説明

生体活性化方法

【課題】生体をマイナスイオンに曝すことにより生物の発育、増殖などが促進するように生体を活性化する生体活性化方法を提供する。
【解決手段】マイナスイオン生成装置1において大気中で電子を放出可能な電子源10から酸素を含むガスへ電子を照射することによりオゾンを発生させることなくマイナスイオンを発生させ、当該マイナスイオンに活性化させたい生体90を曝す。ここにおいて、電子源10として、弾道電子面放出型電子源を用いることで、ガスへ照射される電子のエネルギがガスを構成する原子もしくは分子の電離エネルギ未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体を活性化することにより、生物の発育、増殖などの促進を可能とする生体活性化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、照明光源に例えば電球や発光ダイオードや半導体レーザなどの人工光源を用いた植物栽培方法が各所で研究開発されている。しかしながら、このような人工光源を用いた植物栽培では、光が照射されずに陰になった部分の成育が遅くなってしまう。同様に、例えば、図10に示すように、シャーレ70に入れた寒天倍地80上の生物90を人工光源100により発育あるいは増殖させようとした場合、図10のように2つのシャーレ70が上下方向に重ねて配置されていると、下側のシャーレ70の生物90には照明光による効果が得られない。
【0003】
ここにおいて、植物栽培の分野においては、単位面積当たりの収穫量を多くすることを目的として、コロナ放電を利用したマイナスイオン発生器により発生させたマイナスイオンを植物に照射することによって、植物の成育を促進する植物の成育促進方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−239418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コロナ放電を利用したマイナスイオン発生器は、殺菌などの用途にも用いられているのが現状であり、菌などの生物の発育や増殖には利用できないと考えられていた。そこで、本願発明者らは、上述のマイナスイオン発生器では、菌などの生物がマイナスイオンとともに発生するオゾンにより損傷を受けてしまうので、菌などの生物の発育や増殖には利用できないと考えた。
【0005】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、生体をマイナスイオンに曝すことにより生物の発育、増殖などが促進するように生体を活性化する生体活性化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、大気中で電子を放出可能な電子源から酸素を含むガスへ電子を照射することによりオゾンを発生させることなくマイナスイオンを発生させ、当該マイナスイオンに活性化させたい生体を曝すことを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、オゾンを発生させることなくサイズが1nm〜2nm程度のマイナスイオン(酸素のマイナスイオン)を発生させることができるとともに、当該マイナスイオンに生体を曝すことにより例えば菌などの生物の発育、増殖などが促進するように生体を活性化することができる。
【0008】
請求項2の発明は、大気中で電子を放出可能な電子源から水分を含むガスへ電子を照射することによりオゾンを発生させることなくマイナスイオンを発生させ、当該マイナスイオンに活性化させたい生体を曝すことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、オゾンを発生させることなくサイズが3nm〜50nm程度のマイナスイオン(水分子クラスタのマイナスイオン)を発生させることができるとともに、当該マイナスイオンに生体を曝すことにより例えば菌などの生物の発育、増殖などが促進するように生体を活性化することができる。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記電子源として、表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加されたときに電子が通過する電子通過層を有し表面電極を通して電子を放出する電子源であって、電子通過層が多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する弾道電子面放出型電子源を用いることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、前記電子源の駆動電圧を10〜20V程度として大気中へ電子エネルギが20eV未満の電子を放出することができ、前記ガスが電離するのを防止することができるから、オゾンの発生を確実に防止することができる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記ガスを、前記電子源の電子放出面に平行な面内で前記電子源から前記生体へ向う方向に沿って流すことを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、発生させたマイナスイオンを前記生体へ効率良く供給することが可能となる。