説明

珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法

【解決手段】二酸化珪素粒子及び繊維長5mm以下の二酸化珪素単繊維を液体に懸濁分散させ、混合してなる離型剤組成物であって、上記単繊維が上記混合によって剪断されてなることを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物。
【効果】本発明によれば、鋳型に塗布する際に液だれすることなく、均一な厚さに塗工でき、溶融・凝固した珪素と固着することのない離型剤層を形成できる珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素鋳造用鋳型に塗布し、特にこれを焼成して離型剤層を形成するための珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素は半金属に分類される元素で、一般的な金属とは異なる性質を持つ元素として様々な分野で使用されている。例えば、鉄中の酸素原子を除去することを目的に、溶融した鉄中に脱酸剤の成分として導入されたり、アルミニウムの合金の主要成分として添加されたりするような冶金的、金属的な使用方法や、珪素と酸素が結合したシロキサン結合に様々な有機官能基を付加したシリコーン化合物などの使用方法と共に、珪素の重要な工業的利用方法であるところの半導体としての利用方法などがある。
【0003】
これらの用途のうち、冶金的、金属的使用方法と、シリコーン化合物としての使用方法は、珪素元素単体としてそのまま使用することはほとんどないが、半導体材料としての用途は、珪素単体での使用、更に言えば高純度化した珪素としての使用が前提となる用途である。この半導体用の用途を更に分けると、LSI等の半導体デバイス用ウェハー、太陽電池用ウェハー、スパッタリーグターゲット用、高純度雰囲気炉用反射断熱材用などの用途がある。このうち、単結晶シリコンとしての使用方法に限定されるLSI用ウェハーを除いては、多結晶シリコンの結晶形態で使用可能な用途である。
【0004】
多結晶シリコンの製造方法は、通常、珪素を型に鋳込むことにより製造される。多結晶シリコンの鋳造方法については、耐熱材料、例えば黒鉛やシリカなどの材料製のるつぼが用いられ、溶融珪素が接触する部分のるつぼ側に、離型剤となる物質を層状に附着させたものが広く使用されている。
【0005】
例えば、特開平10−182133号公報(特許文献1)では、黒鉛製るつぼの内壁にSiC又はCを離型剤として使用する技術が開示されている。
特開2002−292449号公報(特許文献2)では、窒化珪素からなる下地剤と、窒化珪素及び二酸化珪素を28:72〜75:25の重量比率で混合した混合材料とを重ねて塗布する方法が開示されている。
特開2004−291027号公報(特許文献3)では、窒化珪素と、水素ガス及び酸素ガスの高温火炎中に四塩化珪素を噴射して加熱処理して得られる非晶質微細シリカとを含有し、この微細シリカを窒化珪素との総量の10〜90重量%となるように混合したものを離型剤として使用する技術が開示されている。
特開2006−334671号公報(特許文献4)では、窒化珪素と二酸化珪素を含有したものをプラズマ溶射法で塗布して離型剤層とする方法が開示されている。
【0006】
このように、先行技術では、離型剤成分として主に窒化珪素と二酸化珪素が使用されている。これらのうち窒化珪素は耐熱性材料であり、離型剤主成分として機能している。一方、二酸化珪素は、溶融珪素中に徐々に溶解する性質があり、しかも溶融珪素と親和するので、溶融珪素の凝固時に強固に固着してしまい、離型性ではなく結着剤としての性質が発揮される材料である。それにもかかわらず、上記先行技術に二酸化珪素が離型剤成分として積極的に使用されているのは、本来の離型剤である窒化珪素層が脆く、機械的作用や熱的な変動などでるつぼから剥離しやすいので、その剥離を抑制するためのバインダーとしての目的が主であった。
【0007】
