説明

生体成分分離用デバイス、およびそれを用いた生体成分の分離方法

本発明は、核酸やタンパク質などの生体成分を含有する液体試料からの生体成分の分離(抽出・精製)に関するデバイス、方法として、少なくともいずれかの表面に1または複数本の溝が形成されてなる一対の基板を上記溝が内側となるように貼り合わせてなるチップと、磁気応答粒子とを備える生体成分分離用デバイス、ならびに、当該デバイスを用いて、(a)一対の基板を貼り合わせる面が水平方向に対し略垂直となるように、上記デバイスを保持する工程、(b)磁気応答粒子と、生体成分を含有する液体試料とを接触させることで生体成分を磁気応答粒子に吸着させる工程、(c)生体成分が吸着した磁気応答粒子を液体試料から分離する工程、(d)生体成分を磁気応答粒子から分離する工程を経て、液状試料より生体成分を分離する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、目的とする生体成分を含有する液体試料から生体成分を分離するためのデバイス、およびそれを用いた生体成分の分離方法に関する。
【背景技術】
核酸やタンパク質などの生体成分を含有する細胞等といった生物材料から生体成分を分離(抽出・精製)することは、遺伝子工学・タンパク質工学や臨床診断の分野では重要なステップである。例えば、ある遺伝子について解析しようとする場合、まず、その遺伝子を保持する細胞などといった生物材料からDNAやRNAといった核酸を抽出することが必要である。また、あるタンパク質について解析しようとする場合、まず、そのタンパク質を保持する細胞等といった生物材料から該蛋白質を分離して精製する必要がある。さらに、細菌やウイルスといった感染体の検出のためのDNA/RNA診断においても、血液などといった生物材料から細菌やウイルスの核酸を抽出することが必要である。
一般に、生物材料に含まれる核酸やタンパク質などといった生体成分は、フリーな状態で存在するわけでなく、タンパク質、脂質や糖から構成される細胞膜や細胞壁の殻の中に存在している。したがって、生物材料から生体成分を分離する場合には、まず、超音波や熱による物理的破砕、プロテアーゼによる酵素処理、あるいは、界面活性剤や変性剤による処理などを施すことにより生体成分を遊離させ、次いで、イオン交換体等といった担体を使用するカラムクロマトグラフィー等により、破砕物から生体成分を精製することが必要となる。これらの手法は、生体成分の種類、出発材料または用途に応じて組み合わされ、それぞれ最適化されて用いられている(Molecular cloning:a laboratory manual,2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989))。
しかし、これらの方法は煩雑な工程(遠心分離など)を含むため非常に手間がかかる。さらに、これらの方法により分離された核酸やタンパク質などといった生体成分サンプルには、夾雑物質が多く含まれている。夾雑物質とは、非目的タンパク質などであって、その後の解析において弊害となる。一方、純度よく生体成分を得るためには、これらの分離(抽出・精製)操作を行った後に、塩化セシウムによる密度勾配を利用した超遠心分離操作、透析、または限外濾過を利用した脱塩濃縮操作などといった、煩雑かつ長時間を要する精製操作が必要である。
ところで、核酸の簡便な抽出法として、シリカを核酸結合用固相担体として使用する方法が知られている(特開平2−289596号公報)。この方法では、バクテリアなどといった生物材料から一段階で核酸を抽出することが可能である。この方法は、抽出した核酸を直ちに後の解析に使用することができるという利点がある。その理由は、溶出液として水またはTEバッファーなどといった低濃度の緩衝液を使用するため、特別な脱塩濃縮操作が不要だからである。しかしながら、この方法によりシリカから溶出させて得られた核酸は、低濃度であり、その収量も少ない。そのため、少量の核酸で分析が可能なPCR(Polymerase Chain Reaction)などには通常のスケールにて適用可能であるが、サザンハイブリダイゼーションやノーザン・ブロットなどといった分析には大規模化とその後の濃縮工程という煩雑な操作を必要とする。この方法では、核酸の抽出・精製に十分な量の核酸結合用固相担体が必要である。そのため、微小スケールの装置の実現が困難である。このような従来の方法を自動的に行うことができるシステムの微小化はさらに困難である。その理由は、自動化システムの構築のためには、核酸が結合した担体を攪拌、分離、移動するためのピペット操作を行うロボットアームを有する大掛かりな装置が必要だからである。
簡便性を更に高めた核酸抽出方法として、核酸結合用磁性担体を使用する核酸単離方法がある。例えば、核酸が共有結合し得る重合性シラン被膜により覆われた超常磁性酸化鉄核を有する磁気応答粒子を利用する方法が知られている(特開昭60−1564号公報)。しかし、この方法も、溶出により得られる核酸の量は少なく、その濃度は低い。この方法では、スケールの小型化が困難である。
【発明の開示】
生物材料からの生体成分の分離(抽出・精製)を微小スケールで行うことができれば、サンプルに含まれる微量の核酸やタンパク質の分析が可能となり、そのような分離方法は診断分野への新たな適用が期待される。しかしながら現在に至るまで、限られた面積内で生体成分を分離(抽出・精製)し得るデバイスは開発されていない。