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記電子源から放出された電子を加速する電子加速手段により前記ガスへ照射される電子のエネルギを調整することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記ガスへ照射される電子のエネルギを適宜調整することにより、所望のマイナスイオンを効率良く発生させることが可能となり、所望のマイナスイオンをより効率的に前記生体へ供給することが可能となる。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5の発明において、前記電子源から放出され前記ガスへ照射される電子のエネルギが前記ガスを構成する原子もしくは分子の電離エネルギ未満であることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、前記ガスが前記電子源から放出された電子により電離するのを防止することができ、より確実に、オゾンが発生することなくマイナスイオンのみを発生させることが可能となる。
【0018】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6の発明において、電子出射用の窓孔が形成されるとともに乾燥ガスが満たされたケース内に前記電子源を配置し、イオン化対象である前記ガスを窓孔の出口側に供給することを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、前記電子源は乾燥ガス雰囲気中にあり、イオン化対象である前記ガスはケースの外を流れるので、前記電子源へ水分や不純物が付着するのを抑制することができ、前記電子源を長時間安定して動作させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明では、オゾンを発生させることなく酸素のマイナスイオンを発生させることができるとともに、当該マイナスイオンに生体を曝すことにより例えば菌などの生物の発育、増殖などが促進するように生体を活性化することができるという効果がある。
【0021】
請求項2の発明では、オゾンを発生させることなく水分子クラスタのマイナスイオンを発生させることができるとともに、当該マイナスイオンに生体を曝すことにより例えば菌などの生物の発育、増殖などが促進するように生体を活性化することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(実施形態1)
本実施形態の生体活性化方法について図1に基づいて説明するが、まず、マイナスイオンを生成するマイナスイオン生成装置1について説明する。
【0023】
本実施形態におけるマイナスイオン生成装置1は、大気中で電子を放出可能な電子源10と、電子源10の表面電極7(図2参照)の表面からなる電子放出面に対向配置され表面電極7を低電位側として加速電圧が印加されるアノード電極30と、電子源10およびアノード電極30が収納された直方体状のケース20とを備え、ケース20には、アノード電極30と電子源10の表面電極7との間のイオン生成空間Bへイオン化対象のガス(例えば、乾燥空気や乾燥酸素などの酸素を含むガス)を導入するための筒状のガス導入筒部24と、イオン生成空間Bで生成されたマイナスイオンを導出するための筒状のマイナスイオン導出筒部25とが一体に設けられている。なお、図1中の矢印Aは電子源10から放出された電子の流れを示し、同図中の矢印F1はガス導入筒部24を通してケース20内へ導入するガスの流れ方向を示し、同図中の矢印F2はマイナスイオン導出筒部25を通してケース20外へ導出されるマイナスイオンの流れ方向を示している。
【0024】
ケース20は、電子源10が一表面側に配設される平板状のリヤプレート部21と、リヤプレート部21に対向する平板状のフェースプレート部23と、リヤプレート部21とフェースプレート部23との間に介在する矩形枠状のフレーム部22とで構成されており、フェースプレート部23における電子源10との対向面側に上述のアノード電極30を設けるように構成されている。ここで、リヤプレート部21には、ケース20外から電子源10へ駆動用の電源を供給するための駆動用給電路(図示せず)が設けられている。要するに、図示しない駆動電源から上記駆動用給電路を介して電子源10へ駆動電圧を印加することにより、電子源10から電子が放出される。なお、本実施形態では、リヤプレート部21とフレーム部22とフェースプレート部23とは別部材により構成してあるが、リヤプレート部21とフレーム部22とを連続一体に形成してもよし、フェースプレート部23とフレーム部22とを連続一体に形成してもよい。
【0025】
電子源10は、図2に示すように、矩形板状の絶縁性基板(例えば、絶縁性を有するガラス基板、絶縁性を有するセラミック基板など)3の一表面上に金属膜(例えば、タングステン膜など)からなる下部電極5が形成され、下部電極5上に後述の強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)からなる表面電極7が形成されている。
