説明

生体ファントムモデル

【課題】生体の電気的、電磁気的特性を良好に模擬することのできる生体ファントムモデルを簡易に製作可能とする。
【解決手段】人体全身を模擬した形状を有する基体1の表面を包むように、基体1上に金属製の網2を接着する。そして、基体1と基体1を包み込んだ網2との全体を覆うように、柔軟性を備えた絶縁材でコーティングして絶縁層3を形成する。基体1は、人体の関節に相当する箇所に可動部を有し、可動部の動きに伴って、金属製の網2と絶縁層3は変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体を模擬する生体ファントムモデルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体を模擬する生体ファントムモデルとしては、導電性粉末や金属繊維を混合した合成樹脂を、生体を模擬した形状を有するように硬化形成した生体ファントムモデルが知られている(たとえば、特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開平11-161668号公報
【特許文献2】特開平10-113337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した生体ファントムモデルの製造には、導電性粉末や金属繊維を液状化した合成樹脂中に均一に分布させた状態で、合成樹脂を生体の形状を有するように硬化形成するといった比較的高度な技術を要する。
また、人体などの生体は深度方向の構造を持つため、深度方向について異なる電気的、電磁的特性を呈するが、上述した生体ファントムモデルでは、生体ファントムモデルの全体が同じ材質を用いて均一に構成されるため、このような生体の深度方向についての構造による電気的、電磁的特性については、これを良好に模擬することができない。
【0004】
そこで、本発明は、簡易に製作可能であって、生体の電気的、電磁気的特性を良好に模擬することのできる生体ファントムモデルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題達成のために、本発明は、生体の形状を模擬する形状を有する基体と、前記基体の表面上に前記基体を包むように配した導電性を有する網と、前記網上に形成された、当該網を前記基体共々覆う絶縁層とを有する生体ファントムモデルを提供する。ここで、前記導電性を有する網としては、たとえば、金属製の網を用いることができる。
このような生体ファントムモデルは、生体の形状を模擬した基体上に、適当に選定した、導電性を有する網と、絶縁層とを積層するだけの簡易な作業で、生体の比誘電率を模擬した生体ファントムモデルを構築することができる。また、このような生体ファントムモデルによれば、深度方向の異なる特性も模擬することができるようになる。すなわち、このような生体ファントムモデルでは、絶縁層により生体の皮膚の導電率や比誘電率を、導電性を有する網により人体内部の比誘電率を模擬することができる。
【0006】
ここで、このような生体ファントムモデルにおいて、前記基体を、動物の生体の形状を模擬する形状を有すると共に、前記動物の関節に対応する箇所が可動に構成することが好ましく、この場合、前記絶縁層は、伸縮ある合成ゴムで形成するのがよい。このようにすることにより、絶縁層が基体の可動性を妨げないようにすることができる。なお、前記網は基体の姿勢の変化に伴って変形するので、当該網によって基体の可動性が妨げられることはない。
なお、前記基体は、人間の形状を模擬した形状を有するものとしても良い。
また、このような生体ファントムモデルは、人体通信の試験において、人体通信における通信媒体となる人体を模擬するものとして用いられる、人体通信試験用の生体ファントムモデルに、特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明によれば、簡易に製作可能であって、生体の電気的、電磁気的特性を良好に模擬することのできる生体ファントムモデルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1aに本実施形態に係る人体ファントムモデルの外観を示す。
図示するように、本実施形態に係る人体ファントムモデルは、人体全身を模擬した形状を有し、人体の関節に対応する部分が可動に構成されている。
そして、このような構成において、人体ファントムモデルは、図1bに示すように任意の姿勢をとらせて用いたり、図1cに示すように衣服を着用させて用いることもできる。
また、本実施形態に係る人体ファントムモデルは、図1d、eに人体ファントムモデルの頭部部分を例にとり示すように、複数層からなる層構造を有している。ここで、図1d1は、人体ファントムモデルの頭部部分の断面を表しており、図1d2は図1d1の断面図中A部分の拡大図を表しており、図1eは、人体ファントムモデルの頭部部分の層構造を模式的に表している。
【0009】
さて、図示するように、人体ファントムモデルは、繊維強化プラスチック(FRP)や発砲スチロールなどの導電率及び比誘電率が人体に比べ充分に低い材料を用いて形成した、人体全身を模擬した形状を有する中空の基体1を有する。ここで、この基体1は、人体の頭部、体幹部上半身、体幹部下半身、四肢などの各体節に対応する節と、各節を人体の関節同様に可動に連結する可動部とを有する。
【0010】
