説明

独立手術センター

生体組織切断および流体吸引システムは、外部制御コンソールとは独立して動作可能な複数の手術機器を提供する。実施形態によっては、各手術機器は、手術機器に直接適用できる、すべてのセンサおよび制御部を有していてよく、独立して使用されていてよい。実施形態によっては、機器は、状態情報を互いに通信して、通信に基づいて動作パラメータを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には手術システムに関し、具体的には、外部制御コンソールなしに動作可能な機器を有する手術システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医学的手術の革新によって、以前は治療できない、つまり不治であると考えられていた病気から多くの人々が回復できるようになっている。例えば、眼の内部構成要素を含む、人間の眼の一部を修復する様々な眼科手術が開発されており、様々な視覚傷害が軽減されるようになっている。医学的手術が発達し、多くは到達しにくい人体の新しい領域に医学的手術が拡張されるにつれて、より複雑な手術機器が開発されている。さらに、手術機器がより複雑になるほど、一般的には、手術機器の精度に対する要求もより高められる。
【0003】
外科手術の正確性や精度を上げるために、制御コンソールは手術システムに一体化されることが多い。制御コンソールは、例えば、使用されている様々な手術機器の制御パラメータを調整し、手術機器の状態を監視し、高速な計算を実行するために使用することができ、また、医師や他の医療関係者にフィードバックを提供して、外科手術をどのように進めるかの判断を支援するために使用することができる。眼科手術についても違いはない。例えば、眼の中の流体の外科的除去を伴う硝子体茎切除手術は、一般には、大きな制御コンソールに収容されたコンピュータシステムによって駆動される機器を使用して行われる。制御コンソールは、一般に定置されており、すなわち滅菌バリアの外側の大きな回転ユニットに収容されており、手術機器に直接接続される装置モジュールを有している。滅菌バリアの外側に配置された制御コンソールを使用して、外科医または他の資格のある従事者が機器を患者レベルで操作する一方で、少なくとも1人の他の医療関係者が外科医の指示によって制御コンソールで制御機器を操作する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の各実施態様は、例えば硝子体茎切除手術や他の眼科手術などの手術や医療処置を実施するための独立して動作可能な手術システムを対象とする。
【0005】
本発明の一実施態様によれば、外科手術用の独立したシステムは、処理ユニットを有する制御装置と、外科手術に関連し、制御装置に作動可能に連結された複数の機器と、を有し、制御装置と複数の機器とが、一緒にあらかじめパッケージされており、処理ユニットが、あらかじめパッケージされた複数の機器の少なくとも1つを制御するようにされている。それらの機器は、電気機器であってよい。
【0006】
本発明の別の実施態様によれば、手術システムは、処理ユニットを有する可搬式の手術トレイと、処理ユニットに作動可能に連結された複数の機器と、複数の機器の1つまたは複数における動作パラメータを制御するためのユーザ入力を行うユーザ入力装置と、を有し、処理ユニットが、ユーザ入力を受信するとともに、動作コマンドを複数の機器の1つまたは複数に送信するようにされている。
【0007】
本発明のさらに別の実施態様では、外科手術用の電源内蔵式の手術システムが、手術トレイと、複数の携帯機器と、手術トレイおよび携帯機器の少なくとも一方に設けられた電源と、処理ユニットと、を有し、処理ユニットが、プログラム命令を実行するようにされており、そのプログラム命令が、少なくとも一方の電源からの電力を検出すること、少なくとも一方の電源から複数の携帯機器へ電力を印加すること、および、複数の携帯機器のそれぞれとの通信を確立することに関する命令を有する。
【0008】
一実施態様によれば、可搬式の生体切断および吸引装置は、切断チップと、流体吸引装置と、総合された制御装置であって、切断チップと流体吸引装置とに連結された制御装置と、を有し、制御装置が、切断チップおよび流体吸引装置における、切断および吸引を制御するようにされている。
【0009】
一実施態様によれば、可搬式の注入および吸引装置は、吸引室と、生体組織切断および吸引装置に連結され、手術部位から除去された物質を吸引室へと吸引するようにされている吸引ラインと、注入溶液を有する注入室と、手術部位に注入溶液を注入して手術部位での圧力を維持するようにされている注入ラインと、を有し、単一の使い捨てカセットに収容されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】硝子体茎切除手術の施術中に眼の中に挿入される様々な機器のブロック図である
【図2a】本発明の一実施形態の独立手術センター10を有する手術システムのブロック図である。
【図2b】本発明の一実施形態による、手術トレイとして実施される独立手術センターの模式図である。
【図3】本発明の一実施形態の独立手術センターの内部構成要素のブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態の独立手術センター用の初期化および通信確立処理のフロー図である。
【図5】本発明の一実施形態による、ハンドピースとの通信を行う手術トレイとして実施される独立手術センターのブロック図である。
【図6】本発明の一実施形態の独立手術センターの処理ユニットによって実行される処理のフロー図である。
【図7】本発明の態様の独立手術センターの代替の実施形態を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態による、注入/吸引カートリッジとして実施される独立手術センターのブロック図である。
【図9】本発明の一実施形態の独立手術センターのさらに別の代替の実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、硝子体茎切除手術の施術中に眼の中に挿入される様々な機器のブロック図である。硝子体は、通常は透明なジェル状の物質であって、それは、例えば眼101など、眼の中心を満たしている。場合によっては、血液、異物、または瘢痕組織が硝子体に集まり、視覚を部分的または完全に遮ることがある。このような場合には、硝子体茎切除手術、つまり眼の硝子体のすべてまたは一部の外科的な除去が実施されうる。
【0012】
硝子体茎切除手術を実施するためには、眼の白い部分である鞏膜103内で多くの切開が行われる。様々な機器が切開部分を通じて眼の中心に到達する。図1の挿入機器には、携帯型の生体組織切断器と流体吸引器具(「ハンドピース」)105、照明装置107、および注入装置109が含まれている。ハンドピースは、眼の硝子体の一部を切断、あるいは除去するための生体組織切断器だけでなく、切断、あるいは除去された部分を取り除くための吸引器も有している。注入装置は、流体を置換して眼の中を適切な圧力に維持するために使用される。照明装置は、外科手術中に眼の中心を調べるための光源として使用される。
【0013】
本発明は、外部の手術コンソールを使用せずに動作可能な独立手術システムを対象としている。例えば、実施形態によっては、モジュラー形式の手術システムが独立手術機器からなる。手術機器は、切断ハンドピースや照明装置などの、一連の相互接続された携帯機器を有していてよい。実施形態によっては、個々の機器は、自立した動作知能(operating intelligence)を有しており、制御元からのコマンドには依存しておらず、それによって、外科医や他の医療従事者が、滅菌領域内でのそれぞれの機器の完全で独立な制御を行えるようになっている。
【0014】
本明細書では、独立手術センターを主に硝子体茎切除手術に関連させて説明するが、当業者は、センターが眼や人体の他の部分を含むすべての組織で実施される他の医療処置についても構成可能であることを理解すべきである。例えば、水晶体超音波乳化吸引術には、超音波カッターと吸引器とを有する同様のハンドピースを使用した眼のレンズの除去が伴う。他の様々な用途についても、機器には、例えば、様々な切断器、真空装置、洗浄装置、視覚装置、および/または照明装置が特に含まれていてよい。本発明の一実施形態によれば、特定のシステムの機器の、すべてではないがほとんどは、互いに独立して自身を制御し動作させるための回路と電力とを有している。実施形態によっては、複数の機器が無線接続を介して互いに通信することができ、また1つの機器が主要な処理または制御ユニットとして動作することができる。そのため、説明では硝子体茎切除手術用に構成された本発明の実施形態の詳細にしばしば触れることがあるが、それは、本発明が利用可能である唯一の用途について説明をしているわけではない。異なる処置によってわずかに異なる実施形態を伴うことがあるが、当然、本発明の精神と範囲内に含まれることも意図している異なる実施形態によって、同じ機能と構造とが実現できることを理解されたい。
【0015】
図2aは、本発明の一実施形態の独立手術センター10を有する手術システムのブロック図である。独立手術センター10は、手術システムの制御装置として動作し、例えば、1つまたは複数の視覚装置12、注入装置14、洗浄装置16、照明装置18、および切断装置20など、1つまたは複数の医療機器に、有線または無線接続24f、24e、24d、24bを経由して作動可能に連結されている。独立手術センター10は、他の装置22にも、有線または無線接続24aを経由して作動可能に連結されている。このような他の装置としては、フットペダル、補助表示画面、音声出力等があるが、これらには限定されない。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、独立手術センター10はさらに、接続24gを経由して、個人用手術センターに任意に連結されている。接続24gは、無線接続であることが好ましいが、その代わりに有線接続の形態を取っていてよい。本発明と同日出願の米国特許出願の「個人用手術センター」に詳細に記述されているように、個人用手術センター26は様々な医療機器の設定を監視するように構成されているのに対して、医療機器の実際の制御は、独立手術センター10、および/または、医療機器自体に備えられたロジックおよび回路を介している。この点について、独立手術センター10および医療機器12−20は、手術が行われる滅菌領域内部に配置されているのに対し、個人用手術センター26は滅菌領域の外側に配置されている。このように、外科医は手術中に、独立手術センター10と機器に直接アクセスし、制御することができる。
