説明

生体刺激装置

【課題】回路構成を簡素化しつつ、低周波パルスの出力回路と高電圧パルスの出力回路とを確実に分離し、刺激信号のパルス波形が歪まないような生体刺激装置を提供する。
【解決手段】生体に導子31を当接し、第1出力回路8で生成された低周波パルスに、第2出力回路9で生成された高電圧パルスを重畳して、導子31から生体に刺激信号を与える。定電圧半導体素子32,33は、第1出力回路8から前記低周波パルスが発生しても導通せず、第1出力回路8と第2出力回路9とを分離する一方で、第2出力回路9から高電圧パルスが発生して、阻止電圧以上に達した時にのみ導通し、第1出力回路8と第2出力回路9とを結合する結合手段として設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極を内蔵する導子を生体に当てて、この導子から生体に電流を流して刺激を与える生体刺激装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の生体刺激装置として、既存の低周波治療器は、電極を内蔵する導子から生体に電流(刺激信号)を流すことで、生体内の神経を刺激し、筋肉を動かして治療を行なう装置であるが、経皮的に電流を流すため、深部の神経には途中の組織で電流が分散して僅かな量しか届かず、深層筋を効率よく動かすことが困難である。
【0003】
また、生体即ち人体は経皮的に見ると、コンデンサと抵抗を組み合わせたような等価回路もつ容量性リアクタンス負荷である。そのため低周波治療器のように、幅の広いパルス波形が生体に与えられる場合には、大きな微分電流が流れて、皮膚表面の知覚神経がそれを強い痛みとして受け取り、深層筋が反応する電流値まで出力を上げることが難しい。
【0004】
一方、人体負荷に流れる低周波パルスの波形の上に、高電圧の幅の狭いパルスを重畳すれば、痛みと筋刺激強度のバランスを取った波形を作ることできる。この場合、経皮的であっても高電圧パルスによって瞬間的に5倍の電流を生体に流すことができれば、生体の深部にも5倍の電流が流れ、その電流が筋収縮の閾値以上に達していれば筋を動かすことができる。
【0005】
このようなことに着目して、先に本願出願人は、筋収縮を起こしやすく刺激の強い低周波パルスに、刺激は少ないが深部まで到達する高電圧の幅の狭いパルスを重畳し、それらを同時もしくは別々に制御することで、表層筋および深層筋それぞれの刺激に必要とする電流量を確保する生体刺激装置を提案している(特許文献1を参照)。
【0006】
ここで、既存の低周波治療器における刺激信号のパルス幅は、百マイクロセカンド程度から数ミリセカンドである。この刺激信号パルスは筋収縮を起こし易い反面、パルス幅が広いため、ある一定値以上の電流を流すと痛みが強くなり、深層にある筋肉を効果的に動かすまで電流を流すことが出来なかった。
【0007】
しかし特許文献1では、生体への刺激信号として、低周波パルス上に高電圧の幅の狭いパルスを重畳することで、低周波パルスの利点である表層筋を刺激しながら、高電圧パルスによる瞬間的な大電流によって、生体深層の神経にまで有効な電流を流すことができ、痛みを抑えつつ表層筋と深層筋を効果的に収縮させることができる。つまり、低周波や高周波のパルスだけでは出来ない施術効果を、低周波パルス上に高周波の高電圧パルスを重畳することで相乗効果を生み出し、深部にまで効果的な電流刺激を行なって、治療効果を上げる事が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−57805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した生体刺激装置は、基本的に低周波パルスの出力回路と、高電圧パルスの出力回路とを結合し、一つの出力として導子から人体に刺激信号を加える構成となっている。ところが、一般的なローパスフィルタやハイパスフィルタで結合する方法では、負荷インピーダンスが開放(無限大)から数十Ωまでと極端に変化して整合が取れず、お互いの出力回路が干渉して刺激信号波形が歪んだり、また低周波パルスと高電圧パルスのパルス幅が接近した場合には、出力回路の分離が不可能になる問題が発生する。
【0010】
