説明

環状構造体

【課題】線状部材の両端を接続して環状に形成しつつ、全周に渡って均一な剛性かつ十分な引張強度を得ることができるビードワイヤなどの環状構造体の提供。
【解決手段】芯線4の周囲の複数本の外周線5を撚り合わせた構造の線状部材3から芯線4を引き出して、両端に凹部3a及び凸部3bを形成する。線状部材3をゴム製筒体2の周方向に配置して、両端の凹部3a及び凸部3bを嵌合させる。接続部の肉厚や剛性が他の部位とほぼ等しくなる。線状部材3の両端をその凹部3a及び凸部3b間に侵入したゴムを介して十分な引張強度で接続し、環状のビードワイヤ1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気ばねや、タイヤ、エアローラ、配管継手などが備えるゴム製部材を補強するためのビードワイヤなどの環状構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、トラックやバスなどに装備される空気ばねや、タイヤ、エアローラ、配管継手などが備えるゴム製部材には、その端部を補強するための環状のビードが埋設されている(例えば特許文献1)。
【0003】
ゴム製部材にビードを埋設するには、ゴム製部材に加硫成形する前の未加硫ゴムを成型する際に、その成型中の未加硫ゴムに予め環状に形成したビードを被せる方法や、成型中の未加硫ゴムに細い線材を複数回巻き付けてビードを形成する方法を採用することが多い。
【0004】
ただ、これらの方法のうち、予め環状に形成したビードを用いる方法は、環状のビードを未加硫ゴムに被せる分、その配置に手間がかかり、また、細い線材を複数回巻き付ける方法は、その巻き付けに手間がかかるため、これらとは別の方法として、成型中の未加硫ゴムの周りに線状部材を配置し、その両端を接続して環状のビードを形成することが求められる。
【特許文献1】特開2003−202045(段落番号0032)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、線状部材の両端を接続する方法として、ロウ付けによる方法が考えられるが、この方法は、ゴムを加熱することになるため、ゴム製部材のビードの形成に採用することができない。
【0006】
また、線状部材の両端を接続する別の方法として、線状部材の両端をラップさせて接続する方法が考えられるが、単に線状部材の両端をラップさせたものは、そのラップ部分でゴム製部材の肉厚が厚くなるため、ラップ部分の近傍の寸法が不均一になることによる取付金具とのシール性の低下や、ラップ部分の剛性が他の部位よりも大きいことによる製品特性の低下が懸念される。
【0007】
さらに、線状部材の両端を鋭利なテーパー状にカットし、そのテーパー面を合わせるようにして両端をラップさせることにより、ラップ部分の近傍の肉厚が厚くなったり剛性が大きくなったりするのを防ぐことも考えられるが、両端のテーパー面がずれやすく、しかも、ラップ長を十分な長さに設定できない分、ビードに求められる十分な引張強度を得ることもできない。また、撚り線を用いて柔軟性を高めたビードワイヤは鋭利なテーパー状にカットするのが難しく、単線を多数並列に配置したビードワイヤは、鋭利にカットできるものの、曲げ剛性が大きい分、環状に形成しにくい。
【0008】
本発明は、線状部材の両端を接続して環状に形成しつつ、全周に渡って均一な剛性かつ十分な引張強度を得ることができるビードワイヤなどの環状構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る環状構造体は、線状部材の両端を接続することによって環状に構成してゴム製部材を補強するためのものであり、その線状部材の両端に、互いに嵌合する凹凸を形成したものである。
【0010】
上記構成によれば、線状部材の両端の凹凸を嵌合させることによって、両端の位置ずれを阻止しながら接続しつつ、接続部の肉厚や剛性を他の部位とほぼ等しくすることができ、しかも、凹凸の長さを所望の長さに設定することにより、十分な引張強度を得ることができる。
【0011】
