説明

生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性の判定方法

【課題】生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を判定する方法の提供。
【解決手段】ポリフェノールの生体内における抗酸化活性を判定する方法であって、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定することを含んでなる方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を判定する方法および生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代からポリフェノールの生体調節機能に関する研究が盛んに行われてきている。例えば、ラジカル消去による抗酸化機能を始め、肥満、糖尿病、高血圧、動脈硬化などのメタボリックシンドロームの予防や、発がん抑制、骨密度の低下抑制、抗アレルギー作用、脳機能障害の改善など、様々な生理機能が報告されている(A. Scalbert., I.T. Johnson & M. Saltmarsh : Am. J. Clin. Nutr., 81, 215S 2005)。また、動物性脂肪の消費量が多いフランス人が動脈硬化などの血管障害が少ないという、いわゆる“フレンチパラドックス”を始め、健康長寿との関連から地中海沿岸地域や日本型の食生活スタイルが現在注目され盛んに研究が行われている。さらに、WHO(世界保健機構)は2003年に、「ポリフェノールの血管障害リスクを低減する生理機能は“possible”である」と報告しており(WHO:Diet, Nutrition, and the Prevention of Chronic Diseases, Geneva 2003)、食品から摂取したポリフェノールが生体機能を調節することは科学的に認知されつつある。
【0003】
このような状況のもと、ポリフェノールがどのようにして体の中に取り込まれ、どのような分子構造で体内に存在し生理活性を発揮するのか、その吸収機構や体内での利用性・活性成分の解明が強く求められている。しかし、実際には、摂取したカテキンやケルセチンは、血中や機能を発揮すべき組織中では僅かにしか存在しないことが報告されている(A. Scalbert., C. Morand., C. Manach &C. Remesy : Biomed. Pharmacother., 56, 276 2002)。よって、食事からの摂取量に加えて摂取後の吸収性や体内での利用性を勘案して改めてポリフェノールの生体調節能を再評価する必要が生じている。
【0004】
また、ポリフェノールが生体内での抗酸化作用を通じて、血管障害をはじめメタボリックシンドロームや発がん予防など様々な生体調節機能を発揮することは、薬剤や遺伝子改変等による病態モデル動物または糖尿病や血管障害などの疾病を持った患者を用いて、8−ヒドロキシデオキシヌクレオチド8−OHdGやイソプラスタンなどの核酸・脂質の酸化マーカーと臨床症状の改善が認められる事で証明されている。しかし、日々のストレスや加齢に伴って体内で生じる酸化ストレスを軽減し、健常人を対象として上述のような疾病予防に繋がる適切な素材を評価・選抜するには、患者や病態モデルを用いた従来の評価方法は充分ではなく新たな評価方法の考案が望まれている。
【0005】
これまでに、食品あるいは生体試料の抗酸化性を直接評価する方法としては、電子を引き抜くTEAC法、水素を引き抜くORAC法、ラジカルを補足するDPPH法等、様々な方法が考案され実際に使用されてきている。例えば、特許文献1には、被験物質を経口投与した試験動物の皮膚に光誘起ラジカル生成物を塗布し、その後、光照射することにより生じるラジカル生成量を測定することを特徴とする被験物質の生体内抗酸化力の評価方法が開示されている。また、特許文献2には、生体から採取した全血に既知量の酸化ストレスを暴露して溶血する赤血球の度合いを測定することにより生体が有する抗酸化活性すなわち生体内抗酸化活性を包括的に評価することを特徴とする生体内抗酸化活性の測定法が開示されている。
【0006】
しかし、測定原理や使用するラジカル源によって抗酸化性の評価結果が異なり、2005年からアメリカ化学会ACSを中心に、抗酸化性の評価方法の基準化が検討されている。一方で、ポリフェノールなどを多く含んだ食品素材を摂取して、実際に正常な動物並びに健常人の体内抗酸化性を増強するという報告は少なく、また抗酸化活性が増強した原因も摂取したポリフェノールではなく、ビタミンCや尿酸などの体内抗酸化成分の変動に起因するのではないかとの報告もあり、生体試料の抗酸化活性を直接測定する以外の鋭敏で感度のよい評価方法が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−087505号公報
【特許文献2】特開2008−185577号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、経口摂取したポリフェノール類の体内における抗酸化活性について、従来着目されていたポリフェノール類自体(インタクトの摂取成分)ではなく、腸内で代謝・変換された腸内代謝物に着目したところ、生体試料中に存在する、ポリフェノールの主要な腸内代謝物であるメタヒドロキシフェニルプロピオン酸(mHPP)とメタヒドロキシフェニル酢酸(mHPA)の量と、現在抗酸化性測定法として利用されているTEAC法により測定された抗酸化能とが相関することを見出した(実施例1および2)。本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
