説明

牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置

【課題】 カーブ箇所の作業であっても、内輪差を減少することによって、トレーラに配設した掃過ブラシにより残り雪を確実に除去することができる牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置を提供すること。
【解決手段】 牽引車両1とトレーラ2とを少なくとも具備して構成される牽引式の除雪車両において、
制御処理演算装置3には、ステアリング角度θsと連結角度θjとの相関関係によって定められる適正連結角度θaがモデリングされ、この適正連結角度θaに対応する後輪22w・22wの目標後輪角度θnが予め記憶されており、
ステアリング角度信号12Pおよび連結角度信号13Pが当該制御処理演算装置3に入力され、演算された前記目標後輪角度θnに基づいて、転舵角度制御信号22Qが転舵装置22aに発信されて前記後輪22w・22wを転舵する一方、ブラシ角度制御信号21Qがブラシ角度調節装置21aに発信されて前記掃過ブラシ21を回動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牽引式の除雪車両の改良、更に詳しくは、カーブ箇所の作業であっても、内輪差を減少することによって、トレーラに配設した掃過ブラシにより残り雪を確実に除去することができる牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、雪国における幹線道路の交通確保のためには、除雪車両を用いた除雪作業が行われており、かかる除雪車両には大型の牽引式のものが使用されている。具体的には、牽引車両の前方に配置したブレードやスノープラウなどの除雪板によって積雪を道路の脇に押し遣って排斥すると共に、当該除雪板の通過後において板体下部の隙間によって残り雪が生じるため、トレーラ(被牽引車両)のシャーシ下面に配設された回転式の掃過ブラシにより除去するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、かかる牽引式のものにあっては、カーブを走行する際に、構造上、前方の牽引車両と後方のトレーラとの走行軌道が異なり、内輪差を生じてしまうため、トレーラに配設した掃過ブラシにより前記の残り雪を適切に除去できないという不満があった。
【特許文献1】特開2002−69958号公報 (第4−8頁、図1−6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の牽引式の除雪車両に、上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、カーブ箇所の作業であっても、内輪差を減少することによって、トレーラに配設した掃過ブラシにより残り雪を確実に除去することができる牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0006】
即ち、本発明は、除雪板体11が前方に配設され、かつ、ハンドル12の回動操作により車両前方に配設された操舵輪12w・12wの進行方向を変更して走行させる自走式車両で、かつ、後尾部にはヒッチ13が形成されているとともに、速度計14により車両の走行速度を計測可能な牽引車両1と、
この牽引車両1のヒッチ13において連結される被牽引車両であって、シャーシ下面には首振り自在な回転式の掃過ブラシ21が配設され、かつ、後方には後輪22w・22wを備えたトレーラ2とを少なくとも具備して構成される牽引式の除雪車両において、
前記牽引車両1の操舵輪12w・12wのステアリング角度θsを検出するステアリング角度センサー12sから発信されるステアリング角度信号12Pと、前記ヒッチ13における牽引車両1に対してトレーラ2が成す連結角度θjを検出する連結角度センサー13sから発信される連結角度信号13Pと、前記速度計14から発信される速度信号14Pと、
前記トレーラ2の掃過ブラシ21の首振り角度θcを検出するブラシ角度センサー21sから発信されるブラシ角度信号21Pと、後輪22w・22wの成す後輪角度θtを検出する後輪角度センサー22sから発信される後輪角度信号22Pとが制御処理演算装置3に入力され、
この制御処理演算装置3には、ステアリング角度θsと連結角度θjとの相関関係によって定められる適正連結角度θaがモデリングされ、この適正連結角度θaに対応する後輪22w・22wの目標後輪角度θnが予め記憶されており、
