説明

生体内分解性縫合糸

【課題】従来技術では困難であった生体内で分解する際のpH変化の少なく、平滑性を有する生体内分解性縫合糸を提供すること。
【解決手段】ポリペプチドから作製されることを特徴とする、生体内分解性縫合糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチドを用いた生体内分解性縫合糸に関する。
【背景技術】
【0002】
手術時の組織の縫合には、ナイロン等の非分解性の縫合糸やポリ乳酸やポリグリコール酸等の生体内分解性縫合糸が用いられている。前者は種々の性質の縫合糸が上市されており、満足度の高い製品となっている。一方、後者の生体内分解性縫合糸は用いられる素材も非常に限られており、必ずしも臨床で要求される性質を完全に満たしているとは言えない。これらの縫合糸に要求される性質として、(1)素材自身が生体内で毒性を有さないこと、(2)分解物が安全であること、(3)適度な平滑性を有すること、(4)結節強力であることが挙げられる。
【0003】
現在上市されている生体内分解性縫合糸としてはポリ乳酸やポリグリコール酸といった分解部位がエステル結合である合成高分子が用いられている(特許文献1)。該ポリマーは生体内分解性のポリマーであり、非常に生体適合性が高いことが知られている。しかしながら、分解時に酸が発生するため、組織の局所部位でのpHが大きく低下し、損傷部位の修復を遅らせる恐れがある。
【0004】
また、上記のような合成高分子は疎水性が高く、水分の割合の高い組織に適用する際には、生体と縫合糸との水分割合が大きく異なるため、生体とのなじみに問題がある。
【特許文献1】特開昭63−264913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術では困難であった生体内で分解する際のpH変化の少なく、平滑性を有する生体内分解性縫合糸を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリペプチドを素材として用いて縫合糸を作製することにより、分解時にpHが大幅に低下せず、かつ平滑性を有する生体内分解性縫合糸を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、ポリペプチドから作製されることを特徴とする、生体内分解性縫合糸が提供される
好ましくは、ポリペプチドは、生体由来のタンパク質、又は遺伝子組み換えタンパク質である。
好ましくは、ポリペプチドは、遺伝子組み換えゼラチンである。
【0008】
好ましくは、本発明の生体内分解性縫合糸は、さらに多糖を構成成分として含む。
好ましくは、多糖はグリコサミノグリカン、キチン、又はキトサンである。
【0009】
好ましくは、ポリペプチドは架橋されている。
好ましくは、該架橋は光、熱、縮合剤、又は酵素による架橋である。
好ましくは、該架橋はグルタルアルデヒドによる架橋である。
【0010】
好ましくは、糸は、膨潤状態、又は乾燥状態である。
好ましくは、本発明の生体内分解性縫合糸は、ポリペプチドと溶媒を含む溶液を射出して糸を成形することにより作製される。
好ましくは、溶媒は、水または有機フッ素化合物である。
好ましくは、溶媒は有機フッ素化合物である。
好ましくは、溶媒は1,1,1,3,3,3‐ヘキサフルオロ-2プロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノールである。
【0011】
好ましくは、糸の半分が分解した際の糸内部のpHは5以上8以下である。
好ましくは、糸の全てを加水分解した際のカルボン酸基は20 mol%以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、(1)素材自身が毒性を示さず、(2)分解時にpHが大幅に低下せず(分解物が毒性を示さない)、組織の修復を阻害せず、(3)平滑性が高い生体内分解性縫合糸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いるポリペプチドはタンパク質であることが好ましく、中でもゼラチンが最も好ましい。ゼラチンは天然型でも構わないが、縫合糸に必要な各種パラメーターの精密な設計を可能にすることから、遺伝子組み換えゼラチンであることが特に好ましい。
【0014】
遺伝子組み換えゼラチンとしては、例えば、EP0926543B、EP1014176A,WO2002/052342、EP1063565B、WO2004/085473、US6992172、WO2006/91099、WO2005/011740に記載のものを用いることができるがこれらに限定されるものではない。また、該生体高分子は部分的に加水分解されていてもよい。該ゼラチンは生体由来のコラーゲンの配列とのアミノ酸同一性が40%であればよく、より好ましくは50%以上である。より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。ここで言うコラーゲンとは天然に存在するものであればいずれであっても構わないが、好ましくはI型、II型、III型、IV型、およびV型である。より好ましくは、I型、II型、III型である。別の形態によると、該コラーゲンの由来は好ましくは、ヒト、ウシ、ブタ、マウス、ラットである。より好ましくはヒトである。