そのような実情に鑑みて、本発明は、核酸やタンパク質などといった生体成分を含有する液体試料から生体成分を分離(抽出・精製)する一連の操作を微小スケールで実現可能なデバイスおよびそれを利用した方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、まず、強磁性酸化鉄粒子をシリカで被覆してなる磁気応答性粒子を用い、適宜、磁場・電場をかけることで、攪拌、分離、移動の各処理を簡便かつ安価に行うことができ、非常に効率良く核酸を抽出することができることを見出した。また、1または複数本の溝が形成された一対の基板を溝が内側となるように貼り合わせたチップを用い、これを基板の貼り合わせ面が水平面に対し略垂直となるように保持し、基板内に形成された空間内で上記磁気応答粒子を用いた核酸抽出を行うと、核酸抽出の効率が著しく向上することを見出した。さらに、リン酸結合骨格に起因する負の電荷を核酸が持つことに着目して、磁気応答粒子を含む系に電場をかけると、磁気応答粒子から核酸を高効率に遊離させ得ることも、本発明者らは見出した。これらの知見に基くことで、従来の方法では困難であった核酸の抽出・精製工程のスケールを小型化することができ、安価かつ簡単な構成によって分析に適した核酸を得ることができ、また、極めてわずかな量の液体試料を対象とする高感度な分析が可能となる。したがって、システムの小型化が容易であり、微小な核酸分析のトータルシステム、いわゆる核酸分析の微小化TAS(トータル・アナリシス・システム)を実現することが可能になる。
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
(1)少なくともいずれかの表面に1または複数本の溝が形成されてなる一対の基板を上記溝が内側となるように貼り合わせてなるチップと、磁気応答粒子とを備える生体成分分離用デバイス。
(2)上記溝が、チップ内において少なくとも1個の区画室および該区画室に連通する流路を形成してなる上記(1)に記載のデバイス。
(3)上記溝が、区画室内に突出する突起を有する上記(2)に記載のデバイス。
(4)生体成分が核酸である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のデバイス。
(5)磁気応答粒子がシリカをさらに含有する上記(4)に記載のデバイス。
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のデバイスを使用して、以下の(a)〜(d)の工程を有する、生体成分を含有する液体試料から生体成分を分離する方法。
(a)一対の基板を貼り合わせる面が水平方向に対し略垂直となるように、上記デバイスを保持する工程、
(b)磁気応答粒子と、生体成分を含有する液体試料とを接触させることで生体成分を磁気応答粒子に吸着させる工程、
(c)生体成分が吸着した磁気応答粒子を液体試料から分離する工程、
(d)生体成分を磁気応答粒子から分離する工程。
(7)磁気応答粒子が強磁性粒子を含有することを特徴とする上記(6)に記載の方法。
(8)工程(c)が、磁場をかけて磁気応答粒子を動かすことによってなされる上記(6)または(7)に記載の方法。
(9)工程(d)が、生体成分を溶媒中に溶出させることによってなされる上記(6)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)工程(d)が、電場をかけて生体成分を磁気応答粒子から分離させる工程を含む上記(6)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)上記各工程の少なくとも一つを自動的に制御することを特徴とする、上記(6)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)生体成分が核酸である上記(6)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)磁気応答粒子がさらにシリカを含有する上記(12)に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の生体成分分離用デバイスの好ましい一例を模式的に示す。
図2は、本発明の生体成分分離用デバイス1を用いた生体成分の分離方法に好適に利用可能な、チップトレイ13、試薬カートリッジ15、マグネット駆動装置19を模式的に示す。
図3は、本発明の生体成分分離用デバイス1を用いた生体成分の分離方法を模式的に示す。
各図面中、符号1は生体成分分離用デバイスを、符号2はチップを、符号3は基板を、符号4は溝を、符号5は区画室を、符号6は流路を表す。
発明の詳細な説明
図1は、本発明の生体成分分離用デバイス1の好ましい一例を模式的に示す。本発明の生体成分分離用デバイス1は、磁気応答粒子を利用して、生体成分を含有する液体試料から生体成分を分離(抽出・精製)するためのデバイスである。本発明の生体成分分離用デバイス1は、少なくともいずれかの表面に1または複数本の溝4が形成された一対の基板3を上記溝が内側となるように(溝が形成された基板表面が露出しないように)貼り合わせてなるチップ2と、磁気応答粒子(図示せず)とを備える。
なお本明細書中における「生体成分を含有する液体試料」としては、DNA、RNAまたはタンパク質を含む試料、例えば、血液、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、酵母、動物組織、植物組織、バクテリオファージ、ウイルス、細菌あるいはこれらの組み合わせが例示される。
