説明

生化学測定装置

【課題】ある測定から次の測定を行うまでの待機時間を短縮する生化学測定装置を提供する。
【解決手段】 基準液に接触したセンサ電極に所定電位を印加して生じるベース電流を測定し、被測定試料液に接触したセンサ電極に所定電位を印加して生じるピーク電流を測定するための測定手段と、センサ電極が基準液に接触後ベース電流の測定開始までの経過時間を計測する計時手段と、ベース電流の電流値とピーク電流の電流値とに基づき特定物質の濃度を取得する制御手段と、を備え、経過時間が定常化時間以上である場合は、制御手段は、ベース電流の電流値を用いて特定物質の濃度を取得し、経過時間が定常化時間よりも短い場合は、制御手段は、ベース電流の電流値に代えて、経過時間が定常化時間以上の場合に測定手段が測定した定常ベース電流値を用いて、特定物質の濃度を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質を含む被測定試料液中に含まれる特定物質の濃度を測定する生化学測定装置に関し、特に、特定物質の濃度を連続して測定する際の待機時間を短縮できる生化学測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被測定試料液中に含まれる特定物質の濃度を測定する生化学測定装置が利用されている。生化学測定装置の一つとして、特許文献1は、電流検出型の化学センサであるグルコースセンサにより、被測定試料液である尿に含まれる特定物質すなわち尿糖値(グルコース濃度)を測定する尿糖計を開示する。例えば2電極式のグルコースセンサは、絶縁性基板上に一対の導電性電極(作用極、対極)を配置し、導電性電極には、酵素(グルコースオキシダーゼ)膜が形成される。
【0003】
このグルコースセンサは、被測定試料液中で以下のような化学反応が起きる。グルコースオキシダーゼの作用により、被測定試料液中のグルコースが酸化し、酸素が過酸化水素に還元されて、グルコノラクトンと過酸化水素が生成される。このときに、前記電極(作用極及び対極)に電圧が印加されることにより、作用極上で過酸化水素の酸化反応が生じて電子が生成され、作用極から対極に酸化電流が流れ、これを酸化電流値として測定する。過酸化水素の生成量はグルコース量に比例するので、過酸化水素の酸化電流値が分かれば、尿糖(グルコース)の濃度を測定することができる。
【0004】
従って、尿糖計を用いて尿糖値を測定する場合、尿糖を含まない保管液中に浸漬された状態の両電極(作用極及び対極)間に定電位を印加することで流れるベース電流のベース電流値と、被測定試料液中で両電極(作用極及び対極)間に定電位を印加し両電極間に流れる酸化電流のピーク電流値との差分に基づき尿糖濃度が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−297120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記一対の電極間に所定電位を印加すると、電気二重層の形成により両電極の表面に電荷が蓄積される。この電気二重層の影響を排除するため、続けて尿糖計により尿糖値の測定を行う場合には、先の測定が終了し、尿糖計の電極を保管液に浸漬してから、尿糖濃度がゼロを示す定常電流値にベース電流値が戻るまでの待機時間(例えば3分)が経過した後に、尿糖計による測定を再び開始する必要があった。結果として、測定される被測定試料液が複数ある場合や、一度目の尿糖値の測定が失敗であった場合には、待機時間の経過を待って測定を開始する必要があった。
【0007】
そこで、本発明は、一度測定を行ってから次の測定を行うまでの待機時間を短縮できる生化学測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、電解質を含む被測定試料液中の特定物質の濃度を測定する生化学測定装置であって、基準液に接触したセンサ電極に所定電位を印加して生じるベース電流を測定し、前記被測定試料液に接触した前記センサ電極に前記所定電位を印加して生じるピーク電流を測定するための、測定手段と、前記センサ電極が前記基準液に接触後、前記ベース電流の測定開始までの経過時間を計測する計時手段と、前記ベース電流の電流値と前記ピーク電流の電流値とに基づき、前記特定物質の濃度を取得する制御手段と、を備え、前記経過時間が、前記特定物質が基準濃度であることを示す定常ベース電流値にまで前記ベース電流の電流値が戻るのに要する定常化時間以上である場合は、前記制御手段は、前記ベース電流の電流値を用いて前記特定物質の濃度を取得し、前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合は、前記制御手