【0015】
該遺伝子組み換えゼラチンの等電点は4.8〜10であり、より好ましくは5〜10である。より好ましくは5〜9.5である。
【0016】
遺伝子組み換えゼラチンがコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が2 KDa以上100 KDa以下である。より好ましくは2.5 KDa以上95KDa以下である。より好ましくは5 KDa以上90 KDa以上である。最も好ましくは、10 KDa以上90KDa以下である。コラーゲンに特徴的なGXY部分とは、ゼラチン・コラーゲンのアミノ酸組成および配列における、他のタンパク質と比較して非常に特異的な部分構造である。この部分においてはグリシンが全体の約3分の1を占め、アミノ酸配列では3個に1個の繰り返しとなっている。グリシンは最も簡単なアミノ酸であり、分子鎖の配置への束縛も少なく、ゲル化に際してのヘリックス構造の再生に大きく寄与している。X,Yであらわされるアミノ酸はイミノ酸(プロリン、オキシプロリン)が多く含まれ、全体の10%〜45%を占める。
【0017】
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは脱アミン化されていない。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンはプロコラーゲンおよびプロコラーゲンを有さない。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは天然コラーゲンをコードする核酸により調製された実質的に純粋なコラーゲン様材料である。
【0018】
遺伝子組み換えゼラチンなどのポリペプチドは、その他の合成高分子との混合物としても利用することができる。好ましくは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびそれらの共重合体、ポリ(ε―カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)、ポリ(ビスーカルボキシフェノキシプロパン)、ビスカルボキシフェノキシプロパンーセバシン酸共重合体、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ベンジルエステル、ヒアルロン酸エチルエステル、アセチルセルロースである。
【0019】
本発明で用いる合成高分子の分子量は特に限定することはないが、実質的には1KDa以上10MDa以下である。好ましくは5 KDa以上500 KDa以下である。最も好ましくは10 KDa以上100 KDa以下である。さらに、該合成高分子は架橋および化学修飾が施されていても構わない。
【0020】
本発明では、生体内分解性縫合糸を作製するための素材として、遺伝子組み換えゼラチンなどのポリペプチドと一緒に多糖を用いることができる。本発明で用いることができる多糖の種類は、本発明を実施可能である限りは特に限定はないが、好ましくはグリコサミノグリカン、κカラギナン、キチン、キトサンである。多糖の使用量は特に限定されないが、ポリペプチドの使用量に対して一般的には0.1%から50%、好ましくは1%から20%程度である。特に、κカラギナンを混合すると、ゲルの強度が向上することがある。
【0021】
本発明におけるポリペプチドは架橋されていてもよい。架橋は光、熱、架橋剤(化学化架橋剤(縮合剤)、又は酵素など)によって行うことができる。本発明で用いる架橋剤は本発明を実施可能である限りは特に限定はなく、化学架橋剤でも酵素でもよい。化学架橋剤としては、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、シアナミドなどが挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドである。
【0022】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、ポリペプチドの架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼおよびラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として発売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなど、ヒト由来の血液凝固因子(Factor XIIIa、 Haematologic Technologies, Inc.社)などが挙げられる。
