説明

環状不飽和化合物の製造方法

【課題】環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率を良好なものとし、簡便でかつ効率のよいものとしたうえで、特に触媒効率及び選択率等の点で優れる環状不飽和化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とをパラジウム触媒の存在下で有機溶媒中で反応させる工程を含む環状不飽和化合物の製造方法であって、上記製造方法は、有機溶媒として、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させる環状不飽和化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状不飽和化合物の製造方法に関する。より詳しくは、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とを反応させることによって、環構造と不飽和結合構造とを併せもち、種々の工業用途において有用な有機材料である環状不飽和化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状不飽和化合物は、その骨格内に環構造及び環構造の外側に不飽和結合構造を併せもち、多岐に渡る分野において有用な特性を付与する化合物として期待されている。例えば、該化合物の化学構造は生理活性発現骨格として知られており、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤等の医農薬中間体として期待される他、不飽和結合の重合性を利用して、耐熱性、光学特性、UV硬化性、粘着性等の特性を有する重合体を製造するための単量体として適用されることが期待されるものである。このような単量体から得られる重合体は、電子情報材料、電池材料、光学材料、レジスト材料、液晶材料、フィルム材料、冷媒材料、塗料、接着剤、洗剤ビルダー等の各種化学製品の製造原料や医農薬原料に適用できる可能性がある。このように、環状不飽和化合物は、化学、医農薬等の分野において有用な化合物である。
【0003】
従来の環状不飽和化合物の製造方法としては、アルケンのアクリロキシパラジウム化又はメタクリロキシパラジウム化を利用した反応に関し、基質であるα,β−不飽和カルボン酸を溶媒としても用いて、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルに代表される不飽和鎖状エステルや、α−メチレン−γ−ブチロラクトン類に代表される不飽和環状エステルを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。該フェールトらの文献の表1には、このように基質かつ溶媒であるアクリル酸又はメタクリル酸による代表的なアルケンのアシロキシパラジウム化を利用した反応が記載されており、例えば実施例7にはアクリル酸とノルボルネンを用いた反応が記載されている。
しかしながら、反応速度が十分でないため生産性が悪いことに加え、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物を原料としてこの方法で反応を行った場合には非環状不飽和化合物が副生するため、生成物中における目的とする環状不飽和化合物の選択率が極めて低く、さらに、アクリル酸の二量化反応等が進行するため、α,β−不飽和カルボン酸の転化率に対する環状不飽和化合物の収率も極めて低いことが分かり、環状不飽和化合物を高収率かつ高選択的に生産するための製法としてアクリル酸等を溶媒とするよりも高い生産性を有することになる方法の開発が望まれるところであった。
【0004】
またアルケンの分子内アクリロキシパラジウム化を利用した反応に関し、溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、α−メチレン−γ−ブチロラクトン類に代表される不飽和環状エステルの製造方法が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
しかしながら、アクリル酸とエチレンを原料として、本条件下で反応を行った場合には、アクリル酸ビニルがα−メチレン−γ−ブチロラクトンよりも優先して生成し、選択率が劣ると共に、反応も殆ど進行しないことが分かった。更に、分子間反応に関しては何ら開示されていないことに加えて、分子内環化反応を実施するためには、多段階を要して合成した原料を使用しなければならず、コスト面にも劣ることとなる。したがって、環状不飽和化合物の製造において、収率や選択率の向上の点から、また工業的生産に適したものとする点から工夫の余地があった。
【0005】
更に、α−ブロモアクリル酸と1,3−ジエンとのパラジウム触媒を用いた反応(例えば、非特許文献3参照)や、α−ハロゲン化アクリル酸と1,3−ジエンとのパラジウム触媒を用いた反応(例えば、非特許文献4参照)や、α−ハロゲン化アクリル酸とアルキンとのパラジウム触媒を用いた反応(例えば、非特許文献5参照)により、ラクトン環のエキソ位に不飽和結合を持つ化合物の製造方法が開示されている。
しかしながら、これらは、例えば非特許文献4のp.1526に記載されるように、活性なPd(0価)が生じた後、ハロゲン化ビニルに対して酸化的付加を起こし、続いて有機パラジウム種がアルケン(1,3−ジエン)に付加し、π−アリルパラジウム中間体を形成する。その後、パラジウムがカルボキシレートイオンにより置換され、不飽和環状化合物が生成するという反応機構であり、また、α位がハロゲンに置換された高価なアクリル酸誘導体を原料にすることが必須であり、コスト面でも問題がある。
なお、一般的なワッカー(Wacker)型反応の例が開示されている(例えば、非特許文献6参照)。当該刊行物のp.650の左欄には、「一般には反応剤であるオレフィン、水、PdCl、再酸化剤を共に溶かす有機溶媒を用いる。最も広く用いられているのはDMFでその例は多い。」と記載されている。しかし、環状不飽和化合物の製造方法に適用する際には反応を円滑に進行させるための更なる工夫の余地があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】フェールト(Ferret,N.)、他3名「ジャーナル オブ ケミカル ソサイエティー ケミカル コミュニケーションズ (Journal of Chemical Society,Chemical Communications)」、(英国)、ロイヤル ソサエティ オブ ケミストリー(Royal Society of Chemistry)、1994年、第22号、p.2589−2590
【非特許文献2】ヤーレ−トルフェルト(Jabre−Truffert,S.)、他1名「テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters)」、(英国)、エルセビア サイエンス(Elsevier Science)、1997年、第38巻、p.835−836
【非特許文献3】アイエル(Iyer,S.)、他1名「テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters)」、(英国)、エルセビア サイエンス(Elsevier Science)、1999年、第40巻、p.4719−4720
【非特許文献4】ガニエル(Gagnier,S.V.)、他1名「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)」、(米国)、アメリカン ケミカルソサイエティ(American Chemical Society)、2000年、第65巻、p.1525−1529
【非特許文献5】ロッシ(Rossi,R.)、他4名「テトラヘドロン(Tetrahedron)」、(英国)、エルセビア サイエンス(Elsevier Science)、1998年、第54巻、p.135−156
【非特許文献6】辻二郎、他2名「有機合成化学協会誌」、(日本)、有機合成化学協会、1989年、第47巻、第7号、p.649−659
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率を良好なものとし、簡便でかつ効率のよいものとしたうえで、特に触媒効率及び選択率等の点で優れる環状不飽和化合物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、環状不飽和化合物の効率的な製造方法について種々検討したところ、反応基質としてα,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とを用い、これらを反応させて環状不飽和化合物を製造する方法が工業的な生産において好適であることに先ず着目した。そして、このような方法を開示する従来技術が基質を溶媒とするのに対して、基質を溶媒とするのではなく、触媒に対して相互作用する溶媒を用いると、好ましくは、触媒に対して適度な相互作用を有する選択された溶媒を用いると、副生物である非環状不飽和化合物の生成が抑制されることになり、その結果、目的物である環状不飽和化合物の製造に際して、反応速度や収率を良好なものとし、簡便でかつ効率のよいものとしつつ、有利な効果として特に触媒効率及び選択率等の点で優れるものとすることができることを見いだした。これは、反応中間体における触媒金属元素の周りの配位環境や電子状態に変化が起きることによって、副生物である非環状不飽和化合物の生成が抑制されることになるものと考えられる。
このように触媒に対して適度な相互作用のある溶媒は、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、本発明においては、これを必須溶媒とすることになる。
芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の中で有機溶媒として有用なものとしては、芳香族化合物、エステル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものが挙げられる。
このように、基質とは異なる有機溶媒を用い、かつ有機溶媒を選択することによって、言い換えれば、基質を溶媒とする従来技術に対して、選択した溶媒を用いることによって、環状不飽和化合物を高収率かつ高選択率で製造することができ、上記課題をみごと解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。ここに本発明の重要な技術的意義がある。
【0009】
本発明の技術的意義はまた、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とをパラジウム触媒の存在下で反応させる工程において、すなわち、かかる反応における触媒が最適化された工程において、更に溶媒を選択することによって上記の有利な効果を顕著に発現させるところにもある。
なお、本発明の製造方法は、Pd(2価)が基本活性種となって触媒サイクルが回転する反応であり、上述した非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5に記載の発明とは根本的に反応機構が異なるものである。また高価な原料を使用しない点においても、経済的に有利に本発明の効果を顕著に発揮できるものである。また、非特許文献6に記載されるように、Wacker型反応において一般に最もよく用いられる溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)であり、DMFは、シクロヘキサン、オクタンよりも反応性がある、すなわちDMF中においてシクロヘキサン中又はオクタン中におけるよりもWacker型反応がより円滑に進行すると考えられる。しかし、本発明の製造方法では、実施例に示すように、DMF中では実質的に反応が進行しない。また、パラジウム触媒を用いた反応においては溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)やN−メチルピロリドン等がよく用いられるが、本発明の製造方法では、実施例に示すように、DMSOやN−メチルピロリドン中においても実質的に反応が進行しない。その他の本発明の製造方法における溶媒中においてのみ効率よく反応が進行することになる。
DMF、DMSO、N−メチルピロリドン等の溶媒において実質的に反応が進行しない理由としては、以下のように考えられる。すなわち、これらアミド基やスルフィニル基等の窒素原子や硫黄原子を有する溶媒では、触媒に対する配位性が高く、環状不飽和化合物の製造に必要となる配位座を埋めてしまうことになる。これにより、基質が触媒に近づくことが出来ず、本反応自体を阻害することになる。
【0010】
また、助触媒や再酸化剤を用いることにより、環状不飽和化合物の製造がより効率的なものとなるとともに、触媒の再酸化が進行しやすくなり、より好適な環状不飽和化合物の製造方法とすることができる。
本発明によれば、触媒活性を優れたものとしつつ、副生成物である非環状不飽和化合物を抑制して触媒効率や選択率を高めることができる。
【0011】
すなわち本発明は、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とをパラジウム触媒の存在下で有機溶媒中で反応させる工程を含む環状不飽和化合物の製造方法であって、上記製造方法は、有機溶媒として、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させることを特徴とする環状不飽和化合物の製造方法である。
なお、上記溶媒が特定の化合物を「含有する」とは、本発明の効果を奏するように当該化合物によって構成されること、又は、当該化合物を主成分として構成されることが好適であることを意味するものである。上記溶媒が実質的に上記化合物だけから構成されることがより好ましい。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明においては、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とをパラジウム触媒の存在下で有機溶媒中で反応させる際に、有機溶媒として芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させることにより、触媒の配位環境や電子状態が変わり、環状不飽和化合物の合成時の反応中間体がより安定化され、技術的に下記のような作用機構によって有利な効果を奏するものと考えられる。
すなわち、先ず、当該有機溶媒の電子が触媒活性種中間体と相互作用して、溶媒分子が触媒活性種の近傍に存在することになる。触媒金属周りの配位環境や電子状態に変化が起きることにより、α,β−不飽和カルボン酸による、パラジウムに配位した不飽和有機化合物が持つ二重結合への求核攻撃の後、続くβ−ヒドリド脱離が抑制されて、α,β−不飽和カルボン酸由来の不飽和部位の金属への配位と挿入反応が効率よく進行することになり、その結果、環状不飽和化合物が生成しやすくなって、本発明の製造方法における触媒効率や選択率を大幅に向上させることができる。更に、環状不飽和化合物合成に有効な触媒活性種(例えば、単核パラジウム種、異核パラジウム種、複核パラジウム種、パラジウムクラスター、パラジウムナノ粒子、パラジウム含有金属ナノ粒子等)の生成及び安定化を助けたり、触媒同士の凝集を抑制したり、触媒活性種の活性を高めたり、再酸化が進行しやすくなったりする結果、触媒活性種を高酸化状態とすることに有利に働くことができる(図1、図2、図3参照、これらの図は本発明の作用機構を概念的に示すものである)。このように、溶媒が触媒と相互作用することにより、触媒活性種の状態が変化して反応機構に作用することによって、非環状不飽和化合物が生成しにくい状態となり、環状不飽和化合物を選択的に得ることができる。
このようなことから、環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率を良好なものとし、簡便でかつ効率のよいものとしたうえで、特に触媒効率及び選択率等の点で優れる環状不飽和化合物の製造方法とすることができる。
【0013】
本発明の製造方法は、有機溶媒として、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させるものであればよい。
これにより、本発明の製造方法により得られる環状不飽和化合物の収率を優れたものとすることができる。これは、これらの溶媒と反応の中間体に対する相互作用が、より適度なものであるためと考えられる。中でも、上記有機溶媒が、芳香族化合物、エステル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものであることが更に好ましい。特に好ましくは、芳香族及び/又はエステル基が含まれる溶媒である。
これら有機溶媒の存在下で反応させることにより、例えば、再酸化剤として実質的に酸素だけを用いて、またより少ない触媒量で、環状不飽和化合物を効率的に製造するという効果がより充分に発揮されることになる。またコスト削減、環境面においても有利となる。更に、反応速度及び目的化合物である環状不飽和化合物の収率が大幅に向上するという効果を発揮することができる。この理由としては、有機溶媒と触媒との相互作用が好適な範囲内に調整されることにより、溶媒分子が非環状不飽和化合物の製造に用いられる配位座を適度に埋めるか、環状不飽和化合物の製造に必要となる配位座を埋めないためか、反応中間体との相互作用をして反応中間体の生成を促進しているためか、もしくは、溶媒分子がα,β−不飽和カルボン酸が有する不飽和結合により配位交換するまで非環状不飽和化合物の製造に用いられる配位座を埋めるためであると考えられる。
【0014】
上記芳香族化合物は、通常、有機反応における溶媒として用いられる芳香環を有する化合物であればよいが、ヘテロ原子を含まない芳香環を有する化合物が好ましい。芳香環には酸素以外のヘテロ原子が含まないことが好ましい。へテロ原子とは、芳香環の環自体の構造を形成する原子であって、炭素以外の原子のことであり、例えば、どのような環構造においても酸素や窒素原子等もヘテロ原子となる。
上記芳香族化合物における芳香環を形成する炭素数としては、6個以上、30個以下であることが好ましい。より好ましくは、6個以上、12個以下である。更に好ましくは、芳香環が下記一般式(a)に表されているベンゼン環又は下記一般式(b)に表されているナフタレン環であることである。もっとも好ましくは、芳香環がベンゼン環であることである。
【0015】
【化1】

