説明

獣忌避剤

【課題】簡便に使用でき、作業上の負担が小さく、獣による被害を防止する効果が持続的に得られ、忌避剤による植物への悪影響や土壌汚染などの問題も生じない獣忌避剤を提供することを目的とする。
【解決手段】生分解性樹脂、獣忌避性を有する物質、液状媒体よりなる獣忌避剤。また、前記獣忌避性を有する物質がカプサイシン、メンソール、リモネン、木酢液、竹酢液、辛子から選ばれる少なくとも一種類であることを特徴とする前記獣忌避剤。さらに、前記獣忌避剤より液状媒体を除去してなる獣忌避組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山林の樹木を傷つけ、倒すなど有害な獣に対する忌避剤およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野生鹿によって枝葉を食べられたり、鹿や熊などにより幹の皮を剥がれて木が枯れるという被害が増え、林業に与える影響は、非常に大きなものとなっている。それだけでなく、鹿が木の実、稚樹、幼樹を食べるために新たな樹木が育たずに森林全体が枯れてしまうという問題に発展し、さらに深刻化している。
【0003】
有害な鳥獣による被害を防ぐ方法として、特許文献1のような動物忌避組成物および動物忌避スプレー、特許文献2のような鳥獣忌避ネット、特許文献3のような食害防御用保護材、特許文献4および特許文献5のような動物忌避塗料が提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1のような動物忌避組成物は、カプサイシンのような動物忌避成分をマイクロカプセルに内包したものを散布あるいはスプレーとして使用しているが、バインダーとなるものを含んでいないため十分に固着することができず、散布された動物忌避組成物が風により飛ばされたり、雨で流される可能性があり、持続的な忌避効果は期待できない。特許文献2のような鳥獣忌避ネットおよび特許文献3のような食害防御用保護材は、ひとつひとつの樹木に対してネットを設置する必要があり、多くの労力を要するため、高齢化の進んだ林業人口にとって作業上の負担が非常に大きいという問題点がある。特許文献4および特許文献5のような動物忌避塗料は、バインダーとして、塩化ビニル系、アクリル系、ウレタン系の重合体を使用することにより、持続的な効果が得られ、作業上の負担を軽減するものであるが、忌避効果が薄れた後も塗工した部分に合成樹脂が残留することで、植物や環境に負担を与えかねないといった欠点があった。
【特許文献1】特開2006−306796号公報
【特許文献2】特開2005−143349号公報
【特許文献3】特開2004−217623号公報
【特許文献4】特開2005−330380号公報
【特許文献5】特開平6−220357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決し、作業上の負担が小さく簡単に使用でき、獣による被害を防止する効果が持続的に得られ、植物への悪影響や土壌汚染などの問題も回避できる獣忌避剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に達した。
【0007】
本発明の要旨は、次の通りである。
(1)生分解性樹脂、獣忌避性を有する物質、液状媒体よりなることを特徴とする獣忌避剤。
(2)生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂であることを特徴とする(1)記載の獣忌避剤。
(3)可塑剤を含むことを特徴とする(1)または(2)記載の獣忌避剤。
(4)可塑剤が生分解性であることを特徴とする(1)から(3)いずれか記載の獣忌避剤。
(5)獣忌避性を有する物質がカプサイシン、メンソール、リモネン、木酢液、竹酢液、辛子から選ばれる少なくとも一種類であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の獣忌避剤。
(6)液状媒体が水または水性媒体であることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の獣忌避剤。
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の獣忌避剤より液状媒体を除去してなる獣忌避組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の獣忌避剤は、保護しようとする樹木等の周辺に散布、あるいは樹木そのものに直接塗工すればよいため、使用に際して大きな労力を要しない。
【0009】
本発明の獣忌避剤は、生分解性樹脂をバインダーとして、塗工した箇所に製膜するため、獣忌避性を有する物質が風で飛ばされたり、雨によって流されにくく、長期にわたって忌避効果を得ることができる。また、可塑剤を配合することにより、柔軟性、造膜性および接着性が向上し、さらなる持続性が期待できる。
【0010】
本発明の獣忌避剤には、生分解性の樹脂および忌避成分が用いられるため、獣忌避剤を散布または塗工後長期間放置しておいたとしても、微生物等により分解されるので地球環境への影響が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明における生分解性樹脂としては、生分解性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、でん粉、キトサン等の多糖類、ゼラチン等のたんぱく質、ポリリンゴ酸、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸などが挙げられる。生分解性樹脂の種類は限定されないが、一般的に優れた耐水性を有している生分解性ポリエステル樹脂が好ましい。