説明

球技用ボール

【課題】球技用ボールの挙動の計測を的確にかつ正確に行う上で有利な球技用ボールを提供する。
【解決手段】硬式野球ボール2は、コア層20と、中間層22と、カバー層24とを含んで構成されている。中間層22は、コア層20の回りに電波の通過を許容する電波透過性を有する糸を球状に巻回することで球体26に形成されている。カバー層24は、中間層22を覆うものであり、電波透過性を有する材料で形成されている。硬式野球ボール2は、さらに反射部28を備えている。反射部28は、球体26の中心を中心とした球面上に形成され電波反射性を有している。反射部28は、中間層22を形成する糸を用いて構成されている。中間層22を形成する糸の少なくとも一部に電波反射性が付与され、反射部28はこの電波反射性が付与された糸の部分で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球技用ボールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、球技用ボールの移動速度や回転数(スピン量)などを計測する計測装置としてドップラーレーダを用いた装置が使用されている。
上記装置では、アンテナから球技用ボールに向けてマイクロ波からなる送信波を発射し、球技用ボールで反射された反射波を計測し、送信波と反射波から得られるドップラー信号に基づいて移動速度や回転数を求める。
この場合、移動速度や回転数を安定して確実に計測するためには、反射波を効率よく得ることが重要である。言い換えると、反射波を効率よく得ることが計測距離を確保する上で有利となる。
【0003】
一方、外観性やデザイン性を高めるために金属材料を含む層や膜をボールの表面全体にわたって設ける技術が提案されている(特許文献1、2、3参照)。
また、反発性を確保するために、ボールのコア層とカバーの間に球面状の金属層を設ける技術が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−021204号公報
【特許文献2】特開2004−166719号公報
【特許文献3】特開2007−175492号公報
【特許文献4】特開平11−076458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの実験によれば、金属材料を含む層や膜がボールの表面全体に球面状に均一に形成されていると、電波反射特性を確保する上では有利となるものの、前記の層や膜によって送信波が鏡面反射されることで反射波が比較的狭い範囲にしか反射されない傾向にあり、したがって、アンテナが反射波を確実に受波する上で不利があることがわかった。
そのため、球技用ボールの挙動を表す移動速度、弾道、回転数に関しては計測距離を確保する上で不十分なものであった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、球技用ボールの挙動の計測を的確にかつ正確に行う上で有利な球技用ボールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の球技用ボールは、電波透過性を有する糸を球状に巻回することで形成された球体と、前記球体の中心を中心とした球面上に形成された電波反射性を有する反射部とを備え、前記糸の少なくとも一部に電波反射性が付与され、前記反射部は前記電波反射性が付与された前記糸の部分で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ドップラーレーダを用いた計測装置のアンテナから発射された送信波が球技用ボールの反射部によって効率よく反射される。さらに、反射部は電波反射性が付与された糸の部分で構成されていることから、送信波が反射部によって広範囲の角度に反射されるので、従来のように送信波が鏡面反射される場合に比較して、アンテナが反射波を確実に受波することができアンテナで受波される反射波の電波強度を確保する上でより有利となる。
したがって、電波出力が弱くあるいは受信感度が低い計測装置であっても、球技用ボールの挙動の計測を的確にかつ正確に行う上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ドップラーレーダを用いて球技用ボールの打ち出し条件の計測や弾道計測を行う計測装置10の構成を示すブロック図である。
【図2】硬式野球ボール2の回転数を検出する原理の説明図である。
【図3】専用の装置によって打ち出された硬式野球ボール2を計測装置10で計測した場合におけるドップラー信号Sdをウェーブレット解析した結果を示す図である。
