説明

環状エーテル

環状エーテルを調製するプロセスが記載される。このプロセスは、エーテル結合へと変換することができる、4つまたは5つの炭素原子によって隔てられた少なくとも一対のヒドロキシル基を有するジオールまたはポリオールなどの少なくとも1つ有機化合物と、有機カーボネートとの、塩基の存在下での反応を含む。この塩基はアルコキシ、炭酸塩または水酸化物塩基であるか、またはかかる塩基の混合物である。この有機化合物のヒドロキシル基のうちの少なくとも1つは三級ヒドロキシル基ではない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状エーテルに関し、より具体的には環状エーテルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無水糖アルコールの構造の環状エーテルは、食品、治療用途などで多くの応用例を有し、ポリマーおよびコポリマーのための単量体としても使用される。かかる無水糖アルコールは、特にマンニトール、イジトール、およびソルビトールの誘導体であり、ソルビトールの構造式は
【化1】


である。
【0003】
ソルビトールから誘導される特に有用な無水糖アルコールはイソソルビド、すなわち1,4:3,6−ジアンヒドロソルビトールであり、これは
【化2】

の構造式を有し、ポリマーおよびコポリマー、特にポリエステルポリマーおよびコポリマーの製造における単量体として有用である。イソソルビドはまた、他の有用な化合物、例えばジメチルイソソルビド、すなわち1,4:3,6−ジアンヒドロソルビトール−2,5−ジメチルエーテルへと変換されてもよい。ソルビトールは種々の天然資源から供給されてもよいものであり、そのため再生可能な天然資源と考えることができるので、ジメチルイソソルビドは、「地球に優しい」溶媒と考えられるかも知れない。イソソルビドは医療用途における溶媒として、化粧品配合物の成分として、および配合媒質として使用される。
【0004】
かかる無水糖アルコールは、対応する糖アルコール(またはモノ無水糖アルコール)の脱水によって生成されてもよい。この脱水は脱水触媒、典型的には強酸触媒を使用して行われる。かかる触媒の例としては、典型的には水などの溶媒またはトルエンまたはキシレンなどの有機溶媒の存在下での鉱酸(硫酸および塩酸、スルホン化ポリスチレンなど)が挙げられる。
【0005】
テトラヒドロフランなどの他の環状エーテルも、例えばジオールの脱水によって製造されてもよい。
【0006】
いくつかの環状エーテルは独特の芳香を有し、香料として有用である。例えば、(−)−ノルラブダンオキシドは、その完全な化合物名は1,2,3a,4,5,5a,6,7,8,9,9a,9b−ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチルナフト−(2,1−b)−フランであり、構造:
【化3】

を有するが、これは周知の芳香剤であり、香料に竜涎香タイプの香りを与えるために広く使用される。竜涎香はマッコウクジラ(blue sperm whale)の代謝産物であり、高級香料の貴重な構成成分としてこれまで使用されてきた。天然の竜涎香自体は、もはやこの目的では使用されていない。しかしながら、竜涎香タイプの香りを有する香料成分への需要は存在する。化合物(−)−ノルラブダンオキシドは、望ましい竜涎香タイプの香りを有する好ましい合成化合物のうちの1つを代表しており、種々の商標名で市販されている(とりわけ、Amberlyn、Ambroxan、Ambrofix、AmbroxまたはAmberoxideとして)。
【0007】
天然に存在する(−)−スクラレオールから出発するノルラブダンオキシドについての多くの合成手順が公開されている。これらの手順では、天然に存在する(−)−スクラレオールは、
【化4】

の構造を有する8α,12−ジヒドロキシ−13,14,15,16−テトラノルラブダンに変換されてもよく、そしてこの8α,12−ジヒドロキシ−13,14,15,16−テトラノルラブダンを脱水して(−)−ノルラブダンオキシドを得ることができる。
【0008】
かかる合成手順の例としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4および特許文献5に記載される手順が挙げられる。
【0009】
環状エーテルを製造する他の方法としては、m−CPBA(エポキシド合成のために最もよく使用される)などの過酸を用いたアルケンの酸化;アルコキシドによるハロゲン化アルキルの分子内求核置換(すなわち、ハロヒドリンの分子内求核置換);ならびに二重結合へのアルコールの付加ならびにトシル化および引き続くトシル置換によるエーテル形成を挙げることができる。より最近の方法論としては、白金触媒によるγ−およびδ−ヒドロキシオレフィンのヒドロアルコシキル化(非特許文献1);パラジウム触媒による分子間および分子内エンインカップリング反応(非特許文献2)も挙げられる。
【0010】
