号の発生に関与する物質を検出部(c)および/または検出部(c)近傍に存在させておけばよい。これを図8に基づいて以下に説明する。
【0089】この場合は、マトリクス(b)内の信号物質発生体(グルコースオキシダーゼ標識特異結合物質)11に、信号物質の発生に関与する物質(グルコースと溶存酸素)12が到達すると、信号物質(過酸化水素)13が生成される。この信号物質13が、検出部(パーオキシダーゼ電極)(c)に到達すると、電子メディエータを介してあるいは介さずに、電子を電極から受け取り、信号の発生に関与する物質(水素イオン)15と反応して信号物質13自身は還元される。その際、検出部(パーオキシダーゼ電極)(c)において、信号(電子移動)が発生する。
【0090】■は、検出部(c)が酵素(パーオキシダーゼ)を実質上不動化してなる部分であり、信号が発光である例である。この例も、信号物質13自身は信号を発生しない。図8に基づいて説明する。
【0091】この場合は、マトリクス(b)内の信号物質発生体(グルコースオキシダーゼ標識特異結合物質)11に信号物質の発生に関与する物質(グルコースと溶存酸素)12が到達すると、信号物質(過酸化水素)13が生成される。この信号物質13が、信号の発生に関与する物質(ルミノール)15と共に検出部(ペルオキシダーゼ不動化部位)(c)に到達すると、信号の発生に関与する物質15を変化させ、信号(発光)を発生させる。従って、所定時間経過後に、あるいは所定時間経過後までの発光強度を測定すればよい。
【0092】■は、検出部(c)が酵素(パーオキシダーゼ)を実質上不動化してなる部分であり、信号が呈色である例である。この例も、信号物質13自身は信号を発生しない。図8に基づいて説明する。
【0093】この場合は、マトリクス(b)内の信号物質発生体(ウリカーゼ標識特異結合物質)11に信号物質の発生に関与する物質(尿酸塩と溶存酸素)12が到達すると、信号物質(過酸化水素)13が生成される。この信号物質13が、信号の発生に関与する物質(オルトジアニシジン)15と共に検出部(パーオキシダーゼ不動化部位)(c)に到達すると、信号の発生に関与する物質15を発色体に変化させ、信号(呈色)を発生させる。従って、所定時間経過後に、あるいは所定時間経過後までの呈色を、吸光度、反射光、肉眼等で測定すればよい。
【0094】上記の■および■において、信号の発生に関与する物質(酵素反応の基質に相当)と、検出部(c)を構成する不動化される物質(酵素)は、いずれを信号の発生に関与する物質としてもよいし、その場合他方は検出部(c)を構成する不動化される物質とする。すなわち基質と酵素は相互に交換されてもよい。あるいは、両者共に、不動化することによって、検出部(c)を構成してもよい。しかし、少なくとも酵素を不動化した方が、反応効率に優れるのでよい。
【0095】また、上記の■〜■において、信号物質の発生に関与する物質(酵素反応の基質に相当、ただし、溶存酸素ではない方)と信号物質発生体を構成する標識剤(酵素)も、交互に交換されてもよい。しかし、この場合も、酵素を標識剤として用いた方が、反応効率に優れるのでよい。
【0096】本発明方法において、信号物質の発生に好適な酵素(前記表1における信号物質発生体の一構成成分、標識)と、該酵素の基質(前記表1における信号物質の発生に関与する物質)との組合せの一例を、下表2に示す。
【0097】
【表3】


【0098】表2に示した組合せは、前記表1中の■および■〜■の場合に用いることができる。しかし、■の場合(信号物質の電極上での酸化還元反応によって信号を発生させる例)は、発生される信号物質がp−アミノフェノール、ハイドロキノン、p−クレゾール等である組合せを用いるのがよい。これらは、銀・塩化銀電極に対して十数百mV程度の電位を印加すれば、電極への電子移動が生じる。
【0099】また、前記表1中の■の場合には、表2中の基質として、O2 のかわりに、電子メディエータとして知られる酸化還元物質(酸化状態)を用いる。それにより、表1に示すように反応が行なわれ、信号物質(還元状態の電子メディエータ)が発生され、この信号物質から、■と同様に、電子メディエータに応じた電位を印加した電極に電子が放出され、電子メディエータ自身は酸化状態へ戻る。
【0100】電子メディエータの候補としては、金属イオン、ルテニウム錯体化合物、フェロセン化合物、キノン化合物、ビオロゲン化合物、ポルフィリン誘導体、チトクロムc等の蛋白質など数多く知られている。この中には、水素供与体として酵素反応に関わる化合物も含まれる。下表3に代表例を挙げるが、本発明ではこれらの化合物の化学修飾物や他の好適な電子メディエータも利用可能である。また、電子メディエータは、信号物質発生体によって酸化状態から還元状態に変化するものに限定されず、逆に、還元状態から酸化状態に変化するものであってもよい。
【0101】
【表4】


【0102】前記表1中の■〜■の例のように、二段階の酵素反応を行なわせる場合であって、信号は、一段目の酵素反応によって発生された信号物質が他の物質に働きかけて生成される場合の二段目の反応に関与する物質は、次の通りである。
【0103】前記表1中の■には、検出部(c)が酵素電極である例を示したが、この場合は、一段目の反応によって発生される信号物質の種類に応じ、酵素電極の酵素が限定される。
【0104】例えば、一段目の反応で発生される信号物質が過酸化水素である場合は、検出部(c)を西洋わさび由来パーオキシダーゼなどのパーオキシダーゼを固定化した酵素電極( J. E. Frew et al, J. Electoanal. Chem., Vol. 201, 1 - 10, 1986 ; R.M. Paddock & E. F. Bowden, J. Electroanal. Chem., Vol. 260, 487 -494, 1989 ; Ulla Wollenberger et al, Analytical Letters, Vol.23, 1795 -1808, 1990 など参照)とし、また、例えば、信号物質がNAD+ あるいはNADHである場合は、検出部(c)を好熱菌由来のジアフォラーゼIを固定化した酵素電極( K. Miki et al, Analytical Sciences, Vol. 5, 269 - 274, 1989 など参照)とすればよい。
【0105】このような検出部(c)を酵素電極とする場合は、表1に示したように、信号の発生に関与する物質として、電子メディエータを用いる場合がある。電子メディエータについては、先に表3に例示した通りである。
【0106】なお、酵素電極に類似のものとして、化学修飾電極が知られており、これらの酵素電極および化学修飾電極については、 R. W. Murray, Chemically Modified Electrode, Electroanalytical Chemistry, Volume 13, 191 - 368, Marcel Dekker, Inc., New York, 1984 」、 K. Nakamura, M. Aizawa & O. Miyawaki, Electroenzymology Coenzyme Regeneration, Springer - Verlag, Berlin, 1988」、 V. J. Razumas, J. J. Jasaitis & J. J. Kulys, Bioelectrochemistry and Bioenergetics, Volume 12, 297 - 322, 1984 等に記載されている。
【0107】また、前記表1中の■の場合のように、信号が蛍光や発光である場合は、一段目の反応によって発生される信号物質の種類に応じ、二段目の反応に関与する物質(酵素および酵素の基質である蛍光性(発光性)物質)が限定される。
【0108】例えば信号が蛍光であり、信号物質が過酸化水素の場合は、二段目の反応に関与する物質が、パーオキシダーゼと、4−ヒドロキシフェニル酢酸、もしくは、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸との組合せである例がある。
【0109】また、信号が発光である場合には、次のような組合せが例示される。すなわち、信号物質がATPの場合は、二段目の反応に関与する物質として、ホタルルシフェラーゼと、ルシフェリンおよびMg2+との組合せが例示される。また、信号物質がNADHの場合は、二段目の反応に関与する物質として、NAD(P)H:FMNオキシドレダクターゼおよび発光バクテリア由来のルシフェラーゼと、FMNおよびテトラデカナールなどの飽和長鎖脂肪族アルデヒドとの組合せが例示される。
【0110】このような例において、検出部(c)は、二段目の反応に関与する物質のうちのいずれか1種以上を不動化させてなるもので構成されるが、反応効率の観点からは、酵素を不動化させてなるものであるのがよい。
【0111】なお、蛍光や発光を信号とする場合には、前記表1中の■のように、信号物質自体から信号を発生せしめることも可能である。すなわち、例えば、信号物質の発生に関与する物質として、ルシフェリンの誘導体(例えばD−ルシフェリン−o−リン酸)、信号物質発生体を構成する標識剤として、アルカリフォスファターゼを選択し、信号物質であるルシフェリンを発生させ、ATPおよびMg2+の存在下に、ルシフェリンにルシフェラーゼを作用させれば、発光(信号)が生じる。この場合、検出部(c)は、ATP、Mg2+およびルシフェラーゼのうちのいずれか1種以上を不動化させてなるもので構成されるが、反応効率の観点から、ルシフェラーゼを不動化させてなるものであるのが好適である。
【0112】さらに、前記表1中の■のように、信号が呈色である場合も、一段目の反応によって発生される信号物質の種類に応じ、二段目の反応に関与する物質(酵素および酵素の基質である発色体の前駆物質)が限定される。
【0113】例えば信号物質が過酸化水素の場合には、二段目の反応に関与する物質が、パーオキシダーゼと、呈色物質の前駆物質である、5−アミノサリチル酸、o−ジアニシジン、2,2′−アジノジ−(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、3−メチル−2−ベンゾチアゾリンヒドラゾン(MBTH)と3−(ジメチルアミノ)安息香酸(DMAB)の混合物、o−トリジン、3,3′−ジアミノベンジジン(DAB)、1,2−フェニレンジアミン、3,3′,5,5′−テトラメチルベンジジン等との組合せである例がある。
【0114】また、信号物質がNADHの場合には、二段目の反応に関与する物質が、ジアフォラーゼと、呈色物質の前駆物質であるヨードニトロテトラゾリウム・バイオレットとの組合せである例がある。
【0115】この場合も、検出部(c)は、二段目の反応に関与する物質のうちのいずれか1種以上を不動化させてなるもので構成されるが、反応効率の観点からは、酵素を不動化させてなるものであるのがよい。
【0116】以上、本発明方法における信号の発生について、具体例に即して説明したが、本発明方法における信号の発生機構は、これらに限定されない。
【0117】本発明方法では、上記のようにして信号を発生させ、それを計測する。計測手段は、特に限定されるわけではないが、例えば、信号が電子移動の場合には、ポテンショスタット、クーロンメーター、電流計等のような電気計測器で、蛍光の場合には蛍光光度計で、発光の場合には発光光度計で、呈色の場合は肉眼あるいは色差計、吸光度計、反射率計等でそれぞれ計測可能である。
【0118】計測は、エンドポイントで行なってもよいが、通常は連続的に信号が供給されるため、信号強度の変調を一定時間計測することが望ましい。そして、未知の分析対象物濃度に対して計測された変調の程度を、既知濃度の分析対象物に対応する変調の程度と比較して、試料中の分析対象物濃度を演算する。なお、測定の簡便化のために、あらかじめ既知濃度の分析対象物に対する変調の程度を演算回路に組み込んでおくことも可能である。
【0119】続いて、本発明方法の実施に好適な、本発明の特異結合分析装置について、説明する。
【0120】本発明の装置は、試料導入部(a)、マトリクス(b)および検出部(c)が、あるいは、試料導入部(a)、マトリクス(b)、検出部(c)および吸収部(d)を有し、さらに必要により該装置の試料の流れるいずれかの箇所に、先に本発明方法で説明した信号物質の発生に関与する物質を備えた装置である。
【0121】図面を参照しながら、本発明の装置を説明する。図9(1)〜(5)、(7)および(8)には、本発明の装置例の側面図を、また、図9(6)には、本発明の装置例の平面図を示した。
【0122】同図に示すように、試料導入部(a)は、独立した部位として設けてもよい(図9(1)、(2)、(4)、(5)、(7)、(8)参照)し、あるいは、マトリクス(b)の一部が試料導入部(a)であってもよい(図9の(3)、(6)参照)。
