説明

環状リン酸化物

【課題】従来の1鎖1親水基含有界面活性剤に比べ、少量の添加で高い界面活性を示し、製造が容易で、2鎖1親水基含有界面活性剤として有用な新規な環状リン酸化物を提供する。
【解決手段】下記一般式(2)で示されるリン酸ジエステル結合を有す環状リン酸化物。


但し、R1は水素またはアルキル基、R2はメチレン基であり、R1とR2の炭素数の合計は8〜24、Xは水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンを示し、nは1から20の整数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規リン酸化物に関し、詳細には、環状のリン酸基及びアミド結合を分子中に含有する環状リン酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環状のリン酸基及びエーテル結合あるいはエステル結合を分子中に含有する1鎖1親水基型の化合物は知られている(特許文献1)。一方、天然由来のレシチン(ホスファチジルコリン)に代表される2鎖1親水基含有界面活性剤は、疎水基が一つの1鎖1親水基含有界面活性剤に比べ、一分子中に2個の疎水基を有するため一般的に水への溶解性が低く、単分散しにくいとされている。しかしながら、濃度が分散の飽和値に達すると、水中で分子が規則正しく配列した会合体であるミセルを形成し、水中に均一に分散することが知られている。特に炭素数12〜20のものは、水中で板状の二分子膜を形成して分散し、この分散液に、強いせん断力を加えると二分子膜が閉じたベシクルと呼ばれる小包を形成するなどの特長を有する。2鎖1親水基含有界面活性剤、特にレシチンについては、その用途は、食品工業、一般工業、飼料、医薬品等各方面に幅広く利用されている。また、その優れた界面活性能のために低濃度の配合で済み、環境への負荷が軽減化され、皮膚刺激もほとんどないなどの特徴から、各分野で研究開発が進められており、酵素を用いてリン脂質をエステル交換して2鎖1親水基含有界面活性剤を得る方法(特許文献2、3)、エーテル結合を有する酸化リン脂質構造の2鎖1親水基含有界面活性剤を得る方法(特許文献4)等が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2008−208058号公報
【特許文献2】特開昭63−105686号公報
【特許文献3】特開昭63−185391号公報
【特許文献4】特表2008−505885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2鎖1親水基含有界面活性剤は、2分子の連結や、疎水基、極性基の導入が必ずしも容易ではないため、分子設計が限定されたものにならざるを得ず、しかもその中で比較的高価な原材料の使用を余儀なくされることが多いという問題があり、特許文献2、3の方法のように酵素によるエステル交換を行う方法も、エステル交換される基の選択性に乏しく、目的とする構造の化合物を高純度で得ることが困難であった。また特許文献4発明の合成ルートも、従来法に対して副生物を抑制し、精製工程も省略できるなどの収率向上、工程低減を図ってはいるが、未だ複雑な多段階合成工程を伴い、非効率で煩雑なものであった。このため2鎖1親水基含有界面活性剤は、その優れた性能にもかかわらず、実用化には大きな問題を有しているのが実情である。本発明者等は、かかる課題を解決すべく鋭意研究した結果、不飽和脂肪酸のアルキルアミドの二重結合部分に環状のリン酸基を導入した2鎖1親水基型の環状リン酸化物が、容易に生産でき、2鎖1親水基含有界面活性剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、下記一般式(1)で示される不飽和脂肪酸のアルキルアミドの二重結合の位置に、環状のリン酸基が導入された下記一般式(2)で示される環状リン酸化物である。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
但し、上記一般式(1)中のR1は炭素数1以上のアルキル基であり、
R1−CH=CH−R2は、炭素数9〜25のアルケニル基、一般式(2)中のXは水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンを示し、nは1から20の整数を示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明の環状リン酸化物は、塩型のものは顕著に高い界面活性を示し、例えば界面活性剤として使用する場合、従来の1鎖1親水基含有陰イオン界面活性剤に比べて少量の添加で済み、環境への負荷が軽減化できる。また本発明の2鎖1親水基型の構造を有する環状リン酸化物は、食品工業、一般工業、飼料、医薬品等の分野で研究開発が進められている2鎖1親水基含有界面活性剤の一群として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一般式(2)で表される環状リン酸化物において、nは1から20の整数であるが、好ましくは4〜16の整数である。一般式(2)で示される環状リン酸化物は、酸型(Xが水素イオン)でも塩型(Xが金属イオンやアンモニウムイオン)でも良い。塩型である場合、対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン等の無機アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0011】
本発明の一般式(2)で表される環状リン酸化物は、二重結合を1個有する炭素数10〜26の不飽和脂肪酸に炭素数1〜20の脂肪族アミンを反応して得られる不飽和脂肪酸のアルキル(炭素数1〜20)アミドを酸化して二重結合の位置に水酸基を導入した後、有機溶媒中でポリリン酸を反応させ、二重結合を開いた位置の水酸基に環状リン酸基を導入することにより得ることができる。また、二重結合を1個有する炭素数10〜26の不飽和脂肪酸を酸化して二重結合の位置に水酸基を導入した後、有機溶媒中でポリリン酸を反応させ、二重結合を開いた位置の水酸基に環状リン酸基を導入し、ついで炭素数1〜20の脂肪族アミンと反応させることによっても得ることができる。上記反応は、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン等の有機溶媒中で行うことができるが、トルエン、ベンゼン等の芳香族化合物が好ましい。下記化3は、9−オクタデセン酸アルキルアミドの二重結合位置に環状リン酸基を導入して本発明の環状リン酸化物a)を得る反応を示したものである。尚、一般式(2)で表される本発明の環状リン酸化物は、不飽和脂肪酸アルキルアミドの二重結合部分に水酸基を導入したジヒドロキシ化合物を出発原料として用い、これを有機溶媒中でポリリン酸と反応させることによって得ることもできる。
【0012】
【化3】

