説明

玄米発酵物、その製造方法及びそれを含む飲食品並びに発酵発芽玄米の製造方法及びその発酵発芽玄米

【課題】栄養価が高く、健康の維持・増進に有効な玄米発酵物、その製造方法及びそれを含む飲食品を提供する。
【解決手段】洗米した玄米を、乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵させ、前記玄米に乳酸菌を付着させた発酵玄米とその発酵液とを含み、前記発酵玄米が軟らかい食感を有する発芽した玄米であることを特徴とする。乳酸菌による乳酸菌発酵を導入することにより、有害細菌の生育を抑制することができ、乳酸菌を豊富に含み、栄養価が高く、健康の維持・増進に有効な玄米発酵物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栄養価が高く、健康の維持・増進に有効な玄米発酵物、その製造方法及びそれを含む飲食品並びに発酵発芽玄米の製造方法及びその発酵発芽玄米に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の主食である米の生体へ及ぼす有効な機能について、種々の研究がなされており、近年の健康食品ブームを反映して機能性を有する加工米が開発、市販されている。例えば、非特許文献1には、血清コレステロール低下作用を有するγ−オリザノール等の玄米成分を含む加工米が開示されている。また、特許文献1には、米胚芽,胚芽を含む米糠,胚芽米,小麦胚芽及び小麦胚芽を含む麸の中の少なくとも1種をpH2.5〜7.5かつ50℃以下の条件で水に浸漬して得たγ−アミノ酪酸を富化した食品素材が開示されている。このγ−アミノ酪酸(GABA)は、玄米を温水に適当な時間浸漬することにより発芽させた発芽玄米に多く含まれており、動物の血圧を下げる機能等を有していることが知られている。
【0003】
一方、生きた状態で腸管に到達し、宿主に対して有効な保健効果を示す菌は、プロバイオティクス菌と定義され、ラクトバチルス属の乳酸菌やビフィドバクテリウム属菌等が注目されている。そして、これらのプロバイオティクス菌に関しては、整腸効果や消化吸収能の改善,血清コレステロールの低減,抗腫瘍効果,免疫賦活化作用等数多くの保健効果について報告されている。例えば、特許文献2には、乳酸菌またはその処理物を有効成分として含有することを特徴とする免疫賦活作用を有する炊飯用組成物が開示されている。また、特許文献3には、発芽米を乳酸菌発酵して得られる乳酸菌発酵発芽米を配合した乳化剤及び化粧料が開示されている。
【0004】
また、乳酸菌は、様々な食品に存在し、有機酸やバクテリオシンなどの抗菌性物質を生産し、最も安全な微生物として食品と共に長年にわたって食べ続けられてきたことからバイオプリザベーションの食品の応用例として、乳製品,食肉製品,水産製品等で幅広く利用されている(非特許文献2)。例えば、特許文献4及び5には、発芽した玄米を乳酸菌発酵処理した後、熱水洗浄して乳酸菌発酵処理を停止させた後、水切り後乾燥させた玄米を洗米後、浸漬水に浸漬し、次いで浸漬水から取り出し、炊飯直前に炊き水を添加して炊飯後、必要に応じて蒸らした後、無菌設備中でガスバリヤー性耐熱容器中に充填し、完全に密封して無菌玄米ごはんを製造する際に、炊飯後の玄米ごはんのpHが4〜4.8となるように調整する、無菌玄米ごはんの製造方法が開示されている。
【特許文献1】特許第2590423号公報
【特許文献2】特開2004−121073号公報
【特許文献3】特開2004−97999号公報
【特許文献4】特開2004−33131号公報
【特許文献5】特開2004−33132号公報
【非特許文献1】金山功,福本育夫,鳥海善貴,村田幸治,矢富伸治,沖田健一,吉岡牧美,亀井勉、「玄米エキス添加加工米の血清コレステロール値低下作用に関する検討」、健康・栄養食品研究、3、1、45−53(2000)
