説明

生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物およびその製造方法

【課題】生理活性蛋白質或いはペプチドの所定量を投与したときに、投与部位での異常反応が無く、且つ含有する生理活性蛋白質或いはペプチドの持続的な活性を維持する徐放性組成物を提供すること。
【解決手段】生理活性蛋白質或いはペプチド、水溶性炭酸塩、水溶性リン酸塩、及び水溶性亜鉛塩のそれぞれの水溶液を添加混合することによってナノ粒子の沈殿物を形成させることからなる生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物であって、水溶性亜鉛塩を、その組成比が重量比で、生理活性蛋白質:水溶性亜鉛塩=1:0.2〜1:3.5となる範囲内で添加することを特徴とする生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物であり、生理活性蛋白質或いはペプチドが、G−CSF、hGH、インターフェロン、エリスロポエチン又はミッドカインである生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性蛋白質或いはペプチドを含有するナノ粒子組成物に係わり、詳細には、含有される生理活性蛋白質或いはペプチドの薬理活性の持続性に優れたナノ粒子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生理活性蛋白質或いはペプチドは、種々の特異的な生理活性作用を有することから、各種疾患の治療に用いられてきている。例えば、好中球の減少を伴う疾患や病態に対して顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)製剤が用いられている。この場合のG−CSFによる治療は、具体的には、1日1回または2回の皮下注射或いは点滴静脈内投与であって、連日7日から14日間投与する方法で実施されている。
【0003】
これは、G−CSFの血中における安定性が悪く、且つ半減期が短いため、所望の薬効を維持するためにはある一定の濃度以上のG−CSFが血中に存在する必要があるからである。このために患者は、連日の静脈内点滴注射投与という負担を強いられ、かつ、全体の投与量も多いものになっている。
これは何もG−CSFに限られるものではなく、広く生理活性蛋白質或いはペプチドについてもいえることであり、したがって、G−CSFを始めとする生理活性蛋白質の血中濃度を持続的に維持する徐放性製剤が検討され、その幾つかが提案されている(特許文献1、2及び3)。
【0004】
これまで提案されている徐放性製剤は、G−CSF、ヒト成長ホルモン(hGH)等が金属イオン、たとえばカルシウムイオンや亜鉛イオン等の多価金属イオンにより沈澱を形成することに注目し、その水不溶性沈澱物による徐放製剤の開発を試みたものである。
しかしながら、生理活性蛋白質と多価金属イオンのみにより得られた沈殿物は、生体内、たとえば皮下あるいは筋肉などの投与部位においては溶解し易いものであり、そのままでは期待する徐放性効果は得られていない。そのため、特許文献1が提案する徐放性製剤では、G−CSFと多価金属イオンとからなる沈澱組成物中にさらに別の沈澱性の物質を加える改良がなされている。
【0005】
この特許文献1に記載の方法は、生理活性蛋白質を含有する水不溶性沈澱物を得る点で優れたものであるが、その調製にあたってスケールアップを行うと、徐放性製剤が効率よく作製できない問題点がある。また、添加される別の沈澱性の物質としては、金属イオンと結合するがそれ自体で薬効がほとんど無い蛋白質、例えばヒト血清アルブミンなどを用いており、その点での安全性に懸念がある。
【0006】
特許文献2では、ヒト成長ホルモン(hGH)の固形化を目的とし、hGHと炭酸水素ナトリウム及び酢酸亜鉛を組み合わせてhGHの固形化を図る技術が記載されている。しかしながら、生成した固形化hGHについての徐放性効果に関する言及は、一切なされていない。
さらに特許文献3に開示される方法は、担体として多孔性ヒドロキシアパタイトを用い、そこに生理活性蛋白質或いはペプチドを吸着させるシステムであり、本発明が意図するものとは異なるシステムである。
【0007】
一方、本出願人の一人により、上記した特許文献1〜3に記載の技術とは異なり、簡便な方法で、しかもG−CSF等の生理活性蛋白質あるいはペプチドを高収率で沈澱化させることによる、生理活性蛋白質あるいはペプチドを含有するナノ粒子からなる徐放性製剤が提案されている(特許文献4)。
