生分解性プラスチック分解菌およびその分解酵素製造方法
【課題】新規の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の提供。
【解決手段】
以下の工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
1)植物の葉の表面に生息できる酵母、糸状菌または細菌から採取されたスクリーニング用サンプルを準備する工程、
2)前記酵母、糸状菌または細菌から、生分解性プラスチックを分解するものをスクリーニングする工程、
3)前記スクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
4)培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程。
【解決手段】
以下の工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
1)植物の葉の表面に生息できる酵母、糸状菌または細菌から採取されたスクリーニング用サンプルを準備する工程、
2)前記酵母、糸状菌または細菌から、生分解性プラスチックを分解するものをスクリーニングする工程、
3)前記スクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
4)培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性プラスチックを分解する微生物、及びその新規生分解性プラスチック分解酵素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業現場において、プラスチックは必要不可欠な資材としてパイプハウスの被覆やマルチに大量に使用されており、現在、農林業用の使用済プラスチックの排出量は約15万tといわれる。この使用済プラスチックは回収に労力がかかるばかりでなく、燃焼などによりCO2やダイオキシンが発生して地球温暖化などの環境に悪影響を及ぼす。よって、再生可能な資源を用いる観点からも、近年は生分解性プラスチックの研究が進み、実用化され始めている。
現在、農業資材以外の目的に生産されたものも含めて、生分解性プラスチックの国内生産量は10万tを超えたと推測されている。また、これまでに土壌や汚泥、空気等から採取された微生物から生分解性プラスチック分解酵素が単離されている(特許文献1、2、3)。しかしながら、農業資材に必要な強度と生分解性のバランスは難しく、資材に強度を持たせると生分解性が充分に発揮されないといった問題が存在する。また、生分解性プラスチック分解に使用できる酵素を数多く得ることは困難である。
【0003】
【特許文献1】特開2004−261102号公報
【特許文献2】特開2004−75905号公報
【特許文献3】特開2005−304388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、簡単で安価に、かつ速やかに生分解性プラスチック分解する微生物、及び該微生物から新規分解酵素を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本件出願人は、生分解性プラスチック分解微生物およびその新規分解酵素の製造方法を提供する。植物の葉や果実の表面は固形油脂エステルであるワックスに覆われており、降雨などの気象条件の変化や病原菌の侵入などに対して抵抗している。葉面や果実表皮から分離される微生物には、葉面・果実表皮ワックス資化性を持つ菌株が含まれる可能性が高い。一方、生分解性農業資材の組成は、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、およびポリコハク酸ブチレン、ポリ乳酸等のポリエステルであり、ワックスと構造が似ている。
本件出願人は、ワックス分解能力を有し、葉面や果実表皮に生息できる微生物には、生分解性プラスチックを分解する能力を持つものが高密度で存在するとの推測の下研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を提供する。
1)植物の葉の表面に生息できる酵母、糸状菌または細菌から採取されたスクリーニング用サンプルを準備する工程、
2)前記酵母、糸状菌または細菌から、生分解性プラスチックを分解するものをスクリーニングする工程、
3)前記スクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
4)培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程。
【0007】
また、本発明は、前期の方法により得られる生分解性プラスチック分解酵素を提供する。また、本発明は、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含み、分子量がSDS電気泳動法で約22〜28kDaであり、ポリブチレンサクシネート(PBS)およびポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)分解活性を有するタンパク質を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、前記生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質と生分解性プラスチックとを接触させることを含む、生分解性プラスチックを分解する方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、本発明の方法の工程2でスクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を含む、生分解性プラスチック分解製剤を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、配列番号:13の501〜1172位の塩基配列によりコードされるポリペプチドを提供する。
【0011】
さらに、本発明は、配列番号:14に示されるアミノ酸配列または該配列と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、配列番号:14に示されるアミノ酸配列または該配列と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列からなる、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、配列番号:14に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、配列番号:13の501〜1172位の塩基配列により表される、請求項18記載のポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
さらに、本発明は、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、本発明のポリヌクレオチドを組み込んだベクターを適切な宿主細胞に形質転換する工程、および、前記ポリヌクレオチドを発現させる条件下で前記宿主細胞を培養する工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法に従って、植物の葉の表面から微生物を採取してスクリーニングすることにより、生分解性プラスチック分解酵素を効率よく得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の第1工程では、植物の葉の表面に生息できる酵母、糸状菌または細菌から採取されたスクリーニング用サンプルが準備される。植物の葉の表面は一般にワックスに覆われているため、植物の種類に特に制限はないが、例えばイネやムギ(コムギ、オオムギ等)、牧草(イタリアンライグラス等)、ソルガム、トウモロコシ、ネギ、アブラガヤ(例えばヒメクロアブラガヤ)などの単子葉植物、キャベツ、トマト、ピーマン、チャ、ツバキ、ビート、ダイズ、カリフラワー等の双子葉植物が挙げられる。複数種の植物の葉から酵母等の微生物を採取してスクリーニング用サンプルを調製してもよい。また、「葉の表面に生息できる」とは、葉の表面のワックス成分、クチクラ層の疎水表面に生息できることを意味する。理論に拘束されることを意図するものではないが、これは当該微生物が典型的にはワックス資化性を有することに基づくと推定される。
植物の葉の表面に生息できる酵母等は当業者が任意の方法で採取することができる。例えば、植物の葉を採集し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)とビーズと共に適当な容器に入れ、冷却しつつ1500rpmで振とうする方法、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)とともにフラスコに入れ、180rpmで1時間程度振とうする方法、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)とともに乳鉢に入れ、乳棒で完全に摩砕する方法などが挙げられる。このように、葉の表面を適当な緩衝液、水や等張液等で洗浄することにより酵母等を採取することが好ましい。
なお、これらの方法により葉の表面以外に生息する微生物が採取される場合もあるが、葉の表面に生息する酵母等が含まれてくるような条件である限り問題ではなく、それらの他の微生物がスクリーニング用サンプルに混入していてもよい。
【0018】
植物の葉に生息できる微生物であれば菌類、細菌類を問わず何れでもよく、典型的には酵母、糸状菌、細菌である。
酵母は、一般に葉の表面に生息できる種類として知られる何れのもの、または実際に葉の表面から採取されるものであればいずれのものでもよい。ここで、葉の表面に生息できる酵母の種類としては例えばPseudozyma属(P.antarctica、P.ruglosa、P.parantarctica、P.aphidisなど)やCryptococcus属(Cryptococcus laurenti、Cryptococcus flavusなど)、その他、Rhodotorula glutinis、Rhodotorula mucilaginosa、Sakaguchia dacryoidea、Sporidiobolus pararpseusや、(Allen et al, Can. J. Microbiol. (2004)) Ustilago maydisなどが知られている(Kurtzman and Fell, The Yeasts a taxonomic study (1998)。上記酵母のうち、Pseudozyma属またはCryptococcus属の酵母が好ましい。例えばPseudozyma antarctica JCM3941、Pseudozyma antarctica JCM10317、Pseudozyma antarctica JCM3941、Pseudozyma ruglosaJCM10323およびPseudozyma parantarctica JCM11752の酵母が挙げられ、Pseudozyma antarctica JCM10317およびPseudozyma parantarctica JCM11752が特に好ましい。
【0019】
糸状菌は、一般に葉の表面に生息できる種類として知られるもの、または実際に葉の表面から採取されるものであればいずれのものでもよい。例えば、Acremonium属、Alternaria属、Arthrinium属、Aspergillus属、Aureobasidium属、Cladosporium属、Epicoccum属、Exophiala属、Fusarium属、Leptosphaeria属、Paecilomyces属、Penicillium属、Phoma属、Trichoderma属、Pseudotaeniolina属、Ulocladium属、Phaeosphaeriopsis属、Galactomyces属の糸状菌が挙げられ、このうち、Cladosporium属、Penicillium属、Leptosphaeria属およびAlternaria属の糸状菌が好ましい。例えば、Alternaria alternata、 Cladosporium cladosporioides、 Cladosporium oxysporum、 Penicillium pinophilum の糸状菌が特に好ましい。
【0020】
細菌は、一般に葉の表面に生息できる種類として知られるもの、または実際に葉の表面から採取されるものであればいずれのものでもよい。例えば、Bacillus属の細菌が挙げられ、このうち、Bacillus pumilusが好ましい。
【0021】
なお、昆虫は、酵母等の微生物および、植物(や樹液等、植物生息製微生物が付着している部位)を捕食することから、自然界において、酵母等の微生物の最も重要な媒介者であることが知られている(Phaff et al. 酵母菌の生活1982)。従って、葉面に生息できる酵母、糸状菌および細菌は、植物を捕食する昆虫の体表面および消化管から採取することもできる。例えば、柑橘類であるシキキツ果実周辺から分離されたショウジョウバエからはGalactomyces geotrichum属菌(レモン果実表面に生じることが知られる)やAcremonium属菌(ムギの葉等の葉面からよく分離される)など、木材を捕食するクワガタムシ消化管からはPhaeosphaeriopsis属菌(リュウゼツラン科の観葉植物であるユッカの病原菌として知られる)などの糸状菌が分離され得る。
【0022】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の第2工程では、第1工程で採取された酵母、糸状菌または細菌から、生分解性プラスチックを分解するものがスクリーニングされる。
本発明において「生分解性プラスチック」とは、「使用時は従来の石油由来のプラスチックと同様の機能を有し、使用後は自然界の土中や水中の微生物により、最終的に水や二酸化炭素に分解されるプラスチック」という、当該技術分野において一般に理解される意味を有する。具体的には、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、およびポリコハク酸ブチレン、ポリ乳酸等のポリエステルが挙げられる。