本発明は、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を判定する方法および生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。本発明は、また、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質を含んでなる薬剤の提供を目的とする。
【0010】
本発明によれば、ポリフェノールの生体内における抗酸化活性を判定する方法であって、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定することを含んでなる方法が提供される。
【0011】
本発明によれば、また、被験物質存在下および被験物質非存在下における、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定することを含んでなる、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質のスクリーニング方法が提供される。
【0012】
本発明によれば、さらに、キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ミルクオリゴ糖、およびアルギン酸またはその塩からなる群から選択される1種以上の物質を含んでなる、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性増強剤が提供される。
【0013】
本発明による判定方法は、生体試料中の抗酸化活性を評価する従来の方法と比べ、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性をより鋭敏にかつ簡便に評価することが可能である。本発明による判定方法は、ポリフェノールの抗酸化性について新たな評価方法を提供できる点で有利である。
【0014】
本発明によるスクリーニング方法は、腸内での代謝変換能に着目した全く新たな機能性成分の探索方法である。本発明によるスクリーニング方法によれば、摂取成分が即ち体内での抗酸化活性成分であるという従来型のスクリーニング方法では選択されなかった新たな抗酸化素材を効率的に選択することができる点で有利である。また、本発明によるスクリーニング方法によって選択された機能性素材は、生体内においてポリフェノールの抗酸化活性を増強すると同時に、腸内環境の改善を通じて増加した抗酸化性の腸内代謝物が血流を通じて全身に輸送・供給されることにより、疾病予防のみならず抗疲労や美肌効果、加齢やストレスに起因するQOL低下の予防も期待できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】摂取1週間および2週間後の各群における血漿中のmHPP濃度を示した図である(実施例2)。図中において、**は、コントロール食I群と、p<0.01(Bonferroni)で有意差があることを意味する。##は、通常食群と、p<0.01(Bonferroni)で有意差があることを意味する。
【図2】摂取3週間後の各群における血清中のmHPP濃度を示した図である(実施例2)。図中において、**は、通常食群、コントロール食I群とそれぞれ、p<0.01(Bonferroni)で有意差があることを意味する。
【図3】各群におけるポリフェノール腸内代謝物の総量を示した図である(実施例2)。
【図4】各群におけるポリフェノール腸内代謝物の比率を示した図である(実施例2)。
【図5】各群における抗酸化能(TEAC法)を示した図である(実施例2)。図中において、*は、通常食群と、p<0.05(Bonferroni/Dunn)で有意差があることを意味する。
【図6】(A)生体内におけるmHPPの量とTEAC法による抗酸化能とが相関することを示した図である。(B)生体内におけるmHPAの量とTEAC法による抗酸化能とが相関することを示した図である。
【発明の具体的説明】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の記述は、本発明を説明するための例示であり、本発明を記述された実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本明細書中で使用される全ての用語は、特に他に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いられる。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。本明細書において引用された全ての先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み入れられ、本発明の実施のために用いることができる。
【0017】
本明細書の全体にわたって、単数形の表現は、特に他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
【0018】
定義
本願明細書において「抗酸化活性」とは、ヒドロキシラジカル(例えば、活性酸素、酸素フリーラジカル等)、過酸化水素、スーパーオキシド、一重項酸素、脂質ヒドロペルオキシド等の酸化物質の作用を消去または減弱させる作用の程度を意味する。
【0019】
本願明細書において「生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性」とは、経口摂取されたポリフェノールに起因して生体内で発揮される抗酸化活性を意味する。
【0020】
本発明による判定方法およびスクリーニング方法
