説明

生理活性物質の効果を評価する方法

【課題】
本発明の解決しようとする課題は、動物の呼気中に存在する腸内細菌由来のガスを分析する工程を含む、生理活性物質の効果を簡便に評価する方法を提供することである。
【解決手段】
動物に評価用の基質や評価対象物などを投与した後、動物の呼気を無麻酔、無拘束、常圧の採取、捕集する。さらに、このようにして採取した呼気に含まれるガスのうち、腸内細菌の棲息に由来するガス(水素、メタンなど)を測定することにより、生理活性物質の評価をすることが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vivoでの応用が可能な、生理活性物質の効果を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、呼気ガス分析を利用した、簡便で非侵襲性の生理状態の測定方法が臨床で応用されている。例を挙げると、被験者に糖を投与した後に腸内細菌が生成する水素を被験者呼気から経時的に検出することで、腸内細菌が上部消化管で異常増殖する現象(BOG:bacterial overgrowth)を観察する方法、乳糖不耐症など特定の栄養成分の消化吸収障害を観察する方法など(非特許文献1、非特許文献2)がある。また、臨床試験において糖を投与することにより腸内細菌による分解により生じる水素やメタンを測定することにより小腸通過時間を測定する方法も用いられている。しかし、これまで小動物を用いた呼気試験法は確立されておらず汎用性が乏しかった。そのため、in vivoでは腸内細菌由来のガスを用いて生理活性物質の効果を評価することができなかった。
【0003】
in vivoで細菌過剰増殖を測定する他の方法としては、各部位の腸内容物を無菌的に採取し、菌数を計測するものもあり、この方法を用いて細菌過剰増殖を抑制する栄養組成物の評価を行った事例も報告されている(特許文献1)。
【0004】
また、抗菌物質の評価においても、in vitro培養系内の細菌数の減少を観察する方法が行われている。しかし、これら方法では細菌の培養技術が必要となり、培養技術を持たない者には評価が困難である。また、実際に生体内で効果を示すかどうかの評価も困難であった。
【0005】
【特許文献1】特表2004−536143号公報
【非特許文献1】中村光男, 寺田明功, 渡辺拓, 工藤貴徳, 田中光, 松橋有紀, 柳町幸, 丹藤雄介、呼気水素濃度からみた炭水化物吸収不良、消化器科、35(3)、pp.250-257(2002)
【非特許文献2】石黒洋、三井隆弘、藤木理代、近藤孝晴、成瀬達、呼気テストによる消化器疾患の病態診断 呼気中水素および亜酸化窒素測定による消化吸収機能および消化管内細菌叢の評価、消化器科、39(2)、pp.144-148(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、動物の呼気中に存在する腸内細菌由来のガスを分析する工程を含む、生理活性物質の効果を簡便に評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、本発明者らは鋭意検討の結果、動物に評価用の基質や評価対象物などを投与した後、動物の体躯より大きな収納容器に入れることにより動物を無麻酔、無拘束、常圧の状態におくことを可能とし、さらに試験期間中一定速度で呼気を継続的に移送して換気速度を一定に保つことで、麻酔、拘束、換気速度の変動等に起因するストレスを極力かけない状態での呼気採取を実現した。空気より重い気体を測定対象とする場合は収納容器に収納された動物の体躯以上かつ呼気採取口よりも上部、空気より軽い気体を測定対象とする場合は収納容器に収納された動物の体躯以下かつ呼気採取口よりも下部に呼気採取口を設ける。排出された呼気は呼気移送装置を用いて移送させ、呼気貯留容器に捕集する。こうすることで、高価なコンピュータシステムを用いたチャンバーシステムを用いなくても呼気採取を可能とし、しかも採取した呼気を安定的に貯留することができる。また、呼気移送装置に複数ラインの呼気移送を可能とするヘッドを装着し、ライン毎に動物収納容器および呼気貯留容器を装着するだけで同時に多数の個体から呼気を採取することも可能である(特願2006−054067)。
【0008】
さらに、このようにして採取した呼気に含まれるガスのうち、腸内細菌の棲息に由来するガス(水素、メタンなど)を測定することにより、腸内細菌の有無や棲息部位、食物や基質の消化吸収などを測定できる。このことを利用して、生理活性物質の効果を評価することが可能となった。例えば水素やメタンの場合、Breath Gas Analyzer TGA-2000HC(テラメックス社)などの汎用の機器を用いて測定することができる。本機器の場合、1つのサンプル測定に要する時間は約4分と、非常に短時間での測定が可能である。