線状部材の両端をその凹凸間に侵入したゴムを介して接続するようにすれば、両端の位置ずれを阻止可能な程度に凹凸を嵌合させればよいので、引張力に耐え得る程度まで凹凸を強く押し込んだり、別に接着剤を塗布したりする必要がなく、線状部材の両端の接続を容易にすることができる。
【0012】
線状部材を複数本の線材を束ねた構成とし、その一部の線材を長さ方向にずらすことにより、両端に凹凸を形成するようにすれば、線状部材を所望の引張強度に設定しつつ、容易に環状に曲げられる程度まで曲げ剛性を小さくし、さらに、その両端の凹凸の形成を容易にすることができる。
【0013】
ここで、線状部材の両端に凹凸を形成するには、複数本の線材を束ねて両端を切断するなどして、同じ長さの複数本の線材を束ね、その一部の線材を長さ方向に引き出してずらすのが特に好適であり、これにより、両端の凹凸を同じ形状に設定することができる。なお、線状部材の両端に凹凸を形成するための他の手法として、複数本の線材を束ねる際にその一部の線材を長さ方向にずらすようにしてもよく、各線材のそれぞれの両端に凹凸を形成してもよい。また、複数本の線材が互いに異なる長さであってもよく、両端に凹凸を形成した一本の線材を線状部材として使用してもよい。
【0014】
線状部材を、芯線と、この芯線の周囲に配して撚り合わせた複数本の外周線とから構成し、外周線から芯線を引き出して両端に凹凸を形成すれば、その複数本の外周線を撚り合わせているので、芯線を引き出して凹部を形成した状態においても、複数本の外周線が互いにばらばらになるのを阻止して凹部の形状を保つことができる。
【0015】
線状部材の芯線及び外周線の少なくとも一方を複数本の素線を撚り合わせてなる撚線とすれば、線状部材の曲げ剛性をより小さくして変形性能及び復元性能を高めると共に、ゴムとの接着性を高めることができる。
【0016】
線状部材に、ゴムとの接着性を高める表面処理を施せば、環状構造体を周囲のゴムと十分に一体化すると共に、ゴムを介して線状部材の両端をより確実に接続することができる。特に、凹凸間に侵入したゴムを介して線状部材の両端を接続することにより、その接続部においても十分な引張強度を得ることができる。ここで、表面処理としては、線状部材を構成する線材に施すブラスメッキや、亜鉛メッキ、ブロンズメッキを例示でき、さらに、接着剤処理なども採用可能である。
【0017】
本発明に係る環状構造体は、袋状のゴム製部材の開口を取り囲んで補強するもの、あるいは、筒状部材や棒状部材の中央部を取り巻いて補強するものなど、あらゆるゴム製部材の補強に使用することができるが、「筒状のゴム膜に補強コード層を設けてなるゴム製筒体に、その中心軸方向における少なくとも一方の端部に埋設され、前記補強コード層の端部を係止するビードワイヤ」として、好適に使用することができる。
【0018】
補強コード層としては、スダレコードを巻き付けて形成したものを例示でき、この補強コード層の端部をビードワイヤに係止するには、巻き付けたスダレコードの端部外側に線状部材を配置して、この線状部材の両端を接続することによってビードワイヤを形成し、このビードワイヤに係止するようスダレコードの端部を折り返せばよい。
【0019】
さらに、「前記補強コード層は、ゴム製筒体の両端部を通るよう中心軸方向に対して傾斜しつつ中心軸を複数回取り巻く補強コードを、一回の取り巻きごとに周方向に所定のピッチだけずらすことによって周方向に配列してなり、前記補強コードのうちのゴム製筒体の端部を通る部位に掛けるよう配置されて補強コード層を係止するビードワイヤ」として、特に好適に使用することができる。
【0020】
つまり、ゴム製筒体の両端部を通るよう一本又は数本の補強コードを連続して巻き付けながら周方向に少しずつ位置をずらせて補強コード層を形成する場合、この補強コード層を係止するには、補強コードのうちのゴム製筒体の端部を通る部位に掛けるようにビードワイヤを配置する必要がある。この場合、予め環状に形成したビードや、細いワイヤを複数回巻き付けて形成するビードを使用することができないが、本発明に係る環状構造体を採用すれば、補強コードを巻き付けながら、これに掛けるように線状部材を配置し、補強コードの巻き付けが終了するときに線状部材の両端を接続することにより、環状のビードワイヤを配置することができる。
