説明

生型鋳型用炭素質添加剤

【課題】主成分としてカーボンニュートラルな食用植物油を用い、鋳型内に溶湯が注入された際に、その内部を還元性雰囲気に保ちつつSO2等の有害成分を発生させず、生型鋳型を構成する水分及び粘土系粘結剤による粘結能力を極端に劣化させないこと。
【解決手段】グリセリンを含有する食用植物油を主成分として構成した生型鋳型用炭素質添加剤であり、食用植物油とグリセリンとの混合割合は95〜65:5〜35である。このグリセリンを含有する食用植物油は、使用済みの食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程で生じた副産物であり、その製造過程は、複数種のグリセリドを含む食用植物油を、苛性カリ又は苛性ソーダの存在下で、メタノールと反応させて、エステル類及びグリセリンを生成させるものであり、副産物は、以上の過程の生成物を含む食用植物油からエステル類を除去した残存物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生型用鋳物砂に添加して用いる生型鋳型用炭素質添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車及び船舶等のエンジン用部品や各種油圧装置の部品、或いは各種ポンプ類、その他の産業機械の部品等には生型鋳型を用いた鋳造法によって製造されるものが多い。この生型鋳型を用いた鋳造法は、主材である鋳物用けい砂と、副材である水と粘結材と補助添加材等とを用いて、混練機によって混練した生型用鋳物砂組成物により生型鋳型を作ることから始められる。
【0003】
該生型鋳型は、混練した前記生型用鋳物砂組成物を用いて、準備した模型と鋳枠をセットした状態で、つき固めや加圧等の外力を加えて、模型の形状をそのまま正確に写し取ることで作成される。鋳造品は、作成された鋳型の中に、溶融した鋳鉄や鋳鋼等の金属を注湯し、これを冷却した後に、上記鋳型を崩して得ることができるものである。また崩した鋳型は解枠して生型用鋳物砂として再利用されることになる。
【0004】
この生型による鋳造法では、前記生型用鋳物砂組成物を用いて作成する鋳型の出来具合によって、仕上がる鋳造品の品質の良否が決まってくるもので、如何にして品質の良い生型鋳型を作るかが重要なポイントとなっている。
【0005】
その一つのポイントに、前記生型用鋳物砂に添加して用いる炭素質添加剤があり、これは、鋳造工程に於いて、溶湯を鋳型内で還元性雰囲気下で凝固させるために用いられるものである。鋳型内が還元性雰囲気に保持されることにより、鋳造品は、鋳造の過程で酸化されることなく、凝固し、良好な品質のそれが得られる。
【0006】
このような炭素質添加剤としては、多くは、石炭を微粉末化した石炭粉が用いられている。この石炭粉は、云うまでもなく、溶湯の高い熱に曝されると当然それらに含まれる炭素や硫黄が酸化されて二酸化炭素及び二酸化硫黄等のガスが放出されることになる。こうして鋳型内に存在する酸素を消費することにより、鋳型内を還元性雰囲気に保持しようとするものである。
【0007】
以上の石炭粉は、以上のように、該炭素質添加剤としての目的に適合する作用を持つものではあるが、飛散し易いため、(1)自動計量が困難で作業性が悪い、(2)鋳物製造工程の混練、型バラシ等の際に塵埃が発生し、作業環境を著しく悪化させる、また(3)繰り返して使用すると、鋳物砂中に灰分が堆積して粉塵が増加し、鋳物砂を汚染するため、鋳物製品の鋳肌品質を低下させる、更に(4)煙と有毒ガス(COガス)の発生が、鋳物製造工程中の注湯、移動、型バラシの際に集中するため、作業員の健康を害する虞がある等の種々の問題があり、これらを解決する趣旨で、鉱油10〜90重量%と微粉体を含有することのある炭素質原料90〜10重量%とを含有する鋳物砂型用添加剤が提案されている(特許文献1)。
【0008】
この鋳物砂型用添加剤によれば、粉塵が発生し難くなる等の利点が生じ、それらを通じて以上の(1)〜(4)の問題も解決されるようであるが、鉱油の配合割合が高い場合には、界面活性剤の添加の必要が生じ、その添加による新たな問題の発生の可能性がある。
【0009】