【非特許文献2】森地敏樹,松田敏生、「バイオプリザベーション」、(幸書房、東京)、65−117(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、保健効果を有する乳酸菌を、発芽させた玄米に利用する試みは行われているものの、常法による発芽玄米製造法の発芽工程において、玄米自身の代謝作用の他、玄米の外周部や水に含まれている雑菌の繁殖などにより、発酵状態となり、玄米に発酵臭や異臭が残留する虞があるため、発芽した玄米を、熱水洗浄して発芽した玄米の外周面に付着した雑菌を殺菌するなどの殺菌工程が必要であり、雑菌を除去するのに手間がかかるといった問題があった。また、乳酸菌を玄米の状態から利用する試みは行われていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、栄養価が高く、健康の維持・増進に有効な玄米発酵物及びそれを含む飲食品並びに発酵発芽玄米を提供することを目的とする。また、本発明は、玄米や発芽玄米における雑菌を容易に抑制可能な玄米発酵物の製造方法並びに発酵発芽玄米の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、玄米を、乳酸菌を含有する浸漬液に浸漬して発酵させることにより、この玄米発酵物の発酵玄米及びその発酵液において乳酸菌が増殖し、乳酸菌により有害細菌の生育を抑制し、さらに発酵玄米が発芽することを見出し、本発明に想到した。
【0008】
本発明の請求項1記載の玄米発酵物は、洗米した玄米を、乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵させ、前記玄米に乳酸菌を付着させた発酵玄米とその発酵液とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2記載の玄米発酵物は、請求項1において、前記発酵玄米は、軟らかい食感を有する発芽した玄米であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3記載の玄米発酵物の製造方法は、洗米した玄米を、30〜40℃の条件下で乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵させ、前記玄米に乳酸菌を付着させることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4記載の飲食品は、請求項1又は2に記載の玄米発酵物を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5記載の発酵発芽玄米の製造方法は、洗米した玄米を、乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵及び発芽させ、蒸煮処理した後、乾燥処理することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6記載の発酵発芽玄米の製造方法は、30〜40℃の条件下で前記乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵されることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7記載の発酵発芽玄米の製造方法は、糊化度を60〜85%にさせることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8記載の発酵発芽玄米は、請求項5〜7のいずれか1項に記載の発酵玄米の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1記載の玄米発酵物によれば、乳酸菌により有害細菌の生育を抑制し、さらに玄米から溶出される栄養成分で乳酸菌が増殖するので、乳酸菌による保健効果を有し、健康の維持・増進に有効である。
【0017】
本発明の請求項2記載の玄米発酵物によれば、発酵玄米が軟らかい食感を有する発芽した玄米であるので、栄養価が一層高くなり、健康の維持・増進に有効である。
【0018】
本発明の請求項3記載の玄米発酵物の製造方法によれば、乳酸菌を増殖させ、乳酸菌により有害細菌の生育を抑制し、且つ、健康の維持・増進に有効な玄米発酵物を提供できる。
【0019】
本発明の請求項4記載の飲食品によれば、乳酸菌による保健効果を有し、健康の維持・増進が可能である。
【0020】
本発明の請求項5記載の発酵発芽玄米の製造方法によれば、乳酸菌により有害細菌の生育を抑制し、さらに玄米から溶出される栄養成分で乳酸菌が増殖するので、乳酸菌による保健効果を有し、健康の維持・増進に有効であり、栄養価が一層高い発酵発芽玄米が得られる。
【0021】
本発明の請求項6記載の発酵発芽玄米の製造方法によれば、乳酸菌を増殖させ、乳酸菌により有害細菌の生育を抑制し、且つ、健康の維持・増進に有効な発酵発芽玄米を提供できる。
