説明

環状オレフィン系開環重合体の製造方法および環状オレフィン系重合体

【課題】本発明は、高い重合活性を有するルテニウム触媒を用いた、環状オレフィン系開環重合体の製造方法およびその方法で製造された環状オレフィン系重合体に関する。
【解決手段】下記式(1)で表される触媒の存在下で、環状オレフィン系化合物を開環重合反応する工程を有することを特徴とする環状オレフィン系開環重合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い重合活性を有するルテニウム触媒を用いた、環状オレフィン系開環重合体の製造方法、および環状オレフィン系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系化合物を開環メタセシス反応により重合させて得られるポリマーは、高い光線透過率と耐熱性を兼ね備えた熱可塑性透明樹脂であり、これらの機能を必要とする光学レンズや光ファイバー、光学フィルムなどの光学材料分野において、その応用が広がっている。光学材料用の樹脂には、着色が少ないことが求められており、このため樹脂中に残留する金属の量を、樹脂重量対比でppmのレベルまでに低減させる必要がある。生成物が低分子の化合物である場合には蒸留法などの低コストの分離プロセスでこれを実現することが可能であるが、中・高分子の化合物の場合には、溶媒抽出法やカラム吸着法等の、溶媒や吸着剤などを大量に必要とするコスト高の工程を用いなければならない。そのため、低価格の汎用樹脂を大量生産する場合には、このプロセスにかかる負担を軽減させる必要が生じている。改良策の一つとして、触媒を高活性化して、使用する触媒量を低減させる方法がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の汎用樹脂製造に採用されてきたタングステンやモリブデン触媒系では、重合反応を定量的に進行させ得る触媒量は、触媒/モノマー=1/数万 (モル比)のレベルが下限であり、ppmのレベル(=1/1,000,000)には程遠い性能であった。一方、高活性のメタセシス反応触媒として広く研究されている、Grubbs錯体を始めとするルテニウムカルベン錯体でも、1/100,000〜1/500,000のレベルが限界であり、更なる改良が必要とされていた。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、重合活性の高いルテニウム触媒を用いて、重合プロセス数の軽減、モノマーの高転嫁率、ポリマー中の金属含量の軽減などが可能な環状オレフィン系開環重合体の製造方法および環状オレフィン系開環重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決すべく特定の構造を有する錯体種(特表2010−503713)を用いることによって、目的とするレベルの触媒量で反応を定量的に進行されることが可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
すなわち、本発明によれば、以下に示すが提供される。
【0007】
[1]下記式(1)で表される触媒の存在下で、環状オレフィン系化合物を開環重合反応する工程を有することを特徴とする環状オレフィン系開環重合体の製造方法。
【0008】
【化1】

式(1)中、X、X、およびLは配位子を表す。a、b、c、dは、相互に独立に、水素原子、ニトロ基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、またはフェニルを表し、前記フェニル基は、炭素数1〜6のアルキル基および炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されていてもよい。Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、またはアリール基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、アリールを表し、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基、アリールを表す。
【0009】
[2]前記環状オレフィン系化合物が、下記式(X)及び下記式(Y)で表わされる化合物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、前記[1]に記載の環状オレフィン系開環重合体の製造方法。
【0010】
【化2】

(式(X)中、Rx1〜Rx4は、それぞれ独立に下記(i)〜(ix)で示される基を表し、k、mおよびpは、それぞれ独立に0または正の整数を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)トリアルキルシリル基
(iv)酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を含む置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基
(v)置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基
(vi)極性基(但し(iv)を除く)
(vii)Rx1とRx2、またはRx3とRx4が、相互に結合して形成されたアルキリデン基で、該結合に関与しないRx1〜Rx4は、相互に独立に上記(i)〜(vi)より選ばれる基
(viii)Rx1とRx2、またはRx3とRx4が、相互に結合して形成された単環もしくは多環の炭化水素環または複素環で、該結合に関与しないRx1〜Rx4は、相互に独立に上記(i)〜(v)より選ばれる基、もしくはRx1とRx2が、相互に結合して形成された単環の飽和炭化水素環または複素環で、該結合に関与しないRx1〜Rx4は、相互に独立に上記(i)〜(v)より選ばれる基
【0011】
【化3】