【0026】
本実施形態における電子源10では、表面電極7および下部電極5それぞれにパッド(図示せず)が電気的に接続されており、表面電極7と下部電極5との間に表面電極7を高電位側として上述の駆動電圧を印加することによって表面電極7の表面よりなる電子放出面から電子が放出されるようになっている。なお、本実施形態の電子源10では、強電界ドリフト層6が、表面電極7と下部電極5との間に表面電極7を高電位側とする駆動電圧が印加されたときに電子が通過する電子通過層を構成している。
【0027】
電子源10の強電界ドリフト層6は、後述のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスを行うことにより形成されており、図3に示すように、少なくとも、下部電極5の表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜である多数のシリコン酸化膜(絶縁膜)64とから構成されると考えられる。ここに、各グレイン51は、下部電極5の厚み方向に延びている(つまり、絶縁性基板3の厚み方向に延びている)。
【0028】
上述の電子源10から電子を放出させるには、表面電極7が下部電極5に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極5との間に駆動電圧を駆動電源(図示せず)により印加すれば、下部電極5から強電界ドリフト層6へ注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図3中の上向きの矢印は強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出された電子eの流れを示す)。ここに、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし放出される。なお、電子源10は、電子放出特性の真空度依存性が小さく、低真空中や大気圧中でも電子を安定して放出することができる。
【0029】
本実施形態における電子源10は、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極5との間に表面電極7を高電位側として駆動電圧を印加することにより、下部電極5から強電界ドリフト層6へ電子eが注入される。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子eはシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図3中の矢印の向き(図3における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし放出される。しかして、強電界ドリフト層6では下部電極5から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出される(弾道型電子放出現象)。
【0030】
上述の強電界ドリフト層6の形成方法の一例について説明する。
【0031】
強電界ドリフト層6の形成にあたっては、まず、絶縁性基板3上に形成した下部電極5上にノンドープの多結晶シリコン層を例えばLPCVD法などにより形成した後、上述のナノ結晶化プロセスを行うことにより、多結晶シリコンの多数のグレイン51(図3参照)と多数のシリコン微結晶63(図3参照)とが混在する複合ナノ結晶層(以下、第1の複合ナノ結晶層と称す)を形成する。ここにおいて、ナノ結晶化プロセスでは、例えば、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、下部電極5を陽極とし、電解液中において多結晶シリコン層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cmの電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含む第1の複合ナノ結晶層を形成する。
【0032】
ナノ結晶化プロセスが終了した後に、第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化する上述の酸化プロセスを行うことで、図3のような構成の複合ナノ結晶層(以下、第2の複合ナノ結晶層と称す)からなる強電界ドリフト層6を形成する。酸化プロセスでは、例えば、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、下部電極5を陽極とし、電解液中において第1の複合ナノ結晶層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、下部電極5を陽極とし、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cmの電流)を流し陽極と陰極との間の電圧が20Vだけ上昇するまで第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化することによって、上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む第2の複合ナノ結晶層からなる強電界ドリフト層6を形成するようになっている。