説明

用紙処理装置および画像形成装置

【課題】簡単な構成とすることでコスト上昇を招くことなく、かつ搬送部材にも損傷を与えることなく搬送方向切り換えが可能な構成を備えた用紙処理装置を提供する。
【解決手段】片面への記録時に用紙が搬入される第1の搬送路A1と、両面への記録時に第1の搬送路から用紙が導入されて反転処理を行う第2の搬送路R1とを備え、上記搬入位置と導入位置との合流部には、第2の搬送路R1側に基端が固定され、自由端が第1の搬送路A1側に位置する搬送手段51に向けて用紙42を誘導できる位置に位置決めされた板状弾性体47が設けられ、板状弾性体47は、搬送手段51の周部において用紙42が曲率分離されて搬送手段51への吸着力が弱められる位置Zに先端エッジ47Sおよびこれと連続する面Pが位置決めされ、先端エッジ47Sを除いてこの先端エッジ47Sに連続する面Pが当接させてあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙処理装置および画像形成装置に関し、さらに詳しくは、用紙の搬送路切り換え機構に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、プリンタ、ファクシミリ装置や複写装置あるいはプロッタさらにはこれら機能を併せ持つ複合機などの画像形成装置の一つに、インク液滴を吐出する記録ヘッドを用いた液体吐出記録方式によるインクジェット記録装置がある。
【0003】
この液体吐出記録方式のインクジェット記録装置は、記録ヘッドからインク滴を、搬送される用紙に対して吐出して、画像形成(記録、印字、印写、印刷も同義語で使用する)を行ない、その型式として、記録ヘッドが主走査方向に移動しながら液滴を吐出して画像を形成するシリアル型画像形成装置と、記録ヘッドが移動しない状態で液滴を吐出して画像を形成するライン型ヘッドを用いるライン型画像形成装置がある。
【0004】
なお、本発明における液体吐出記録方式の画像形成装置としては、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体を対象として、インクを着弾させて画像形成を行う装置を意味し、また、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与すること(単に液滴を媒体に着弾させること)をも意味する。
【0005】
さらに、本発明の説明に用いるインクとは、インクと称されるものに限らず、記録液、定着処理液、樹脂、薬品、液体などと称されるものなど、画像形成を行うことができるすべての液体の総称として用いられているものが含まれる。
【0006】
また、本発明で挙げる用紙とは、材質を紙に限定するものではなく、OHPシート、布なども含み、インク滴が付着されるものの意味であり、被記録媒体、記録媒体、記録紙、記録用紙などと称されるものを含むものの総称として用いる。
【0007】
この液体吐出記録方式の画像形成装置は、製本や各種印刷物を少量生産する為に使用される設備型のインクジェットプリンターの場合、高速で駆動させる為、サーマル型またピエゾ型のインクジェットヘッドを多数個配置し、紙搬送方向に対し直角方向の駆動(キャリッジ駆動)を持たず、紙搬送のみで画像を形成することができるようになっている。
【0008】
この種のインクジェット記録装置は、高速かつ低騒音であり、記録媒体の種類に制約が少なく、カラー化も容易であるなどの利点があることから、現在広く普及している。
【0009】
一方、画像形成装置には画像形成モードの一つとして、記録媒体として用いられる用紙の両面への画像形成を行うモードがある。
両面への画像形成時には、一面、つまり表面への画像形成が終了した用紙を反転させたうえで今一度記録部に搬送することで他の面、つまり裏面に画像を形成する。
従来、一面への画像形成が終了した用紙を排出する経路と反転する経路とに搬送方向を切り換える構成として、二つの経路が合流する位置に揺動可能な切り換え爪を配置し、搬送方向を選択できるようにした構成が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0010】
特許文献1には、給紙装置から繰り出された用紙を記録部に対向して配置されている吸着ベルトに向けて搬送方向を設定する態位と、記録終了後に吸着ベルトから剥離した状態で用紙を反転搬送ユニットに向けた搬送方向に設定する態位とを選択可能な切り換え爪を備えた構成が開示されている。
