説明

環境地盤への油浸透の推定方法

【課題】地下水位の変動を考慮した環境地盤への油浸透を、容易かつ精度良くモデリングすることができる環境地盤への油浸透のモデリング方法を提供すること。
【解決手段】本方法は、油の漏洩量と漏洩時期を決定する第1ステップと、前記漏洩時期を起点とし、所定時刻までの地下水位変動履歴を決定する第2ステップと、油のトラップ現象を表現した水分特性曲線モデルを決定する第3ステップと、水飽和度及び油飽和度の初期分布を決定する第4ステップと、前記油の漏洩量及び漏洩時期を油の境界条件とし、前記地下水位変動履歴を水の境界条件とし、前記水分特性曲線モデルを考慮しつつ、多相浸透シミュレーションを行い、前記所定の時刻における油飽和度分布を求める第5ステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境地盤の油の汚染状態を評価するための方法に関し、特に油が地下水帯を含む地盤に浸透する態様及び地盤深度方向における油の分布を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の浄化方法が研究、開発されている。実際の現場において、汚染対策や適切な浄化処理を実施するためには、先ず現場地盤の汚染状況を正確に把握することが必要となる。従来では、油は地下水面上に必ず浮遊するものであるとされていたため、油の浸透解析は、地下水面上の不飽和帯に限定されていた。例えば、従来の油の浸透解析は、下に示す式1に関して、地盤中の空気及び水分は一定とし、油のみについて解析が行われていた。
【0003】
【数1】

【0004】
ここでは、ρ、v、S、φはそれぞれ、油の密度、油の間隙内流速、油飽和度、及び地盤の間隙率である。
【0005】
このように従来では、地下水面下に汚染油の存在が想定されていなかったため、汚染地盤に対しては、地下水が及ばない地盤の不飽和帯を中心とした汚染調査や浄化対策がほとんどであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、地下水面上に浮遊するはずの油が、実汚染現場では、地下水面下から高濃度で検出される場合がある。即ち、汚染の原因である油(以下、汚染油と記す)が必ず地下水面上に浮遊するという従来の仮説は成立しない場合がある。それは、過去に地下水位が大幅に変化した履歴をもつ地盤では、地下水帯にまで汚染が及んでいる可能性があると考えられる。このような場合に、ボーリングなどによって何箇所の地下水面下に汚染油が検出されたとしても、この汚染油はどのようなメカニズムで地下水面下に存在するか、地下水面下にどのような広がりを持っているかが不明である。
【0007】
また、地下水面下の油は、地盤中の地下水位変動と関係があると推測されても、地盤中の地下水位変動によって油汚染がどのように変化するのかも不明である。さらに、その逆に、油の存在が地下水の浸透特性に及ぼす影響も不明である。
【0008】
もし汚染地盤の汚染調査で地盤の不飽和帯のみを調査対象とすれば、地下水位変動により油が地下水面下に潜り込めるため油汚染を見逃す可能性がある。従って、適正な汚染調査や浄化対策のためには、油の浸透範囲が不飽和帯か、地下水帯か、又はそれらの両方かを絞り込む必要がある。
【0009】
仮に地下水帯まで油汚染が存在するならば、その油汚染対策では、例えば、地下水揚水処理では油の回収範囲と限界量を決める必要があり、原位置バイオレメディエーションでは微生物の地盤内の挙動を考慮する必要がある。いずれの場合においても油の存在による流れの変化、流れの場の評価が重要である。しかし、従来のボーリングや高密度電気探査だけに頼っては汚染状態の解明は困難であると同時に、コストがかかるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、地下水位の変動を考慮した環境地盤への油浸透を、容易かつ精度良く推定することができる環境地盤への油浸透の推定方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、深度方向の油汚染分布を推定すると共に、地下水位変動履歴に基づき地下水面下の汚染の可能性を検討するための情報を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
【0013】
即ち、本発明に係る環境地盤への油浸透の推定方法は、油の漏洩量と漏洩時期を決定する第1ステップと、前記漏洩時期を起点とし、所定時刻までの地下水位変動履歴を決定する第2ステップと、油のトラップ現象を表現した水分特性曲線モデルを決定する第3ステップと、水飽和度及び油飽和度の初期分布を決定する第4ステップと、前記油の漏洩量及び漏洩時期を油の境界条件とし、前記地下水位変動履歴を水の境界条件とし、前記水分特性曲線モデルを考慮しつつ、多相浸透シミュレーションを行い、前記所定の時刻における油飽和度分布を求める第5ステップとを含むことを特徴とする。
【0014】
また、前記第5ステップにおいて、得られた油飽和度分布から、深度方向の油汚染分布を推定するステップをさらに含むことを特徴とする。
【0015】
また、前記第5ステップにおいて、前記多相浸透シミュレーションが、次の式
【0016】
【数2】