本発明の方法のスクリーニングに使用する生分解性プラスチックの種類は、前記方法を実施する者が任意に選択することが可能である。例えば、マルチフィルムの多くがコハク酸系ポリエステル[ポリブチレンサクシネート(PBS)およびポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)との混合物]で作られており、PBS及びPBSAをスクリーニングに使用することが好ましい。
PBS及びPBSAなどの生分解性プラスチックは多く市販されており、当業者は適当な種類をスクリーニング用に任意に選択することが可能であり、その重合度、分子量等に制限はない。例えば、エマルジョンを使用する場合、ビオノーレエマルジョン EM-301 (PBSA) (昭和高分子株式会社)などを使用できる。
【0023】
本発明の方法に使用されるスクリーニング法は当該技術分野に知られる方法であればよく、例えば生分解性プラスチックのエマルジョン(例えばPBSAエマルジョン:分子量約1万、1%)を懸濁した寒天平板培地上で、前記エマルジョンを溶解して透明ゾーンを形成する菌を調べたり、平板培地の上で実際に生分解性プラスチックのフィルム(例えばPBSAおよびPBSのマルチフィルム:分子量約14-15万、厚さ2μm)に酵母等を接触させてその分解を調べることも可能である。実際にプラスチックフィルムを使用した場合、その分解は画像解析などにより、例えばフィルムの輝度を測定することにより調べることができる。
また、生分解性プラスチックエマルジョンを含む液体培地に菌を入れて培養し、前記液体培地が透明になることを確認してもよい。さらに、公知のこれらのスクリーニング法を当業者が改変して使用することも可能である。
また、これらのスクリーニング法を組み合わせることによってより効果的なスクリーニングを行うことも可能である。例えば、生分解性プラスチックエマルジョンを懸濁した寒天平板培地上で、エマルジョンを溶解して透明ゾーンを形成する菌を分離し、固形プラスチック分解活性を液体培養で調べる方法が知られている(Uchida H. et al., J. Biosci, Bioeng. 93 p. 245 247 (2000))。
【0024】
本発明においては、寒天平板培地上でPBSAエマルジョン(例えば分子量約1万、1%)分解菌を選抜し、次に、これらの菌から、PBSAおよびPBSのマルチフィルム(例えば分子量約14-15万、厚さ2μm)を分解する菌を選抜する、2段階のスクリーニング法を使用することが好ましい。このスクリーニング法を採用することにより、効率的なスクリーニングを行うことが可能となる。マルチフィルム分解量は、例えばフィルムを画像化し、一定面積あたりの輝度の変化割合を算出して数値化することにより評価し得る。また、本発明のある実施態様では、培地に炭素源として天然油脂(例えば大豆油)やグリセロール、エタノール、乳酸、アミノ酸等の非糖質系炭素源を加えることにより、生分解性プラスチック分解酵素を効率よく誘導することが可能である。本発明においては、好ましくは大豆油またはグリセロール、特に好ましくはグリセロールを培地に加えて酵母等の微生物が培養される。
【0025】
以上の本発明の第1および第2工程により、生分解性プラスチック分解酵素の活性や分泌量が高い菌を効率よく分離することが可能となる。例えば、土壌を分離源にした細菌では、エマルジョン分解菌の約1%が固形生分解性プラスチックを分解すると言われていたが、本発明の方法のある実施態様(2段階スクリーニングを実施)においては、エマルジョン分解糸状菌の30% (PBS)〜46% (PBSA)が生分解性プラスチックマルチフィルムを分解した。このように、本発明の方法では生分解性プラスチックを分解する酵母等の微生物を効率よく選抜できるので、生分解性プラスチックを分解する菌や酵素の種類を豊富に揃えることが可能となる。
【0026】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の第3工程では、前記スクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる。本発明の第2工程においてPBSおよび/またはPBSAなどの生分解性プラスチックの分解活性を示した菌を、スクリーニング時と同様に生分解性プラスチック分解活性酵素を生産する条件で培養することにより、前記酵素を細胞外の培地中に分泌させる。酵母等を培養する条件は当業者が任意に設定することが可能であり、スクリーニングに用いた培地を基本とした液体培地を作製し、植菌して振とう培養することにより、菌を増殖させて生分解性プラスチック分解酵素を培地中に分泌させることができる。例えば、Kamini NR et al. Production, purification and characterization of an extracellular lipase from the yeast, Cryptococcus Process Biochemistry 36 p. 317-324 (2000)および Kolattukudy PE et al. Cutinases from fungi and pollen Methods in Enzymology 71 652-664 (1981)に記載の方法またはその方法を改変して使用することができる。また、糸状菌による酵素生産に一般的に用いられる、植物体を担体に用いた固体培養や、ウレタンフォームなどの発泡担体を用いた固体培養物から抽出する方法を用いることもできる。
【0027】
また、スクリーニング時と同様に天然油脂(例えば大豆油)やグリセロール等の非糖質系炭素源を炭素源に用いることが可能である。これらの炭素源を使用することにより、生分解性プラスチック分解酵素を効率よく誘導することができる。また、特にグリセロールを用いた場合には、その後の精製工程を通して酵素が失活しにくく、酵素活性を高く保つことができるという利点がある。
【0028】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の第4工程では、培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する。酵素の精製は、当該技術分野に知られる方法で行うことが可能である、上記の第3工程で挙げた文献をここで再び参照することができる。例えば、培養液の上清に硫酸アンモニウムを加えて沈殿物を得てもよいし、旭化成マイクローザ等を用いた限界濾過法を用いて、培養液を濃縮しても良い。さらに前記沈殿を20mM Tris-HClバッファーに溶解した後、spectrapor MWCO 12000-14000などの透析チューブを使用して20mM Tris-HClバッファーで透析してもよいし、さらにその後DEAE sepharose カラムを通過させて共在する蛋白質を除去してもよいし、必要によりさらにSP sepharoseカラムを通して酵素を精製してもよい。また、上記の操作を適宜組み合わせてもよい。
【0029】
本発明の方法により製造された生分解性プラスチック分解酵素の分子量をSDS電気泳動法により測定すると、約22〜28kDaの分子量を示す。
また、本発明の方法により製造された酵素はPBSおよび/またはPBSAの分解活性を示す。精製された生分解性プラスチック分解酵素の活性は、例えば、PBSAエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液1.8mlを口径13mmの試験管に入れ、粗酵素液や、微生物培養上清液を200μl加え、Spectronic20A(島津)等の装置を用いて吸光度を測定することにより判定することができる。
また、P. antarctica JCM10317より精製された本発明の生分解性プラスチック酵素は、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む。タンパク質が生分解性プラスチック分解活性を有する限り、アミノ酸の1もしくは数個が欠失、置換もしくは付加されていてもよい。
さらに、ポリ乳酸(PLA)エマルジョンを含む平板培地および液体培地上で用いて試験をすると、前記酵素はポリ乳酸分解活性を有する。ポリ乳酸の分解活性は、例えば、ポリ乳酸(ミヨシ油脂:ランディ PL-1000(粒子径4.3μm)、ランディ PL-2000(粒子径2.3μm))のエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液に、微生物培養液の硫安沈殿物の透析液を加え、Spectronic20A(島津)などを用いて吸光度を測定することにより測定できる。また、前記ポリ乳酸のエマルジョンを含む平板培地上で、ポリ乳酸エマルジョンを溶解して透明ゾーンを形成することにより確認することも可能である。
【0030】
また、本発明の方法の工程2でスクリーニングされた微生物を含む、生分解性プラスチック分解製剤を製造することができる。微生物を含む本発明の生分解性プラスチック分解製剤は当業者は周知の方法により作製することができ、微生物単独であってもよいし、周知の溶媒、添加剤などと混合することもできる。
【0031】
また、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、本発明のポリヌクレオチドを組み込んだベクターを適切な宿主細胞に形質転換する工程、および、前記ポリヌクレオチドを発現させる条件下で前記宿主細胞を培養する工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法により、生分解性プラスチック分解酵素を得ることができる。ベクター導入による遺伝子発現に適したベクターおよび宿主細胞の組み合わせは当該技術分野に知られており、本発明に使用されるベクターおよび宿主細胞も当業者が適宜選択することが可能である。例えば、宿主細胞としては酵母、麹菌などの糸状菌、大腸菌などが挙げられ、その中でもSaccharomyces cerevisiae、Kluyveromyces lactisおよびPichia pastorisなどの酵母が好ましい。また、上記の酵母を宿主細胞として使用する場合、発現ベクターとしては出芽酵母発現ベクターpYES2.1(インビトロジェン社)およびプラスミドPEPGK41あるいは染色体導入用ベクターなどを使用することができる。また、培養条件は、前記ベクターおよび宿主細胞の種類に応じて培地の組成、培養温度を決定することができる。例えば、前記の酵母を用いた場合、Wickerhamの合成培地で、25〜40℃、好ましくは30℃で培養することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
生分解性プラスチック分解菌の分離:
始めに、寒天平板培地上でPBSAエマルジョン(分子量約1万、1%)分解菌を選抜し、次に、これらの菌から、PBSAおよびPBSのマルチフィルム(分子量約14-15万、厚さ2ミクロン)を分解する菌を選抜する、2段階のスクリーニング法を使用した。
【0033】
(生分解性プラスチック分解酵母のスクリーニング)
酵母用誘導型酵素生産株選択培地(FMM: Fungi Minimum Medium)
下層
上層B
9cmシャーレに約15mlの下層平板培地を作り、固まった後に45℃のインキュベーター内に保存した。その間に、スターラーを入れた三角フラスコ内で溶解・殺菌した上層Bを約5ml重層した。このとき、上層Bはスターラーで撹拌し、油が均一に混ざるようにした。抗生物質としてクロラムフェニコールを最終濃度で40ppm加えた。
【0034】
まず、植物の葉の表面に生息できるPseudozyma属酵母8株(P. antarctica JCM3941(分離源:玄米)、P. aphidis JCM10318、P.fusiformata JCM3931(分離源:カリフラワー)、P. parantarctica JCM11752、P. plolifica JCM 10319(分離源:ヒメクロアブラガヤ)、P. ruglosa JCM10323(分離源:トウモロコシ葉)、P. thailandica JCM11753、P. tsukubaensis JCM10324(分離源:花)、および酵母Cryptococcus luteolus NBRC0411株を、PBSAエマルジョンを含む培地(FMM, FMZ(組成は後述する), Malt Agar(Difco社製))に植菌したところ、6株がFMM培地上でPBSAを溶解した。PBSAを溶解したことの判定は、平板培地上層に含まれるエマルジョンを分解して、菌の周囲にクリアゾーンを形成することを確認することにより行った。
その後入手した株も含めてPseudozyma属10株(P. antarctica JCM3941、P. antarctica JCM 10317、P. aphidis JCM10318、P. floculosaJCM10321(分離源:アカクローバー)、P.fusiformata JCM3931、P. parantarctica JCM11752、P. plolifica JCM 10319、P. ruglosa JCM10323、P. thailandica JCM11753、P. tsukubaensis JCM10324)とCryptococcus luteolus NBRC0411株をFMM培地上に塗布し、30℃で培養した翌日、菌が生育した表面にPBSAおよびPBS製のマルチフィルム(2μm、2cm画のフィルムとしたもの)を置き、30℃に保温した。1週間後に膜を剥がした結果、P. antarctica JCM10317, P. antarctica JCM3941, P. ruglosaJCM10323およびP. parantarcticaJCM11752株が、高い分解活性を示した。
分解活性が高かった4株(P. antarctica JCM10317, P. antarctica JCM3941, P. ruglosaJCM10323およびP. parantarcticaJCM11752株)について、同様に実験をし、毎日1枚ずつ各マルチフィルムをはがして、分解された程度を観察した(図1)。
また、水田の2箇所から採集したイネから酵母を実際に採取し、同様にFMM培地上においてスクリーニングを行ったところ、PBSAエマルジョンを分解した酵母を各1株ずつ分離した。この酵母は両方ともPBSAおよびPBS製のマルチフィルを分解した。なお、これらの酵母はrDNA塩基配列からP. antarcticaと同定された(イネ分離菌A、B)。
【0035】
以上のように、植物からは、生分解性プラスチック分解能力が高い微生物が高頻度に分離することができた。Pseudozyma属酵母の多くは、植物表面の常在菌として分離されることが判明した。健康な植物の葉や果実、花の表面に生息できる酵母等の微生物に、生分解性プラスチック分解能力を示すものが多く含まれることが明らかになった。