【0021】
また、本発明は、ゴム製部材を補強するための環状構造体であって、線状部材の両端を接続することによって環状に構成され、前記線状部材は、芯線と、該芯線の周囲を覆うシースとからなり、両端を接続したときの芯線の継ぎ目の位置とシースの継ぎ目の位置とがずれるよう、前記シース及び芯線が互いに長さ方向にずらして設けられたことを特徴とする環状構造体を提供する。
【0022】
この構成によれば、線状部材の両端を接続して環状に構成した状態で、芯線の継ぎ目の位置とシースの継ぎ目の位置とをずらすので、芯線の継ぎ目をシースで補強すると共に、シースの継ぎ目を芯線で補強することができ、しかも、継ぎ目付近の膨らみを分散させることができる。なお、シース及び芯線を互いに長さ方向にずらして設けることにより、シース及び芯線の両端が長さ方向にずれるので、芯線の継ぎ目の位置とシースの継ぎ目の位置とがずれる。
【0023】
ここで、芯線としては、単線や撚り線などの他、管状の線材、あるいは、シート状の素材を丸めて棒状や管状に構成したものを例示できる。また、シースは、管状の線材の他、シート状の素材を管状に丸めたもの、あるいは、複数の線材を撚り合わせて全体として管状に構成したものを例示できる。なお、芯線及びシースには、柔軟なものを採用するのが好適である。
【発明の効果】
【0024】
以上のとおり、本発明によると、未加硫ゴムの周りに配置するなどした線状部材の両端を接続して環状に構成するので、ビードワイヤなどの環状構造体を容易に形成することができる。しかも、線状部材の両端に形成した凹凸を嵌合させて接続するので、その接続部の近傍の寸法や剛性を他の部位とほぼ等しくすると共に、十分な引張強度を得ることができ、ゴム製部材と取付金具とのシール性や製品特性の低下を防止することができる。
【0025】
また、一本又は数本の補強コードを連続して巻き付けることによって補強コード層を形成する場合であっても、補強コードを巻き付けながらこれに掛けるように線状部材を配置し、補強コードの巻き付けが終了するときに線状部材の両端を接続してビードワイヤとすることにより、このビードワイヤで補強コード層を係止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る環状構造体を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明に係る環状構造体としてのビードワイヤを備えたゴム製筒体の断面図であり、左半分は加硫成形前の状態を示し、右半分は加硫成形後の状態を示す。図2は線状部材の側面図であり、左端は軸方向断面図を示す。図3は線状部材の横断面図である。図4は線状部材の両端の接続を示す模式図であり、(a)は接続前の状態を示し、(b)は接続後の状態を示す。
【0027】
本発明に係る環状構造体としてのビードワイヤ1は、ゴム製筒体2の端部に埋設して、このゴム製筒体2の端部を補強するためのものであり、両端に凹部3a及び凸部3bが形成された線状部材3を曲げて、その凹部3a及び凸部3bを嵌合することにより、線状部材3の両端を接続して環状に構成するようになっている。
【0028】
図2及び図3に示すように、線状部材3は、複数本の芯線4と、この芯線4の周囲に配されて撚り合わされた複数本の外周線5とから構成され、例えば、線状部材3の両端を切断するなどして揃えた後、芯線4を外周線5から引き出して長さ方向にずらすことにより、両端に凹部3a及び凸部3bが形成されている。この線状部材3の芯線4は単線とされ、外周線5は複数本の素線5aを撚り合わせてなる撚線とされ、芯線4及び外周線5の素線5aに、ゴムとの接着性を高めるためのブラスメッキなどの表面処理が施されている。
【0029】
