説明

生体光計測装置

【課題】大脳の内側表面における脳活動の計測が可能な生体光計測装置を提供する
【解決手段】生体頭部に光を照射する複数の光照射器と、生体頭部内を通過して生体表面から出射する光を検出する光受光器と、を有する計測器を備える、生体に装着可能なプローブ25と、計測部から取得された信号に基づいて、受光した光の分布を解析する解析部と、を有し、プローブ25は、当該プローブが装着された場合、一または複数の計測器が、生体頭部内の大脳縦列を覆い、大脳縦列の長手方向に縦列に配置される形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳深部活動の計測が容易な生体光計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳の局所的血液量変化は光トポグラフィ法により無侵襲に計測可能である。光トポグラフィ法では可視から赤外領域に属する波長の光を被検体に照射し,被検体内部を通過した複数信号の光を同一の光検出器で検出しヘモグロビン変化量(または,ヘモグロビン濃度と光路長の積の変化量)を計測する。この方法は、磁気共鳴描画装置(MRI), ポジトロン断層撮影法(PET)等の他の脳機能計測技術に比べ被験者に対する拘束性も低いという特徴を有する。臨床現場において,言語機能や神経性発作などの計測が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−103434号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岡田英史、他著 「生体光伝播シミュレーションの近赤外分光法への応用」、脈管学、Vol.49、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脳活動に伴う血液量変化を計測する生体光計測装置は、既に特許文献1にて公開され、大脳表面での脳活動部位を決定することで、精神疾患、言語機能計測などの医療分野のみならず、心理学、認知科学分野などの人文科学分野などへ広く活用されている。
【0006】
上記、特許文献1にて公開されている生体光計測装置は、図2に示されるように、頭皮・頭蓋骨7、脳脊髄液層(CSF層)8、白質・灰白質9などの層状に構成される被検査体の頭部の頭皮上に、一対の光照射器10(照射用光源、具体的には、レーザ、発光ダイオード、ランプや、これらの光源から照射された光を導く光導波路、具体的には、光ファイバ他)と生体内を伝搬した光を検出する光検出器11(具体的には、生体内を伝搬した光を検出する光導波路、具体的には、光ファイバ他とその光導波路で検出した光を電気的な信号へ変換する光/電気変換素子、具体的には、フォトダイオード、光電子増倍管)を配置し、脳活動に伴う大脳皮質での血液量変化に伴い、生体内を伝搬し検出器へ到達した光の強度が変化する現象により、血液量変化を推定する技術である。これら光照射器と光検出器は、複数対にて配置し、血液量変化を多点で推定することで、血液量変化部位の画像を作成することも可能である。
【0007】
しかし、従来の生体光計測装置では、白質表面(大脳皮質表面)、言い換えると、外側表面(がいそくひょうめん)での脳活動を計測することを目的としていた。この計測装置では、例えば、ブロードマンの脳地図に対応した運動野、言語野などでの脳活動を計測することは可能であり、各種非特許文献などにその結果が計測されている。この計測が可能な理由は、計算機シミュレーションなどにより検討がなされ、非特許文献1等にその根拠が示されている。これは、頭皮表面から照射された光は生体組織内の細胞により散乱されるものの、その一部は、白質と頭蓋骨の間に存在する脳脊髄液層(光散乱係数が小さいことが特長)を伝播し、その脳脊髄液層で散乱された光の一部が白質の表面(大脳皮質)を通過し、その通過光も含めて検出した光は、白質表面での脳血液量変化を反映するからであるとされている。また、この非特許文献1によれば、小脳などの深部へ光が伝播することは無いとされている。そのため、光を照射・受光する計測器の形状や被検体の頭部に装着するプローブの形状、演算処理法などは大脳の外側表面の計測のみをターゲットとした構造となっていた。従って、脳の内側面から取得される脳深部の活動に基づく注意、意思決定などのヒト認知機能情報を積極的に計測するには不向きであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