段は、前記ベース電流の電流値に代えて、前記経過時間が前記定常化時間以上の場合に前記測定手段が測定した定常ベース電流値を用いて、前記特定物質の濃度を取得することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の生化学測定装置によれば、前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合は、前記制御手段は、前記ベース電流の電流値に代えて、前記経過時間が前記定常化時間以上の場合に前記測定手段が測定した定常ベース電流値のうち最新のデータを用いて、前記特定物質の濃度を取得することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の生化学測定装置において、前記測定手段が測定する前記ベース電流は、第1測定工程前に前記基準液に接触した前記センサ電極に所定電位を印加して生じる第1ベース電流と、第1測定工程後に前記基準液に接触した前記センサ電極に所定電位を印加して生じる第2ベース電流と、を含み、前記測定手段が測定する前記ピーク電流は、第1測定工程における被測定試料液に接触した前記センサ電極に前記所定電位を印加して生じる第1ピーク電流と、第1測定工程後に行われる第2測定工程における被測定試料液に接触した前記センサ電極に前記所定電位を印加して生じる第2ピーク電流と、を含み、前記計時手段が計測する前記経過時間は、前記第1測定工程後、前記センサ電極が前記基準液に接触してから前記第2ベース電流の測定開始までの経過時間であって、前記経過時間が、前記第1ベース電流値にまで前記第2ベース電流の電流値が戻るのに要する定常化時間以上である場合は、前記制御手段は、前記第2ベース電流の電流値と前記第2ピーク電流の電流値とを用いて前記第2測定工程における被測定試料液の特定物質の濃度を取得し、前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合は、前記制御手段は、前記第1ベース電流の電流値と前記第2ピーク電流の電流値とを用いて、前記第2測定工程における被測定試料液の特定物質の濃度を取得することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の生化学測定装置は、前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合に前記測定手段が測定した前記第2ベース電流の電流値よりも、前記第2ピーク電流の電流値が小さいときに、使用者に注意喚起を行う報知手段を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の生化学測定装置によれば、前記センサ電極はセンサホルダの一端側に設けられ、前記センサホルダの他端側はヒンジ部を介して本体に連結されることによって、前記センサホルダが前記本体に対して伸ばされる第1状態と、前記センサホルダが前記本体に対して折り畳まれる第2状態と、の間で回動可能に構成されており、前記計時手段は、前記センサホルダが前記第1状態から第2状態とされたときに、前記センサ電極が前記基準液に接触したものとして、前記経過時間の計時を開始することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の生化学測定装置によれば、前記被測定試料液は尿であり、前記特定物質は尿糖であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、先の被測定試料液の特定物質の濃度を測定してからの経過時間が、定常化時間を経過する前である場合には、定常化時間を経過したときに取得され、特定物質の濃度がゼロであることを示す定常ベース電流値に基づいて特定物質の濃度を測定する構成である。よって、測定されるベース電流値への電気二重層の影響を排除することができる。結果として、本発明の生化学測定装置によれば、定常化時間を経過する前であっても特定物質の濃度を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る尿糖計の全体構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示される尿糖計の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示される尿糖計を用いた測定方法を示すフローチャートである。
【図4】図1に示される尿糖計により尿糖値を測定した時の出力電流の経時変化を示すグラフである。
【図5】図1に示される尿糖計により、定常化時間より短い経過時間で尿糖値を測定した時の出力電流の経時変化を示すグラフである。