選択されたトリオールの対応するカーボネートエステルの熱分解によって環状エーテルを製造することも提案された。例えば非特許文献3;非特許文献4;および非特許文献5を参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3029255号明細書
【特許文献2】米国特許第3050532号明細書
【特許文献3】米国特許第5274134号明細書
【特許文献4】米国特許第5811560号明細書
【特許文献5】米国特許第6380404号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】H.Qian、X.Han、R.A.Widenhoefer、J.Am.Chem.Soc.、2004年、第126巻、9536−9537頁
【非特許文献2】L.Zhao、X.Lu、W.Xu、J.Org.Chem.、2005年、第70巻、4059−4063頁
【非特許文献3】Dexter B Pattinson、「Cyclic Ethers Made by Pyrolysis of Carbonate Esters」、J.Am.Chem.Soc.、1957年、第79巻、第13号、3455−3456頁
【非特許文献4】Winston Hoら、「Alkylglycidic Acids;Potential New Hypoglycemic Agents」、J.Med.Chem.、1986年、第29巻、2184−2190頁
【非特許文献5】Hari Babu Mereyalaら、「Simple Entry into Isonucleosides:Synthesis of 6−amino−9−[(3S,4S,5R)−4−hydroxy−5−(hydroxymethyl) tetrahydrofuran−3−yl]purine」、Tetrahedron Letters、2004年、第45巻、295−2966頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ジヒドロキシ化合物またはポリオールから環状エーテルを調製するためのプロセスを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、環状エーテルを調製するプロセスは、実質的に無水条件下で、4つまたは5つの炭素原子によって隔てられた少なくとも一対のヒドロキシル基を有する少なくとも1つの有機化合物を、強塩基の存在下で、当該化合物の反応をもたらして環状エーテルを形成するのに十分な時間、有機カーボネートと反応させる工程を含み、ここで当該少なくとも一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基のうちの少なくとも1つは三級ヒドロキシル基ではなく、当該少なくとも一対のヒドロキシル基は当該反応条件下でエーテル結合へと変換することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によれば、環状エーテルを調製するプロセスは、実質的に無水条件下で、4つまたは5つの炭素原子によって隔てられた少なくとも一対のヒドロキシル基を有する少なくとも1つの有機化合物を、強塩基の存在下で、当該化合物の反応をもたらして環状エーテルを形成するのに十分な時間、有機カーボネートと反応させる工程を含み、ここで当該少なくとも一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基のうちの少なくとも1つは三級ヒドロキシル基ではなく、当該少なくとも一対のヒドロキシル基は当該反応条件下でエーテル結合へと変換することができる。
【0016】
好ましくは、この少なくとも一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基は4つの炭素原子によって隔てられている。
【0017】
当該少なくとも一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基は、一級および一級ヒドロキシル基、一級および二級ヒドロキシル基、一級および三級ヒドロキシル基、二級および二級ヒドロキシル基ならびに二級および三級ヒドロキシル基であってもよい。
【0018】
上記少なくとも一対のヒドロキシル基の各ヒドロキシル基の具体的な構造は対象としている有機化合物に依存するであろう。本発明の1つの好ましい実施形態では、この有機化合物は、当該少なくとも一対のヒドロキシル基の当該ヒドロキシル基のうちの1つが三級ヒドロキシル基であるように選択される。本発明の別の好ましい実施形態では、この有機化合物は、当該少なくとも一対のヒドロキシル基の当該ヒドロキシル基が一級および二級ヒドロキシル基であるように選択される。
【0019】