生体頭部に光を照射する複数の光照射器と、生体頭部内を通過して生体表面から出射する光を検出する光受光器と、を有する計測器を備える、生体に装着可能なプローブと、前記計測部から取得された信号に基づいて、前記受光した光の分布を解析する演算部と、を有し、前記プローブは、当該プローブが装着された場合、一または複数の前記計測器が、前記生体頭部内の大脳縦列上部を覆い、当該大脳縦列の長手方向に縦列に配置される形状を有することを特徴とする生体光計測装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の生体光計測装置により、左右半球間に存在する大脳縦列との境界面である内側表面での脳活動の計測が可能になり、その結果、注意、意思決定などのヒト認知機能の計測が新たに可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】大脳内側表面における脳活動の計測を模式的に示した図
【図2】従来の生体光計測装置の装置構成を模式的に示した図
【図3】頭蓋骨の内側に位置する大脳を頭部上部から俯瞰した図
【図4】右半球の内側表面における光伝播経路(1)
【図5】計算機シミュレーションに使用したモデル
【図6】(a)シミュレーション算出結果1 (b)光伝搬特性を可視化した表
【図7】大脳縦列の有無による光伝搬特性の違いを示した図
【図8】図1の変形例1
【図9】大脳縦列の有無による光の伝搬特性の違いの検証に用いたモデル図
【図10】シミュレーション算出結果2
【図11】図1の変形例2
【図12】複数の光検出器-光照射器対の相関を示した図
【図13】プローブ図1
【図14】プローブ図2
【図15】生体光計測装置の全体構成図
【図16】プローブアレー構成図1
【図17】プローブアレー構成図2
【図18】信号解析部32での解析内容の一例
【図19】光が伝搬する深さ方向への伝搬経路の違いを示した図
【図20】大脳縦列直上と近傍へ照射した場合を示した図
【図21】別部位計測器と組み合わせて計測を行う場合を示した図
【図22】吸光度変化ΔAを算出するための式
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための原理について、図1を用いて説明する。図1は、本発明による脳計測部位を模式的に示した図である。1は頭部構造の頭皮・頭蓋骨、2は脳脊髄液層、3は白質・灰白質層を示す。この3は大脳縦列4により左右に分かれており、3−1は左半球、3−2は右半球を示す。
【0012】
図1に示した構成は、図2に示したようなこれまでの脳の表側面を計測する場合と比較し、脳の大脳縦列4に沿って光照射器5、光検出器6が配置されている。
【0013】
この光照射器5、光検出器6の配置位置について、より詳細に図3、図4を用いて説明する。図3は頭蓋骨の内側に位置する大脳を頭部上部から俯瞰した絵である。図中の3−1は左半球、3−2は右半球を示す。この左半球と右半球は別れて存在し、図1の光照射器5と光検出器6の配置位置は、これら左右半球の中間の直上に位置する。また、図4は、右半球の内側表面を示す。12、13は、それぞれ、大脳、小脳を模式化している。14は、光照射器5から照射され、光検出器へ到達した光の伝播経路を示しており、大脳の内側表面を光が伝播している状態を示している。
【0014】
この図1に示した計測方法の有効性を確認するため、計算機シミュレーションにより実施したので、その方法と結果を以下に説明する。図5は、計算機シミュレーションに使用したモデルを示す。図1にて説明した脳構造と同様の構成となっており、図5の上図では、光照射器5と光検出器6の配置位置を、それぞれ,(x, y, z)=(-15, 0, 50),(x, y, z)=(15, 0, 50)とし,30 mm間隔で一対の光照射器と光検出器が配置されているとした。
【0015】