【図6】図1に示される尿糖計により、比較的尿糖度が低い尿の尿糖値を測定した時の出力電流の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔尿糖計〕
以下、本発明による生化学測定装置を適用した尿糖計の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る尿糖計1の全体構成を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1に示される尿糖計1の電気的構成を示すブロック図である。
【0017】
図1及び図2に示されるように、尿糖計1は、主として、測定手段であるグルコースセンサ11と、計時手段である計時部21と、制御手段である制御部17と、を備える。グルコースセンサ11は、センサ電極として少なくとも作用極(第1電極)11aと対極(第2電極)11bとを有し、作用極11aと対極11bとが保管液2に接触した(又は浸漬した)状態で所定電位を印加することにより生じるベース電流を測定し、作用極11aと対極11bとが被測定試料液である尿に接触した(又は浸漬した)状態で所定電位を印加することにより生じるピーク電流を測定する。計時部21は、作用極11aと対極11bとが保管液2に接触してからベース電流を測定するまでの経過時間、グルコースセンサ11が被測定試料液に接触してから一定時間のピーク電流を計測するまでの測定時間(例えば6秒)を計測する。制御部17は、グルコースセンサ11により取得されるベース電流のベース電流値とピーク電流のピーク電流値とに基づき尿糖の濃度を取得する。
【0018】
この尿糖計1は、前記経過時間が、尿糖(特定物質)が基準濃度(例えば濃度ゼロ)であることを示す定常ベース電流値にまでベース電流の電流値が戻るのに要する定常化時間以上である場合は、制御部17(制御手段)は、ベース電流の電流値を用いて特定物質の濃度を取得し、前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合は、制御部17は、ベース電流の電流値に代えて、前記経過時間が定常化時間以上の場合にグルコースセンサ11(測定手段)が測定した定常ベース電流値を用いて、特定物質の濃度を取得する構成である。
【0019】
さらに、尿糖計1の各構成要素の詳細を説明する。図1に示すように、尿糖計1は、尿糖計本体3、センサホルダ5、操作部6、キャップ7と、を備える。尿糖計本体3は、制御部17、計時部21等を内蔵する筐体であり、尿糖計本体3のほぼ中央に、使用者に種々の情報を表示する表示手段(報知手段)である表示部(LCD(Liquid Crystal Display))9が設けられている。表示部9に、尿糖値(尿糖濃度)、測定日時等が表示される。操作部6は、主として、過去の測定値を表示部9に表示させるための操作、較正モードや通信モード等を切替えるための操作などに用いられる。
【0020】
尿糖計1により測定を行うときには、センサホルダ5を延ばした状態(図1の実線で示す状態)とする。センサホルダ5の一端部は、尿糖計本体3に対し、図1の矢印方向に回動可能に装着されている。センサホルダ5の他端部には、グルコースセンサ11が設けられ、保管液2や被測定試料液である尿が、外部からグルコースセンサ11に接触できるように開口5aが設けられている。
【0021】
尿糖計1を保管する際には、矢印8で示すように、センサホルダ5の先端部に、キャップ7を被せる。キャップ7が装着され延びた状態のセンサホルダ5が、尿糖計本体3側(図1の二点鎖線の状態)に回動されて、尿糖計本体3の上面側に折り畳まれた状態で尿糖計1が保管される。キャップ7内部には、グルコースセンサ11のベース電流値を基準値に戻すための保管液(基準液)2が充填されている。なお、キャップ7内部の保管液2は、特定物質(尿糖)がゼロ濃度であるような保存液であって、グルコースセンサ11の状態を常に最適に保つものが好適であるが、濃度測定の際に基準となりうる基準濃度を提供しうる基準液であればよい。
【0022】
(尿糖計1の電気的構成)
図2を参照しつつ、尿糖計1の電気的構成について説明する。制御部17には、グルコースセンサ11、電圧印加部13、電流検出部15、制御部17、ヒンジスイッチ19、操作部6、表示部9、計時部21、記憶部23、電源25、が電気的に接続されている。
【0023】
