説明

生物試料中のDNAの検出装置および方法

【課題】キャプチャープローブおよび電気的ハイブリダイゼーションを用いる生物試料中の標的DNAを検出するための装置および方法を提供する。
【解決手段】反応セルを、温度および物理特性により優れた酸化アルミニウムの結合表面で形成し、酸化アルミニウム表面を抗DIC抗体でコートしてキャプチャープローブが正しく配向するのに好都合な結合層を得、キャプチャープローブをDIC標識を用いて形成し、抗DIG/DIG結合を介して該セル表面に結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物試料中のDNAを検出する装置および方法に関する。詳細には本発明は電気的支援(electrically-assisted)核酸ハイブリダイゼーションを用いるDNA配列を検出するための新規装置および該装置の性能を最適化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的支援核酸ハイブリダイゼーションの使用はDNA含有生物試料、例えば血液、血漿、尿などの分析において知られた技術である。従来、DNA検出用チップはガラス、シリカ、および金属を含む種々の物質の一つから形成される。該チップの表面には多くの電気接点(electrical contact)が既知の技術を用いて形成される。生物試料中の特定のDNA配列を検出するには、相補性DNA断片からなるキャプチャープローブをチップ表面に結合させる。生物試料が標的DNAを含むと、標的DNAはハイブリダイゼーションにより相補性DNA断片と結合し、種々の画像技術を用いて該ハイブリダイゼーションおよび試料中の標的DNAの存在を検出することができよう。キャプチャープローブに電流を流すことによりハイブリダイゼーション工程を加速し、検出工程も加速することができよう。この基本的ハイブリダイゼーション技術は例えばUS5849486に記載されている。
(先行技術)
【0003】
そのような装置および技術における主要関心事項はキャプチャープローブのチップ表面への結合、およびハイブリダイゼーションが生じた場合のその画像化および可視化である。後者に関して伝統的検出方法は蛍光であるが、より最近Tatonら(「Science」Vol.289、2000年9月8日、ppl757-1760)は検出のためのストレプトアビジンコート(コートした)金ナノ粒子の使用を記載している。そのような技術において金ナノ粒子は標的DNA配列に相補性のオリゴヌクレオチド配列でコートされる。該コートされた金ナノ粒子を含む溶液は該チップ表面に運ばれ、次いで金粒子は標的DNAが結合するあらゆるプローブと結合するであろう。該金粒子自身は小さすぎて検出されないが、チップ表面は銀イオンを含む溶液とインキュベーションすることができよう。銀イオンは金ナノ粒子表面上に沈着して可視的銀層を形成し、これを従来の画像装置で検出することができよう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5849486号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tatonら、「Science」Vol.289、2000年9月8日、ppl757-1760
【非特許文献2】Sharma CPおよびSunny MC、「Albumin adsorption on to aluminum oxide and polyurethane surfaces」Biomaterials, 1990; 11: 255-257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キャプチャープローブとチップ表面の結合に関する一つの問題は、DNAオリゴヌクレオチドのチップ表面(例えばシリコンウエハー)上への結合が実験条件における障害に極めて敏感な重要工程であるということである。特に、電気的ハイブリダイゼーション工程時に電流を流すと、続く反応や検出に悪影響を及ぼしうる電解が生じるかもしれない。例えば、チップ表面をアガロースゲルでコートすることが知られており、キャプチャープローブとして用いるDNAオリゴヌクレオチドの一末端をビオチンで標識し、該チップ表面をコートする前にアガロースに溶解したビオチンとストレプトアビジンの高親和性相互作用によりアガロース層に埋め込む。
【0007】