一方、図5の下図では、同図の上図の1−1’で示したX=0平面での断層構造を示す。大脳縦列4の幅をw mmとした。ここで、図12−1は、脳活動部位の位置であり、脳脊髄液層2から深さD mmの位置に存在すると仮定した。また、この場所にて、脳活動に伴い吸収係数が変化すると仮定した。大脳縦列4が存在する場合と存在しない場合の光伝播特性を評価するために、w=2とw=0の場合を設定し、表1に示す光散乱係数と光吸収係数をシミュレーションの実施のために設定した。尚、設定した係数には非特許文献「2002 Phys. Med. Biol. 47 3429“Arranging optical fibres for the spatial resolution improvement of topographical images”」を参照した。
【0016】
シミュレーションの具体的な方法を以下に述べる。まず、光照射器から照射され光検出器へ到達する光の伝播経路をモンテカルロシミュレーションにより、また、図6(b)に示した換算散乱係数を用いて算出した。次に、図6(b)に示した吸収係数を用いて、フォトン毎の光検出器へ到達した光の強度を、脳活動前後各々に対して算出し、更に、このフォトン毎の結果の総和を求めた。総和より、脳活動前の検出光強度をT1、脳活動後の検出光強度をT2と定義し、吸光度変化ΔAを図22に示した式を用いて算出した。
【0017】
このΔAをw=2mmとw=0mmに対して算出し、大脳縦列4の有無に依存した大脳内側表面における計測の可能性を評価した。
【0018】
図6(a)に、算出結果を示す。この算出結果は、吸光度変化(ΔA)とDの関係をw=0mm、w=2mmに対して示している。各Dにおいて、吸光度変化(ΔA)比較すると、各々w=2mmの方がw=0mmに対してΔAが大きい。この結果は、大脳縦列4が存在し、その大脳縦列4上に光照射器5と光検出器6を具備させ脳活動を計測するときに、大脳の内側表面の感度が高い、もしくは向上することを示している。
【0019】
また、図7に大脳縦列4の有無、即ちw=0mm、w=2mmを各々設定した場合における内部の光伝播特性を可視化した表を示す。この表は、図5に示した座標系において、x=35面から、計算領域内部での光伝播経路を可視化した、言い換えれば透視した図である。大脳縦列4の無い場合(w=0mm)と大脳縦列4が有る場合(w=2mm)を比較すると、有る場合は、大脳縦列4に沿って光が深部まで伝播していることが明らかになった。この結果からも、大脳縦列4が有る場合は、大脳縦列4に沿って光が伝播するため、左右半球の内側表面での脳活動に対する感度が高いことがわかる。
【0020】
次に、同一のモデル内において、複数の光照射器−光検出器対にて同時計測した場合の例を図8以降に示す。図8に示した例では、大脳縦列4の上部に光照射器5と光検出器6の対を配置するとともに、その周囲に別途光照射器15、16並びに光検出器17、18が配置されている。このような同一モデル内での大脳縦列の有無による光の伝搬特性の違いを検証するべく、図9に示すように、光照射器5から照射され光検出器6へ到達したフォトン、並びに、光照射器16から照射され光検出器18へ到達したフォトンの伝播特性の違いを計算結果から算出した。算出結果を図10に示す。光照射器―光検出器の配置位置の違いにより、検出光量が異なり、また、パルスを光照射器から照射した場合は、光検出器6、18で検出されるパルス波形の形状も異なることが明らかになった。この結果は、大脳縦列4上に光照射器―光検出器対を配置した場合と、大脳縦列4上ではない場所に光照射器―光検出器対を配置した場合では、光伝播経路が異なることを示している。
【0021】
図10による結果は、大脳縦列4を中心に複数の光照射器―光検出器対を配置することで、大脳縦列4上に配置した光照射器―光検出器対を推定することが可能となることを示している。一般に、大脳縦列4は頭蓋骨の内側に存在するため、頭皮上から非侵襲的に大脳縦列4の位置を推定するには、磁気共鳴描画装置(MRI)などの非侵襲的な形態画像計測装置を用いるしか方法は無い。しかし、図10に示した結果から、大脳縦列4上に一番近い光照射器―光検出器対を推定することが可能になり、大脳深部を通過している光を検出している可能性が高い光照射器―光検出器対を推定することが可能となる。第二に、第一で述べた「大脳深部を通過している光を検出している可能性が高い光照射器―光検出器対」と「大脳の外側表面を通過している光を検出している光照射器―光検出器対」との比較が可能となる。これにより、大脳の内側表面と外側表面での脳活動の相関を得ることも可能となるため、従来の内側表面での脳活動の取得だけでは得られなかった新たな脳活動の知見を得ることが可能となる。