(式(Y)中、Ry1、Ry2は上記(i)から(vi)で示される基を表すか、下記(ix)、(x)で示される基を表すし、k、mおよびpは、それぞれ独立に、0または正の整数を表す。
(ix)Ry1とRy2が、相互に結合して形成された単環もしくは多環の炭化水素環または複素環
(x)Ry1とRy2が相互に結合して形成された芳香環
【0012】
[3]前記a、bおよびcは水素原子を表し、dは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基および炭素数1〜6のアルコキシ基から選択される一種の基で置換されたフェニル基であることを特徴とする、前記[1]〜[2]に記載の環状オレフィン系開環共重合体の製造方法。
【0013】
[4]前記a、b、cおよびdが水素原子を表すことを特徴とする、前記[1]〜[3]に記載の環状オレフィン系開環共重合体の製造方法。
【0014】
[5]前記Lが式P(RL0で表わされる配位子(式(L)とする)、下記式(L)、(L)、(L)および(L)で表される配位子から選ばれる一種であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体の製造方法。
【0015】
【化4】

式(L)中、RL0は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6の環状炭化水素基またはアリール基を表す。式(L)〜(L)中RL1およびRL2は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはアリール基を表わす。RL3およびRL3は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、またはアリール基を表すか、あるいはRL3およびRL4は互いに結合し、5員または6員の環状炭化水素基を表わす。RL5およびRL6はハロゲン原子を表す。
【0016】
[6]前記[1]〜[5]に記載の製造方法から得られる環状オレフィン系開環重合体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、少ない触媒量で環状オレフィンの開環メタセシス重合反応を定量的に進行させることが可能となり、金属含有量の少ない環状オレフィン系開環共重合体を低コストで製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0019】
<触媒>
本発明で用いる触媒は、下記式(1)で表される触媒を示す。(以降、触媒(1)ともいう。)
【0020】
【化5】

式(1)中、式(1)中、X〜Xはアニオン性配位子を表し、Lは中性配位子を表す。a、b、c、dは、相互に独立に、水素原子、ニトロ基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、またはフェニルを表し、前記フェニル基は、炭素数1〜6のアルキル基および炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されていてもよい。R1は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、またはアリール基を表し、R2は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、アリールを表し、R3は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基、アリールを表す。
【0021】
前記X、Xはハロゲン原子が好ましく、特にCl、Brが好ましい。
【0022】
前記a、b、c、dは、相互に独立に、水素原子、ニトロ基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシまたはフェニルを表し、前記フェニル基は、炭素数1〜6のアルキル基および炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されていてもよい。Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、およびアリール基を表し、Rは、水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、アリールを表し、Rは、水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基、アリールを表す。
【0023】
前記a、b、c、dは水素原子、ニトロ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、メトキシ基またはフェニル基が好ましく、前記フェニル基は、メチル基もしくはメトキシ基置換されていてもよいが、水素原子であることが特に好ましい。
【0024】
前記R1は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、およびアリール基を表す。
【0025】
前記R1は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘプチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、2,4−ジメチルシクロヘキシル基、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、フェニル基、o−、m−、p−トリル基、および3,5−ジメチルフェニル基が好ましい。
【0026】
前記Rは、水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、アリールを表す。
【0027】
前記Rは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘプチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、2,4−ジメチルシクロヘキシル基、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、フェニル基、o−、m−、p−トリル基、および3,5−ジメチルフェニル基が好ましい。
【0028】
前記Rは、水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基、アリールを表す。
【0029】
前記Rは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましい。さらにR、R、およびRはそれぞれ水素原子であることが特に好ましい。
【0030】
Lは、式P(RL0で表わされる配位子(以降、式(L)とする)、下記式(L)、(L)、(L)および(L)で表される配位子から選ばれる一種である。
【0031】
【化6】

