説明

玉軸受用セパレータ

【構成】 球体B3の進み遅れに伴って軌道面R2(R1)と接触することにより本体S1を自転させる、螺旋状のガイドリブS3を本体S1の外周に形成する。
【効果】 ガイドリブS3が軸受Bの軌道面R2(R1)に接触することにより、本体S1を自転させることができるので、各球体B3とガイド面S2との接触方向および接触部位を、自動的に頻繁に変更することができる。また上記本体S1の自転によって、本体S1の外周およびガイド面S2の偏摩耗を抑制することができる。従って長期間にわたり使用を継続しても、セパレータSの偏摩耗を防止して球体B3の表面とセパレータSのガイド面S2との良好な接触状態を維持し、もって球体B3の潤滑性を良好な状態に維持することができる。また偏摩耗を抑制することによって、粉塵の発生量を少なくすることもできる。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は玉軸受用セパレータに関し、より詳細には、半導体製造装置等の油潤滑を行なうことができないクリーン環境下で使用される玉軸受に用いられるセパレータに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にこの種の玉軸受は、同心に配置された外輪と内輪との間に多数の球体を介装し、各球体の間に、両端部が概ね軌道の接線方向に沿って延びる略円柱形状のセパレータを配置して、球体間の間隔を規制している。上記セパレータの外径は、各球体の直径よりも若干小さく設定されており、互いに隣接する球体に挟持された状態では、上記外輪の内周と内輪の外周との間に径方向の隙間を隔てて配置されている。またセパレータの両端面には、各球体の球面にならって窪むガイド面が形成されており、このガイド面によって各球体を受けている。
【0003】
上記玉軸受を半導体製造装置等の部品として採用した場合、油類からなる潤滑剤を使用しないクリーン環境下で使用されるため、潤滑要部に何らかの潤滑手段を講じる必要がある。そこで従来は、上記セパレータの材質として、例えばフッ素樹脂等の潤滑性のある軟質の固体潤滑材を採用していた。
上記構成によれば、各球体を上記セパレータのガイド面に摺接させることにより、セパレータを構成する樹脂成分を潤滑成分として球体に転移させ、潤滑要部の潤滑を行なっていた。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
ところで上記構成では、球体の進み遅れが生じて球体によるセパレータの挟持状態が解除されると、セパレータの外周が内輪または外輪の軌道面と摺接する。
ここで上記セパレータは、球体に樹脂成分を転移させて潤滑性を付与するために、軟質の固形潤滑材により形成されており、しかもセパレータ自体は常に同一姿勢を保って移動することから、セパレータの外周の上記軌道面との摺接部が著しく摩耗して多量の粉塵が発生するという不具合がある。
【0005】
また上記摺接状態において、球体とセパレータのガイド面との接触位置がずれる結果、球体がガイド面に対して片当たりして球体の球面とセパレータのガイド面との良好な接触状態を維持することが困難になり、球体に潤滑成分を充分に転移させることができなくなり、球体の潤滑不良が発生するという不具合もあった。
【0006】
本考案は上記不具合に鑑みてなされたもので、セパレータの外周面およびガイド面の偏摩耗を防止し、粉塵の発生を抑制することができると共に、長期間にわたり良好な潤滑性を維持することのできる玉軸受用セパレータを提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本考案の玉軸受用セパレータは、玉軸受の球体間に介装される、固体潤滑材により構成された略円柱形状の本体を備え、上記本体の両端面には、各球体の球面にならって窪むガイド面を設けていると共に、上記本体の外周に、球体の進み遅れに伴って軌道面と接触することにより、上記本体を自転させる螺旋状のガイドリブを形成していることを特徴としている。
【0008】
【作用】
上記構成からなる本考案の玉軸受用セパレータによれば、球体の進み遅れに伴って各球体による本体の挟持状態が解除されると、ガイドリブが軌道と転がり接触して本体を自転させることができる結果、各球体とガイド面との接触方向および接触部位を、自動的に頻繁に変更することができる。また本体が自転することによって、セパレータの外周の偏摩耗を抑制することができる。
【0009】
【実施例】
以下、添付図面を参照しつつ、本考案の好ましい実施例について詳述する。
図1は本考案の一実施例におけるセパレータSを採用した玉軸受Bの要部断面図である。同図を参照して、上記玉軸受Bは、同心に配置された外輪B1と内輪B1とを備えており、この外輪B1の内周面と内輪B2の外周面とにより軌道が形成されている。上記軌道内には、多数の球体B3が介装されており、さらに各球体B3の間には、本実施例のセパレータSが介装されている。
【0010】
上記セパレータSは、両端部が概ね軌道の接線方向に沿って延びる略円柱形状に形成された本体S1を備えている。セパレータSの両端面には、各球体B3の球面にならって窪むガイド面S2が形成されており、このガイド面S2によって各球体B3を受けている。