【0009】
すなわち、本発明は
[1] 動物の呼気中に存在する腸内細菌由来のガスを分析する工程を含む、生理活性物質の効果を評価する方法、
[2] 生理活性物質の効果の評価がバクテリアルオーバーグロースの改善、小腸通過時間の正常化、抗菌性、食品素材の消化吸収性からなる群のうちすくなくとも1つである、[1]に記載の方法、
[3] 腸内細菌由来のガスが水素またはメタンである、[1]〜[2]のいずれか1つに記載の方法、
[4] (1)呼気採取口および空気採り入れ口を有し、空気採り入れ口が開放されていることを特徴とする、動物収納容器、
(2)呼気貯留容器、
(3)呼気移送装置、
を含む、呼気採取システムを用いて採取した動物の呼気を用いることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の方法、
[5] 動物収納容器が、動物の体躯以下に呼気採取口を設け、動物体躯以上かつ呼気採取口よりも上部に空気採り入れ口を設けたこと特徴とする、[4]に記載の方法、
[6] 動物収納容器が、動物の体躯以上に呼気採取口を設け、動物体躯以下かつ呼気採取口よりも下部に空気採り入れ口を設けたこと特徴とする、[4]に記載の方法、
[7] 呼気貯留容器が、呼気採取中および呼気採取後の呼気が逆流せず、容器構造や容器素材を通じて中の呼気が外気と交換することがなく保持できることを特徴とする、[4]に記載の方法、
[8] 呼気移送装置が、呼気を一定速度で移送するものであることを特徴とする、[4]に記載の方法、
[9] 動物収納容器が収納した動物の体躯以下に呼気採取口を設け、動物体躯以上かつ呼気採取口よりも上部に空気採り入れ口を設けたこと特徴し、呼気貯留容器が呼気採取中および呼気採取後の呼気が逆流せず、容器構造や容器素材を通じて中の呼気が外気と交換することがなく保持できることを特徴し、呼気移送装置が呼気を一定速度で移送するものであることを特徴とする、[4]に記載の方法、
[10] [1]〜[9]のいずれか1つに記載の方法を用いた、生理活性物質、抗菌物質または消化促進物質を含有する食品または医薬品のスクリーニング方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
in vivo試験において、動物に麻酔、拘束、換気速度の変動等に起因するストレスを与えず、同じ個体の呼気を無侵襲のまま生理的条件に近い状態にて経時的に採取することができる。しかも、操作性にすぐれ、複数個体において同時に測定用のサンプルを短時間で採取することができる。さらに、採取した呼気は、市販の呼気測定装置でも測定することができる。したがって、本発明は、微生物の培養技術や分子生物学技術を有しない者であっても操作が可能で、操作性、汎用性にすぐれた生理活性物質の評価方法を提供できる。本発明により、医薬品や機能性食品、保健機能食品、栄養食品、病者用食品等の生理活性物質を評価する事もできる。なお、本発明でいう生理活性物質の効果の評価は、bacterial overgrowthの改善、小腸通過時間の正常化、抗菌性、食品素材の消化吸収性等を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
腸内細菌はガスを産生する性質を有するため、胃内と大腸内ではガス組成が大きく異なる。大腸内では、二酸化炭素の濃度が高い傾向示し、さらに動物の生理上発生しないメタン、水素が出現する。これらのガスは腸内細菌に由来する(光岡知足 編集、腸内細菌学、朝倉書店 発行、1990年発行、pp.394-396)。
【0012】
腸内細菌が、体機能に影響を及ぼすことが知られている。通常、胃酸などの影響により、小腸などの近位消化管においては大腸よりも腸内細菌の棲息数は非常に低いレベルにある。しかし、無塩酸症などによって小腸に腸内細菌が異常に増殖した場合、本来小腸で吸収されるべき栄養成分が腸内細菌によって資化されてしまうため、炭水化物やビタミンB12などの欠乏を引き起こす場合がある。この状態をバクテリアルオーバーグロース(bacterial overgrowth:腸内細菌の異常増殖)という。この時、摂取した栄養成分が大腸に至る以前に小腸で資化されるために、通常より早期に水素やメタンなどのガスが産生される。
このように、腸内細菌の棲息部位によって、発生するガスの種類や量、発生時期とそれに伴う宿主動物の生理機能に変化が生じることがわかっている。
【0013】
