説明

生体内抗酸化材、生体内抗酸化用食品組成物及び生体内抗酸化用医薬品組成物、並びに肝機能障害抑制材、肝機能障害抑制用食品組成物及び肝機能障害抑制用医薬品組成物

【課題】工業的に生産し易く、安価で実用性の高い生体内抗酸化材、生体内抗酸化用食品組成物及び生体内抗酸化用医薬品組成物、並びに肝機能障害抑制材、肝機能障害抑制用食品組成物及び肝機能障害抑制用医薬品組成物の提供。
【解決手段】卵白加水分解物を有効成分として含む生体内抗酸化材であり、前記卵白加水分解物が、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる、生体内抗酸化材。生体内抗酸化材を有効成分として含む肝機能障害抑制材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内抗酸化材、生体内抗酸化用食品組成物及び生体内抗酸化用医薬品組成物、並びに肝機能障害抑制材、肝機能障害抑制用食品組成物及び肝機能障害抑制用医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性酸素による生体内酸化が、癌、動脈硬化、炎症、糖尿病による合併症、肝機能障害、アルツハイマー病など、種々の疾患の原因になっているといわれている。しかしながら、生体内酸化は、呼吸をしている以上、逃れることはできない。そこで、生体内で生じた活性酸素を除去し、生体内酸化を抑制するような食品や医薬品の出現が望まれている。
【0003】
生体内抗酸化作用を示す物質として、例えば、His-Ser-Ser-Leu-Argのアミノ酸配列で示されるペプチドを有する好中球の活性酸素阻害剤(特許文献1)、また、乳蛋白由来の特定のアミノ酸配列からなるペプチドを配合した抗酸化用飲食品または飼料(特許文献2)が開示されている。しかしながら、これらの特許文献に記載された物質は、いずれも、特定のアミノ酸配列のペプチドを用いており、特定のアミノ酸配列のペプチドを工業的に生産することは難しく、生産コストがかかるため実用化には到っていない。
【0004】
【特許文献1】特開2000−143696号公報
【特許文献2】特開2006−131626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、工業的に生産し易く、安価で実用性の高い生体内抗酸化材、生体内抗酸化用食品組成物及び生体内抗酸化用医薬品組成物、並びに肝機能障害抑制材、肝機能障害抑制用食品組成物及び肝機能障害抑制用医薬品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、抗酸化性を有する物質に関して鋭意研究を重ねた結果、意外にも食品に対して抗酸化性を有する卵白加水分解物が生体内でも抗酸化作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)卵白加水分解物を有効成分として含む生体内抗酸化材、
(2)前記卵白加水分解物が、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理してなる、(1)記載の生体内抗酸化材、
(3)前記卵白加水分解物が、さらにパパインで処理してなる、(2)記載の生体内抗酸化材、
(4)生体内抗酸化材が生体膜の脂質抗酸化材である(1)乃至(3)のいずれかに記載の生体内抗酸化材、
(5)前記生体膜の脂質抗酸化材がHEL生成抑制材である(4)記載の生体内抗酸化材、
(6)前記生体膜の脂質抗酸化材が肝細胞の脂質抗酸化材である(4)又は(5)記載の生体内抗酸化材、
(7)(1)乃至(6)のいずれかに記載の生体内抗酸化材を含む、生体内抗酸化用食品組成物、
(8)(1)乃至(6)のいずれかに記載の生体内抗酸化材を含む、生体内抗酸化用医薬品組成物、
(9)(6)記載の生体内抗酸化材を有効成分として含む肝機能障害抑制材、
(10)(9)記載の肝機能障害抑制材を含む、肝機能障害抑制用食品組成物、
(11)(9)記載の肝機能障害抑制材を含む、肝機能障害抑制用医薬品組成物、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、工業的に生産し易く、安価で実用性の高い卵白加水分解物を有効成分として含む生体内抗酸化材を提供することができる。また、本発明の生体内抗酸化材を食品組成物や医薬品組成物に用いることにより、癌、動脈硬化、炎症、糖尿病による合併症、肝機能障害、アルツハイマー病など種々の疾患の予防または改善効果のある生体内抗酸化用食品組成物及び生体内抗酸化医薬品組成物が得られる。また、本発明は、前記生体内抗酸化材を有効成分として含む肝機能障害抑制材を提供することができ、この肝機能障害抑制材を食品や医薬品に使用することで、肝機能障害の予防または改善効果のある肝機能障害抑制用食品組成物及び肝機能障害抑制用医薬品組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。なお、本発明において、「%」は特記しない限り「質量%」を意味する。
【0010】