【0017】
独立手術センター10からの様々な接続24a−24gは、有線あるいは無線であってよい。無線接続は、当該技術で従来からの、例えば802.11接続などの無線ローカルエリア接続、Bluetooth(登録商標)などのパーソナルエリアネットワーク接続、または他の無線またはセルラ接続であってよいが、これらには限定されない。有線接続は、例えば、シリアルバス、パラレルバス、Ethernet(登録商標)接続などであってよい。例えば、切断装置20と独立手術センター10との間の接続24bは、有線接続であってよい。さらに、注入および吸引ラインによって、注入装置および洗浄装置と、独立手術センター10および切断装置20の少なくとも一方とが接続されていてよい。
【0018】
独立手術センター10は、医療用機器の1つまたは複数を駆動し制御するために、回路、電力、およびロジックを有している。本発明の一実施形態によれば、独立手術センター10は手術トレイとして実施される。本発明の別の実施形態によれば、独立手術センターは、例えば注入/吸引カセットなどの、特定の医療機器として実施される。この後者の実施形態によれば、特定の医療機器は、それ自体を制御するロジックや回路を有するだけでなく、その他の機器のいくつかまたはすべての機能を制御する制御センターとしても動作する。
【0019】
図2bは、本発明の一実施形態による、手術トレイとして実施される独立手術センターの模式図である。図2に図示した実施形態において、手術トレイ201は、様々な外科手術に使用することができる様々な医療機器を収容し制御する。実施形態によっては、図2の手術トレイは、外科手術が行われる前、場合によっては行われた後に、個々の機器をパッケージするための滅菌環境を提供する。実施形態によっては、トレイとトレイに保持されている機器とは、一度の使用後に廃棄されるように設計されている。
【0020】
図2bに示す実施形態では、トレイには、ハンドピース203、吸引ライン205、照明装置207、検鏡209、注射器211、カニューレ213、綿棒215、および人工涙液の補給品217を含む、様々な取り外し可能な携帯機器と手術用補給品とが収容されている。トレイには、吸引室219と、注入室221と、各室用のポンプまたは同様な装置とを有するカートリッジがさらに収容されている。図2bに示す実施形態において、ハンドピースは、吸引ライン210を介した吸引室219と、注入ライン205を経由した注入室221とに連結されている。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、トレイは、トレイに収容され、トレイからの電力または制御を必要としている手術機器の1つまたは複数と有線または無線で通信している。トレイは、例えばフットペダルおよび/または外部モニタなど、トレイには収容されていない他の装置と無線で通信をしていてもよい。トレイは、手術システムの機器のそれぞれの間の通信媒体として動作していてよい。トレイが外部モニタと通信する実施形態では、システム全体は、概ね独立して動作可能な状態のままであり、モニタが、データ収集、表示、および保存容量としてのみの役割を果たす。
【0022】
本発明の一実施態様によれば、トレイを含む様々な医療機器は、可搬で、軽量で、安価となるように設計されている。実施形態によっては、トレイは様々な医療機器を制御するための、内部回路と様々な構成要素とを有している。内部構成要素は、例えば、処理ユニット、ユーザ制御部、電源、複数の様々なインターフェース用装置を有していてよい。処理ユニットは、例えばマイクロプロセッサベースのユニット、ASICなどであってよい。インターフェース用装置は、例えば、手術システムの他の機器と通信する無線通信インターフェースを有していてよい。例えばバッテリーなどの電源によって、トレイには独立して電力が供給され、実施形態によっては、ハンドピースなどのトレイに接続された装置に電力を供給する。実施形態によっては、トレイは、接続された機器の様々な状態指標や設定を出力できるディスプレイやスピーカを有していてもよい。
【0023】
実施形態によっては、トレイは、一度の使用に対して設計されており、トレイの機器は滅菌容器にまとめてパッケージされている。これらの実施形態において、外科手術の実施の直前に、滅菌作業領域内で、パッケージを開いて、トレイとトレイ内部の構成要素とを起動することができる。これによって、医療従事者は、トレイ上に配置された、あらゆる機器制御部と状態インジケータとを含む、滅菌領域内のすべての該当する手術機器にアクセスし、それらを制御することができる。実施形態によっては、起動時に、トレイは、外科手術中に通信可能で使用可能な装置または機器を判断するために、初期スキャンまたは同様の情報検索処理を実施することができる。トレイは、トレイの様々な機器と、一般に無線での通信ラインを確立することができる。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、トレイは、ハンドピース203と注入ライン205とに接続されている。生体組織切断用途においては、ハンドピースは、生体組織切断器を有していてもよく、トレイに流体吸引ライン210を介して接続されていてよい。動作中に、切断器は生体組織の切断あるいは除去を行い、吸引ラインは除去された組織を吸引し、除去された組織は隔離された吸引室219に集められる。吸引された組織を置き換えるために、注入ライン205を使用して、手術部位に、流体またはガス溶液または他の材料を注入することができる。例えば、硝子体茎切除手術では、平衡塩類溶液の注入によって、圧力が眼の内部で維持されて、吸引された硝子体が置き換えられる。注入流体は、トレイの注入室内、またはその代わりに注入室に保持されている密閉注入バッグつまりパウチに保持されていてよく、トレイに配置された制御部によって決定された速度で、注入ラインを通じて患者に注入されていてよい。本発明の一実施形態においては、吸引室219と注入室221との両方が、単一の使い捨てカセットに備えられている。
【0025】
実施形態によっては、切断速度、吸引圧力、注入速度、および照明レベルなどの、様々な機器の動作パラメータを、それぞれの機能を実行するために使用される個々の機器を通じて直接制御することができる。例えば、ハンドピースは切断速度と吸引圧力とを制御する制御部を有しており、それによって、外科医が外科手術をより直接的に制御できるようになる。あるいは、医療機器の1つまたは複数におけるパラメータを制御するように、トレイに連結された入力装置を使用することができる。典型的な入力装置は、トレイに無線で接続されているフットペダルである。外科医は、フットペダルを使用して、例えば切断速度と吸引圧力とを制御することができる。トレイは、切断速度および/または吸引圧力の変更を受信し、次いで、受信した入力に基づいてハンドピースを制御する。同様に、照明レベルを照明装置上で直接制御することができ、注入速度を、注入ライン上またはトレイ上に配置された制御部で制御することができる。当業者は、ノブ、スイッチ、および/またはボタンなどの他の入力装置を、フットペダルに加えて、またはその代わりに制御入力のために使用できることを認識されたい。
【0026】
トレイは、様々な機器と通信して、様々な機器から、例えば機器の設定、現在の動作パラメータ、障害状態などの状態情報を検索することもできる。例えば、照明装置は、トレイから完全に分離可能であって、トレイとは独立して機能し制御可能でありながら、トレイはなお、現在の照明レベルの情報を受信し、その情報を外科医や医療従事者に通信することができる。本発明の一実施形態によれば、トレイは、監視した情報を個人用手術センター26に通信リンク24gを経由して転送する。実施形態によっては、情報を、トレイに取り付けられた内蔵ディスプレイ上に表示することができる。他の実施形態においては、他の出力手段またはユーザフィードバック手段、例えば、様々な機器の現在のパラメータまたは状態情報を表示する一連のLEDなどを組み込むことができる。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態の独立手術センター10の内部構成要素のブロック図である。図示した実施形態によれば、独立手術センター10は、無線通信インターフェイス303と接続および通信する処理ユニット301と、モニタまたはLEDの集合体305などの状態インジケータと、吸引装置307と、注入装置309と、複数のユーザ制御部または他の入力装置311と、他の構成要素または回路313とを有している。電源315が、様々な構成要素に接続されていてもよく、他の構成要素を動作させるように電力を供給する。注入装置は、注入流体または注入気体の供給部317、例えば平衡塩類溶液の貯蔵容器などにさらに接続されていてよい。
【0028】
処理ユニット301は、制御コマンドを1つまたは複数の機器に送信することによって、これらを円滑に動作させるとともに、手術システム自体または手術システムの他の機器から現在のパラメータ設定と他の状態情報を収集することによって、情報資源として動作する。実施形態によっては、状態情報は、すべての接続された機器から収集され、トレイによって、外科医や手術システムの他のユーザへと通信され、任意には個人用手術センター26へも通信される。