【0022】
さらに図11では、光照射器と光検出器が、光照射器19、光照射器20、光検出器21、光検出器22、の順番に並べて配置している。この配列の効果を図12を用いて説明する。図12は、大脳の右半球の内側表面を示している。図12に示すように、光照射器19−光検出器21による光伝播経路23と、光照射器20−光検出器22による光伝播経路24とは、一部、大脳の内側表面上で重なり合うことが分かった。この結果から、図11に示した光照射器―光検出器の配置方法により、内側表面での脳活動を多点で計測することが可能になる。
【実施例1】
【0023】
本発明を実施するためのプローブ25の一例を図13に示す。大脳縦列を計測するためには、プローブ25を装着した場合、確実に大脳縦列上に計測器26が装着される構造となっている必要がある。さらに大脳縦列は脳の右半球と左半球の割れ目に位置しており、額側から後頭部側にかけて縦長の形状となっている。そのため、光照射器及び光検出器、あるいは光照射器と光検出器によるモジュールは、大脳縦列に沿って縦列に配置されるような構造となっていることが望ましい。
【0024】
プローブ25は、被検体の頭頂部へ装着された場合、大脳縦列を覆うように、光照射器及び光検出器により構成された計測器26を縦列して配置されるように構成されている。このような構造にすることで、大脳縦列上へ確実に光照射器及び光検出器を配置することができ、脳の内側部から取得される脳深部の活動特有の情報を積極的に取得することができる。
【0025】
さらに、計測器26を縦列に配置し、大脳縦列のみを計測部位のターゲットとすることで、他の部分からの余剰な情報を抽出してしまうことによる演算処理の不可を軽減し、プローブの製造コストを抑えることもできる。
【0026】
プローブ25の先端は、前方を額付近、後方を後頭部や頚付近にて固定機構27を備え、頭部に固定されるようにする。
【0027】
図14のように頭部に巻き付けるようにベルト部材28を備えてもよい。ベルト部材28を備えることで、被検体がより安定してプローブを装着することができる。さらに計測器26が確実に被検体の頭頂部へ装着されることを補助する役割も担っており、計測精度を向上させることができる。計測器28に備えられる光照射器−光検出器対は、単数であっても複数であってもよい。尚、光照射器と光検出器による計測器26の具体的構成は後述することとする。
【0028】
次に、本装置のシステムについて、図15を用いて説明する。ただし、本システムは本発明を実施するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。
【0029】
本装置はプローブ25と、ロックインアップ29と、アナログ−デジタル変換30(以下、「A/D変換器30」と記載)と、演算部31と、演算部31に含まれる信号解析部32、記憶装置33、光量制御部34、光照射器−光検出器間距離制御部35からなる。
【0030】
本システムにより、光照射器と光検出器から構成される計測器26において,可視から赤外領域に属する波長の光を被検体頭部に照射し,被検体内部を通過した複数信号の光を光検出器で検出し計測することで、脳血液に含まれる脳の活動に基づく情報を得る。
【0031】
前記計測器26は被験体内部で反射された光を検出し電気信号に変換するもので,光受光器としては光電子増倍管やフォトダイオードに代表される光電変換素子を用いる。光受光器で光電変換された生体通過光強度を表す電気信号は,それぞれロックインアンプ29に入力される。
【0032】
ロックインアップ29によるロックイン処理により出力された各波長の通過光強度信号をA/D変換器30でアナログ−デジタル変換した後に,演算部31に送られる。演算部31では、演算部31内の信号解析部32によって、通過光強度信号を使用して各検出点の検出信号から酸素化ヘモグロビン濃度,脱酸素化ヘモグロビン濃度および総ヘモグロビン濃度の相対変化量(または,より正確には各ヘモグロビン濃度と光路長の積の変化量)を演算し,複数の計測点の経時情報として記憶装置33に格納する。
【0033】
