説明

環境試験装置

【課題】結露が存在する時間を長期化したり、結露が生じる時間をある程度制御することができる環境試験装置を提供する
【解決手段】被試験物30を低温低湿度の環境と高温高湿度の環境に交互にさらして被試験物30に結露を発生させる環境試験装置1において、少なくとも送風手段及び送風環境制御手段10を有し、送風環境制御手段10によって送風量、風速、風向の少なくともいずれかを変化させることができることを特徴とする環境試験装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境試験装置に関するものであり、特に被試験物に結露させてその影響を調査する環境試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば冬季に、屋外で携帯電話やデジタルカメラ、ビデオカメラ等の電子機器を使用し、これを暖房された屋内や車内に持ち込むと電子機器に結露が生じる場合がある。また冬季や梅雨時に屋外で上記した様な電子機器を使用すると、電子機器に結露が生じる場合がある。
この様に屋内と屋外の双方で使用される電子機器や屋外で使用される頻度の高い電子機器は、結露にさらされる機会が多い。
さらに近年、使用環境が多様化し、例えば浴室の様な極めて湿度が高い環境において電子機器を使用する様な例も見られる。この様な環境下で使用される機器は、結露にさらされる機会が極めて多い。
【0003】
一方、結露は、電子機器の絶縁性や電気特性の変化等に悪影響を与える懸念がある。即ち結露に起因する故障は古くから知られている。
特に近年、電子機器の小型化や高密度実装化が進み、導体間が微細化している。そのため機器内に結露が発生すると、結露によって導体間がショートしたり、導体の一部が腐食して断線するといった危険がある。
そこで電子機器等の性能評価の一つとして、結露による影響を評価することが大切である。
【0004】
結露による絶縁劣化の信頼性試験として非特許文献1に記載された様な結露サイクル試験が知られている。
結露サイクル試験は、湿度条件を急激に変化させ、一定量、一定時間の結露の生成と乾燥を繰り返すことにより、結露による変化を進行させる試験方法である。
上記した試験方法を再現する環境試験装置として特許文献1に開示された様な環境試験装置がある。
特許文献1に記載した環境試験装置は、乾燥状態に保った試験室に被試験物を置き、この被試験物に湿り空気を吹きつけるものである。
特許文献1に記載した環境試験装置では、湿り空気の送風量や風速、風向を変化させることはできない。また特許文献1に記載した環境試験装置では、試験室を乾燥状態に維持するために送風する送風量や風速、風向を変化させることもできない。
【非特許文献1】JPCA規格 JPCA−ET09
【特許文献1】特開平5−164684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された環境試験装置は、被試験物に人工的に結露を生じさせることができるので、被試験物の、結露に対する影響を試験することができる。
しかしながら、特許文献1に開示された環境試験装置は、結露が生じてから結露が消失するまでの時間が短いという問題がある。また特許文献1に開示された環境試験装置では、結露が生じてから結露が消失するまでの時間はなりゆきであり、何ら制御できないという問題がある。
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、結露が存在する時間を長期化したり、結露が生じる時間をある程度制御することができる環境試験装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、本発明者らは結露ができる際のプロセスと、結露が消失する際のプロセスを検討した。
即ち低温低湿状態の環境に被試験物をおいて被試験物を低温乾燥させ、次に高温高湿状態の空気を送り込んだ状態を想定すると、被試験物の表面温度が置かれた環境における露点温度以下の場合に結露が生成される。一方、被試験物表面に結露が生じ、被試験物温度が露点以上になると水分の蒸発が始まり、周囲温度と同じになれば結露は完全に消失する。
従って結露が存在する時間は、環境から被試験物や結露水に対する熱交換量によって左右される。そのため風速や風量は結露が存在する時間と乾燥時間の繰り返しの正確性に大きな影響を与える。
【0007】
そこで請求項1に記載の発明は、被試験物を低温低湿度の環境と高温高湿度の環境に交互にさらして被試験物に結露を発生させる環境試験装置において、少なくとも送風手段及び送風環境制御手段を有し、送風環境制御手段によって送風量、風速、風向の少なくともいずれかを変化させることができる構成とした。
