説明

環境ホルモンで汚染された土壌又は水の浄化方法及びシステム

【課題】環境ホルモンで低濃度、広範囲に汚染された土壌又は水環境を浄化するのに好適な、低コストで実用的な方法を提供する。
【解決手段】環境ホルモンで汚染された土壌又は水を浄化する方法において、シソ科植物を前記土壌で栽培するか又は前記水を培地として用いてシソ科植物を水耕栽培し、これにより前記土壌又は水中の環境ホルモンを前記シソ科植物に吸収及び分解させること、及び前記シソ科植物が、サルビア属の植物、オリガヌム属の植物、ティムス属の植物、ハッカ属の植物、マンネンロウ属の植物、ウツボグサ属の植物、サツレヤ属の植物、アガスタケ属の植物、イヌハッカ属の植物、ヤマハッカ属の植物、ラヴァンデュラ属の植物、マルビウム属の植物、及びラミウム属の植物からなる群から選択されることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールAやダイオキシン類等の環境ホルモンで汚染された土壌又は水をサルビア属、オリガヌム属などのシソ科(Lamiaceae)の植物によって浄化する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAやダイオキシン類に代表される環境ホルモンは内分泌撹乱化学物質とも呼ばれ、生体の恒常性、生殖、発生、又は行動に関与するエストロゲン、アンドロゲン、甲状腺ホルモンなどの種々の生体ホルモンの合成、分泌、生体内輸送、受容体への結合やその作用等、生体ホルモンの関与する諸過程を撹乱する物質である。環境ホルモンは大部分が人工の化学物質であり、その由来は工業原料等である。例えば、ビスフェノールAはプラスチックの原材料として用いられ、プラスチック工場の廃水に多く含まれるほか、廃棄物処分場から出る浸出水にも多量に含まれている。また、ダイオキシン類はトリクロロフェノール製造の際の副産物であり、ごみ焼却施設の焼却灰や集塵灰にも含まれている。さらに、フタル酸エステルは優れた可塑剤であり、現在生産されている全可塑剤の約85%を占める。従って、これらの環境ホルモンは工場排水や廃棄物を介して土壌や河川、湖沼等の水環境へ流出する可能性が高く、今後人類や生態系に対して大きな被害を及ぼすことが懸念されている。
【0003】
一方、これらの環境ホルモンを除去する方法として幾つかの方法が現在知られている。例えば、ビスフェノールAを除去する方法としては活性炭による吸着法が知られている。しかし、この方法は使用後の活性炭を再生するのに莫大なコストがかかり、実用的でない。また、ダイオキシン類を分解除去する方法としては、溶融固化処理法、加熱脱塩素化処理法、ペレット化焼成法、光分解法、化学分解法などが知られている。しかし、これらの方法は工場内などの限られた範囲内に存在する高濃度のダイオキシン類を分解除去するには効率がよく好適であるが、土壌や水などの低濃度のダイオキシン類で広範囲に汚染された環境を浄化するために使用することは不可能であるか又は極めて莫大なコストがかかり、到底実用的でない。さらに、ビスフェノールAを含む水でタバコの苗を水耕栽培することによりビスフェノールAをタバコ植物によって吸収分解させる方法も知られているが(非特許文献1)、その吸収率は4時間の水耕栽培で27%程度であり、またこの吸収もタバコ根表面への初期吸着によるものが殆どで、植物体中に能動的に取り込まれたものではなく、実用的なレベルの浄化技術とは到底言えない。
【非特許文献1】N.Nakajima,et al.,“Processing of Bisphenol A by Plant Tissues:Glucosylation by Cultured BY−2 Cell and Glucosylation/Translocation by Plants of Nicotiana tabacum”,Plant Cell Physiol.43(9):1036−1042(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は環境ホルモンで低濃度、広範囲に汚染された土壌又は水環境を浄化するのに好適な、低コストで実用的な方法、及びかかる方法を実施するための具体的なシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはかかる課題を解決するため、環境ホルモンを高レベルで吸収分解する能力を有する植物について鋭意検討した結果、園芸植物として知られるサルビア属の植物やハーブとして知られるオリガヌム属の植物を含むシソ科植物が種々の環境ホルモンを迅速に吸収分解することを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明によれば、環境ホルモンで汚染された土壌又は水を浄化する方法において、シソ科植物を前記土壌で栽培するか又は前記水を培地として用いてシソ科植物を水耕栽培し、これにより前記土壌又は水中の環境ホルモンを前記シソ科植物に吸収及び分解させること、及び前記シソ科植物が、サルビア属(Salvia)の植物、オリガヌム属(Origanum)の植物、ティムス属(Thymus)の植物、ハッカ属(Mentha)の植物、マンネンロウ属(Rosmarinus)の植物、ウツボグサ属(Prunella)の植物、サツレヤ属(Satureja)の植物、アガスタケ属(Agastache)の植物、イヌハッカ属(Nepeta)の植物、ヤマハッカ属(Melissa)の植物、ラヴァンデュラ属(Lavandula)の植物、マルビウム属(Marrubium)の植物、及びラミウム属(Lamium)の植物からなる群から選択されることを特徴とする方法が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、環境ホルモンで汚染された土壌、及びその土壌の上に植栽されたシソ科植物を含む土壌浄化システムであって、前記土壌中の環境ホルモンを前記シソ科植物に吸収及び分解させ、これにより環境ホルモンに汚染された土壌を浄化すること、及び前記シソ科植物が、サルビア属(Salvia)の植物、オリガヌム属(Origanum)の植物、ティムス属(Thymus)の植物、ハッカ属(Mentha)の植物、マンネンロウ属(Rosmarinus)の植物、ウツボグサ属(Prunella)の植物、サツレヤ属(Satureja)の植物、アガスタケ属(Agastache)の植物、イヌハッカ属(Nepeta)の植物、ヤマハッカ属(Melissa)の植物、ラヴァンデュラ属(Lavandula)の植物、マルビウム属(Marrubium)の植物、及びラミウム属(Lamium)の植物からなる群から選択されることを特徴とする土壌浄化システムが提供される。
【0008】