生分解性ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸(L型、D型)、ポリグリコール酸、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリ−4−ヒドロキシ酪酸、ポリ−4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ−5−ヒドロキシ吉草酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−γ−プロピオラクトン等のヒドロキシアルカノエート単位からなる脂肪族ポリエステルや、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートなどの炭素4〜12の脂肪族ジカルボン酸成分と炭素数2〜12の脂肪族ジオール成分とからなる脂肪族ポリエステル、又はこれらの共重合体のほか、前記脂肪族ポリエステルに生分解性を損なわない範囲でテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸成分を共重合した、ポリ(エチレンジアジペート/テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)などが挙げられる。上記のポリエステルは単独で用いてもよいし、2種類以上の共重合体または混合物でもよい。中でも、更なる環境への配慮から、石油原料に頼らずしかも廃棄時の環境負荷が小さい植物由来であるポリ乳酸または乳酸と他の化合物とを共重合したコポリマー、もしくはこれらの混合物であるポリ乳酸系樹脂が特に好ましい。
【0013】
ポリ乳酸系樹脂は、従来公知の方法で合成することができ、合成法は特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸の場合、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸を直接脱水重縮合する方法や、乳酸の環状2量体であるラクチドを開環重合する方法があげられる。また、市販されているものを用いてもよい。
【0014】
本発明における獣忌避性を有する物質としては、発する臭いによって獣が刺激を受けたり、獣がくわえたり、かじる際に刺激を与える物質が使用できる。例えば、天然植物由来の物質としては、カプサイシン、メンソール、リモネン、クレオソート、クジン、ウルシ類由来フェノール、ナリンギン、木酢液、竹酢液、辛子など、合成物質としては、グリコールエーテル類、サリチル酸メチル、ナフタレン、含硫テルペン類、ポリブテン、ルバフラン、安息香酸デナトリウム、2−ブトキシメタノールなどが挙げられ、天然植物由来のものが、地球環境への影響が小さく好ましい。なかでも、カプサイシンは辛味が強く、よい忌避効果が期待でき、好ましい。
【0015】
これらの獣忌避性を有する物質は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
これらの獣忌避性を有する物質の配合割合は、特に限定されないが、生分解性樹脂100質量部に対して、0.1〜100質量部、好ましくは1〜30質量部、3〜20質量部であることが、特に好ましい。生分解性樹脂に対する獣忌避性を有する物質の割合が少ない場合、獣忌避効果が不十分であり、逆に多すぎた場合、コストアップとなるだけでなく、塗剤の保存安定性が低下するうえ、形成される塗膜に十分な耐久性がなく、長期的な効果が得られない可能性がある。
【0017】
忌避効果の長期持続性の観点から、獣忌避性を有する物質は、マイクロカプセル化されていることが好ましい。獣忌避性を有する物質がマイクロカプセル粒子内に内包されている場合、外力等が加わることにより、マイクロカプセル粒子内の忌避性を有する物質を放出することができる。具体的には、獣の接触、鹿や熊の剥皮行為などにより外力がかかることにより、マイクロカプセル粒子内の忌避成分が放出され、獣忌避効果を発揮し、獣による外力がかからない場合には、忌避性を有する物質の放出が抑制されるので、より効果的かつ持続的な獣忌避効果を得ることができる。
【0018】
獣忌避性を有する物質を内包するマイクロカプセルを作る方法は特に限定されるものではなく、コアソルベーション法、界面重合法、in site法等、従来公知の方法を用いることができる。
【0019】
本発明において使用される液状媒体としては特に限定されず、有機溶剤であってもよいし、水または水と親水性溶媒の混合物であってもよい。有機溶剤としては、ジエチルケトン(3−ペンタノン)、メチルプロピルケトン(2−ペンタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、2−へプタノン、3−へプタノン、4−へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、トルエン、キシレン、ベンゼン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の芳香族炭化水素類、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、γ―ブチロラクトン、イソホロン等のエステル類、加えて後述の親水性の有機溶剤などが挙げられる。
【0020】
さらに、液状媒体としては、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制、職場環境改善等の観点から、水性媒体の使用が好ましい。水性媒体とは水を主成分とする液体からなる媒体である。水以外の溶媒を混合する場合には、親水性の有機溶剤を用いることが好ましい。親水性の有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−tert−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセトニトリル、そのほか、アンモニアを含む、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−ジエタノールアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等の有機アミン化合物等を挙げることができる。
