説明

生体刺激装置

【課題】生体の深部に存在する深層筋に対しても効果的に刺激を与えることができる生体刺激装置を提供することを課題とする。
【解決手段】生体に導子21を当接し、該導子21から生体に電流を流して刺激を与える生体刺激装置において、低周波パルスLFに高周波パルスHFを重畳させて生体に刺激を与える。また、前記低周波パルスLFと前記高周波パルスHFの一方または双方を矩形波とする。さらに、前記低周波パルスLFの周期の一部に前記高周波パルスHFを重畳させることにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極を内蔵した導子を生体に当て、この導子から生体に電流を流して刺激を与える生体刺激装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の生体刺激装置では、筋収縮に効果的な数kHz程度の比較的低周波のパルス電流を生体に流して刺激を与えていた。しかし、低周波のパルス電流だけを生体に流す場合、刺激が強くなりすぎ痛みが顕著になることから、高周波のパルスを複数含んだ低周波のパルス群として電流を繰り返し生体に流しているものがある(例えば、特許文献1及び2参照)。これらの生体刺激装置によれば、比較的ソフトな刺激感が得られるという利点がある。
【特許文献1】特開2004−344444号公報
【特許文献2】特開2005−224387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に開示された生体刺激装置によれば、密度を可変にした複数のオンパルスを含んだパルス群からなる電流が繰り返し導子から生体に出力される。そうすると、生体はあたかもコンデンサと抵抗を組み合わせた等価回路の容量性リアクタンスを有しているため、高い周波数の信号成分であるオンパルスによってそのインピーダンスが低くなり、生体の内部でパルス群全体の波形が歪んで、全体として擬似正弦波のような歪み波形となる。そのため、比較的ソフトな刺激感が得られる。
【0004】
また、上記特許文献2に開示された発明によれば、デューティ比を可変にした複数のオンパルスを含んだパルス群からなる電流が繰り返し導子から生体に出力される。この場合、デューティ比を大きくすれば強い刺激を与えることができ、デューティ比を小さくすれば弱い刺激を与えることができることから、デューティ比を変化させて生体に与える刺激に強弱を持たせることが可能となる。したがって、この場合にも比較的ソフトな刺激感が得られる。
【0005】
しかし、生体刺激装置は経皮的に生体に電流を流すものであることから表層筋の刺激は容易であるものの、電流が届き難い生体深部の深層筋に刺激を与えることは容易でない。例えば、筋収縮に効果的な低周波のパルス電流を流すと、平均電流が少なくても大きな微分電流が流れてしまい生体に強い痛みを与えることになる。そのため深層筋を動かすことは容易でない。
【0006】
上述した各特許文献に開示された生体刺激装置においては、高周波パルスを複数含んだパルス群からなる刺激電流を流していることから、ソフトな刺激感が得られる利点はあるものの、深層筋を動かすに有効な低周波パルス成分が不足しており、生体深部の深層筋に刺激を与えることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、生体の深部に存在する深層筋に対しても効果的に刺激を与えることができる生体刺激装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、生体に導子を当接し、該導子から生体に電流を流して刺激を与える生体刺激装置において、低周波パルスに高周波パルスを重畳させて生体に刺激を与えることを特徴とする生体刺激装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の生体刺激装置において、前記低周波パルスと前記高周波パルスの一方または双方が矩形波であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の生体刺激装置において、前記低周波パルスの周期の一部に前記高周波パルスを重畳させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体に流す低周波パルス電流と高周波パルス電流の大きさを各々適正にコントロールすることができるので、表層筋のみならず生体の深部に存在する深層筋に対しても効果的に刺激を与えることができる生体刺激装置を実現することができる。すなわち、本発明による生体刺激装置によれば、低周波パルスに起因する微分電流を抑制することができる。