【図4】第1の実施の形態における硬式野球ボール2の断面図である。
【図5】第1の実施の形態における硬式野球ボール2のカバー層24を透視した状態を示す正面図である。
【図6】第2の実施の形態における硬式野球ボール2の断面図である。
【図7】表面積占有率に関する実験例の計測結果を示す図である。
【図8】質量比に関する実験例の計測結果を示す図である。
【図9】巻回数に関する実験例の計測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施の形態)
本発明の球技用ボールの実施の形態について説明する前に、球技用ボールの移動速度および回転数の計測を行う計測装置について説明しておく。
本発明において球技用ボールとは、各球技種目において、競技用、練習用、遊戯用、その他ボールを用いる場合に使われるボールを広く含む。
【0010】
図1はドップラーレーダを用いて球技用ボールの移動速度の計測や弾道計測を行う計測装置10の構成を示すブロック図である。このような計測装置として近年普及しつつある特定小電力のポータブル測定器を使用することができる。
また、本実施の形態では、球技用ボールが硬式野球ボール2であり、硬式野球ボール2の移動速度を計測する場合について説明する。
図1に示すように、計測装置10は、アンテナ12、ドップラーセンサ14、処理部16、出力部18を含んで構成されている。
【0011】
アンテナ12は、ドップラーセンサ14から供給される送信信号に基づいて送信波W1としてのマイクロ波を硬式野球ボール2に向けて送信すると共に、硬式野球ボール2で反射された反射波W2を受信して受信信号をドップラーセンサ14に供給するものである。
なお、硬式野球ボール2は、投球によって空中に投げ出され、あるいは、バットによって打撃されることで空中に打ち出される。
【0012】
ドップラーセンサ14は、アンテナ12に前記送信信号を供給すると共に、アンテナ12から供給される前記受信信号を受け付けてドップラー信号Sdを検出するものである。
ドップラー信号とは、前記送信信号の周波数F1と前記受信信号の周波数F2との差分の周波数F1−F2で定義されるドップラー周波数Fdを有する信号である。
なお、前記の送信信号としては、例えば、24GHzまたは10GHzのマイクロ波が使用される。
【0013】
処理部16は、ドップラーセンサ14から供給されるドップラー信号Sdに基づいて硬式野球ボール2の移動速度および回転数を計測するものである。
出力部18は処理部16で計測された計測値を出力するものである。
具体的には、出力部18は、液晶パネルのような表示装置によって計測値を表示出力する。あるいは、プリンタを用いて計測値を印字出力する。
また、出力部18が、パーソナルコンピュータなどの外部装置に計測値を供給してもよい。
【0014】
ここで、硬式野球ボール2の移動速度の計測について説明する。
従来から知られているように、ドップラー周波数Fdは式(1)で表される。
Fd=F1−F2=2・V・F1/c (1)
ただし、V:硬式野球ボール2の速度、c:光速(3・10m/s)
したがって、(1)式をVについて解くと、(2)式となる。
V=c・Fd/(2・F1) (2)
すなわち、硬式野球ボール2の速度Vは、ドップラー周波数Fdに比例することになる。
したがって、ドップラー信号Sdからドップラー周波数Fdを検出し該ドップラー周波数Fdから速度Vを求めることができる。
【0015】
次に、硬式野球ボール2の回転数の計測について具体的に説明する。
図2は硬式野球ボール2の回転数を検出する原理の説明図である。
硬式野球ボール2の表面のうち、送信波W1の送信方向となす角度が90度に近い表面の部分である第1部分Aでは送信波W1が効率よく反射され、したがって、第1部分Aでは反射波W2の強度が高い。
一方、硬式野球ボール2の表面のうち、送信波W1の送信方向となす角度が0度に近い表面の部分である第2部分B、第3部分Cでは送信波W1が効率よく反射されず、したがって、第2、第3部分B、Cでは反射波W2の強度が低い。
第2部分Bは、硬式野球ボール2の回転によって移動する方向と硬式野球ボール2の移動方向とが反対向きとなる部分である。
第3部分Cは、硬式野球ボール2の回転によって移動する方向と硬式野球ボール2の移動方向とが同じ向きとなる部分である。
【0016】
第1部分Aで反射される反射波W2に基づいて検出される速度を第1速度VA、第2部分Bで反射される反射波W2に基づいて検出される速度を第2速度VB、第3部分Cで反射される反射波W2に基づいて検出される速度を第3速度VCとする。