そこで、本発明では上記問題に鑑み、回路構成を簡素化しつつ、低周波パルスの出力回路と高電圧パルスの出力回路とを確実に分離し、刺激信号のパルス波形が歪まないような生体刺激装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の生体刺激装置は、生体に導子を当接し、第1出力回路で生成された低周波パルスに、第2出力回路で生成された高電圧パルスを重畳して、前記導子から前記生体に刺激信号を与える生体刺激装置において、 前記第1出力回路から前記低周波パルスが発生しても導通せず、前記第1出力回路と前記第2出力回路とを分離する一方で、前記第2出力回路から前記高電圧パルスが発生した時にのみ導通し、前記第1出力回路と前記第2出力回路とを結合する定電圧半導体素子を備えている。
【0012】
また本発明は、前記第2の出力回路から周期的に出力される前記高電圧パルスの位相を可変する構成としている。
【0013】
さらに本発明は、前記第1出力回路と前記第2出力回路が個別に設けられ、前記低周波パルスまたは前記高電圧パルスの何れかを単独で出力できるように構成している。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明では、第2出力回路から高電圧パルスが発生していなければ、定電圧半導体素子は非導通状態となって、第1出力回路と第2出力回路は切り離された状態を維持する。そのため、定電圧半導体素子を設けただけの簡単な構成でありながら、導子間の負荷インピーダンスが極端に変化した場合でも、第1出力回路と第2出力回路が干渉して刺激信号のパルス波形が歪んだりしない。また、低周波パルス信号と高電圧パルス信号のパルス幅が接近した場合でも、第1出力回路と第2出力回路とを確実に分離することが可能になる。
【0015】
請求項2の発明では、低周波パルス上に高電圧パルスを任意の位相で重畳できるため、特に生体の深層神経を効果的に刺激することが可能になる。
【0016】
請求項3の発明では、刺激信号のパルス波形を歪ませることなく、低周波パルス上に高電圧パルスを重畳できるだけでなく、用途に応じて低周波パルスだけを出力させたり、高電圧パルスだけを出力させたりすることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好ましい実施例における生体刺激装置のブロック図である。
【図2】同上、生体刺激装置の出力波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について説明する。図1は、本発明に係る生体刺激装置の構成を示すブロック図である。同図において、1は交流入力を安定化した状態で直流出力に変換する安定化電源であり、ここではAC100Vの交流電圧を、例えばDC15VやDC5Vの直流電圧などに変換している。2は、前記安定化電源1からのDC5Vの直流電圧と、水晶発振器3からの基準クロック信号とにより動作する制御手段としてのCPU(中央演算処理装置)である。このCPU2は周知のように、入出力手段,記憶手段および演算処理手段などを内蔵しており、記憶手段に記憶された制御シーケンスに従って所定のパターンの刺激電流を生体である人体(図示せず)に与えるようになっている。
【0019】
前記CPU2の入力側ポートには、種々の刺激モードのなかから特定の刺激モードを選択するモード選択手段としてのスイッチ4が複数接続されている。これに対応して、CPU2の出力側ポートには、どの刺激モードが選択・実行されたのかを示すモード表示手段としてのLED5が複数接続されている。その他、CPU2の出力側ポートには、刺激時間をカウント表示する時間表示手段としてのセグメントLED6が接続されている。なお、本実施例では便宜上一つのセグメントLED6だけを図示したが、実際には二つまたはそれ以上のセグメントLED6が並設される。また、例えば共通のLCD表示器などにより、前記LED5とセグメントLED6を一体化させて表示させてもよい。
【0020】
また、CPU2の入力側ポートには、設定操作可能な複数の可変抵抗器7からなる設定器が接続されている。これらの可変抵抗器7により、生体への刺激信号である低周波パルスや高電圧パルスの、周波数,パルス継続時間および振幅を任意の値に設定変更できるようにされている。一方、CPU2の出力側ポートからは、選択された刺激モードおよび可変抵抗器7により設定された値に対応して、2系統の出力電圧指示信号とパルス駆動信号が出力されるようになっている。これら2系統の出力電圧指示信号とパルス駆動信号のうち、1系統の信号は低周波パルスの発生に供せられ、他の1系統の信号は高周波の高電圧パルスの発生に供せられる。