しかしながら、アガロースの使用には多くの問題がある。最初に、チップ上に均一なコーティングを維持するように溶融アガロースゲルを操作することが非常に難しい。さらに、アガロースゲルの密度と濃度を正確に調節しなければならない。すなわち、適切なアガロース層を有するチップを製造するのが非常に難しい。さらに、一旦適用したゲルは乾燥やひび割れを防ぐため湿潤させおく必要があり、アガロースは非常に不安定で高温で分解するので該チップはアガロース層を適用後は冷蔵しなければならない。アガロース層も非常に繊細であり、機械的ストレスの影響を受けやすいため、完成したチップの保存および輸送が困難である。いずれにしてもアガロースゲルの使用は電解により生じる潜在的問題は克服されない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要約)
本発明は、少なくとも1の反応セルにより形成される基質を含む生物試料中の標的DNAの検出装置であって、該反応セルがDNAキャプチャープローブが結合するための酸化アルミニウム表面を含む装置を提供する。
【0009】
これにより、酸化アルミニウムは形成および操作が容易な安定な結合表面を提供し、続く該装置の取り扱いや保存が容易になり、電解による問題が克服または少なくとも軽減されるので先行技術のいくつかの問題が克服されるかまたは少なくとも軽減される。
【0010】
酸化アルミニウム結合表面は先に形成されたアルミニウム層の酸化によるかまたは例えばスパッタリングにより直接形成することができよう。
【0011】
キャプチャープローブを酸化アルミニウム層に結合させる方法は製造の利便性を増加させるであろう。酸化アルミニウムに吸着した結合層はこの機能を果たすだろう。該キャプチャープローブを結合層に正しく配向させることができることも重要である。タンパク質はこれら両方の働きをすることができよう。好ましくはこのタンパク質はDNAキャプチャープローブを標識するのに用いるタンパク質に対する抗体であってよく、キャプチャープローブは限定された配向で抗体-タンパク質ペアーを結合させることにより結合表面に結合することができよう。しかしながら、あるいはまた該表面をあらゆるタンパク質でコートし、キャプチャープローブは第一タンパク質、例えばストレプトアビジンおよび/またはビオチンと高親和性を有するタンパク質で標識することができよう。
【0012】
バックグラウンドシグナルを低下させるため、該結合表面を試薬、例えばアルブミン、サケ精子DNA、Ficoll、または他のタンパク質でコートすることができよう。
【0013】
別の広い局面において本発明は、
(a)少なくとも1の反応セルを含む基質(ここで、該少なくとも1の反応セルは酸化アルミニウム表面を有する)、
(b)該標的DNAに対する相補性DNA断片を含むキャプチャープローブを含む第一試薬、
(c)該試料を受けるための緩衝溶液、
(d)該標的DNAに対する相補性DNA断片を含む検出プローブを含む第二試薬、
(e)ストレプトアビジンコートした金ナノ粒子の溶液、および
(f)銀イオンを含む溶液
を含む生物試料中の標的DNAの検出用キットを含む。
【0014】
別の局面において本発明は酸化アルミニウム表面を有する基質および該酸化アルミニウム表面に結合したDNAキャプチャープローブを含む試料中の標的DNAを検出するためのDNAチップにも及ぶ。
【0015】
さらなる局面において本発明は以下の工程を含む生物試料中の標的DNAの検出方法に及ぶ:
(a)酸化アルミニウム表面で形成された反応セルを得、
(b)該表面を、キャプチャープローブに結合して該キャプチャープローブを正しい配向性を持たせる第二タンパク質の結合を促す第一タンパク質でコートし、
(c)該セルに、該第一タンパク質との高親和性を有する第二タンパク質で標識された、該標的DNAに相補性のDNA配列で形成されたキャプチャープローブを含む溶液を加え、
(d)該試料を該セルに適用し、
(e)該セルに、該標的DNAに相補性のDNA配列で形成された標的DNA検出プローブを含む溶液を加え、
(f)標的DNAが該キャプチャープローブで捕らえられ、該検出プローブにより検出されるセル中に検出可能なシグナルを生じるための手段を該セルに加え、
(g)該シグナルを検出する。
(好ましい態様の詳細な説明)
【0016】
最初に図1に本発明の態様に従って生物試料中のDNAを検出するための新規装置を模式的に示す。該チップはアルミニウムの層2が調製されるシリコンウエハー1を含み、酸化アルミニウム3の層はアルミニウム層2上に形成される。酸化アルミニウム層3は以下に記載するようにDNAプローブに対する結合表面である。