また、生体負荷に流れる低周波パルス電流と高周波パルス電流を組み合わせ、低周波パルス電流による施術効果と高周波パルス電流による施術効果を組み合わせることで痛みと刺激量の最適化を行うことができる。その結果、表層筋および深層筋に対しソフトでかつ効果的な刺激を与えることができる。これらの施術効果は、低周波パルスまたは高周波パルスの一方だけでは奏し得ないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る生体刺激装置の構成を示すブロック図である。図1において、1は交流入力を安定化した状態で直流出力に変換する安定化電源であり、ここではAC100Vの交流電圧を、DC15VおよびDC5Vの直流電圧にそれぞれ変換している。2は、前記安定化電源1からのDC5Vの直流電圧と、水晶発信器3からの基準クロック信号とにより動作する制御手段としてのCPU(中央演算処理装置)である。このCPU2は周知のように、入出力手段,記憶手段および演算処理手段などを内蔵しており、記憶手段に記憶された制御シーケンスに従って所定のパターンの刺激電流を生体である人体(図示せず)に与えるようになっている。
【0013】
前記CPU2の入力側ポートには、種々の刺激モードのなかから特定の刺激モードを選択するモード選択手段としてのスイッチ4が複数接続されている。これに対応して、CPU2の出力側ポートには、どの刺激モードが選択・実行されたのかを示すモード表示手段としてのLED5が複数接続されている。その他、CPU2の出力側ポートには、刺激時間をカウント表示する時間表示手段としてのセグメントLED6が接続されている。なお、本実施例では便宜上一つのセグメントLED6だけを図示したが、実際には二つまたはそれ以上のセグメントLED6が並設される。また、例えば共通のLCD表示器などにより、前記LED5とセグメントLED6を一体化させて表示させてもよい。
【0014】
また、CPU2の入力側ポートには、設定操作可能な複数の可変抵抗器7からなる設定器が接続されている。これらの可変抵抗器7により、生体刺激信号たる低周波パルスと高周波パルスの、周波数、パルス継続時間および振幅を任意の値に設定変更できるようにされている。一方、CPU2の出力側ポートからは、選択された刺激モードおよび可変抵抗器7により設定された値に対応して、2系統の出力電圧指示信号とパルス駆動信号が出力されるようになっている。これら2系統の出力電圧指示信号とパルス駆動信号のうち、1系統の信号は高周波パルスの発生に供せられ、他の1系統の信号は低周波パルスの発生に供せられる。
【0015】
出力電圧制御回路8,9は、安定化電源1からのDC15Vの直流電圧により作動するものであり、CPU2から出力される2系統の出力電圧指示信号に対応した直流電圧を各々出力する。すなわち、出力電圧制御回路8は、DC0VからDC15Vの範囲で指定された所定の電圧レベルを有する可変出力信号を高周波パルスの刺激発生手段11に供給する。また、出力電圧制御回路9は、DC0VからDC15Vの範囲で指定された所定の電圧レベルを有する可変出力信号を低周波パルスの刺激発生手段12に供給する。
【0016】
ここで、刺激発生手段11,12は、出力電圧制御回路8,9からの各出力電圧を、選択された刺激モードに対応するタイミングで、所定振幅と所定周波数を有するパルスに変換するものである。刺激発生手段11,12は、スイッチ手段たるFET13,14の他に、一次側と二次側とを絶縁したトランス15,16を備えて構成される。すなわち、高周波パルスの刺激発生手段11は、トランス15の一次巻線17の一端が出力電圧制御回路8の可変出力信号ラインに接続されるとともに、ソース接地されたFET13のドレインにトランス15の一次巻線17の他端が接続されてなる。また、低周波パルスの刺激発生手段12は、トランス16の一次巻線18の一端が出力電圧制御回路9の可変出力信号ラインに接続されるとともに、ソース接地されたFET14のドレインにトランス16の一次巻線18の他端が接続されてなる。
【0017】
高周波パルスの刺激信号を出力するトランス15の二次巻線19の両端、および低周波パルスの刺激信号を出力するトランス16の二次巻線20の両端は、各々出力端子たる一対の導子21に接続される。そして、CPU2からの各パルス駆動信号が、FET13,14の制御端子である各ゲートに供給されるようになっている。なお、FET13,14はスイッチ手段の一例であり、トランジスタ等他のスイッチ手段を用いることもできる。
【0018】
以上のような構成の生体刺激装置において、スイッチ4により特定の刺激モードを選択し、図示しないスタートスイッチを操作すると、CPU2によって選択された刺激モードに対応するLED5が点灯する。この選択された刺激モードに対応してCPU2から、高周波パルスの出力電圧指示信号と高周波パルス駆動信号が、高周波パルスの刺激発生手段11に対して出力される。また、低周波パルスの出力電圧指示信号と低周波パルス駆動信号が、低周波パルスの刺激発生手段12に対して出力される。
