説明

環境試験装置の監視システム

【課題】環境試験装置における環境試験に関するデータの記録用紙への記録状況を適宜確認することができるシステムを提供する。
【解決手段】映像監視システム1は、恒温恒湿槽2と、該恒温恒湿槽2の温湿度データを記録用紙に連続して記録する記録計3と、該記録計3が記録用紙に恒温恒湿槽2の温湿度データを記録している様子を監視する監視カメラ4と、該監視カメラ4により撮影された動画像を、ネットワーク5を通じて取得すると共に、その取得した動画像を画面表示する表示装置6と、を備える。これによって、記録計3が記録用紙に恒温恒湿槽2の温湿度データを記録している様子を表示装置6の画面上で確認することができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境試験装置における環境試験に関するデータの記録状況を、遠隔でも確認することができる監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医薬品等の安定性試験では、例えば槽内の温度及び湿度(以下、まとめて温湿度ともいう)を予め設定した温湿度に維持する恒温恒湿槽(例えば特許文献1参照)が用いられている。この恒温恒湿槽内の温湿度データ(以下、単に温湿度データともいう)は、安定性試験の試験結果として残す必要があるため、温度センサ及び湿度センサによって計測した恒温恒湿槽内の温湿度データを、コンピュータ上でデータとして記録したり、記録用紙に記録したりしている。記録用紙にデータを記録するアナログ式の記録計は、長尺の記録用紙に連続して行われることになる。
【特許文献1】特開2008−275345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アナログ式の記録計は、折り畳まれたりロール状に巻かれた記録用紙を連続的に繰り出すと共に、その繰り出した記録用紙に対して、例えばペンを相対移動させることによってデータを連続的に記録した後に、その記録用紙を再び折り畳んだり、ロール状に巻き取ったりすることになるが、そうした記録用紙の搬送の際に、空回りして記録用紙の搬送ミスが起き易いという問題がある。また、記録用紙が詰まったり、データの記録中にペンのインクが切れたりすることも起こり得る。こうした場合には、以降の温湿度データを記録することができなくなるため、試験担当者は、定期的に恒温恒湿槽の記録計を見回って、記録用紙の搬送ミス等の不具合が生じていないかを確認するようにしている。
【0004】
しかしながら、夜間や休日のように、試験担当者がその場にいないときには、温湿度データの記録状況を確認することができないため、記録計に記録用紙の搬送ミス等の不具合が起きていても知ることができない。そのため、この記録計の不具合に対して対処することができないので、温湿度データを記録することができずに、長期間のデータを失ってしまう虞がある。医薬品等の安定性試験は、長い期間にわたって継続して行われる場合があるが、その途中のデータを失ってしまうことにより安定性試験の信頼性を損なうことは望ましくない。こうした問題は、恒温恒湿槽に限らず、長い期間にわたって継続して行われる各種の環境試験装置においても同様である。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、環境試験装置におけるデータの記録用紙への記録状況を適宜確認することができるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、環境試験装置における記録計がデータを記録用紙へ記録している状況を、通信回線を介して画像として配信することにより、仮に遠隔であっても、またいつでもそれを確認することができるようにした。
【0007】
具体的には、監視システムは、供試体が収容される試験室内を所定の環境にすることによって、当該供試体に対する環境試験を行う環境試験装置と、前記環境試験装置による前記環境試験に関するデータを、所定の記録用紙に連続して記録する記録計と、前記記録計が前記記録用紙に前記データを記録している様子を少なくとも撮影する監視カメラと、前記監視カメラにより撮影された画像を、通信回線を通じて取得すると共に、その取得した画像を画面表示する表示装置と、を備えている。
【0008】