【0017】
酸化アルミニウム層3はアルミニウム層の酸化、またはまったくアルミニウム層を必要とせずにチップの表面上に直接アルミナが沈着することにより形成することができよう。これらの可能性についてより詳細に説明する。
【0018】
酸化アルミニウム層を形成するための最初の方法において、アルミニウムを酸素および水に曝される清浄アルミニウム表面上に成長させる。Sharma CP & Sunny MC「Albumin adsorption on to aluminum oxide and polyurethane surfaces」Biomaterials, 1990; 11: 255-257に記載の技術に従って、該表面上にアルミニウム層で調製されたシリカチップを最初に蒸留水でリンスし、約30秒間5%(w/v)NaOH溶液に浸漬して清浄にし、次いで蒸留水で数回洗浄する。次に、該チップを湿度を保つために容器にいくらかの水を入れたオーブン中で37℃で一夜加熱する。これら条件下でアルミニウム表面は酸化され厚さ約50Åのアルミナとなる。この工程の変法では該チップを単に蒸留水で清浄にし、次いで60℃で48時間加熱する。
【0019】
アルミニウム層の酸化によるアルミナの形成に代わるものとして、アルミナを以下のスパッタリング条件に従ってシリコンウエハー上に直接沈着させてよい:
装置:ARC-12M Sputtering(スパッタリング)システム
RF力:120W
基礎圧:1.04 x 10-5 torr
処理圧:5 x 10-3 torr
ガス流:Ar/O2 = 30.2/7.5 sccm
ステージローテーション:8rpm
スパッタリング時間:45分間
最小厚:1OOÅ
チップサイズ:5mm x 5mm。
【0020】
アルミナコートしたチップに従来のフォトリトグラフィー技術により模様をつけてよい。さらに、いずれの方法をアルミナ層を形成するのに用いてもハイブリダイゼーション前にチップ表面上を溶液で繰り返しピペッティングすることによりコートしたチップを室温で1xPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)で1回洗浄する。アルミナ層を形成させる別の方法の中で、生じるバックグラウンドシグナルが最も低いことが試験で示されているスパッタリングが好ましいかもしれない。いずれの技術もアルミニウム層の形成に用いられ、その厚さは少なくとも50Åであってよい。
【0021】
酸化アルミニウムは例えばアガロースに比べてより安くより安定で耐久性があるためプローブ結合表面用に好ましい。さらに、酸化アルミニウムは室温で乾燥状態で保存することができる。重要なことは、酸化アルミニウムは電解に関連する問題も排除する。さらに、アガロースは調節された層を形成するのに取り扱いが難しいのに対し、アルミナ層のポアサイズおよび厚さを容易に調節することができる(例えばスパッタリング条件または空気の湿度を変化させることによる)。酸化アルミニウムは常套的フォトリトグラフィー技術を用いて容易に模様をつけることができる。模様をつけた酸化アルミニウム層を用いると非特異結合が低下し、検出器により画像化される領域とバックグラウンドのコントラストが増すことによりバックグラウンドシグナルを低下させることができるので好都合である。
【0022】
図1にもどると、本発明の態様の装置および方法を用いる基本的ハイブリダイゼーションの仕組みも模式的に示す。特に図1において結合表面はアルミニウム上に形成された酸化アルミニウム層である。円形反応ウェルは酸化アルミニウム結合表面上に酸化ケイ素を沈着させることにより明確になるかもしれない。各反応ウェル内でキャプチャープローブは酸化アルミニウム層と結合する。該キャプチャープローブは直接結合しないが、ジゴキシゲニン(DIG)および抗ジゴキシゲニン(抗DIG)抗体の結合の形成を介して結合する。特に、抗DIG抗体は酸化アルミニウム表面により吸着され、該キャプチャープローブはDIG-標識を用いて形成され、キャプチャープローブは抗DIG抗体を介して酸化アルミニウム結合表面と結合することができる。該酸化アルミニウム表面は非常に多孔質であり、多くの異なる分子と結合する能力がある。該抗DIGコーティングは固定化DNAキャプチャープローブが正しく配向するのを保証するための結合層として機能する。