また炭素質添加剤として、ごく一部の工場で前記石炭粉の代替品として使用済み食用油(植物油)を使用している例がある。これも鋳型内に溶湯が注入された場合には、石炭粉と同様に、その内部を還元性雰囲気に保つ作用を果たすことになる。その意味では石炭粉と等価であるが、植物油であるため、CO及びCO2以外の有害成分(人体に影響を及ぼす大気汚染物質(SO2)等)が発生することはないし、植物由来の材料であるから、原料となる植物の成長の際に吸収したCO2を放出するに過ぎず、カーボンニュートラルな炭素質添加剤であるという利点がある。また石炭粉と異なり、粉塵(灰分)が発生するものではないという利点もある。
【0010】
しかしこのような使用済み食用油(植物油)は、より具体的には、ヤシ油、パーム油、パーム核油、綿実油、大豆油、オリーブ油等の全部又は一部の混合物であって、疎水性であり、水に馴染むものではない。これは、前記特許文献1の鉱油と同様である。また保湿性も全くない。そのため、これらを、前記のように、前記石炭粉に代えて使用した場合には、生型鋳型を構成する水分及び粘土系粘結剤(ベントナイト:組成成分モンモリロナイト)の粘結能力を極端に劣化させる、即ち、ベントナイトを膨潤させるのに極端に時間がかかると云う問題点があり、極めて使いにくく、前記一部の工場で使用されるだけで、広く普及していないのが実情である。この場合にも、特許文献1と同様に、界面活性剤を添加するという手段はあり得るが、これには、前記と同様な新たな問題の発生の虞がある。
【0011】
【特許文献1】特公平03−37816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、主成分として、カーボンニュートラルな食用植物油を用いながら、かつその有用な作用、即ち、鋳型内に溶湯が注入された際に、その内部を還元性雰囲気に保つべく作用するが、その際に、CO及びCO2以外の有害成分(SO2等の大気汚染物質)が発生しないという作用を維持しながら、その問題点、即ち、生型鋳型を構成する水分及び粘土系粘結剤(ベントナイト:組成成分モンモリロナイト)による粘結能力を極端に劣化させる問題を解消することのできる生型鋳型用炭素質添加剤を提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1は、グリセリンを含有する食用植物油を主成分として構成した、生型用鋳物砂に添加して用いる生型鋳型用炭素質添加剤である。
【0014】
本発明の2は、本発明の1の生型鋳型用炭素質添加剤に於いて、前記食用植物油として使用済みのそれを用いたものである。
【0015】
本発明の3は、本発明の1又は2の生型鋳型用炭素質添加剤に於いて、前記食用植物油とグリセリンとの混合割合を95〜65:5〜35としたものである。
【0016】
本発明の4は、本発明の1の生型鋳型用炭素質添加剤に於いて、前記グリセリンを含有する食用植物油として、食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程で生じた副産物を用いたものである。
【0017】
本発明の5は、本発明の4の生型鋳型用炭素質添加剤に於いて、前記食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程が、複数種のグリセリドを含む該食用植物油を、苛性カリ又は苛性ソーダの存在下で、メタノールと反応させ、エステル類及びグリセリンを生成させるものであり、
前記副産物として、前記過程の生成物を含む食用植物油から前記エステル類を除去した残存物を用いたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の1の生型鋳型用炭素質添加剤によれば、順次、水及びベントナイトを加えて混練した生型用鋳物砂にこれを加えると、これは、複数種の脂肪酸のトリグリセリド(油脂)の混合物である食用植物油を主成分とするものであるにもかかわらず、前記のように、グリセリンを含有するものであるため、水に馴染み易く、水によるベントナイトの膨潤性を阻害することがない。そのためその粘結能力が保持され、生型鋳型の強度特性を十分に発揮させることができる。またグリセリンにより保湿性を発揮し、生型鋳型表面の乾きを防止し、比較的長い時間にわたって鋳型表面の特性劣化(ポロツキ性)を防止し、改善することができる。
【0019】
また前記炭素質添加剤は、液体であり、これを鋳物砂に添加する際や混練の際等に粉塵となって作業環境を悪化させるような虞はない。
【0020】