グルコースセンサ11は、導体から成る作用極11a、対極11b、参照極11cが絶縁基板上に配置される3電極方式である。作用極11aは、グルコースオキシダーゼの酵素膜で覆われている。また、電圧印加部13及び電流検出部15が、グルコースセンサ11に電気的に接続されている。即ち、電圧印加部13、電流検出部15及びグルコースセンサ11、並びに、それらを接続するリード線は、測定手段であるポテンショスタット16を構成し、制御部17からの信号により、ポテンショスタット16が、常に作用極11aと参照極11cとの間の電位を一定に保つように対極11bの電位を制御しつつ、作用極11aから対極11bに流れる電流の電流値を検出する構成である。なお、本実施形態では3電極方式のグルコースセンサを用いているが、参照極11c(第3電極)を備えない2電極方式のグルコースセンサを用いることも可能である。
【0024】
記憶部23は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等から構成され、尿糖計1を作動させるプログラム、グルコースセンサ11により検出されるデータ等が格納される。
【0025】
本実施形態の尿糖計1の測定可能状態と待機状態との切替えは、ヒンジスイッチ(ヒンジ部)19により行われる。センサホルダ5が尿糖計本体3に対して延ばされる状態(図1の実線で示す状態。第1状態。)とされると、被測定試料液中に含まれる特定物質の濃度の測定工程を行うことが可能な測定可能状態となり、キャップ7が装着されセンサホルダ5が折り畳まれる状態(図1の二点鎖線の状態。第2状態。)とされると、前記測定工程可能状態が解除されて、尿糖計1は待機状態となる。なお、待機状態においても、キャップ7内の保管液2に浸漬されたグルコースセンサ11に所定電位を印加しておくようにするのが好適である。このようにしておくことにより、所定電位の印加を開始してからベース電流が安定するまでの時間を待つことなく、尿糖計1を第1状態から第2状態とし、センサホルダ5からキャップ7を外して直ぐに使用することが可能であるため、使用者にとっての利便性が向上する。
【0026】
時間をカウントする計時手段である計時部21は、グルコースセンサ11がキャップ7の保管液2に浸漬されてから、電流検出部15により被測定試料液のベース電流を検出するまで、の時間を計測するために利用される。センサホルダ5が折り畳まれると、ヒンジスイッチ19により尿糖計1が待機状態とされるとともに、計時部23による経過時間のカウントが開始される。また、計時部21は、グルコースセンサ11が被測定試料液に接触してから一定時間のピーク電流を計測するまでの測定時間を計測する。
【0027】
本実施形態は、グルコースセンサ11が保管液2に浸漬されるタイミングと、ヒンジスイッチ19が折り畳まれるタイミングとが同時期であるものとして、経過時間を計時し、測定工程を行う構成である。即ち、グルコースセンサ11が保管液2に浸漬されてから、センサホルダ5を延ばし電流検出部15により被測定試料液のベース電流値を測定するまでの経過時間は、センサホルダ5が折り畳まれてから(即ち、第2状態とされてから)、センサホルダ5を延ばし電流検出部15により被測定試料液のベース電流を測定するまでの時間を計時することで取得する。
【0028】
なお、本実施形態の尿糖計1は、センサホルダ5を回動させることにより、尿糖計1の測定可能状態と待機状態とを切替える構成であるが、操作部6の操作によって切替える構成としてもよく、また、表示部9にタッチパネル機能を有する液晶を用い、その操作により切替える構成とすることもできる。
【0029】
(尿糖の測定方法フロー)
以下に、尿糖計1を用いた尿糖の測定方法のフローについて、主として図3乃至図6を参照して説明する。図3は、図1に示される尿糖計1を用いた測定方法を示すフローチャート、図4は、図1に示される尿糖計1により尿糖値を測定した時の出力電流の経時変化を示すグラフ、図5は、図1に示される尿糖計1により尿糖値を測定した時(1回目及び2回目の測定)の出力電流の経時変化を示すグラフ、図6は、図1に示される尿糖計1により尿糖値を測定した時(3回目及び4回目の測定)の出力電流の経時変化を示すグラフである。なお、図4乃至図6のグラフの縦軸は、電流検出部15により検出される出力電流値(nA)を示し、横軸は、時間(秒)を示す。また、図5のグラフにおける2回目の測定工程では、定常化時間より短い経過時間で尿糖値を測定している。図6のグラフにおける4回目の測定工程では、比較的低い尿糖度の尿を測定している。
【0030】
まず、尿糖計1により測定を開始するために、図1に実線で示されるようにセンサホルダ5を伸ばし、ヒンジスイッチ19により尿糖計1が測定可能状態へ切替えられ、この尿糖計1を用いて行う最初の測定(第1測定工程)か否かが識別される(ステップS1)。例えば、制御部17により、記憶部23に既に取得され保存されているベース電流値等が有るか否かが識別される。今回初めて尿糖計1を使用する場合には、記憶部23に保存されているベース電流値が無いため、最初の測定であると識別されて(ステップS1でYes)、次のステップS2に移行する。