【0036】
酵素の活性測定と精製
酵素精製方法:
FMM液体培地(炭素源6%グルコース)50mlを500ml容三角フラスコに入れ、P. antarctica JCM10317株、P.parantarctica JCM11752、またはイネから分離したP. antarctica2株をPDA(ポテトアガロースアガー、ディフコ社)スラントから1白金耳植菌し、30℃ 200rpm/minで17時間回転振とう培養した。この種母培養液500μlを、FMM液体培地(炭素源1%大豆油または6%グリセロール:いずれも和光純薬)50ml中に植菌し、500ml容三角フラスコ内で30℃ 200rpm/minで回転振とう培養した。培養液を採集し、遠心して菌体を除去した上清について、PBSA分解活性を測定した。
酵素活性判定方法は、PBSAエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液1.8mlを口径13mmの試験管に入れ、微生物培養上清液を200μl加え、Spectronic20A(島津)を用いて吸光度を測定するものであった。試験管を30℃ 120rpmで振とうし、一定時間ごとに取り出して、吸光度の増加量を測定し、酵素活性とした。
吸光度(OD660)が、初期(約0.5)から、1時間後に0.3前後の範囲に低下した培養液には精製に充分な量の酵素が分泌されたとして、次の工程に進んだ。
【0037】
培養液を室温で10000g 15分間遠心して、菌体と培養上清液を分離した。培養上清液に、50%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、溶解した。4℃で17時間静かに攪拌した後に、4℃で25000g 15分間遠心し、沈殿を回収した。沈殿を20mM Tris-HClバッファーに溶解した。溶解液を透析チューブ(spectrapor MWCO 12000-14000)に密封して、20mM Tris-HClバッファーで透析したものを粗酵素液とした。
P. antarctica JCM10317株の粗酵素液を用いて、酵素の精製を進めた。
【0038】
培養液6Lから粗酵素液3mlが得られた。粗酵素液3mlを限外ろ過(クラボウ、セントリカット超ミニ、分画1万)で500μlに濃縮した。これを50mM Tris-HCl (pH6.8)で平衡化したDEAE sepharose カラムとSP sepharoseカラム(共にGEヘルスケアバイオサイエンス)に供した。それらから得られた活性のある画分1.5mlを、限外ろ過(クラボウ、セントリカット超ミニ、分画1万)で濃縮し、夾雑物を除いて酵素液を100μlにした。ゲルろ過カラム(東ソー社 TSK-gel G3000SWXL、流速0.5mL/min、検出波長220nm)を、0.3M NaClを含む50mM Tris-HCl (pH6.8)で平衡化した。これに濃縮したサンプル100μlのうち80μlを注入し、溶出液を0.5mLずつ30本回収し、各画分の活性を測定した。
リテンションタイム23.391分に波長のピークが検出された。また、23.00分〜26.99分の間に得た画分に明らかな活性が認められ、そのうち24.00分から24.99分と、25.00分から25.99分の画分が最も高い活性を示した。図2に各クロマトグラフィー工程後のPBS分解活性を示す。
【0039】
上記の通り精製された生分解性プラスチック分解酵素をSDS−PAGEにより確認した(図3)。SP吸着画分にバンドが2本確認されるが、油培養液既に報告がある複数のクチナーゼの大きさが皆20-30kDであること、および、培養条件を変更した場合のバンドの濃さと酵素活性との比較などから、分子量が小さい方(22〜28kDa)が、目的の酵素と推定した。さらにゲル濾過によって精製を進めた。画分1,2はともにSDS-PAGEにて1本のバンドになった。この画分の酵素活性を測定したところ、活性が確認された(図2)ことから、本酵素は分子量22〜28kDaの蛋白質であると同定した。
【0040】
また、P. parantarctica JCM11752株およびイネ分離菌Aについて、液体培地に加える炭素源を変えて目的の酵素の誘導を確認したところ、生分解性プラスチック分解活性を示す酵素は、大豆油やグリセロールを含む培地で効率よく誘導されることが確認された(図4)。
【0041】
また、上記のP. antarctica JCM10317株グリセロール6%−FMM培養液上清から精製した生分解性プラスチック分解酵素の内部アミノ酸配列を決定した。
前記酵素をトリプシンで分解し、以下の条件のHPLCカラムで分離したもののうち、1番2番、および3番のピークN末端配列を特定した(図5参照)。
HPLC条件
1番:IVAQVK(配列番号:1)
2番:XAXGXANIVAQV(配列番号:2)
3番:XTSEPQGPSVGF(配列番号:3)
(Xは同定されず。ただし、2番5位のアミノ酸はTであり得る。)
【0042】
酵素がPBSAエマルジョンおよびPBSA膜を分解する例
P. antarctica JCM10317, P. parantarctica JCM11752およびイネから分離したP. antarctica2株の培養液50mlを硫安沈殿し、沈殿の20mM Tris-HClバッファーpH6.8透析液を粗酵素として用いた場合、いずれもPBSAエマルジョンを溶解する活性が確認された(図6)。また、SDS-PAGEゲル電気泳動の結果、いずれの菌からもP. antarctica JCM10317と同じ分子量に蛋白質のバンドを確認した。PBSA(昭和高分子 ビオノーレPBS3020)100mgをジクロロメタン5mlに溶解し、ドラフト内でガラスシャーレ(口径9cm)に展開し、ジクロロメタンを蒸発させ、PBSAの膜を作成した。この膜を1cm2に切断した。この膜を2mlの20mM Tris-HClバッファーpH6.8および、粗酵素液50μl存在下に添加し、30℃、50rpmで5日間振とうした。その結果、得られた酵素活性量に応じて、PBSAの膜を分解することが確認された。
【0043】
前記のP. antarctica JCM10317株由来プラスチック分解酵素の全アミノ酸配列および遺伝子配列を同定するためにさらに解析を行った。
前述の通りに酵素を精製し、そのN末端アミノ酸配列を調べたところ、AG*SSYVIINT(配列番号:4)の配列が得られた。また、内部アミノ酸配列を調べたところ、さらに以下の配列が得られた。
IVAQVK
*A*G*ANIVAQV
*TSE(P/T)QGPSVGF
AG*SSYVIINTR***(配列番号:5)
GVILIGNPEHKPNLA*NVDG(配列番号:6)
SAVSGGSEYDTVYPAGIDQN(配列番号:7)
GISAAFTQGVPSNWVSK***(配列番号:8)
【0044】
上記のうち、AG*SSYVIINTR***およびGISAAFTQGVPSNWVSK***の配列(* は同定不能なアミノ酸を示す)をもとに、プライマーPaE3F (5'-tacgtSatcatcaacacVcg-3')(配列番号:9)およびPaE6R (5'-gacgccctgBgtgaaNgc-3')(配列番号:10)を合成した。一方、P. antarctica JCM10317株が生プラ分解酵素を生産している条件下で、ホットフェノール法を用いてRNAを抽出し、Oligotex dT30(タカラバイオ株式会社)を用いてmRNAを精製した。抽出したmRNAを鋳型にし、設計したプライマー配列 (PaE3, PaE6R)をもとに、Prime Script RT-PCRキット(タカラバイオ株式会社)を用いて、RT-PCR反応を行った結果、約370ntの増幅断片(PaE3F-PaE6R増幅断片)が得られた。PaE3F-PaE6R増幅断片の塩基配列を解読し、結果をもとにプライマーPaE134R (5'-atgcgggtgttcatggtgcg-3')(配列番号:11)およびPaE308F(5'-atgcccttcctcagcttactg-3')(配列番号:12)を合成した。次に、PaE3F-PaE6R増幅断片をプローブに用いて、P. antarctica JCM10317株のゲノミックサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、制限酵素BamHIで消化した染色体DNAにハイブリダイズしたバンドが1本検出され、該当遺伝子は染色体中に1本であることが推測された。
【0045】
インバースPCR法を用いて、目的遺伝子を単離した。BamHIで消化した染色体DNAをセルフライゲーション反応で環状化したものを鋳型にし、プラーマーPaE308FとPaE134Rを用いてPCRをした。1本のPCR増幅断片をTAベクターにクローニングし、塩基配列を解読した。その結果、クローニングされたDNA断片(配列番号:13)の中に、生プラ分解酵素の全遺伝子配列が含まれていた。アミノ酸配列に置換した後、N末端アミノ酸配列の結果をもとにORFと分泌された酵素の配列(配列番号:14)を決定した。
【0046】
さらに、上記のP.antarctica JCM10317から得た生プラ分解酵素のDNA配列およびアミノ酸配列と相同性が高い既登録配列を、国立遺伝研究所内DNA data bank of Japan (DDBJ)でBLAST search法を用いて検索をした。検索条件は、検索条件 上位10件 期待値10 ギャップ1 フィルター1 とした。「DNA-DNA比較」、「アミノ酸配列-アミノ酸配列比較」、「DNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA配列」の、3つの方法で比較した。その結果、各々の検索で最も高い相同性を示したものは、「DNA-DNA比較」ではCS406466|CS406466.1 Sequence 36 from Patent WO2006042156 score:46 E-value: 0.087、「アミノ酸配列-アミノ酸配列比較」ではtr|Q4PBK7|Q4PBK7_USTMA Putative uncharacterized protein score:286 E-value:6e-76、「DNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA配列」ではEA136855|EA136855.1 Sequence 1170 from patent US 7214786. score 294 E-value 2e-77 であった。以上より、今回特定されたDNA配列およびアミノ酸配列は、既知遺伝子配列やアミノ酸配列とは異なる新規の配列であることが推測された。
【0047】
次いで、上記により分離した遺伝子が、プラスチック分解酵素であることを確認するために、異種酵母における遺伝子発現を試みた。インバースPCR法で得た配列をもとに、プライマーPaE-20F (CCCTTCCGATCTATCTCAAGA)(配列番号:15)、PaE+16R (ATGGACGAGGCTACGATCTG)(配列番号:16)を設計し、P. antarctica JCM10317株の染色体DNAを鋳型に用いてPCR法で遺伝子を増幅させた。増幅した断片を、出芽酵母発現ベクターpYES2.1(インビトロジェン社)にクローニングし、出芽酵母BY4741株に形質転換した。このプラスミドはガラクトースで誘導されるGAL1プロモーター下流に目的遺伝子が挿入される。このプラスミドを形質転換した出芽酵母は、ガラクトースを添加した合成培地でPBSAエマルジョンを溶解し、グルコースでは溶解しなかった(図11)。また、Kluyveromyces lactisの中で構成的に発現するプラスミドPEPGK41にクローニングし、K. lactis MW98-8C株に形質転換した場合は、構成的にPBSAエマルジョンを溶解した(同上)。以上の結果から、クローニングした遺伝子は、プラスチック分解酵素の遺伝子であることが確認された。
【0048】
ポリ乳酸分解試験
前述の酵素活性測定方法に基づいて、上記のP. antarctica JCM10317株の生分解性プラスチック分解酵素のポリ乳酸(PLA)分解活性を調べた。具体的には、ポリ乳酸(ミヨシ油脂:ランディ PL-1000(粒子径4.3μm)、ランディ PL-2000(粒子径2.3μm))のエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液1.98mlを口径13mmの試験管に入れ、P. antarctica JCM10317株の硫安沈殿物の透析液を20μl加え、Spectronic20A(島津)を用いて吸光度を測定するものであった。試験管を30℃120rpmで振とうし、一定時間ごとに取り出して、吸光度の増加量を測定し、酵素活性とした。その結果、前記酵素はポリ乳酸も分解することが判明した(図7、8)。
【0049】
FMM培地にポリ乳酸(ミヨシ油脂:ランディ PL-2000(粒子径2.3μm))のエマルジョン1%のみ、またはポリ乳酸1%および大豆油1%、またはポリ乳酸1%およびグリセロール6%を含む1.5%寒天培地を重層した平板培地3種類を作成し、この上にPseudozyma属酵母9株を植菌し、30℃で保温した。ポリ乳酸エマルジョンを溶解して、透明ゾーンを形成した株は、3種類全ての培地で、P. antarctica(JCM10317, JCM3941)および、イネから分離したP. antarctica、グリセロールを含む培地でのみP. tsukubaensis JCM10324であった(図9)。
ポリ乳酸は生物素材由来のプラスチックではあるものの、一般に生分解性がとても低く、特に常温でポリ乳酸分解活性を有する微生物はほとんど知られていない。しかしながら、本発明の方法によりスクリーニングされた酵母には、高頻度でポリ乳酸を常温で分解する酵素を製造するものが含まれることが分かった。
【0050】