このナノ粒子は極めて安定なものであり、徐放効果に優れ、生体内で数日間に亘り生理活性蛋白質あるいはペプチドの薬効を保持し得るものである。
【0008】
ところで、生理活性蛋白質或いはペプチドの活性を持続させる徐放性製剤を作製するにあたって要求されるファクターは、
(1)1回の投与で活性が少なくとも1週間は持続すること、
(2)投与部位での局所刺激がないこと、
(3)生理活性蛋白質であることから、注射投与がメインであり、したがって、可能なかぎり細い注射針を通過する製剤であること、
(4)製剤のスケールアップ製造が容易であること、
等であり、これらの条件を満たす徐放性製剤であることが望ましい。
【0009】
先に本出願人の一人により提案された特許文献4に記載の徐放性製剤は、いくつかの無機物を添加することで生理活性蛋白質或いはペプチドの活性の持続化が得られている。
しかしながら、生理活性蛋白質としてG−CSFを用い、得られた製剤について持続的な薬効を示す量をラット皮下に投与したところ、投与1日または3日後の投与皮下部位に、強い発赤および浮腫とみられる局所反応が生じ、安全性の面で実用に供せられない恐れがあることが明らかとなった。
【0010】
かかる原因について本発明者は鋭意検討を行った結果、生理活性蛋白質を不溶化するために添加する水溶性無機金属塩のなかで、遊離の無機金属塩量が大きく影響していることを見出した。
したがって、本発明者は、添加した水溶性亜鉛塩のうち、多大な遊離の亜鉛量を軽減することを検討し、その結果、得られた徐放性製剤の投与局所部位での反応をなくすことに成功し、本発明を完成させるに至った。
生理活性蛋白質と亜鉛塩の配合比率は、生理活性蛋白質の種類によって異なり、その最適比は一概に規定できない。一般的に、確実に不溶性塩を形成させようとすれば、水溶性亜鉛塩を過剰に加えることになる。その結果として、上記のように、局所反応が発生する。この局所反応を生成させない配合比率は、生理活性蛋白質10mgに対して、亜鉛塩10〜300μモルの範囲が好ましいといえる。
【0011】
【特許文献1】特開2003−81865号公報
【特許文献2】国際公開公報 WO2003/000282
【特許文献3】国際公開公報 WO2004/112751
【特許文献4】特表2006−525319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、生理活性蛋白質或いはペプチドの所定量を投与したときに、投与部位での異常反応が無く、且つ含有する生理活性蛋白質或いはペプチドの持続的な活性を維持する徐放性組成物を提供することを課題とする。
具体的には、特許文献4に記載の組成を基本的な骨格として、その改良を行い、得られた生理活性蛋白質或いはペプチドを含有する組成物の所定量を投与したときに、皮下投与部位に異常反応がなく、かつ、含有された生理活性蛋白質の持続的な活性を維持する組成物あるいは製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
而して、本発明はその基本的態様として、生理活性蛋白質或いはペプチド、水溶性炭酸塩、水溶性リン酸塩、及び水溶性亜鉛塩のそれぞれの水溶液を添加混合することによってナノ粒子の沈殿物を形成させることからなる生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物であって、水溶性亜鉛塩を、その組成比が重量比で、生理活性蛋白質:水溶性亜鉛塩=1:0.2〜1:3.5となる範囲内で添加することを特徴とする生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物である。
【0014】
より好ましくは、本発明は、生理活性蛋白質或いはペプチドが、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、ヒト成長ホルモン(hGH)、インターフェロン、エリスロポエチン又はミッドカインである生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物である。
【0015】
より具体的には、本発明は、水溶性炭酸塩が、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、水溶性リン酸塩が、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムからなり、その混合比が水溶液としたときにpH6.0〜8.0であり、また、水溶性亜鉛塩が、塩化亜鉛又は酢酸亜鉛である生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物である。
【0016】