【0016】
上記一般式(a)又は一般式(b)で表されるものについて以下に説明する。
式中、上記R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、又は、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族基含有基、エステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、ハロゲン基、イソニトリル基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホキシド基,スルホン基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン酸基、カルボニル基(例えば、ケトンやアルデヒド)、アミノ基、アミンオキシド基、ニトロン基、アミド基、アジド基、アセタール基、アゾ基、アゾキシ基、アジン基、イミノ基、イミド基、エナミン基、エナミド基、オルトエステル基、ジアゾ基、ジアゾニウム基、ケタール基、オニウム塩基、複素環式化合物、ヘテロ元素含有基(P、S、Si、B等)等であれば良く、これらの同種及び/又は異種の基を二つ以上有していても良い。
上記芳香族化合物は、本発明の製造方法において用いられるその他の有機溶媒に該当するものであってもよい。
【0017】
上記エステル基含有化合物としては、有機反応における溶媒として用いられるエステル基を有する化合物であればよく、下記一般式(c)で表されるものであることが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
上記一般式(c)で表されるものについて以下に説明する。
式中、上記Rは、上述したR、R、R、R、R、R、R及びRと同様である。上記Rは、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族基含有基、エステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、ハロゲン基、イソニトリル基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホキシド基,スルホン基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン酸基、カルボニル基(例えば、ケトンやアルデヒド)、アミノ基、アミンオキシド基、ニトロン基、アミド基、アジド基、アセタール基、アゾ基、アゾキシ基、アジン基、イミノ基、イミド基、エナミン基、エナミド基、オルトエステル基、ジアゾ基、ジアゾニウム基、ケタール基、オニウム塩基、複素環式化合物、ヘテロ元素含有基(P、S、Si、B等)等であれば良く、これらの同種又は異種の基を二つ以上有していても良い。
上記R、Rの置換基は、RとRが環構造を形成していてラクトン環を形成していてもよい。
また、上記エステル基含有化合物は、本発明の製造方法において用いられるその他の有機溶媒に該当するものであってもよい。
【0020】
上記エーテル基含有化合物としては、有機反応における溶媒として用いられるエーテル基を有する化合物であればよく、下記一般式(d)で表されるものであることが好ましい。
【0021】
【化3】

【0022】
上記一般式(d)で表されるものについて以下に説明する。
式中、上記R、Rは、上述したRと同様である。
上記R、Rの置換基は、RとRが環構造を形成していてエーテル環を形成していてもよい。
また、上記エーテル基含有化合物は、本発明の製造方法において用いられるその他の有機溶媒に該当するものであってもよい。
【0023】
上記カーボネート基含有化合物は、有機反応における溶媒として用いられるカーボネート基を有する化合物であればよく、下記一般式(e)で表されるものであることが好ましい。
【0024】
【化4】

【0025】
上記一般式(e)で表されるものについて以下に説明する。
式中、上記R、Rは、上述したRと同様である。
上記R、Rの置換基は、RとRがカーボネート環構造を形成していてもよい。
また、上記カーボネート基含有化合物は、本発明の製造方法において用いられるその他の有機溶媒に該当するものであってもよい。
上記有機溶媒は、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択され、かつ炭素、水素、酸素及びハロゲン以外の元素が含まれていないことが好ましい。言い換えれば、上記有機溶媒は、実質的に炭素、水素、酸素及びハロゲン以外の元素が含まれていないことが本発明の製造方法における好ましい形態である。
これにより、本発明の反応速度や収率を良好なものとする効果を更に充分に発揮することができる。
上記「実質的に炭素、水素、酸素及びハロゲン以外の元素が含まれていない」とは、わずかに他の元素が含まれていても、本発明の反応速度や収率を良好なものとする効果を奏することができるものであればよい。
より好ましくは、実質的に炭素、水素及び酸素以外の元素が含まれていないことである。
本発明の製造方法は、有機溶媒として、アミド基含有化合物及び/又はスルフィニル基含有化合物を実質的に含有しないものを用いて反応させるものであることが好ましい。
すなわち、本発明の環状不飽和化合物の製造方法における上記有機溶媒は、実質的に炭素、水素、酸素及びハロゲン以外の元素が含まれていないことが好ましい。また、上記R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、Rも実質的に炭素、水素、酸素及びハロゲン以外の元素が含まれていないことが好ましい。より好ましくは、上記R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、Rも実質的に炭素、水素及び酸素以外の元素が含まれていないことである。また、化合物内の炭素数が1以上、60以下であることが好ましく、2以上、45以下であることがより好ましく、4以上、30以下であることが更に好ましい。
これにより、本発明の製造方法における環状不飽和化合物の収率及び選択率を更に向上することが可能となる。
【0026】
例えば、本発明の環状不飽和化合物の製造方法における好ましい形態は、上記芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物、カーボネート基含有化合物が下記の一般式で表される形態である。
上記芳香族化合物は、下記一般式(a)又は一般式(b);
【0027】
【化5】

【0028】
(式中、上記R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素、炭素数が1以上、12以下のアルキル基、炭素数が1以上、12以下のハロアルキル基、炭素数が1以上、12以下のアルコキシ基、炭素数が2以上、12以下のアシル基又は炭素数が2以上、18以下のアルコキシカルボニル基を表す。)で表されるものである。より好ましくは、一般式(a)で表されるものである。芳香族化合物全体の炭素数としては6以上、60以下であることが好ましく、6以上、45以下であることがより好ましく、7以上、30以下であることが更に好ましい。
【0029】
上記R、R、R、R、R、R、R及びRは、上述したように、同一若しくは異なって水素、アルキル基、アルコキシ基、アシル基又はアルコキシカルボニル基を表すものであることが好ましい。より好ましくは、水素、アルキル基、アルコキシ基又はアルコキシカルボニル基であり、更に好ましくは、水素又はアルコキシカルボニル基である。
上記R〜Rにおけるアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。その炭素数は、1以上であればよく、1以上、12以下であればよく、1以上、6以下がより好ましく、1以上、4以下が更に好ましい。上記基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基が好適なものとして挙げられる。特に好ましくは、メチル基である。
上記R〜Rにおけるハロアルキル基は、アルキル基を構成する炭素に結合した水素の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基をいう。上記ハロゲン原子は、例えばフッ素原子(F)、塩素原子 (Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)から選択される少なくとも1種であり、2種以上存在していてもよい。その炭素数は、1以上、12以下であればよく、1以上、6以下がより好ましく、1以上、4以下が更に好ましい。
上記R〜Rにおけるアルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。その炭素数は、1以上、12以下であればよく、1以上、6以下がより好ましく、1以上、4以下が更に好ましい。例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基が好適なものとして挙げられる。特に好ましくは、メトキシ基である。
上記R〜Rにおけるアシル基は、−CO−R(式中、Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は、アリール基である。)の化学式で表されるものである。上記アシル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。その炭素数は、2以上、12以下であればよく、2以上、6以下がより好ましく、2以上、4以下が更に好ましい。上記Rは、アルキル基であることが好ましい。アルキル基の好ましい形態等は、上述したのと同様である。
上記R〜Rにおけるアルコキシカルボニル基は、−CO−OR(式中、ORは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基である。)の化学式で表されるものである。上記アルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。その炭素数は、2以上、18以下であればよく、2以上、10以下がより好ましく、2以上、5以下が更に好ましい。上記基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基又はブトキシ基が好適なものとして挙げられる。
【0030】
上記芳香族化合物は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、アニソール、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、メシチレン、プソイドクメン及びトリフルオロトルエンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、アニソール、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、メシチレン及びプソイドクメンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0031】
上記エステル基含有化合物は、下記一般式(c);
【0032】
【化6】

