説明

生理機能活性化装置

【課題】生理機能活性化装置において、生理機能の活性化作用を向上する。
【解決手段】人体の血管拡張収縮の境界温度Taよりも高い高温側目標温度Tmaxと、境界温度Taよりも低い低温側目標温度Tminとが設定される刺激温度設定部(43a)と、ルームエアコン(20)の目標温度が所定時間に亘って高温側目標温度に保持される高温保持動作と、ルームエアコン(20)の目標温度が所定時間に亘って低温側目標温度に保持される低温保持動作とが交互に少なくとも1回ずつ実行される鍛錬運転を行うための空調制御部(50)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に温熱刺激と冷熱刺激とを与えることで、人体の生理機能を活性化させる生理機能活性化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体の生理機能(特に末梢血管運転機能等)を活性化させるための生理機能活性化装置として、人体に温熱刺激および冷熱刺激を付与するものが知られている。特許文献1には、この種の生理機能活性化装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の生理機能活性化装置は、ヒートポンプ式の空気調和装置と、この空気調和装置を制御するための制御部とを備えている。空気調和装置では、通常の冷房運転や暖房運転に加えて、室内温度を変動させることで在室者に温熱/冷熱刺激を与える温度変動運転(変動運転モード)が行われる。この温度変動運転により、人体の末梢血管運動機能を活性化し、ひいては血圧調節作用、血液循環調節作用、体温調節作用等を促進するようにしている。
【0004】
より詳細には、特許文献1の生理機能活性化装置の温度変動運転では、空気調和装置の目標温度が図12に示すように制御される。即ち、この温度変動運転では、所定の設定時間taにおいて、空気調和装置の目標温度(設定温度)が所定の低温側目標温度Tminから高温側目標温度Tmaxへと徐々に上昇していく。そして、設定時間taの経過に伴い目標温度が高温側目標温度Tmaxに達すると、その後の所定の設定時間tbにおいては、この目標温度が高温側目標温度Tmaxから低温側目標温度Tminへと徐々に下降していく。
【0005】
以上のように、特許文献1の生理機能活性化装置では、空気調和装置の目標温度を徐々に上昇または徐々に下降させることで、在室者に温熱刺激と冷熱刺激とを与えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−41795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された生理機能活性化装置では、空気調和装置の目標温度に所定の勾配を付与して、この目標温度を緩やかに変動させている。このため、在室者の周囲の温度も緩やかに変動してしまうため、在室者に与える温熱刺激や冷熱刺激が弱かった。また、低温側と高温側の目標温度を単純に設定しているに過ぎないため、在室者に温熱刺激と冷熱刺激を効果的に与えることができなかった。これらの理由から、生理機能の活性化を十分に図ることができなかった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生理機能活性化装置において、生理機能の活性化作用を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、血管拡張/収縮の境界温度に着目し、低温側目標温度を境界温度よりも低い温度に設定し、高温側目標温度を境界温度よりも高い温度に設定するようにした。
【0010】
具体的に、第1の発明は、室内の温度を目標温度に調節する空調部(20)と、人体の血管拡張機能と血管収縮機能とが切り換わる境界温度よりも高い所定の高温側目標温度と、上記境界温度よりも低い所定の低温側目標温度とが設定される温度設定部(43a)と、上記空調部(20)の目標温度が所定時間に亘って上記温度設定部(43a)の高温側目標温度に保持される高温保持動作と、上記空調部(20)の目標温度が所定時間に亘って上記温度設定部(43a)の低温側目標温度に保持される低温保持動作とが交互に少なくとも1回ずつ実行される温度変動運転を行うための空調制御部(50)とを備えていることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0011】
上記第1の発明では、高温保持動作が実行されると、空調部(20)の目標温度が高温側目標温度に保持される。これにより、人体の周囲の温度が高くなり人体に温熱刺激が付与される。具体的に、高温側目標温度は血管拡張機能と血管収縮機能とが切り換わる境界温度よりも高い温度に設定されているため、確実に人体に温熱刺激が付与されて、人体において確実に血管拡張が起こされる。一方、低温保持動作が実行されると、空調部(20)の目標温度が低温側目標温度に保持される。これにより、人体の周囲の温度が低くなり人体に冷熱刺激が付与される。具体的に、低温側目標温度は上述した境界温度よりも低い温度に設定されているため、確実に人体に冷熱刺激が付与されて、人体において確実に血管収縮が起こされる。以上のように、温度変動運転では、高温保持動作と低温保持動作とが交互に少なくとも1回ずつ実行されることで、人体に温熱刺激と冷熱刺激とが確実に付与され、血管拡張と血管収縮とが起きる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、上記境界温度が25℃であることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0013】
第2の発明では、血管拡張機能と血管収縮機能とが切り換わる境界温度が標準とされる25℃に設定される。なお、この25℃は、着衣量0.6clo(冬期薄着)、風速0.1m/s、活動量座位1.1metのときに、温熱的にバランスする温度である。
【0014】
第3の発明は、第1または第2の発明において、人体の体温調節が血管の拡張収縮のみによって行われる温度領域が変動する所定の要因に基づいて、上記境界温度を補正する境界温度補正部を備えていることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0015】
第3の発明では、人体の体温調節が血管の拡張収縮のみによって行われる温度領域(血流調節域)内に上記境界温度が存在する。そして、血流調節域が変動する要因に基づいて境界温度が補正されるため、血流調節域の変動に伴って境界温度を適切に設定することができる。
