説明

生体観察装置

【課題】 麻酔ガスの漏洩を防止し、長期にわたって実験小動物等の標本を生きたままの状態で観察することを可能にする。
【解決手段】 実験動物等の標本Aを搭載するステージ2と、該ステージ2上に配置され、標本Aを収容する麻酔ケース3と、麻酔ケース3内に麻酔ガスGを供給する麻酔ガス供給手段4とを備え、麻酔ケース3の少なくとも一部に、透明な窓部3cが設けられている生体観察装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、実験小動物等の標本を生きたままの状態で観察する生体観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、実験小動物等の標本を生きたまま観察する場合に、実験小動物に苦痛を与えることなく生きたままの状態に維持するために、実験小動物用の吸入麻酔装置が開発されている。この吸入麻酔装置においては、マウスの口および鼻を袋状の吸入器で覆い、該吸入器内に麻酔ガスを供給することで実験小動物を睡眠状態にするようにしている。
【非特許文献1】エスエーテクノ(株)、倉林譲、”小実験動物用吸入麻酔装置の開発に関する研究”、[online]、岡山大学、[平成17年6月7日検索]、インターネット<URL:http://www.chugoku.meti.go.jp/topics/sangakukan/jirei/2-11.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の吸入麻酔装置は、吸入器と実験小動物の口や鼻との間に形成される隙間を完全に塞ぐことが困難である。このため、長期にわたり実験小動物を睡眠状態に維持しながら観察を行う場合、麻酔ガスが隙間から漏れてしまう不都合がある。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、麻酔ガスの漏洩を防止し、長期にわたって実験小動物等の標本を生きたままの状態で観察することを可能にする生体観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、実験動物等の標本を搭載するステージと、該ステージ上に配置され、前記標本を収容する麻酔ケースと、該麻酔ケース内に麻酔ガスを供給する麻酔ガス供給手段とを備え、前記麻酔ケースの少なくとも一部に、透明な窓部が設けられている生体観察装置を提供する。
【0005】
本発明によれば、麻酔ケース内に実験動物等の標本を収容し、麻酔ガス供給手段の作動によりケース本体内に麻酔ガスを供給することで、標本を睡眠状態に維持することができる。ケース本体には透明な窓部が設けられているので、該窓部を介して光学的に標本の観察を行うことができる。この場合に、標本を麻酔ケース内に収容することで、麻酔ガスが周囲に漏洩することを防止でき、比較的長期にわたり標本を睡眠状態に維持することができる。
【0006】
上記発明においては、前記麻酔ケースが、前記ステージに着脱可能に設けられ、前記麻酔ケースを前記ステージに取り付けたときに、前記麻酔ガス供給手段を前記麻酔ケースに接続する接続機構を備えることとしてもよい。
このようにすることで、麻酔ケースをステージから取り外して広い作業環境において、標本を麻酔ケース内に収容でき、作業性を向上することができる。麻酔ケースをステージに取り付けると接続機構の作動により麻酔ガス供給手段が麻酔ケースに接続されるので、標本を麻酔ケースから取り出すことなく、そのまま、麻酔ガス供給手段の作動により、標本を睡眠状態に維持し、生きたままの観察を行うことが可能となる。
【0007】
また、上記発明においては、前記ステージに、前記麻酔ケースを位置決め状態に固定する位置決め手段が設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、ステージと麻酔ケースとの位置関係を対応付け、ステージの移動により麻酔ケース内の観察可能範囲の顕微鏡観察を容易に行うことが可能となる。
【0008】