本発明の生体内抗酸化材は、卵白加水分解物を有効成分として含む。すなわち、本発明で用いる卵白加水分解物は活性酸素により引き起こされる生体内酸化を抑制する生体内抗酸化作用を有するため生体内抗酸化材として使用可能である。
【0011】
また、活性酸素により引き起こされる生体内酸化の中でも、前記本発明で用いる卵白加水分解物は、生体膜における過酸化脂質の生成を抑制する作用を有するため、生体膜の脂質抗酸化材として使用可能であり、特に、前記卵白加水分解物は、このような生体膜における過酸化脂質の生成の初期段階に生じるHEL(ヘキサノイルリジン)の生成を抑制する作用を有することから、HEL生成抑制材として使用可能である。更に、本発明で用いる卵白加水分解物は、肝細胞生体膜における過酸化脂質の生成を抑制する作用を有することから、肝細胞の脂質抗酸化材として使用可能である。
【0012】
このような本発明の生体内抗酸化材を食品や医薬品に使用することで、生体内酸化を原因とする肝機能障害、癌、動脈硬化、炎症、糖尿病による合併症、アルツハイマー病など種々の疾患の予防または改善効果のある生体内抗酸化用食品組成物及び生体内抗酸化医薬品組成物が得られる。
【0013】
また、本発明の肝機能障害抑制材は、前記生体内抗酸化材、すなわち、卵白加水分解物を有効成分として含む。上記疾患の中でも肝機能障害は、肝細胞生体膜における過酸化脂質の生成により引き起こされるが、前記本発明の抗酸化材は、この肝細胞生体膜における過酸化脂質の生成を抑制する作用を有するため肝機能障害抑制材として使用可能である。
【0014】
前記本発明の肝機能障害抑制材を食品や医薬品に使用することで、肝機能障害の予防または改善効果のある肝機能障害抑制用食品組成物及び肝機能障害抑制用医薬品組成物が得られる。
【0015】
本発明に用いる卵白加水分解物は、卵白を加水分解したものであり、加水分解の後、水懸濁液の形態で、本発明の生体内抗酸化材の原材料として用いてもよいし、あるいは、乾燥させてから、本発明の生体内抗酸化材の原材料として用いてもよい。卵白加水分解物を乾燥させる方法としては、例えば、スプレードライ、凍結乾燥などが挙げられる。
【0016】
本発明において、卵白加水分解物を製造する際に使用される卵白としては、例えば、生卵白、冷凍卵白、乾燥卵白を水戻ししたもの、特定の卵白タンパク質(例えばリゾチームなど)を除去した卵白等が挙げられる。ここで、生卵白とは、鶏卵等を割卵し、卵黄を分離して得られるものをいう。また、卵白は例えば、酵母、細菌や酵素により脱糖処理を施されたものであってもよい。
【0017】
本発明において、卵白の加水分解方法は、化学処理によるもの、酵素処理によるものいずれであってもよい。化学処理とは、酸、アルカリ、臭化メチル等による分解が挙げられる。品質安定の点より、酵素処理による加水分解が好ましく、特にプロテアーゼによる酵素処理がより好ましい。
【0018】
本発明において、卵白加水分解物を製造する際に使用されるプロテアーゼとしては、例えば、動物由来(例えば、ペプシン、キモトリプシン、トリプシン、パンクレアチン)、植物由来(例えば、パパイン、ブロメライン、フィシン)、微生物由来(例えば、乳酸菌、枯草菌、放線菌、カビ、酵母)のエンドプロテアーゼおよびエキソプロテアーゼ、ならびにこれらの粗精製物および菌体破砕物が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、優れた生体内抗酸化作用を有する卵白加水分解物を得るためには、プロテアーゼとして、アスペルギルス(Aspergillus)属菌起源の中性プロテアーゼを使用して卵白を加水分解処理するのが好ましい。
【0019】
アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼとしては、市販のものを使用することができ、例えば、商品名:プロテアーゼP「アマノ」3G(起源:Aspergillus melleus,天野エンザイム(株))、商品名:スミチームFP(起源:Aspergillus oryzae,新日本化学工業(株))、商品名:デナチームAP(起源:Aspergillus
oryzae,ナガセケムテックス(株))が挙げられる。
【0020】
例えば、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼを使用して卵白を加水分解処理する場合、卵白のpHを6.5〜9.5(好ましくはpH7)に調整し、この卵白にアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼを添加し、ゆっくりと攪拌しながら、液を35〜60℃(好ましくは45〜55℃)にて2〜24時間保持する。次に、この液を加熱殺菌処理し、次いで冷却した後、スプレードライ等により、粉末状の卵白加水分解物を得ることができる。なお、pH、温度条件、および加熱時間は、使用するプロテアーゼの種類および組み合わせに応じて適宜調整するとよい。
【0021】