【0123】マトリクス(b)は、試料導入部(a)の下流に存在する特異結合反応が行なわれる場である。なお、本発明の装置が吸収部(d)も有する場合(図9の(2)、(4)、(8)参照)、吸収部(d)は、マトリクス(b)と隔絶されていてもよい(図9の(2)、(8)参照)し、マトリクス(b)の下流側の一部という位置付けであってもよい(図9の(4)参照)。ただし、吸収部(d)は、特異結合反応の場とはならない。
【0124】検出部(c)は、マトリクス(b)内での信号物質発生体の位置分布の変化から生じる信号変調の効果の大きい部位に設ければよい。通常は、マトリクスの最下流側(図9の(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7))、あるいは、最上流側(図9の(8))である。検出部(c)は、独立した部位として設けてもよいし、マトリクス(b)または吸収部(d)の一部を加工処理し、検出部(c)としてもよい(図9の(1)、(2)、(3)、(6)、(7)は、いずれでも可能な例である)。
【0125】また、本発明の装置は、さらに、支持体(あるいは基板)(e)やカバー(f)を有していてもよい(図9の(7)、(8)参照)。
【0126】次に、本発明の装置の各部位について、さらに具体的に説明する。
【0127】試料導入部(a)が独立した部位である場合、試料導入部(a)は、試料量に応じた大きさの多孔性フィルター、例えばセルロース濾紙、ガラス繊維濾紙、不織布などで形成する。試料導入部(a)を独立した部位とすると、試料の添加が容易に行なえ、また、試料が均一にマトリクス(b)内に浸透していき、さらに、試料中の高分子量の会合体および粒子などの妨害因子をある程度除去できるので好ましい。
【0128】マトリクス(b)は、例えば、多孔性担体あるいはゲル担体で構成する。ただし、ゲル担体の場合は、試料と接触することによってゲル状態あるいはゾル状態となるものを用いるのがよい。あるいは、多孔性担体に、水溶性高分子化合物を含浸させ、乾燥させたものを、マトリクス(b)として用いてもよい。さらには、上記多孔性担体等に固体状物質を保持させたものであってもよい。
【0129】多孔性担体としては、セルロースアセテート製、ニトロセルロース製あるいはナイロン製の多孔性メンブレン、ガラス繊維製あるいはセルロース繊維性の濾紙、多孔性セラミックス等が、また、ゲル担体としては、寒天、アガロース、デキストラン、ポリアクリルアミド等が例示される。さらに、前記水溶性高分子化合物としては、デンプンおよびその誘導体、マンナン、ガラクタン、寒天、アガロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、デキストラン、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニールアルコール(ポバール)、ポリアクリル酸ナトリウムなどが例示できる。加えて、前記固体状物質としては、デキストラン等の多孔性粒子、ポリスチレン製等のラテックス、ガラス製微粒子等の微粒子、またはそれらに結合用の活性基を付与した微粒子が例示される。
【0130】マトリクス(b)は、前記したように、特異結合反応の場であるので、この部分の構成が、検出結果に大きな影響を与える。そこで、分析対象物の種類、特異結合反応の方式(阻止反応型、競合型、サンドイッチ型など)等に応じて、マトリクス(b)を適当な性状を示すように構成することが望ましい。すなわち、その材質、大きさ(厚み)、ポアサイズあるいはゲル状態となった時の粘度(粘稠性)等を選択、調整することにより、信号物質発生体の分布状態や信号物質等の拡散速度を任意に調節する。
【0131】マトリクス(b)を積層体等とすることにより、その性状を容易に調節することができる。例えば、マトリクス(b)の検出部(c)側には、ポアサイズの小さい材質を用い、試料導入部(a)側には、ポアサイズの大きい材質を用いると、分析対象物の量による特異結合反応後の信号物質発生体の分布の差異をより明瞭にできる。これを実現する具体例としては、ポリアクリルアミドのグラディエントゲルおよびポアサイズの異なる多孔性メンブレンの積層体等が例示できる。
【0132】マトリクス(b)に分析対象物に対する特異結合物質を存在あるいは不溶化させる場合、それは、全体に均等に存在させあるいは不溶化してもよいが、例えば試料導入部(a)側には多く存在あるいは不溶化させ、検出部(c)側には少なく存在あるいは不溶化させる等の濃度傾斜をつけてもよい。
【0133】なお、マトリクス(b)に分析対象物に対する特異結合物質を不溶化させるには、多孔性担体あるいはゲル担体に共有結合あるいは吸着によって不溶化させればよい。また、マトリクス(b)を多孔性担体と水溶性高分子化合物とで構成する場合や多孔性担体等とそれに保持される固体状物質とで構成する場合は、特異結合物質の不溶化は、構成要素全てに対して行なってもよいし、一部にのみ行なってもよい。
【0134】分析対象物に対する特異結合物質を不溶化させてマトリクス(b)を構成する場合は、該特異結合物質を不溶化させてなる固体状物質のみで、マトリクス(b)を構成することもできる。例えば図10の(6)に示すように、中空円柱状の支持体(e)内に前記固体状物質を詰め、その一端には検出部(c)を形成することで、本発明の装置とすることができる。
【0135】本発明の装置のマトリクス(b)の試料の流れ方向の長さは、小さくすればするほど、試料の必要液量を少なくできるが、小さくしすぎると、分析対象物の量に応じた信号物質発生体の分布の変化が明瞭でなくなる。従って、一般的には、10μm〜数mm程度とする。
【0136】また、その形状に限定はないが、平面状、平面状層の積層体、直方体、円柱状、細管(キャピラリ)状、円錐状、もしくはこれらの組み合わせ等が例示される。なお、図10に、本発明のマトリクスの形状例の斜視図を示した。
【0137】検出部(c)もまた、種々の構成とすることができる。まず、検出部(c)が電極である場合について説明する。
【0138】電極としては、白金、金、カーボン電極等が使用できるが、製造に適したカーボン印刷電極が好適である。この場合、電極基板(図9の(7)のeに相当)としては、液体不透過性の板、例えば塩化ビニル板などを使用してもよいし、液体透過性のシート(図9の(2)のdに相当)、例えば濾紙などを使用してもよい。さらに微細な電極構成とするために、写真技術の応用によって、マイクロアレイ電極を作製することもできる。
【0139】また、前記電極の参照電極としては、Ag/AgCl電極等が例示される。これも、印刷技術等によって製造できる。
【0140】検出部(c)を酵素電極とすれば、電極反応の特異性や感度が上昇する。この場合には、信号物質は、酵素電極の基質もしくは補因子として作用し、電子が電極上で授受され、信号が測定される。酵素電極は、生化学分析あるいは分析化学分野では多数知られている。
【0141】検出部(c)が、蛍光、発光、呈色等が検出される部位である場合は、各々、具体的には、検出部(c)は、発光反応に必要な少なくとも1つの信号の発生に関与する物質を実質上不動化した発光発生部、蛍光反応に必要な少なくとも1つの信号の発生に関与する物質を実質上不動化した蛍光発生部、呈色反応に必要な少なくとも1つの信号の発生に関与する物質を実質上不動化した呈色発生部等である。
【0142】表1■、■に従って説明すると、検出部(c)を構成する不動化される物質は、ルミノールおよび/またはパーオキシダーゼ(表1■)、あるいは、オルトジアニシジンおよび/またはパーオキシダーゼ(表1■)であるが、少なくとも酵素を不動化して検出部(c)を構成するのが、反応効率の点から好ましい。
【0143】検出部(c)が蛍光、発光、呈色等が検出される部位である場合、検出部(c)は、前記マトリクス(b)または後記する吸収部(d)の一部に、あるいは、図9の(7)の例のように検出部(c)の下流側に設けられた基板(e)がある場合は、その基板(e)に、前記信号の発生に関与する物質を不動化させることで作製することができる。その場合、不動化には、3−アミノプロピルトリエトキシシラン処理したガラス基板とグルタルアルデヒドとを用いて酵素を基板に結合する等の、種々の方法が利用できる。
【0144】吸収部(d)がある場合(図9の(2)、(4)、(8)参照)、吸収部(d)は、前記マトリクス(b)についての説明の項に記載した多孔性担体、ゲル担体等で構成する。また、積層体としてもよい。ただし、一般的には、前記マトリクス(b)に分析対象物に対する特異結合物質を存在あるいは不溶化させた場合に、吸収部(d)には該特異結合物質は存在あるいは不溶化させない。
【0145】また、本発明の装置は、上記構成要件の他に、支持体あるいは基板(e)に相当する部位および/またはカバー(f)に相当する部位を有してもよい。支持体あるいは基板(e)は、例えば、図9の(7)のように、検出部(c)の下流側に設けられたり、図10の(6)のように、装置を取り囲む形で設けられる。カバー(f)は、例えば、図9の(7)、(8)のように、試料導入部(a)の上流側に設けられる。さらに、このカバー(f)には、試料導入用の孔(g)を設けうる。
【0146】なお、ここでは、支持体あるいは基板(e)は、水分不透過性の材質で形成されたものを指し、水分透過性の材質で形成されたものは、吸収部(d)とする。また、カバー(f)も、水分不透過性の材質で形成されたものを指し、水分透過性の材質で形成されたものは、試料導入部(a)とする。
【0147】支持体あるいは基板(e)、カバー(f)の材質としては、ポリ塩化ビニル、ガラス、アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂等が例示され、透明でも不透明でもよいが、図9の(7)のような構成で、信号が蛍光、発光、呈色等である場合は、支持体あるいは基板(e)は透明とする。
【0148】本発明の装置において、試料導入部(a)、マトリクス(b)および検出部(c)のうちの少なくとも1ヶ所に、あるいは、試料導入部(a)、マトリクス(b)、検出部(c)および吸収部(d)のうちの少なくとも1ヶ所に存在する少なくとも1つの信号物質の発生に関与する物質は、先に、本発明の分析方法についての説明中で述べた通りである。
【0149】その存在箇所は、上記の通りであるが、それは、本発明の装置に試料が導入された際、信号物質の発生に関与する物質は、試料の流れに乗って、検出部(c)近傍あるいは吸収部(d)に押し流されるからである。すなわち、図1や図6に示す位置、あるいは、図9R>9の(2)や図9の(4)における吸収部(d)の位置まで、信号物質の発生に関与する物質12が移動せられるからである。しかし、確実性の観点からは、信号物質の発生に関与する物質12は、検出部(c)近傍および/または吸収部(d)に存在せしめておくのがよい。
【0150】本発明の装置の構成は、以上の通りであるが、さらに、信号物質の発生に関与する物質以外の物質であって、本発明の装置を用いた分析方法に係る反応に必要な物質を、本発明の装置の適当な箇所に存在(付着)させておいてもよい。
【0151】具体的には、信号物質発生体、前記表1中の■の場合における信号の発生に関与する物質、前記表1中の■、■の場合であって、検出部(c)を形成するために不動化されなかった方の物質、すなわち、酵素と基質のうち、いずれか不動化されなかった方の物質等が例示される。
【0152】これらの物質は、それが本発明の装置の適当な箇所に存在せられていない場合には、試料と共に、あるいは試料の導入前や導入後に、装置に導入せられるが、予め装置に存在せられている場合は、それらの装置への導入の工程が省略できるので、そのような装置が好ましい。なお、本発明の装置を用いる分析方法に係る反応に必要な、試料中の分析対象物および通常の試料中に含有されている物質(例えば溶存酸素)以外の全ての物質が存在する装置を用いると、試料の導入と結果の判定のみを行なえばよいので、そのような装置が最も好ましい。
【0153】本発明の装置に、前記した反応に必要な物質を存在させておく場合、信号物質発生体以外の物質は、前記した少なくとも1つの信号物質の発生に関与する物質と同様に、試料導入部(a)、マトリクス(b)および検出部(c)のうちの少なくとも1ヶ所に、あるいは、試料導入部(a)、マトリクス(b)、検出部(c)および吸収部(d)のうちの少なくとも1ヶ所に存在させる。
【0154】しかし、信号物質発生体については、それが特異結合反応を行ない、その際に、試料中の分析対象物の量に応じたマトリクス(b)内での分布とならなければいけないので、本発明の装置の試料導入部(a)および/またはマトリクス(b)の上流部に存在させる。
