説明

環境・熱エネルギー制御システム

【課題】街区の環境及び熱エネルギーを制御することが可能な環境・熱エネルギー制御システムを提供する。
【解決手段】街区内における建物の室内環境を制御する複数の自動制御装置10と、これら複数の自動制御装置10とインターネットなどのネットワーク20を介して接続され、各自動制御装置10と情報を共有することにより、各自動制御装置10を管理する管理装置30とを備える。管理装置30は、各自動制御装置10から受け取った情報を開示レベルに分けて保存し、情報の開示を求める利用者からの要求に応じて開示レベルを変えて保存した情報を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、街区の環境および熱エネルギーを制御する環境・熱エネルギー制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空調システムは、主として室内の温度および湿度を調整するものであり、実際の運転では、例えば、予め使用者により温度および湿度が設定され、その目標値に近づけるように自動運転が行われている。しかし、近年では、地球環境改善のため、単に快適さのみを追求するのではなく、省エネまたは二酸化炭素排出量を削減することが求められている。そこで、熱負荷シミュレーションを建物の空調・照明の自動コントロールに導入して、省エネまたは二酸化炭素排出量削減に即した制御を行うことが提案されている。例えば、非特許文献1、2には、気温や湿度などの測定データから、現状の再現および予測を含めた熱負荷のシミュレーションを行い、測定データ等から計算した予測値と目標値を比較して迅速でなめらかな制御を行うことにより、省エネまたは二酸化炭素排出量を削減するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】内海康雄、外4名,「CO2排出量削減のための空調機器の自動制御システム開発に関する研究(第3報)開発した自動制御システムの構成と特徴」,空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,2006.9.27〜29(長野),p311−314
【非特許文献2】内海康雄、外4名,「CO2排出量削減のための空調機器の自動制御システム開発に関する研究(第9報)TRNSYSによる熱負荷計算について」,空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,2007.9.12〜14(仙台),p621−624
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来は、建物ごとに制御を行っていたので、省エネまたは二酸化炭素排出量削減の効果はその建物の範囲内にとどまり、地球環境を大幅に改善するには至っていない。また、全ての建物に個別に制御システムを導入するには、コストが大幅にかかり、現実的ではない。そこで、街区単位で簡易かつ安価に省エネまたは二酸化炭素排出量の削減を図ることができる制御システムの開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、街区の環境及び熱エネルギーを制御することが可能な環境・熱エネルギー制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の環境・熱エネルギー制御システムは、室内環境を設定する運転シナリオに室内環境の観測値を加えて、熱負荷および空気環境のシミュレーションを行い、その結果に基づいて空調機器の運転を制御する複数の自動制御装置と、これら複数の自動制御装置とネットワークを介して接続され、各自動制御装置と情報を共有することにより、各自動制御装置を管理する管理装置とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の環境・熱エネルギー制御システムによれば、複数の自動制御装置とネットワークを介して接続され、各自動制御装置と情報を共有することにより、各自動制御装置を管理する管理装置を備えるようにしたので、複数の自動制御装置により制御されている空調機器の運転状況を一括して把握することができる。よって、例えば、街区内の空調機器を自動制御装置により制御するようにすれば、個別建物とその集合体である街区の環境およびエネルギー使用量の実態をリアルタイムで把握することができ、街区の環境および熱エネルギーを容易に制御することができる。また、複数の自動制御装置による制御状況を比較して、より効率の高い制御方法を各自動制御装置にフィードバックすることができるので、高効率化を図ることができる。従って、省エネまたは二酸化炭素排出量削減を容易に図ることができる。
【0008】
