説明

生体触媒反応の調節

生体触媒反応速度を高める方法であって、反応混合物と直流電場の発生に用いる電極とが、互いに接触することのないように隔離されている状態で、直流電場を反応混合物にかけることを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は生体触媒反応を調節すること、特にその生体触媒反応により生じる生体生成物量が最適になるように反応速度を調節することに関する。
【0002】
生物変換方法は、医薬品、調味料および香料などの高付加価値の化学的中間体の製造においてますます重要になっている。環境を保護するために高額の処置を必要とする有毒廃棄物を排出する有機溶媒の使用や化学薬品の添加がしばしば必要な、伝統的な優れた化学物質製造技術のかわりに、生物変換方法が用いられる機会が、結果的として増えている。そのような化学的工程はまた、高温高圧条件で行われるので危険であり且つエネルギーを大量に消費する。
【0003】
バイオプロセスによって、従来の化学的方法では多くの場合調製が困難であった有機化合物の合成ルートを提供できる可能性が広がった。生物学的システムを化学物質の製造に用いることにより、以下のような利益が得られる:鏡像異性体および位置異性体を区別する酵素の使用により高選択性が実現できること、水性反応培地を利用できること、および周囲の状態に近い条件で実行できること。
【0004】
従って、生体触媒によって、常圧および低温条件下で実行でき、大量の有毒化学物質を加える必要のない、伝統的な工法よりもかなり有益で本質的に清浄な技術を提供できる。
【0005】
工程を設計および実行する上で考慮すべき重要な一般要素は、工程の強化である。資本稼働率および運用費用のような費用の削減には、処理速度の速さが重要である。従って、生体触媒過程で反応速度を促進することができれば、それは望ましい目標である。
【0006】
生体触媒過程の速度は、膨大な数の要素によって制限されている。例えば、細胞の全生体触媒反応の大部分に関連する酵素は細胞内に保持されている。有機化学基質が細胞の酵素補体に順調に到達し、且つその生成物が細胞から容易に回収される場合にのみ、反応は高速度で起こる。反応速度を制限する要因を克服できる新たな方法が開発されれば、製造業に大きな経済効果をもたらすことができるであろう。
【0007】
従って、生体触媒によって、常圧および低温条件下で実行でき、大量の有毒化学物質を加える必要のない、伝統的な工法よりもかなり有益で本質的に清浄な技術を提供できる。
【0008】
電気穿孔法とは電場と生細胞間の相互作用に関する分野において以前から研究されてきた方法である。強電場の影響下で膜破壊し、細胞を不活性化することとは全く異なり、その技術は通常、細胞を高圧電場(約1600V)に短期間(0.1から10ミリ秒)曝す可逆性細胞膜透過処理と関係している。一般にこれは、膜貫通電位差の上昇により膜構造の再構成が誘導され、水性経路または孔が生じて物質輸送過程が円滑化される作用であると考えられている。電場パルスの作用は細胞膜を介した分子輸送を大いに増進する、例えば、通常は細胞膜不透過性を示す高分子量の分子を電気的に通過させることができる。電気的放出法では、例えば細胞内タンパク質を得るために強電場パルスで細胞成分の放出を誘導するが、それに対し電気穿孔法を利用するもっとも重要な方法では、様々な起源の受容細胞にDNAを直接移入する(電気的形質転換)。(DNA以外の)分子を電場によって受容細胞に電気穿孔移入することもできる。そのような分子の例には、タンパク質、抗体、薬物、変異誘発物質および、細胞膜が不十分な透過性しか持たない、または透過性を全く示さない物質が含まれる。
【0009】
生物工学においてもこの技術の使用が検討されてきた。Velizarov et al (1999) (1)は、いくつかの生物工学的過程においても、電気穿孔法を用いて基質の利用効率を改善できる可能性があることを述べた。その例では、セロビオース利用およびエタノールへの変換を促進するために、酵母菌株を0.25kVの交流電気パルスで10ミリ秒処置している。McCabe et al (1995)では、未処置細胞を含む発酵過程で、エタノール生産がおよそ40%増加した(2)。これらの例では、電気穿孔法は交流電場を用いて行われている。
【0010】
他の一般的な関心領域は、細胞成長および代謝物生産に対する電場の影響に関する。この領域において、直流電場による細胞増殖の促進についての研究がなされている。一般にこれらは、電極反応によって生じた、例えば酸素、水素、第一鉄イオン、補酵素などの化学物質が、細胞酵素に転移することに関係していた。ある例では、貴金属イオンの金属元素への還元を触媒するために、電解で生じた水素を、ヒドロゲナーゼ酵素に対する電子供与体として用いている(3)。
【0011】
ヘルムホルツコイル対のような装置を用いて電磁気学的に誘導したパルス電流の、生物工学的過程に対する影響が研究されている。Hones et al (1998)は、脱窒反応で窒素を大気に戻す働きをする硝酸還元酵素を発現する嫌気性菌で実験している。低頻度で電場誘導をmTorr範囲内で交互に替え、それが細胞の活動を加速させる可能性があることを示した。著者は、そのような発酵に及ぼし得る影響は、バイオマス量がかなり増大するか、または発酵速度が速くなるかのどちらかであると述べている。結果として、パルス電場は細胞分裂を促進するが、硝酸還元酵素の回転数は促進しないことが結論づけられた。
【0012】
驚くべきことに、本発明の発明者らは、反応混合物が電場の発生に用いる器具に接触しないように、反応混合物とその器具とを隔離して維持または配置している状態で、該反応混合物に直流電場をかけると、電場の影響下で生体内変換作用を促進できることを発見した。