【0155】ここでは、主に、検出部(c)が一箇所、あるいは一つの分析対象物に対応する装置について説明したが、本発明の装置は、複数の検出部(c)を有していてもよい。例えば、検出部(c)を複数設置して、マトリクス(b)内の信号物質発生体の分布を複数部位で計測できるようにすることは、特に精度上好ましいし、あるいは、複数の検出部(c)を設置して、それぞれに異なる信号を計測させ、複数の分析対象物の測定を行なわしめるのも有用である。
【0156】本発明の装置は、信号の検出を肉眼的に行なう場合は、単独で使用し得るが、信号の種類によっては、検出器械(計測器)類と接続して用いる。なお、本発明の装置と接続される検出器械類については、本発明方法についての説明中で述べた通りである。
【0157】次に、本発明の装置の使用方法について述べる。本発明の装置が、反応に必要な物質全てを有しているものである場合は、試料導入部(a)に、所定量の試料を添加し、所定時間経過後に、あるいは、所定時間が経過するまで連続的に、信号の読み取りを行なえばよい。
【0158】試料が添加されると、試料中の液性成分のゲル内浸透、拡散もしくは毛細管吸収によって、試料中の液性成分が検出部(c)の方向へ浸透する。この際、信号物質の発生に関与する物質、信号の発生に関与する物質は、試料導入部(a)、マトリクス(b)、検出部(c)または吸収部(d)のいずれに存在しても一旦、試料とともにマトリクスの下流側や吸収部(d)に拡散しつつ運ばれ、その後、逆方向に拡散して反応器中に分布する。一方、試料中の分析対象物や信号物質発生体は、反応しながらマトリクス(b)内を移動し、あるいは、特異結合物質が不溶化されている場合はマトリクス(b)内の所定の位置にトラップされる。そして、検出部(c)近傍や吸収部(d)に運ばれた後、拡散によって信号物質発生体に到達した信号物質の発生に関与する物質は、信号物質に変換され、拡散という物質移動により、検出部(c)に到達し、そこで信号を発生するか、あるいは、検出部(c)に到達したら、信号の発生に関与する物質に作用し、信号を発生させる。
【0159】本発明の装置が、反応に必要な物質のうちのいくつかを欠いているものである場合には、試料の導入に先立ち、試料の導入と同時に、あるいは試料の導入後に、それらの反応に必要な物質を導入する。より具体的に述べると、通常は、信号物質の発生に関与する物質、信号の発生に関与する物質は、試料の導入に先立って、適当な緩衝液等に溶解せられて導入され、反応装置中に拡散し、定常状態となる、信号物質発生体は、試料の導入と同時にあるいは試料の導入後に、装置に導入される。各物質のマトリクス(b)内での移動、反応、検出部(c)での信号の発生等は、前記した反応に必要な物質全てを有している装置を用いる場合と同様である。
【0160】本発明の特異結合分析方法、装置は、以上の通りであるが、ここで、本発明の特異結合分析方法および特異結合分析装置の一例として、α−ガラクトシダーゼを信号物質発生体の構成成分(標識剤)とした、分析対象物(hCG)の測定であって、信号の検出が電気化学的測定方法によるものと、その際に用いる装置例について、具体的に説明する。
【0161】hCG分子の異なるエピトープを認識する2種の単クローン性抗hCG抗体HM21およびHM81を用い、片方(HM21)をマトリクス(b)の不溶化抗体とし、もう一方(HM81)を信号物質発生体の構成成分とする。すなわち、信号物質発生体は、α−ガラクトシダーゼ標識HM81抗体とする。HM21抗体を多孔性ナイロン膜担体に吸着させて不溶化し、このナイロン膜をhCG測定範囲に応じて複数枚数積層したものを、マトリクス(b)とする。Ag/AgCl参照極・対極と、カーボンの作用極を印刷で調製してなる検出部(c)上に、酵素反応の基質(信号物質の発生に関与する物質)p−アミノフェニル−α−D−ガラクトピラノシドを含浸した多孔性ナイロン膜(基質層、マトリクス(b)の一部を構成するもの)、その上に、前記マトリクス(b)を積層し、さらにその上に、試料導入部(a)としての濾紙を重ねる。それぞれの層は、アガロースのような親水性ゲルで密着させておく。これをhCG分析片とし、hCG測定に先立ち、検出部(c)の作用極側にAg/AgCl参照電極に対して+400mVの電位を印加しておく。そして、作用極もしくは対極に流れる電流値もしくは電荷量を計測できるように設定しておく。
【0162】ここで、試料を所定量の信号物質発生体(α−ガラクトシダーゼ標識HM81抗体)とともに試料導入部(a)に導入し、マトリクス(b)内に浸透させると、マトリクス(b)内で不溶化HM21抗体−分析対象物(hCG)−α−ガラクトシダーゼ標識HM81の特異結合反応複合体が形成される。この際、試料中のhCG量が多い場合には、効率よく特異結合反応複合体が形成されるため、信号物質発生体は、マトリクス(b)の上流側(検出部(c)から離れた側)に分布が片寄る。反対に、試料中のhCG量が少ない場合には、信号物質発生体は、マトリクス(b)の下流側(検出部(c)に近い側)に分布が片寄る。この場合、特に、hCGと反応できなかった信号物質発生体は、検出部(c)近傍にまで接近する。さらに、試料は、基質層(マトリクス(b)の最下流側にあるp−アミノフェニル−α−D−ガラクトシド等の基質が存在する層)に浸潤し、検出部(c)に到達し、作用極と参照極・対極間を液絡させる。そして、試料の浸透は実質上停止する。
【0163】この時、基質層の基質は、溶解してマトリクス(b)の上流側へ拡散する。拡散した基質は、信号物質発生体に接すると、酵素(標識剤)によって加水分解され、信号物質(p−アミノフェノール)となる。この信号物質は、その発生源である信号物質発生体を中心として拡散する。その内、検出部(c)側へ拡散した信号物質は、検出部(c)において電極反応に供され、電子を放出するので、その際の電子移動を電気化学的信号として計測する。この信号物質の拡散距離は、信号物質の発生源である信号物質発生体と検出部(c)との距離に依存するため、検出部(c)に近い信号物質発生体は、検出部(c)から離れて存在する信号物質発生体よりも、より効率よく検出部(c)へ信号物質を供給し得る。従って、マトリクス(b)内における信号物質発生体の分布が、検出部(c)において計測される信号(電流値もしくは電量値など)の強度に影響を及ぼすといえるのであり、また、この信号物質発生体の分布は、試料中のhCG量に応じて変化するので、信号強度から、試料中のhCG濃度(量)を測定できるのである。
【0164】
【実施例】以下に、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0165】(実施例1)特異結合分析装置を製造し、それを用いて試料中のhCG濃度を測定した。
【0166】(1)抗hCGβ抗体とα−ガラクトシダーゼとの結合体(標識抗体)の作製hCGのβ鎖を認識するマウス単クローン性抗体HM81(持田製薬株式会社製)を100mM 塩化ナトリウム−1mM EDTA−60mM トリエタノールアミン緩衝液(pH8.0)(TEA緩衝液)に5.0mg/mL濃度となるように溶解し、窒素ガス置換したTEA緩衝液で十分に透析した。この抗体溶液0.5mLに対して、50mMの2−イミノチオラン塩酸塩(Pierce社製)溶液10μLを添加し、撹拌後、窒素ガス下、4℃に2時間静置した。その後、窒素ガス置換したTEA緩衝液、さらに、窒素ガス置換した100mM 塩化ナトリウム−1mM EDTA−50mM リン酸緩衝液(pH6.0)(EDTA−PB)で透析し、SH基が導入された抗hCGβ抗体HM81を得た。50Uのα−ガラクトシダーゼ(メリビアーゼ)(生化学工業株式会社製)を50mM ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)0.5mLに溶解し、同緩衝液で十分に透析後、1mgのスルホSMCC(Pierce社製)を添加し、30℃で1.5時間反応させた。反応後、窒素ガス置換したEDTA−PBで透析し、マレイミド化α- ガラクトシダーゼを得た。SH基が導入された抗hCGβ抗体HM81溶液0.5mLとマレイミド化α−ガラクトシダーゼ溶液0.5mLとを混合し、窒素ガス下、4℃にて20時間反応させた。50mMのシステアミン溶液10μLを添加し、窒素ガス下、4℃にて30分間反応させ、その後、窒素ガス置換したEDTA−PBで平衡化したセファデックスG−200(ファルマシア社製)カラムおよびセファクリルS−300HR(ファルマシア社製)カラムを用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行なった。280nmにおける吸光度測定およびα- ガラクトシダーゼの発色基質溶液(10mM p−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシド(シグマ社製)溶液)を用いたα−ガラクトシダーゼ活性測定を、ゲル濾過クロマトグラフィーの溶出分画について行ない、遊離の酵素を含まない抗hCGβ抗体HM81とα−ガラクトシダーゼとの結合体の分画を集めて濃縮した。濃縮標品(α−ガラクトシダーゼ−HM81と称す)は、Phastシステムによる電気泳動(ファルマシア社製)で分子量を確認後、後記する測定において、信号物質発生体として用いた。
【0167】(2)検出部(電極)の作製長さ30mm、幅15mm、厚さ0.5mmのポリ塩化ビニル板上に、導電性カーボンインク(Electrodag114もしくはElectrodag109、日本アチソン社製)で2mm幅のカーボン線2本(それぞれ長さ30mm)を2mm間隔で印刷した。一方のカーボン線の長さ方向1/2(15mm)には、その上にさらに導電性銀インク(藤倉化成株式会社製)を重層印刷した。この導電性銀インクを重層印刷した部分について、0.1M 塩化ナトリウム水溶液中で電解反応を行なわせ、表面に塩化銀層を形成させた。
【0168】(3)抗hCGα抗体不溶化多孔性ナイロン膜の作製hCGのα鎖を認識するマウス単クローン性抗体HM21(持田製薬株式会社製)を0.076M リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、0.5mg/mL濃度に調製し、それを、ポアサイズ3.0μmの多孔性ナイロン膜Immunodyne BIAO30HC5(Pall社製)の5×10mm切片当たり5μLとなるように浸潤させ、上記HM21溶液を含有する多孔性ナイロン膜を調製した。これらを湿箱に入れ、室温で1時間反応させた後、0.1%ウシ血清アルブミン/PBS溶液を5×10mm切片当たり1〜3mL添加し、振とう撹拌しながら、4℃にて2〜15時間ブロッキング反応させた。その後、0.1%Tween20/PBS溶液中にて、4℃で2時間振とう撹拌し、洗浄した。さらに、この洗浄操作を3〜4回行ない、抗hCGα抗体(HM21)不溶化多孔性ナイロン膜を得た。
【0169】(4)抗hCGα抗体不溶化多孔性ナイロン膜の積層による、試料導入部を有するマトリクス(一部)の作製濾紙上で水分を拭った抗hCGα抗体(HM21)不溶化多孔性ナイロン膜を、あらかじめ加温溶解し、50℃に保った0.25%アガロース/0.01%トゥイーン20/PBS(加温アガロース溶液)に浸漬し、ただちにガラス板上で5枚の切片を積層した。次に、定量濾紙5C(アドバンテック東洋株式会社製)の4×8mm切片(試料導入部)を、同様に加温アガロース溶液に浸漬し、先に積層して得たナイロン膜上(最上層側)に積層した。ただちに、上部から濾紙で余剰の水分を吸収すると共に、上部から切片当り200gの圧力でプレス密着させ、デシケータ内で乾燥した。
【0170】(5)マトリクスと検出部との接合乾燥した抗hCGα抗体不溶化多孔性ナイロン膜((3)にて0.5mg/mL濃度のHM21を含むPBS溶液を浸潤させたもの)1枚を、検出部(電極)のカーボン線と銀/塩化銀線の両者にまたがるように載置し、それに、酵素基質(p−アミノフェニル−α−D−ガラクトピラノシド(シグマ社製))を加温アガロース溶液に10mM濃度となるように溶解した基質溶液10μLを浸潤させ、乾燥した。その上部に、(4)にて作製した試料導入部を有するマトリクス(一部)を積層し、上部から切片当り200gの圧力でプレス密着させ、減圧デシケータ内で乾燥し、hCG濃度測定用の特異結合分析装置を得た。この分析装置は図9(1)の模式図に近い装置である。