【0031】
次に、キャップ7を装着した状態、即ち、グルコースセンサ11が保管液2に浸漬された状態で電圧印加部13が一定定電位を作用極11aと対11bとの間に印加して、待機中の状態における作用極11aから対極11bに流れる電流の電流値が、電流検出部15により取得され、記憶部23に保存される(ステップS2)。このとき取得される電流値は、一例として、今回の測定環境下で尿中の尿糖濃度がゼロであることを示す定常ベース電流値である。また、この定常ベース電流値は、1回目の測定工程(第1測定工程)で得られたデータ(第1ベース電流の電流値)として保存される。なお、定常ベース電流値については、後述する2回目の測定工程に関連してさらに説明する。
【0032】
次に、使用者により、キャップ7がセンサホルダ5から取り外された後、尿糖計1の開口5aを介して尿がグルコースセンサ11に滴下される(ステップS3)。電流検出部15により、作用極11aから対極11bに流れる出力電流の電流値が所定時間に亘り取得され、取得された電流値の内、その最大値Pがピーク電流値として記憶部23に保存される(ステップS4)。このピーク電流値は、1回目の測定工程で得られたデータ(第1ピーク電流の電流値)として保存される。
【0033】
そして、制御部17により、ステップS2で取得された定常ベース電流値(第1ベース電流の電流値)、及び、ステップS4で取得されたピーク電流値(第1ピーク電流の電流値)、の差分に基づいて尿糖値を演算し、表示部9に尿糖値を表示させる(ステップS5)。その後、グルコースセンサ11は、所定の洗浄液で洗浄され(ステップS6)、キャップ7が被せられ保存液2に浸漬される(ステップS7)。さらに使用者がセンサホルダ5を回動させて折り畳むと、ヒンジスイッチ19により尿糖計1が待機状態になる。併せて、センサホルダ5が折り畳まれるタイミングで、計時部21による経過時間のカウントが開始(ステップS7)され、測定工程(第1測定工程)が終わる。なお、尿糖計1が待機状態にされている間、計時部21は、待機電力で作動する構成であることは言うまでもない。
【0034】
次に、2回目以降の測定工程について説明する。1回目の測定工程と同様に、尿糖計1により測定を開始するために、図1に実線で示されるようにセンサホルダ5を伸ばすと、ヒンジスイッチ19により尿糖計1が測定可能状態へ切替えられ、この尿糖計1を用いて行う最初の測定か否かが識別される(ステップS1)。今回は、1回目の測定工程(第1測定工程)で取得された定常ベース電流値が記憶部23に保存されている状態であるので、最初の測定ではないと識別されて(ステップS1でNo)、ステップS8に移行し、グルコースセンサ11を保管液2に浸漬してからの経過時間が定常化時間より短いか否かが、計時部21からの信号に基づき制御部17により識別される(ステップS8)。
【0035】
ここで、ベース電流値及び定常化時間について図4を参照しつつ説明する。なお、図4において、時点Aは、定常ベース電流値が測定されたタイミング(図3のステップS2)、時点Bは、尿が滴下されるタイミング(図3のステップS3)、時点Cは、ピーク電流値に到達したタイミング(図3のステップS4)、をそれぞれ示す。
【0036】
尿糖計1に組み込まれているグルコースセンサ11といった化学電気センサでは、尿等の電解質液と電極とが接触する界面に電気二重層が形成される。この電気二重層の影響により電極に電荷が蓄積される。従って、測定後にグルコースセンサ11を洗浄し(図4の時点D、図3のステップS6)、保管液2に浸漬してから(図4の時点E、図3のステップS7)、グルコースセンサ11が定常状態、即ち、尿中に、尿糖が無いことを示すベース電流値がゼロの状態(安定状態)に戻るまでには、センサ特性に応じた定常化時間(時点Eからの所定時間)を要する。
【0037】
例えば、ある尿糖濃度を有する尿を、尿糖計1を用いて最初の測定を行った場合、図4に示すように、グルコースセンサ11を保管液2に浸漬して(時点E、図3のステップS7)から、安定状態に戻るまでの定常化時間(即ち、続けて2回目の測定が可能となる時間)は、約180秒である。
【0038】
1回目の測定工程(第1測定工程)で保管液2にグルコースセンサ11が浸漬(ステップS7)されてからの経過時間が、定常化時間以上と識別された場合には(ステップS8でNo)、尿糖濃度がゼロであることを示す定常ベース電流値を正確に再取得できるので、ステップS2に移行する。その後は、1回目の測定と同様に、尿糖計1の使用者により尿がグルコースセンサ11に滴下されると(ステップS3)、ピーク電流値が取得されるととともに、記憶部23に保存される(ステップS4)。なお、このピーク電流値のデータは、2回目の測定工程(第2測定工程)で得られたデータ(第2ピーク電流の電流値)として保存される。
