説明

犠牲電極の取付構造

【課題】犠牲電極の接触不良を防止可能な犠牲電極の取付構造を提供する。
【解決手段】船外機用水冷式エンジンのシリンダヘッド或いはシリンダブロック10に設けられた第2ウォータジャケット17内に設置されるアノードメタル21の取付構造において、第2ウォータジャケット17にアノードメタル21を取付ける取付口14aが設けられ、アノードメタル21が、取付口14aにねじ込まれるおねじ22hを有する蓋部材22に取付けられ、蓋部材22が取付口14aに固定された状態では、おねじ22hの頭部(フランジ部22b)側の根元と取付口14aとの間に空間27が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犠牲電極の取付構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船外機は、各金属部分が海水に晒されるため、その金属部分の腐食を防止する目的でその金属よりも腐食しやすい金属を取付けることがある。腐食しやすい金属とは、よりイオン化しやすく低い正極電位をもつ金属であり、船外機の金属部分に代わって腐食により溶解するため、犠牲電極(あるいは犠牲陽極)と呼ばれる。
【0003】
このような従来の犠牲電極の取付構造として、シリンダヘッドのウォータジャケットに開口する孔部分がカバーで塞がれ、このカバーに犠牲電極が取付けられたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1の図7及び図8を以下の図4、図5で説明する。なお、符号は振り直した。
図4、図5に示すように、シリンダヘッド101にウォータジャケット102が設けられ、このウォータジャケット102に開口するようにシリンダヘッド101に円孔103,104が形成され、これらの円孔103,104を塞ぐカバー106に犠牲電極としてのアノード107がボルト108で取付けられ、アノード107がウォータジャケット102内に挿入されるとともにカバー106がボルト111でシリンダヘッド101に取付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−236390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記カバー106は、取付面積が大きいため、シリンダヘッド101の狭いスペースに取付けられない場合がある。
そこで、このようなスペース上の課題を解決するために、図6に示すように、エンジン115のウォータジャケット116に開口する取付口117に、蓋部材118がねじ結合され、この蓋部材118の先端面にビス121で犠牲電極としてのアノードメタル122が取付けられた取付構造が知られている。
【0007】
このような取付構造では、取付口117のめねじと蓋部材118のおねじとのねじ結合部分をシールするために、蓋部材118のおねじにシール用テープを巻いて取付口117にねじ込むために、ねじ込んだ後に、シール用テープの一部がねじ結合部分からはみ出し、そのシール用テープが、蓋部材118のフランジ118aとワッシャ123との間、又はワッシャ118と取付口117の端面117aとの間にかみ込むことがある。
【0008】
これによって、取付口117と蓋部材118(詳しくは蓋部材118に取付けられたアノードメタル122)との電気的導通が不良となり、アノードメタル122の電食作用が抑制され、アノードメタル122は腐食しにくくなる。
【0009】
本発明の目的は、犠牲電極の接触不良を防止可能な犠牲電極の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、船外機用水冷エンジンのシリンダヘッド或いはシリンダブロックに設けられた冷却水通路内に設置される犠牲電極の取付構造において、冷却水通路に犠牲電極を取付ける取付口が設けられ、犠牲電極が、取付口にねじ込まれるねじ部を有する蓋部材に取付けられ、蓋部材が取付口に固定された状態では、ねじ部の頭部側の根元と取付口との間に空間が形成されていることを特徴とする。
【0011】
蓋部材のねじ部にシール用テープを巻いて取付口にねじ込んだときに、シール用テープの一部が、ねじ部の頭部側の根元と取付口との間に形成された空間に入り込み、蓋部材の座面と取付口の端面との間にかみ込まれない。
【0012】
請求項2に係る発明は、空間が、ねじ部の頭部側の根元に形成された凹部で形成されることを特徴とする。
ねじ部の頭部側の根元に、例えば環状の凹部を形成し、この凹部と取付口との間に空間を形成する。
【0013】
請求項3に係る発明は、空間が、取付口の内面に設けられた凹部で形成されることを特徴とする。
取付部の内面に、例えば環状の凹部を形成し、この凹部と蓋部材の外周面との間に空間を形成する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、冷却水通路に犠牲電極を取付ける取付口が設けられ、犠牲電極が、取付口にねじ込まれるねじ部を有する蓋部材に取付けられ、蓋部材が取付口に固定された状態では、ねじ部の頭部側の根元と取付口との間に空間が形成されているので、取付口から蓋部材を外すだけで犠牲電極の交換が容易に行えるとともに、ねじ部に使用するシール部材による取付部と蓋部材との接触不良を防止することができ、犠牲電極と取付部との導通を確保して犠牲電極の腐食を促すことができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、空間が、ねじ部の頭部側の根元に形成された凹部で形成されるので、蓋部材に凹部を形成するだけで容易に空間を形成することができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、空間が、取付口の内面に設けられた凹部で形成されるので、取付口を形成する際に凹部も形成することで、取付口を加工する加工装置の段取り替えの工数を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る犠牲電極の取付構造を採用するシリンダブロックの断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】本発明に係る犠牲電極の取付構造を示す断面図である。
【図4】従来の犠牲電極の取付構造(従来例1)を示す断面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】従来の犠牲電極の取付構造(従来例2)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、説明中の左、右、前、後は船体に乗車した運転者を基準にした向きを示している。また、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を説明する。