さらに、P. antarctica JCM10317およびP. tsukubaensis JCM10324の株から精製された酵素による、ポリ乳酸フィルムの分解を確認した。P. antarctica JCM10317, JCM3941, イネから分離したP. antarctica2株、およびP. tsukubaensis JCM10324株を、FMM培地に1%ポリ乳酸エマルジョン(ランディ PL-2000)とグリセロール(6%)を含む1.5%寒天培地を重層した平板培地に植菌し、30℃で一夜培養した。この上にポリ乳酸膜1cm画[テラマック水切りゴミ袋(ユニチカ通商:ポリ乳酸繊維97%、生分解性ポリウレタン3%) 0.1gをジクロロメタン3mlで溶解し、ガラスシャーレ(9cm口径)に展開してドラフト内で溶媒を揮発させ、ポリ乳酸膜を自作した。]を置き、30℃に保温した。3,6,10,14日目に膜を剥がして、膜の分解程度を観察したところ、P. antarctica JCM10317株とP. tsukubaensis JCM10324株が高い分解活性を示した。用いた膜はポリウレタンも含むが、培養開始二週間後には膜は明らかに半分以上分解されており、本菌はポリ乳酸を分解することが確認された。(図12)。
【0051】
(生分解性プラスチック分解糸状菌の分離)
生分解性プラスチックを分解する糸状菌のセレクションは、以下の培地を使用し、酵母の場合と同様に行った。
糸状菌用誘導型酵素生産株選択培地(FMZ: Czapek-Dox Minimum Medium)
下層
上層B
酵母用の選択培地と同様に平板培地を調製した。抗生物質としてクロラムフェニコールを最終濃度40ppmで加えた。
【0052】
既に発明者がイネやムギ葉面から分離・同定をし、保存していた糸状菌を、PBSAエマルジョンによるセレクションに供した。FMZ培地にエマルジョンを重層した培地を用いて1227株の供試菌から71株のエマルジョン分解能力を持つ菌を分離した。それらの内訳は、コムギから分離された539菌株からは26菌株、オオムギからは380菌株で27菌株、イネからは308菌株で17菌株が選抜された。各種試料から分離されたプラスチックエマルジョン分解菌を二次選抜でPBSAおよびPBSマルチフィルムの分解能を調べたところ、このうち50株は、PBSA製マルチフィルムのみ分解したが、PBS製、PBSA製両方のマルチフィルムを分解する菌を21株分離した。
一方、各種の葉や果実表面、土壌、土壌中に埋蔵してあった生分解性プラスチックから、スクリーニングマニュアルに従って生分解性プラスチック分解微生物を分離し、64株のエマルジョン分解能力を持つ菌を得た。このうち二次選抜で、37株は、PBSA製マルチフィルムのみ分解したが、PBS製、PBSA製両方のマルチフィルムを分解する菌を20株分離した。これらプラスチックエマルジョン分解菌のうち、64株について、形態学的観察と、rDNA塩基配列のITS領域の配列の解析を行い、以下の表に示すようなCladosporium属、Penicillium属およびAlternaria属などの糸状菌を同定した。
両フィルムでは分解量に違いが認められ、PBSAにわずかでも分解能を示す菌株の総数は87菌株で、PBSにわずかでも分解能を示す菌株は41菌株であった。
表1:生分解性プラスチック分解活性を示した糸状菌の属名と分離された菌の数
上記のうち、具体的にAlternaria alternata、Cladosporium cladosporioides、Cladosporium oxysporum、Penicillium pinophilumなどの糸状菌が同定された。
【0053】
Leptosphaeria sp.(菌株名 44-2)について、クリアゾーン形成菌株の培地におけるPBSおよびPBSA分解および分解程度の解析を行った(図10)。フィルム溶解度はPBSAフィルムについて分解度48.3%、PBSフィルムについて34.9%であった。
解析は以下の方法に従って行った:
「透過原稿ポジフィルムモード300dpiで膜をスキャンする。解析にはAquacosmos ver2.0を用い、画像をTIFFファイル(グレースケール)で保存する。Aquacosmos上でファイルを開き、計測ウインドウでツールバーを選択して、ドラッグでプラスチック膜の絵を一枚囲う。「前回と同じ計測ウインドウを作成」を選んで、取り込んだ画像上の全ての膜を、同じ大きさの独立した計測ウインドウとして選定する。(この時に未処理の膜および、膜のない白色に抜けた場所も、コントロールとして同じように囲う。)解析メニュー内の「領域解析」から各領域の輝度の計算を行う。コントロールをもとに、膜の分解量を計算する。」
(計測した膜の輝度−未分解膜の輝度)/(白い画面の輝度−未分解膜の輝度)X100=分解(%)
【0054】
(生分解性プラスチック分解細菌の分離)
生分解性プラスチックを分解する細菌のセレクションは、以下の培地を使用し、酵母の場合と同様に行った。
構成型酵素生産株選培地(NA)
下層
上層A
酵母用の選択培地と同様に平板培地を調製した。抗生物質としてシクロヘキシミドを最終濃度50ppmで加えた。
【0055】
つくば市農環研圃場のイネなどの葉面から洗浄法により細菌を分離した保存菌を用いた。NA-PBSA培地に供試菌を移植し、生育にともなってクリアゾーンを形成する菌株を分解菌として一次選抜した。二次選抜として殺菌したPBSAおよびポリブチレンサクシネート(PBS)マルチフィルムをNA培地に置床し、プラスチック膜分解能を調査した。その結果、イネから分離された保存菌488菌株からは構成的にPBSAエマルジョンを分解する細菌8株と誘導的に分解する20株が得られた。
各種試料から分離されたプラスチック分解菌を二次選抜で、2%酵母エキス(Difco社)溶液にPBSマルチフィルムを入れて振とう培養し、分解能を調べたところ、6株がPBSフィルムの分解能を示した。この中で活性が高い株の内1株は、rDNA塩基配列から、Bacillus pumilusと同定された。
【0056】
(昆虫からの生分解性プラスチック分解微生物分離例)
柑橘類シキキツ果実表面にいたショウジョウバエ2個体を採集し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)とビーズと共に適当な容器に入れ、冷却しつつ1500rpmで振とうする方法で、付着または消化管中の微生物を抽出した。この抽出液を、前述の方法に従い、PBSAエマルジョンおよび大豆油各1%を重層したFMMまたはFMZ培地に塗布した。クリアーゾーンを形成した菌を分離し、前述の方法に従ってPBS及びPBSAフィルム分解活性を調べたところ、FMM培地で分離したGalactomyces geotrichumがPBSA膜のみを、FMM培地で分離したAcremonium属は、PBSAおよびPBSフィルムを効率よく分解した。菌は、rDNAの塩基配列および形態学的観察から同定した。
関東地方の5地点において、リグニン含有率の高い褐色腐朽材から鞘翅目クワガタムシ科の甲虫2種(マダラクワガタ、ネブトクワガタ)の幼虫を多数採集した。これら2種の幼虫は褐色腐朽材特異的に得られた。クワガタムシ類幼虫の消化管(中腸および後腸)と体表面のそれぞれから、微生物を好気的に培養した。前述の方法に従い、PBSAエマルジョンを栄養源とする培地を用いて、各微生物のPBSA分解能を調べたところ、マダラクワガタの中腸およびネブトクワガタの中腸から、PBSA分解能を持つ細菌をそれぞれ2および11菌株分離した。また、マダラクワガタの中腸、ネブトクワガタの体表面および中腸からPBSA分解能を持つ真菌をそれぞれ1、2および1菌株分離した。これらの細菌および真菌に対し、前述の方法に従ってPBSマルチを用いてPBS分解能を調べたところ、ネブトクワガタの中腸由来の真菌1菌株が高い分解能を示した。この真菌は、18SrDNAの塩基配列からPhaeosphaeriopsis属の真菌と同定された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】酵母による生分解性プラスチックフィルム分解を示す(上段:PBSA、下段:PBS、数字は日数)。
【図2】P. antarctica JCM10317株の生分解性プラスチック分解酵素の各クロマトグラフィー工程後のPBS分解活性を示す。
【図3】P. antarctica JCM10317株の生分解性プラスチック分解酵素のゲルろ過画分のSDS−PAGE電気泳動図を示す。
【図4】P. parantarctica JCM11752株およびイネ分離菌A(P. antarctica)の生分解性プラスチック分解酵素が、グリセロールまたは大豆油を含む培地で誘導されることを示す(SDS−PAGE14.1% Gel、銀染色)。
【図5】P. antarctica JCM10317株から精製された生分解性プラスチック分解酵素をトリプシンで分解し、HPLCで分離した際のクロマトグラムを示す。
【図6】Pseudozyma属酵母の酵素によるPBSAエマルジョンの分解を示す。
【図7】P. antarctica JCM10317株から精製された生分解性プラスチック分解酵素によるポリ乳酸の分解の写真を示す。
【図8】P. antarctica JCM10317株から精製された生分解性プラスチック分解酵素によるポリ乳酸分解による濁度の減少を示す。
【図9】本発明によりスクリーニングされた様々な微生物による、ポリ乳酸(PLA)の分解を示す。
【図10】糸状菌Leptosphaeria sp.(菌株名 44-2)について、クリアゾーン形成菌株の培地におけるPBSおよびPBSAフィルムの分解を示す。
【図11】P. antarctica JCM10317株より分離された遺伝子を発現させた異種酵母によるPBSAエマルジョンの溶解を示す。+/−は遺伝子導入の有無を示す。
【図12】P. antarctica JCM10317およびP. tsukubaensis JCM10324株から精製された酵素による、ポリ乳酸フィルムの分解を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性プラスチックを分解する微生物、及びその新規生分解性プラスチック分解酵素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業現場において、プラスチックは必要不可欠な資材としてパイプハウスの被覆やマルチに大量に使用されており、現在、農林業用の使用済プラスチックの排出量は約15万tといわれる。この使用済プラスチックは回収に労力がかかるばかりでなく、燃焼などによりCO2やダイオキシンが発生して地球温暖化などの環境に悪影響を及ぼす。よって、再生可能な資源を用いる観点からも、近年は生分解性プラスチックの研究が進み、実用化され始めている。
現在、農業資材以外の目的に生産されたものも含めて、生分解性プラスチックの国内生産量は10万tを超えたと推測されている。また、これまでに土壌や汚泥、空気等から採取された微生物から生分解性プラスチック分解酵素が単離されている(特許文献1、2、3)。しかしながら、農業資材に必要な強度と生分解性のバランスは難しく、資材に強度を持たせると生分解性が充分に発揮されないといった問題が存在する。また、生分解性プラスチック分解に使用できる酵素を数多く得ることは困難である。
【0003】
【特許文献1】特開2004−261102号公報
【特許文献2】特開2004−75905号公報
【特許文献3】特開2005−304388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、簡単で安価に、かつ速やかに生分解性プラスチック分解する微生物、及び該微生物から新規分解酵素を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本件出願人は、生分解性プラスチック分解微生物およびその新規分解酵素の製造方法を提供する。植物の葉や果実の表面は固形油脂エステルであるワックスに覆われており、降雨などの気象条件の変化や病原菌の侵入などに対して抵抗している。葉面や果実表皮から分離される微生物には、葉面・果実表皮ワックス資化性を持つ菌株が含まれる可能性が高い。一方、生分解性農業資材の組成は、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、およびポリコハク酸ブチレン、ポリ乳酸等のポリエステルであり、ワックスと構造が似ている。
本件出願人は、ワックス分解能力を有し、葉面や果実表皮に生息できる微生物には、生分解性プラスチックを分解する能力を持つものが高密度で存在するとの推測の下研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を提供する。
1)植物の葉の表面に生息できる酵母、糸状菌または細菌から採取されたスクリーニング用サンプルを準備する工程、
2)前記酵母、糸状菌または細菌から、生分解性プラスチックを分解するものをスクリーニングする工程、
3)前記スクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
4)培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程。
【0007】
また、本発明は、前期の方法により得られる生分解性プラスチック分解酵素を提供する。また、本発明は、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含み、分子量がSDS電気泳動法で約22〜28kDaであり、ポリブチレンサクシネート(PBS)およびポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)分解活性を有するタンパク質を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、前記生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質と生分解性プラスチックとを接触させることを含む、生分解性プラスチックを分解する方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、本発明の方法の工程2でスクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を含む、生分解性プラスチック分解製剤を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、配列番号:13の501〜1172位の塩基配列によりコードされるポリペプチドを提供する。
【0011】
さらに、本発明は、配列番号:14に示されるアミノ酸配列または該配列と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、配列番号:14に示されるアミノ酸配列または該配列と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列からなる、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、配列番号:14に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、配列番号:13の501〜1172位の塩基配列により表される、請求項18記載のポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
