説明

産科・婦人科用の手術用覆い布

【課題】子宮鏡下手術を行う場合、灌流(環流)させる生理的食塩水等の灌流液を外部に漏出させることなく確実に回収し、手術時の安全性、安定性等を一層向上する。
【解決手段】産科・婦人科における手術野を除いた患者の身体を覆う覆い布本体1に、手術野に対応した大きさで開口された開口部2を形成し、この開口部2下方で開放されている受水パウチ10を覆い布本体1表面に設ける。開口部2には手術野面に貼着する伸縮性ある粘着覆い片3を配して開口部2を閉塞し、粘着覆い片3には手術部位に挿入する手術機器を操作させる操作孔4を開口する。粘着覆い片3の粘着層には剥離シート5を剥離可能に貼着し、粘着覆い片3の表面側には、飛散防止カバー6を配装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産科・婦人科における例えば子宮腔内の病変を除去する等の子宮鏡下手術を行う場合、灌流(環流)させるウロマチック、生理的食塩水等の灌流液を外部に漏出させることなく確実に回収し、手術時の安全性、安定性等を一層向上できる産科・婦人科用の手術用覆い布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から一般的に実施されている手術では、患部周囲を覆い、患部に関連する手術野のみを露出するようにオイフあるいはドレープといわれる手術用覆い布を使用している。この覆い布は、感染予防の観点からいわゆる使い捨て可能となるように例えばポリプロピレン、ポリエステル等を素材とする不織布によって形成されており、手術の対象となる手術野それぞれに対応して種々の形態のものが用意されている。
【0003】
例えば産科・婦人科における各種疾患、特に子宮腔内に存する病変を除去する等の各種手術に際し、近時では術後の回復が早く、患者に大きな身体的・精神的負担を掛けずに済むようにした、開腹しない子宮鏡下手術を実施するのが比較的に多くなりつつある。その場合、子宮を膨らませておくようにウロマチック、生理的食塩水等を子宮内に供給し、またそれを回収する灌流方式によるものとし、生理的食塩水等を回収するには、覆い布における手術野を露出している開口部の下方に設けた回収袋、これの底部に連結した回収チューブを経て所定の回収タンク内に貯留させるようにしている。
【0004】
このような点に鑑み、従来では例えば特許文献1にあるような集液ドレープが提案されている。この集液ドレープは、患部を覆うシートに集液ユニットを設けておき、シートに貫通した貫通穴を覆うフィルター部をシート裏面に配置して、フィルター部、貫通穴を通って、患者体内からの流出体液、使用される薬剤水溶液等の液体をシート表面の集液ユニットに収容するようにしたものである。
【特許文献1】特開2001−238896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただ、この特許文献1に示された集液ドレープによる場合であると、産科・婦人科における子宮鏡下で実施する子宮内手術には不十分なものであった。これは、一般的な泌尿器科関係の手術に使用されるTUR用オイフでは、特許文献1に示されるような集液構造を備えていることでオイフ自体が手術野面に密着しておらず、特に手術野周辺において、手術野とオイフとの間に生じている隙間から灌流液が漏出し、それの流入量と回収量とを正確に把握できないからである。
【0006】
すなわち、子宮鏡下手術に特有な合併症として、破綻した血管内への生理的食塩水等の灌流液の流入による水中毒や循環血漿量の過負荷があり、これらによって、ときには患者が重篤な状態となることがあるから、生理的食塩水等の流入量と回収量とを常時把握している必要がある。例えばアメリカ産婦人科内視鏡学会のガイドラインでは、術中の灌流液の出納を計測し、流入量が750mlを越える場合には手術の収束を図り、1500mlとなれば直ちに終了することを勧めている。
【0007】
また、泌尿器科手術と異なり、子宮鏡下手術では、子宮鏡を挿入する子宮頸部は短く、かつ開大していることから、膣口において子宮鏡との隙間から灌流液は溢出し、この溢出水がオイフと皮膚の隙間を膣から会陰へと伝わり手術室の床面へと落水し、喪失するために、正確な排液量を経時的に計測することは現実には非常に困難であったのである。
【0008】
そこで本発明は叙上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、その目的は覆い布自体を手術野周辺に密着させ、膣口から溢出する灌流液を周囲に漏出させることなく、そのほぼ全量を覆い布前面に案内させて集液し、溢出回収量を正確に計測することで流入量との出納を常時把握できるようにして、子宮鏡下手術における安全性と安定性とを図ることにある。また手術室台、その床面等の汚染を防止して衛生的に処理でき、二次感染その他をも防止できる産科・婦人科用の手術用覆い布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明にあっては、産科・婦人科における手術野を除いた患者の身体を覆う覆い布本体1に、手術野に対応した大きさで開口された開口部2を形成すると共に、この開口部2下方で開放されている受水パウチ10を覆い布本体1表面に設けて成り、開口部2には手術野面に貼着される伸縮性ある粘着覆い片3を配して開口部2を閉塞し、粘着覆い片3には手術部位に挿入される、例えば子宮鏡下用の手術機器を操作させる操作孔4を開口したことを特徴とする。
