説明

生体材料

【課題】低剛性率、高強度で、優れた耐食性を有する生体材料を提供する。
【解決手段】式:(Ti1−a−b−cCuZrPd100−x[式中のa、b、cは原子比で、aは0.3乃至0.5、bは0.005乃至0.2、cは0.005乃至0.2であり、xは原子%で、0.5乃至2原子%であり、MはHA、CaTiO、CaZrOのうち少なくとも一種から成る元素である]で示される組成の金属ガラス合金を有する。また、式:(Ti1−a−b−cCuZrPd100−xCa[式中のa、b、cは原子比で、aは0.3乃至0.5、bは0.005乃至0.2、cは0.005乃至0.2であり、xは原子%で、0.5乃至10原子%である]で示される組成の金属ガラス合金を有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラス合金を有する生体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属系の生体材料には、周囲の生体組織に悪影響を及ぼさない生体適合性が要求される。例えば、金属イオンの溶出による毒性、細胞刺激性、発ガン性、突然変異誘発性、アレルギー反応性等がないことや、体内での長時間にわたる腐食環境に耐えること、硬組織代替え材料では、充分な強度とともに生体骨の弾性率との差が少ないこと等が要求される。
【0003】
従来、金属系の生体材料として、例えば、骨の欠損部分の代替えとして、骨組織との親和性が良いチタン製の生体材料が使用されるなど、使用用途や使用箇所等に応じて、さまざまな材質のものが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−13261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の金属系の生体材料では、耐食性が充分とはいえず、さらに優れた耐食性を有する生体材料が望まれていた。また、一般的に、生体材料には低剛性率および高強度が要求されるが、従来の金属系の生体材料は、剛性率が低下すると強度も低下してしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、低剛性率、高強度で、優れた耐食性を有する生体材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の本発明に係る生体材料は、式:(Ti1−a−b−cCuZrPd100−x[式中のa、b、cは原子比で、aは0.3乃至0.5、bは0.005乃至0.2、cは0.005乃至0.2であり、xは原子%で、0.5乃至2原子%であり、MはHA、CaTiO、CaZrOのうち少なくとも一種から成る元素である]で示される組成の金属ガラス合金を有することを、特徴とする。
【0008】
第1の本発明に係る生体材料は、金属ガラス合金を有しているため、優れた耐食性を有している。また、圧縮破壊強度が2000MPa以上で、ヤング率が90GPa程度であり、低剛性率かつ高強度である。生体への親和性も有している。
【0009】
第2の本発明に係る生体材料は、式:(Ti1−a−b−cCuZrPd100−xCa[式中のa、b、cは原子比で、aは0.3乃至0.5、bは0.005乃至0.2、cは0.005乃至0.2であり、xは原子%で、0.5乃至10原子%である]で示される組成の金属ガラス合金を有することを、特徴とする。
【0010】
第2の本発明に係る生体材料は、金属ガラス合金を有しているため、優れた耐食性を有している。また、圧縮破壊強度が2000MPa以上で、ヤング率が90GPa程度であり、低剛性率かつ高強度である。生体への親和性も有している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低剛性率、高強度で、優れた耐食性を有する生体材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図4は、本発明の第1の実施の形態の生体材料を示している。
本発明の第1の実施の形態の生体材料は、式:(Ti1−a−b−cCuZrPd100−xCa[式中のa、b、cは原子比で、aは0.3乃至0.5、bは0.005乃至0.2、cは0.005乃至0.2であり、xは原子%で、0.5乃至10原子%である]で示される組成の金属ガラス合金から成っている。
【実施例1】
【0013】
第1の実施の形態の生体材料の表面の光学顕微鏡写真を図1(a)に、走査電子顕微鏡(SEM)写真を図1(b)に示す。図1(a)に示すように、第2の相(HA+非晶質相+結晶相)が一様に分布しているのが確認された。また、図1(b)に示すように、この第2の相(図中の円の内側)には2種類あり、一方は約20〜40μm程度の大きさを有し、他方は5μm以下の大きさを有していることが確認された。蛍光X線元素分析(EDS)により、この第2の相のうち小さい方の相は、主にCaの粉末から成り、金属ガラスの成分(Ti,Zr,Cu,Pd)をわずかに含んでいることが確認された。これは、金属元素成分が拡散していることを示している。また、第2の相のうち大きい方の相は、金属ガラス成分と似た組成を有することも確認された。
【0014】
(Ti0.4Zr0.1Cu0.36Pd0.14100−xCa[x=0,1,2,4,10]の組成を有する第1の実施の形態の生体材料の、示差走査熱量分析(DSC)による分析結果を図2(a)に、示差熱分析(DTA)による分析結果を図2(b)に示す。図2に示すように、過冷却液体領域の温度間隔ΔTxが広く、50K以上であることが確認された。また、換算ガラス化温度Tg/Tlが0.55以上であり、優れた非晶質の安定性、加工性および非晶質形成能力を有していることも確認された。
【0015】