【0022】
本発明の請求項7記載の発酵発芽玄米の製造方法によれば、特に、食味に優れた発酵発芽玄米を提供できる。
【0023】
本発明の請求項8記載の発酵発芽玄米は、栄養価が一層高く、食味に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明に用いられる玄米としては、特に限定されないが、例えば、粳米の玄米,糯米の玄米,色素米の玄米,或いは、5分づき米,7分づき米等の玄米から精米に至る種々の状態の米が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられる乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei),ラクトバチルス プランタラム(L.plantarum),ラクトバチルス ファーメンタム(L.fermentum),ラクトバチルス アシドフィラス(L.acidophilus),ラクトバチルス ガセリ(L.gasseri),ラクトバチルス パラカゼイ(L.paracasei),ラクトバチルス ラムノーサス(L.rhamnosus),ラクトバチルス ヘルバティカス(L.helveticus)などのラクトバチルス属が挙げられる。また、本発明においては、1種類の乳酸菌を単独で用いてもよいし、複数の乳酸菌を任意に組み合わせてもよい。
【0027】
乳酸菌スターターの培地としては、乳酸菌用のMRS培地(組成:プロテオースペプトン1%、牛肉エキス1%、酵母エキス0.5%、ブドウ糖2%、Tween 80 0.1%、クエン酸アンモニウム0.5%、硫酸マグネシウム0.01%、硫酸マンガン0.005%、リン酸二カリウム0.2%、DIFCO社製),10%脱脂粉乳培地などが挙げられる。乳酸菌スターターには、培養物をそのまま、若しくは遠心分離器で集菌した洗浄菌体が用いられる。また、乳酸菌の種類等にもよるが、例えば約107〜109cfu/mLの乳酸菌を含むことが好ましい。
【0028】
本発明の玄米発酵物の製造方法は、例えば以下のようにして行われる。まず、洗米した玄米を、30〜40℃、好ましくは35〜37℃、より好ましくは約37℃の条件下で、該玄米の総重量の0.1〜1重量%の乳酸菌を含む溶液中に、約6時間以上浸漬して発酵させ、前記玄米に乳酸菌を付着させた発酵玄米とその発酵液を含む玄米発酵物を得ることができる。発酵温度が30℃より低い場合、乳酸菌以外の菌が増殖するため好ましくなく、また40℃を超える場合、発酵温度が高いため乳酸菌発酵ができず好ましくない。玄米を、乳酸菌を含む溶液中に約6時間浸漬すると、玄米の表面に乳酸菌が付着し、付着した乳酸菌は玄米から溶出される栄養成分で増殖でき乳酸菌発酵を行うことが判明した。したがって、乳酸菌発酵の約6時間後には、発酵液の一部又は全部を取り出して新たな水と交換することで、発酵時間の調整が可能である。このように発酵液を新たな水と交換することによって、乳酸菌発酵により生成される乳酸の量の増加によるpHの低下を防ぐことができる。さらに、発酵玄米を発芽させるには、約15〜36時間、好ましくは約17時間浸漬して発酵させることにより適度に発芽させることができる。また、この発酵玄米は、乳酸菌発酵及び乳酸菌を含む浸漬液中での浸漬処理により軟化し、また浸漬液中で発芽することによってさらに軟化する。
【0029】
洗米処理方法としては、例えば水や温水等により行うことができ、玄米の外周部に付着している雑菌を洗い流すことができる。さらに、乳酸菌による乳酸菌発酵を導入することにより、有害細菌の生育を抑制することができる。
【0030】
また、本発明の玄米発酵物は、洗米した玄米を、乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵させ、前記玄米に乳酸菌を付着させた発酵玄米とその発酵液とを含む。さらに、本発明の玄米発酵物の発酵玄米は、軟らかい食感を有する発芽した玄米である。
【0031】
本発明の玄米発酵物は、固液分離操作を行うことにより、発酵玄米とその発酵液とに分離することができる。さらに、該発酵玄米とその発酵液とを乾燥することによって、粒状態の玄米発酵物を得ることができる。或いは、該発酵玄米を耐熱容器に充填し、この耐熱容器の開口部をシールして密封し、次いでレトルト殺菌処理を行うことにより、レトルト加工米を得ることができる。固液分離操作としては、例えば遠心分離、静置分離、ろ過分離、膜分離などが挙げられ、公知の方法が適宜選択される。また、乾燥方法としては、食品の乾燥に用いられる方法であれば特に限定されず、例えば、凍結、真空、噴霧、熱風、あるいはこれらを組み合わせた乾燥方法などが挙げられる。