特許文献1に開示されている構成に用いられている切り換え爪は、ソレノイドなどの駆動手段を用いて各態位を設定することがよく知られている。
【0011】
一方、近年では、画像形成に要する処理時間の短縮が望まれてきており、これを実現する方法として、用紙搬送速度の高速化あるいは搬送される用紙間の搬送間隔を小さくすることが採用されてきている。
しかし、切り換え爪をソレノイドにより駆動する構成では、切り換え動作にタイムラグが発生することが原因して上述した要望に応えることができない。
【0012】
そこで、搬送方向を切り換える構成に駆動源などを要しない機構として、特許文献1に開示されている切り換え爪の設置位置にマイラーなどのシート状弾性体を配置し、一方の搬送路を通過した用紙を移動してきた搬送路に戻るのを防ぎながら他方の搬送路に誘導する構成が提案されている(例えば、特許文献2)。
特許文献2には、略正方形のマイラーなどのシート状弾性体を用紙の幅方向に複数並べて配置し、各シート状弾性体の先端をこのシート状弾性体の基端が取り付けられている側と反対側に位置する搬送ガイドのリブにオーバーラップ、つまり当接する付勢を与えて片持ち梁状に支持した構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献2に開示されているシート状弾性体を用いることで特許文献1に開示されているソレノイドを用いた場合の動作遅れを解消できる反面、特許文献1に開示されている切り換え爪の代わりに特許文献2に開示されているシート状弾性体を用いた場合には、次のような問題が新たに発生する。
【0014】
特許文献1に開示されている切り換え爪に代えて特許文献2に開示されているシート状弾性体を設けた場合には、シート状弾性体の先端が吸着ベルトに当接する構成となる。
この構成において、特許文献1に開示されているように、吸着ベルトに対して用紙を搬送する場合には、用紙先端によってシート状弾性体先端が押し動かされて吸着ベルトからその先端が離されることにより、用紙が吸着ベルトに向けガイドされる。
一方、吸着ベルトに吸着されていた用紙が反転搬送路に移動する場合には、シート状弾性体の先端が吸着ベルトの表面に当接していることを利用して用紙が吸着ベルトから剥離されて反転搬送路に向けてガイドされる。
【0015】
このように、用紙を反転搬送路に向けてガイドすることができる条件として、シート状弾性体の先端が吸着ベルトの表面に当接していることが挙げられる。このため、吸着ベルト表面は、常にシート状弾性体の先端エッジ部によって摺擦されることになるので、ベルト表面が傷つき、ベルトの強度劣化が早められてしまうことになる。
【0016】
一方、特許文献2に開示されているシート状弾性体の構成においては、シート弾性体の表裏各面を用紙のガイド面として用いるようになっており、具体的には、反転搬送路に向けガイドする場合には一方の面を、そして反転搬送路から用紙を繰り出す場合には他方の面をそれぞれ用いるようになっている。そして、一方の面をガイド面として用いる際には、ガイド部に当接しているシート状弾性体の先端をガイド部から離すように押し広げ、他方の面をガイド部として用いる場合には、ガイド面にシート状弾性体の先端を当接させた状態を維持してガイド部に当接しているシート状弾性体の面と反対側の面を用紙が通過するようになっている。
【0017】
従って、このような特性を有するシート状弾性体を特許文献1に開示されている切り換え爪の代わりに用いると、先端がガイド面に当接する状態を維持しているシート状弾性体の他方の面を用いて再度吸着ベルトに向けて用紙を指向させることができない。
このため、特許文献2に開示されているシート状弾性体を特許文献1の構成に適用すると、用紙を吸着ベルトに向けて強制的に指向させて吸着させるための構成が必要となる。
このように、単にシート状弾性体を切り換え爪の代わりに設けた場合でも、これに伴い用紙の構成が新たに必要となり、結果として、構造の複雑化や部品の増加によるコスト上昇を招くという新たな問題が発生する。
【0018】
本発明の目的は、上記従来の用紙処理装置における問題に鑑み、簡単な構成とすることでコスト上昇を招くことなく、かつ搬送部材にも損傷を与えることなく搬送方向切り換えが可能な構成を備えた用紙処理装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的を達成するため本発明は次の構成よりなる。
(1)用紙を吸着可能であって、吸着した用紙を搬送可能な搬送手段により構成される第1の搬送路と、