尚,ここではロックイン処理を行ってからアナログ−デジタル変換を行う例を記載したが,受光器からの信号を増幅・アナログ−デジタル変換した後に,ロックイン処理をデジタル的に行うことも可能である。
【0034】
また,ここでは,複数の光を変調方式により分離する実施例を記載したが,これに限定されず,たとえば,複数の光を照射するタイミングを時間的にずらすことで複数光を弁別する時分割方式を用いることも可能である。
【0035】
演算部31における信号解析部32によって、記憶装置33に格納されたプログラムにより、取得した信号の特性等が解析される。信号解析部32は、図10等を基に設定された大脳縦列と判断する光強度の所定の値と比較し、大脳縦列上、つまりは脳の内側部を透過した光であるかどうかを判定し、当該判定により大脳縦列上にあると判断された光照射器―光検出器対による情報を脳の内側部の情報として取得する。
【0036】
このように、脳の内側部の情報を取得することに特化したプローブの形状、計測器の構造、演算手法等とすることで、脳の内側部から取得される脳深部の活動特有の情報を取得することができる。
【0037】
本実施例による脳の内側部に基づく情報を取得する精度をさらに向上させる方法として、計測器26に複数の光照射器を具備し、大脳縦列上に存在する計測器を特定するためのプリスキャン機能を計測工程に加えることが有効である。
【0038】
図16は、大脳縦列上に対応する光照射器―光検出器対を特定するための、計測器26によるプローブアレー36の構成の一例である。破線1は大脳縦列の位置である。さらに、光照射器のみで構成された照射用計測器37、光検出器のみで構成された受光用計測器38を示す。本実施例では、照射用計測器37、受光用計測器38それぞれに光照射器5、光検出器6が、各々5つ具備されているが、この個数に限定されるものではない。一般に、頭皮上からは大脳縦列の位置を見つけることは不可能であり、本実施例では、アレーの中心に位置する照射用計測器37及び受光用計測器38が大脳縦列上に位置していると仮定する。
【0039】
プローブアレー36は、図17のように各計測器26の中心に光受光器6を配置し、周辺に複数の光照射器5を配置して複数の計測器26によるアレーを構成してもよい。この構成により、波線1で示した大脳縦列のように、個人差によって変曲していたとしても、各計測点に対応した光照射器を特定できるため、個人差に依らず、大脳縦列の形状に沿って計測することが可能となる。
【0040】
尚、プローブアレー36は、より精度良く脳の内側部の情報を抽出するべく、光照射器と光検出器間の距離を変化させることのできる可動式の機構にして、プリスキャンによって特定された大脳縦列上の光照射器―光検出器対において、最適な光強度や波形の特性が鮮明に抽出できる光照射器―光検出器間距離に演算部31における光照射器−光検出器間距離制御部35にて制御できるようにしてもよい。また、大脳縦列上の光照射器―光検出器が特定された後、特定された光照射器―光検出器を大脳縦列測定に適当な光照射器―光検出器のモジュールに交換できるよう、計測器26に設置されている光照射器及び光検出器を交換して光照射器―光検出器間距離を変化させられるよう、交換式の機構を備えてもよい。
【0041】
次に、図15及び図18を用いて、大脳縦列上に対応する光照射器―光検出器対を特定するためのプリスキャンの演算方法について述べる。
【0042】
図18に、解析内容についての一例を示す。信号解析部32は、取得した信号の光量及び受光された光受光器を解析し、大脳縦列上、つまりは脳の内側部を透過した光であるかどうかを判定し、判定された光照射器を大脳縦列上に位置する光照射器として特定する。
【0043】
本発明は、脳の表平面を計測する従来技術とは異なり、脳の内側表面を計測するという特有を持つため、脳の深層部まで照射され受光した光ほど、光強度は減少してしまう。したがって、特定された光照射器からの光は、他の光照射器からの光と比較して減衰しているため、図18の「光量制御」等の解析結果に基づいて、特定された光照射器からの光の光量を他の光照射器からの光の光強度と比較して大きくする。あるいは、予め基準となる光強度を設定しておき、当該基準値に近くなるよう、光量を制御してもよい。
【0044】