最も具体的に好ましくは、本発明は水溶性亜鉛塩が塩化亜鉛で、かつ、生理活性タンパクがG−CSFであり、その組成比が、G−CSF:塩化亜鉛が重量比で1:2〜1:3.5であるG−CSF含有ナノ粒子組成物である。さらに好ましくは、1:2〜1:3であるG−CSF含有ナノ粒子組成物である。
【0017】
また本発明は別の態様として、当該生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物の製造方法を提供するものであり、具体的には、生理活性蛋白質或いはペプチド、水溶性炭酸塩、水溶性リン酸塩、および水溶性亜鉛塩の水溶液を加え、混合・攪拌して、ナノ粒子の沈殿物を得、上清部を廃棄し、得られた沈殿物に糖水溶液を加え、再分散後、凍結乾燥に付すことからなる生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物の製造方法である。
【0018】
そのなかでも、好ましくは、糖水溶液がトレハロース水溶液である上記の生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、生理活性蛋白質或いはペプチドの所定量を投与したときに、投与部位での異常反応が無く、且つ含有する生理活性蛋白質或いはペプチドの持続的な活性を維持する徐放性組成物が提供される。
本発明が提供する生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物は、生体内で数日間に亘り生理活性蛋白質あるいはペプチドの薬効を保持し得るものである。
また、極めて簡便な方法で生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物を提供することができ、その医療上の価値は多大なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、上記したように、特許文献4に記載の組成を基本的な骨格として、その改良に係わるものであり、生理活性蛋白質或いはペプチド、水溶性炭酸塩、水溶性リン酸塩、及び水溶性亜鉛塩のそれぞれの水溶液を添加混合することによってナノ粒子の沈殿物を形成させることからなる生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物であって、水溶性亜鉛塩を、その組成比が重量比で、生理活性蛋白質:水溶性亜鉛塩=1:0.2〜1:3.5となる範囲内で添加することを特徴とする生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物である。
すなわち、その基本は、生理活性蛋白質或いはペプチドに水溶性無機塩の水溶液を添加混合することによってナノ粒子の沈殿物を形成させることからなる生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物である。
【0021】
具体的には、使用する水溶性無機塩としては、炭酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、亜鉛塩が挙げられ、これらと生理活性蛋白質を組み合わせることにより、活性の維持、皮下部位での局所反応の抑制、薬物の安定化等の点で満足することができる組成物を提供することにある。
さらに、生理活性蛋白質或いはペプチドとしては、種々の生理活性蛋白質或いはペプチドが挙げられるが、本発明にあってはG−CSFが最も好ましく用いられる。G−CSFの薬効は、ラットなどの動物に皮下投与し、その血中の白血球数の増加を未投与の群と比較して評価できる。
【0022】
以下に本発明の適用が最も好ましい生理活性蛋白質としてG−CSFを例に挙げ、詳細に説明していく。
徐放製剤化にあたって、G−CSFを不溶化する水溶性無機塩としては、亜鉛塩がもっとも有効であった。
G−CSFのヒトへの投与量は、最大で、10μg/kg/日を7日間連続投与するものである。したがって、日本人の平均的な体重を60kgとすると、1週間タイプの徐放剤であれば4.2mgのG−CSFの投与となる。
そこで、亜鉛塩として酢酸亜鉛と塩化亜鉛を用いて、G−CSFを4.2mg含有するものに相当の製剤を、特許文献4の実施例9に従って作製し、亜鉛塩の添加効果を確認した。
【0023】
簡単にその製造工程を以下に示す。G−CSF 10mg相当を含有すると仮定して、それぞれの添加物を以下のように秤量した。炭酸水素ナトリウム16.8mgの0.2mL水溶液に、リン酸二水素ナトリウム2.28mgとリン酸水素二ナトリウム11.5mgからなるpH7.2の緩衝液0.2mLを加え、さらに、塩化亜鉛27.3mgを含む水溶液1mL、または酢酸亜鉛36.7mg含む水溶液1mLを攪拌下で加えると微細な沈殿が生じる。