【0171】(6)測定特異結合分析装置のカーボン線側を作用極、銀/塩化銀線側を対極・参照極として、ポテンショスタットHA−150(北斗電工株式会社製)に接続した。さらに、電量値計測のためのクーロンメータHF−203D(北斗電工株式会社製)、電極電位設定のためのファンクションジェネレータHB−104(北斗電工株式会社製)、信号記録のための記録計F−45(理研電子株式会社製)を接続し、さらに記録計からGPIBラインを通じてコンピュータへ接続し、計測およびデータ処理を行なった。測定時には、カーボン線電極側を銀/塩化銀線電極側に対して+400mVとなるように電位設定した。hCGを含有するあるいは含有しない試料を、2.0%ウシ血清アルブミン/100mM 塩化ナトリウム/0.05M リン酸緩衝液(pH6.0)で10U/mL濃度に調製したα- ガラクトシダーゼ−HM81溶液と1:1(V:V)混合し、hCGを0mIU/mL、α−ガラクトシダーゼ−HM81を5U/mL含有する溶液(A)、hCGを5mIU/mL、α−ガラクトシダーゼ−HM81を5U/mL含有する溶液(B)、hCGを50mIU/mL、α−ガラクトシダーゼ−HM81を5U/mL含有する溶液(C)を調製した。溶液(A)、溶液(B)、溶液(C)のいずれかを、前記特異結合分析装置の試料導入部に45μL点着し、マトリクス内に浸透させ、電量値の時間変化を計測し、溶液点着後1分間の電量値を読み取った。なお、この計測は、溶液(A)、溶液(B)、溶液(C)の各々について、3回ずつ行なった。
【0172】(7)結果3回の平均値を表4に示したが、表4より、試料中のhCGの濃度により、酵素標識抗体HM81のマトリクス(b)中での分布が変化し、この分布の変化が検出部(c)での電量値変化として測定されたことがわかり本発明の装置によって試料中hCG濃度の定量を簡便、迅速に行なえることが明らかとなった。また、その詳細は示さないが、マトリクスの作製に際し、2.0mg/mLあるいは5.0mg/mL濃度のHM21を含むPBSを用いた以外は同様に処理して作製した装置を用いた場合も、同様の傾向の結果が得られた。
【0173】
表4 試料中のhCG濃度と計測される電量値の関係 ────────────────────────── 試料中hCG濃度 点着後1分間の電量値 (mIU/mL) (μC)
────────────────────────── 0 170 10 133 100 103 ──────────────────────────
【0174】(実施例2)特異結合分析装置のマトリクスを製造し、試料および信号物質発生体である標識抗体を試料導入部に導入した後、マトリクス内の標識抗体の分布の変化を調べた。
【0175】(1)試料導入部を有するマトリクスの作製まず、実施例1(4)と同様の操作を行ない、試料導入部を有するマトリクス(一部)を作製した。次に、長さ30mm、幅15mm、厚さ0.5mmのポリ塩化ビニル板上に、乾燥した抗hCGα抗体不溶化多孔性ナイロン膜(実施例1(3)にて、0.5mg/mL濃度のHM21を含むPBS溶液を浸潤させたもの)1枚を載置し、それに加温アガロース溶液10μLを浸潤させ、乾燥した。その上部に、前記マトリクス(一部)を積層し、上部からプレス密着させ、減圧デシケータ内で乾燥し、図11に示すように試料導入部(a)を有するマトリクス(b)および支持体(e)の積層体を得た。試料液の浸透方向20は、矢印で示した。
【0176】(2)測定hCGを含有するあるいは含有しない試料を、2.0%ウシ血清アルブミン/100mM 塩化ナトリウム/0.05M リン酸緩衝液(pH6.0)で10U/mL濃度に調製したα- ガラクトシダーゼ−HM81溶液と1:1(V:V)混合し、hCGを0mIU/mL、α−ガラクトシダーゼ−HM81を5U/mL含有する溶液(D)、hCGを10mIU/mL、α−ガラクトシダーゼ−HM81を5U/mL含有する溶液(E)、hCGを100mIU/mL、α−ガラクトシダーゼ−HM81を5U/mL含有する溶液(F)を調製した。溶液(D)、溶液(E)、溶液(F)のいずれかを、(1)で作製したマトリクスの試料導入部に45μL点着した。次に、該マトリクスを構成している濾紙および抗hCGα抗体不溶化多孔性ナイロン膜を切片単位に分解し、各切片中のα−ガラクトシダーゼ−HM81(標識抗体)量を、α−ガラクトシダーゼの発色基質溶液(10mM p−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシド(シグマ社製)溶液)を用いたα−ガラクトシダーゼ活性測定によって調べた。
【0177】(3)結果測定された各切片中のα−ガラクトシダーゼ−HM81量を、マトリクス内のα−ガラクトシダーゼ−HM81(α−ガラクトシダーゼ活性)分布として整理し、結果を図12に示した。図12には、試料中のhCG濃度が0mIU/mLの実験での各切片(層)のα−ガラクトシダーゼ活性を基準(各切片(層)の100%値)とする、試料中のhCG濃度が10mIU/mLまたは100mIU/mLの実験での各切片(層)のα−ガラクトシダーゼ活性を示した。図12より、標識抗体は、試料中の分析対象物(hCG)が0、10、100mIU/mLと増加するに従って、マトリクスの上層(第1〜2層)に分布するものが多くなり、下層(第3〜6層)に分布するものが少なくなることが明らかである。なお、図12では、試料中の分析対象物に帰因する上層での標識抗体分布量の増大率が、下層での減少率よりも、みかけ上小さく表われているが、これは、試料中の分析対象物(hCG)が0mIU/mLの時の標識抗体のマトリクス内の分布(基準値)自体に、上層側から下層側に向って減少するグラディエント傾向があったためである。従って、実施例1の方法によって測定された信号(電量値で示されたもの)は、下層に分布している標識抗体(信号物質発生体)にかかわる信号が主体であり、試料中の分析対象物による標識抗体のマトリクス内の分布の変化が、信号を変調しているものと考えられた。本発明の特異結合分析方法が、マトリクス中の標識(酵素)分布を測定可能であることを示す装置例について、具体的に説明する。
【0178】(実施例3)α−ガラクトシダーゼ不溶化層を含む多孔性部材積層体において、カーボン電極と酵素層との距離を変化させた場合の電流値変化を調べ、検出部と標識(α−ガラクトシダーゼ)との位置関係が電流値に及ぼす効果について調べた。
【0179】(1)α−ガラクトシダーゼ不溶化多孔性ナイロン膜およびウサギ正常血清不溶化ナイロン膜の作製5×8mm方形にカットしたポアサイズ3.0μmの多孔性ナイロン膜Immunodyne BIA030HC5(Pall社製)切片に400U/mL濃度のα−ガラクトシダーゼ(生化学工業株式会社製)PBS溶液もしくは正常ウサギ血清(NRS、日本生物材料センター製)を5μLずつ浸潤させ、室温で1時間反応させた。その後、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS溶液中で4℃15時間振とう撹拌してブロッキングを行った。その後、0.1%Tween20/PBS溶液中で4℃2時間以上振とう撹拌して洗浄した。この洗浄操作を5回以上繰り返し、α−ガラクトシダーゼ不溶化ナイロン膜およびNRS不溶化ナイロン膜を得た。
【0180】(2)α−ガラクトシダーゼ不溶化層を含む多孔性部材積層体の作製濾紙上で水分を拭ったα−ガラクトシダーゼ不溶化ナイロン膜1枚とNRS不溶化ナイロン膜5枚とを積み重ねた全6層からなる積層体をスライドガラス上に作製した。この際、α−ガラクトシダーゼ不溶化層1層を、それぞれ上から1層目、2層目、3層目、4層目、5層目、6層目の位置に積層したもの6種とNRS不溶化ナイロン膜6枚のみの積層体を作製した。積層後、最上層に4×6mm方形にカットした濾紙(No.165、Whatman社製)をのせ、あらかじめ加温溶解し50℃に保った0.25%アガロース/0.01%Tween20/PBS(加温アガロース溶液)40μLを濾紙部から浸潤させた。上部から濾紙で余剰の水分を吸収すると共に、上部から切片当たり200gの圧力でプレス密着させ、デシケータ内で乾燥し、α−ガラクトシダーゼ不溶化層を含む多孔性部材積層体とした。
【0181】(3)基質層の作製5×8mm方形にカットしたポアサイズ3.0μmの多孔性ナイロン膜Immunodyne BIA030HC5(Pall社製)1枚当たり、酵素基質(p−アミノフェニル−α−D−ガラクトピラノシド、Sigma社製)を100mM濃度で含む加温アガロース溶液5μLを浸透させ乾燥して基質層とした。
【0182】(4)α−ガラクトシダーゼ不溶化層を含む多孔性部材積層体と検出部との接合基質層1層を実施例1第(2)項の方法で作製した電極上のカーボン線と銀/塩化銀線の両者にまたがるように載置し、その上に、第(2)項で作製したα−ガラクトシダーゼ不溶化層を含む多孔性部材積層体を重ねた。さらにその上から試料導入用の孔(直径3mm)をあけたアクリル板をかぶせて、α−ガラクトシダーゼ不溶化層を含む多孔性部材積層体装置とした。この際、試料導入用の孔は、積層体の最上層の濾紙の真上にくるように設置し、測定中、アクリル板は電極表面から1200μmの間隔を維持するようにした。すなわち、図13に示すように、試料液の浸透方向20の順に、試料導入口21を有するアクリル板22の次に、第0層として試料点着(導入)用濾紙部30、多孔性ナイロン膜第1層、第2層、第3層、第4層、第5層および第6層を有し、次に第7層として基質層を検出部との間に有する多孔性部材積層体装置を作製した。
【0183】(5)α−ガラクトシダーゼ不溶化層を含む多孔性部材積層体装置を用いた電流測定第(4)項で作製した装置のカーボン線側を作用極、銀/塩化銀線側を対極・参照極として、実施例1第(6)項に記載のようにポテンショスタットなどの測定装置を接続した。測定時には、カーボン線電極側を銀/塩化銀線電極側に対して+400mVとなるように電位設定した。そして、反応用緩衝液として、2%ウシ血清アルブミン−50mM リン酸緩衝液(pH6.0)−100mM塩化ナトリウム水溶液30μLを、前記装置の上面アクリル板の試料導入用の孔を通じて導入し、電流値を記録した。
【0184】(6)結果α−ガラクトシダーゼ不溶化層を含む多孔性部材積層体装置を用いた測定での電流の経時変化を図14(a)および(b)に示した。α−ガラクトシダーゼ不溶化層がカーボン電極(検出部)に近いほど電流値が大きく、α−ガラクトシダーゼ不溶化層が電極(検出部)から離れるほど電流値が小さかった。すなわち、この実験条件下では、検出部から少なくとも約1000μmの範囲内に存在する酵素が電流値に寄与でき、しかも検出部近くに存在する酵素ほど電流への寄与がゆるやかに大きくなることが確認された。これは、本発明が、実施例1のようなマトリクス中の酵素分布を的確に測定可能であることを立証するものである。
【0185】(実施例4)西洋わさびパーオキシダーゼ(HRPO)不溶化層、もしくは、グルコースオキシダーゼ(GOD)不溶化層、もしくは、西洋わさびパーオキシダーゼ(HRPO)不溶化層とグルコースオキシダーゼ(GOD)不溶化層を含む多孔性部材積層体において、カーボン電極とHRPO不溶化層、もしくは、カーボン電極とGOD不溶化層、もしくは、GOD不溶化層とHRPO不溶化層被覆カーボン電極との距離を変化させた場合の電流値変化を調べ、検出部と標識(GOD)との位置関係が電流値に及ぼす効果について調べた。
【0186】(1)酵素不溶化多孔性メンブレンの作製西洋わさびパーオキシダーゼ(HRPO、東洋紡社製)、および、グルコースオキシダーゼ(GOD,Boehringer Mannheim社製)をそれぞれ5mg/mL濃度となるように、0.076M リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した。不溶化担体は、ポアサイズ3.0μmの硝酸セルロース/酢酸セルロースの混合メンブレン(Cat.No.SSWP14200、Millipore社製)を5×8mmの方形にカットしたものを用いた。カットしたメンブレンを直径90mmの定量濾紙(5A、アドバンテック東洋社製)2枚の間に必要数はさみ、さらにこれをアクリル板2枚の間にはさんだものを2組作製し、それぞれ、酵素溶液を濾紙部分に浸透させた後にアクリル板をシールし、4℃24時間以上静置して酵素をメンブレンに吸着固定した。静置後、メンブレンを取り出し、PBSで洗浄後、100mLビーカーへ移し、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS溶液60mLを加え、浸透撹拌しながら、4℃で1日間以上ブロッキング反応した。その後、0.1%Tween20/PBS溶液中にて、4℃で浸透撹拌して洗浄した。この洗浄操作を4回以上繰り返し、HRPO不溶化メンブレンおよびGOD不溶化メンブレンを得た。