【0021】
液状媒体中に生分解性樹脂が含有された状態としては、生分解性樹脂が液状媒体に溶解している状態、微粒子として液状媒体に分散している状態が挙げられ、生分解性樹脂、液状媒体の組み合わせにより、いずれの状態をとっていてもよいが、保存安定性、取り扱いの容易さ、環境保護などの理由から、特に、生分解性樹脂が水または水性媒体に微粒子として分散した、いわゆる水性分散体の状態が好ましい。
【0022】
生分解性樹脂を水性媒体に分散させる方法は特に限定されず、転相乳化法、強制乳化法などが挙げられ、例えば、密閉可能な容器に生分解性樹脂、塩基性化合物、親水性の有機溶剤などの原料を投入し、次いで、槽内の温度を45〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃の温度に保ちつつ、好ましくは粗大粒子が無くなるまで、5〜120分間程度攪拌を続けることにより生分解性樹脂を十分に分散化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、分散体を得ることができる。槽内の温度が45℃未満の場合は、生分解性樹脂の分散化が困難になる。槽内の温度が200℃を超える反応は不経済なので好ましくない。
【0023】
本発明で用いられる生分解性樹脂分散体としては、市販されているものを使用してもよく、例えば、ユニチカ株式会社製LAEシリーズ、第一工業製薬株式会社製プラセマシリーズやミヨシ油脂株式会社製ランディPLシリーズなどのポリ乳酸系樹脂分散体、昭和高分子株式会社製EMシリーズなどの生分解性脂肪族ポリエステル樹脂分散体があげられる。
【0024】
本発明の獣忌避剤には、柔軟性、造膜性および接着性を向上させるために可塑剤を配合することができる。特にポリ乳酸系樹脂を使用した場合には、獣忌避剤の忌避効果が長期持続するため、可塑剤を配合することが望ましい。可塑剤の配合割合は、生分解性樹脂100質量部に対して1〜100質量部の範囲であることが好ましく、3〜50質量部の範囲であることがより好ましく、5〜30質量部の範囲であることが特に好ましい。配合量が1質量部未満であると添加効果が小さく、塗膜が剛直になり、塗膜がもろいため、はがれやすくなってしまう恐れがあり、100質量部を超えると耐ブロッキング性や塗膜の耐水性が低下する傾向にある。
【0025】
可塑剤としては、生分解性を有することが好ましく、エーテルエステル系可塑剤、オキシ酸エステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、多塩基酸エステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、ロジンエステル系可塑剤、フタル酸誘導体系可塑剤、ポリヒドロキシカルボン酸系可塑剤などが挙げられる。
【0026】
エーテルエステル系可塑剤の具体例としては、ビスメチルジエチレングリコールアジペート、ビスブチルジエチレングリコールアジペート、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アジペート、トリエチレングリコールジプロピオネートなどが挙げられる。
【0027】
オキシ酸エステル系可塑剤の具体例としては、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリブチルアセテート、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチルなどが挙げられる。
【0028】
グリセリンエステル系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジパルミテート、グリセリンジステアレート、グリセリンジオレート、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノミリスチレート、グリセリンジアセトモノパルミテート、グリセリンジアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンジアセトモノリノレネート、グリセリンモノアセトジカプリレート、グリセリンモノアセトジカプレート、グリセリンモノアセトジラウレート、ジグリセリン酢酸エステルなどが挙げられる。
【0029】
多塩基酸エステル系可塑剤の具体例としては、ジメチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケートなどが挙げられる。
【0030】
多価アルコールエステル系可塑剤の具体例としては、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノオレイルエーテル、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノオレイルエーテルなどが挙げられる。
【0031】
ロジンエステル系可塑剤の具体例としては、アビエチン酸メチル、アビエチン酸ジエチルグリコール、2−ヒドロアビエチン酸ジエチレングリコール、2−ヒドロキシアビエチン酸ジエチレングリコール、ロジンのモノエチレングリコールエステル、ロジンのペンタエリトリットエステルなどが挙げられる。
【0032】
フタル酸誘導体系可塑剤の具体例としては、エチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどが挙げられる。
【0033】
ポリヒドロキシカルボン酸系可塑剤の具体例としては、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトンなどが挙げられる。
【0034】
これらの可塑剤は単独で使用してもよく、あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0035】