本発明において、卵白加水分解物は、上述のアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼにさらにパパインを用いて卵白を加水分解して得られたものであることがより好ましい。パパインは、パパイヤ(Carica Papaya L)の乳汁から抽出されるプロテアーゼである。パパインを用いて卵白を加水分解することにより、加水分解を促進させることができ、より優れた生体内抗酸化作用を有する卵白加水分解物を得ることができる。なお、パパインのみを用いて卵白を加水分解すると、得られる卵白加水分解物の苦味が強くなり、この卵白分解物を食品組成物および医薬品組成物に添加すると、本発明の食品組成物および医薬品組成物の風味が低下することがある。
【0022】
ここで、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインを卵白に添加する順序は特に限定されず、パパインを先に添加してもよく、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼを先に添加してもよく、または、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインを同時に添加してもよい。あるいは、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインを別々に用いて加水分解を行ってもよい。
【0023】
パパインとしては、市販のものを使用することができ、例えば、商品名:食品用精製パパイン(ナガセケムテックス(株))、商品名:パパインF((株)樋口商会)、商品名:パパインW−40(天野エンザイム(株))、商品名:Papain(Solvay Enzymes, Inc.)が挙げられる。
【0024】
本発明の生体内抗酸化用食品組成物は、生体内抗酸化材を含む。すなわち、本発明の生体内抗酸化用食品組成物は生体内抗酸化材の有効成分である卵白加水分解物を含む。
【0025】
また、本発明の肝機能障害抑制用食品組成物は、肝機能障害抑制材を含む。すなわち、本発明の肝機能障害抑制用食品組成物は、肝機能障害抑制材の有効成分である生体内抗酸化材を含む。
【0026】
これら本発明の食品組成物に添加する卵白加水分解物の形態は、用途に応じて選択することができる。そして、本発明の生体内抗酸化材の配合量は、使用する食品により適宜調整すればよいが、あまり少なすぎても生体内抗酸化効果、あるいは、肝機能障害抑制効果が得られ難く、一方、あまり多すぎても効果が得られ難くなる場合があることから、食品組成物における生体内抗酸化材の有効成分である卵白加水分解物の含有量は、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.05〜10質量%、さらに好ましくは0.3〜5質量%である。
【0027】
本発明の食品組成物の態様は特に限定されないが、例えば、加工食品であることができる。加工食品としては、例えば、菓子類、豆類の調製品、マヨネーズ、ドレッシング類、酪農製品(乳飲料、発酵乳、乳酸菌飲料、乳製品乳酸菌飲料など)、加工卵製品、調理食品、飲料(清涼飲料など)、濃厚流動食等が挙げられる。
【0028】
また、本発明の生体内抗酸化材を含んだ食品製剤(サプリメント)を調製することができる。この場合、種々の食品素材または飲料品素材を添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、カプセル状、液状(ドリンク剤など)などの形態の食品製剤とすることができる。また、この食品製剤には、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤などを適宜添加してもよい。
【0029】
本発明の食品組成物は、ポリフェノール等の生体抗酸化作用を有する他の物質と組み合わせて用いることもできる。また、肝機能改善効果のある物質、例えば牡蠣抽出物等と組み合わせて用いることもできる。
【0030】
本発明の生体内抗酸化用医薬品組成物は、生体内抗酸化材を含む。すなわち、本発明の生体内抗酸化用医薬品組成物は、生体内抗酸化材の有効成分である卵白加水分解物を含む。
【0031】
また、本発明の肝機能障害抑制用医薬品組成物は、肝機能障害抑制材を含む。すなわち、本発明の肝機能障害抑制用医薬品組成物は、肝機能障害抑制材の有効成分である生体内抗酸化材を含む。
【0032】
これら本発明の医薬品組成物に添加する卵白加水分解物の形態は、用途に応じて選択することができる。そして、本発明の生体内抗酸化材の配合量は、使用する医薬品により適宜調整すればよいが、あまり少なすぎても生体内抗酸化効果、あるいは、肝機能障害抑制効果が得られ難く、一方、あまり多すぎても効果が得られ難くなる場合があることから、医薬品組成物における生体内抗酸化材の有効成分である卵白加水分解物の含有量は、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.05〜10質量%、さらに好ましくは0.3〜5質量%である。
【0033】