コーティングを適用しなければ、検出プローブ(下記)が酸化アルミニウム表面と結合し、標的DNAの検出に干渉を生じる危険性がある。さらに、コーティングを適用しないと、キャプチャープローブが正しくない配向で酸化アルミニウムと結合するかもしれない。基本的に、抗DIG/DIG結合はあらゆる同様の化合物、例えば抗体および標的タンパク質のペア、または互いに非常に高親和性のタンパク質ペア、または互いに相互作用することができる非タンパク質分子ペアで置き換えられるかもしれない。抗体/タンパク質またはタンパク質/タンパク質結合の順序は逆でもよいことも理解されるはずである。例えば、本明細書に記載の好ましい態様において抗DIGが反応を制限するコーティングとして用いられ、キャプチャープローブがDIG-標識されるがこれは逆でもよい。しかしながら、実用的条件において、抗体がキャプチャープローブと結合するより低分子例えばDIGがキャプチャープローブに結合しやすい。さらに、キャプチャープローブは末端アミンまたはアルデヒド基を加えることにより酸化アルミニウム層と直接結合し得るかもしれないことに注意すべきである。
【0023】
キャプチャープローブは試料中に検出されるDNA標的と相補性のDNA配列を用いて形成されることも理解されよう。したがって、試料をキャプチャープローブが結合するチップの表面に適用すると、標的DNAが存在すれば既知のDNAハイブリダイゼーションプロセスによりキャプチャープローブの相補性DNA配列と結合するであろう。該ハイブリダイゼーションは当該分野で知られているように電流を流すことにより加速することが好ましいかもしれない。
【0024】
一旦試料がチップ表面に適用されると、キャプチャープローブに結合するようになった試料由来のあらゆる標的DNAを検出する必要がある。これを達成するため、ビオチン化検出プローブを含む溶液を加える。検出プローブは標的DNAと相補性のDNA配列を含むため、先にキャプチャープローブに捕捉されたあらゆる標的DNAと結合するであろう。捕捉された標的DNAを視覚的に検出できるようにするため、ストレプトアビジンコートした金ナノ粒子を加え、ストレプトアビジンのビオチンとの親和性により該金ナノ粒子は検出プローブに結合するようになるであろう。該金ナノ粒子自身は小さ過ぎて明確に見えないが、銀イオンを含む溶液を加えるとストレプトアビジンコートした金ナノ粒子表面上が還元されて銀層が形成され、暗色の沈着物として目に見えるであろう。
【0025】
バックグラウンドシグナルを減少させるため、チップをサケ精子DNAで処理するのが好ましいかもしれない。サケ精子DNAの代わりにアルブミンもしくは他のタンパク質またはFicollを用いてもよい。
【0026】
本発明のいくつかの態様を実施例および添付の図面により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のある態様のチップおよびハイブリダイゼーションならびに検出の仕組みを示す模式図である。
【図2】(a)〜(d)はキャプチャープローブの存在が標的DNAの検出を可能にすることを示す実験的に得られた反応セルを示す。
【図3】(a)〜(d)は標的DNAの存在が銀沈着物が形成される前に必要であることを示す実験的に得られた反応セルを示す。
【図4】(a)〜(d)は銀沈着の強度が試料中の標的DNAの濃度の増加に伴って増加することを示す実験的に得られた反応セルを示す。
【図5】銀沈着の強度がキャプチャープローブの濃度とともに変化することを示す実験的に得られた反応セルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
さらに銀沈着物の可視性は固定剤溶液、例えばチオ硫酸ナトリウムを用いて増強することができよう。次に、従来の画像装置および技術を用い、試料中の標的DNAの存在により生じる反応セル中の暗色の沈着物を検出することができよう。
【実施例】
【0029】
以下の実施例は試料中のβアクチンDNAを検出するためのプロトコールである。ハイブリダイゼーション工程は、好ましくはパルスを適用する(連続的に電流を流すことも可能であるが)パルスハイブリダイゼーションにより電気的に支援される。しかしながら、パルスハイブリダイゼーションはチップに対する損傷を制限し、より高いシグナルを生じる。典型的ハイブリダイゼーション条件には試料DNAのキャプチャープローブとのハイブリダイゼーションについて10秒間パルス(13マイクロアンペア)の適用、次いで3秒間停止を8分間反復(すなわち、合計48パルス)が含まれる。検出プローブと捕捉された試料DNAとのハイブリダイゼーションには同じ条件を用いることができよう(ただし3分間のみ(すなわち、18パルス))。