さらに、本発明によれば、環境ホルモンで汚染された水を内部に保持する容器、及びその水に根の部分を浸漬されたシソ科植物を含む水浄化システムであって、前記水中の環境ホルモンを前記シソ科植物に吸収及び分解させ、これにより環境ホルモンで汚染された水を浄化すること、及び前記シソ科植物が、サルビア属(Salvia)の植物、オリガヌム属(Origanum)の植物、ティムス属(Thymus)の植物、ハッカ属(Mentha)の植物、マンネンロウ属(Rosmarinus)の植物、ウツボグサ属(Prunella)の植物、サツレヤ属(Satureja)の植物、アガスタケ属(Agastache)の植物、イヌハッカ属(Nepeta)の植物、ヤマハッカ属(Melissa)の植物、ラヴァンデュラ属(Lavandula)の植物、マルビウム属(Marrubium)の植物、及びラミウム属(Lamium)の植物からなる群から選択されることを特徴とする水浄化システムが提供される。
【0009】
本発明の上記方法又はシステムの好ましい実施態様によれば、上記シソ科植物はサルビア・スクラレア(Salvia sclarea)、サルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)、サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)、サルビア・パテンス(Salvia patens)、サルビア・ブレヤナ(Salvia bulleyana)、サルビア・ネモローサ(Salvia nemorosa)、サルビア・ラヴァンドゥリフォリア(Salvia lavandulifolia)、サルビア・アムプレキシカウリス(Salvia amplexicaulis)、サルビア・トランシルバニカ(バウムガルテニイ)(Salvia transsylvanica(baumgartenii))、サルビア・プラテンシス(Salvia pratensis)、サルビア・プレゼワルスキー(Salvia przewalskii)、サルビア・ヒアンス(Salvia hians)、サルビア・ヴェルチシラータ(Salvia verticillata)、サルビア・リンゲンス(Salvia ringens)、サルビア・フォルスカオレイ(Salvia forskaohlei)、サルビア・ネモローサ ssp.テスキコーラ(Salvia nemorosa ssp.tesquicola)、サルビア・アルゲンテア(Salvia argentea)、サルビア・スプレンデンス(Salvia splendens)、サルビア・ジュリシチイ(Salvia jurisicii)、オリガヌム・ヴルガーレ(Origanum vulgare)、ティムス・ヴルガリス(Thymus vulgaris)、メンタ・スピカータ(Mentha spicata)、ロスマリヌス・オフィシナリス(Rosmarinus officinalis)、プルネラ・ヴルガリス(Prunella vulgaris)、サツレヤ・モンターナ(Satureja montana)、アガスタケ・フォエニクルム(Agastache foeniculum)、ネペタ・カタリア(Nepeta cataria)、メリッサ・オフィシナリス(Melissa officinalis)、ラヴァンデュラ・ストエカス(Lavandula stoechas)、マルビウム・ヴルガーレ(Marrubium vulgare)、又はラミウム・マクラツム(Lamium maculatum)であり、上記環境ホルモンはビスフェノールA又はダイオキシン類である。
【0010】
さらに、本発明によれば、ダイオキシン類で汚染された水を内部に保持する容器、及びその水に根の部分を浸漬されたサルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)を含む水浄化システムであって、明条件下で前記サルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)にダイオキシン類を脱塩素分解させて無毒化し、これによりダイオキシン類で汚染された水を浄化することを特徴とする水浄化システムが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境ホルモンで汚染された土壌でサルビア属、オリガヌム属、ティムス属、ハッカ属、マンネンロウ属、ウツボグサ属、サツレヤ属、アガスタケ属、イヌハッカ属、ヤマハッカ属、ラヴァンデュラ属、マルビウム属、及びラミウム属からなる群から選択されるシソ科植物(以下、本発明のシソ科植物とも称する)を栽培することにより、汚染された土壌に含まれるビスフェノールA、ダイオキシン類等の環境ホルモンをこれらの植物に迅速に吸収分解させることができるので、環境ホルモンで汚染された土壌を効率的に浄化することができる。特に、本発明の浄化方法で用いるシソ科植物は、同様の環境ホルモン吸収分解能力があることが従来知られている他の植物よりも環境ホルモン吸収分解能力が著しく高いため、従来の浄化技術ではコスト面から不向きとされていた低濃度、広範囲に環境ホルモンで汚染された土壌の浄化に極めて有効である。また、シソ科植物は一般に園芸植物として栽培方法が十分確立しており、植栽やメンテナンスに特別な技術を必要としないため、ランニングコストが極めて低い。特にシソ科植物の中でも美しい花を咲かせる園芸植物として知られるサルビアや各種のセージやフレンチラベンダーを用いれば、景観保護と土壌浄化を同時に行うことができる。また、本発明の方法は実際に環境ホルモンで汚染された土壌を対象とするのみならず、化学工場やごみ処分場の周辺等の環境ホルモンで汚染される可能性がある土壌に例えば花壇を設けて予めサルビアや各種のセージやフレンチラベンダーを植栽する等の態様で予防的に実施することもできる。また、工場排水等の環境ホルモンを含む水を培地として本発明のシソ科植物を水耕栽培する水浄化システムを確立することにより、本発明の浄化方法は環境ホルモンで汚染された土壌のみならず環境ホルモンで汚染された水の浄化にも使用することができる。特に、本発明の浄化方法によれば、ダイオキシン類で汚染された水を培地としてサルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)を明条件下で水耕栽培することにより、ダイオキシン類を無害な物質にまで脱塩素分解することができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の浄化方法及びシステムは、サルビア属、オリガヌム属、ティムス属、ハッカ属、マンネンロウ属、ウツボグサ属、サツレヤ属、アガスタケ属、イヌハッカ属、ヤマハッカ属、ラヴァンデュラ属、マルビウム属、及びラミウム属からなる群から選択されるシソ科植物の環境ホルモンを吸収分解する能力を利用するものである。上述の属のうち、サルビア属(Salvia)はアキギリ属とも称され、世界中の熱帯から温帯にかけて広く分布する植物である。