【0008】
本発明の環境試験装置では、送風環境制御手段によって送風量、風速、風向の少なくともいずれかを変化させることができるから、結露水が存在する時間や量をある程度制御することができる。
【0009】
また請求項2に記載の発明は、被試験物が置かれる環境を低温低湿度の環境から高温高湿度の環境に変更した後であって、さらに所定の条件を満足した後に被試験物に接する風量が減ずる様に送風環境を変化させることを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置である。
【0010】
ここで「所定の条件」は適宜定めればよいが、例えば、上記環境を低温低湿度から高温高湿度に変更してから一定時間が経過したことや、被試験物等の温度が一定条件を満たした(具体例としては、被試験物の温度が環境における露点温度に近づいて、その差が一定値以下となった)こと等が挙げられる。時間や温度の具体的数値は、実験に基づいて定めればよい。
【0011】
なお、本出願における「被試験物の温度」としては、露点温度との関係から被試験物の表面温度を採るのが好適であるが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、状況によっては、被試験物の内部温度等を採ってもよい。
【0012】
請求項2に記載の発明によると、結露水を比較的長期に渡って存在させることができる。
即ち結露の生成量は、被試験物表面温度が周囲温度の露点温度以下であり、且つその温度差が大きいほど増加する。また結露は前記した様に、被試験物の温度が周囲温度と同じになれば消失するから、被試験物に対する熱交換量が少ないほど結露が維持される時間が長い。従って被試験物に接する風量は少ないほうが結露を長期に渡って存在させることができる。
しかしながら、被試験物を取り巻く環境の風速が低いと、周囲温度の変化速度が遅くなり、被試験物の温度が周囲の環境の温度に追従するため露点以下となる時間が短くなり、試験体に生じる結露が却って少なくなったり、全く結露が生じなくなる問題がある。
そこで請求項2に記載の発明では、被試験物が置かれる環境を低温低湿度の環境から高温高湿度の環境に変更した後であって、さらに所定の条件を満足した後に被試験物に接する風量が減ずることとした。本発明の環境試験装置では、被試験物が置かれる環境を低温低湿度の環境から高温高湿度の環境に変更した後であって所定の条件を満足した後に被試験物に接する風量が減少させるので、被試験物に十分に結露が生じさせた後に、被試験物に接する風量が減少させることとなる。そのため結露水を比較的長期に渡って存在させることができる。
【0013】
また請求項3に記載の発明は、被試験物の温度を測定する被試験物温度測定手段を有し、被試験物の温度が置かれた環境の露点温度近傍となったことを条件として被試験物に接する風量が減ずる様に送風環境を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境試験装置である。
【0014】
本発明の環境試験装置では、被試験物の温度を測定する被試験物温度測定手段を有し、被試験物の温度が置かれた環境の露点温度近傍となったことを条件として被試験物に接する風量を減少させる。
被試験物の温度が置かれた環境の露点温度近傍の時、被試験物に付着する結露の量が最大となる。本発明の環境試験装置では、被試験物の温度が置かれた環境の露点温度近傍となったことを条件として被試験物に接する風量を減少させるので、被試験物に付着する結露の量が最大となった後に風量を減少させる。そのため結露水を比較的長期に渡って存在させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、環境を変化させる環境変化期間と、結露を維持させる結露維持期間があり、結露維持期間における送風量又は風速の少なくともいずれかは、環境変化期間におけるそれよりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0016】
本発明の環境試験装置は、結露維持期間における送風量又は風速の少なくともいずれかを、環境変化期間におけるそれよりも小さくしたので、結露が生成した後の被試験物に対する熱移動が抑制され、結露水を比較的長期に渡って存在させることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、被試験物を乾燥させる乾燥期間と、結露を維持させる結露維持期間があり、結露維持期間における送風量又は風速の少なくともいずれかは、乾燥期間におけるそれよりも小さいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0018】