ここで、線状部材3の両端の接続について説明すると、まず、図4(a)に示すように、線状部材3を曲げて両端を対向させ、さらに、両端の凹部3a及び凸部3bを嵌合して周囲のゴムを加硫成形する。これにより、凹部3aと凸部3bとの隙間にゴムが侵入して芯線4及び外周線5の素線5aと加硫接着され、このゴムを介して、線状部材3の両端が十分な引張強度で接続され、図4(b)に示すように、環状のビードワイヤ1が構成される。
【0030】
なお、図5に示すように、単線からなる複数本の芯線4と撚線からなる複数本の外周線5とから構成される線状部材3に代えて、単線からなる一本の芯線6の周りに単線からなる複数本の外周線7を配置して撚り合わせた線状部材8を使用するようにしてもよい。
【0031】
次に、図1に示すゴム製筒体2について説明する。図6は補強コード層を示す斜視図であり、成型フォーマ及び内面未加硫ゴムの外側に形成した状態を示している。なお、図6は、下端部を見やすいように上下を逆に図示し、さらに、成型フォーマ及び内面未加硫ゴムは、下部(図6における上部)のみを図示している。
【0032】
ゴム製筒体2は、例えばトラックやバスに装備される空気ばねのダイヤフラムとして使用されるものであり、上端部を一対の締結金具9a、9bで挟持されると共に、下端部にピストン10の挿入部10aが圧入される。このゴム製筒体2は、中央部が両端部よりも大径で全体として略球状の筒状ゴム膜11に、内圧や伝達力に対する抵抗を高めるための補強コード層12を設けると共に、下端部にビードワイヤ1を埋設して補強コード層12を係止した構造とされる。
【0033】
筒状ゴム膜11は、補強コード層12を介在させる内面ゴム11a及び外面ゴム11bからなり、内面未加硫ゴム13a及び外面未加硫ゴム13bから構成される筒状未加硫ゴム膜13を加硫成形してなる。筒状未加硫ゴム膜13は、中央部が一定径で両端部が中央部よりも小径に設定され、加硫成形する際に略球状とされる。
【0034】
補強コード層12は、筒状ゴム膜11の中央部に内面側補強コード層12a及び外面側補強コード層12bの二層に設けられ、この内面側補強コード層12a及び外面側補強コード層12bが、ゴム製筒体1の中心軸を取り巻く一本の補強コード14から構成されている。
【0035】
補強コード14は、中心軸を取り巻きつつ中心軸方向に対して一定の傾斜角度で傾斜して筒状ゴム膜11の両端部を通り、さらに、一回の取り巻きごとに周方向に所定のピッチだけずれながら配列位置が中心軸周りに一周するまで中心軸を複数回取り巻いている。これにより、内面側補強コード層12a及び外面側補強コード層12bに、補強コード14がゴム製筒体2の中心軸方向に対して傾斜しつつ周方向に配列され、さらに、内面側補強コード層12a及び外面側補強コード層12bに配列される補強コード14が、互いに編み込まれることなく、その傾斜方向が互いに交差する方向に設定されている。
【0036】
ゴム製筒体2の下端部に埋設されたビードワイヤ1は、補強コード14のうち、ゴム製筒体2の下端部を通る掛け部14aに掛けるよう配置され、このビードワイヤ1が補強コード層12の下端部を係止すると共に、ゴム製筒体2の下端部を補強してその広がりを規制し、ゴム製筒体2とピストン10とのシール性を高める。
【0037】
なお、内面側補強コード層12a及び外面側補強コード層12bに配列される補強コード14の中心軸に対する傾斜角度は、筒状未加硫ゴム膜13に埋設された状態でβ(−β)に設定され、筒状ゴム膜11に加硫成形した後にβ1(−β1)に変化するようになっている。
【0038】
次に、ゴム製筒体2の製造方法を説明する。図7は補強コードが中心軸を取り巻く様子を示す斜視図である。なお、図7は、下端部を見やすいように上下を逆に図示している。また、図8はビードワイヤを配置する様子を示す底面図、図9は補強コードが中心軸を取り巻く様子を示す底面図である。図10は成型フォーマの周りに形成した筒状未加硫ゴム膜を示す図であり、(a)は軸方向断面図、(b)は軸直角方向断面図である。図11は筒状未加硫ゴム膜及び筒状ゴム膜の軸方向断面図である。
【0039】
まず、中心軸方向両端部の外径が中央部の外径よりも小径に設定されたコア式成型フォーマ15に内面未加硫ゴム13aを巻き付ける。
【0040】