【0033】
(式中、上記R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数が1以上、30以下のアルキル基、炭素数が2以上、30以下のアルケニル基、炭素数が2以上、18以下のアルコキシアルキレン基、炭素数が3以上、18以下のアルコキシカルボニルアルケニレン基、炭素数が7以上、18以下のアラルキル基又は炭素数が6以上、18以下のアリール基を表す。R及びRは、結合して環構造を形成していてもよい。)で表されるものである。エステル基含有化合物全体の炭素数としては2以上、40以下であることが好ましく、3以上、30以下であることがより好ましく、4以上、25以下であることが更に好ましい。
【0034】
上記エステル基含有化合物におけるR及びRは、上述したように、同一若しくは異なってアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキレン基、アルコキシカルボニルアルケニレン基又はアラルキル基を表すものであることが好ましい。
上記R及びRにおけるアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。その炭素数は、Rとしては、1以上、30以下であればよく、1以上、25以下がより好ましく、1以上、20以下が更に好ましい。上記Rの基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基、ノニル基、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基が好ましく、メチル基、エチル基、ブチル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基がより好ましい。Rとしては、1以上、20以下が好ましく、1以上、15以下がより好ましく、1以上、10以下が更に好ましい。上記Rの基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基が好ましく、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基がより好ましい。
上記R及びRにおけるアルケニル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。その炭素数は、Rとしては、2以上、30以下であればよく、2以上、20以下がより好ましい。上記Rの基としては、例えばビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ノネニル基、ウンデセニル基、トリデセニル基、ペンタデセニル基、ヘプタデセニル基が好ましく、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンタデセニル基、ヘプタデセニル基がより好ましい。Rとしては、2以上、20以下が好ましく、2以上、15以下がより好ましく、2以上、10以下が更に好ましい。上記Rの基としては、例えばビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基が好ましく、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基がより好ましい。
上記R及びRにおけるアルコキシアルキレン基は、−ROR′(式中、Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基である。OR′は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基である。)の化学式で表されるものである。上記R及びRにおけるアルコキシアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。上記アルコキシアルキレン基の炭素数は、2以上、18以下であればよい。上記アルキレン基(R)の炭素数は、1以上、8以下であることが好ましい。より好ましくは、1以上、2以下である。上記アルコキシ基(OR′)の炭素数は、1以上、8以下であることが好ましい。より好ましくは、1以上、2以下である。上記基としては、例えばエトキシエチレン基等が好ましい。
上記R及びRにおけるアルコキシカルボニルアルケニレン基は、−RCO−OR′(式中、Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルケニレン基である。OR′は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基である。)の化学式で表されるものである。上記R及びRにおけるアルコキシカルボニルアルケニレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。上記アルコキシカルボニルアルケニレン基の炭素数は、3以上、18以下であればよい。上記アルケニレン基(R)の炭素数は、2以上、8以下であることが好ましい。より好ましくは、2以上、4以下であり、特に好ましくは2である。すなわち、Rはビニレンであることが特に好ましい。上記アルコキシ基(OR′)の炭素数は、1以上、8以下であることが好ましく、より好ましくは、1以上、4以下である。上記OR′の基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
上記R及びRにおけるアラルキル基は、下記式;
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Xは、同一若しくは異なって、水素、アルキル基又はハロゲン原子である。)で表されるものである。上記R及びRにおけるアラルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。上記アラルキル基の炭素数は、7以上、18以下であればよい。上記アラルキル基におけるアルキレン基(R)の炭素数は、1以上、8以下であることが好ましい。より好ましくは1以上、2以下であり、特に好ましくは1である。すなわち、Rはメチレン基であることが特に好ましい。上記Xは、同一若しくは異なって、水素、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数が1以上、12以下のアルキル基であることが好ましく、水素、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1以上、4以下のアルキル基であることがより好ましい。上記Xの基としては、例えば、水素、メチル基、エチル基が好ましく、水素が特に好ましい。
上記R及びRにおけるアリール基は、炭素数が6以上、18以下であればよい。該アリール基の好ましい形態は、上記R及びRにおけるアラルキル基からアルキレン基(R)を除いたもの、言い換えれば、該アラルキル基におけるアリール基と同様である。
上記R及びRは、結合してラクトン環構造を形成していてもよい。R及びRが結合している場合は、ラクトン環が4員環以上、8員環以下の環を形成していることが好ましく、4員環以上、6員環以下の環を形成していることがより好ましい。具体的には、プロピオラクトン環、ブチロラクトン環、カプロラクトン環であることが好ましい。
【0037】
上記エステル基含有化合物は、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸t−ブチル、アセトキエトキシエタン、プロピオン酸エチル、ギ酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ−ブチロラクトン類、α−ビニル−γ−ブチロラクトン類、マレイン酸ジメチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、フェニル酢酸メチル、酢酸ベンジルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものであることがより好ましい。
【0038】
上記エーテル基含有化合物は、下記一般式(d);
【0039】
【化8】

【0040】
(式中、上記R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1以上、12以下のアルキル基又は炭素数が2以上、18以下のアルコキシアルキレン基を表す。R及びRは、結合して環構造を形成していてもよい。)で表されるものである。エーテル基含有化合物全体の炭素数としては、2以上、20以下であることが好ましく、3以上、15以下であることがより好ましく、4以上、10以下であることが更に好ましい。
【0041】
更に、上記エーテル基含有化合物におけるR及びRは、上述したように、同一若しくは異なってアルキル基又はアルコキシアルキレン基を表すものであることが好ましい。
上記R及びRにおけるアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。その炭素数は、1以上、12以下が好ましく、1以上、8以下がより好ましく、1以上、6以下が更に好ましい。上記基としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
上記R及びRにおけるアルコキシアルキレン基の化学式、好ましい炭素原子数は、R及びRにおけるアルコキシアルキレン基において上述したのと同様である。上記アルコキシアルキレン基としては、例えばメトキシエチレン基、エトキシエチレン基が特に好適である。
上記R及びRは、結合してエーテル環構造を形成していてもよい。R及びRが結合している場合は、エーテル環が5員環以上、20員環以下の環を形成していることが好ましく、5員環以上、6員環以下の環を形成していることがより好ましい。具体的には、テトラヒドロフラン環、ジオキサン環、トリオキサン環であることが好ましく、ジオキサン環がより好ましい。
【0042】
上記エーテル基含有化合物の好ましい形態としては、例えば、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが挙げられる。中でも、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンが特に好ましい。
【0043】
上記カーボネート基含有化合物は、下記一般式(e);
【0044】
【化9】