【0016】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1の発明において、人体の周囲条件に基づいて、上記温度設定部の高温側目標温度と低温側目標温度との温度差を変更する温度差補正部を備えていることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0017】
第4の発明では、例えば人体の周囲の熱が人体へ伝わりにくい条件下では、高温側目標温度と低温側目標温度との温度差が小さいとその温度差が人体へ殆ど伝わらないため、その場合は温度差が大きくなるように補正される。逆に、人体の周囲の熱が人体へ伝わりやすい条件下では少しの温度差でも人体に伝わるため、その場合は温度差が小さくなるように補正される。
【0018】
第5の発明は、第1または第2の発明において、上記温度設定部の高温側目標温度および低温側目標温度は、人体の体温調節が血管の拡張収縮のみによって行われる温度領域内の値であることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0019】
人体の体温調節においては、上述した血流調節域にあるときが快適とされている。そこで、第5の発明では、高温側目標温度と低温側目標温度を血流調節域の温度に設定しているため、人体を常に血流調節域の状態にすることができる。
【0020】
第6の発明は、第3の発明において、上記所定の要因が、人体の着衣量および外気温度の履歴の少なくとも1つであることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0021】
上記第6の発明では、人体の着衣量や外気温度の履歴に基づいて上記境界温度が補正される。例えば、着衣量が多い場合、外気温度が低い値で推移している場合は、人体の熱が放散しにくくなっているため、血管収縮を起こして熱の放散を抑制しようとする温度が低くなる。その場合は、血流調節域が低温側へシフトされ、境界温度も低温側へシフトされる。逆に、着衣量が少ない場合、外気温度が高い値で推移している場合は、人体の熱が放散しやすくなっているため、血管拡張を起こして熱の放散を促そうとする温度が高くなる。その場合は、血流調節域が高温側へシフトされ、境界温度も高温側へシフトされる。
【0022】
第7の発明は、第4の発明において、上記人体の周囲条件が、人体の着衣量および体脂肪の少なくとも1つであることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0023】
上記第7の発明では、人体の着衣量や体脂肪に基づいて高温側目標温度と低温側目標温度との温度差が補正される。例えば、着衣量や体脂肪が多い場合は、周囲の熱が人体へ伝わりにくいため、上記温度差を大きくしてその温度差が人体へ確実に伝わるようにする。逆に、着衣量や体脂肪が少ない場合は、周囲の熱が人体へ伝わりやすいため、上記温度差が小さくてもその温度差が人体へ十分伝わる。その場合は、温度差が小さくなるように補正される。
【0024】
第8の発明は、第1乃至第7の何れか1の発明において、上記空調制御部は、先ず上記低温保持動作が実行され、該低温保持動作の終了後に上記高温保持動作が実行される温度変動運転を行うように構成されていることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0025】
第8の発明の温度変動運転が開始すると、先ず低温保持動作が所定時間に亘って実行される。これにより、人体に冷熱刺激が付与される。低温保持動作が終了すると、その終了後に高温保持動作が実行される。これにより、人体に対して急峻な温熱刺激を付与できる。
【0026】
第9の発明は、第8の発明において、上記空調制御部は、先ず上記低温保持動作が実行され、該低温保持動作の終了後に上記高温保持動作が実行され、該高温保持動作の終了後に上記低温保持動作が再び実行される温度変動運転を行うように構成されていることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0027】
第9の発明の温度変動運転では、先ず低温保持動作が実行され、この低温保持動作の終了後に高温保持動作が実行される。これにより、人体に対して急峻な温熱刺激を付与できる。この高温保持動作が終了すると、その終了後に低温保持動作が再び実行される。これにより、人体に対して急峻な冷熱刺激を付与できる。
【0028】
第10の発明は、第1乃至第7の何れか1の発明において、上記空調制御部は、先ず上記高温保持動作が実行され、該高温保持動作の終了後に上記低温保持動作が実行される温度変動運転を行うように構成されていることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0029】
第10の発明の温度変動運転を開始すると、先ず高温保持動作が所定時間に亘って実行される。これにより、人体に温熱刺激が付与される。高温保持動作が終了すると、その終了後に低温保持動作が実行される。これにより、人体に対して急峻な冷熱刺激を付与できる。
【0030】
第11の発明は、第10の発明において、上記空調制御部は、先ず上記高温保持動作が実行され、該高温保持動作の終了後に上記低温保持動作が実行され、該低温保持動作の終了後に上記高温保持動作が再び実行される温度変動運転を行うように構成されていることを特徴とする生理機能活性化装置である。
【0031】
第11の発明の温度変動運転では、先ず高温保持動作が実行され、この高温保持動作の終了後に低温保持動作が実行される。これにより、人体に対して急峻な冷熱刺激を付与できる。この低温保持動作が終了すると、その終了後に高温保持動作が再び実行される。これにより、人体に対して急峻な温熱刺激を付与できる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明によれば、血管拡張収縮の境界温度Taよりも高い高温側目標温度に保持する高温保持動作と、血管拡張収縮の境界温度よりも低い低温側目標温度に保持する低温保持動作とを交互に実行するようにした。つまり、本実施形態では、空調部(20)の目標温度を、境界温度を間にした低温側の温度と高温側の温度とに交互に設定するようにした。そのため、十分且つ確実に在室者に温熱刺激と冷熱刺激とを交互に付与することができ、十分且つ確実に皮膚血管の拡張と収縮とを交互に起こすことができる。これにより、在室者の生理機能(特に、末梢血管の機能)を十分に向上させることができる。その結果、人体の体温調節作用、血圧調節作用、血液循環調節作用等を促進することができ、これにより、冷え性の改善、高血圧の予防、代謝・修復機能の低下防止、疲労回復の促進、熱中症の予防等を図ることができる。