【0019】
高周波パルス駆動信号が、高周波パルスの刺激発生手段11を構成するFET13に出力されると、FET13はスイッチングによりターンオンし、トランス15の一次巻線17の他端側(非ドット側)が接地される。 このFET13のスイッチングにより、トランス15の二次巻線19の一端側(ドット側)に高周波の矩形波パルス電圧が誘起される。したがって、FET13のゲートに高周波パルス駆動信号を供給すると、トランス15の二次巻線19には所定振幅の高周波刺激信号がパルス状に誘起される。そして、この高周波刺激信号は導子21間に供給される。
【0020】
また、低周波パルス駆動信号が、低周波パルスの刺激発生手段12を構成するFET14に出力されると、FET14はスイッチングによりターンオンし、トランス16の一次巻線18の他端側(非ドット側)が接地される。 このFET14のスイッチングにより、トランス16の二次巻線20の一端側(ドット側)に低周波の矩形波パルス電圧が誘起される。したがって、FET14のゲートに低周波パルス駆動信号を供給すると、トランス16の二次巻線20には所定振幅の低周波刺激信号がパルス状に誘起される。そして、この低周波刺激信号も導子21間に供給される。
【0021】
以上説明したように、高周波刺激信号と低周波刺激信号は別々の刺激発生手段11,12により発生するが、両信号ともに共通の導子21間に出力されることになるため、導子21間において両信号は重畳されることになる。したがって、低周波パルスに高周波パルスが重畳された生体刺激信号を導子21間から生体に与えることが可能になる。
【0022】
このようにして一対の導子21間には、選択された刺激モードに対応した振幅と周波数を有する低周波パルスに、選択された刺激モードに対応した振幅と周波数を有する高周波パルスが重畳した刺激信号が繰り返し供給され、この刺激信号は導子21間から生体に与えられる。また、この刺激信号は、低周波パルスの振幅と周波数、及び高周波パルスの振幅と周波数を独立に制御できるのみならず、高周波パルス群の発生インターバルをも独立に制御することができるようにされている。これらの制御は、選択された刺激モードに対応してCPU2内の制御プログラムよって行われるが、刺激信号の振幅、周波数、発生インターバルの変更は可変抵抗器7により行うこともできる。
【0023】
なお、刺激信号が出力される際には、刺激モードが表示されると共に、CPU2に内蔵されたタイマ(図示せず)が時間を計測し、その結果をセグメントLED6に表示するようになっている。
【0024】
本発明に係る生体刺激装置の構成によれば、低周波パルスに高周波パルスが重畳した種々の形態の刺激信号を発生させて導子21間から生体に与えることができる。図2に示す刺激信号は、本発明に係る生体刺激装置によって発生させることができる刺激モードを例示するものである。
【0025】
次に、本発明に係る生体刺激装置の作用について、図2に示す刺激モードの波形図に基づいて説明する。図2(a)に示す刺激モードは、正負両方向の振幅Aの低周波パルスLFに、振幅A1の高周波パルスHFを重畳させたものである。高周波パルスHFは正負両方向の低周波パルスLFの全周期、すなわち全時間幅にわたって重畳される。
【0026】
なお、本発明による生体刺激装置において、低周波とは概ね1kHz〜数kHzの周波数領域を言い、高周波とは概ね数十kHz〜数百kHzの周波数領域をいう。すなわち、低周波領域では生体の筋肉は刺激により収縮し、高周波領域のパルスでは生体の筋肉は弛緩して刺激に対して無感覚になる特性を有している。
【0027】
この刺激モードでは、低周波パルスだけを出力する場合に生ずる大きな微分電流を抑制できる。すなわち、矩形波の低周波パルスLFのみを出力すると、矩形波の立ち上がり時や立ち下り時において大きな微分電流が流れることになるが、本刺激モードのように低周波パルスLFに高周波パルスHFを重畳させると、低周波パルスLFの立ち上がり時や立ち下り時において大きな微分電流が流れるのを抑制できる。その結果、低周波のパルス電流が出力されているにも拘わらず、生体に感ずる痛みを緩和することができる。その一方、生体に対して低周波のパルス電流と高周波のパルス電流の双方が出力されることから、生体には低周波のパルス電流と高周波のパルス電流が流れることになり、生体は効果的に刺激されて代謝が促進されることになる。したがって、生体の深部に存在する深層筋に対しても効果的に刺激を与えることができるようになる。
【0028】