サルビア属の植物としては、ヒゴロモソウとしても知られるサルビア(サルビア・スプレンデンス(Salvia splendens))、コモンセージ(サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis))、シルバーセージ(サルビア・アルゲンテア(Salvia argentea))、クラリーセージ(サルビア・スクラレア(Salvia sclarea))等のセージの仲間、アキノタムラソウ(サルビア・ジャポニカ(Salvia japonica))、キバナアキギリ(サルビア・ニッポニカ(Salvia nipponica))等の日本に自生する山野草を挙げることができる。また、オリガヌム属、ティムス属、ハッカ属、マンネンロウ属、ウツボグサ属、サツレヤ属、アガスタケ属、イヌハッカ属、ヤマハッカ属、ラヴァンデュラ属、マルビウム属、及びラミウム属も世界中の熱帯から温帯にかけて広く分布する植物であり、その代表例はそれぞれオレガノ(オリガヌム・ヴルガーレ(Origanum vulgare))、コモンタイム(ティムス・ヴルガリス(Thymus vulgaris))、スペアミント(メンタ・スピカータ(Mentha spicata))、マンネンロウ(ロスマリヌス・オフィシナリス(Rosmarinus officinalis))、西洋ウツボグサ(プルネラ・ヴルガリス(Prunella vulgaris))、ウインターセイボリー(サツレヤ・モンターナ(Satureja montana))、アニスヒソップ(アガスタケ・フォエニクルム(Agastache foeniculum))、キャットミント(ネペタ・カタリア(Nepeta cataria))、レモンバーム(メリッサ・オフィシナリス(Melissa officinalis))、フレンチラベンダー(ラヴァンデュラ・ストエカス(Lavandula stoechas))、ホアハウンド(マルビウム・ヴルガーレ(Marrubium vulgare))、及びラミウム(ラミウム・マクラツム(Lamium maculatum))である。
【0013】
本発明の浄化方法及びシステムで用いるシソ科植物は、環境ホルモンの浄化能力を有するものであればいかなる植物であることができるが、例えばサルビア・スクラレア(Salvia sclarea)、サルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)、サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)、サルビア・パテンス(Salvia patens)、サルビア・ブレヤナ(Salvia bulleyana)、サルビア・ネモローサ(Salvia nemorosa)、サルビア・ラヴァンドゥリフォリア(Salvia lavandulifolia)、サルビア・アムプレキシカウリス(Salvia amplexicaulis)、サルビア・トランシルバニカ(バウムガルテニイ)(Salvia transsylvanica(baumgartenii))、サルビア・プラテンシス(Salvia pratensis)、サルビア・プレゼワルスキー(Salvia przewalskii)、サルビア・ヒアンス(Salvia hians)、サルビア・ヴェルチシラータ(Salvia verticillata)、サルビア・リンゲンス(Salvia ringens)、サルビア・フォルスカオレイ(Salvia forskaohlei)、サルビア・ネモローサ ssp.テスキコーラ(Salvia nemorosa ssp.tesquicola)、サルビア・アルゲンテア(Salvia argentea)、サルビア・スプレンデンス(Salvia splendens)、サルビア・ジュリシチイ(Salvia jurisicii)、オリガヌム・ヴルガーレ(Origanum vulgare)、ティムス・ヴルガリス(Thymus vulgaris)、メンタ・スピカータ(Mentha spicata)、ロスマリヌス・オフィシナリス(Rosmarinus officinalis)、プルネラ・ヴルガリス(Prunella vulgaris)、サツレヤ・モンターナ(Satureja montana)、アガスタケ・フォエニクルム(Agastache foeniculum)、ネペタ・カタリア(Nepeta cataria)、メリッサ・オフィシナリス(Melissa officinalis)、ラヴァンデュラ・ストエカス(Lavandula stoechas)、マルビウム・ヴルガーレ(Marrubium vulgare)、又はラミウム・マクラツム(Lamium maculatum)であることができる。
【0014】
また、本発明の水浄化システムによりダイオキシン類で汚染された水を浄化する場合は、この中でも明条件下でダイオキシン類を脱塩素分解して無毒化することができるサルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)(サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)の一変種)を用いることが特に好ましい。
【0015】
本発明の浄化方法又はシステムで吸収分解対象とする環境ホルモンとしては、内分泌撹乱作用を有する化学物質であればその化学構造、由来を問わずいかなる環境ホルモンも対象とすることができるが、例えばプラスチックの原材料として用いられるビスフェノールAやごみ焼却施設の焼却灰や集塵灰に含まれるダイオキシン類であることができる。それ以外の環境ホルモンとしては、co−PCB、界面活性剤の原材料として用いられるノニルフェノール、オクチルフェノール、屎尿処理場から放出され、環境中で女性ホルモンとして作用するエストラジオール(βエストラジオール)、可塑剤として用いられるフタル酸エステル、医療品合成の原材料として用いられるベンゾフェノン、殺虫剤として用いられるDDT、DDEなどが考えられる。これらの環境ホルモンは単独で土壌又は水に含まれている必要はなく、二種以上の環境ホルモンが土壌又は水に含まれていてもよい。環境ホルモンを含む土壌又は水、つまり環境ホルモンで汚染された土壌又は水としては、例えばこれらの環境ホルモンが原材料等として用いられている工場からの廃棄物の処分場周辺の土壌や、上記工場からの工場排水が想定される。
【0016】
本発明の浄化方法は、浄化対象が環境ホルモンで汚染された土壌である場合、前記土壌の上に本発明のシソ科植物を植栽して栽培することによって実施することができる。土壌への植栽は通常、本発明のシソ科植物の種子を播種することによって行えばよく、種子ができにくい植物を用いる場合は挿し芽などの株分けによって行えばよい。また、浄化効果を早急に得たい場合は別の土壌で、ある程度生長させた苗を準備又は購入して浄化対象の土壌に移植すればよい。いずれの方法においても、本発明のシソ科植物の土壌への植栽前に土壌の耕起や肥料の施肥を必要により適宜行うことは言うまでもない。
【0017】