すると、以下の式が成立する。
VA=V (1)
VB=VA−ωr (2)
VC=VA+ωr (3)
(ただし、Vは硬式野球ボール2の移動速度、ωは角速度(rad/s)、rは硬式野球ボール2の半径)
したがって、第1、第2、第3速度V1、V2、V3を計測できれば、式(1)に基づいて第1速度VAから硬式野球ボール2の移動速度Vが求められることができる。また、(2)式または(3)式に基づいて、第2、第3速度V2、V3から角速度ωが求められるので、角速度ωから回転数を算出することができる。
【0017】
第1、第2、第3速度V1、V2、V3の計測について説明する。
図3は、専用の装置によって打ち出された硬式野球ボール2を計測装置10で計測した場合におけるドップラー信号Sdをウェーブレット解析した結果を示す図である。
横軸は時間t(ms)、縦軸はドップラー周波数Fd(kHz)および硬式野球ボール2の速度V(m/s)を示す。
このような線図は、例えば、ドップラー信号Sdをサンプリングしてデジタルオシロスコープに取り込んでデジタルデータに変換し、該デジタルデータをパーソナルコンピュータなどを用いてウェーブレット解析、あるいは、FFT解析することで得られる。
【0018】
図3に示す周波数分布において、ハッチングで示した部分はドップラー信号Sdの強度が大きく、実線で示した部分はドップラー信号Sdの強度がハッチングで示した部分よりも小さいことを示している。
したがって、符号DAで示す周波数分布は、信号強度が強く、第1速度VAに対応する部分である。
符号DBで示す周波数分布は、周波数分布DAよりも信号強度が低く、第2速度VBに対応する部分である。
符号DCで示す周波数分布は、周波数分布DAよりも信号強度が低く、第3速度VBに対応する部分である。
したがって、ドップラー信号Sdの強度を周波数について解析することにより、周波数分布DA、DB、DCを特定し、それぞれの周波数分布DA、DB、DCから前記の式(1)、(2)、(3)の原理を用いることによって、第1、第2、第3速度VA、VB、VCを時系列データとして得ることができるのである。
このような処理は、従来公知のさまざまな信号処理回路を用いることによって、あるいは、信号処理プログラムに基づいて動作するマイクロプロセッサを用いることによって実現可能である。
【0019】
次に第1の実施の形態の硬式野球ボールについて説明する。
図4は第1の実施の形態における硬式野球ボール2の断面図、図5は図4の硬式野球ボール2のカバー層24を透視した状態を示す正面図である。
硬式野球ボール2は、コア層20と、中間層22と、カバー層24とを含んで構成されている。
コア層20は、球状で中実であり、例えば、ゴムあるいはコルクなどの従来公知のさまざまな材料が用いられる。
中間層22は、コア層20の回りに電波の通過を許容する電波透過性を有する糸を球状に巻回することで球体26に形成されており、したがって、中間層22は糸巻き層で構成されている。
カバー層24は、中間層22を覆うものであり、カバー層24の材料としては、例えば、牛革が用いられ、カバー層24は、中間層22を覆う牛革を糸で縫合することで構成される。
すなわち、本実施の形態では、カバー層24は、後述する反射部28による電波の反射がなされるように、電波透過性を有する材料、例えば、導電性物質を含有しない材料などで形成されている。
【0020】
硬式野球ボール2は、さらに反射部28を備えている。
反射部28は、球体26の中心を中心とした球面上に形成され電波反射性を有している。
本実施の形態では、反射部28が形成された球面は球体26の表面26Aであるが、反射部28が形成された球面は表面26Aの内側に位置する球面であってもよい。
また、反射部28は、中間層22を形成する糸を用いて構成されている。
すなわち、中間層22を形成する糸の少なくとも一部に電波反射性が付与され、反射部28はこの電波反射性が付与された糸の部分で構成されている。
電波反射性が付与された糸の部分は以下のように構成することができる。
(1)中間層22を構成する糸の全てを毛糸や綿糸などの電波反射性を有さない材料で形成しておく。そして、糸の一部に、例えば、銅化学物質などの導電性を有する材料を含浸させることで電波反射性が付与された糸の部分を構成する。
(2)中間層22を構成する糸の全てを毛糸や綿糸などの電波反射性を有さない材料で形成しておく。そして、糸の一部に例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケルなどの導電性を有する材料を蒸着することで電波反射性が付与された糸の部分を構成する。