本発明の医薬品組成物の投与形態は特に限定されないが、例えば、経口投与、経管投与などが挙げられる。投与時期は例えば、食前、食後、食間のいずれかであってもよい。また、投与回数は例えば1日1〜数回である。
【0034】
本発明の医薬品組成物の剤型は特に限定されないが、経口剤であることができる。例えば、上述した本発明の生体内抗酸化材を含む材料を下記剤型に加工することができる。
【0035】
経口剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤、ドリンク剤などの内服剤が挙げられる。この場合、本発明の医薬品組成物は、本発明の生体内抗酸化材とともに、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤などを含むことができる。ここで、錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。また、カプセル剤は、上記の材料にさらに油脂などの液体担体を含有させることができる。シロップ剤およびドリンク剤には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤などを含有させてもよい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、以下の記載は本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
【0037】
実施例1
液卵白(キユーピー(株)製)180kgをタンクに投入し、クエン酸を用いてpH7に調整した。次に、イースト(オリエンタル酵母(株)製)300gを添加し、液温を35℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら4時間脱糖処理を行った。その後、液温を65℃まで昇温した後、65℃にて30分間攪拌した。次いで、得られた脱糖処理液にAspergillus oryzae起源の中性プロテアーゼ(商品名「デナチームAP」、ナガセケムテックス(株)製)150gおよびパパイン(商品名「食品用精製パパイン」、ナガセケムテックス(株)製)150gを添加し、液温を55℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら6時間酵素処理を行った。さらに、得られた酵素処理液をニーダーにて97℃で10分間処理した
後、10℃以下に冷却し、スプレードライを行った。これにより、13.7kgの卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を得た。なお、卵白加水分解物のホルモル滴定による分解度は11.3であった。
【0038】
実施例2
液卵白(キユーピー(株)製)180kgをタンクに投入し、クエン酸を用いてpH7に調整した。次に、この液卵白にAspergillus oryzae起源の中性プロテアーゼ(商品名「スミチームFP」、新日本化学工業(株)製)200gを添加し、液温を45℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら8時間酵素処理を行った。次いで、得られた酵素処理液をニーダーにて液温97℃で10分間処理した後、10℃以下に冷却し、スプレードライを行った。これにより、15.7kgの卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を得た。なお、卵白加水分解物のホルモル滴定による分解度は9.9であった。
【0039】
実施例3
液卵白(キユーピー(株)製)180kgをタンクに投入し、クエン酸を用いてpH7に調整した。次に、イースト(オリエンタル酵母(株)製)300gを添加し、液温を35℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら4時間脱糖処理を行った。次いで、得られた脱糖処理液にAspergillus melleus起源の中性プロテアーゼ(商品名「プロテアーゼP(アマノ)」、天野エンザイム(株)製)300gを添加し、液温を50℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら12時間酵素処理を行った。さらに、得られた酵素処理液をニーダーにて97℃で10分間処理した後、10℃以下に冷却し、スプレードライを行った。これにより、16.3kgの卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を得た。なお、卵白加水分解物のホルモル滴定による分解度は10.9であった。
【0040】
試験例1(卵白加水分解物からなる生体内抗酸化材の生体内抗酸化作用の評価)次に、実施例1で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を動物実験の試料に供し、生体内抗酸化作用を確認した。以下、試験方法及び試験結果を示す。
【0041】
試験動物