【0013】
従って、本発明の第一の面によって、反応混合物と電場を発生させる器具とを互いに接触することのないように隔離している状態で、その反応混合物に直流電場をかけ、生体触媒反応速度を高める方法をここに提供する。電気化学リアクター内で電極を用いるなど、当業者に周知の技術を用いて電場をかけてもよい。有利なことに、反応混合物内で起こるバイオプロセス速度を高めることにより、回転数(単位時間あたりに変換される分子数)が増加し、滞留時間(供給量に対するリアクター体積の割合)は減少し、時間−空間収率(リアクター体積および時間あたりに合成された生成物の質量)は増加する。その促進効果を創出する機構経路は現在未知であるが、電極は生体反応混合物から隔離されているので、直接の電子輸送反応は起こり得ない。従って、生体反応速度に対する有利な効果は、直流電場の影響のみからくるものである。付随の実施例でより詳細に示した通り、特定の生体触媒反応における一貫した速度の向上を提供するために、その効果を実証した。
【0014】
このように、微生物などの生物を含み得る反応混合物が、電極周囲の領域および電極への接触から物理的に保護されている場合、この効果が得られる。
【0015】
反応混合物と電極との隔離を維持しつつ反応混合物に電場を伝達するまたはかける多くの方法は当業者にとって明らかである。例えば、電極をガラス容器または他の適切な容器の中に入れて、反応混合物内に設置することができる。一態様においては、図1に示したように、多孔質の窓が付いたガラス管内に無関係電解質を入れ、その中に各電極を保持することにより、生体反応混合物に電流を通すが、混合物中のあらゆるバイオマスと電極との接触を回避するということを可能にしている。
【0016】
有利なことに、本発明はまた、改変型電気透析と併用して利用することにより、反応速度の向上効果を維持しながら生成物の分離と濃縮を行うことができる。電気透析を利用する方法で、特に、例えば循環系の生体内変換反応の生成物の抽出時に、またバッチ処理の場合は反応の完了時に、大幅に能率を上げることができる。
【0017】
バッチ生体触媒反応を行い、反応混合物をろ過してバイオマスを取り出す方法に次いで、在来型の電気透析法を適用する方法が、これまでに研究されている(5、6)。この技術の一種にバイポーラ膜電気透析を利用したものがあり、これにより、有機生成物を無機成分から分離し、生成物をより純度の高い形で回収できる(7)、または塩から酸を調製できる(8)、これはバッチ生体内変換反応の完了後も同様である。従って、本発明のこの面によると、その一部が電極である電気化学リアクターの中に、反応混合物が維持され、適切な電気透析膜が組み込まれている。
【0018】
バイポーラ膜のような電気透析膜の利用によるさらなる利点は、循環系の生体触媒反応から荷電したイオン性有機生成物を連続的に抽出および濃縮できることである。この方法により、必要に応じて一時的な操作計画を立て、生物を殺す必要が生じるのを日頃から回避し、また、連続運転機構によって最適pH条件で生体触媒反応を維持する場が得られるであろう。処理速度を高め、必要資本をより少なくし、また化学物質および生体触媒/バイオマスの消費を低くすることにより、工程にかかる費用を削減できる可能性がある。生体反応混合物内の生成物濃度が低く保たれるので、生体触媒過程でのあらゆる不利なフィードバック阻害(例えば、乳酸発酵反応に見られるような)を回避できる可能性がある。さらに、電気透析膜を用いると、生体触媒反応混合物内で直接生産する場合よりもかなり高濃度で生成物を回収でき、純粋生成物をより効果的に単離できる可能性がある。
【0019】
バッチ系または連続系でバイポーラ膜電気透析を行い生成物回収効率および費用効果を高めるためには、多くの困難を克服しなければならない。例えばカルボキシル化のような生体触媒反応に必要なpH水準では、大多数のイオン性有機生成物は負に荷電しており、陰イオン選択膜を通じて反応混合物から抽出することができる。ところが、反応混合物中には通常、同様に負に荷電しており、生成物陰イオンと競合して陰イオン選択膜を通過する傾向があると思われる他の成分が含まれている。これには大変不利な点が3つある。初めに、陰イオン輸送の競合によって生成物回収における電流効率が低下し、所要動力費がかなり増大する。第二に、生体触媒反応に通常用いる標準緩衝液の陰イオン成分が反応混合物から移動し、結果として、効率的な生体触媒の実現に必要とされる狭いpH範囲内に確実にpH制御することができなくなる。三番目に、輸送された他の陰イオンによって生成物流が汚染され、最後の生成物回収段階に影響を及ぼす可能性がある。
【0020】
このように、下記の実施例でより詳細に記載したように、陰イオン選択膜には、反応混合物を電極から隔離することに加え、有機酸イオンを生体反応混合物から陰イオン選択膜を通して生成物流へ輸送する働きもある。
【0021】
本発明の好ましい態様では、標準的な陰イオン性緩衝系の代わりに、陽イオン性緩衝系が反応混合物に含まれている。これにより、生成物を移動させる過程の効率性が大幅に増加するという有利な効果が得られる。さらに、緩衝液の損失を防ぐことにより、直流電流を調整してpHを自動的に制御することができ、化学物質を加えてpHを調節する必要性が軽減される。電流を切った時に、生成物(例えば乳酸)の逆拡散が観察された。従って、長期間電流を切ると逆拡散が生じてしまうような場合は、少なくとも少量の残留電流を維持しておくべきである。典型的な陽イオン性緩衝系は、「ビス-トリス」、つまりビス(2-ヒドロキシエチル)-イミノ-トリス(ヒドロキシメチル)メタンである。