【0021】
8はCPU2からの1系統の信号を受けて、所望の低周波パルスを出力する低周波パルス発生手段としての第1出力回路である。また9は、CPU2からの他の1系統の信号を受けて、所望の高電圧パルスを出力する高電圧パルス発生手段としての第2出力回路である。第1出力回路8は、出力電圧制御回路11と、バッファアンプ12と、例えばMOS型FETやバイポーラトランジスタなどのスイッチ手段13,14と、トランス15とにより構成され、また第2出力回路9は、出力電圧制御回路21と、バッファアンプ22と、例えばMOS型FETやバイポーラトランジスタなどのスイッチ手段23,24と、トランス25とにより構成される。
【0022】
第1出力回路8を構成する出力電圧制御回路11は、安定化電源1からのDC15Vの直流電圧により作動するものであり、CPU2から出力される低周波パルスの出力電圧指示信号に対応した直流電圧を出力する。すなわち出力電圧制御回路11は、低周波パルスの出力電圧指示信号に応じて、DC0VからDC15Vの範囲で指定された所定の電圧レベルを有する可変出力電圧V12を、後段のバッファアンプ12を介してトランス15の一次巻線16の中間タップに印加する。緩衝増幅器としてのバッファアンプ12は、負荷インピーダンスの変動によるトランス15から出力電圧制御回路11への影響を極力避けるためのもので、ここでは出力電圧制御回路11と別体に設けられているが、出力電圧制御回路11に含めてもよい。
【0023】
トランス15は周知のように、電気的に絶縁した一次巻線16と二次巻線17とを磁気的に結合して構成され、一次巻線16の他端(非ドット側端子)と接地ラインとの間にスイッチ手段13が挿入接続され、一次巻線16の一端(ドット側端子)と接地ラインとの間に別なスイッチ手段14が挿入接続される。そして、CPU2からスイッチ手段13の制御端子には、第1低周波パルス駆動信号V11が供給され、CPU2からスイッチ手段14の制御端子には、別な第2低周波パルス駆動信号V11’が供給される構成となっている。
【0024】
ここでのスイッチ手段13,14は、いわばトランス15の一次巻線16に印加される可変出力電圧V12を、選択された刺激モードに対応するタイミングで、所定の時間幅と周波数のパルスに変換する手段として設けられており、CPU2からの各低周波パルス駆動信号V11,V11’によって、スイッチ手段14をオフにした状態でスイッチ手段13が一定時間オンすると、二次巻線17の他端を基準として、二次巻線17の一端にバッファアンプ12からの可変出力電圧V12に比例した低周波パルス信号が誘起され、逆にスイッチ手段13をオフにした状態でスイッチ手段14が一定時間オンすると、二次巻線17の一端を基準として、二次巻線17の他端にバッファアンプ12からの可変出力電圧V12に比例した低周波パルス信号が誘起される。
【0025】
第2出力回路9を構成する出力電圧制御回路21は、前記出力電圧回路11と同様に安定化電源1からのDC15Vの直流電圧により作動するものであり、CPU2から出力される高電圧パルスの出力電圧指示信号に対応した直流電圧を出力する。すなわち出力電圧制御回路21は、高電圧パルスの出力電圧指示信号に応じて、DC0VからDC15Vの範囲で指定された所定の電圧レベルを有する可変出力電圧V22を、後段のバッファアンプ22を介してトランス25の一次巻線26の中間タップに印加する。緩衝増幅器としてのバッファアンプ22は、負荷インピーダンスの変動によるトランス25から出力電圧制御回路21への影響を極力避けるためのもので、ここでは出力電圧制御回路21と別体に設けられているが、出力電圧制御回路21に含めてもよい。
【0026】
トランス25は周知のように、電気的に絶縁した一次巻線26と二次巻線27とを磁気的に結合して構成され、一次巻線26の他端(非ドット側端子)と接地ラインとの間にスイッチ手段23が挿入接続され、一次巻線26の一端(ドット側端子)と接地ラインとの間に別なスイッチ手段24が挿入接続される。そして、CPU2からスイッチ手段23の制御端子には、第1高電圧パルス駆動信号V21が供給され、CPU2からスイッチ手段24の制御端子には、別な第2高電圧パルス駆動信号V21’が供給される構成となっている。
【0027】