【0032】
式(L)中、RL0は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6の環状炭化水素基またはアリール基を表し、好ましくは、フェニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。
【0033】
式(L)〜(L)中、RL1およびRL2は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはアリール基を表わす。RL3およびRL4は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、またはアリール基を表すか、あるいはRL3およびRL4は互いに結合し、5員または6員の環状炭化水素基を表わす。RL5およびRL6はハロゲン原子を表す。
【0034】
Lは、式(L)で、且つRL1およびRL2はメシチル基、RL3およびRL4は水素原子であることが好ましい。
【0035】
<環状オレフィン系化合物>
本発明で用いられる環状オレフィン系化合物は前記式(X)で表わされる化合物(以降、化合物(X)とも言う。)及び前記式(Y)で表わされる化合物(以降、化合物(Y)ともいう。)から選ばれる、少なくとも一種であることが好ましい。
【0036】
前記式(X)のRx1〜Rx4、もしくは前記式(Y)のRy1とRy2がハロゲン原子の場合、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基の場合、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘプチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基などの置換または非置換のアルキル基、フェニル基、o−、m−、p−トリル基、および3,5−ジメチルフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、インデニル基、フルオレニル基、アントラセニル基などの置換または非置換のアリール基が挙げられる。極性基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などのアルコキシ基、または水酸基が挙げられる。
【0037】
化合物(X)として具体的には、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン (「ノルボルネン」とも言う。)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.04,9]テトラデカ−4,6,8,12−テトラエン (1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノフルオレン)、5−メトキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−アミノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンが挙げられる。。
【0038】
化合物式(Y)として具体的には、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(「ジシクロペンタジエン」とも言う。)、ペンタシクロ[6.5.1.02,7.13,6.09,13]ペンタデカ−4,10−ジエン(「トリシクロペンタジエン」とも言う。)、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.111,17.012,16]エイコサ−5,13−ジエン(「テトラシクロペンタジエン」とも言う。)、およびノナシクロ[10.9.1.02,11.13,10.04,9.15,8.013,21.114,20.015,19]ペンタコサ−6,16−ジエン(「ペンタシクロペンタジエン」とも言う。)が挙げられる。これらの中でも、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエンが好ましい。
【0039】
化合物式(X)もしくは化合物(Y)は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられることができ、また、組成比は特に限定されるものではなく、任意の割合で混合させることができる。
【0040】
<開環共重合>
本発明の環状オレフィン系開環重合において、触媒(1)の使用量は、環状オレフィン系化合物とのモル比(触媒(1)/環状オレフィン系化合物)が、1/10,000,000〜1/500,000が好ましく、更に1/10,000,000〜1/1,000,000が好ましい。1/500,000より大きい場合、ポリマーの色相に大きな影響をおよぼす。1/10,000,000より少ない場合、重合反応が進行しなくなってしまう問題が生ずる。
【0041】
重合溶媒は、触媒(1)、化合物(X)、化合物(Y)、および生成する開環重合体が溶解あるいは分散可能なものを用いることができる。重合溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素、クロロブタン、ブロムヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化アルカン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチルなどの飽和カルボン酸エステル類、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類を挙げることができる。本発明で用いる重合溶媒は、これらの中でも、溶解性が良好な、芳香族炭化水素を含有することが好ましい。また、これらの重合溶媒は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体の製造方法においては、得られる環状オレフィン系共重合体が、用途に応じて所望の分子量となるよう、適宜開環共重合反応条件を調整することができ、開環共重合反応において、分子量調節剤を用いることもできる。
【0043】
好適に用いることのできる分子量調節剤の具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類およびスチレンなどを挙げることができ、これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。
【0044】
これらの化合物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて分子量調節剤として用いることができる。
【0045】
分子量調節剤の使用量としては、特に限定されるものではないが、開環共重合反応に供される環状オレフィン系モノマー1モルに対して、好ましくは0.001〜0.6モル、より好ましくは0.002〜0.1モルの範囲であるのが望ましい。0,001より少ないものは超高分子量成分が発生して、ゲルを生じやすくなり、0.6モルより多いものは、重合反応を阻害してしまうことが多い。