前記第1の搬送路の搬送方向下流側に設けられ、前記搬送手段から搬送された用紙を反転させる反転搬送路が構成される第2の搬送路とを備え、
前記搬送手段には用紙の曲率分離を行う周部が設けられ、該第1の搬送路を搬送される用紙が曲率分離されて第2の搬送路に導入可能であるとともに、第2の搬送路において反転された用紙が前記搬送手段の前記周部に向けて前記第1の搬送路から前記第2の搬送路への導入時とは異なる角度を有する方向から該周部に搬入されて搬送手段に吸着される用紙処理装置において、
基端が固定され、他端側が前記周部に当接する板状弾性体が設けられ、
前記板状弾性体は、前記周部において前記曲率分離により該周部への用紙の吸着力が弱まる領域に対して、先端エッジを除いてこの先端エッジに連続する面を位置決めすることを特徴とする用紙処理装置。
【0020】
(2)前記周部への用紙の吸着力が弱まる領域として、前記搬送手段の周部において、前記第1の搬送路から第2の搬送路に向け導入される位置および反転された用紙が前記周部に向けて搬入される位置での接線の内側に位置する周部が相当していることを特徴とする(1)記載の用紙処理装置。
【0021】
(3)前記板状弾性体は、押圧されることにより、前記周部への吸着力が弱まる領域に前記先端エッジを除いてこの先端に連続する面が周部に接触すると共に、前記用紙の吸着力が弱まる領域に向けて反転された用紙が移動する際の用紙先端エッジの傾きが前記板状弾性体表面での接線を基準として鈍角に設定されることを特徴とする(1)又は(2)記載の用紙処理装置。
【0022】
(4)前記板状弾性体は、押圧されることにより、前記領域で周部に非当接状態で対面する先端エッジの位置が、前記周部における前記第1の搬送路を移動する用紙の接線に対して下方近傍に位置決めされることを特徴とする(1)乃至(3)のうちの一つに記載の用紙処理装置。
【0023】
(5)前記搬送手段はローラに捲装されて用紙の吸着が可能なベルトが用いられ、前記ローラの周部に対して前記板状弾性体における先端を除いてこの先端に連続する面が当接させてあることを特徴とする(1)乃至(4)のうちの一つに記載の用紙処理装置。
【0024】
(6)(1)乃至(5)のうちの一つに記載の用紙処理装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、第1の搬送路と第2の搬送路とが連続する位置で、搬送手段の周部において前記曲率分離により該周部への用紙の吸着力が弱まる領域に、先端エッジを除いてこの先端エッジに連続する面を位置決めされた板状弾性体が設けられているので、搬送手段の周部には、板状弾性体の面が接触するだけでエッジを有する先端が接触することはない。これにより、先端エッジが周部に接触した際に生じる搬送手段表面での損傷を防止することができる。
【0026】
しかも、搬送部材の周部に接触する部分である板状弾性体の先端エッジを除いてこの先端に連続する面は、搬送手段からの曲率分離により搬送手段への吸着力が弱くなる領域に位置決めされていることにより、用紙の剥離が簡単に行えることになる。これにより、第1の搬送路から第2の搬送路への用紙の誘導が確実に、かつ特別な剥離機構を用いることなく行えることになる。
【0027】
また、板状弾性体は、押圧されることにより、用紙の吸着力が弱まる領域に向けて反転された用紙が移動する際の用紙先端エッジの傾きが前記板状弾性体表面での接線を基準として鈍角に設定されるので、用紙の移動抵抗を軽減できる。しかも、先端エッジに連続する面が板状弾性体に接触しながら搬送手段の周部に向けて移動するので、特別なガイド構造を必要とすることなく用紙を搬送手段に吸着させることができる。
【0028】
さらに加えて、板状弾性体は、押圧されることにより、前記領域で周部に非当接状態で対面する先端エッジの位置が、前記周部における前記第1の搬送路を移動する用紙の接線に対して下方近傍に位置決めされるので、第1の搬送路から第2の搬送路に導入される用紙の移動を阻害することがない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】用紙処理装置を備えた画像形成装置の一実施形態に係る外観図である。
【図2】図1に示した画像形成装置の内部構成を説明するための模式図である。
【図3】図2に示した内部構成における用紙搬送部の構成および用紙の搬送形態の一つを説明するための図である。