【0022】
従って、陽イオン緩衝系の使用によって実現できる本発明のさらなる特徴は、化学物質を加えずに、直流電流を調整してpHを調節することである。好ましくは例えばコンピュータ制御の電流調節システムによってこのpH調節を行うことができる。
【0023】
生体触媒反応が進行するに連れて、酸性生成物(例えば安息香酸、乳酸など)が生成するためpHが低下する。連続分離を行わないバッチ方法では、反応混合物のpHを必要範囲内に保つために、全期間に渡って塩基を付加することが必要である。有機陰イオンの連続膜抽出では、バイポーラ膜で水分解により生じたヒドロキシルイオンによって、酸性生成物の置換および中和を行うことができる。しかし、分離システムに陰イオン性緩衝系を用いると、その緩衝液は次第に置換され、pH制御を維持できなくなる。この問題は、陽イオン緩衝系を取り入れ、膜スタックを貫く直流電流の強さでpHを制御できるようにすることで克服した。
【0024】
各生成物陰イオンが、反応混合物から陰イオン選択膜を通って生成物流へ移動するのに対し、生体触媒過程で生成した酸は、バイポーラ膜で水分解により生成したヒドロキシルイオンによって中和される。陽イオン性緩衝液を用いることで反応混合物から輸送される有機生成物陰イオンが定量的になると、緩衝液の置換は起こらず系の平衡が保たれる。実施例6および8は非生物実験であり、そこでは生成物である安息香酸(実施例6)または乳酸(実施例8)を反応混合物に加えることにより、発酵過程における該生成物の生成を模擬的に作り出している。そこでは、電流を安息香酸または乳酸を加える速度と調和させることでこの効果を実証しており、生成物(安息香酸または乳酸)移入速度が電流密度に線形従属することが示されている。
【0025】
従って、電気化学的方法の一般的な利点は、電流を調整して反応速度を制御することができるので、容易に自動制御が実現できることである。本発明のひとつの面は、改変型電気透析による連続した生成物回収の一環として、生体内変換反応混合物の自動pH制御を実現したことである。
【0026】
直流電場による反応速度促進作用および電気透析による生成物回収系の改善の両方が有利に実現できるので、本発明の有用で新規な面は、バイオリアクターと電気-膜による分離/濃縮をひとつの総合的な系に組み合わせたことに関係している。(図2に示したように)バイオリアクターは電気透析セルの中に置くことができる、または(図3に示したように)バイオマスは大抵の場合別のバイオリアクター中に含むことができ、電気透析スタックに再循環することができる。電気透析過程と生体触媒の統合についての最近の文献には、電場と生物学的物質間の相互作用については何も記載されていない。
【0027】
本発明の面による電気透析方法の改善によって、生体触媒反応の連続運転をより効果的に行うことができるであろう。本発明が提供する溶液を用いても、循環系の生体触媒反応混合物からのイオン性有機生成物の連続抽出にバイポーラ電気透析を用いることができ、該溶液の使用により競合的な陰イオン輸送が妨げられ、生成物分離過程の電流効率を大幅に増大できる。さらに、本発明によって、特定のそれぞれの生体触媒反応の効率的な運用に不可欠な、狭い最適pH範囲中にpHを制御できるであろう。先の技術者は、発酵による乳酸産生におけるpHの制御方法として、電流供給を手動調整で行うことを提唱していた(9)。ところが、発酵ブロス内の無機成分の移動による系の不均衡が考慮されていなかった。今回提案した改善策により、確実で継続的なpH制御が可能になるであろう。このことは、直流電流の強さを調整するコンピュータ制御のフィードバックループによって自動的に行われ、化学物質を加えてpHを制御する必要がなくなるであろう。さらに、生体触媒反応混合物中の生成物濃度が低く保たれるため、触媒活性における不利なフィードバック阻害が大幅に減少するであろう。この方法で、連続運転の実現に加え、バッチ過程からの生成物の単離および濃縮効率も大幅に改善されるであろう。
【0028】
本発明で提供する生成物の分離/濃縮の改善法は、高酵素活性に必要なpH範囲内で負に荷電した陰イオンに分解する酸性有機化合物の生産を含めた、広範囲の生体触媒反応に適用できる。下記でより詳細に記載したように、2種類の一般的な反応例である、ある2つの反応にその方法を用いた。第一は、細胞全体で1つの酵素が触媒する生体内変換、つまり、ロドコッカス・ロドクラス(Rhodococcus rhodochrous)LL100-21によるベンゾニトリルから安息香酸への変換。第二は、細胞全体で複数の酵素段階が関与する発酵、つまり、ラクトバシルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)NCIMB 6375によるグルコースからの乳酸産生。
【0029】