【0187】(2)HRPO不溶化層を含む多孔性部材積層体の作製第(1)項で作製したHRPO不溶化メンブレンを乾燥したもの1枚と5×8mmの方形にカットした濾紙(No.54、Whatman社製)5枚とを積み重ねた全6層からなる積層体を作製した。この際、HRPO不溶化層1層を、上からそれぞれ1層目、2層目、3層目、4層目、5層目の位置に積層したもの計5種の積層体を作製した。この積層体をそれぞれ実施例1第(2)項の方法で作製した電極上のカーボン線と銀/塩化銀線の両者にまたがるように載置し、さらにその上から試料導入口21(直径3mm)をあけたアクリル板22をかぶせて、HRPO不溶化層を含む多孔性部材積層体装置とした。この際、試料導入口は、積層体の最上層の濾紙の真上にくるように設置し、測定中、アクリル板22は電極表面から1200μmの間隔を維持するようにした。すなわち、図15に示すように、試料液の浸透方向20の順に、試料導入口21を有するアクリル板22の次に、第0層として試料点着(導入)用濾紙部30、第1層、第2層、第3層、第4層および第5層を有し、次に検出部としての電極部を有する多孔性部材積層体装置を作製した。
【0188】(3)HRPO不溶化層を含む多孔性部材積層体装置を用いた電流測定第(2)項で作製した装置のカーボン線側を作用極、銀/塩化銀線側を対極・参照極として、実施例1第(6)項に記載のようにポテンショスタットなどの測定装置を接続した。そして、以下の組成の水溶液を調製した。
■ハイドロキノン水溶液(HQ液)
100mM ハイドロキノン(和光純薬工業株式会社製)
50mM リン酸緩衝液 pH6.0100mM 塩化ナトリウム■過酸化水素液3.4% 過酸化水素50mM リン酸緩衝液 pH6.0100mM 塩化ナトリウム■電解質溶液50mM リン酸緩衝液 pH6.0100mM 塩化ナトリウム測定直前に、HQ液10μL、過酸化水素液40μL、電解質溶液950μLを十分に混合した。その結果、最終濃度として、ハイドロキノンを1mM、過酸化水素を約40mM含有する溶液を得た。この溶液の40μLを、前記装置の上面アクリル板の試料導入用の孔を通じて導入した。作用極の静止電位が安定した後(試料導入から1分間経過後)、作用極を対極・参照極に対して−200mVとなるように電位設定し、電流値を記録した。結果を図16に示した。
【0189】(4)GOD不溶化層を含む多孔性部材積層体の作製第(1)項で作製したGOD不溶化メンブレンを乾燥したもの1枚と5×8mmの方形にカットした濾紙(No.54、Whatman社製)5枚とを積み重ねた全6層からなる積層体を作製した。この際、GOD不溶化層1層を、上から1層目、2層目、3層目、4層目、5層目の位置に積層したもの計5種の積層体を作製した。この積層体をそれぞれ実施例1第(2)項の方法で作製した電極上のカーボン線と銀/塩化銀線の両者にまたがるように載置し、さらにその上から試料導入用の孔(直径3mm)をあけたアクリル板をかぶせて、GOD不溶化層を含む多孔性部材積層体装置とした。この際、試料導入用の孔は、積層体の最上層の濾紙の真上にくるように設置し、測定中、アクリル板は電極表面から1200μmの間隔を維持するようにした。すなわち、図17に示すように、試料液の浸透方向20の順に、試料導入口21を有するアクリル板22の次に、試料導入用濾紙部30としての第1層、マトリクスとしての第2層、第3層、第4層、第5層および第6層を有し、次に検出部としての電極部を有する多孔性部材積層体装置を作製した。
【0190】(5)GOD不溶化層を含む多孔性部材積層体装置を用いた電流測定第(4)項で作製した装置のカーボン線側を作用極、銀/塩化銀線側を対極・参照極として、実施例1第(6)項に記載のようにポテンショスタットなどの測定装置を接続した。そして、以下の組成の水溶液を調製した。ただし、グルコース液は調製後、48時間以上冷蔵保存したものを使用した。
■ハイドロキノン水溶液(HQ液)
5mM ハイドロキノン(和光純薬工業株式会社製)
100mM リン酸緩衝液 pH7.0100mM 塩化ナトリウム■グルコース液1.5 M グルコース100mM リン酸緩衝液 pH7.0100mM 塩化ナトリウム測定直前に、HQ液50μL、グルコース液50μLを十分に混合した。その結果、最終濃度として、ハイドロキノンを2.5mM、グルコースを0.75M含有する溶液を得た。この溶液の40μLを、前記装置の上面アクリル板の試料導入用の孔を通じて導入した。作用極の静止電位が安定した後(試料導入から1分間経過後)、作用極を対極・参照極に対して+300mVとなるように電位設定し、電流値を記録した。結果を図18に示した。
【0191】(6)HRPO不溶化層とGOD不溶化層とを含む多孔性部材積層体の作製第(1)項で作製したHRPO不溶化メンブレンとGOD不溶化メンブレンを乾燥したものそれぞれ1枚ずつと5×8mmの方形にカットした濾紙(No.54、Whatman社製)5枚とを積み重ねた全7層からなる積層体を作製した。この際、HRPO不溶化層1層は、必ず最下層とし、GOD不溶化層1層は上から1層目、2層目、3層目、4層目、5層目の位置に積層したもの計5種の積層体を作製した。この積層体をそれぞれ実施例1第(2)項の方法で作製した電極上のカーボン線と銀/塩化銀線の両者にまたがるように載置し、さらにその上から試料導入用の孔(直径3mm)をあけたアクリル板をかぶせて、HRPO不溶化層とGOD不溶化層とを含む多孔性部材積層体装置とした。この際、試料導入用の孔は、積層体の最上層の濾紙の真上にくるように設置し、測定中、アクリル板は電極表面から1200μmの間隔を維持するようにした。すなわち、図19に示すように、試料液の浸透方向20の順に、試料導入口21を有するアクリル板22の次に、第0層として試料点着(導入)用濾紙部、第1層、第2層、第3層、第4層、第5層およびHRPO不溶化層としての第6層を有し、次に検出部としての電極部を有する多孔性部材積層体装置を作製した。
【0192】(7)HRPO不溶化層とGOD不溶化層とを含む多孔性部材積層体装置を用いた電流測定第(6)項で作製した装置のカーボン線側を作用極、銀/塩化銀線側を対極・参照極として、実施例1第(6)項に記載のようにポテンショスタットなどの測定装置を接続した。そして、以下の組成の水溶液を調製した。ただし、グルコース液は調製後、48時間以上冷蔵保存したものを使用した。
■ハイドロキノン水溶液(HQ液)
10mM ハイドロキノン(和光純薬工業株式会社製)
100mM リン酸緩衝液 pH7.0100mM 塩化ナトリウム■グルコース液1.5 M グルコース100mM リン酸緩衝液 pH7.0100mM 塩化ナトリウム■電解質溶液100mM リン酸緩衝液 pH7.0100mM 塩化ナトリウム測定直前に、HQ液45μL、グルコース液300μL、電解質溶液555μLを十分に混合した。その結果、最終濃度として、ハイドロキノンを0.5mM、グルコースを0.5M含有する溶液を得た。この溶液の40μLを、前記装置の上面アクリル板の試料導入用の孔を通じて導入した。作用極の静止電位が安定した後(試料導入から1分間経過後)、作用極を対極・参照極に対して−200mVとなるように電位設定し、電流値を記録した。結果を図20に示した。
【0193】(8)結果第(3)項のHRPO不溶化層を含む多孔性部材積層体装置を用いた測定での電流の経時変化を図16に示した。HRPO層がカーボン電極(検出部)に近いほど電流値が大きく、HRPO層が電極(検出部)から離れるほど電流値が小さかった。第(5)項のGOD不溶化層を含む多孔性部材積層体装置を用いた測定での電流の経時変化を図18に示した。GOD層がカーボン電極(検出部)に近いほど電流値が大きく、GOD層が電極(検出部)から離れるほど電流値が小さかった。これらの場合、両者とも、酵素層の電流値への寄与は、酵素層と電極(検出部)との距離が離れるにしたがって急速に減衰し、酵素層が電極(検出部)から2層以上離れた場合、酵素層が電流値に与える影響は無視できるほど小さくなっていることが確認された。おそらく、これらの実験条件下では、酵素と電極の間での信号物質(おそらくハイドロキノン/ベンゾキノン対)のサイクリング機構が関与していると推測された。これらの結果により、検出部から約500μmの範囲内に存在する酵素が主として電流値に寄与し、その500μmの範囲内でも検出部近くに存在する酵素ほど電流への寄与が急速に大きくなることが確認された。これは、本発明が、数百μmという薄層中の酵素分布を的確に測定可能であることを立証するものである。第(5)項のHRPO不溶化層とGOD不溶化層とを含む多孔性部材積層体装置を用いた測定での電流の経時変化を図20に示した。この場合も同様に、GOD層がHRPO層被覆カーボン電極(検出部)に近いほど電流値が大きく、GOD層がHRPO層被覆電極(検出部)から離れるほど電流値が小さい傾向が示された。しかし、酵素(GOD)層の電流値への寄与は、酵素層とHRPO層被覆電極(検出部)との距離が離れるにしたがって比較的緩やかに減衰し、酵素層が電極(検出部)から5層以上離れても、酵素層が電流値に与える影響を無視できない点が前2者の場合と異なっていた。このように、実施例3の場合と同様、信号物質サイクリング機構の関与が小さいか、あるいは、関与がない場合には、比較的広い範囲の標識分布によって検出部の信号が変調を受ける傾向が確認された。すなわち、この実験条件下では、検出部から少なくとも約1000μmの範囲内に存在する酵素が電流値に寄与でき、その範囲内でも検出部近くに存在する酵素ほど電流への寄与がゆるやかに大きくなることが確認された。これは、本発明が、厚みのあるマトリクス中の酵素分布に対しても的確に測定可能であることを立証するものである。これらの結果から、本発明の方法によって、検出部に接するマトリクス中の標識(酵素など)の分布を的確に、かつ、汎用性をもって、簡便、迅速に行えることが明らかとなった。
【0194】本発明の特異結合分析方法および特異結合分析装置の別の例として、グルコースオキシダーゼを標識(信号物質発生体)の構成成分(標識剤)とした、分析対象物(hCG)の測定であって、信号の検出が電流値測定によるものと、その際に用いる装置例について具体的に説明する。
【0195】実施例1と同様に、抗hCG抗体HM21をマトリクス(b)の不溶化抗体とし、抗hCG抗体HM81を信号物質発生体の構成成分とする。すなわち、標識(信号物質発生体)は、グルコースオキシダーゼ標識HM81抗体とする。そして、マトリクス(b)は、長方形にカットされた多孔性ナイロン膜担体にHM21抗体を吸着させて不溶化したものを1層だけ水平方向に用いるものとする。
【0196】(実施例5)特異結合分析装置を製造し、それを用いて試料中のhCG濃度を測定した。
(1)抗hCGβ抗体とグルコースオキシダーゼとの結合体(標識抗体)の作製hCGのβ鎖を認識するマウス単クローン性抗体HM81(持田製薬株式会社製)を100mM 塩化ナトリウム−1mM EDTA−60mM トリエタノールアミン緩衝液(pH8.0)(TEA緩衝液)に3.9mg/mL濃度となるように溶解し、窒素ガス置換したTEA緩衝液に十分に透析した。この抗体溶液1.0mLに対して、50mMの2−イミノチオラン塩酸塩(Pierce社製)溶液55μLを添加し、撹拌後、窒素ガス雰囲気下、4℃で1.5時間静置した。その後、窒素ガス置換した100mM 塩化ナトリウム−1mM EDTA−100mM リン酸緩衝液(pH7.0)(EDTA−PB)で十分に透析し、SH基が導入された抗hCGβ抗体HM81を得た。グルコースオキシダーゼ(GOD,Boehringer Mannheim社製)を70μMとなるように100mMリン酸緩衝液(pH7.0)の1.43mLに溶解し、30℃でゆっくり撹拌しながら50mMのスルホSMCC(Pierce社製)20μLを添加し、45分間反応させた。反応後、窒素ガス置換したEDTA−PBで十分に透析し、マレイミド化GODを得た。マレイミド化GODに対して1.5倍モルのSH基導入HM81抗体を添加混合後、窒素ガス雰囲気下、4℃にて20時間反応させた。50mMのシステアミン溶液50μLを添加し、窒素ガス雰囲気下、4℃にて30分間反応させ、その後、窒素ガス置換したEDTA−PBで平衡化したセファクリル300HR(ファルマシア社製)カラムを用いてゲルろ過クロマトグラフィーを行った。280nmおよび452nmにおける吸光度測定およびGOD活性測定(Boehringer Mannheim社「Biochemica Information」に記載の活性測定方法)を、ゲルろ過クロマトグラフィーの溶出分画について行い、遊離の酵素を含まないHM81とGODとの結合体の分画を集めて濃縮した。濃縮標品(GOD−HM81と称す)は、Phastシステムによる電気泳動(ファルマシア社製)で分子量を確認後、後記する測定において、信号物質発生体として用いた。
【0197】(2)抗hCGα抗体不溶化多孔性ナイロン膜の作製hCGのα鎖を認識するマウス単クローン性抗体HM21(持田製薬株式会社製)を0.1M 炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.3)に溶解し、1.0mg/mL濃度に調製し、それを、ポアサイズ3.0μmの多孔性ナイロン膜Immunodyne BIA030HC5(Pall社製)の4×15mm切片当たり8μL浸潤させた。室温で1時間反応させた後、ナイロン膜を100mLビーカーへ移し、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS溶液60mLを加え、浸透撹拌しながら、4℃で2日間ブロッキング反応した。その後、0.1%Tween20/PBS溶液中にて、4℃で浸透撹拌して洗浄した。この洗浄操作を4回以上繰り返し、抗hCGα抗体(HM21)不溶化多孔性ナイロン膜を得た。