【0033】
特に、第2の発明によれば、血管拡張収縮の境界温度Taとして、標準的な値である25℃を設定しているため、効果的に皮膚血管の拡張と収縮とを交互に起こさせることができる。
【0034】
また、第3および第6の発明によれば、血流調節域が低温側または高温側へ変動するような条件下であっても、その血流調節域の変動に合わせて境界温度Taを補正(シフト)するようにしたため、確実に在室者に冷熱刺激と温熱刺激を付与して血管収縮と血管拡張を起こさせることができる。
【0035】
また、第4および第7の発明によれば、周囲の熱が人体へ伝わりにくい条件下では、温度差Tmax−Tminを大きくするようにしたため、その温度差Tmax−Tminを確実に在室者に付与することができ、血管収縮と血管拡張を確実に起こさせることができる。また、周囲の熱が人体へ伝わりやすい条件下では、温度差Tmax−Tminを小さくするようにしたため、温度差Tmax−Tminが過剰となる状態を回避できる。
【0036】
また、第5の発明によれば、在室者の快適性を損なうことなく生理機能の活性化を図ることができる。さらに、人体は、血流調節域では他の調節域に比べて代謝の変化が起こらないため、身体に負担を掛けることなく生理機能を活性化させることができる。
【0037】
第8の発明によれば、まず低温保持動作を実行し、次いで高温保持動作を実行するようにしている。このため、人体に対して急峻な温熱刺激を付与できる。また、第10の発明によれば、まず高温保持動作を実行し、次いで低温保持動作を実行するようにしている。このため、人体に対して急峻な冷熱刺激を付与できる。更に、第9の発明では、低温保持動作、高温保持動作、低温保持動作を順に実行しており、第11の発明では、高温保持動作、低温保持動作、高温保持動作を順に実行している。このため、第9や第11の発明では、人体に対して急峻な冷熱刺激と急峻な温熱刺激との双方を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、実施形態に係る生理機能活性化装置の運転状況を示す概略構成図である。
【図2】図2は、ルームエアコンの冷媒回路を示す概略構成図である。
【図3】図3は、生理機能活性化装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、境界温度と低温側目標温度および高温側目標温度との関係を説明するための図である。
【図5】図5は、目標温度の変動の一例を示すタイムチャートである。
【図6】図6は、目標温度の変動のその他の一例を示すタイムチャートである。
【図7】図7は、目標温度の変動のその他の一例を示すタイムチャートである。
【図8】図8は、目標温度の変動のその他の一例を示すタイムチャートである。
【図9】図9は、境界温度および温度差の補正動作を示すフローチャートである。
【図10】図10は、補正要因と境界温度および温度差の補正との関係を示す表である。
【図11】図11は、境界温度および温度差の補正を説明するための図である。
【図12】図12は、従来例の生理機能活性化装置の目標温度の変化を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0040】
本発明の実施形態に係る生理機能活性化装置(10)は、人体に温熱刺激と冷熱刺激とを与えることで、人体の生理機能を活性化させるものである。図1に示すように、生理機能活性化装置(10)は、空調部としてのルームエアコン(20)を備えている。
【0041】
ルームエアコン(20)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行うヒートポンプ式の冷凍装置(空気調和装置)を構成している。つまり、ルームエアコン(20)は、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(21)を備えている(図2を参照)。冷媒回路(21)には、圧縮機(22)と室外熱交換器(23)と膨張弁(24)と室内熱交換器(25)と四方切換弁(26)とが接続されている。圧縮機(22)は、容量が可変なインバータ式に構成されている。膨張弁(24)は、例えば電子膨張弁で構成されている。
【0042】
冷媒回路(21)では、四方切換弁(26)の切り換えに伴って、冷媒の流路が変更される。これにより、冷媒回路(21)では、室外熱交換器(23)が凝縮器となり室内熱交換器(25)が蒸発器となる冷凍サイクル(冷媒が図2の実線矢印の方向に流れる冷凍サイクル)と、室外熱交換器(23)が蒸発器となり室内熱交換器(25)が凝縮器となる冷凍サイクル(冷媒が図2の破線矢印の方向に流れる冷凍サイクル)とが変更可能となっている。
【0043】
ルームエアコン(20)は、室内空間(S)に配設される室内ユニット(30)を備えている。室内ユニット(30)は、例えば室内の壁面に取り付けられる、壁掛け式に構成されている。室内ユニット(30)は、横長のケーシング(31)を備えている。ケーシング(31)には、前側または/および上部に吸込口(32)が形成され、下部に吹出口(33)が形成されている。ケーシング(31)の内部には、吸込口(32)から吹出口(33)に亘って空気通路が形成されている。この空気通路には、上述した室内熱交換器(25)と、室内ファン(27)とが設けられている。室内ファン(27)を運転すると、室内空間(S)の空気が吸込口(32)を通じてケーシング(31)の内部に取り込まれる。この空気は、室内熱交換器(25)を通過した後、吹出口(33)を通じて室内空間(S)へ供給される。室内ファン(27)は、人体に対して空気を供給する空気送風部を構成している。また、室内ファン(27)は、ファンモータの回転数が可変に構成されている。
【0044】
図3に示すように、生理機能活性化装置(10)は、設定部(40)と空調制御部(50)とを備えている。
【0045】
設定部(40)には、ルームエアコン(20)に関する各種の運転パラメータが設定される。設定部(40)には、運転切換設定部(41)と通常運転設定部(42)と鍛錬運転設定部(43)とが設けられている。
【0046】
運転切換設定部(41)は、ルームエアコン(20)の運転を切り換えるためのスイッチである。ルームエアコン(20)の運転モードは、「通常運転」と「鍛錬運転」とに大別される。「通常運転」は、室内空間(S)の温度がユーザー等の所望とする温度(空調目標温度)に近づくように空調を行う運転である。この「通常運転」は、室内熱交換器(25)を蒸発器とする冷凍サイクルを行う“冷房運転”と、室内熱交換器(25)を凝縮器とする冷凍サイクルを行う“暖房運転”とに分類される。また、「鍛錬運転」は、室内空間(S)の在室者の生理機能を活性化させるための運転である。即ち、「鍛錬運転」は、室内空間(S)の温度を変化させることで、人体に温熱刺激と冷熱刺激とを与える温度変動運転である。