一般に、上記少なくとも一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基が一級および二級ヒドロキシル基、一級および三級ヒドロキシル基または二級および三級ヒドロキシル基であるように当該有機化合物が選択されることが、特に好ましい。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、当該有機化合物は、エーテル結合へと変換することができるかかるヒドロキシル基の対をただ1つのみ含むように選択される。
【0021】
本発明の別の実施形態では、当該有機化合物は、それが各々エーテル結合へと変換することができる複数のかかるヒドロキシル基の対、好ましくは2つのかかるヒドロキシル基の対を含むように選択される。
【0022】
当該有機化合物は、直鎖状または分枝状、飽和または不飽和の脂肪族化合物、飽和または不飽和の脂環式化合物または芳香族化合物であってもよい。分枝状である場合、分枝度(the degree of branching)および分枝のサイズは、立体障害が熱力学的に安定な環状エーテルの形成に対して何らの問題も引き起こさないようなものであるべきである。かかる化合物はまた、他の基で置換されていてもよいが、これは、かかる基が、当該少なくとも一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基をエーテル結合へと望むとおりに変換することと著しく有害に競合しないであろう基である場合に限る。かかる化合物はまた、アルコキシ基のようなエーテル結合を含んでいてもよい。
【0023】
当該有機化合物は、さらにまたはあるいは下記の式1:
【化5】

によって例示することができ、式中、
一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基を隔てる4つまたは5つの炭素原子はC〜Cと番号が付され、
xは0または1、好ましくは0であり、
、R、RおよびR10、またはxが0の場合には、R、R、RおよびRは独立に、水素、ヒドロキシアルキル、脂肪族、脂環式または芳香族基であるか、または一緒になって脂環式または芳香族基を形成してもよく、
〜R、またはxが0の場合には、R〜Rは独立に、水素、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、脂肪族、脂環式または芳香族基であるか、または一緒になって脂環式または芳香族基を形成してもよいし、または一緒になって、当該番号が付された炭素原子のうちの2つの間で第2の炭素−炭素結合を形成してもよいが、ただし、
xが1である場合はR、R、RおよびR10のうちの少なくとも1つ、またはxが0である場合はR、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは水素であり、すなわち両方のヒドロキシ基がともに三級であるということはなく、
とCとの間、または存在する場合にはCとCとの間の結合は単結合またはシス二重結合であり、かつ
少なくとも第2のヒドロキシル基の対が存在する場合には、上記第2のヒドロキシル基の対またはさらなるヒドロキシル基の対のヒドロキシル基を隔てる4つまたは5つの炭素原子は全体がR〜R内、またはxが0の場合には、R〜R内に存在するか、または任意に、上記C〜C、またはxが0の場合は、C〜Cと番号が付された炭素原子のうちの1つまたは2つを含んでいてもよい。
【0024】
好ましくは、上記有機化合物は、さらにまたはあるいは下記の式1A:
【化6】

によって例示することができ、式中、R〜Rはこれまでに定義されたとおりである。
【0025】
特に、式1または式1Aでは、それぞれR〜R10およびR〜Rは、−CHOH、−CHCHOH、−CHOHCHOHなどのヒドロキシアルキル基ならびに直鎖および/または分枝状のアルコキシ基を含んでいてもよい。
【0026】
式1または式1Aでは、それぞれR〜R10およびR〜Rが他の基で置換されている場合、かかる他の基は、上記少なくとも一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基上で起こる所望の環化反応と著しく有害に競合しないであろう基である。
【0027】
本発明の1つの好ましい実施形態では、R、RおよびRは水素である。より好ましくは、Rは水素もしくはヒドロキシル基であるか、またはRまたはRと一緒になって炭素−炭素結合である。
【0028】
本発明の1つの好ましい実施形態では、当該有機化合物は一対のヒドロキシル基を有し、脂肪族ジオール、脂環式ジオールおよびヒドロキシアルキルフェノールからなる群から選択される。
【0029】
典型的な脂肪族ジオールの例は、ブタン−1,4−ジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、ペンタン−1,4−ジオールおよびペンタン−1,5−ジオールである。
【0030】