【0198】(3)抗hCGα抗体不溶化多孔性ナイロン膜1層を電極上に設置した、試料導入部および吸収部を有する特異結合反応分析装置の作製図21に示すように検出部(c)(電極)は、実施例1第(2)項の方法で作製したものを作用極23と対極および参照極24として用いた。乾燥したHM21抗体不溶化多孔性ナイロン膜1枚をマトリクス(b)として、検出部(c)(電極)の作用極23のカーボン線の方向とナイロン膜の長辺方向とが一致するように、かつ、カーボン線上を覆うように載置した。そのナイロン膜の両方の端にWhatman濾紙No.54の5×8mm切片を4層、それぞれ、8mm方向が電極線に垂直方向となるように重積した。ただし、電極の端子に近い側の重積濾紙(試料導入部)は銀/塩化銀線とカーボン線の両方にまたがるように配置し、試料導入部(a)とした。電極の端子から遠い側の重積濾紙は銀/塩化銀線上にはかからずカーボン線にのみかかるように配置し吸収部(d)とした。さらに、試料導入口21(直径3mm)をあけたアクリル板22を試料導入部(a)にかぶせて、hCG濃度測定用の特異結合分析装置を得た。試料導入口21は、ちょうど試料導入部(a)の重積濾紙の真上にくるように設置し、測定中、アクリル板22は電極表面から1200μmの間隔を維持するようにした。この分析装置は、図9(5)の模式図に近い装置である。
【0199】(4)測定特異結合分析装置のカーボン線側を作用極、銀/塩化銀線側を対極・参照極として、実施例1第(6)項に記載のようにポテンショスタットなど測定装置を接続した。hCGの含有量の異なる3種の試料を、0.1% BSAを添加した100mM 塩化ナトリウム/0.1M リン酸緩衝液(pH7.0)(以下、反応用PBと略す)で抗体濃度換算で7.5μg/mLに調製したGOD−HM81溶液と1:1(V:V)混合した。そして、この混合液55μLに対して、0.1%BSA含有の反応用PBで調製した400μM ハイドロキノン溶液を55μL、さらに、反応用PBで調製した1.5M グルコース溶液を110μL添加し、十分に混合した。その結果、最終濃度として、GOD−HM81を抗体濃度換算で0.94μg/mL、ハイドロキノンを100μM、グルコースを0.75M含有し、hCG濃度が0IU/Lの溶液(A)、0.31IU/Lの溶液(B)、および、3.1IU/Lの溶液(C)の3種の反応液を調製した。溶液(A)、溶液(B)、溶液(C)のいずれかを、前記特異結合分析装置の上面アクリル板の試料導入用の孔を通じて、試料導入部に55μL点着した。マトリクス、さらには吸収部まで浸透した後(試料点着から3分間経過後)、作用極を対極・参照極に対して+300mVとなるように電位設定し、電流値を記録した。
【0200】(5)結果作用極に電位をかけた後、2分後、4分後、6分後、8分後の電流値を表5に示した。いずれの時間においても、hCG濃度に依存して電流値は高くなった。この結果から、本発明の装置によって試料中hCG濃度の定量を簡便、迅速に行えることが明らかとなった。
【0201】
表 5 反応溶液中のhCG濃度と計測される電流値の関係 ──────────────────────────────── 反応液中 電流値 (nA) hCG濃度 (IU/L) 2分後 4分後 6分後 8分後 ──────────────────────────────── 0.0 195 170 156 148 0.31 215 190 177 168 3.1 232 204 189 182 ────────────────────────────────
【0202】本発明の特異結合分析方法および特異結合分析装置の別の例として、グルコースオキシダーゼを信号物質発生体の構成成分(標識剤)とした、分析対象物(hCG)の測定であって、信号の検出が電流値の時間変化の測定によるものと、その際に用いる装置例について具体的に説明する。
【0203】実施例1と同様に、抗hCG抗体HM21をマトリクス(b)の不溶化抗体とし、抗hCG抗体HM81を信号物質発生体の構成成分とする。すなわち、信号物質発生体は、グルコースオキシダーゼ標識HM81抗体とする。そして、マトリクス(b)は、実施例1と同様、方形にカットされた多孔性硝酸セルロース/酢酸セルロースの混合メンブレン担体にHM21抗体を吸着させて不溶化したものを多層化して用いるものとする。
【0204】(実施例6)特異結合分析装置を製造し、それを用いて試料中のhCG濃度を測定した。
(1)抗hCGα抗体不溶化多孔性膜およびHRPO不溶化多孔性膜の作製ポアサイズ3.0μmの硝酸セルロース/酢酸セルロースの混合メンブレン(Cat.No.SSWP14200、Millipore社製)を5×8mmの方形にカットし、1.0%BSA/PBS溶液50mLの入ったビーカー内へ入れた。4℃60時間浸透撹拌し、さらに60℃30分間加熱して、BSAをメンブレン上に不溶化した。その後、液を除去し、PBSで置換し、4℃1.5時間以上浸透撹拌して洗浄した。この洗浄操作を5回繰り返した。乾燥したメンブレン1枚に対して、hCGのα鎖を認識するマウス単クローン性抗体HM21(持田製薬株式会社製)の1.0mg/mL濃度のPBS溶液15μLを浸潤し、さらに、0.1%グルタルアルデヒド(GA、和光純薬工業株式会社製)水溶液15μLを浸潤して乾燥し、抗hCGα抗体不溶化多孔性膜を得た。また、別個に、乾燥したメンブレン1枚に対して、HRPO(東洋紡製)の5mg/mL濃度のPBS溶液15μLを浸潤し、さらに、0.1%グルタルアルデヒド(GA、和光純薬工業株式会社製)水溶液15μLを浸潤して乾燥し、HRPO不溶化多孔性膜とした。それぞれ、100mLビーカーへ移し、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS溶液60mLを加え、浸透撹拌しながら、4℃で15時間以上ブロッキング反応した。その後、0.1%Tween20/PBS溶液中にて、4℃で浸透撹拌して洗浄した。この洗浄操作を4回以上繰り返した。
【0205】(2)抗hCGα抗体不溶化多孔性膜9層をHRPO不溶化層被覆電極上に設置したマトリクスの作製第(1)項で作製したHRPO不溶化多孔性膜1層の上に抗hCGα抗体不溶化多孔性膜を9層積層し、さらに、5×8mm方形にカットした濾紙(No.54、Whatman社製)を2層のせて、全12層からなる積層体を作製した。この積層体を実施例1第(2)項の方法で作製した電極上のカーボン線と銀/塩化銀線の両者にまたがるように載置し、さらにその上から試料導入用の孔(直径3mm)をあけたアクリル板をかぶせて、hCG濃度測定用の特異結合分析装置を得た。この際、試料導入用の孔は、積層体の最上層の濾紙の真上にくるように設置し、測定中、アクリル板は電極表面から1800μmの間隔を維持するようにした。この分析装置は図9R>9(1)の模式図に近い装置である。
【0206】(3)測定特異結合分析装置のカーボン線側を作用極、銀/塩化銀線側を対極・参照極として、実施例1第(6)項に記載のようにポテンショスタットなど測定装置を接続した。hCGの含有量の異なる4種の試料を、0.1% BSAを添加した100mM 塩化ナトリウム/0.1M リン酸緩衝液(pH7.0)(以下、反応用PBと略す)で抗体濃度換算で4.0μg/mLに調製したGOD−HM81溶液と1:1(V:V)混合した。その結果、最終濃度として、GOD−HM81を抗体濃度換算で2.0μg/mL、hCG濃度が 0IU/Lの溶液(A)、10IU/Lの溶液(B)、100IU/Lの溶液(C)、および、1000IU/Lの溶液(D)の4種の反応液を調製した。また、次の組成のハイドロキノン−グルコース水溶液(HQ−グルコース液)を調製した。ただし、用いた100mMグルコース液は調製後48時間以上冷蔵保存したものを使用した。
ハイドロキノン−グルコース水溶液(HQ−グルコース液)
0.5mM ハイドロキノン(和光純薬工業株式会社製)
100mM グルコース0.1% BSA100mM リン酸緩衝液 pH7.0100mM 塩化ナトリウムそして、このHQ−グルコース液を前記特異結合分析装置の上面アクリル板の試料導入用の孔を通じて、試料導入部に50μL導入した。作用極の静止電位が安定した後(HQ−グルコース液導入から約2分間経過後)、作用極を対極・参照極に対して−200mVとなるように電位設定し、電流値の記録を開始した。さらに、電位設定から1分後に、反応液(A)、反応液(B)、反応液(C)、反応液(D)のいずれかを、前記特異結合分析装置の上面アクリル板の試料導入用の孔を通じて、試料導入部に10μL導入し、電流値の記録を継続した。そして、反応液の導入から3分後と9分後の電流値の差を求めた。
【0207】(4)結果反応液の導入後、3分後の電流値と9分後の電流値の差から1min当たりの電流値変化を求めて電流値変化率とし、表6に示した。hCG濃度に依存して電流値変化率は低くなった。これは、特異結合反応の結果、hCG濃度の増加とともに、標識抗体が多層積層構造のマトリクスの上部でトラップされる確率が高くなり、それにつれて標識の分布がマトリクス上方に片寄ったことを反映するものと思われた。この結果から、本発明の装置によって試料中hCG濃度の定量を簡便、迅速に行えることが明らかとなった。
【0208】
表 6 反応溶液中のhCG濃度 と電流値変化率との関係 ──────────────────── 反応液中 電流値変化率 hCG濃度 (IU/L) (nA/min) ──────────────────── 0 7.8 10 7.8 100 6.5 1000 4.5 ────────────────────次に、本発明のマトリクス作製法の別の作製例として、微粒子担体を特異結合物質の不溶化担体とした場合について具体的に説明する。
【0209】(実施例7)抗原不溶化の例としてウシ血清アルブミン(BSA)、および、抗体不溶化の例として抗C反応性蛋白(CRP)抗体を不溶化した微粒子を調製し、特異結合反応用マトリクスを作製した。
【0210】(1)BSA不溶化微粒子および抗CRP抗体不溶化微粒子の作製過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)4.28gを蒸留水100mLに溶解して4℃に冷却後、平均粒径約6μmの結晶セルロース(AVICEL PH−M06、旭化成工業株式会社製)1.0gを懸濁し、遮光して4℃16時間ゆっくりと撹拌した。この懸濁液を、1.5gエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製)を蒸留水100mLに溶解した溶液に加え、4℃1時間撹拌した。その後、グラスフィルター上で吸引濾過し、さらに1mM 酢酸緩衝液(pH4.4)で8回以上洗浄し、同緩衝液で100mgAvicel/mLに調製した。BSA(生化学工業株式会社製)およびウサギ抗ヒトCRP抗体(株式会社日本バイオテスト研究所製)溶液をそれぞれ1mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.4)で十分に透析した。1mM 酢酸緩衝液(pH4.4)溶液中に懸濁された上記処理済みの結晶セルロースと未処理の結晶セルロースとをそれぞれ超音波処理して撹拌後、BSA溶液もしくは抗CRP溶液と混合し、以下の組成の懸濁液(A〜L)を調製した。