この監視システムによると、記録計が記録用紙にデータを記録している様子が監視カメラによって撮影され、その画像(動画像又は静止画像)は、通信回線を通じて表示装置に送られる。そのため、環境試験の担当者は、仮に遠隔地にいたとしても、表示装置の画面に表示された画像を通して、データの記録用紙への記録状況を確認することができる。このことにより、例えば記録用紙の搬送ミス等の記録計の不具合の発生を、早期に認識することが可能になる。そうして、データが適切に記録されていないことを確認したときには、記録計の不具合等に対して迅速且つ適切に対処することによって、長期間のデータが記録されずに欠落してしまうことを回避することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の監視システムでは、記録計がデータを記録用紙に記録している様子の画像を通信回線を通じて表示装置に送り、その画像を表示装置の画面に表示するように構成したことによって、遠隔地においても、表示装置の画面に表示された画像を通して、データの記録用紙への記録状況を確認することができる。これによって、例えば記録計の不具合等が生じた場合でも、それに対して迅速且つ適切に対処することが可能になるので、環境試験装置において、長期間のデータの欠落が回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0011】
本発明の実施形態に係る映像監視システム1は、図1に示すように、槽内の温度及び湿度を予め設定した温度及び湿度に維持する恒温恒湿槽2と、該恒温恒湿槽2の槽内温度及び槽内湿度を記録用紙に記録するアナログ式の記録計3と、該記録計3が記録用紙にデータを記録している様子を撮影する監視カメラ4と、該監視カメラ4により撮影された映像を通信回線としてのネットワーク5を通じて取得すると共に、その取得した映像を画面表示する表示装置6と、を備えている。このシステムでは、恒温恒湿槽2の記録計3が記録用紙にデータを記録している様子を、そこから離れた場所においても、表示装置6に表示される映像によって知ることができる。尚、図1においては、恒温恒湿槽2は一台しか描かれていないが、複数台あってもよい。この場合には、恒温恒湿槽2毎に一台の監視カメラ4を設置するようにし、表示装置6は、各恒温恒湿槽2に設置された監視カメラ4により撮影された映像を、ネットワーク5を通じて取得することになる。
【0012】
恒温恒湿槽2は、図1,2に示すように、相対的に上側に試験室部21を、相対的に下側に台座部22を、それぞれ配設することによって、試験室部21と台座部22とが上下方向に並んで配設されている。
【0013】
試験室部21は、槽正面の扉211と、該扉211を閉じたときに、槽内に形成される閉空間S(試験室)に配設された温湿度センサ212と、閉空間Sの槽背面側に配設された温湿度調整系213と、を備えている。
【0014】
扉211には、操作盤211aが取り付けられており、この操作盤211aに閉空間Sの設定温湿度が入力される。
【0015】
温湿度センサ212は、閉空間Sの温湿度を計測する機能を有する。この温湿度センサ212としては、例えば温度計と露点温度計とが一体化されたデジタル温湿度センサを採用すればよい。この温湿度センサ212によって計測された閉空間Sの温湿度データは、温湿度調整系213における制御に利用されると共に、記録計3に送られる。
【0016】
温湿度調整系213は、例えば冷凍機、加湿機、加温機等を備えており、この冷凍機等を作動させることによって、温湿度センサ212によって計測された閉空間Sの温湿度と、操作盤211aに入力した設定温湿度と、が同じになるように閉空間Sから吸い込んだ空気の調和を行った後に、閉空間Sへと供給する。
【0017】
台座部22の槽正面から見て右側(つまり、図2の右側)には、記録計3及び監視カメラ4が配設されている。
【0018】
記録計3は、図3に示すように、温湿度センサ212から送られてきた閉空間Sの温湿度データを表示する表示部と、温湿度データを数字及びチャートグラフとして、長尺の記録用紙(チャート紙)に連続して印字する印字部と、を備えた、いわゆるペンレコーダである。この記録計3では、詳細な図示は省略するが、長尺の記録用紙が例えば折り畳んだ状態でセットされていると共に、そこから繰り出した記録用紙を印字部に搬送し、そこにおいてデータの記録を行った後に、その記録用紙を再び折り畳むように構成されている。記録計における印字部は、台座部22の正面に配置されて外部に露出しており、それによって記録用紙にデータを記録している様子を、外から見ることができるように構成されている。また、表示部は、印字部の上方位置に配置されており、この表示部の表示もまた、外から見ることができるように構成されている。
【0019】
監視カメラ4は、前述したように、記録計3における印字部の動画像を撮影すると共に、その撮影した動画像を、ネットワーク5を通じてリアルタイムに配信する機能を有するカメラである。監視カメラ4は、取り付け金具を介して台座部22に固定されることによって、記録計3に相対して配設されている。例えば図4の(a)に示すように、取り付け金具は、記録計3が設置された箇所の下側に固定されると共に、そこから前方に突出するように構成し、その突出端部において監視カメラ4の下部を支持することによって、記録計3の真正面に監視カメラ4を配置するようにしてもよい。尚、図4の(b)に示すように、取り付け金具を、記録計3が設置された箇所の上側に固定すると共に、その突出端部に監視カメラ4を吊り下げ支持するように構成することによって、記録計3の真正面に監視カメラ4を配置するようにしてもよい。