本発明の環境試験装置は、結露維持期間における送風量又は風速の少なくともいずれかを、被試験物を乾燥させる乾燥期間よりも小さくしたので、結露が生成した後の被試験物に対する熱移動が抑制され、結露水を比較的長期に渡って存在させることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、低温低湿度の環境を作る低温低湿度調整槽と、高温高湿度の環境を作る高温高湿度調整槽と、被試験物を設置する試験室を有し、前記低温低湿度調整槽及び高温高湿度調整槽から試験室に対して交互に送風することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0020】
本発明の環境試験装置では、低温低湿度の環境を作る低温低湿度調整槽と、高温高湿度の環境を作る高温高湿度調整槽とを有し、これらから試験室に対して交互に送風する構成であるため、試験室の環境を短時間の内に変化させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の環境試験装置は、送風環境制御手段によって送風量、風速、風向の少なくともいずれかを変化させることができるので、結露が存在する時間を長期化したり、結露が生じる時間をある程度制御することができる。そのため本発明の環境試験装置は、試験者が要求する結露条件を容易に作ることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態の環境試験装置の内部構造を示す斜視図である。図2,図3は、本発明の実施形態の環境試験装置の構想図であり、図2は正面側から観察した状態、図3は側面側から観察した状態を制御手段を含めて示している。
【0023】
本実施形態の環境試験装置1は、被試験物を低温低湿度の環境と高温高湿度の環境に交互にさらして被試験物に結露を発生させるものである。
本実施形態の環境試験装置1は、断熱材2によって囲まれた全体槽3を備え、全体槽3の内部が被試験物配置室(試験室)5と、低温低湿度調整槽6及び高温高湿度調整槽4とに分かれている。
そして制御装置10によって全体槽3内の環境が制御される。
【0024】
この様に全体槽3は、公知のそれと同様に、内部の温度や湿度等の内部環境を任意に調節する機能を持つ。最初に全体槽3の概略構成と、全体槽3内の環境を調節する手段について説明する。
【0025】
全体槽3の内部は、仕切り板9及び仕切り壁13によって少なくとも3室に仕切られている。即ち全体槽3の上部に被試験物を配置する被試験物配置室(試験室)5があり、全体槽3の下部に仕切り板9を介して低温低湿度調整槽6がある。また被試験物配置室(試験室)の奥側には仕切り壁13を介して高温高湿度調整槽4が設けられている。被試験物配置室(試験室)5の前面には、被試験物を出し入れするための扉14が設けられている。
【0026】
低温低湿度調整槽6の奥側には仕切り壁33を介して機械室34が設けられ、制御装置、冷媒循環用のポンプまたはコンプレッサ等の機器(図示せず)が設けられている。ただし、この仕切り壁33及び機械室34は設けなくてもよい。
【0027】
なお、図1〜3に示す実施形態では、被試験物配置室(試験室)5の奥側に高温高湿度調整槽4を設け、被試験物配置室5の下側に低温低湿度調整槽6を設けているが、これらの配置は適宜入れ替えてもよい。例えば、被試験物配置室(試験室)5の奥側に低温低湿度調整槽6を設け、被試験物配置室5の下側に高温高湿度調整槽4を設けてもよい。
【0028】
被試験物配置室5内には、室内温度検知センサ11と湿度検知センサ12が設けられている。
室内温度検知センサ11は具体的には熱電対である。
室内温度検知センサ11及び湿度検知センサ12の検知信号は、図3の様に制御装置10(送風環境制御手段)に入力される。
【0029】
また被試験物配置室5内には被試験物の表面の温度を検知する被試験物温度測定センサ36が設けられている。
被試験物温度測定センサ36としては熱電対やサーミスタ等の公知のセンサを活用することができる。被試験物温度測定センサ36は前記した様に被試験物の温度を検知するものであり、被試験物に直接取り付けられるものが推奨されるが、非接触状態で被試験物の温度を測定するものであってもよい。
被試験物温度測定センサ36は、信号線によって制御装置10に接続されている。
【0030】
低温低湿度調整槽6は、仕切り板9に隔てられて被試験物配置室5の下にあり、仕切り板9には、被試験物配置室5と連通する開口7,8が両側面側にある。一方の開口7は、吸入側開口として機能し、他方の開口8は、送風用開口として機能する。開口7,8にはそれぞれダンパ27,28が設けられている。各ダンパ27,28は、いずれも図示しないアクチュエータによって開閉される。