窒化珪素や炭化珪素などの実効的な耐熱性材料としての離型剤成分に対して、バインダーとして機能する二酸化珪素は、その形態や離型剤(耐熱材料)との混合状態で、バインダー機能が大きく変化することは上述の先行技術でも確認できる。例えば、特開2004−291027号公報(特許文献3)では、従来の平均粒径20μm程度の二酸化珪素に代わりに、酸水素燃焼法で作製した平均粒径0.05μmの非晶質シリカを使用することで、粗大窒化珪素の周囲に微細シリカが取り巻き、窒化珪素同士が強固に付着する効果を誘発するとされる。
【0008】
ところで、二酸化珪素は、溶融した珪素に溶解するので、このバインダー成分となる二酸化珪素は溶融珪素中に融解することになる。そのため、二酸化珪素と接触している離型成分の窒化珪素や炭化珪素などの耐熱性材料は、バインダー成分としての二酸化珪素が融出してしまうので、耐熱性材料はバインダーレスの状態となり、その一部は粉体として溶融珪素中に移動し、珪素の凝固後は珪素中に固形不純物として混入することとなる。この固形不純物が、溶融凝固した珪素の用途に対して影響を及ぼすことが無ければ、上記の「離型成分(耐熱性材料)+バインダー成分としての二酸化珪素」よりなる離型剤層は効果のある離型剤となるが、凝固珪素の用途上から、珪素中の固形不純物の存在が問題となる用途であれば、「離型成分(耐熱性材料)+バインダー成分としての二酸化珪素」なる離型剤層は良好な離型剤とはいえない。
【0009】
以上から、離型剤成分として、窒化珪素や炭化珪素などの耐熱性物質を使用せず、バインダーである二酸化珪素がそのまま離型剤層となるのであれば、不純物混入を本質的に防止できることとなる。しかし、二酸化珪素は溶融珪素に融解するので、二酸化珪素離型剤層の厚さを十分な厚さにしないと、離型剤層がすべて溶解してしまい、離型剤層がなくなってしまう。これを防ぐには離型剤層厚を厚くすることが必要である。
【0010】
二酸化珪素を主成分とする離型剤層は、二酸化珪素を主成分としたスラリーを調製してるつぼに塗布した後に乾燥することで形成するが、二酸化珪素を主成分としたスラリーをるつぼ壁に塗布する場合、塗布厚を厚くするために一回で多量のスラリーを塗布しようとすると、スラリーがるつぼ壁を垂れ落ちてしまうので期待した厚みには塗布できないし、スラリー中の固形分の濃度を増加してスラリー化すると、そのスラリーの粘度が高くなるので塗布時に均一厚さのスラリー塗布層にならず、結果として離型剤層の厚さが不均一になってしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−182133号公報
【特許文献2】特開2002−292449号公報
【特許文献3】特開2004−291027号公報
【特許文献4】特開2006−334671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、二酸化珪素のみを離型成分として含む離型剤であっても、金属珪素がるつぼに固着することなく鋳造できる離型剤層を、所望の厚さで容易に形成することができる、珪素鋳造用離型剤組成物及びその調製方法並びにこの離型剤組成物を用いた珪素鋳造用鋳型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、二酸化珪素粒子及び特定繊維長の二酸化珪素単繊維を水等の液体に懸濁分散させ、混合して上記二酸化珪素単繊維を剪断することで得られる離型剤組成物(スラリー)が、鋳型に塗布する際に液だれすることなく、均一な厚さに塗工でき、これを焼成することで、溶融・凝固した珪素と固着することのない離型剤層を形成することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
従って、本発明は、下記珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法を提供する。
請求項1:
二酸化珪素粒子及び繊維長5mm以下の二酸化珪素単繊維を液体に懸濁分散させ、混合してなる離型剤組成物であって、上記単繊維が上記混合によって剪断されてなることを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物。