腸内で発生したガスの大部分は屁として放出されるが、一部は吸収され、肺胞を通じて呼気中に排泄される。この呼気を採取して含まれるガスを分析することで腸内細菌に由来するガスの種類や量を知ることができる。
【0014】
動物の呼気を採取する過程では、例えば特願2006−054067に示す呼気採取システムを用いることができるが、他の呼気採取システムを用いても構わない。一例として、以下に特願2006−054067の具体的内容を示す。該呼気採取システムには動物収納容器、呼気移送装置、呼気貯留容器が含まれる(図1)。
【0015】
動物収納容器は、ある程度自由に動くことのできるスペースを確保したものを用いることにし、無麻酔、無拘束での呼気採取を可能にした。動物収納容器の大きさは動物の体躯の大きさ、呼吸速度等によって異なるため、特に限定されないが、例えば約200gのラットを対象とした場合に容積2Lの動物収納容器を用いることができる。例えば炭酸ガスなどのように、空気よりも重い気体を採取の目的とする場合、体躯以下に呼気採取口を設け、動物体躯以上かつ呼気採取口よりも上部に空気採り入れ口を設ける。また、例えば水素、メタンやアンモニアのような空気よりも軽い気体を採取の目的とする場合、体躯以上に呼気採取口を設け、動物体躯以下かつ呼気採取口よりも下部に空気採り入れ口を設ける。呼気採取口は、例えば動物収納容器に穿孔して設けることができる。また、空気採り入れ口をふさがない程度の太さのチューブを空気採り入れ口から通し入れ、動物の体躯以下にその開口部の一端を設置してこれを呼気採取口とし、他端を動物収納容器外に設ける方式を用いても、動物の体躯以上にその開口部の一端を設置してこれを呼気採取口とし、他端を動物収納容器外に設ける方式を用いてもよい。あるいは、呼気採取口をふさがない程度の太さのチューブを呼気採取口から通し入れ、動物の体躯以下にその開口部の一端を設置してこれを空気採り入れ口とし、他端を動物収納容器外に設ける方式を用いても、動物の体躯以上にその開口部の一端を設置してこれを空気採り入れ口とし、他端を動物収納容器外に設ける方式を用いてもよい。呼気採取口は、動物から目的とする気体を含む呼気を採取できるのであれば上記の例に限らず他の形態であってもかまわない。動物収納容器の色は透明、半透明、不透明の各種色を用いることができるが、一般状態の観察が可能である無彩色透明であるのが好ましい。動物収納容器の一例として、デシケーターを挙げることができる。さらにその使い方の一例を挙げると、デシケーター内に中敷きを敷きその上にラットを乗せ、ふたを閉め、呼気採取口または空気採り入れ口以外の部分からから呼気が漏れないようにふたを固定する。呼気は動物の体躯以下または体躯以上に設けた呼気採取口から移送する方法を用いる。動物収納容器およびその使用方法は上記の例に限らず、無麻酔・無拘束で動物の収納が可能で、常圧で継続的に呼気を採取できるのであれば他の容器や使用方法であってもかまわない。
【0016】
排出された呼気は、呼気移送装置を用い一定速度で継続的に移送させ呼気貯留容器に捕集することで、コンピュータ制御された高価なチャンバーを用いなくても呼気を採取することが可能である。
【0017】
呼気の移送方法としては、ガラスコンテナーや気密容器の中にラットを入れ、呼気を採取する時に一旦換気を停止する方法が報告されている。しかし、換気を停止することでストレスがかかり、その影響で呼気テストの結果が左右されることが容易に推察される。そのため、呼気移送装置としては、呼気を一定の速度で継続的に移送できるものが望ましい。例えばペリスタホンプ、インフュージョンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ等を挙げることができるが、これらに限定されず、呼気を一定の速度で継続的に移送できるのであれば、他の装置であってもかまわない。呼気移送方式は、動物収納容器の呼気採取口から呼気を吸引する方式、動物収納容器の空気採り入れ口から呼気を押し出す方式等のいずれの方式であってもよい。また、呼気移送装置に複数ラインの呼気移送を可能とするヘッド(図1の、同時採取用ポンプヘッドに相当する)を装着し、ライン毎に動物収納容器および呼気貯留容器を装着するだけで同時に多数の個体から呼気を採取することも可能である。
【0018】
呼気移送の速度は、動物収納容器の大きさ、動物の体躯の大きさ、測定対象、測定目的評価用基質の投与量、呼気排出速度などによって異なり、特に限定されないが、動物にストレスを与えず、適切に呼気を採取できる範囲あればよい。あえて挙げるなら、例えば体重約200gのラットを対象とし、容積2Lの動物収納容器を使用する場合、50〜400ml/min、好ましくは75〜300ml/min、さらに好ましくは100〜200ml/minの速度で呼気を移送することができる。