なお、このような基体1としては、市販の可動型の全身マネキン人形を流用して用いるようにしてもよい。
また、人体ファントムモデルは、基体1の表面を包み込むように、基体1上に接着された、金属製の網2(金網2)を有する。この網2に用いる金属の針金(線材)の材質としては、たとえば、ステンレス、鉄、銅などを用いることができる。また、この網2に用いる金属の針金の直径は、0.25mm-1.0mm程度が適当であり、この網2の各升目の大きさは一辺の長さを5mm-20mm程度とするのが適当である。
【0011】
また、この網2の基体1上への接着は、接着剤を塗布して網2を基体1上に固定する手法によっても良いし、接着テープを用いて金網を基体1上に貼り付ける手法によってもよい。また、適当に各々の大きさを定めた複数の網2を、モザイク状またはパッチワーク状に、端部を他の網2と接した状態で基体1上に配置して接着することにより、全体として、基体1の表面を網2で包みこむようにしてもよい。
【0012】
ここで、このような金属製の網2は、基体1の可動部の動きに応じて変形するので基体1の可動性を損なうことはない。
次に、人体ファントムモデルは、基体1と基体1を包み込んだ網2との全体を覆うようにコーティングした絶縁層3を有している。
ここで、このような絶縁層3としては、合成ゴムなどの絶縁性と柔軟性を兼ね備えた素材を用いる。より具体的には、この絶縁層3としては、プチルゴム等を用いることができる。また、このような絶縁層3は、液化した絶縁材を、塗布したり噴霧して固化することにより形成することができる。また、この絶縁層3の厚みは数mm程度、たとえば2mm-3mmとするのが適当である。
【0013】
ここで、このような絶縁層3も、基体1の可動部の動きに応じて伸縮するので基体1の可動性を損なうことはない。
以上、本実施形態に係る人体ファントムモデルについて説明した。
このような人体ファントムモデルによれば、人体形状を模擬した基体1上に、適当に選定した金属製の網2と、絶縁材とを積層するだけの簡易な作業で、人体の比誘電率や導電率を模擬した人体ファントムモデルを構築することができる。また、このような人体ファントムモデルによれば、深度方向の異なる特性も模擬することができるようになる。すなわち、本実施形態に係る人体ファントムモデルでは、絶縁層3により人体の皮膚の導電率や比誘電率が、金属製の網2により人体内部の比誘電率が模擬される。
【0014】
次に、このような人体ファントムモデルの使用例について示す。
このような人体ファントムモデルは、たとえば、人体通信の試験、実験などに用いることができる。
人体通信とは、送信機において、通信情報を変調して生成した電位信号を容量結合などにより人体に印加することにより、人体周りに電界を誘起させると共に、受信機において、人体が人体周りに誘起した電界強度を検出し、検出した電界強度から通信情報を復調するものである。
【0015】
そして、このような人体通信の試験、実験は、図1cに示すように、人体ファントムモデルに衣服を着用させると共に送信機21を携帯させ、人体ファントムモデルの姿勢や、人体ファントムモデルの送信機21の携帯位置や、衣服や、人体ファントムモデルと受信機22との位置関係や、周囲環境を様々に変化させながら、通信状態を計測することにより行う。
【0016】
なお、以上で示した人体ファントムモデルの構造は、人体以外の生体を模擬する生体ファントムモデルの構造として同様に適用することができる。
また、上で示した人体ファントムモデルは、金属製の網2に代えて、導電性を有する他の素材、たとえば、導電性プラスチックを用いて形成された網を用いても、同様に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る人体ファントムモデルを示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1…基体、2…網、3…絶縁層、21…送信機、22…受信機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の形状を模擬する形状を有する基体と、
前記基体の表面上に前記基体を包むように配した導電性を有する網と、
前記網上に形成された、当該導網を前記基体共々覆う絶縁層とを有することを特徴とする生体ファントムモデル。
【請求項2】
請求項1記載の生体ファントムモデルであって、
前記網は、金属製の網であることを特徴とする生体ファントムモデル。
【請求項3】
請求項1または2記載の生体ファントムモデルであって、
前記基体は、動物の生体の形状を模擬する形状を有すると共に、前記動物の関節に対応する箇所が可動に構成されており、
前記絶縁層は、合成ゴムで形成されていることを特徴とする生体ファントムモデル。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の生体ファントムモデルであって、
前記基体は、人間の形状を模擬した形状を有することを特徴とする生体ファントムモデル。
【請求項5】
請求項4記載の生体ファントムモデルであって、
当該生体ファントムモデルは、人体通信の試験において、人体通信における通信媒体となる人体を模擬するものとして用いられる、人体通信試験用の生体ファントムモデルであることを特徴とする生体ファントムモデル。

【図1】
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