【0031】
下部の低温低湿度調整槽6には、加湿器15、空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17、加熱ヒータ18及び送風機20が配されている。また低温低湿度調整槽6には、図示しない温度センサと湿度センサが設けられている。
加湿器15、空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17及び加熱ヒータ18は、いずれも公知のものを採用することができる。
【0032】
送風機20は、本実施形態では、回転速度を任意に変更できるものが採用されている。即ち送風機20を駆動するモータ(図示せず)は、直流モータ或いはインバータ制御された交流モータであり、回転数が可変である。
【0033】
前記した加湿器15、空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17、加熱ヒータ18及び送風機20はそれぞれリレー等の駆動装置に接続され、さらに図3の様に制御装置10からの信号を受けて動作する。
【0034】
本実施形態の環境試験装置1では、低温低湿度調整槽6内が常時所定の低温低湿度の環境に維持されている。即ち送風機20によって低温低湿度調整槽6内の空気が循環して低温低湿度調整槽6を通過し、所望の環境が作られる。即ち低温低湿度調整槽6内の空気は送風機20によって低温低湿度調整槽6内を循環し、このとき、空気は前記した空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17を通過し、さらに加熱ヒータ18に触れる。また必要に応じて加湿器15から水蒸気が供給される。
【0035】
そしてダンパー27,28を開くと、低温低湿度調整槽6内の空気が被試験物配置室5内に導入される。即ちダンパー27,28を開くと、低温低湿度調整槽6には吸入側開口7から被試験物配置室5内の空気が吸入され、被試験物配置室5には低温低湿度調整槽6内の低温低湿に調整された空気が送風用開口8から流れ込む。すなわち、送風機20、送風用開口8等は、低温低湿に調整された空気を被試験物配置室5に送風する送風手段である。
【0036】
高温高湿度調整槽4は、被試験物配置室5の奥側にあり、仕切り壁13の上下に被試験物配置室5と連通する開口7’,8’がある。一方の開口7’は、吸入側開口として機能し、他方の開口8’は、送風用開口として機能する。開口7’,8’にはそれぞれダンパ37,38が設けられている。各ダンパ37,38は、いずれも図示しないアクチュエータによって開閉される。
【0037】
高温高湿度調整槽4についても内部に加湿器15’、空気冷却用熱交換器16’、除湿用熱交換器17’、加熱ヒータ18’及び送風機20’が配されている。
加湿器15’その他の機能は、前記した低温低湿度調整槽6内に配置されたものと同様であり、空気冷却用熱交換器16’、除湿用熱交換器17’及び加熱ヒータ18’は、いずれも公知のものを採用することができる。
また送風機20’は、本実施形態では、回転速度を任意に変更できるものが採用されている。加湿器15’、空気冷却用熱交換器16’、除湿用熱交換器17’、加熱ヒータ18’及び送風機20’はそれぞれリレー等の駆動装置に接続され、さらに図3の様に制御装置10からの信号を受けて動作する。
【0038】
本実施形態では、高温高湿度調整槽4内は、常時所定の高温高湿度の環境に維持されている。
【0039】
そしてダンパー37,38を開くと、高温高湿度調整槽4内の空気が被試験物配置室5内に導入される。即ちダンパー37,38を開くと、高温高湿度調整槽4には吸入側開口7’から被試験物配置室5内の空気が吸入され、被試験物配置室5には高温高湿度調整槽4内の高温高湿に調整された空気が送風用開口8’から流れ込む。すなわち、送風機20’、送風用開口8’等は、高温高湿に調整された空気を被試験物配置室5に送風する送風手段である。
【0040】
環境試験装置1の制御装置10には、テンキーやタッチパネル等の設定入力手段22が接続されており、希望する全体槽3内の環境を設定入力することができる。また制御装置10には、表示手段23が接続されており、設定内容や、現在の全体槽3内の環境が数値で表示される。また、制御装置10は、タイマ(図示せず)を有している。タイマとして、独立した機器を用いてもよいし、制御装置10自身がタイマ機能を有していてもよい。
【0041】