また、管理装置において、各自動制御装置から受け取った情報を情報データベースに保存し、情報の開示を求める利用者からの要求に応じて情報を開示するようにすれば、各自動制御装置の情報を容易に共有することができ、状況を容易に把握することができる。特に、各自動制御装置から受け取った情報を複数の開示レベルに分けて保存し、情報の開示を求める利用者に応じて、開示レベルを変えて情報を開示するようにすれば、目的に応じて情報を使い分けることができる。
【0009】
更に、自動制御装置において、複数の運転シナリオについて熱負荷および空気環境のシミュレーションを行い、運転制御データを作成すると共に、各運転シナリオについて複数の指標に関する評価を行って管理者に示し、選択された運転シナリオに基づいて空調機器の運転を制御するようにすれば、目的に応じたきめ細かい制御を行うことができる。特に、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、快適性、およびコストの少なくとも4つの指標について、各運転シナリオの評価をそれぞれ行うようにすれば、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、快適性、およびコストのバランスをとりながら、省エネまたは二酸化炭素排出量削減を容易に図ることができる。
【0010】
加えて、管理装置に、各自動制御装置が空調機器の運転を制御する際の標準化した制御ライブラリを備えるようにすれば、自動制御装置は標準化された制御ライブラリを用いることにより、容易に稼働することができる。特に、管理装置に、街区の種類毎に標準化した制御ライブラリを備えるようにすれば、適用する街区に応じた最適化制御を簡単かつ安価に行うことができる。
【0011】
更にまた、街区の微気象情報を加えて熱負荷・空気環境シミュレーションを行うようにすれば、街区に応じたより効率的な制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る環境・熱エネルギー制御システムの構成を表わす図である。
【図2】図1に示した自動制御装置の配置例を表わす図である。
【図3】図1に示した自動制御装置の構成を表わす図である。
【図4】図1に示した管理装置の構成を表わす図である。
【図5】図1に示した街区微気象推定装置の構成を表わす図である。
【図6】図1に示した自動制御装置の設置手順を表す流れ図である。
【図7】図1に示した自動制御装置の運転シナリオ選択時における第1の動作手順を表す流れ図である。
【図8】図1に示した自動制御装置の運転シナリオ選択時における第2の動作手順を表す流れ図である。
【図9】図1に示した自動制御装置の通常運転時における動作手順を表す流れ図である。
【図10】図1に示した管理装置に情報の開示を求める手順を表す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る環境・熱エネルギー制御システム1の概略構成を表わすものである。この環境・熱エネルギー制御システム1は、例えば、街区の環境および熱エネルギーを制御するものであり、街区内における建物の室内環境を制御する複数の自動制御装置10と、これら複数の自動制御装置10とインターネットなどのネットワーク20を介して接続され、各自動制御装置10と情報を共有することにより、各自動制御装置10を管理する管理装置30とを備えている。ネットワーク20には、また、各自動制御装置10が配置されている街区の微気象を推定する街区微気象推定装置40が接続されている。なお、微気象というのは、地表付近、およそ地表面から100mくらいまでの大気現象をいう。
【0015】
図2は、自動制御装置10の配設例を概念的に表わすものである。自動制御装置10は、例えば、(A)に示したように、建物51に配設されている空調機器52を直接接続して制御するようにしてもよく、また、(B)に示したように、建物51に設置されているBEMS(Building Energy Management System )等の管理制御システム53に接続し、管理制御システム53を介して空調機器52を制御するようにしてもよい。
【0016】
図3は、自動制御装置10のシステム構成を表わすものである。自動制御装置10は、例えば、熱負荷および空気環境のシミュレーションを行い、その結果に基づいて空調機器52の運転を制御するものである。自動制御装置10は、例えば、熱負荷・空気環境シミュレーション手段11と、運転制御データ作成手段12と、シナリオ選択手段13と、制御データベース14と、観測値管理手段15と、予測値管理手段16と、エミュレータ17と、情報送信手段18とを備えている。
【0017】
熱負荷・空気環境シミュレーション手段11は、例えば、室内環境を設定する運転シナリオに室内環境の観測値を加えて、熱負荷および空気環境のシミュレーションを行うものである。運転シナリオは、室内の温度、湿度、換気量および対象となる設備機器の発停や稼働状況などを設定する運転スケジュールであり、例えば、室内の温度、湿度、換気量、設備機器の発停および稼働状況などが時間とともに設定されている。熱負荷・空気環境シミュレーション手段11は、例えば、予め用意された複数の運転シナリオについてそれぞれシミュレーションを行うように構成されている。シミュレーションに用いる入力データとしては、例えば、室内の温度、湿度および濃度などの室内環境の観測値の外にも、温度・湿度の天気予測値を用いるように構成されていることが好ましい。より迅速でなめらかな制御を行うことができるからである。