懸濁液A BSA 20 mg/mL 処理済み結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液B BSA 5 mg/mL 処理済み結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液C BSA 1 mg/mL 処理済み結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液D BSA 0.2mg/mL 処理済み結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液E BSA 0.0mg/mL 処理済み結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液F BSA 20 mg/mL 未処理 結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液G BSA 5 mg/mL 未処理 結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液H BSA 1 mg/mL 未処理 結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液I BSA 0.2mg/mL 未処理 結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液J BSA 0.0mg/mL 未処理 結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液K 抗CRP抗体 1mg/mL 処理済み結晶セルロース 80mg/mL 懸濁液L 抗CRP抗体 1mg/mL 未処理 結晶セルロース 80mg/mL 調製した懸濁液を4℃で5時間振とう撹拌後、0.2M 炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)を1/20量添加した。さらに4℃で1時間以上振とう撹拌後、遠心分離を行い、それぞれの懸濁液の上清の吸光度(280nm)を測定し、上清中の残存蛋白量を算出した。遠心沈査は、PBSで再懸濁し、再度遠心操作を行った。この洗浄操作を5回以上繰り返し、洗浄後、懸濁液Aおよび懸濁液KをBSA不溶化微粒子および抗CRP抗体不溶化微粒子とし、それぞれ50%結晶セルロース/10%ゼラチン/PBS懸濁液を調製した。
【0211】(2)結果最初に添加したBSAおよび抗CRP抗体量と、第(1)項の遠心上清中の残存蛋白量の差が結晶セルロースへの蛋白結合量とした。そして、処理済み結晶セルロースでの蛋白結合量と未処理結晶セルロースでの蛋白結合量との差を、実際の結合量とし、表7に示した。
【0212】
表 7 結晶セルロースへの結合量 ──────────────────────── 結合反応時 結合量 の蛋白濃度 (μg蛋白/mg (mg/mL) 結晶セルロース) ──────────────────────── BSA 20 19 BSA 5 13 BSA 1 8.4 BSA 0.2 2.5 BSA 0.0 0.0 抗CRP抗体 1 9.2 ────────────────────────
【0213】(3)BSA不溶化微粒子を用いた特異結合反応用マトリクスの作製超音波処理した50%結晶セルロース/10%ゼラチン/PBSの組成のBSA不溶化微粒子懸濁液0.8mLに、10%グリセリン水溶液0.2mLを添加し、十分に混合した。電極基板上に作製した型の中にこの懸濁液を分注し、水平に保ったままデシケータ内で乾燥して、特異結合反応用マトリクスを作製した。
【0214】(実施例8)本発明の特異結合分析方法および特異結合分析装置のさらに別の例として、西洋ワサビパーオキシダーゼを信号物質発生体の構成成分(標識剤)とした、分析対象物(hCG)の測定であって、信号の検出が電流値測定によるものと、その際に用いる装置例について具体的に説明する。実施例1と同様に、抗hCG抗体HM21をマトリクス(b)の不溶化抗体とし、抗hCG抗体HM81を信号物質発生体の構成成分とする。すなわち、信号物質発生体は、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識HM81抗体とする。そして、マトリクス(b)は、円形のセルロース混合エステル多孔性膜担体にHM21抗体を結合させて不溶化したものを1層用いるものとする。
【0215】特異結合装置を製造し、それを用いて試料中のhCG濃度を測定した。図22は、用いた特異結合装置1の組立て図を示す。この装置では、試料液の浸透方向20が、矢印で示すように、試料導入部(a)では垂直方向であり、マトリクス(b)上では、吸収部(d)の表面に設けられた液体不透過性のシール部28のために、水平方向となる。また、検出部(c)である電極部は、連通部23の上表面と下表面の周囲にそれぞれ対極/参照極および作用極として設けられ、連通部23の下流側にある連通部23より拡径されたマトリクス(b)内での半径方向の特異結合反応の分布を測定することができる。以下にこの装置の詳細を説明するが、以下で説明する構造に限定されるものではなく、上述の試料液方向と特異結合反応分布と電極部とを備えるものであれば、いかなる構造であってもよい。図22の装置は、上流側から下流側に向かって試料導入口21を有する上部板22の次に濾紙等からなる試料導入部(a)を有し、次に検出部(c)を有する。検出部(c)には流れ方向に貫通口29があけられ、貫通口29の上表面には、対極および参照極24がその円周に沿って設けられ、貫通口29の下表面には、作用極25がその円周に沿って設けられている。対極および参照極24は、参照極端子26で図示しない外部に設けられる測定器と電気的に接続されることができ、作用極25は作用極端子27で同様に接続されることができる。貫通口29の内部は、濾紙等からなる連通部23で試料導入部(a)とマトリクス(b)とを液体拡散の場として連通している。貫通口29の直径より大きい径でその下流側には抗体が不溶化されたメンブレン等からなるマトリクス(b)が設けられる。さらに下流側には貫通口29の直径よりは大きく、マトリクス(b)の直径よりは小さい径の液体不透過性のシール部28を表面に有する吸収部(d)が配置される。さらにその下部は支持体(e)で支持される。図23(A)は、図22の特異結合装置を組立てた測定時の状態を示す斜視図であり、図23(B)はその断面図である。
【0216】(1)抗hCGβ抗体と西洋ワサビパーオキシダーゼとの結合体(標識抗体)の作製hCGのβ鎖を認識するマウス単クローン性抗体HM81(持田製薬株式会社製)を100mM 塩化ナトリウム−1mM EDTA−60mM トリエタノールアミン緩衝液(pH8.0)(TEA緩衝液)に8.3mg/mL濃度となるように溶解し、窒素ガス置換したTEA緩衝液に十分に透析した。この抗体溶液1.1mLに対して、TEA緩衝液中に調製した50mMの2−イミノチオラン塩酸塩(Pierce社製)溶液61μLを添加し、撹拌後、窒素ガス雰囲気下、4℃で1.5時間静置した。その後、窒素ガス置換した100mM 塩化ナトリウム−1mM EDTA−100mM リン酸緩衝液(pH7.0)(EDTA−PB)で十分に透析し、SH基が導入された抗hCGβ抗体HM81を得た。100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で20mg/mL濃度に調製された西洋ワサビパーオキシダーゼ(HRPO,東洋紡社製)溶液500μLを30℃でゆっくり撹拌しながら、50mMのスルホSMCC(Pierce社製)500μLを添加して20分間反応させた。反応後、窒素ガス置換したEDTA−PBで平衡化したSephadexG−25(ファルマシア社製)カラム(2.6φ×15cm)を通して未反応のスルホSMCCを除去し、濃縮器CENTRIPREP−10(Amicon社製)を用いて濃縮し、マレイミド化HRPOを得た。得られたマレイミド化HRPOの濃度は、403nmの吸光度から求めた。1.25×10-8モルもしくは1.56×10-8モルのマレイミド化HRPO溶液に対して、それぞれ3倍モル量もしくは1/3倍モル量のSH基導入HM81抗体を添加混合後、窒素ガス雰囲気下、4℃にて12時間反応させた。次いで、それぞれ50mMのシステアミン溶液50μLを添加し、窒素ガス雰囲気下、4℃にて60分間反応させ、その後、窒素ガス置換したEDTA−PBで平衡化したULTROGEL AcA34(IBF Biotechnics社製)カラムを用いてゲルろ過クロマトグラフィーを行った。280nmおよび403nmにおける吸光度測定を、ゲルろ過クロマトグラフィーの溶出分画について行い、遊離の酵素を含まないHM81とHRPOとの結合体の分画を集めて濃縮した。濃縮標品(HRPO−HM81と称す)は、Phastシステムによる電気泳動(ファルマシア社製)で分子量を確認後、吸光度と酵素活性から含有される抗体および酵素量を決定し、後記する測定において信号物質発生体として用いた。
【0217】(2)抗hCGα抗体不溶化多孔性セルロース混合エステル膜の作製ウシγグロブリン(製品コードG7516、シグマ社製)の1.0%(W/V)PBS溶液200mLを入れたビーカー中に、ポアサイズ8.0μm、直径13mmの円形の酢酸セルロース/硝酸セルロース混合エステル多孔性膜(カタログ番号SCWP01300、日本ミリポア工業株式会社製)200枚を入れ、ゆっくり撹拌しながら60℃で2時間加熱した。上澄みを除去し、さらに残液を吸引除去した後、洗浄液として十分量のPBSを加えてよく撹拌し、再度内容液を除去して洗浄を行った。PBSの洗浄をさらに2回行い、その後、蒸留水での洗浄を7回繰り返した。洗浄終了後、1.0% グルタルアルデヒド水溶液200mLを添加し、ゆっくり撹拌しながら25℃で3時間反応させた。反応後、蒸留水で10回洗浄を行い、ガラス板の上に多孔性膜を1枚ずつ並べて乾燥した。hCGのα鎖を認識するマウス単クローン性抗体HM21(持田製薬株式会社製)を0.05M 炭酸水素ナトリウム−0.05M塩化ナトリウム水溶液に溶解して1.0mg/mL濃度に調製した。この溶液を、ガラス板上で乾燥させた多孔性膜(13mmφ)当たり25μLを中央部分から浸潤させた。室温で1時間反応させた後、多孔性膜を0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS溶液200mLに移し、振とう撹拌しながら、4℃で2日間ブロッキング反応した。その後、0.1%Tween20/PBS溶液で3回洗浄し、さらにPBSで7回洗浄し、抗hCGα抗体(HM21)不溶化多孔性セルロース混合エステル膜を得た。
【0218】(3)検出部(電極)の作製長さ40mm、幅20mm、厚さ0.3mmの透明塩化ビニル板の裏側および表側に、導電性カーボンインク(Electrodag109、日本アチソン社製)で、直径6mmの円形部とそれにつながる幅1.5mmの端子部を印刷した。この際、直径6mmの円形部の位置は、裏側および表側で一致させた(図22参照)。表側の円形部には、その上にさらに導電性銀インク(藤倉化成株式会社製)を重層印刷した。その後、この円形部の中央をパンチングし、直径3mmの孔を開けて貫通口とし、貫通口の表側表面および裏側表面に環状の導電部分が残るようにした。また、開口後、表側と裏側の導電部がそれぞれ電気的に独立していることを確認した。次に、導電性銀インクを重層印刷した部分について、0.1M 塩化ナトリウム水溶液中で電解反応(+1.0V vs 銀/塩化銀電極)を2時間行ない、表面に塩化銀層を形成させた。表側および裏側の導電部はいずれも、環状部と端子部を残してメンディングテープ(住友スリーエム株式会社製)を貼り付けてシールした。露出している環状部の内、銀/塩化銀層が重層されている側を参照極および対極、カーボンのみの側を作用極とし、後記する測定において作用極を検出部として用いた。
【0219】(4)抗hCGα抗体不溶化多孔性セルロース混合エステル膜1層を作用極下に設置した、試料導入部および吸収部を有する特異結合反応分析装置の作製(図22参照)
アクリル製の下部支持体上に、クロマトグラフろ紙(17 Chr、Whatman社製)からパンチングして作製した直径12mmの円形ろ紙2枚を吸水部として乗せた。この円形ろ紙の最上部表面中央には、メンディングテープ(住友スリーエム株式会社製)からパンチングして作製した直径6mmのシールを貼り付けた。実施例8第(2)項の方法で作製した直径13mmの円形の抗hCGα抗体(HM21)不溶化多孔性セルロース混合エステル膜を乾燥し、シール部を有する吸水部ろ紙の上に中心位置を合わせて重積し、マトリクスとした。検出部(電極)は、実施例8第(3)項の方法で作製したものを用いた。銀/塩化銀電極面を上側にして、電極中央部の直径3mmの貫通口の中心を、マトリクスの円形多孔性膜の中心と一致させて重積した。ガラス繊維ろ紙(GF75、アドバンテック東洋株式会社製)からパンチングして作製した直径3mmの円形ろ紙を、電極の貫通口にはめ込んで連通部とした。次に、ガラス繊維ろ紙(GA200、アドバンテック東洋株式会社製)からパンチングして作製した直径12mmの円形ろ紙を、その中心が電極の貫通口の中心と一致するように重積して、試料導入部とした。その上に、直径4mmの試料導入口を有するアクリル製上部板(厚さ5mm)を、その試料導入口の中心が試料導入部円形ろ紙の中心と一致するように上乗せして、hCG濃度測定用の特異結合分析装置を得た(図22、図23参照)。上部板の下面と下部支持体の上面とは、3200μmの間隔を維持するようにした。この分析装置は、図9(1)の模式図に近い装置である。