【0030】
1. 抗DIGを1xPBS(リン酸緩衝生理食塩水)、pH7.4で100倍希釈する。
2. 50μlの希釈抗DIGをアルミナコートしたチップ上に加え、41℃で2時間インキュベーションする。
3. 抗DIG溶液を捨て、チップを80μl 1xPBS、pH7.4で3回洗浄する(各洗浄中ピペットで上下させる)。
4. 50μl 1xPBS中の1μl 10μMのDIG標識キャプチャープローブおよび0.2μg サケ精子DNAをチップ上に加え、41℃で30分間インキュベーションする。サケ精子DNAを95℃に加熱して変性させて一本鎖を形成させ、次いでDIG標識キャプチャープローブと混合する。
5. DIG-標識キャプチャープローブ溶液およびサケ精子DNA溶液を捨て、80μl 1xPBSで3回および1xSSPEで1回洗浄する。
6. 1xSSPE中のβアクチン配列(91ヌクレオチド一本鎖標的)の11μM試料5μlを加え、8分間記載のごとくパルス電流を流す。ハイブリダイゼーション後0.1xSSPEで3回洗浄する。
7. チップに検出プローブ(1ul、10μM)を加える。3分間記載のごとくパルス電流を流す。チップを0.1xSSPEで3回、1xPBSで1回洗浄する。
8. ストレプトアビジンコートした金ナノ粒子(Sigma Chemical Co., Ltd, St. Louis, Missouri, USAから得た)を1xPBS、pH7.4で10倍に希釈する。
9. 希釈したストレプトアビジンコートした金ナノ粒子をチップ表面に加え41℃で15分間インキュベーションする。
10. 希釈したストレプトアビジンコートした金ナノ粒子溶液を捨て、チップを80μl 1xPBS、pH7.4で2回(毎洗浄中ピペットで上下させる)、80μlのオートクレーブ済milli-Q水で3回洗浄する(毎洗浄中ピペットで上下させる)。
11. 銀エンハンサー溶液AおよびB(Sigma Chemical Co., Ltd, St. Louis, Missouri, USAから得た)の1:1混合物を使用直前に調製し、以下の工程を暗室中で行う。50μlの銀エンハンサー溶液をチップ上に加え、室温で5分間インキュベーションする。
12. 銀エンハンサー溶液を捨て、チップをオートクレーブ済milli-Q水で1回洗浄し、次いで50μlの2%チオ硫酸ナトリウムをチップ上に加える。ピペットで1回上下させてバックグラウンドを除去し、発色させる。
13. 2分間インキュベーション後にチオ硫酸ナトリウムを捨て、50μlのmilli-Q水で洗浄し、次いで50μlのオートクレーブ済みmilli-Q水をチップ上に加える。
14. 光学シグナル検出システムを用いてチップ上の暗色スポットの出現を観察する。
(実験結果)
【0031】
以下の図2〜5に示す実験結果は、下記から理解されるであろうあるパラメーターを変化させる上記ハイブリダイゼーションプロトコールを用いて得られた。すべての場合において基本的DNA検出の仕組みは以下の通りである:抗DIGを用いて得られる酸化アルミニウム結合層、一本鎖核酸標的に相補性のDNA断片を有するDIG標識キャプチャープローブ、捕捉した標的と結合させるためのビオチン標識検出プローブ、および検出した標的DNAを可視化するための銀で増強されたストレプトアビジンコートした金ナノ粒子。
【0032】
図2(a)〜(d)は、DNA標的の検出におけるDIG標識キャプチャープローブの効果を示す。図2(a)および(c)はいずれもハイブリダイゼーション前のチップを示す。反応セルは銀沈着物が形成されていないので白である。図2(b)および(d)は、DIG標識キャプチャープローブ(図2(b)はあり、図2(d)はなし)とハイブリダイゼーション後のチップを示す。反応セルは図2(d)より図2(b)がより暗く、銀の沈着を示す。
【0033】
図3(a)〜(d)は暗色の銀沈着物が標的DNAが存在する反応セル中にのみ形成されることを示す。図2と同様に、図3(a)および(c)はハイブリダイゼーション前のチップを示し、図3(b)および(d)は標的DNA(図3(b)のみあり、図3(d)はなし)とハイブリダイゼーション後のチップを示す。暗色の銀沈着物が標的DNAが存在する図3(b)の反応セル中にのみ形成されることがわかる。