【図4】図2に示した内部構成における用紙搬送部の構成および用紙の搬送形態の他の一つを説明するための図である。
【図5】板状弾性体の設置状態を示す外観図である。
【図6】図5に示した板状弾性体を備えた第2の搬送路を含む両面ユニットを画像形成装置から取り外した状態を示す外観図である。
【図7】用紙処理装置の特徴部に用いられる原理構成を説明するための模式図である。
【図8】図7に示した原理構成による作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図に示す実施例による本発明を実施するための形態について説明する。
本発明による用紙処理装置は、画像形成装置全般に用いることが可能であるが、本実施例では、画像形成装置の一つであるインクジェット記録装置を対象としている。
【0031】
図1は、画像形成装置であるインクジェット記録装置を前方側から見た外観図に相当する斜視説明図である。
インクジェット記録装置は、装置本体1と、装置本体1に装着された用紙を装填するための給紙トレイ2と、装置本体1に着脱自在に装着されて画像が記録(形成)された用紙をストックするための排紙トレイ3とを備えている。
さらに、装置本体1の前面の一端部側(給排紙トレイ部の側方)には、インクカートリッジを装填するためのカートリッジ装填部4を有し、このカートリッジ装填部4の上面は操作ボタンや表示器などを設ける操作/表示部5としている。
【0032】
カートリッジ装填部4には、色の異なる液体(インク)、例えば黒(K)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクをそれぞれ収容した複数の液体カートリッジ10k、10c、10m、10y(色を区別しないときは「液体カートリッジ10」という。)を、装置本体1の前面側から後方側に向って挿入して装填可能とし、このカートリッジ装填部4の前面側には、液体カートリッジ10を着脱するときに開く前カバー6を開閉可能に設けている。
【0033】
次に、インクジェット記録装置の機構部について図2を参照して説明する。なお、図2は同機構部の全体構成を説明する概略構成図であり、同図において装置前方側は左側に対応している。
キャリッジ33は、フレーム20を構成する左右のメイン側板21A、21Bに横架した主ガイドロッド31と従ガイドロッド32とにより主走査方向に摺動自在に保持され、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して図2で紙面を貫く方向(キャリッジ主走査方向)に移動走査する。
【0034】
このキャリッジ33には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液滴を吐出する複数のノズル列を有する液体吐出ヘッド34が装着されている。
【0035】
また、キャリッジ33には、各液体吐出ヘッド34に各色の液体を供給するための各色の液体タンク35を搭載している。この各色の液体タンク35には、各色の可撓性を有する供給チューブ36を介して、カートリッジ装填部4に装着された各色の液体カートリッジ10から各色の液体が補充供給される。
【0036】
一方、給紙トレイ2の用紙積載部41上に積載した用紙42を給紙するための給紙部として、用紙積載部41から用紙42を1枚ずつ分離給送する給紙コロ43と、給紙コロ43に対向し摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド44とを備えている。
【0037】
そして、この給紙部から給紙された用紙42を液体吐出ヘッド34の下方側に送り込むために、用紙42を案内するガイド部材45と、カウンタローラ46と、後で詳しく説明するが、本実施例の特徴部である搬送ガイド部材47と、先端加圧コロ49を有する押さえ部材48とを備えるとともに、給送された用紙42を静電吸着して記録ヘッド34に対向する位置に搬送するための搬送手段である搬送ベルト51を備えている。
【0038】
この搬送ベルト51は、無端状ベルトであり、搬送ローラ52とテンションローラ53との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に沿って正逆方向に周回するように構成されている。