【0029】
処理ユニット301は、ユーザの要求に基づいて、医療機器を制御することができる。場合によっては、その要求は、例えばボタンや調整可能なダイヤルなどの形態の、独立手術センター自体に配置されたユーザ制御部から行われていてよい。他の場合には、ユーザ制御部は、例えば図2bに示すように、ハンドピースや注入ラインなどの接続装置から受信可能である。さらに他の場合には、制御または調整要求は、例えば照明装置18やフットペダルなど、手術システムの遠隔機器から無線通信インターフェイス303を介して受信可能である。
【0030】
処理ユニット301は、ユーザ要求を処理し、調整の対象となる機器または装置に送信されるコマンド信号を生成する。実施形態によっては、独立手術センター10は、手術システム内の特定の装置の動作を指示または制御するように構成されていてよい。例えば、独立手術センターとしてのトレイの実施形態において、トレイは、トレイ自身の上またはその内部に配置された装置、例えば吸引装置307や注入装置309などの制御に限定されていてよい。他にも実施形態によっては、処理ユニット301は、手術システム内の様々な機器および装置のための中央制御ユニットとしての役割を果たすことができ、すべての機器の調整要求を受信して、関連した制御コマンドをシステム内の適切な装置に送信することができる。
【0031】
動作中に、ユーザ要求は、例えばハンドピースなどの第1の装置から受信され、例えば吸引装置などの第2の装置を調整することが目的とされていてよい。処理ユニット301は、例えば、遠心ポンプ、ベンチュリポンプ、蠕動ポンプ、または任意の適切な真空ベースのシステムなどであってよい吸引装置の制御パラメータを直接調整することができ、または、その代わりに真空圧力を作用させるシリンジまたはピストンを制御するモータを直接調整することができる。同様の調整は、接続された注入装置、例えば、一般的な使い捨てポンプ、蠕動ポンプ、Harvard Apparatus社のシリンジポンプ、ばね付勢シリンジ、IVポールなどであってよい注入装置に対して実施可能である。実施形態によっては、システムが対象とする特定の用途に適した注入溶液の補給品が、システムと共にあらかじめパッケージされている。硝子体茎切除手術では、あらかじめパッケージされた溶液は、滅菌平衡塩類溶液であってよい。ポンプが使用される場合、平衡塩類溶液を収容する注入室が加圧され、そうして溶液が眼に注入される。あるいは、平衡塩類溶液を収容する別個の密封注入バッグを、注入室に収容して、注入ラインに接続することができる。注入室の圧力レベルを増加させて、注入バッグを圧縮して、平衡塩類溶液を注入バッグから眼に注入することができる。
【0032】
外科手術によっては、気体置換や、液体置換と気体置換との組み合わせが行われることがある。本発明の実施形態によっては、注入装置309は、複数の注入源を備え、注入用の様々な種類の液体と気体とを保持することができる。これらの実施形態においては、独立手術センター10は、外科手術に適用される注入源を決定する制御部をさらに有することができる。例えば、液体溶液を備えた注入源と、空気流体またはガス状物質を備えた注入源とを有する手術システムの場合、独立手術センター10は、液体溶液置換と空気流体置換とを選択する制御部を備えていてよい。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、独立手術センターはさらに、設定モニタや状態インジケータの形態のフィードバックをユーザに提供する。処理ユニット301は、複数の接続された機器から状態情報を受信し、それは通常、接続された機器用のデータ通信ラインを通じて、または遠隔機器用の無線通信インターフェイスを通じて実行される。処理ユニットは、その情報を編集して、外科医や他のユーザに通信する。本発明の一実施形態によれば、独立手術センターは、外科手術や機器に関する情報を表示する小さいモニタや画面を有していてよい。モニタに加えて、またはその代わりに、光学LEDおよび/またはスピーカを設けて、様々なシステムイベントについての状態出力や警報を生成することができる。
【0034】
図4は、本発明の一実施形態の独立手術センター用の初期化および通信確立処理のフロー図である。処理は、メモリ(図示せず)内に保存され、処理ユニット301によって呼び出されるコンピュータプログラム命令として実行することができる。実施形態によっては、図4の処理は、システムが初期化されるときに実施される。ブロック411では、処理が処理ユニット301を起動する、つまり処理ユニット301に電力の供給を開始する。実施形態によっては、処理ユニットを収容する独立手術センター10は、処理ユニットに電力を供給するために電源315も収容している。実施形態によっては、システムを外部電源、例えば電源コンセントに接続する操作を伴うことがある。しかし、内部電源、例えばバッテリーを有する実施形態では、一般に機動性がよくなる。電源が装置のトレイに収容される実施形態では、電源は、吸引装置307と注入装置309とに電力を供給してもよく、接続されたハンドピースに同様に電力を供給してもよい。独立手術センター10が手術トレイとして実現される実施形態によっては、独立手術センター10への電力は、自動化されたスイッチ起動または同様な機構によって、トレイが一旦そのパッケージから開放される、つまり取り出されると投入される。処理ユニットは、電源からの電力を検出して、システムを起動する。他の実施形態では、追加のユーザ制御スイッチまたは制御装置を設けて、電源を手動で作動させることができる。
【0035】
ブロック413では、処理は、独立手術センターが使用される外科手術中に利用される可能性のある1つまたは複数の装置または機器を検出する。これについては、処理は、例えば無線識別(RFID)リーダなどの無線通信インターフェイス303を呼び出して、1つまたは複数の装置や機器に連結されているか、装置や機器のそれぞれまたは複数を保持するパッケージに連結されている1つまたは複数の識別タグ、例えばRFIDタグなどを自動的に問い合わせる。RFIDタグは、識別情報(例えば装置IDやモデル番号)ばかりでなく、個々の機器の特定の情報、例えば機器の型式、構成パラメータ、使用可能な電力設定などを送信する。実施形態によっては、いくつかの機器が、特定の外科手術に関連した特定の手術機器を有する手術パッケージに含まれていてよい。本実施形態では、パッケージがパッケージ内の機器を識別するRFIDシステムを有していてよく、またはその代わりに、使用可能な機器のそれぞれが、個々の装置のそれぞれと通信がより容易に確立できるように別個のRFIDタグを有していてよい。例えば図2aに関連して説明した実施形態など、実施形態によっては、手術トレイは様々な異なる外科手術で使用可能な機器を有していてよい。これらの実施形態では、手術システムは、所望の外科手術を選択できるように構成することができ、トレイは、各機器が所望の外科手術に使用されるかどうかを判断するために利用可能な各機器を識別することができる。
【0036】
ブロック415では、処理は、1つまたは複数の識別された装置との通信を確立する。その後、通信は、識別された装置の動作の制御のため、および/または、識別された装置からの状態情報の受信のために使用することができる。本発明の一実施形態によれば、すべての識別された装置との無線通信を確立する必要があるわけではない。例えば、処理は、ユーザコマンドに応答して特定の外科手術で使用される機器を選択し、すべての使用可能な機器とのではなく、これらの機器との無線リンクを確立するように構成されていてよい。実施形態によっては、処理ユニットは、処理ユニットと選択された機器との間で通信が確立される前に、まず、選択された機器に電力を供給するように電源に指示する。
【0037】
ブロック417では、処理は、通信が確立された装置に初期構成設定を送信する。接続された様々な機器から受信した無線データは、独立手術センター自体、独立手術センターに連結された外部状態モニタ、および/または個人用手術センター上で、例えば、適切な設定や監視画面を選び出して構成するために使用することができる。実施形態によっては、無線接続は、初期手術設定と機器障害パラメータとを、個々の機器の1つまたは複数へ中継するのに使用することもできる。実施形態によっては、各独立手術センターは、特定の外科手術を実行するようにあらかじめ構成することができ、処理ユニット301は、特定の外科手術についての事前の構成に基づいて、1つまたは複数の機器に初期構成設定を送信することができる。実施形態によっては、個人用手術センターは、ユーザの好みや、患者のデータまたは統計の読み取りや入力を行うユーザ制御部311を呼び出すことができる。これらの実施形態では、その代わりに、初期構成設定は、ユーザ制御部を介して入力されるユーザ固有または患者固有の情報に基づいていてよい。
【0038】
図5は、本発明の一実施形態による、ハンドピース503との通信を行う手術トレイ505として実施される独立手術センターの模式図である。本実施形態によれば、ハンドピースは生体組織切断および流体吸引システムである。吸引ラインつまりチューブ501がハンドピース503をトレイ505に接続し、手術部位から不要な物質を吸引する。これに関連して、トレイは、吸引室と、例えばポンプや真空吸引器などの吸引装置507とを有している。これらの実施形態では、吸引装置によって、ハンドピースが吸引ライン501を通じて吸引または真空を行い、ラインまたはチューブを通じて吸引された物質を集めるための貯蔵容器や同様の部屋が設けられている。吸引室は、図2bの吸引室219と同様であってよい。
【0039】
代替の実施形態では、吸引ハンドピースは、内部ポンプと収集室とによって構成されていてよい。これらの代替の実施形態によれば、吸引ライン501はもはや必要でなくなり、ハンドピースとトレイとの間の接続は完全に無線になるであろう。
【0040】