【0018】
運転制御データ作成手段12は、例えば、熱負荷・空気環境シミュレーション手段11により計算した計算結果に基づき、空調機器52の運転制御データを作成するものである。運転制御データ作成手段12は、例えば、熱負荷・空気環境シミュレーション手段11と同様に、複数の運転シナリオについてそれぞれ運転制御データを作成するように構成されている。
【0019】
シナリオ選択手段13は、例えば、熱負荷・空気環境シミュレーション手段11の計算結果および運転制御データ作成手段12により作成された運転制御データから、各運転シナリオについて複数の指標に関する評価をそれぞれ行い、それらの評価を管理者に示し、希望する運転シナリオの選択を求めるものである。自動制御装置10には、例えば、表示部および入力部を備えた入出力装置55が接続されており、シナリオ選択手段13は、例えば、入出力装置55を介して管理者に評価を表示すると共に、管理者からの選択を受けるようになっている。評価は、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、快適性、およびコストの少なくとも4つの指標について行うように構成されていることが好ましい。エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、快適性、およびコストのバランスをとりながら、省エネまたは二酸化炭素排出量削減を容易に図ることができるからである。
【0020】
シナリオ選択手段13は、また、例えば、管理者から選択された運転シナリオに対応する運転制御データを制御データベース14から選択して空調機器52に出力するようにもなっている。
【0021】
制御データベース14は、自動制御装置10において扱うデータを保存するものであり、例えば、室内センサー54により観測された温度、湿度および濃度などの室内環境観測値14Aと、温度および湿度などの天気予測値14Bと、運転シナリオ14Cと、熱負荷・空気環境シミュレーション計算結果14Dと、運転制御データ14Eとを格納している。
【0022】
観測値管理手段15は、例えば、室内に設置された室内センサー54から温度、湿度および濃度などの室内環境を読み取り、制御データベース14に保存するものである。予測値管理手段16は、例えば、インターネットなどのネットワーク20を介して温度、湿度などの天気予測値を取得し、制御データベース14に保存するものである。
【0023】
エミュレータ17は、例えば、自動制御装置10に空調機器52を接続して動作させる前に、シミュレーションにより動作確認をするためのものである。情報送信手段18は、制御データベース14の情報を管理装置30に送信するものであり、例えば、制御データベース14の内容を更新する際に、同一の内容を管理装置30に送信するように構成されている。
【0024】
図4は、管理装置30のシステム構成を表わすものである。管理装置30は、例えば、各自動制御装置10から受け取った情報を保存する情報データベース31と、各自動制御装置10から情報を受信して情報データベースに保存する情報受信手段32と、情報の開示を求める利用者からの要求に応じて、情報データベース31に保存した情報を開示する情報開示手段33と、情報の開示を求める利用者の情報を登録する利用者データベース34とを有している。情報受信手段32は、各自動制御装置から受け取った情報を複数の開示レベルに分けて情報データベース31に保存するように構成されており、情報開示手段33は、情報の開示を求める利用者に応じて、開示レベルを変えて情報を開示するように構成されている。目的に応じて情報を使い分けることができるからである。管理装置30には、例えば、インターネットなどのネットワーク20を介してパソコンなどよりなる複数の端末60が接続されるようになっており、情報の開示を求める利用者は、各端末60を利用して、情報の開示を求めることができるようになっている。情報の開示を求める利用者としては、例えば、管理者、居住者、または行政などが挙げられる。
【0025】
管理装置30は、また、各自動制御装置10が空調機器52の運転を制御する際の標準化した制御ライブラリを保存した制御ライブラリデータベース35と、制御ライブラリデータベース35を管理する制御ライブラリ管理手段36とを有している。制御ライブラリとしては、例えば、オフィス、学校などの用途毎の運転制御データのセットが挙げられ、空調機器52の方式やメーカー毎に用意される。また、制御ライブラリデータベース35は、街区と建物の種類毎に標準化した制御ライブラリを有しており、適用する街区に応じて適した制御を容易にすることができるようになっている。制御ライブラリ管理手段36は、例えば、各自動制御装置10からの要求に応じて、選択された制御ライブラリを各自動制御装置10に送信して用いることができるようにするものであり、例えば、自動制御装置10の運転制御データ作成手段12は、必要な制御ライブラリをダウンロードして用いることができるように構成されている。