好ましくは、当該有機化合物が脂環式化合物である場合、この化合物は、アルキル置換脂環式化合物であり、上記対のヒドロキシ基のうちの1つは当該アルキル鎖に結合され、当該対のヒドロキシ基のうちの他のものは脂環式環構造に直接結合されている。好ましくは、上記アルキル鎖は、上記ヒドロキシ基が直接結合されている環炭素原子に隣接する環炭素原子に結合されている。かかるジヒドロキシ化合物の例は、8α,12−ジヒドロキシ−13,14,15,16−テトラノルラブダンであり、その構造は上に示されている。
【0031】
本発明の1つの好ましい実施形態では、上記脂環式ジオールは8α,12−ジヒドロキシ−13,14,15、16−テトラノルラブダンであり、形成される環状エーテルは(−)−ノルラブダンオキシドである。
【0032】
上で特定されたヒドロキシアルキルフェノールの例は2−(2−ヒドロキシエチル)−フェノールである。
【0033】
本発明の別の好ましい実施形態では、上記有機化合物は、ペンチトールおよびヘキシトールからなる群から選択され、とりわけヘキシトールである。このペンチトールはキシリトール、アドニトールおよびアラビトールであってもよい。好ましくは、上記ヘキシトールはソルビトール、マンニトールおよびイジトールから選択され、とりわけこのヘキシトールはソルビトールである。
【0034】
本発明の別の好ましい実施形態では、当該有機化合物は2対のヒドロキシル基を有し、かつヘキシトールであり、形成される環状エーテルはジエーテル、すなわち、イソソルビド、イソマンニドまたはイソイジド、好ましくはイソソルビドである。
【0035】
好ましくは、上記有機カーボネートは式2:
【化7】

からなる群から選択され、式中、各Rは独立に、アリールまたは直鎖もしくは分枝状の、飽和または不飽和のアルキル、アルコキシアルキルまたはアリル基である。
【0036】
より好ましくは、この有機カーボネートはジアルキルカーボネートであり、このジアルキルカーボネートのアルキル基は同じであってもよいし、または異なっていてもよく、環状であってもよい。好ましくは、このアルキル基はC〜C18アルキル基、より好ましくはC〜C10アルキル基、より具体的にはC〜Cアルキル基、とりわけC〜Cアルキル基から選択される。かかるジアルキルカーボネートの例としては、ジメチルカーボネート、エチル メチル カーボネート、ジエチルカーボネート、プロピル メチル カーボネート、イソプロピル メチル カーボネート、イソプロピル エチル カーボネート、ブチル メチル カーボネート、二級−ブチル メチル カーボネート、イソブチル メチル カーボネート、三級−ブチル メチル カーボネート、シクロヘキシル メチル カーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートおよびジアリルカーボネートが挙げられる。好ましいジアルキルカーボネートはジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートである。
【0037】
この有機カーボネートが環状脂肪族カーボネートである場合、好ましくは誘導される環状脂肪族鎖はCまたはCアルキル基であってもよい。かかる環状脂肪族カーボネートの例は、エチレンカーボネートおよび1,2−プロピレンカーボネートである。
【0038】
好ましくは、この有機カーボネートは、上記有機化合物のヒドロキシル基の対または各対に関して、別の表現をすれば、エーテル結合に変換することができる各ヒドロキシル対に関して、少なくとも0.9:1、とりわけ少なくとも1:1の、有機化合物に対する有機カーボネートのモル比で存在する。ソルビトールなどの化合物に関して、ジエーテルを製造することが所望される場合、エーテル結合へと変換することができる各ヒドロキシル対について、少なくとも0.9:1、とりわけ少なくとも1:1の、有機化合物に対する有機カーボネートのモル比は、全体のモル比が少なくとも1.8:1、とりわけ2:1になるであろうということを意味することは分かるであろう。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態では、有機化合物に対する有機カーボネートのモル比は、エーテル結合へと変換することができる各ヒドロキシル対について約1.5:1以下である。
【0040】
本発明の他の実施形態では、有機化合物に対する有機カーボネートのモル比は、エーテル結合へと変換することができる各ヒドロキシル対について少なくとも1.5:1、より具体的には少なくとも2:1であり、特に少なくとも2.5:1である。かかる実施形態では、有機化合物に対する有機カーボネートのモル比は、エーテル結合へと変換することができる各ヒドロキシル対について好ましくは25:1以下、より好ましくは15:1以下、より具体的には10:1以下であり、特に5:1以下である。かかる実施形態では、特に好ましい有機化合物に対する有機カーボネートのモル比は、エーテル結合へと変換することができる各ヒドロキシル対について2:1〜10:1の範囲、より具体的には2.5:1〜10:1の範囲、特に2.5:1〜5:1の範囲である。
【0041】
水はこの有機カーボネートの分解を引き起こすであろうから、このため当該反応は無水条件下で行われる。
【0042】