請求項2:
剪断後の二酸化珪素単繊維の長さが30〜500μmである請求項1記載の離型剤組成物。
請求項3:
二酸化珪素単繊維の太さが30μm以下である請求項1又は2記載の離型剤組成物。
請求項4:
二酸化珪素単繊維の含有割合が20質量%以下である請求項1乃至3のいずれか1項記載の離型剤組成物。
請求項5:
二酸化珪素粒子の平均粒子径が0.05〜10μmである請求項1乃至4のいずれか1項記載の離型剤組成物。
請求項6:
二酸化珪素粒子の粒径より計算した比表面積ScとBET比表面積Sbとの比Sb/Scが0.5〜4の範囲である請求項1乃至5のいずれか1項記載の離型剤組成物。
請求項7:
二酸化珪素粒子が非晶質である請求項1乃至6のいずれか1項記載の離型剤組成物。
請求項8:
二酸化珪素粒子及び二酸化珪素単繊維を液体に懸濁分散させた後、混合して上記単繊維を剪断し、スラリー化することを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物の調製方法。
請求項9:
請求項1乃至7のいずれか1項記載の離型剤組成物を珪素鋳造用鋳型に塗布した後、焼成して、上記鋳型表面に離型剤層を形成することを特徴とする珪素鋳造用鋳型の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鋳型に塗布する際に液だれすることなく、均一な厚さに塗工でき、溶融・凝固した珪素と固着することのない離型剤層を形成できる珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の離型剤層を有するるつぼの部分拡大断面図である。
【図2】本発明の離型剤層を有するるつぼで珪素を溶融したときの状態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の離型剤組成物は、二酸化珪素粒子及び繊維長5mm以下の二酸化珪素単繊維を液体に懸濁分散させ、混合してなり、上記単繊維が上記混合によって剪断されてなることを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物(スラリー)である。本発明のスラリーは、微細な固形物と液体の混合物であるが、本発明では、この固形物の主成分が二酸化珪素(二酸化珪素粒子及び二酸化珪素単繊維)となる。
【0018】
本発明においては、鋳型の離型成分として二酸化珪素を使用するが、二酸化珪素粒子を液体に懸濁分散したスラリーに、更に二酸化珪素の単繊維を混合して、スラリー中の二酸化珪素の濃度を上昇させることで、これを鋳型(るつぼ)に塗布しても液だれがおこりにくくなり、厚さの厚い離型剤層を形成することができる。
【0019】
本発明で用いられる二酸化珪素繊維(繊維状二酸化珪素)は、通常はこれを縒って糸状としたり、この糸状物をクロス状に織って使用される。繊維状二酸化珪素が糸状又はクロス状である場合、その形状を維持するために繊維表面にバインダー等が塗布されていることが多い。しかし、本発明のスラリーは、二酸化珪素粒子(微粉状二酸化珪素)と二酸化珪素単繊維とがスラリー内で偏在なく混合されていることが望ましい。糸状又はクロス状の繊維のバインダー成分を溶剤で溶解したり、加熱して熱分解により除去するなどの方法で単繊維に戻すことはできるものの、単繊維に戻すには余計な工程が必要となるので、本発明では、単繊維の二酸化珪素が使用される。
【0020】
本発明で使用する二酸化珪素単繊維の長さは5mm以下であり、好ましくは2mm以下である。これは繊維の長さが長すぎると、スラリー化の際に繊維が毛玉状となってしまい、均質なスラリーが調製できないことや、毛玉状とならなかったとしてもスラリー塗布時に繊維が塗布面に平行に寝てしまい、本発明の効果が発揮されなくなる場合があるからである。二酸化珪素繊維が単繊維で、その長さが5mm以下のときは、スラリー化時に繊維が目視で確認できるような毛玉状になることはない。繊維の長さの下限値は特に制限されず、通常、50μm以上、特に100μm以上である。短すぎると液だれ防止の効果が発揮されない場合がある。