ここでのスイッチ手段23,24は、いわばトランス25の一次巻線26に印加される可変出力電圧を、選択された刺激モードに対応するタイミングで、所定の時間幅と周波数のパルスに変換する手段として設けられており、CPU2からの各高電圧パルス駆動信号V21,V21’によって、スイッチ手段24をオフにした状態でスイッチ手段23が一定時間オンすると、二次巻線27の他端を基準として、二次巻線27の一端にバッファアンプ22からの可変出力電圧V22に比例した高電圧パルス信号が誘起され、逆にスイッチ手段23をオフにした状態でスイッチ手段24が一定時間オンすると、二次巻線27の一端を基準として、二次巻線27の他端にバッファアンプ22からの可変出力電圧V22に比例した高電圧パルス信号が誘起される。
【0028】
第1出力回路8の出力端子となるトランス15の二次巻線17の一端と他端は、途中に回路や素子を介在することなく、そのまま導子31の対をなす電極にそれぞれ直接接続される。一方、第2出力回路9の出力端子となるトランス25の二次巻線27の一端と他端は、途中に定電圧阻止特性を持つ高耐圧ツェナーダイオードなどの定電圧半導体素子32,33を介在して、導子31の対をなす電極にそれぞれ接続される。ここで用いられる定電圧半導体素子32,33は、二次巻線17に低周波パルス信号が発生しても導通せず、第1出力回路8と第2出力回路9とを電気的に分離して、第2出力回路9の影響を受けることなく、第1出力回路8から導子31に低周波パルス信号からなる刺激信号を送出する一方で、二次巻線27から発生する高電圧パルス信号の電圧レベルが、阻止電圧(ツェナーダイオードの場合は降伏電圧)以上になった時にのみ導通し、第1出力回路8と第2出力回路9とを電気的に結合して、一つの出力回路として低周波パルス信号上に高電圧パルスを重畳させた刺激信号を、導子31に送出するように構成される。
【0029】
以上のような構成の生体刺激装置において、スイッチ4により特定の刺激モードを選択して、図示しないスタートスイッチを操作すると、CPU2によって選択された刺激モードに対応するLED5が点灯する。この選択された刺激モードに対応して、CPU2から低周波パルスの出力電圧指示信号と低周波パルス駆動信号V11,V11’が、低周波パルスの刺激発生手段である第1出力回路8に対して出力される。また、高電圧パルスの出力電圧指示信号と高電圧パルス駆動信号V21,V21’が、高電圧パルスの刺激発生手段である第2出力回路9に対して出力される。
【0030】
CPU2から低周波パルスの出力電圧指示信号が出力されると、第1出力回路8の出力電圧制御回路11は、これに応じた電圧レベルの可変出力電圧V12を生成して、バッファアンプ12からトランス15の一次巻線16の中間タップに印加する。この状態で、CPU2からの低周波パルス駆動信号V11’によってスイッチ手段14をオフにしたまま、別な低周波パルス駆動信号V11によってスイッチ手段13をスイッチングさせると、二次巻線17の他端を基準として、二次巻線17の一端に低周波パルス信号が誘起される。逆に、CPU2からの低周波パルス駆動信号V11によってスイッチ手段13をオフにしたまま、別な低周波パルス駆動信号V11’によってスイッチ手段14をスイッチングさせると、今度は二次巻線17の一端を基準として、二次巻線17の他端に低周波パルス信号が誘起される。これにより、正または負の低周波パルス信号を、第1出力回路8の出力端子である二次巻線17の両端間に生成することができるが、何れの極性であっても、二次巻線17に誘起される低周波パルス信号の振幅は、可変出力電圧V12の電圧レベルに依存し、パルスの時間幅と周波数はスイッチ手段13またはスイッチ手段14のオン時間幅とスイッチング周波数に依存する。
【0031】
また、CPU2から高電圧パルスの出力電圧指示信号が出力されると、第2出力回路9の出力電圧制御回路21は、これに応じた電圧レベルの可変出力電圧V22を生成して、バッファアンプ22からトランス15の一次巻線16の中間タップに印加する。この状態で、CPU2からの高電圧パルス駆動信号V21’によってスイッチ手段24をオフにしたまま、別な高電圧パルス駆動信号V21によってスイッチ手段23をスイッチングさせると、二次巻線27の他端を基準として、二次巻線17の一端に高電圧パルス信号が誘起される。逆に、CPU2からの高電圧パルス駆動信号V21によってスイッチ手段23をオフにしたまま、別な高電圧パルス駆動信号V21’によってスイッチ手段24をスイッチングさせると、今度は二次巻線27の一端を基準として、二次巻線27の他端に高電圧パルス信号が誘起される。これにより、正または負の高電圧パルス信号を、第2出力回路9の出力端子である二次巻線27の両端間に生成することができるが、何れの極性であっても、二次巻線27に誘起される高電圧パルス信号の振幅は、可変出力電圧V22の電圧レベルに依存し、パルスの時間幅と周波数はスイッチ手段23またはスイッチ手段24のオン時間幅とスイッチング周波数に依存する。