好ましくは、上記塩基は、アルコキシ、炭酸塩および水酸化物塩基またはこれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、この塩基はアルカリ金属のアルコキシド、炭酸塩または水酸化物である。このアルカリ金属のアルコキシドはメトキシド、エトキシドまたはブトキシドであってもよい。好ましい塩基はナトリウムメトキシド、カリウム tert−ブトキシド、炭酸セシウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される。
【0043】
別の有用な種類の塩基は、テトラアルキルアンモニウムのアルコキシド、炭酸塩または水酸化物、より具体的には水酸化物である。特に有用なテトラアルキルアンモニウム塩基は固体基材に結合されたものである。
【0044】
この塩基は、当該有機化合物の量に対して少なくとも1mol%から約400mol%までの量で存在してもよい。好ましくは、この塩基は触媒量で存在する。好ましくは、この塩基は、当該有機化合物の量に対して少なくとも1mol%、より好ましくは少なくとも5mol%、より具体的には少なくとも10mol%,特に少なくとも15mol%で存在する。好ましくは、この塩基は、当該有機化合物の量に対して100mol%以下、とりわけ60mol%以下で存在する。この塩基が当該有機化合物の量に対して約20mol%〜約60mol%の量で存在する、すなわち、当該有機化合物に対する塩基のモル比が約0.2:1〜約0.6:1であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の1つの実施形態では、当該反応は還流条件下で行われる。この反応が実施される温度は、反応物質、および還流温度に影響を及ぼすいずれかの溶媒が存在するかどうかに依存する。典型的には、この反応を実施するために、約50℃から、より好ましくは約70℃から、とりわけ約80℃から約200℃の範囲の大気圧での還流温度が使用される。
【0046】
本発明の別の実施形態では、この反応は、当該反応が行われる温度に依存して自生圧力(autogenous pressure)が発生する密閉されたオートクレーブ中で実施される。好ましくは、この反応が行われる温度は少なくとも70℃、より好ましくは少なくとも90℃、とりわけ少なくとも100℃である。好ましくは、この反応が行われる温度は200℃以下、とりわけ180℃以下である。典型的には、かかる反応温度は0.5bar〜約40bar(0.05MPa〜4MPa)の領域の自生圧力を発生させる。
【0047】
かかる実施形態ではともに、反応温度は反応期間を通して実質的に一定に維持されることが好ましい。
【0048】
この系の物理的混合を容易にするために、溶媒が、この反応混合物の一部として使用されてもよい。炭化水素溶媒およびアルコールなどの溶媒を使用してもよい。典型的には、この溶媒はアルコールであってもよく、好ましくは使用されているカーボネートに関連したアルコール、例えばジメチルカーボネートに対してメタノール、であってもよい。他のアルコール、例えばエタノール、アリルアルコール、ポリエーテルアルコールも相対的な還流温度をもたらすために使用することができるであろう。使用してもよい別の溶媒はテトラヒドロフランである。
【0049】
さらに以下の実施例を参照して、本発明を説明する。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
8α,12−ジヒドロキシ−13,14,15,16−テトラノルラブダン(1g、3.93mmol)およびジメチルカーボネート(5ml、55,4mmol)を磁気撹拌機、窒素ガス導入口、冷却器およびガス出口を備えた3つ口フラスコに入れた。この反応混合物を90℃の還流温度、すなわち、ジメチルカーボネートの還流温度に加熱し、続いて塩基であるカリウム t−ブトキシド(0.9g、7,86mmol)を反応混合物に加えた。添加が終了したときに、この混合物を3時間さらに還流した。次いでこの反応混合物を室温まで冷却し、濾過して無機塩を除去した。この固体残渣をジエチルエーテル(約10ml)で洗浄した。次いで濾液を減圧下で濃縮し、(−)−ノルラブダンオキシドを純粋な白色結晶として91%収率(0.85g)で得た。この(−)−ノルラブダンオキシド生成物を、NMRを使用して同定した。
【0051】
(実施例2)
上記塩基の量を変え(試料1〜3)、ジメチルカーボネート(「DMC」)の量を変え(試料4)、および使用した塩基の種類を変え(試料5)た以外は、実施例1を繰り返した。反応物質、反応条件および結果を下記の表1に提示する。
【0052】
(実施例3:2−メチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)テトラヒドロフランの合成)