【0019】
動物へのストレスを最小限にするため、試験期間中は呼気の採取時も非採取時も呼気移送装置を同じ流速で稼働させ、換気速度を一定とする。呼気を採取しない時(非採取時)は、動物収納容器内の呼気が動物収納容器外の試験環境に混入しないよう、呼気採取口からの呼気を他の容器に回収あるいは試験環境外へ排気するのが望ましい。
【0020】
また、呼気貯留容器としては、呼気採取中および呼気採取後の呼気が逆流せず、容器構造や容器素材を通じて中の呼気が外気と交換することがなくまたは少なく保持できるものを用いる。例えば呼気捕集専用の呼気採取用バッグ、UBiT・POCone専用呼気採取バッグ20(大塚製薬株式会社)を挙げることができる。呼気採取中および呼気採取後の呼気が逆流せず、容器構造を通じて中の呼気が外気と交換することがなくまたは少なく保持できるのであれば、前記容器に限らず、ビニールバッグなど、他の素材や形態の容器であってもかまわない。
【0021】
動物収納容器、呼気移送装置、呼気貯留容器の間は、呼気が漏出しない方式によって接続する。各々を直に接続しても、間にチューブ、配管などを介して接続してもよい。この時用いるチューブ、配管等は構造や素材を通じて中の呼気が外気と交換することがなくまたは少なく保持できるものを用いる。
【0022】
例えば、呼気中のガスは、赤外分光分析装置、ガスクロマトグラフィー、GC-MS等の機器を用いて測定できるが、上記の例に限らず、呼気中のガスを測定できるのであれば他の方式であってもよい。
【0023】
例えば、市販の呼気ガス分析装置であるBreath Gas Analyzer TGA-2000HC(テラメックス社)を用いることができる。Breath Gas Analyzer TGA-2000HCは、水素、メタン分離カラムを内蔵しており、呼気中の水素およびメタンを同時に測定する事ができる。測定にあたっては採取した呼気をシリンジで注入するだけで自動的に測定が行われ、ガスクロマトグラフィーやガスマススペクトロメーターなどの操作を必要としない。しかも、1検体当たりの測定時間はBreath Gas Analyzer TGA-2000HCの場合約4分ときわめて短く、測定のための熟練も必要ない。
【0024】
動物より採取した呼気はそのまま分析に供してもよいが、気体分離膜等での濃縮や化学構造の一部修飾など、各種前処理の後に分析に供してもよい。
【0025】
呼気中のガスの測定が可能であれば、目的とする生理活性を測定することができる。腸内細菌に資化されてガスを発生する基質を投与の後、ガス産生量を経時的に測定することで生理活性物質の効果を評価することもでき、また特に基質を投与しない状態でも生理活性物質の効果の評価できる。あるいは、他の性質を有する基質を用いて生理活性物質の効果を評価できる。
【0026】
本発明の応用例の1つとして、ラクツロースを用いたbacterial overgrowthの評価を挙げることができる。ラクツロースはガラクトースとフルクトースがβ1-4結合した合成糖である。分子式はC12H22O11、Cas No.は4618-18-2で、動物自体の作用で消化吸収を受けない性質を有する。ラクツロースは、通常、大腸の腸内細菌によって分解され、水素やメタンを発生する原因となるため、ラクツロース投与後に現れる水素濃度の増加はラクツロースが大腸に到達したことを示す。この時間を小腸通過時間ともいい、口〜盲腸の通過時間を示す。ところが、bacterial overgrowthの場合、大腸に到達する前に小腸で異常増殖した腸内細菌によって分解を受けるため、通常よりも早期に水素濃度の増加がみられることになる。実施例1において、本発明の方法を用いると、ラクツロースを投与した動物の呼気から、高い水素濃度を検出できることが示された。さらに実施例2において、この水素が腸内細菌に由来するものであることを示すことができた。さらに、bacterial overgrowthのモデル動物にあてはめれば、水素濃度の増加がみられる時期の移動を観察することが可能となる。よって、本発明はbacterial overgrowthの改善を目的とする食品・医薬品などの生理活性物質の効果の評価に用いることができる。また、ラクツロースの代わりにグルコースを用いてもよい。グルコースの場合は、小腸からの吸収と腸内細菌の資化が競合して水素を発生させる。あるいは、ラクチトール、ソルビトールなどの他の基質や、牛乳や米、豆などの食材、通常用いられる飼料などを用いてもかまわないが、これらの例に限定されない。