(3)中間層22を構成する糸の全てを毛糸や綿糸などの電波反射性を有さない材料で形成しておく。そして、糸の一部に例えば、銅、ニッケルなどの導電性を有する材料をメッキすることで電波反射性が付与された糸の部分を構成する。
(4)中間層22を、毛糸や綿糸などの電波透過性を有する材料で形成された糸と、導電性を有する材料で形成された糸(例えば、金属製のワイヤやカーボンファイバー)との2本の糸を用いて形成する。例えば、電波透過性を有する糸により球体を形成し、最後に、前記球体の表面に導電性を有する糸を巻回することで反射部28を形成する。あるいは、例えば、電波透過性を有する糸により球体を形成し、前記球体の表面に導電性を有する糸を巻回して反射部を形成し、その上から電波透過性を有する糸を巻回して反射部28を覆うように球体を形成する。
上述した(1)〜(4)の何れの場合においても、反射部28は、導電性を有する糸の部分で形成されることになる。
【0021】
反射部28は、反射波W2の強度を十分に確保することができればよく、例えば、次に示す従来公知の関係式を用いることによって、反射部28の表面抵抗として必要な範囲を求めることができる。
すなわち、電波反射率:Γ、表面抵抗:Rとしたとき、式(1)、式(2)が成立する。
Γ=(377−R)/(377+R) (1)
R=(377(1−Γ))/(1+Γ) (2)
Γ=1は全反射、Γ=0は無反射を示し、377は空気の特性インピーダンスを示す。
したがって、式(2)より
Γ=1のときR=0
Γ=0のときR=377
ここで、Γ=0.5とすると、R=377(0.5/1.5)≒130となる。
したがって、電波反射率Γとして十分な値をΓ=0.5(50%)以上とすると、表面抵抗Rは130Ω/sq.以下とすることが必要となる。
また、電波反射率Γが0.9(90%)以上であり、したがって、表面抵抗Rが20Ω/sq.以下であることが、反射波W2の強度を確保する上でより好ましい。
なお、電波反射率Γは、導波管法や自由空間法など従来公知方法によって測定することができるものである。
【0022】
また、反射部28が球体26の表面26Aに形成されている場合、反射部28が表面において占める割合である表面積占有率が10%以上であることが反射波W2の強度を確保する上で好ましく、表面積占有率が20%以上60%以下であることが反射波W2の強度を確保する上でより好ましい。
【0023】
また、反射部28が球体26の表面26Aに形成されている場合、反射部28を構成する糸の部分の巻回数が5〜500巻であることが、硬式野球ボールをバットで打撃した際の反発力、打撃感を従来の硬式野球ボールと同程度に確保しつつ、反射波W2の強度を確保する上で好ましく、前記巻回数が20〜200巻であることがより好ましい。
【0024】
また、反射部28を構成する糸の部分の質量が、硬式野球ボール2の全質量の10%以下であることが硬式野球ボールをバットで打撃した際の反発力、打撃感を従来の硬式野球ボールと同程度に確保しつつ、反射波W2の強度を確保する上で好ましく、反射部28を構成する糸の部分の質量が、硬式野球ボール2の全質量の0.5%〜5%であることがより好ましい。
【0025】
次に本実施の形態の硬式野球ボール2の作用効果について説明する。
本実施の形態の硬式野球ボール2は、球体26の中心を中心とした球面上に形成された電波反射性を有する反射部28が形成されている。したがって、計測装置10のアンテナ12から発射された送信波W1が硬式野球ボール2の反射部28によって効率よく反射される。
さらに、反射部28が電波反射性が付与された糸の部分で構成されていることから、送信波W2が反射部28によって広範囲の角度に反射されるので、従来のように送信波が鏡面反射される場合に比較して、アンテナ12が反射波を確実に受波することができアンテナ12で受波される反射波W2の電波強度を確保する上でより有利となる。
そのため、より長い期間にわたってドップラー信号の信号強度を確保することができ、移動速度や弾道の検出を安定して確実に行う上で有利となる。
また、アンテナ12から発射された送信波W1が硬式野球ボール2の回転と共に移動する球体26の中心を中心とした球面上に形成された電波反射性を有する反射部28によって反射される。そのため、反射波W2の電波強度を確保する上で有利となる。
そのため、打撃された硬式野球ボール2がアンテナ12から離間してアンテナ12で受信される反射波W2の信号強度が低下しても、各周波数分布DA、DB、DCの信号強度を確保することができる。