他方、該炭素質添加剤の主成分である食用植物油の作用により、生型鋳型内に溶湯が注入された際に、その成分が熱分解し、鋳型内の酸素と反応して酸化し、CO、CO2、H2O等のガスを発生させ、該鋳型内を還元性雰囲気に保持することができる。より具体的には鋳型と溶湯との間にすす膜及びCO、CO2等のガス膜を作り、これらによる還元性雰囲気を保持するものである。それ故、これによって溶湯の酸化防止の目的を達成することができる。また、前記CO及びCO2を除き、石炭粉を使用する場合に発生するSO2等の大気を汚染する有害成分を発生することのない利点も有する。
【0021】
また本発明の1の生型鋳型用炭素質添加剤は、主要成分が食用植物油であるため、以上のように、使用する際に発生するCO2(COは酸化していずれCO2に変換する)は、原料となる植物の成長の際に吸収したものであり、CO2を増加させない、と考えられるカーボンニュートラルなものであるということができる。従って鋳造業界に於いて、環境保全に貢献することができる上に、経済的なメリットも大きい。
【0022】
本発明の2の生型鋳型用炭素質添加剤によれば、使用済みの食用植物油を用いるものであるため、一層、経済的であり、かつ資源の有効利用を図ることができる。
【0023】
本発明の3の生型鋳型用炭素質添加剤によれば、前記食用植物油に対してグリセリンを適正な割合で混合したため、食用植物油を炭素質添加剤として有効に用いることが可能になり、かつベントナイトの粘結能力を阻害することもない。なお、前記食用植物油とグリセリンとの混合割合を90〜80:10〜20とすればより好ましい。
【0024】
本発明の4の生型鋳型用炭素質添加剤によれば、グリセリンを含有する食用植物油として、食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程で生じた副産物に着目し、これを採用したため、容易に必要な割合のグリセリンを含有した食用植物油を得ることができる。この副産物からは、酵素法や超臨界法などを用いて純度の高いグリセリンを得ることが可能であるが、現時点では、グリセリンは供給過剰の状態にあり、そのような処理をする価値はない。このように、該副産物には現時点で他に有効な用途がない状態にあり、産業廃棄物として処理されているのが実情である。そのような副産物を有効利用できる利点もある。
【0025】
本発明の5の生型鋳型用炭素質添加剤によれば、食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程が先に述べた特定の工程であり、生成物を含む未変換植物油からエステル類を取り除いた残存物を利用するものであり、微量の苛性カリ又は苛性ソーダを含むが、問題なく炭素質添加剤として使用できるものとなる。例えば、苛性カリ及び苛性ソーダの存在はかえって水に馴染みやすくする観点から好都合でさえある。また、このような副産物の利用は、云うまでもなく、本発明の4の生型鋳型用炭素質添加剤と同様に、他に有効な用途のない残存物を有効利用できるという利点を持つものでもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、グリセリンを含有する食用植物油を主成分として構成した、生型用鋳物砂に添加して用いる生型鋳型用炭素質添加剤である。
【0027】
前記食用植物油は、目的に応じて用いられる菜種油、ひまわり油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、綿実油、大豆油、オリーブ油等の種々の植物油のいくつかを組み合わせた混合油であり、これらは、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の脂肪酸のグリセリドの種々の割合の混合物となっている。
【0028】
前記食用植物油は、以上のような混合油であるが、これは、未使用のそれではなく、使用済みのそれを用いることもできる。
【0029】
前記食用植物油とグリセリンとの混合割合は95〜65:5〜35とするのが適当である。食用植物油の割合が95を越えると水との馴染みが悪くなり、65を下回ると炭素質添加剤として機能が低下する。水への馴染みの良好性及び炭素質添加剤としての機能を高く維持する観点からは、食用植物油とグリセリンとの混合割合は90〜80:10〜20に設定するのがより好ましい。なお、このような両者の混合状態は、未使用の食用植物油又は使用済みの食用植物油にグリセリンを添加してそのような混合割合に構成することも可能であるが、使用済み又は未使用の食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程で生じた副産物を採用することも可能である。このような副産物を採用することにした場合には、食用植物油をそのように処理する過程で適正な割合のグリセリンが生成されるので、改めて食用植物油にグリセリンを添加する必要がなく更に好都合である。