【0026】
図5は、街区微気象推定装置40のシステム構成を表わすものである。街区微気象推定装置40は、例えば、街区における室外環境の観測値、天気予測値および街区モデルに基づいて街区の微気象情報を推定する推定手段41と、街区微気象推定装置40で扱うデータを保存する街区微気象データベース42とを有している。街区モデルには、例えば、街区に存在する建物の大きさ、数、樹木などの人工物および自然物の情報が入っている。これにより、街区微気象推定装置40は、街区の条件を加味した街区内の温度、湿度、風向、風速などの微気象を推定するように構成されている。街区微気象データベース42には、例えば、室外センサー56により観測された街区内の温度および湿度などの室外環境の観測値42Aと、温度および湿度などの天気予測値42Bと、推定手段41により算出された街区微気象情報42Cとが格納されている。
【0027】
街区微気象推定装置40は、また、例えば、インターネットなどのネットワーク20を介して街区内の室外に設置された室外センサー56から温度および湿度などの室外環境を読み取り、街区微気象データベース42に保存する観測値管理手段43と、インターネットなどのネットワーク20を介して温度、湿度などの天気予測値を取得し、街区微気象データベース42に保存する予測値管理手段44とを有している。街区微気象推定装置40は、更に、自動制御装置10からの要求に応じて、街区微気象データベース42から最新の街区微気象情報42Cを読み出し、自動制御装置10に出力する街区微気象情報管理手段45を有している。なお、街区微気象推定装置40には、インターネットなどのネットワーク20を介して各自動制御装置10が接続されるようになっており、各自動制御装置10は、必要に応じて、街区微気象推定装置40により推定された街区微気象情報42Cを用いて熱負荷・空気環境シミュレーションを行うことができるように構成されている。例えば、自動制御装置10の熱負荷・空気環境シミュレーション手段11は、図3に示した天気予測値14Bと、街区微気象推定装置40により推定された微気象情報とのどちらかを選択して用いることができるように構成されている。
【0028】
この環境・熱エネルギー制御システム1は、例えば、次のようにして用いられる。
【0029】
図6は自動制御装置10の設置手順を表すものである。まず、建物51に自動制御装置10を配設し、インターネットなどのネットワーク20との接続環境を整える(ステップS101)。次いで、管理者の希望に応じた複数の運転シナリオを、例えば、入出力装置55を用いて自動制御装置10に入力し、制御データベース14に保存する(ステップS102)。続いて、自動制御装置10をインターネットなどのネットワーク20を介して管理装置30に接続し、制御ライブラリデータベース35から、街区および建物に応じた制御ライブラリを運転制御データ作成手段12にダウンロードする(ステップS103)。その後、エミュレータ17を用いて、自動制御装置10の動作試験を行う(ステップS104)。動作試験の結果が不適である場合には、調整を行い、適正となるまで動作試験を行う。動作試験の結果が適正である場合には、例えば、建物51に空調機器52および室内センサー54を配設して自動制御装置10に接続する。または、建物51に既に配設されている空調機器52および室内センサー54を自動制御装置10に接続する(ステップS105)。
【0030】
図7は自動制御装置10の運転シナリオ選択時における第1の動作手順を表すものである。この動作手順は、天気予測値14Bを用いて熱負荷・空気環境シミュレーションを行う場合を示している。まず、例えば、観測値管理手段15により、室内センサー54から温度、湿度および濃度などの室内環境を読み取り、制御データベース14に保存する(ステップS201)。また、例えば、予測値管理部16により、インターネットなどのネットワーク20を介して、温度、湿度などの天気予測値を取得し、制御データベース14に保存する(ステップS202。)次いで、熱負荷・空気環境シミュレーション手段11により、例えば、制御データベース14から室内環境観測値14A、天気予測値14Bおよび運転シナリオ14Cを読み出し、複数の運転シナリオについて、室内環境観測値および天気予測値を加えて、熱負荷および空気環境のシミュレーションをそれぞれ行い、計算結果を制御データベース14に保存する(ステップS203)。
【0031】