また、この搬送ベルト51の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ56を備えている。この帯電ローラ56は、搬送ベルト51の表層に接触し、搬送ベルト51の回動に従動して回転するように配置されている。さらに、搬送ベルト51の裏側には、記録ヘッド34による印写領域に対応してプラテン部となるガイド部材57を配置している。なお、搬送ベルト51は、帯電ローラ56を用いた静電吸着構造に限らず、他の吸着構造、例えば、負圧力による吸着構造を用いることも可能である。
【0039】
さらに、液体吐出ヘッド34で記録された用紙42を排紙するための排紙部として、搬送ベルト51から用紙42を分離するための分離爪61と、排紙ローラ62及び排紙コロ63とを備え、排紙ローラ62の下方に排紙トレイ3を備えている。
【0040】
また、装置本体1の背面部には両面ユニット71が設けられている。この両面ユニット71は搬送ベルト51の逆方向回転で戻される用紙42を取り込んで反転させて再度、カウンタローラ46に給紙する。
【0041】
このように構成した液体吐出ヘッド記録装置においては、給紙トレイ2から用紙42が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙42はガイド45で案内され、カウンタローラ46に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド47で案内されて先端加圧コロ49で搬送ベルト51に押し付けられ、搬送方向を転換される。
【0042】
このとき、図示しない制御部のACバイアス供給部から帯電ローラ56に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト51が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト51上に用紙42が給送されると、用紙42が搬送ベルト51に吸着され、搬送ベルト51の周回移動によって用紙42が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ33を移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド34を駆動することにより、停止している用紙42に液滴を吐出して1行分を記録し、用紙42を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙42の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙42を排紙トレイ3に排紙する。
【0043】
搬送ベルト51は、上述したように、給紙トレイ2から給紙された用紙42を対象として印字を行う場合とは別に、一面に印字された用紙42を両面ユニット71に向けて戻す際あるいは、例えば、展張方向における両面ユニット71と反対側、つまり、図2において排紙トレイ3側から給紙する場合には、給紙トレイ2からの給紙時とは逆方向に周回するようになっている。
【0044】
図3,4は、図2に示した機構部に用いられる用紙42の搬送部に関する構成を説明するための模式図である。
図3,4に示す搬送部は、用紙の片面および両面への記録動作時に用紙を正逆いずれかの方向に移動させることができる第1の搬送路A1と、用紙の両面への記録動作時に用紙を反転させる反転搬送路が用いられる第2の搬送路R1とを備えている。
【0045】
第1の搬送路A1は、カウンタローラ46の位置を基準として(図では、基準位置がわかりにくくなるのを防ぐためにカウンタローラ46よりも少し上方の位置を基準位置(引き出し線)として示してある)、搬送ベルト51が捲装されて周部を有する搬送ローラ52の位置および記録部までの範囲を含み、搬送ベルト51に用紙を吸着させる位置である用紙搬入部に向けて用紙を移動させると共に記録部から排紙トレイ3に向け用紙を移動させる経路が設定されている。
【0046】
第2の搬送路R1は、第1の搬送路A1に設けられて用紙を静電吸着可能な搬送ベルト51に対する用紙搬入部での用紙42の搬入角度(図では、略鉛直状態に相当する)と異なる角度、図示実施例では、搬入角度に対して略直角な方向に近い角度で用紙42を搬送ベルト51に向けて移動させる用紙導入部(図では導入部と表示してある)を有し、搬送ベルト51から導入される用紙42を反転させて再度、搬送ベルト51に搬入する第1の搬送路A1での用紙搬入部(図では搬入部と表示してある)に向け移動させる経路が設定されている。
【0047】