上記した可塑剤の中でも、ポリ乳酸系樹脂に対して相溶し、かつ、不揮発性であり、環境問題などの観点から無毒性で、さらに米国FDA(Food and Drug Administration)に合格しているものが好ましい。具体的には、エーテルエステル系可塑剤、オキシ酸エステル系可塑剤がある。
【0036】
また、本発明の獣忌避剤には、その特性が損なわれない範囲内で、耐候剤、湿潤剤、増粘剤、着色剤、安定化剤、滑剤、酸化防止剤、防腐剤、凝固剤などを添加することができる。これらの種類は特に限定されない。
【0037】
本発明の獣忌避剤は、保護しようとする樹木および保護しようとする部分に直接、またはその周辺に塗工、または散布した後、自然乾燥することにより塗膜を形成できる。塗工方法としては、特に限定されず、刷毛やローラーを使用することができる。散布する場合には、じょうろ等の散布器具を用いてもよく、スプレー容器に封入して噴霧することもできる。塗膜の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1μm〜5mm、好ましくは5μm〜3mm、さらに好ましくは10μm〜1mmであることが望ましい。塗膜が薄すぎると、長期間にわたっての獣忌避効果が得られない場合があり、逆に塗膜が厚すぎた場合には、コストアップとなるだけでなく乾燥が不十分になり、雨により流されてしまう場合がある。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。各種の特性については、以下の方法で評価した。
【0039】
(1)塗膜の耐久性
木材に獣忌避剤を塗工した後、屋外に放置し、2週間後および2か月後の塗膜の状態について目視で観察し、塗膜のはがれがないものを耐久性に優れる(○)とし、塗膜の一部にはがれがあるものを耐久性を有するが、不十分である(△)とし、塗膜がはがれたものを耐久性がない(×)と判断した。
【0040】
(2)塗膜の生分解性
JIS K6953の試験手順に従い、コンポスト化8週間後の生分解度が60%を超すものを生分解性がある(○)とし、40%以上60%未満のものを(△)とし、40%を超さないものを生分解性がない(×)と判断した。
【0041】
(3)獣忌避性
未処理および塗工処理を行った2つの容器(サンナップ株式会社製 紙コップ ホワイト 205ml容量を高さ3cmに切断)に飼料(日本クレア製 CLEA Rodent Diet CE−7)を同量入れ、プラスチックケージ(日本クレア製 クリーンS−PC サイズ/282×451×157mm)内の隅に配置し、10匹の1週間馴化飼育したBalb/cマウス(5週齢、日本クレア製)を入れ、2日間経過したときのそれぞれの容器内の飼料の重量減少を比較し、塗工処理を行った容器内の飼料の重量減少が、未処理の容器内の飼料の重量減少に対し、10%未満であるものを獣忌避性に非常に優れる(◎)とし、10%以上30%未満のものを獣忌避性に優れる(○)、30%以上70%未満のものを獣忌避性を有する(△)とし、70%以上のものを獣忌避性がない(×)と判断した。
【0042】
参考例1
生分解性ポリエステル樹脂水性分散体E−1の調製
エコフレックス(BASF社製 ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート))300gをオートクレーブ中に仕込み、乾燥後、230℃に加熱して溶融した後、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(和光純薬株式会社製)13.1gを添加し、3時間加熱撹拌して解重合を行い、払い出し生分解性ポリエステル樹脂Aを得た。ヒーター付きの密閉可能な耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、生分解性ポリエステル樹脂A 50.0g、トリエチルアミン(ナカライテスク株式会社製)3.3g(樹脂中のカルボキシル基に対して1.2倍当量)、イソプロピルアルコール 45.0gおよび151.7gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌し、加熱し、系内の温度が100℃になった状態で30分間温度を維持した後、室温(約25℃)まで冷却した。その後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な生分解性ポリエステル樹脂水性分散体E−1を得た。水性分散体中に含まれる固形分の割合は20質量%であった。
【0043】
参考例2
ポリ乳酸樹脂溶液S−1の調製
ポリ乳酸樹脂(ネイチャーワークス社製、6300D) 30.0g、トルエン(ナカライテスク株式会社製)270gを密閉可能なガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を500rpmとして撹拌し、ポリ乳酸樹脂がすべて溶解するまで撹拌を続け、ポリ乳酸樹脂溶液S−1を得た。溶液中に含まれる固形分の割合は、10質量%であった。
【0044】
実施例1
ポリ乳酸樹脂分散体(第一工業製薬株式会社製 L−110G、固形分濃度 52質量%、以下L−110Gと略称する)、可塑剤(グリセリンジアセトモノカプレート 理研ビタミン株式会社製 PL−019、以下PL−019と略称する)およびカプサイシン内包マイクロカプセル製剤(日本化薬株式会社製 R−731、以下R−731と略称する)を、L−110G中の固形分であるポリ乳酸樹脂100質量部に対して、PL−019が20質量部、R−731が10質量部となるように混合し、獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0045】
実施例2
実施例1の獣忌避剤の調製において、可塑剤(ビス[2−(2−メトキシ)エチル]アジペート 大八化学株式会社製 MXA、以下MXAと略称する)を用いた以外は、同様にして獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0046】