【0045】
(式中、上記R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1以上、4以下のアルキル基を表す。R及びRは、結合して環構造を形成していてもよい。)で表されるものである。カーボネート基含有化合物全体の炭素数としては3以上、10以下であることが好ましく、4以上、8以下であることがより好ましく、4以上、7以下であることが更に好ましい。
【0046】
上記カーボネート基含有化合物におけるR及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基であることが好ましい。
上記R及びRにおけるアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。好ましくは、直鎖状若しくは分岐鎖状である。また、その炭素数は、1以上、4以下が好ましく、1以上、3以下がより好ましい。上記基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましく、プロピル基がより好ましい。
上記R及びRは、結合してカーボネート環構造を形成していてもよい。R及びRが結合している場合は、カーボネート環が5員環以上、8員環以下の環を形成していることが好ましく、5員環を形成していることがより好ましい。具体的には、エチレンカーボネート環であることが好ましい。
上記形態により、本発明の製造方法において反応速度や収率を更に優れたものとすることができ、本発明の効果を更に充分に発揮することができる。これは、有機溶媒を当該形態とすることにより、有機溶媒の電子が反応における触媒活性種中間体と適度に相互作用することができるためであると考えられる。
【0047】
上記溶媒は、1種類を用いてもよく、また、2種類以上を適宜混合して用いてもよく、その種類及び使用量は、基質や触媒に応じて適宜設定することができる。
上記溶媒の好ましい使用量は、基質や溶媒、触媒をあわせた反応時に必要となる全質量の5質量%以上、99質量%以下が好ましく、10質量%以上、98質量%以下がより好ましく、20質量%以上、95質量%以下が更に好ましい。
これにより、本発明の効果をより充分に発揮することが可能である。
【0048】
本発明の製造方法は、パラジウム触媒の存在下で反応させるものである。
本発明の製造方法において用いられるパラジウム触媒は、例えばα,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とからの環状不飽和化合物の製造に一般に用いられるものを用いることができる。
上記触媒とは、反応の活性化エネルギーを低くする作用を持つ物質で、基質と短寿命の中間体を形成することにより新しい反応経路を可能にし、反応速度を増大させる物質である。助触媒とは、それ自体では直接に基質と中間体を形成して生成物を生成することは無いが、中間体を形成して反応物を得ることが出来る(主)触媒(本明細書中ではパラジウム触媒)と同時に使用することで、単独で反応することが出来る(主)触媒(本明細書中ではパラジウム触媒)の効果を著しく促進することが出来る触媒のことを言う。本明細書中では、単に触媒と記載した場合には、主触媒(本明細書中ではパラジウム触媒)を指し、助触媒は含まれない。また、触媒は基質よりも相対的に少量である方が好ましいが、基質と当量若しくはそれ以上加えて反応させ、反応後に回収した後、2回目以降の反応にも使用することができる場合にも、ここでは触媒と呼ぶ。助触媒についても同様であり、助触媒は基質よりも相対的に少量である方が好ましいが、基質と当量若しくはそれ以上加えて反応させ、反応後に回収した後、2回目以降の反応にも使用することができる場合にも、ここでは助触媒と呼ぶ。このとき、1回目の反応終了後に触媒活性を戻すために処理を施しても良いし、施さなくても良い。
上記パラジウム触媒により、本発明の製造方法の反応速度及び環状不飽和化合物の収率をより高いものとすることができ、触媒効率及び選択率をより高いものとすることができる。
【0049】
上記パラジウム触媒は、パラジウムを含む化合物であって触媒作用を有するものであればよいが、例えば2価パラジウム化合物が好ましく、中でも、酢酸パラジウムやトリフルオロ酢酸パラジウム等に代表されるパラジウムカルボキシラート、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、水酸化パラジウム、炭酸パラジウム、テトラキス(アセトニトリル)パラジウムテトラフルオロボレート等に代表されるカチオン性パラジウム、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム等に代表される酸素配位性有機基を有するパラジウム、ビス(アセトニトリル)塩化パラジウム、ビス(ベンゾニトリル)塩化パラジウム、ジクロロ(オクタジエン)パラジウム等に代表される不飽和結合含有有機基を有するパラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、窒素原子含有有機化合物が配位したパラジウム、リン原子含有有機化合物が配位したパラジウム、カルベン含有有機化合物が配位したパラジウム、ニトロ基及び/又はニトロソ基が配位したパラジウム、酸化パラジウム等に代表される2価のパラジウムが好ましい。その他、[Pd(CO)(OCOCH]・2CHCOOHに代表される1価のパラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウム黒等に代表される0価のパラジウムでもよく、3価若しくは4価のパラジウムでもよい。0価のパラジウムを使用した場合には、反応系中で酸化状態のパラジウムを形成することになる。上記パラジウム化合物の中でも、酢酸パラジウムやトリフルオロ酢酸パラジウム等に代表されるカルボキシラート系錯体、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、テトラキス(アセトニトリル)パラジウムテトラフルオロボレート等に代表されるカチオン性パラジウム(カチオン性錯体)、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム等に代表される酸素配位性有機基を有するパラジウム(アセチルアセトナート系錯体ともいう)、ジクロロ(オクタジエン)パラジウム等に代表される不飽和結合含有有機基を有するパラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、[Pd(CO)(OCOCH]・2CHCOOHが特に好ましい。中でも、カルボキシラート系錯体、アセチルアセトナート系錯体、及びカチオン性錯体が更に好ましい。言い換えれば、カルボキシラート系錯体、アセチルアセトナート系錯体及びカチオン性錯体からなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましい。錯体の配位子を選択することにより、酸化還元電位やパラジウムの電子状態及び電子軌道エネルギー準位を任意に調整することができ、反応に適した触媒を設計することができる。パラジウムが配位子を有する場合には、該配位子は単座配位子でもよいし、二座以上の多座配位子でもよい。光学活性な配位子を有するパラジウムを触媒に用いた場合には、β位及び/又はγ位に光学活性点を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン類を合成することが可能である。上記触媒は、1種又は2種以上を使用することができ、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に逐次的に添加してもよい。
【0050】
本発明の製造方法における上記パラジウム触媒は、均一系触媒、不均一系触媒に拘わらず、単核化合物でもよいし、2核以上の化合物であってもよく、予め合成することにより得られた単核化合物や2核以上の化合物を触媒として用いるものであってもよいが、反応開始時にはパラジウム触媒が単核化合物や2核以上の化合物を含まないで、反応中に単核化合物や2核以上の化合物が生成して、それらが触媒として作用するものであってもよい。
上記触媒は、1種又は2種以上を使用することができ、助触媒を含めて、反応前に一括で添加してもよいし、反応中に逐次的に添加してもよい。
本発明の環状不飽和化合物の製造方法において、反応工程内における触媒中にしめる金属元素の使用量が、α,β−不飽和カルボン酸に対して、50mol%以下であることが好ましい。より好ましくは、20mol%以下であり、更に好ましくは、10mol%以下である。特に好ましくは、5mol%以下である。また、1×10−8mol%以上であることが好ましい。より好ましくは、5×10−6mol%以上であり、更に好ましくは、5×10−4mol%以上であり、特に好ましくは、1×10−4mol%以上である。
上記触媒中にしめる金属元素の使用量が、100mol%を超えると、触媒1分子当たりにおける原料から目的物を得ることができる触媒サイクルの回転数(TON)を充分に向上できないこと等から目的物の収率が向上せず、反応不活性な触媒凝集体が析出することがあることから経済的に不利となる場合がある。1×10−8mol%未満であると、触媒の量が少ないことから、反応が充分に進行しなくなるおそれがある。
上記触媒の濃度、すなわち反応させる液相中における上記触媒中にしめる金属元素の濃度は、好ましくは、1×10−8M以上、1M以下であり、より好ましくは、1×10−7M以上、5×10−1M以下であり、更に好ましくは、1×10−6M以上、2×10−1M以下である。特に好ましくは、5×10−6M以上、1×10−1M以下である。これにより、目的物の収率を更に向上させることが可能である。
なお、上記触媒中にしめる金属元素の使用量、濃度は、単独で触媒反応を示す主触媒、すなわちパラジウム触媒の使用量、濃度であり、触媒反応を補助的に強化する助触媒(例えば、銅種)を含んだ使用量、濃度ではない。
【0051】
本発明の製造方法により、より少ない触媒量で環状不飽和化合物を効率よく製造することができる理由としては、(1)配位子の配位により、触媒の酸化還元電位や電子状態及び電子軌道エネルギー準位が適切となり、再酸化されやすい形態とすることができる(2)基質や再酸化剤が金属に配位しやすくなり、主反応と再酸化が効率的に進行する(3)不飽和有機化合物が触媒に配位しやすくなり、α,β−不飽和カルボン酸との反応が円滑に進行する(4)適切な配位座が空き、触媒の電子密度も適切となるため、挿入反応やβヒドリド脱離反応が円滑に進行する(5)還元状態となった触媒の凝集を抑制する(6)異性化反応等の副反応が抑制される(7)基質と触媒と助触媒との間で配位子交換が起こり得る等が考えられる。
上記触媒は、反応系中で単独に存在してもよいし、助触媒や再酸化剤と2核以上の化合物や合金を形成してもよい。また、1種又は2種以上を使用することができ、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に逐次的に添加してもよい。
【0052】
つまり、一つの実施形態を例示して説明すると以下のようになる。
図1は、本発明の実施形態の一つを示すものであり、本発明の製造方法における一つの反応工程の概略を示した図である。ここでは、触媒反応により触媒活性種(パラジウム種)が酸化数の高い状態から酸化数の低い状態に還元されることを示している。反応を進行させるためには、触媒活性種を再酸化する必要がある。
図1において、Pd(酸化状態)は酸化状態のパラジウム(例えば、1価以上4価以下のパラジウム種や、プラスに電荷を帯びたパラジウム種等)であり、Pd(還元状態)は還元状態のパラジウム(例えば、0価のパラジウム)である。例えば、実施例1において、α,β−不飽和カルボン酸はアクリル酸であり、不飽和有機化合物は1−ブテンである。不飽和有機化合物がパラジウムに配位した後、α,β−不飽和カルボン酸(イオン)が不飽和有機化合物の不飽和結合を求核的に攻撃(若しくはパラジウム−アクリレート種に1−ブテンが挿入)して結合し、続いてα,β−不飽和カルボン酸の不飽和結合が、生成したパラジウム−炭素結合に挿入反応を起こし、β−ヒドリド脱離を経て目的の環状不飽和化合物を与えることになる。この時反応に関与するパラジウムは、1原子以上である。その他、基本的な経路としては相違ないが、パラジウムが酸化状態(例えば2価)を保持したまま反応が進行する場合や、還元状態のパラジウム種が活性種として働き、反応が進行する場合もある。上記溶媒と上記触媒の使用により、特に触媒を再酸化する反応が極めて効率よく進行するものと考えられる。
【0053】
図2は、図1に示した本発明の製造方法において考えられ得る一つの反応工程の概略における反応中間体を例示した図である。すなわち、触媒がカルボキシラート系錯体である場合に考えられ得る反応中間体の一つである。R′は、例えば有機基を表す。
図3において、solv.は溶媒分子を意味する。実線の矢印と点線の矢印は、本発明の製造方法におけるα,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物との反応工程において、配位性溶媒を使用しなかった場合と比較して、実線の矢印が示す環状不飽和化合物を生成する反応が相対的に進行しやすく、点線の矢印が示す非環状不飽和化合物を生成する反応が相対的に進行しにくいことを意味する。すなわち、本発明の製造方法において、溶媒が触媒活性種と相互作用をすることにより、非環状不飽和化合物の生成が抑制され、環状不飽和化合物が優先的に生成することになるが、適度な配位性を有しない溶媒を用いた場合は、そのようにならないことを意味する。
【0054】
本発明の製造方法は、再酸化剤を用いて触媒を再酸化する工程を含むものであることが好ましい。上述したように触媒としてパラジウム触媒を用いる場合は、再酸化剤を用いてパラジウム触媒を再酸化する工程を含むことが本発明の好ましい形態である。
上記再酸化とは、反応系中、若しくは、反応後において、触媒の還元された成分を、還元される前、若しくは、それに近い酸化状態に酸化することを意味する。つまり、触媒活性種であるパラジウム触媒が、反応工程において還元されて酸化数が低くなったものを、再び高い酸化数に酸化することを意味する。例えば、1価以上、4価以下のパラジウム種、又は、ややプラス電荷を帯びたパラジウム種が、反応工程において還元されてそれよりも低い価数になったものを、再び元の状態や価数、若しくは、それに近い価数や状態に酸化することを意味する。
上記再酸化剤とは、触媒の再酸化を行う酸化剤を意味するが、反応機構上、触媒が低酸化数や低酸化状態に落ちることなく、高酸化数や高酸化状態を保持して反応が進行する経路も考えられ、上記高酸化数や高酸化状態を保持する役目を担う剤も、ここでは再酸化剤という。また、上記「触媒の再酸化を行う酸化剤」とは、触媒を酸化したり触媒の高酸化数や高酸化状態を保持する酸化剤に加えて、助触媒を用いる場合には、酸化剤が助触媒を酸化したり助触媒の高酸化数や高酸化状態を保持し、当該助触媒が触媒を酸化したり触媒の高酸化数や高酸化状態を保持するような酸化剤も含むものである。
【0055】
上記再酸化剤としては、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではなく、有機系再酸化剤及び/又は無機系再酸化剤のいずれも使用することができ、1種又は2種以上使用することができる。有機系再酸化剤とは、金属元素や半金属元素を含まず、主に炭素からなる酸化剤を指し、無機系再酸化剤とは、炭素以外の元素からなる酸化剤を指す。有機配位子を含有する金属化合物や半金属化合物は、ここでは無機系再酸化剤に分類する。中でも、キノン類、過酸化物、酸素、酸化物、亜硝酸エステル類、鉱酸、一酸化窒素、一酸化二窒素等が好ましい。より好ましくは、ベンゾキノン、アントラキノン、2−(シクロヘキシルスルフィニル)−ベンゾキノン、2−(フェニルスルフィニル)−ベンゾキノン、過酸化水素、過酸化水素水、過酢酸、酸素存在下で過酸化物を発生し得るイソブチルアルデヒド等のアルデヒド類、クメンハイドロパーオキシド、エチルベンゼンハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド、ヨードシルベンゼン、過ヨウ素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、オキソン、分子状酸素(O)、原子状酸素、オゾン、酸化ルテニウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化セレン、酸化テルル、ポリオキソメタレート、酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトナート等のバナジウム含有化合物、二酸化マンガン、酢酸マンガン等のマンガン含有化合物、亜硝酸メチル、亜硝酸エチル、亜硝酸ブチル、亜硝酸t−ブチル、塩酸、硝酸、硫酸、一酸化窒素等が好ましい。キノン類は、系中で発生させてもよく、ヒドロキノン類を前駆体として使用することも可能である。遷移金属含有化合物を使用する場合は、反応系中で単独に存在してもよいし、触媒と2核以上の化合物を形成してもよい。上記再酸化剤は、実施する反応条件に即して適宜選択することができ、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に適宜添加してもよい。
【0056】
上記分子状酸素は、圧力調整や気相部組成の管理目的、重合禁止剤としても用いることが可能である。
本明細書中、分子状酸素を酸素ともいう。
上記再酸化剤の少なくとも一つは、酸素であることが特に好ましい。すなわち、上記再酸化剤は、酸素を必須成分とすることが特に好ましい。本発明の製造方法が再酸化剤として少なくとも酸素を用いて触媒を再酸化する工程を含む環状不飽和化合物の製造方法は、本発明の好ましい実施形態の一つである。すなわち、本発明の環状不飽和化合物の製造方法が分子状酸素を必須とする再酸化剤を用いて触媒を再酸化する工程を含む形態は、本発明の好ましい実施形態の一つである。中でも、再酸化剤が実質的に酸素だけからなる形態が本発明の特に好ましい実施形態である。
【0057】