環境試験装置1では、室内温度検知センサ11と湿度検知センサ12によって被試験物配置室5内の温度と湿度が監視されている。そして被試験物配置室5内の温度が設定環境の温度よりも低い場合には加熱ヒータ18(又は18’)に通電して空気を昇温させ、被試験物配置室5内の温度が設定環境の温度よりも高い場合には空気冷却用熱交換器16(又は16’)に冷媒を流して空気冷却用熱交換器16(又は16’)の温度を低下させ、流通する空気から熱を奪う。
また被試験物配置室5内の湿度が設定環境の湿度よりも低い場合には加湿器15(又は15’)から蒸気を噴射して通過する空気に混入する。
逆に被試験物配置室5内の湿度が設定環境の湿度よりも高い場合には除湿用熱交換器17(又は17’)によって水蒸気を凝縮させる。
【0042】
次に本実施形態の環境試験装置1の機能を図4、図5を参照しつつ、実際の試験手順を追って説明する。なお図4は、本実施形態の環境試験装置の動作を示すフローチャートである。図5は、本実施形態の環境試験装置における温度、風速、結露量の変化を示すタイムチャートである。図5(a)には、試験室における環境温度が破線で、被試験物温度が実線で、それぞれ示されている。図5(b)には試験室における設定風速、図5(c)には被試験物表面における結露量が示されている。
【0043】
本実施形態の環境試験装置1は、被試験物として例えば携帯電話の基板30を検査するものであり、試験の準備段階として、試験条件を設定する。即ち本実施形態の環境試験装置は、前記した様に被試験物を低温低湿度の環境と高温高湿度の環境に交互にさらして被試験物に結露を発生させるものであるから、低温低湿度の環境と高温高湿度の環境とを設定する。
【0044】
また低温低湿度の環境と高温高湿度の環境を繰り返すので、その周期や環境を一定に保つ時間等が設定される。
【0045】
そして続いて被試験物配置室5内に被試験物たる基板30を設置する。具体的には、被試験物配置室5内に基板30を置く。そして被試験物配置室5に設けられた被試験物温度測定センサ36を基板30に取り付ける。
【0046】
準備が整うと、環境試験装置1を起動し、試験を開始する。以下、環境試験装置1は、図4のフローチャート及び図5のタイムチャートの様に機能する。
【0047】
即ち環境試験装置1を起動すると、ステップ1,2で低温低湿度調整槽6と高温高湿度調整槽4の温調機能等が動作を開始する。具体的には、低温低湿度調整槽6の加湿器15、空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17、加熱ヒータ18が起動し、低温低湿度調整槽6内の環境を設定された低温低湿環境に近づけようとする。同様に高温高湿度調整槽4の加湿器15’、空気冷却用熱交換器16’、除湿用熱交換器17’、加熱ヒータ18’が起動し、高温高湿度調整槽4内の環境を設定された高温高湿環境に近づけようとする。
なお、この時、各槽の送風機20,20’の回転を開始させるが、この時の送風機20,20’の回転数はフル回転である。
【0048】
そしてステップ3で、高温高湿度調整槽4内と低温低湿度調整槽6内が設定された環境となるのを待つ。
【0049】
そして続くステップ4で、低温低湿度調整槽内の低温低湿度に調整された空気を被試験物配置室5に導入する。
具体的には、低温低湿度調整槽の開口7,8に設けられたダンパー27,28を開く。なおこの時、高温高湿度調整槽の開口7’,8’に設けられたダンパー37,38は閉じておく。その結果、吸入側開口7から被試験物配置室5内の空気が低温低湿度調整槽6に吸入され、低温低湿度調整槽6内の低温低湿に調整された空気が送風用開口8から被試験物配置室5に流れ込む。ここでこの時の送風機の回転数はフル回転であり、被試験物配置室5内には低温低湿に調整された空気が大風量且つ高風速で流れ込む。
そのため被試験物配置室5の環境は、急速に低温低湿化する。被試験物配置室5内に配置された被試験物の温度も次第に低下する。
【0050】
そしてステップ5で被試験物配置室5内が所定の低温低湿環境となったことが確認され、さらにステップ6で被試験物の温度が所望の低温(図5(a)のTL)となったことが確認されると(具体的には、被試験物温度と試験室内環境温度との差が±1.0℃以下であることが確認されると)、ステップ7に移行して被試験物配置室5に高温高湿空気を導入する。
なお低温低湿度調整槽の開口7,8を開いてから被試験物の温度が所望の低温となる迄の間は乾燥期間であり、この間に被試験物が低温且つ乾燥状態となる。即ち結露が消滅した状態となる。
【0051】
本実施形態では、被試験物の温度が所望の低温となったことが確認されたことを条件として乾燥期間を終了したが、これに代わって、あるいはこれに付加する条件として、低温低湿度調整槽の開口7,8を開いてからの時間や、被試験物配置室5が所定の低温低湿となった後の時間を測定し、この時間が所定の時間を経過したことを条件として高温高湿空気を導入してもよい。