図1に示すように、船外機に搭載されるV型エンジンを構成するシリンダブロック10は、シリンダライナ11が埋め込まれた第1シリンダ部12と、シリンダライナ13が埋め込まれた第2シリンダ部14とを備え、これらのシリンダライナ11,13のシリンダ穴11a,13aのそれぞれの軸線がV字状に配置され、第1シリンダ部12にシリンダライナ11を囲むように第1ウォータジャケット16が形成され、第2シリンダ部14にシリンダライナ13を囲むように第2ウォータジャケット17が形成され、これらの第1・第2ウォータジャケット16,17間が連通している。
【0020】
一方の第2シリンダ部14の側部に、犠牲電極であるアノードメタル21が配置される取付口14aが第2ウォータジャケット17から開口するように形成され、この取付口14aが蓋部材22で塞がれ、この蓋部材22の先端部にアノードメタル21がビス23で取付けられている。なお、符号14bはクランクシャフトが支持される主軸受部である。
【0021】
図2に示すように、取付口14aは、端面14cに形成された大径穴14dと、この大径穴14dの底に形成されたねじ下穴14eと、このねじ下穴14eの底に形成された連通穴14fと、ねじ下穴14eの大径穴14d側に形成されためねじ14gとを備え、連通穴14fが大径穴14d側と第2ウォータジャケット17とを連通している。
【0022】
蓋部材22は、長さ方向の中央に設けられた軸部22aと、この軸部22aの一端に形成されたフランジ部22bと、このフランジ部22bの端面22cに形成された六角穴22dと、軸部22aの他端に形成された突出部22eと、この突出部22eの端面22fに形成されためねじ22gと、軸部22aに形成されたおねじ22h及び環状凹部22jとを備える。
【0023】
蓋部材22のおねじ22hは、取付口14aのめねじ14gにねじ結合し、蓋部材22のフランジ部22bに設けられた座面22mは、ワッシャ25を介して取付部14aの端面14cに当てられている。
【0024】
この状態では、取付口14aの大径穴14dと蓋部材22の環状凹部22jとは、環状の空間27を形成している。
また、取付部14aのめねじ14gと蓋部材22のおねじ22hとの間にはシール用テープ(不図示)が介在し、そのシール用テープの一部が空間27内にはみ出せるようになっている。
【0025】
以上に述べた取付口14aへの蓋部材22の取付要領を次に説明する。
図3に示すように、蓋部材22の先端にビス23でアノードメタル21が取付けられた状態で、蓋部材22のおねじ22hにシール用テープ28を巻き付け、おねじ22hを取付口14aのめねじ14gにねじ込む。
【0026】
これで、図2において、おねじ22hとめねじ14gとの間はシール用テープ28(図3参照)でシールされ、ねじ込み時におねじ22hとめねじ14gとの間からはみ出したシール用テープ28の一部は空間27内に貯まる。
【0027】
従って、ねじ込み中に、シール用テープ28が、蓋部材22のフランジ部22bとワッシャ25との間やワッシャ25と取付口14aとの間にシール用テープ28が挟まれることがなく、取付口14aと蓋部材22との間の電気抵抗、ひいてはシリンダブロック10とアノードメタル21との間の電気抵抗を小さくすることができ、アノードメタル21の腐食を促すことができる。
【0028】
上記の図1、図2に示したように、船外機用水冷式エンジンのシリンダヘッド或いはシリンダブロック10に設けられた冷却水通路としての第2ウォータジャケット17内に設置される犠牲電極であるアノードメタル21の取付構造において、第2ウォータジャケット17にアノードメタル21を取付ける取付口14aが設けられ、アノードメタル21が、取付口14aにねじ込まれるねじ部としてのおねじ22hを有する蓋部材22に取付けられ、蓋部材22が取付口14aに固定された状態では、おねじ22hの頭部としてのフランジ部22b側の根元と取付口14aとの間に空間27が形成されているので、取付口14aから蓋部材22を外すだけでアノードメタル21の交換が容易に行えるとともに、おねじ22hに使用するシール部材(シール用テープ28)による取付口14aと蓋部材22との接触不良を防止することができ、アノードメタル21と取付口14aとの導通を確保してアノードメタル21の腐食を促すことができる。
【0029】
また、空間27が、おねじ22hの頭部側の根元に形成された凹部としての環状凹部22jで形成されるので、蓋部材22に環状凹部22jを形成するだけで容易に空間27を形成することができる。
【0030】
更に、空間27が、取付口14aの内面に設けられた凹部としての大径穴14dで形成されるので、取付口14aを形成する際に大径穴14dも形成することで、取付口14aを加工する加工装置の段取り替えの工数を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の犠牲電極の取付構造は、船外機に好適である。
【符号の説明】
【0032】
10…シリンダブロック、14a…取付口、14d…凹部(大径穴)、17…冷却水通路(第2ウォータジャケット)、21…犠牲電極(アノードメタル)、22…蓋部材、22b…頭部(フランジ部)、22h…ねじ部(おねじ)、22j…凹部(環状凹部)、27…空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船外機用水冷エンジンのシリンダヘッド或いはシリンダブロックに設けられた冷却水通路内に設置される犠牲電極の取付構造において、
前記冷却水通路に前記犠牲電極を取付ける取付口が設けられ、
前記犠牲電極は、前記取付口にねじ込まれるねじ部を有する蓋部材に取付けられ、
前記蓋部材が前記取付口に固定された状態では、前記ねじ部の頭部側の根元と前記取付口との間に空間が形成されていることを特徴とする犠牲電極の取付構造。
【請求項2】
前記空間は、前記ねじ部の頭部側の根元に形成された凹部で形成されることを特徴とする請求項1記載の犠牲電極の取付構造。
【請求項3】
前記空間は、前記取付口の内面に設けられた凹部で形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の犠牲電極の取付構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−242619(P2010−242619A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92341(P2009−92341)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)