生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量は、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性の指標となる。従って、本発明による判定方法によれば、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定することにより、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を判定することができる。
【0021】
本発明による判定方法では、フェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定するという、従来の判定方法とは異なるメカニズムを利用して、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を判定することができる。
【0022】
生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量は、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性の指標となる。従って、本発明によるスクリーニング方法によれば、被験物質存在下および被験物質非存在下において、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定することにより、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質を選択することができる。
【0023】
本発明によるスクリーニング方法では、フェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定するという、従来のスクリーニング方法とは異なるメカニズムを利用して、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質を選択することができる。本発明によるスクリーニング方法により選択された物質は、例えば、経口摂取されると、腸内環境を改善することによって、毎日の食生活で通常摂取しているポリフェノールの腸内代謝物のバランスを調整し、抗酸化活性を増強させることができる。
【0024】
「ポリフェノール」としては、腸内で代謝されるものであれば特に制限されず、様々な構造を有する各種ポリフェノールが挙げられる。腸内で代謝されるポリフェノールとしては、通常の食事で摂取するようなポリフェノールが挙げられ、例えば、フラボノイド(例えば、フラボノール、フラボン、イソフラボン、フラバノン、フラバノール、アントシアニン等)、フェノール酸(例えば、ヒドロキシ桂皮酸、ヒドロキシ安息香酸等)が挙げられる。
【0025】
ポリフェノールは、単独で摂取されるものであっても、2種以上(例えば、2種以上、3種以上、4種以上)を組み合わせて摂取されるものであってもよい。ポリフェノールは、例えば、特定の成分をエンリッチしたサプリメントとして摂取することもできるし、様々な種類のポリフェノールが含まれる通常の飲食品として摂取することもできる。本発明によるスクリーニング方法においては、ポリフェノールは、2種以上を組み合わせて摂取されることが好ましい。
【0026】
「ポリフェノール腸内代謝物」とは、ポリフェノールが腸内で代謝・変換された腸内代謝物を意味する。哺乳類に摂取された各種ポリフェノールは、生体内で各種腸内細菌により分解され、ポリフェノール腸内代謝物が生成される。各種ポリフェノールは様々な構造を有する一方で、ポリフェノールの腸内代謝物は、構造が異なる各種ポリフェノール間でも共通している。ポリフェノール腸内代謝物としては、例えば、フェニルプロピオン酸系代謝物、フェニル酢酸系代謝物等が挙げられる。
【0027】
「フェニルプロピオン酸系代謝物」としては、例えば、メタヒドロキシフェニルプロピオン酸(mHPP)、メタクマル酸(mCA)、ジヒドロキシフェニルプロピオン酸(DHPP)等が挙げられるが、好ましくは、メタヒドロキシフェニルプロピオン酸である。
【0028】
「フェニル酢酸系代謝物」としては、メタヒドロキシフェニル酢酸(mHPA)、4−ヒドロキシ3−メトキシ酢酸(HMPA)、ジヒドロキシフェニル酢酸(DHPA)等が挙げられるが、好ましくは、メタヒドロキシフェニル酢酸である。
【0029】
「生体試料」としては、体内に存在あるいは循環している腸内代謝物を検出できる試料であれば特に限定されない。生体試料は、例えば、血液(例えば、血清、血漿等)、盲腸内容物、組織等が挙げられ、好ましくは、血液、盲腸内容物である。生体試料は、例えば、哺乳類等由来の生体試料が挙げられる。生体試料はまた、これらを採取した後、抽出・共雑物の除去等して調製された精製物、抽出物等であってもよい。
【0030】
「哺乳類」としては、ヒト、非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等)が挙げられる。
【0031】
本願明細書において、目的の物質を選択するための「被験物質」は、好ましくは、経口摂取できる物質である。例えば、糖類(単糖、オリゴ糖、多糖等)、タンパク質、食物繊維等が挙げられる。被験物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。
【0032】
本発明による判定方法は、具体的には、例えば下記工程により実施することができる:
(i)ポリフェノールを摂取した哺乳類から生体試料を取得すること、および
(ii)生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定すること。
【0033】
工程(i)において、対象となる哺乳類に対して、目的の試験条件下でポリフェノールを摂取させることができる。
【0034】