なお、本実施形態では、上述のナノ結晶化プロセスを行うことによって形成される第1の複合ナノ結晶層においてグレイン51、シリコン微結晶63以外の領域はアモルファスシリコンからなるアモルファス領域となっており、強電界ドリフト層6においてグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64以外の領域がアモルファスシリコン若しくは一部が酸化したアモルファスシリコンからなるアモルファス領域65となっているが、ナノ結晶化プロセスの条件によってはアモルファス領域65が孔となり、このような場合の第1の複合ナノ結晶層は多孔質多結晶シリコン層とみなすことができる。また、上述の強電界ドリフト層6では、シリコン酸化膜64が絶縁膜を構成しており絶縁膜の形成に酸化プロセスを採用しているが、酸化プロセスの代わりに窒化プロセスないし酸窒化プロセスを採用してもよく、窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となり、酸窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン酸窒化膜となる。
【0033】
上述の電子源10では、表面電極7と下部電極5との間に印加する駆動電圧を10〜20V程度の低電圧としても電子を放出することができ、しかも、上記ガスを構成する原子もしくは分子の電離エネルギ未満、例えば、20eV未満の電子エネルギの電子を放出させることができる。なお、従来のフィラメントなどから放出された熱電子のエネルギは0.1〜0.3eV程度、原子や分子の励起に必要な励起エネルギは4eV程度、紫外線のエネルギは4〜12eV程度、原子間結合エネルギは5〜8eV程度である。
【0034】
しかして、本実施形態におけるマイナスイオン生成装置1では、電子源10の駆動電圧を10〜20V程度として大気中へ電子エネルギが20eV未満の電子を放出することができ、酸素を含むガスが電離するのを防止することができるから、オゾンを発生させることなくサイズが1nm〜2nm程度の酸素のマイナスイオンを発生させることができる。また、上述のアノード電極30が電子源10から放出された電子を加速する電子加速手段を構成しているので、電子加速手段により上述のイオン化対象のガスへ照射される電子のエネルギを調整することができ、ガスへ照射される電子のエネルギを適宜調整することにより、所望のマイナスイオンを効率良く発生させることが可能となる。
【0035】
なお、上述の電子源10は、絶縁性基板3の上記一表面側に下部電極5を形成しているが、絶縁性基板3に代えてシリコン基板などの半導体基板を用い、半導体基板と当該半導体基板の裏面側に積層した導電性層(例えば、オーミック電極)とで下部電極を構成するようにしてもよい。また、上述の電子源10は弾道型電子放出現象により電子を放出する電子源であって弾道電子面放出型電子源(Ballistic electron Surface-emitting Device:BSD)と呼ばれているが、電子源10はBSDに限らず、平面型の電子源であればよく、例えば、上述の電子通過層として強電界ドリフト層6に代えて絶縁体層を採用したMIM(Metal−Insulator−Metal)構造の電子源や、上述の電子通過層として強電界ドリフト層6に代えて下部電極5側の半導体層と表面電極7側の絶縁体層とを採用したMIS(Metal−Insulator−Semiconductor)構造の電子源などを採用してもよく、MIM構造の電子源やMIS構造の電子源においても大気中で電子を放出させることができる。
【0036】
次に、本実施形態の生体活性化方法について説明する。
【0037】
本実施形態の生体活性化方法では、上述のマイナスイオン生成装置1において電子源10から酸素を含むガス(イオン化対象ガス)へ電子を照射することによりオゾンを発生させることなく酸素のマイナスイオンを発生させ、当該マイナスイオンに活性化させたい生体90を曝すようにしている。
【0038】
一実施例として、シャーレ70内の寒天倍地80に生体90としての大腸菌を担持させて上述の生体活性化方法を適用して培養試験を行ったところ、イオン化対象ガスとして乾燥酸素を採用してマイナスイオン生成装置1で発生させたマイナスイオンを供給した実施例1では、乾燥酸素をイオン化せずに供給した比較例1の場合や、マイナスイオンおよび乾燥酸素の供給を行わなかった比較例2の場合に比べて、大腸菌の増殖が促進されるという試験結果が得られた。なお、培養試験の条件は、雰囲気の湿度を90%、湿度を40℃、培養時間を60時間とした。
【0039】
図4に試験結果を示すが、同図では、(a)が実施例1の場合、(b)が比較例1の場合、(c)が比較例2の場合、それぞれの試験後のカラー写真を示している。ここで、試験後の大腸菌のコロニー数を比較したところ、比較例1では24個、比較例2では17個であったのに対して、実施例1では37個であり、実施例1では比較例1,2に比べて、大腸菌の増殖が促進されていることが確認された。
【0040】