本発明の環状不飽和化合物の製造方法は、再酸化剤を用いて触媒を再酸化する工程を含むものとすることにより、触媒が好適に再酸化されることで触媒の酸化・還元のサイクルが効率的に行われたり、触媒が高酸化状態で保持されたりすることになり、非環状不飽和化合物の生成を充分に抑制しながら目的物である環状不飽和化合物の収率を高めることができ、工業的製造に適用する際に有用なものとなる。例えば、上記再酸化工程の好ましい形態としては、再酸化剤を用いてパラジウム触媒を再酸化する形態が挙げられる。
上記再酸化は、反応系中で行われるものであってもよいし、反応終了後に再酸化処理を施すものであってもよい。
【0058】
上記有機系再酸化剤を用いて触媒を再酸化する場合であっても、無機系再酸化剤を用いて触媒を再酸化する場合であっても、回分式、半回分式、流通式(固定床・流動床)、高速ジェットを利用したループリアクター等のような拡散律速反応に適した反応形式等いずれの反応様式においても、反応工程内における再酸化剤の使用量が、α,β−不飽和カルボン酸に対して1×10mol%以下であることが好ましい。より好ましくは、5×10mol%以下であり、更に好ましくは、2.5×10mol%以下であり、更により好ましくは、1×10mol%以下である。更に好ましくは、5×10mol%以下であり、最も好ましくは、1×10mol%以下である。また、α,β−不飽和カルボン酸に対して、1×10−7mol%以上であることが好ましい。より好ましくは、1×10−4mol%以上であり、更に好ましくは、1×10−2mol%以上であり、更により好ましくは、1mol%以上である。更に好ましくは、2mol%以上であり、特に好ましくは、5mol%以上である。α,β−不飽和カルボン酸に対して、1×10mol%を超えたり、1×10−7mol%未満となると、本発明の製造方法の目的物である環状不飽和化合物の収率や選択率が低くなるおそれがある。反応の進行状況により、反応中に再酸化剤を適宜加えてもよい。
【0059】
上記有機系再酸化剤は、金属元素や半金属元素を含まず、主に炭素から構成される酸化剤であれば特に限定されず、一般に使用されるものを適宜用いることができる。
上記有機系再酸化剤を用いる場合は、有機系再酸化剤の一つが、ベンゾキノン類及び/又は過酸化物類であることが好ましい。
ベンゾキノン類とすると、それが触媒と相互作用し、環状不飽和化合物の選択率を更に高める効果も発現し得る。
【0060】
本発明の製造方法は、分子状酸素の存在下で反応を行うものであることが好ましい。分子状酸素は、酸化剤として作用するものであるため、触媒や基質が存在するいわゆる反応場に存在することが好ましい。すなわち、分子状酸素が酸化剤として作用することになるように、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とから環状不飽和化合物が得られる反応が起こる場に分子状酸素が存在するようにすることが好ましい。酸化剤としての作用は、触媒に対する再酸化剤としての作用となる。したがって、本発明においては、分子状酸素が実質的かつ主体的に触媒に対する再酸化剤として作用することになるように分子状酸素を反応場に存在させて反応を行うことになる。このように反応場に酸素を存在させることにより、環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率を良好なものとし、簡便でかつ効率のよいものとしたうえで、特に触媒効率及び選択率等の点で優れる環状不飽和化合物の製造方法とすることができる。なお、分子状酸素は、本発明の製造方法にいう助触媒には該当しない。
【0061】
上記のことから、本発明の製造方法における好ましい形態としては、分子状酸素を用いて酸化する工程を含む形態である。
上述したように、本発明における酸化とは、反応工程において還元されたパラジウム触媒を、分子状酸素を再酸化剤として用いて再酸化すること、つまり、反応系中又は反応後において、触媒の還元された成分を、還元される前又はそれに近い酸化状態に酸化することであることが好ましい。例えば、触媒活性種であるパラジウム原子が、反応工程において還元されて酸化数が低くなったものを、再び高い酸化数に酸化することを意味する。例えば、1価以上、4価以下のパラジウム種、又は、ややプラス電荷を帯びたパラジウム種が、反応工程において還元されてそれよりも低い価数になったものを、再び元の状態や価数、若しくは、それに近い価数や状態に酸化することを意味する。これにより、反応において還元され、失活したパラジウム触媒が、反応前と同等又はそれに近い状態に戻ることになる。
【0062】
触媒が好適に再酸化されることで触媒の酸化・還元のサイクルが効率的に行われたり、触媒が高酸化状態で保持されたりすることになり、非環状不飽和化合物の生成を充分に抑制しながら目的物である環状不飽和化合物の収率を高めることができ、工業的製造に適用する際に有用なものとなる。例えば、上記再酸化工程の好ましい形態としては、分子状酸素を用いてパラジウム触媒を再酸化する形態が挙げられる。
【0063】
本発明の製造方法は、反応させる液相部に接触する気相部の分子状酸素分圧が0.0001MPa以上となるようにして酸化する工程を含むものであることが好ましい。より好ましくは、0.001MPa以上であり、更に好ましくは、0.005MPa以上である。このような条件下で反応させることにより、触媒サイクルの回転数が増大し、本発明の環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率、触媒効率及び選択率等を優れたものとすることができる。上記分子状酸素分圧の上限は、反応装置の耐圧性向上のために費用がかかるなど経済的に不利になることから、10MPa以下であることが好ましい。
【0064】
本発明の製造方法は、上述したように再酸化剤として実質的に分子状酸素だけを用いる形態であることが好ましいが、本発明の効果が充分に発揮される限り、分子状酸素以外の再酸化剤の存在下で反応を行うものであってもよい。
上記分子状酸素以外の再酸化剤としては、反応に悪影響を及ぼさないものが好適であり、有機系再酸化剤及び/又は無機系再酸化剤のいずれも使用することができ、1種又は2種以上使用することができる。上記再酸化剤は、実施する反応条件に即して適宜選択することができ、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に適宜添加してもよい。
【0065】
本発明においてはまた、助触媒を用いて反応させる形態によって、環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率を良好なものとしたうえで、触媒効率及び選択率等の点で優れるものとすることができる。すなわち、本発明の製造方法は、助触媒を用いて反応させるものであることが好ましい。
上記助触媒とは、上述したようにそれ自体では直接に基質と中間体を形成することは無いが、(主)触媒と同時に使用することで、(主)触媒の効果を著しく促進することが出来る触媒のことを言い、下記に例示されるようなものであることが好ましい。これら助触媒は、反応に関与するが、反応した後は元の価数に戻るとされるものである。再酸化工程を円滑にする機能とは、触媒が再酸化する際に酸化還元機構の一部に組み込まれて自ら酸化還元し、それにより酸化還元機構において触媒がより再酸化されやすくする機能をいう。助触媒は、無機物でもよいし有機物であってもよく、実施する反応条件に即して適宜選択することができ、また、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に適宜添加してもよい。なお、このような助触媒は、反応系中で単独に存在してもよいし、主成分となる触媒や他の触媒成分と2核以上の化合物や合金等を形成してもよい。
このような触媒の再酸化工程をより円滑にすることができる助触媒としては、後述する助触媒が好適である。再酸化は、反応系中で行われるものであってもよいし、反応終了後に再酸化処理を施すものであってもよい。助触媒を含む化合物1種類以上を、系中若しくは触媒に共存させることが好ましい。この時、上記化合物は、反応系中で単独に存在してもよいし、主成分となる触媒や他の触媒成分と2核以上の化合物や合金等を形成してもよい。
上記助触媒となる化合物の好ましい形態としては、上述した再酸化剤の好ましい形態と同様である。助触媒を用いることにより、再酸化剤として実質的に分子状酸素だけを用いる形態で、環状不飽和化合物を効率よく製造することができ、コスト面、環境面等において有利となる。中でも、本発明の製造方法が有機溶媒として芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させる工程を含む形態において、上記製造方法は、助触媒の存在下で反応させる工程を含むものであることが特に好ましい。
【0066】
上記助触媒としては、例えば、バナジウム、モリブデン、鉄、ルテニウム、コバルト、マンガン、銅、銀、金、ホウ素、アルミニウム、錫、鉛、アンチモン、ビスマス、セレン、テルル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
これら助触媒は、系中に存在させてもよく、触媒に共存させてもよい。この時、上記元素含有化合物は、反応系中で単独に存在してもよいし、触媒と2核以上の化合物や合金等を形成してもよい。助触媒は実施する反応条件に即して適宜選択することができ、無機物でもよいし有機物を含んでいてもよい。より好ましくは、バナジウム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、銅、銀、金、アンチモン、ビスマス、セレン及びテルルからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物である。上記化合物の形態としては、酸化物、ポリオキソメタレート化合物、水酸化物、ハロゲン化物(フッ化物)、合金化合物、有機基含有化合物、塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられ、より好ましくは、酸化物、ポリオキソメタレート化合物、ハロゲン化物、合金化合物、有機基含有化合物、塩である。すなわち、上記化合物の形態としては、酸化物、ポリオキソメタレート化合物、ハロゲン化物、合金化合物、有機基含有化合物及び塩からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることがより好ましい。ポリオキソメタレート化合物は、構成元素の選択やカウンターカチオンの選択により、一方、有機基含有化合物は、配位子の選択により、酸化還元電位や元素の電子状態及び電子軌道エネルギー準位を任意に調整することができる。中でも、銅を含む化合物であることがより好ましい。また、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化アンチモン、酸化ビスマス、二酸化セレン、二酸化テルル、ポリオキソメタレート系化合物等の酸化物の他、カルボキシラート類、アセチルアセトナート類、窒素含有有機化合物類、リン含有有機化合物類、不飽和有機化合物類、カルベン類、ハロゲン(フッ素)等を配位子として有する配位金属化合物が好ましい。より好ましくは、カルボキシラート類、アセチルアセトナート類、窒素含有有機化合物類、不飽和有機化合物類、ハロゲンを配位子として有する配位金属化合物であり、更に好ましくは、カルボキシラート類、アセチルアセトナート類、窒素含有有機化合物類、不飽和有機化合物類、ハロゲンを配位子として有する銅化合物である。このような化合物を用いることにより、触媒の再酸化工程が円滑になり、本発明の環状不飽和化合物の製造方法をより効率のよいものとすることができる。この理由としては、(1)上記配位子の配位により、助触媒の酸化還元電位や電子状態及び電子軌道エネルギー準位が適切となり、触媒を再酸化しやすい形態となる(2)再酸化剤が金属に配位しやすくなり、主反応と再酸化が効率的に進行する(3)還元状態となった触媒の凝集を抑制する(4)異性化反応等の副反応が抑制される(5)基質と触媒と助触媒との間で配位子交換が起こり得る等が考えられる。助触媒が配位子を有する場合には、該配位子は単座配位子でもよいし、二座以上の多座配位子でもよい。光学活性な配位子を有する化合物を用いた場合には、配位子交換を通じて、β位及び/又はγ位に光学活性点を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン類を合成することが可能である。上記助触媒は、反応系中で単独に存在してもよいし、触媒と2核以上の化合物や合金を形成してもよい。上記再酸化剤は、実施する反応条件に即して適宜選択することができ、1種又は2種以上を使用することができる。反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に適宜添加してもよい。
【0067】
本発明の環状不飽和化合物の製造方法において、反応工程内における助触媒中にしめる金属元素の使用量が、α,β−不飽和カルボン酸に対して、1×10−7mol%以上、500mol%以下が好ましい。上限は200mol%以下であることがより好ましい。更に好ましくは、100mol%以下であり、特に好ましくは、50mol%以下である。また、下限は1×10−7mol%以上であることがより好ましい。更に好ましくは、5×10−5mol%以上であり、更に好ましくは、5×10−3mol%以上であり、特に好ましくは、1×10−3mol%以上である。助触媒中にしめる金属元素の使用量が、500mol%を超えると、目的物の収率が特に向上しないことから経済的に不利となる場合がある。1×10−7mol%未満であると、助触媒の量が少ないことから、反応が充分に進行しなくなるおそれがある。
なお、上記助触媒中にしめる金属元素の使用量は、触媒反応を補助的に強化する助触媒(例えば、銅種)の使用量であり、単独で触媒反応を示す主触媒、すなわちパラジウム触媒を含んだ使用量ではない。
本発明の環状不飽和化合物の製造方法の好ましい形態としては、例えば、触媒としての酢酸パラジウム又はトリフルオロ酢酸パラジウムに加えて、助触媒として酢酸銅又はトリフルオロ酢酸銅を用いる形態が挙げられる。
【0068】
上記助触媒(例えば、銅種)が再酸化工程を円滑にする機能を有する場合は、触媒活性種が再酸化されやすくなる。助触媒が触媒と2核以上の錯体(例えば、パラジウム−銅錯体)を形成して酸化数の高い状態が維持される場合等には、触媒活性種が失活しないことになる。いずれの場合も、触媒が失活した凝集粒子になることが充分に抑制され、酸化・還元のサイクルや、高酸化数触媒活性種の維持が効率的に起こることになる。同時に、Wacker型反応では再酸化を効率的に行うために、触媒や系中に塩酸を導入することが知られているが、上記酸化方法はこのような化合物を特に使用することなく、上記再酸化が進行するため、腐食、生成物の異性化、塩素化合物含有副生物、環境汚染等の問題も回避できることになる。
本発明の製造方法は、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とを有機溶媒中で反応させる工程を含む環状不飽和化合物の製造方法であって、上記製造方法は、有機溶媒として芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させるものである限り、その他の工程を含んでもよい。なお、α,β−不飽和カルボン酸、不飽和有機化合物、パラジウム触媒、助触媒、再酸化剤は、それぞれ1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0069】
本発明の製造方法は、α,β−不飽和カルボン酸の不飽和結合部位が金属−炭素結合へ挿入する工程を含むものであることが好ましい。
不飽和有機化合物がパラジウム等の触媒に配位した後、α,β−不飽和カルボン酸(イオン)が不飽和有機化合物の不飽和結合を求核的に攻撃して結合し、続いてα,β−不飽和カルボン酸の不飽和結合が、生成した金属(例えば、パラジウム)−炭素結合に挿入反応を起こし、β−ヒドリド脱離を経て目的の環状不飽和化合物を与えることになる。
このような製造方法により、環化反応を効率的に進行させることができ、環状不飽和化合物の収率を更に高めることができる。
【0070】
本発明の環状不飽和化合物の製造方法において、上述した反応工程における反応条件としては、例えば、反応温度は、0℃以上が好ましく、また、300℃以下が好ましい。より好ましくは、20℃以上、200℃以下である。更に好ましくは、50℃以上、170℃以下である。反応時間は、1時間以上が好ましく、また、96時間以下が好ましい。より好ましくは、2時間以上、90時間以下である。更に好ましくは、4時間以上、60時間以下である。
また、反応初期の反応釜内の圧力としては、常圧以上、ゲージ圧25MPa以下が好ましい。上限は、20MPaがより好ましく、18MPaが更に好ましい。
圧力調整や気相部組成の管理が必要な場合には、それに使用する気体としては、反応に悪影響を及ぼさないものであればよく、例えば窒素、酸素、空気、酸素/窒素標準ガス、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等が好ましい。上記気体は、1種を用いてもよく、また、2種以上を適宜混合して用いてもよい。
【0071】
本発明の環状不飽和化合物の製造方法におけるα,β−不飽和カルボン酸及び不飽和有機化合物は、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とを反応させることにより環状不飽和化合物を得ることができるものであればよい。
本発明において用いられるα,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とは、いずれも不飽和結合を有する化合物であるが、環状不飽和化合物を生成するためには、α,β−不飽和カルボン酸のカルボキシル基と不飽和有機化合物の不飽和結合とが例えば下記一般式(1)で表されるように反応して環状構造を形成することになる。したがって、環状不飽和化合物を生成させるためには、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とは異なった化合物であって、α,β−不飽和カルボン酸は不飽和結合とともにカルボキシル基を有するが、不飽和有機化合物の好ましい形態は、不飽和結合を有するがカルボキシル基を有しない形態である。
そのような環状不飽和化合物の製造方法における反応式は、例えば下記一般式(1)のように表される。
【0072】
【化10】