工程(ii)において、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定する方法としては、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量として、例えば、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の濃度等を測定することができれば特に制限されず、当業者に周知の方法を使用することができる。例えば、キャピラリー電気泳動−質量分析計CE/MS、高速液体クロマトグラフィー−質量分析計LC/MSあるいはLC/MS/MS、ガスクロマトグラフィー−質量分析計GC/MS、GC/GC/MSなどの分析機器で測定する方法が挙げられるが、分析サンプルの前処理操作性、定量性、迅速性などの観点から、LC/MS/MSで測定する方法が好ましい。
【0035】
工程(ii)において、フェニルプロピオン酸系代謝物の量のみ、あるいは、フェニル酢酸系代謝物の量のみを測定することにより、目的の物質を選択することができるが、より高精度に目的の物質を選択するには、フェニルプロピオン酸系代謝物およびフェニル酢酸系代謝物の量を測定することが好ましい。
【0036】
実施例によれば、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量とTEAC法により測定された抗酸化能との間には相関関係が認められた(実施例2)。従って、工程(ii)において、フェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量に基づいて、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を判定することができる。
【0037】
例えば、フェニルプロピオン酸系代謝物の量とTEAC法等により数値化された抗酸化能との関係を示す検量線を作成し、フェニルプロピオン酸系代謝物の量に基づいて生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を評価することができる。また、フェニル酢酸系代謝物の量とTEAC法等により数値化された抗酸化能との関係を示す検量線を作成し、フェニル酢酸系代謝物の量に基づいて生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を評価することができる。
【0038】
本発明によるスクリーニング方法は、具体的には、例えば下記工程により実施することができる:
(a)被験物質存在下および被験物質非存在下において、ポリフェノールを摂取した哺乳類から生体試料を取得すること、
(b)生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定すること、および
(c)被験物質存在下および被験物質非存在下における、フェニルプロピオン酸系代謝物の量、フェニル酢酸系代謝物の量、およびフェニル酢酸系代謝物の量に対するフェニルプロピオン酸系代謝物の量の比から選択される少なくとも1つを比較すること。
【0039】
工程(a)において、被験物質はポリフェノールと同時に哺乳類に摂取させることもできるし、ポリフェノール摂取前、あるいは摂取後に哺乳類に摂取させることもできるが、好ましくは、摂取後である。
【0040】
工程(b)において、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定する方法としては、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量として、例えば、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の濃度等を測定することができれば特に制限されず、当業者に周知の方法を使用することができる。例えば、キャピラリー電気泳動−質量分析計CE/MS、高速液体クロマトグラフィー−質量分析計LC/MSあるいはLC/MS/MS、ガスクロマトグラフィー−質量分析計GC/MS、GC/GC/MSなどの分析機器で測定する方法が挙げられるが、分析サンプルの前処理操作性、定量性、迅速性などの観点から、LC/MS/MSで測定する方法が好ましい。
【0041】
工程(b)において、フェニルプロピオン酸系代謝物の量のみ、あるいは、フェニル酢酸系代謝物の量のみを測定することにより、目的の物質を選択することができるが、より高精度に目的の物質を選択するには、フェニルプロピオン酸系代謝物およびフェニル酢酸系代謝物の量を測定することが好ましい。
【0042】
生体試料中(例えば、血清中)のフェニルプロピオン酸系代謝物の量の増加は、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性の指標となる。従って、工程(c)においては、被験物質存在下におけるフェニルプロピオン酸系代謝物の量が、被検物質非存在下におけるフェニルプロピオン酸系代謝物の量を上回る場合に、好ましくは、約2倍以上である場合に、より好ましくは、約3倍以上である場合に、さらにより好ましくは、約4倍以上である場合に、特に好ましくは、約5倍以上である場合に、該被験物質が生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる、すなわち、該被験物質が生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させるのに有効な物質であると判定することができる。
【0043】