【0032】
こうして生成される第1出力回路8からの低周波パルス信号と、第2出力回路9からの高電圧パルス信号は、トランス15,25の二次側で結合され、一つの刺激信号として導子31間から、この導子31に当接する生体に出力される。低周波パルス信号と高電圧パルス信号は別々の出力回路8,9により発生するが、両パルス信号共に共通の導子31間に出力されるため、導子31間において両パルス信号は重畳されることになる。したがって、低周波パルス信号上に高電圧パルス信号が重畳された刺激信号を、導子31間から生体に与えることが可能になる。
【0033】
そして、前記一対の導子31間には、選択された刺激モードに対応した周波数,パルス継続時間および振幅を有する低周波パルスに、選択された刺激モードに対応した周波数,パルス継続時間および振幅を有する高電圧パルスが重畳した刺激信号が繰り返し供給され、この刺激信号は導子31間から生体に与えられる。また刺激信号は、低周波パルスの周波数,パルス継続時間および振幅と、高電圧パルスの周波数,パルス継続時間および振幅を各々独立に制御できるのみならず、低周波パルスおよび/または高電圧パルス群の発生インターバルをも独立に制御することができるようにされている。これらの制御は、選択された刺激モードに対応してCPU2内の制御プログラムよって行われるが、刺激信号の周波数,振幅,パルス継続時間,発生インターバルの変更は可変抵抗器7により手動で行うこともできる。
【0034】
なお、刺激信号が出力される際には、選択された刺激モードが表示されると共に、CPU2に内蔵するタイマ(図示せず)が時間を計測し、その結果をセグメントLED6に表示するようになっている。
【0035】
本実施例では、パルス時間幅の広い低周波パルス信号にパルス時間幅の狭い高電圧パルスを重畳させているが、低周波パルス信号よりも高電圧パルス信号の電圧レベルが高くなるように、両パルス信号に電圧差さえあれば、パルス時間幅を逆にしてもよく、用途に応じてパルス時間幅を可変して良い。
【0036】
また本実施例では、第1出力回路8への出力電圧指示信号や低周波パルス駆動信号と、第2出力回路9への出力電圧指示信号や低周波パルス駆動信号を、CPU2から別々に供給できるようにして、導子31に送出される低周波パルス信号を第1出力回路8で発生させる一方で、同じく導子31に送出される高電圧パルス信号を、第1出力回路8とは別に独立した第2出力回路9で発生させるようにしている。そのため、第1出力回路8だけを動作させて、低周波パルス信号を単独に出力させたり、第2出力回路9だけを動作させて、高電圧パルス信号を単独に出力させたり、或いは第1出力回路8と第2出力回路9を共に動作させて、両パルス信号を同時に出力させたりすること可能であり、両パルス信号に電圧差さえあれば、低周波パルス信号および/または高電圧パルス信号の波形は矩形波でなくとも良い。
【0037】
第2出力回路8から高電圧パルス信号が出力されておらず、第1出力回路8から低周波パルス信号だけが出力されている場合、当該低周波パルス信号は定電圧半導体素子32,33を導通させる電圧レベルに達していないため、第1出力回路8と第2出力回路9は切り離された状態となる。これに対して、第2出力回路8から高電圧パルス信号が出力され、その高電圧パルス信号が定電圧半導体素子32,33の阻止電圧以上に達した場合にのみ、定電圧半導体素子32,33が導通して第1出力回路8と結合し、第1出力回路8からの低周波パルス信号上に高電圧パルスが重畳される。
【0038】
このように、第2出力回路8からの高電圧パルス信号が、定電圧半導体素子32,33を導通させる電圧レベルに達していない限り、第1出力回路8と第2出力回路9は切り離された状態を維持するため、定電圧半導体素子32,33を設けただけの簡単な構成でありながら、導子31間の負荷インピーダンスが極端に変化した場合でも、第1出力回路8と第2出力回路9が干渉して刺激信号の波形が歪んだりしない。また、低周波パルス信号と高電圧パルス信号のパルス幅が接近した場合でも、第1出力回路8と第2出力回路9とを確実に分離することが可能になる。