本発明に使用される基板3は、板状物であれば、その主面形状に特に制限はなく、方形状(正方形状、長方形状)、円形状(真円形状、楕円形状)、三角形状、多角形状などであってよい。中でも、取扱い易さ、強度、成形・加工のし易さの観点から、方形状が好ましい。基板3の大きさは特には制限はない。システムの小型化の観点からは、基板3の大きさは、後述する生体成分の分離を行い得る範囲内でできるだけ小さいことが好ましい。具体的には、基板3の主面の面積は、好ましくは1cm〜100cmであり、より好ましくは5cm〜40cmである。本発明で用いるチップ2は、上述のように溝が内側となるように一対の基板3を貼り合わせて形成される。そのように貼り合わせた状態で溝が形成された基板表面が露出しないのであれば、各基板3は互いに同じ大きさでもよいし異なる大きさでもよい。また、基板3の厚みは限定されない。後述するようにチップの外部より与える磁場の大きさが磁石からの距離に依存することを考慮すると、基板3の厚さは、好ましくは0.5mm〜5mmであり、より好ましくは1mm〜2mmである。各基板3は、互いに同じ厚みであってもよいし、互いに異なる厚みであってもよい。
必要であれば、たとえば、濡れ性の向上、表面張力の調整、試薬による基板の化学反応(溶解、腐食等)の防止などの目的で、基板3の表面には加工が施されていてもよい。表面を加工する方法は、後述する基板の材料や加工の目的に応じて従来公知の方法を適宜適用すればよく、特に制限されない。たとえば、濡れ性を向上するための表面処理としては、コーティング、蒸着、スパッタなどが挙げられ、そういった処理の際には、生体成分の分離時に用いる試薬に対して親和性を呈する官能基を有する物質を用いることが好ましい。
基板3の材料は特に制限されず、例えば、ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィンなどといった熱可塑性樹脂;ポリイミドなどといった熱硬化性樹脂;石英ガラス、耐熱ガラスなどといったガラス;シリコン、GaAsなどといった半導体;AlN、Alなどといったセラミック;CuAl、SUSなどといった金属;ナイロン、ポリエチレン、ポリエステルなどで形成された繊維;カーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、フラーレン、カーボンナノチューブなどといった炭素誘導体;木材などが挙げられる。後述するように、チップの外部より磁場(および場合によっては電場)を与えることによって生体成分を分離する点、加工の容易さ(場合によってはさらに表面処理のし易さ)の点、カオトロピック物質など試薬に対する耐性(耐薬品性)の点、区画室内でPCRを行う場合の温度耐性の点、あるいは外部よりの視認性の点などを考慮すると、少なくとも一方の基板3の材料は、樹脂、ガラス、セラミック、非磁性金属などといった強磁性を呈さない材料が好ましい。本発明の実施にて電場をかける場合には、局部的に電場を集中させやすい、樹脂、ガラス、セラミックが好ましい。各基板3の材料は、互いに同じであってもよいし互いに異なっていてもよい。
本発明では、チップを形成する一対の基板のうち少なくとも一方の基板に、溝4が1または複数本形成される。該溝4が内側となるように基板3を貼り合わせることで、チップ2の内部に空間が形成して、その空間内で、磁気応答粒子を使用した生体成分の分離が行われる。チップ2の内部にそのような空間が形成するのであれば、溝4自体の形状、大きさ、本数に特に制限はない。溝4は基板の材料に応じて、従来公知の適宜の手段を用いて基板主面に形成することができる。たとえば基板が樹脂製であるならば射出成形を適用でき、たとえば基板がガラス製や石英製などであればエッチングや研削などを適用できる。
生体成分の分離を効率的に行わせる観点からは、溝は、少なくとも1個の区画室5および該区画室5に連通する流路6を形成してなるのが好ましい。
区画室5は、磁気応答粒子を用いて生体成分を含有する液体試料から生体成分を分離するための空間であり、その大きさに特に制限はない。区画室5が複数個存在する場合、各区画室5は全て同一の大きさであっても互いに異なる大きさであってもよい。スケールを小型化し得る観点からは、区画室5は、好ましくは1mm〜400mm、より好ましくは30mm〜100mmの容積を有する。区画室5の形状は特に制限はなく、方形状(直方形状、立方形状)、円柱状、球状、円錐状などの適宜の形状であってよく、溶液の保持性、取扱い易さ、成形または加工の容易さの観点からは、直方形状が好ましい。
流路6は、各区画室5を連通するように形成されていればよい。後述するように、本発明のデバイス1を用いて液体試料中の生体成分を分離する場合、基板3の貼り合わせ面が水平方向に対し略垂直となるように保持されることが好ましい。このようにデバイス1を保持した際に区画室5が水平方向に対し略垂直な方向にできるだけ長くのびるよう、流路6は区画室の一方側の端部において各区画室5を互いに連通するように形成されるのが好ましい。この場合、デバイス1を保持する際には、流路6にて連通された区画室5の端部が上側となるように保持するのが好ましい。上記流路6の幅は、生体成分分離用デバイスのスケールの微小化の観点から、好ましくは5μm〜5mmであり、より好ましくは50μm〜3mmである。流路6は、全てが同一の幅であってもよく、また全てが互いに異なる幅であってもよい。後述する磁気応答粒子−生体成分結合体が流路6を移動し得るのであれば、流路6の形状は特に制限はなく、直線状であっても曲線状であってもよい。図1に示すように、流路6は好ましくは直線状である。
溝4の深さは、特に制限されず、基板3の厚みを勘案しながら適宜選択することができる。対象とする液体試料に応じて、区画室に収容すべき試薬等の必要量は概ね決まっているから、溝の深さが浅いほど、基板主面の面積を大きくせねばならない。デバイス全体の小型化の観点からは、溝4の深さは、好ましくは0.1mm〜4.5mmであり、より好ましくは0.5mm〜1.5mmである。溝4の深さは、区画室5と流路6とで互いに異なるように形成されていてもよい。