【0052】
ステップ7以降の工程は、環境変化期間となる。
即ちステップ7では低温低湿度調整槽の開口7,8を閉じ、代わって高温高湿度調整槽の開口7’,8’を開く。
その結果、被試験物配置室5内に高温高湿に調整された空気が大風量且つ高風速で流れ込む。すなわちこの時における送風機の回転数はフル回転である。(このときの風量、風速を「大風量」、「大風速」という。)
そのため被試験物配置室5の環境は、急速に高温高湿化する。図5(a)には、環境温度が破線で示されている。
【0053】
ここで、前記した乾燥工程によって被試験物が冷却されているから、被試験物の表面は、環境における露点温度以下となり、被試験物の表面に急速に結露が生じる。
また被試験物温度は、図5(b)に実線で示すように、次第に上昇する。
【0054】
そしてステップ8で被試験物の表面の温度が環境における露点温度(図5(a)のTW)に近づいたことが検知されると、ステップ9に移行して送風量を低下させる。
ここで被試験物の表面の温度が環境における露点温度に近づいた状態とは、例えば両温度の差が±1.0℃以下となった状態をいい、これは結露量が最大に近い状態である。
そして本実施形態では、この状態で送風量を低下させるから、被試験物に接する空気量が減少し、被試験物と環境との熱交換量が減少する。そのため被試験物に対して結露が長期に残留することとなる。図5(a)では、実線のグラフがTW付近で平坦になる。なお、このときの風量、風速を「小風量」、「小風速」という。
【0055】
被試験物は、その後次第に温度が上昇し、被試験物の表面に発生した結露は次第に蒸発する。
本実施形態では、ステップ10で試験室内が所定の高温高湿環境になっていることを確認した後、ステップ11で被測定物の温度が環境温度(図5(a)の高温側乾球温度TH)に近づいて両温度の差が±1.0℃以下となったことが検知されると、ステップ12に移行してタイマを起動する。このタイマーは、結露が残存するであろう時間に合わせる。そしてステップ13で所定の時間が経過したと判定されると、ステップ14に移行して送風量を大風量まで増加させる。その結果、被試験物表面の結露は完全に消失する。
【0056】
本実施形態では、タイマを利用し、タイマの計時が終了したことを条件として送風量を増加させたが、タイマに替えて、あるいはタイマに加えて、被試験物の温度上昇を条件として送風量を増加させてもよい。
【0057】
ステップ15,16で、所定の時間が経過するまで、大風量による高温高湿空気の送風を行う。所定の時間が経過すると、ワンサイクルの結露工程が終わる。そしてステップ17に移行してカウンタに1加算する。またステップ18に移行し、カウンタの数が予め設定した繰り返し数に達したか否かを判定する。所定の繰り返し数に達している場合は試験を終了する。一方、繰り返し数に満たない場合は、ステップ3に戻り、先の工程を繰り返す。
【0058】
上記の各ステップにおける具体的な設定温度やタイマ時間等は、実験に基づいて適宜定めればよい。風量、風速も適宜定めればよいが、上記の「大風速」としては、1.0〜3.0m/s、「小風速」としては、0.1〜1.0m/sが推奨される。
【0059】
なお、図4、5によって示される運転方法はあくまで一例であり、実際の試験においてステップを適宜追加、変更、又は削除してもよいことは勿論である。
【0060】
以上説明した実施形態では、送風機20,20’のモータの回転数を変更することによって送風量を調節したが、ダンパ等を設け、ダンパの開度を調節することによって送風量を増減することも可能である。
また風の向きを制御する風向板等を設け、風向を変化させて被試験物(基板30等)と接する実際の風量を増減させてもよい。
【0061】
また、被試験物配置室5内にさらに風速センサを設け、当該風速センサで検知される風速を監視しながらモータの回転数やダンパの開度を制御してもよい。
【0062】
また、風速センサの位置や向き、個数を工夫することによって、基板30に直接接触する風の風速や、基板30の面方向の風速あるいは風量を検知する構成としてもよい。
【0063】
また前記した実施形態では、送風量を2段階に変化させたが、3段階以上に段階的に変化させてもよい。また、段階的変化に限らず、目標となる量との偏差に応じて送風量を増減してもよい。即ち送風量や風速を基板30の温度に応じて比例制御してもよい。
【0064】
また、前記した実施形態は、低温低湿度の環境を作る低温低湿度調整槽と、高温高湿度の環境を作る高温高湿度調整槽と、被試験物を設置する試験室を有し、前記低温低湿度調整槽及び高温高湿度調整槽から試験室に対して交互に送風するものであるが、他の実施形態として、被試験物が低温低湿度調整槽と高温高湿度調整槽との間を移動するものとしてもよい。