【0027】
乳糖不耐症の場合、本来β−ガラクトシダーセで消化され、吸収を受けるべき乳糖が大腸へ移行するため、腸内細菌が乳糖を資化して水素を発生する。この現象を利用して、本発明は、乳糖不耐症など特定の栄養成分の消化吸収障害の軽減を目的とした食品・医薬品などの生理活性物質の効果の評価に用いることができる。
【0028】
食事中に含まれる素材によって、栄養成分の消化吸収が異なることが知られている。消化吸収を受けなかった素材は腸内細菌によって資化されるため、呼気中に水素を発生する原因となる。この現象を利用して、本発明は、各種食品素材の消化吸収性を評価する上で有効に用いることができる。また、消化吸収を促進する効果を有する食品・医薬品などの生理活性物質の効果の評価に用いることができる。
【0029】
また、実施例2で示されるように、本発明は、抗生物質を投与した動物に基質を投与した場合、呼気中に水素、メタンが出現しない現象を捉えることができた。よって、腸内細菌の除菌を目的とした抗生物質や抗菌性の食品・医薬品などの生理活性物質の効果の評価に用いることができる。
【0030】
本発明の生理活性物質の効果を評価する方法は、上述の用途以外に、動物の生理機能等を評価するために用いてもよい。本発明の方法を用いることにより、各種医薬品、医薬部外品、機能性食品、保健機能食品、栄養食品、病者用食品等の生理活性や消化吸収代謝能、安全性等を評価することもできる。
【0031】
評価対象の動物としては、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、スナネズミ等のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、フェレット、ブタ、サル、ヒト等の哺乳動物、ニワトリ、ウズラ等の鳥類、カエル、イモリ、サンショウウオ等の両生類、は虫類、魚類、昆虫等を対象とすることができる。さらに、微生物にも応用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0033】
[実施例1](腸内細菌の糖分解により産生するメタンおよび水素の測定)
(1) 材料および方法
[動物実験]
体重約200gのSD系雄性ラットを一晩絶食した。但し、水は自由に摂取とした。ラクツロースを蒸留水に1g/mlの濃度で溶解して、ラクツロース投与群(n=2)のラットに経口投与した。ラクツロースの用量は2.5g/kg(投与容量として2.5ml/kg)とした。対照群(n=1)のラットには蒸留水を2.5ml/kg経口投与した。ラクツロースまたは蒸留水の投与直後、ラットを個体毎にデシケーターに入れ、投与後240分まで30分毎に経時的な呼気採取を行った。デシケーター内に排泄された呼気を速度150ml/minで吸引してUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20(大塚製薬株式会社)に呼気を採取した。具体的には以下に示す方法で呼気採取を行い、各時点で1.5分間の呼気を採取した。また、ラクツロースまたは蒸留水の投与前に呼気を採取したものを0分目とした。
【0034】
[呼気採取装置]
容積2Lのデシケーター内に数ミリメートルの小孔を多数有する板状の中敷きを敷き、その上にラットを乗せ、ふたを閉め、呼気採取口または空気採り入れ口以外の部分から呼気が漏れないようにふたを固定した。デシケーターの側面開口部(空気採り入れ口)よりシリコンチューブを通し、チューブ開口部の一端をデシケーター内の最上部(動物の体躯以上かつ呼気採取口よりも上部に位置する)に固定して呼気採取口とした。シリコンチューブは空気採り入れ口より径の小さいものを用いる。呼気はこの呼気採取口から移送することになる。チューブ開口部の他端はUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20に接続し、デシケーターとUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20の間にペリスタポンプ(Master Flex L/S; Cole-Parmer Instrument Company)を接続し、デシケーター内に排泄された呼気を一定速度150ml/minでそれぞれ継続的に吸引してUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20に採取した(図1)。
【0035】
(2)評価