【0023】
生体高分子の架橋には生体高分子の溶液と架橋剤を混合する過程とそれらの均一溶液の反応する過程の2つの過程を有する。
【0024】
本発明においてポリペプチドを架橋剤で処理する際の混合温度は、溶液を均一に攪拌できる限り特に限定されないが、好ましくは0℃〜40℃であり、より好ましくは0℃〜30℃であり、より好ましくは3℃〜25℃であり、より好ましくは3℃〜15℃であり、さらに好ましくは3℃〜10℃であり、特に好ましくは3℃〜7℃である。
【0025】
ポリペプチドと架橋剤を攪拌した後は温度を上昇させることができる。反応温度としては架橋が進行する限りは特に限定はないが、ポリペプチドの変性や分解を考慮すると実質的には0℃〜60℃であり、より好ましくは0℃〜40℃であり、より好ましくは3℃〜25℃であり、より好ましくは3℃から15℃であり、さらに好ましくは3℃〜10℃であり、特に好ましくは3℃〜7℃である。
【0026】
軟骨等の生体組織は稼動により磨耗されうる場所であるが、実際は非常に摩擦係数が小さいことが知られている。それは生体組織がゲル状態であることであるといわれている。ゲルは摩擦を受けた際に、表面付近で構造変化が起こり、低摩擦となっている。従って、本発明で作製される糸はゲルとして組織との低摩擦の糸を提供することも可能である。
【0027】
得られる糸の使用の際は、乾燥、湿潤のいずれの場合でも構わないが、使用時の組織との摩擦が最低限にしたいときは、湿潤状態で用いることが望ましい。
【0028】
本発明の生体内分解性縫合糸は、例えば、ポリペプチドと溶媒を含む溶液を射出して糸を成形することにより作製することができる。本発明の縫合糸を作製する際に使用する溶媒は、水または有機フッ素化合物であることが好ましく、有機フッ素化合物であることがさらに好ましい。溶媒は、より好ましくは炭素数1から8の有機フッ素化合物であり、さらに好ましくは炭素数1から6の有機フッ素化合物であり、さらに好ましくは炭素数1から3の有機フッ素化合物である。溶媒は、特に好ましくは、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、またはペンタフルオロプロピオン酸である。
【0029】
本発明の目的を達成するために、好ましくは本発明の縫合糸の半分が分解した際の糸内部のpHが5以上8以下であることが好ましい。また、縫合糸すべてを加水分解した際のカルボン酸基が20 mol%以下であることが好ましい。
【0030】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1: 遺伝子組み換えゼラチンの合成
コラーゲンに特徴的なGXY配列を有する遺伝子組み換えゼラチンを先行例に従って合成した(EP-A-0926453、EP-A-1014176、WO01/34646、WO2006/091099)。配列の一例を示すがこれらに限定されるものではない。
【0032】
名称:HU(配列番号1)
GPPGEPGPTGLPGPPGERGGPGSRGFPGADGVAGPKGPAGERGSPGPAGPKGSPGEAGRPGEAGLPGAKGLTGSPGSPGPDGKTGPPGPAGQDGRPGPPGPPGARGQAGVMGFPGPKGAAGEPGKAGERGVPGPPGAVGPAGKDGEAGAQGPPGPAGPAGERGEQGPAGSPGFQGLPGPAGPPGEAGKPGEQGVPGDLGAPGPSGPA
【0033】
名称:HU3(配列番号2)
GPPGEPGPTGLPGPPGERGGPGSRGFPGADGVAGPKGPAGERGSPGPAGPKGSPGEAGRPGEAGLPGAKGLTGSPGSPGPDGKTGPPGPAGQDGRPGPPGPPGARGQAGVMGFPGPKGAAGEPGKAGERGVPGPPGAVGPAGKDGEAGAQGPPGPAGPAGERGEQGPAGSPGFQGLPGPAGPPGEAGKPGEQGVPGDLGAPGPSGPAGEPGPTGLPGPPGERGGPGSRGFPGADGVAGPKGPAGERGSPGPAGPKGSPGEAGRPGEAGLPGAKGLTGSPGSPGPDGKTGPPGPAGQDGRPGPPGPPGARGQAGVMGFPGPKGAAGEPGKAGERGVPGPPGAVGPAGKDGEAGAQGPPGPAGPAGERGEQGPAGSPGFQGLPGPAGPPGEAGKPGEQGVPGDLGAPGPSGPAGEPGPTGLPGPPGERGGPGSRGFPGADGVAGPKGPAGERGSPGPAGPKGSPGEAGRPGEAGLPGAKGLTGSPGSPGPDGKTGPPGPAGQDGRPGPPGPPGARGQAGVMGFPGPKGAAGEPGKAGERGVPGPPGAVGPAGKDGEAGAQGPPGPAGPAGERGEQGPAGSPGFQGLPGPAGPPGEAGKPGEQGVPGDLGAPGPSGPAG