【0030】
ディーゼルエンジンの燃料として、一般には鉱物油である軽油が使用されているが、近年、地球温暖化対策としてバイオディーゼル燃料を採用することが注目されるに至り、前記したように、食用植物油を処理して軽油に近い物性を有する脂肪酸メチルエステル等に変換し、これをバイオディーゼル燃料として使用するようになって来ている。
【0031】
これは、以下の化1に示すように、複数種のグリセリドを含む食用植物油を苛性カリ又は苛性ソーダの存在下でメタノールと反応させ、エステル類及びグリセリンを生成させ、反応生成物から未反応食用植物油、グリセリン及び苛性カリ又は苛性ソーダ等を取り除いて作成するものであり、このような副産物である、除かれた未反応物及びグリセリン等が目的とする食用植物油及びグリセリンを主たる成分とする混合液である。
【化1】

【0032】
前記副産物である食用植物油及びグリセリン等の混合液は、相互の割合が、前記した範囲、即ち、食用植物油:グリセリン=95〜65:5〜35の割合の範囲、多くの場合は90〜75:10〜25の範囲にあり、そのまま生型鋳型用炭素質添加剤として利用可能となる。この中には、苛性カリ又は苛性ソーダが若干含まれるが、前記したように、これらはこの液を水に馴染みやすくする観点からかえって好都合であり、微量でもあり、他に問題を生じることもない。
【0033】
従って本発明の生型鋳型用炭素質添加剤によれば、生型用鋳物砂にこれを加えると、この添加剤は、複数種の脂肪酸のトリグリセリド(油脂)の混合液である食用植物油を主成分とするものであるにもかかわらず、グリセリンを含有するため、水に馴染み易く、水によるベントナイトの膨潤性を阻害することがない。そのためベントナイトの粘結能力が保持され、生型鋳型の強度特性を十分に確保することができる。保湿性を有するものでもあるため、生型鋳型表面の乾燥を防止し、鋳型表面の長時間にわたる特性劣化を改善することができる。
【0034】
本発明の生型鋳型用炭素質添加剤は、鋳物砂の主成分であるけい砂に目標とするコンパクタビリティ値(CB値)となるように、経験則に基づいた一定量の水を加えて混練した後、この水を加えたけい砂の混練物中に、副成分である粘結材のベントナイト粉及び必要に応じて添加される澱粉等の添加剤と共に添加するのが適当であり、この後、更に所定時間混練することにより、この炭素質添加剤を含有する生型鋳物砂組成物を作成する。なおこの鋳物砂組成物の混練は、サンドミル等の混練装置を用いて行う。
【0035】
なお前記コンパクタビリティ値とは、混練したものに対して一定のつき固めにより充填した時の、生型鋳物砂の詰まり具合を見る指標である。一般にそのコンパクタビリティ値は30〜40(%)程度を基準にして対応する試験項目の試験結果を考察する。
【0036】
この生型鋳型用炭素質添加剤は、前記のように、液体であり、これを以上のように、鋳物砂を構成するけい砂にベントナイト等と共に添加する際やその後の混練の際等に粉塵となって作業環境を悪化させるような虞は全くない。
【0037】
他方、一般の生型鋳型の用法に従って、その型内に溶湯が注入された際に、本発明の炭素質添加剤の主成分である食用植物油等が溶湯の高熱により分解し、鋳型内の酸素と反応して酸化し、CO、CO2、H2O等のガスを発生させ、これによって該鋳型内を還元性雰囲気に変換することになる。そのため溶湯の酸化防止の目的を達成することができる。また石炭粉を使用する場合のようなSO2を発生させない利点をも得ることができる。こうして環境悪化を回避しながら品質に優れた鋳物を製造することができる。なお、このような還元作用は、副成分として含有するグリセリンによっても生じると思われる。
【0038】
また本発明の生型鋳型用炭素質添加剤は、主要成分が食用植物油であるため、生型鋳型に炭素質添加剤として添加して使用する際に発生するCO2は、原料となる植物の成長の際に炭酸同化作用のために吸収したそれを放出しているものであり、新たなそれを増加させないカーボンニュートラルな性質を有するものであると云うことができる。
【0039】