呼気ガス分析装置をBreath gas analyzer (TGA-2000HC、テラメック社)を用い、採取した呼気中のメタンおよび水素濃度を測定した。正常ラットでの呼気の平均値およびその標準偏差を用いて平均値±2標準偏差を正常値とした。また、ラクツロース投与後の値は経時的に測定し、平均値と比較した。
【0036】
(3)結果および考察
経時的な水素濃度の測定値を図2に示す。図から明らかなように正常値に比較して投与後120分では有意な上昇を示し、その後も値は増加した。
経時的なメタン濃度の測定値を図3に示す。図から明らかなように正常値に比較して投与後120分では有意な上昇を示し、その後値はほぼ同じ値を示した。
この結果から、糖利用能を有する腸内細菌が産生するメタンおよび水素を検出することが可能であることが示された。
【0037】
[実施例2](腸内細菌を抗生物質で除菌した場合に糖分解により産生する水素およびメタンの測定)
(1) 材料および方法
[抗生物質水溶液]
ストレプトマイシン(硫酸ストレプトマイシン:明治製菓):2g/L、ペニシリン(ペニシリンGカリウム:明治製菓):1g/Lとなるように各抗生物質を注射用水(大塚)に添加し、これを抗生物質水溶液として以下の実験に用いた。
[動物実験]
7週齢のSD系雄性ラットを実験に用いた。除菌群(n=3)のラットには抗生物質水溶液、正常群(n=2)のラットには注射用水を飲水として4日間自由摂取させた。さらに一晩絶食(18時間以上、自由飲水)した。ラクツロースを蒸留水に0.5g/mlの濃度で溶解して、抗生物質投与群および対照群のラットに経口投与した。ラクツロースの用量は2.5g/kg(投与容量として5ml/kg)とした。ラクツロースの投与直後、ラットを個体毎にデシケーターに入れ、投与後240分まで30分毎に経時的な呼気採取を行った。デシケーター内に排泄された呼気を速度150ml/minで吸引してUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20(大塚製薬株式会社)に呼気を採取した。具体的には以下に示す方法で呼気採取を行い、各時点で1.5分間の呼気を採取した。また、ラクツロースの投与前に呼気を採取したものを0分目とした。
【0038】
[呼気採取装置]
容積2Lのデシケーター内に数ミリメートルの小孔を多数有する板状の中敷きを敷き、その上にラットを乗せ、ふたを閉め、呼気採取口または空気採り入れ口以外の部分から呼気が漏れないようにふたを固定した。デシケーターの側面開口部(空気採り入れ口)よりシリコンチューブを通し、チューブ開口部の一端をデシケーター内の最上部(動物の体躯以上かつ呼気採取口よりも上部に位置する)に固定して呼気採取口とした。シリコンチューブは空気採り入れ口より径の小さいものを用いる。呼気はこの呼気採取口から移送することになる。チューブ開口部の他端はUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20に接続し、デシケーターとUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20の間にペリスタポンプ(Master Flex L/S; Cole-Parmer Instrument Company)を接続し、デシケーター内に排泄された呼気を一定速度150ml/minでそれぞれ継続的に吸引してUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20に採取した(図1)。
【0039】
(2)評価
呼気ガス分析装置をBreath gas analyzer (TGA-2000HC、テラメック社)を用い、採取した呼気中のメタンおよび水素濃度を測定した。除菌群と正常群の平均値を比較した。
【0040】
(3)結果および考察
経時的な水素濃度の測定値を図4に示す。図から明らかなように、正常群では投与後120分以降明らかな上昇を示し、その後も値は増加した。それに対し、除菌群ではラクツロースを投与しても水素の発生は殆ど認められなかった。
経時的なメタン濃度の測定値を図5に示す。図から明らかなように、正常群では投与後120分以降明らかな上昇を示し、その後も値は増加した。それに対し、除菌群ではラクツロースを投与してもメタンの発生は検出されなかった。
この結果から、測定したメタンや水素は通常腸内細菌が利用している糖の量に相当することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の生理活性物質の効果を評価する方法は、微生物の培養技術や分子生物学技術を有しない者であっても操作が可能で、操作性、汎用性にすぐれた評価方法を提供できる。本発明により、医薬品や機能性食品、保健機能食品、栄養食品、病者用食品等のスクリーニングもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の呼気採取システムの概略図である。図中、本発明の呼気採取システムは、動物収納容器、呼気貯留容器、呼気移送装置を含む構成となっている。この図では、本発明の呼気採取システムにて4個体の呼気を同時に採取し、さらにガス測定装置にて呼気を測定する様子を示す。