【0047】
通常運転設定部(42)には、ルームエアコン(20)の通常運転に関する運転パラメータが設定される。具体的には、通常運転設定部(42)には、空調温度設定部(42a)と風量設定部(42b)と風向設定部(42c)とが設けられている。
【0048】
空調温度設定部(42a)には、ルームエアコン(20)の空調の対象となる室内の設定温度Tsが入力される。つまり、空調温度設定部(42a)には、通常運転時のルームエアコン(20)の目標温度が設定される。
【0049】
風量設定部(42b)には、通常運転時のルームエアコン(20)について、吹出口(33)から吹き出される空気(吹出空気)の風量が入力/設定される。なお、この吹出空気の風量は、例えば室内ファン(27)のモータの回転数を制御することで、変更可能となっている。また、風向設定部(42c)には、通常運転時のルームエアコン(20)の吹出空気の風向が入力/設定される。なお、吹出空気の風向は、例えば吹出口(33)に設けられたフラップ(風向調整板)を制御することで、変更可能となっている。
【0050】
鍛錬運転設定部(43)には、ルームエアコン(20)の鍛錬運転に関する運転パラメータが設定および補正される。具体的には、鍛錬運転設定部(43)には、刺激温度設定部(43a)と変動パターン設定部(43b)と補正要因設定部(43c)と境界温度補正部(43d)と温度差補正部(43e)とが設けられている。
【0051】
ここで、人体における体温調節のメカニズムについて説明する。人体における体温調節は、主として、自律性体温調節と行動性体温調節の2つのプロセスによって行われる。自律性体温調節は、生理的体温調節ともいい、自律神経やホルモンの働きによって体温が調節される。行動性体温調節は、着衣量の調節、冷暖房の運転、日向や木陰に入る等によって体温が調節される。本実施形態では、自律性体温調節について着目した。
【0052】
自律性体温調節は、図4に示すように、環境温度に応じて「血流調節域(血管調節域)」と「産熱調節域」と「発汗調節域」の3つに区分される。「血流調節域」は、血管(主に、皮膚血管)の拡張収縮のみによって体温調節が行われる温度領域(図4に示す下限Tb〜上限Tcの温度領域)である。環境温度が比較的高い場合、皮膚血管が拡張し、それに伴って血流が増加して皮膚温が上昇する。これにより、皮膚温が環境温度よりも高くなり、体外へ熱を放散しやすくなる。逆に、環境温度が比較的低い場合、皮膚血管が収縮し、それに伴って血流が減少して皮膚温が低下する。これにより、皮膚温と環境温度との温度差が少なくなり、体外へ熱を放散しにくくなる(即ち、体外へ熱が逃げにくくなる)。このようにして、血流調節域では体温が調節される。そして、この血流調節域においては、血管の拡張機能と収縮機能とが切り換わる境界温度(以下、血管拡張収縮の境界温度Taまたは単に境界温度Taという。)が存在する。つまり、この境界温度Taよりも環境温度が高いときは、温熱刺激が人体に与えられて血管拡張が起こり、境界温度Taよりも環境温度が低いときは、冷熱刺激が人体に与えられて血管収縮が起こる。ところが、環境温度が過酷になると、上述した血管の拡張収縮だけでは体温の平衡を維持できなくなる。環境温度が血流調節域の温度よりも低くなると、「産熱調節域」となる。「産熱調節域」では、血管の収縮に加えて、「ふるえ」等によって代謝が促進され産熱が行われることによって、体温の低下が抑制される。逆に、環境温度が血流調節域の温度よりも高くなると、「発汗調節域」となる。発汗調節域では、血管の拡張に加えて、発汗による熱放散が行われることによって、体温の上昇が抑制される。
【0053】
刺激温度設定部(43a)には、鍛錬運転時のルームエアコン(20)の目標温度として「高温側目標温度Tmax」と「低温側目標温度Tmin」がそれぞれ設定されると共に、上述した血管拡張収縮の境界温度Taが設定される。高温側目標温度Tmaxは、血管拡張収縮の境界温度Taよりも高い値に設定され、低温側目標温度Tminは、血管拡張収縮の境界温度Taよりも低い値に設定される。つまり、高温側目標温度Tmaxは人体に温熱刺激を与えるための環境温度であり、低温側目標温度Tminは人体に冷熱刺激を与えるための環境温度である。本実施形態では、高温側目標温度Tmaxおよび低温側目標温度Tminのそれぞれが血流調節域を超えた発汗調節域と産熱調節域の温度に設定されてもよいし(図4に示す白丸)、高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminの両方が血流調節域の温度に設定されてもよい(図4に示す白三角)。また、高温側目標温度Tmaxおよび低温側目標温度Tminの一方は血流調節域の温度に設定され、他方は発汗調節域または産熱調節域の温度に設定されてもよい。本実施形態の刺激温度設定部(43a)では、血流調節域が22℃〜28℃(図4において、Tb=22℃、Tc=28℃)に、血管拡張収縮の境界温度Taが25℃に、高温側目標温度Tmaxが28℃に、低温側目標温度Tminが22℃に、それぞれ基準値として設定されている。つまり、高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminは血流調節域の温度に設定されている。なお、血流調節域の22℃〜28℃は、標準的な値である。
【0054】
変動パターン設定部(43b)には、鍛錬運転時のルームエアコン(20)の目標温度を、時間の経過に伴ってどのように変化させるか、というような目標温度の変動パターンが設定される。具体的には、変動パターン設定部(43b)には、図5に示すように、鍛錬運転の開始から終了までの間に、ルームエアコン(20)の目標温度をTmin→Tmax→Tminという順で変化させる、変動パターンが設定される。即ち、本実施形態の鍛錬運転では、ルームエアコン(20)の目標温度を先ず低温側目標温度Tminに保持する動作(低温保持動作)が実行され、その低温保持動作が終了すると、ルームエアコン(20)の目標温度を高温側目標温度Tmaxに保持する動作(高温保持動作)が実行され、この高温保持動作が終了すると、再び低温保持動作が実行される。
【0055】