搬送ベルト51が捲装されている箇所は搬送ローラ52の周面であるので、記録ベルトの表面も搬送ローラ52の周面に倣って周状をなし、搬送ベルト51に静電吸着されていた用紙42の曲率分離ができるようになっている。
【0048】
図3は、用紙42の片面への記録動作を行う場合の搬送形態を示しており、この場合には第1の搬送路A1のみが用いられる。
つまり、第1の搬送路A1では、矢印F1で示すように、用紙載置部41から繰り出された用紙42をカウンタローラ46により搬送ベルト51に用紙が吸着されはじめる用紙搬入部を経由して搬送ローラ52および先端加圧ローラ49とが対向する挟持搬送部に向け用紙42が搬送される。
【0049】
挟持搬送部に到達する用紙42は、搬送ベルト51の移動に順じて記録部に設けられている液体吐出ヘッド34(図2参照)に搬送される。
用紙42の片面への記録時には、記録終了後、用紙42が記録動作時での搬送継続と分離爪61による剥離動作を介して、排紙ローラ62および排紙コロ63によって排紙トレイ3に排出される。
【0050】
一方、図4は、用紙42の両面への記録動作を行う場合の搬送形態を示しており、この場合には、第1,第2の搬送路A1、R1の両方が用いられる。
つまり、最初に実行される用紙片面への印刷動作時には、図3に示した場合の排紙トレイ3への搬送を除いた搬送形態が用いられる。
従って、片面への記録動作が終了した用紙42は、搬送ローラ52および先端加圧ローラ49が片面記録時と逆方向に回転することにより、矢印F2で示すように、記録部から用紙搬入部を通過して第2の搬送路R1における導入部に導入され、矢印F3,F3A、F3Bで示す方向に移動して反転処理された後、カウンタローラ46の位置に到達した上で再度、記録部に向けて搬送される。
【0051】
以上のような構成を対象として、本実施例の特徴を説明すると次の通りである。
本実施例の特徴は、第1の搬送路A1における用紙搬入部から移動してくる用紙42を第2の搬送路R1に導入する位置に設けられている搬送ガイド部材47にある。
【0052】
搬送ガイド部材47は、第1の搬送路A1における搬入部と第2の搬送路における導入部との合流位置に設けられたマイラーなどの板状弾性体が用いられ、第2の搬送路R1側を構成する両面ユニット71側に基端が固定された片持ち梁状部材である。
【0053】
図5および図6は、両面ユニット71側に搬送ガイド部材47の基端が固定されて設けられている状態を示している。なお、図5は、ユニットのカバーおよび内部機器を取り除いた状態を示し、図6は、ユニットにカバーを装着した状態を示している。
【0054】
図7は、搬送ガイド部材47の原理構成を説明するための模式図である。
同図において、基端が両面ユニット71側に固定されている搬送ガイド部材47は、搬送ベルト51の周部において曲率分離により周部への吸着力が弱まる領域Zに、図7(B)に示すように、先端エッジを除いてこの先端に連続する面が位置決めされている。
【0055】
図7(A)において、符号Zで示す、曲率分離による用紙42の吸着力が弱められる領域とは、次の領域に相当している。
搬送ローラ52に捲装された搬送ベルト51の周部において、第1の搬送路A1から第2の搬送路A2に連続する搬送方向である略水平方向(図7(B)中、矢印L2で示す方向)に対し、用紙の曲げ剛性を利用して用紙の先端42Sが周面から離れやすくなる位置と、前記水平方向以外の角度、つまり、水平方向に対して垂直方向(図7(B)中、矢印L1で示す方向)に向けて傾く方向となる用紙の搬入方向(図7(B)中、矢印L3で示す方向)において用紙の先端42Sが周面から離れやすくなる位置との間の内側の周部である。
この領域Zは、搬送ベルト51に静電吸着されていた用紙42の先端42Sが搬送ベルト51の周部に到達することで自身の曲げ剛性を利用した曲率分離(図7(A)において用紙先端が矢印で示すようにベルトから離れる状態)が行われる領域に相当している。
【0056】
このような吸着力が弱まる領域Zに対して搬送ガイド部材47の先端エッジ47Sを除いてこの先端47Sに連続する面(図7(B)中、符号Pで示す)を位置決めすることにより、用紙42の吸着力が弱まるのを利用して用紙42の分岐が可能となる。これにより、ソレノイド駆動による切り換え爪などを用いた場合のような動作遅れの発生がなく、しかも、用紙自身の曲率分離を有効に利用できるので特別な分離機構を要しないで済む。
【0057】
一方、搬送ガイド部材47の先端エッジ47Sに連続する面は、搬送ベルト51の周部に対して図7(B)に示す状態で当接するようになっている。
