説明

環状リン酸化物

【課題】従来の1鎖1親水基含有界面活性剤に比べ、少量の添加で高い界面活性を示し、化粧品、塗料、印刷用インク等の乳化剤等として利用可能であり、また他の異なる2鎖1親水基含有陰イオン界面活性剤の合成に有用な新規なリン酸化物を提供する。
【解決手段】環状リン酸化物は、炭素数10〜26の不飽和脂肪酸のアルキルエステルの二重結合の位置に、環状のリン酸基が導入された下記一般式(2)で示される化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規リン酸化物に関し、詳細には、環状のリン酸基及びエステル結合を分子中に含有する環状リン酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
天然由来のレシチン(ホスファチジルコリン)に代表される2鎖1親水基含有界面活性剤は、疎水基が一つの1鎖1親水基含有界面活性剤に比べ、一分子中に2個の疎水基を有するため一般的に水への溶解性が低く、単分散しにくいとされている。しかしながら、濃度が分散の飽和値に達すると、水中で分子が規則正しく配列した会合体であるミセルを形成し、水中に均一に分散することが知られている。特に炭素数12〜20のものは、水中で板状の二分子膜を形成して分散し、この分散液に、強いせん断力を加えると二分子膜が閉じたベシクルと呼ばれる小包を形成するなどの特長を有する。2鎖1親水基含有界面活性剤、特にレシチンについては、その用途は、食品工業、一般工業、飼料、医薬品等各方面に幅広く利用されている。また、その優れた界面活性能のために低濃度の配合で済み、環境への負荷が軽減化され、皮膚刺激もほとんどないなどの特徴から、各分野で研究開発が進められており、リン脂質の脂肪酸をエステル交換する等の種々の改質がなされている(特許文献1、2)。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−105686号公報
【特許文献2】特開昭63−185391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2鎖1親水基含有界面活性剤は、2分子の連結や、疎水基、極性基の導入が必ずしも容易ではないため、分子設計が限定されたものにならざるを得ず、しかもその中で比較的高価な原材料の使用を余儀なくされることが多いという問題があり、特許文献1、2の方法のように酵素によるエステル交換を行う方法も、エステル交換される基の選択性に乏しく、目的とする構造の化合物を高純度で得ることが困難であった。このため2鎖1親水基含有界面活性剤は、その優れた性能にもかかわらず、実用化には大きな問題を有しているのが実情である。本発明者等は、かかる課題を解決すべく鋭意研究した結果、不飽和脂肪酸のアルキルエステルの二重結合部分に環状のリン酸基を導入した環状リン酸化物が、安価な原材料のみを用いて容易に生産でき、2鎖1親水基含有界面活性剤としての利用や、他の2鎖1親水基含有界面活性剤の合成に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、下記一般式(1)で示される炭素数10〜26の不飽和脂肪酸のアルキルエステルの二重結合の位置に、環状のリン酸基が導入された下記一般式(2)で示される環状リン酸化物である。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
但し、一般式(1)中の、R1−CH = CH−R2は炭素数9〜25のアルケニル基、一般式(2)中のXは水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオン、nは1〜20の整数を示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明の環状リン酸化物は、塩型のものは顕著に高い界面活性を示し、例えば界面活性剤として使用する場合、従来の1鎖1親水基含有陰イオン界面活性剤に比べて少量の添加で済む。また本発明の環状リン酸化物は、環状リン酸基を持つ他の異なる2鎖1親水基含有陰イオン界面活性剤の合成に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一般式(2)で表される環状リン酸化物において、nは1から20の整数であるが、好ましくは4〜16の整数である。一般式(2)で示される環状リン酸化物は、酸型(Xが水素イオン)でも塩型(Xが金属イオンやアンモニウムイオン)でも良い。塩型である場合、対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン等の無機アンモニウムイオン、有機アンモニウム等が挙げられる。
【0011】
本発明の一般式(2)で表される環状リン酸化物は、一般式(1)で示される炭素数10〜26の不飽和脂肪酸のアルキルエステルを過酸化水素とギ酸等の酸または、過マンガン酸カリウム等により、酸化し二重結合を開き、水酸基を導入した後、ベンゼン等の有機溶媒中でポリリン酸等のリン酸化剤を反応させた後、過剰のリン酸化剤と有機溶媒相とを分離し、有機溶媒相を加水分解及び酸処理を行なうことなく、有機溶媒相中に微量残存するリン酸化剤を水洗除去して、環状のリン酸基を導入した環状リン酸化物を得ることができる。一般式(1)で示される不飽和脂肪酸のアルキルエステルは、分子中に一個の二重結合を有する炭素数10〜26の不飽和脂肪酸と、炭素数1〜20の脂肪族アルコールとをエステル化反応させる等の方法で得ることができる。これらの反応は、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン等の有機溶媒中で行うことができるが、トルエン、ベンゼン等の芳香族化合物が好ましい。
【0012】
炭素数10〜26の不飽和脂肪酸としては、カプロレイン酸等のデセン酸(C´10)、ウンデセン酸(C´11)、ラウロレイン酸等のドデセン酸(C´12)、トリデセン酸(C´13)、ミリストレイン酸等のテトラデセン酸(C´14)、ペンタデセン酸(C´15)、パルミトレイン酸等のヘキサデセン酸(C´16)、ヘプタデセン酸(C´17)、オレイン酸、エライジン酸等のオクタデセン酸(C´18)、ノナデセン酸(C´19)、ゴンドイン酸等のエイコセン酸(C´20)、ヘンエイコセン酸(C´21)、エルカ酸等のドコセン酸(C´22)、トリコセン酸(C´23)、セラコレイン酸等のテトラコセン酸(C´24)、ペンタコセン酸(C´25)、ヘキサコセン酸(C´26)等が挙げられる。また炭素数1〜20の脂肪族アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、へキサデシルアルコール、オクタデシルアルコール、エイコシルアルコール等が挙げられる。
【0013】
下記化3に、本発明環状リン酸化物製造の一例を、一般式(1)に示す。不飽和脂肪酸のエステルとして、9−オクタデセン酸のエステルを用いた場合を示す。まず、9−オクタデセン酸と脂肪族アルコールを反応させる等によって得られる9−オクタデセン酸アルキルエステルを、過酸化水素とギ酸、あるいは過マンガン酸カリウム等を用いて酸化して、9,10−ジヒドロキシオクタデシルアルキルエステルを得る。次いで、ベンゼン等の有機溶媒中で、5倍モル当量以上のポリリン酸を室温〜100℃、好ましくは40℃〜80℃で、1〜96時間程度攪拌し、その後、有機溶媒相と過剰のポリリン酸相とを分離し、有機溶媒相の水洗を行い、オクタデシル基の9,10位に、環状リン酸基を導入した構造の本発明の環状リン酸化物が得られる。得られた環状リン酸化物は、シリカゲルを固定相として、クロロホルム・メタノールの混合溶媒などを移動相とするカラムクロマトグラフィーによって精製する。また、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、アミン等のアルカリを加えて中和すると、環状リン酸化物の塩とすることができる。
【0014】
【化3】