さらに、本発明は、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、本発明のポリヌクレオチドを組み込んだベクターを適切な宿主細胞に形質転換する工程、および、前記ポリヌクレオチドを発現させる条件下で前記宿主細胞を培養する工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法に従って、植物の葉の表面から微生物を採取してスクリーニングすることにより、生分解性プラスチック分解酵素を効率よく得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の第1工程では、植物の葉の表面に生息できる酵母、糸状菌または細菌から採取されたスクリーニング用サンプルが準備される。植物の葉の表面は一般にワックスに覆われているため、植物の種類に特に制限はないが、例えばイネやムギ(コムギ、オオムギ等)、牧草(イタリアンライグラス等)、ソルガム、トウモロコシ、ネギ、アブラガヤ(例えばヒメクロアブラガヤ)などの単子葉植物、キャベツ、トマト、ピーマン、チャ、ツバキ、ビート、ダイズ、カリフラワー等の双子葉植物が挙げられる。複数種の植物の葉から酵母等の微生物を採取してスクリーニング用サンプルを調製してもよい。また、「葉の表面に生息できる」とは、葉の表面のワックス成分、クチクラ層の疎水表面に生息できることを意味する。理論に拘束されることを意図するものではないが、これは当該微生物が典型的にはワックス資化性を有することに基づくと推定される。
植物の葉の表面に生息できる酵母等は当業者が任意の方法で採取することができる。例えば、植物の葉を採集し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)とビーズと共に適当な容器に入れ、冷却しつつ1500rpmで振とうする方法、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)とともにフラスコに入れ、180rpmで1時間程度振とうする方法、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)とともに乳鉢に入れ、乳棒で完全に摩砕する方法などが挙げられる。このように、葉の表面を適当な緩衝液、水や等張液等で洗浄することにより酵母等を採取することが好ましい。
なお、これらの方法により葉の表面以外に生息する微生物が採取される場合もあるが、葉の表面に生息する酵母等が含まれてくるような条件である限り問題ではなく、それらの他の微生物がスクリーニング用サンプルに混入していてもよい。
【0018】
植物の葉に生息できる微生物であれば菌類、細菌類を問わず何れでもよく、典型的には酵母、糸状菌、細菌である。
酵母は、一般に葉の表面に生息できる種類として知られる何れのもの、または実際に葉の表面から採取されるものであればいずれのものでもよい。ここで、葉の表面に生息できる酵母の種類としては例えばPseudozyma属(P.antarctica、P.ruglosa、P.parantarctica、P.aphidisなど)やCryptococcus属(Cryptococcus laurenti、Cryptococcus flavusなど)、その他、Rhodotorula glutinis、Rhodotorula mucilaginosa、Sakaguchia dacryoidea、Sporidiobolus pararpseusや、(Allen et al, Can. J. Microbiol. (2004)) Ustilago maydisなどが知られている(Kurtzman and Fell, The Yeasts a taxonomic study (1998)。上記酵母のうち、Pseudozyma属またはCryptococcus属の酵母が好ましい。例えばPseudozyma antarctica JCM3941、Pseudozyma antarctica JCM10317、Pseudozyma antarctica JCM3941、Pseudozyma ruglosaJCM10323およびPseudozyma parantarctica JCM11752の酵母が挙げられ、Pseudozyma antarctica JCM10317およびPseudozyma parantarctica JCM11752が特に好ましい。
【0019】
糸状菌は、一般に葉の表面に生息できる種類として知られるもの、または実際に葉の表面から採取されるものであればいずれのものでもよい。例えば、Acremonium属、Alternaria属、Arthrinium属、Aspergillus属、Aureobasidium属、Cladosporium属、Epicoccum属、Exophiala属、Fusarium属、Leptosphaeria属、Paecilomyces属、Penicillium属、Phoma属、Trichoderma属、Pseudotaeniolina属、Ulocladium属、Phaeosphaeriopsis属、Galactomyces属の糸状菌が挙げられ、このうち、Cladosporium属、Penicillium属、Leptosphaeria属およびAlternaria属の糸状菌が好ましい。例えば、Alternaria alternata、 Cladosporium cladosporioides、 Cladosporium oxysporum、 Penicillium pinophilum の糸状菌が特に好ましい。
【0020】
細菌は、一般に葉の表面に生息できる種類として知られるもの、または実際に葉の表面から採取されるものであればいずれのものでもよい。例えば、Bacillus属の細菌が挙げられ、このうち、Bacillus pumilusが好ましい。
【0021】
なお、昆虫は、酵母等の微生物および、植物(や樹液等、植物生息製微生物が付着している部位)を捕食することから、自然界において、酵母等の微生物の最も重要な媒介者であることが知られている(Phaff et al. 酵母菌の生活1982)。従って、葉面に生息できる酵母、糸状菌および細菌は、植物を捕食する昆虫の体表面および消化管から採取することもできる。例えば、柑橘類であるシキキツ果実周辺から分離されたショウジョウバエからはGalactomyces geotrichum属菌(レモン果実表面に生じることが知られる)やAcremonium属菌(ムギの葉等の葉面からよく分離される)など、木材を捕食するクワガタムシ消化管からはPhaeosphaeriopsis属菌(リュウゼツラン科の観葉植物であるユッカの病原菌として知られる)などの糸状菌が分離され得る。
【0022】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の第2工程では、第1工程で採取された酵母、糸状菌または細菌から、生分解性プラスチックを分解するものがスクリーニングされる。
本発明において「生分解性プラスチック」とは、「使用時は従来の石油由来のプラスチックと同様の機能を有し、使用後は自然界の土中や水中の微生物により、最終的に水や二酸化炭素に分解されるプラスチック」という、当該技術分野において一般に理解される意味を有する。具体的には、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、およびポリコハク酸ブチレン、ポリ乳酸等のポリエステルが挙げられる。
本発明の方法のスクリーニングに使用する生分解性プラスチックの種類は、前記方法を実施する者が任意に選択することが可能である。例えば、マルチフィルムの多くがコハク酸系ポリエステル[ポリブチレンサクシネート(PBS)およびポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)との混合物]で作られており、PBS及びPBSAをスクリーニングに使用することが好ましい。
PBS及びPBSAなどの生分解性プラスチックは多く市販されており、当業者は適当な種類をスクリーニング用に任意に選択することが可能であり、その重合度、分子量等に制限はない。例えば、エマルジョンを使用する場合、ビオノーレエマルジョン EM-301 (PBSA) (昭和高分子株式会社)などを使用できる。
【0023】
本発明の方法に使用されるスクリーニング法は当該技術分野に知られる方法であればよく、例えば生分解性プラスチックのエマルジョン(例えばPBSAエマルジョン:分子量約1万、1%)を懸濁した寒天平板培地上で、前記エマルジョンを溶解して透明ゾーンを形成する菌を調べたり、平板培地の上で実際に生分解性プラスチックのフィルム(例えばPBSAおよびPBSのマルチフィルム:分子量約14-15万、厚さ2μm)に酵母等を接触させてその分解を調べることも可能である。実際にプラスチックフィルムを使用した場合、その分解は画像解析などにより、例えばフィルムの輝度を測定することにより調べることができる。
また、生分解性プラスチックエマルジョンを含む液体培地に菌を入れて培養し、前記液体培地が透明になることを確認してもよい。さらに、公知のこれらのスクリーニング法を当業者が改変して使用することも可能である。
また、これらのスクリーニング法を組み合わせることによってより効果的なスクリーニングを行うことも可能である。例えば、生分解性プラスチックエマルジョンを懸濁した寒天平板培地上で、エマルジョンを溶解して透明ゾーンを形成する菌を分離し、固形プラスチック分解活性を液体培養で調べる方法が知られている(Uchida H. et al., J. Biosci, Bioeng. 93 p. 245 247 (2000))。
【0024】
本発明においては、寒天平板培地上でPBSAエマルジョン(例えば分子量約1万、1%)分解菌を選抜し、次に、これらの菌から、PBSAおよびPBSのマルチフィルム(例えば分子量約14-15万、厚さ2μm)を分解する菌を選抜する、2段階のスクリーニング法を使用することが好ましい。このスクリーニング法を採用することにより、効率的なスクリーニングを行うことが可能となる。マルチフィルム分解量は、例えばフィルムを画像化し、一定面積あたりの輝度の変化割合を算出して数値化することにより評価し得る。また、本発明のある実施態様では、培地に炭素源として天然油脂(例えば大豆油)やグリセロール、エタノール、乳酸、アミノ酸等の非糖質系炭素源を加えることにより、生分解性プラスチック分解酵素を効率よく誘導することが可能である。本発明においては、好ましくは大豆油またはグリセロール、特に好ましくはグリセロールを培地に加えて酵母等の微生物が培養される。
【0025】
以上の本発明の第1および第2工程により、生分解性プラスチック分解酵素の活性や分泌量が高い菌を効率よく分離することが可能となる。例えば、土壌を分離源にした細菌では、エマルジョン分解菌の約1%が固形生分解性プラスチックを分解すると言われていたが、本発明の方法のある実施態様(2段階スクリーニングを実施)においては、エマルジョン分解糸状菌の30% (PBS)〜46% (PBSA)が生分解性プラスチックマルチフィルムを分解した。このように、本発明の方法では生分解性プラスチックを分解する酵母等の微生物を効率よく選抜できるので、生分解性プラスチックを分解する菌や酵素の種類を豊富に揃えることが可能となる。
【0026】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の第3工程では、前記スクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる。本発明の第2工程においてPBSおよび/またはPBSAなどの生分解性プラスチックの分解活性を示した菌を、スクリーニング時と同様に生分解性プラスチック分解活性酵素を生産する条件で培養することにより、前記酵素を細胞外の培地中に分泌させる。酵母等を培養する条件は当業者が任意に設定することが可能であり、スクリーニングに用いた培地を基本とした液体培地を作製し、植菌して振とう培養することにより、菌を増殖させて生分解性プラスチック分解酵素を培地中に分泌させることができる。例えば、Kamini NR et al. Production, purification and characterization of an extracellular lipase from the yeast, Cryptococcus Process Biochemistry 36 p. 317-324 (2000)および Kolattukudy PE et al. Cutinases from fungi and pollen Methods in Enzymology 71 652-664 (1981)に記載の方法またはその方法を改変して使用することができる。また、糸状菌による酵素生産に一般的に用いられる、植物体を担体に用いた固体培養や、ウレタンフォームなどの発泡担体を用いた固体培養物から抽出する方法を用いることもできる。
【0027】
また、スクリーニング時と同様に天然油脂(例えば大豆油)やグリセロール等の非糖質系炭素源を炭素源に用いることが可能である。これらの炭素源を使用することにより、生分解性プラスチック分解酵素を効率よく誘導することができる。また、特にグリセロールを用いた場合には、その後の精製工程を通して酵素が失活しにくく、酵素活性を高く保つことができるという利点がある。
【0028】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法の第4工程では、培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する。酵素の精製は、当該技術分野に知られる方法で行うことが可能である、上記の第3工程で挙げた文献をここで再び参照することができる。例えば、培養液の上清に硫酸アンモニウムを加えて沈殿物を得てもよいし、旭化成マイクローザ等を用いた限界濾過法を用いて、培養液を濃縮しても良い。さらに前記沈殿を20mM Tris-HClバッファーに溶解した後、spectrapor MWCO 12000-14000などの透析チューブを使用して20mM Tris-HClバッファーで透析してもよいし、さらにその後DEAE sepharose カラムを通過させて共在する蛋白質を除去してもよいし、必要によりさらにSP sepharoseカラムを通して酵素を精製してもよい。また、上記の操作を適宜組み合わせてもよい。