【実施例1】
【0065】
図1〜3に示した環境試験装置を使用し、図4、5に示した運転方法によって試験を行った。具体的には、被試験物として櫛形基板(0.3mmピッチ)を用い、高温側環境温度を25℃、高温側環境湿度を90%、低温側環境温度を5℃、低温側環境湿度を60%とし、上記の大風速を1.0m/s、小風速を0.5m/sとし、被試験物を高温側環境と低温側環境に20分ずつ繰り返しさらして試験を行った。
電圧(DC5V)を印加して乾燥時のリーク電流が初期の2倍以上になったものを故障と判定し、サイクル数と累積不良率をワイブル確率グラフにプロットしたところ、きわめて直線性の良いデータが得られた。
これは、結露が存在する時間と乾燥時間の繰り返しが正確であることによると考えられる。したがって、結露による影響の評価の精度が向上することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態の環境試験装置の内部構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の環境試験装置の構成を示す正面断面図である。
【図3】本発明の実施形態の環境試験装置の構成を示す側面断面図である。
【図4】本実施形態の環境試験装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態の環境試験装置における温度、風速、結露量の変化を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0067】
1,50 環境試験装置
3 全体槽
4 高温高湿度調整槽
5 被試験物配置室(試験室)
6 低温低湿度調整槽
10 制御装置
11 室内温度検知センサ
12 湿度検知センサ
15,15’ 加湿器
16,16’ 空気冷却用熱交換器
17,17’ 除湿用熱交換器
18,18’ 加熱ヒータ
20,20’ 送風機
27,28 ダンパ
30 基板(被試験物)
36 被試験物温度測定センサ(被試験物温度測定手段)
37,38 ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物を低温低湿度の環境と高温高湿度の環境に交互にさらして被試験物に結露を発生させる環境試験装置において、少なくとも送風手段及び送風環境制御手段を有し、送風環境制御手段によって送風量、風速、風向の少なくともいずれかを変化させることができることを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
被試験物が置かれる環境を低温低湿度の環境から高温高湿度の環境に変更した後であって、さらに所定の条件を満足した後に被試験物に接する風量が減ずる様に送風環境を変化させることを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項3】
被試験物の温度を測定する被試験物温度測定手段を有し、被試験物の温度が置かれた環境の露点温度近傍となったことを条件として被試験物に接する風量が減ずる様に送風環境を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境試験装置。
【請求項4】
環境を変化させる環境変化期間と、結露を維持させる結露維持期間があり、結露維持期間における送風量又は風速の少なくともいずれかは、環境変化期間におけるそれよりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項5】
被試験物を乾燥させる乾燥期間と、結露を維持させる結露維持期間があり、結露維持期間における送風量又は風速の少なくともいずれかは、乾燥期間におけるそれよりも小さいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項6】
低温低湿度の環境を作る低温低湿度調整槽と、高温高湿度の環境を作る高温高湿度調整槽と、被試験物を設置する試験室を有し、前記低温低湿度調整槽及び高温高湿度調整槽から試験室に対して交互に送風することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−271551(P2007−271551A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100156(P2006−100156)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】