【0017】
【数3】

【0018】
を用いて行われ、ここに、Swは水飽和度、Soは油飽和度、Sはガス飽和度、ρは水の密度 [M/L3]、ρは油の密度 [M/L3]、ρはガスの密度 [M/L3]、φは間隙率、Vは水の間隙内流速 [L/T]、Vは油の間隙内流速 [L/T]、Vはガスの間隙内流速 [L/T]を表わし、Kは固有透過度 [L2]、Krwは水の相対透水係数比、Kroは油の相対透油係数比、KrGはガスの相対透気係数比、μWは水の粘性係数 [M/LT]、μOは油の粘性係数 [M/LT]、μGはガスの粘性係数 [M/LT]、PWは水の圧力 [M/LT2]、POは油の圧力 [M/LT2]、PGはガスの圧力 [M/LT2]、gは重力加速度 [L/T2]、uは鉛直(Z軸)方向の単位ベクトルである。
【0019】
さらに、油のトラップ現象を表現した前記水分特性曲線モデルが、油進入過程の最大水飽和度が水進入過程の最大水飽和度より大きいというヒステリシスを有する曲線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、地下水位の変動履歴及び油の漏洩量を基に、地下水帯への油汚染の可能性を簡単に検討することができる。これによって、合理的な汚染調査及び浄化対策が可能となる。例えば、より正確な汚染分布を知るための効率的なボーリングの深さを決定することが可能となる。
【0021】
特に、地下深度方向の油の分布が得られるので、地下水帯の地盤の間隙内に拘束される油に起因する地盤の低透水性をも考慮することが可能となり、これにより、地下水帯に微生物や栄養塩を注入する場合、流れ場の不均質性を考慮して、効果的な原位置バイオレメディエーションを行うことができる。
【0022】
即ち、本発明を適用すれば、効率的に油の汚染範囲を調査でき、且つ、確実な汚染対策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】油汚染分布に及ぼす地下水位変動の影響を示す実験を説明する図である。(a)は、初期状態の汚染油と地下水面を示す図である。(b)地下水面上昇後の汚染油の分布を示す図である。(c)は地下水面がさらに上昇して一定の地下水位に長く保ったときの汚染油の分布を示す図である。
【図2】間隙内に拘束された油による水の飽和度の変化、即ち油が存在する場合の水分特性曲線を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態に係る環境地盤への油浸透の推定方法を示すフローチャートである。
【図4】地下水位変化データの一例を示す図である。
【図5】本発明の方法を適用したシミュレーション結果を示す図である。(a)は、図1(a)に示す地下水面上に油汚染帯を形成している状態から、地下水位を1時間あたり1.6cmの速度で上昇させたときの18時間後の解析結果を示す図である。(b)は、地下水位上昇終了から3日後の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る環境地盤への油浸透のモデリング方法がより理解しやすくなるように、まず、本発明の原理を説明する。
【0025】
まず、油汚染分布に及ぼす地下水位変動の影響を示す実験を行った。
【0026】