【0039】
さらに、2回目の測定工程で取得された定常ベース電流値(第2ベース電流の電流値)及びピーク電流値(第2ピーク電流の電流値)に基づき、制御部17で尿糖濃度が演算され、表示部9に表示される(ステップS5)。
【0040】
一方、1回目の測定工程のステップS7で計時を開始してからの経過時間が、定常化時間より短いと識別された場合には(ステップS8でYes)、ステップS9に移行する。このような状況は、例えば、図5の2回目の測定工程に示されている。即ち、1回目の測定(第1測定工程)後、グルコースセンサ11を保管液2に浸漬してから(図5の時点E1)から、定常ベース電流値(図5の破線I1)に戻る前に、2回目の測定工程(第2測定工程)を始めるような場合である。
【0041】
図5に示す2回目の測定工程では、ステップS9で、作用極11aから対極11bに流れる電流の電流値が、定常状態(I1)に戻っていない状態のベース電流値(例えば、図5の時点A2)、即ち、非定常ベース電流値(I2)が取得され、2回目のベース電流値(第2ベース電流の電流値)として記憶部23に格納される。
【0042】
次に、使用者により、尿がグルコースセンサ11に滴下され(図3のステップS10、図5の時点B2)、電流検出部15により、作用極11aから対極11bに流れる電流の電流値が、所定時間に亘り取得され、取得された出力電流のデータの内、最大値であるピーク電流値P2が2回目の測定データ(第2ピーク電流の電流値)として記憶部23に保存される(図3のステップS11、図5の時点C2)。次に、ステップS11で取得されたピーク電流値P2が、ステップS9で取得された非定常ベース電流値(第2ベース電流の電流値)以下か否かが識別される(図3のステップS12)。
【0043】
2回目の測定工程で取得されたピーク電流値P2が、2回目に取得された非定常ベース電流値以下ではないと制御部17により識別されると(図3のステップS12でNo)、ステップS5に移行する。2回目の測定工程では、ステップS10において、定常化時間未満の経過時間で非定常ベース電流値I2が取得されているが、今回の尿糖値の演算には、この非定常ベース電流値I2を用いず、1回目の測定で取得された定常ベース電流値(第1ベース電流の電流値)I1(図3のステップS2)を用いて演算を行うようにする(図3のステップS5)。
【0044】
なお、今回は、2回目の測定工程であるので、1回目の測定工程で取得されている定常ベース電流値I1を利用することになるが、既に複数回の測定工程が実行され、複数回分の定常ベース電流値が記憶部23に保存されている場合には、そのうちの最新のデータ(直近の定常ベース電流値)を利用してもよい。
【0045】
ここで、ピーク電流値P2が、2回目に取得された非定常ベース電流値以下ではない場合の尿糖値の演算に際して、非定常ベース電流値を使用しない理由を、図5を参照して説明する。図5では、1回目の測定工程(第1測定工程)において、グルコースセンサ11が保管液2に浸漬されてから(時点E1)、定常化時間が経過する前に2回目の測定工程(第2測定工程)が開始され、非定常ベース電流値(第2ベース電流の電流値)I2が取得されている(時点A2)。なお、図5及び後述する図6におけるいずれの測定工程とも、図4で用いた尿糖計1を用いている。従って、使用環境が同じであれば、尿糖計1は等しい定常化時間及び定常ベース電流値を示す。
【0046】
図5に示すように、2回目の測定において測定されたベース電流値(破線I2、時点A2)は、1回目の定常ベース電流値(破線I1、時点A1)より高い値を示している。従って、2回目のベース電流値、即ち、非定常ベース電流値I2と、2回目のピーク電流値P2と、に基づいて尿糖値を演算すると、尿糖値はP2―I2で表わされる(T2)。しかしながら、尿糖計1の本来の定常化ベース電流値は、I1(破線)であるので、尿糖値に対応する電流値の差分は、正確にはP2―I1であるべきである(T1)。従って、2回目の測定で得られた非定常ベース電流値I2に基づいて演算した尿糖値は、ΔH2の誤差を有することになる。
【0047】
誤差ΔH2の発生を防止するために、複数回の尿糖測定工程を続けて行う場合において、グルコースセンサ11を保管液2に浸漬してから定常化時間を経過する前に測定工程を開始した際には、既に行われた測定工程で取得された定常ベース電流値のデータを用いることとし、特に直近の定常ベース電流値(図5の場合、直前の定常ベース電流値I1)を用いて尿糖値を演算する。なお、直近の定常ベース電流値を用いる理由は、ピーク電流値を測定した時と、時間的に近い時点で得られた定常ベース電流値を利用することで、測定環境に起因する測定誤差を無くすためである。