金属ガラス合金から成る第1の実施の形態の生体材料と、Caを含まないTi−Cu−Zr−Pd金属ガラスとを擬似体液に浸し、時間経過による表面の変化を観察した。なお、擬似体液として、ハンクス溶液(Hank’s solution)を使用している。走査電子顕微鏡(SEM)による観察結果を、図3に示す。図3(a)に示すように、金属ガラスでは、擬似体液に20時間浸しても、無機化合物の沈積は認められなかった。これに対し、図3(b)に示すように、第1の実施の形態の生体材料では、擬似体液に浸して12時間経過すると、表面に無機化合物の沈積が観察されはじめ、20時間の経過で、顕著な無機化合物の沈積が観察された。これは、金属ガラス合金から成る第1の実施の形態の生体材料が、無機イオンの吸収や無機化合物の沈積に対して活発であることを示している。このことから、第1の実施の形態の生体材料は、生体への親和性に優れているといえる。
【0016】
水熱ホットプレス法で合成された、(Ti0.4Zr0.1Cu0.36Pd0.1499Caの組成を有する金属ガラス合金から成る第1の実施の形態の生体材料の、擬似体液(SBF)に浸す前後の表面を、走査電子顕微鏡(SEM)により観察し、その結果を図4に示す。第1の実施の形態の生体材料では、図4(a)に示す擬似体液に浸す前と比較して、図4(b)に示すように、擬似体液に浸して10日後には、表面に無機化合物の沈積が明瞭に観察されている。これにより、金属ガラス合金から成る第1の実施の形態の生体材料は、無機イオンの吸収や無機化合物の沈積に対して活発であり、生体への親和性に優れているといえる。
【0017】
図5は、本発明の第2の実施の形態の生体材料を示している。
本発明の第2の実施の形態の生体材料は、式:(Ti1−a−b−cCuZrPd100−xHA[式中のa、b、cは原子比で、aは0.3乃至0.5、bは0.005乃至0.2、cは0.005乃至0.2であり、xは原子%で、0.5乃至2原子%である]で示される組成の金属ガラス合金から成っている。
【0018】
第2の実施の形態の生体材料は、以下のようにして製造される。まず、Ti−Cu−Zr−Pd金属の塊を粉々に粉砕し、これとHA(アパタイト)の粉末とを混合する。その混合物を、0.8気圧、室温の条件下で石英管の中に密封し、炉内で1223Kの温度で溶融する。溶融物を銅製の鋳型に流し込み、金属の臨界冷却速度以上で急冷して固化させることにより、直径約2mmの円柱状の金属ガラス合金を製造することができる。
【実施例2】
【0019】
(Ti0.4Cu0.36Zr0.1Pd0.1499HAの組成の金属ガラス合金(glassy alloy/HA composite)から成る、第2の実施の形態の生体材料のX線回折結果を図5(a)に、表面の観察結果およびビッカース硬度を図5(b)に、示差走査熱量分析(DSC)による分析結果を図5(c)に、圧縮試験結果を図5(d)に示す。なお、図5(c)には、比較のため、Ti40Cu36Zr10Pd14の組成を有する金属ガラス合金(glassy alloy)のDSC分析結果も示している。図5(a)に示すように、ブロードなハローピークしか認められず、非晶質相であることが確認された。図5(c)に示すように、過冷却液体領域の温度間隔ΔTxが広く、50K以上であることが確認された。図5(d)に示すように、圧縮破壊強度が2000MPa以上で、ヤング率が90GPa程度であり、低剛性率かつ高強度であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態の生体材料の表面の(a)光学顕微鏡写真、(b)走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の(Ti0.4Zr0.1Cu0.36Pd0.14100−xCa[x=0,1,2,4,10]の組成を有する生体材料の(a)示差走査熱量分析(DSC)による分析結果を示すグラフ、(b)示差熱分析(DTA)による分析結果を示すグラフである。
【図3】(a)Ti−Cu−Zr−Pd金属ガラスを擬似体液に浸したときの、時間経過による表面の変化を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真、(b)本発明の第1の実施の形態の生体材料を擬似体液に浸したときの、時間経過による表面の変化を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の(Ti0.4Zr0.1Cu0.36Pd0.1499Caの組成を有する金属ガラス合金から成る生体材料の(a)擬似体液に浸す前の走査電子顕微鏡(SEM)写真、(b)擬似体液に浸して10日後の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】本発明の第2の実施の形態の(Ti0.4Cu0.36Zr0.1Pd0.1499HAの組成の金属ガラス合金から成る生体材料の(a)X線回折結果を示すグラフ、(b)表面の観察結果およびビッカース硬度を示す模式図、(c)示差走査熱量分析(DSC)による分析結果を示すグラフ、(d)圧縮試験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:(Ti1−a−b−cCuZrPd100−x[式中のa、b、cは原子比で、aは0.3乃至0.5、bは0.005乃至0.2、cは0.005乃至0.2であり、xは原子%で、0.5乃至2原子%であり、MはHA、CaTiO、CaZrOのうち少なくとも一種から成る元素である]で示される組成の金属ガラス合金を有することを、特徴とする生体材料。
【請求項2】
式:(Ti1−a−b−cCuZrPd100−xCa[式中のa、b、cは原子比で、aは0.3乃至0.5、bは0.005乃至0.2、cは0.005乃至0.2であり、xは原子%で、0.5乃至10原子%である]で示される組成の金属ガラス合金を有することを、特徴とする生体材料。


【図2】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−34369(P2009−34369A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201691(P2007−201691)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】