図5に示す実施形態では、吸引装置507に加えて、トレイは、処理ユニット509、電源511、注入装置513、無線トランシーバ515、および状態インジケータ517を有している。処理ユニット509、電源511、注入装置513、無線トランシーバ515、および状態インジケータ517は、図3に関連して説明した、処理ユニット301、電源315、注入装置309、無線通信インターフェイス303、およびモニタ/LED305と同様であってよい。ハンドピース503は、生体組織切断器519と一組のユーザ制御部521とを有している。本発明の様々な実施形態では、トレイ内の構成要素とハンドピースとが異なるように構成されていてよい。各手術システムの用途に応じて、図5には示されていないが、本発明の他の実施形態に含むことができる様々な構成要素を含む、構成要素の異なる組み合わせが設けられていてよい。
【0041】
ハンドピースに含まれるユーザ制御部521は、例えばハンドピースの切断器の切断速度や、例えばトレイ上に配置されている吸引装置の吸引レベル、またはこれらの両方を制御することができる。一般に、手術システムの特定の機器または構成要素に関連したユーザ制御部は、特定の機器または構成要素上に配置されており、そうして、直感的な装置と制御との関連付けやシステムのユーザへのより容易なアクセスがもたらされる。ハンドピース上のユーザ制御部は、処理ユニット509と接続して、処理ユニット509に応じて動作することができる。ハンドピースは、例えば最大許容切断速度などの、追加の命令または動作パラメータを処理ユニットから受信することもできる。切断器519は、処理ユニットとも通信して、例えば現在の切断速度に関する状態情報を中継することができる。さらに、図5の電源511は、トレイに収容されており、トレイの構成要素に電力を供給している。送電線523がトレイからハンドピースまでを接続し、それによって、ハンドピースの構成要素に電力が供給されるだけでなく、ハンドピースとトレイとの間の通信を円滑にすることができる。
【0042】
トレイ上に収容された吸引装置507は、様々な吸引機器、例えば遠心ポンプまたは適切な真空ベースのシステムなどの機器の1つであってよい。本発明のいくつかの実施形態では、ハンドピース上に吸引装置用の制御部を設けることができる一方、その代わりに、他の実施形態では、トレイ上に吸引装置用の制御部を設けることができる。本発明のさらに他の実施形態では、トレイと無線(または有線)通信をする他の機器上、例えばフットペダルなどの上に、吸引装置の制御部が設けられていてよい。処理ユニット509は、様々な制御部の1つから吸引の調整要求を検索して、吸引装置507を調整する。調整によって、吸引ラインの吸引速度を変動させることができ、その結果、ハンドピースの吸引速度を変動させることができる。
【0043】
トレイ上に収容された注入装置513は、通常、引き出し注入ライン(図示せず)に接続されている。注入装置は、例えばHarvard Apparatus社のシリンジポンプや、例えばばね付勢シリンジなど、様々な注入機器の1つであってよい。注入装置は、様々な流体または気体を注入ラインを通じて手術部位に供給し、実施される特定の外科手術に依存した特定の流体または気体が供給される。例えば、硝子体茎切除手術では、注入装置によって滅菌平衡塩類溶液が眼に供給される。実施形態によっては、注入装置の注入速度は、例えば吸引速度に基づいて、トレイの処理ユニット509によって制御することができる。用途によっては、手術部位で一定の圧力または一定の体積を維持するために、注入速度を吸引速度に同調させることができる。他の実施形態では、トレイに、注入速度用の独立した一組のユーザ制御部を設けることができ、それにより、注入速度を吸引速度とは独立に調整することができる。
【0044】
図5の実施形態では、トレイは、無線トランシーバ515を通じて、手術システム内の他の機器と無線通信も行う。本実施形態では、トレイは制御装置の役割を果たすことができ、トレイを他の機器のいくつかまたはすべての機能を制御するために使用することができる。例えば、硝子体茎切除手術の場合、可能な無線接続装置としては、照明装置、フットペダル、および外部モニタが挙げられる。いくつかの例では、接続された装置を、システムのある側面を制御するために使用することができる。例えば、フットペダルは、システムの切断速度と吸引レベルとを制御する代替の機構を提供することができる。これらの例では、フットペダルは無線で調整コマンドをトレイに送信することができ、処理ユニットは調整コマンドを適切な送信先に転送することができる。
【0045】
他の例では、外科手術を実施するために使用される機器の1つまたは複数が、独立して制御および操作され、各機器用のユーザ制御部が機器に直接設けられていてよい。例えば、照明装置は、持ち運びができ、電源内蔵式で、携帯型のLED照明機器または類似の照明装置であってよい。ハンドピース上に設置されている切断器の制御部と同様に、設置された照明の光度などの動作パラメータを制御する照明制御部が照明装置に直接設けられていてよい。これらの例において、無線で接続された機器は、さらに、有用な統計情報、現在の設定、または外科手術についての状態情報をトレイ505に送信することができる。トレイは、手術システムのユーザに情報を通信するためのディスプレイ、スピーカ、または他の状態インジケータ517をさらに有していてよい。実施形態によっては、外部モニタがトレイに無線で接続されていてもよく、外科手術に関する蓄積された情報を保存するために使用されていてもよい。様々な機器が、動作パラメータを最適化するために、トレイとだけでなく、互いに無線で通信を行ってもよい。
【0046】
図6は、本発明の一実施形態の独立手術センターの処理ユニット509、301によって実行される処理のフロー図である。実施形態によっては、図6の処理は、図5のトレイに収容された処理ユニットによって実行される処理を表している。本発明の実施形態によっては、処理は、処理ユニットがシステムのどこに配置されているかに基づいて、システムの別の機器または構成要素で実行することができる。実施形態によっては、システムは、複数の処理ユニットを有することができ、図6の処理は、複数の処理ユニットの1つまたは複数で実行することができる。
【0047】
ブロック611で、処理は、独立手術センターと通信する機器から信号を受信する。図5に示す実施形態において、トレイ505は、例えば図5に示すようなハンドピース503などの機器から有線接続を通じて信号を受信することができ、あるいは、例えば照明装置などの機器から無線接続を通じて信号を受信することができる。
【0048】
ブロック613で、処理は、受信した信号が状態更新信号であるか、または調整要求信号であるかの判断を行う。実施形態によっては、処理ユニット509、301を、選択された機器の動作パラメータの調整に使用することができ、また、同じまたは他の機器の状態を処理し、ユーザに通信するために使用することもできる。処理ユニットが受信した信号が調整要求信号であると判断すると、処理はブロック615に進む。信号が状態更新信号であると処理ユニットが判断した場合、処理はブロック619へと進む。
【0049】
ブロック615では、処理は、調整信号の送信先となる装置を判断する。実施形態によっては、調整信号は、処理ユニットに直接接続されたユーザ制御部によって受信可能である。例えば、図5の実施形態では、調整信号は、トレイ内の処理ユニットに併置された注入装置を制御するユーザ制御部から発信されていてよい。他の実施形態においては、調整信号は、例えばトレイに関連したフットペダルなどの遠隔機器に配置されたユーザ制御部から無線で受信可能である。調整要求によっては、信号が発信された装置または構成要素に対して調整要求を行うことができるのに対して、他の調整要求では、その装置がトレイ上にあるか、あるいは手術システムの完全に別個の機器上にあるかに関わらず、異なる装置に対して調整要求を行うことができる。調整信号の発信元に関わらず、処理ユニットは、意図された送信先の装置または機器を決定する。
【0050】
ブロック617では、処理は、送信先の装置または機器に調整コマンドを送信する。手術システムの構成に応じて、調整コマンドは、処理ユニットがシステムのスイッチ装置または経路設定装置として動作する不変の調整信号であってよく、あるいは、調整コマンドは、受信した調整要求信号、例えばブロック611に関連して上述した受信信号に基づいて処理ユニットによって生成された完全に新規のコマンド信号であってよい。システムのほとんどの実施形態では、調整コマンドがそれぞれの装置または機器に送信された後で、それぞれの装置の動作設定つまりパラメータが、調整コマンドに従って調整される。
【0051】
信号が状態更新信号の場合、ブロック619で、処理は状態更新信号の発信元を判断する。ほとんどの実施形態では、状態更新信号は、状態更新信号が発信された装置の状態更新情報を有している。状態更新情報には、発信源の装置に関する様々な情報、例えば現在の設定、動作パラメータ、残りの電力レベル、機器障害状態、および他の情報などが含まれる。システムにおける、それぞれ特定の機器の状態情報は、機器の機能によって異なっている。例えば、ハンドピースは、切断器の切断速度の状態または吸引レベルを提供することができるのに対して、証明装置は、照明レベルの状態を提供することができる。
【0052】