本発明における区画室5は、上述したような空間が形成されるならば、その壁部が適宜の凹凸部分や湾曲、屈曲した部分を有していてもよい。生体成分と磁気応答粒子との効率的な攪拌を考慮すると、溝4は、区画室5内に突出する突起7を有することが好ましい。上述したように、用時には基板3の貼り合わせ面が水平方向に対し略垂直となるようにデバイス1が保持されることが好適であることを鑑みると、突起7は、区画室5の端部のうちの、流路6で連通されているのとは反対側の端部、換言すれば上述のように保持したときに下側に位置する端部、に形成されるのが好ましい。
図1には、例えば、長方形状の主面形状を有するチップ2を有し、第一幅方向Xに沿って並ぶように設けられた約4mm(第一幅)×約15mm(第二幅)×約1mm(深さ)の直方形状の区画室5を複数個(具体的には、6個)有し、それぞれの区画室5が、幅1.5mm、深さ0.8mmの流路6にて互いに連通されてなるデバイスの例を示している。流路6は、各区画室5の第二幅方向Yの一方側において隣り合う区画室を連通する。図1に示す生体成分分離用デバイス1は、各区画室5の第二幅方向Yの他方側において磁気応答粒子を効率的に攪拌するための突起7を有する。
ここで、上記第一幅方向Xは、チップの長方形状の主面を形成する四辺のうちの長辺に概ね沿った方向をさし、上記第二幅方向Yは、上記四辺のうち短辺に概ね沿った方向をさす。なお第一幅方向X、第二幅方向Yおよび厚み方向Zは、互いに垂直である。
本発明のデバイス1における溝4は、生体成分を含有する液体試料(および場合によっては磁気応答粒子)をチップ2内に注入するための注入口8、ならびに、液体試料より分離した生体成分をチップより取り出すための排出口9においてチップ2の外部空間と連通してなるのが好ましい。後述するように、生体成分の分離に要する試薬を区画室に注入するための試薬注入口10に連通するように各区画室5が形成されていてもよい(図1を参照)。
基板3を貼り合わせる手段としては、基板3に形成された溝が内側となるように貼り合わせることができる手段であれば特に制限されず、例えば、2液型または1液型の熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などを含有する公知の接着剤、粘着テープなどの粘着剤、Au−Sn、Snなどの低融点金属、超音波融着などが挙げられる。中でも比較的広範囲の材料を容易に接着でき、気密性が高く、安価であるなどの理由から、接着剤によって基板3を貼り合わせるのが好ましい。
本発明のデバイスを用いて生体成分を分離する対象は液体試料であること、また、後述するように区画室に試薬を収容することから、チップの貼り合わせ面の外周は、密封されてなるのが好ましい。密封に使用される材料は特に制限はなく、たとえば、シリコーンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴムなどのゴム材やフッ素樹脂、石綿、金属、セメントなどが挙げられ、液漏れや逆流を防止しつつ注射針などを用いて外部よりチップ内の溝に液体を注入できること、また、加工が容易であることなどを考慮すると、ゴム材が好ましい。
本発明のデバイスは、区画室に予め試薬を収容した商品形態にて供されてもよい。この場合、上記のように基板の貼り合わせ面の密封後に試薬を区画室に注入してもよいし、試薬を区画室に注入した後に貼り合わせ面を密封してもよい。試薬の注入には、後述する試薬カートリッジ15を好適に使用することができる。
本発明の生体成分分離用デバイスは、チップに加えて、磁気応答粒子を有する。磁気応答粒子は、チップ内に予め収容されていてもよいし、液体試料をチップ内に注入する際に、チップ内に注入してもよい。本発明に使用される磁気応答粒子は、強磁性粒子を含有しているものであれば、当分野において従来公知のものを特に制限なく使用することができる。ここで「強磁性粒子」とは、磁気応答性(磁界に対する感応性)を有する粒子を指し、磁気応答粒子とした場合に磁気応答性を付与し得るものであれば、超常磁性を示す粒子も含む。ここで「磁気応答性を有する」とは、外部磁界が存在するとき、磁界により磁化する、あるいは磁石に吸着するなど、磁界に対して感応性を示すことを指す。
強磁性粒子としては、上記磁気応答性を示すものであれば特に制限はなく、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属粒子、酸化鉄、二酸化クロムなどの酸化物、これら酸化物の複合体、ならびに各種の金属間化合物などから選ばれる少なくともいずれかが使用可能である。中でも、酸化鉄を主体にした金属製の粒子を酸化反応させて得られた粒状物(強磁性酸化鉄粒子)は、各種薬品中に分散させても品質が安定し、磁界に対する感応性に優れているため好ましい。強磁性酸化鉄粒子としては、従来公知の種々の強磁性酸化鉄粒子を使用することができるが、中でも化学的安定性に優れることからマグネタイト(Fe)粒子、マグヘマイト(γ−Fe)粒子、マグネタイト−マグヘマイト中間体粒子、マンガン亜鉛フェライト(Mn1−XZnFe)粒子などのフェライト粒子から選ばれる少なくとも一種であるのが好ましく、中でも大きな磁化量を有しているため磁界に対する感応性に優れるマグネタイト粒子が特に好ましい。強磁性酸化鉄粒子は従来公知の方法、例えば、水中でFe(OH)などの粒子を酸化反応させる方法にて作製することができる。