【0015】
上記化3に示す反応において、一般式(1)に示す不飽和脂肪酸のエステルとして用いた9−オクタデセン酸のアルキルエステルの代わりに、炭素数の異なる不飽和脂肪酸と、炭素数の異なる脂肪族アルコールとのエステルを用いることにより、一般式(2)におけるR1、R2、nの異なる環状リン酸化物を得ることができる。
【実施例】
【0016】
次に実施例で詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
2−ドデセン酸ドデシルエステルを酸化して得た、2,3−ジヒドロキシドデカン酸デシルエステル10.0g(0.027モル)と、ポリリン酸63.1g(0.188モル)のベンゼン溶液140ミリリットルを混合し、50℃で72時間攪拌した後、ベンゼン相と過剰のポリリン酸相とを分離し、分離したベンゼン相を、水により洗浄処理を行い、静置してベンゼン相を分取し、減圧下溶媒を留去し、得られた粘性物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、粘性物10.38gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表1に示す。元素分析値はC2243P(MW:434.55)の計算値と良く一致していた。
【0017】
(表1)

【0018】
またこの粘性物は、31P−NMR測定で、18.75ppmに環状リン酸基に基づくピークが認められた。元素分析値及び31P−NMR測定結果より、得られた粘性物は下記化4で示す構造の環状リン酸化物であることが認められた。
【0019】
【化4】

【0020】
実施例2
9−オクタデセン酸ブチルエステルを酸化して得た、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸ブチルエステル10.0g(0.027モル)と、ポリリン酸360.7g(1.07モル)のトルエン溶液5リットルを混合し、50℃で96時間攪拌した後、トルエン相と過剰のポリリン酸相とを分離し、分離したトルエン相を、水により洗浄処理を行い、静置してトルエン相を分取し、減圧下溶媒を留去し、得られた粘性物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、粘性物10.53gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表2に示す。元素分析値はC2243P(MW:434.55)の計算値と良く一致していた。
【0021】
(表2)

【0022】
またこの粘性物は、31P−NMR測定で、18.09ppmに環状リン酸基に基づくピークが認められた。元素分析値及び31P−NMR測定結果より、得られた粘性物は下記化5で示す構造の環状リン酸化物であることが認められた。
【0023】
【化5】

【0024】
実施例3
13−ドコセン酸ヘキシルエステルを酸化して得られた、13,14−ジヒドロキシドコサン酸ヘキシルエステル10.0g(0.022モル)と、ポリリン酸110.5g(0.328モル)のトルエン溶液110ミリリットルを混合し、50℃で96時間攪拌した後、トルエン相と過剰のポリリン酸相とを分離し、分離したトルエン相を、水により洗浄処理を行い、静置してトルエン相を分取し、減圧下溶媒を留去し、得られた粘性物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、粘性物9.67gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表3に示す。元素分析値はC2855P(MW:518.71)の計算値と良く一致していた。
【0025】
(表3)

【0026】
またこの粘性物は、31P−NMR測定で、18.11ppmに環状リン酸基に基づくピークが認められた。元素分析値及び31P−NMR測定結果より、得られた化合物は下記化6で示す構造の環状リン酸化物であることが認められた。
【0027】
【化6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される炭素数10〜26の不飽和脂肪酸のアルキルエステルの二重結合の位置に、環状のリン酸基が導入された下記一般式(2)で示される環状リン酸化物。
【化1】

【化2】

但し、一般式(1)中の、R1−CH = CH−R2は炭素数9〜25のアルケニル基、一般式(2)中のXは水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオン、nは1〜20の整数を示す。

【公開番号】特開2010−70467(P2010−70467A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237033(P2008−237033)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【出願人】(598069939)
【出願人】(504080098)
【Fターム(参考)】