【0073】
上記一般式(1)で表されるものについて以下に説明する。
式中、上記R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1以上、30以下のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族基含有基であることが好ましい。これらは、エステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、ハロゲン基、イソニトリル基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン酸基、カルボニル基(例えば、ケトンやアルデヒド)、アミノ基、アミンオキシド基、ニトロン基、アミド基、アジド基、アセタール基、アゾ基、アゾキシ基、アジン基、イミノ基、イミド基、エナミン基、エナミド基、オルトエステル基、ジアゾ基、ジアゾニウム基、ケタール基、オニウム塩基、複素環式化合物、ヘテロ元素含有基(P、S、Si、B等)等の原子団を有していてもよい。R及びRとしてより好ましくは、水素原子、炭素数1以上、20以下のアルキル基、炭素数4以上、20以下のシクロアルキル基又は炭素数6以上、20以下の芳香族基含有基である。更に好ましくは、水素原子、炭素数1以上、12以下のアルキル基、炭素数4以上、12以下のシクロアルキル基、フェニル基、メチルフェニル基、ベンジル基又はナフチル基である。特に好ましくは、水素原子、炭素数1以上、8以下のアルキル基、フェニル基又はメチルフェニル基である。最も好ましくは水素原子である。すなわち、α,β−不飽和カルボン酸がアクリル酸であることが特に好ましい。
上記R、Rは、結合し、環構造を形成してもよい。
【0074】
上記R、R、R及びRとしては、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、炭素数1以上、60以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基若しくは脂環式不飽和アルキル基、又は、炭素数0以上、60以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、ハロゲン基、イソニトリル基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン酸基、カルボニル基(例えば、ケトンやアルデヒド)、アミノ基、アミンオキシド基、ニトロン基、アミド基、アジド基、アセタール基、アゾ基、アゾキシ基、アジン基、イミノ基、イミド基、エナミン基、エナミド基、オルトエステル基、ジアゾ基、ジアゾニウム基、ケタール基、オニウム塩基、複素環式化合物若しくはヘテロ元素含有基(P、S、Si、B等)等を有する原子団が好ましい。より好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上、30以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基若しくは脂環式不飽和アルキル基、又は、炭素数0以上、30以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基、アミノ基、アミド基若しくはオニウム塩基を有する原子団を表す。更に好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上、18以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基若しくは脂環式飽和アルキル基、又は、炭素数0以上、18以下のエステル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基若しくはアミノ基を有する原子団を表す。特に好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上、18以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基若しくは脂環式飽和アルキル基、又は、炭素数0以上、18以下のエステル基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基若しくはアミノ基を有する原子団を表す。
上記R、R、R及びRの好ましい形態としてはまた、水素原子、炭素数1以上、20以下のアルキル基、炭素数4以上、20以下のシクロアルキル基又は炭素数6以上、20以下の芳香族基含有基である。より好ましくは、水素原子、炭素数1以上、12以下のアルキル基、炭素数4以上、12以下のシクロアルキル基、フェニル基、メチルフェニル基、ベンジル基又はナフチル基である。更に好ましくは、水素原子、炭素数1以上、8以下のアルキル基、フェニル基、メチルフェニル基である。特に好ましくは、水素原子又は炭素数1以上、8以下のアルキル基である。
なお、上記R、R、R、Rは、結合し、環構造を形成してもよい。
【0075】
本発明の製造方法に用いられるα,β−不飽和カルボン酸は、本発明の製造方法において用いられる不飽和有機化合物と反応して環状不飽和化合物を製造することができるものであれば特に制限されるものではないが、下記一般式(2)で表されるものが好ましい。
【0076】
【化11】