【0021】
この二酸化珪素単繊維については、スラリー化時に多くの繊維が剪断され、より短い繊維となる。そのため、スラリー中の単繊維の長さには分布がある。これを図1を用いて説明すると、図1は、るつぼ1の壁面に離型剤層4が形成されている状態を示す。離型剤層4には二酸化珪素粒子2、繊維長が短い二酸化珪素単繊維3、これより繊維長が長い二酸化珪素単繊維3’が存在する。繊維のうち繊維長が1〜5mmと長いもの3’は、スラリーをるつぼに塗布する際に塗布方向に倣ってるつぼ壁と平行になることが多いが、繊維長が500μm以下の短い繊維3は塗布層に対してランダムな方向を向いている。
【0022】
この場合、るつぼに塗布した直後のまだ固化しない状態の塗布スラリー層中には、二酸化珪素粒子と二酸化珪素単繊維が固形成分として存在するが、固体成分として二酸化珪素粒子に加え、このランダムな方向に向いた単繊維が塗布スラリー層に存在すると、塗布スラリー層の液体保持力が上がり、一度の塗布でより多くのスラリーが塗布できることになる。これは、液体状態の塗布スラリー中の二酸化珪素粒子は、そこに繊維が存在することでスラリー中の移動が阻害されているためであると推定される。これによって二酸化珪素単繊維を含有するスラリーは、繊維が存在しないスラリーと比較して、一回の塗布でより多くの二酸化珪素粒子を塗布することができるようになる。以上の点からして、剪断された二酸化珪素単繊維の繊維長は、30〜500μmであることが好ましい。
【0023】
本発明で使用する二酸化珪素単繊維は、径が太いほど剛直で強度の高い繊維となるが、径が太くなるということは、スラリー中にある繊維の本数又は繊維の総長が減少することも意味し、そのためにスラリー中の粒子の移動阻害効果が発揮されなくなることがある。従って、繊維径は30μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下である。
【0024】
二酸化珪素単繊維の含有割合は、繊維の混合割合が高いほどスラリーをるつぼに塗布したときの液だれ防止効果がより発揮されるが、繊維の含有割合が、離型剤組成物(スラリー)の固形分全量中20質量%を越えると混合効果はそれほど向上しないし、二酸化珪素粒子より二酸化珪素単繊維の方が単価が高いのが通常であるので、経済的観点からも、混合割合はスラリーの固形分全量に対して20質量%以下が望ましく、より好ましくは15質量%以下である。また、この含有割合が低いと混合効果が発揮されないので、混合割合は3質量%以上、特に5質量%以上が望ましい。
【0025】
一方、本発明で用いられる二酸化珪素粒子としては、水晶を粉砕した微細粒子(粉状粒子)や、珪素化合物を酸化させて製造するヒューム状二酸化珪素等種々の形態の二酸化珪素粒子が挙げられる。
【0026】
ところで、溶融珪素は二酸化珪素とよく濡れ、離型剤条件によっては凝固時に珪素と二酸化珪素が固着してしまうために、離型剤としての二酸化珪素は不都合なこともあった。このような固着現象の対策として、本発明者らが検討した結果、二酸化珪素粒子としては、好ましくは粒径が0.05〜10μmで、かつ、その粒径より計算した比表面積値Scと、BET比表面積計で測定した比表面積値Sbとの比Sb/Scが0.5〜4の範囲で、非晶質である二酸化珪素粒子を、適当なバインダー成分などと共に水などの分散媒とよく撹拌し、スラリー化した状態でるつぼに塗布、乾燥した後に、焼成及び珪素溶融温度の1450℃以上で処理することで、るつぼと金属珪素の固着現象の発生しない乃至は固着現象が発生したとしても離型剤層やるつぼがその機能を損なう程に崩壊することのない離型剤層とすることができる。
【0027】
即ち、本発明の二酸化珪素粒子及び剪断された単繊維を含有する離型剤組成物は、離型剤スラリー塗布後の焼成と、実際に使用する金属珪素の融点である1450℃以上に昇温することで、離型剤層中に大小多くの気孔をもった離型剤層となる。この多数の気孔が存在することによって、離型剤層の強度が適度に弱くなり、少しの加重印加で離型剤層が崩れる程となる。これを図2を用いて説明すると、本発明の二酸化珪素離型剤層5を有するるつぼ1で珪素6を溶融すると、溶融珪素の凝固時に珪素と二酸化珪素の固着がおきても離型剤層5の強度が適度に弱いため、珪素近傍のごく一部の離型剤層、特には珪素と接触している離型剤層部分だけが崩壊することで、離型剤層のその他の部位やるつぼ本体に割れが発生することはない。