4,5,7,7−テトラメチル−1,4−オクタジオール(8.0g、39.5mmol)、カリウム t−ブトキシド(8.9g、79.3mmol)およびt−ブタノール溶媒(50ml)を、冷却器および温度計を備えた100ml丸底フラスコに入れた。この反応混合物を還流状態(約80℃)まで加熱し、2時間撹拌した。この溶液はわずかに黄色に変化したが、反応は起こらなかった。還流からの冷却後、ジメチルカーボネート(10.6g、117.7mmol)を、20分間にわたってこの混合物へ滴下した。即座に沈殿物が生成し、撹拌が困難になった。さらなる20mlのt−ブタノールを加えて撹拌を容易にした。この混合物を還流状態で1時間加熱し、放冷した(この反応は約20分後に完結していた)。この反応液を室温で一晩静置した。この混合物を、300mlの水でクエンチし、水層を100mlのトルエンで3回抽出した。合わせた有機層を、水(50ml)で3回およびブライン(100ml)で1回洗浄した。この溶液をMgSOで乾燥し、濾過した。溶媒および過剰のジメチルカーボネートを減圧下で留去し、9.7gの粗生成物を得て、これより、クーゲルロール(Kugelrohr)装置(110〜165℃/40mbar(4kPa))による蒸留後に5.6g(30.4mmol、77%収率)の単離生成物を得た。
【0053】
(実施例4)
8α,12−ジヒドロキシ−13,14,15,16−テトラノルラブダン、ジメチルカーボネートおよび選択した塩基を、磁気撹拌機、窒素ガス導入口およびガス出口を備えたオートクレーブの中へ導入した。この反応混合物を選択した温度まで加熱した。次いでこの反応混合物を室温まで冷却し、濾過して無機塩を除去した。この固体残渣をジエチルエーテル(約10ml)で洗浄した。次いで濾液を減圧下で濃縮し、(−)−ノルラブダンオキシドを純粋な白色結晶として得た。この(−)−ノルラブダンオキシド生成物を、NMRを使用して同定した。
【0054】
異なる条件および/または異なる塩基を使用して、この反応を繰り返した。反応物質、反応条件および結果を下記の表2に提示する。
【0055】
(実施例5)
ジオール、ジメチルカーボネートおよび選択した塩基の混合物を、表3および表4に報告するように、オイルバス中、窒素雰囲気下で還流させた。この反応混合物の冷却した試料をシリカパッド上で濾過し、回収した透明な溶液をガスクロマトグラフィによって分析した。
【0056】
(実施例6)
無水ソルビトール、ジメチルカーボネート(「DMC」)および選択した塩基の混合物を、この反応液がHPLCによってモニターした場合に完了を示すまで、オイルバス中、窒素雰囲気下で還流させた。次いで還流冷却器を、真空アセンブリ(vacuum assembly)を備える下方蒸留(downward distillation)装置で置き換え、残留するジメチルカーボネートおよび生成したメタノールを大気圧で留去した。次いで真空を適用し(5mbar(0.5kPa))、油の温度を200℃まで上昇させて蒸留されたイソソルビドを集めた。使用したモル量および結果を下記の表5に示す。
【0057】
(実施例7)
無水ソルビトール、エチレンカーボネート(「EC」)および炭酸カリウムの混合物を、HPLC分析がもはや変化を示さなくなるまで、130℃に維持したオイルバス中、窒素雰囲気下で撹拌した。次いで還流冷却器を、真空アセンブリを備える下方蒸留装置で置き換えた。次いで真空を適用し(5mbar(0.5kPa))、残留するエチレンカーボネートおよび生成したエチレングリコール、次いでイソソルビドを蒸留するために、オイルバス温度を200℃まで上昇させた。使用したモル量および結果を下記の表6に示す。
【0058】
(実施例8)
下記の表7に示す量で、無水ソルビトールおよび炭酸カリウムを、磁気撹拌機、窒素ガス導入口およびガス出口を備えたステンレス鋼オートクレーブ中のジメチルカーボネートに加えた。窒素を使用して、このオートクレーブから空気を流し出した。次いで、示した期間にわたって磁石撹拌機を運転しながら、このオートクレーブを、電気オーブンによって、選択した温度で加熱した。反応温度は、この反応混合物の中へと漬けた熱電対によって制御した。このオートクレーブを冷却した後、ガス成分を側方バルブ(side valve)を通して除去した。反応生成物をガスクロマトグラフィによって分析した。次いで得られた混合物を、溶出混合物としてジクロロメタン/メタノール 9/1を使用するカラムクロマトグラフィによって精製した。結果を表7に提示する。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】


【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状エーテルを調製するプロセスであって、実質的に無水条件下で、4つまたは5つの炭素原子によって隔てられた少なくとも一対のヒドロキシル基を有する少なくとも1つの有機化合物を、強塩基の存在下で、前記化合物の反応をもたらして環状エーテルを形成するのに十分な時間、有機カーボネートと反応させる工程を含み、ここで前記少なくとも一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基のうちの少なくとも1つは三級ヒドロキシル基ではなく、前記少なくとも一対のヒドロキシル基は前記反応条件下でエーテル結合へと変換することができる、プロセス。
