説明

産業用ネット

【課題】 合成樹脂と同等の引張り強さ、引掛け強さ、結節強さを有し、植物の支持に対して多量の繊維を必要とせず、ネット重量の軽減化と製造コストの低減化が図られるラミーの天然有機繊維のみで編網された産業用ネットを提供すること。
【解決手段】 ラミー繊維を原糸として網体を編成し、或いは又、細いラミー繊維を複数本撚り合わせることにより引張り強度が増した紡績糸を原糸とする網体が編成された産業用ネット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として蔓性植物の支えとして使用される産業用ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ネットにはその目的に応じて様々な種類のものがあるが、従来はポリ塩化ビニール、ポリエチレン等の合成樹脂からなるモノフィラメントやフラットヤーン、テープヤーンを用いて構成されていたが、近時、使用後に適正に廃棄処分しなければならないことが義務づけられている。そのために前記合成樹脂は焼却すると有害ガスが発生することがあるため処分がしにくいという問題がある。また、近年農業では農業従事者の高齢化も進んでいるため、使用後の農業用ネットを回収して処分をするというのは負担のかかる作業になりつつある。
このため、合成樹脂を使用しない農業用ネットが提案され、特許文献1ではジュート(黄麻)繊維で構成した野菜用ネットが、特許文献2では綿繊維を使用した長いも用ネットが、特許文献3では生分解繊維からなる植物誘引ネットが、特許文献4では天然の有機繊維等のパルプの紙紐を主体とした農業用ネットが、特許文献5では綿繊維に竹繊維を混紡した農業用ネットが可燃性の土中埋没で容易に腐食する農業用ネットとして提案されている。
さらに、ネット状に編成される天然繊維素材としてラミー(苧麻)が提案された先行技術は、特開2003−339248号公報(特許文献6)や実用新案登録第3106569号(特許文献7)に開示されているが、何れもラミーの処理については何ら言及されていないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平3−22645号公報
【特許文献2】特許第3342247号公報
【特許文献3】特開2004−337116号公報
【特許文献4】特開2005−295934号公報
【特許文献5】特開2008−306958号公報
【特許文献6】特開2003−339248号公報
【特許文献7】実用新案登録第3106569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来周知されている天然繊維ネットは天然繊維の組成上、編網される原糸が単繊維の直径の細いものは引張り強度が小さく、又、引張り強度の大きいものは単繊維が太くなる。そのために強度の求められるネットは重量は重く、体積はかさばるものとなっている。
特許文献1ジュート(黄麻)繊維で構成した野菜用ネット、特許文献2綿繊維を使用した長いも用ネット、特許文献4天然の有機繊維等のパルプの紙紐を主材とした農業用ネット、特許文献5綿繊維に竹繊維を混紡した農業用ネットはいずれも強度が不十分で、荷重に対応するためには糸を太くしなければならず、結果、ネット自体の重量が増え作業性が悪く、水ぬれに対しても強度がなく屋外で使用するには不向きであり、特許文献3の生分解性繊維からなる植物誘引ネットはコストが大幅に上昇して、1回だけの農業用ネットとしては不向きであるというような問題点があった。
又、従来使用されている合成樹脂による産業用ネットはその繊維の基本性能上、長期間使用されると繊維の伸びが現れ、数回のネットの張り直しが必要となり負担のかかる作業となっている。
【0005】
本発明の課題は前記の問題点に鑑みてなされたものであり、天然の有機繊維で引張り強度の大なるラミーのみで自然に対して無害であり、編網される原糸がより細く、植物の支持、強風被害、鳥害に対して充分に強度があり、編網工程が容易で安価な農業用ネット、及び設置後手直しの必要の少ない農業用ネット、建造物の法面を緑化する植栽ネット等の産業用ネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1に記載した発明は極細のラミー(苧麻)繊維を原糸として網体を編成した産業用ネットであり、請求項2に記載した発明は請求項1に記載する原糸を極細のラミー単糸を複数本撚り合わせ引張り強度の増した紡績糸であることを示すものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の産業用ネットによれば、合成樹脂と同様の引張り強さ、引掛け強さ、結節強さを有するため、植物の支持に対して多量の繊維を必要とせず、ネット重量の軽減化、製造コストの低減化が図られる。