特に、周波数分布DAの信号強度に比較して元々弱い周波数分布DB、DCの信号強度を確保することができるので、第2、第3速度V2、V3を安定して計測する上で有利となる。
すなわち、ドップラー信号における回転数を検出するために必要な周波数分布の信号強度を確保することができ、回転数の検出を安定して確実に行う上でも有利となる。
したがって、より長い期間、第2、第3速度V2、V3を計測することでより長い期間にわたって回転数の計測を安定して行うことができる。
そのため、硬式野球ボール2の回転数を正確に算出することができ、硬式野球ボール2の挙動をより正確に分析する上で有利となる。
【0026】
このようにしてアンテナ12で受波する反射波W2の信号強度を確保できるため、電波出力が弱くあるいはアンテナの受信感度がそれほど高くない計測装置10や特定小電力のポータブル測定器を使用しても移動速度、弾道、回転数の計測を的確にかつ正確に行う上で有利となる。
また、反射波W2の電波強度を確保することができるので、計測装置10の電波出力の強度やアンテナの受信感度を下げることができ、ひいては、計測装置10の簡素化、小型化、コストダウンを図る上でも有利となる。
また、本実施の形態では、反射部28がカバー層24によって保護されるため、バットによって硬式野球ボール2が打撃された場合に反射部28が損傷することを抑制し、耐久性の向上を図る上で有利となる。
また、本実施の形態の硬式野球ボール2は、反射部28が電波反射性を付与された糸の部分で構成されていることから、従来の硬式野球ボールとほとんど同じ構造とすることができる。
したがって、従来の硬式野球ボールにおける製造工程を大きく変更する必要がないため、既存の設備を流用することができ、製造コストの抑制を図る上でも有利となる。
【0027】
(第2の実施の形態)
次に第2の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態において第1の実施の形態と同様の部分、部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
第2の実施の形態は第1の実施の形態の変形例であり、第1の実施の形態に対して反射部28が形成されている箇所が異なる。
すなわち、第1の実施の形態では、反射部28が球体26の表面26Aに形成されているが、第2の実施の形態では、図6に示すように、反射部28が球体26の内部に形成されている。
すなわち、反射部28が形成された球面26Bは、球体26の表面26Aの内側に位置し、反射部28は、中間層22を構成する電波透過性を有する糸により覆われている。
また、反射部28が球体26の球面26Bに形成されている場合、反射部28が球面26Bにおいて占める割合である球面積占有率が10%以上であることが反射波W2の強度を確保する上で好ましく、球面積占有率が20%以上60%以下であることが反射波W2の強度を確保する上でより好ましい。
【0028】
このような第2の実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果が奏される。
また、反射部28は、カバー層24と、中間層22を構成する電波透過性を有する糸とによって保護されるため、バットによって硬式野球ボール2が打撃された場合に反射部28が剥がれることを抑制し、耐久性の向上を図る上でより有利となる。
また図5に示すように、反射部28を構成する糸の間に間隔が形成されている場合には、反射部28を構成する糸の部分と、反射部28以外の糸の部分との間に段差(凹凸)が生じる。しかしながら、第2の実施の形態では、反射部28を構成する糸の部分が、中間層22を構成する電波透過性を有する糸の部分によって覆われるため、反射部28を構成する糸の部分の段差がカバー層24の外側に凹凸形状となってあらわれることを抑制することができ、外観性の向上を図ることができる。
【0029】
(実験例)
次に実験例について説明する。
まず、表面積占有率に関する実験例について説明する。
第1の実施の形態の硬式野球ボール2を以下のような条件で作製した。
実験例1:表面積占有率5%
実験例2:表面積占有率10%
実験例3:表面積占有率20%
実験例4:表面積占有率30%
実験例5:表面積占有率40%
実験例6:表面積占有率50%
実験例7:表面積占有率60%
実験例8:表面積占有率70%
このように構成された各硬式野球ボール2を専用のボール打ち出し装置(ピッチングマシン)によって打ち出して計測装置10を用いて計測を行い、時間経過に伴う硬式野球ボール2の回転量を得た。
ボール打ち出し装置によって硬式野球ボール2に与える初速は100Km/h、硬式野球ボール2に与える回転量は3000rpmとした。