系統: Wistar Rat(SPF)

供給源: 日本エスエルシー(株)

週齢(性別): 試験開始時5週齢(雄)
【0042】
試験試料
実施例1にて得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を用いた。
【0043】
飼料
飼料は、AIN−93Gの組成を改変したものを使用した。AIN−93Gの組成のうち抗酸化剤である、tert−ブチルヒドロキノンおよびL−シスチンは、CClによる生体内酸化の亢進を抑制する可能性があるので除外し、ビタミン混合はビタミンE(V.E)無添加のものを、油はV.E無添加のストリプトコーンオイルを使用した。全体の調整はカゼインおよびβ-コーンスターチで行った。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】


各群、n=8で試験を行った。

CCl(特級、純正化学(株))を25%(v/v)となるよう、ストリプトコーンオイルに溶解した後、2.0ml/kg body weight(BW)ずつ腹腔内投与した。
【0046】
試験内容
ラットを搬入後、金網ケージで個別飼いし、7日間環境に馴化させた。馴化期間中は、飼料として馴化食を自由摂取させた。馴化後、CCl+生体内抗酸化材(1%)群には生体内抗酸化材(1%)食を、control群およびCCl群には生体内抗酸化材を含まない改変AIN−93G組成の飼料であるcontrol食を、それぞれ7日間自由摂取させた。
【0047】
一晩絶食(20時〜翌日10時) させ、ストリプトコーンオイルに溶解したCClを腹腔内投与し、試験終了まで引き続き絶食を行った。CClの投与24時間後に、ペントバルビタールナトリウム (「ネンブタール」大日本住友製薬(株)) による麻酔下で腹大動脈から採血を行い、生理食塩水による灌流の後、肝臓を採取した。得られた血液を室温で凝固後、1000×g、15分の遠心分離により血清を回収し血清HEL分析に用いた。採取した肝臓はホモジナイズ後、10000×g、15分の遠心分離を行い、上清を肝臓TBARSおよび肝臓GSH分析に用いた。
【0048】
評価項目
・血清HEL:HELは、脂質過酸化の第1段階で特異的に生じる物質であり、HELの上昇は生体内が酸化されていることを示す指標となる。
・肝臓 TBARS:TBARSは、脂質過酸化の第2段階に生じるマロンジアルデヒド、アルケナールなどのアルデヒド類の集合物であり、TBARSの上昇は生体内が酸化されていることを示す指標となる。
・肝臓GSH:GSHは、体内で活性酸素を消去するグルタチオンペルオキシダーゼによって消費される物質であり、GSHの減少は生体内で活性酸素が増加し、生体内が酸化されていることを示す指標となる。
【0049】
血清HEL値は、商品名:「ヘキサノイルリジン測定用 ELISAキット」(日研ザイル(株))を用いて測定した。
【0050】
肝臓TBARS値は、チオバルビツール酸(TBA)法を参考にして測定した。つまり、肝臓をホモジナイズした上清0.1mLの入った12mLネジ口試験管に、8.1%(w/v)ドデジル硫酸ナトリウム(sodium dodecylsulphate)/ 蒸留水0.2mL、0.8%(w/v)ブチルハイドロキシトルエン(butyl hydroxy toluene)/酢酸 0.05mL、0.8%(w/v)チオバルビツール酸(thiobarbituric acid)/蒸留水1.5 mL、蒸留水0.7 mLを混合したものを添加し、さらに20%(w/v)酢酸緩衝液(pH 3.5)1.5 mLを加えた。キャップをしめて攪拌し、5℃で1時間放置した後100℃で1時間反応させた。流水で冷却後、蒸留水1mLおよびブタノール/ピリジン(15/1)混合液5mLを添加した後キャップを閉めて攪拌し、10000 ×g、15分間の遠心分離後、上清の吸光度(波長:532nm)を測定した。1,1,3,3―テトラメトキシプロパン(1,1,3,3―tetraethoxypropane)110 mgを1%(v/v)硫酸(HSO)で50 mLにメスアップし、2時間室温で放置した後、1mL採取し、蒸留水で100mLにメスアップしたものをTBARS100nmol/Lのスタンダードとして検量線作成に用いた。上記の方法で定量したTBARS値(nmol/mL)は、「プロテインアッセイ ラピッドキットワコー」で測定したタンパク量(mg/mL)あたりの量(nmol/mg protein)に換算した。
【0051】
肝臓GSH値は、商品名:「Total Glutathione Quantification Kit」((株)同仁化学研究所)を用いて肝臓をホモジナイズした上清を分析した。
【0052】
試験結果は、平均±標準誤差で示し、危険率5%未満を有意差ありとした。有意差検定は、一元配置分散分析を行い、有意差が認められた場合にFisher‘s PLSDの検定で解析した。有意差がみられた場合には表および図中に異なるアルファベットで示した。なお、統計解析にはコンピュータソフトウェア「Dr.SPSS II for Windows(登録商標)(商品名)」(エス・ピー・エス・エス(株))を使用した。
【0053】
試験結果
表3に血清HEL値を示した。CCl投与によって血清HEL値が有意に上昇した。CCl+生体内抗酸化材(1%)群で、CCl投与によるHEL値上昇が有意に抑制された。
【0054】
【表3】