【請求項2】
前記有機化合物において、前記少なくとも一対のヒドロキシル基の前記ヒドロキシル基が4つの炭素原子によって隔てられている、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記有機化合物において、前記少なくとも一対のヒドロキシル基の前記ヒドロキシル基が一級および二級ヒドロキシル基、一級および三級ヒドロキシル基または二級および三級ヒドロキシル基である、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記有機化合物がエーテル結合へと変換することができるかかるヒドロキシル基の対をただ1つのみ含むように、前記有機化合物が選択される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記有機化合物が各々エーテル結合へと変換することができる複数のかかるヒドロキシル基の対、好ましくは2つのかかるヒドロキシル基の対を含むように、前記有機化合物が選択される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記有機化合物が、式1:
【化1】

(式中、
一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基を隔てる4つまたは5つの炭素原子はC〜Cと番号が付され、
xは0または1、好ましくは0であり、
、R、RおよびR10、またはxが0の場合には、R、R、RおよびRは独立に、水素、ヒドロキシアルキル、脂肪族、脂環式または芳香族基であるか、または一緒になって脂環式または芳香族基を形成してもよく、
〜R、またはxが0の場合には、R〜Rは独立に、水素、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、脂肪族、脂環式または芳香族基であるか、または一緒になって脂環式または芳香族基を形成してもよいし、または一緒になって、前記番号が付された炭素原子のうちの2つの間で第2の炭素−炭素結合を形成してもよいが、ただし、
xが1である場合はR、R、RおよびR10のうちの少なくとも1つ、またはxが0である場合はR、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは水素であり、
とCとの間、または存在する場合にはCとCとの間の結合は単結合またはシス二重結合であり、かつ
少なくとも第2のヒドロキシル基の対が存在する場合には、前記第2のヒドロキシル基の対またはさらなるヒドロキシル基の対のヒドロキシル基を隔てる4つまたは5つの炭素原子は全体がR〜R内、またはxが0の場合には、R〜R内に存在するか、または任意に、前記C〜C、またはxが0の場合は、C〜Cと番号が付された炭素原子のうちの1つまたは2つを含んでいてもよい)
を有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記有機化合物において、前記少なくとも一対のヒドロキシル基の前記ヒドロキシル基が4つの炭素原子によって隔てられており、前記有機化合物が、式1A:
【化2】

(式中、
一対のヒドロキシル基のヒドロキシル基を隔てる前記4つの炭素原子はC〜Cと番号が付され、
、R、RおよびRは独立に、水素、ヒドロキシアルキル、脂肪族、脂環式または芳香族基であるか、または一緒になって脂環式または芳香族基を形成してもよく、
〜Rは独立に、水素、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、脂肪族、脂環式または芳香族基であるか、または一緒になって脂環式または芳香族基を形成してもよいし、または一緒になって、前記番号が付された炭素原子のうちの2つの間で第2の炭素−炭素結合を形成してもよいが、ただし、
、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは水素であり、
とCとの間の結合は単結合またはシス二重結合であり、かつ
少なくとも第2のヒドロキシル基の対が存在する場合には、前記第2のヒドロキシル基の対またはさらなるヒドロキシル基の対の前記ヒドロキシル基を隔てる4つの炭素原子は全体がR〜R内に存在するか、または任意に、前記C〜Cと番号が付された炭素原子のうちの1つまたは2つを含んでいてもよい)
を有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
、RおよびRが水素である、請求項6または請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
、RおよびRが水素であり、Rが水素またはヒドロキシル基であるか、またはRまたはRと一緒に炭素−炭素結合である、請求項6または請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
前記有機化合物が一対のヒドロキシル基を有し、かつ脂肪族ジオール、脂環式ジオールおよびヒドロキシアルキルフェノールからなる群から選択される、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記有機化合物が8α,12−ジヒドロキシ−13,14,15,16−テトラノルラブダンであり、生成物が(−)−ノルラブダンオキシドである、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記有機化合物がペンチトールおよびヘキシトールからなる群から選択され、好ましくはヘキシトールである、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記有機化合物が2対のヒドロキシル基を有し、かつソルビトール、マンニトールおよびイジトールからなる群から選択され、好ましくはソルビトールであり、生成される環状エーテルがジエーテルである、請求項1から請求項9または請求項10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記有機化合物がソルビトールであり、前記生成される環状エーテルがイソソルビドである、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記有機カーボネートが式2:
【化3】

(式中、各Rは独立にアリールまたは直鎖もしくは分枝状の、飽和または不飽和のアルキル、アルコキシアルキルまたはアリル基である)
からなる群から選択される、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記有機カーボネートがジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートからなる群から選択される、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記有機カーボネートが、エーテル結合へと変換することができる前記有機化合物のヒドロキシル基の対または各対に関して少なくとも0.9:1の、有機化合物に対する有機カーボネートのモル比で存在する、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記有機カーボネートが、エーテル結合へと変換することができる前記有機化合物のヒドロキシル基の前記対または各対に関して25:1以下の、有機化合物に対する有機カーボネートのモル比で存在する、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記塩基がアルコキシ、炭酸塩および水酸化物塩基またはこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記塩基がアルカリ金属またはテトラアルキルアンモニウム塩基である、請求項1から請求項19のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記塩基が、前記有機化合物の量に対して少なくとも1mol%から約400mol%までの量で存在する、請求項1から請求項20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記塩基が、前記有機化合物の量に対して約20mol%〜約60mol%の量で存在する、請求項1から請求項21のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項23】
前記反応混合物が50℃〜200℃の範囲内の温度まで加熱される、請求項1から請求項22のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記反応混合物が加熱される温度が、反応期間を通して実質的に一定に維持される、請求項1から請求項23のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項25】
前記反応が密閉された反応容器の中で行われる、請求項1から請求項24のいずれか1項に記載のプロセス。

【公表番号】特表2011−501729(P2011−501729A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515605(P2010−515605)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050567
【国際公開番号】WO2009/010791
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(510011226)インペリアル ケミカル インダストリーズ ピーエルシー (1)
【Fターム(参考)】