本発明の好ましい面による膜の具体的な配置を図2から4に示す。生体反応混合物は、陰極側の陰イオン選択膜と陽極側のバイポーラ膜の間に含まれている。陰イオン成分(例えばホウ酸塩)を含む標準緩衝液が生体触媒反応混合物内に有る場合、緩衝液陰イオンの輸送と有機酸陰イオンの輸送の間に競合が見られる。陰イオン性緩衝液が少量しか含まれていない場合でも、生成物輸送の電流効率はかなり低く、例えば、0.045Mのホウ酸が存在する場合、安息香酸の輸送の平均電流効率は50%にしか満たない。この過程の非効率性のために、有機生成物の目的除去速度の達成にかなり多くのエネルギーが費やされる。ところが、反応混合物内に有機生成物以外の陰イオンが存在しないように、陽イオン緩衝系(例えばビス-トリス)を取り入れた場合、電流は全て有機生成物の膜介在輸送に利用された。実施例7aで観察された電流効率は75%であった。その実施例は非生物実験であり、そこでは安息香酸を反応混合物に加えることにより発酵過程における該生成物の生成を模擬的に作り出している。疑似生体反応流にはトリス緩衝液を使用した。バイポーラ膜で生成された水酸化物の移入による競合的な電荷輸送は電流効率を低下させるが、有機生成物濃度をより高くすることによって、この現象を低減することができる。安息香酸は水への溶解度が低いので、この現象を証明するための実施例には用いられない。実施例8で観察された電流効率は100%に近く、エネルギー消費は大幅に抑えられ、生成物の分離速度も増加していた。この実施例は非生物実験であり、そこでは乳酸を反応混合物に加えることにより発酵過程における該生成物の生成を模擬的に作り出している。また、バイポーラ膜の存在により、陽イオン性緩衝液(この場合はビス-トリス)の陽極への移動が妨げられ、該緩衝液は生体反応混合物内に留まる。従って、高額の化学物質を使わなくとも、pHを厳密に維持することができる。
【0030】
膜システムに微生物を用いる際に生じる一般的な問題に膜汚染がある。標準的な膜洗浄サイクルを反応過程に導入して膜作用の効率性を維持することもできる(9)。
【0031】
しかし、本発明ではこの問題を、膜汚染の防止に有利に用いられる微生物の固定化によって解決した。その結果、本発明の発明者は、例えば酵母または細菌などの固定化微生物を利用することによって、膜汚染は防止できるかあるいは少なくとも大幅に減少できることを発見した。この効果は、直流電場による増強と膜汚染の減少の両効果を得るために生物/電気透析連結リアクターに固定化培地を組み込んだ実施例4の実験で確認された。
【0032】
ところが、生物/電気透析連結リアクターでこの方法を行うには、かなり大きな体積の電気透析スタックリアクターが必要になることが予想された。代替法として、標準設計(連続攪拌、流動層、充填層など)の別のバイオリアクターに微生物を含んだ固定化培地を組み込むという方法が考えられる。しかし、この場合微生物は電場に曝されないので、直流増強効果は得られないであろう。従って、生成物の回収/濃縮に加えて直流増強効果も得るためには、固定化微生物を含むバイオリアクターに第二の直流電場をかける必要が予想された。第二の系には、分離は行わず電場効果のみを得るために、(実施例3のように)リアクターの両側に2つのバイポーラ膜を組み込む方法が考えられた。分離膜スタック内には生成物を分離するために比較的広い膜領域を設ける必要があるが、直流増強効果を得るためにバイオリアクター内に必要なバイポーラ膜範囲は比較的小さなものであろう。
【0033】
本発明による生体触媒反応は、単一酵素による生体内変換反応、発酵過程または単離酵素系に触媒される反応のいずれかを含み得る。該反応は成長中の微生物培養、休止期の微生物培養、または細菌、菌または酵母の固定化培養の助けを借りて実行してもよい。
【0034】
ここより、以下の実施例および添付の図を参照して本発明を説明する。
【実施例1】
【0035】
この実施例では、多孔質のセパレーターによって生体反応混合物と電極との接触が妨げられている簡潔なガラスリアクター内で、生体内変換促進作用が観察できることを実証する。
【0036】
ロドコッカス・ロドコッカス(Rhodococcus rhodococcus)(LL100-21)のスタータ・カルチャーを指数増殖期の後期まで液体培地50ml中30℃でオービタルシェーカー(160rpm)上で培養した。その培地は以下を含んだものである:トリスホウ酸緩衝液(0.045M H3BO3、0.33Mトリス、つまりトリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタン)(TBB)、0.5mM KH2PO4、8.6mM NaCl、0.01M CaCl2、0.1M MgSO4および1ml/Lの微量元素(Beauchop, 1960)。培養中、唯一の炭素および窒素源としてベンゾニトリルを供給した。生体内変換用の細胞を作成するために、4%w/vのスタータ細胞接種溶液を最終体積500mlに調製し、その培養液を30℃でオービタルシェーカー(160rpm)上で36時間好気的に培養した。指数増殖期の初期/中期に13000gで15分間遠心分離して、細胞を最終的に収穫した。細胞をTBB内で3回洗浄し、その後200mlのTBBでガラスセルリアクター内に再懸濁した。各電極チャンバーには15mlのTBBを入れた。
細菌はMの中に直接置き、10mMのベンゾニトリルを加えた。16.6A/m2の直流電流を260分間流した。定電流下での平均生成速度は0.027mmol/分/g dcw(乾燥細胞重量)であった。
【0037】
定電流をガラスセルリアクター内の細胞に流さずに、同条件で実験を繰り返した。電流なしでの平均生成速度は0.020mmol/分/g dcwであった。
【0038】
この実施例では生体内変換速度が電流によって35%増加することが示された。
【実施例2】
【0039】
この実施例では、生体内変換促進作用が生物/電気-膜連結リアクター内で観察され、且つ生成物の分離/濃縮を同時に行うことができることを実証する。
細菌のスタータ・カルチャー(50ml)を実施例1に記載の通りに調製した。4%w/vのスタータ細胞接種溶液を最終体積500mlに調製し、その培養液を30℃で36時間培養した。
指数増殖期の中期/後期に13000gで15分間遠心分離して、細胞を最終的に収穫した。細胞をTBBで3回洗浄し、その後1.4LのTBBで生物/電気-膜連結リアクター内に再懸濁した。
【0040】