【0055】
表4に肝臓TBARS値を示した。CCl投与によって肝臓TBARS値が有意に上昇した。CCl+生体内抗酸化材(1%)群では、CCl投与によるTBARS値上昇が有意に抑制された。
【0056】
【表4】

【0057】
表5に肝臓GSH値を示した。CCl投与によってGSH値が有意に減少した。生体内抗酸化材の添加によるGSH値の有意な影響はみられなかった。
【0058】
【表5】

【0059】
以上の結果より、四塩化炭素(CCl)による過酸化脂質、すなわち血清HELおよび肝臓TBARSの上昇が生体内抗酸化材(1%)食の摂取によって抑制されたため、卵白加水分解物からなる生体内抗酸化材は生体内抗酸化作用を有することが示された。血清HELおよび肝臓TBARSはそれぞれ第一次酸化生成物および第二次酸化生成物と呼ばれる過酸化脂質であり、卵白加水分解物はそれらの2段階の過酸化脂質をいずれも抑制する結果となっていることが理解できる。また、血清HELおよび肝臓TBARSのいずれも生体内の疎水部、つまり、生体膜で生じた酸化の度合いを測る指標であることから、卵白加水分解物は生体膜における過酸化脂質の生成を抑制する作用を有することが示されたといえる。
【0060】
一方、CClによる肝臓GSHの減少は、生体内抗酸化材(1%)食の摂取によって抑制されなかったため、生体内抗酸化材は、肝臓GSH産生を介したメカニズムに関与していないものと考えられる。また、試験例1の試験試料を、実施例1から実施例2及び3で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材にそれぞれ変更して、同様の試験をおこなったところ、実施例1より若干劣るものの、生体内抗酸化作用が得られることが確認できた。
【0061】
試験例2(卵白加水分解物からなる肝機能障害抑制材の肝機能障害抑制作用の評価)
実施例1で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を動物実験の試料に供し、肝機能障害抑制作用を確認した。以下、試験方法及び試験結果を示す。
【0062】
試験動物

系統:ddY系 Mouse(SPF)

供給源:日本エスエルシー(株)