前記ステアリング角度信号12Pおよび連結角度信号13Pが当該制御処理演算装置3に入力され、演算された前記目標後輪角度θnに基づいて、転舵角度制御信号22Qが転舵装置22aに発信されて前記後輪22w・22wを転舵する一方、ブラシ角度制御信号21Qがブラシ角度調節装置21aに発信されて前記掃過ブラシ21を回動することによって、カーブ走行時における前後輪間の内輪差を減少せしめて、かつ、前記牽引車両1の除雪板体11と前記トレーラ2の掃過ブラシ21との走行軌道を略一致ならしめて積雪を確実に除去できるように構成するという技術的手段を採用した。
【0007】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、速度計14が変速ギヤシフトのギヤ段数に基づいて定められたギヤ段数信号を発信するという技術的手段を採用した。
【0008】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、牽引車両1の除雪板体11を弯曲面を有するスノープラウにするという技術的手段を採用した。
【0009】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、トレーラ2の転舵装置22aおよび/またはブラシ角度調節装置21aを油圧式アクチュエータにするという技術的手段を採用した。
【0010】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ステアリング角度センサー12s、連結角度センサー13s、ブラシ角度センサー21s、後輪角度センサー22sの少なくとも一つをポテンショメータにするという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、牽引式の除雪車両において、各センサーから発信されるパラメータ信号を制御処理演算装置に入力し、この制御処理演算装置には、ステアリング角度と連結角度との相関関係により定められる適正連結角度をモデリングして、この適正連結角度に対応する後輪の目標後輪角度が予め記憶させておくことによって、後輪を転舵する一方、掃過ブラシを回動することができるので、カーブ走行時における前後輪間の内輪差を減少せしめて、かつ、前記牽引車両の除雪板体と前記トレーラの掃過ブラシとの走行軌道を略一致ならしめて積雪を確実に除去できることから、除雪車両における実用的利用価値は頗る高いと云える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0013】
本発明の実施形態を図1から図8に基づいて説明する。図中、符号1で指示するものは牽引車両であり、この牽引車両1は、除雪板体11が前方に配設され、かつ、ハンドル12の回動操作により車両前方に配設された操舵輪12w・12wの進行方向を変更して走行させる自走式車両で、かつ、後尾部にはヒッチ13が形成されているとともに、速度計14により車両の走行速度を計測可能に構成している。
【0014】
本実施形態では、牽引車両1の除雪板体11として、弯曲面を有するスノープラウを採用するとともに、また、速度計14によって、スピード数値に限らず、変速ギヤシフトのギヤ段数を測定できるようにすることができる。
【0015】
また、符号2で指示するものはトレーラであり、このトレーラ2は前記牽引車両1のヒッチ13において連結される被牽引車両であって、シャーシ下面には首振り自在な回転式の掃過ブラシ21が配設されており、ブラシ角度調節装置21aによって首振り角度を調節することができる。
【0016】
そして、車両後方には後輪22w・22wを備えており、転舵装置22aにより転舵可能である。なお、本実施形態では、この転舵装置22aおよび前記ブラシ角度調節装置21aとして、油圧式のアクチュエータを採用する。
【0017】
また、符号3で指示するものは制御処理演算装置であり、この制御処理演算装置3は公知のコンピュータを採用し、本実施形態では、前記牽引車両1に設置する。
【0018】
〔本装置の制御システムの構成〕
しかして、本実施形態の装置の制御システムの構成を以下に説明する。
【0019】
まず、前記牽引車両1には、操舵輪12w・12wのステアリング角度θsを検出するステアリング角度センサー12sと、ヒッチ13における牽引車両1に対してトレーラ2が成す連結角度θjを検出する連結角度センサー13sとが設置されている。
【0020】
そして、トレーラ2には、掃過ブラシ21の首振り角度θcを検出するブラシ角度センサー21sと、後輪22w・22wの成す後輪角度θtを検出する後輪角度センサー22sとが設置されており、これらのセンサーによって、各パラメータを検出し、前記制御処理演算装置3に信号を発信する。
【0021】