【0032】
本発明の玄米発酵物は、粉末状態又は粒状態、液体状態に加工でき、旨味、渋味、苦味、塩味などを呈する各種物質ともよく調和し、広く一般の飲食品、例えば、米菓、和菓子、洋菓子、氷菓、調味料、畜肉加工品、魚肉・水産加工品、乳・卵加工品、野菜加工品、果実加工品、穀類加工品、飲料など広範に利用可能である。本発明の玄米発酵物は、乳酸菌発酵により乳酸菌を豊富に含み、玄米が発芽し栄養価が高く健康の維持・増進に有効であるので、本発明の玄米発酵物を上記飲食品に添加することによって、健康の維持・増進に有効な健康食品とすることができる。
【0033】
さらに、本発明の玄米発酵物の発酵玄米は、乳酸菌発酵や乳酸菌を含む浸漬液中での浸漬処理により、また発芽した玄米であるため玄米外層部が軟らかく、精白米と同様に炊飯器で炊くことができ、精白米に近い軟らかさで食することができるため、健康の維持・増進に有効な発芽玄米としても提供することができる。
【0034】
そして、後述する実施例5のように、洗米した玄米を、乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵及び発芽させ、得られた発酵発芽玄米をレトルト殺菌を行い、レトルト加工米とすることができる。
【0035】
上記レトルト加工米が所謂「ウエット品」であるのに対し、所謂「ドライ品」に例について説明すると、洗米した玄米を、乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵及び発芽させ、これにより得られた玄米発酵物である発酵発芽玄米を、蒸煮処理した後、乾燥処理した発酵発芽玄米を炊飯して食することができる。また、この発酵発芽玄米は、上述したように広く一般の飲食品に適用できる。
【0036】
具体的には、上述した玄米発酵物の製造方法により得られた発酵発芽玄米を、固液分離操作を行うことにより、発酵発芽玄米とその発酵液とに分離し、粒状態になる程度に表面の発酵液を除去する。その固液分離操作としては、上述した各種の方法が適宜選択される。
【0037】
前記表面の発酵液を除去した発酵発芽玄米を、蒸煮処理した後、乾燥処理することにより、「ドライ品」の製品としての発酵発芽玄米が得られる。この発酵発芽玄米は、糊化度を60〜85%とすることが食味の点から好ましく、また、水分含量は、12〜16%程度とすることが好ましい。尚、前記糊化度は、βアミラーゼ・プルラナーゼ法(BAP法)により測定した。蒸煮処理においては、100℃で5〜30分間、セイロで蒸した際の糊化度は10〜85%であり、時間を調整して60〜85%の糊化度の発酵発芽玄米を製造した。後述する実験例4のように、発酵発芽玄米は、糊化度が50%程度では、一般の玄米や発芽玄米と比較して食味の面で大きな違いが見られず、一方、糊化度が85%を越すと、吸水率が多くなるため、軟らかくなりすぎて食味がよくなく、糊化度が60〜85%で食味に優れたものが得られた。
【0038】
次に、本発明の効果を確認する検査方法について以下の試験例で説明する。
【0039】
(試験例1)乳酸菌スターターの培養:日本乳業技術協会より購入したL.casei L−14を用いた。スターター用培地は、MRS培地を用い、37℃、24時間培養し、遠心分離後、洗浄して乳酸菌の菌数を約109cfu/mLに調整した。
【0040】
次に、玄米3品種(新潟県産のコシヒカリ,ミルキークィーン,こしいぶき)を流水で2分間水洗いした後、この水洗いした玄米を、該玄米の総重量と同量の蒸留水(約35℃)と該玄米の総重量に対して0.1重量%の乳酸菌スターターとを均一に懸濁した浸漬液に浸漬し、37℃で17時間発酵させ、玄米発酵物を得た。さらに、固液分離操作を行い、玄米発酵物を、発酵玄米と発酵液とに分離した。ここで得られた発酵玄米を流水により30秒間4回洗浄し、300粒の発酵玄米を顕微鏡により形態観察し、発酵玄米の発芽率を算出した。その後、発酵玄米の10倍量の蒸留水を添加し、ミキサーで破砕し、発酵玄米のpHおよび菌数を測定した。また、玄米発酵物の発酵液は、そのままの状態で発酵液のpHおよび菌数を測定した。