【0046】
開環共重合反応を行う際の反応時間は特に限定されないが、生産上、0.1〜10時間、好ましくは0.1〜5時間、より好ましくは0.1〜3時間であるのが望ましい。また、反応温度は30〜180℃、好ましくは70〜160℃程度の範囲であることが望ましい。
【0047】
本発明の環状オレフィン系開環重合体の分子量は、用途などに応じて適宜調整して製造することができ、特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mw)が、20,000〜150,000である必要がある。分子量が20,000未満である場合には、成形品の強度が低いものとなることがある。一方、分子量が150,000を超える場合には、溶液粘度が高くなりすぎ、本発明の環状オレフィン系共重合体の生産性や成形性、加工性が悪化することがある。
【0048】
また、本発明に係る環状オレフィン系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されるものではないが、例えばフィルム用途などに用いる場合には、通常1.5〜10、好ましくは1.5〜8、さらに好ましくは1.5〜5であるのが望ましい。
【0049】
<添加剤>
本発明の環状オレフィン系共重合体は、そのまま成形に用いてもよいが、耐熱劣化性や耐光性の改良のために公知の酸化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤を添加して用いることができる。添加剤としては、例えば、樹脂への添加剤として公知のフェノール系化合物、チオール系化合物、スルフィド系化合物、ジスルフィド系化合物、リン系化合物などを用いることができ、これらの少なくとも1種の化合物を、本発明の環状オレフィン系開環重合体100重量部に対して0.01〜10重量部添加することで、耐熱劣化性や耐光性などの特性を向上させることができる。
【0050】
また、本発明の環状オレフィン系開環共重合体には、必要に応じて、その他の添加剤を添加して用いてもよい。たとえば、着色されたフィルムを得ることを目的として、染料、顔料等の着色剤を添加してもよく、得られるフィルムの平滑性を向上させることを特徴としてレベリング剤を添加してもよい。レベリング剤としては、たとえば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
【0051】
<用途>
本発明に係る環状オレフィン系開環共重合体、特に水素化物である環状オレフィン系開環共重合体は、たとえばレンズ状、フィルム状、シート状、などの所望の形状に公知の方法により成形して用いることができ、光学フィルムなどの各種光学部品等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、重合反応、触媒調製などの各工程は、窒素雰囲気下で実施した。
【0053】
<触媒>
本実施例もしくは比較例に用いた触媒を以下に示す。
【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
後述する実施例および比較例において、各測定及び評価は、以下の方法により行った。
【0058】
ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、商品名:DSC6200)を用いて、日本工業規格K7121に従って補外ガラス転移開始温度(以下、単にガラス転移温度(Tg)という)を求めた。
【0059】
重量平均分子量および分子量分布
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、商品名:HLC-8020)を用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
【0060】
モノマーの転化率分析
ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、商品名:GC-2014)を用いて反応溶液中に含まれる残モノマーの量を分析し、算出した。
【0061】
ポリマー中の金属ルテニウム量の分析
ポリマー中に存在する金属ルテニウムの定量分析は、原子吸光分析装置:日立社製Z2700型を用いた。標準のルテニウム金属の水溶液を希釈して、原子吸光分析で検量線を作製し、試料は重合体固形分10重量%のトルエン溶液で測定した。
【0062】
[実施例1]
環状オレフィン系化合物(モノマー)として、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(120g、517mmol)、分子量調節剤として1−ヘキセン(0.37g、4.4mmol)をトルエン(180g)に添加し、80℃に加熱撹拌した。このモノマートルエン溶液に、触媒(1−1)(96.6μg、0.15μmol)をトルエン溶液(0.98mL)として添加し、重合反応を開始した。経時的にサンプリングを実施し、重合開始後1時間で反応停止剤としてエチルビニルエーテル(0.15μmol)を添加し、開環共重合体(1)のトルエン溶液を得た。モノマー転化率の経時変化を表1に示す。モノマーの最終転化率は99%であった。この溶液の1gを採取し、多量のメタノール中で沈殿、減圧乾燥させることにより、開環共重合体(1)の評価用サンプルを得た。このポリマーのTgは210℃であった。このポリマー中の金属ルテニウム量は0.1ppmであった。GPC測定の結果、重量平均分子量(Mw)=50,000、分子量分布(Mw/Mn)=2.0であった。
【0063】
[比較例1]
触媒(1−1)の代わりに、触媒(2)(849μg、1.0μmol)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を実施し、開環共重合体(2)のトルエン溶液を得た。モノマー転化率の経時変化を表1に示す。モノマーの最終転化率は85%であった。この溶液の1gを採取し、多量のメタノール中で沈殿、減圧乾燥させることにより、開環共重合体(2)の評価用サンプルを得た。このポリマーのTgは211℃であった。このポリマー中の金属ルテニウム量は0.9ppmであった。GPC測定の結果、重量平均分子量(Mw)=56,000、分子量分布(Mw/Mn)=1.8であった。
【0064】
[比較例2]
触媒(1−1)の代わりに、触媒(3)(627μg、1.0μmol)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を実施し、開環共重合体(3)のトルエン溶液を得た。モノマー転化率の経時変化を表1に示す。モノマーの最終転化率は52%であった。この溶液の1gを採取し、多量のメタノール中で沈殿、減圧乾燥させることにより、開環共重合体(3)の評価用サンプルを得た。このポリマーのTgは212℃であった。このポリマー中の金属ルテニウム量は0.9ppmであった。GPC測定の結果、重量平均分子量(Mw)=62,000、分子量分布(Mw/Mn)=1.8であった。
【0065】
【表1】