本発明の生体成分分離用デバイスを用いて核酸を抽出する場合は、磁気応答粒子として、上述した強磁性粒子とシリカとを含有するものを使用するのが好ましい。この場合、強磁性粒子の外側を覆うように磁気応答粒子の最外にシリカの層を形成するのが好ましい。この場合、シリカの層は、強磁性粒子を完全に覆うように形成されていてもよく、核酸とシリカとの結合性を阻害しない範囲であれば強磁性粒子の一部が露出してなるように形成されていてもよい。強磁性粒子1個がシリカで被覆されて1個の磁気応答粒子が形成されてもよく、強磁性粒子が2個〜100個集結した塊状物がシリカで被覆されることで1個の磁気応答粒子が形成されてもよい。なお磁気応答粒子のシリカは、SiO結晶および他の形態の酸化ケイ素、SiOから構成されるケイソウ植物の骨格ならびに無定型酸化ケイ素を含む。
図2は、本発明の生体成分分離用デバイス1と組合わせて、液体試料からの生体成分の分離に好適に使用できる、チップトレイ13、試薬カートリッジ15、マグネット駆動装置16を模式的に示す。図3は、本発明の生体成分分離用デバイス1を用いた生体成分の分離方法を模式的に示す。
チップトレイ13は、後述する本発明の生体成分の分離方法の工程(a)において、デバイス1を基板の貼り合わせ面が水平方向に対し略垂直となるように保持するために好適に使用できる手段である。チップトレイ13は、たとえば、図2に示すようなデバイス1を挿入可能な凹部14を上面に有する。この凹部14にデバイス1を挿入することによって(図3(a))、デバイス1は、その基板の貼り合わせ面が水平方向に対し略垂直となるように支持され得る。
試薬カートリッジ15は、後述する本発明の生体成分の分離方法の工程(b)や工程(d)において、区画室5に、生体成分の分離に要する各種試薬16を供給するためのカートリッジである。試薬カートリッジ15は、たとえば、カートリッジ本体17より突出するように形成された試薬供給口18を有する。この試薬供給口18を上述したデバイス1の試薬注入口10に挿入して(図3(a))、区画室に試薬16が供給され得る。
マグネット駆動装置19は、後述する本発明の生体成分の分離方法の工程(c)において、磁場を発生させるための手段である。かかるマグネット駆動装置19にて発生させた磁気によって、磁気応答粒子を感応させて移動させることができる。
その他、場合によっては、電場を与えるためのパワーサプライやピペッティング手段、制御手段なども、後述する生体成分の分離の際に、本発明の生体成分分離用デバイス1と適宜組合わせることができる。
本発明はまた、上述した生体成分分離用デバイス1を使用して、生体成分を含有する液体試料から生体成分を分離(抽出・精製)する方法を提供する。本発明の生体成分の分離方法は、以下の(a)〜(d)の工程を少なくとも有する。
(a)基板の貼り合わせ面が水平方向に対し略垂直となるように生体成分分離用デバイスを保持する工程、
(b)磁気応答粒子と、生体成分を含有する液体試料とを接触させることで生体成分を磁気応答粒子に吸着させる工程、
(c)生体成分が吸着した磁気応答粒子を液体試料から分離する工程、
(d)生体成分を磁気応答粒子から分離する工程。
本発明の方法における工程(a)は、重力を有効に活用するために、前記デバイスを基板の貼り合わせ面が水平方向に対し略垂直となるように保持する工程である。一般に、生体成分を含有する液体試料から生体成分を分離する場合には、該液体試料の容積が大きいほど目的とする生体成分の回収量が多くなる。しかし、前記容積を大きくする目的で薄い基板に面積の大きな区画室を形成すると、該区画内の液体(液体試料、試薬など)が表面張力の影習を強く受けて該区画室から溢れ出すため、生体成分分離用デバイスとしての機能が損なわれる虞がある。一方、区画室を深くすることができれば、表面張力の影響を最小限に抑えながら前記容積を大きくすることが可能である。しかし、狭い面積に深い溝を形成することは加工上およびコスト上の観点から困難であり、容積を増すために区画室を深くしようとすると、デバイスが大型化してしまう。本発明においては、薄い(1mm〜2mm程度の厚みの)チップに面積の大きな区画室を形成したデバイスを、上記工程(a)にて、基板の貼り合わせ面が水平方向に対し略垂直となるように保持することにより上記問題を解決した。具体的には、例えば、図1に示す区画室2は、約1mm×約4mm×約15mmの直方形状であり、該区画室2を形成するために基板に形成した溝の大きさは、第一幅方向Xにおける長さ(第一幅)が約4mm、第二幅方向Yにおける長さ(第二幅)が約15mm、厚み方向Zにおける長さ(深さ)が約1mmである。このように、安価かつ簡単に前記容積を大きくすることが可能である。
工程(a)において、デバイス1を基板の貼り合わせ面が水平方向に対し略垂直となるように保持するための手段は、特に制限されるものではなく、好適な手段としては、例えば、上述したチップトレイ13が挙げられる(図3(a),(b))。
本発明の方法における工程(b)は、磁気応答粒子と、生体成分を含有する液体試料とを接触させることで生体成分を磁気応答粒子に吸着させる工程である。反応室内で磁気応答粒子と液体試料中の生体成分とを接触せしめるための、磁気応答粒子と液体試料との混合の条件としては、生体成分や磁気応答粒子の性能を損なわないならば、特に制限はない。図1に示す生体成分分離用デバイス1には、区画室5に突出する突起7が備えられている。後述の工程(c)において、磁場を制御して磁気応答粒子と突起7とを衝突させることで、磁気応答粒子と液体試料とを効率的に攪拌することができる。かかる工程(b)に際し、チップ2に形成された注入口8より、液体試料および磁気応答粒子を区画室5内に導入する。但し、磁気応答粒子がチップ内に予め収容されているのであれば、液体試料のみを区画室5内に導入する。