本実験では、土(珪砂5号)を、透過性の側壁(ガラス)を有する直方体の槽(幅240cm× 高さ240cm× 奥行60cm)に配置した実験装置を対象とし、地下水面を所定の位置に維持した状態で地表面より所定量の油を浸透させた。図1(a)は、GL−205cm(地表から深さ205cmを意味する)の位置に地下水面を維持した状態で、地表面より30Lの油を浸透させたときの汚染分布である。地下水面下には油はほとんど侵入せず、ほぼ全量の油が地下水面上に浮遊している。この状態を初期条件として、地下水位をGL−205cmからGL−125cmの位置まで上昇させる。地下水位を1時間あたり約1.6cmの速度で上昇させると、図1(b)および図1(c)に示すような汚染分布となる。図1(b)は地下水面を上昇させて約12時間後の汚染分布であり、図1(c)は最終の地下水位となるGL−125cmまで水面を上昇させた後約2か月の時間が経過したときの汚染分布である。
【0027】
図1から分かるように、地下水位の上昇に追随して油も上昇するが、一部の油は地下水面下に取り残されている。また、充分な時間を経過させても、地下水面下の油が水面上に浮遊するという現象は認められなかった。
【0028】
このような油の浸透、移動、滞留の態様は、水分特性曲線を用いて、より論理的に説明することができる。
【0029】
図2は、水の飽和度Swを横軸に、毛管圧力水頭(油の圧力水頭と水の圧力水頭との差)を縦軸にした、任意の土要素における水飽和度Swと毛管圧力水頭hCNWとの関係、即ち、水分特性曲線を示している。
【0030】
通常、土壌の間隙が水によって完全に占められているとき、水の飽和度Swは1とする。この状態を図中ではAとして示している。この状態Aで土要素に油が侵入すると、図中のPDC(Primary Drainage Curve)が示すように、水飽和度Swは低下し、図2中の点AからPDCで示した曲線に沿って移動する。ある圧力で侵入してきた油は、所定量の油飽和度SO,maxまでしか上昇せず、同時に水飽和度Swの減少も停止する(点B、図1(a)に示す地下水面上に存在する油汚染土壌の状態に対応する)。しかし、上記した実験によっても証明されているように、この状態Bから地下水面を上昇させると、油の圧力消散と地下水上昇に伴う水圧上昇により、水飽和度Swは点BからSIC(Scanning Imbibition Curve)で示した曲線に沿って移動する(図1(b)に示す地下水上昇中の状態)。そして、地下水面の上昇を終え圧力状態が充分に落ち着いたとき、SIC の終点はSw=1 の状態Aへと戻らない。即ち、一部の油は、間隙にトラップされている(点C、図1(c)に示す地下水面下に存在する油汚染の状態に対応する)。
【0031】
このように、油が任意の土要素に侵入する過程PDCと、油が土から排出される過程SICでは、水飽和度Swは点A→ 点B → 点Aではなく、点A → 点B→ 点Cのパスを通過している。このことは、PDC上においてもヒステリシスが存在することを意味する。
【0032】
本発明者は、このようなヒステリシスに起因する油のトラップ現象に注目し、状態Aと状態Cとの土要素中の水飽和度の違い、及び隙にトラップされた油が、油の浸透の推定、特に油の深度方向の分布に大きな影響を与えるものであると考えた。従って、地下水位の変動により油汚染分布が乱され一部の油が地下水帯に取り残される現象をモデル化するためには、PDC上に存在するヒステリシスをも考慮する必要があると考えた。
【0033】
具体的に、本発明では、上記説明したヒステリシスを有する水分特性曲線をモデリングし、ヒステリシスによるトラップされた油を多相浸透流解析に反映し、地盤中の水、油、及び空気の三者に対して多相浸透流解析を行う。
【0034】
本モデルでは、地盤中における非水溶性流体(この場合、水、油、及び空気(以下「ガス」とも記す)の挙動は、次式により表す。
【0035】
【数4】