本発明の浄化方法は、浄化対象が環境ホルモンで汚染された水である場合、前記水を培地として用いて本発明のシソ科植物を水耕栽培することによって実施することができる。具体的には、容器に環境ホルモンで汚染された水を入れ、その水に適当な大きさまで生長させた本発明のシソ科植物の根の部分を浸漬させ、環境ホルモンで汚染された水を培地として本発明のシソ科植物を培養すればよい。培養条件はそれぞれの植物について好適な条件を適宜設定すればよいが、通常、白色蛍光灯の連続照射下で25℃の培養条件が用いられる。環境ホルモンで汚染された水を浄化するのに必要な培養時間は、培地中の環境ホルモンの初期濃度や培養する本発明のシソ科植物の種類及び植え込み量(植物体重量)などによって異なるので、実験により必要な培養時間を適宜設定すればよい。
【0018】
本発明の浄化方法の一実施態様によれば、浄化対象がダイオキシン類で汚染された水である場合、前記水を培地として用いてサルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)を明条件下で水耕栽培することにより、ダイオキシン類を脱塩素分解して無毒化することができる。なお、ここでいう明条件とは植物の根(地下部)に光が照射される条件をいう。水耕栽培は明条件で連続的に行う必要はなく、暗条件と適宜組合せて、例えば明条件12時間と暗条件12時間の繰返しで行うことができる。本発明のこの実施態様によれば、ダイオキシン類は単に水から植物体中に吸収されて濃縮されるのみならず、植物体中で無害な物質にまで脱塩素分解される。従って、本発明のこの実施態様によれば、水耕栽培後の植物体をダイオキシン類分解のためのさらなる処理に供する必要はなく、植物体はそのまま焼却等の通常の方法で廃棄処分されることができる。
【実施例】
【0019】
以下の実施例により本発明で使用するシソ科植物の環境ホルモン吸収分解能力を具体的に示す。なお、実施例の記載は純粋に発明の理解のためのみに挙げるものであり、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0020】
実施例1:サルビア属の植物のビスフェノールA吸収分解能力の評価
植物材料
本発明のサルビア属の植物として以下の表1の下側に示す25種類の植物(サルビア及び各種のセージ)を用いた。また、比較対象として、以下の表1の上側に示す20種類の様々な属の園芸植物を用いた。これらの植物はホームセンターで販売されているものを入手して一定期間栽培して状態調節した後、試験に供した。なお、本願明細書の実施例中、試験に供した植物の個体数は明記しない限り5個体であり、示したデータは5個体の平均値である。
【0021】
【表1】

【0022】
ビスフェノールA吸収分解能力の評価方法
ビスフェノールAの吸収分解能力の評価は、以下の手順で行った。
(1) 試験植物の全草を水道水で良く洗い、土を完全に落とす。
(2) 培地として1000倍希釈したハイポネックスに40μMのビスフェノールAを添加した水を調製し、この培地を植物重量1g当たり15mlの量でビーカーに入れ、そこに試験植物を、根の部分が完全に水に浸漬される一方葉部が空気中に出るように配置し、アルミ箔でビーカーの口を覆った。
(3) この水耕栽培システムを白色蛍光灯の連続照射下、25℃で3日間培養した。
(4) 3日後、培地を採取し、以下の表2に示す条件の高速液体クロマトグラフィーで培地中のビスフェノールAの残存濃度を測定した。また、3日間培養後の各植物体を超音波破砕し、クロロホルムで抽出後エタノールに溶解し、同様の条件の高速液体クロマトグラフィーで植物体中のビスフェノールAの残存濃度を測定した。
【0023】
【表2】

【0024】
次に、ビスフェノールAの添加量及び培地中のビスフェノールAの残存量からビスフェノールAの吸収率(%)を以下の式に従って計算した。
ビスフェノールAの吸収率=100−(培地中のビスフェノールAの残存量/ビスフェノールAの添加量)×100
【0025】
また、ビスフェノールAの添加量、植物体中のビスフェノールAの残存量、及び培地中のビスフェノールAの残存量からビスフェノールAの分解率(%)を以下の式に従って計算した。
ビスフェノールAの合計残存量=植物体中のビスフェノールAの残存量+培地中のビスフェノールAの残存量
ビスフェノールAの残存率=(ビスフェノールAの合計残存量/ビスフェノールAの添加量)×100
ビスフェノールAの分解率=100−ビスフェノールAの残存率
【0026】
結果を以下の表3に示す。また、残存したビスフェノールA(BPA)のうち、植物体中の残存BPA量と培地中の残存BPA量の添加量に対する割合(%)を図1に示す。
【表3】

【0027】
表3の吸収率の値から明らかな通り、サルビア属の植物は培地中に添加されたビスフェノールAをほぼ完全に(平均で94%)吸収したのに対し、比較例の植物は平均で47%しか吸収せず、平均で53%ものビスフェノールAが培地中に残存していた。また、分解率についてみても、サルビア属の植物はビスフェノールAをほぼ完全に(平均で94%)分解したのに対し、比較例の植物は平均で36%しか分解しなかった。この結果から、サルビア属の植物は、比較例の植物よりも遥かに高いビスフェノールA吸収分解能力を有することが明らかである。特に図1からわかる通り、サルビア属の植物はビスフェノールAの吸収能力に優れるのみならず、分解能力にも優れており、植物体内に取り込んだビスフェノールAは植物体内にそのまま蓄積されるのではなく、完全に(s20以外のすべてのサンプル)又はほぼ完全に(s20)分解される。従って、土壌栽培や水耕栽培を行って土壌又は水を浄化した後のサルビア属の植物にはビスフェノールAは分解されてしまってほとんど含まれていないので、利用済みの植物体は焼却、堆肥化等の通常の方法で処分もしくは処理地で放置することができ、利用済みの植物体の処分に新たなコストがかかることもない。
【0028】
実施例2:サルビア属の植物のダイオキシン類吸収分解能力の評価
実施例1からサルビア属の植物が優れたビスフェノールA吸収分解能力を有することが明らかになったので、サルビア属の植物が他の環境ホルモンについても同様に優れた吸収分解能力を有するかどうか調査した。本実施例で調査した環境ホルモンはT4CDD,O8CDD,T4CDF及びO8CDFの4種類のダイオキシン類であった。
【0029】
培地中の40μMのビスフェノールAを100pg/mlの上記の各種ダイオキシン類に変更し、培地の添加量を植物重量1g当たり5mlの量に変更した以外は実施例1のビスフェノールA吸収分解能力の評価方法と同様の手順で、サルビア属の植物を11日間培養した。用いたサルビア属の植物は、実施例1でビスフェノールAの吸収分解能力が特に高かったものから選択したs2,s27及びs28の3種類であり、各植物について10個体を試験した。11日後、培地を採取し、以下の手順で分析試料を調製した。この分析試料に基づいて以下の表4及び5に示す条件のGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により11日間の培養後の培地中のダイオキシン類の残存量を測定した。