【0034】
名称:HU4(配列番号3)
GPPGEPGPTGLPGPPGERGGPGSRGFPGADGVAGPKGPAGERGSPGPAGPKGSPGEAGRPGEAGLPGAKGLTGSPGSPGPDGKTGPPGPAGQDGRPGPPGPPGARGQAGVMGFPGPKGAAGEPGKAGERGVPGPPGAVGPAGKDGEAGAQGPPGPAGPAGERGEQGPAGSPGFQGLPGPAGPPGEAGKPGEQGVPGDLGAPGPSGPAGEPGPTGLPGPPGERGGPGSRGFPGADGVAGPKGPAGERGSPGPAGPKGSPGEAGRPGEAGLPGAKGLTGSPGSPGPDGKTGPPGPAGQDGRPGPPGPPGARGQAGVMGFPGPKGAAGEPGKAGERGVPGPPGAVGPAGKDGEAGAQGPPGPAGPAGERGEQGPAGSPGFQGLPGPAGPPGEAGKPGEQGVPGDLGAPGPSGPAGEPGPTGLPGPPGERGGPGSRGFPGADGVAGPKGPAGERGSPGPAGPKGSPGEAGRPGEAGLPGAKGLTGSPGSPGPDGKTGPPGPAGQDGRPGPPGPPGARGQAGVMGFPGPKGAAGEPGKAGERGVPGPPGAVGPAGKDGEAGAQGPPGPAGPAGERGEQGPAGSPGFQGLPGPAGPPGEAGKPGEQGVPGDLGAPGPSGPAGEPGPTGLPGPPGERGGPGSRGFPGADGVAGPKGPAGERGSPGPAGPKGSPGEAGRPGEAGLPGAKGLTGSPGSPGPDGKTGPPGPAGQDGRPGPPGPPGARGQAGVMGFPGPKGAAGEPGKAGERGVPGPPGAVGPAGKDGEAGAQGPPGPAGPAGERGEQGPAGSPGFQGLPGPAGPPGEAGKPGEQGVPGDLGAPGPSGPAGG
【0035】
名称:P(配列番号4)
GPPGEPGNPGSPGNQGQPGNKGSPGNPGQPGNEGQPGQPGQNGQPGEPGSNGPQGSQGNPGKNGQPGSPGSQGSPGNQGSPGQPGNPGQPGEQGKPGNQGPAGG
【0036】
名称:P4(配列番号5)
GPPGEPGNPGSPGNQGQPGNKGSPGNPGQPGNEGQPGQPGQNGQPGEPGSNGPQGSQGNPGKNGQPGSPGSQGSPGNQGSPGQPGNPGQPGEQGKPGNQGPAGEPGNPGSPGNQGQPGNKGSPGNPGQPGNEGQPGQPGQNGQPGEPGSNGPQGSQGNPGKNGQPGSPGSQGSPGNQGSPGQPGNPGQPGEQGKPGNQGPAGEPGNPGSPGNQGQPGNKGSPGNPGQPGNEGQPGQPGQNGQPGEPGSNGPQGSQGNPGKNGQPGSPGSQGSPGNQGSPGQPGNPGQPGEQGKPGNQGPAGEPGNPGSPGNQGQPGNKGSPGNPGQPGNEGQPGQPGQNGQPGEPGSNGPQGSQGNPGKNGQPGSPGSQGSPGNQGSPGQPGNPGQPGEQGKPGNQGPAGG
【0037】
実施例2:ゼラチン縫合糸の作製
ブタ皮膚酸処理ゼラチン(ニッピ社製)、または実施例1にて合成した遺伝子組み換えゼラチンまたはフィブロジェン社製遺伝子組み換えゼラチン(100 KDa)、および2%グルタルアルデヒド(GA)を含む1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)-水混合溶液(ゼラチン濃度:20%、HFIP/水=11.5)を4℃でシリンジから射出し、糸を成形した後、40℃で15時間静置した。該糸を5Mグリシン水溶液に浸漬し、40℃で15時間静置した。該糸を水にて洗浄したのち、HFIPを除去し(温度:50℃、湿度:95%、時間:3日)、架橋ゼラチンによる糸を作製した。いずれのゼラチンを用いた場合も架橋ゼラチンによる縫合糸を作製できた。また、HFIPの代わりに2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)を用いても同様の結果を得た。
【0038】
また、ブタ皮膚酸処理ゼラチン(ニッピ社製)、または実施例1にて合成した遺伝子組み換えゼラチンまたはフィブロジェン社製遺伝子組み換えゼラチン(100 KDa)、および2%グルタルアルデヒド(GA)を含む水溶液(ゼラチン濃度:20%)を30℃でシリンジから射出し、一晩静置することで、架橋ゼラチンによる糸を作製した。いずれのゼラチンを用いた場合も架橋ゼラチンによる縫合糸を作製できた。