【0029】
本発明の方法により製造された生分解性プラスチック分解酵素の分子量をSDS電気泳動法により測定すると、約22〜28kDaの分子量を示す。
また、本発明の方法により製造された酵素はPBSおよび/またはPBSAの分解活性を示す。精製された生分解性プラスチック分解酵素の活性は、例えば、PBSAエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液1.8mlを口径13mmの試験管に入れ、粗酵素液や、微生物培養上清液を200μl加え、Spectronic20A(島津)等の装置を用いて吸光度を測定することにより判定することができる。
また、P. antarctica JCM10317より精製された本発明の生分解性プラスチック酵素は、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む。タンパク質が生分解性プラスチック分解活性を有する限り、アミノ酸の1もしくは数個が欠失、置換もしくは付加されていてもよい。
さらに、ポリ乳酸(PLA)エマルジョンを含む平板培地および液体培地上で用いて試験をすると、前記酵素はポリ乳酸分解活性を有する。ポリ乳酸の分解活性は、例えば、ポリ乳酸(ミヨシ油脂:ランディ PL-1000(粒子径4.3μm)、ランディ PL-2000(粒子径2.3μm))のエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液に、微生物培養液の硫安沈殿物の透析液を加え、Spectronic20A(島津)などを用いて吸光度を測定することにより測定できる。また、前記ポリ乳酸のエマルジョンを含む平板培地上で、ポリ乳酸エマルジョンを溶解して透明ゾーンを形成することにより確認することも可能である。
【0030】
また、本発明の方法の工程2でスクリーニングされた微生物を含む、生分解性プラスチック分解製剤を製造することができる。微生物を含む本発明の生分解性プラスチック分解製剤は当業者は周知の方法により作製することができ、微生物単独であってもよいし、周知の溶媒、添加剤などと混合することもできる。
【0031】
また、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、本発明のポリヌクレオチドを組み込んだベクターを適切な宿主細胞に形質転換する工程、および、前記ポリヌクレオチドを発現させる条件下で前記宿主細胞を培養する工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法により、生分解性プラスチック分解酵素を得ることができる。ベクター導入による遺伝子発現に適したベクターおよび宿主細胞の組み合わせは当該技術分野に知られており、本発明に使用されるベクターおよび宿主細胞も当業者が適宜選択することが可能である。例えば、宿主細胞としては酵母、麹菌などの糸状菌、大腸菌などが挙げられ、その中でもSaccharomyces cerevisiae、Kluyveromyces lactisおよびPichia pastorisなどの酵母が好ましい。また、上記の酵母を宿主細胞として使用する場合、発現ベクターとしては出芽酵母発現ベクターpYES2.1(インビトロジェン社)およびプラスミドPEPGK41あるいは染色体導入用ベクターなどを使用することができる。また、培養条件は、前記ベクターおよび宿主細胞の種類に応じて培地の組成、培養温度を決定することができる。例えば、前記の酵母を用いた場合、Wickerhamの合成培地で、25〜40℃、好ましくは30℃で培養することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
生分解性プラスチック分解菌の分離:
始めに、寒天平板培地上でPBSAエマルジョン(分子量約1万、1%)分解菌を選抜し、次に、これらの菌から、PBSAおよびPBSのマルチフィルム(分子量約14-15万、厚さ2ミクロン)を分解する菌を選抜する、2段階のスクリーニング法を使用した。
【0033】
(生分解性プラスチック分解酵母のスクリーニング)
酵母用誘導型酵素生産株選択培地(FMM: Fungi Minimum Medium)
下層
上層B
9cmシャーレに約15mlの下層平板培地を作り、固まった後に45℃のインキュベーター内に保存した。その間に、スターラーを入れた三角フラスコ内で溶解・殺菌した上層Bを約5ml重層した。このとき、上層Bはスターラーで撹拌し、油が均一に混ざるようにした。抗生物質としてクロラムフェニコールを最終濃度で40ppm加えた。
【0034】
まず、植物の葉の表面に生息できるPseudozyma属酵母8株(P. antarctica JCM3941(分離源:玄米)、P. aphidis JCM10318、P.fusiformata JCM3931(分離源:カリフラワー)、P. parantarctica JCM11752、P. plolifica JCM 10319(分離源:ヒメクロアブラガヤ)、P. ruglosa JCM10323(分離源:トウモロコシ葉)、P. thailandica JCM11753、P. tsukubaensis JCM10324(分離源:花)、および酵母Cryptococcus luteolus NBRC0411株を、PBSAエマルジョンを含む培地(FMM, FMZ(組成は後述する), Malt Agar(Difco社製))に植菌したところ、6株がFMM培地上でPBSAを溶解した。PBSAを溶解したことの判定は、平板培地上層に含まれるエマルジョンを分解して、菌の周囲にクリアゾーンを形成することを確認することにより行った。
その後入手した株も含めてPseudozyma属10株(P. antarctica JCM3941、P. antarctica JCM 10317、P. aphidis JCM10318、P. floculosaJCM10321(分離源:アカクローバー)、P.fusiformata JCM3931、P. parantarctica JCM11752、P. plolifica JCM 10319、P. ruglosa JCM10323、P. thailandica JCM11753、P. tsukubaensis JCM10324)とCryptococcus luteolus NBRC0411株をFMM培地上に塗布し、30℃で培養した翌日、菌が生育した表面にPBSAおよびPBS製のマルチフィルム(2μm、2cm画のフィルムとしたもの)を置き、30℃に保温した。1週間後に膜を剥がした結果、P. antarctica JCM10317, P. antarctica JCM3941, P. ruglosaJCM10323およびP. parantarcticaJCM11752株が、高い分解活性を示した。
分解活性が高かった4株(P. antarctica JCM10317, P. antarctica JCM3941, P. ruglosaJCM10323およびP. parantarcticaJCM11752株)について、同様に実験をし、毎日1枚ずつ各マルチフィルムをはがして、分解された程度を観察した(図1)。
また、水田の2箇所から採集したイネから酵母を実際に採取し、同様にFMM培地上においてスクリーニングを行ったところ、PBSAエマルジョンを分解した酵母を各1株ずつ分離した。この酵母は両方ともPBSAおよびPBS製のマルチフィルを分解した。なお、これらの酵母はrDNA塩基配列からP. antarcticaと同定された(イネ分離菌A、B)。
【0035】
以上のように、植物からは、生分解性プラスチック分解能力が高い微生物が高頻度に分離することができた。Pseudozyma属酵母の多くは、植物表面の常在菌として分離されることが判明した。健康な植物の葉や果実、花の表面に生息できる酵母等の微生物に、生分解性プラスチック分解能力を示すものが多く含まれることが明らかになった。
【0036】
酵素の活性測定と精製
酵素精製方法:
FMM液体培地(炭素源6%グルコース)50mlを500ml容三角フラスコに入れ、P. antarctica JCM10317株、P.parantarctica JCM11752、またはイネから分離したP. antarctica2株をPDA(ポテトアガロースアガー、ディフコ社)スラントから1白金耳植菌し、30℃ 200rpm/minで17時間回転振とう培養した。この種母培養液500μlを、FMM液体培地(炭素源1%大豆油または6%グリセロール:いずれも和光純薬)50ml中に植菌し、500ml容三角フラスコ内で30℃ 200rpm/minで回転振とう培養した。培養液を採集し、遠心して菌体を除去した上清について、PBSA分解活性を測定した。
酵素活性判定方法は、PBSAエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液1.8mlを口径13mmの試験管に入れ、微生物培養上清液を200μl加え、Spectronic20A(島津)を用いて吸光度を測定するものであった。試験管を30℃ 120rpmで振とうし、一定時間ごとに取り出して、吸光度の増加量を測定し、酵素活性とした。
吸光度(OD660)が、初期(約0.5)から、1時間後に0.3前後の範囲に低下した培養液には精製に充分な量の酵素が分泌されたとして、次の工程に進んだ。
【0037】
培養液を室温で10000g 15分間遠心して、菌体と培養上清液を分離した。培養上清液に、50%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、溶解した。4℃で17時間静かに攪拌した後に、4℃で25000g 15分間遠心し、沈殿を回収した。沈殿を20mM Tris-HClバッファーに溶解した。溶解液を透析チューブ(spectrapor MWCO 12000-14000)に密封して、20mM Tris-HClバッファーで透析したものを粗酵素液とした。
P. antarctica JCM10317株の粗酵素液を用いて、酵素の精製を進めた。
【0038】
培養液6Lから粗酵素液3mlが得られた。粗酵素液3mlを限外ろ過(クラボウ、セントリカット超ミニ、分画1万)で500μlに濃縮した。これを50mM Tris-HCl (pH6.8)で平衡化したDEAE sepharose カラムとSP sepharoseカラム(共にGEヘルスケアバイオサイエンス)に供した。それらから得られた活性のある画分1.5mlを、限外ろ過(クラボウ、セントリカット超ミニ、分画1万)で濃縮し、夾雑物を除いて酵素液を100μlにした。ゲルろ過カラム(東ソー社 TSK-gel G3000SWXL、流速0.5mL/min、検出波長220nm)を、0.3M NaClを含む50mM Tris-HCl (pH6.8)で平衡化した。これに濃縮したサンプル100μlのうち80μlを注入し、溶出液を0.5mLずつ30本回収し、各画分の活性を測定した。
リテンションタイム23.391分に波長のピークが検出された。また、23.00分〜26.99分の間に得た画分に明らかな活性が認められ、そのうち24.00分から24.99分と、25.00分から25.99分の画分が最も高い活性を示した。図2に各クロマトグラフィー工程後のPBS分解活性を示す。
【0039】
上記の通り精製された生分解性プラスチック分解酵素をSDS−PAGEにより確認した(図3)。SP吸着画分にバンドが2本確認されるが、油培養液既に報告がある複数のクチナーゼの大きさが皆20-30kDであること、および、培養条件を変更した場合のバンドの濃さと酵素活性との比較などから、分子量が小さい方(22〜28kDa)が、目的の酵素と推定した。さらにゲル濾過によって精製を進めた。画分1,2はともにSDS-PAGEにて1本のバンドになった。この画分の酵素活性を測定したところ、活性が確認された(図2)ことから、本酵素は分子量22〜28kDaの蛋白質であると同定した。
【0040】
また、P. parantarctica JCM11752株およびイネ分離菌Aについて、液体培地に加える炭素源を変えて目的の酵素の誘導を確認したところ、生分解性プラスチック分解活性を示す酵素は、大豆油やグリセロールを含む培地で効率よく誘導されることが確認された(図4)。
【0041】
また、上記のP. antarctica JCM10317株グリセロール6%−FMM培養液上清から精製した生分解性プラスチック分解酵素の内部アミノ酸配列を決定した。
前記酵素をトリプシンで分解し、以下の条件のHPLCカラムで分離したもののうち、1番2番、および3番のピークN末端配列を特定した(図5参照)。
HPLC条件
1番:IVAQVK(配列番号:1)
2番:XAXGXANIVAQV(配列番号:2)
3番:XTSEPQGPSVGF(配列番号:3)
(Xは同定されず。ただし、2番5位のアミノ酸はTであり得る。)
【0042】
酵素がPBSAエマルジョンおよびPBSA膜を分解する例
P. antarctica JCM10317, P. parantarctica JCM11752およびイネから分離したP. antarctica2株の培養液50mlを硫安沈殿し、沈殿の20mM Tris-HClバッファーpH6.8透析液を粗酵素として用いた場合、いずれもPBSAエマルジョンを溶解する活性が確認された(図6)。また、SDS-PAGEゲル電気泳動の結果、いずれの菌からもP. antarctica JCM10317と同じ分子量に蛋白質のバンドを確認した。PBSA(昭和高分子 ビオノーレPBS3020)100mgをジクロロメタン5mlに溶解し、ドラフト内でガラスシャーレ(口径9cm)に展開し、ジクロロメタンを蒸発させ、PBSAの膜を作成した。この膜を1cm2に切断した。この膜を2mlの20mM Tris-HClバッファーpH6.8および、粗酵素液50μl存在下に添加し、30℃、50rpmで5日間振とうした。その結果、得られた酵素活性量に応じて、PBSAの膜を分解することが確認された。
【0043】
前記のP. antarctica JCM10317株由来プラスチック分解酵素の全アミノ酸配列および遺伝子配列を同定するためにさらに解析を行った。
前述の通りに酵素を精製し、そのN末端アミノ酸配列を調べたところ、AG*SSYVIINT(配列番号:4)の配列が得られた。また、内部アミノ酸配列を調べたところ、さらに以下の配列が得られた。