また、本実施形態の変動パターン設定部(43b)には、上記の各動作が実行される時間(t1、t2、t3)が設定される。本実施形態では、第1時間t1が12.5分に設定され、第2時間t2が35分に設定され、第3時間t3が12.5分に設定されている。つまり、本実施形態では、高温保持動作が実行される時間(本実施形態では、時間t2)が、低温保持動作が実行される時間(本実施形態では、時間t1および時間t3)よりも長くなっている。また、本実施形態では、高温保持動作の直前の低温保持動作の実行時間(本実施形態では、時間t1)と、高温保持動作の直後の低温保持動作の実行時間(本実施形態では、時間t3)とが、同じ時間(12.5分)に設定されている。
【0056】
補正要因設定部(43c)には、刺激温度設定部(43a)に設定された境界温度Taと温度差Tmax−Tmin(高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminとの温度差)を補正するための要因(補正要因)が設定される。図10に示すように、本実施形態では、在室者の着衣量および体脂肪、温度履歴(外気温度の履歴)が補正要因として設定される。境界温度補正部(43d)は、補正要因設定部(43c)の補正要因に基づいて、刺激温度設定部(43a)の境界温度Taを補正するように構成されている。温度差補正部(43e)は、補正要因設定部(43c)の補正要因に基づいて、刺激温度設定部(43a)の高温側目標温度Tmax、低温側目標温度Tmin、それらの温度差Tmax−Tminを補正するように構成されている。これら補正動作の詳細については後述する。
【0057】
空調制御部(50)は、設定部(40)に設定された各種の運転パラメータ等に基づいて、ルームエアコン(20)を制御するものであり、通常運転や鍛錬運転を行うためのコントローラを構成している。空調制御部(50)は、例えば圧縮機(22)の運転周波数、室内ファン(27)の回転数、膨張弁(24)の開度、四方切換弁(26)の設定等をそれぞれ制御するように構成されている。
【0058】
−運転動作−
生理機能活性化装置(10)の運転動作について説明する。
【0059】
〈通常運転〉
まず、ルームエアコン(20)の通常運転について説明する。ルームエアコン(20)の通常運転では、冷房運転と暖房運転とが切り換えて行われる。
【0060】
冷房運転では、圧縮機(22)の吐出側と室外熱交換器(23)とが連通すると同時に圧縮機(22)の吸入側と室内熱交換器(25)とが連通するように、四方切換弁(26)が設定される。この状態から圧縮機(22)が運転されると、圧縮機(22)から吐出された冷媒が室外熱交換器(23)で凝縮し、膨張弁(24)で減圧された後に、室内熱交換器(25)を流れる(図2の実線矢印を参照)。
【0061】
また、冷房運転中のルームエアコン(20)において、室内ファン(27)が運転されると、室内空間(S)の空気が吸込口(32)よりケーシング(31)内に導入される。ケーシング(31)内に導入された空気は、空気通路を流れて室内熱交換器(25)を通過する。室内熱交換器(25)では、冷媒が空気から吸熱して蒸発し、この空気が冷却される。室内熱交換器(25)で蒸発した冷媒は、圧縮機(22)に吸入されて圧縮される。室内熱交換器(25)で冷却された空気は、吹出口(33)を通じてケーシング(31)の外部(即ち、室内空間(S))へ供給される。
【0062】
暖房運転では、圧縮機(22)の吐出側と室内熱交換器(25)とが連通すると同時に圧縮機(22)の吸入側と室外熱交換器(23)とが連通するように、四方切換弁(26)が設定される。この状態から圧縮機(22)が運転されると、圧縮機(22)から吐出された冷媒が室内熱交換器(25)を流れる(図2の破線矢印を参照)。
【0063】
また、暖房運転中のルームエアコン(20)において、室内ファン(27)が運転されると、室内空間(S)の空気が吸込口(32)よりケーシング(31)内に導入される。ケーシング(31)内に導入された空気は、空気通路を流れて室内熱交換器(25)を通過する。室内熱交換器(25)では、冷媒が空気に放熱して凝縮し、この空気が加熱される。室内熱交換器(25)で凝縮した冷媒は、膨張弁(24)で減圧された後に室外熱交換器(23)で蒸発し、圧縮機(22)に吸入されて圧縮される。室内熱交換器(25)で加熱された空気は、吹出口(33)を通じてケーシング(31)の外部(即ち、室内空間(S))へ供給される。
【0064】
以上のような通常運転(冷房運転や暖房運転)では、ルームエアコン(20)の空調対象となる室内空間(S)の温度が、空調温度設定部(42a)に設定された設定温度Tsに近づくように、ルームエアコン(20)の能力が制御される。具体的には、例えば本実施形態のルームエアコン(20)の吸込口(32)には、吸込温度センサ(35)が設けられている。そして、空調制御部(50)は、吸込温度センサ(35)で検出された空気(吸込空気)の温度が、設定温度Tsに近づくように、圧縮機(22)の運転周波数や発停の制御を行う。これにより、冷房運転や暖房運転では、室内空間(S)の空気の温度が設定温度Tsへと収束していく。
【0065】
〈鍛錬運転〉
次に、ルームエアコン(20)の鍛錬運転について説明する。運転切換設定部(41)の運転モードを「鍛錬運転」に設定して運転を開始すると、以下のような鍛錬運転が行われる。
【0066】
図5に示すように、鍛錬運転を開始すると、時間t1に亘って低温保持動作が実行される。つまり、時間t1(12.5分間)においては、ルームエアコン(20)の目標温度が低温側目標温度Tmin(22℃)となる。即ち、空調制御部(50)は、室内空間(S)の在室者の周囲の温度が、Tminに近づくように、ルームエアコン(20)を制御する。より具体的には、空調制御部(50)は、例えば吸込温度センサ(35)で検出した吸込空気の温度が、低温側目標温度Tminに近づくように、圧縮機(22)の運転周波数や発停の制御を行う。
【0067】
以上のようにして、低温保持動作が実行されると、在室者に冷熱刺激が付与される。具体的に、低温側目標温度Tminは血管拡張収縮の境界温度Taよりも低い温度(即ち、血管が収縮する温度領域)に設定されているため、確実に冷熱刺激が在室者に付与されて在室者の皮膚血管が収縮していく。そして、在室者には、このような冷熱刺激が時間t1に亘って連続的に付与される。このため、時間t1において、在室者の皮膚血管が確実に収縮状態となる。なお、このようにして、在室者の皮膚血管を確実に収縮させるためには、初回の低温保持動作の実行時間(t1)を12.5分以上とするのがよい。
【0068】