粘着覆い片3の粘着層には剥離シート5を剥離可能に貼着して構成することができ、また、粘着覆い片3の表面側には、飛散防止カバー6を配装して構成することができる。
【0010】
以上のように構成された本発明に係る産科・婦人科用の手術用覆い布にあって、覆い布本体1によって患者の身体を覆うとき、膣等の手術野に位置して、この手術野を露出させている開口部2に配した粘着覆い片3がその伸縮性と相俟ち手術野周辺にぴったりと密着し、覆い布本体1と手術野との間に隙間を生じさせない。そして、子宮鏡下手術において子宮内に流入される例えば生理的食塩水等の灌流液が子宮口・膣口から溢出すると、粘着覆い片3表面を流れて開口部2下方の受水パウチ10内に落水させる。
受水パウチ10は、灌流、溢出されたウロマチック、生理的食塩水等のほぼ全量を集液し、その溢出量を正確に計測させ、この溢出量と流入量との差等を常時把握させることで、子宮鏡下手術の続行可否を判断させ得る。
また、飛散防止カバー6はこれに開穿した挿通孔によって手術機器を手術部位に挿入させることで、溢出される灌流液が周囲に飛散するのを阻止させると共に、受水パウチ10に確実に案内させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上説明したように構成されているため、手術野を除いて覆い布本体1にて患者を覆うとき、露出させた手術野周辺には粘着覆い片3が密着されることで、覆い布本体1と手術野面とには間隙が生じなくなるから、子宮鏡下手術に際する子宮口・膣口から溢出する灌流液のほぼ全量を回収することができる。そのため、灌流液の流入量と溢出回収量との出納を常時把握可能な状態で子宮鏡下手術を実施でき、その手術の安全性を確保できる。また溢出灌流液は周囲に漏出されることがないから、手術室台、その床面等の汚染を防止して衛生的に処理でき、二次感染その他をも防止するのに役立つ。
【0012】
すなわちこれは本発明において、患者の身体を覆う覆い布本体1に開口部2を開口形成し、この開口部2下方で開放されている受水パウチ10を覆い布本体1表面に設け、開口部2には手術野面に貼着される伸縮性ある粘着覆い片3を配して開口部2を閉塞し、粘着覆い片3には手術部位に挿入される手術機器を操作させる操作孔4を開口したからである。これによって、膣口から溢出する灌流液の周囲への漏出防止、そのほぼ全量の確実な回収集液、溢出回収量の正確な計測、流入量との差等の出納の常時把握を可能にし、子宮鏡下手術における安全性、安定性を図り得るのである。
【0013】
また、開口部2に配されることで開口部2を閉塞している粘着覆い片3は伸縮性があるから、手術野における凹凸、ヘア更には開脚状態にある膣口周辺に隙間なく密着させることができ、膣口から溢出される灌流液が会陰等を通って床面等に落水することはなく、そのほぼ全量が粘着覆い片3表面に案内されるものとなる。そのため、開口部2下方で開放状態で設けられている受水パウチ10内に確実に回収、集液され、その計測によって溢出量を正確に知ることができる。したがって、流入量との差を正確に把握でき、例えば子宮内等の傷口から灌流液が体内に吸収されたとしてもそれを正確に計測可能であり、これに伴う脳浮腫その他の疾患を未然に防止でき、子宮鏡下手術の安全性を一層向上できる。
【0014】
粘着覆い片3の表面側には飛散防止カバー6を設けてあるから、この飛散防止カバー6に開穿した挿通孔に手術機器を挿通させて手術を行うことで、子宮口等から溢出する灌流液は手術機器を汚損することもなく、また飛散防止カバー6によって周囲に飛散させずに受水パウチ10に案内でき、その確実な回収に役立つ。
【0015】
粘着覆い片3の粘着層に貼着した剥離可能な剥離シート5は、この剥離シート5自体の剥離前の粘着層面を保護し、手術野周辺で貼着する粘着力の劣化を防止する。
【0016】
尚、上記の課題を解決するための手段、発明の効果の項それぞれにおいて付記した符号は、図面中に記載した構成各部を示す部分との参照を容易にするために付した。本発明は、これらの記載、図面中の符号等によって示された構造・形状等に限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を参照して本発明を実施するための最良の一形態を説明する。図において示される符号1は産科・婦人科における例えば子宮内手術において、開脚状態で手術台上に乗せられている患者の手術野である膣口、陰部等を露出させて他の身体部位を覆うようになっている覆い布本体である。この覆い布本体1は、好ましくは撥水性または防水性があり、柔軟性があるシート状素材によって形成されており、例えばポリエステル、ポリウレタン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステルとパルプとの混合、ポリエステルとレーヨンとの混合、レーヨン、アクリル系ポリマー(コポリマーも含む)、フッ素系ポリマー(コポリマーも含む)等による不織布によって形成されており、滅菌処理が施されている。
【0018】