【0066】
[実施例2]
環状オレフィン系モノマーとして、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(37.6g、162mmol)、トリシクロペンタジエン(71.5g、361mmol)、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(21.9g、232mmol)、分子量調節剤として1−ブテン(0.66g、11.8mmol)をトルエン(275g)に添加し、100℃に加熱撹拌した。このモノマートルエン溶液に、触媒(1−1)(377μg、0.58μmol)のトルエン溶液(1.01mL)を添加し、重合反応を開始した。重合1時間の後に反応停止剤としてエチルビニルエーテル(0.58μmol)を添加し、開環共重合体(4)のトルエン溶液を得た。モノマーの最終転化率は99%であった。この溶液の1gを採取し、多量のメタノール中で沈殿、減圧乾燥させることにより、開環共重合体(4)の評価用サンプルを得た。このポリマーのTgは165℃であった。このポリマー中の金属ルテニウム量は0.4ppmであった。H−NMRの分析により、ポリマー中のモノマー組成は、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンが14.3mol%、トリシクロペンタジエンが57.3mol%、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンが28.4mol%であった。GPC測定の結果、重量平均分子量(Mw)=33,000、分子量分布(Mw/Mn)=2.3であった。
【0067】
[実施例3]
環状オレフィン系モノマーとして、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンの代わりに、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン)(68.2g、517mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を実施し、開環共重合体(5)のトルエン溶液を得た。モノマーの最終転化率は99%だった。この溶液の1gを採取し、多量のメタノール中で沈殿、減圧乾燥させることにより、開環共重合体(5)の評価用サンプルを得た。このポリマーのTgは135℃であった。このポリマー中の金属ルテニウム量は0.2ppmであった。GPC測定の結果、重量平均分子量(Mw)=45,000、分子量分布(Mw/Mn)=1.9であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る環状オレフィン系開環共重合体は、特定の触媒を用いることにより、少量の触媒量で、環状オレフィン系化合物の開環メタセシス重合反応を定量的に進行させることができ、重合プロセスの軽減、モノマーの高転嫁率、ポリマー中の金属含量の軽減できる。今後、光線透過率や耐熱性に優れた熱可塑性透明樹脂、特に光学部品用として、光学レンズ、フィルム、シートに好適に用いられることが期待できる。またその具体例として、撮像レンズ、導光板、位相差フィルム、保護フィルム、接着フィルム、タッチパネル、透明電極基板、TFT用基板、カラーフィルター基板などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される触媒の存在下で、環状オレフィン系化合物を開環重合反応する工程を有することを特徴とする環状オレフィン系開環重合体の製造方法。
【化1】