また、図4の(c)に示すように、記録計3が設置された箇所の側方に取り付け金具を固定すると共に、その突出端部において監視カメラ4の側部を支持することによって、記録計3の真正面に監視カメラ4を配置するようにしてもよい。例えば記録計3の記録用紙等を取り替えるために、台座部22の槽正面から見て右側(つまり、図4の右側)の部分は、図4の矢印で示すように、開閉可能な扉状(以下、台座部扉ともいう)に構成されているが、前述した取り付け金具を利用して、監視カメラ4を台座部22(詳しくは、台座部扉)に取り付けることによって、監視カメラ4は、台座部扉の開閉に伴って、台座部扉と一体となって移動するので、台座部扉の開閉を妨げない。そのため、台座部扉を開閉する度に、監視カメラ4を取り外さなくともよい。また、このような取り付け金具を利用して監視カメラ4を設置することによって、既存の恒温恒湿槽に対して、後付けで監視カメラ4を取り付けることが可能になる。
【0020】
尚、監視カメラ4は、その設置位置を調整することによって、記録計3の印字部と共に、表示部を撮影するようにしてもよい。こうすることで、表示装置6には、印字部に加えて、表示部も表示されるようになるので、監視カメラ4の映像を通じて閉空間Sの温湿度を正確に把握することができる。
【0021】
また、監視カメラ4に首振り機能やズーム機能を持たせてもよく、表示装置6の操作によって、監視カメラ4の首振り機能やズーム機能を制御するようにしてもよい。こうすることで、表示装置6によって記録計3の様子を確認している試験担当者は、必要に応じて表示装置6を操作することによって監視カメラ4の視野を変更することができる。これにより、例えば、記録用紙に印字された温湿度データの詳細な値まで撮影することができる。
【0022】
さらに、監視カメラ4にLED照明を取り付けてもよい。こうすることで、監視カメラ4は、LED照明により記録用紙等を照らしながら撮影することができる。これにより、監視カメラ4は、記録用紙等の鮮明な映像を得ることができる。またこの場合には、恒温恒湿槽2が設置されている室内の照明が点灯されていて、室内が明るいときに、LED照明を自動消灯して撮影を行う一方、室内の照明が消灯されていて、室内が暗いときには、LED照明を自動点灯して撮影を行うようにしてもよい。このことは、省エネルギの観点から有利である。
【0023】
前述したように監視カメラ4は、撮影した映像をネットワーク5を通じて、当該システムに対する認証を行った表示装置6に対し配信する機能を有しており、具体的には、この監視カメラ4の映像は、ルータ機能を有するネットワークハブ(図示省略)を介してネットワーク5に送られる。
【0024】
ネットワーク5は、例えばインターネット等の通信ネットワークであり、このネットワーク5を通じて、監視カメラ4の映像が表示装置6に送られる。
【0025】
表示装置6は、前述したように、監視カメラ4の映像を、ネットワーク5を通じて取得し、その取得した映像を画面表示する機能を有している。この表示装置6としては、例えばパーソナルコンピュータや、携帯電話などを採用すればよく、取得した映像を表示するための表示部、映像監視システム1に対する認証操作や、監視カメラ4に対して映像配信を要求するための操作を行うための操作部、並びに、表示部及び操作部等の制御を行う制御部を、少なくとも備えていればよい。
【0026】
尚、この映像監視システム1に、それぞれ監視カメラ4が設置された複数台の恒温恒湿槽2が含まれているときには、表示装置6の操作に応じて、複数の監視カメラ4の映像を同時に、表示装置6の画面に表示するようにしてもよいし、複数台あるうちから選択した1台の恒温恒湿槽2に設置された監視カメラ4の映像のみを表示装置6の画面に表示するようにしてもよい。
【0027】
本監視システムは、以上のように構成されており、次に本監視システムの使用方法及び作用効果について説明する。
【0028】
この映像監視システム1に対するアクセス権限を有するユーザー(例えば、恒温恒湿槽2の管理者、供試体の管理者、恒温恒湿槽2が設置された施設の守衛等)は、先ず、表示装置6から例えばIDやパスワードを入力して、映像監視システム1に接続する。そうして、映像監視システム1内に複数台の恒温恒湿槽2が含まれている場合には、表示装置6によって、1台又は複数台の恒温恒湿槽2を選択し、その選択した恒温恒湿槽2に設置されている監視カメラ4の映像を映像監視ステム1に対して要求する。これによって、選択した恒温恒湿槽2に設置されている監視カメラ4からネットワーク5を通じて表示装置6に映像が送られると共に、その映像が表示装置6の画面に表示される。尚、恒温恒湿槽2が1台であるときには、そうした選択操作は不要になる。この表示装置6の画面に表示された映像(以下、単に表示装置6の映像ともいう)には、少なくとも記録計3の印字部が映っていて、記録用紙に対してデータを記録している様子が映っているので、ユーザーは、その表示装置6の映像を通して、選択した恒温恒湿槽2の温湿度データが記録用紙に印字されているか否かを確認することができる。