また、培養時間を12時間として、上述のマイナスイオン生成装置1を用いた実施例2の場合、コロナ放電を利用したマイナスイオン発生器を用いた比較例3の場合、マイナスイオンおよび乾燥ガスの供給を行わなわない比較例4の場合とで、培養試験の試験結果を比較したところ、実施例1では、比較例3,4に比べて大腸菌の数が多く、大腸菌の増殖が促進されていることが確認された。図5に試験結果を示すが、同図では(a)が実施例2の場合、(b)が比較例3の場合、(c)が比較例4の場合、それぞれの試験後のカラー写真を示している。なお、培養試験において雰囲気中のオゾンの濃度を一般的なオゾン計で測定したところ、比較例3では0.02〜0.04ppm程度のオゾンが含まれていたのに対して、実施例2ではオゾンは検出されなかった。
【0041】
しかして、本実施形態の生体活性化方法では、オゾンを発生させることなくサイズが1nm〜2nm程度の酸素のマイナスイオンを発生させることができるとともに、当該マイナスイオンに生体を曝すことにより例えば菌などの生物の発育、増殖などが促進するように生体90を活性化することができる。また、本実施形態では、上述のガスを、電子源10の電子放出面に平行な面内で電子源10から生体90へ向う方向に沿って流すようにしており、発生させたマイナスイオンを生体90へ効率良く供給することが可能となる。
【0042】
(実施形態2)
本実施形態の生体活性化方法は、実施形態1と略同じであり、図6に示すように、マイナスイオン生成装置1と生体90との相対的な位置関係が相違するだけである。すなわち、実施形態1では、図1に示したようにマイナスイオン生成装置1のマイナスイオン導出筒部25の側方に生体90を配置するようにしていたのに対して、本実施形態では、図6に示すように、マイナスイオン生成装置1のマイナスイオン導出筒部25の下方に生体90を配置するようにしている点が相違するだけである。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
本実施形態においても、一実施例として、シャーレ70内の寒天倍地80に生体90としての大腸菌を担持させて上述の生体活性化方法を適用して培養試験を行ったところ、イオン化対象ガスとして乾燥酸素を採用してマイナスイオン生成装置1で発生させたマイナスイオンを供給した実施例3では、乾燥酸素のみを生体90に供給した比較例5の場合や、マイナスイオンおよび乾燥酸素の供給を行わなかった比較例6の場合に比べて、大腸菌の増殖が促進されるという試験結果が得られた。図7に試験結果を示すが、同図では、(a)が実施例3の場合、(b)が比較例5の場合、(c)が比較例6の場合、それぞれの試験後のカラー写真を示している。なお、培養試験の条件は、雰囲気の湿度を90%、湿度を40℃、培養時間を70時間とした。
【0044】
(実施形態3)
実施形態1では、イオン化対象のガスとして乾燥酸素や乾燥空気などの酸素を含む乾燥ガスを採用していたのに対して、本実施形態では、図8に示すようなマイナスイオン生成装置1を用いてイオン化対象のガスとして水分を含むガスをイオン化している点などが相違する。すなわち、本実施形態の生体活性化方法では、大気中で電子を放出可能な電子源10から水分を含むガス(例えば、水蒸気など)へ電子を照射することによりオゾンを発生させることなく水分子クラスタのマイナスイオンを発生させ、当該マイナスイオンに活性化させたい生体90を曝すようにしている。
【0045】
本実施形態におけるマイナスイオン生成装置1では、ケース20におけるフェースプレート部23の中央部に電子源10からの電子を出射させる電子出射用の窓孔23aが形成され、アノード電極30がケース20の外側でフェースプレート部23と離間して配置されており、窓孔23aの出口側の空間、つまり、フェースプレート部23とアノード電極30との間の空間をイオン生成空間Bとして、当該イオン生成空間Bに水分を含むガスを水分供給手段28から供給するようになっている。なお、本実施形態におけるマイナスイオン生成装置1では、図8において、窓孔23aの右側から左側へ向ってイオン化対象のガスが流れ、イオン化対象のガスの流れ方向と電子源10から放出された電子の流れ方向とがケース20の窓孔23a近傍で交差するようになっている。また、本実施形態におけるマイナスイオン生成装置1では、フェースプレート部23におけるリヤプレート部21との対向面において窓孔23aを囲むように設置された枠状の引出し電極40を備えているので、引出し電極40の電位を適宜制御することにより、電子源10からの放出電子量を制御したり、電子のエネルギを制御することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態におけるマイナスイオン生成装置1では、複数のガス導入筒部24を通してケース20内に、イオン化対象のガスに比べて電子親和力の小さな原子もしくは分子により構成される乾燥ガス(例えば、Heガス、Arガス、Xeガス、窒素ガスなど)を供給することで、ケース20内が上記乾燥ガスで満たされるようにしてある。
【0047】