IVAQVK
*A*G*ANIVAQV
*TSE(P/T)QGPSVGF
AG*SSYVIINTR***(配列番号:5)
GVILIGNPEHKPNLA*NVDG(配列番号:6)
SAVSGGSEYDTVYPAGIDQN(配列番号:7)
GISAAFTQGVPSNWVSK***(配列番号:8)
【0044】
上記のうち、AG*SSYVIINTR***およびGISAAFTQGVPSNWVSK***の配列(* は同定不能なアミノ酸を示す)をもとに、プライマーPaE3F (5'-tacgtSatcatcaacacVcg-3')(配列番号:9)およびPaE6R (5'-gacgccctgBgtgaaNgc-3')(配列番号:10)を合成した。一方、P. antarctica JCM10317株が生プラ分解酵素を生産している条件下で、ホットフェノール法を用いてRNAを抽出し、Oligotex dT30(タカラバイオ株式会社)を用いてmRNAを精製した。抽出したmRNAを鋳型にし、設計したプライマー配列 (PaE3, PaE6R)をもとに、Prime Script RT-PCRキット(タカラバイオ株式会社)を用いて、RT-PCR反応を行った結果、約370ntの増幅断片(PaE3F-PaE6R増幅断片)が得られた。PaE3F-PaE6R増幅断片の塩基配列を解読し、結果をもとにプライマーPaE134R (5'-atgcgggtgttcatggtgcg-3')(配列番号:11)およびPaE308F(5'-atgcccttcctcagcttactg-3')(配列番号:12)を合成した。次に、PaE3F-PaE6R増幅断片をプローブに用いて、P. antarctica JCM10317株のゲノミックサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、制限酵素BamHIで消化した染色体DNAにハイブリダイズしたバンドが1本検出され、該当遺伝子は染色体中に1本であることが推測された。
【0045】
インバースPCR法を用いて、目的遺伝子を単離した。BamHIで消化した染色体DNAをセルフライゲーション反応で環状化したものを鋳型にし、プラーマーPaE308FとPaE134Rを用いてPCRをした。1本のPCR増幅断片をTAベクターにクローニングし、塩基配列を解読した。その結果、クローニングされたDNA断片(配列番号:13)の中に、生プラ分解酵素の全遺伝子配列が含まれていた。アミノ酸配列に置換した後、N末端アミノ酸配列の結果をもとにORFと分泌された酵素の配列(配列番号:14)を決定した。
【0046】
さらに、上記のP.antarctica JCM10317から得た生プラ分解酵素のDNA配列およびアミノ酸配列と相同性が高い既登録配列を、国立遺伝研究所内DNA data bank of Japan (DDBJ)でBLAST search法を用いて検索をした。検索条件は、検索条件 上位10件 期待値10 ギャップ1 フィルター1 とした。「DNA-DNA比較」、「アミノ酸配列-アミノ酸配列比較」、「DNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA配列」の、3つの方法で比較した。その結果、各々の検索で最も高い相同性を示したものは、「DNA-DNA比較」ではCS406466|CS406466.1 Sequence 36 from Patent WO2006042156 score:46 E-value: 0.087、「アミノ酸配列-アミノ酸配列比較」ではtr|Q4PBK7|Q4PBK7_USTMA Putative uncharacterized protein score:286 E-value:6e-76、「DNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA配列」ではEA136855|EA136855.1 Sequence 1170 from patent US 7214786. score 294 E-value 2e-77 であった。以上より、今回特定されたDNA配列およびアミノ酸配列は、既知遺伝子配列やアミノ酸配列とは異なる新規の配列であることが推測された。
【0047】
次いで、上記により分離した遺伝子が、プラスチック分解酵素であることを確認するために、異種酵母における遺伝子発現を試みた。インバースPCR法で得た配列をもとに、プライマーPaE-20F (CCCTTCCGATCTATCTCAAGA)(配列番号:15)、PaE+16R (ATGGACGAGGCTACGATCTG)(配列番号:16)を設計し、P. antarctica JCM10317株の染色体DNAを鋳型に用いてPCR法で遺伝子を増幅させた。増幅した断片を、出芽酵母発現ベクターpYES2.1(インビトロジェン社)にクローニングし、出芽酵母BY4741株に形質転換した。このプラスミドはガラクトースで誘導されるGAL1プロモーター下流に目的遺伝子が挿入される。このプラスミドを形質転換した出芽酵母は、ガラクトースを添加した合成培地でPBSAエマルジョンを溶解し、グルコースでは溶解しなかった(図11)。また、Kluyveromyces lactisの中で構成的に発現するプラスミドPEPGK41にクローニングし、K. lactis MW98-8C株に形質転換した場合は、構成的にPBSAエマルジョンを溶解した(同上)。以上の結果から、クローニングした遺伝子は、プラスチック分解酵素の遺伝子であることが確認された。
【0048】
ポリ乳酸分解試験
前述の酵素活性測定方法に基づいて、上記のP. antarctica JCM10317株の生分解性プラスチック分解酵素のポリ乳酸(PLA)分解活性を調べた。具体的には、ポリ乳酸(ミヨシ油脂:ランディ PL-1000(粒子径4.3μm)、ランディ PL-2000(粒子径2.3μm))のエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液1.98mlを口径13mmの試験管に入れ、P. antarctica JCM10317株の硫安沈殿物の透析液を20μl加え、Spectronic20A(島津)を用いて吸光度を測定するものであった。試験管を30℃120rpmで振とうし、一定時間ごとに取り出して、吸光度の増加量を測定し、酵素活性とした。その結果、前記酵素はポリ乳酸も分解することが判明した(図7、8)。
【0049】
FMM培地にポリ乳酸(ミヨシ油脂:ランディ PL-2000(粒子径2.3μm))のエマルジョン1%のみ、またはポリ乳酸1%および大豆油1%、またはポリ乳酸1%およびグリセロール6%を含む1.5%寒天培地を重層した平板培地3種類を作成し、この上にPseudozyma属酵母9株を植菌し、30℃で保温した。ポリ乳酸エマルジョンを溶解して、透明ゾーンを形成した株は、3種類全ての培地で、P. antarctica(JCM10317, JCM3941)および、イネから分離したP. antarctica、グリセロールを含む培地でのみP. tsukubaensis JCM10324であった(図9)。
ポリ乳酸は生物素材由来のプラスチックではあるものの、一般に生分解性がとても低く、特に常温でポリ乳酸分解活性を有する微生物はほとんど知られていない。しかしながら、本発明の方法によりスクリーニングされた酵母には、高頻度でポリ乳酸を常温で分解する酵素を製造するものが含まれることが分かった。
【0050】
さらに、P. antarctica JCM10317およびP. tsukubaensis JCM10324の株から精製された酵素による、ポリ乳酸フィルムの分解を確認した。P. antarctica JCM10317, JCM3941, イネから分離したP. antarctica2株、およびP. tsukubaensis JCM10324株を、FMM培地に1%ポリ乳酸エマルジョン(ランディ PL-2000)とグリセロール(6%)を含む1.5%寒天培地を重層した平板培地に植菌し、30℃で一夜培養した。この上にポリ乳酸膜1cm画[テラマック水切りゴミ袋(ユニチカ通商:ポリ乳酸繊維97%、生分解性ポリウレタン3%) 0.1gをジクロロメタン3mlで溶解し、ガラスシャーレ(9cm口径)に展開してドラフト内で溶媒を揮発させ、ポリ乳酸膜を自作した。]を置き、30℃に保温した。3,6,10,14日目に膜を剥がして、膜の分解程度を観察したところ、P. antarctica JCM10317株とP. tsukubaensis JCM10324株が高い分解活性を示した。用いた膜はポリウレタンも含むが、培養開始二週間後には膜は明らかに半分以上分解されており、本菌はポリ乳酸を分解することが確認された。(図12)。
【0051】
(生分解性プラスチック分解糸状菌の分離)
生分解性プラスチックを分解する糸状菌のセレクションは、以下の培地を使用し、酵母の場合と同様に行った。
糸状菌用誘導型酵素生産株選択培地(FMZ: Czapek-Dox Minimum Medium)
下層
上層B
酵母用の選択培地と同様に平板培地を調製した。抗生物質としてクロラムフェニコールを最終濃度40ppmで加えた。
【0052】
既に発明者がイネやムギ葉面から分離・同定をし、保存していた糸状菌を、PBSAエマルジョンによるセレクションに供した。FMZ培地にエマルジョンを重層した培地を用いて1227株の供試菌から71株のエマルジョン分解能力を持つ菌を分離した。それらの内訳は、コムギから分離された539菌株からは26菌株、オオムギからは380菌株で27菌株、イネからは308菌株で17菌株が選抜された。各種試料から分離されたプラスチックエマルジョン分解菌を二次選抜でPBSAおよびPBSマルチフィルムの分解能を調べたところ、このうち50株は、PBSA製マルチフィルムのみ分解したが、PBS製、PBSA製両方のマルチフィルムを分解する菌を21株分離した。
一方、各種の葉や果実表面、土壌、土壌中に埋蔵してあった生分解性プラスチックから、スクリーニングマニュアルに従って生分解性プラスチック分解微生物を分離し、64株のエマルジョン分解能力を持つ菌を得た。このうち二次選抜で、37株は、PBSA製マルチフィルムのみ分解したが、PBS製、PBSA製両方のマルチフィルムを分解する菌を20株分離した。これらプラスチックエマルジョン分解菌のうち、64株について、形態学的観察と、rDNA塩基配列のITS領域の配列の解析を行い、以下の表に示すようなCladosporium属、Penicillium属およびAlternaria属などの糸状菌を同定した。
両フィルムでは分解量に違いが認められ、PBSAにわずかでも分解能を示す菌株の総数は87菌株で、PBSにわずかでも分解能を示す菌株は41菌株であった。
表1:生分解性プラスチック分解活性を示した糸状菌の属名と分離された菌の数
上記のうち、具体的にAlternaria alternata、Cladosporium cladosporioides、Cladosporium oxysporum、Penicillium pinophilumなどの糸状菌が同定された。
【0053】
Leptosphaeria sp.(菌株名 44-2)について、クリアゾーン形成菌株の培地におけるPBSおよびPBSA分解および分解程度の解析を行った(図10)。フィルム溶解度はPBSAフィルムについて分解度48.3%、PBSフィルムについて34.9%であった。
解析は以下の方法に従って行った:
「透過原稿ポジフィルムモード300dpiで膜をスキャンする。解析にはAquacosmos ver2.0を用い、画像をTIFFファイル(グレースケール)で保存する。Aquacosmos上でファイルを開き、計測ウインドウでツールバーを選択して、ドラッグでプラスチック膜の絵を一枚囲う。「前回と同じ計測ウインドウを作成」を選んで、取り込んだ画像上の全ての膜を、同じ大きさの独立した計測ウインドウとして選定する。(この時に未処理の膜および、膜のない白色に抜けた場所も、コントロールとして同じように囲う。)解析メニュー内の「領域解析」から各領域の輝度の計算を行う。コントロールをもとに、膜の分解量を計算する。」
(計測した膜の輝度−未分解膜の輝度)/(白い画面の輝度−未分解膜の輝度)X100=分解(%)
【0054】
(生分解性プラスチック分解細菌の分離)
生分解性プラスチックを分解する細菌のセレクションは、以下の培地を使用し、酵母の場合と同様に行った。
構成型酵素生産株選培地(NA)
下層
上層A
酵母用の選択培地と同様に平板培地を調製した。抗生物質としてシクロヘキシミドを最終濃度50ppmで加えた。
【0055】
つくば市農環研圃場のイネなどの葉面から洗浄法により細菌を分離した保存菌を用いた。NA-PBSA培地に供試菌を移植し、生育にともなってクリアゾーンを形成する菌株を分解菌として一次選抜した。二次選抜として殺菌したPBSAおよびポリブチレンサクシネート(PBS)マルチフィルムをNA培地に置床し、プラスチック膜分解能を調査した。その結果、イネから分離された保存菌488菌株からは構成的にPBSAエマルジョンを分解する細菌8株と誘導的に分解する20株が得られた。
各種試料から分離されたプラスチック分解菌を二次選抜で、2%酵母エキス(Difco社)溶液にPBSマルチフィルムを入れて振とう培養し、分解能を調べたところ、6株がPBSフィルムの分解能を示した。この中で活性が高い株の内1株は、rDNA塩基配列から、Bacillus pumilusと同定された。
【0056】
(昆虫からの生分解性プラスチック分解微生物分離例)
柑橘類シキキツ果実表面にいたショウジョウバエ2個体を採集し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)とビーズと共に適当な容器に入れ、冷却しつつ1500rpmで振とうする方法で、付着または消化管中の微生物を抽出した。この抽出液を、前述の方法に従い、PBSAエマルジョンおよび大豆油各1%を重層したFMMまたはFMZ培地に塗布した。クリアーゾーンを形成した菌を分離し、前述の方法に従ってPBS及びPBSAフィルム分解活性を調べたところ、FMM培地で分離したGalactomyces geotrichumがPBSA膜のみを、FMM培地で分離したAcremonium属は、PBSAおよびPBSフィルムを効率よく分解した。菌は、rDNAの塩基配列および形態学的観察から同定した。