【0024】
この懸濁液を遠沈して上清を廃棄する。得られた沈殿物にトレハロース125mgを含む水溶液5mLを加える。この懸濁液を凍結乾燥してG−CSFおよび2種の亜鉛塩を含有する2種類のナノ粒子を得た。
【0025】
また、特許文献4の方法に従って、遠沈操作なしで2種類の沈殿物を作製した。すなわち全部で4種類のナノ粒子を得た。
【0026】
これらをラットの皮下にG−CSFとして4.2mg含有に相当する量として投与し、3日後の皮下における反応性を比較した。その結果、遠沈操作をしない場合(特許文献4の方法)には、酢酸亜鉛含有ナノ粒子では強い紅斑と浮腫が認められ、塩化亜鉛含有ナノ粒子では弱いものの紅斑が認められた。しかし、遠沈操作をして得たナノ粒子では、酢酸亜鉛含有ナノ粒子並びに塩化亜鉛含有ナノ粒子にあっては、いずれも何の異常反応も認められなかった。
以上の遠心操作をしない場合に得られたナノ粒子の局所投与における反応の結果から、亜鉛塩としては、塩化亜鉛がより好ましいと考えられた。
【0027】
次に、添加物である無機金属塩類の添加順序を検討したが、その順序を変えても薬効の持続性には差を認めなかった。また、皮下投与部位での反応性は変わらなかった。
【0028】
無機金属塩類と生理活性蛋白質との配合比率は、用いる生理活性蛋白質の特性によって異なる。なかでも最も重要なのは亜鉛塩の配合比率であった。
亜鉛塩の添加量は、G−CSFにおいては、有効な沈殿を生じさせるために重量比で亜鉛に換算して表記すると、G−CSF:亜鉛=1:1以上の亜鉛が必要であった。これはG−CSF10mgに対して亜鉛が150μモル必要ということになる。これを100μモルとすると沈殿の形成効率が低下するものであった。
【0029】
同様にヒト成長ホルモン(hGH)の場合は、hGH 10mgに対して塩化亜鉛および酢酸亜鉛ともに亜鉛換算値で20μモル(塩化亜鉛とすると1.35mg)の添加で沈殿が生じた。
すなわち、生理活性蛋白質と亜鉛塩の配合比率は、生理活性蛋白質の種類によって異なるが、生理活性蛋白質10mgに対して、亜鉛塩10〜300μモルの範囲が好ましい。より好ましくは、20〜250μモルである。
【0030】
本発明者の検討によれば、炭酸水素塩を過剰に加えると生理活性蛋白質によっては、生成した生理活性蛋白質と無機金属塩類との沈殿ナノ粒子を逆に溶出するものであった。
好ましい炭酸水素塩の添加量としては、生理活性蛋白質10mgに対して50〜500μモルがよく、より好ましくは、50〜250μモルである。
【0031】
また、水溶性リン酸塩としてのリン酸緩衝液も多量に用いると形成された沈殿から生理活性蛋白質が溶出するものであった。生理活性蛋白質10mgに対して1〜200μモルが好ましく用いられる。より好ましくは、20〜150μモルである。
【0032】
先の記載では沈殿物を形成したのち、遠沈操作を行い、その上清を廃棄し、得られた沈殿物に糖などを加えた水溶液を添加し、さらに、凍結乾燥に付しナノ粒子組成物を得ている。沈殿物を形成した後の懸濁液の上清中には過剰の亜鉛塩が含まれており、この過剰の亜鉛塩を除去することで、得られたナノ粒子組成物の局所反応性が弱まったものと考えられる。
その考え方を推し進めると、上清を廃棄した後に、さらに、精製水を加え、攪拌・遠沈すると、より過剰の亜鉛塩が除去されるので好ましいと考えられる。
しかしながら、理由は不明であるが、更なる遠沈操作を行っても、亜鉛塩はそれ以上ほとんど除去されずに、逆に、沈殿した生理活性蛋白質が溶出された。また、この生理活性蛋白質の溶出は、塩化亜鉛を使用した場合よりも、酢酸亜鉛を使用した場合の方が大きかった。
【0033】
このことは単純に、沈殿物を洗浄すればよいということにならず、初めの上清のみの除去が製造工程としては好ましいことになる。すなわち沈殿物の洗浄回数は、初めの懸濁液の除去または最大1回の精製水による洗浄が好ましく、それ以上の洗浄は、逆効果であった。さらに、初めの懸濁液のみの除去がより好ましい製造方法ということになる。
なお、これらの無機金属塩類からなるナノ粒子は、生体に皮下投与したときに徐々に消失し、3週間後にはほとんど投与部位から消失することが確認されている。
【0034】
本発明方法により製造される徐放性のナノ粒子組成物含有製剤にあっては、ナノ粒子に含有させる生理活性蛋白質あるいはペプチドとして、G−CSFのみならず、亜鉛イオンと沈澱を形成することができる生理活性蛋白質あるいはペプチドをあげることできる。そのような生理活性蛋白質あるいはペプチドとしては、例えば、インターフェロン(IFN)、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、ヒト成長ホルモン、BDNF、NT3、FGF、ミッドカインなどを挙げることができる。
