説明

球状船首に関する方法および構成

本発明は、航洋船用の船体であって、右舷側の船体側面(2)と、左舷側の船体側面(8)と、甲板(4)とを有し、舳先(3)がほぼ鉛直方向に延び、球状船首(6)が舳先(3)に隣接して船体側面(2,8)と一体化され、それによって、舳先(3)と球状船首(6)との交点(30)が球状船首(6)の前方に最も突き出た部分(60)に隣接して位置する船体において、球状船首(6)は、最大鉛直長さが0.9設計喫水<D<1.1設計喫水の範囲内であり、前部の曲率半径(R)が0.2設計喫水<R<0.25設計喫水の範囲内である球状船首の形で設けられ、球状船首(6)より上の各船体側面(2,8)は、10度<γ<20度の範囲内にある鋭角な水線入射角度(γ)を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
右舷側の船体側面と左舷側の船体側面と甲板とを有し、球状船首が両船体側面と一体化されるとともに舳先とも一体化された航洋船用の船体。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特開昭61−166783号公報に示されているように、球状船首(バルバス・バウ)を使用して非滑水型(non−planing type)の航洋船の流れ抵抗を弱めることは公知である。球状船首の使用に関連して多数の異なる公知の構成/形状があるが、大部分の概念では、一般に、その球状船首が喫水船の下方に突き出ており、船首部分が、球状部の上方へ、すなわち船尾の方へ傾斜した第1の中央部の所で湾曲しており、第1の中央部の後方に、舳先の方へ傾斜した上部舳先部に連続する湾曲した凹状の舳先部を有する他の中央部が位置している。球状船首用のこの設計思想は一般に受け入れられており、数十年間使用されている。
【0003】
しかしながら、一般的な球状船首構成から逸脱した多くの設計概念が試行されているが、実際に成功してはいない。さらに、従来の球状船首を使用せずに、流れ抵抗特性の改善を目的とする多数の構成が提案されている。たとえば、国際特許出願公開第0017042号は、平底船の流れ条件を改善することを目的とする比較的新しい種類の概念を提示しており、修正された種類の「球状船首」を使用することが提案されている。
【0004】
さらに、ヨーロッパ特許第1314639号明細書は、舳先がほぼ鉛直方向に延び、球状船首が舳先に隣接して両船体側面と一体化され、舳先と球状船首との交差位置が球状船首の最も前方まで突き出た部分に隣接して位置する航洋船用の船体を提示している。流れ条件を改善する可能性のある新しい設計概念を見つける多数の異なる試みを示す多くの他の様々な構成が公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、航洋船用の流れ条件を改善し、請求項1による航洋船用の船体によって実現される新しい設計概念を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この新しい設計概念によって、船舶の設計喫水線の全長がよりうまく活用され、流れ抵抗が弱まる。ほぼ鉛直な舳先が本来公知であることを考慮すれば、この新しい概念は一見したところでは些細な概念に思えるかもしれないが、実現される複合的な利点を考慮すると、本発明の相乗結果が当業者にとって驚くべき結果とみなさなければならないものであることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による船舶の一部の側面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿った水平断面図である。
【図3】図1の線IIIに沿った鉛直断面図である。
【図4】図1の線IV−IVに沿った鉛直断面図である。
【図5】図1の線V−Vに沿った鉛直断面図である。
【図6】図1の線VI−VIに沿った水平断面図である。
【図7】本発明による船舶の修正側面図である。
【図8】本発明による他の変形実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1には、前部の所で舳先3によって結合された右舷側の船体側面2および左舷側の船体側面8を有する、本発明に係る船舶1の前部が示されている。底部は、平坦であるか、あるいは船底勾配を有し、所定のビルジ半径の所でビルジと合体している。容積中心6Cを有する球状船首6が、船舶1の意図された喫水線5、すなわち設計喫水Dより下で(または喫水線5の高さから始まるように)舳先3と一体化されて配置されている。球状船首6の容積中心6Cは、船底線および意図された喫水線5の間の中央の線に隣り合う海水面上に位置しており、舳先3と船底線との間の遷移ゾーン内に、少なくとも設計喫水Dの1/3より大きく、好ましくは約D±10%である、大きい半径rf(図1と同様に側面から見たときの球状船首の底部周囲の半径)を有している。球状船首は、右舷側の船体側面2に沿って延びる第1の半部6Aと左舷側の船体側面8に沿って延びる第2の半部6Bとによって形成されている。2つの半部6A,6Bは、船舶1の鉛直中心面Pに対して対称的に延びている。
【0009】
舳先3は、ほぼ鉛直方向に延びており、球状船首6の容積中心6Cの前方の位置30で、好ましくはまた図1の実施形態に示されているように球状船首6の前方に最も突き出た部分60にほぼ相当する位置で、舳先3が球状船首6に結合されるように、球状船首6に対して位置している。
【0010】