【0039】
本実施例に係る生体刺激装置の構成によれば、低周波パルスに高電圧パルスを重畳させた種々の形態の刺激信号を発生させて、導子31間から生体に刺激信号を与えることができる。図2には、導子31間に発生する刺激信号の出力電圧Voutの波形と、その刺激信号を得るための低周波パルス駆動信号V11,V11’の波形と、可変出力電圧V12の波形と、高電圧パルス駆動信号V21,V21’の波形と、可変出力電圧V22の波形とをそれぞれ示している。この場合、低周波パルス駆動信号V11,V11’が所定の正電圧(高レベル)になると、対応するスイッチ手段13,14がオンし、低周波パルス駆動信号V11,V11’が0V(低レベル)になると、対応するスイッチ手段13,14がオフする。また高電圧パルス駆動信号V21,V21’が所定の正電圧(高レベル)になると、対応するスイッチ手段23,24がオンし、高電圧パルス駆動信号V21,V21’が0V(低レベル)になると、対応するスイッチ手段23,24がオフするようになっている。
【0040】
図2における(1)の正極重畳では、矩形波状の低周波パルスが正負交互に同じパルス時間幅で発生すると共に、その低周波パルスが負から正に切り換わるタイミングを起点として、低周波パルスよりもパルス時間幅が短く、電圧レベルの高い正の高電圧パルスが2回発生する。
【0041】
図2における(2)の負極重畳では、矩形波状の低周波パルスが正負交互に同じパルス時間幅で発生すると共に、その低周波パルスが正から負に切り換わるタイミングを起点として、低周波パルスよりもパルス時間幅が短く、電圧レベル(絶対値)の高い負の高電圧パルスが2回発生する。
【0042】
図3における(3)の両極重畳では、矩形波状の低周波パルスが正負交互に同じパルス時間幅で発生すると共に、低周波パルスが負から正に切り換わるタイミングを起点として、低周波パルスよりもパルス時間幅が短く、電圧レベルの高い正の高電圧パルスが2回発生し、低周波パルスが正から負に切り換わるタイミングを起点として、低周波パルスよりもパルス時間幅が短く、電圧レベル(絶対値)の高い負の高電圧パルスが2回発生する。
【0043】
上記(1)〜(3)の何れの場合においても、周期的に出力される高電圧パルスの挿入位置(位相)やパルス時間幅,パルス電圧などは、用途に合わせ任意に変更して良い。また、(1)〜(3)のパターンを一定周期またはランダムに組み合わせたり、途中に全くパルスを出力しない休止期間を入れたりしてもよい。例えば、生体が容量リアクタンス負荷であることに着目して、上記(1)〜(3)で繰り返し出力される複数の正または負の高電圧パルスについて、そのピーク電圧値や低周波パルスに対する挿入位置を、正弦波状に変化させることにより、生体深層の神経をより効果的に刺激することも可能である。但し、高電圧パルスの電圧値は、定電圧半導体素子32,33が導通するレベルに設定する。
【0044】
また低周波パルスについても、上記(1)〜(3)のパターンとは異なり、例えば正の低周波パルスまたは負の低周波パルスだけを繰り返し出力させてもよいし、その電圧値を時間の経過と共に変化させて、刺激が単調になるのを防ぐようにしてもよい。但し、低周波パルスの電圧値は、定電圧半導体素子32,33が導通しないレベルに設定する。
【0045】
その他、治療効果を高めるために、低周波パルスと高電圧パルスは同期して出力しなくてもよく、互いに無関係な周期と位相で、一乃至複数の低周波パルスと高電圧パルスをそれぞれ出力してもよい。
【0046】
前記低周波パルスは、生体表層の筋を効果的に動かすことができ、刺激感覚が良いものの、電流を上げると痛みを伴うので、深層神経を刺激することができない。それに対して、低周波パルスよりも高い周波数の高電圧パルスは、瞬間的に大電流を流すことで、深層神経を刺激することができるものの、刺激感が少なく、刺激感覚が良くない。本実施例では、低周波パルスに高電圧パルスを重畳させることで、両パルスの欠点を相殺して利点を引き出すことが可能になる。
【0047】
また、人体は脳からの信号を深部の神経線維を通し筋肉に伝送するが、既存の低周波治療器の場合は経皮的に低周波電流を流すために、皮膚表面の感覚器官や表層筋が先に反応してしまい、深層筋に必要とする電流を送り込み難いという問題がある。そこで本実施例では、低周波の(微分)電流を抑えておいて、その代わりに幅の狭い高電圧パルスを重畳し、瞬間的な大電流(最大1A程度)を導子31から刺激信号として生体に流すことで、適度な筋収縮を起こすようにしてある。