【0041】
なお、微生物分析としては、玄米を滅菌した生理食塩水と一緒に無菌袋に入れ、ストマッカー(オルガノ社製)で2分間破砕した。玄米破砕液及び発酵液は1/10ずつ段階希釈を行い、菌数測定に用いた。
【0042】
各々の菌における菌数は、以下の条件下の培地におけるコロニー形成数(cfu/mL又はcfu/g)をカウントして測定した。一般生菌数は、標準寒天培地(日水製薬社製)を用いて48時間培養;乳酸菌数は、BCP加プレートカウントアガール(日水製薬社製)を用いて48〜72時間培養;ラクトバチルス(Lactobacillus)数は、LBS agar(BBL社製)を用いて48時間嫌気培養(BBL社製:GasPack);グラム陽性菌数は変法フェネチルアルコール培地(標準寒天培地に0.3%のβ−フェネチルアルコール(関東化学社製)を含む)を用いて48時間培養;グラム陰性菌数は、CVT寒天培地(日水製薬社製)を用いて48時間培養;シュードモナス(Pseudomonas)数は、Pseudomonas Isolation agar(DIFCO社製)を用いて48〜72時間培養;大腸菌群数は、デソキシコレート培地(日水製薬社製)を用いて24時間培養;バチルス セレウス(Bcilllus cereus)数は、NGKG寒天基礎培地(日水製薬社製)を用いて24時間培養;黄色ブドウ球菌数は卵黄加マンニット食塩培地(日水製薬社製)を用いて36時間培養;培養温度は各々37℃。
【0043】
また、発酵液及び発酵玄米の乳酸菌以外の菌数は、標準寒天培地より求めた菌数からLBS agarより求めた菌数を減じる方法又はBCP加プレートカウントアガールでハローを形成しないコロニー数を算出する方法により求めた。
【0044】
標準寒天培地で生育した菌は、グラム染色後の細胞観察,カタラーゼ及びオキシダーゼの有無、0−Fテストで同定した。
【0045】
玄米3品種の水洗前後の菌数及び乳酸菌発酵後の発酵玄米の菌数の結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、玄米3品種に付着している菌数はそれぞれ約106(cfu/g)以上であり、水洗いすることで1オーダー程度低下した。また、この水洗いした玄米を、玄米と同重量の蒸留水に乳酸菌スターターを玄米に対して0.1%添加して均一に懸濁した浸漬液に浸漬させ、37℃で17時間発酵させて得られた玄米発酵物の発酵玄米の全菌数の増加が見られた。また、発酵玄米の全菌数と、ラクトバチルス数はほぼ同一であった。この結果から、発酵玄米の菌のほとんどがラクトバチルスであることがわかる。また、品種の異なる玄米においても同様の傾向が見られた。さらに、発酵玄米の発芽率は、約100%であった。この結果から、乳酸菌の存在下でも玄米が発芽することが認められた。なお、ここで得られた発酵玄米のpHは約5.5〜6.5であり、この発酵玄米を炊飯しても酸味を感じることなく、美味しく食することができた。また、この発酵玄米は、周知の温水に浸漬させた方法により発芽させた発芽玄米よりも、軟らかい食感を有す玄米であった。
【0048】
(試験例2)
玄米(新潟県産のコシヒカリ)と浸漬水の配合比、乳酸菌スターターの添加量、及び発酵温度をそれぞれ以下のように設定した以外は試験例1と同様にして、玄米発酵物を得た。配合比(玄米:浸漬水)、乳酸菌スターターの添加量、温度;1:1、0.1%、25℃;1:1、0.1%、30℃;1:1、0.1%、37℃;1:1、1.0%、37℃;1:10、0.1%、37℃;1:30、0.1%、37℃;1:1、0%、37℃。
【0049】
玄米発酵物(発酵玄米および発酵液)のpHと菌数を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、発酵温度が25℃や30℃の場合より、37℃の場合において、pHの低下および乳酸菌の増加が発酵液及び発酵玄米で見られ、乳酸菌以外の菌数(その他菌数)の抑制も発酵液及び発酵玄米で見られた。この結果より、乳酸菌を添加した影響が示唆される。乳酸菌スターターの添加量を1%に増やしてもpH及び菌数ともに大きな変化は見られなかった。浸漬液中の水の量を増やすと発酵液のラクトバチルス数の減少及びその他の菌数の増加が見られ、発酵玄米ではラクトバチルス数は同程度であるが、その他の菌の増加が見られた。乳酸菌を添加していない対照区では、浸漬液及び発酵玄米でその他菌数の増加が見られた。