また、生体試料中(例えば、血清中)のフェニル酢酸系代謝物の量の低下は、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性の指標となる。従って、工程(c)においては、被験物質存在下におけるフェニル酢酸系代謝物の量が、被検物質非存在下におけるフェニル酢酸系代謝物の量を下回る場合に、好ましくは、約2/3以下である場合に、より好ましくは、約1/2以下である場合に、該被験物質が生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる、すなわち、該被験物質が生体内におけるポリフェノールの抗酸化作用を増強させるのに有効な物質であると判定することができる。
【0044】
さらに、生体試料中(例えば、盲腸内容物)のフェニル酢酸系代謝物の量に対するフェニルプロピオン酸系代謝物の量の比の増加は、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性の指標となる。従って、工程(c)においては、被験物質存在下におけるフェニル酢酸系代謝物の量に対するフェニルプロピオン酸系代謝物の量の比が、被検物質非存在下におけるフェニル酢酸系代謝物の量に対するフェニルプロピオン酸系代謝物の量の比を上回る場合に、好ましくは、約3倍以上である場合に、より好ましくは、約4倍以上である場合に、さらにより好ましくは、約5倍以上である場合に、特に好ましくは、約6倍以上である場合に、該被験物質が生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる、すなわち、該被験物質が生体内におけるポリフェノールの抗酸化作用を増強させるのに有効な物質であると判定することができる。
【0045】
本発明の好ましい態様によれば、下記工程を含んでなる判定方法である:
(i)ポリフェノールを摂取した哺乳類から生体試料を取得すること、
(ii)生体試料中のメタヒドロキシフェニルプロピオン酸および/またはメタヒドロキシフェニル酢酸の量を測定すること、および
(iii)メタヒドロキシフェニルプロピオン酸および/またはメタヒドロキシフェニル酢酸の量に基づいて、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を判定すること。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、下記工程を含んでなるスクリーニング方法である:
(a)被験物質存在下および被験物質非存在下において、ポリフェノールを摂取した哺乳類から生体試料(好ましくは、血清)を取得すること、
(b)生体試料中のメタヒドロキシフェニルプロピオン酸の量を測定すること、
(c)被験物質存在下および被験物質非存在下における、メタヒドロキシフェニルプロピオン酸の量を比較すること、および
(d)被験物質存在下におけるメタヒドロキシフェニルプロピオン酸の量が、被検物質非存在下におけるメタヒドロキシフェニルプロピオン酸の量の3倍以上である場合に、該被験物質が生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させるのに有効な物質であると判定すること。
【0047】
本発明の好ましい態様によれば、また、下記工程を含んでなるスクリーニング方法である:
(a)被験物質存在下および被験物質非存在下において、ポリフェノールを摂取した哺乳類から生体試料(好ましくは、盲腸内容物)を取得すること、
(b)生体試料中のメタヒドロキシフェニルプロピオン酸およびメタヒドロキシフェニル酢酸の量を測定すること、
(c)被験物質存在下および被験物質非存在下における、メタヒドロキシフェニル酢酸の量に対するメタヒドロキシフェニルプロピオン酸の量の比を比較すること、および
(d)被験物質存在下におけるメタヒドロキシフェニル酢酸の量に対するメタヒドロキシフェニルプロピオン酸の量の比が、被検物質非存在下におけるメタヒドロキシフェニル酢酸の量に対するメタヒドロキシフェニルプロピオン酸の量の比の5倍以上である場合に、該被験物質が生体内におけるポリフェノールの抗酸化作用を増強させるのに有効な物質であると判定すること。
【0048】
本発明によるスクリーニング方法によって選択された被験物質は、食品に適用することができる。
【0049】
本発明において「食品」は、哺乳類が摂取可能なものであればその形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料であってもよい。
【0050】
本発明において「食品」とは、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品を含む意味で用いられる。
【0051】
上記健康食品はまた、通常の食品の形状であっても、栄養補助食品の形状(例えば、サプリメント)であってもよい。栄養補助食品の形状としては、錠剤、カプセル剤(軟カプセルおよび硬カプセル)、顆粒剤等が挙げられる。
【0052】
本発明によるスクリーニング方法によって選択される被験物質は、人類が食品として長年摂取してきたものを利用することができることから、毒性も低く、哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いられる。該被験物質の摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して適宜決定することができる。例えば、被験物質を食品として摂取する場合には、成人1人1日当たり0.1g〜10g、好ましくは0.5g〜5g程度の摂取量となるように配合することができる。
【0053】
本発明によるキット
本発明によれば、本発明による判定方法またはスクリーニング方法を実施するためのキットが提供される。
【0054】
本発明によるキットは、例えば、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定するための種々の試薬や器具、説明書等を含むことができる。