時間t1が経過して最初の低温保持動作が終了すると、その終了直後に高温保持動作が実行される。つまり、時間t2(35分間)においては、ルームエアコン(20)の目標温度が高温側目標温度Tmax(28℃)となる。即ち、空調制御部(50)は、室内空間(S)の在室者の周囲の温度が、Tmaxに近づくように、ルームエアコン(20)を制御する。より具体的には、空調制御部(50)は、例えば吸込温度センサ(35)で検出した吸込空気の温度が、高温側目標温度Tmaxに近づくように、圧縮機(22)の運転周波数や発停の制御を行う。
【0069】
以上のようにして、低温保持動作の終了直後に高温保持動作が実行されると、在室者の周囲の温度が急激に上昇する。このため、在室者には急峻な温熱刺激が付与される。具体的に、高温側目標温度Tmaxは血管拡張収縮の境界温度Taよりも高い温度(即ち、血管が拡張する温度領域)に設定されているため、確実に温熱刺激が在室者に付与されて在室者の皮膚血管が速やかに拡張していく。そして、在室者には、このような温熱刺激が時間t2に亘って連続的に付与される。このため、時間t2においては、高温保持動作の開始直前までは収縮状態であった皮膚血管を、確実に拡張状態にすることができる。なお、このようにして、在室者の皮膚血管を確実に拡張させるためには、高温保持動作の実行時間(t2)を35分以上とするのがよい。
【0070】
また、冷え性の在室者の場合、皮膚血管が収縮状態に成りやすい傾向がある。このため、初回の低温保持動作の実行時間よりも、その直後の高温保持動作の実行時間を長くすることで、このような冷え性の在室者の皮膚血管を拡張状態へと遷移させ易くなる。
【0071】
時間t2が経過して高温保持動作が終了すると、その終了直後に2回目の低温保持動作が実行される。つまり、時間t3(12.5分)においては、ルームエアコン(20)の目標温度が再び低温側目標温度Tmin(22℃)となる。これにより、在室者の周囲の温度が低温側目標温度Tminへと下降していく。その結果、在室者には、急峻な冷熱刺激が付与され、在室者の皮膚血管が速やかに収縮していく。なお、2回目の低温保持動作の実行時間が短すぎると、在室者に付与される冷熱刺激が不十分となる。このため、2回目の低温保持動作の実行時間(t3)は、12.5分以上とするのが好ましい。
【0072】
時間t3が経過して2回目の低温保持動作が完了すると、鍛錬運転が終了して自動的に通常運転が実行される。その結果、ルームエアコン(20)の目標温度が設定温度Tsとなり、上述した冷房運転や暖房運転が行われる。したがって、鍛錬運転の後には、室内空間(S)の温度が設定温度Tsに近づいていくので、室内空間(S)の快適性が速やかに改善されていく。
【0073】
−実施形態の効果−
以上のように、本実施形態の鍛錬運転では、血管拡張収縮の境界温度Taよりも高い高温側目標温度Tmaxに保持する高温保持動作と、血管拡張収縮の境界温度Taよりも低い低温側目標温度Tminに保持する低温保持動作とを交互に実行するようにした。つまり、本実施形態では、ルームエアコン(20)の目標温度を、境界温度Taを間にした低温側の温度と高温側の温度とに交互に設定するようにした。そのため、十分且つ確実に在室者に温熱刺激と冷熱刺激とを交互に付与することができ、十分且つ確実に皮膚血管の拡張と収縮とを交互に起こすことができる。これにより、在室者の生理機能(特に、末梢血管の機能)を十分に向上させることができる。その結果、人体の体温調節作用、血圧調節作用、血液循環調節作用等を促進することができ、これにより、冷え性の改善、高血圧の予防、代謝・修復機能の低下防止、疲労回復の促進、熱中症の予防等を図ることができる。
【0074】
特に、本実施形態では、標準的な血流調節域22℃〜28℃の中央の温度である25℃に血管拡張収縮の境界温度Taを設定しているため、効果的に皮膚血管の拡張と収縮とを交互に起こさせることができる。
【0075】
また、人体の体温調節においては、産熱調節域および発汗調節域よりも血流調節域にあるときが快適とされている。本実施形態の鍛錬運転では、高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminを血流調節域の温度に設定しているため、在室者を常に血流調節域の状態にすることができ、在室者の快適性を損なうことなく生理機能の活性化を図ることができる。さらに、人体は、血流調節域では他の調節域に比べて代謝の変化が起こらないため、本実施形態の鍛錬運転では身体に負担を掛けることなく生理機能を活性化させることができる。
【0076】
また、本実施形態では、初回の低温保持動作が終了するとその終了直後に高温保持動作が実行され、この高温保持動作が終了するとその終了直後に2回目の低温保持動作が実行される。このため、鍛錬運転では、在室者の周囲温度を急激に上昇変化、あるいは下降変化させることができる。その結果、在室者に対して十分な冷熱刺激および温熱刺激を付与することができ、在室者の生理機能を十分に向上させることができる。
【0077】
また、本実施形態の鍛錬運転では、ルームエアコン(20)の目標温度として、高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminとの2種類しか用いていない。このため、例えば鍛錬運転時の目標温度をこれよりも多数設定する場合と比較して、ルームエアコン(20)の制御を簡易に行うことができる。
【0078】
なお、本実施形態では、室内の温度を変化させる空調部として、ルームエアコン(20)を用いるようにしている。しかしながら、この空調部(20)として、例えばファンコイルユニット、ヒータ、ペルチェ素子等を用いるようにしてもよい。即ち、空調部(20)は、空気を加熱または冷却できる手段であれば、如何なるものであってもよい。
【0079】
−その他の運転動作−
本実施形態の鍛錬運転では、次のような動作も可能である。
【0080】
〈鍛錬運転の温度変動パターン〉
鍛錬運転設定部(43)に設定される鍛錬運転の変動パターンとして、上記実施形態と異なる変動パターンを採用してもよい。つまり、変動パターン設定部(43b)に設定される変動パターンは上記の実施形態に限られない。
【0081】
具体的には、図6に示す鍛錬運転の変動パターンは、ルームエアコン(20)の目標温度をTmax→Tmin→Tmaxの順に変化させるものである。つまり、図6に示す例の鍛錬運転では、高温保持動作→低温保持動作→高温保持動作というサイクルで、高温保持動作と低温保持動作とが交互に実行され、その後に通常運転が行われる。この変動パターンの場合も、十分且つ確実に皮膚血管の拡張と収縮とを交互に起こすことができ、これにより、在室者の生理機能(特に、末梢血管の機能)を十分に向上させることができる。また、この鍛錬運転においても、1回目の高温保持動作の終了直後に低温保持動作を行うことで、人体に急峻な冷熱刺激を付与することができる。また、その後の低温保持動作の終了直後に高温保持動作を行うことで、人体に急峻な温熱刺激を付与することができる。