【0028】
本発明では、この内部に大小多くの気孔をもった離型剤層を形成するための条件として、粒径が好ましくは0.05〜10μm、より好ましくは0.1〜2.5μmである二酸化珪素粒子を使用する。この粒径の範囲の二酸化珪素粒子が、焼成と金属珪素溶融温度下の高温に曝されることで、二酸化珪素同士(粒子同士、繊維同士及び粒子と繊維)が焼結するが、粒子サイズが小さすぎると焼結が緻密化しすぎてしまい、離型剤層の気孔の割合が低下してしまうので、離型剤層と珪素が固着してしまう場合がある。また、粒径が大きすぎると離型剤層中の気泡が大型化して、その気泡中に珪素が浸透し、同様に離型剤層と珪素が固着してしまう場合がある。この場合、特に二酸化珪素粒子が結晶質であると、結晶質を維持したまま焼結することとなり、焼結時の二酸化珪素粒子の移動速度が非晶質のものよりも低下するので焼結しづらく、しかも二酸化珪素焼結層(離型剤層)中の気孔の割合も低くなってしまう場合があるので、二酸化珪素粒子は非晶質であることが好ましい。なお、二酸化珪素単繊維は、通常非晶質である。離型剤層中の気孔の存在で離型剤層の強度が適度に弱くなり、珪素とるつぼを分離する際に離型剤層だけが崩れることによって、珪素とるつぼが固着しないこととなる。
なお、本発明において、二酸化珪素粒子の粒子径は電子顕微鏡像あるいは遠心沈降式粒度分布測定で測定することができるが、本発明においては電子顕微鏡像から得られた値である。
【0029】
また、この二酸化珪素粒子は、微粉状二酸化珪素が球状として、その粒径より計算した比表面積値Scと、BET比表面積計で測定した比表面積値Sbとの比Sb/Scが、0.5〜4、特に0.8〜2の範囲であるのがよい。これは、使用する二酸化珪素粒子がその粒内に多くの開気孔がないことが望ましいためである。二酸化珪素粒子中に気孔が広く存在すると、珪素溶融温度下の高温に曝されるときに、粒子内部の気孔が膨張することで二酸化珪素粒子の実効的なサイズが低下してしまい、上記の粒径が小さい場合と同様の結果になってしまうからである。そのため、二酸化珪素粒子の形状としては、中実な球状であることが好ましい。このような二酸化珪素粒子は、市販品を用いることができ、例えば、商品名:アドマファイン SO−C5,SO−E1,SO−E2((株)アドマテックス製)等を用いることができる。
【0030】
本発明の組成物(スラリー)中の二酸化珪素粒子の含有割合は特に制限されないが、スラリー固形分全量に対して5〜50質量%が好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。
また、二酸化珪素粒子と二酸化珪素単繊維の混合割合は、質量比で97:3〜80:20であることが好ましく、より好ましくは95:5〜85:15である。混合割合が上記範囲を外れると単繊維の効果が得られないことがある。
【0031】
二酸化珪素粒子及び二酸化珪素単繊維は液体中で混合されるが、この液体としてはメタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の有機溶媒や水が使われる。この場合、二酸化珪素粒子の分散や、二酸化珪素単繊維の分散が良好な状態であることが望ましい故に、界面活性剤等の分散剤を添加することもできる。また、スラリーを塗布する際に良好な塗布性能を得るためにポリビニルアルコール(PVA)やセルロースなどのバインダー成分と増粘効果を同時に発揮する成分を適宜添加してもよい。
【0032】
二酸化珪素粒子、二酸化珪素単繊維、液体等の混合には一般的な混合機が使用でき、本発明では混合機を特定する必要は無いが、例えば、ボールミル、ビーズミル、スクリューミキサー等を用いた混合方法が挙げられる。
【0033】
混合後、得られたスラリーを刷毛などによる塗布や、スプレー噴霧などによる塗布でるつぼ(鋳型)内壁に塗布して、離型剤層を形成する。この塗布方法としてどのような方法を選択するかによって、スラリーの粘度や、界面活性剤等の濃度を適宜調整することが好ましい。
【0034】
スラリー塗布された直後のるつぼは、スラリーの液体成分で湿潤状態であるので、これを乾燥させることを目的に50〜200℃程度の中温で適当な時間保持する工程が取られる。この工程によって離型剤層は湿潤状態ではなくなるので、重ね塗りで離型剤層の上に重ねて更にスラリーを塗布するなどして所望の離型剤層厚とする。
【0035】
本発明の二酸化珪素離型剤層は、上述のように溶融珪素と接触しているので、離型剤層は珪素に徐々に溶解し、徐々に厚みを減少させる。従って、本発明においては、離型剤層厚が減少することを前提に離型剤層の厚さを決定しなければならない。この点に関し、本発明者らの検討によれば、溶融時間や溶融温度にも依存するが、離型剤層の厚さは30μm以上、望ましくは100μm以上、特に400μm以上とするのがよい。また、離型剤層の厚みが厚すぎると、無駄に離型剤を使用することになって不経済となるので、通常はその厚みは1mmあれば十分であり、特に500μm以下であることが好ましい。もし溶融時間が極端に長く、離型剤成分の二酸化珪素がどの程度珪素中に溶解するか不明な場合は、離型剤層として十分な厚みを持たせると共に、離型剤層を二酸化珪素以外の層を含む二層以上とし、るつぼ側の層には、例えば窒化珪素を主成分として含む離型剤を最小限塗布し、乾燥して窒化珪素離型剤層を形成した後、この上から重ねて本発明の二酸化珪素粒子を含む離型剤組成物を塗布して二酸化珪素離型剤層を形成することができる。
【0036】
更に、上述のように、本発明の離型剤層は微細な気孔を多数有する構造をもつ。そして、この気孔が微細なため、溶融した珪素は気孔内部には侵入せず、離型剤層表面だけで二酸化珪素と接していることとなる。この気孔は、基本的に開気孔であるので、気孔内にまで溶融珪素が入り込めば離型剤層全体に珪素が浸透することとなって、離型剤層の役割を果たさなくなってしまうが、本発明においては気孔が微細であることによって珪素が浸透せずに離型剤層としての効果が発揮できることになる。
【0037】
所望の離型剤層が形成できたら、この離型剤層が塗布されたるつぼを焼成する。焼成の主な目的は、離型剤層のバインダー成分や有機材料成分を離型剤層から蒸発や酸化反応等で除去することで、400〜1200℃の高温で10分〜2時間処理するのがよい。この場合、るつぼ材質が処理する温度で酸化されない物質、例えば炭化珪素、アルミナ、二酸化珪素などの酸化物製であるときは、処理雰囲気は大気等の酸化雰囲気とすることができるが、るつぼ材がグラファイトなど焼成温度で酸化されてしまう材料の際は、アルゴンや窒素などの不活性な雰囲気下で焼成するのがよい。
このようにして焼成した二酸化珪素離型剤層を有するるつぼは、特に金属珪素の溶融用として好適に使用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例中、部は質量部を表す。
【0039】
[実施例1]
平均径5μm、長さ3mmの二酸化珪素単繊維1部、平均粒子径0.5μm、BET比表面積Sb5.5m2/g、その粒子サイズより計算した比表面積値Sc5.2m2/gとBET比表面積計で測定した比表面積値Sbとの比Sb/Scが1.1である、非晶質の二酸化珪素粉(商品名:アドマファイン SO−E2、(株)アドマテックス製)5部、PVA10部、水10部及びブチルアルコール0.001部を樹脂製のボールミルに入れ、このボールミルを5時間回転させることで二酸化珪素を主成分としたスラリーを調製した。
このスラリーをシリカ製のるつぼの内壁全面に刷毛で塗布し、50℃の乾燥器で1時間乾燥させた。乾燥後離型剤層の厚みを測定したところ150μmであった。この塗布、乾燥を3回繰り返して420μm厚の離型剤層をシリカ製るつぼの内壁に形成した。
この離型剤層付きのるつぼを電気炉に入れて、大気中、1000℃で2時間焼成した。焼成後の離型剤層は、指先で擦ると離型剤のシリカが剥がれるものの、離型剤とるつぼが剥離するようなことはなかった。