ブロック621では、処理は、装置または機器の状態を更新する。当初の受信信号が調整信号であるか、または状態更新信号であるかに関わらず、システムの処理ユニットは、受信した信号に関する状態情報を更新することができる。信号が調整信号であった場合、処理ユニットは、調整要求が送信された送信先の装置の状態情報を更新することができる。信号が状態更新信号であった場合、処理ユニットは、状態更新信号の内容に基づいて、状態更新信号が発信された装置の状態情報を直接更新することができる。処理ユニットは、例えば処理ユニットを収容する機器上に配置されたモニタなどに状態更新を表示することができる。あるいは、状態更新は、例えばLEDインジケータが変化することによって視覚的に示すことができ、例えば利用可能なスピーカを通じて音声警報を出力することによって聴覚的に示すことができる。実施形態によっては、視覚的または聴覚的状態インジケータが、処理ユニットを収容する機器に加えて、またはその代わりに、システムの様々な他の機器上で使用可能であってよい。これらの実施形態では、処理ユニットは、出力またはユーザフィードバックを目的として、状態更新情報を適切な機器に送信することができる。本発明の一実施形態によれば、更新情報は、外科手術用に生成されたログファイルに記録されるために個人用手術センターに送信される。状態更新がシステムに適用されるか、またはシステムによって記録された後に、処理は復帰する。
【0053】
図7は、本発明の態様の独立手術センターの代替の実施形態である。図7に示すセンターは、外部コンソールとは独立して動作可能であり、図2bに関連して説明したシステムと同様に機能する。しかしながら、図7のシステムは、中央制御ユニットとして動作するトレイを有していない。その代わりに、図7では、システムは、隔離された吸引室703と注入室705とを有する独立型の吸引/注入カートリッジ701と、例えば吸引ポンプまたは同様の装置707や注入ポンプまたは同様の装置709などの、各部屋用の別個の装置とを有している。カートリッジはハンドピース711と注入ライン713とに接続されている。
【0054】
図示した実施形態によれば、中央制御ユニットとしてのカートリッジ701が、図2bのようなトレイの代わりとなる。カートリッジは、手術システムの他の手術機器と通信している。その通信は、一般に無線接続を通じて確立されている。これに関連して、カートリッジは、照明装置717や、例えばフットペダル、外部コンソール、および/またはシステムに関連した様々なインジケータなどの他の装置719と無線通信715を行う。実施形態によっては、ハンドピースと注入ラインとは、カートリッジ701から分離した装置に組み入れられて、無線接続を介してカートリッジと通信していてもよい。これらの実施形態では、カートリッジは、ハンドピースと注入ラインとを含む装置間の無線通信媒体としての機能を果たすことができる。カートリッジが外部コンソールと通信する実施形態では、カートリッジは概して独立して動作可能な状態を維持し、モニタが通常、データ収集および保存装置としての機能を果たしている。実施形態によっては、外部モニタが、例えばシステムの機器の選択を制御することによって、大容量のシステムのために動作することが可能であってよい。しかしながら、これらの実施形態のほとんどにおいて、システムは、外部コンソールなしで独立して作動する状態に維持される。
【0055】
図7に示す実施形態では、カートリッジは、自立した機器であるように構成されている。実施形態によっては、カートリッジは、後部に棚721を有しており、それにより、カートリッジは、例えば手術トレイまたはメイヨートレイなど、滅菌領域内部の他の設備から吊り下げることができる。実施形態によっては、カートリッジは、システムを制御する様々な構成要素および装置、例えば、処理ユニット、ユーザ制御部、電源723、および複数の異なるインターフェイス用装置を有しており、それらは、図3または図5の処理ユニット301、509、ユーザコンソール311、521、および電源315、511と同様であってよい。インターフェイス用装置は、例えば、ハンドピース用の吸引室および吸引ポートと、注入ライン用の注入室および注入ポートと、システムの他の機器との通信を行うための無線通信インターフェイスとを有していてよい。電源はカートリッジに電力を供給し、それにより、カートリッジは作動して、他の装置とは独立に電力が供給可能となり、実施形態によっては、ハンドピースなどの接続された装置に電力を供給することができる。実施形態によっては、カートリッジはディスプレイやスピーカを有していてもよく、それにより、接続されている機器の様々な状態指標や設定を出力することが可能となる。
【0056】
実施形態によっては、独立手術センター10と、カートリッジを含む手術システム内の個々の機器とは、滅菌パッケージにあらかじめまとめてパッケージされている。これらの実施形態では、滅菌作業領域内で、パッケージを開放して、独立手術センター10と個々の機器とを起動することができ、それにより、医療従事者は、滅菌領域内で独立手術センター10の機器とユーザ制御部とに完全にアクセスできるようになる。実施形態によっては、起動時に、カートリッジが初期スキャンを実行して、外科手術のために無線通信を確立することができる利用可能な装置または機器を判断することができる。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、カートリッジ701に連結されたハンドピース711は、生体組織切断器725を有しており、流体吸引ライン727を介してカートリッジに接続されていてよい。吸引ラインはハンドピースの先端で終わっており、生体組織切断器がその先端の近くに配置されている。カートリッジ上に配置されたユーザ制御部、ハンドピース、および/または注入ラインは、システムの吸引および注入レベルを調整するために利用可能であってよい。例えば照明レベルなど、他の機器の動作パラメータは、それぞれの機能を実行するために使用される個々の機器によって直接制御することができ、あるいはその代わりに、ユーザに対して他の機器用のユーザ制御部がカートリッジ上に設けられている場合には、カートリッジの位置で制御することができる。
【0058】
カートリッジは、フィードバックシステムまたはユーザ出力システムとして動作してもよい。カートリッジは、様々な機器と通信を行って、状態情報を検索し、システムのユーザにその情報を中継することができる。実施形態によっては、カートリッジに取り付けられた内蔵ディスプレイ上に情報を表示することができる。他の実施形態では、例えば、様々な機器の現在のパラメータまたは状態情報を表示するLEDインジケータや、例えば障害レベルが誘発された際の音声警報など、他の出力手段またはユーザフィードバック手段を組み込むことができる。
【0059】
図8は、本発明の一実施形態による、図7の注入/吸引カートリッジ701として実施される独立手術センターのブロック図である。多くの点で、図8の独立手術センターの構造および機能は、図5で説明したセンターの構造および機能に類似しており、トレイの代わりには、独立型の吸引/注入カートリッジが代替としてセンターに設けられている。センターは、カートリッジ701に連結されたハンドピース711を有している。図8の実施形態では、カートリッジは、処理ユニットおよびユーザ制御部805と、電源807と、吸引装置809と、注入装置811と、無線トランシーバ813とを有しているのに対して、ハンドピースは、生体組織切断器815だけでなく、自前の無線トランシーバ817と自前の電源819とを有している。
【0060】
各機器に収容された構成要素が異なる組み合わせを持つことにより、異なる実施形態の間で動作上に変化をもたらすことができる。図8の実施形態では、例えば、ハンドピース内の電源が、ハンドピースのその他の構成要素に電力を供給することにより、ハンドピースがカートリッジとは独立して起動可能となる。したがって、専用の電源が存在することで、カートリッジとハンドピースとの間をつなぐ電源ラインは不要となる。さらに、ハンドピースに収容された無線トランシーバによって、ハンドピースはカートリッジとの無線での通信821が可能となり、図5に関連して説明した送電線のような、電線または通信線がさらに不要となる。そのため、図8の実施形態では、ハンドピースとカートリッジとの間で残る唯一の接続は、吸引された物質をハンドピースからカートリッジの吸引室に戻す吸引ライン727である。実施形態によっては、ハンドピースは、追加の吸引ポンプと吸引室とが、例えば、ハンドピース上に直接配置されているか、あるいはその近くに取り付けられている場合、カートリッジから完全に独立して動作可能であってよい。同様に、システムの他の機器についても、独立して動作可能な各機器は、専用の電源を有しており、主な制御源として動作するプロセッサ805との通信が望まれる場合には、何らかの無線通信媒体を有していてもよい。
【0061】
図8の実施形態では、カートリッジは、モニタまたは他の状態インジケータを有していない。実施形態によっては、状態情報および他の有用なシステム情報をユーザに通信する状態インジケータが独立手術センターによって一切提供されなくてよい。他の実施形態では、異なる種類の状態インジケータが、独立手術センターから遠く離れた1つまたは複数の機器に配置されていてよい。これらの実施形態のいくつかでは、それぞれの機器上に配置される状態インジケータが、手術システムの環境で機器が提供する機能に対応していてよく、あるいはそうでなければ、それに関連していてよい。
【0062】
図9は、本発明の一実施形態の独立手術センターの他の代替の実施形態のブロック図である。図9は、図7のセンターの代替構成要素の可能な構成を示していてよい。これまで見てきたように、そして図8で同様に説明したように、図9に示す実施形態は、カートリッジ903に相互接続されたハンドピース901を有している。しかしながら、図9に示す実施形態では、ハンドピースが、カートリッジの代わりに、システムの処理センターの役割を果たしている。
【0063】
図9に示す実施形態では、ハンドピースは、処理ユニットおよびユーザ制御部905と、電源907と、無線トランシーバ909と、生体組織切断器911とを有している。カートリッジは、電源913と、吸引装置915と、注入装置917とを有している。ハンドピースの処理ユニットは、システムの処理センターの役割を果たすとともに、システムの様々な機器との通信を確立することができ、図5のトレイおよび図8のカートリッジに関連して説明したような処理ユニットとよく似ている。あるいは、実施形態によっては、例えば照明装置などのシステムの遠隔機器が、システムの主要な処理ユニットを代わりに収容することができる。図9の実施形態では、ハンドピースに配置された無線トランシーバが、処理ユニット用に設けられ、システムの遠隔機器と無線での通信を行う。電源がさらに設けられ、ハンドピースに電力を供給する。あるいは、実施形態によっては、無線トランシーバと電源とは、ハンドピースのサイズを減少させ、ユーザがハンドピースを容易に取り扱えるようにするために、カートリッジに収容されていてよい。