ここで、磁気応答粒子と生体成分との「吸着」とは、後述の工程(c)において両者が一体として移動できる程度に、両者が結合することを意味し、両者の結合の様式は限定されない。
本発明の生体成分分離用デバイス1を用いて液体試料中の核酸を抽出しようとする場合は、上述のように磁気応答粒子として強磁性粒子に加えシリカを有するものを使用するのが好適である。核酸をシリカに特異的に吸着させ得ることを考慮すると、カオトロピック物質を少なくとも含有する核酸抽出精製用溶液を共存させて、換言すればカオトロピックイオンの存在下で、区画室内で磁気応答粒子と液体試料とを混合するのが好ましい。上記カオトロピック物質としては、グアニジン塩、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、(イソ)チオシアン酸ナトリウム、尿素などから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、中でもグアニジン・チオシアン酸塩が特に好ましい。核酸抽出精製用溶液中のカオトロピック物質の濃度に特に制限はなく、好ましくは1モル/L〜10モル/Lである。核酸抽出精製用溶液としては、上記カオトロピック物質以外に、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、トリス・塩酸緩衝液、Triton−X100などを含有するものを好適に使用することができる。上記区画室に供される前に液体試料または磁気応答粒子に核酸抽出精製用溶液を予め混合してもよいし、区画室内に磁気応答粒子および液体試料を添加した後に核酸抽出精製用溶液を添加してもよい。
工程(b)において、区画室に試薬を供給する手段は特には制限されない。例えば、上述した試薬カートリッジ15を用いて、試薬供給口18をチップ2の試薬注入口10に挿入し、区画室内に試薬16を供給してもよい(図3(a))。
本発明の方法における工程(c)は、生体成分が吸着した磁気応答粒子を液体試料から分離する工程である。この工程により、磁気応答粒子と上記工程(b)にて磁気応答粒子に吸着せしめた生体成分(以下、これらを「磁気応答粒子−生体成分結合体」ということがある)とが液体試料から単離され、結果的に、生体成分が液体試料から分離される。工程(c)は、具体的には、磁気応答粒子に磁場をかけ、磁気応答粒子−生体成分結合体を区画室5より流路6を通じて移動させることにより、行うことができる。工程(c)においては、所望に応じて、磁気応答粒子を感応させて磁気応答粒子−生体成分結合体を区画室5より移動させ得るに十分な磁力を呈する永久磁石、電磁石などの従来公知の適宜の磁石を磁場発生源(たとえば、上述したマグネット駆動装置19)として使用することができる。好適には、磁束密度が500ガウス〜4000ガウス、特には3000ガウスの磁石が使用される。このように本発明の生体成分分離用デバイスにおいては、磁気応答粒子を生体成分の担体として用い、磁場の制御により生体成分を攪拌、分離、移動させる構成とすることで、装置の大型化の原因となるピペットを用いる工程を減らすことができ、装置の小型化に貢献し得る。
本発明の生体成分分離用デバイス1では、上述のように、溝4は、好適には区画室5およびこれに連通する流路6を有する。工程(c)で磁場を制御することにより、上記磁気応答粒子−生体成分結合体が区画室5から流路6に移動して、生体成分が液体試料から分離され得る。図1に示した生体成分分離用デバイス1において、複数個の区画室5のうちいずれかの区画室を上記工程(b)を行うための区画室として使用することができ(以下、このために使用される区画室を「反応室」ということがある。)、この反応室とこれに隣接する区画室とを連通する流路のうちのいずれかの流路6を、上記工程(c)を行うための流路として使用することができる(以下、このために使用される流路を「分離用流路」と呼ぶことがある。)。
本発明の方法における工程(d)は、上記液体試料から分離した後の磁気応答粒子−生体成分結合体から生体成分を遊離させ、これらを分離する工程である。その方法としては、磁気応答粒子−生体成分結合体を適宜の溶媒中に置くことによって生体成分を溶出させる方法の他、磁気応答粒子−生体成分結合体に電場をかけることによって磁気応答粒子から生体成分を分離する方法が用いられ得る。電場をかける条件は、生体成分や磁気応答粒子の性状を損なわない緩やかな条件であることが好ましく、10V〜200Vの電圧の印加が好適である。電場は、従来公知のパワーサプライや電気泳動装置などを使用してかけることができる。電場を用いる場合の工程(d)による処理は、上記分離用流路を含む流路のうちのいずれか(例えば、図1に示す例では、流路6のいずれか)で行えばよい。
本発明の生体成分分離用デバイス1を用いて核酸を抽出しようとする場合は、例えば、流路に電解質溶液を予め注入しておき、ここに磁気応答粒子−核酸結合体を存在させ、10V〜200V程度の電圧を印加する。これにより、核酸のみを正極に移動させることができ、結果として磁気応答粒子と核酸とが分離して、精製された核酸を得ることができる。また、流路に電解質溶液に浸漬した状態のゲルマトリックスを予め設置しておき、ここに磁気応答粒子−核酸結合体を存在させ、ゲルマトリックスに10V〜200V程度の電圧を印加する。このようにすると、磁気応答粒子はゲルマトリックス内を移動せず、核酸のみが正極方向に移動するので、結果として磁気応答粒子と核酸とが分離して、精製された核酸が得られる。