実験例1〜8で計測した硬式野球ボール2の個数はそれぞれ10個とした。
【0030】
図7は、実験例1〜8における回転量の計測時間と追尾距離を示す図であり、10個の硬式野球ボール2の計測を行った場合における平均値を示している。
ただし、計測時間および追尾時間は、それぞれ実験例1を100とする指数で表示した。
計測時間の指数が大きくなるほど計測時間が長くなることを示し、追尾距離の指数が大きくなるほど追尾距離が長くなることを示す。
図7に示すように、表面積占有率が10%以上であると、計測時間および追尾時間を確保する上で有利であり、表面積占有率が20%以上60%以下であると、計測時間および追尾時間を確保する上でより有利であることがわかる。
このような実験結果から、本実施の形態の硬式野球ボール2を用いることにより、反射波W2の強度を確保する上で有利となり、したがって、回転量の計測時間および追尾距離を確保することができ、回転量の計測を安定して確実に行う上で有利であることが明らかとなった。
また、反射波W2の強度を確保することができるので、移動速度および弾道を計測する場合においても回転数の場合と同様に計測時間および追尾距離を確保でき、移動速度および弾道の計測を安定して確実に行う上で有利となる。
【0031】
次に、反射部28を構成する糸(導電性の糸)の部分の質量が球技用ボールの全質量に占める割合である質量比に関する実験例について説明する。
第1の実施の形態の硬式野球ボール2を以下のような条件で作製した。
実験例11:質量比0.1%
実験例12:質量比0.3%
実験例13:質量比0.5%
実験例14:質量比1%
実験例15:質量比2%
実験例16:質量比5%
実験例17:質量比10%
実験例18:質量比15%
実験例19:質量比20%
このように構成された各硬式野球ボール2について図6の場合と同様の条件で回転量の計測時間および追尾距離の計測を行った。また、反発力についても計測を行った。
実験例11〜19で計測した硬式野球ボール2の個数はそれぞれ10個とした。
【0032】
図8は、実験例11〜19における反発力、回転量の計測時間と追尾距離を示す図であり、10個の硬式野球ボール2の計測を行った場合における平均値を示している。
ただし、反発力、計測時間および追尾時間は、それぞれ実験例11を100とする指数で表示した。
反発力の指数が大きくなるほど反発力が大きくなることを示す。
図8に示すように、質量比が増えるほど(導電性の糸を増やすほど)反発力が低下する。
実験例11,12は、計測時間、追尾距離、反発力が必要十分な程度に確保されている。
実験例13〜16は、計測時間および追尾距離が良好であり、かつ、反発力が適度に確保されている。
実験例17は、計測時間および追尾距離は良好な範囲であり、反発力が必要十分な程度に確保されている。
実験例18,19は、計測時間および追尾距離は良好な範囲であり、反発力が必要十分な程度に確保されており、質量比が大きいため球技用ボールとしてさらに用途が広く好ましい。
このような実験結果から、反発力、打撃感を従来の硬式野球ボールと同程度に確保しつつ、反射波W2の強度を確保する上で、質量比が10%以下であることが好ましく、0.5%〜5%であることがより好ましいことがわかる。
【0033】
次に、反射部28を構成する糸(導電性の糸)の部分の巻回数に関する実験例について説明する。
第1の実施の形態の硬式野球ボール2を以下のような条件で作製した。
実験例21:巻回数5
実験例22:巻回数10
実験例23:巻回数20
実験例24:巻回数50
実験例25:巻回数100
実験例26:巻回数200
実験例27:巻回数300
実験例28:巻回数400
実験例29:巻回数500
実験例30:巻回数600
実験例31:巻回数700
このように構成された各硬式野球ボール2について図8の場合と同様の条件で回転量の計測時間および追尾距離、反発力の計測を行った。
実験例21〜31で計測した硬式野球ボール2の個数はそれぞれ10個とした。
【0034】
図9は、実験例21〜31における反発力、回転量の計測時間と追尾距離を示す図であり、10個の硬式野球ボール2の計測を行った場合における平均値を示している。
ただし、反発力、計測時間および追尾時間は、それぞれ実験例21を100とする指数で表示した。
図9に示すように、巻回数が増えるほど(導電性の糸を増やすほど)反発力が低下する。
実験例21,22は、計測時間および追尾距離が必要十分な程度に確保されている。
実験例23〜26は、計測時間および追尾距離が良好であり、かつ、反発力が適度に確保されている。