【0082】
また、図7や図8に示すように、鍛錬運転において、低温保持動作と高温保持動作とを1回ずつ行うようにしてもよい。つまり、図7に示す鍛錬運転では、低温保持動作→高温保持動というサイクルで、低温保持動作と高温保持動作とが交互に実行され、その後に通常運転が行われる。また、図8に示す鍛錬運転では、高温保持動作→低温保持動作というサイクルで、高温保持動作と低温保持動作とが交互に実行され、その後に通常運転が行われる。これらの変動パターンにおいても、低温保持動作の終了直後に高温保持動作を速やかに行い、あるいは高温保持動作の終了直後に低温保持動作を速やかに行うことで、十分且つ確実に皮膚血管の拡張と収縮とを交互に起こすことができる。
【0083】
また、鍛錬運転の変動パターンとして、低温保持動作と高温保持動作とを交互に繰り返す回数を上記実施形態よりも多い回数としてもよい。即ち、本発明は、低温保持動作と高温保持動作とが少なくとも1回ずつ交互に実行される鍛錬運転であれば、各動作の回数を如何なる回数としてもよい。
【0084】
〈自動運転プログラム〉
上記実施形態では、鍛錬運転が終了すると、自動的に通常運転を行うようにしている。このような自動運転プログラムとして、所定の期間(例えば1週間)に亘って、1日1回鍛錬運転を必ず実行するものを用いてもよい。この場合、ユーザー等が1日毎に運転モードとして「鍛錬運転」を選択/入力せずとも、所定の期間(例えば1週間)に亘って自動的に鍛錬運転が実行される。その結果、ユーザー等は確実且つ連続的に鍛錬運転を受けることができるので、ユーザーの生理機能を確実に向上できる。
【0085】
〈境界温度と温度差の補正〉
上述した人体の血流調節域は、個人差(着衣量や体脂肪率等)によって多少変動してしまう。そのため、血流調節域の変動が生じた場合には、境界温度Taや温度差Tmax−Tmin(高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminとの温度差)を補正する必要がある。そこで、本実施形態の鍛錬運転では、上述したように、刺激温度設定部(43a)に設定された境界温度Taおよび温度差Tmax−Tminを補正することも可能である。
【0086】
本実施形態の鍛錬運転設定部(43)は、図9に示すフローチャートに基づいて境界温度Ta(25℃)と温度差Tmax−Tmin(6℃=28℃−22℃)を補正する。先ず、運転切換設定部(41)によって「鍛錬運転」が選択されると(ステップST1)、在室者によって補正要因設定部(43c)に補正要因が入力設定される(ステップST2)。具体的に、在室者の着衣量および体脂肪率、温度履歴(外気温度の履歴)が補正要因として入力設定される。次に、境界温度補正部(43d)において刺激温度設定部(43a)の境界温度Taが補正され(ステップST3)、温度差補正部(43e)において刺激温度設定部(43a)の温度差Tmax−Tminが補正される(ステップST4)。境界温度補正部(43d)は、補正要因設定部(43c)に入力された着衣量と温度履歴に基づいて境界温度Taを補正する。温度差補正部(43e)は、補正要因設定部(43c)に入力された着衣量と体脂肪率に基づいて温度差Tmax−Tminを補正する。この補正内容の詳細については後述する。境界温度Taと温度差Tmax−Tminが補正されると、変動パターン設定部(43b)で上述したような温度変動パターンが設定され(ステップST5)、鍛錬運転が実行される(ステップST6)。
【0087】
境界温度補正部(43d)および温度差補正部(43e)による補正内容について図10および図11を参照しながら説明する。着衣量が多い場合は、人体の熱が放散しにくい(熱が逃げにくい)状態であるため、人体において血管収縮を起こして熱の放散を抑制しようとする温度が低くなる。つまり、血流調節域および境界温度Taが低温側へ(図4において左へ)シフトされることとなる。また、温度履歴が高温である場合、即ち外気温度が高い値で推移している場合は、血管が常時拡張しているため、血管収縮を起こしにくい状態となっている。即ち、この場合も、血流調節域および境界温度Taが低温側へ(図4において左へ)シフトされることとなる。逆に、着衣量が少ない場合、人体の熱が放散しやすい状態であるため、人体において血管拡張を起こして熱の放散を促そうとする温度が高くなる。つまり、血流調節域および境界温度Taが高温側へ(図4において右へ)シフトされることとなる。また、温度履歴が低温である場合、即ち外気温度が低い値で推移している場合は、血管が常時収縮しているため、血管拡張を起こしにくい状態となっている。即ち、この場合も、血流調節域および境界温度Taが高温側へ(図4において右へ)シフトされることとなる。この点から、本実施形態の境界温度補正部(43d)では、図10に示すように、着衣量が多い場合や温度履歴が高温である場合は境界温度Taが基準値(25℃)より低い値(例えば23℃)に補正され、着衣量が少ない場合や温度履歴が低温である場合は境界温度Taが基準値(25℃)より高い値(例えば27℃)に補正される。このとき、刺激温度設定部(43a)で設定された血流調節域の基準値である22℃〜28℃についても、前者の場合は20℃〜26℃にシフトされ、後者の場合は24℃〜30℃にシフトされる。以上のように、血流調節域が低温側または高温側へ変動するような条件下であっても、その血流調節域の変動に合わせて境界温度Taを補正(シフト)するようにしたため、確実に在室者に冷熱刺激と温熱刺激を付与して血管収縮と血管拡張を起こさせることができる。
【0088】
また、着衣量が多いほど、体脂肪率が高いほど、人体において外部との熱のやりとりが着衣や脂肪によって阻害される。つまり、着衣量が多いほど、体脂肪率が高いほど、外部から人体へ熱が伝わりにくくなる。そのため、高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminの温度差Tmax−Tminが小さいと、その温度差Tmax−Tminが人体へ殆ど伝わらず在室者に冷熱刺激と温熱刺激を十分に与えることができなくなる。逆に、着衣量が少ないほど、体脂肪率が低いほど、外部から人体へ熱が伝わりやすいため、少しの温度差Tmax−Tminがあれば在室者に冷熱刺激と温熱刺激を十分に与えることができる。この点から、本実施形態の温度差補正部(43e)では、図10に示すように、着衣量が多い場合や体脂肪率が高い場合は温度差Tmax−Tmin(6℃=28℃−22℃)が大きくなるように補正され、着衣量が少ない場合や体脂肪率が低い場合は温度差Tmax−Tmin(6℃)が小さくなるように補正される。以上のように、周囲の熱が人体へ伝わりにくい条件下では、温度差Tmax−Tminを大きくするようにしたため、その温度差Tmax−Tminを確実に在室者に付与することができ、血管収縮と血管拡張を確実に起こさせることができる。また、周囲の熱が人体へ伝わりやすい条件下では、温度差Tmax−Tminを小さくするようにしたため、温度差Tmax−Tminが過剰となる状態を回避できる。その結果、ルームエアコン(20)にとって優しい制御を行うことができる。