船舶1の長さL、すなわちLppに関して(Lppは、Ap(船尾の鉛直面)からFp(船首の鉛直面)までの長さであり、Fpは通常、舳先3が球状船首に当接する点とみなされる)、球状船首の長さCは通常、L×0.035<C<L×0.05の範囲内である。球状船首の最大鉛直長さDは通常、設計喫水×0.9<D<設計喫水×1.1の範囲内である。(船舶1の設計喫水は、基準線と設計喫水線との間の距離である)。
【0011】
図2には、船舶1についての、図1の線II−IIに沿った水平断面図が示されている。この断面図は、球状船首6の前部の曲率半径Rが通常、0.2×設計喫水<R<0.25×設計喫水の範囲内であることを示している。また、図2は、球状船首6の船尾側に、船体側面2,8が、水平面において分岐するように配置されていることを示している。
【0012】
図6は、図1の線VI−VIに沿った水平断面図、すなわち、図2に示されている断面図より上方の断面図を示している。ここでは、各船体側面2,8を鉛直面Pに対する鋭角の水線入射角γを有するように配置することによって舳先3が比較的鋭角に形成されることが明確に示されている。通常、舳先3の各船体側面2,8の水線角度γは10度<γ<20度の範囲内である。船体側面2,8より下の、舳先3の近くで、球状船首部6A、6Bが船体側面2,8によって区画される領域の外側に突き出ていることに留意されたい。
【0013】
図3には、船舶1の、図1中の線III−IIIに沿った断面図が示されている。この断面図は、鉛直面P内の球状船首の曲率半径rが通常、0.13×船幅<r<0.16×船幅の範囲内であることを示している(船幅とは最も広い点または船舶の長さの中点での船舶の幅である)。また、この断面図は、本発明の好ましい実施形態によれば、球状船首6より上方の船体側面2,8が鉛直面Pに対して比較的鋭い角度β、たとえば5°〜25°で延びていることを示している。すなわち、いくつかの実施形態では、角度βは、少なくとも部分的に零に近く、すなわち、荒れた海で船舶1の船首底衝撃(pounding)を低減させるうえで有利である場合があるほぼ鉛直の船体側面2,8を形成する角度であってよい。図4に示されている断面図は、船体側面2,8が船体中央部に近づくにつれてより鋭い角度βで延びていること、すなわち、この実施形態では角度βが前部の近くではより鈍角になることを示している。
【0014】
図5は、上向きに分岐し、それによって、たとえばより広い甲板面4を形成するように配置された船体側面2,8を有する、球状選手の後方の断面構成を示している。
【0015】
本発明による構成によって多数の相乗的な利点が得られる。第1に、船体側面2,8と一緒に比較的鋭い角度γを形成するほぼ鉛直な舳先3を使用すると、小さい抵抗によって、特に波に当たることに関して水を制動することが可能になる。この利点は、鋭角に形成された鉛直な船体側面2,8を使用することによって向上し、したがって、波に当たることによって生じる反力が船舶1の推進力の方向に及ぼす影響が弱くなる。さらに、球状船首6は、船舶1の流れ抵抗を改善する流れパターンを喫水線5より下に形成するのを助ける。最後に、舳先3を球状船首の前部60とほぼ揃うように位置させると、従来のように球状船首を位置させる場合と比べて喫水線が長くなり、船舶1の流れ抵抗に対して良い影響をもたらす。
【0016】
したがって、本発明による構成は、細長い喫水線を有し、それによって、海水に面する容積の潜水が時間の経過とともに分散され、減速力がかなり弱くなる船首を実現する。この解決策は波の反射を弱めて波による船首底衝撃(slamming)を無くし、向い波での速度損失が、たとえば内部容積の分散が向上することによって著しく少なくなる。
【0017】
この構成は、たとえば、加速および減速の回数の減少、甲板上の青波の量の削減、船首および上部構造の前部バルクヘッドへの悪天候時の損傷のリスクの最小化、安全性および作業性の改善に結びつく船上の作業環境の改善、騒音および振動の低減、並びに船首の平滑化など、多数の利点をもたらす。
【0018】
【表1】

【0019】
表1は、比較試験の結果を示している。
【0020】
表1を見ると分かるように、本発明による構成によって顕著な利点が得られる。簡単に言えば、従来の船首で波浪中速度を0.1ノット上げる(すなわち、速度損失を補償する)には、12ノットにおいて3.5%高い投入動力である36kWがさらに必要である。したがって、この新しい構成は、燃料消費量を著しく低減させ、コストの節約および貯蔵量の増加をもたらす。
【0021】
図7には、舳先3を鉛直線からわずかにずれた角度αで配置することができ、また、舳先3が球状船首6と合流する位置30を球状船首6の前部60に対してわずかに、より好ましくは0.1Rより小さいX、ずらすことができることが示されている。
【0022】
図8には、本発明による他の変形実施形態が示されており、この場合、舳先3はやはり鉛直線からわずかにずれているが、図7の実施形態とは逆の方向の角度でずれている。また、図8には、舳先3と球状船首6の合流点30も図7とは逆方向に広がりXだけずれてよいことが示されている。図7および8が、図1に示されている好ましい実施形態から逸脱した実施形態を示していることは明白であるが、この場合も本発明による実質的な利点が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右舷側の船体側面(2)と左舷側の船体側面(8)と甲板(4)とを備えるとともに、ほぼ鉛直方向に延びている舳先(3)を有し、球状船首(6)が、前記舳先(3)に隣接する前記右舷側の船体側面(2)および前記左舷側の船体側面(8)と一体化され、それによって前記舳先(3)と前記球状船首(6)との交点(30)の位置が、前記球状船首(6)の前方に最も突き出た部分(60)に隣接して位置する、航洋船用の船体において、