【0052】
(試験例3)
表2に示したように、乳酸菌スターターを添加しなかった場合に、乳酸菌以外の菌の増殖が見られたので、選択培地を用いて玄米,乳酸菌添加(乳酸菌を含む浸漬液で発酵させた発酵玄米),無添加(乳酸菌を含まない浸漬液で浸漬させた玄米)のそれぞれの菌叢を調べた。なお、乳酸菌スターターは、上記試験例1と同様のものを用い、玄米(新潟県産のコシヒカリ)と浸漬水の配合比、乳酸菌スターターの添加量、及び発酵温度・発酵時間を以下のように設定した;1:1、0.1%、37℃、17時間。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3より、玄米の一般生菌数は2.0×106cfu/gでありグラム陽性菌数とグラム陰性菌数を足しても、この玄米の菌数より少なく、全ての菌数は検出できなかった。一方、乳酸菌添加区では、グラム陽性菌が増殖し、ラクトバチルス数とほぼ同数の結果を示した。
【0055】
また、玄米より分離された乳酸菌を16SrRNA遺伝子配列で同定した。LBS agarで生育した乳酸菌をMRS培地で37℃、24時間培養後、集菌洗浄した。スターターの乳酸菌と発酵玄米から無作為に分離した15個のラクトバチルスコロニーの16SrRNA遺伝子塩基配列を比較したが、全て同一であり、スターターに用いたL.casei L−14が増殖したことを確認した。グラム陰性菌は玄米と比較して、若干の減少が見られシュードモナスは未検出であった。無添加区ではグラム陽性菌数は玄米と同程度であったが、グラム陰性菌の大きな増加、シュードモナスの増加が認められた。黄色ブドウ球菌、B.cereus及び大腸菌群は何れの玄米からも検出されなかった。
【0056】
さらに、無添加区でどのような菌が増殖しているか調べるため、玄米と無添加区玄米の標準寒天培地で生育したコロニーを無作為に取り出して同定を行った。玄米より取り出した57個のコロニー中、46個がEnterobacteriaceae(腸内細菌科)であり、11個がBacillusであった。乳酸菌無添加区の玄米では、67個中全てがEnterobacteriaceaeであった。この結果より、乳酸菌無添加区では主にEnterobacteriaceaeが増殖したことが示唆された。
【0057】
(試験例4)
乳酸菌の違いによる玄米発酵物(発酵玄米および発酵液)のpHと菌数を調べた。乳酸菌スターターの培養:日本乳業技術協会より購入したL.casei L−14,理化学研究所より購入したL.acidophilus JCM1132T,L.gaseri JCM1131T,L.plantarum JCM1057,L.fermentumJCM1560を用いた。スターター用培地は、MRS培地を用い、37℃、24時間培養し、遠心分離後洗浄して、乳酸菌の菌数を約109cfu/mLに調整した。なお、乳酸菌スターターは、上記試験例1と同様のものを用い、玄米(新潟県産のコシヒカリ)と浸漬水の配合比、乳酸菌スターターの添加量、及び発酵温度・発酵時間を以下のように設定した;1:1、0.1%、37℃、17時間。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表4に示されるように、使用した全ての乳酸菌で得られた玄米発酵物のラクトバチルス数の増加が見られた。L.acidophilus JCM1132Tのみ生育が悪く、発酵液のpH低下及び乳酸菌数の増加の程度が低かったが、その他の乳酸菌では発酵液で約108cfu/g、発酵玄米で約107cfu/g以上の増殖が見られた。
【0060】
以下、本発明の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
(玄米発酵物の製造方法)玄米を流水で2分間水洗いした後、この水洗いした玄米を、該玄米の総重量と同量の蒸留水(約35℃)と該玄米の総重量に対して0.1重量%の乳酸菌スターターを均一に懸濁した浸漬液に浸漬させ37℃で17時間発酵させ、玄米発酵物を得た。また、固液分離操作を行うことにより、玄米発酵物から発酵発芽玄米と発酵液とを得た。
【実施例2】
【0062】
米菓餅生地として糯米80重量%と、実施例1で得られた発酵発芽玄米20重量%とを原料として、常法の米菓の製造方法により米菓を作製した。
【実施例3】
【0063】
ヨーグルト90重量%と、実施例1で得られた玄米発酵物10重量%を粉砕して液状化したものを混合し、発酵飲料を作製した。