DINレールに取り付けたpH調節器、可変ポンプおよびpH電極を含むpH制御システムを用いて、4N NaOH付加により濃縮生成物のpHをpH8に維持した。500mlのTBBをチャンバー(8)、(9)および(10)用の電解液として用いた。
【0041】
生体内変換を開始させるために、10mMのベンゾニトリルを反応混合物に加えた。直流電流のスイッチを入れ、16.6A/m2の定電流を送るようにセットした。定電流下での平均生成速度は0.044mmol/分/g dcwであった。安息香酸が移動速度0.02mmol/分で生成物濃縮チャンバー内に移動した。
【0042】
定電流を電気運動リアクター内の細胞に流さずに、同条件で実験を繰り返した。電流なしでの平均生成速度は0.031mmol/分/g dcwであった。
【0043】
この実施例では、生体内変換速度が電流によって42%増加し、且つ濃縮された安息香酸が電気透析によって回収できることが示された。
【実施例3】
【0044】
この実験は、生物/電気-膜連結リアクター内の陰イオン選択膜をバイポーラ膜に置換することによって、生体内変換促進作用が生成物は分離/濃縮過程の結果起こるものではないことを実証するためにおこなった。ロドコッカス・ロドコッカス(Rhodococcus rhodococcus)LL100-21の細胞塊を実施例2と同様の方法で培養し、収穫した。細胞を1.4LのTBBで再懸濁し、生物/電気-膜連結リアクターに加えた。しかし、このリアクターは、生体反応チャンバーと生成物濃縮チャンバーの間の(実施例2で用いた)陰イオン選択膜をバイポーラ膜(Tokuyama Neosepta BP-1)で置換して改変してあるので、安息香酸生成物は反応混合物から輸送されなかった。細胞に10mMのベンゾニトリルを加え、直流電流(16.6A/m2)のスイッチを入れた。定電流下での平均生成速度は0.023mmol/分/g dcwであった。定電流をリアクター内の細胞に流さずに、同条件でこの実験を繰り返した。電流なしでの平均生成速度は0.018mmol/分/g dcwであった。この実施例では、電流によって細菌の代謝が刺激され生体内変換速度が28%増加することが示された。
【実施例4】
【0045】
この実施例では、固定化バイオマスを用いた生物/電気-膜連結リアクター内で、生体内変換促進作用が観察され、且つ生成物の分離/濃縮を同時に行うことができることを実証する。細菌のスタータ・カルチャー(50ml)を実施例1に記載の通りに調製した。4%w/vのスタータ細胞接種溶液を最終体積500mlに調製し、その培養液を30℃で培養した。細菌培養液が指数増殖期の後期に達した時点で、13000gで15分間遠心分離し、細菌を収穫した。上清を除去し、最終密度が5g/Lになるように細菌をTBBに再懸濁した。その後、濃縮細胞を等量の4%アルギン酸塩と混合した。アルギン酸塩の凝固物が規則正しい球状になるように、高密度の該懸濁液を1Lの0.25M CaCl2に皮下針で滴加した。細菌を含むこれらのアルギン酸塩の玉を篩を用いて収穫し、TBBで1回洗浄し、実施例2と同様の標準的な膜配列の、図2に示した生物/電気-膜連結リアクターの生体反応チャンバーに1.4LのTBBで再懸濁した。細胞に10mMのベンゾニトリルを加え、直流電流(16.6A/m2)のスイッチを入れた。定電流下での平均生成速度は0.042mmol/分/g dcwであった。安息香酸が移動速度0.02mmol/分で生成物濃縮チャンバーMA内に移動した。リアクター内の細胞に定電流を流さずに、同条件でこの実験を繰り返した。電流なしでの平均生成速度は0.032mmol/分/g dcwであった。この実施例では、固定化微生物の生体内変換速度が電流によって31%増加することが示された。
【実施例5】
【0046】
この実施例では、バイオマスを外部バイオリアクターから循環するので、バイオマスは直流電場が作用する間だけ電場の影響に曝されるはずであるが、電気-膜スタックリアクター内で生体内変換促進作用が観察されることを実証する。細菌のスタータ・カルチャー(50ml)を実施例1に記載の通りに調製した。4%w/vのスタータ細胞接種溶液を最終体積500mlに調製し、その培養液を30℃で36時間培養した。指数増殖期の中期/後期に13000gで15分間遠心分離して、細胞を最終的に収穫した。細胞をTBBで3回洗浄し、その後0.5LのTBBで再懸濁し、電気-膜スタックリアクターの生体反応チャンバーに無菌的に連結した0.6リットル容量のガラスフラスコの発酵槽内に移した。500mlのTBBを陽極液、陰極液および生成物濃縮チャンバーの電解液として用いた。実施例2に記載したpH制御システムを用いて、生成物濃縮チャンバーのpHをpH8に維持した。10mMのベンゾニトリルを細胞に加え、リアクター内に電流を流さずに210分間ロドコッカス・ロドコッカス(Rhodococcus rhodococcus)LL100-21に生体内変換を行わせた。生体内変換速度は0.030mmol/分/g dcwであった。
210分後、10mMのベンゾニトリルを再び加え、直流電流(16.6A/m2)のスイッチを入れた。定電流下での平均生成速度は0.044mmol/分/g dcwであった。安息香酸が移動速度0.02mmol/分で生成物濃縮チャンバー内に移動した。この実施例で、生体内変換速度が電流によって47%増加し、同時に安息香酸の分離および濃縮が電気-膜スタックで達成できることが示された。
【実施例6】
【0047】
電気-膜スタックリアクターを非生物様式で動作したこの実施例では、電流を変えることによりpHを確実に制御できることを実証する。1リットルのTBBを陽極液および陰極液チャンバーのそれぞれを通して循環させ、11mmolの安息香酸を含む1リットルのTBBを生成物濃縮チャンバーを通して循環させた。5mmolの安息香酸を含む1リットルのTBBを生体反応チャンバーを通して循環させた。直流電流を電気透析スタックに流した。生体反応チャンバーを通って循環している溶液に、安息香酸の濃縮溶液をさまざまな添加速度で連続的に加えた。安息香酸の添加速度に応じて手動で電流を調整し、生体反応チャンバー内のpHを8に維持した。初めに、0.025mmol/分の添加速度で安息香酸を加えた。流した電流は0.09Aであった。4時間半後、添加速度を0.012mmol/分に減らし、電流を0.04Aに変えた。その後、半時間、安息香酸を0.041mmol/分の速度で加え、電流を0.15Aに変えた。5時間半の運転後、20mmolの安息香酸(全安息香酸の82%)が生成物濃縮流中に回収された。4mmolの安息香酸(全安息香酸の16%)が生体反応流中に残留していた。平均電流効率は50%であった。実験中、生体反応流内のpHは8.0から8.1の間に留まっていた。
【0048】
この実施例で、反応混合物のpHは電流を調整して制御できること、および生成物(この場合、安息香酸)の移動速度は電流密度に線形従属することが示された。
【実施例7】
【0049】
電気-膜スタックリアクターを非生物様式で動作したこの実施例では、トリス緩衝液、つまりトリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いて、生成物(この場合、安息香酸塩)以外の陰イオンが生体反応流中に混在するのを避けることによって高い電流効率が得られ、且つpHの安定性も得られることを実証する。0.5リットルの0.1M Na2SO4溶液を陽極液および陰極液チャンバーのそれぞれを通して循環させた。0.5リットルのTBBを生成物濃縮チャンバーを通して循環させた。5mmolの安息香酸を含む0.5MのTrizma base溶液0.5リットルを生体反応チャンバーを通して循環させた。直流電流(0.15A)を電気透析スタックに流した。生体反応チャンバーを通って循環している溶液に、安息香酸の濃縮溶液を0.07mmol/分の添加速度で連続的に加えた。5時間半の運転後、22mmolの安息香酸(全安息香酸の78%)が生成物濃縮流中に回収された。6mmolの乳酸(全安息香酸の21%)が生体反応流中に残留していた。平均電流効率は75%であった。
【0050】
実験中、生体反応流内のpHは8.3から8.4の間に留まっていた。この実施例で、生成物(この場合、安息香酸塩)以外の陰イオンが生体反応流中に混在するのを避けることによって電流効率が増加することが示された。同時に、トリス緩衝液を使用すると、生体内変換反応培地のpHが安定に保たれることが分かった。
【実施例8】
【0051】
電気-膜スタックリアクターを非生物様式で動作したこの実施例では、陽イオン性緩衝液を用いると、生成物を分離/濃縮において高い電流効率が得られ、且つpHの安定性も得られることを実証する。また、生成物濃度を高くすると、水酸化物の移動によって起こる競合的な電荷輸送が最小限に抑えられ、より高い電流効率が得られることも実証する。安息香酸は水への溶解度が低く高濃度での使用ができないので、安息香酸のかわりに乳酸をモデル生成物として用いた。1リットルの0.1M硫酸を陽極液および陰極液チャンバーを通して循環させ、1.1リットルの1.6M乳酸溶液を生成物濃縮チャンバーを通して循環させた。0.1molの乳酸を含む0.05Mのビス-トリス緩衝液(0.5リットル)を生体反応チャンバーを通して循環させた。直流電流をスタックに流した。生体反応チャンバーを通って循環している溶液に、乳酸(85%)をさまざまな添加速度で連続的に加えた。乳酸の添加速度に応じて手動で電流を調整し、pH6を維持した。初めに、2.4mmol/分の添加速度で乳酸を4時間にわたって加えた。流した電流は3.5Aであった。4時間後、添加速度を3.6mmol/分に増やし、電流を5.2Aに変えた。その後、1時間半、乳酸を4.8mmol/分の速度で加え、電流を6.9Aに変えた。6時間半の運転後、2.95molの乳酸(全乳酸の97%)が生成物濃縮流中に回収された。0.03molの乳酸(全乳酸の1%)が生体反応流中に残留していた。平均電流効率は100%であった。実験中、模擬的に作り出した反応混合物中のpHは5.9から6.3の間に順調に維持されていた。この実施例で、生成物(乳酸)はこの電気-膜スタック設計で回収でき、陽イオン性緩衝液を使用すること、および生体反応流内での生成物(この場合、乳酸)濃度をより高くすることにより、電流効率が上昇することが示された。
【0052】
従って、本発明の新規な効果は図1に示した実験室用ガラスリアクターで示された。実験の詳細およびその結果は実施例1に示してある。この実施例は、直流電場の適用によって、生体内変換速度が35%増加したことが示された。
【0053】
本発明の新規な効果は、図2に示した実験室規模のモジュール式実験室用リアクター設計でも示された。この種の電気-膜電気化学リアクター設計は工業規模への拡大に適したモデル設計である。実験の詳細は実施例2、3および4に示している。
【0054】
実施例2では、生成物(安息香酸)は、直流電場の影響で、生体内変換反応混合物から陰イオン選択膜を通って生成物流中に連続的に移動した。実施例3では、生成物が移動しないように、陰イオン膜をバイポーラ膜に置換した。実施例4では、(実施例2で行った)生成物の分離と、アルギン酸塩の玉への細菌細胞の固定化とを組み合わせた。これらの実施例では、直流電場の適用によって生体内変換速度が、実施例2、3および4においてそれぞれ、42%、28%および31%増加したことが示された。
【0055】
本発明の新規な効果は、図3に示した実験室規模の電気-膜スタックでも示された。このリアクターの設計は、工場規模への直接拡大に適している。実験の詳細は実施例5に示している。このシステムは陰イオン交換膜を用いた安息香酸の連続分離で動作した。この実施例では、直流電場によって生体内変換速度が47%促進した。この時、細菌は、外部の貯蔵槽から電気透析スタックを通して再利用した。従って、この結果から、電気化学リアクターが主要バイオリアクターの外部にある場合にも、促進効果を維持できることが確認された。
【0056】
交流電場を用いる電気穿孔法とは異なり、本発明の新規な効果は直流電場を用いることで得られる。また、細胞成長および代謝生成物の生成の促進に関する先の研究は、電磁気学的に誘導されたパルス交流電流に関係するものであった。
【0057】
[参考文献]

1) S. Velizarov; Electro- and Magnetobiology, 18(2), 185 - 212 (1999)。

2) A. McCabe, N. Barron, L. McHale and A.P. McHale;
Biotechnol. Tech. 9, 133 - 136 (1995)。

3) P. Yong, J.P.G. Farr, I.R. Harris and L. Macaskie; Biotechnology Letters 24, 205 - 212 (2002)。

4) I. Hones, A. Pospischil, H. Berg; Bioelectrochemistry and Bioenergetics 44,275 - 277 (1998)。

5) F. Miao; US Patent No. 5,681,728 (Oct. 28, 1997)。

6) R. Cabacang, M. Kishimoto, K. Suga; Biotechnology for Sustainable Utilisation of Biological Resources in the Tropics 14, 226 - 235 (2000)。

7) J.D. Genders, R. Gopal, D.M. Hartsough, P.M. Kendall, W.J. Long, D.J. Mazur, G.D. Zappi; US Patent No. 6,187,570 (Feb 13, 2001)。

8) O. Favre-Bulle, J. Pierrard, C. David, P. Morel, D. Horbez; US Patent No. 6,180,359 (Jan. 30, 2001)。

9) Y. Nomura, M. Iwahara and M. Hongo; Biotechnology and Bioengineering 30, 788 - 793 (1987)。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、つば付の蓋の付いたガラスの丸底容器からなるガラスリアクターの説明図である。生体反応チャンバー(3)は全容量が250mlの球形の反応容器を含む。陰極(1)および陽極(2)は、ガラス管に収納され、つば付の蓋を貫いてリアクターに挿入され、ガラス管中の無関係電解質に浸されている。電極は、表面が2cm×1.5cmの長方形の白金めっきチタンでできている。ガラス管はフラスコ内の生体内変換反応混合物に浸されている。反応混合物は多孔質のガラス窓(4)を介して陰極および陽極隔室と隔てられている。このセパレーターは電流を通すが、バイオマスと電極との接触を阻止することができる。生成物の分離はしなかった。
【0059】
【図2】図2は、本発明に用いる生物/電気-膜連結反応の説明図である。
【0060】
このリアクターの設計によって、バイオリアクターチャンバーをイオン選択膜およびバイポーラ膜を含む改変型電気透析スタックへ統合することができ、生体内変換反応速度を高める作用と生成物分離作用が同時に実現できる。
【0061】
このリアクターには、全体積の生体内変換反応混合物が入った、1.4Lの作業容量の風防ガラス製の生体反応チャンバー(3)が設置されている。マグネチックスターラーは中央のチャンバーで細胞集団を含む培地を連続的に攪拌しているが、この混合物が外部の容器にまで循環していくことはない。さらに2つのチャンバーおよび陰極(1)(白金めっきチタン)が片側にボルトで固定されている。陰イオン選択膜(5)(Neosepta ACM)は生体反応チャンバーと生成物濃縮チャンバー(8)の間に位置している。生成物濃縮チャンバーは陽イオン選択膜(7)(DuPont Nafion 450)によって陽極液チャンバー(9)と隔てられている。生体反応チャンバーのもう片側に、陰極液チャンバー(10)および陽極(2)(ステンレス鋼)がボルトで固定されている。生体反応チャンバーと陰極液チャンバーはバイポーラ膜(6)(Tokuyama Co. Ltd. BPM 1)で隔てられている。チャンバー(8)、(9)および(10)はチャンバー(3)よりもかなり薄く、注入口と排出口が取り付けてあり、溶液が別の外部貯蔵槽と20ml/分の速度で循環するようになっている。このリアクターの電極は表面が10×10cmの正方形である。
【0062】
【図3】図3は、本発明で用いる電気-膜スタックリアクターの説明図である。
【0063】
このリアクターの設計によって、一般的な工業用の電気-膜スタック系を利用して生体内変換反応速度を高め生成物の分離を向上することが可能になる。バイオマスを含む反応混合物は、膜スタックリアクターの生体反応チャンバーを通って別のバイオリアクターから再循環される。
【0064】
このスタックには、寸法が3×160×230mmのHDPEで作成した4つのチャンバーがある。フレームによって露出したそれぞれの膜の作用範囲は120×160mmであった。膜を補助し、水力学的な流れを良くするために、ポリマーのメッシュ(HDPE)が各フレームに取り付けられている。生体反応チャンバーの寸法は他のチャンバーと同じである。全ての溶液は外部の容器に再循環される。この反応混合物の場合、バイオマスは浮遊状態で存在するので電気-膜スタックを通過し、一定時間直流電場にさらされる。
【0065】
2つの終板には埋め込み式の電極が含まれている。陰極(タンタル/イリジウム酸化物でめっきしたチタン)は、電極を埋め込んだPVC板に加工された環状溝に満たしたシリコン製密封剤の玉と接触している。陽極(チタン)はPVC補助板に同様に密封されている。電極は表面が120×160mmの長方形である。
【0066】
電極と膜の配置は、生物/電気-膜連結リアクター(構成部分の番号は同じ)に記載した配置と同じである。
【0067】
【図4】図4は、単一および複数ユニットスタックに用いる膜配列の説明図である。
【0068】
電気-膜スタックリアクターに用いる膜配列を図4に示す。図4(a)では、系内に、陽極液隔室に隣接する1枚の陽イオン選択膜並びに、1枚のバイポーラ膜および1枚の陰イオン選択膜の単一ユニットが含まれる。図4(b)は、工業用複数ユニットセルに用いる膜配列を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体触媒反応速度を高める方法であって、反応混合物と直流電場の発生に用いる電極とが、互いに接触することのないように隔離されている状態で、直流電場を反応混合物にかけることを含む方法。
【請求項2】
反応混合物における生体触媒反応の刺激に十分な時間電場をかける、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応混合物と電極が隔離膜で隔離されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
隔離膜がイオン交換膜または微多孔膜のいずれかである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
隔離膜がバイポーライオン交換膜である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
電極が電気化学リアクターの一部を成す、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
電気化学リアクターが、生体触媒反応培地中の荷電した有機生成物を電気透析で取り除くことができる電気透析スタックの一部を成す、請求項6記載の方法。
【請求項8】
反応培地が、その反応培地の陽極側のバイポーラ膜と陰極側の陰イオン選択膜の間に含まれている、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
陰イオン性成分を構成する有機生成物とともに、陽イオン性緩衝系を反応培地に含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
直流電流を調整して反応混合物のpHを調節する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
直流電流がコンピュータープログラムの制御下で自動的に調整される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
生体触媒段階および電気透析段階が、各々連結しているが別のリアクター内で動作し、活性バイオマスを含む生体触媒反応培地を連続して電気透析リアクターに再循環させることができる、請求項7から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
生体触媒反応が、単一酵素による生体内変換反応、発酵過程または単離酵素系に触媒される反応のいずれかを含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項14】
反応混合物に微生物の成長培養物または休止培養物のいずれかを含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項15】
微生物混合物が、酵母、細菌または菌の固定化培養物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
培養物が玉の表面または玉の微細孔の中に固定化されている、請求項15に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2006−506085(P2006−506085A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−552895(P2004−552895)
【出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005031
【国際公開番号】WO2004/046351
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(505184713)シー−テック・イノベイション・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】C−TECH INNOVATION LIMITED
【Fターム(参考)】