炭素質添加剤である、グリセリンを含有する食用植物油として、食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程で生じた副産物を採用した場合は、極めて容易に必要な割合のグリセリンを含有した食用植物油を得ることができる。この副産物からは、前記したように、酵素法や超臨界法等を用いて純度の高いグリセリンを得ることが可能であるが、現時点では、国内では、グリセリンは供給過剰の状態にあり、そのような処理をする価値はない。このように、該副産物には現時点で他に有効な用途がない状態にあり、そのような副産物を有効利用できる利点もある。
【0040】
また炭素質添加剤として、使用済みの食用植物油を用いた場合には、それらに直接グリセリンを混合して構成する場合であれ、バイオディーゼル燃料の製造過程で採用し、その副産物を利用する場合であれ、経済的であり、かつ資源の有効利用を図ることができる。
【実施例】
【0041】
<実施例1〜3>
実施例1〜3の生型鋳型用炭素質添加剤は、全て使用済み食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程で生じた副産物をそれとして採用したものであり、その中から、成分の割合の異なるものを三種選んで実施例1〜3の生型鋳型用炭素質添加剤とした。
実施例1の炭素質添加剤は、食用植物油:グリセリン:苛性カリ=89.8:9.9:0.3であり、
実施例2のそれは、食用植物油:グリセリン:苛性カリ=79.6:20.1:0.3であり、
実施例3のそれは、食用植物油:グリセリン:苛性カリ=69.8:29.8:0.4である。
なお、これらの実施例1〜3の炭素質添加剤はその色が焦げ茶色を呈している。
【0042】
[水との分離試験]
実施例1〜3の炭素質添加剤については、各々に水道水を10%、30%、50%ずつ添加して均一に攪拌混合した各3種のサンプル液を作成した後、全部で9種のサンプル液を各々100ccの透明容器に充填して1か月間静置し、水道水と炭素質添加剤との分離が生じるか否かの試験を行った。分離が生じたか否かは目視によって判断した。実施例1〜3の炭素質添加剤のみを充填した各透明容器も別に用意し、目視観察の参考に供した。
【0043】
目視観察の結果、実施例1〜3の炭素質添加剤に水道水を10%、30%、50%添加混合した各3種、計9本のサンプル液の透明容器では、いずれも、各々の炭素質添加剤100%を充填した透明容器の外観と殆ど同様で、一様な焦げ茶色を呈しており、炭素質添加剤と水分とが分離した様子は全く見受けられなかった。仮に水道水と炭素質添加剤とが分離すれば、透明の水道水の層と焦げ茶色の炭素質添加剤の層とが生じるはずであるが、いずれのサンプルの透明容器も、以上に述べたように、一様な焦げ茶色を呈していた。
【0044】
従ってグリセリンの混合割合が10%〜30%のいずれの場合であっても、更に水道水の混合割合が10%〜50%までのいずれの場合であっても、実施例の炭素質添加剤と水道水とは分離が生じないことが分かった。
【0045】
[燃焼試験]
また実施例1〜3の炭素質添加剤を、各1本、計3本のタバコに含浸させてライターで着火したところ、いずれも黒煙を出しながら赤色系の炎を上げて燃焼した。いずれも良好に燃焼することが分かった。
【0046】
[ベントナイトの膨潤度比較試験]
実施例1の炭素質添加剤を用い、水の添加割合を変えてACC法を用いてベントナイトの膨潤度比較試験を行った。
炭素質添加剤への水の添加割合は、0%、10%、30%、50%とし、これらの割合で水を添加した炭素質添加剤をそれぞれ100mlずつメスシリンダーに入れ、その中にそれぞれ2gのベントナイトを落として沈降させ、24時間静置後の膨潤度を測定した。これを以下の表1に示す。








【0047】
【表1】

【0048】
この試験の結果によれば、炭素質添加剤のみをベントナイトに添加混合した場合でも20.0ml/2gの膨潤度があり、10%の水を添加した添加剤では27.5ml/2gの膨潤度がある。従って炭素質添加剤のみを添加した場合でも相当な膨潤度を確保可能であり、適当な量の水を加えればベントナイトの膨潤度の低下を殆ど防止できることが分かった。
【0049】
[炭素質添加剤を添加した試験砂及び比較例の湿態性質測定]
まず炭素質添加剤として実施例1のそれを用いた試験砂及びこれを用いない比較例の試験砂を作成し、引き続いてそれらの湿態性質測定を行う。