【0055】
本発明による生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性増強剤
本発明によれば、キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ミルクオリゴ糖、およびアルギン酸またはその塩からなる群から選択される1種以上の物質を含んでなる、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性増強剤が提供される。
【0056】
キシロオリゴ糖は、キシロースがβ−1,4結合またはβ−1,3結合で、2、3、4、5、6、7、8、9、10残基重合したオリゴ糖を意味する。
【0057】
フラクトオリゴ糖は、スクロースに1個以上のフラクトース残基がβ2→1結合により結合されたオリゴ糖を意味し、例えば、1−ケストース、ニストース、およびフラクトシルニストースから選択される1種の糖または2種以上の糖の混合物等が挙げられる。
【0058】
ミルクオリゴ糖(ラクチュロース)は、ガラクトースとフルクトースからなる二糖を意味する。
【0059】
アルギン酸は、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸の2種のウロン酸が主としてβ1→4結合した多糖を意味する。アルギン酸は、低分子化されていてもよい。アルギン酸の塩としては、例えば、アルギン酸ナトリウムが挙げられる。
【0060】
キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ミルクオリゴ糖、またはアルギン酸もしくはその塩は、単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0061】
キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ミルクオリゴ糖、およびアルギン酸またはその塩は、それぞれ、市販されているものを入手することもできるし、公知の方法に従って製造することもできる。
【0062】
生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性増強剤の形状としては、錠剤、カプセル剤(軟カプセルおよび硬カプセル)、顆粒剤等が挙げられる。
【0063】
生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性増強剤は、通常の処方設計に用いられている添加剤等を適宜添加することができる。生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性増強剤は、さらにポリフェノールを含んでなることができる。
【0064】
生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性増強剤における有効成分の量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して適宜決定することができる。例えば、成人1人1日当たり0.1g〜10g、好ましくは0.5g〜5g程度の量となるように配合することができる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を具体的に記載するが、本発明の技術的範囲や概念がこれらの例示に限定されるものではない。
【0066】
実施例1:各種プレバイオティクス素材のポリフェノール腸内代謝物への影響
1.投与試料
ビタミン・ミネラル低減食(AIN76の変型食(オリエンタル酵母社製);ビタミンE、銅、セレン、亜鉛、マグネシウムがそれぞれ推奨値の1/3とした食餌)に、ポリフェノール4種(エピカテキン(シグマアルドリッチ社製)、ルチン(シグマアルドリッチ社製)、ナリンジン(シグマアルドリッチ社製)、クロロゲン酸(シグマアルドリッチ社製))と各種プレバイオティクス素材(表1)とを添加し試験食として用いた。各種ポリフェノールは最終濃度0.025%(クロロゲン酸のみ0.1%)、各種プレバイオティクス素材は5%となるように添加した。なお、コントロール食は、プレバイオティクス素材の代わりにコーンスターチを添加した。
【表1】

【0067】
2.実験動物および実験条件
Wistar系雄ラット(5週齢)をチャールズリバー社より購入し、7日間の馴化期間後、体重を基に群分けを行い、(1)試験食群(4〜5匹)、(2)コントロール食群(4〜5匹)とした。3週間飼育した後、解剖を実施した。
【0068】
餌を与える時間は17:00〜9:00に設定した。
【0069】
解剖時に、腹部大動脈血と盲腸内容物を回収し、血清中および盲腸内容物中の腸内代謝物をLC/MS/MSにより分析した。
【0070】
3.LC/MS/MS分析条件
〔使用機種〕
MS:4000QTRAP(ABI)
LC:LC−20AD(島津製作所)
〔LC条件〕
移動相:(A)0.1%ギ酸、(B)0.1%ギ酸含む50%アセトニトリル
グラジェント:0−20min/0−40%B、20.1−25min/10%B
カラム:SUPELCO Ascentis Express C18 2.1*7.5mm(2.7μm)
カラム温度:40℃、
流速:400μl/min、
インジェクト量:10μl
〔MS条件〕
カーテンガス(CUR):50、
コリジョンガス(CAD):8、
イオンスプレー電圧(IS):−4000、
温度(TEM):650、
ネブライザーガス(GS1):50、
ターボガス(GS2):80
〔サンプル処理条件〕
血清:酢酸エチル抽出
盲腸内容物:メタノール抽出
〔分析対象のポリフェノール代謝物〕
【表2】

*は、摂取したインタクト成分を示す。
【0071】
4.結果