そのなかでも、特に微量で薬効を示す生体由来因子は望ましいものである。
例えば、インターフェロンやヒト成長ホルモンを、本発明の方法により沈澱化したものは、G−CSFと同様の高率で沈澱物中に含有されたことから、同様の徐放効果を期待できる。
【0035】
また、本発明方法により製造される徐放性のナノ粒子組成物含有製剤にあっては、さらに、マンニトールやトレハロースなどの糖類を加え凍結乾燥したものを、注射用蒸留水で再懸濁し、用いることができる。
【0036】
本発明が提供する徐放性製剤は、その特性を生かした非経口投与用製剤として製剤化することができる。
非経口用製剤としては、注射剤(皮下注射、筋肉内注射、静脈注射等)、点滴靜注等の液剤、水性懸濁剤、噴霧剤等の経鼻剤、粘膜経由投与剤等を挙げることができる。これらの製剤は、いずれも日本薬局方の「製剤総則」に記載の方法に順じ、調製することができ、製剤化に用いられる担体、等張化剤、安定化剤等としては、製剤学的に汎用されている各種のものを適宜選択して、使用することができる。
【0037】
本発明が提供する徐放性剤における有効成分である沈澱組成物の含有量は、一概に限定できない。一般には、投与されるべき患者の年齢、性別、体重、その症状等により異なるが、沈澱組成物中に含有される生理活性蛋白質またはペプチドの薬理活性を発揮し、その効果が発現できる用量を含有させればよい。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を、実施例によって詳細に記載するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1G−CSF徐放性製剤調製時のG−CSFおよび亜鉛の沈殿率の検討
[方法]
ガラスバイアルに、脱塩精製したG−CSF溶液4mg/mLを2.5mL(G−CSFとして10mg)、炭酸水素ナトリウム溶液84mg/mLを0.2mL(16.8mg)、リン酸二水素ナトリウム(2.28mg)とリン酸水素二ナトリウム(11.5mg)からなるpH7.2の緩衝液0.2mLを最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら酢酸亜鉛溶液36.7mg/mLを1mL(36.7mg)あるいは、塩化亜鉛溶液27.3mg/mLを1mL(27.3mg)を加えた。さらに注射用蒸留水1.1mLを加え、総体積5mLとした。これら懸濁液を遠心操作により沈降部、上清部に分離し、上清部のG−CSFおよび亜鉛を定量した。沈降部に精製水を添加、攪拌して、沈降部を洗浄し、遠心操作により分離した上清部のG−CSFおよび亜鉛を洗浄部1として定量した。
再び、沈降部に精製水を添加、攪拌して、遠心操作により分離した上清部のG−CSFおよび亜鉛を洗浄部2として定量した。
【0040】
上清部、洗浄部1、洗浄部2中のG−CSF量はHPLC法にて、亜鉛量は和光純薬工業(株)のZnテストワコーにて定量した。
また、沈降部中のG−CSF量および亜鉛量は、添加したG−CSF量および亜鉛量から、上清部、洗浄部1、洗浄部2中の各G−CSF量および亜鉛量の合計を差し引くことで求めた。
その結果を表1及び表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
[考察]
本発明の徐放性製剤は、亜鉛塩含有水溶液との共存下において、G−CSFが、効率良く沈殿することを特徴としており、得られた製剤組成中の亜鉛は、製剤の徐放性効果を得る上で極めて重要な組成である。しかし、特許文献4記載の方法で得た徐放性製剤は、亜鉛に起因すると推察される投与局所における刺激性が観察された。このため、刺激性を軽減させた、或いは刺激性が観察されない製剤を作製することを検討した。そこで、投与局所における刺激性は、製剤組成中の亜鉛塩の種類、さらに遊離亜鉛に起因すると推察し、遊離亜鉛がどの程度製剤中に存在するかを確認した。
【0044】
その結果、従来用いていた酢酸亜鉛に比べ、塩化亜鉛を用いて作製した場合、上清部中の遊離亜鉛が少なくなることが確認された。さらに、洗浄操作を繰り返しても洗浄部1、洗浄部2中には、亜鉛がほとんど確認されず、一度沈殿した亜鉛は、容易に溶出しないことが示された。一方、G−CSFは、上清部中、洗浄部1中にはわずかしか確認されなかったが、洗浄部2中には酢酸亜鉛を用いた場合には約25%、塩化亜鉛を用いた場合には約10%検出され、遠沈操作による洗浄操作の繰り返しは、沈殿したG−CSFを溶出させることが示された。