【0030】
培地からの分析試料の調製
(1) 培地を300mLの分液漏斗に移し、クリーンアップスパイク(試料採取から抽出までの操作の結果を確認するために添加する内標準物質)を添加する。
(2) ジクロロメタン20mLを加えて3回抽出操作を行う。
(3) 供試植物の培養に用いた容器の内壁をアセトン30mLで3回洗い、洗液を(2)で得たジクロロメタン抽出液に加えて分析試料とする。
【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
また、11日間培養後の各植物から以下の手順で根(地下部)と茎葉(地上部)に分けて分析試料を調製し、この分析試料に基づいて表4及び5に示す条件のGC−MSにより11日間の栽培後の植物体中のダイオキシン類の残存量を根と茎葉についてそれぞれ測定した。
【0034】
供試植物からの分析試料の調製
(1) 培地から供試植物を引き上げ、少量の蒸留水で根についた培地を洗う。次に、供試植物を根と茎葉に分け、以下別々に処理する。
(2) 供試植物にクリーンアップスパイクを添加し、アセトン50mLを加えてホモジナイザーで粉砕する。
(3) 粉砕した試料をろ過し、残渣をアセトン5mLで3回洗浄して残渣に残った抽出液を洗い込む。
(4) 残渣は風乾後ソックスレー抽出器を用いてトルエンで16時間抽出する。
(5) (3)で得たろ液を300mL分液ロートに移し、ヘキサン洗浄水100mLとジクロロメタン20mLを加えて20分間振とう抽出を行う。抽出操作を更に2回実施し、ジクロロメタン層を脱水して(4)のソックスレー抽出で得たトルエン溶液と合わせて分析試料とする。
【0035】
また、ブランクとして植物体を培養しなかった培地を別に準備しておき、この培地から同様に分析試料を調製して培地中のダイオキシン類の残存量を測定した。ダイオキシン類の定量の場合、ビスフェノールAとは異なり、一旦培地又は植物体から分析試料を調製し、この試料をGC−MSにより分析することによって培地又は植物体中のダイオキシン類の量を求めるため、培地又は植物体から分析試料を調製する際にいくらかのダイオキシン類が損失してしまうことが避けられない。そこでブランクを別途準備し、ダイオキシン類の添加量をブランクの培地中のダイオキシン類の残存量で置換することにより、分析試料を調製する際のダイオキシン類の損失を補正した。
【0036】
結果を以下の表6及び図2に示す。
【表6】

(注)回収率:添加したダイオキシンの量を100とした時の培地、根及び
茎葉から回収された%
吸収率:100−培地での回収率
分解率:100−全体での回収率
【0037】
表6から明らかな通り、サルビア属の植物は培地中に添加されたダイオキシン類をほぼ完全に(72〜95%)吸収した。この結果から、サルビア属の植物はビスフェノールAのみならずダイオキシン類に対しても優れた吸収分解能力を有することが明らかである。
【0038】
また、ダイオキシン類の吸収分解能力を詳しく検討すると、3種類の植物サンプル間で一様ではなく、s2が他の2種とは異なる吸収分解能力を持つことがわかった。即ち、塩素原子を八つ有するいわゆる8塩素のダイオキシン類(O8CDD及びO8CDF)の分解率を見ると、s2(Salvia sclarea var.turkestanica’)が他の2種(s27(Salvia patens ‘Blue Angel’)及びs28(Salvia officinalis))よりかなり高い分解率を示していた(表6参照)。また、8塩素のダイオキシン類の回収率の内分けを見ると、s2では茎葉から回収されたダイオキシン類は他の2種(s27及びs28)とほぼ同量であるのに対し、根から回収されたダイオキシン類は他の2種より有意に低かった(図2参照)。これらの結果から、s2はダイオキシン類を吸収するのみならず、吸収したダイオキシン類を植物体内で分解しているのではないかと推察される(なお、塩素原子を四つ有するいわゆる4塩素のダイオキシン類(T4CDD及びT4CDF)の分解率についてはs2は他の2種より顕著に高くはないが、これは4塩素のダイオキシン類の分解速度が8塩素のダイオキシン類の分解速度より遅いためであると考えられ、s2は4塩素のダイオキシン類も分解していると考えられる)。また、その分解はs2の茎葉(地上部)ではなく根(地下部)において行われるのではないかと推察される。
【0039】
実施例3:s2によるダイオキシン類の分解の確認
実施例2の結果からs2はダイオキシン類を吸収するのみならず、吸収したダイオキシン類を植物体内で分解しているのではないかと推察されたため、このことを確認する試験を行った。
【0040】
実施例2と同様にs2に8塩素のダイオキシン類であるO8CDD及びO8CDFを与え、1週間培養して培地、根及び茎葉から回収されたダイオキシン類を分析してその合計量を求めた。なお、培地中のダイオキシン類の濃度及び植物重量当たりの培地の添加量は実施例2と同一であった。
【0041】
結果を図3に示す。図3からわかる通り、最初に与えた8塩素のダイオキシン類(O8CDD及びO8CDF)以外に、培地に添加していない7塩素のダイオキシン類(H7CDD及びH7CDF)、6塩素のダイオキシン類(H6CDD及びH6CDF)、及び5塩素のダイオキシン類(P5CDD及びP5CDF)が見出された。このことから、s2はダイオキシン類を分解すること、及びその分解様式は脱塩素による分解であることが明らかである。
【0042】
ダイオキシン類の毒性は塩素原子の数及び分子構造中の塩素原子の位置によって変わることが知られている。8塩素のダイオキシン類は全て毒性であるが、7塩素以下のダイオキシン類は分子構造中の塩素原子の位置によっては一部非毒性であり、3塩素以下のダイオキシン類は全て非毒性である。従って、s2がダイオキシン類を脱塩素分解するということはs2が毒性のあるダイオキシン類を例えば3塩素以下のダイオキシン類まで脱塩素分解して無害化する能力を有するということを意味する。それ故、s2を用いればダイオキシン類を環境から効率的に回収することができるのみならず、有毒なダイオキシン類を脱塩素分解により無毒化することができるという優れた効果を奏すると考えられる。
【0043】
また、回収された8塩素、7塩素、6塩素及び5塩素のダイオキシン類のうち、植物体の根から回収されたものと茎葉から回収されたものの割合をみると、以下の表7に示すように8塩素のダイオキシン類は根及び茎葉の両方から回収されたのに対し、7塩素、6塩素及び5塩素のダイオキシン類は根からのみ回収され、茎葉からは全く回収されなかった。この結果から、s2によるダイオキシン類の脱塩素分解は植物体の茎葉ではなく、根において特異的に行われることが証明される。
【0044】
【表7】

(注)回収率:添加したO8CDD量及びO8CDF量を100%とした時、