本実施例では、搬送ガイド部材47が、図7(B)において白抜き矢印で示すように押圧されて、先端エッジ47Sに連続する面が先端エッジ47Sを除いて上述した領域Zに接触するように撓ませてある。
搬送ガイド47が押圧されることにより、搬送ガイド部材47の先端エッジ47Sは、第1の搬送路A1から第2の搬送路R1に用紙が移動する際の搬送ベルト51周部での接線(図7(B)中、符号L2で示す)よりも下方に位置する領域Zにおいて、接線L2の近傍で下方に位置し(図7(B)中、符号Sで示す位置に下がっている)、搬送ベルト51の周部から浮き上がった状態となっている。
これにより、先端エッジ47Sに連続する面は、図7(B)において符号Pで示したように、先端エッジ47Sを除いて搬送ベルト51の周部に当接することができる。
【0058】
搬送ベルト51の周部に対して搬送ガイド部材47の先端エッジ47Sを除いてこの先端エッジ47Sに連続する面が接触しているので、先端エッジ47Sが接触する場合のように周部を摺擦することがない。これにより、搬送ベルト51の表面に傷が付きにくく、ベルトの強度低下を防止することができる。
しかも、先端エッジに連続する面のみが搬送ベルト51の周部に当接していることから、第1の搬送路における用紙搬入部に向けて搬送される用紙42は、搬送ガイド47の面により強制的に搬送ベルト51の表面に向けて押し付けられることになる。これにより、搬送ベルト51に対して特別な誘導機構を設けることなく、用紙42を搬送ベルト51に吸着させることができる。
【0059】
また、第2の搬送路R1における用紙導入部に向けた用紙42の搬送方向に平行する接線L2よりも下方に搬送ガイド部材47の先端エッジが位置していることから、第2の搬送路R1における用紙導入部に向け移動する用紙42と干渉することがない。これによって、用紙42の移動を阻害することなく移動が可能となる。
【0060】
一方、搬送ガイド部材47は押圧されることにより、図7(C)に示すように、反転された用紙が搬送ベルト51の周部に向けて移動する際の先端エッジの傾き(図7(C)において符号L3で示す方向)が、搬送ガイド47の表面での接線に対して搬入側の面が鈍角(θ)に設定されている。なお、符号αは、搬入側と反対面での接線L3を基準とした角度を示しており、この角度は鋭角となっている。
搬送ガイド部材47の搬入側の面が鈍角とされることにより、搬入部に向け移動する用紙42は、屈曲度合いが少なくされた状態で移動することができるので、摺動抵抗の増加を来すことなく搬入部に向けて移動することができる。
【0061】
本実施例は以上のような構成であるから、搬送ガイド部材47の作用を図8において説明すると次の通りである。
図8(A)は、第1の搬送路A1から第2の搬送路R1における導入部に向け用紙42が導入される状態を示し、図8(B)は、第2の搬送路R1から第1の搬送路A1における搬入部に向けて用紙が搬入される状態を示している。
【0062】
図8(A)において、搬送ガイド部材47は、符号47’で示す初期状態から矢印で示すように押圧されることにより、先端エッジ47Sを除いてこの先端エッジ47Sに連続する面が、図において下方に向けて押し下げられる。
これにより、先端エッジ47Sを除いてこの先端47Sに連続する面が搬送ベルト51の周部において、図7で説明した領域Zに位置決めされてその連続する面のみが周部に接触する。
この状態において搬送ベルト51が記録動作時とは逆方向(図8における時計方向の回転)に移動を開始すると、用紙42は、第1の搬送路A1から第2の搬送路R1に向けて移動し、第2の搬送路R1における導入部、つまり、搬送ベルト51の周部に達する。
【0063】
第1の搬送路A1から第2の搬送路R1に向け移動する用紙は、図7(B)に示したように搬送ガイド部材47の先端エッジ47Sが用紙42の搬送方向に平行する接線よりも下方に位置しているので、搬送ベルト51の周部で曲率分離された用紙42が移動するのを阻害しない。
【0064】
一方、図8(B)に示すように、第2の搬送路R1を移動する用紙は、その先端が搬送ガイド51に対面すると、搬送ベルト51の周部において吸着力が弱められる領域Zにおいて曲率分離され、そして搬送ガイド部材47における先端エッジ47Sを除いてこの先端47Sに連続する面によって強制的に搬送ベルト51の周部に押し付けられる。
【0065】