従って、ユーザーは、映像監視システム1を使用することによって、いつでも、どこにいても、温湿度データの記録用紙への記録状況を簡単に確認することができる。このとき、複数のユーザーに対して本映像監視システム1へのアクセス権限を付与しておけば、複数のユーザーよってデータの記録状況を確認することが可能になり、より確実にデータの記録状況を確認することができると共に、各ユーザーの監視負担も軽減される。そうして、例えば記録用紙の搬送ミス等によって温湿度データが適切に記録されていないことも早期に確認することが可能になり、データが記録されていないことを確認したときには、記録計3の不具合に対して迅速且つ適切に対処することによって、長期間の温湿度データが記録用紙に記録されずに欠落してしまうことを回避することができる。このような医薬品の安定性試験は長期間を要する試験であり、記録計3の不具合によって、温湿度データが未記録となった期間が長くなることは、安定性試験の信頼性の点で好ましくなく、安定性試験の有効性が損なわれていないことを主張するために多大な労力を要することになる。また、最悪の場合、安定性試験が無効になって、長期間の安定性試験を再度やり直すことが必要となる。そのため、試験担当者は、記録計3において温湿度データが確実に記録されているか否かを監視しなければならず、そのことによる試験担当者にかかる精神的な負担も大きい。特に夜間や休日等の、恒温恒湿槽2の設置場所から離れているときには、そうした記録計3の監視を行うことができない一方で、そのときに記録計3の不具合が生じたときにはそのことを知ることができず、翌朝や休み明けになってようやく記録計3の不具合を知ってそれに対応することになるため、データの欠落期間が長くなってしまうという問題があるところ、前記の監視システムは、そうした問題を解消し得る。これにより、安定性試験の有効性を確実にすることができるので、ユーザーの精神的負担を軽減することもできる。
【0029】
尚、本実施形態においては、ユーザーが監視カメラ4の映像を映像監視システム1に対して要求しているが、一定時間おきに監視カメラ4の映像が表示装置6に配信されるようにシステムを構成してもよい。その場合に、監視カメラ4は動画像の配信ではなく、静止画像の配信を行うようにしてもよい。
【0030】
また、監視カメラ4を恒温恒湿槽2に内蔵するように構成してもよい。こうすることで、監視カメラ4が恒温恒湿槽2の前方に突出することが回避され、見栄えが向上する。
【0031】
本発明に係る監視システムは、前記において例示されたような恒温恒湿槽の温湿度データを記録する場合に限らず、例えば光安定性試験装置の試験データを記録計によって記録する場合など、各種の環境試験装置において、記録計によってデータを記録用紙に記録する全ての場合に対して適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明の監視システムは、遠隔地においても、またいつでもデータの記録用紙への記録状況を確認することができるため、例えば安定性試験のように、記録計によってデータを記録用紙に記録する各種試験等に適用し得る点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る映像監視システムの概略構成図である。
【図2】恒温恒湿槽を正面側から見た斜視図である。
【図3】記録計を正面から見た概略図である。
【図4】恒温恒湿槽の外側に監視カメラを設置するときの監視カメラの設置例を説明した図である。
【符号の説明】
【0034】
1 映像監視システム
2 恒温恒湿槽
3 記録計
4 監視カメラ
5 ネットワーク(通信回線)
6 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体が収容される試験室内を所定の環境にすることによって、当該供試体に対する環境試験を行う環境試験装置と、
前記環境試験装置による前記環境試験に関するデータを、所定の記録用紙に連続して記録する記録計と、
前記記録計が前記記録用紙に前記データを記録している様子を少なくとも撮影する監視カメラと、
前記監視カメラにより撮影された画像を、通信回線を通じて取得すると共に、その取得した画像を画面表示する表示装置と、を備えていることを特徴とする環境試験装置の監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−216875(P2010−216875A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61673(P2009−61673)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000134730)ナガノサイエンス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】