このようにすることで、検出される光の強度のノイズレベルを揃えることができ、精度良く大脳縦列上の信号を取得することが出来る。 また、当該光量制御を行う際、特定された光照射器以外の光照射器からの光量を減衰あるいは消灯させてもよい。当該制御により、演算処理の負荷低減やノイズによるエラーの抑制を可能にすることができる。
【0045】
信号解析部は、特定された光照射器―光検出器対に依る情報は、大脳縦列上による情報を脳の内側部の情報として取得される。
【0046】
このようなプリスキャン機能を備えることで、本発明の第一の目的である脳の内側部から取得される脳深部の活動特有の情報の取得をより精度良く行うことが可能となる。
【実施例2】
【0047】
また、図19のように、計測される信号によって光が脳の内側部を透過した部位によって差異が生じる。つまりは、得られる脳の特性に由来する情報がそれぞれ異なるため、光強度等から、それぞれの光が脳のどの部位を透過したのかを推定することが必要となる。
【0048】
図19は、深さ方向に計測する場合において、光照射器と光検出器の距離を複数設定し、この設定により光伝播経路が異なることに着目して、各々異なる深さ情報を計測する場合の模式図を示している。本図において、各対(3対)の光伝播経路は異なり、5-1、6-1の間を通過する光強度の減少は、5-3、6-3の間を通過する光強度の減少と比較して大きい。このため、3点において同一の光強度を照射された場合、6-1で検出される光強度は最小となる。そこで、最小となる光強度から脳表面付近までの光強度とを相対比較を行うこと等により、光強度の減衰率の度合いから、各光照射器が透過した脳の深さ方向での位置を推定して計測することができる。
【0049】
図15の演算部31内の信号解析部32は、図18の解析内容のように、光量の度合いによって深層レベルを分類し、脳の深さ方向について、どの深さの情報を受光した光を有しているのかを推定する。当該推定結果に基づいて脳内側部の計測部位を特定することで、脳の内側部から取得される脳深部の活動特有の情報をより明確に取得することが可能になる。
【実施例3】
【0050】
大脳縦列直上の情報は、右脳、左脳それぞれの情報を併せて取得している場合がある。そのため、これまでの実施例などによって特定した光照射器と隣接する光照射器から取得された情報との相関から、左右の脳活動の違いや、大脳縦列上の情報について、左脳、右脳の情報との相関性を計測することができる。
【0051】
図20は、大脳縦列上、並びにその近傍に複数対の光照射器、光検出器対を具備したことを特徴とする生体光計測装置である。図20では、左脳の境界面上、大脳縦列上、右脳の境界面上にプローブ25を配置しているため、各々光伝播経路が異なる。得られた信号の特性は、演算部31による波形特性の違いやメモリ内の参照波形との比較などによって類似性、相関性について解析される。
【0052】
その結果、大脳縦列に沿う、大脳皮質上の活動に関して、左右半球での脳活動の違いを計測することが出来る。
さらに、脳の同一測定対象部位における表平面と内側部の情報を同時に取得することにより、対象部位の脳活動の情報をより詳細に解析することが可能となる。図21は、大脳縦列上以外の脳の表面を計測する外側面計測器39と一体化させた構成である。当該構成を用いれば、脳の同一測定部位を、表面と内側部の両方から計測することが可能となる。得られた同一測定部位の表面からの情報と内側部からの情報との相関を比較することで、測定部位の情報をより精度よく検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 頭皮・頭蓋骨
2 脳脊髄液層
3 灰白質・白質
3−1 左半球
3−2 右半球
4 大脳縦列
5 光照射器
6 光検出器
7 頭皮・頭蓋骨
8 脳脊髄液層(CSF層)
9 白質・灰白質
10 光照射器
11 光検出器
12 大脳
12−1 脳活動部位の位置
13 小脳
14 光照射器から照射され、光検出器へ到達した光の伝播経路
15 光照射器
16 光照射器
17 光検出器
18 光検出器
19 光照射器
20 光照射器
21 光検出器
22 光検出器
23 光照射器19と光検出器21による光伝播経路
24 光照射器20と光検出器22による光伝播経路
25 プローブ
26 計測器
27 固定機構
28 ベルト部材
29 ロックインアンプ
30 A/D変換器
31 演算部