【0036】
ここに、Swは水飽和度、Soは油飽和度、Sはガス飽和度、ρは水の密度 [M/L3]、ρは油の密度 [M/L3]、ρはガスの密度 [M/L3]、φは間隙率、Vは水の間隙内流速 [L/T]、Vは油の間隙内流速 [L/T]、Vはガスの間隙内流速 [L/T]を表わす。
【0037】
間隙内流速vaは、
【0038】
【数5】

【0039】
で与えられる。また、ここでは、Kは固有透過度 [L2]、Krwは水の相対透水係数比、Kroは油の相対透油係数比、KrGはガスの相対透気係数比、μWは水の粘性係数 [M/LT]、μOは油の粘性係数 [M/LT]、μGはガスの粘性係数 [M/LT]、PWは水の圧力 [M/LT2]、POは油の圧力 [M/LT2]、PGはガスの圧力 [M/LT2]、gは重力加速度 [L/T2]、uは鉛直(Z軸)方向の単位ベクトルである。
【0040】
初期条件には各流体の液体飽和度を定義し、境界条件には地盤中へ流入する液体の圧力や流量を定義する。
【0041】
さらに、式4および式5からなる数学モデルを計算する際、図2に示す各流体の圧力と液体飽和度の関係、つまり、水分特性曲線を入力することとする。
【0042】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付した図面に基づいて説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る環境地盤への油浸透の推定方法を示すフローチャートである。
【0043】
以下において、特に断らない限り、コンピュータを用いた処理では、実際には演算処理手段(以下、CPUと記す)が処理を行う。CPUは、メモリをワーク領域として使用して演算などの処理を行う。CPUが、処理を行う前提条件は、外部から人によって操作手段(コンピュータ用キーボード、マウスなど)が操作されて、データとして入力される。入力されたデータは、メモリの所定領域に一時記憶され、演算処理に使用される。入力されたデータや演算処理の結果は、適宜記録部(ハードディスクなど)に記録される。
【0044】
ステップS1:土地履歴調査等から油の漏洩量と漏洩時期を見積もる。見積もった漏洩量と漏洩時間は、油の浸透流方程式(式4および式5にa =Oとした方程式)の境界条件として、コンピュータに入力する。
【0045】
ステップS2:漏洩時期から現在に至るまでの地下水位変動履歴を入手する。
【0046】
例えば、国土交通省の水文水質データベース(http://www1.river.go.jp/)を調べることにより、該当地区の地下水位の変動履歴を入手することができる。入手した資料をコンピュータに入力する。図4には、国土交通省から入手できる地下水位変化データの一例を示す。また、入手できない場合は、地下水位が時間方向にほぼ周期的に変化する点を考慮して、現状の水位変動から予想する。
【0047】
入手した地下水位変動履歴は、水の浸透流方程式(式4および式5にa = Wとした方程式)の境界条件として、コンピュータに入力する。
【0048】
ステップS3:計算に必要な油の物性条件及び水、土の物性条件は文献より引用し、または適宜物性試験を行い決定する。同時に、油のトラップ現象を表現した水分特性曲線モデルを決定する。決定されたデータは、コンピュータに入力される。
【0049】
ステップS4:水飽和度Swと油飽和度Soの初期分布を決定し、コンピュータに入力する。但し、水飽和度Swと油飽和度Soとは、油のトラップ現象を加味した水分特性曲線モデルに基づいて決める。
【0050】
ステップS5:ステップS1〜S4で設定された初期条件及び境界条件の下で、決定された油のトラップ現象を表現した水分特性曲線モデルを考慮しつつ、コンピュータによる多相浸透シミュレーション(有限要素法などによる数値計算)を行う。
【0051】
ステップS6:シミュレーション結果から水飽和度分布と油飽和度分布を作成する。これらの分布から、地下水面下に油が取り残されているか否かを判断することができる。
【0052】
ステップS7:ステップS6で得られた水飽和度分布と油飽和度分布を、例えば、画像データとしてコンピュータの記録手段(例えばハードディスク、光ディスクなど)に記録して、終了する。
【0053】
以上のように、油のトラップ現象及び地下水位の変動を考慮した浸透シミュレーションによって、深度方向の油の汚染分布を得ることができ、これによって、地下水面下に油が取り残されているか否かを判断することができる。
【0054】
また、得られた油の汚染分布から、実際により正確な汚染状況を知るために、例えば望ましいボーリングの深さを容易に決定することができ、汚染調査の効率化を図ることができる。
【0055】
また、例えば原位置バイオレメディエーションのように、汚染物質を除去するための微生物や化学反応剤を注入する浄化対策では地下水帯中の物質移動は地下水中における油の汚染の有無によって大きく異なる。本発明は地下水面下における油汚染の可能性を判断できるとともに、油で汚染された地下水帯の流れ場(物質移動特性)も解明できるので、一層確実な浄化対策に資することができる。
【0056】
なお、上記は本発明の一つの実施形態であり、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することが可能である。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0058】