また、上記発明においては、前記ステージへの麻酔ケースの着脱を検出するセンサと、該センサによる麻酔ケースのステージへの取り付けの検出信号に基づいて前記麻酔ガス供給手段を作動させる制御手段とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、麻酔ケースの取り付け時に麻酔ガス供給手段を自動的に作動させて、標本に麻酔をかける作業を容易化することができ、また、麻酔ケースがステージから取り外されたときに、麻酔ガス供給手段の作動を停止して、麻酔ガスが周囲に漏れることを防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、麻酔ガスの漏洩を防止し、長期にわたって実験小動物等の標本を生きたままの状態で観察することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第1の実施形態に係る生体観察装置1について、図1〜図4を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体観察装置1は、図1に示されるように、標本Aを載置するステージ2と、ステージ2に着脱可能に取り付けられる麻酔ケース3と、該麻酔ケース3に接続される麻酔ガス供給手段4と、ステージ2に取り付けられた麻酔ケース3内の標本Aを観察する観察光学系5とを備えている。
【0011】
ステージ2は、ベース6に固定され、搭載した麻酔ケース3を、ベース6に対して水平方向2方向に移動させることができるようになっている。ステージ2には、麻酔ケース3を位置決め状態に固定する位置決め機構7が設けられている。位置決め機構7は、ステージ2の搭載面2aから鉛直方向に延びる2つの突当面2b,2cにより構成されている。これら突当面2b,2cは、図3に示されるように、相互に直交して配置され、直方体状の麻酔ケース3の隣接する2つの側壁3a,3bをそれぞれ突き当てることにより、麻酔ケース3をステージ2に対して位置決めすることができるようになっている。
【0012】
また、一方の突当面2bには、前記麻酔ガス供給手段4により麻酔ガスGを供給する配管8およびフィルタ9(図3参照。)への配管10を前記麻酔ケース3に接続するためのコネクタ11a,11bがそれぞれ取り付けられている。また、突当面2bには、麻酔ケース3が突き当てられたことを検出するセンサ12が設けられている。
【0013】
麻酔ガス供給手段4は、麻酔ガスGを収容した麻酔ガスボンベ13と、該麻酔ガスボンベ13から送られてくる麻酔ガスGを気化させて所定の濃度に設定する気化器14と、これらを接続する配管8,10,15とを備えている。配管8,10の一端は、前記突当面2bに設けられたコネクタ11a,11bに接続されている。麻酔ガス供給手段4の配管8が接続されたコネクタ11aは、通常状態においては閉止された状態に維持されており、後述する麻酔ケース3のコネクタ16aに接続されたときに開放されるようになっている。
【0014】
また、麻酔ガス供給手段4の気化器14には、該気化器14の作動を制御する制御手段17が接続されている。制御手段17には、前記突当面2bのセンサ12からの出力信号が入力されるようになっている。制御手段17は、センサ12から麻酔ケース3が取り付けられたことを知らせる出力信号が入力されたときに、麻酔ガス供給手段4の気化器14を作動させ、麻酔ガスボンベ13から送られてくる麻酔ガスGを気化して麻酔ケース3内に供給させるようになっている。
【0015】
前記麻酔ケース3は、図2に示されるように、開閉可能な透明な蓋体3cを有する直方体の箱状の部材であって標本Aを収容するのに十分な内容積を有している。これにより、麻酔をかけられていない状態で活発に活動する実験小動物等の標本Aを、麻酔ケース3内に容易に収容することができるようになっている。
【0016】
麻酔ケース3の側壁3aには、前記ステージ2の位置決め機構7に設けられたコネクタ11a,11bに接続する2つのコネクタ16a,16bが備えられている。これらのコネクタ16a,16bは、いずれも、位置決め機構7のコネクタ11a,11bに接続されていない状態では、閉止された状態に維持されており、コネクタ11a,11bに接続されることにより開放されるようになっている。
【0017】
前記観察光学系5は、図1に示されるように、照明装置18と、該照明装置18からの照明光Lの標本Aにおける反射光または蛍光を集光して結像させるレンズユニット19と、集光された光の内、撮像したい光のみを通過させる吸収フィルタ20と、該吸収フィルタ20を透過した光を撮像するCCDカメラ等の撮像ユニット21とを備えている。
【0018】
照明装置18は、レンズユニット19の外部から標本Aに対し照明光Lを照射する外部照明装置18aと、高倍率観察時に、レンズユニット19の光軸Cに沿って照明光Lを入射させる落射照明装置18bとを備えている。