摂取した各種プロバイオティクス素材によって、血清中のmHPPの増加程度、盲腸中のmHPPの増加程度、盲腸中のmHPAの減少程度がそれぞれ異なることが確認された(表3)。
【表3】

【0072】
ここで、本実施例によれば、腸内での吸収性・体内利用性が高いmHPPを増加させ、吸収性の低いmHPAを減少させるプレバイオティクス素材である、キシロオリゴ糖(XOS)に着目し、実施例2に供した。
【0073】
実施例2:mHPPの増加程度およびmHPAの減少程度とTEACとの相関関係の確認試験
1.投与試料
ビタミン・ミネラル低減食(実施例1と同じAIN76変型食)に、ポリフェノール4種(0.025%エピカテキン(シグマアルドリッチ社製)、0.025%ルチン(シグマアルドリッチ社製)、0.025%ナリンジン(シグマアルドリッチ社製)、0.1%クロロゲン酸(シグマアルドリッチ社製))、プレバイオティクス素材として2%または5%キシロオリゴ糖(サントリー社社製)とを添加し試験食として用いた。なお、ビタミン・ミネラル低減食を通常食として用いた。ビタミン・ミネラル低減食に、ポリフェノール4種(0.025%エピカテキン、0.025%ルチン、0.025%ナリンジン、0.1%クロロゲン酸)のみを添加しコントロール食Iとして用いた。ビタミン・ミネラル低減食に、キシロオリゴ糖(5%)のみを添加しコントロール食IIとして用いた。
【0074】
2.実験動物および実験条件
実施例1と同様に、Wistar系雄ラット(6週齢)を、(1)通常食群(4〜5匹)、(2)コントロール食I群(4〜5匹)、(3)コントロール食II群、(4〜5匹)、(4)2.5%試験食群(4〜5匹)、(5)5%試験食群(4〜5匹)とした。3週間飼育した後、解剖を実施した。
【0075】
3週間の飼育期間中は、1週間毎に尾静脈を採血し、血漿中のmHPP濃度を測定した。
【0076】
3週間摂取後の解剖時に、腹部大動脈血と盲腸内容物を回収し、血清中および盲腸内容物中の腸内代謝物をLC/MS/MSにより分析した。
【0077】
3.LC/MS/MS分析条件
実施例1と同様に実施した。
【0078】
4.抗酸化能の測定方法
抗酸化能の測定は、TEAC分析法を利用して行った。具体的には、Total Anti Oxidant Status kit(RANDOX社製)を使用して、製造元のプロトコールに従って測定した。
【0079】
5.結果
XOS濃度依存的、時間依存的に血中mHPPの増加が確認された(図1〜2)。盲腸内容物中のmHPPは相対的に増加し、一方、mHPAは相対的に低下することが確認された(図4)。また、TEAC法により測定された抗酸化活性もXOS濃度依存的に増加することが確認された(図5)。さらに、生体内におけるmHPPやmHPAの濃度とTEAC法による抗酸化能とが相関することが確認された(図6)。
【0080】
以上の結果から、生体内におけるmHPPの増加やmHPAの減少、mHPAに対するmHPPの比に基づいて、生体内におけるポリフェノールの抗酸化性を判定できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を判定する方法であって、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定することを含んでなる、方法。
【請求項2】
被験物質存在下および被験物質非存在下における、生体試料中のフェニルプロピオン酸系代謝物および/またはフェニル酢酸系代謝物の量を測定することを含んでなる、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質のスクリーニング方法。
【請求項3】
被験物質非存在下におけるフェニルプロピオン酸系代謝物の量に対して、被験物質存在下における前記量が増加する場合に、該被験物質を生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質と決定することを更に含んでなる、請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
被験物質非存在下におけるフェニル酢酸系代謝物の量に対して、被験物質存在下における前記量が低下する場合に、該被験物質を生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質と決定することを更に含んでなる、請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
被験物質存在下におけるフェニル酢酸系代謝物に対するフェニルプロピオン酸系代謝物の比が、被験物質非存在下における前記比を上回る場合に、該被験物質を生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性を増強させる物質と決定することを更に含んでなる、請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
生体試料が、ポリフェノールを摂取している哺乳類に由来する、請求項2〜5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ミルクオリゴ糖、およびアルギン酸またはその塩からなる群から選択される1種以上の物質を含んでなる、生体内におけるポリフェノールの抗酸化活性増強剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68545(P2013−68545A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207872(P2011−207872)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】