【0064】
図9の実施形態では、カートリッジは、ハンドピースの支援機器として動作する。吸引装置用および注入装置用のユーザ制御部は、ハンドピース上に処理ユニットと共に配置されているが、その代わりに、カートリッジ上に配置することができる。ユーザ制御部がハンドピース上に配置される実施形態では、調整要求を、ハンドピース上の処理ユニットによって処理することができ、処理ユニットによって生成された調整コマンドを、カートリッジ上の適切な装置に送信することができる。ハンドピースの処理ユニットは、ハンドピースが無線で接続するいくつかの遠隔装置の動作パラメータを制御することもできる。多くの実施形態では、ハンドピースの処理ユニットは状態更新部としての役割も果たし、状態更新信号は、システムの様々な装置から処理ユニットによって受信され、処理ユニットによって処理されて、前述したように、様々なフィードバック手段または出力手段のいずれかによって、システムのユーザに通信される。
【0065】
本発明の他の実施形態では、様々な異なる構成要素の組み合わせや、様々な機能の違いが含まれていてよい。例えば、ハンドピースが、手術部位で吸引レベルを監視するフローセンサを有していてよく、その代わりに、吸引センサまたは吸引検出器が、吸引室またはその近くに配置されていてよい。さらに、実施形態によっては、吸引調整器や同様の装置だけでなく、例えばピンチ弁や同様の可変オリフィスも、ハンドピースに配置することができる。吸引レベルは、ピンチ弁やオリフィスの直径を制御することによって、監視および調整することができる。これらの実施形態では、吸引室での圧力は、一定のレベルに維持されていてよい。様々な他の機能が、システムの異なる機器に組み込まれていてもよい。例えば、トレイまたはカートリッジが、吸引室を空にするためのポート、および/または、注入室に注入流体または注入気体を充填したり補充したりするためのポートを有していてよい。多くの他の可能な機能が、それぞれ各システムの個々の機器に組み込まれていてよい。
【0066】
前述したような独立手術システムの異なる機器は、容易に持ち運ぶことができ、必要な設備投資が少なく、組立および解体が効率的であり、手術室の要員をより少なくすることができ、既存の外科センターにおいて柔軟に使用することができ、容易に改良可能である。各機器は、手術室、外科センター、および医院へと容易に移動可能である。医院は、様々な異なる外科手術が実行可能な新しい潜在的な場所である。医院では空間が限られており、大きな手術機器の使用は、必ずしも現実的な選択肢であるとは限らない。非常に持ち運びやすい本発明の機器によって、様々な外科手術のためのセットアップが、より速く、より便利に行われ、特定の外科手術は、医院でも実施可能となる。可搬式の手術システムは、訪問医が使用することもでき、潜在的には、例えば経済的に不利な国々などの遠隔地まで持ち込んで使用することができる。同様に、上述した機器は低コストでもある。上述したシステムで使用される機器は、一般に、一度の使用のために設計された使い捨てユニットとしてすべて製造される。
【0067】
加えて、システムのセットアップ時間が大幅に短縮される。本発明のほとんどの実施形態では、システムの初期化と、異なる機器間での通信の確立とは自動であり、ほとんどの機器は、即座に使用できる状態になるように構成されている。例えば、ハンドピースと、トレイまたはカートリッジとの間をつなぐ吸引ラインなどの接続は、パッケージされる前に行うことができ、注入用の補給品は、各システム用にあらかじめパッケージされていてよい。さらに、ほとんどの場合、接続のための追加の電線や、それぞれの機器と手動で接続する必要のある中央コンソールは存在しない。外科手術が完了すると、機器を廃棄することができる。実施形態によっては、例えば吸引ポンプや、注入ポンプまたは注入装置など、いくつかの機器は、リサイクルや再使用のために製造者に送り返すことができる。
【0068】
以下に、独立手術センターから分離して作動することができる、可搬式の生体組織切断器および注入/吸引カセットの他の実施形態について説明する。
【0069】
(生体組織切断および吸引ハンドピース)
一実施形態によれば、生体組織切断および吸引ハンドピース(例えば、硝子体茎切除手術ハンドピースまたは他の同様なハンドピースなど)は、可搬および軽量であって、バッテリーを動力源として切断器および/または吸引に電力を供給することができる。生体組織切断および吸引ハンドピースは、現場、医院、外科センター、および手術室で使用することができる。生体組織切断および吸引ハンドピースは、独立型の機器として使用することができ、または上述の独立手術センターと併用して使用することができる。ハンドピースは、使い捨てであってよく、吸引/注入カセットに接続され、それにより、切断器に吸引圧力が供給される。図7は、右側に示す注入ライン713と、左側に示す生体組織切断および吸引ハンドピースとを備えた典型的な吸引/注入カセット701を示している。カセットの左側が、生体組織切断および吸引ハンドピースに吸引圧力を供給するように作動するのに対して、右側で注入が実現される。
【0070】
一実施形態では、生体組織切断および吸引ハンドピースは、例えば、その内容全体が参照によって本明細書に組み入れられる、2007年12月21日出願の「使い捨て硝子体茎切除手術ハンドピース(Disposable Vitrectomy Handpiece)」という名称の米国特許出願番号第11/963,749号に記述されているような使い捨てハンドピースである。加えて、生体組織切断および吸引ハンドピースには、バッテリー電源とフローコントローラ/ピンチ弁とが組み込まれていてよい。ハンドピースは、他の手術機器、内部または外部のモニタまたはスピーカ、あるいは吸引/注入カセット内の制御センターと、無線での通信(例えば、Bluetooth(登録商標)など)を行うことができる。あるいは、ハンドピースは、本出願と同日に出願の「個人用手術センター(Personal Surgical Center)」という名称の米国特許出願に記述されているように、個人用手術センターと無線での通信を行うことができる。手術パラメータ(例えば、切断速度、吸引圧力/流速など)を、ハンドピース上で直接制御することができ、あるいはハンドピースに無線で接続されたフットペダルを介して制御することができる。このようなパラメータが、切断チップ、吸引ポンプなどを制御することができる。ハンドピースが(例えば、バッテリーによって、または吸引/注入カセットを通じて)どのように作動するかに応じて、駆動回路が、ハンドピース、手術トレイ、または吸引/注入カセットに直接組み込まれていてよい。
【0071】
上述したように、一実施形態によれば、生体組織切断および吸引ハンドピースは、独立型の機器であって、外部制御センターと併せては使用されない。本実施形態では、ハンドピースは、照明装置などの他の独立型の機器と併用して使用される。ハンドピースの制御部は、ハンドピース自身の上に配置されており、そうして手術コンソールが不要となる。ハンドピース自体または手術トレイは、現在の手術設定と機器の障害とを外科医に通知するために、ディスプレイまたはスピーカを有していてよい。一実施形態によれば、ハンドピースは制御ユニットを有しており、それは、例えば、マイクロプロセッサベースのユニットや、ASICなどであってよく、図9に関連して説明した他の回路であってよい。
【0072】
別の実施形態では、同様に上述したように、生体組織切断および吸引ハンドピースは、制御センターを有する吸引/注入カセットと併用するか、あるいは外部のラップトップ型の制御センターと併用して使用することができる。システムをコンセントに接続することが可能であってよいが、バッテリー電源により、ハンドピースのより高い機動性が可能となる。バッテリーは、ハンドピースや手術トレイの内部、あるいは吸引/注入カセット自体に配置されていてよい。バッテリーがハンドピースの内部に配置されると、ハンドピースの重量およびサイズが増加して、機動性と人間工学性(Ergonomics)とが減少することになる。吸引/注入カセットは、この機器での人間工学性がそれほど重要ではないため、より大きく、かつより重くすることができる。しかしながら、バッテリーが吸引/注入カセットまたは手術トレイに配置される場合は、電線を、吸引ラインとともにハンドピースに接続しなければならない。
【0073】
無線制御部(例えば、Bluetooth(登録商標)など)が、ハンドピース、吸引/注入カセット、手術トレイ、またはこれらのすべてに取り付けられていてよい。このことは、装置がどのように構成されているかに依存することになる。ハンドピースが、バッテリー電源を使用するとともに、吸引カセットや手術トレイに接続されていない場合は、無線通信部をすべてのユニットに取り付ける必要が生じることになる。しかしながら、両者の間に直接の有線リンクが存在する場合、無線通信部はどちらかのユニットに取り付けられていればよい。一実施形態では、無線通信部は、ハンドピースの重量を軽減させるために、吸引/注入カセットまたは手術トレイ上に取り付けられることになる。図5は、生体組織切断および吸引ハンドピース用のバッテリー電源と、無線通信部と、吸引部とがすべて手術トレイに由来するシステムを示している。
【0074】
上述のように、ハンドピースは、機器の状態、障害、切断速度等に関する情報を中継するために、ディスプレイまたはスピーカを有していてよい。例えば、ハンドピースは、ハンドピース自身の上にLEDまたはスピーカを有していてよい。あるいは、機器情報および動作情報は、手術トレイ上のディスプレまたはスピーカに表示されていてよく、またはラップトップセンター上に表示されていてよい。