本実施例では、上記で説明した実験について、本発明の方法に従って数値シミュレーションを行った。具体的には、図3に示したフローチャートに従って処理を行った。以下詳細に説明する。
【0059】
ステップS1において、実験では油の漏洩量は、30Lであった。しかし、今般のシミュレーションでは、図1(a)に示す地下水上昇前の油飽和度分布が得られた時点を計算の出発点とするので、境界条件としての油の漏洩量は、0である。
【0060】
ステップS2に対応する処理として、土槽下端部における水の圧力水頭を1時間あたり約1.6cmずつ増加させた。それを水の境界条件とした。
【0061】
ステップS3において、水、油、及び土の物性条件(種々の係数)を決め、且つ、油のトラップ現象を加味した水分特性曲線モデルを決定した。そして、ステップS4において、図1(a)に示す地下水上昇前の水飽和度分布と油飽和度分布を計算の初期条件として与えた。
【0062】
ステップS5において、ステップS1〜S4で設定された初期条件及び境界条件の下で、コンピュータによる油、水及び空気の3相浸透シミュレーションを行った。
【0063】
ステップS6において、シミュレーション結果から水飽和度分布と油飽和度分布を作成し(図5)、地下水面下に油が取り残されているか否かを判断した。そして、得られた水飽和度分布と油飽和度分布の図をコンピュータのハードディスクに記録して、終了した。
【0064】
このように得られたシミュレーション結果の一部を図5に示している。
【0065】
図5(a)は、図1(a)に示す地下水面上に油汚染帯を形成している状態から、地下水位を1時間あたり1.6cmの速度で上昇させたときの18時間後の解析結果を示している。また、図5(b)は、地下水位上昇終了から3日後の解析結果(油飽和度分布)を示している。図において、X軸は土槽の水平方向、Z軸は土槽の鉛直方向を表わす。図中には、油飽和度分布をグレースケールマップとして表現し、さらに、油飽和度0.02、0.04、0.06のコンターラインもあわせて記載している。
【0066】
図5から分かるように、本発明に係る油浸透の推定方法は、地下水位の上昇とともに油汚染帯も上方に移動する一方で、一部の油が地下水面下に取り残されている現象を確実に表現することができる。なお、本発明によれば、水分特性曲線のPDC上においてヒステリシス性を導入することで、地下水面下に取り残される油の残留性を、地下水位の変動から容易に推測することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油の漏洩量と漏洩時期を決定する第1ステップと、
前記漏洩時期を起点とし、所定時刻までの地下水位変動履歴を決定する第2ステップと、
油のトラップ現象を表現した水分特性曲線モデルを決定する第3ステップと、
水飽和度及び油飽和度の初期分布を決定する第4ステップと、
前記油の漏洩量及び漏洩時期を油の境界条件とし、前記地下水位変動履歴を水の境界条件とし、前記水分特性曲線モデルを考慮しつつ、多相浸透シミュレーションを行い、前記所定時刻における油飽和度分布を求める第5ステップとを含むことを特徴とする環境地盤への油浸透の推定方法。
【請求項2】
前記第5ステップにおいて、得られた油飽和度分布から、深度方向の油汚染分布を推定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の環境地盤への油浸透の推定方法。
【請求項3】
前記第5ステップにおいて、前記多相浸透シミュレーションが、次の式
【数1】

【数2】

を用いて行われ、
ここに、Swは水飽和度、Soは油飽和度、Sはガス飽和度、ρは水の密度 [M/L3]、ρは油の密度 [M/L3]、ρはガスの密度 [M/L3]、φは間隙率、Vは水の間隙内流速 [L/T]、Vは油の間隙内流速 [L/T]、Vはガスの間隙内流速 [L/T]を表わし、
Kは固有透過度 [L2]、Krwは水の相対透水係数比、Kroは油の相対透油係数比、KrGはガスの相対透気係数比、μWは水の粘性係数 [M/LT]、μOは油の粘性係数 [M/LT]、μGはガスの粘性係数 [M/LT]、PWは水の圧力 [M/LT2]、POは油の圧力 [M/LT2]、PGはガスの圧力 [M/LT2]、gは重力加速度 [L/T2]、uは鉛直(Z軸)方向の単位ベクトルである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の環境地盤への油浸透の推定方法。
【請求項4】
油のトラップ現象を表現した前記水分特性曲線モデルが、
油進入過程の最大水飽和度が水進入過程の最大水飽和度より大きいというヒステリシスを有する曲線である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の環境地盤への油浸透の推定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−216120(P2010−216120A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62790(P2009−62790)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】