続いて、運転制御データ作成手段12により、例えば、制御データベース14から熱負荷・空気環境シミュレーション計算結果14Dを読み出し、複数の運転シナリオについて、空調機器52の運転制御データ14Eをそれぞれ作成し、制御データベース14に保存する(ステップS204)。その後、シナリオ選択手段13により、例えば、制御データベース14から熱負荷・空気環境シミュレーション計算結果14Dおよび運転制御データ14Eを読み出し、各運転シナリオについて複数の指標に関する評価、例えば、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、快適性、およびコストの4つの指標に関する評価をそれぞれ行う(ステップS205)。次いで、シナリオ選択手段13により、各運転シナリオの評価を表などにして入出力装置55を介して管理者に示し、管理者から希望する運転シナリオの選択を求める(ステップS206)。管理者から希望する運転シナリオが入力されると、シナリオ選択手段13により、制御データベース14から選択された運転シナリオに対応する運転制御データ14Eを読み出し、空調機器52に出力する(ステップS207)。
【0032】
これにより、空調機器52は、選択された運転シナリオに対応する運転制御データに従って稼働する。この運転シナリオ選択動作は、1日に1回、決められた時間に行われるか、または、設定された時間、例えば数時間おきに行われる。なお、情報送信手段18は、例えば、制御データベース14の内容が更新されると、更新された内容を管理装置30に送信し、管理装置30は情報受信手段32によりそれを開示レベルに分けて情報データベース31に保存する。
【0033】
図8は自動制御装置10の運転シナリオ選択時における第2の動作手順を表すものである。この動作手順は、天気予測値14Bに代えて、街区微気象推定装置40により推定された街区微気象情報42Cを用いて熱負荷・空気環境シミュレーションを行う場合を示している。この動作手順では、図7に示した第1の動作手順と同一の手順については、同一のステップ番号を付して説明する。
【0034】
まず、例えば、観測値管理手段15により、室内センサー54から室内環境を読み取り、制御データベース14に保存する(ステップS201)。次いで、熱負荷・空気環境シミュレーション手段11により、例えば、制御データベース14から室内環境観測値14Aおよび運転シナリオ14Cを読み出すと共に、街区微気象推定装置40から街区微気象情報42Cを読み出し、複数の運転シナリオについて、室内環境観測値14Aおよび街区微気象情報42Cを加えて、熱負荷および空気環境のシミュレーションをそれぞれ行い、計算結果を制御データベース14に保存する(ステップS213)。なお、街区微気象推定装置40では、設定された時間毎に、室外環境観測値42Aおよび天気予測値42Bを更新し、更新したデータに基づいて推定手段41により街区微気象情報42Cを算出して街区微気象データベース42に保存しており、自動制御装置10からの要求に応じて、街区微気象情報管理手段45により最新の街区微気象情報42Cを読み出して自動制御装置10に出力する。
【0035】
続いて、図7に示した動作手順と同様に、運転制御データ作成手段12により、例えば、複数の運転シナリオについて、空調機器52の運転制御データ14Eをそれぞれ作成し(ステップS204)、シナリオ選択手段13により、例えば、各運転シナリオについて複数の指標に関する評価を行い(ステップS205)、それを管理者に示して希望する運転シナリオの選択を求め(ステップS206)、シナリオ選択手段13により、選択された運転シナリオに対応する運転制御データ14Eを空調機器52に出力する(ステップS207。)この運転シナリオ選択動作も、図7に示した運転シナリオ選択動作と同様に、1日に1回、決められた時間に行われるか、または、設定された時間、例えば数時間おきに行われる。情報送信手段18も、同様にして、制御データベース14の更新内容を管理装置30に送信する。
【0036】
図9は自動制御装置10の通常運転時の動作手順を表すものである。まず、例えば、観測値管理手段15により、設定された時間毎、例えば5分おきに、室内センサー54から温度、湿度および濃度などの室内環境を読み取り、制御データベース14に保存する(ステップS301)。次いで、運転制御データ作成手段12により、例えば、制御データベース14から現在の室内環境観測値14Aと、選択されている運転シナリオに対応する熱負荷・空気環境シミュレーション計算結果14Dとを読み出し、それらを用いて運転制御データ14Eを作成し直し、制御データベース14に保存する(ステップS302)。続いて、シナリオ選択手段13により、制御データベース14から更新された運転制御データ14Eを読み出し、空調機器52に出力する。
【0037】
これにより、空調機器52は、現在の室内環境に応じて調整された運転制御データ14Eに従って稼働する。なお、情報送信手段18は、例えば、制御データベース14の更新内容を管理装置30に送信し、管理装置30は情報受信手段32によりそれを開示レベルに分けて情報データベース31に保存する。
【0038】