実施例1の試験砂及び比較例の試験砂の作成は次のように行う。
実施例1及び比較例の各試験砂の混練は、シンプソン型ミル(混練機容量10kg)を使用し、混練は次の通りに行った。
【0050】
(1) 実施例1の試験砂の場合
フラタリーサンドに水を加えて2分間混練 → 炭素質添加剤を添加して2分間混練 → ベントナイト粉を添加して15分間混練(目標CB値40%に調整) → 取り出してCB値40%測定、その後更に1〜2分混練(目標CB値35%に調整) → 取り出してCB値35%測定
(2) 比較例の試験砂の場合
フラタリーサンドに水を加えて2分間混練 → ベントナイト粉を加えて15分間混練(目標CB値40%に調整) → 取り出してCB値40%測定、その後更に1〜2分混練(目標CB値35%に調整) → 取り出してCB値35%測定
【0051】
以下の表2に示す配合で、以上に示した混練手順で鋳物砂を作成した。








【0052】
【表2】

【0053】
以上のようにして作成した鋳物砂No.1〜No.4と比較例の鋳物砂との各々の湿態性質の測定結果を以下の表3及び表4に示す。
【0054】
測定方法は以下の通りである。
【0055】
1.CB(コンパクタビリティ)値
混練した鋳物砂を標準つき固め器を用いて、一定のつき固めによって充填した時の詰まり具合を判定するものである。
測定は、コンパクタビリティ測定用具のふるい(6メッシュ)の中央部に試験砂を置き、ハケを用いて試験片作成用円筒(50mm内直径×100mm内高さ〔A〕)の中にこぼれ落ちるまで振るい落とし、ふるいを移動して円筒上部の試験砂をナイフで中央部より左右にかき取る。次いで標準つき固め器で3回つき固めた後、押し抜き台によって試験砂を押し抜き試験片とし、試験片の長さ(H)をノギスで0.1mmまで読み取り、次の数1式によってCB値(%)を求める。
【数1】

【0056】
2.水分
混練した鋳物砂に含まれる水分(%)を求めるもので、JISZ2605に準じて行ない、粘土分を含むものについては乾燥時間を適宜に延長して行う。水分(%)は乾燥前後の減少重量(g)と乾燥前重量(g)とから次の数2式によって求める。
【数2】

【0057】
3.圧縮強さ
混練した鋳物砂の強度の目安となるもので、抗圧力値とも呼ばれる。
測定は、JISZ2604に準じて行ない、万能強度試験機(例えば、PFG型)を用いて、標準試験片作成方法により作成した標準試験片に圧力を掛けて行き、標準試験片が破断した時の最大指針値(N/cm2)を読み取る。
【0058】
4.SSI(表面安定度)
混練した鋳物砂の安定性を見るものであって、鋳型表面安定度とも呼ばれる。
測定は、ふるい分け試験機(ロータップ型)に6メツシュのふるいと受け皿とをセットしておく。別に用意したつき固め器によって、標準試験片(50mm直径×50mm高さ)を作成し、上皿天秤で秤量してその値:W1を求めるする。次いでこの秤量した試験片を手で軽くつまんで、上記6メツシュふるいの上に横にして置き、ふるい分け試験機のスイッチを入れ60秒間振動させる。そしてふるいの上に残った試験片を取り出し前記上皿天秤で再度秤量してその値:W2を求め、次の数3式によってSSI(%)を得る。
【数3】

【0059】
【表3】

【0060】
以上の測定結果から見て、この実施例1の炭素質添加剤を添加すると、若干圧縮強さは低下する傾向が見られるが、生型鋳型として重要な鋳型密度が向上するのと、鋳型表面安定度の低下が少ないことが分かる。
【0061】
更に以下にこの実施例1の炭素質添加剤を添加した一例の鋳物砂(No.1)と添加しない比較例の鋳物砂との表面安定度(SSI)の経時変化に関する比較を行い、その結果を表4に示す。
【0062】
この経時変化の試験のための試験片の作成は以下のように行う。
前記「4.SSI(表面安定度)」に説明した手順で、前記鋳物砂(No.1)及び比較例の鋳物砂を用いて、No.1の試験片及び比較例の試験片を各々4本ずつ作成し、それらの計8本の試験片を同一のテーブルの上に横向きに載せて放置する。
【0063】
このテーブルが配置された部屋の条件。
大気に開放
気温(試験のための放置時間内) : 19.5〜22.0℃
相対湿度(試験のための放置時間内) : 38〜42%
【0064】
[試験片作成直後及び所定時間経過後に於ける表面安定度(SSI)の測定]