レンズユニット19は、ベース6から立ち上がる支柱22に、水平回転可能に支持されたターレット23に取り付けられた複数のレンズ群24a,24bを備えている。ターレット23を支柱22回りに水平回転させることにより、異なるレンズ群24a,24bをステージ2と撮像ユニット21との間の光軸C上に選択的に配置することができるようになっている。
【0019】
各レンズ群24a,24bは、標本Aからの光を集光する対物レンズ25a,25bと、集光された光を結像させる結像レンズ26a,26bとを備えている。各レンズ群24a,24bの対物レンズ25a,25bは倍率が異なり、結像レンズ26a,26bは該対物レンズ25a,25bに適合するものが組み合わされている。また、高倍率のレンズ群24bにはズーム機構27が設けられるとともに、前記落射照明装置18bからの照明光Lを光軸Cに沿って入射させるダイクロイックミラー28が備えられている。
【0020】
吸収フィルタ20は、吸収特性の異なる複数種のものが、水平回転可能なターレット29に取り付けられている。ターレット29を回転させることにより、いずれかの吸収フィルタ20を、撮像ユニット21とレンズ群24a,24bとの間の光軸C上に選択的に配置することができるようになっている。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る生体観察装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る生体観察装置1を用いて実験小動物等の標本Aの生きたままの観察を行うには、麻酔ケース3の蓋体3cを開き、内部に標本Aを収容して蓋体3cを閉じる。
【0022】
この時点で、標本Aには麻酔がかけられていないので、標本Aは活発に動いているが、麻酔ケース3が十分に広い内容積を有しているので、作業者は手間取ることなく容易に収容することができる。また、麻酔ケース3はステージ2から取り外すことができるので、作業者は、ステージ2上の狭い環境ではなく、より広い環境下で標本Aを収容することができ、作業性を向上することができる。
【0023】
次いで、標本Aを収容した麻酔ケース3をステージ2に取り付ける。
具体的には、図3に示されるように、ステージ2に対して麻酔ケース3を水平方向に近接させていき、(a)コネクタ11a,11bが設けられていない突当面2cに麻酔ケース3の一側壁3bを突き当て、(b)この状態で突当面2cに対して麻酔ケース3の側壁3bを滑らせるように相対移動させ、(c)他の突当面2bに設けられたコネクタ11a,11bに、麻酔ケース3のコネクタ16a,16bを合わせて挿入する。これにより、麻酔ケース3に麻酔ガス供給手段4およびフィルタ9の配管8,10が接続される。
【0024】
このようにすることで、麻酔ケース3がステージ2に位置決めされた状態に固定される。また、コネクタ11a,16aどうし、および、コネクタ11b,16bどうしが接続された時点で、配管8,10が麻酔ケース3内に開放される。
このとき、突当面2bに設けられたセンサ12が麻酔ケース3の取り付けを検出し、検出信号を出力する。センサ12からの検出信号は制御手段17に送られ、制御手段17は、気化器14を作動させる。
【0025】
これにより、麻酔ガスボンベ13に封入されている麻酔ガスGが気化された状態で配管8を介して麻酔ケース3内に送られ、麻酔ケース3内に充満する。その結果、麻酔ケース3内に収容されている標本Aに麻酔がかけられ、標本Aを睡眠状態にすることができる。麻酔ケース3内の空間はフィルタ9に接続する配管10に対しても開放されているので、麻酔ケース3内の麻酔ガスGがフィルタ9を介して排出されることにより、麻酔ケース3内の麻酔ガスGの濃度を一定に保つことができる。
【0026】
このようにすることで、麻酔ケース3内の標本Aは麻酔ケース3内の任意の位置で睡眠状態となる。
そこで、このように睡眠状態となった標本Aを観察するには、まず、ターレット23を回転させて、麻酔ケース3のほぼ全体におよぶ視野Sを有する低倍率のレンズ群24aを選択する。これにより、外部照明装置18aから出射された照明光Lが、ステージ2上の麻酔ケース3全体に照射され、標本A等からの反射光が、対物レンズ25aにより集光され、結像レンズ26aにより結像され、吸収フィルタ20を透過して撮像ユニット21により撮像される。
【0027】
例えば、図4(a)に示されるように、麻酔ケース3の隅で標本Aが睡眠状態となった場合においても、低倍率のレンズ群24aを選択することにより、モニタ30には標本Aの少なくとも一部を表示することができる。作業者は、マウス等の入力手段(図示略)を利用して、モニタ30上のカーソル31を観察したい標本Aに合わせることでこれを指定する。これにより、図4(b)に示されるように、指定された位置が視野Sの中心に配置されるようにステージ2を作動させることができ、観察したい標本Aをモニタ30上の中心位置に配置することができる。