P5CDD,H6CDD,H7CDD,O8CDD及びP5C
DF,H6CDF,H7CDF,O8CDFとしてそれぞれ回
収された量をモル計算により%で示したもの。
【0045】
実施例4:s2によるダイオキシン類の脱塩素分解が行われる至適条件の調査
s2によるダイオキシン類の脱塩素分解が行われる至適条件を決定するための手始めとして、s2によるダイオキシン類の脱塩素分解が光によって影響を受けるかどうか調査した。
【0046】
25000pgのO8CDD又は25000pgのO8CDFを含む50mlの水を培地としてs2を以下に示す明条件又は暗条件で25℃で10日間培養して実施例2と同様の手順で培地、根及び茎葉からのダイオキシン類回収率を測定し、培地、根及び茎葉からの回収率の合計を求めた。これとは別に植物を培養しないブランクを準備してブランクの回収率を測定し、これを100%とした場合のそれに対する培地、根及び茎葉からの回収率の合計の比率を計算した。
明条件:根、茎葉ともに光を照射する明期間を12時間、根、茎葉ともに光を照射しない暗期間を12時間のサイクルで培養する。
暗条件:根、茎葉ともに常時光を照射しないで培養する。
結果を以下の表8に示す。
【0047】
【表8】

【0048】
表8から、O8CDD,O8CDFともに暗条件より明条件の方が回収率が低く、暗条件より明条件の方がダイオキシン類の脱塩素分解が行われやすいことが理解できる。特に、O8CDFについては暗条件では脱塩素分解は全く行われなかった。ここで、s2によるダイオキシン類の脱塩素分解は植物体の茎葉ではなく根において特異的に行われることが実施例3で証明されている。従って、s2にダイオキシン類の脱塩素分解を行わせることによりダイオキシン類を無毒化しようとする場合は、培養を植物体の根の部分に光が照射されるような明条件下で行うことが有利であると考えられる。
【0049】
実施例5:サルビア属の植物によるダイオキシン類汚染土壌の浄化試験
実施例1〜4では水耕栽培でのサルビア属の植物の環境ホルモン浄化能力を調査してきたが、本実施例では土壌栽培でのサルビア属の植物の環境ホルモン浄化能力を調査した。
【0050】
3塩素のダイオキシン類である2,3,7−T3CDD 500μgを2160mlのアセトンに溶解してダイオキシン類溶液を作成した。500mlトールビーカーに真砂土300gを加え、上記ダイオキシン類溶液を30ml添加して攪拌し、一晩放置してバーミキュライト30gを添加し、さらに撹拌して6900ng/gの模擬汚染土壌(土壌環境基準の6900倍濃度)を作成した。草丈約5cmのサルビア属の植物(s2)をビーカー1個に2本植え、1000倍に希釈したハイポネックスで適宜潅水しながら温室にて栽培した。2ヵ月後、植物体を土壌から抜き取り、土壌および植物体のそれぞれから実施例2と同様のソックスレー抽出によりダイオキシン類を抽出し、土壌中および植物体中のダイオキシン類量を以下の表9に示す条件のGC−MSにより測定した。対照として植物を植えず、植物を植えたものと同様に潅水したものを用意し、2ヵ月後同様に土壌からダイオキシン類の抽出・測定を行った。
【0051】
【表9】

【0052】
結果を以下の表10に示す。
【表10】

【0053】
表10から明らかな通り、2ヶ月後、最初に土壌中に添加したダイオキシン類の74%のみが土壌中から検出され、全体として26%のダイオキシン類が土壌中から除かれ浄化された。この結果からサルビア属の植物は水耕栽培のみならず、土壌で栽培しても優れたダイオキシン類浄化能力を有することが明らかである。
【0054】
実施例6:サルビア属を含む様々なシソ科植物によるダイオキシン類汚染土壌の浄化試験
実施例1〜5ではシソ科植物のうちサルビア属の植物の環境ホルモン浄化能力を調査してきたが、本実施例ではサルビア属を含む様々なシソ科植物の環境ホルモン浄化能力を調査した。
【0055】
8塩素のダイオキシン類であるO8CDD 480μgを2160mlのアセトンに溶解してダイオキシン類溶液を作成した。500mlトールビーカーに真砂土300gを加え、上記ダイオキシン類溶液を30ml添加して攪拌し、一晩放置してバーミキュライト30gを添加し、さらに撹拌して20.3ng/gの模擬汚染土壌を作成した。表11に示す12種類のサルビア属の植物(サンプルNo.1〜12)及び12種類のサルビア属以外のシソ科の様々な属の植物(サンプルNo.13〜24)(いずれも草丈約5cm〜10cm)をビーカー1個に1本植え、1000倍に希釈したハイポネックスで適宜潅水しながら温室にて栽培した。3ヵ月後、植物体を土壌から抜き取り、土壌および植物体のそれぞれから実施例2と同様のソックスレー抽出によりダイオキシン類を抽出し、土壌中および植物体中のダイオキシン類量を前述の表4及び表5に示す条件のGC−MSにより測定した。
【0056】
結果を以下の表11に示す。
【表11】

【0057】
表11から明らかな通り、試験した12種類のサルビア属の植物及び12種類のサルビア属以外のシソ科の植物は全て3ヶ月の浄化試験後の8塩素ダイオキシン類の土壌からの回収率が85%以下であり、極めて優れた浄化能力を有していた。この結果から、サルビア属以外のシソ科植物の中にも優れた環境ホルモン浄化能力を有するものが存在することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上の実施例から、本発明のシソ科植物がビスフェノールA及びダイオキシン類に代表される環境ホルモンに対して優れた吸収分解能力を示すこと、及び本発明のシソ科植物の中でもサルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)はダイオキシン類を明条件下で脱塩素分解する能力を有するため、環境からのダイオキシン類の回収のみならず、ダイオキシン類の無毒化にも用いることができることが明らかである。従って、本発明の浄化方法及びシステムは環境ホルモンで低濃度、広範囲に汚染された土壌又は水環境を効率的に浄化するために極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】比較対象の植物及びサルビア属の植物のビスフェノールA回収率を示す。
【図2】サルビア属の植物のダイオキシン類回収率を示す。
【図3】s2のダイオキシン類脱塩素分解能力を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境ホルモンで汚染された土壌又は水を浄化する方法において、シソ科植物を前記土壌で栽培するか又は前記水を培地として用いてシソ科植物を水耕栽培し、これにより前記土壌又は水中の環境ホルモンを前記シソ科植物に吸収及び分解させること、及び前記シソ科植物が、サルビア属(Salvia)の植物、オリガヌム属(Origanum)の植物、ティムス属(Thymus)の植物、ハッカ属(Mentha)の植物、マンネンロウ属(Rosmarinus)の植物、ウツボグサ属(Prunella)の植物、サツレヤ属(Satureja)の植物、アガスタケ属(Agastache)の植物、イヌハッカ属(Nepeta)の植物、ヤマハッカ属(Melissa)の植物、ラヴァンデュラ属(Lavandula)の植物、マルビウム属(Marrubium)の植物、及びラミウム属(Lamium)の植物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記シソ科植物が:
サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)、
サルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)、
サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)、
サルビア・パテンス(Salvia patens)、
サルビア・ブレヤナ(Salvia bulleyana)、
サルビア・ネモローサ(Salvia nemorosa)、
サルビア・ラヴァンドゥリフォリア(Salvia lavandulifolia)、
サルビア・アムプレキシカウリス(Salvia amplexicaulis)、
サルビア・トランシルバニカ(バウムガルテニイ)(Salvia transsylvanica(baumgartenii))、
サルビア・プラテンシス(Salvia pratensis)、
サルビア・プレゼワルスキー(Salvia przewalskii)、
サルビア・ヒアンス(Salvia hians)、
サルビア・ヴェルチシラータ(Salvia verticillata)、
サルビア・リンゲンス(Salvia ringens)、
サルビア・フォルスカオレイ(Salvia forskaohlei)、
サルビア・ネモローサ ssp.テスキコーラ(Salvia nemorosa ssp.tesquicola)、
サルビア・アルゲンテア(Salvia argentea)、
サルビア・スプレンデンス(Salvia splendens)、
サルビア・ジュリシチイ(Salvia jurisicii)、
サルビア・グレジィ(Salvia greggii)、
サルビア・フルチコーサ(Salvia fruticosa)、
サルビア・ブカナニイ(Salvia buchananii)、
サルビア・カカリア(Salvia cacalia)、
サルビア・エレガンス(Salvia elegans)、
サルビア・ヤメンシス(Salvia × jamensis)、
サルビア・グアラニチカ(Salvia guaranitica)、
サルビア・カマエドリオイデス(Salvia chamaedryoides)、
オリガヌム・ヴルガーレ(Origanum vulgare)、
ティムス・ヴルガリス(Thymus vulgaris)、
メンタ・スピカータ(Mentha spicata)、
ロスマリヌス・オフィシナリス(Rosmarinus officinalis)、
プルネラ・ヴルガリス(Prunella vulgaris)、
サツレヤ・モンターナ(Satureja montana)、
アガスタケ・フォエニクルム(Agastache foeniculum)、
ネペタ・カタリア(Nepeta cataria)、
メリッサ・オフィシナリス(Melissa officinalis)、
ラヴァンデュラ・ストエカス(Lavandula stoechas)、
マルビウム・ヴルガーレ(Marrubium vulgare)、又は
ラミウム・マクラツム(Lamium maculatum)
であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
環境ホルモンがビスフェノールAであることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
環境ホルモンがダイオキシン類であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
環境ホルモンで汚染された土壌、及びその土壌の上に植栽されたシソ科植物を含む土壌浄化システムであって、前記土壌中の環境ホルモンを前記シソ科植物に吸収及び分解させ、これにより環境ホルモンに汚染された土壌を浄化すること、及び前記シソ科植物が、サルビア属(Salvia)の植物、オリガヌム属(Origanum)の植物、ティムス属(Thymus)の植物、ハッカ属(Mentha)の植物、マンネンロウ属(Rosmarinus)の植物、ウツボグサ属(Prunella)の植物、サツレヤ属(Satureja)の植物、アガスタケ属(Agastache)の植物、イヌハッカ属(Nepeta)の植物、ヤマハッカ属(Melissa)の植物、ラヴァンデュラ属(Lavandula)の植物、マルビウム属(Marrubium)の植物、及びラミウム属(Lamium)の植物からなる群から選択されることを特徴とする土壌浄化システム。
【請求項6】
前記シソ科植物が:
サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)、
サルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)、
サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)、
サルビア・パテンス(Salvia patens)、
サルビア・ブレヤナ(Salvia bulleyana)、
サルビア・ネモローサ(Salvia nemorosa)、
サルビア・ラヴァンドゥリフォリア(Salvia lavandulifolia)、
サルビア・アムプレキシカウリス(Salvia amplexicaulis)、
サルビア・トランシルバニカ(バウムガルテニイ)(Salvia transsylvanica(baumgartenii))、
サルビア・プラテンシス(Salvia pratensis)、
サルビア・プレゼワルスキー(Salvia przewalskii)、
サルビア・ヒアンス(Salvia hians)、
サルビア・ヴェルチシラータ(Salvia verticillata)、
サルビア・リンゲンス(Salvia ringens)、
サルビア・フォルスカオレイ(Salvia forskaohlei)、
サルビア・ネモローサ ssp.テスキコーラ(Salvia nemorosa ssp.tesquicola)、
サルビア・アルゲンテア(Salvia argentea)、
サルビア・スプレンデンス(Salvia splendens)、
サルビア・ジュリシチイ(Salvia jurisicii)、
サルビア・グレジィ(Salvia greggii)、
サルビア・フルチコーサ(Salvia fruticosa)、
サルビア・ブカナニイ(Salvia buchananii)、
サルビア・カカリア(Salvia cacalia)、