【0077】
上記一般式(2)中、R及びRは、上記一般式(1)におけるR及びRと同様である。上記α,β−不飽和カルボン酸の中でも、アクリル酸が特に好ましい。
【0078】
本発明の製造方法において用いられる不飽和有機化合物、すなわち、二重結合含有化合物は、本発明の製造方法において用いられるα,β−不飽和カルボン酸と反応して環状不飽和化合物を製造することができるものであれば特に制限されるものではないが、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
【0079】
【化12】

【0080】
上記一般式(3)中、R、R、R及びRは、上記一般式(1)が有するR、R、R及びRと同様である。
上記不飽和有機化合物は、炭素数が2以上、20以下の二重結合含有化合物であることが好ましい。
また、上記不飽和有機化合物は、上述のようにα,β−不飽和カルボン酸以外の化合物であることが好ましい。これにより、環状不飽和化合物を形成するのに好適な形態となる。
上記不飽和有機化合物としては、例えば、エチレン、フッ素含有エチレン、プロピレン、フッ素含有プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、1−ペンテン、2−ペンテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、シクロヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1,7−オクタジエン、1−デセン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、スチレン、メチルスチレン、アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。
【0081】
上記不飽和有機化合物は、炭素数が12以下であることが特に好ましい。この場合、環状不飽和化合物の反応速度や収率、触媒効率及び選択率等を優れたものとし、非環状不飽和化合物に対する環状不飽和化合物の選択性を大幅に向上させることができ、生産性と経済性が格段に向上することになる。特に炭素数12以下の不飽和有機化合物を原料として環状不飽和化合物を製造する際、環状不飽和化合物への反応が進みにくい場合があるが、本発明の製造方法では充分にこの反応が進むことになる。より好ましくは、不飽和有機化合物の炭素数は10以下であり、更に好ましくは、炭素数は8以下である。中でも、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、ブタジエン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、1−オクテン、1,7−オクタジエン、1−デセン、ノルボルネン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、スチレン、メチルスチレン、(メタ)アクリル酸エステル類が特に好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、ブタジエン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、1−オクテン、1−デセン、ノルボルネン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、スチレン及びメチルスチレンからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、本発明の有利な効果を顕著に発揮することになる。そして、目的物の選択率を高めるためには、プロピレン、1−ブテン、ブタジエン、1−ヘキセン、1−オクテン、ノルボルネン、酢酸ビニル、ブチルビニルエーテル、スチレンが更に好ましく、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、ノルボルネン、酢酸ビニルが最も好ましい。例えばエチレンでは選択率が高くなりにくい系においても、これらの化合物を用いた場合は目的とする環状不飽和化合物の選択率を高めることができる。
【0082】
反応工程における上記α,β−不飽和カルボン酸は、不飽和有機化合物に対して、0.05mol%以上、10000mol%以下であることが好ましい。0.05mol%未満であっても、10000mol%を超えても、充分な収率や選択率を得ることができなくなるおそれがある。上記下限は、0.1mol%がより好ましく、0.5mol%が更に好ましい。特に好ましくは、1mol%である。上記上限は、5000mol%がより好ましく、2000mol%が更に好ましい。特に好ましくは、1500mol%である。これにより、目的物の収率を更に向上させることが可能である。上記α,β−不飽和カルボン酸や不飽和有機化合物は、1種又は2種以上を使用することができ、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に逐次的に添加してもよい。
【0083】
本発明の製造方法において、原料であるα,β−不飽和カルボン酸に対する環状不飽和化合物の収率の値は、20%以上が好ましく、30%以上が更に好ましく、40%以上が更に好ましく、50%以上が特に好ましい。このような値とすることにより、本発明の環状不飽和化合物の製造方法に好適となる。
本発明の製造方法において、環状不飽和化合物(A)の収率と非環状不飽和化合物(B)の収率の割合(A/B)、つまり選択率の値は、2以上が好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が特に好ましい。このような値とすることにより、本発明の環状不飽和化合物の製造方法に好適となる。
なお、上記収率は、例えばガスクロマトグラフィーを用いることにより測定することができる。ガスクロマトグラフィーを用いる分析は、例えば下記装置及びカラムを用いて行うことができる。
装置名:島津社製 GC−2014(商品名)、又は、アジレント・テクノロジー株式会社製 6890N(商品名)
カラム:ジーエルサイエンス社製 TC−WAX(商品名) 内径0.25mm 長さ30m 膜厚0.25μm、又は、ジーエルサイエンス社製 InertCap Pure WAX(商品名) 内径0.25mm 長さ30m 膜厚0.25μm
【0084】
本発明の製造方法によって製造することができる環状不飽和化合物は、特に制限されるものではないが、下記一般式(4)で表されるものが、上記製造方法によって好適に製造される環状不飽和化合物の代表例として挙げられる。
【0085】
【化13】

【0086】
上記一般式(4)で表されるものについて以下に説明する。式中、R、R、R、R、R及びRは、上記一般式(1)におけるR、R、R、R、R及びRと同様である。上記一般式(4)で表される環状不飽和化合物としては、例えば、下記式(5);
【0087】
【化14】

【0088】
で表されるアクリル酸と1−ブテンとから製造される化合物、又は、下記式(6);
【0089】
【化15】

【0090】
で表されるアクリル酸と1−オクテンとから製造される化合物が、上記製造方法によって、より好適に製造される例として挙げられる。上記式(5)、(6)は、γ位に置換基を有する化合物であるが、β位に同様の置換基を有する化合物であってもよい。
【0091】
上記環状不飽和化合物は、二重結合を持つ化合物であり、該二重結合がエキソ部位及び/又はエンド部位にあるものであることが好ましい。
エキソ部位とは環の外部の部位を示し、エンド部位とは環の内部の部位を示す。
なお、アクリル酸と1−ブテンとを反応させて本発明の製造方法を行うとき、生成するエキソ部位に二重結合を持つ環状不飽和化合物、すなわち、エキソ型環状不飽和化合物は、上記式(5)で表される化合物が挙げられ、生成するエンド部位に二重結合を持つ不飽和化合物、すなわち、エンド型環状不飽和化合物は、下記式(7)や下記式(8);
【0092】
【化16】

【0093】
で表される化合物が挙げられる。
【0094】
なお、本発明の製造方法において、二重結合がエキソ部位及び/又はエンド部位にある5員環の環状不飽和化合物の他に、6員環の環状不飽和化合物が生成する。例えばパラジウムを触媒として使用した場合に、α,β−不飽和化合物の不飽和結合部位にカルボパラデーションが進行する際に、α位が炭素/β位がパラジウムの方向でカルボパラデーション(挿入反応)が進行する場合には5員環が生成し、α位にパラジウム/β位が炭素の方向でカルボパラデーション(挿入反応)が進行する場合には6員環が生成することになる。
【0095】
本発明の製造方法においては、反応を更に促進させることを目的として、また触媒活性の向上及び安定化を目的として、添加剤を反応液に添加しても良い。添加剤としては、反応に悪影響を及ぼさないものであればよく、例えばブレンステッド酸、ルイス酸、第15族元素含有化合物、第16族元素含有化合物、第17族元素含有化合物、不飽和結合含有有機化合物、塩等が好ましい。
【0096】
本発明の製造方法において、α,β−不飽和カルボン酸、及び、目的物である環状不飽和化合物は、共に重合し易い性質を有している場合があることから、反応時の重合を抑制するために、反応系に重合防止剤(又は重合禁止剤)を添加することが好ましい。
【0097】
上記重合防止剤としては、重合防止剤としての作用を有するものであればよく、例えば、分子状酸素、分子状酸素含有気体、空気、一酸化窒素等の不対電子を持つ気体;ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、2,4−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,4−ジメチルヒドロキノン等のキノン類;フェノチアジン等のアミン化合物;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、p−メトキシフェノール等のフェノール類;p−t−ブチルカテコール等の置換カテコール類;置換レゾルシン類;テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−ヒドロキシ−テトラメチルピペリジン−N−オキシド等の安定遊離基含有化合物;ジチオカルバミン酸銅等の金属含有化合物等の1種又は2種以上を好適に用いることができる。
【0098】
反応終了後は、必要に応じて、蒸留、ろ過、抽出、遠心分離、再結晶、乾燥、カラムクロマトグラフィー等の工程を経て分離・精製することにより、目的の環状不飽和化合物を得ることができる。このような分離・精製工程としては、例えば、反応後の反応液、抽出や活性炭等の多孔質固体により触媒を分離後の反応液、分液等の所定の操作を行った抽出液等を、常圧蒸留(精留)、減圧蒸留(精留)、再結晶等を行うことにより、生成物である環状不飽和化合物を単離・精製することができ、同時に、未反応のα,β−不飽和カルボン酸、不飽和有機化合物や溶媒を分離・回収することができる。未反応のα,β−不飽和カルボン酸、不飽和有機化合物及び溶媒は、高純度で回収されるので、反応に再度使用することができる。蒸留における重合防止剤としては、上記重合防止剤を使用することができる。
【発明の効果】
【0099】
本発明の環状不飽和化合物の製造方法は、上述の構成よりなり、環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率を良好なものとし、簡便でかつ効率のよいものとしたうえで、特に触媒効率及び選択率等の点で優れる環状不飽和化合物を製造することができる有用な製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の製造方法において考えられ得る一つの反応工程の概略を示した図である。
【図2】図1に示した本発明の製造方法において考えられ得る一つの反応工程の概略における反応中間体を例示した図である。
【図3】本発明の製造方法において考えられ得る一つの反応工程の概略を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「mol%」を意味するものとする。転化率は、基質として用いたα,β−不飽和カルボン酸を100(mol%)としたときの転化率(mol%)である。
以下の実施例及び比較例におけるガスクロマトグラフィーでの分析は、下記装置及びカラムを用いて行った。
実施例1〜27、比較例1〜9については、島津社製 GC−2014(商品名)とジーエルサイエンス社製 TC−WAX(商品名) 内径0.25mm 長さ30m 膜厚0.25μmとの組み合わせで分析を行った。実施例28〜61、比較例10〜12については、アジレント・テクノロジー株式会社製 6890N(商品名)とジーエルサイエンス社製 InertCap Pure WAX(商品名) 内径0.25mm 長さ30m 膜厚0.25μmとの組み合わせで分析を行った。
【0102】
実施例1
オートクレーブにα,β−不飽和カルボン酸としてアクリル酸(1.0mmol)、パラジウム触媒としてトリフルオロ酢酸パラジウム(1.0mol%)、助触媒として酢酸銅(1.4mol%)、不飽和有機化合物として1−ブテン(5.3mmol)、溶媒としてトルエン(3.0mL)を加えた。気相部は酸素ガス0.35MPaとし、70℃で8時間攪拌した。冷却後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、エキソ型環状不飽和化合物の収率が61.4%であり、非環状不飽和化合物の収率が14.6%であった。実施例1において考えられ得る一つの反応機構の概略について、図1に示した。
実施例2−12、比較例1、2についても、表1にある組成、及び、反応条件を変えた以外は、実施例1の製造方法と同様であり、その反応機構も図1に示される反応機構と同様である。この結果を表1に示す。
【0103】
実施例13
オートクレーブにα,β−不飽和カルボン酸としてアクリル酸(1.0mmol)、パラジウム触媒としてトリフロオロ酢酸パラジウム(1.0mol%)、助触媒としてトリフルオロ酢酸銅(1.5mol%)、不飽和有機化合物として1−オクテン(4.0mmol)、溶媒としてトルエン(3.0mL)を加えた。気相部は酸素ガス0.35MPaとし、70℃で8時間攪拌した。冷却後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、エキソ型環状不飽和化合物の収率が38.6%であり、非環状不飽和化合物の収率が9.2%であった。実施例13において考えられ得る一つの反応機構の概略について、図1に示した。
実施例14−27、比較例3〜9についても、表2、表3にある組成、及び、反応条件を変えた以外は、実施例13の製造方法と同様であり、その反応機構も図1に示される反応機構と同様である。この結果を表2、表3に示す。
【0104】
実施例28−33についても、表4にある組成、及び、反応条件を変えた以外は、実施例1の製造方法と同様であり、その反応機構も図1に示される反応機構と同様である。この結果を表4に示す。
実施例34−49、比較例10−12についても、表5にある組成、及び、反応条件を変えた以外は、実施例13の製造方法と同様であり、その反応機構も図1に示される反応機構と同様である。この結果を表5に示す。
実施例50
α,β−不飽和カルボン酸としてアクリル酸(1.5mmol)、触媒としてトリフルオロ酢酸パラジウム(0.5mol%)、助触媒としてトリフルオロ酢酸銅(2mol%)、不飽和有機化合物として1−オクテン(10mmol)、溶媒としてフタル酸ジメチル(3mL)を加えた。気相部は分子状酸素ガス0.35MPa、二酸化炭素ガス0.2MPaとし、70℃で8時間攪拌した。冷却後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収量が65mmolであった。実施例50において考えられ得る一つの反応機構の概略について、図1に示した。
実施例51については、表6にある組成、及び、反応条件を変えた以外は、実施例50の製造方法と同様であり、その反応機構も図1に示される反応機構と同様である。この結果を表6に示す。
実施例52についても、表7にある組成、及び、反応条件を変えた以外は、実施例1の製造方法と同様であり、その反応機構も図1に示される反応機構と同様である。この結果を表7に示す。
実施例53−61については、気相部の酸素ガスを0.1MPaにして、表8にある組成、及び、反応条件を変えた以外は、実施例13の製造方法と同様であり、その反応機構も図1に示される反応機構と同様である。この結果を表8に示す。
【0105】
本明細書中、触媒や助触媒の量(mol%)は、α,β−不飽和カルボン酸に対する量を表す。収率は、α,β−不飽和カルボン酸基準で算出したものである。acacとはアセチルアセトナートを表す。
また、反応開始時に酸素ガスをオートクレーブ中の気相部の圧力が0.35MPaとなるように加え、加熱して一旦圧力が上がった後は、反応により酸素や基質が消費されて圧力が減るものである。
本明細書中、tmhは、2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネートを表す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
【表5】