(式(1)中、X、XおよびLは配位子を表す。a、b、c、dは、相互に独立に、水素原子、ニトロ基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、またはフェニルを表し、前記フェニル基は、炭素数1〜6のアルキル基および炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されていてもよい。Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、またはアリール基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、アリールを表し、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基、アリールを表す。)
【請求項2】
前記環状オレフィン系化合物が、下記式(X)及び下記式(Y)で表わされる化合物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1に記載の環状オレフィン系開環重合体の製造方法。
【化2】

(式(X)中、Rx1〜Rx4は、それぞれ独立に下記(i)〜(ix)で示される基を表し、k、mおよびpは、それぞれ独立に0または正の整数を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)トリアルキルシリル基
(iv)酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を含む置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基
(v)置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基
(vi)極性基(但し(iv)を除く)
(vii)Rx1とRx2、またはRx3とRx4が、相互に結合して形成されたアルキリデン基で、該結合に関与しないRx1〜Rx4は、相互に独立に上記(i)〜(vi)より選ばれる基
(viii)Rx1とRx2、またはRx3とRx4が、相互に結合して形成された単環もしくは多環の炭化水素環または複素環で、該結合に関与しないRx1〜Rx4は、相互に独立に上記(i)〜(v)より選ばれる基、もしくはRx1とRx2が、相互に結合して形成された単環の飽和炭化水素環または複素環で、該結合に関与しないRx1〜Rx4は、相互に独立に上記(i)〜(v)より選ばれる基)
【化3】

(式(Y)中、Ry1、Ry2は上記(i)から(vi)で示される基を表すか、下記(ix)、(x)で示される基を表すし、k、mおよびpは、それぞれ独立に、0または正の整数を表す。
(ix)Ry1とRy2が、相互に結合して形成された単環もしくは多環の炭化水素環または複素環
(x)Ry1とRy2が相互に結合して形成された芳香環)
【請求項3】
前記a、bおよびcは水素原子を表し、dは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基および炭素数1〜6のアルコキシ基から選択される1種の基で置換されたフェニル基であることを特徴とする、請求項1〜2に記載の環状オレフィン系開環共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記a、b、cおよびdが水素原子を表すことを特徴とする、請求項1〜3に記載の環状オレフィン系開環共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記Lが式P(RL0で表わされる配位子(式(L)とする)、下記式(L)、(L)、(L)および(L)で表される配位子から選ばれる一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体の製造方法。
【化4】

(式(L)中、RL0は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6の環状炭化水素基またはアリール基を表わす。式(L)〜(L)中、RL1およびRL2は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはアリール基を表わす。RL3およびRL4は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、またはアリール基を表すか、あるいはRL3およびRL4は互いに結合し、5員または6員の環状炭化水素基を表わす。RL5およびRL6はハロゲン原子を表す。)
【請求項6】
請求項1〜5に記載の製造方法から得られる環状オレフィン系開環重合体。

【公開番号】特開2011−246624(P2011−246624A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121687(P2010−121687)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】