関東地方の5地点において、リグニン含有率の高い褐色腐朽材から鞘翅目クワガタムシ科の甲虫2種(マダラクワガタ、ネブトクワガタ)の幼虫を多数採集した。これら2種の幼虫は褐色腐朽材特異的に得られた。クワガタムシ類幼虫の消化管(中腸および後腸)と体表面のそれぞれから、微生物を好気的に培養した。前述の方法に従い、PBSAエマルジョンを栄養源とする培地を用いて、各微生物のPBSA分解能を調べたところ、マダラクワガタの中腸およびネブトクワガタの中腸から、PBSA分解能を持つ細菌をそれぞれ2および11菌株分離した。また、マダラクワガタの中腸、ネブトクワガタの体表面および中腸からPBSA分解能を持つ真菌をそれぞれ1、2および1菌株分離した。これらの細菌および真菌に対し、前述の方法に従ってPBSマルチを用いてPBS分解能を調べたところ、ネブトクワガタの中腸由来の真菌1菌株が高い分解能を示した。この真菌は、18SrDNAの塩基配列からPhaeosphaeriopsis属の真菌と同定された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】酵母による生分解性プラスチックフィルム分解を示す(上段:PBSA、下段:PBS、数字は日数)。
【図2】P. antarctica JCM10317株の生分解性プラスチック分解酵素の各クロマトグラフィー工程後のPBS分解活性を示す。
【図3】P. antarctica JCM10317株の生分解性プラスチック分解酵素のゲルろ過画分のSDS−PAGE電気泳動図を示す。
【図4】P. parantarctica JCM11752株およびイネ分離菌A(P. antarctica)の生分解性プラスチック分解酵素が、グリセロールまたは大豆油を含む培地で誘導されることを示す(SDS−PAGE14.1% Gel、銀染色)。
【図5】P. antarctica JCM10317株から精製された生分解性プラスチック分解酵素をトリプシンで分解し、HPLCで分離した際のクロマトグラムを示す。
【図6】Pseudozyma属酵母の酵素によるPBSAエマルジョンの分解を示す。
【図7】P. antarctica JCM10317株から精製された生分解性プラスチック分解酵素によるポリ乳酸の分解の写真を示す。
【図8】P. antarctica JCM10317株から精製された生分解性プラスチック分解酵素によるポリ乳酸分解による濁度の減少を示す。
【図9】本発明によりスクリーニングされた様々な微生物による、ポリ乳酸(PLA)の分解を示す。
【図10】糸状菌Leptosphaeria sp.(菌株名 44-2)について、クリアゾーン形成菌株の培地におけるPBSおよびPBSAフィルムの分解を示す。
【図11】P. antarctica JCM10317株より分離された遺伝子を発現させた異種酵母によるPBSAエマルジョンの溶解を示す。+/−は遺伝子導入の有無を示す。
【図12】P. antarctica JCM10317およびP. tsukubaensis JCM10324株から精製された酵素による、ポリ乳酸フィルムの分解を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
1)植物の葉の表面に生息できる酵母、糸状菌または細菌から採取されたスクリーニング用サンプルを準備する工程、
2)前記酵母、糸状菌または細菌から、生分解性プラスチックを分解するものをスクリーニングする工程、
3)前記スクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
4)培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程。
【請求項2】
酵母がPseudozyma属またはCryptococcus属の酵母である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
酵母がP.antarctica JCM10317、P.antarctica JCM3941、P.ruglosaJCM10323、P. tsukubaensis JCM10324またはP.parantarctica JCM11752である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
糸状菌がAcremonium属、Alternaria属、Aspergillus属、Aureobasidium属、Cladosporium属、Epicoccum属、Fusarium属、Leptosphaeria属、Penicillium属またはPhoma属の糸状菌である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
糸状菌が、Alternaria alternata、Cladosporium cladosporioides、Cladosporium oxysporum、Penicillium pinophilumである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細菌がBacillus pumilusである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
生分解プラスチックがPBSまたはPBSAである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
植物の葉がムギまたはイネの葉である、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
培地がグリセロールを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法により得られる生分解性プラスチック分解酵素。
【請求項11】
配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含み、分子量がSDS電気泳動法で約22〜28kDaであり、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質。
【請求項12】
さらにPLA分解活性を有する、請求項11記載のタンパク質。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか1項記載の生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質と生分解性プラスチックとを接触させることを含む、生分解性プラスチックを分解する方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法の工程2でスクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を含む、生分解性プラスチック分解製剤。
【請求項15】
配列番号:13の501〜1172位の塩基配列によりコードされるポリペプチド。
【請求項16】
配列番号:14に示されるアミノ酸配列または該配列と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質。
【請求項17】
配列番号:14に示されるアミノ酸配列または該配列と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列からなる、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質。
【請求項18】
配列番号:14に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
【請求項19】
配列番号:13の501〜1172位の塩基配列により表される、請求項18記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
請求項16または17に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、請求項18または19に記載のポリヌクレオチドを組み込んだベクターを適切な宿主細胞に形質転換する工程、および、前記ポリヌクレオチドを発現させる条件下で前記宿主細胞を培養する工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項1】
以下の工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
1)植物の葉の表面に生息できる酵母、糸状菌または細菌から採取されたスクリーニング用サンプルを準備する工程、
2)前記酵母、糸状菌または細菌から、生分解性プラスチックを分解するものをスクリーニングする工程、
3)前記スクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
4)培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程。
【請求項2】
酵母がPseudozyma属またはCryptococcus属の酵母である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
酵母がP.antarctica JCM10317、P.antarctica JCM3941、P.ruglosaJCM10323、P. tsukubaensis JCM10324またはP.parantarctica JCM11752である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
糸状菌がAcremonium属、Alternaria属、Aspergillus属、Aureobasidium属、Cladosporium属、Epicoccum属、Fusarium属、Leptosphaeria属、Penicillium属またはPhoma属の糸状菌である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
糸状菌が、Alternaria alternata、Cladosporium cladosporioides、Cladosporium oxysporum、Penicillium pinophilumである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細菌がBacillus pumilusである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
生分解プラスチックがPBSまたはPBSAである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
植物の葉がムギまたはイネの葉である、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
培地がグリセロールを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法により得られる生分解性プラスチック分解酵素。
【請求項11】
配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含み、分子量がSDS電気泳動法で約22〜28kDaであり、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質。
【請求項12】
さらにPLA分解活性を有する、請求項11記載のタンパク質。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか1項記載の生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質と生分解性プラスチックとを接触させることを含む、生分解性プラスチックを分解する方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法の工程2でスクリーニングされた酵母、糸状菌または細菌を含む、生分解性プラスチック分解製剤。
【請求項15】
配列番号:13の501〜1172位の塩基配列によりコードされるポリペプチド。
【請求項16】
配列番号:14に示されるアミノ酸配列または該配列と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質。
【請求項17】
配列番号:14に示されるアミノ酸配列または該配列と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列からなる、PBSおよびPBSA分解活性を有するタンパク質。
【請求項18】
配列番号:14に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
【請求項19】
配列番号:13の501〜1172位の塩基配列により表される、請求項18記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
請求項16または17に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、請求項18または19に記載のポリヌクレオチドを組み込んだベクターを適切な宿主細胞に形質転換する工程、および、前記ポリヌクレオチドを発現させる条件下で前記宿主細胞を培養する工程を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【図2】
【図5】
【図6】
【図8】
【図1】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図8】
【図1】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−237212(P2008−237212A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23030(P2008−23030)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月2日 「社団法人 日本生物工学会」発行 「第59回日本生物工学会大会講演要旨集」 第183頁
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月2日 「社団法人 日本生物工学会」発行 「第59回日本生物工学会大会講演要旨集」 第183頁
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】
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