又、天然の有機繊維のみで編網されているので、使用廃棄に際しては土中に埋め腐食により自然に戻すことができる。さらに、ラミー繊維の基本性能により伸びがほとんどないため、設置後の手直し作業の軽減化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ラミー繊維に求められる強度を確保するために、従来使用されている合成繊維(ポリエチレン、ポリプロピレン)によるネットの強度を確認すると、より細い糸が求められる防風ネットでは300D、400Dの単糸又は双糸が使用されている。
そこで、ポリエチレン300D、400Dの太さに対応するラミー繊維を考察すると、ポリエチレンの太さの規格はD(デニール)であり、300Dは9,000m当たり300gの太さとなる。そして、ラミーの太さの規格は麻番手であり、1番手は300ヤード(274.3m)当たり1ポンド(453.6g)の太さとなる。然して、300Dを麻番手に変換すると約50麻番手となり、この50麻番手の糸は市場で流通しているが、より細い糸を数多く撚り合わせた方が強度を増すこととなるから、本発明では、100麻番手(麻番手は数字が大きくなると細くなる。)のラミーの単繊維(単糸)を2本撚り合わせた紡績糸が製造され、これを原糸とした網体が、一般的に公知の蛙股網、無結節網、ラッセル網、もじ網などに編網されて産業用ネットとして提供される。なお、前記400Dに対応するラミーによる紡績糸は、100麻番手の単糸を約3本撚り合わせたものとなる。以下に、ラミー繊維と合成繊維の各基本性能を説明する。
【0009】
ラミー(苧麻)繊維の基本性能について述べてみる。
文献、繊維学会編、第2版繊維便覧
単繊維は太さ20〜80μm、長さ2〜10cmである。強さは6.5gf/D、伸び1.8〜2.3%である。
主成分はセルロースであるが単繊維間には繊維を結びつけるペクチン質が多量に含まれる。そのため強力が大きく硬い性質を示す。
引張強さ(標準時)6.5gf/D (湿潤時)7.7gf/D
引掛け強さ 9.3gf/D
結節強さ 5.0gf/D
伸び率 (標準時)1.8〜2.3% (湿潤時)2.2〜2.4%
【0010】
従来農業用ネットで使用されている合成繊維の基本性能を示す。
文献、繊維学会編、第2版繊維便覧
(1)ポリエチレン
引張強さ(標準時)5.0〜9.0gf/D (湿潤時)5.0〜9.0gf/D
引掛け強さ 6.2〜13.0gf/D
結節強さ 3.5〜5.7gf/D
伸び率 (標準時)8〜35% (湿潤時)8〜35%
(2)ポリプロピレン
引張強さ(標準時)4.5〜7.5gf/D (湿潤時)4.5〜7.5gf/D
引掛け強さ 8.0〜12.0gf/D
結節強さ 4.0〜5.5gf/D
伸び率 (標準時)25〜60% (湿潤時)25〜60%
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の産業用ネットは、合成繊維で編網されたネット等の強度と同等の強度をラミー繊維の編網で確保できたものであるから、農作業の省力化のため、例えばきゅうり、長いもまたはインゲン豆等の農作物のつるを這わせるためのネット、及び作物を風から守る防風ネット、作物を鳥害から守るための防鳥ネット、花卉の倒伏防止のためのフラワーネット、建造物の法面に沿わせて設けられ、居住環境を改善するための植栽ネット等に幅広く利用されるものである上、ネット製造業界の活性化にも多大に貢献できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミー繊維を原糸とする網体が編成されて成る産業用ネット。
【請求項2】
前記網体はより細いラミー単糸を複数本撚り合わせることにより引張り強度の増した紡績糸を原糸として成る。

【公開番号】特開2010−220509(P2010−220509A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69516(P2009−69516)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(509082167)東北製綱株式会社 (1)
【Fターム(参考)】