実験例27〜29は、計測時間および追尾距離は良好な範囲であり、反発力が必要十分な程度に確保されている。
実験例30,31は、計測時間および追尾距離は良好な範囲であり、反発力が必要十分な程度に確保されており、巻回数が多いため球技用ボールとしてさらに用途が広く好ましい。
このような実験結果から、反発力、打撃感を従来の硬式野球ボールと同程度に確保しつつ、反射波W2の強度を確保する上で、反射部28を構成する糸(の部分の巻回数が5〜500巻であることが好ましく、巻回数が20〜200巻であることがより好ましいことがわかる。
【0035】
また、実施の形態では、球技用ボールが硬式野球ボールである場合について説明したが、本発明は、糸を球状に巻回することで形成された球体を備える球技用ボールに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
2……硬式野球ボール、20……コア層、22……中間層、24……カバー層、26……球体、26A……球体の表面、26B……球面、28……反射部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波透過性を有する糸を球状に巻回することで形成された球体と、
前記球体の中心を中心とした球面上に形成された電波反射性を有する反射部とを備え、
前記糸の少なくとも一部に電波反射性が付与され、
前記反射部は前記電波反射性が付与された前記糸の部分で構成されている、
ことを特徴とする球技用ボール。
【請求項2】
前記電波反射性が付与された前記糸の部分は、導電性を有する材料で形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の球技用ボール。
【請求項3】
前記電波反射性が付与された前記糸の部分は、前記糸の部分に導電性を有する材料が含浸され、あるいは、前記糸の部分に導電性を有する材料が蒸着され、あるいは、前記糸の部分に導電性を有する材料がメッキされている、
ことを特徴とする請求項1記載の球技用ボール。
【請求項4】
前記電波反射性が付与された前記糸の部分の表面抵抗が130Ω/sq.以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の球技用ボール。
【請求項5】
前記反射部を構成する前記糸の部分の質量が、前記球技用ボールの全質量の10%以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の球技用ボール。
【請求項6】
前記反射部は前記球体の表面に形成され、前記反射部が前記表面において占める割合である表面積占有率が10%以上である、
ことを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載の球技用ボール。
【請求項7】
前記反射部は前記球体の表面に形成され、前記反射部が前記表面において占める割合である表面積占有率が20%以上60%以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載の球技用ボール。
【請求項8】
前記反射部は前記球体の表面に形成され、
前記反射部を構成する前記糸の部分の巻回数が5〜500巻である、
ことを特徴とする請求項1乃至7に何れか1項記載の球技用ボール。
【請求項9】
前記反射部は、前記球体の表面よりも内側に位置する球面に形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載の球技用ボール。
【請求項10】
前記反射部が前記球面において占める割合である球面積占有率が10%以上である、
ことを特徴とする請求項9記載の球技用ボール。
【請求項11】
前記反射部が前記球面において占める割合である球面積占有率が20%以上60%以下である、
ことを特徴とする請求項9記載の球技用ボール。
【請求項12】
前記球技用ボールは硬式野球ボールであり、
前記球体を覆うカバー層が設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至11に何れか1項記載の球技用ボール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−27486(P2013−27486A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164688(P2011−164688)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)