次いで、図7に示すように、未加硫ゴムで被覆した一本の補強コード14を中心軸に対して一定の傾斜角度β(−β)で傾斜させて、内面未加硫ゴム13aの両端部に掛けつつ中心軸を取り巻き、かつ一回の取り巻きごとに周方向に所定のピッチだけずらしながら配列位置が中心軸周りに一周するまで中心軸を複数回取り巻く。これにより、補強コード14が周方向に配列されて内面未加硫ゴム13aの外側全周に内面側補強コード層12a及び外面側補強コード層12bが形成されて、図6に示す状態を得る。
【0041】
さらに、補強コード14を内面未加硫ゴム13aの下端部に掛ける際、図7及び図8に示すように、線状部材3を補強コード14で内面未加硫ゴム13aの下端部に押さえ付けるようにしながら、線状部材3を徐々に配置することにより、全周に渡って線状部材3を補強コード14に掛ける。補強コード14の取り巻きが完了するとき、線状部材3の両端の凹部3a及び凸部3bを嵌合して環状のビードワイヤ1に構成する。
【0042】
ここで、補強コード14が中心軸を取り巻く様子、及び線状部材3が補強コード14に掛かる様子をより詳しく説明する。まず、補強コード14をあらかじめ定めた傾斜角度(β)で内面未加硫ゴム4aの中央部外周面に配列し、内面未加硫ゴム13aの端部外周面に掛けて、中心軸を挟んで反対側の外周面まで導く。次いで、傾斜角度(−β)で内面未加硫ゴム13aの反対側の中央部外周面に配列し、内面未加硫ゴム13aの端部外周面に掛けて元の外周面まで導く。
【0043】
このとき、一回の掛け回しにおける始点16aと終点16bとを、コード径以上に設定された所定のコードピッチ分だけ周方向にずらす。また、端部外周面に掛ける際、補強コード14の傾斜角度をできるだけ変化させないようにする。なお、端部を中央部よりも小径に設定しているので、端部と中央部との段差が補強コード14を係止してずれを阻止する。
【0044】
これにより、補強コード14が中心軸を挟んで反対側に一列ずつ互いにほぼ平行に配列され、補強コード14の一回の取り巻き操作が完了する。このとき、中心軸を挟んで反対側に配列された補強コード14は、外周側から見て同じ大きさで傾斜方向が反対の傾斜角度(β、−β)に設定されている。
【0045】
取り巻きの際のコードピッチ分のずれにより、中心軸に対する補強コード14の傾斜角度(β、−β)を維持しつつ中心軸周りに傾斜方向が変化し、補強コード14の取り巻き操作を繰り返すことにより、補強コード14が周方向に配列される。同一方向に傾斜する補強コード14の配列が周方向に一周するまで取り巻き操作を繰り返すことにより、補強コード14が互いに編み込まれることなく、傾斜方向が互いに交差する円筒状の内面側補強コード層12a及び外面側補強コード層12bが形成される。
【0046】
また、図9に示すように、補強コード14を内面未加硫ゴム13aの下端部に掛ける際、まず、その掛け部14aの終端側で線状部材3の始端側を押さえ付けるように補強コード14を掛けて、線状部材3の始端側を掛け部14aの終端側の内側に配置した後、線状部材3の終端側を掛け部14aの始端側の外側に配置しつつ、補強コード14の一回の取り巻き操作を完了させる。これにより、補強コード14の一回の取り巻き操作において、補強コード14の掛け部14aの内外を線状部材3が通ることになり、一つの掛け部14aに線状部材3が掛かる。
【0047】
同様の手順で、線状部材3を掛け部14aの内側から外側に通しつつ、補強コード14の取り巻き操作を繰り返すことにより、線状部材3を徐々にかつ全周に配置しながら補強コード14の全ての掛け部14aに掛ける。補強コード14の取り巻きが完了して全周に線状部材3が配置されたとき、線状部材3の両端の凹部3a及び凸部3bを嵌合する。
【0048】
その後、補強コード層12の外側に外面未加硫ゴム13bを巻き付けて、筒状未加硫ゴム膜13を構成し、図1の左半分、図10、及び図11の実線に示す状態を得る。このとき、線状部材3の両端の凹部3a及び凸部3bの隙間に侵入したゴムを介して、線状部材3の両端が接続されて環状のビードワイヤ1に構成される。なお、ビードワイヤ1の周囲は、未加硫ゴムで被覆した補強コード14の掛け部14aが密に配置される部位であり、凹部3a及び凸部3bの隙間に侵入するのに十分な量のゴムが存在する。