【0040】
このるつぼに珪素を入れてから、電気炉にて1500℃で珪素を溶融した後に炉内でるつぼを徐々に降下することでるつぼ底から珪素を凝固させた。
電気炉を冷却後るつぼを取り出したところ、るつぼはクラックが入っていたものの、るつぼと珪素の融着は発生していなかった。
【0041】
[実施例2]
平均径1μm、長さ3mmの二酸化珪素単繊維を使用する以外は実施例1と同じ二酸化珪素粉を使用し、同様の処理でスラリーを調製した。
このスラリーを実施例1と同様に塗布・乾燥したところ、一回の塗布での離型剤層の厚みは130μmであった。この離型剤の塗布、乾燥を4回繰り返し、450μmの離型剤層をるつぼ内面に形成した。このるつぼを実施例1と同様にして焼成し、珪素溶融を実施したところ、るつぼと珪素の融着は無かった。
【0042】
[実施例3]
平均粒子径2.2μm、BET比表面積Sb1.9m2/g、Sb/Scが1.6である、非晶質の二酸化珪素粉(商品名:アドマファイン SO−C5、(株)アドマテックス製)を使用する以外は実施例1と同様の処理にてスラリーを調製した。
このスラリーを実施例1と同様に塗布、乾燥、焼成を実施した。離型剤層の厚さは420μmであった。実施例1と同様に珪素を溶融、凝固させたところ、るつぼはクラックが入っていたものの、るつぼと珪素の融着は発生していなかった。
【0043】
[比較例1]
繊維長さ10mmの二酸化珪素単繊維を使用する以外は実施例1と同様にして二酸化珪素繊維と二酸化珪素粉の混合スラリーを調製した。スラリーを30メッシュの篩で濾過したところ、粒状の物が篩上に残った。
これを乾燥し、顕微鏡で観察したところ、毛玉状の二酸化珪素繊維であった。
また、このスラリーを実施例1と同様にるつぼに塗布、乾燥したところ、離型剤壁には繊維だまとみられるツブツブが存在した。
【符号の説明】
【0044】
1 るつぼ
2 二酸化珪素粒子
3 繊維長が短い二酸化珪素単繊維
3’ 繊維長が長い二酸化珪素単繊維
4 離型剤層
5 離型剤層
6 金属珪素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化珪素粒子及び繊維長5mm以下の二酸化珪素単繊維を液体に懸濁分散させ、混合してなる離型剤組成物であって、上記単繊維が上記混合によって剪断されてなることを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物。
【請求項2】
剪断後の二酸化珪素単繊維の長さが30〜500μmである請求項1記載の離型剤組成物。
【請求項3】
二酸化珪素単繊維の太さが30μm以下である請求項1又は2記載の離型剤組成物。
【請求項4】
二酸化珪素単繊維の含有割合が20質量%以下である請求項1乃至3のいずれか1項記載の離型剤組成物。
【請求項5】
二酸化珪素粒子の平均粒子径が0.05〜10μmである請求項1乃至4のいずれか1項記載の離型剤組成物。
【請求項6】
二酸化珪素粒子の粒径より計算した比表面積ScとBET比表面積Sbとの比Sb/Scが0.5〜4の範囲である請求項1乃至5のいずれか1項記載の離型剤組成物。
【請求項7】
二酸化珪素粒子が非晶質である請求項1乃至6のいずれか1項記載の離型剤組成物。
【請求項8】
二酸化珪素粒子及び二酸化珪素単繊維を液体に懸濁分散させた後、混合して上記単繊維を剪断し、スラリー化することを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物の調製方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の離型剤組成物を珪素鋳造用鋳型に塗布した後、焼成して、上記鋳型表面に離型剤層を形成することを特徴とする珪素鋳造用鋳型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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