【0034】
図4(a)〜(d)はさらに銀沈着物が標的DNA濃度の増加にともなってより暗くなり、光学シグナルが標的DNA濃度に比例して増加することを示すことにより本発明の効果を示す。図4(a)〜(c)は(a)未希釈標的DNA、(b)5倍希釈標的DNA、および(c)10倍希釈標的DNAによるハイブリダイゼーションおよび検出後のチップを示す。図4(a)の反応セルは図4(b)のものより暗く、図4(b)の反応セルは図4(c)のそれより暗いことがわかるであろう。比較用の図4(d)は標的DNA非存在下のチップを示し、銀の沈着がみられず白い反応セルである。
【0035】
最後に、図5は光学シグナルの強度がDIGキャプチャープローブの濃度と共に変化することを示す。図5において、DIGキャプチャープローブ濃度は左から右に減少し、反応セルはそれに対応して銀の沈着が少ないのでより明るくなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的ハイブリダイゼーションを用いる生物試料中の標的DNAの検出装置であって、DNAキャプチャープローブが結合するための表面をもたらす酸化アルミニウム層を有する少なくとも1の反応セルにより形成される基質、および該標的DNAと該キャプチャープローブ間の電気的支援ハイブリダイゼーションを行うための電場を得るための手段を含む装置。
【請求項2】
該酸化アルミニウム表面がアルミニウム層の酸化により形成される請求項1記載の装置。
【請求項3】
該酸化アルミニウム表面がスパッタリング技術により形成される請求項1記載の装置。
【請求項4】
該酸化アルミニウム表面がキャプチャープローブの結合層として作用する第一化合物でコートされる請求項1記載の装置。
【請求項5】
該キャプチャープローブが該第一化合物と結合することができる第二化合物で標識されている、さらに該酸化アルミニウム表面と結合したキャプチャープローブを含む請求項4記載の装置。
【請求項6】
該第一および第二化合物が抗体-タンパク質ペアを含む請求項5記載の装置。
【請求項7】
該第一化合物が抗ジゴキシゲニン抗体を含み、該第二化合物がジゴキシゲニンを含む請求項6記載の装置。
【請求項8】
該第一および第二化合物がストレプトアビジンおよびビオチンまたはその逆を含む請求項5記載の装置。
【請求項9】
該酸化アルミニウム表面がキャプチャープローブの結合層として作用する第一分子でコートされている請求項1記載の装置。
【請求項10】
該キャプチャープローブが該第一分子との親和性を有する第二分子で標識されている、該酸化アルミニウム表面と結合したキャプチャープローブをさらに含む請求項9記載の装置。
【請求項11】
該酸化アルミニウム層が少なくとも50Åの厚さを有する請求項1記載の装置。
【請求項12】
該酸化アルミニウム表面が検出プロセスにおけるバックグラウンドシグナルを低下させる試薬でコートされている請求項1記載の装置。
【請求項13】
該試薬がサケ精子DNAを含む請求項12記載の装置。
【請求項14】
該試薬がアルブミンもしくは他のタンパク質またはFicollを含む請求項12記載の装置。
【請求項15】
電場を得て標的DNAとキャプチャープローブ間の電気的支援ハイブリダイゼーションを行うのに適した、DNAキャプチャープローブが結合することができる表面を有する酸化アルミニウム層を有する少なくとも1の反応セルを含む基質を含む、電気的ハイブリダイゼーションを用いて試料中の標的DNAを検出するためのDNAチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40009(P2012−40009A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194496(P2011−194496)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【分割の表示】特願2004−526591(P2004−526591)の分割
【原出願日】平成15年8月12日(2003.8.12)
【出願人】(505054988)ハイ・カン・ライフ・コーポレイション・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】HAI KANG LIFE CORPORATION LIMITED
【Fターム(参考)】