このように電場を利用することで、単に水やバッファーに溶出させるたけの場合とは異なり、高収率で磁気応答粒子から生体成分を遊離させることができ、微小量分析の実現に貢献し得る。
上記電解質溶液としては、従来公知の組成のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、TAE(トリス/酢酸/EDTA)、TBE(トリス/ホウ酸/EDTA)などが例示される。また、ゲルマトリックスについても、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、ポリアクリルアミドやアガロースなどが例示される。
工程(d)における、電場を用いた生体成分と磁気応答粒子との分離には、適当な孔を有するメンブレンを利用することもできる。すなわち、流路において磁気応答粒子−生体成分結合体を含む液をメンブレンで覆い、適当な電圧(10〜200V)を印加することにより、磁気応答粒子から生体成分が遊離して、精製された生体成分を回収することができる。メンブレンは、当分野において従来から広く使用されている適宜のものを特に制限なく使用することができ、例えば、セルロース、セラミック、ポリスルホン、セルロースアセテートなどで形成されたものが挙げられる。上記磁気応答粒子より小さな孔径を有するメンブレンが好適に使用される。
上記磁気応答粒子−生体成分結合体を含む液としては、例えば磁気応答粒子−生体成分結合体をTAE(トリス/酢酸/EDTA)、TBE(トリス/ホウ酸/EDTA)などの分散媒に分散させたものを好適に使用することができる。
磁気応答粒子−生体成分結合体を、工程(c)による磁場の制御によって、上述した工程(d)による処理を行うための流路に移動させてもよいし、あるいは、上記工程(c)にて液体試料より分離した後の磁気応答粒子−生体成分結合体をピペッティング手段などによって分取して、工程(d)による処理を行うための流路に分注するなどしてもよい。上記工程(c)にて液体試料より分離した後の磁気応答粒子−生体成分結合体をピペッティング手段などによって他の領域(例えば、図1の例においては、区画室2のうち反応室として使用したものを除くいずれか)に移し、磁気応答粒子から生体成分が遊離しない組成および濃度の溶液で前記磁気応答粒子−生体成分結合体を数回洗浄し、上記工程(d)による処理に供してもよい。これにより、精製された生体成分の純度向上や磁気応答粒子からの生体成分の遊離における好ましい結果が得られることがある。
本発明の生体成分分離用デバイス1は、上記工程(d)にて磁気応答粒子から分離した後の生体成分を収容しておくための領域(以下、この領域を「回収室」という)を1個以上有していてもよい。このような回収室を有することで、上記工程(d)による処理後の生体成分を、その後の適宜の手段による処理(例えば、核酸またはタンパク質の分析など)に供するまで収納しておくことができる。回収室の大きさには特に制限はなく、複数個有する場合にはすべて同一の大きさであっても互いに異なる大きさであってもよく、好適には、上述した反応室と同程度の大きさでる。回収室は、上述した反応室と流路(分離用流路であってもよい)を介して連通されていてもよいし、連通されていなくてもよい。図1に示す生体成分分離用デバイス1では、上記複数個の区画室5のうち、反応室として使用するものを除く少なくともいずれかを、回収室として使用することができる。
本発明の生体成分分離用デバイス1は、必要に応じ、同時に2つ以上の液体試料を処理したり、同一の液体試料を2つ以上に分けて処理するなど、複数の工程を同時に進め得るように構成されてもよい。そのような構成の例として、複数個の区画室およびこれらを連通する流路が、第一幅方向Xまたは第二幅方向Yに関して多段に形成された構成などが挙げられる。この場合、各サンプルのために使用する区画室5、流路6を他のサンプルのために使用するものと区別するために、流路に仕切りを設けてもよい。また、液体試料を移動させる際、すべての移動において磁場・電場を用いる必要はなく、一部においてはピペッティング手段などの公知の手段を用いても差し支えない。例えば、上述した回収室が反応室と流路を介して連通されている場合には、電場を用いて生体成分を回収室へと移動させることができ、回収室と反応室とが連通されていない場合には、ピペッティング手段にて、工程(d)により磁気応答粒子より分離された後の生体成分を分取して、回収室に分注することができる。
以上の工程(a)〜(d)を備える本発明の生体成分の分離方法によれば、液体試料中の生体成分を簡便な操作で、効率よく分離(抽出・精製)することができ、今までの技術では困難であった生体成分を分離するための微小化システムの構築が可能となる。
また、本発明においては、生体成分が核酸である場合、上記(a)〜(d)の工程の後、分離した核酸を区画室内で増幅する処理をさらに行ってもよい。かかる増幅処理を行う場合、たとえばPCRなど従来公知の核酸を増幅し得る方法を実現すべく、溝4がPCRを行うための区画室(以下、これを「増幅室」という)を有していてもよい。このとき、本発明のデバイスには、増幅室内をPCRを行うに好適な温度サイクルに調節し得る温度管理手段(図示せず)が組合わせられることが好ましい。増幅室の大きさには特に制限はなく、上述した反応室、回収室と同程度の大きさであればよい。増幅室を複数個有する場合には、全て同一の大きさであっても互いに異なる大きさであってもよい。また温度管理手段は、増幅室内をPCR法を行うに好適な温度サイクルに調節し得るものであればよく、従来公知のPCR装置に使用される温度管理手段が挙げられ、中でも、反応効率を飛躍的に向上させる点から、ペルチエ素子を利用した温度管理手段が好ましい。