【0111】
【表6】

【0112】
【表7】

【0113】
【表8】

【0114】
上述した実施例及び比較例から次のように言えることがわかった。すなわち、表1より、溶媒としてエステル基含有化合物である酢酸エチル(実施例4)、酢酸ブチル(実施例5)よりも芳香族化合物であるトルエン(実施例1、2)、アニソール(実施例3)を用いた際に環状不飽和化合物収率が高くなった(50.1〜51.3%から58.5〜66.5%)。また、表2より、エーテル基含有化合物である1,4−ジオキサン(実施例19)、1,2−ジメトキシエタン(実施例20)よりも芳香族化合物であるトルエン(実施例13)、ベンゼン(実施例14)、キシレン(実施例15)を用いた際に環状不飽和化合物収率が高くなった(24.2〜27.2%から37.3〜38.6%)。したがって、上記実験データから、環状不飽和化合物収率を高くするという点で芳香族化合物を選択することが優れているといえる。
また、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とを有機溶媒中で反応させる際に、上記有機溶媒として芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させることにより、目的とする環状不飽和化合物が得られることがわかった。具体的には、有機溶媒として芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させる形態とすることにより、エキソ型環状不飽和化合物の収率が0〜17.2%(比較例3〜9)から22.8〜38.6%(実施例13〜27)に増大した。環状不飽和化合物の収率を更に高めることができるという有利な効果を発揮し、それが顕著であることがわかった。更に、上記有機溶媒を、芳香族化合物を含有する形態とすることにより、環状不飽和化合物の収率を更に高めることができる。比較例3〜9における溶媒は、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物、カーボネート基含有化合物ではないので、環状不飽和化合物の選択率が低い。
【0115】
また、種々の溶媒の中でも、トルエン溶媒では環状不飽和化合物の収率が高いことが分かった(例えば、実施例28〜33)。なお、トルエンは本発明の製造方法において用いられる芳香族化合物の一つの開示であり、上記したように芳香族化合物を用いて反応させるものであれば、芳香族化合物の触媒に対する適度な配位性に基因して、芳香族化合物が本発明の効果を奏することは上記実施例から裏付けられている。更に言えば、上記したように有機溶媒として、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させるものであれば、当該有機溶媒の触媒に対する適度な配位性に基因して、有機溶媒が本発明の効果を奏することは上記実施例から裏付けられている。
更に、パラジウム触媒の配位子を変更し、その使用量を0.002mmol(溶媒の使用量3mL)とした実施例34〜49の結果を参酌すると、触媒の配位子を変更し、触媒濃度が低い場合でも、溶媒として本発明の製造方法における有機溶媒を用いることにより、エキソ型環状不飽和化合物の収率や(A/B)が高く、本発明の効果を充分に奏することができることが分かった。
そして、溶媒として芳香族かつエステル基含有化合物(実施例38〜41、45〜48、50〜52、59〜61)を使用すると、更に効果が顕著に現れることが分かった。
また、本発明の製造方法における有機溶媒を選択しないと、エキソ型環状不飽和化合物の収率が低下したり、副生成物が大量に生成したりすることが分かった(比較例1〜12)。例えば、本発明の製造方法における溶媒には該当しないケトン基含有化合物であるメチルイソブチルケトンは、環状不飽和化合物の収率及び選択率が低いものである。
更に、本発明の製造方法における有機溶媒を使用すると、転化率が高い状況下にあっても本発明の効果を充分に発揮できることが分かった(実施例53〜61)。
【0116】
上記実施例1〜61及び比較例1〜12より、以下のことが明らかである。すなわち、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とをパラジウム触媒の存在下で反応させる工程において、溶媒を選択すること、具体的には、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する形態(実施例1〜61)に特定すること、芳香族化合物を含有する形態(実施例1〜3、7、8、10〜15、23、24、26、28〜33、38〜41、45〜48、50〜54、59〜61)に特定すること等によって、環状不飽和化合物の収率が大幅に向上したり、副生成物である非環状不飽和化合物の収率を大幅に低減させたりすることができる。よって、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。少なくとも、溶媒が上述した一般式で表されるものに特定される場合においては、当該溶媒が上述した実施例で用いられる溶媒と同様の化学的特徴を有するものであるから、実施例で示されるような効果を同様の作用機構で生じさせるといえる。このような有利な効果は、本発明の反応系において溶媒を選択したことに起因するものであって、そのような選択によって上記のような効果を得ることは、工業的にみて簡便かつ廉価に大きな効果を得たものと評価できる。したがって、上記実施例においては、溶媒選択による本発明の際立って有利な効果が裏付けられたものといえる。
【0117】
なお、上述した実施例では、α,β−不飽和カルボン酸としてアクリル酸、不飽和有機化合物として1−ブテン、1−オクテンを用いているが、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とを反応させるものであれば、パラジウム触媒が分子状酸素により酸化されて触媒が再生され、これにより反応速度及び収率を高めることができる機構は同様である。したがって、上述した製造方法とすることにより、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。
なお、例えば、環状不飽和化合物の工業用生産等において、少しでも目的物の収率が向上すれば、低コストで高効率に生産を行うことが可能となる。このような効果、すなわち目的物の収率を高めて副生成物の割合を低減させ、低コストで高効率に工業的生産を行うことを可能とするという効果は、際立ったものであるということができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とをパラジウム触媒の存在下で有機溶媒中で反応させる工程を含む環状不飽和化合物の製造方法であって、
該製造方法は、有機溶媒として、芳香族化合物、エステル基含有化合物、エーテル基含有化合物及びカーボネート基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを用いて反応させることを特徴とする環状不飽和化合物の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、実質的に炭素、水素、酸素及びハロゲン以外の元素が含まれていないことを特徴とする請求項1に記載の環状不飽和化合物の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族化合物は、下記一般式(a)又は一般式(b);
【化1】

(式中、上記R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素、炭素数が1以上、12以下のアルキル基、炭素数が1以上、12以下のハロアルキル基、炭素数が1以上、12以下のアルコキシ基、炭素数が2以上、12以下のアシル基又は炭素数が2以上、18以下のアルコキシカルボニル基を表す。)で表されるものであり、
前記エステル基含有化合物は、下記一般式(c);
【化2】

(式中、上記R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数が1以上、30以下のアルキル基、炭素数が2以上、30以下のアルケニル基、炭素数が2以上、18以下のアルコキシアルキレン基、炭素数が3以上、18以下のアルコキシカルボニルアルケニレン基、炭素数が7以上、18以下のアラルキル基又は炭素数が6以上、18以下のアリール基を表す。R及びRは、結合して環構造を形成していてもよい。)で表されるものであり、
前記エーテル基含有化合物は、下記一般式(d);
【化3】

(式中、上記R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1以上、12以下のアルキル基又は炭素数2以上、18以下のアルコキシアルキレン基を表す。R及びRは、結合して環構造を形成していてもよい。)で表されるものであり、
前記カーボネート基含有化合物は、下記一般式(e);
【化4】

(式中、上記R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1以上、4以下のアルキル基を表す。R及びRは、結合して環構造を形成していてもよい。)で表されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の環状不飽和化合物の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、再酸化剤を用いてパラジウム触媒を再酸化する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状不飽和化合物の製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、助触媒を用いて反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の環状不飽和化合物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate