生体認証装置及び生体認証方法
【課題】明瞭な画像取得と装置の小型化をともに実現可能な生体認証装置等を提案する。
【解決手段】生体の表皮が対向される撮像手段と、撮像手段に対向される表皮部分に光が照らされることを避ける程度に、撮像手段から離間されて設けられ、表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射手段とを有する。この撮像手段は、照射手段から照射される光のうち、深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像する。
【解決手段】生体の表皮が対向される撮像手段と、撮像手段に対向される表皮部分に光が照らされることを避ける程度に、撮像手段から離間されて設けられ、表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射手段とを有する。この撮像手段は、照射手段から照射される光のうち、深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真皮等の皮膚深層パターンに基づく生体認証装置及び生体認証方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広く個人認証に用いられている指紋、掌紋等は、皮膚の表皮組織が真皮の凹凸構造に中に沈み込んでできた隆線網が外部から直接見える部分であり、基本的には真皮等の皮膚深層構造を反映するものである。手掌や足底などの部位の皮膚は、皮膚深層に分布する触覚神経終端がより外部刺激を検出し易くする目的や摩擦に対する強度等の生理的理由により、他の部位の皮膚と異なり真皮等の皮膚深層構造の形状と表皮の形状とが一致した独特の皮膚構造を有している。従来から個人認証に用いられてきた指紋は、基本的にこの深層構造の恒久性を利用したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記指紋を用いた生体認証は、いわゆる「なりすまし」等に対して、その対策が必ずしも十分とは言えない。例えば、指紋は容易に他の物体に痕跡として残り、また目視も容易であるために、第三者に偽造される危険性が否定できない。
【0004】
これに対して、例えば他の部位の表皮により生体認証を行うことができれば、前記偽造の危険性を回避できるものと考えられる。しかしながら、表皮層は28日周期で細胞がすべて入れ替わる等、流動的であり、また肌荒れや乾燥などによりさまざまな変化があるため、この部分の紋理には恒久性が無い。また、測定の結果、指幹部や母指球部等では、指先の指紋と全く異なり表皮と表皮下の紋理は全く別でむしろ直交する傾向すらあり、表皮紋理は生体認証には使用することができない。
【0005】
深層構造を直接表皮が反映し目視できる指先の指紋等の特殊な場合と異なり、同じ手掌型といえども母指球等の手掌部、指幹部や手背部の皮膚も含む人体の大半の皮膚では、深層構造の紋理は表皮層の紋理とは一致せず、また、6層からなる表皮構造による散乱や基底細胞等のメラニン色素に可視光が遮蔽されるため、外部から目視することも困難である。このため、例えば指輪型の認証装置を形成する場合、装着時に当該指輪の内側に接触する皮膚紋理はそのままでは認証には使用できないのが実情である。
【0006】
一方、皮膚の深層構造は基本的には生体固有のものであり、また経年変化も指紋等で言われているようにほとんど無く、例えばこの部分に色素を注入した刺青や妊娠線と呼ばれるものの恒久性も同様の部位の性質によるものである。したがって、皮膚の深層構造である表皮下紋理は、生体認証に適するものと考えられるが、直観的に目視できないことや物体に接触しても痕跡が残らないこともあり、指紋と同等の生体認証特性を有しながらも、個人認証方法として顧みられることは無かった。
【0007】
本発明は、かかる従来の実情に鑑みて提案されたものであり、偽造等による「なりすまし」の危険がなく、恒久的な生体認証が可能な生体認証装置及び生体認証方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明は、生体認証装置であって、生体の表皮が対向される撮像手段と、撮像手段に対向される表皮部分に光が照らされることを避ける程度に、撮像手段から離間されて設けられ、表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射手段とを有する。この撮像手段は、照射手段から照射される光のうち、深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像する。
【0009】
また本発明は、生体認証方法であって、撮像手段に対向される生体の表皮に光が照らされることを避ける程度に、撮像手段から離間されて設けられる照射手段から、表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射ステップと、撮像手段に対して、照射手段から照射される光のうち、深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像させる撮像ステップとを有する。
【発明の効果】
【0010】
上述のように本発明によれば、他の物体に痕跡として残り難く、また目視することが困難となる血管を用いるので、偽造等による「なりすまし」の危険がなく、恒久的な生体認証が可能となる。また、表皮に光が当たることを避けつつ、散乱した結果生じる戻り光を利用するので、明瞭な画像取得と装置の小型化をともに実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した生体認証方法、認証装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
例えば指紋による生体認証の場合、他の物体に痕跡(指紋)が容易に残り、また目視が容易であるため第三者に偽造される危険性が否定できず、その対策として、検出された指紋が正しく生体の指のものであるか否かを判定するための生理学的な生体所属識別を別途必要とする。これは、指紋による生体認証では、直接には皮膚角質など核を喪失して死んだ組織の形状を光学的・電気的に捕捉しているためである。
【0013】
上記指紋や虹彩、その他の生体認証手段のセキュリティ強度は、検出精度ではなく、むしろこの生理学的生体所属確認に依存すると言っても良く、例えば指紋による生体認証において生理学的生体所属識別が破られれば、認証対象となる生体組織を入手して容易に「なりすまし」が可能になり、その意味で当該システムのセキュリティ強度は無きに等しいことになる。一般のクレジットカードなどのセキュリティであれば、それが突破されても経済的損失のみで生命身体に直接の危害は発生しないが、上記生体組織の入手による「なりすまし」は、生命身体に重大な二次災害を新たに招く結果になる。以降これを外科的災害(Surgical Hazard)と呼ぶこととする。
【0014】
生体認証においては、一般的な認証技術で用いられる局所的なセキュリティ強度の他に、新たにシステムとして、外科的災害に対するセキュリティ強度の概念が必要であり、利用者の安全をも含めたセキュリティを考慮する必要があるが、従来技術ではその点が明確にされていない。
【0015】
すなわち、生体認証としてのセキュリティは、「本人のものに一致する、かつ本人から切り取られた等のものではない生体組織」という「認証」と認証対象の正常な生体であることを識別する「生体所属識別」という2つの条件をどれほどの信頼性で確立できるかに依存しているが、従来の生体認証技術では単純に前者の認証の精度や信頼性のみ着目されている。この場合、生体認証と言いながら、実は「生体所属識別」することなしに対象を認証することになり、実際には「生体」認証ではないという矛盾を生じてしまう。したがって、実運用も含めたセキュリティシステムとしてみた場合、かかる矛盾から外科的災害という2次災害を誘発する可能性があると言える。
【0016】
最も簡便で何の技術知識も設備も必要としない「なりすまし方法」は、生体から指、腕、眼球等の組織を切断・摘出して第三者が認証を行う方法である。仮に個人の小口預金以下程度の経済的価値しか得られなくても、こうした生体認証手段の導入は、その手口の簡便さゆえ、却って利用者の生命や身体に金銭に換え難い深刻な被害をもたらす結果となる。このため、指紋や目の虹彩等による従来の生体認証方法は、他の認証手段の補足的手段として用いられたり、簡易用途等のように曖昧に限定された形で利用されるに止まり、広く普及させることは困難である。
【0017】
一方、上記指紋による生体認証等の比較的偽造が容易な方法では、例えば静電容量による指紋認証を例に取れば、偽造対策として、指紋表面の汗等の塩分を含む湿度(水分)により皮膚表面を導電体として機能させ、電極との間の静電容量や静電誘導を測定することにより、微小電極と皮膚表面との距離を検出して指紋パターンを捕捉する方法が試みられている。これは、ある意味で生体所属識別を試みた例である。生体から分泌される汗等の塩分を含む電解性の湿度が存在しないと、上記測定は不可能だからである。
【0018】
しかしながら、当該検出方法では認証対象に電解性の湿度の存在は必要ではあるが、それが必ずしも生体由来のものである必要は無く、これ以外に例えば切り取られたものではないことを検出するための生体所属識別は成立していない。そのため、保水性を持つゲル状物質等に指紋パターンを形成した模造物や、切断した指に生理食塩水を噴霧または浸漬したものを用いられても、これを排除することは困難である。
【0019】
また、DNA等を用いた生体認証では、確かにDNAの「偽造」そのものは困難であるが、その認証対象となるDNAが生体に所属しているものなのか、死体や髪の毛から採取されPCRなどで大量複製されたものなのか判別することは、本質的に不可能であり、これも生体所属識別が成立しない方法である。このため、生体認証手段に加えて、赤外線による指の血流検出等、生体認証そのものとは別に生体であることを何らかの方法で識別する新たなセンサーを別途付加するなどの対策が必要となる。
【0020】
ここで、生体認証は「生体・認証」という2つに分離されて、生体認証とは異なるものとなり、認証をフロントドア(front door)とすれば、その認証対象の生体所属識別を認証とは別な物理的検出に依存することは、バックドア(back door)を作ることと同様の問題となる。この矛盾は、バックドアの生体所属識別手段を欺瞞できれば、その時点で認証システムとしてのセキュリティは破綻し、物体を用いた「なりすまし」や、さらには外科的災害が誘発される危険性がある。生体所属識別は、多様性に富む生物組織を前提として「生きている組織か否か」を識別するものであるが、生命とは何かというセントラルドグマでも明らかなように、それ単体のみではその多様性への対応故に識別の間口が大きくなり、結果として欺瞞が可能という本質的な問題を抱えている。生体認証と生体所属識別に用いる検出手段を別々に用意する従来の方法では、生体所属識別のセンシング方法を第三者が容易に発見し解析可能であったと言え、このようなことから、結論として、認証と生体所属識別とが一体化され、認証=生体所属識別であるバックドアのない本当の意味での生体認証方法が求められている。
【0021】
そこで、本発明においては、上記指紋のような表皮紋理を利用するのではなく、皮膚深層組織、例えば真皮層の凹凸隆起分布パターンを検出し、これを利用して生体認証を行うこととする。
【0022】
図1は、皮膚組織の模式図であり、皮膚組織は、大別して表皮1と真皮2とからなる。表皮(Epidermis)1は、角化重層偏平上皮組織であり、角質層11、透明層12、顆粒層13、有棘層14、基底層15、及び基底膜16から構成される。これら各層のうち、顆粒層13、有棘層14及び基底層15は、併せてマルピギー層と呼ばれる。
【0023】
角質層11は、角質細胞間脂質の2分子膜によるラメラ液晶形態を持ち、透明層12はコレステリック型液晶形態を、また顆粒層13はケラトヒアリン顆粒と呼ばれる光を反射・散乱するビーズのような光学的性質を有する塩基性の構造体を細胞質に含んでいる。また、基底層15はメラニン顆粒を持つ等、外部の紫外線等から生体を防御するため光学的に各層で多様な散乱・吸収形態を持っている。特に紫外線帯域の光に対しては、表皮は屈折率の異なる多層薄膜構造から、ある種のダイクロイックな特性を有する。しかしながら、基本的に表皮1は、メラニン色素による着色を除くと可視光領域でも比較的散乱性を有する半透明状の組織である。ただし、可視光の赤や近赤外線よりも長波長の帯域では透過性が高くなる。このため、表皮1下の真皮2の毛細血管網内の血流が散乱され、外部からも例えば顔色や血色として観察することが可能であり、皮膚の色は基本的にメラニン色素と真皮2の毛細血管内の血液により決定される。表皮1は、毛細血管やリンパ液等の電解質の循環が無く、基本的には角質層11に代表されるように誘電体としての性質が強い。
【0024】
一方、真皮(Dermis)2は、表皮1と比較すると全く違う様相を呈している。基本的に、真皮2はコラーゲンやエラスチンからなる密生結合組織と毛細血管網からなり、単体の細胞の集合体で毛細血管が存在しない表皮1とは大きく異なっている。
【0025】
この真皮2は、乳頭層と網状層に分かれている。真皮乳頭層は表皮組織の最下層である基底膜により表皮組織と接する組織であり、結合組織と毛細血管からなり、感覚神経終端が存在する。網状層は一定の配列構造を持つコラーゲンとそれを繋ぐエラスチン、そして、それらの間を埋める基質からなる。真皮2は毛細血管が豊富で、またリンパ液等の循環により電解質に富んでおり、このため表皮1に比べて導電性が著しく高い。
【0026】
また、この真皮2の結合組織を形成するコラーゲンや弾性繊維は、光学的な複屈折性が強いが、表皮組織では複屈折性は無い。光学的には表皮1も散乱性を有し、偏光特性は散乱に伴って偏光解消を生じる。基本的には、水平・垂直の偏光比は散乱粒子の大きさや形態に依存して固有の散乱特性を示す電磁波の波長>>粒子半径→レイリー散乱電磁波の波長〜粒子半径→ミー散乱(雲粒やエアロゾル。積乱雲が白い訳)電磁波の波長<<粒子半径→幾何学的な電磁波の進行 (雨粒)(虹、ダイヤモンドダスト)
【0027】
真皮1は、牛乳寒天のようなものに例えられ、一定の厚みがあって初めて白色に見える。また、真皮1では波長の長い光ほど透過しやすく、短い光ほど散乱されやすい性質がある。真皮1中に吸光色素が無視できない量で存在すると、真皮1の浅いところで散乱される短波長光は、観察者の目に戻ってくる率が高いが、長波長光は透過して色素に吸収され、戻ってくる率が低くなる。このため、皮膚の浅い部分にある毛細血管は鮮やかな赤に見えるが、やや深い部にある静脈や血管腫は青っぽく見える。メラノサイト関連の母斑(あざ)でも、母斑細胞が真皮・表皮境界部に存在する境界母斑では褐色調に見えるが、真皮にある青色母斑はその名のごとく青色調に見え、真皮メラノサイトによる太田母斑や蒙古斑も臨床的に青みを帯びて見える。
【0028】
本発明では、これらの光学的特性や電気的特性の違いを利用することにより、皮膚深層組織(例えば真皮組織)の凹凸隆起分布パターン等を検出し、生体認証に利用する。例えば白色光に対する反射光の波長成分や散乱・偏光特性に着目してフィルタリングすることで、表皮組織に対して、より深部にある結合組織やコラーゲン繊維等に特徴付けられる真皮層とを識別して、表皮に遮蔽されて目視困難な真皮組織を明瞭化することが可能であり、特に、指紋などの真皮層パターンと表皮層パターンが一致する特殊な場所以外の、全身の皮膚及び皮下組織においても、その紋理を検出することにより個人認証することができる。
【0029】
図2は、こうした極めて多様な散乱形態を持つ表皮下の真皮(Dermis)を光学的に捕捉する検出装置の構成例であり、投光部と受光部で振動面が直交する偏光手段により表皮層での反射を抑止し、散乱と複屈折による光を透過することで表皮下の凹凸隆起分布パターンの撮像を可能としている。
【0030】
具体的構成としては、先ず、照射光学系として、光源21及び光学レンズ22,及び照射部偏光板23を備える。光源21には、例えばLED等、任意の光源を用いることができる。ただし、光源21としては、表皮組織は透過して真皮組織で散乱される近赤外線等の長波長光を発する光源を用いることが好ましく、これにより表皮下の組織における散乱や複屈折等の光学特性を利用して組織のパターンを得ることが可能となる。
【0031】
また、結像光学系として、受光素子である撮像素子(例えば固体撮像素子:CCD)24、結像レンズ群25及び受光部偏光板26を備える。さらに、上記照射光学系と結像光学系の間の光路には、ハーフミラー27が配されており、上記照射光学系と結像光学系とは互いに直交して配置されている。
【0032】
上記の検出装置において、光源21からの照射光は、照射部偏光板23により振動方向が一方向に制限されて皮膚に照射される。また、結像光学系には受光部偏光板26が配置されているが、これは振動方向が投射部偏光板23とは直交するように構成されている。したがって、表皮組織での単純な反射光は、振動方向が受光部偏光板26とは直交することになり、受光部偏光板26によって遮蔽される。
【0033】
照射光学系から皮膚に照射された照射光は、皮膚深層組織(例えば真皮組織)にまで達し、様々な組織により散乱や複屈折が生じ、それにより偏光が解消される。これらは、後方散乱光としてハーフミラー27を透過して上記結像光学系へと導かれるが、上記の通り偏光が解消されているため受光部偏光板26を透過し、撮像素子24まで到達する。
【0034】
表皮組織に無く真皮組織等に固有に存在する結合組織やコラーゲン等、光学的に複屈折する特性を有する組織を経由して反射・散乱された光は、複屈折により位相が入射光からずれることになる。これにより表皮組織での反射・散乱光と、複屈折組織(真皮組織)を経由した位相の異なる光との識別が可能となる。
【0035】
この構成では、ダイクロイックフィルタ等の帯域フィルタによりこの真皮組織での複屈折による位相ずれの波長成分のみを選択的に透過し、これを検出することで複屈折組織を選択的に検出し真皮組織を体外から非侵襲的に検出する方法も考えられる。
【0036】
偏光を用いた皮膚計測としては、可視光帯域での偏光フィルターの光学的特性に着目して、皮膚の観察に偏光を用いるという方法が美容産業の分野において知られている。例えば、皮膚の艶や輝きという美容要素の計測方法として皮膚表面の評価を行う方法(特許第3194152号公報や実公平7-22655号公報参照)が知られている。
【0037】
しかしながら、これらは真皮組織等の表皮下の組織を観察する目的で構成されたものではなく、あくまで可視光を用いた美容的な外観による皮膚表面の評価を目的としたものである。したがって、偏光が散乱により解消されるという周知の性質を利用して、表皮角質等の直接反射のギラつきによる画質低下を防止し、表皮の可視光散乱による画像を得ることで安定した表皮画像を得るということが開示されているに過ぎない。
【0038】
こうした従来の方法では、可視光を用いるため、表皮の散乱は捕捉できても、有棘細胞や基底細胞のメラニン色素により可視光が吸収・遮蔽されてしまうため真皮層の状態を正確に検出することは困難である。また、そのために真皮組織の複屈折による像を分別することも困難である。真皮層の結合組織、コラーゲン組織のように表皮に比べて強い異方性を持ち、複屈折が発生する光学的特性に着目し、また、表皮組織が近赤外光に対しては可視光と異なり透過性が高いことや、真皮層を構成する密生結合組織の散乱特性や複屈折性を用いて真皮層構造を捕捉するという知見はこれまで全く存在しておらず、本願によりはじめて提案されたものである。
【0039】
上述の通り、上記検出装置を用いることにより、真皮層を構成する密生結合組織の散乱特性や複屈折性を用いて真皮層構造(例えば凹凸隆起分布パターン)を捕捉することが可能である。ただし、検出装置を図2に示すような構成とした場合、表皮層による散乱や、検出対象となる真皮層表面より下層の真皮組織や皮下組織等による散乱等がノイズとして混入し、SN比が低下することが懸念される。そこで、これに対処する方法として、例えば図3に示すように、照射光の皮膚への入射角度を浅くし、かつ結像光学系の開口を制限することが有効である。
【0040】
図3に示す検出装置では、照射光学系に可動反射鏡28を追加し、照射光学系からの照射光を皮膚に対して斜めに照射するとともに、結像光学系を対象領域の直上に配置し、後方散乱光や側方散乱光をハーフミラー27を介することなく直接検出するようにしている。また、結像光学系には、その開口を制限するための遮光板29が設けられ、直下からの戻り光のみが撮像素子24に到達するように構成されている。
【0041】
かかる検出装置では、照射光学系からの照射光は、表皮層から皮膚深層組織(真皮層)へと斜めに進入する。このとき、浅い部分、すなわち表皮組織では、図中の右側領域において入射光が散乱され、遮光板29によって開口が制限された結像光学系に到達することはない。同様に、より深い部分では、図中の左側領域において入射光が散乱され、やはり散乱光は結像光学系に到達することはない。これに対して、上記可動反射鏡28の角度を調節して、真皮組織への照射位置が上記結像光学系の真下になるように設定すれば、この領域(真皮組織)での散乱光のみが結像光学系に到達する。
【0042】
次に、真皮組織の複屈折性を利用した検出方法について説明する。先ず、一般的な複屈折測定方法としては、前記のような帯域フィルタではなく、照射光と反射光又は透過光の2つの光の位相差がビート信号の位相差に転化されることを利用した光ヘテロダイン干渉法などを用いることが考えられる。
【0043】
図4はその場合の原理図であり、光源、例えば安定化横ゼーマンレーザ(STZL)31からの発振光をハーフミラー32を介して試料33に照射し、偏光板34を透過した透過光(信号光)を光検出器35により検出する。同時に、安定化横ゼーマンレーザ31からの発振光のうちハーフミラー32で反射された光を、やはり偏光板36を透過した透過光(参照光)を光検出器37により検出する。そして、これら各光検出器35,37で検出された検出光の位相差を電気位相計38によって測定する。
【0044】
ここで、直線偏光子(偏光板34,36)は2つの光を干渉させるために用いられ、複屈折測定を電気位相計38の測定精度で測定することができる。一般に電気位相計38の測定精度は0.1度(以上)であるので、複屈折量を光の波長の4000分の1程度の高精度での測定が可能となる。
【0045】
光ヘテロダイン干渉法の原理であるが、先ず、参照光と信号光の電界成分をそれぞれEr,Esとすると、これらは次のように表すことができる。
【0046】
【数1】
【0047】
ここで、ar,asは、それぞれ参照光,信号光の振幅を表す。fr,fs,φr,φsも同様に、それぞれの周波数及び位相を表す。この2つの光を重ね合わせると、検出される光強度Iは、電界成分の2乗に等しくなるので、次のようになる。
【0048】
【数2】
【0049】
なお、式中、< >は時間平均を表す。また、fb(=fs−fr)は光ビート周波数を、Δ(=φs−φr)は2つの光成分の位相差を表す。
【0050】
光検出器で検出される光電流成分は、(3)式の第1項と第2項が直流成分となり、第3項が周波数fbで正弦波状に変化する交流成分となる。この交流信号を指して光ビート信号と呼ぶ。光ヘテロダイン干渉法では、光ビート信号の振幅(2as・ar),周波数(fb)、あるいは位相差(Δ)を電気的に計測し、光信号の振幅(as)、周波数(fs)、位相(φs)に含まれる情報を取り出す。
【0051】
真皮組織の測定においては、具体的には、複屈折する皮膚組織の屈折率をnx,ny,光が透過する厚みをdとしたときに、透過後に生じる位相遅れφx,φyはそれぞれ下記の(4)式及び(5)式のように表すことができる。
【0052】
【数3】
【0053】
周波数の僅かに異なる2つの光としてSTZL(安定化横ゼーマンレーザ)発振光等を試料に透過させると、光検出器で得られる光強度信号Iは次のように表される。
【0054】
【数4】
【0055】
ここで、Δは2成分光の位相差を、δnは屈折率差(=複屈折量)を表す。(6)式から、2つの光の位相差はビート信号の位相差に転化されていることがわかるが、これにより、光ビート信号の位相を電気位相計38等で計測することで、複屈折量を測定できることになる。
【0056】
このとき問題となるのは、皮膚組織の複屈折主軸の方位を予め求め、その主軸の方位をSTZLの発振偏光面に正確に一致させる必要があることで、そのために、STZL発振光の偏光面を光軸の回りに回転させながら位相差の検出を行い、複屈折量とその主軸方位とを同時に求める必要がある。したがって、そうした方法では認証に用いる装置が極めて複雑且つ操作も煩雑で、検出時間もかかる上に、腕時計型等の人体装着型認証装置とした場合に、装着時に取り付け位置や方向を厳密に定める必要があり、また、生体に緩み無く密着させて生体が活動しても動かないようにする等の対策が必要である。
【0057】
そこで、上記のような場合には、検出対象皮膚面を皮下血管の分岐部とする。当該分岐の形状を用いることで、容易に上記主軸方向を割り出すことができる。例えば、主軸方位と分岐部の位置関係を予め登録時に決定・記録しておかば、認証時に血管分岐部の位置と方向から主軸を簡単に合わせることができる。
【0058】
あるいは、例えば、干渉による皮膚深層構造の検出によりこれに対処することも可能である。本発明の目的は、複屈折そのものを測定するのではなく、複屈折や散乱を介して皮膚内部の生体固有の特性を捕捉することにある。そこで、皮膚に投射した光が、真皮層等の皮膚内部組織で後方散乱や複屈折する際に発生する周波数変化に着目し、偏光子を用いずに皮膚からの散乱光と投射光を直接干渉させ、これを検出することで周波数変化分をビートとして検出する。
【0059】
図5は、このような検出装置の構成例を示すものである。この検出装置では、図2に示す検出装置と同様、照射光源41と光学レンズ42とからなる照射光学系と、CCD等の撮像素子43と光学レンズ44からなる結像光学系とがハーフミラー45を介して直交して配置されている。ただし、図2に示す検出装置と異なり、照射光学系や結像光学系には偏光板が設けられていない。その代わりに、照射光学系の光源41からの照射光の一部を結像光学系の撮像素子43へ導く参照ミラー46が配されている。
【0060】
白色LED等の光源41から放射された光は、ハーフミラー45を経由して一部は皮膚面に照射される。この照射光の一部は皮膚内部で様々な反射、散乱や複屈折等を経て、再びハーフミラー45に戻る。この光と照射時にハーフミラー45から参照ミラー46に反射させた光とがビート(干渉)を起こし、撮像素子43に干渉パターンが造影される。
【0061】
このとき、皮膚の検出領域内各点に対して当該ビートを発生させることにより、そのビートのパターンから表皮下の連続パターンを得ることができる。かかる連続パターンを選るには、具体的には、図6に示すように前記のビート検出素子をアレイ状に複数配列する方法や、図7に示すように皮膚への光照射部に可動ミラーを用いる方法等を挙げることができる。前者の場合、上記照射光源41と光学レンズ42とからなる照射光学系と、CCD等の撮像素子43と光学レンズ44からなる結像光学系とがハーフミラー45を介して直交して配置されてなるビート検出素子50を、いわゆるアレイ状に複数配列し、各ビート検出素子50からの検出信号に基づいて表皮下の連続パターンを得る。
【0062】
一方、後者では、ビート検出素子50からの照射光の照射や戻り光の検出は、上記可動ミラー51によって行う。可動ミラー51は、ミラー制御部52によってその角度が制御されるが、当該ミラー制御部52は、角度−干渉パターン整合部53からの制御情報によって可能ミラー51の角度制御を行う。上記角度−干渉パターン整合部53には、上記ビート検出素子50から干渉パターン情報が送られるが、送られた干渉パターンは、皮膚干渉パターン記憶部54に格納される予め登録された干渉パターンと皮膚干渉パターン記憶・照合部55において照合され、生体認証が行われる。
【0063】
これらの方法では、位相差等の検出に必要であった偏光子を用いないため、厳密に光軸を合わせる必要が無く、例えば腕時計型等の人体装着型にした場合に、装着の仕方や装置の人体への装着のゆるみ等で方向が変化しても影響を受け難いという効果が奏される。
【0064】
ただし、実際には装着のゆるみなどがある場合、具体的に皮膚のどの面が認証対象となるのか特定する必要がある。対象領域を含む広範な皮膚領域の干渉パターンを予め登録する方法も考えられるが、広い領域のパターンから特定のパターンを照合する必要があるため、処理上大きな負荷が発生する。携帯型機器にした場合には、消費電力等の点でかかる大きな負荷は好ましくない。
【0065】
例えば、皮膚紋理を用いた生体認証において、指紋等の特殊な場合では渦、馬蹄等の中心が捕捉し易く、また指表面の形状も限られた狭いものであること等から認証対象の位置を特定することが容易である。しかしながら、そうした限定された特異な部位を除いた一般の皮膚においては、領域も指先に比べて広く、且つ指紋のように渦状等の位置特定し易い幾何学的形状を持たない微細な皮膚紋理パターンの中から認証対象となる領域を特定することは極めて難しい。
【0066】
このため、上記のように予め広い領域の皮膚紋理を登録し、認証時に検出した紋理が当該登録パターンに含まれるかを検索する方法も考えられるが、本来不要な領域まで登録するため登録に手間がかかる上に、認証の際の照合にも装置に処理上の負荷と時間がかかる。また、全身の皮膚紋理の登録が理想的であるが前記の理由から実用的ではなく、またその場合に「広い領域」の定義が曖昧であり、実際の運用では、人体の柔軟性やその時々の認証装置への認証対象のコンタクトの違いにより、個認証時に当該領域から外れてしまう可能性もある。
【0067】
そこで、皮膚の認証対象領域の特定方法として、次のような方法が有効である。すなわち、投射光として、白色光ではなく、生体透過性が高く例外的に静脈血などの還元型ヘモグロビンに吸収される波長の近赤外線を使用して、生体皮下組織などからの後方散乱光を用いて静脈パターンを検出し、この静脈パターンを利用して認証対象領域を特定する。認証対象領域を特定の静脈上、または静脈分岐部等の皮膚面とすることにより、腕時計型等の個人認証装置の皮膚接触面において、装置の生体への装着のずれや緩み等があっても、常に認証対象となる同一皮膚領域を確実に特定できる。
【0068】
図8に、静脈パターンを利用して認証対象領域を特定する検出装置の一例を示す。この図8に示す検出装置は、図7と同様の装置構成を有するものであるが、ビート検出素子50の光源41として近赤外線光源を用い、皮静脈位置検出部61及び皮静脈位置照合部62、並びに静脈データが格納される静脈データ記憶部63が付加されている。かかる構成を採用することにより、皮膚の最も浅いところに存在する真皮層の皮静脈60の毛細血管像を得ることができる。
【0069】
波長700〜1200nmの近赤外線帯域は、特異的に生体での吸光度が低く「分光領域の窓」と呼ばれており、生体組織を良く透過する。ここで重要なことは、表皮組織は可視光や紫外線を反射、散乱する特性があるが、この帯域の光は約80パーセント近くが透過してしまうことである。一方、このような特性を持つ近赤外線帯域の中で、血液中のヘモグロビンに選択的に吸収されやすい波長があり、図9に示すように、波長805nmでは、酸素化ヘモグロビン(HbO2)と還元型ヘモグロビン(Hb)の吸光度は共に一致するが、波長660nmでは還元型ヘモグロビン(Hb)の方が吸光度が高く、また波長940nmでは酸素化ヘモグロビン(HbO2)の方が吸光度が高い。さらに、図10に示すように、生体におけるヘモグロビンと水の分光特性も大きく異なる。
【0070】
この特性を利用することで、生体の水分とを区別して血管像が得られるとともに、波長による吸光度から動脈・静脈の識別が可能となる。静脈パターンを得るには、例えば、光源に805nmの近赤外線照射手段を設け、これを偏光板を介して皮膚に照射する。照射された光は、皮膚からの反射・散乱・複屈折の3つの態様の光が複合した戻り光となって検出されるが、皮膚表面の反射はそれより下層の画像の取得を阻害するため、前記偏光板と振動方向が直交する角度に配置した偏光板を介してCCDカメラ等で撮影する。これにより表皮角質や透明層、顆粒層等の組織による振動方向が同一の反射光はフィルタリングされ、偏光が解消された散乱と複屈折波のみが撮影される。
【0071】
図2や図3に示す検出装置では、検出対象組織以外の散乱によるものは真皮層を捕捉する際に排除すべきものであったが、ここでは照射波長が真皮層の毛細管で選択的に吸収され、白色光源を用いた場合とは異なり皮膚組織での血管内に存在するヘモグロビン以外の吸光度が低く透過性が高いため、真皮層の毛細血管パターンがそれよりも深部での後方散乱を背景として明瞭に得ることができる。
【0072】
この毛細血管の血流がなすパターンは、生体特有のものであり、組織が生体から切断された場合には、血管萎縮、血流停止、血液喪失等により直ちに消失する。また、さらに940nmの酸素化ヘモグロビンの吸光帯を用いることで、脈の拍動に応じて当該吸光度が変化することを検出し、皮下毛細血管によるパターンとともに生体所属認識を行うことも可能である。さらに、660nmの波長では脱酸素化ヘモグロビンが吸光度が高く、940nmの波長では酸素化ヘモグロビンが吸光度が高い等の吸光特性の違いが存在することを利用して、例えば切断組織では肺循環の停止により組織の酸素飽和度が著しく低下し、その結果940nmの酸素化ヘモグロビンの吸光度が低下・消失することを検出することで、正常な生体組織か切断されたものかを識別する方法を加えることも容易である。
【0073】
上記により、生体認証と生体所属認識が一致することになり、このため切断した組織を生理食塩水などに浸漬して細胞を生かしていたとしても、血流が存在しないためこれを認証排除し得るものである。認証対象組織は、肺循環と拍動を備えて血流と血液の各ヘモグロビン比率を正しく備える必要があり、仮に腕を外科的に切断して用いようとしても、その腕の各血管を外科的に人工心肺装置に接続し、かつ拍動波形も正確に再現する必要があり、例えば携帯型人工心肺も実用化されていない今日の状況では実現は困難である。また仮に将来それが実用化されたとしても、腕の切断から始まって、各血管と装置への接続、切断された微小血管や神経に対する処置、切断に対する生活反応による組織変化の解消や血流再開後の組織の安定等、高度な外科的技術と医療設備を必要とし、現実的な作業ではない。一方、生体を用いずに人工物により、微細な毛細血管の3次元立体構造や散乱など、人工的に同一のものを正確に構成することはさらに困難である。
【0074】
次に、微分干渉による表皮下パターン検出について説明する。微分干渉法は顕微鏡での観察法のひとつであり、サンプルの厚さや屈折率の差によって生ずる照明光の位相差を、明暗または色のコントラストにして立体的に観察する方法である。真皮層は通常の明視野光学系や目視などの方法では検出が困難である。そこで、通常の顕微鏡では染色なしには目視困難な細胞核等も、微分干渉光学系では観察できることに着目した。ただし、これは真皮層が露出した場合可能であっても、真皮層にそのまま適用することは難しい。表皮層に覆われている場合、表皮層表面は観察できても、表皮層による反射・散乱・遮蔽のため、そのままでは真皮層を検出することは難しい。
【0075】
そこで、本発明では、表皮層が赤色-近赤外光帯域において透過性が高いことに着目し、通常の微分干渉鏡では光源に白色光が用いられるのに対して、近赤外光光源と近赤外線CCDを用いることとする。これにより、非侵襲的に表皮下の真皮層の凹凸パターンを検出することが可能となる。
【0076】
その具体例を図11に示す。この検出装置は、近赤外線光源71と偏光プリズム72とを有する照射光学系と、CCD等の撮像素子73と偏光プリズム74を有する撮像光学系とを備えており、これらがハーフミラー75を挟んで直交配置されている。照射光学系からの照射光は、ハーフミラー75で反射されて皮膚に照射され、戻り光(反射光)はハーフミラー75を透過して撮像光学系に到達するが、上記ハーフミラー75と皮膚の間の光路には、ウォラストンプリズム76及び対物レンズ77が配置されている。
【0077】
近赤外線光源71から出た照射光は、偏光プリズム72により偏光方向の揃った光に変換され、ハーフミラー75によりウォラストンプリズム76の方向に反射される。ウォラストンプリズム76に入射した照射光は、互いに偏光方向が直交した2光線(光線A及び光線B)に分離され、対象物(皮膚)に照射される。このとき、光線Aと光線Bの距離は対物レンズの分解能以下である。また、対象物により反射された2光線は、ウォラストンプリズム76により再び1つの光に合成され,ハーフミラー75を通過後、偏光プリズム74により偏光方向が揃えられる。2つの光線A,Bが段差部分で反射すると、それらの間には光路差が生じ、偏光プリズム74を通過するとき干渉する。光路差が光線A,Bの波長の1/2であるとき、干渉して最も強め合い明るくなる。この干渉パターンは、通常の白色光源による微分干渉鏡では目視でき、透明な対象物を立体的に観察することができるが、近赤外帯域では目視困難なため、近赤外線帯域を撮像可能なCCDなどの撮像素子73を用いて可視化する。
【0078】
以上の説明からも明らかなように、本発明によれば、指先等、特定の場所ではなく全身の皮膚でユビキタスに生体認証が可能である。また、認証対象は指紋と異なり外部からは目視できず、指紋や虹彩等のように容易に身体上の場所を特定されることがないため、秘匿性が高く、偽造は困難である。
【0079】
さらに、本発明は、真皮組織のような血流、体液循環に富む場所を用いた認証法であり、これらの変化に対して鋭敏にその特性が変化するため、基本的に生体認証手段と生体所属識別とが完全に一体化していることになる。これにより外科的災害の無効化が実現でき、利用者の安全性を高めることが可能である。
【0080】
さらにまた、本発明では、例えばウェアラブル装置の人体接触面に検出部を設けることができるため、認証を意識せずに日常の動作で生体認証を完了することができる。また、検出や照合エラーが発生しても利用者に意識されること無くリトライが行われるため、利用者にとって認証のリトライに伴う煩雑さがない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】皮膚組織の模式図である。
【図2】後方散乱光による偏光解消を利用して真皮組織を造影する検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図3】任意深度で皮膚散乱を撮像し得る検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図4】光ヘテロダイン干渉法による複屈折測定の原理を説明する模式図である。
【図5】皮膚光干渉による散乱特性パターンを表皮下組織パターン検出に用いた検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図6】ビート検出素子をアレイ状に複数配列した検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図7】皮膚への照射部に可動ミラーを用いた検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図8】静脈パターンにより認証対象領域を特定する検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図9】酸化・還元ヘモグロビンの吸収スペクトルを示す特性図である。
【図10】生体におけるヘモグロビンと水の透過率の相違を示す特性図である。
【図11】近赤外線の微分干渉によりパターン検出を行う検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0082】
1……表皮、2……真皮、21、41……光源、23,26……偏光板、24、43……撮像素子、27、45……ハーフミラー、46……参照ミラー。
【技術分野】
【0001】
本発明は、真皮等の皮膚深層パターンに基づく生体認証装置及び生体認証方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広く個人認証に用いられている指紋、掌紋等は、皮膚の表皮組織が真皮の凹凸構造に中に沈み込んでできた隆線網が外部から直接見える部分であり、基本的には真皮等の皮膚深層構造を反映するものである。手掌や足底などの部位の皮膚は、皮膚深層に分布する触覚神経終端がより外部刺激を検出し易くする目的や摩擦に対する強度等の生理的理由により、他の部位の皮膚と異なり真皮等の皮膚深層構造の形状と表皮の形状とが一致した独特の皮膚構造を有している。従来から個人認証に用いられてきた指紋は、基本的にこの深層構造の恒久性を利用したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記指紋を用いた生体認証は、いわゆる「なりすまし」等に対して、その対策が必ずしも十分とは言えない。例えば、指紋は容易に他の物体に痕跡として残り、また目視も容易であるために、第三者に偽造される危険性が否定できない。
【0004】
これに対して、例えば他の部位の表皮により生体認証を行うことができれば、前記偽造の危険性を回避できるものと考えられる。しかしながら、表皮層は28日周期で細胞がすべて入れ替わる等、流動的であり、また肌荒れや乾燥などによりさまざまな変化があるため、この部分の紋理には恒久性が無い。また、測定の結果、指幹部や母指球部等では、指先の指紋と全く異なり表皮と表皮下の紋理は全く別でむしろ直交する傾向すらあり、表皮紋理は生体認証には使用することができない。
【0005】
深層構造を直接表皮が反映し目視できる指先の指紋等の特殊な場合と異なり、同じ手掌型といえども母指球等の手掌部、指幹部や手背部の皮膚も含む人体の大半の皮膚では、深層構造の紋理は表皮層の紋理とは一致せず、また、6層からなる表皮構造による散乱や基底細胞等のメラニン色素に可視光が遮蔽されるため、外部から目視することも困難である。このため、例えば指輪型の認証装置を形成する場合、装着時に当該指輪の内側に接触する皮膚紋理はそのままでは認証には使用できないのが実情である。
【0006】
一方、皮膚の深層構造は基本的には生体固有のものであり、また経年変化も指紋等で言われているようにほとんど無く、例えばこの部分に色素を注入した刺青や妊娠線と呼ばれるものの恒久性も同様の部位の性質によるものである。したがって、皮膚の深層構造である表皮下紋理は、生体認証に適するものと考えられるが、直観的に目視できないことや物体に接触しても痕跡が残らないこともあり、指紋と同等の生体認証特性を有しながらも、個人認証方法として顧みられることは無かった。
【0007】
本発明は、かかる従来の実情に鑑みて提案されたものであり、偽造等による「なりすまし」の危険がなく、恒久的な生体認証が可能な生体認証装置及び生体認証方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明は、生体認証装置であって、生体の表皮が対向される撮像手段と、撮像手段に対向される表皮部分に光が照らされることを避ける程度に、撮像手段から離間されて設けられ、表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射手段とを有する。この撮像手段は、照射手段から照射される光のうち、深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像する。
【0009】
また本発明は、生体認証方法であって、撮像手段に対向される生体の表皮に光が照らされることを避ける程度に、撮像手段から離間されて設けられる照射手段から、表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射ステップと、撮像手段に対して、照射手段から照射される光のうち、深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像させる撮像ステップとを有する。
【発明の効果】
【0010】
上述のように本発明によれば、他の物体に痕跡として残り難く、また目視することが困難となる血管を用いるので、偽造等による「なりすまし」の危険がなく、恒久的な生体認証が可能となる。また、表皮に光が当たることを避けつつ、散乱した結果生じる戻り光を利用するので、明瞭な画像取得と装置の小型化をともに実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した生体認証方法、認証装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
例えば指紋による生体認証の場合、他の物体に痕跡(指紋)が容易に残り、また目視が容易であるため第三者に偽造される危険性が否定できず、その対策として、検出された指紋が正しく生体の指のものであるか否かを判定するための生理学的な生体所属識別を別途必要とする。これは、指紋による生体認証では、直接には皮膚角質など核を喪失して死んだ組織の形状を光学的・電気的に捕捉しているためである。
【0013】
上記指紋や虹彩、その他の生体認証手段のセキュリティ強度は、検出精度ではなく、むしろこの生理学的生体所属確認に依存すると言っても良く、例えば指紋による生体認証において生理学的生体所属識別が破られれば、認証対象となる生体組織を入手して容易に「なりすまし」が可能になり、その意味で当該システムのセキュリティ強度は無きに等しいことになる。一般のクレジットカードなどのセキュリティであれば、それが突破されても経済的損失のみで生命身体に直接の危害は発生しないが、上記生体組織の入手による「なりすまし」は、生命身体に重大な二次災害を新たに招く結果になる。以降これを外科的災害(Surgical Hazard)と呼ぶこととする。
【0014】
生体認証においては、一般的な認証技術で用いられる局所的なセキュリティ強度の他に、新たにシステムとして、外科的災害に対するセキュリティ強度の概念が必要であり、利用者の安全をも含めたセキュリティを考慮する必要があるが、従来技術ではその点が明確にされていない。
【0015】
すなわち、生体認証としてのセキュリティは、「本人のものに一致する、かつ本人から切り取られた等のものではない生体組織」という「認証」と認証対象の正常な生体であることを識別する「生体所属識別」という2つの条件をどれほどの信頼性で確立できるかに依存しているが、従来の生体認証技術では単純に前者の認証の精度や信頼性のみ着目されている。この場合、生体認証と言いながら、実は「生体所属識別」することなしに対象を認証することになり、実際には「生体」認証ではないという矛盾を生じてしまう。したがって、実運用も含めたセキュリティシステムとしてみた場合、かかる矛盾から外科的災害という2次災害を誘発する可能性があると言える。
【0016】
最も簡便で何の技術知識も設備も必要としない「なりすまし方法」は、生体から指、腕、眼球等の組織を切断・摘出して第三者が認証を行う方法である。仮に個人の小口預金以下程度の経済的価値しか得られなくても、こうした生体認証手段の導入は、その手口の簡便さゆえ、却って利用者の生命や身体に金銭に換え難い深刻な被害をもたらす結果となる。このため、指紋や目の虹彩等による従来の生体認証方法は、他の認証手段の補足的手段として用いられたり、簡易用途等のように曖昧に限定された形で利用されるに止まり、広く普及させることは困難である。
【0017】
一方、上記指紋による生体認証等の比較的偽造が容易な方法では、例えば静電容量による指紋認証を例に取れば、偽造対策として、指紋表面の汗等の塩分を含む湿度(水分)により皮膚表面を導電体として機能させ、電極との間の静電容量や静電誘導を測定することにより、微小電極と皮膚表面との距離を検出して指紋パターンを捕捉する方法が試みられている。これは、ある意味で生体所属識別を試みた例である。生体から分泌される汗等の塩分を含む電解性の湿度が存在しないと、上記測定は不可能だからである。
【0018】
しかしながら、当該検出方法では認証対象に電解性の湿度の存在は必要ではあるが、それが必ずしも生体由来のものである必要は無く、これ以外に例えば切り取られたものではないことを検出するための生体所属識別は成立していない。そのため、保水性を持つゲル状物質等に指紋パターンを形成した模造物や、切断した指に生理食塩水を噴霧または浸漬したものを用いられても、これを排除することは困難である。
【0019】
また、DNA等を用いた生体認証では、確かにDNAの「偽造」そのものは困難であるが、その認証対象となるDNAが生体に所属しているものなのか、死体や髪の毛から採取されPCRなどで大量複製されたものなのか判別することは、本質的に不可能であり、これも生体所属識別が成立しない方法である。このため、生体認証手段に加えて、赤外線による指の血流検出等、生体認証そのものとは別に生体であることを何らかの方法で識別する新たなセンサーを別途付加するなどの対策が必要となる。
【0020】
ここで、生体認証は「生体・認証」という2つに分離されて、生体認証とは異なるものとなり、認証をフロントドア(front door)とすれば、その認証対象の生体所属識別を認証とは別な物理的検出に依存することは、バックドア(back door)を作ることと同様の問題となる。この矛盾は、バックドアの生体所属識別手段を欺瞞できれば、その時点で認証システムとしてのセキュリティは破綻し、物体を用いた「なりすまし」や、さらには外科的災害が誘発される危険性がある。生体所属識別は、多様性に富む生物組織を前提として「生きている組織か否か」を識別するものであるが、生命とは何かというセントラルドグマでも明らかなように、それ単体のみではその多様性への対応故に識別の間口が大きくなり、結果として欺瞞が可能という本質的な問題を抱えている。生体認証と生体所属識別に用いる検出手段を別々に用意する従来の方法では、生体所属識別のセンシング方法を第三者が容易に発見し解析可能であったと言え、このようなことから、結論として、認証と生体所属識別とが一体化され、認証=生体所属識別であるバックドアのない本当の意味での生体認証方法が求められている。
【0021】
そこで、本発明においては、上記指紋のような表皮紋理を利用するのではなく、皮膚深層組織、例えば真皮層の凹凸隆起分布パターンを検出し、これを利用して生体認証を行うこととする。
【0022】
図1は、皮膚組織の模式図であり、皮膚組織は、大別して表皮1と真皮2とからなる。表皮(Epidermis)1は、角化重層偏平上皮組織であり、角質層11、透明層12、顆粒層13、有棘層14、基底層15、及び基底膜16から構成される。これら各層のうち、顆粒層13、有棘層14及び基底層15は、併せてマルピギー層と呼ばれる。
【0023】
角質層11は、角質細胞間脂質の2分子膜によるラメラ液晶形態を持ち、透明層12はコレステリック型液晶形態を、また顆粒層13はケラトヒアリン顆粒と呼ばれる光を反射・散乱するビーズのような光学的性質を有する塩基性の構造体を細胞質に含んでいる。また、基底層15はメラニン顆粒を持つ等、外部の紫外線等から生体を防御するため光学的に各層で多様な散乱・吸収形態を持っている。特に紫外線帯域の光に対しては、表皮は屈折率の異なる多層薄膜構造から、ある種のダイクロイックな特性を有する。しかしながら、基本的に表皮1は、メラニン色素による着色を除くと可視光領域でも比較的散乱性を有する半透明状の組織である。ただし、可視光の赤や近赤外線よりも長波長の帯域では透過性が高くなる。このため、表皮1下の真皮2の毛細血管網内の血流が散乱され、外部からも例えば顔色や血色として観察することが可能であり、皮膚の色は基本的にメラニン色素と真皮2の毛細血管内の血液により決定される。表皮1は、毛細血管やリンパ液等の電解質の循環が無く、基本的には角質層11に代表されるように誘電体としての性質が強い。
【0024】
一方、真皮(Dermis)2は、表皮1と比較すると全く違う様相を呈している。基本的に、真皮2はコラーゲンやエラスチンからなる密生結合組織と毛細血管網からなり、単体の細胞の集合体で毛細血管が存在しない表皮1とは大きく異なっている。
【0025】
この真皮2は、乳頭層と網状層に分かれている。真皮乳頭層は表皮組織の最下層である基底膜により表皮組織と接する組織であり、結合組織と毛細血管からなり、感覚神経終端が存在する。網状層は一定の配列構造を持つコラーゲンとそれを繋ぐエラスチン、そして、それらの間を埋める基質からなる。真皮2は毛細血管が豊富で、またリンパ液等の循環により電解質に富んでおり、このため表皮1に比べて導電性が著しく高い。
【0026】
また、この真皮2の結合組織を形成するコラーゲンや弾性繊維は、光学的な複屈折性が強いが、表皮組織では複屈折性は無い。光学的には表皮1も散乱性を有し、偏光特性は散乱に伴って偏光解消を生じる。基本的には、水平・垂直の偏光比は散乱粒子の大きさや形態に依存して固有の散乱特性を示す電磁波の波長>>粒子半径→レイリー散乱電磁波の波長〜粒子半径→ミー散乱(雲粒やエアロゾル。積乱雲が白い訳)電磁波の波長<<粒子半径→幾何学的な電磁波の進行 (雨粒)(虹、ダイヤモンドダスト)
【0027】
真皮1は、牛乳寒天のようなものに例えられ、一定の厚みがあって初めて白色に見える。また、真皮1では波長の長い光ほど透過しやすく、短い光ほど散乱されやすい性質がある。真皮1中に吸光色素が無視できない量で存在すると、真皮1の浅いところで散乱される短波長光は、観察者の目に戻ってくる率が高いが、長波長光は透過して色素に吸収され、戻ってくる率が低くなる。このため、皮膚の浅い部分にある毛細血管は鮮やかな赤に見えるが、やや深い部にある静脈や血管腫は青っぽく見える。メラノサイト関連の母斑(あざ)でも、母斑細胞が真皮・表皮境界部に存在する境界母斑では褐色調に見えるが、真皮にある青色母斑はその名のごとく青色調に見え、真皮メラノサイトによる太田母斑や蒙古斑も臨床的に青みを帯びて見える。
【0028】
本発明では、これらの光学的特性や電気的特性の違いを利用することにより、皮膚深層組織(例えば真皮組織)の凹凸隆起分布パターン等を検出し、生体認証に利用する。例えば白色光に対する反射光の波長成分や散乱・偏光特性に着目してフィルタリングすることで、表皮組織に対して、より深部にある結合組織やコラーゲン繊維等に特徴付けられる真皮層とを識別して、表皮に遮蔽されて目視困難な真皮組織を明瞭化することが可能であり、特に、指紋などの真皮層パターンと表皮層パターンが一致する特殊な場所以外の、全身の皮膚及び皮下組織においても、その紋理を検出することにより個人認証することができる。
【0029】
図2は、こうした極めて多様な散乱形態を持つ表皮下の真皮(Dermis)を光学的に捕捉する検出装置の構成例であり、投光部と受光部で振動面が直交する偏光手段により表皮層での反射を抑止し、散乱と複屈折による光を透過することで表皮下の凹凸隆起分布パターンの撮像を可能としている。
【0030】
具体的構成としては、先ず、照射光学系として、光源21及び光学レンズ22,及び照射部偏光板23を備える。光源21には、例えばLED等、任意の光源を用いることができる。ただし、光源21としては、表皮組織は透過して真皮組織で散乱される近赤外線等の長波長光を発する光源を用いることが好ましく、これにより表皮下の組織における散乱や複屈折等の光学特性を利用して組織のパターンを得ることが可能となる。
【0031】
また、結像光学系として、受光素子である撮像素子(例えば固体撮像素子:CCD)24、結像レンズ群25及び受光部偏光板26を備える。さらに、上記照射光学系と結像光学系の間の光路には、ハーフミラー27が配されており、上記照射光学系と結像光学系とは互いに直交して配置されている。
【0032】
上記の検出装置において、光源21からの照射光は、照射部偏光板23により振動方向が一方向に制限されて皮膚に照射される。また、結像光学系には受光部偏光板26が配置されているが、これは振動方向が投射部偏光板23とは直交するように構成されている。したがって、表皮組織での単純な反射光は、振動方向が受光部偏光板26とは直交することになり、受光部偏光板26によって遮蔽される。
【0033】
照射光学系から皮膚に照射された照射光は、皮膚深層組織(例えば真皮組織)にまで達し、様々な組織により散乱や複屈折が生じ、それにより偏光が解消される。これらは、後方散乱光としてハーフミラー27を透過して上記結像光学系へと導かれるが、上記の通り偏光が解消されているため受光部偏光板26を透過し、撮像素子24まで到達する。
【0034】
表皮組織に無く真皮組織等に固有に存在する結合組織やコラーゲン等、光学的に複屈折する特性を有する組織を経由して反射・散乱された光は、複屈折により位相が入射光からずれることになる。これにより表皮組織での反射・散乱光と、複屈折組織(真皮組織)を経由した位相の異なる光との識別が可能となる。
【0035】
この構成では、ダイクロイックフィルタ等の帯域フィルタによりこの真皮組織での複屈折による位相ずれの波長成分のみを選択的に透過し、これを検出することで複屈折組織を選択的に検出し真皮組織を体外から非侵襲的に検出する方法も考えられる。
【0036】
偏光を用いた皮膚計測としては、可視光帯域での偏光フィルターの光学的特性に着目して、皮膚の観察に偏光を用いるという方法が美容産業の分野において知られている。例えば、皮膚の艶や輝きという美容要素の計測方法として皮膚表面の評価を行う方法(特許第3194152号公報や実公平7-22655号公報参照)が知られている。
【0037】
しかしながら、これらは真皮組織等の表皮下の組織を観察する目的で構成されたものではなく、あくまで可視光を用いた美容的な外観による皮膚表面の評価を目的としたものである。したがって、偏光が散乱により解消されるという周知の性質を利用して、表皮角質等の直接反射のギラつきによる画質低下を防止し、表皮の可視光散乱による画像を得ることで安定した表皮画像を得るということが開示されているに過ぎない。
【0038】
こうした従来の方法では、可視光を用いるため、表皮の散乱は捕捉できても、有棘細胞や基底細胞のメラニン色素により可視光が吸収・遮蔽されてしまうため真皮層の状態を正確に検出することは困難である。また、そのために真皮組織の複屈折による像を分別することも困難である。真皮層の結合組織、コラーゲン組織のように表皮に比べて強い異方性を持ち、複屈折が発生する光学的特性に着目し、また、表皮組織が近赤外光に対しては可視光と異なり透過性が高いことや、真皮層を構成する密生結合組織の散乱特性や複屈折性を用いて真皮層構造を捕捉するという知見はこれまで全く存在しておらず、本願によりはじめて提案されたものである。
【0039】
上述の通り、上記検出装置を用いることにより、真皮層を構成する密生結合組織の散乱特性や複屈折性を用いて真皮層構造(例えば凹凸隆起分布パターン)を捕捉することが可能である。ただし、検出装置を図2に示すような構成とした場合、表皮層による散乱や、検出対象となる真皮層表面より下層の真皮組織や皮下組織等による散乱等がノイズとして混入し、SN比が低下することが懸念される。そこで、これに対処する方法として、例えば図3に示すように、照射光の皮膚への入射角度を浅くし、かつ結像光学系の開口を制限することが有効である。
【0040】
図3に示す検出装置では、照射光学系に可動反射鏡28を追加し、照射光学系からの照射光を皮膚に対して斜めに照射するとともに、結像光学系を対象領域の直上に配置し、後方散乱光や側方散乱光をハーフミラー27を介することなく直接検出するようにしている。また、結像光学系には、その開口を制限するための遮光板29が設けられ、直下からの戻り光のみが撮像素子24に到達するように構成されている。
【0041】
かかる検出装置では、照射光学系からの照射光は、表皮層から皮膚深層組織(真皮層)へと斜めに進入する。このとき、浅い部分、すなわち表皮組織では、図中の右側領域において入射光が散乱され、遮光板29によって開口が制限された結像光学系に到達することはない。同様に、より深い部分では、図中の左側領域において入射光が散乱され、やはり散乱光は結像光学系に到達することはない。これに対して、上記可動反射鏡28の角度を調節して、真皮組織への照射位置が上記結像光学系の真下になるように設定すれば、この領域(真皮組織)での散乱光のみが結像光学系に到達する。
【0042】
次に、真皮組織の複屈折性を利用した検出方法について説明する。先ず、一般的な複屈折測定方法としては、前記のような帯域フィルタではなく、照射光と反射光又は透過光の2つの光の位相差がビート信号の位相差に転化されることを利用した光ヘテロダイン干渉法などを用いることが考えられる。
【0043】
図4はその場合の原理図であり、光源、例えば安定化横ゼーマンレーザ(STZL)31からの発振光をハーフミラー32を介して試料33に照射し、偏光板34を透過した透過光(信号光)を光検出器35により検出する。同時に、安定化横ゼーマンレーザ31からの発振光のうちハーフミラー32で反射された光を、やはり偏光板36を透過した透過光(参照光)を光検出器37により検出する。そして、これら各光検出器35,37で検出された検出光の位相差を電気位相計38によって測定する。
【0044】
ここで、直線偏光子(偏光板34,36)は2つの光を干渉させるために用いられ、複屈折測定を電気位相計38の測定精度で測定することができる。一般に電気位相計38の測定精度は0.1度(以上)であるので、複屈折量を光の波長の4000分の1程度の高精度での測定が可能となる。
【0045】
光ヘテロダイン干渉法の原理であるが、先ず、参照光と信号光の電界成分をそれぞれEr,Esとすると、これらは次のように表すことができる。
【0046】
【数1】
【0047】
ここで、ar,asは、それぞれ参照光,信号光の振幅を表す。fr,fs,φr,φsも同様に、それぞれの周波数及び位相を表す。この2つの光を重ね合わせると、検出される光強度Iは、電界成分の2乗に等しくなるので、次のようになる。
【0048】
【数2】
【0049】
なお、式中、< >は時間平均を表す。また、fb(=fs−fr)は光ビート周波数を、Δ(=φs−φr)は2つの光成分の位相差を表す。
【0050】
光検出器で検出される光電流成分は、(3)式の第1項と第2項が直流成分となり、第3項が周波数fbで正弦波状に変化する交流成分となる。この交流信号を指して光ビート信号と呼ぶ。光ヘテロダイン干渉法では、光ビート信号の振幅(2as・ar),周波数(fb)、あるいは位相差(Δ)を電気的に計測し、光信号の振幅(as)、周波数(fs)、位相(φs)に含まれる情報を取り出す。
【0051】
真皮組織の測定においては、具体的には、複屈折する皮膚組織の屈折率をnx,ny,光が透過する厚みをdとしたときに、透過後に生じる位相遅れφx,φyはそれぞれ下記の(4)式及び(5)式のように表すことができる。
【0052】
【数3】
【0053】
周波数の僅かに異なる2つの光としてSTZL(安定化横ゼーマンレーザ)発振光等を試料に透過させると、光検出器で得られる光強度信号Iは次のように表される。
【0054】
【数4】
【0055】
ここで、Δは2成分光の位相差を、δnは屈折率差(=複屈折量)を表す。(6)式から、2つの光の位相差はビート信号の位相差に転化されていることがわかるが、これにより、光ビート信号の位相を電気位相計38等で計測することで、複屈折量を測定できることになる。
【0056】
このとき問題となるのは、皮膚組織の複屈折主軸の方位を予め求め、その主軸の方位をSTZLの発振偏光面に正確に一致させる必要があることで、そのために、STZL発振光の偏光面を光軸の回りに回転させながら位相差の検出を行い、複屈折量とその主軸方位とを同時に求める必要がある。したがって、そうした方法では認証に用いる装置が極めて複雑且つ操作も煩雑で、検出時間もかかる上に、腕時計型等の人体装着型認証装置とした場合に、装着時に取り付け位置や方向を厳密に定める必要があり、また、生体に緩み無く密着させて生体が活動しても動かないようにする等の対策が必要である。
【0057】
そこで、上記のような場合には、検出対象皮膚面を皮下血管の分岐部とする。当該分岐の形状を用いることで、容易に上記主軸方向を割り出すことができる。例えば、主軸方位と分岐部の位置関係を予め登録時に決定・記録しておかば、認証時に血管分岐部の位置と方向から主軸を簡単に合わせることができる。
【0058】
あるいは、例えば、干渉による皮膚深層構造の検出によりこれに対処することも可能である。本発明の目的は、複屈折そのものを測定するのではなく、複屈折や散乱を介して皮膚内部の生体固有の特性を捕捉することにある。そこで、皮膚に投射した光が、真皮層等の皮膚内部組織で後方散乱や複屈折する際に発生する周波数変化に着目し、偏光子を用いずに皮膚からの散乱光と投射光を直接干渉させ、これを検出することで周波数変化分をビートとして検出する。
【0059】
図5は、このような検出装置の構成例を示すものである。この検出装置では、図2に示す検出装置と同様、照射光源41と光学レンズ42とからなる照射光学系と、CCD等の撮像素子43と光学レンズ44からなる結像光学系とがハーフミラー45を介して直交して配置されている。ただし、図2に示す検出装置と異なり、照射光学系や結像光学系には偏光板が設けられていない。その代わりに、照射光学系の光源41からの照射光の一部を結像光学系の撮像素子43へ導く参照ミラー46が配されている。
【0060】
白色LED等の光源41から放射された光は、ハーフミラー45を経由して一部は皮膚面に照射される。この照射光の一部は皮膚内部で様々な反射、散乱や複屈折等を経て、再びハーフミラー45に戻る。この光と照射時にハーフミラー45から参照ミラー46に反射させた光とがビート(干渉)を起こし、撮像素子43に干渉パターンが造影される。
【0061】
このとき、皮膚の検出領域内各点に対して当該ビートを発生させることにより、そのビートのパターンから表皮下の連続パターンを得ることができる。かかる連続パターンを選るには、具体的には、図6に示すように前記のビート検出素子をアレイ状に複数配列する方法や、図7に示すように皮膚への光照射部に可動ミラーを用いる方法等を挙げることができる。前者の場合、上記照射光源41と光学レンズ42とからなる照射光学系と、CCD等の撮像素子43と光学レンズ44からなる結像光学系とがハーフミラー45を介して直交して配置されてなるビート検出素子50を、いわゆるアレイ状に複数配列し、各ビート検出素子50からの検出信号に基づいて表皮下の連続パターンを得る。
【0062】
一方、後者では、ビート検出素子50からの照射光の照射や戻り光の検出は、上記可動ミラー51によって行う。可動ミラー51は、ミラー制御部52によってその角度が制御されるが、当該ミラー制御部52は、角度−干渉パターン整合部53からの制御情報によって可能ミラー51の角度制御を行う。上記角度−干渉パターン整合部53には、上記ビート検出素子50から干渉パターン情報が送られるが、送られた干渉パターンは、皮膚干渉パターン記憶部54に格納される予め登録された干渉パターンと皮膚干渉パターン記憶・照合部55において照合され、生体認証が行われる。
【0063】
これらの方法では、位相差等の検出に必要であった偏光子を用いないため、厳密に光軸を合わせる必要が無く、例えば腕時計型等の人体装着型にした場合に、装着の仕方や装置の人体への装着のゆるみ等で方向が変化しても影響を受け難いという効果が奏される。
【0064】
ただし、実際には装着のゆるみなどがある場合、具体的に皮膚のどの面が認証対象となるのか特定する必要がある。対象領域を含む広範な皮膚領域の干渉パターンを予め登録する方法も考えられるが、広い領域のパターンから特定のパターンを照合する必要があるため、処理上大きな負荷が発生する。携帯型機器にした場合には、消費電力等の点でかかる大きな負荷は好ましくない。
【0065】
例えば、皮膚紋理を用いた生体認証において、指紋等の特殊な場合では渦、馬蹄等の中心が捕捉し易く、また指表面の形状も限られた狭いものであること等から認証対象の位置を特定することが容易である。しかしながら、そうした限定された特異な部位を除いた一般の皮膚においては、領域も指先に比べて広く、且つ指紋のように渦状等の位置特定し易い幾何学的形状を持たない微細な皮膚紋理パターンの中から認証対象となる領域を特定することは極めて難しい。
【0066】
このため、上記のように予め広い領域の皮膚紋理を登録し、認証時に検出した紋理が当該登録パターンに含まれるかを検索する方法も考えられるが、本来不要な領域まで登録するため登録に手間がかかる上に、認証の際の照合にも装置に処理上の負荷と時間がかかる。また、全身の皮膚紋理の登録が理想的であるが前記の理由から実用的ではなく、またその場合に「広い領域」の定義が曖昧であり、実際の運用では、人体の柔軟性やその時々の認証装置への認証対象のコンタクトの違いにより、個認証時に当該領域から外れてしまう可能性もある。
【0067】
そこで、皮膚の認証対象領域の特定方法として、次のような方法が有効である。すなわち、投射光として、白色光ではなく、生体透過性が高く例外的に静脈血などの還元型ヘモグロビンに吸収される波長の近赤外線を使用して、生体皮下組織などからの後方散乱光を用いて静脈パターンを検出し、この静脈パターンを利用して認証対象領域を特定する。認証対象領域を特定の静脈上、または静脈分岐部等の皮膚面とすることにより、腕時計型等の個人認証装置の皮膚接触面において、装置の生体への装着のずれや緩み等があっても、常に認証対象となる同一皮膚領域を確実に特定できる。
【0068】
図8に、静脈パターンを利用して認証対象領域を特定する検出装置の一例を示す。この図8に示す検出装置は、図7と同様の装置構成を有するものであるが、ビート検出素子50の光源41として近赤外線光源を用い、皮静脈位置検出部61及び皮静脈位置照合部62、並びに静脈データが格納される静脈データ記憶部63が付加されている。かかる構成を採用することにより、皮膚の最も浅いところに存在する真皮層の皮静脈60の毛細血管像を得ることができる。
【0069】
波長700〜1200nmの近赤外線帯域は、特異的に生体での吸光度が低く「分光領域の窓」と呼ばれており、生体組織を良く透過する。ここで重要なことは、表皮組織は可視光や紫外線を反射、散乱する特性があるが、この帯域の光は約80パーセント近くが透過してしまうことである。一方、このような特性を持つ近赤外線帯域の中で、血液中のヘモグロビンに選択的に吸収されやすい波長があり、図9に示すように、波長805nmでは、酸素化ヘモグロビン(HbO2)と還元型ヘモグロビン(Hb)の吸光度は共に一致するが、波長660nmでは還元型ヘモグロビン(Hb)の方が吸光度が高く、また波長940nmでは酸素化ヘモグロビン(HbO2)の方が吸光度が高い。さらに、図10に示すように、生体におけるヘモグロビンと水の分光特性も大きく異なる。
【0070】
この特性を利用することで、生体の水分とを区別して血管像が得られるとともに、波長による吸光度から動脈・静脈の識別が可能となる。静脈パターンを得るには、例えば、光源に805nmの近赤外線照射手段を設け、これを偏光板を介して皮膚に照射する。照射された光は、皮膚からの反射・散乱・複屈折の3つの態様の光が複合した戻り光となって検出されるが、皮膚表面の反射はそれより下層の画像の取得を阻害するため、前記偏光板と振動方向が直交する角度に配置した偏光板を介してCCDカメラ等で撮影する。これにより表皮角質や透明層、顆粒層等の組織による振動方向が同一の反射光はフィルタリングされ、偏光が解消された散乱と複屈折波のみが撮影される。
【0071】
図2や図3に示す検出装置では、検出対象組織以外の散乱によるものは真皮層を捕捉する際に排除すべきものであったが、ここでは照射波長が真皮層の毛細管で選択的に吸収され、白色光源を用いた場合とは異なり皮膚組織での血管内に存在するヘモグロビン以外の吸光度が低く透過性が高いため、真皮層の毛細血管パターンがそれよりも深部での後方散乱を背景として明瞭に得ることができる。
【0072】
この毛細血管の血流がなすパターンは、生体特有のものであり、組織が生体から切断された場合には、血管萎縮、血流停止、血液喪失等により直ちに消失する。また、さらに940nmの酸素化ヘモグロビンの吸光帯を用いることで、脈の拍動に応じて当該吸光度が変化することを検出し、皮下毛細血管によるパターンとともに生体所属認識を行うことも可能である。さらに、660nmの波長では脱酸素化ヘモグロビンが吸光度が高く、940nmの波長では酸素化ヘモグロビンが吸光度が高い等の吸光特性の違いが存在することを利用して、例えば切断組織では肺循環の停止により組織の酸素飽和度が著しく低下し、その結果940nmの酸素化ヘモグロビンの吸光度が低下・消失することを検出することで、正常な生体組織か切断されたものかを識別する方法を加えることも容易である。
【0073】
上記により、生体認証と生体所属認識が一致することになり、このため切断した組織を生理食塩水などに浸漬して細胞を生かしていたとしても、血流が存在しないためこれを認証排除し得るものである。認証対象組織は、肺循環と拍動を備えて血流と血液の各ヘモグロビン比率を正しく備える必要があり、仮に腕を外科的に切断して用いようとしても、その腕の各血管を外科的に人工心肺装置に接続し、かつ拍動波形も正確に再現する必要があり、例えば携帯型人工心肺も実用化されていない今日の状況では実現は困難である。また仮に将来それが実用化されたとしても、腕の切断から始まって、各血管と装置への接続、切断された微小血管や神経に対する処置、切断に対する生活反応による組織変化の解消や血流再開後の組織の安定等、高度な外科的技術と医療設備を必要とし、現実的な作業ではない。一方、生体を用いずに人工物により、微細な毛細血管の3次元立体構造や散乱など、人工的に同一のものを正確に構成することはさらに困難である。
【0074】
次に、微分干渉による表皮下パターン検出について説明する。微分干渉法は顕微鏡での観察法のひとつであり、サンプルの厚さや屈折率の差によって生ずる照明光の位相差を、明暗または色のコントラストにして立体的に観察する方法である。真皮層は通常の明視野光学系や目視などの方法では検出が困難である。そこで、通常の顕微鏡では染色なしには目視困難な細胞核等も、微分干渉光学系では観察できることに着目した。ただし、これは真皮層が露出した場合可能であっても、真皮層にそのまま適用することは難しい。表皮層に覆われている場合、表皮層表面は観察できても、表皮層による反射・散乱・遮蔽のため、そのままでは真皮層を検出することは難しい。
【0075】
そこで、本発明では、表皮層が赤色-近赤外光帯域において透過性が高いことに着目し、通常の微分干渉鏡では光源に白色光が用いられるのに対して、近赤外光光源と近赤外線CCDを用いることとする。これにより、非侵襲的に表皮下の真皮層の凹凸パターンを検出することが可能となる。
【0076】
その具体例を図11に示す。この検出装置は、近赤外線光源71と偏光プリズム72とを有する照射光学系と、CCD等の撮像素子73と偏光プリズム74を有する撮像光学系とを備えており、これらがハーフミラー75を挟んで直交配置されている。照射光学系からの照射光は、ハーフミラー75で反射されて皮膚に照射され、戻り光(反射光)はハーフミラー75を透過して撮像光学系に到達するが、上記ハーフミラー75と皮膚の間の光路には、ウォラストンプリズム76及び対物レンズ77が配置されている。
【0077】
近赤外線光源71から出た照射光は、偏光プリズム72により偏光方向の揃った光に変換され、ハーフミラー75によりウォラストンプリズム76の方向に反射される。ウォラストンプリズム76に入射した照射光は、互いに偏光方向が直交した2光線(光線A及び光線B)に分離され、対象物(皮膚)に照射される。このとき、光線Aと光線Bの距離は対物レンズの分解能以下である。また、対象物により反射された2光線は、ウォラストンプリズム76により再び1つの光に合成され,ハーフミラー75を通過後、偏光プリズム74により偏光方向が揃えられる。2つの光線A,Bが段差部分で反射すると、それらの間には光路差が生じ、偏光プリズム74を通過するとき干渉する。光路差が光線A,Bの波長の1/2であるとき、干渉して最も強め合い明るくなる。この干渉パターンは、通常の白色光源による微分干渉鏡では目視でき、透明な対象物を立体的に観察することができるが、近赤外帯域では目視困難なため、近赤外線帯域を撮像可能なCCDなどの撮像素子73を用いて可視化する。
【0078】