本実施形態では、これらの、ステアリング角度センサー12s、連結角度センサー13s、ブラシ角度センサー21s、後輪角度センサー22sの少なくとも一つをポテンショメータにすることができ、このポテンショメータには公知の電位差計型可変抵抗器を採用する。
【0022】
〔本装置の制御システムの運用例〕
次に、本実施形態の制御システムを運用する具体的手順を図2に示すフロー図のステップに基づいて以下に説明する。
【0023】
まず、牽引車両1の操舵輪12w・12wのステアリング角度θsをステアリング角度センサー12sにより検出し(ステップ〔1〕)、ステアリング角度信号12Pを前記制御処理演算装置3に発信する。
【0024】
次に、トレーラ2の後輪角度θtを連結角度センサー13sにより検出し(ステップ〔2〕)、連結角度信号13Pを前記制御処理演算装置3に発信する。
【0025】
ここで、前記制御処理演算装置3には、ステアリング角度θsと連結角度θjとの相関関係により定められる適正連結角度θaがモデリングされ、この適正連結角度θaに対応する後輪22w・22wの目標後輪角度θnが予め記憶されており、この適正連結角度θaのモデリングを確認し(ステップ〔3〕)、目標後輪角度θn(n=1・2・3…)を算定する(ステップ〔4〕)。
【0026】
そして、目標後輪角度θnに基づいて、転舵角度制御信号22Qをトレーラ2の後輪22w・22wの転舵装置22aに発信して駆動し(ステップ〔5〕)、後輪角度θt=θn(n=1・2・3…:1回目をθ1とする)になったかを確認する(ステップ〔6〕)。
【0027】
なお、本実施形態では、前記速度計14から発信される速度信号14Pおよび掃過ブラシ21から発信されるブラシ角度信号21Pについても制御処理演算装置3に入力して制御対象とすることができる。
【0028】
この際、速度計14が変速ギヤシフトのギヤ段数に基づいて定められたギヤ段数信号を発信するようにすることも可能であり、スピード数値のような刻々と変化する複雑なパラメータを簡略化することができる。
【0029】
そして、前記ステップ〔6〕において、後輪角度がθnにならない場合には、また前記ステップ〔1〕に戻り、ステップ〔5〕までを繰り返す。
【0030】
このステップ〔6〕の条件をクリアした場合には、再び、トレーラ2の連結角度θjを連結角度センサー13sにより検出し(ステップ〔7〕)、モデリングされた前記適正連結角度θaに対する連結角度θjのズレ方向およびズレ量を検出する(ステップ〔8〕)。
【0031】
そして、ズレ修正のためのトレーラ2の転舵方向および転舵角を制御処理演算装置3により算出し(ステップ〔9〕)、トレーラ2の後輪22w・22wの転舵装置22aに転舵角度制御信号22Qを発信して駆動する(ステップ〔10〕)。
【0032】
こうして、連結角度θjが適正連結角度θaになったかを確認し(ステップ〔11〕)、適正連結角度θaにならない場合には、また前記ステップ〔7〕に戻り、ステップ〔10〕までを繰り返す。
【0033】
このように、前記後輪22w・22wを転舵する一方、更に、ブラシ角度制御信号21Qをブラシ角度調節装置21aに発信して掃過ブラシ21を回動することによって、左カーブの場合には、図3の状態であっても、図4および5に示すようにカーブ走行時における前後輪間の内輪差を減少せしめて、かつ、前記牽引車両1の除雪板体11と前記トレーラ2の掃過ブラシ21との走行軌道を牽引車両1に追従するように略一致ならしめて、掃過ブラシ21によって、残り雪を確実に除去することができるのである。右カーブの場合も同様にして、図6の状態であっても、図7および8に示すようなトレーラ2の走行軌道を制御することができる。
【0034】
本発明は概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、牽引車両1の除雪板体11は、弯曲面を有するスノープラウに限らず、平板の排雪板であれば良いし、また、駆動用の各アクチュエータ21a/22aは、油圧式に限らず、電動式ものもを採用することもでき、これら何れのものも、本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態の除雪車両を表わす説明上面図である。
【図2】本発明の実施形態の制御システムの運用手順を表わすフロー図である。
【図3】本発明の実施形態の除雪車両の走行軌道を表わす説明上面図である。
【図4】本発明の実施形態の除雪車両の走行軌道を表わす説明上面図である。
【図5】本発明の実施形態の除雪車両の走行軌道を表わす説明上面図である。
【図6】本発明の実施形態の除雪車両の走行軌道を表わす説明上面図である。
【図7】本発明の実施形態の除雪車両の走行軌道を表わす説明上面図である。