【0048】
次に、図6を参照しつつ、定常化時間より短い間隔で測定工程を始める場合であって、ピーク電流値(図6の時点C4)が、取得された非定常ベース電流値I4(図6の時点A4)以下となる場合の測定工程について説明する。図6は、図5に示すグラフに連続して測定されたときの出力電流の経時変化を示しており、3回目及び4回目の測定で得られた結果である。
【0049】
3回目の測定工程において、グルコースセンサ11が保管液2に浸漬されてから(図6の時点E3)、定常化時間が経過する前に4回目の測定工程が開始され(図6の時点A4)、非定常ベース電流値I4が取得されている(時点A4)。発明者等が鋭意研究したところ、グルコースセンサ11が安定状態に戻る前にピーク電流値P4(時点C4)を測定すると、特に、尿糖濃度が相対的に低い尿を測定する場合、ピーク電流値に誤差が生じる恐れがある、という知見を得た。反対に、図5に示すようにピーク電流値(P2)が非定常ベース電流値(I2)より大きい場合には、測定されるピーク電流値(P2)は十分な精度で得られる。そこで、図6の時点C4で測定されたピーク電流値P4が、時点A4で測定された非定常ベース電流値I4以下である場合には、その事実を尿糖計1の使用者に報知する構成とした。
【0050】
上述の通り、ピーク電流値P4が非定常ベース電流値(図6のI4)以下であると識別された場合には(ステップS12でYes)、ピーク電流値P4自体に誤差が生じている恐れがあることを尿糖計1の報知手段によって使用者に報知する。具体的には、ステップS13において、4回目の測定で取得されるピーク電流値P4から定常ベース電流値I1を減じて得た尿糖値の値以下である表示(例えば「3.9mg/dL以下」)が表示部9に表示される。なお、このような表示を行う外にも、「エラー」、「再測定要」といった、使用者に注意を喚起する文字列を表示する構成としてもよく、更には、例えばブザーや音声アナウンスのためのスピーカーのように、使用者に注意を喚起するための報知手段であれば、特に限定されることは無い。
【0051】
他方、ステップS12において、図5に示される2回目の測定の場合のように、ピーク電流値P2が非定常ベース電流値I2以下でない(即ち、ピーク電流値(図5のP2)が非定常ベース電流値(図5のI2)より大きい)場合には、ステップS5に移行する。ステップS5では、直近の(図5に示すグラフの場合には、1回目の測定工程で取得された)定常ベース電流値(第1ベース電流の電流値)I1と2回目の測定工程で得られたピーク電流値(第2ピーク電流の電流値)P2に基づき、尿糖値を演算し、表示部9に表示させる。
【0052】
尿糖値を表示するステップS13又はステップS5の後は、上述したように、グルコースセンサ11の洗浄(ステップS6)、グルコースセンサ11の保管液2への浸漬及び計時開始(ステップS7)工程を経て、一連の測定工程が終了する。
【0053】
本実施形態では、グルコースオキシダーゼを酵素としグルコースを検出するセンサを用いたが、本発明は、この構成に限定されない。例えば、乳酸、アルコール、コレステロール、ピルビン酸、アミノ酸、アルコルビン酸等の有機物質の濃度を検出するために、乳酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ、アルコルビン酸オキシダーゼ等を用いるセンサとすることも可能である。
【0054】
本実施形態では、ヒンジスイッチ19により尿糖計1が待機状態に切替えられたタイミングで、計時部21による計時を開始させる構成としたが、センサホルダ5にスイッチを設けておき、キャップ7がセンサホルダ5に装着されると、当該スイッチにより、計時部21による計時を開始する構成とする構成としてもよい。即ち、グルコースセンサ11が、保管液2に接してから、次にベース電流値を測定するまでの経過時間を測定できる構成を備えれば本発明は実現できる。
【0055】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1 尿糖計(生化学測定装置)
3 尿糖計本体
5 センサホルダ
5a 開口
6 操作部
7 キャップ
9 表示部
11 グルコースセンサ(測定手段)
11a 作用極(センサ電極)
11b 対極(センサ電極)
11c 参照極(センサ電極)
13 電圧印加部(測定手段)
15 電流検出部(測定手段)
17 制御部(制御手段)
19 ヒンジスイッチ(ヒンジ部)
21 計時部(計時手段)
23 記憶部
25 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を含む被測定試料液中の特定物質の濃度を測定する生化学測定装置であって、