【0028】
この状態で、ターレット23を回転させて、高倍率のレンズ群24bを選択する。そして、落射照明装置18bを作動させて、ダイクロイックミラー28を介して照明光Lをレンズ群24bの光軸Cに沿って入射させる。これにより、高い強度の照明光Lが標本Aの指定位置に照射され、図4(c)に示されるように、高倍率のレンズ群24bによる標本Aの注目部位B拡大画像がモニタ30上に表示されることになる。
【0029】
このように、本実施形態に係る生体観察装置1によれば、標本Aを収容する麻酔ケース3をステージ2に着脱可能に取り付けることとしたので、標本Aの収容作業を広い環境下で容易に行うことができる。
また、麻酔ケース3をステージ2に取り付けることで麻酔ガス供給手段4に接続されるとともに、センサ12の作動により気化器14を作動させることとしたので、麻酔ガスボンベ13から供給される麻酔ガスGが漏れなく麻酔ケース3内に供給される。したがって、麻酔ガスGの漏洩を防止し、適正な濃度の麻酔ガスGを供給し続けることを可能として、標本Aを長期にわたって睡眠状態に維持することができる。その結果、標本Aの生きたままの観察を容易に行うことができる。
【0030】
なお、本実施形態の説明においては、ステージ2上に麻酔ケース3を搭載してから標本Aに麻酔をかけることとしたが、これに代えて、ステージ2上に麻酔ケース3を搭載する前に予め標本Aに麻酔をかけておくことにしてもよい。具体的には、麻酔ケース3には麻酔ガス供給手段4に接続するコネクタ16a,16bが設けられているので、麻酔ガス供給手段4のコネクタ11a,11bと共通のコネクタを有する予備麻酔装置(図示略)を用意しておけば、該予備麻酔装置に接続することで、ステージ2に搭載する前の状態で標本Aに麻酔をかけることができる。
【0031】
また、麻酔ケース3内には複数の標本Aを収容してもよく、また、この場合に、麻酔ケース3内を区画壁により複数の収容スペースに区画して、標本Aを個別に収容することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体観察装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の生体観察装置に備えられる麻酔ケースを示す斜視図である。
【図3】図1の生体観察装置のステージに麻酔ケースを取り付ける手順を説明する図である。
【図4】図3の手順により取り付けられた麻酔ケース内の標本の観察手順を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
G 麻酔ガス
1 生体観察装置
2 ステージ
3 麻酔ケース
3c 蓋部材(窓部)
4 麻酔ガス供給手段
7 位置決め機構(位置決め手段)
11a,11b,16a,16b コネクタ(接続機構)
12 センサ
14 気化器(麻酔ガス供給手段)
17 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験動物等の標本を搭載するステージと、
該ステージ上に配置され、前記標本を収容する麻酔ケースと、
該麻酔ケース内に麻酔ガスを供給する麻酔ガス供給手段とを備え、
前記麻酔ケースの少なくとも一部に、透明な窓部が設けられている生体観察装置。
【請求項2】
前記麻酔ケースが、前記ステージに着脱可能に設けられ、
前記麻酔ケースを前記ステージに取り付けたときに、前記麻酔ガス供給手段を前記麻酔ケースに接続する接続機構を備える請求項1に記載の生体観察装置。
【請求項3】
前記ステージに、前記麻酔ケースを位置決め状態に固定する位置決め手段が設けられている請求項1または請求項2に記載の生体観察装置。
【請求項4】
前記ステージへの麻酔ケースの着脱を検出するセンサと、
該センサによる麻酔ケースのステージへの取り付けの検出信号に基づいて前記麻酔ガス供給手段を作動させる制御手段とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−12095(P2008−12095A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186604(P2006−186604)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)