32 信号解析部
33 記憶装置
34 光量制御部
35 光照射器−光検出器間距離制御部
36 プローブアレー
37 照射用計測器
38 受光用計測器
39 外側面計測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体頭部に光を照射する複数の光照射器と、
生体頭部内を通過して生体表面から出射する光を検出する光受光器と、
を有する計測器を備える、生体に装着可能なプローブと、
前記計測部から取得された信号に基づいて、前記受光した光の分布を解析する演算部と、
を有し、
前記プローブは、
当該プローブが装着された場合、一または複数の前記計測器が、前記生体頭部内の大脳縦列を覆い、当該大脳縦列の長手方向に縦列に配置される形状を有することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
生体表面に光を照射する複数の光照射器と、
生体内部を通過して生体表面から出射する光を検出する光受光器と、
を備えるプローブと、
前記光検出器から取得された信号に基づいて、前記受光した光の分布を解析する演算部と、
を有し、
前記プローブは、
前記複数の光照射器及び前記複数の光受光器が、当該プローブの中点と交わる略直線上に配置されることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記一または複数の計測器の有する前記複数の光照射器のうち、大脳縦列へ照射された光を受光する一または複数の前記光照射器を特定することを特徴とする請求項1または2記載の生体光計測装置。
【請求項4】
前記演算部は、
前記受光する光の光量が所定の値より低い場合、大脳縦列へ照射された光を受光する光照射器として特定することを特徴とする請求項2記載の生体光計測装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前記特定された光照射器における計測結果に基づいて、前記照射する光の光強度を変化させることを特徴とする請求項4記載の生体光計測装置。
【請求項6】
前記演算部は、
前記特定された光照射器以外の一または複数の前記光照射器の照射する光強度を所定の値よりも小さくさせることを特徴とする請求項3記載の生体光計測装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記特定された光照射器と隣接する一または複数の前記光照射器からの光に基づく信号を取得し、
前記特定された光照射器からの光に基づく信号と、前記隣接する一または複数の前記光照射器からの光に基づく信号との相関を解析することを特徴とする請求項3記載の生体光計測装置。
【請求項8】
前記演算部は、
前記大脳縦列へ照射された光を受光する計測器の計測結果に基づいて、脳の内側部の深さ方向の光の照射位置を解析することを特徴とする請求項3記載の生体光計測装置。
【請求項9】
前記プローブは、
披検体の頭部へ着脱するベルト部材を有することを特徴とする請求項1または2記載の生体光計測装置。
【請求項10】
前記演算部は、
前記特定された光照射器からの光の光強度に基づいて、当該特定された光照射器と前記光受光器との間隔を変化させることを特徴とする請求項3記載の光計測装置。
【請求項11】
前記計測器は、
当該計測器の有する前記複数の光照射器または光検出器の一部を交換し、前記光照射器と前記光検出器の間の距離を変更する機構を有することを特徴とする請求項3記載の生体光計測装置。
【請求項12】
前記プローブは、
当該プローブが装着された場合、前記計測部により計測される部位を、前記計測部が設置される側面と別の側面から計測する外側面計測器を有し、
前記演算部は、
脳の同一部位における前記計測器と前記外側面計測器からの信号との相関に基づいて、前記受光した光の分布を解析することを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−152412(P2012−152412A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14699(P2011−14699)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】