【0089】
以上の境界温度補正部(43d)および温度差補正部(43e)によれば、例えば図11に示すような態様で境界温度Taや温度差Tmax−Tminが補正される。なお、これは単なる一例である。例えば、刺激温度設定部(43a)において高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminの両方が血流調節域を超える温度に設定されているときに((A)参照)、境界温度Taの基準値が高い値に補正された場合(血流調節域が高温側へシフトされた場合)について(B)〜(C)を参照して説明する。(B)の場合は、温度差Tmax−Tminは変更せずに高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminがそのまま血流調節域と同じ量だけ高温側へシフトされたものである。(C)の場合は、温度差Tmax−Tminが小さくなるように変更されたものである。(D)の場合は、温度差Tmax−Tminが小さくなるように変更され、さらに高温側目標温度Tmaxと低温側目標温度Tminの両方がシフト後の血流調節域の温度に変更されたものである。
【0090】
以上のような境界温度Taおよび温度差Tmax−Tminの補正を行うことによって、在室者の状態に応じて、冷熱刺激と温熱刺激を十分且つ適切に与えることができ、血管収縮と血管拡張を確実に起こすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明は、人体に温熱刺激と冷熱刺激とを与えることで、人体の生理機能を活性化させる生理機能活性化装置について有用である。
【符号の説明】
【0092】
10 生理機能活性化装置
20 ルームエアコン(空調部)
43a 刺激温度設定部(温度設定部)
43d 境界温度補正部
43e 温度差補正部
50 空調制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の温度を目標温度に調節する空調部(20)と、
人体の血管拡張機能と血管収縮機能とが切り換わる境界温度よりも高い所定の高温側目標温度と、上記境界温度よりも低い所定の低温側目標温度とが設定される温度設定部(43a)と、
上記空調部(20)の目標温度が所定時間に亘って上記温度設定部(43a)の高温側目標温度に保持される高温保持動作と、上記空調部(20)の目標温度が所定時間に亘って上記温度設定部(43a)の低温側目標温度に保持される低温保持動作とが交互に少なくとも1回ずつ実行される温度変動運転を行うための空調制御部(50)とを備えている
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記境界温度は、25℃である
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
人体の体温調節が血管の拡張収縮のみによって行われる温度領域が変動する所定の要因に基づいて、上記境界温度を補正する境界温度補正部(43d)を備えている
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項において、
人体の周囲条件に基づいて、上記温度設定部の高温側目標温度と低温側目標温度との温度差を変更する温度差補正部(43e)を備えている
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項5】
請求項1または2において、
上記温度設定部(43a)の高温側目標温度および低温側目標温度は、人体の体温調節が血管の拡張収縮のみによって行われる温度領域内の値である
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項6】
請求項3において、
上記所定の要因は、人体の着衣量および外気温度の履歴の少なくとも1つである
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項7】
請求項4において、
上記人体の周囲条件は、人体の着衣量および体脂肪の少なくとも1つである
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項において、
上記空調制御部(50)は、先ず上記低温保持動作が実行され、該低温保持動作の終了後に上記高温保持動作が実行される温度変動運転を行うように構成されている
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項9】
請求項8において、
上記空調制御部(50)は、先ず上記低温保持動作が実行され、該低温保持動作の終了後に上記高温保持動作が実行され、該高温保持動作の終了後に上記低温保持動作が再び実行される温度変動運転を行うように構成されている
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項10】
請求項1乃至7の何れか1項において、
上記空調制御部(50)は、先ず上記高温保持動作が実行され、該高温保持動作の終了後に上記低温保持動作が実行される温度変動運転を行うように構成されている
ことを特徴とする生理機能活性化装置。
【請求項11】
請求項10において、
上記空調制御部(50)は、先ず上記高温保持動作が実行され、該高温保持動作の終了後に上記低温保持動作が実行され、該低温保持動作の終了後に上記高温保持動作が再び実行される温度変動運転を行うように構成されている
ことを特徴とする生理機能活性化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−77963(P2012−77963A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221850(P2010−221850)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】