前記球状船首(6)は、設計喫水の0.9倍よりも大きく設計喫水の1.1倍よりも小さい範囲内にある前記球状船首の最大鉛直長さ(D)と、設計喫水の0.2倍よりも大きく設計喫水の0.25倍よりも小さい範囲内にある、前記球状船首(6)の前方部分における曲率半径(R)と、を有する球状の形であり、前記球状船首(6)より上側の前記各船体側面(2,8)は、10度よりも大きく20度よりも小さい範囲内にある鋭角な水線入射角度(γ)を形成していることを特徴とする船体。
【請求項2】
鉛直面(P)内の前記球状船首(6)の曲率半径(r)は船幅の0.13倍よりも大きく船幅の0.16倍よりも小さい範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載の船体。
【請求項3】
前記球状船首(6)より上側の前記各船体側面(2,8)は、鉛直面(P)に関して、0度よりも大きく30度よりも小さい間隔、好ましくは5度から25度までの間隔内にある比較的鋭い角度(β)を形成するように上向きに延びていることを特徴とする、請求項1または2に記載の船体。
【請求項4】
前記舳先(3)は、鉛直線に関して−10度よりも大きく+10度よりも小さい範囲内にある角度(α)を形成するように延びていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の船体。
【請求項5】
前記舳先(3)と前記球状船首(6)との前記交点(30)は、0以上で前記曲率半径(R)の0.1倍よりも小さい範囲の距離(X)の中に配置されており、前記距離(X)は、前記球状船首(6)の最前面(60)の鉛直接線と、前記球状船首(6)と前記舳先(3)の間の交差点である最前点(30)を通る鉛直線と、の間に形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の船体。
【請求項6】
右舷側の船体側面(2)と左舷側の船体側面(8)と甲板(4)とを備えるとともに、ほぼ鉛直方向に延びている舳先(3)を有し、球状船首(6)が、前記舳先(3)に隣接する前記右舷側の船体側面(2)および前記左舷側の船体側面(8)と一体化され、それによって前記舳先(3)と前記球状船首(6)との交点(30)の位置が、前記球状船首(6)の前方に最も突き出た部分(60)に隣接して位置する、航洋船用の船体の製造方法であって、
前記球状船首(6)は、設計喫水の0.9倍よりも大きく設計喫水の1.1倍よりも小さい範囲内にある前記球状船首の最大鉛直長さ(D)と、設計喫水の0.2倍よりも大きく設計喫水の0.25倍よりも小さい範囲内にある、前記球状船首(6)の前方部分における曲率半径(R)と、を有する球状の形で設けられ、前記球状船首(6)より上側の前記各船体側面(2,8)は、10度よりも大きく20度よりも小さい範囲にある鋭角な水線入射角度(γ)を形成することを特徴とする方法。
【請求項7】
鉛直面(P)内の前記球状船首(6)の曲率半径(r)は船幅の0.13倍よりも大きく船幅の0.16倍よりも小さい範囲内で設けられることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記球状船首(6)より上側の前記各船体側面(2,8)は、鉛直面(P)に関して、0度よりも大きく30度よりも小さい間隔、好ましくは5度から25度までの間隔内にある比較的鋭い角度(β)を形成するように上向きに延びるように設けられることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記舳先(3)は、鉛直線に関して−10度よりも大きく+10度よりも小さい範囲内にある角度(α)を形成するように延びるように設けられることを特徴とする、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記舳先(3)と前記球状船首(6)との交点(30)は、0以上で前記曲率半径(R)の0.1倍よりも小さい範囲の距離(X)に設けられ、前記距離(X)は、前記球状船首(6)の最前面(60)の鉛直接線と、前記球状船首(6)と前記舳先(3)の交点である最前点(30)を通る鉛直線と、の間に形成されることを特徴とする、請求項6から9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−517931(P2012−517931A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549725(P2011−549725)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国際出願番号】PCT/IB2010/050695
【国際公開番号】WO2010/092560
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511199675)ロールス−ロイス マリーン アクティーゼルスカブ (1)
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE MARINE AS