また、この覆い布本体1によって患者を覆ったときに、手術野である陰部位置に対応して陰部を露出させ、また子宮鏡その他の手術機器を手術部位に挿入し、操作する開口部2が所定大きさで開口形成されている。この開口部2自体は、手術野を含めた周辺をも露出させるに足りる大きさのものとされ、開口部2には手術野面周辺に貼着される伸縮性・柔軟性ある合成樹脂フィルム製で裏面に粘着層が形成されている粘着覆い片3が貼着されることで、開口部2が閉塞されている。尚、粘着覆い片3は、手術野を透視できるように透明・透光性があることが好ましいが、着色されたものであっても良い。
【0019】
この粘着覆い片3は、手術野面に、手術面周辺における身体表面の凹凸、ヘア等にかかわらず、手術面周辺に沿って粘着層によってぴったりと密着されるフィルム材にて成る。そして、手術部位に対する子宮鏡下用等の各種の手術機器を挿通させるように例えば縦長楕円形、長円形状の操作孔4が開穿されており、例えばアクリル系の粘着材から成る粘着層の表面は剥離可能な剥離シート5によって被覆されている。粘着覆い片3自体は、所定肉厚の伸縮性ある例えばポリエチレンフィルム、ポリウレタンフィルム等にて形成されており、開口部2形状にほぼ対応している。
【0020】
また、粘着覆い片3の表面側には、開口部2を覆っている飛散防止カバー6が配装固着されている。この飛散防止カバー6は、透明な合成樹脂フィルムによって形成されていて、これの左右側縁部によって開口部2の外側縁に接着剤等で固着されることで上下縁部は開放されており、手術部位に対する手術機器を操作孔4に挿通させるに足りる挿通孔が適宜に開穿されるようになっている。
【0021】
開口部2の下方には、覆い布本体1表面に開口部分が密着されている受水パウチ10が設けられている(図1参照)。この受水パウチ10は、上部が開口されている漏斗状を呈するように肉厚な合成樹脂シートによって折り畳み可能に形成されており、底部には受水した灌流液を排水する排水管11が接続されるようにしてある。また、この受水パウチ10には、開口部の開放状態を維持できるように、例えば患者の膝その他に係止できるようにしたテンションコード12を受水パウチ10の開口部縁に張り具合を適宜に調節すべく牽引可能にして配装してある。
【0022】
次にこれの使用の一例を説明するに、図3、図4に示すように子宮鏡下手術の実施に際し、手術台上に乗せられた手術体勢にある患者の手術野に開口部2を位置させて覆い布本体1にて患者を覆う。このとき、操作孔4は、手術機器を挿入させる手術部分に位置合わせし、また開口部2における粘着覆い片3の剥離シート5を剥離して露出させた粘着層にて粘着覆い片3を手術野にしっかりと貼着する。次いで、患者の膝等に係止したテンションコード12の張り具合によって受水パウチ10を開放状態にして所定位置に位置決めする。その後、飛散防止カバー6に開穿した挿通孔を経て所定の手術機器例えば膣鏡O及び子宮鏡S等を操作孔4から手術部分に挿入して手術を実施する。手術に際し、子宮内に流入される生理的食塩水等の灌流液のうち溢出したものは粘着覆い片3表面上を流れ、そのまま受水パウチ10内に落水する。落水された灌流液は排水管11を経て所定のタンク内に貯留され、その貯留量が常時計測されることで、流入量との差を把握しながら、その異常の有無によって手術を進めあるいは中止する判断材料とするのである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施するための最良の形態を示す要部における一部切欠正面図である。
【図2】同じく要部の分解斜視図である。
【図3】同じく使用状態の側断面図である。
【図4】同じく使用状態の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
O…膣鏡 S…子宮鏡
1…覆い布本体 2…開口部
3…粘着覆い片 4…操作孔
5…剥離シート 6…飛散防止カバー
10…受水パウチ 11…排水管
12…テンションコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産科・婦人科における手術野を除いた患者の身体を覆う覆い布本体に、手術野に対応した大きさで開口された開口部を形成すると共に、この開口部下方で開放されている受水パウチを覆い布本体表面に設けて成り、開口部には手術野面に貼着される伸縮性ある粘着覆い片を配して開口部を閉塞し、粘着覆い片には手術部位に挿入される手術機器を操作させる操作孔を開口したことを特徴とする産科・婦人科用の手術用覆い布。
【請求項2】
粘着覆い片の粘着層には剥離シートを剥離可能に貼着してある請求項1に記載の産科・婦人科用の手術用覆い布。
【請求項3】
粘着覆い片の表面側には、飛散防止カバーを配装してある請求項1または2に記載の産科・婦人科用の手術用覆い布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−118934(P2009−118934A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293988(P2007−293988)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(591089800)日本メディカルプロダクツ株式会社 (4)