図2(b)に示す刺激モードは、正負両方向の低周波パルスLFの周期、すなわち時間幅の一部において高周波パルスHFを重畳させたものである。具体的には正負両方向の低周波パルスLFの時間幅のうち、中央部のみに高周波パルスHFが重畳されている。
【0029】
図2(c)に示す刺激モードは、正負両方向の低周波パルスLFの前半部において高周波パルスHFを重畳させたものである。すなわち低周波パルスLFの時間幅の前半部のみに高周波パルスHFが重畳されている。
【0030】
図2(d)に示す刺激モードは、正負両方向の低周波パルスLFの立ち上がり部と立ち下り部のみに高周波パルスHFを重畳させたものである。すなわち低周波パルスLFの時間幅の中央部に高周波パルスHFは重畳されていない。
【0031】
図2(e)に示す刺激モードは、正方向の低周波パルスLFに対しては時間幅の後半部に、負方向の低周波パルスLFに対しては時間幅の前半部に、各々高周波パルスHFを重畳させたものである。もちろん、この刺激モードとは対照的に、正方向の低周波パルスLFに対しては時間幅の前半部に、負方向の低周波パルスLFに対しては時間幅の後半部に、各々高周波パルスHFを重畳させることもできる。
【0032】
図2(f)に示す刺激モードは、正方向の低周波パルスLFの前半部においてのみ高周波パルスHFを重畳させたものである。すなわち負方向の低周波パルスLFに対して高周波パルスHFは重畳さていない。
【0033】
上記図2(b)〜(f)に例示した刺激モードによっても、程度の差はあれ図2(a)に示した刺激モードと同様の刺激を生体に与えることができる。すなわち、生体の深部に存在する深層筋に対しても効果的に刺激を与えることができる。その理由は、これらの各刺激モードにおいても低周波パルスLFに高周波パルスHFが重畳されていることから、低周波のパルス成分と高周波のパルス成分が併存しているからである。ここで、正負両方向のパルスの大きさが等しく、パルス列の平均電流が零である場合、周波数が高くなるにしたがって次第に刺激感が減少し、たとえば100kHz程度の高周波になると刺激感はまったく無くなる。しかし、図2に例示した本発明の各刺激モードによれば、低周波パルスLFに高周波パルスHFが重畳されており、高周波パルスHFの平均電圧は正負両方向の低周波パルスLFの電圧分だけオフセットされている。その結果、本来なら無感の高周波パルスHFであっても生体に刺激を与えることができるようになる。したがって、低周波パルスLFだけ、または高周波パルスHFだけを与えた場合では得られない施術効果を得ることができる。すなわち、低周波パルスLFと高周波パルスHFを組み合わせ、その相乗効果で痛みと刺激量の最適化を行って微分電流を抑制しつつ、表層筋と深層筋の双方に対してソフトで、かつ効果的な刺激を与えることができるようになる。
【0034】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例えば上記実施例においては、低周波パルスLFおよび高周波パルスHFとも矩形波であることを前提にして説明したが、これらのパルス波形は矩形波に限定されるものではなく、正弦波やその他の波形であっても構わない。また、アナログ方式によりパルスを発生させてもよいし、制御手段としてCPU2に替えてDSP等、CPUと同等の機能を有する制御デバイスを用いてもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例を示す生体刺激装置のブロック図である。
【図2】同上、生体刺激装置の出力波形図である。
【符号の説明】
【0036】
21 導子(出力端子)
LF 低周波パルス
HF 高周波パルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に導子を当接し、該導子から生体に電流を流して刺激を与える生体刺激装置において、低周波パルスに高周波パルスを重畳させて生体に刺激を与えることを特徴とする生体刺激装置。
【請求項2】
前記低周波パルスと前記高周波パルスの一方または双方が矩形波であることを特徴とする請求項1記載の生体刺激装置。
【請求項3】
前記低周波パルスの周期の一部に前記高周波パルスを重畳させたことを特徴とする請求項1または2記載の生体刺激装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−57805(P2010−57805A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228398(P2008−228398)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(391009800)株式会社テクノリンク (11)
【Fターム(参考)】