【図8】本発明の実施形態の除雪車両の走行軌道を表わす説明上面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 牽引車両
11 除雪板体
12 ハンドル
12w 操舵輪
12s ステアリング角度センサー
θs ステアリング角度
12P ステアリング角度信号
13 ヒッチ
13s 連結角度センサー
θj 連結角度
13P 連結角度信号
14 速度計
14P 速度信号
2 トレーラ
21 掃過ブラシ
21P ブラシ角度信号
21Q ブラシ角度制御信号
21a ブラシ角度調節装置
22w 後輪
22s 後輪角度センサー
θt 後輪角度
22P 後輪角度信号
22Q 転舵角度制御信号
22a 転舵装置
3 制御処理演算装置
θa 適正連結角度
θn 目標後輪角度眼鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除雪板体11が前方に配設され、かつ、ハンドル12の回動操作により車両前方に配設された操舵輪12w・12wの進行方向を変更して走行させる自走式車両で、かつ、後尾部にはヒッチ13が形成されているとともに、速度計14により車両の走行速度を計測可能な牽引車両1と、
この牽引車両1のヒッチ13において連結される被牽引車両であって、シャーシ下面には首振り自在な回転式の掃過ブラシ21が配設され、かつ、後方には後輪22w・22wを備えたトレーラ2とを少なくとも具備して構成される牽引式の除雪車両において、
前記牽引車両1の操舵輪12w・12wのステアリング角度θsを検出するステアリング角度センサー12sから発信されるステアリング角度信号12Pと、前記ヒッチ13における牽引車両1に対してトレーラ2が成す連結角度θjを検出する連結角度センサー13sから発信される連結角度信号13Pと、前記速度計14から発信される速度信号14Pと、
前記トレーラ2の掃過ブラシ21の首振り角度θcを検出するブラシ角度センサー21sから発信されるブラシ角度信号21Pと、後輪22w・22wの成す後輪角度θtを検出する後輪角度センサー22sから発信される後輪角度信号22Pとが制御処理演算装置3に入力され、
この制御処理演算装置3には、ステアリング角度θsと連結角度θjとの相関関係によって定められる適正連結角度θaがモデリングされ、この適正連結角度θaに対応する後輪22w・22wの目標後輪角度θnが予め記憶されており、
前記ステアリング角度信号12Pおよび連結角度信号13Pが当該制御処理演算装置3に入力され、演算された前記目標後輪角度θnに基づいて、転舵角度制御信号22Qが転舵装置22aに発信されて前記後輪22w・22wを転舵する一方、ブラシ角度制御信号21Qがブラシ角度調節装置21aに発信されて前記掃過ブラシ21を回動することによって、カーブ走行時における前後輪間の内輪差を減少せしめて、かつ、前記牽引車両1の除雪板体11と前記トレーラ2の掃過ブラシ21との走行軌道を略一致ならしめて積雪を確実に除去できるように構成したことを特徴とする牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置。
【請求項2】
速度計14が変速ギヤシフトのギヤ段数に基づいて定められたギヤ段数信号を発信することを特徴とする請求項1記載の牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置。
【請求項3】
牽引車両1の除雪板体11が弯曲面を有するスノープラウであることを特徴とする請求項1または2記載の牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置。
【請求項4】
トレーラ2の転舵装置22aおよび/またはブラシ角度調節装置21aが油圧式アクチュエータであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置。
【請求項5】
ステアリング角度センサー12s、連結角度センサー13s、ブラシ角度センサー21s、後輪角度センサー22sの少なくとも一つがポテンショメータであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の牽引式除雪車両におけるトレーラの安定走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−232071(P2006−232071A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48834(P2005−48834)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000158127)岩崎工業株式会社 (7)