以上のような構成において、上記セパレータSの外周には、螺旋状のガイドリブS3が一体に形成されている。ガイドリブS3は、図1の右側に示すように、球体B3の進み遅れに伴って球体B3によるセパレータSの被挟持状態が解除された際に、セパレータSが落下して上記外輪B1の軌道面R1および内輪B2の軌道面R2と転がり接触することにより、上記本体Bを自転させるためのものである。かかる作用を奏するように、上記ガイドリブS3を含む本体S1の外径は、各球体B3の直径よりも若干小さく設定されており、図1の左側に示すように、互いに隣接する球体B3に挟持された状態では、上記外輪B1の内周と内輪B2の外周との間に径方向の隙間Cが形成されている。またガイドリブS3の横断面は、軌道面RSと転がり接触した際に、本体Bを自転させることが容易な略半円形に形成されている。ガイドリブS3の形状としては、図1に例示したものの他、図2に示すように、外径寸法が周期的に短くなるものや、図3に示すように、断続的に配設された突起状のものを採用することも可能である。
【0011】
セパレータSを構成する固体潤滑材の材質としては、フッ素樹脂等、各球体B3に潤滑成分を転移させることが可能な高分子材料を単体または他の樹脂等を添加して用いることが好ましい。例えばエチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE樹脂)を単体で用いたり、ETFE樹脂にガラスファイバーを含ませたもの、或いは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)にガラスファイバーおよびカーボン粉末を添加したもの等を用いることが可能である。本実施例においては、カリウムウィスカーの短繊維を20wt%含むETFE樹脂を採用しており、上記短繊維によってセパレータSの機械的強度の向上を図っている。
【0012】
上記構成からなる本実施例のセパレータSによれば、その外径が各球体B3よりも若干小さく設定されているので、図1の右側に示すように、各球体B3による本体S1の挟持状態が解除されると、ガイドリブS3が軌道面R2(R1)と転がり接触して、本体S1を自転させることができる結果、各球体B3とガイド面S2との接触方向および接触部位を、自動的に頻繁に変更することができる。
また上記本体S1の自転によって、セパレータSの外周の偏摩耗を抑制することができる。
【0013】
従って本実施例のセパレータSによれば、長期間にわたり使用を継続しても、セパレータSの外周の、上記軌道面R2(R1)との摺接部の偏摩耗を抑制することができるので、粉塵の発生を可及的に低減することができる。
また上記摺接状態において、本体S1が自転することにより、球体B3とセパレータSのガイド面S2との接触位置が自動的に頻繁に変更される結果、ガイド面S2に対する球体B3の片当たりを可及的に防止することが可能になる。従ってこの点からも粉塵の発生を可及的に低減することができると共に、球体B3の球面とセパレータSのガイド面S2との良好な接触状態を維持することが可能になり、球体B3に潤滑成分を充分に転移させ、もって良好な潤滑性を維持することができるという利点がある。
【0014】
なお上述した実施例は、何れも本考案の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、例えばガイドリブS3を本体S1よりも硬質な樹脂等の別部材で構成してこれを本体S1と一体的に成形してもよく、その他本考案の要旨を変更しない範囲内で種々の設計変更を施すことができることは云うまでもない。
【0015】
【考案の効果】
以上説明したように本考案のセパレータによれば、長期間にわたり使用を継続しても、セパレータの外周の、上記軌道面との摺接部の偏摩耗を抑制することができるので、粉塵の発生を可及的に低減することができる。
また上記摺接状態において、本体が自転することにより、球体とセパレータのガイド面との接触位置が自動的に頻繁に変更される結果、ガイド面に対する球体の片当たりを可及的に防止することが可能になる。従ってこの点からも粉塵の発生を可及的に低減することができると共に、球体の球面とセパレータのガイド面との良好な接触状態を維持することが可能になり、球体に潤滑成分を充分に転移させ、もって良好な潤滑性を維持することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の一実施例におけるセパレータを採用した玉軸受の要部拡大図である。
【図2】本考案の別の実施例におけるセパレータの側面図である。
【図3】本考案のさらに別の実施例におけるセパレータの正面図である。
【符号の説明】
B 軸受
B3 球体
S セパレータ
S1 本体
S2 ガイド面
S3 ガイドリブ

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】玉軸受の球体間に介装される、固体潤滑材により構成された略円柱形状の本体を備え、上記本体の両端面には、各球体の球面にならって窪むガイド面を設けていると共に、上記本体の外周に、球体の進み遅れに伴って軌道面と接触することにより、上記本体を自転させる螺旋状のガイドリブを形成していることを特徴とする玉軸受用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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