【0013】
上記化3に示す本発明の環状リン酸化物a)は、9−オクタデセン酸と脂肪族アミンを反応させて得られる9−オクタデセン酸アルキルアミドを、過酸化水素とギ酸、あるいは過マンガン酸カリウム等を用いて酸化し、二重結合の位置に水酸基を導入して得られる(9,10−ジヒドロキシオクタデシル)アルキルアミドに、トルエン等の有機溶媒中で、5倍モル当量以上のポリリン酸を室温〜100℃、好ましくは40℃〜80℃で、1〜96時間程度攪拌し、その後、有機溶媒相と過剰のポリリン酸相とを分離し、有機溶媒相の水洗を行った後、有機溶媒を留去して、オクタデシル基の9,10位に環状リン酸基を導入した構造の本発明の環状リン酸化物が得られる。得られた環状リン酸化物は、シリカゲルを固定相として、クロロホルム・メタノールの混合溶媒などを移動相とするカラムクロマトグラフィーによって精製する。また、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、アミン等のアルカリを加えて中和することで、塩型の環状リン酸化物とすることができる。
【0014】
上記の9−オクタデセン酸アルキルアミドa)を得る場合、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ドデシル、テトラデシル、へキサデシル、オクタデシル、エイコシル等のアルキル鎖の異なる脂肪族第1アミンを用いることにより、一般式(2)におけるnの異なる本発明の環状リン酸化物を得ることができる。また脂肪酸としてオクタデセン酸(C´18)の代わりに、モノエン酸としてカプロレイン酸等のデセン酸(C´10)、ウンデセン酸(C´11)、ラウロレイン酸等のドデセン酸(C´12)、トリデセン酸(C´13)、ミリストレイン酸等のテトラデセン酸(C´14)、ペンタデセン酸(C´15)、パルミトレイン酸等のヘキサデセン酸(C´16)、ヘプタデセン酸(C´17)、エライジン酸等のオクタデセン酸(C´18)、ノナデセン酸(C´19)、ゴンドイン酸等のエイコセン酸(C´20)、ヘンエイコセン酸(C´21)、エルカ酸等のドコセン酸(C´22)、トリコセン酸(C´23)、セラコレイン酸等のテトラコセン酸(C´24)、ペンタコセン酸(C´25)、ヘキサコセン酸(C´26)等を用いることにより、一般式(2)におけるR1、R2の異なる本発明の環状リン酸化物を得ることができる。
【0015】
本発明の2鎖1親水基型の構造を有する環状リン酸化物は、一般的なリン酸化物の臨界ミセル濃度:cmc(プレート法、25℃)と比較して極めて低濃度であり、例えば1鎖1親水基含有界面活性剤であるモノデシルホスフェートの1ナトリウム塩は3.5ミリモル/dm程度、2鎖1親水基含有界面活性剤である大豆レシチンは0.16ミリモル/dm程度であるのに対し、本発明の9−オクタデセニルブチルアミドの二重結合の位置に、環状のリン酸基を導入し、1ナトリウム塩として得た環状リン酸化物は0.02ミリモル/dm程度であり、cmcは界面活性剤の有効性を決定するために使用される測定値であり、cmc値が低ければ低いほど、界面活性能は有用である。そのため本発明の環状リン酸化物は、食品工業、一般工業、飼料、医薬品等の分野で研究開発が進められている2鎖1親水基含有界面活性剤の一群として有用である。
【実施例】
【0016】
次に実施例で詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0017】
実施例1
2,3−ジヒドロキシドデカン酸デシルアミド(10.0g、0.027モル)、ポリリン酸(271.3g、0.807モル)のトルエン溶液1200ミリリットルを50℃で96時間攪拌し、水を400ミリリットル加えて3時間攪拌した。その後、静置してトルエン相を分取し、分取したトルエン相を、水、2N塩酸により処理し、静置してトルエン相を分取し、減圧下溶媒を留去して粘性物11.32gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表1に示す。元素分析値はC2244NOP(MW:433.56)の計算値と良く一致していた。
【0018】
(表1)