【0045】
以上のことから、(1)添加する亜鉛塩は、酢酸亜鉛より塩化亜鉛が好ましいものであり、(2)亜鉛塩を添加、攪拌後、遠心分離により、上清に存在する遊離亜鉛を除去することにより、沈殿したG−CSFの溶出を避けつつ、遊離亜鉛の残留を抑えた製剤の調製が可能となった。
【0046】
実施例2プラセボ徐放性製剤調製法が刺激性に与える影響
[方法]
実施例1の方法に従い、以下の生理活性タンパクを含有しない(注射用蒸留水で総体積5mLに補正)、各プラセボ徐放性製剤A〜Dを調製した。
(A):ガラスバイアルに炭酸水素ナトリウム溶液(16.8mg)、リン酸緩衝液(13.8mg)を最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら酢酸亜鉛溶液(36.7mg)を加え、懸濁液とした後、トレハロース溶液(125mg)を添加し、総体積5mLとし、凍結乾燥した。
(B)ガラスバイアルに炭酸水素ナトリウム溶液(16.8mg)、リン酸緩衝液(13.8mg)を最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら塩化亜鉛溶液(27.3mg)を加え、懸濁液とした後、トレハロース溶液(125mg)を添加し、凍結乾燥した。
(C)ガラスバイアルに炭酸水素ナトリウム溶液(16.8mg)、リン酸緩衝液(13.8mg)を最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら酢酸亜鉛溶液(36.7mg)を加えた。これら懸濁液を遠心操作により沈降部、上清部に分離し、上清部を除去した後、トレハロース溶液(125mg)を添加し、凍結乾燥した。
(D)ガラスバイアルに炭酸水素ナトリウム溶液(16.8mg)、リン酸緩衝液(13.8mg)を最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら塩化亜鉛溶液(27.3mg)を加えた。これら懸濁液を遠心操作により沈降部、上清部に分離し、上清部を除去した後、トレハロース溶液(125mg)を添加し、凍結乾燥した。
【0047】
各プラセボ徐放性製剤A〜Dの実際を表にまとめると、以下のとおりである。
【0048】
【表3】

【0049】
得られた各凍結乾燥した徐放性製剤A〜Dに蒸留水を加え再懸濁し、7週齢のSD系雄性(日本チャールスリバー;CRJ)ラット(各群2匹)にそれぞれ、G−CSFとして4.2mg(臨床における最大投与量)/投与部位/mLに相当するプラセボ徐放性製剤を背部中央皮下に投与した。
投与部位の刺激性は、投与後3日目の投与部位の皮下状況(浮腫、紅斑の有無)を肉眼観察することによって評価した。
評価は以下のとおりである。
++:浮腫、紅斑著しい。
+ :浮腫、紅斑を認める。
− :浮腫、紅斑を認めない。
その結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
[考察]
酢酸亜鉛を用いて作製した従来の製剤(A)に比較し、塩化亜鉛を用いて作製した製剤(B)は、紅斑、浮腫ともに軽減していた。さらに、遊離亜鉛を除去(上清部分を除去)した製剤(C及びD)においては、紅斑、浮腫ともに観察されなかった。
このことから、添加する亜鉛塩を酢酸亜鉛から塩化亜鉛へ変更し、さらに亜鉛塩を添加、攪拌後、上清に存在する遊離の亜鉛を遠心分離により除去する方法が、刺激性の軽減を可能にすることが確認された。
【0052】
実施例3G−CSF徐放性製剤調製法が刺激性に与える影響
[方法]
実施例2と同様に、以下の生理活性蛋白質としてG−CSFを含有する、本発明の徐放性ナノ粒子含有製剤(製剤E及びF)を調製した。
(E)ガラスバイアルに脱塩精製したG−CSF溶液(10mg)、炭酸水素ナトリウム溶液(16.8mg)、リン酸緩衝液(13.8mg)を最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら酢酸亜鉛溶液(36.7mg)を加え、懸濁液とした後、トレハロース溶液(125mg)を添加し、凍結乾燥した。
(F)ガラスバイアルに脱塩精製したG−CSF溶液(10mg)、炭酸水素ナトリウム溶液(16.8mg)、リン酸緩衝液(13.8mg)を最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら塩化亜鉛溶液(27.3mg)を加えた。これら懸濁液を遠心操作により沈降部、上清部に分離し、上清部を除去した後、トレハロース溶液(125mg)を添加し、凍結乾燥した。
【0053】
徐放性製剤E及びFの実際を表にまとめると、以下のとおりである。