サルビア・エレガンス(Salvia elegans)、
サルビア・ヤメンシス(Salvia × jamensis)、
サルビア・グアラニチカ(Salvia guaranitica)、
サルビア・カマエドリオイデス(Salvia chamaedryoides)、
オリガヌム・ヴルガーレ(Origanum vulgare)、
ティムス・ヴルガリス(Thymus vulgaris)、
メンタ・スピカータ(Mentha spicata)、
ロスマリヌス・オフィシナリス(Rosmarinus officinalis)、
プルネラ・ヴルガリス(Prunella vulgaris)、
サツレヤ・モンターナ(Satureja montana)、
アガスタケ・フォエニクルム(Agastache foeniculum)、
ネペタ・カタリア(Nepeta cataria)、
メリッサ・オフィシナリス(Melissa officinalis)、
ラヴァンデュラ・ストエカス(Lavandula stoechas)、
マルビウム・ヴルガーレ(Marrubium vulgare)、又は
ラミウム・マクラツム(Lamium maculatum)
であることを特徴とする請求項5記載の土壌浄化システム。
【請求項7】
環境ホルモンがビスフェノールAであることを特徴とする請求項5又は6記載の土壌浄化システム。
【請求項8】
環境ホルモンがダイオキシン類であることを特徴とする請求項5又は6記載の土壌浄化システム。
【請求項9】
環境ホルモンで汚染された水を内部に保持する容器、及びその水に根の部分を浸漬されたシソ科植物を含む水浄化システムであって、前記水中の環境ホルモンを前記シソ科植物に吸収及び分解させ、これにより環境ホルモンで汚染された水を浄化すること、及び前記シソ科植物が、サルビア属(Salvia)の植物、オリガヌム属(Origanum)の植物、ティムス属(Thymus)の植物、ハッカ属(Mentha)の植物、マンネンロウ属(Rosmarinus)の植物、ウツボグサ属(Prunella)の植物、サツレヤ属(Satureja)の植物、アガスタケ属(Agastache)の植物、イヌハッカ属(Nepeta)の植物、ヤマハッカ属(Melissa)の植物、ラヴァンデュラ属(Lavandula)の植物、マルビウム属(Marrubium)の植物、及びラミウム属(Lamium)の植物からなる群から選択されることを特徴とする水浄化システム。
【請求項10】
前記シソ科植物が:
サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)、
サルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)、
サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)、
サルビア・パテンス(Salvia patens)、
サルビア・ブレヤナ(Salvia bulleyana)、
サルビア・ネモローサ(Salvia nemorosa)、
サルビア・ラヴァンドゥリフォリア(Salvia lavandulifolia)、
サルビア・アムプレキシカウリス(Salvia amplexicaulis)、
サルビア・トランシルバニカ(バウムガルテニイ)(Salvia transsylvanica(baumgartenii))、
サルビア・プラテンシス(Salvia pratensis)、
サルビア・プレゼワルスキー(Salvia przewalskii)、
サルビア・ヒアンス(Salvia hians)、
サルビア・ヴェルチシラータ(Salvia verticillata)、
サルビア・リンゲンス(Salvia ringens)、
サルビア・フォルスカオレイ(Salvia forskaohlei)、
サルビア・ネモローサ ssp.テスキコーラ(Salvia nemorosa ssp.tesquicola)、
サルビア・アルゲンテア(Salvia argentea)、
サルビア・スプレンデンス(Salvia splendens)、
サルビア・ジュリシチイ(Salvia jurisicii)、
サルビア・グレジィ(Salvia greggii)、
サルビア・フルチコーサ(Salvia fruticosa)、
サルビア・ブカナニイ(Salvia buchananii)、
サルビア・カカリア(Salvia cacalia)、
サルビア・エレガンス(Salvia elegans)、
サルビア・ヤメンシス(Salvia × jamensis)、
サルビア・グアラニチカ(Salvia guaranitica)、
サルビア・カマエドリオイデス(Salvia chamaedryoides)、
オリガヌム・ヴルガーレ(Origanum vulgare)、
ティムス・ヴルガリス(Thymus vulgaris)、
メンタ・スピカータ(Mentha spicata)、
ロスマリヌス・オフィシナリス(Rosmarinus officinalis)、
プルネラ・ヴルガリス(Prunella vulgaris)、
サツレヤ・モンターナ(Satureja montana)、
アガスタケ・フォエニクルム(Agastache foeniculum)、
ネペタ・カタリア(Nepeta cataria)、
メリッサ・オフィシナリス(Melissa officinalis)、
ラヴァンデュラ・ストエカス(Lavandula stoechas)、
マルビウム・ヴルガーレ(Marrubium vulgare)、又は
ラミウム・マクラツム(Lamium maculatum)
であることを特徴とする請求項9記載の水浄化システム。
【請求項11】
環境ホルモンがビスフェノールAであることを特徴とする請求項9又は10記載の水浄化システム。
【請求項12】
環境ホルモンがダイオキシン類であることを特徴とする請求項9又は10記載の水浄化システム。
【請求項13】
ダイオキシン類で汚染された水を内部に保持する容器、及びその水に根の部分を浸漬されたサルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)を含む水浄化システムであって、明条件下で前記サルビア・スクラレア var.トルケスタニカ(Salvia sclarea var.turkestanica)にダイオキシン類を脱塩素分解させて無毒化し、これによりダイオキシン類で汚染された水を浄化することを特徴とする水浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−185651(P2007−185651A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332725(P2006−332725)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】