【0220】(5)測定特異結合分析装置の電極においてカーボン環側を作用極、銀/塩化銀環側を対極・参照極として、実施例1第(6)項に記載のようにポテンショスタットなど測定装置を接続した。hCGの含有量の異なる5種の試料を、0.1% BSAを添加した100mM 塩化ナトリウム/0.1M リン酸緩衝液(pH6.0)(以下、反応用PBと略す)で抗体濃度換算で0.1μg/mLに調製したHRPO−HM81溶液と1:1(V:V)混合した。そして、この混合液285μLに対して、100mM塩化ナトリウム/0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0)で調製した2.5mM p−ベンゾキノン溶液を12.5μL、さらに、100mM塩化ナトリム/0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0)で調製した約0.25M濃度の過酸化水素溶液を12.5μL添加し、十分に混合した。その結果、最終濃度として、HRPO−HM81を抗体濃度換算で0.046μg/mL、p−ベンゾキノンを100μM、過酸化水素をおよそ10mM含有し、hCG濃度が0IU/Lの溶液(A)、1IU/Lの溶液(B)、10IU/Lの溶液(C)、100IU/Lの溶液(D)および1000IU/Lの溶液(E)の5種の反応液を調製した。溶液(A)、溶液(B)、溶液(C)、溶液(D)、溶液(E)のいずれかを、前記特異結合分析装置の上面アクリル板の試料導入口を通じて、試料導入部に260μL導入した。マトリクス、さらには吸収部まで浸透した後(試料点着から1分間経過後)、作用極を対極・参照極に対して−200mVとなるように電位設定し、電流値を記録した。
【0221】(6)結果作用極に電位をかけた後、3分後の電流値を表8に示した。いずれの時間においても、hCG濃度に依存して電流値は高くなった。この結果から、本発明の装置によって試料中hCG濃度の定量を簡便、迅速に行えることが明らかとなった。
【0222】
表 8 反応溶液中のhCG濃度と計測される電流値の関係 ───────────────────────────────── 反応液中 電流値 (nA) hCG濃度 (IU/L) ───────────────────────────────── 0 960 1 1000 10 1030 100 1080 1000 1270 ─────────────────────────────────
【0223】
【発明の効果】本発明により、特異結合分析の原理による、未反応物の分離操作を伴わない簡便なホモジニアス法であって、汎用性に優れ、迅速な定性および定量測定が可能な特異結合分析方法と、該方法の実施に好適な特異結合分析装置が提供される。
【0224】本発明は、試料の性状に関わらず、さらに、分析対象物の分子量などの性状に関わらずに、サンドイッチ型反応および阻止型反応などを含む特異結合反応に適用でき、また、その結果の判定は、呈色反応、蛍光反応、発光反応、電気化学反応などに基づいて行なうことができる、すなわち、肉眼での目視で、もしくは、発生した信号の性質に応じた好適な外部の計測器で検出もしくは計測できるので、様々な態様に適応させ得る。また、本発明の装置は、マトリクスの形状や大きさ、検出部の設置方法が限定されないため、測定に最も適合した態様とすることができ、例えばその大きさの微小化も可能である。従って、試料が微量である場合にも適用可能である。さらに、本発明の装置は、外部の計測器への着脱が可能なため、使い捨てとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明方法の原理を説明するための概念図である。
【図2】 測定開始からの経過時間と信号強度との関係を示すグラフである。
【図3】 本発明方法の原理を説明するための概念図である。
【図4】 図3に示す仮定に基づいた距離Lに応じた検出部(c)で検出される電流信号の理論的予測図である。
【図5】 本発明方法の原理を説明するための概念図である。
【図6】 本発明方法の原理を説明するための概念図である。
【図7】 試料中の分析対象物量と信号強度との関係を示すグラフである。
【図8】 本発明方法の原理を説明するための概念図である。
【図9】 本発明の装置の一例を示す側面図または平面図である。
【図10】 本発明の装置のマトリクスの形状の一例を示す斜視図である。
【図11】 実施例2の実験を説明する模式図である。
【図12】 実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図13】 実施例3に用いた分析装置を示す模式図である。
【図14】 実施例3の測定結果を示すグラフである。
【図15】 実施例4(2)で作製した分析装置を示す模式図である。
【図16】 実施例4(3)の測定結果を示すグラフである。
【図17】 実施例4(4)で作製した分析装置を示す模式図である。
【図18】 実施例4(5)の測定結果を示すグラフである。
【図19】 実施例4(6)で作製した分析装置を示す模式図である。
【図20】 実施例4(7)で作製した分析装置を示す模式図である。
【図21】 実施例5(3)で作製した分析装置を示す斜視図である。
【図22】 実施例8で作製した分析装置の組立て図である。
【図23】 Aは図22の装置の測定時の状態を示す斜視図であり、Bはその断面図である。
【符号の説明】
a 試料導入部 b マトリクス
c 検出部 d 吸収部
e 支持体(あるいは基板) f カバー
g 孔 s 信号
1 特異結合分析装置 11 信号物質発生体
12 信号物質の発生に関与する物質
13 信号物質 14 分析対象物
15 信号の発生に関与する物質 20 試料液の浸透方向
21 試料導入口 22 上部板
23 連通部 24 対極および参照極
25 作用極 26 参照極端子
27 作用極端子 28 シール部
29 貫通孔 30 試料導入用濾紙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】分析対象物と、それに特異的に結合する特異結合物質との少なくとも1つの特異結合反応に関連して試料中の分析対象物を定性もしくは定量する方法であって、分析対象物を含有することが予測される試料をマトリクスを通して検出部に導入するに際し、前記分析対象物と前記特異結合物質との特異結合反応によって信号物質発生体の前記マトリクス内での分布を変化させ、前記信号物質発生体によって発生され、かつ、検出部においてのみ検出可能な信号を発生するあるいは発生させる信号物質を媒介として、前記信号物質発生体の前記マトリクス内での分布の変化を前記検出部における信号の変調の程度として計測することにより、前記試料中の分析対象物を定性もしくは定量することを特徴とする特異結合分析方法。
【請求項2】分析対象物と、それに特異的に結合する特異結合物質との少なくとも1つの特異結合反応によって、試料中の分析対象物を定性もしくは定量する方法であって、分析対象物を含有することが予想される液性試料を、分析対象物を展開する場となるマトリクス内に導入するに際し、(1)該マトリクス内で該分析対象物と第1の特異結合物質とを反応させるか、あるいは、(2)該マトリクス外で該分析対象物と第1の特異結合物質とを反応させた後にマトリクスに導入し、この特異結合反応によって、第2の特異結合物質であるか、または第1の特異結合物質に対して分析対象物と競合する物質であり、かつ検出部においてのみ検出可能な信号を発生するあるいは発生させる信号物質を発する信号物質発生体をマトリクス内に分布させ、分析対象物量に応じた該分布の変化を、該信号物質発生体から発生される信号物質の物質移動に律速される信号の変調として、検出部で検出することを特徴とする特異結合分析方法。
【請求項3】分析対象物と、それに特異的に結合する特異結合物質との少なくとも1つの特異結合反応によって、試料中の分析対象物を定性もしくは定量する方法であって、分析対象物を含有することが予想される液性試料を、分析対象物を展開する場となるマトリクス内に導入するに際し、(1)該マトリクス内で該分析対象物と、特異結合物質に対して分析対象物と競合する物質とを、特異結合物質でありかつ検出部においてのみ検出可能な信号を発生するあるいは発生させる信号物質を発する信号物質発生体に対して競合的に反応させるか、あるいは、(2)該マトリクス外で該分析対象物と、特異結合物質に対して分析対象物と競合する物質とを、特異結合物質でありかつ検出部においてのみ検出可能な信号を発生するあるいは発生させる信号物質を発する信号物質発生体に対して競合的に反応させた後にマトリクスに導入し、この特異結合反応によって、該信号物質発生体をマトリクス内に分布させ、分析対象物量に応じた該分布の変化を、該信号物質発生体から発生される信号物質の物質移動に律速される信号の変調として、検出部で検出することを特徴とする特異結合分析方法。
【請求項4】前記信号が電子移動である請求項1〜3のいずれかに記載の特異結合分析方法。
【請求項5】前記計測が電気量あるいは電流量の計測である請求項4に記載の特異結合分析方法。
【請求項6】前記信号が呈色、蛍光または発光である請求項1〜3のいずれかに記載の特異結合分析方法。
【請求項7】前記信号物質発生体が酵素を含むものである請求項1〜6のいずれかに記載の特異結合分析方法。
【請求項8】請求項1〜3のいずれかに記載の分析方法を実施する装置であって、試料導入部(a)、マトリクス(b)前記マトリクス内の前記信号物質発生体の分布の変化を、該信号物質発生体から発生される信号物質の物質移動に律速される信号として検出しうる検出部(c)および必要により吸収部(d)を有することを特徴とする特異結合分析装置。
【請求項9】分析対象物を含有することが予測される試料の流れ方向でみて上流側から順に試料導入部(a)、マトリクス(b)、検出部(c)および必要により吸収部(d)が配設され、少なくとも1つの信号物質の発生に関与する物質が、前記試料導入部(a)、前記マトリクス(b)、前記検出部(c)および必要により配設される吸収部(d)のうちの少なくとも1ケ所に備えられている請求項8に記載の特異結合分析装置。
【請求項10】前記信号物質の発生に関与する物質が前記検出部(c)近傍および/または吸収部(d)にある請求項9に記載の特異結合分析装置。
【請求項11】前記マトリクス(b)が多孔質材料製である請求項8〜10のいずれかに記載の特異結合分析装置。
【請求項12】前記マトリクス(b)が試料吸収時にゲル状態もしくはゾル状態となる物質を含む請求項8〜11のいずれかに記載の特異結合分析装置。
【請求項13】前記マトリクス(b)が積層体である請求項8〜12のいずれかに記載の特異結合分析装置。
【請求項14】前記マトリクス(b)が前記分析対象物に対する特異結合物質を含む請求項8〜13のいずれかに記載の特異結合分析装置。
【請求項15】前記特異結合物質が前記マトリクス(b)に不溶化されてなる請求項14に記載の特異結合分析装置。
【請求項16】前記特異結合物質が濃度傾斜をもって分布している請求項14または15に記載の特異結合分析装置。
【請求項17】前記試料導入部(a)および/または前記マトリクス(b)の上流部に信号物質発生体が備えられている請求項8〜16のいずれかに記載の特異結合分析装置。
【請求項18】前記検出部(c)が電極である請求項8〜17のいずれかに記載の特異結合分析装置。
【請求項19】前記試料導入部(a)、前記マトリクス(b)、前記検出部(c)および前記吸収部(d)のうちの少なくとも1ヶ所に存在する前記信号物質の発生に関与する物質が、信号物質の前駆物質である基質である請求項18に記載の特異結合分析装置。
【請求項20】前記試料導入部(a)、前記マトリクス(b)、前記検出部(c)および前記吸収部(d)のうちの少なくとも1ヶ所に存在する前記信号物質の発生に関与する物質が、酵素反応の基質および/または電子メディエータである請求項18に記載の特異結合分析装置。
【請求項21】請求項8〜17のいずれかに記載の、その使用時に酵素の二段階反応の結果として信号が生成される装置であって、前記検出部(c)が酵素電極である特異結合分析装置。
【請求項22】請求項8〜17のいずれかに記載の、その使用時に酵素の二段階反応の結果として信号が生成される装置であって、前記検出部(c)が、前記酵素の二段階反応の二段目に係る酵素および/または基質を実質上不動化してなる部分であり、前記試料導入部(a)、前記マトリクス(b)、前記検出部(c)および前記吸収部(d)のうちの少なくとも1ヶ所に存在する前記信号物質の発生に関与する物質が、前記酵素の二段階反応の一段目に係る基質である特異結合分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図15】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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