以上のような実施例においては、板状弾性体からなる搬送ガイド部材の先端エッジを除いてこの先端に連続する面と搬送ベルトの周部との位置関係および当接関係を設定するだけの簡単な構成により、用紙の剥離および搬送ベルトへの吸着態位設定が可能となる。この結果、既存構成をそのまま用いるだけで記録動作モードに応じた用紙の分離および再給紙が可能となる。
しかも、搬送ベルトに対しては、搬送ガイド部材が面接触しているので、先端エッジを当接させた場合と違って、摺擦抵抗を小さくして搬送ベルト表面への傷付けなどを防止することができる。
【0066】
なお、本実施例は、インクジェット記録装置を対象としたが、画像形成装置であれば、例えば、電子写真方式を利用した画像形成装置を対象とすることも可能である。
また、本実施例は、搬送ベルトを対象としたが、ローラを対象とすることも可能である。さらに、搬送手段の一方側に第1搬送路と第2搬送路とを合流させるものを対象としたが、搬送手段の上流側と下流側に第1搬送路と第2搬送路とをそれぞれ別々に配置させるものでも可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 インクジェット記録装置の装置本体
42 用紙
47 搬送ガイド部材
51 搬送ベルト
52 搬送ローラ
A1 第1の搬送路
R1 第2の搬送路
Z 曲率分離により吸着力が弱くなる領域
L1,L2 接線
【先行技術文献】
【特許文献】
【0068】
【特許文献1】特開2005−148356号公報
【特許文献2】特許第4157684号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙を吸着可能であって、吸着した用紙を搬送可能な搬送手段により構成される第1の搬送路と、
前記第1の搬送路の搬送方向下流側に設けられ、前記搬送手段から搬送された用紙を反転させる反転搬送路が構成される第2の搬送路とを備え、
前記搬送手段には用紙の曲率分離を行う周部が設けられ、該第1の搬送路を搬送される用紙が曲率分離されて第2の搬送路に導入可能であるとともに、第2の搬送路において反転された用紙が前記搬送手段の前記周部に向けて前記第1の搬送路から前記第2の搬送路への導入時とは異なる角度を有する方向から該周部に搬入されて搬送手段に吸着される用紙処理装置において、
基端が固定され、他端側が前記周部に当接する板状弾性体が設けられ、
前記板状弾性体は、前記周部において前記曲率分離により該周部への用紙の吸着力が弱まる領域に対して、先端エッジを除いてこの先端エッジに連続する面を位置決めすることを特徴とする用紙処理装置。
【請求項2】
前記周部への用紙の吸着力が弱まる領域として、前記搬送手段の周部において、前記第1の搬送路から第2の搬送路に向け導入される位置および反転された用紙が前記周部に向けて搬入される位置での接線の内側に位置する周部が相当していることを特徴とする請求項1記載の用紙処理装置。
【請求項3】
前記板状弾性体は、押圧されることにより、前記周部への吸着力が弱まる領域に前記先端エッジを除いてこの先端に連続する面が周部に接触すると共に、前記用紙の吸着力が弱まる領域に向けて反転された用紙が移動する際の用紙先端エッジの傾きが前記板状弾性体表面での接線を基準として鈍角に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の用紙処理装置。
【請求項4】
前記板状弾性体は、押圧されることにより、前記領域で周部に非当接状態で対面する先端エッジの位置が、前記周部における前記第1の搬送路を移動する用紙の接線に対して下方近傍に位置決めされることを特徴とする請求項1乃至3のうちの一つに記載の用紙処理装置。
【請求項5】
前記搬送手段はローラに捲装されて用紙の吸着が可能なベルトが用いられ、前記ローラの周部に対して前記板状弾性体における先端を除いてこの先端に連続する面が当接させてあることを特徴とする請求項1乃至4のうちの一つに記載の用紙処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちの一つに記載の用紙処理装置を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−10606(P2013−10606A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144309(P2011−144309)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】