測定は、試験片作成直後及び所定時間経過後のいずれの試験片についても、当然、前記「4.SSI(表面安定度)」に説明したのと同様の手順で行う。いずれについても作成直後の試験片を上皿天秤で秤量してその値:W1を求める。次いで作成直後に測定を行う試験片は、その後すぐに、所定時間経過後に測定を行う試験片は、それぞれ所定の時間の経過後に、該当する試験片を手で軽くつまんで、ふるい分け試験機に配した6メツシュふるいの上に横にして置き、該ふるい分け試験機のスイッチを入れ60秒間振動させる。そしてふるいの上に残った試験片を取り出し再度上皿天秤で秤量してその値:W2とし、前記数3式によってSSI(%)を求める。
【0065】
【表4】

【0066】
この試験片作成直後及び所定時間経過後に於ける表面安定度(SSI)の測定の結果によれば、実施例1のNo.1の試験片の表面安定度は、CB値が35のそれ及び40のそれのいずれも試験片作成直後より1時間経過後の方が上昇している。その後は低下するがその低下速度は緩やかである。
比較例の試験片は作成直後が最も良い値を示し、その後は時間の経過と共にその値が低下してゆく傾向にある。
実施例1のNo.1の試験片と比較例の試験片と比較すると、実施例1のNo.1の試験片の値は、試験片作成直後及び1時間経過後までは比較例の試験片の値を下回っているが、2時間経過後からは比較例の試験片の値を上回るようになる。これは、実施例1の炭素質添加剤の保湿効果の故であると推測できる。
【0067】
[現場鋳込み試験]
一般の例に従ってこの実施例の炭素質添加剤を用いずに生型鋳型を作成し、作成直後にその鋳型の上型内面及び下型内面に実施例1の炭素質添加剤をスプレーガンを使用して塗布した。その塗布量は1.0g/10cm2を目安として行った。その後、該鋳型に溶湯を注湯した。注湯温度は1380〜1400℃であった。この注湯は、手取鍋で行い、注湯量は9.4kgで、鋳込み速度は4kg/secであった。30分経過後に鋳型を解砕したところ、従来より砂落ちが良かった。製品(ブラケット)は自然放熱後(翌日)、ショットブラストを施した上で欠陥検査した結果、図1の写真に示すように、どこにも不具合はなく、良品といえる物だった。
この実施例1の炭素質添加剤は、予め鋳物砂に添加しておくのでなく、鋳型の成形後にその内面にスプレー塗布して用いても有効に作用することが分かった。
なお、この現場鋳込み試験に用いた砂の湿態性質を以下の表5に示す。
【0068】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】現場鋳込み試験で鋳造し、ショットブラストを施した後の製品の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンを含有する食用植物油を主成分として構成した、生型用鋳物砂に添加して用いる生型鋳型用炭素質添加剤。
【請求項2】
前記食用植物油が使用済みのそれである請求項1の生型鋳型用炭素質添加剤。
【請求項3】
前記食用植物油とグリセリンとの混合割合が95〜65:5〜35である請求項1又は2の生型鋳型用炭素質添加剤。
【請求項4】
前記グリセリンを含有する食用植物油が、食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程で生じた副産物である請求項1の生型鋳型用炭素質添加剤。
【請求項5】
前記食用植物油からバイオディーゼル燃料を製造する過程が、複数種のグリセリドを含む該食用植物油を、苛性カリ又は苛性ソーダの存在下で、メタノールと反応させ、エステル類及びグリセリンを生成させるものであり、
前記副産物が、前記過程の生成物を含む食用植物油から前記エステル類を除去した残存物である請求項4の生型鋳型用炭素質添加剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−291801(P2009−291801A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146279(P2008−146279)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【特許番号】特許第4217756号(P4217756)
【特許公報発行日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(508166796)
【出願人】(508166800)
【出願人】(508166811)
【Fターム(参考)】