実施例3
実施例1の獣忌避剤の調製において、カプサイシン内包マイクロカプセル(三木理研工業社製 リケンレジン TO−2、以下TO−2と略称する)を用いた以外は、同様にして獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0047】
実施例4
L−110GおよびR−731を、L−110G中のポリ乳酸樹脂100質量部に対して、R−731が10質量部となるように混合し、獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0048】
実施例5
実施例1の獣忌避剤の調製において、R−731の量をポリ乳酸樹脂100質量部に対して1部とした以外は、同様にして獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0049】
実施例6
実施例1の獣忌避剤の調製において、R−731の量をポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.1部とした以外は、同様にして獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0050】
実施例7
E−1およびR−731を、E−1中のポリ乳酸樹脂100質量部に対して、R−731が10質量部となるように混合し、獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0051】
実施例8
S−1、PL−019およびR−731を、S−1中のポリ乳酸樹脂100質量部に対して、PL−019が20質量部、R−731が10質量部となるように混合し、獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0052】
実施例9
生分解性脂肪族ポリエステル樹脂分散体(昭和高分子株式会社製 ビオノーレエマルション EM−301、固形分濃度 53.1質量%、以下EM−301と略称する)およびR−731を、EM−301中の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、R−731が10質量部となるように混合し、獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0053】
比較例1
L−110Gについて、各種特性を評価した。
【0054】
比較例2
L−110GおよびPL−019を、L−110G中のポリ乳酸樹脂100質量部に対してPL−019が20質量部となるように混合し、各種特性について評価した。
【0055】
比較例3
水100質量部に対して、R−731を10質量部となるように混合し、十分に撹拌し、動物忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0056】
比較例4
変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(ユニチカ株式会社製 アローベース SB−1010)およびR−731を、SB−1010中の樹脂100質量部に対して、R−731が10質量部となるように混合し、獣忌避剤を調製し、各種特性について評価した。
【0057】
実施例1〜9、比較例1〜4で得られた評価結果をまとめて表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1〜9に示した獣忌避剤は、いずれも塗膜の耐久性、生分解性、獣忌避性を有したものであった。生分解性樹脂としてポリ乳酸樹脂を使用した場合、可塑剤を含むものがより優れた塗膜の耐久性を示した。また、生分解性樹脂としてポリ乳酸を用いた場合に、より生分解性に優れていた。これに対し、比較例1および比較例2では、獣忌避成分を含んでいないため獣忌避性がないものであった。比較例3では、バインダーとなる成分を含んでいないため、塗工した箇所に残存していなかった。比較例4については、生分解性がなかった。
【0060】
このように、生分解性樹脂、獣忌避性を有する物質を含むことにより優れた塗膜の耐久性、生分解性、優れた獣忌避性を有する獣忌避剤が得られる。ポリ乳酸樹脂を用いた場合、可塑剤を含むことによって、より優れた塗膜の耐久性を有する獣忌避剤が得られる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂、獣忌避性を有する物質、液状媒体よりなることを特徴とする獣忌避剤。
【請求項2】
生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の獣忌避剤。
【請求項3】
可塑剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の獣忌避剤。
【請求項4】
可塑剤が生分解性であることを特徴とする請求項1から請求項3いずれかに記載の獣忌避剤。
【請求項5】
獣忌避性を有する物質がカプサイシン、メンソール、リモネン、木酢液、竹酢液、辛子から選ばれる少なくとも一種類であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の獣忌避剤。
【請求項6】
液状媒体が水または水性媒体であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の獣忌避剤。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の獣忌避剤より液状媒体を除去してなる獣忌避組成物。

















【公開番号】特開2008−247767(P2008−247767A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88048(P2007−88048)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】