【0019】
また31P−NMRで、18.27ppmに環状リン酸基に基づくピークが認められた。元素分析値及び31P−NMRより、得られた化合物は下記化4で示す構造の環状リン酸化物であることが認められた。
【0020】
【化4】

【0021】
実施例2
9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸ブチルアミド(10.0g、0.027モル)、ポリリン酸(226.0g、0.673モル)のトルエン溶液670ミリリットルを50℃で72時間攪拌し、水を400ミリリットル加えて3時間攪拌した。その後、静置してトルエン相を分取し、分取したトルエン相を、水、2N塩酸により処理し、静置してトルエン相を分取し、減圧下溶媒を留去して粘性物11.43gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表2に示す。元素分析値はC2244NOP(MW:433.56)の計算値と良く一致していた。
【0022】
(表2)

【0023】
また31P−NMRで、18.40ppmに環状リン酸基に基づくピークが認められた。元素分析値及び31P−NMRより、得られた化合物は下記化5で示す構造の環状リン酸化物であることが認められた。
【0024】
【化5】

【0025】
実施例3
13,14−ジヒドロキシドコサン酸ヘキシルアミド(10.0g、0.022モル)、ポリリン酸(73.7g、0.219モル)のトルエン溶液440ミリリットルを50℃で96時間攪拌し、水を330ミリリットル加えて3時間攪拌した。その後、静置してトルエン相を分取し、分取したトルエン相を、水、2N塩酸により処理し、静置してトルエン相を分取し、減圧下溶媒を留去して粘性物10.91gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表3に示す。元素分析値はC2856NOP(MW:517.72)の計算値と良く一致していた。
【0026】
(表3)

【0027】
また31P−NMRで、18.44ppmに環状リン酸基に基づくピークが認められた。元素分析値及び31P−NMRより、得られた化合物は下記化6で示す構造の環状リン酸化物であることが認められた。
【0028】
【化6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される不飽和脂肪酸のアルキルアミドの二重結合の位置に、環状のリン酸基が導入された下記一般式(2)で示される環状リン酸化物。
【化1】

【化2】


但し、上記一般式(1)中のR1は炭素数1以上のアルキル基であり、
R1−CH=CH−R2は、炭素数10〜26のアルケニル基、一般式(2)中のXは水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンを示し、nは1から20の整数を示す。

【公開番号】特開2010−138120(P2010−138120A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316398(P2008−316398)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【出願人】(598069939)
【出願人】(504080098)
【Fターム(参考)】