【実施例4】
【0064】
実施例1で得られた発酵発芽玄米200gをパウチに充填密封し、袋詰めのまま120℃、30分のレトルト殺菌を行い、レトルト加工米を作製した。
【実施例5】
【0065】
実施例1で得られた発酵発芽玄米(新潟県産のコシヒカリの玄米を発酵及び発芽したもの)を、蒸煮処理し、この蒸気処理として、発酵発芽玄米を蒸気で蒸しながら、間歇的にシャワーによる加水を行う加熱により行い、蒸煮処理を行った後、乾燥処理を行い、糊化度の異なる発酵発芽玄米を作製した。この場合、玄米を蒸し続けるといずれ表面が乾き、いくら蒸しても米に水分が浸透せず、玄米が糊化しなくなる。そこで、蒸気で蒸しながら、玄米に熱水をシャワー状にして加水することにより、表面がぬれて良く糊化し、60〜85%という比較的高い糊化度の製品を容易に製造することができ、また、加水することにより、飽和水蒸気を用いる必要がなく、即ち密封系の蒸し器でなくても、所望の糊化度の玄米を製造できる。尚、各発酵発芽玄米の水分含量は、12〜16%である。
【0066】
【表5】

【0067】
上記表5は、糊化度の異なる発酵発芽玄米を炊飯して食した結果を示し、10名のパネラーによるブラインドテストを行った。
【0068】
玄米ごはんと、本実施例の発酵発芽玄米ごはんとを比較し、「−3」〜「+3」の7段階評価を行った。尚、「0」は玄米ごはんと同じ、「−3」が最も悪い、「+3」が最も良い、の評価であり、「外観」「香り」「味」「粘り」「硬さ」についてそれぞれ評価し、数値の平均を総合評価とした。
【0069】
上記表5のように、外観についての評価は大きな違いは見られなかったが、その他の「香り」「味」「粘り」「硬さ」については、いずれも高い評価が得られ、発酵発芽玄米において、糊化度を60〜85%とすることにより、従来にない高い食味評価を得ることができた。また、「硬さ」の評価で、本実施例の発酵発芽玄米が軟らかいて良い食感を与えることが分かる。
【0070】
尚、発酵発芽玄米となる玄米の種類を代えて実験を行ったが、玄米の種類により食味に大きな違いは見られなかった。このことから、発酵させることにより、玄米の種類によらず食味に優れた発酵発芽玄米ごはんが得られることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗米した玄米を、乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵させ、前記玄米に乳酸菌を付着させた発酵玄米とその発酵液とを含むことを特徴とする玄米発酵物。
【請求項2】
前記発酵玄米は、軟らかい食感を有する発芽した玄米であることを特徴とする請求項1記載の玄米発酵物。
【請求項3】
洗米した玄米を、30〜40℃の条件下で乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵させ、前記玄米に乳酸菌を付着させることを特徴とする玄米発酵物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の玄米発酵物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項5】
洗米した玄米を、乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵及び発芽させ、蒸煮処理した後、乾燥処理することを特徴とする発酵発芽玄米の製造方法。
【請求項6】
30〜40℃の条件下で前記乳酸菌を含む浸漬液中に浸漬して発酵されることを特徴とする請求項5記載の発酵発芽玄米の製造方法。
【請求項7】
糊化度を60〜85%にさせることを特徴とする請求項5又は6記載の発酵発芽玄米の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の発酵玄米の製造方法により製造されたことを特徴とする発酵発芽玄米。


【公開番号】特開2006−325576(P2006−325576A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285395(P2005−285395)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(390019987)亀田製菓株式会社 (18)
【Fターム(参考)】