図10は管理装置30に情報の開示を求める手順を表すものである。まず、情報の開示を求める利用者は、例えば、端末60を利用し、インターネットなどのネットワーク20を介して管理装置30に利用者登録を行う。管理装置30では、例えば、情報開示手段33により、情報の開示を求める利用者から入力された利用者情報を利用者データベース34に登録する(ステップS401)。次いで、情報の開示を求める利用者から、例えば、端末60を利用し、インターネットなどのネットワーク20を介して管理装置30に情報の開示が求められると、管理装置30では、例えば、情報開示手段33により、利用者データベース34を参照して登録を確認し、登録された利用者からの要求であれば、その利用者の開示レベルに応じて、情報データベース31から情報を読み出し、利用者に開示する(ステップS402)。
【0039】
このように本実施の形態によれば、複数の自動制御装置10とネットワーク20を介して接続され、各自動制御装置10と情報を共有することにより、各自動制御装置10を管理する管理装置30を備えるようにしたので、複数の自動制御装置10により制御されている空調機器52の運転状況を一括して把握することができる。よって、例えば、街区内の空調機器52を自動制御装置10により制御するようにすれば、個別建物とその集合体である街区の環境およびエネルギー使用量の実態をリアルタイムで把握することができ、街区の環境および熱エネルギーを容易に制御することができる。また、複数の自動制御装置10による制御状況を比較して、より効率の高い制御方法を各自動制御装置10にフィードバックすることができるので、高効率化を図ることができる。従って、省エネまたは二酸化炭素排出量削減を容易に図ることができる。
【0040】
また、管理装置30において、各自動制御装置10から受け取った情報を情報データベース31に保存し、情報の開示を求める利用者からの要求に応じて情報を開示するようにすれば、各自動制御装置10の情報を容易に共有することができ、状況を容易に把握することができる。特に、各自動制御装置10から受け取った情報を複数の開示レベルに分けて保存し、情報の開示を求める利用者に応じて、開示レベルを変えて情報を開示するようにすれば、目的に応じて情報を使い分けることができる。
【0041】
更に、自動制御装置10において、複数の運転シナリオについて熱負荷および空気環境のシミュレーションを行い、運転制御データ14Eを作成すると共に、各運転シナリオについて複数の指標に関する評価を行って管理者に示し、選択された運転シナリオに基づいて空調機器52の運転を制御するようにすれば、目的に応じたきめ細かい制御を行うことができる。特に、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、快適性、およびコストの少なくとも4つの指標について、各運転シナリオの評価をそれぞれ行うようにすれば、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、快適性、およびコストのバランスをとりながら、省エネまたは二酸化炭素排出量削減を容易に図ることができる。
【0042】
加えて、管理装置30に、各自動制御装置10が空調機器52の運転を制御する際の標準化した制御ライブラリを備えるようにすれば、自動制御装置10は標準化された制御ライブラリを用いることにより、容易に稼働することができる。特に、管理装置30に、街区の種類毎に標準化した制御ライブラリを備えるようにすれば、適用する街区に応じた最適化制御を簡単かつ安価に行うことができる。
【0043】
更にまた、街区の微気象情報を加えて熱負荷・空気環境シミュレーションを行うようにすれば、街区に応じたより効率的な制御を行うことができる。
【0044】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、自動制御装置10は、図3に示した空調機器52、室内センサー54または入出力装置55と、直接接続されていてもよく、建物内ネットワークを介して接続されていてもよい。
【0045】
また、上記実施の形態では、自動制御装置10を制御する建物51に配設する場合について説明したが、制御する建物51の外に配設するようにしてもよく、このような場合には、制御する建物51の空調機器52、室内センサー54または入出力装置55をインターネットなどのネットワーク20を介して接続するようにしてもよい。
【0046】
更に、上記実施の形態では、管理装置30と街区微気象推定装置40とを別に記載したが、1つの装置内に、管理装置30と街区微気象推定装置40とを共に備えるように構成してもよい。
【0047】
加えて、上記実施の形態では、システムの構成を具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、また、他の構成要素を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