【0054】
【表5】

【0055】
得られた各凍結乾燥製剤E及びFに蒸留水を加え再懸濁し、7週齢のSD系雄性ラット(各群2匹)にそれぞれ、G−CSFとして4.2mg(臨床における最大投与量)/投与部位/mLの各徐放性製剤を背部中央皮下に投与した。
刺激性は、実施例2と同様に基準により、投与後1日目の皮下状況の肉眼観察によって評価した。
製剤中のG−CSF量の測定は、G−CSF 0.1mg相当の製剤に200mM EDTA 0.5mLを加えて製剤を溶解し、HPLC法を用いて測定した。
その結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
[考察]
製剤(E)は、投与部位周辺に紅斑および浮腫が観察されたが、製剤(F)は異常な所見は確認されなかった。このことから、沈殿したG−CSFの溶出を避けつつ、かつ刺激性が観察されない製剤の作製が可能となった。
【0058】
実施例4刺激性を軽減させたG−CSF徐放性製剤の白血球数上昇率を指標とした薬効評価
[方法]
上記実施例3で得られた凍結乾燥製剤(F)は、塩化亜鉛との沈殿物について、遠沈操作により上清部を除去した製剤であり、皮膚刺激性が軽減された製剤である。この凍結乾燥製剤(F)に蒸留水を加え再懸濁し、7週齢のSD系雄性ラット(各群4匹)背部中央皮下に投与し、対照群のG−CSF水溶液の連日皮下投与群と、白血球数上昇率を比較した。
投与量は、G−CSF 0.1mg/kg/日×5日間でおこなった。
製剤中のG−CSF量の測定は、G−CSF 0.1mg相当の製剤に200mM EDTA 0.5mLを加えて製剤を溶解し、HPLC法を用いて測定した。
[結果]
その結果を、下記表7に示す。
【0059】
【表7】

* :p<0.05
**:p<0.01
【0060】
[考察]
製剤(F)は、投与後1日目から4日目まで、対照群の水溶液の連日皮下投与群と比較して白血球数上昇率が同等かそれ以上であり、さらに7〜9日目においても非投与群、連日皮下投与群に比較し高く維持されていた。
このことから、製剤(F)は、7日間以上の持続的な薬効を示すことが確認された。
【0061】
実施例5G−CSF徐放性製剤の物性評価
上記実施例3で得られた凍結乾燥製剤(F)に蒸留水を加え再懸濁し、Malvern(株)の粒子径測定器を用いて、製剤の平均粒子径および粒度分布を測定した。その結果、強度平均粒子径413.3nm、数平均粒子径414.9nm、体積平均粒子径408.7nmと算出され、ナノオーダーの粒子であることが確認された。
また、粒子の分布幅は比較的狭く、単分散に近い製剤であることが示された。さらに、本製剤は、27Gの針を容易に通過し、通針性も良好であり、ラット皮下残存試験から生体吸収性であることが確認された。
【0062】
実施例6ヒト成長ホルモン(hGH)徐放性製剤の血中hGHベル
(G)ガラスバイアルに、脱塩精製したhGH溶液4mg/mLを2.5mL(hGHとして10mg)、炭酸水素ナトリウム溶液84mg/mLを0.2mL(16.8mg)、リン酸二水素ナトリウム(2.28mg)とリン酸水素二ナトリウム(11.5mg)からなるpH7.2の緩衝液0.2mLを最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら、塩化亜鉛溶液27.3mg/mLを1mL(27.3mg)を加えた。さらに注射用蒸留水1.1mLを加え、総体積5mLとした。これら懸濁液を遠心操作により沈降部、上清部に分離し、上清部を除去した後、トレハロース溶液400mg/mLを0.313mL(125mg)を添加し、注射用蒸留水4.69mLを加え総体積5mLとして凍結乾燥した。
得られた凍結乾燥製剤(G)に蒸留水を加えて再懸濁し、7週齢のSD雄性ラット(各群3匹)背部中央皮下に投与し、hGH溶液単回皮下投与群と血中hGHレベルを比較した。
投与量は、hGH 10.5mg/kgでおこなった。製剤中のhGH量は、hGH 0.1mg相当の製剤に100mM−塩酸を加えて製剤を溶解し、HPLC法を用いて測定した。その結果を表8に示す。
【0063】
【表8】

ND:未検出
【0064】
表中に示した結果から判明するように、本発明のナノ粒子含有製剤(G)は、水溶液の単回皮下投与群と比較して、初期の血中hGHレベルが抑制され、かつ数日間に亘り、血中hGHレベルが高く維持されていた。
このことから、本発明のナノ粒子含有製剤(G)にあっては、徐放性を有することが確認された。
【0065】
実施例7ミッドカイン(MK)徐放性製剤の作製