【0048】
なお、本実施例では導子31からの刺激信号として瞬間的に大電流を流すが、その刺激信号を構成する高電圧パルスの時間幅が、数十マイクロセカンド以下と非常に短時間であり、平均電流はJIS規格内のため、通常行われている低周波治療の施術で火傷を起こす心配は無い。また低周波パルスの時間幅は、百マイクロセカンド程度から数ミリセカンドである。
【0049】
以上のように本実施例によれば、生体に導子31を当接し、第1出力回路8で生成された低周波パルスに、第2出力回路9で生成された高電圧パルスを重畳して、導子31から生体に刺激信号を与える生体刺激装置において、第1出力回路8から前記低周波パルスが発生しても導通せず、第1出力回路8と第2出力回路9とを分離する一方で、第2出力回路9から高電圧パルスが発生して、阻止電圧以上に達した時にのみ導通し、第1出力回路8と第2出力回路9とを結合する結合手段としての定電圧半導体素子32,33を備えている。
【0050】
この場合、第2出力回路9から高電圧パルスが発生していなければ、定電圧半導体素子32,33は非導通状態となって、第1出力回路8と第2出力回路9は切り離された状態を維持する。そのため、定電圧半導体素子32,33を設けただけの簡単な構成でありながら、導子31間の負荷インピーダンスが極端に変化した場合でも、第1出力回路8と第2出力回路9が干渉して刺激信号のパルス波形が歪んだりしない。また、低周波パルス信号と高電圧パルス信号のパルス幅が接近した場合でも、第1出力回路8と第2出力回路9とを確実に分離することが可能になる。
【0051】
また本実施例では、第2の出力回路8から周期的に出力される高電圧パルスの位相を可変する構成としている。こうすると、低周波パルス上に高電圧パルスを任意の位相で重畳できるため、特に生体の深層神経を効果的に刺激することが可能になる。
【0052】
さらに本実施例では、第1出力回路8と第2出力回路9をそれぞれ個別に設け、CPU2から第1出力回路8または第2出力回路9の一方にのみ、制御信号である出力電圧指示信号とパルス駆動信号を供給して、低周波パルスまたは高電圧パルスの何れかを単独で出力できるように構成している。
【0053】
この場合、刺激信号のパルス波形を歪ませることなく、低周波パルス上に高電圧パルスを重畳できるだけでなく、用途に応じて低周波パルスだけを出力させたり、高電圧パルスだけを出力させたりすることも可能になる。
【0054】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、第1出力回路8や第2出力回路9の内部構成は、図1に示したものに限定されない。
【符号の説明】
【0055】
8 第1出力回路
9 第2出力回路
31 導子
32,33 定電圧半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に導子を当接し、第1出力回路で生成された低周波パルスに、第2出力回路で生成された高電圧パルスを重畳して、前記導子から前記生体に刺激信号を与える生体刺激装置において、
前記第1出力回路から前記低周波パルスが発生しても導通せず、前記第1出力回路と前記第2出力回路とを分離する一方で、前記第2出力回路から前記高電圧パルスが発生した時にのみ導通し、前記第1出力回路と前記第2出力回路とを結合する定電圧半導体素子を備えたことを特徴とする生体刺激装置。
【請求項2】
前記第2の出力回路から周期的に出力される前記高電圧パルスの位相を可変する構成としたことを特徴とする請求項1記載の生体刺激装置。
【請求項3】
前記第1出力回路と前記第2出力回路が個別に設けられ、前記低周波パルスまたは前記高電圧パルスの何れかを単独で出力できるように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の生体刺激装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−130502(P2012−130502A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284590(P2010−284590)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(391009800)株式会社テクノリンク (11)
【Fターム(参考)】