街区の環境および熱エネルギーを制御する際に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
10…自動制御装置、11…熱負荷・空気環境シミュレーション手段、12…運転制御データ作成手段、13…シナリオ選択手段、14…制御データベース、14A…室内環境観測値、14B…天気予測値、14C…運転シナリオ、14D…熱負荷・空気環境シミュレーション計算結果、14E…運転制御データ、15…観測値管理手段、16…予測値管理手段、17…エミュレータ、18…情報送信手段、20…ネットワーク、30…管理装置、31…情報データベース、32…情報受信手段、33…情報開示手段、34…利用者データベース、35…制御ライブラリデータベース、36…制御ライブラリ管理手段、40…街区微気象推定装置、41…推定手段、42…街区微気象データベース、42A…室外環境観測値、42B…天気予測値、42C…街区微気象情報、43…観測値管理手段、44…予測値管理手段、45…街区微気象情報管理手段、51…建物、52…空調機器、53…管理制御システム、54…室内センサー、55…入出力装置、56…室外センサー、60…端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内環境を設定する運転シナリオに室内環境の観測値を加えて、熱負荷および空気環境のシミュレーションを行い、その結果に基づいて空調機器の運転を制御する複数の自動制御装置と、
これら複数の自動制御装置とネットワークを介して接続され、各自動制御装置と情報を共有することにより、各自動制御装置を管理する管理装置と
を備えたことを特徴とする環境・熱エネルギー制御システム。
【請求項2】
前記管理装置は、
前記各自動制御装置から受け取った情報を保存する情報データベースと、
情報の開示を求める利用者からの要求に応じて、前記情報データベースに保存した情報を開示する情報開示手段と
を有することを特徴とする請求項1記載の環境・熱エネルギー制御システム。
【請求項3】
前記情報データベースには、前記各自動制御装置から受け取った情報が複数の開示レベルに分けて保存されており、
前記情報開示手段は、情報の開示を求める利用者に応じて、開示レベルを変えて情報を開示する
ことを特徴とする請求項2記載の環境・熱エネルギー制御システム。
【請求項4】
前記自動制御装置は、
複数の運転シナリオについて熱負荷および空気環境のシミュレーションをそれぞれ行う熱負荷・空気環境シミュレーション手段と、
この熱負荷・空気環境シミュレーション手段により計算した計算結果に基づき、各運転シナリオについて空調機器の運転制御データをそれぞれ作成する運転制御データ作成手段と、
前記熱負荷・空気環境シミュレーション手段の計算結果および前記運転制御データ作成手段により作成された運転制御データから、各運転シナリオについて、複数の指標に関する評価をそれぞれ行い、それらの評価を管理者に示し、希望する運転シナリオの選択を求めるシナリオ選択手段と
を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の環境・熱エネルギー制御システム。
【請求項5】
前記シナリオ選択手段は、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、快適性、およびコストの少なくとも4つの指標について、各運転シナリオの評価をそれぞれ行うことを特徴とする請求項4記載の環境・熱エネルギー制御システム。
【請求項6】
前記管理装置は、前記各自動制御装置が空調機器の運転を制御する際の標準化した制御ライブラリを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の環境・熱エネルギー制御システム。
【請求項7】
前記管理装置は、街区の種類毎に標準化した制御ライブラリを有し、
前記各自動制御装置は、適用する街区に応じて制御ライブラリを選択して用いることが可能とされた
ことを特徴とする請求項6記載の環境・熱エネルギー制御システム。
【請求項8】
街区における室外環境の観測値、天気予測値および街区モデルに基づいて、街区の微気象情報を推定する街区微気象推定装置を備え、
前記自動制御装置は、この街区微気象推定装置により推定された微気象情報を用いて熱負荷・空気環境シミュレーションを行う
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の環境・熱エネルギー制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−141092(P2011−141092A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2402(P2010−2402)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】