以上の説明からも明らかなように、本発明によれば、指先等、特定の場所ではなく全身の皮膚でユビキタスに生体認証が可能である。また、認証対象は指紋と異なり外部からは目視できず、指紋や虹彩等のように容易に身体上の場所を特定されることがないため、秘匿性が高く、偽造は困難である。
【0079】
さらに、本発明は、真皮組織のような血流、体液循環に富む場所を用いた認証法であり、これらの変化に対して鋭敏にその特性が変化するため、基本的に生体認証手段と生体所属識別とが完全に一体化していることになる。これにより外科的災害の無効化が実現でき、利用者の安全性を高めることが可能である。
【0080】
さらにまた、本発明では、例えばウェアラブル装置の人体接触面に検出部を設けることができるため、認証を意識せずに日常の動作で生体認証を完了することができる。また、検出や照合エラーが発生しても利用者に意識されること無くリトライが行われるため、利用者にとって認証のリトライに伴う煩雑さがない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】皮膚組織の模式図である。
【図2】後方散乱光による偏光解消を利用して真皮組織を造影する検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図3】任意深度で皮膚散乱を撮像し得る検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図4】光ヘテロダイン干渉法による複屈折測定の原理を説明する模式図である。
【図5】皮膚光干渉による散乱特性パターンを表皮下組織パターン検出に用いた検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図6】ビート検出素子をアレイ状に複数配列した検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図7】皮膚への照射部に可動ミラーを用いた検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図8】静脈パターンにより認証対象領域を特定する検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【図9】酸化・還元ヘモグロビンの吸収スペクトルを示す特性図である。
【図10】生体におけるヘモグロビンと水の透過率の相違を示す特性図である。
【図11】近赤外線の微分干渉によりパターン検出を行う検出装置(認証装置)の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0082】
1……表皮、2……真皮、21、41……光源、23,26……偏光板、24、43……撮像素子、27、45……ハーフミラー、46……参照ミラー。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の表皮が対向される撮像手段と、
上記撮像手段に対向される表皮部分に光が照らされることを避ける程度に、上記撮像手段から離間されて設けられ、上記表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射手段と
を有し、
上記撮像手段は、
上記照射手段から照射される光のうち、上記深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像する、生体認証装置。
【請求項2】
上記照射手段は上記深部組織と対向する側に配される、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項3】
上記光は近赤外光を有する、請求項2に記載の生体認証装置。
【請求項4】
上記近赤外光は、
700〜1200[nm]の波長を有する、請求項3に記載の生体認証装置。
【請求項5】
上記照射生手段は、
上記照射方向を変化させる反射板を有する、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項6】
上記照射手段は、
上記照射手段から照射された光のうち、上記表皮を反射したものが上記撮像手段に向かって進むことを遮る遮光板を有する、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項7】
上記撮像手段から取得された血管パターン像をもとに、記憶手段に記憶された血管パターン像と照合する照合手段を有する、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項8】
上記血管は静脈である、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項9】
撮像手段に対向される生体の表皮に光が照らされることを避ける程度に、上記撮像手段から離間されて設けられる照射手段から、上記表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射ステップと、
上記撮像手段に対して、上記照射手段から照射される光のうち、上記深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像させる撮像ステップと
を有する生体認証方法。
【請求項10】
上記照射手段は上記深部組織と対向する側に配される、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項11】
上記光は近赤外光を有する、請求項10に記載の生体認証方法。
【請求項12】
上記近赤外光は、
700〜1200[nm]の波長を有する、請求項11に記載の生体認証方法。
【請求項13】
上記照射ステップでは、
上記照射方向を変化させる反射ステップを有する、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項14】
上記照射ステップでは、
上記照射手段から照射された光のうち、上記表皮を反射したものが上記撮像手段に向かって進むことを遮る遮光ステップを有する、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項15】
上記撮像手段から取得された血管パターン像をもとに、記憶手段に記憶された血管パターン像と照合する照合ステップを有する、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項16】
上記血管は静脈である、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項1】
生体の表皮が対向される撮像手段と、
上記撮像手段に対向される表皮部分に光が照らされることを避ける程度に、上記撮像手段から離間されて設けられ、上記表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射手段と
を有し、
上記撮像手段は、
上記照射手段から照射される光のうち、上記深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像する、生体認証装置。
【請求項2】
上記照射手段は上記深部組織と対向する側に配される、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項3】
上記光は近赤外光を有する、請求項2に記載の生体認証装置。
【請求項4】
上記近赤外光は、
700〜1200[nm]の波長を有する、請求項3に記載の生体認証装置。
【請求項5】
上記照射生手段は、
上記照射方向を変化させる反射板を有する、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項6】
上記照射手段は、
上記照射手段から照射された光のうち、上記表皮を反射したものが上記撮像手段に向かって進むことを遮る遮光板を有する、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項7】
上記撮像手段から取得された血管パターン像をもとに、記憶手段に記憶された血管パターン像と照合する照合手段を有する、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項8】
上記血管は静脈である、請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項9】
撮像手段に対向される生体の表皮に光が照らされることを避ける程度に、上記撮像手段から離間されて設けられる照射手段から、上記表皮よりも生体の深部にある深部組織に向けて光を照射する照射ステップと、
上記撮像手段に対して、上記照射手段から照射される光のうち、上記深部組織での散乱により照射方向と異なる方向に戻る戻り光を撮像させる撮像ステップと
を有する生体認証方法。
【請求項10】
上記照射手段は上記深部組織と対向する側に配される、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項11】
上記光は近赤外光を有する、請求項10に記載の生体認証方法。
【請求項12】
上記近赤外光は、
700〜1200[nm]の波長を有する、請求項11に記載の生体認証方法。
【請求項13】
上記照射ステップでは、
上記照射方向を変化させる反射ステップを有する、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項14】
上記照射ステップでは、
上記照射手段から照射された光のうち、上記表皮を反射したものが上記撮像手段に向かって進むことを遮る遮光ステップを有する、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項15】
上記撮像手段から取得された血管パターン像をもとに、記憶手段に記憶された血管パターン像と照合する照合ステップを有する、請求項9に記載の生体認証方法。
【請求項16】
上記血管は静脈である、請求項9に記載の生体認証方法。
【図4】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2008−210407(P2008−210407A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132163(P2008−132163)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【分割の表示】特願2002−134534(P2002−134534)の分割
【原出願日】平成14年5月9日(2002.5.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【分割の表示】特願2002−134534(P2002−134534)の分割
【原出願日】平成14年5月9日(2002.5.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]