液体試料より分離した後の核酸を増幅室へ移動する手段として、電場が挙げられ、必要に応じ、ピペッティング手段も挙げられる。PCRに要するポリメラーゼ、基質、プライマー、バッファなどは、試薬として予め増幅室内に注入しておいたり、ピペッティング手段により増幅室に分注しておけばよい。
液体試料より分離した後の核酸を、回収室として使用した区画室から移動させることなく区画室内で増幅を行わせててもよい。
また、本発明の生体成分分離用デバイスは、各工程の少なくとも一つを自動的に制御し得る(好ましくは、すべての工程を自動的に制御し得る)制御手段と合わせて使用されてもよい。かかる制御手段と合わせて使用することにより、生体成分の分離(抽出・精製)の工程の一部または全部を自動化することも可能になる。制御手段は、制御対象とする工程に用いられる駆動源の入切、動作の程度、動作の状態などを制御する制御装置を有している。前記制御装置に、例えば、制御プログラムを有する制御コンピューターを含んた制御回路、シーケンス制御回路など、上記各工程の動作の制御に必要な制御機器を組み合わせて構成してもよい。また、上記各工程の駆動源に直接駆動信号を送るために必要なドライバー、上記各工程の駆動源の動作状態を検出するために必要なセンサー、スイッチなどを適宜加えてよい。
なお、上述してきた説明では、主にDNAの分離(抽出・精製)を主眼に置いてきたが、本発明の生体成分の分離方法はRNAまたはタンパク質などについても同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明により、従来の技術では困難であった、簡便に効率よく核酸やタンパク質などの生体成分を分離(抽出・精製)できるようになる。これにより、前記生体成分の分離に関する一連の操作を微小化スケールで実現することが可能となり、診断分野において用いることが可能となる。さらには、生体成分の分離(抽出・精製)から分析までの小型化されたトータルシステム、いわゆる微小化TAS(トータル・アナリシス・システム)を提供することが可能となる。
本出願は、日本で出願された特願2003−197937を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含される。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともいずれかの表面に1または複数本の溝が形成されてなる一対の基板を上記溝が内側となるように貼り合わせてなるチップと、磁気応答粒子とを備える生体成分分離用デバイス。
【請求項2】
上記溝が、チップ内において少なくとも1個の区画室および該区画室に連通する流路を形成してなる請求の範囲第1項に記載のデバイス。
【請求項3】
上記溝が、区画室内に突出する突起を有する請求の範囲第2項に記載のデバイス。
【請求項4】
生体成分が核酸である請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
磁気応答粒子がシリカをさらに含有する請求の範囲第4項に記載のデバイス。
【請求項6】
請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載のデバイスを使用して、以下の(a)〜(d)の工程を有する、生体成分を含有する液体試料から生体成分を分離する方法。
(a)一対の基板を貼り合わせる面が水平方向に対し略垂直となるように、上記デバイスを保持する工程、
(b)磁気応答粒子と、生体成分を含有する液体試料とを接触させることで生体成分を磁気応答粒子に吸着させる工程、
(c)生体成分が吸着した磁気応答粒子を液体試料から分離する工程、
(d)生体成分を磁気応答粒子から分離する工程。
【請求項7】
磁気応答粒子が強磁性粒子を含有する請求の範囲第6項に記載の方法。
【請求項8】
工程(c)が、磁場をかけて磁気応答粒子を動かすことによってなされる請求の範囲第6項または第7項に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)が、生体成分を溶媒中に溶出させることによってなされる請求の範囲第6項〜第8項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程(d)が、電場をかけて生体成分を磁気応答粒子から分離させる工程を含む請求の範囲第6項〜第9項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
上記各工程の少なくとも一つを自動的に制御することを特徴とする、請求の範囲第6項〜第10項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
生体成分が核酸である請求の範囲第6項〜第11項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
磁気応答粒子がさらにシリカを含有する請求の範囲第12項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/008209
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511870(P2005−511870)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010258
【国際出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】