【0049】
さらに、コア式成型フォーマ15を分解して筒状未加硫ゴム膜13を取り外し、これを外型に組み込んで内側にバッグを挿入し、筒状未加硫ゴム膜13を加圧加熱して略球状の筒状ゴム膜11に加硫成形することにより、図1の右半分、及び図11の二点鎖線に示す状態のゴム製筒体2を得る。
【0050】
次に、空気ばねを例にとって、本発明のビードワイヤを備えた本発明品と、従来のビードワイヤを備えた従来品とを比較する。本発明品1、2及び従来品1、2は、いずれも図1に断面図を示すものであり、ゴム製筒体2の上端部を一対の締結金具9a、9bで挟持すると共に、下端部にピストン10の挿入部10aを圧入している。なお、従来品1、2は、本発明品1、2が備えるビードワイヤ1に代えて、ビードワイヤ17、18を備えたものである。
【0051】
ゴム製筒体2は、いずれも内径がφ150mmで、中央部の外径がφ240mm、高さ(B1)が140mm、補強コード14の傾斜角度(β1)が55°、下端部に埋設した環状のビードワイヤ1、17、18の中心径(D)がφ160mmの空気ばね用ダイヤフラムとし、加硫成形前の中央部の外径をφ216mm、高さ(B)を170mm、補強コード14の傾斜角度(β)を48°とする。
【0052】
補強コード層12は、中心軸を取り巻く一本の補強コード14から形成したものであり、筒状ゴム膜11の下端部を通る掛け部14aをビードワイヤ1、17、18に掛けている。掛け部14aの直線長さ(H)は、傾斜角度(β=48°)及び高さ(B=170mm)より、153mmとしている。
【0053】
補強コード14は、コード径が0.6mmのポリエステルコードを未加硫ゴムで被覆したゴム被覆コードとし、そのコードピッチを1mmとする。また、未加硫ゴムで被覆した状態の補強コード14の径をφ1.0mmとする。
【0054】
本発明品1、2及び従来品1、2におけるビードワイヤ1、17、18は、いずれもブラスメッキを施した撚り鋼線である線状部材3、8、19、20の両端を接続して環状に構成したものである。撚り鋼線の構成は、本発明品1、従来品1及び従来品2で、1×2.1+6×1.0とし、本発明品2で、3×1.2+(6×3)×0.5とする。
【0055】
本発明品1、2の線状部材3、8は、その芯線4、6を外周線5、7から30mm引き出して両端に凹部3a及び凸部3bを形成したものであり、凹部3a及び凸部3bを嵌合して両端を接続することにより、ビードワイヤ1に構成される。
【0056】
従来品1の線状部材19は、図12(a)に示すように、その両端部の20mmの範囲をテーパー状にカットしたものであり、テーパー面を合わせて両端部をラップさせて接続することにより、ビードワイヤ17に構成される。従来品2の線状部材20は、図12(b)に示すように、撚り鋼線をそのまま使用するものであり、両端部の30mmの範囲をそのままラップさせて接続することにより、ビードワイヤ18に構成される。
【0057】
未加硫ゴム膜成型時の挙動、加硫成形時の挙動、ピストン挿入部とのシール性、耐久性の4項目について、本発明品と従来品とを比較した結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1により、本発明品は、4項目の全てについて従来品よりも優れていることがわかる。すなわち、本発明の方法は、未加硫ゴム膜を成型する際、ビードワイヤ接続部の位置ずれや素線のもつれ、補強コードの乱れを生じさせず、加硫成形する際、ビードワイヤ接続部の位置ずれや両端の開き、変形を生じさせず、また、ピストンとのシール性の低下を阻止し、耐久性を向上させることができる。
【0060】
上記構成によれば、線状部材3、8の両端を接続することによってビードワイヤ1を構成するので、ゴム製筒体2へのビードワイヤ1の配置を容易にすることができる。特に、一本又は数本の補強コード14で中心軸を取り巻きながら、線状部材3、8をその始端側から徐々に配置して全周に配置した後、その両端を接続してビードワイヤ1を構成することにより、補強コード14の全ての掛け部14aにビードワイヤ1を掛けて補強コード層12を係止することができる。