【図2】腸内細菌の糖分解により産生する水素の測定。ラクツロースまたは蒸留水を投与した場合の、呼気中の水素濃度(ppm)の経時変化を示すグラフである。●:ラクツロース投与群(n=2)の平均値、mean±2SD:対照群(n=1)の各時点における測定値の平均値±2標準偏差の範囲を示す。
【図3】腸内細菌の糖分解により産生するメタンの測定。ラクツロースまたは蒸留水を投与した場合の、呼気中のメタン濃度(ppm)の経時変化を示すグラフである。●:ラクツロース投与群(n=2)の平均値、mean±2SD:対照群(n=1)の各時点における測定値の平均値±2標準偏差の範囲を示す。
【図4】腸内細菌を抗生物質で除菌した場合に産生する水素の測定。抗生物質でラクツロース投与後の、呼気中の水素濃度(ppm)の経時変化を示すグラフである。■:除菌群(n=3)の平均値±標準偏差、●:正常群(n=2) の平均値を示す。
【図5】腸内細菌を抗生物質で除菌した場合に産生するメタンの測定。ラクツロース投与後の、呼気中のメタン濃度(ppm)の経時変化を示すグラフである。■:除菌群(n=3)の平均値±標準偏差、●:正常群(n=2) の平均値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の呼気中に存在する腸内細菌由来のガスを分析する工程を含む、生理活性物質の効果を評価する方法。
【請求項2】
生理活性物質の効果の評価がバクテリアルオーバーグロースの改善、小腸通過時間の正常化、抗菌性、食品素材の消化吸収性からなる群のうちすくなくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
腸内細菌由来のガスが水素またはメタンである、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
(1)呼気採取口および空気採り入れ口を有し、空気採り入れ口が開放されていることを特徴とする、動物収納容器、
(2)呼気貯留容器、
(3)呼気移送装置、
を含む、呼気採取システムを用いて採取した動物の呼気を用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
動物収納容器が、動物の体躯以下に呼気採取口を設け、動物体躯以上かつ呼気採取口よりも上部に空気採り入れ口を設けたこと特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
動物収納容器が、動物の体躯以上に呼気採取口を設け、動物体躯以下かつ呼気採取口よりも下部に空気採り入れ口を設けたこと特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
呼気貯留容器が、呼気採取中および呼気採取後の呼気が逆流せず、容器構造や容器素材を通じて中の呼気が外気と交換することがなく保持できることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
呼気移送装置が、呼気を一定速度で移送するものであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
動物収納容器が収納した動物の体躯以下に呼気採取口を設け、動物体躯以上かつ呼気採取口よりも上部に空気採り入れ口を設けたこと特徴し、呼気貯留容器が呼気採取中および呼気採取後の呼気が逆流せず、容器構造や容器素材を通じて中の呼気が外気と交換することがなく保持できることを特徴し、呼気移送装置が呼気を一定速度で移送するものであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法を用いた、生理活性物質、抗菌物質または消化促進物質を含有する食品または医薬品のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−51787(P2008−51787A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231325(P2006−231325)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】