基準液に接触したセンサ電極に所定電位を印加して生じるベース電流を測定し、前記被測定試料液に接触した前記センサ電極に前記所定電位を印加して生じるピーク電流を測定するための、測定手段と、
前記センサ電極が前記基準液に接触後、前記ベース電流の測定開始までの経過時間を計測する計時手段と、
前記ベース電流の電流値と前記ピーク電流の電流値とに基づき、前記特定物質の濃度を取得する制御手段と、を備え、
前記経過時間が、前記特定物質が基準濃度であることを示す定常ベース電流値にまで前記ベース電流の電流値が戻るのに要する定常化時間以上である場合は、前記制御手段は、前記ベース電流の電流値を用いて前記特定物質の濃度を取得し、
前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合は、前記制御手段は、前記ベース電流の電流値に代えて、前記経過時間が前記定常化時間以上の場合に前記測定手段が測定した定常ベース電流値を用いて、前記特定物質の濃度を取得すること
を特徴とする生化学測定装置。
【請求項2】
前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合は、前記制御手段は、前記ベース電流の電流値に代えて、前記経過時間が前記定常化時間以上の場合に前記測定手段が測定した定常ベース電流値のうち最新のデータを用いて、前記特定物質の濃度を取得することを特徴とする請求項1に記載の生化学測定装置。
【請求項3】
前記測定手段が測定する前記ベース電流は、第1測定工程前に前記基準液に接触した前記センサ電極に所定電位を印加して生じる第1ベース電流と、第1測定工程後に前記基準液に接触した前記センサ電極に所定電位を印加して生じる第2ベース電流と、を含み、
前記測定手段が測定する前記ピーク電流は、第1測定工程における被測定試料液に接触した前記センサ電極に前記所定電位を印加して生じる第1ピーク電流と、第1測定工程後に行われる第2測定工程における被測定試料液に接触した前記センサ電極に前記所定電位を印加して生じる第2ピーク電流と、を含み、
前記計時手段が計測する前記経過時間は、前記第1測定工程後、前記センサ電極が前記基準液に接触してから前記第2ベース電流の測定開始までの経過時間であって、
前記経過時間が、前記第1ベース電流値にまで前記第2ベース電流の電流値が戻るのに要する定常化時間以上である場合は、前記制御手段は、前記第2ベース電流の電流値と前記第2ピーク電流の電流値とを用いて前記第2測定工程における被測定試料液の特定物質の濃度を取得し、
前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合は、前記制御手段は、前記第1ベース電流の電流値と前記第2ピーク電流の電流値とを用いて、前記第2測定工程における被測定試料液の特定物質の濃度を取得すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生化学測定装置。
【請求項4】
前記経過時間が前記定常化時間よりも短い場合に前記測定手段が測定した前記第2ベース電流の電流値よりも、前記第2ピーク電流の電流値が小さいときに、使用者に注意喚起を行う報知手段を有することを特徴とする請求項3に記載の生化学測定装置。
【請求項5】
前記センサ電極はセンサホルダの一端側に設けられ、前記センサホルダの他端側はヒンジ部を介して本体に連結されることによって、前記センサホルダが前記本体に対して伸ばされる第1状態と、前記センサホルダが前記本体に対して折り畳まれる第2状態と、の間で回動可能に構成されており、前記計時手段は、前記センサホルダが前記第1状態から第2状態とされたときに、前記センサ電極が前記基準液に接触したものとして、前記経過時間の計時を開始することを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち、いずれか1に記載の生化学測定装置。
【請求項6】
前記被測定試料液は尿であり、前記特定物質は尿糖であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうち、いずれか1に記載の生化学測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−242093(P2012−242093A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109058(P2011−109058)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)