【0061】
これにより、ピストンタイプの空気ばねのようなビードワイヤ1が必須である片側シールの構造のゴム製筒体2にも、一本又は数本の補強コード14を巻き付けて形成する補強コード層12を採用することができる。特に、ピストンタイプを採用することが多く、ビードワイヤ1に求められる強度の小さい小型の空気ばねに、本発明のビードワイヤ1を好適に使用することができる。
【0062】
ビードワイヤ1を柔軟な撚り線から形成するので、その線状部材3、8を始端側から徐々に配置する際の取り扱いが簡単であり、しかも、ピストンの挿入やタイヤホイールなどの金具を取り付ける際の変形にも十分に追随し、かつ速やかに元の形状に復元する。
【0063】
線状部材3、8の両端の凹部3a及び凸部3bを嵌合して接続するので、両端のずれを阻止すると共に、ビードワイヤ1の外径、断面形状を全周に渡って同一にすることができ、製品形状を安定かつ美しくすることができる。しかも、接続部においてもビードワイヤ1の剛性が全く変わらないので、必要な引張強度に応じて、凹部3a及び凸部3bの嵌合長さを自由に選択することができる。
【0064】
線状部材3、8は、その芯線4、6を外周線5、7から引き出すことにより、容易に両端の凹部3a及び凸部3bを形成することができる。芯線4、6は、10mm〜30mm程度まで容易に引き出すことができ、撚られた外周線5、7は、芯線4、6を引き出しても、十分にその形状を保持する。
【0065】
線状部材3、8の引張強度は、芯線4、6のみの強度、あるいは外周線5、7のみの強度で十分な大きさであり、両端の凹部3a又は凸部3bにおいても十分な引張強度を得ることができる。なお、従来のビードワイヤは、金具との締結形状安定性を高めるため、あるいはラップジョイントを使用するため、大きな形状のビードワイヤにすることが多い。
【0066】
また、線状部材3、8の両端を凹部3a及び凸部3b間に侵入するゴムを介して接続するので、その嵌合長さを芯体の径の5倍〜10倍程度に設定することにより、十分な引張強度で接続することができ、ビードワイヤ1を引っ張る力による部分的な変形を阻止することができる。
【0067】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、本発明に係る環状構造体としてのビードワイヤ1が補強するゴム製筒体2は、空気ばねのダイヤフラムに限らず、タイヤや、エアローラ、配管継手などが備えるものであってもよい。また、ゴム製筒体の補強コード層は、一本又は数本の補強コード14で中心軸を取り巻いて形成するものだけでなく、幅広のスダレコードを巻き付けたものであってもよい。
【0068】
ビードワイヤ1は、ゴム製筒体2の中心軸方向における一方の端部に埋設するだけでなく、ゴム製筒体の両端部に埋設することもできる。さらに、本発明に係る環状構造体は、ビードワイヤ1に限らず、袋状のゴム製部材の開口周縁を補強するものや、筒状や棒状のゴム製部材の中央部を取り巻いて補強するものであってもよい。
【0069】
線状部材は、その芯線が複数本の素線を撚り合わせてなる撚線であってもよい。また、線状部材は、芯線の周りに配した外周線を撚り合わせた撚り線に限らず、複数の線材を束ねただけのものであってもよい。
【0070】
さらに、芯線は、柔軟でかつ十分な引張強度を有するものであればよく、単線や複数本の芯線4、6に代えて、管状の線材、あるいは、シート状の素材を丸めて棒状や管状に構成した芯線を使用することができる。また、撚り合わせた複数本の外周線5、7に代えて、管状の線材や、シート状の素材を管状に丸めてなる柔軟なシースを使用することもできる。この場合も、両端を接続したときの芯線の継ぎ目の位置とシースの継ぎ目の位置とをずらすので、芯線の継ぎ目をシースで補強すると共に、シースの継ぎ目を芯線で補強することができ、しかも、継ぎ目付近の膨らみを分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る環状構造体としてのビードワイヤを備えたゴム製筒体の断面図であり、左半分は加硫成形前の状態を示し、右半分は加硫成形後の状態を示す