週齢(性別):試験開始時6週齢(雄)
【0063】
【表6】


各群、n=4で試験を行った。

CCl(特級、純正化学(株))を0.003%(v/v)となるよう、ミネラルオイルに溶解した後、10.0ml/kg body weight(BW)ずつ腹腔内投与した。
【0064】
試験例1において、試験動物を上述のマウスに変え、試験群を表6に示す試験群に変えた他は試験例1と同様の方法でマウスを7日間馴化、飼育した。その後、一晩絶食させたのを4時間絶食に変えた他は試験例1と同様の方法でマウスの肝臓及び血清を採取した。得られた肝臓及び血清を用いて以下の項目を測定した。
【0065】
評価項目
・肝臓TBARS
・血清GOT及びGPT:GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)びGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)は肝臓中に存在する酵素であり、肝細胞に障害が生じると血中にこれらが漏出するため、血清中のGOT値又はGPT値の上昇は肝細胞が酸化等により障害を受けていることを示す指標となる。
【0066】
試験例1と同様の方法で、肝臓TBARSを測定した。また、血清GOT及びGPT値は、商品名:「トランスアミナーゼC2−テストワコー」(和光純薬工業(株)製)を用いて測定した。
【0067】
試験結果
表7に肝臓TBARS値を示した。CCl投与によって肝臓TBARS値が有意に上昇した。CCl+生体内抗酸化材(1%)群では、CCl投与によるTBARS値上昇が有意に抑制された。
【0068】
【表7】

【0069】
表8に血清GOT値を示した。CCl投与によって血清GOT値が有意に上昇した。CCl+生体内抗酸化材(1%)群では、CCl投与による血清GOT値上昇が有意に抑制された。
【0070】
【表8】

【0071】
表9に血清GPT値を示した。CCl投与によって血清GPT値が有意に上昇した。CCl+生体内抗酸化材(1%)群では、CCl投与による血清GPT値上昇が有意に抑制された。
【0072】
【表9】

【0073】
以上の結果より、生体内抗酸化材(1%)食の摂取により、四塩化炭素(CCl)による過酸化脂質、すなわち肝臓TBARSの上昇が抑制され、また、肝機能障害の程度の指標である血清GOT及びGPTの上昇が抑制されたことから、生体内抗酸化材(卵白加水分解物)からなる肝機能障害抑制材は肝機能障害抑制作用を有することが示された。四塩化炭素により肝細胞生体膜で発生する過酸化脂質である肝臓TBARSの発生が抑制されていることから、卵白加水分解物が、肝細胞生体膜における過酸化脂質の生成を抑制する作用を有し、これにより、肝機能障害が抑制されていることが理解できる。また、試験例1の試験試料を、実施例1から実施例2及び3で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の肝機能障害抑制材にそれぞれ変更して、同様の試験をおこなったところ、実施例1より若干劣るものの、肝機能障害抑制作用が得られることが確認できた。
【0074】
試験例3
試験例2において摂取飼料に配合する卵白加水分解物の配合量を表10に示す配合量に変えた他は、試験例2と同様の方法でマウスから肝臓を採取した。得られた肝臓を用いて肝臓TBARS値を測定した。結果を表11に示す。
【0075】
【表10】