【0075】
ラップトップセンターと併用して使用される場合、生体組織切断および吸引ハンドピースは、そのラップトップと直接的に、あるいは手術トレイを通じて間接的に通信することができる。ラップトップセンターは、現在の切断速度、(該当する場合には)バッテリー寿命、およびあらゆる障害などの、機器情報および動作情報を表示可能である。ラップトップセンターは、許容される最大切断速度や他の手術パラメータなど、追加の情報を受信することもできる。セットアップ時には、生体組織切断および吸引ハンドピースは、ラップトップセンターに対して自身の身元を明らかにして、以前に使用されていたかどうかを表示することができる。
【0076】
流れ検知または流れ制御が用いられる場合、センサおよびアクチュエータが、生体組織切断および吸引ハンドピースの近傍に配置されていてよく、またはその上に直接配置されていてよい。
【0077】
(吸引/注入カセット)
一実施形態によれば、吸引/注入カセットは、可搬および軽量であって、生体組織切断および吸引ハンドピースと吸引ラインとに取り付けられている。一実施形態によれば、吸引/注入カセットは、手術トレイと一体化されているが、一実施形態によれば、カセットは、トレイから分離されている。この後者の実施形態では、カセットは制御ユニットを有していて、それは、例えばマイクロプロセッサベースのユニットや、ASICなど、および図8に関連して説明した他の回路であってよく、これによってカセットは、カセットおよび/または生体組織切断器に関する制御の中心となり得る。
【0078】
カセットは、現場、医院、手術センター、および手術室で使用することができる。カセットは、上述したように、独立型の機器として使用することができ、または手術センターと併用して使用することができる。あるいは、カセットは、本出願と同日に出願の「個人用手術センター」という名称の米国特許出願に記述されているように、個人用手術センターと併用して使用することができる。
【0079】
吸引/注入カセットは、(BBSなどの)注入流体と、吸引ラインとを有している。吸引部は、上述した生体組織切断および吸引ハンドピースなど、可搬式の手術ハンドピースに適用される。注入部は、注入ラインに取り付けられている。一実施形態では、吸引/注入カセットは、気体−流体置換システム用のカセットを有している。さらに、(必要な場合には)BBS容器を充填したり、吸引カセットを空にしたりすることができるポートが設けられていてよい。さらには、外科医は、充填ポートから、特定の場合のためのブドウ糖または他の薬剤(例えば、視覚化のための染料など)を注入カセットに投入することができる。
【0080】
吸引/注入カセットが個人用手術センターと併用して使用される場合、吸引/注入カセットは、個人用手術センターとは独立して電力が供給される。システムを電源出力に接続することが可能であってよいが、バッテリー電源により、より高い機動性が可能となる。バッテリーは、カセット自身や手術トレイに配置されていてよく、あらゆる真空または注入ポンプだけではなく、生体組織切断および吸引ハンドピースにも電力を供給する。カセットへの電力は、カセットまたは手術トレイが一旦パッケージから(例えば、スイッチやボタン等をオンにすることによって)取り出されると投入可能となる。これにより、もしそれが存在する場合には、個人用手術センターとの通信が開始されることになる。
【0081】
一実施形態では、吸引/注入カセットは自立した機器である。真空源が、カセット自身の上に直接取り付けられていてよい。真空源は、ヴェンチュリシステムと同様の真空ベースのシステム、またはフローベースのシステム(蠕動ポンプ)であってよい。任意の適切な真空ベースのシステムを使用することができ、例えば、真空源は、ハンドピースを真空圧力にする、小さなバッテリー電源の真空ポンプからなっていてよい。あるいは、真空源は、真空圧力を作用させるために、シリンジ/ピストンまたはポンプを制御するモータであってよい。真空源は、要求された場合にのみ変化する一定の真空レベルを提供することができ、または、真空設定を可変にすることができる。フローベースの真空の場合、小さな電動ポンプが蠕動ポンプの代わりにカセットに追加される。
【0082】
吸引/注入カセットは、無線リンクを介して、(存在する場合には)個人用手術センターとの通信を行う。センターが使用されていない場合、カセットは、生体組織切断器や照明ハンドピースなどの他の機器と、無線での通信を行うことができる。
【0083】
カセットは、真空容器として出荷されることになる、あらかじめパッケージされた真空源を有していてもよい。使用するにあたり、密封が解かれ、真空がハンドピースに適用される。しかしながら、真空が失われると、カセットを再充電することはできない。
【0084】
吸引のための流れ制御は、手術ハンドピースから制御することができる。流れ制御部は、無線で接続することができる、ハンドル上またはフットペダル上にあってよい。注入制御部は、手術ハンドピース上にあってよく、フットペダル上にあってよく、IVポールの高さによって制御されるか、または吸引/注入カセット自身の上のスイッチによって制御されていてよい。
【0085】
カセットの真空は、一定または可変であってよい。真空レベルの制御が可変であれば、真空の程度は手術設定に基づいて修正される。真空は、硝子体茎切除手術の吸引ラインに直接取り付けられ、流れは真空レベルに基づいている。
【0086】
カセットで真空が一定に維持されている場合、ピンチ弁/可変オリフィスを使用して流れを修正することができる。この場合、完全な真空は、カセット内で維持され、実質的にほとんどの間、吸引ラインの後部に対して適用されることになる。ピンチ弁は、流れレベルを修正するために使用されることになる。圧力センサは、ピンチ弁から(生体組織切断および吸引ハンドピースに最も近い)上流側に取り付け可能である。これにより、実際の圧力が監視されることになり、連続してピンチ弁を正確に設定することが可能となる。流れセンサが、圧力センサの代わりに流速を計測するために使用されていてよい。流れは、ピンチ弁を調整することによって修正することができる。いずれの場合も、ハンドピース近傍での流れを監視することによって、急上昇(surging)が軽減されることになる。流れベースのシステムでは、外科医が、真空ポンプが眼から組織を取り除く速度を制御することになる。流れは、カセットまたは手術機器ハンドピースにあるセンサによって監視することができる。このことは、流れの条件に対するフィードバックのために用いることができる。
【0087】
注入は、小さな使い捨てポンプ、Harvard型装置の機構、ばね付勢シリンジ、小さな流体ポンプから適用することができ、またはIVポール上にユニットを取り付けることによって適用することができる。あらかじめパッケージされた量の滅菌平衡塩類溶液(BBS)が外科手術のために供給される。BBSの体積は、吸引カセットの容積と同じであるか、またはそれよりも小さい。
【0088】
使い捨てポンプがカセットで使用される場合、ポンプがカセットを加圧してBBSを眼に流入させることができる。浮遊微小粒子が存在しないように注入カセットの内部を維持するために、フィルタを必要とすることがある。あるいは、小さな密封注入バッグが注入ラインに取り付けられていてよい。注入ラインの周囲の部屋は加圧されており、それにより、注入流体は眼に流入して、加圧された空気には直接接触しない。蠕動ポンプが眼への注入に使用されていてもよい。あるいは、Harvard型装置またはばね圧縮シリンジが、BBSの注入に使用されていてよい。
【0089】
IVポールが使用される場合、カセットは、多くの異なる構成のIVポールに対して吊り下げることができる。さらに、特定のIVポールが、カセットと併せて動作するように構成されていてよい。この場合、カセットをはめ込む場所が設けられることになり、IVポールは、吸引ポンプ用の電力を供給することになる。注入ポンプは、眼圧を維持するためには必要とされないことになる。
【0090】
上述したように、吸引/注入モジュールは、個人用手術センターが使用される場合、個人用手術センターと通信することができる。吸引/注入モジュールは、機器の状態に関する情報を送信して、動作パラメータを変更する可能性のある情報を受信することになる。吸引/注入カセットは、一旦起動すると、個人用手術センターと通信して、以前に使用されていた場合にはシリアル番号を表示するとともに、使用される計装の種類(25ゲージの計装か23ゲージの計装)や、どの硝子体茎切除手術プローブが使用されるかなどを表示することになる。カセットは、バッテリーの状態と、発生しうる機器の障害とを通信することもできる。
【0091】
無線制御部が、生体組織切断および吸引ハンドピース、吸引/注入カセット、照明器、手術トレイ、またはこれらのすべてに取り付けられていてよい。このことは、装置がどのように構成されているかに依存することになる。生体組織切断および吸引ハンドピースが、バッテリー電源を使用するとともに、吸引カセットに直接接続されていない場合、無線通信部は両ユニットに取り付けられる。両者の間に直接の有線リンクが存在する場合、無線通信部はどちらかのユニットに取り付けられていればよいが、両ユニットに取り付ける必要はない。一実施形態では、無線通信部は、ハンドピースの重量を軽減するために、カセットに取り付けられている。
【0092】
吸引/注入カセットは、眼における気体−流体置換のための部屋を有していてよい。これにより、適切な気体または気体の混合物でシリンジを満たすことができる。気体−流体置換を管理するために、Harvard型装置、ばね機構、またはポンプが使用されていてもよい。気体ラインは、注入ラインに接続されることになる。気体置換を開始するために、遠隔スイッチが使用可能である。このためのボタンが、照明装置、手術トレイ、生体組織切断および吸引ハンドピース、またはその他の適切な場所に設けられていてよい。使用される特定の気体は、実施される特定の外科手術に依存している。