(H)ガラスバイアルに、脱塩精製したミッドカイン(MK)溶液4mg/mLを2.5mL(MKとして10mg)、炭酸水素ナトリウム溶液84mg/mLを0.2mL(16.8mg)、リン酸二水素ナトリウム(2.28mg)とリン酸水素二ナトリウム(11.5mg)からなるpH7.2の緩衝液0.2mLを最初に混合し、次いでこの溶液に攪拌しながら、塩化亜鉛溶液27.3mg/mLを1mL(27.3mg)を加えた。さらに注射用蒸留水1.1mLを加え、総体積5mLとした。これら懸濁液を遠心操作により沈降部、上清部に分離し、上清部を除去した後、トレハロース溶液400mg/mLを0.313mL(125mg)を添加し、注射用蒸留水4.69mLを加え総体積5mLとして凍結乾燥した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上記載のように、本発明により、生理活性蛋白質或いはペプチドの所定量を投与したときに、投与部位での異常反応が無く、且つ含有する生理活性蛋白質或いはペプチドの持続的な活性を維持する徐放性ナノ粒子含有製剤を提供することができる。
本発明が提供するナノ粒子含有製剤は、ナノ粒子中に含有される生理活性蛋白質或いはペプチドの活性の持続性に優れたものであり、これまでみられた投与部位での異常反応を軽減したものであり、臨床上極めて有効なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性蛋白質或いはペプチド、水溶性炭酸塩、水溶性リン酸塩、及び水溶性亜鉛塩のそれぞれの水溶液を添加混合することによってナノ粒子の沈殿物を形成させることからなる生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物であって、水溶性亜鉛塩を、その組成比が重量比で、生理活性蛋白質:水溶性亜鉛塩=1:0.2〜1:3.5となる範囲内で添加することを特徴とする生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物。
【請求項2】
生理活性蛋白質或いはペプチドが、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、ヒト成長ホルモン(hGH)、インターフェロン、エリスロポエチン又はミッドカインである請求項1に記載の生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物。
【請求項3】
水溶性炭酸塩が、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物。
【請求項4】
水溶性リン酸塩が、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムからなり、その混合比が水溶液としたときにpH6.0〜8.0であることを特徴とする請求項1に記載の生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物。
【請求項5】
水溶性亜鉛塩が、塩化亜鉛又は酢酸亜鉛である請求項1に記載の生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物。
【請求項6】
水溶性亜鉛塩が塩化亜鉛で、かつ、生理活性タンパクがG−CSFであり、その組成比が、G−CSF:塩化亜鉛が重量比で1:2〜1:3である請求項1に記載の生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物。
【請求項7】
生理活性蛋白質或いはペプチド、水溶性炭酸塩、水溶性リン酸塩、および水溶性亜鉛塩の水溶液を加え、混合・攪拌して、ナノ粒子の沈殿物を得、上清部を廃棄し、得られた沈殿物に糖水溶液を加え、再分散後、凍結乾燥に付すことからなる生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項8】
糖水溶液がトレハロース水溶液である請求項7に記載の生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の製造方法によって製造された生理活性蛋白質含有ナノ粒子組成物。

【公開番号】特開2009−256241(P2009−256241A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107172(P2008−107172)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(304062317)ガレニサーチ株式会社 (6)
【出願人】(303010452)株式会社LTTバイオファーマ (27)
【Fターム(参考)】