【0076】
【表11】

【0077】
肝臓TBARS値は、生体内抗酸化作用及び肝機能障害抑制作用を示す指標であることから、表11の結果より、食品組成物、あるいは、医薬品組成物における卵白加水分解物の含有量は好ましくは0.01〜30.0%、より好ましくは0.05〜10%、さらに好ましくは0.3〜5%であるとより優れた生体内抗酸化効果、あるいは、肝機能障害抑制効果が得られることが理解できる。
【0078】
実施例5(生体内抗酸化材を含む生体内抗酸化用食品組成物)
実施例1で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を用いて、下記配合にてクッキーを調製した。ショートニングと上白糖を攪拌機(Kitchen Aid、INC製Kitchen Aid K5SS)に投入し速度調節レバー6で1分間混ぜ合わせてクリーム状にし、清水で水戻しした乾燥卵黄(キユーピー(株)製、乾燥卵黄No.1)を除々に加え、さらに2分間攪拌を続け、予め混合してから篩った小麦粉、ベーキングパウダーと生体内抗酸化材を加えてから1分間攪拌を続けて生地を調製した。得られた生地を冷蔵庫で2時間ねかせた後、厚さ3〜5mm程度に延ばし、型を抜き、180℃のオーブンで10分間焼成し、クッキーを得た。なお、得られたクッキーは、質量に対して、生体内抗酸化材の有効成分である卵白加水分解物を1%含有する。これらのクッキーを試食したところ、通常のクッキーと同様においしかった。
【0079】
<配合(g)>
小麦粉 200
ベーキングパウダー 1
生体内抗酸化材 5
ショートニング 120
上白糖 80
乾燥卵黄 16
清水 20
――――――――――――――――
合計 442
【0080】
実施例6(生体内抗酸化材を含む生体内抗酸化用食品組成物)
実施例1で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を用いて、下記配合にて顆粒状ミルク入りココアを調製した。各原料の粉体をV型混合機にて混合した後、押出造粒機で造粒し、顆粒状ミルク入りココアを得た。得られた顆粒状ミルク入りココアの生体内抗酸化材の有効成分である卵白加水分解物の含有量は製品に対して2%である。得られた顆粒状ミルク入りココアを20gカップに入れ、98℃の湯150mLを注いだ後にスプーンで30回攪拌することにより、ミルク入りココアを調製し、試飲したところ、市販のミルクココアと同様においしかった。
【0081】
<配合(g)>
ココアパウダー 210
全粉乳 240
乳糖 100
砂糖 430
生体内抗酸化材 20
―――――――――――――――
合計 1000
【0082】
実施例7(生体内抗酸化材を含む生体内抗酸化用医薬品組成物)
実施例1で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材300gに結晶セルロース(旭化成(株)製、「アビセル」)100g、デキストリン(松谷化学工業(株)製、「TK−16」、DE値16)450g、乳糖50gを粉体混合し、これにショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株)扱い、「リョートーシュガーエステル(S−570)」、HLB値5)4gとコーンスターチ6gを加え、単発式の打錠機にて製錠を施した。これにより、重量300mg、直径9mm、層厚5mm、硬度6.5kp(以上10粒の平均値)の錠剤状医薬品組成物820gを得た。これは生体内抗酸化材の有効成分である卵白加水分解物を35%を含有する。
【0083】
実施例8(肝機能障害抑制材を含む肝機能障害抑制用食品組成物)
実施例1で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を肝機能障害抑制材として配合し、実施例5と同様にしてクッキーを得た。なお、得られたクッキーは、質量に対して、肝機能障害抑制材の有効成分である生体内抗酸化材(卵白加水分解物)を1%含有する。これらのクッキーを試食したところ、通常のクッキーと同様においしかった。
【0084】
実施例9(肝機能障害抑制材を含む肝機能障害抑制用食品組成物)
実施例1で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を肝機能障害抑制材として配合し、実施例6と同様にしてミルク入りココアを得た。なお、得られた顆粒状ミルク入りココアの肝機能障害抑制材の有効成分である生体内抗酸化材(卵白加水分解物)の含有量は製品に対して2%である。実施例6と同様にミルク入りココアを調製し、試飲したところ、市販のミルクココアと同様においしかった。
【0085】
実施例10(肝機能障害抑制材を含む肝機能障害抑制用医薬品組成物)
実施例1で得られた卵白加水分解物からなる白色粉末の生体内抗酸化材を肝機能障害抑制材として配合し、実施例7と同様にして錠剤状医薬品組成物を得た。これは肝機能障害抑制材の有効成分である生体内抗酸化材(卵白加水分解物)を35%含有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵白加水分解物を有効成分として含むことを特徴とする生体内抗酸化材。
【請求項2】
前記卵白加水分解物が、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理してなる、請求項1記載の生体内抗酸化材。
【請求項3】
前記卵白加水分解物が、さらにパパインで処理してなる、請求項2記載の生体内抗酸化材。
【請求項4】
生体内抗酸化材が生体膜の脂質抗酸化材である請求項1乃至3のいずれかに記載の生体内抗酸化材。
【請求項5】
前記生体膜の脂質抗酸化材がHEL生成抑制材である請求項4記載の生体内抗酸化材。
【請求項6】
前記生体膜の脂質抗酸化材が肝細胞の脂質抗酸化材である請求項4又は5記載の生体内抗酸化材。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の生体内抗酸化材を含む、生体内抗酸化用食品組成物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の生体内抗酸化材を含む、生体内抗酸化用医薬品組成物。
【請求項9】
請求項6記載の生体内抗酸化材を有効成分として含むことを特徴とする肝機能障害抑制材。
【請求項10】
請求項9記載の肝機能障害抑制材を含む、肝機能障害抑制用食品組成物。
【請求項11】
請求項9記載の肝機能障害抑制材を含む、肝機能障害抑制用医薬品組成物。


【公開番号】特開2008−156344(P2008−156344A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305138(P2007−305138)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】