しかして、本実施形態におけるマイナスイオン生成装置1では、電子源10は乾燥ガス雰囲気中にあり、イオン化対象であるガスはケース20の外を流れるので、電子源10へ水分や不純物が付着するのを抑制することができ、電子源10を長時間安定して動作させることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態のマイナスイオン生成装置1を用い水分を含むガスとして水蒸気を採用した実施例4の場合、市販の水分子クラスタのマイナスイオンを発生できるマイナスイオン発生器を用いた比較例5の場合、マイナスイオンおよび水分を含むガスの供給を行わなわない比較例6の場合とで、培養試験の試験結果を比較したところ、実施例4では、比較例5,6に比べて大腸菌の数が多く、大腸菌の増殖が促進されていることが確認された。図9に試験結果を示すが、同図では(a)が実施例4の場合、(b)が比較例5の場合、(c)が比較例6の場合、それぞれの試験後のカラー写真を示している。なお、培養試験において雰囲気中のオゾンの濃度を一般的なオゾン計で測定したところ、比較例5では0.02〜0.04ppm程度のオゾンが含まれていたのに対して、実施例4ではオゾンは検出されなかった。
【0049】
しかして、本実施形態の生体活性化方法によれば、オゾンを発生させることなくサイズが3nm〜50nm程度の水分子クラスタのマイナスイオンを発生させることができるとともに、当該マイナスイオンに生体90を曝すことにより例えば菌などの生物の発育、増殖などが促進するように生体を活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施形態1の生体活性化方法の説明図である。
【図2】同上の生体活性化方法に用いる電子源の概略断面図である。
【図3】同上の生体活性化方法に用いる電子源の要部説明図である。
【図4】同上の生体活性化方法に関し、実施例1の試験結果および比較例1,2の試験結果を示すカラー写真である。
【図5】同上の生体活性化方法に関し、実施例2の試験結果および比較例3,4の試験結果を示すカラー写真である。
【図6】実施形態2の生体活性化方法の説明図である。
【図7】同上の生体活性化方法に関し、実施例3の試験結果および比較例5,6の試験結果を示すカラー写真である。
【図8】実施形態3の生体活性化方法の説明図である。
【図9】同上の生体活性化方法に関し、実施例4の試験結果および比較例7,8の試験結果を示すカラー写真である。
【図10】従来例の説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1 マイナスイオン生成装置
10 電子源
20 ケース
24 ガス導入筒部
25 マイナスイオン導出筒部
70 シャーレ
80 寒天倍地
90 生体
B イオン生成空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中で電子を放出可能な電子源から酸素を含むガスへ電子を照射することによりオゾンを発生させることなくマイナスイオンを発生させ、当該マイナスイオンに活性化させたい生体を曝すことを特徴とする生体活性化方法。
【請求項2】
大気中で電子を放出可能な電子源から水分を含むガスへ電子を照射することによりオゾンを発生させることなくマイナスイオンを発生させ、当該マイナスイオンに活性化させたい生体を曝すことを特徴とする生体活性化方法。
【請求項3】
前記電子源として、表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加されたときに電子が通過する電子通過層を有し表面電極を通して電子を放出する電子源であって、電子通過層が多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する弾道電子面放出型電子源を用いることを特徴とする請求項1または請求項2記載の生体活性化方法。
【請求項4】
前記ガスを、前記電子源の電子放出面に平行な面内で前記電子源から前記生体へ向う方向に沿って流すことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の生体活性化方法。
【請求項5】
前記電子源から放出された電子を加速する電子加速手段により前記ガスへ照射される電子のエネルギを調整することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の生体活性化方法。
【請求項6】
前記電子源から放出され前記ガスへ照射される電子のエネルギが前記ガスを構成する原子もしくは分子の電離エネルギ未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の生体活性化方法。
【請求項7】
電子出射用の窓孔が形成されるとともに乾燥ガスが満たされたケース内に前記電子源を配置し、イオン化対象である前記ガスを窓孔の出口側に供給することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の生体活性化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−325493(P2006−325493A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154682(P2005−154682)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】