【0093】
機器の設定、動作パラメータ、および状態は、吸引/注入カセット自体に表示することができる。あるいは、このような情報を、独立手術センター、カセット、またはカセットに(直接または無線のいずれかで)接続された個人用手術センターに送信して、そこに表示することができる。別の実施形態では、その情報は、外部モニタ上に表示されるか、またはカセットに(直接または無線のいずれかで)接続されたスピーカを通じて表示される。表示される情報には、ボトル注入圧、硝子体茎切除手術プローブ用の切断速度、障害状態、バッテリーの状態、および他の動作パラメータが含まれていてよい。
【0094】
カセットは、カセットを手術トレイから吊り下げることができる棚を、カセットの後部に有していてよい。あるいは、カセットは、トレイに組み込まれていてよい。吸引および注入ポンプとバッテリーとは、吸引/注入カセットから分離していてよく、それにより、外科医が外科手術後に吸引および注入カセットを取り外して処分することが可能となる。ポンプまたはバッテリーの構成要素は、修復して、それから再構成することができる。
【0095】
本発明について、ある特定の実施形態に関連して説明したが、当業者は、本発明の範囲および精神から全く逸脱しない、説明した実施形態の変形例を容易に考え出すであろう。さらに、当業者に対しては、本明細書に記載の発明が、他の課題に対する解決策と他の用途への適応とを示唆するかもしれない。出願人の意図としては、本発明のそのような用途すべてと、本発明の精神および範囲から逸脱することなく本開示の目的のために選択された本明細書に記載の本発明の実施形態に対して実施可能な変更および修正とを網羅することである。したがって、本発明の実施形態は、すべての点で例示的であり限定的ではないと見なすべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科手術用の独立したシステムであって、
処理ユニットを有する制御装置と、
前記外科手術に関連し、前記制御装置に作動可能に連結された複数の機器と、を有し、
前記制御装置と前記複数の機器とが、一緒にあらかじめパッケージされており、前記処理ユニットが、あらかじめパッケージされた前記機器の少なくとも1つを制御するようにされているシステム。
【請求項2】
前記制御装置が手術トレイである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記機器が、前記外科手術に関連した電気機器または空気圧機器である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記外科手術が眼科手術である、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記外科手術が、生体組織切断と流体吸引とを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記複数の電気機器の少なくとも1つが処理ユニットを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記処理ユニットが、前記複数の電気機器のそれぞれの間での通信を確立するようにされている、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記通信が無線通信である、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記処理ユニットがさらに、前記複数の電気機器から状態更新を受信するとともに、前記状態更新を前記システムのユーザに通信するようにされている、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記複数の電気機器の前記少なくとも1つが、前記複数の電気機器の他の少なくとも1つにおける動作パラメータを調整するユーザ制御部を有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項11】
前記複数の電気機器の前記少なくとも1つが手術トレイである、請求項6に記載のシステム。
【請求項12】
前記複数の電気機器のそれぞれが、滅菌されており、前記外科手術中に滅菌バリア内で使用可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記複数の電気機器が、滅菌パッケージに一緒にあらかじめパッケージされている、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
処理ユニットを有する可搬式の手術トレイと、
前記処理ユニットに作動可能に連結された複数の機器と、
前記複数の機器の1つまたは複数における動作パラメータを制御するためのユーザ入力を行うユーザ入力装置と、を有し、
前記処理ユニットが、前記ユーザ入力を受信するとともに、動作コマンドを前記複数の機器の前記1つまたは複数に送信するようにされている、
手術システム。
【請求項15】
前記複数の機器が、生体組織切断器と吸引装置とを有する、請求項14に記載の手術システム。
【請求項16】
前記生体組織切断器と前記吸引装置とが吸引ラインで接続されている、請求項15に記載の手術システム。
【請求項17】
前記複数の機器が注入装置をさらに有する、請求項15に記載の手術システム。
【請求項18】
前記複数の機器が照明装置を有する、請求項14に記載の手術システム。
【請求項19】
前記複数の機器の1つにおける前記動作パラメータを制御する前記ユーザ制御部が、前記複数の機器の前記1つに配置されている、請求項14に記載の手術システム。
【請求項20】
前記複数の機器が、処理ユニットを備えた手術トレイを有し、前記処理ユニットが、プログラム命令によって、
前記ユーザ制御部から調整信号を受信して、
前記調整信号に基づいて前記複数の機器の1つにおける前記動作パラメータを調整するようにされている、請求項14に記載の手術システム。
【請求項21】
手術トレイと、
複数の携帯機器と、
前記手術トレイおよび携帯機器の少なくとも一方に設けられた電源と、
処理ユニットと、を有し、
前記処理ユニットが、プログラム命令を実行するようにされており、該プログラム命令が、
前記少なくとも一方の電源からの電力を検出すること、
前記少なくとも一方の電源から前記複数の携帯機器へ電力を印加すること、および、
前記複数の携帯機器のそれぞれとの通信を確立することに関する命令を有する、
外科手術用の電源内蔵式の手術システム。
【請求項22】
前記プログラム命令が、
前記複数の携帯機器の1つに対する調整要求を受信すること、および、
前記調整要求に基づいて、前記複数の携帯機器の前記1つにおける動作パラメータを調整することに関する命令をさらに有する、請求項21に記載の手術システム。
【請求項23】
各調整要求を前記複数の携帯機器の1つから受信する、請求項22に記載の手術システム。
【請求項24】
前記処理ユニットが前記手術トレイに収容されている、請求項21に記載の手術システム。
【請求項25】
前記複数の携帯機器と前記少なくとも一方の電源とが、前記外科手術より前に、前記手術トレイと共にパッケージされている、請求項24に記載の手術システム。
【請求項26】
前記パッケージが滅菌されている、請求項25に記載の手術システム。
【請求項27】
前記複数の携帯機器のそれぞれが、前記外科手術中に滅菌バリア内で使用可能である、請求項26に記載の手術システム。
【請求項28】
前記複数の携帯機器が、前記外科手術中に実質的な滅菌バリア内で使用されるとともに、さらに、実質的に滅菌されていない助手によって利用できるようにされている、請求項26に記載の手術システム。
【請求項29】
前記複数の携帯機器の少なくとも1つが、前記手術トレイに物理的に接続されている、請求項21に記載の手術システム。
【請求項30】
前記プログラム命令が、
前記複数の携帯機器の1つから状態更新信号を受信すること、および、
前記状態更新信号に基づいて、前記複数の携帯機器の前記1つに関連した状態インジケータを調整することに関する命令をさらに有する、請求項21に記載の手術システム。
【請求項31】
前記処理ユニットが、前記複数の携帯機器の1つに収容されている、請求項21に記載の手術システム。
【請求項32】
前記複数の携帯機器のそれぞれが、前記処理ユニットとの通信の確立を円滑にする無線識別タグを有する、請求項21に記載の手術システム。
【請求項33】
切断チップと、
流体吸引装置と、
統合された制御装置であって、前記切断チップと前記流体吸引装置とに連結された制御装置と、を有し、
前記制御装置が、前記切断チップおよび前記流体吸引装置における、切断および吸引を制御するようにされている、可搬式の生体切断および吸引装置。
【請求項34】
吸引室と、
生体組織切断および吸引装置に連結され、手術部位から除去された物質を前記吸引室へと吸引するようにされている吸引ラインと、
注入溶液を有する注入室と、
前記注入室に連結され、前記手術部位に前記注入溶液を注入して前記手術部位での圧力を維持するようにされている注入ラインと、を有し、
前記吸引室と前記注入室とが、単一の使い捨てカセットに収容されている、可搬式の注入および吸引装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−524593(P2010−524593A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504311(P2010−504311)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/061058
【国際公開番号】WO2008/131357
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(308013333)ドヘニー アイ インスティテュート (7)