【図2】線状部材の側面図
【図3】線状部材の横断面図
【図4】線状部材の両端の接続を示す模式図であり、(a)は接続前の状態を示し、(b)は接続後の状態を示す
【図5】線状部材の別の形態の横断面図
【図6】補強コード層を示す斜視図
【図7】補強コードが中心軸を取り巻く様子を示す斜視図
【図8】ビードワイヤを配置する様子を示す底面図
【図9】補強コードが中心軸を取り巻く様子を示す底面図
【図10】成型フォーマの周りに形成した筒状未加硫ゴム膜を示す図であり、(a)は軸方向断面図、(b)は軸直角方向断面図
【図11】筒状未加硫ゴム膜及び筒状ゴム膜の軸方向断面図
【図12】従来品のビードワイヤの接続を示す模式図
【符号の説明】
【0072】
1 ビードワイヤ
2 ゴム製筒体
3、8 線状部材
3a 凹部
3b 凸部
4、6 芯線
5、7 外周線
5a 素線
12 補強コード層
14 補強コード
14a 掛け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製部材を補強するための環状構造体であって、線状部材の両端を接続することによって環状に構成され、前記線状部材の両端に、互いに嵌合する凹凸が形成されたことを特徴とする環状構造体。
【請求項2】
前記線状部材の両端がその凹凸間に侵入したゴムを介して接続されたことを特徴とする請求項1に記載の環状構造体。
【請求項3】
前記線状部材は、複数本の線材を束ねてなり、その一部の線材を長さ方向にずらすことにより、両端に前記凹凸が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の環状構造体。
【請求項4】
前記線状部材は、芯線と、該芯線の周囲に配されて撚り合わされた複数本の外周線とからなり、前記外周線から芯線が引き出されて両端に前記凹凸が形成されたことを特徴とする請求項3に記載の環状構造体。
【請求項5】
前記線状部材は、その芯線及び外周線の少なくとも一方が複数本の素線を撚り合わせてなる撚線とされたことを特徴とする請求項4に記載の環状構造体。
【請求項6】
前記線状部材は、ゴムとの接着性を高める表面処理が施されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の環状構造体。
【請求項7】
筒状のゴム膜に補強コード層を設けてなるゴム製筒体に、その中心軸方向における少なくとも一方の端部に埋設され、前記補強コード層の端部を係止するビードワイヤとされたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の環状構造体。
【請求項8】
前記補強コード層は、ゴム製筒体の両端部を通るよう中心軸方向に対して傾斜しつつ中心軸を複数回取り巻く補強コードを、一回の取り巻きごとに周方向に所定のピッチだけずらすことによって周方向に配列してなり、
前記補強コードのうちのゴム製筒体の端部を通る部位に掛けるよう配置されて補強コード層を係止するビードワイヤとされたことを特徴とする請求項7に記載の環状構造体。
【請求項9】
ゴム製部材を補強するための環状構造体であって、線状部材の両端を接続することによって環状に構成され、
前記線状部材は、芯線と、該芯線の周囲を覆うシースとからなり、両端を接続したときの芯線の継ぎ目の位置とシースの継ぎ目の位置とがずれるよう、前記シース及び芯線が互いに長さ方向にずらして設けられたことを特徴とする環状構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−18452(P2008−18452A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192299(P2006−192299)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】