【0039】
上記作製した糸のうち、HFIPより作製した糸は水より作製した糸に比べて強度を有した。
【0040】
実施例3:キトサンーゼラチン縫合糸の作製
ブタ皮膚酸処理ゼラチン(20%)、キトサン(1%、和光純薬製)、およびグルタルアルデヒド(2%)を含むHFIP−水混合溶液(HFIP/水=11.5)を4℃でシリンジから射出し、糸を成形した後、40℃で15時間静置した。該糸を5Mグリシン水溶液に浸漬し、40℃で15時間静置した。該糸を水にて洗浄したのち、HFIPを除去し(温度:50℃、湿度:95%、時間:3日)、架橋ゼラチンーキトサン混合糸を得た。
【0041】
実施例4:分解時のpH
糸の分解時の内部のpH変化を調べるため、別に上記と同様の組成のゼラチン構造物(5 mm四方)を作製した。比較例としてポリ乳酸をテトラヒドロフランにて溶解、キャストすることで構造物を作製した(5 mm四方)。ゼラチン構造物をコラゲナーゼにて構造物の半分が分解したところで、構造物を取り出し、切開し、pH試験紙によりpHを測定した。
【0042】
一方、ポリ乳酸を高温(80℃)、高湿(湿度:100%)で静置し、構造物の半分が分解したところで構造物を取り出し、切開し、pH試験紙によりpHを測定した。
【0043】
いずれのゼラチンを用いた場合も、ゼラチン構造物のpHは約5-7であったのに対し、ポリ乳酸内部のpHは約2であった。ポリ乳酸やポリグリコール酸により作製した糸は体内で分解される際に組織の局所で大きなpH変化を引き起こしているのに対し、ゼラチンにより作製した糸は生体内で分解する際のpH変化を低減することができたと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドから作製されることを特徴とする、生体内分解性縫合糸。
【請求項2】
ポリペプチドが、生体由来のタンパク質、又は遺伝子組み換えタンパク質である、請求項1に記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項3】
ポリペプチドが、遺伝子組み換えゼラチンである、請求項1又は2に記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項4】
さらに多糖を構成成分として含む、請求項1から3の何れかに記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項5】
多糖がグリコサミノグリカン、κカラギナン、キチン、又はキトサンである、請求項4に記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項6】
ポリペプチドが架橋されている、請求項1から5の何れかに記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項7】
該架橋が光、熱、縮合剤、又は酵素による架橋である、請求項6に記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項8】
該架橋がグルタルアルデヒドによる架橋である、請求項6又は7に記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項9】
該糸が、膨潤状態、又は乾燥状態である、請求項1から8の何れかに記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項10】
ポリペプチドと溶媒を含む溶液を射出して糸を成形することにより作製される、請求項1から9の何れかに記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項11】
該溶媒が、水または有機フッ素化合物である、請求項10に記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項12】
該溶媒が有機フッ素化合物である、請求項10に記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項13】
該溶媒が1,1,1,3,3,3‐ヘキサフルオロ-2プロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノールである、請求項10に記載の生体内分解性縫合糸。
【請求項14】
糸の半分が分解した際の糸内部のpHが5以上8以下である、請求項1から13の何れかに記載の生体内分解性縫合糸。

【公開番号】特開2008−264147(P2008−264147A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110040(P2007−110040)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】