画像処理装置及び画像処理方法
【課題】個人差の大きな乳房画像に対して、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮し安定した画像処理結果を得るとともに局所的な乳腺構造や病変の見易さを考慮した画像処理を行う。
【解決手段】乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する画像取得手段と、前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する乳腺領域抽出手段と、前記乳腺領域抽出手段で抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する局所領域設定手段と、前記局所領域設定手段により設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する局所コントラスト値算出手段と、前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す画像処理手段とを備えたことを特徴とする画像処理装置を提供する。
【解決手段】乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する画像取得手段と、前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する乳腺領域抽出手段と、前記乳腺領域抽出手段で抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する局所領域設定手段と、前記局所領域設定手段により設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する局所コントラスト値算出手段と、前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す画像処理手段とを備えたことを特徴とする画像処理装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置及び画像処理方法に係り、特に、乳房をX線で撮影した画像を用いて乳房診断を行うマンモグラフィにおいて個人差の大きな乳房画像に対して、安定した画像処理結果を得るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被写体を撮影して得た医用画像を用いて診断を行うものとして、例えばマンモグラフィ(乳房X線撮影)が知られている。乳房は大きさや乳腺量が人によって様々で、人体組織の中でも最も個人差の大きい臓器であると言われている。
【0003】
そのため、マンモグラフィで撮影された乳房画像の特徴も個人差が大きく、乳腺組織と脂肪組織の比率や、乳腺組織の分布状況などによって、画像の濃度/コントラストが大きく異なっている。例えば、若年者にみられる乳腺の量が多い乳房の画像は、乳腺の量が少ない乳房に比べてコントラストの低いボケた画像になり易い。
【0004】
乳房は乳腺組織と脂肪組織が混在しており、その割合や乳腺組織の分布状況によって、乳房画像を次の4つの乳腺タイプに分類することができる。すなわち、(1)乳房領域がほぼ完全に脂肪に置き換えられている脂肪性タイプ、(2)脂肪に置き換えられた乳房領域内に乳腺実質が散在している乳腺散在タイプ、(3)乳腺実質内に脂肪が混在し、不均一な濃度を呈する不均一高濃度タイプ、及び(4)乳腺実質内に脂肪の混在はほとんどない高濃度タイプの4つのタイプである。
【0005】
図8に、乳腺領域内の信号値分布の例を示す。図8(a)は、高濃度タイプの例であり、このような高濃度タイプの乳房の場合、乳腺組織の密度が高く同程度の画像信号値になり、充分なコントラストが得られないため、病変部の発見が困難である。これに対し、図8(b)は、乳腺散在タイプの例であり、このような乳腺散在タイプの乳房の場合、高濃度の脂肪領域が乳腺領域に混在し、乳腺組織の密度にバラツキが生じ、乳腺領域のコントラストがつきやすく病変部の発見は比較的容易である。
【0006】
また、図9に、上記図8(a)、(b)の各場合に対応する信号値のヒストグラム形状を示す。図9(a)に示すように、乳腺量が多い場合には信号値の分布が狭くなるのに対して、図9(b)の場合には、画像信号値にもバラツキが生じている。
【0007】
そこで従来より、このような乳腺領域内の信号値のバラツキを考慮した画像処理を行ない、乳房画像を詳細に解析することで各々の画像特徴に応じた好ましい画像処理を適用することが行われている。
【0008】
例えば、累積ヒストグラムの形状の違いに基づいて乳腺量を判断し、この乳腺量に応じて好ましい画像処理条件を設定する方法が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0009】
また、胸筋の濃度を基準として乳腺領域を抽出し、乳房内の乳腺量に応じて画像処理条件を変える方法が知られている(例えば、特許文献2等参照)。
【0010】
しかし、乳腺量や累積ヒストグラムの形状が類似していても、乳腺内のコントラストの違いなどにより、各々に適した画像処理条件が異なる場合がある。
【0011】
そこで、乳腺量だけでなく、乳腺内コントラストなどの信号値に関する情報も利用した画像処理方法として、具体的には、乳腺構造内の高濃度側10%の平均信号値と、乳腺構造内の低濃度側10%の平均信号値の差分をとることで乳腺内コントラストを算出し、乳腺内コントラストと乳腺量(乳腺領域の面積割合)に基づいて画像処理条件を決定するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献3等参照)。
【0012】
また、乳腺内コントラストとして乳腺領域内の画像信号値の分散を算出し、この画像信号値の分散及び乳房領域に対する乳腺領域の比率を縦軸横軸にとってプロットすることにより高濃度タイプとそれ以外とに分類するようにしたものが知られている(例えば、特許文献4等参照)。
【特許文献1】特開2002−8009号公報
【特許文献2】特開2002−125961号公報
【特許文献3】特開2006−122445号公報
【特許文献4】特開2006−263055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記従来技術の方法では、抽出した乳腺領域全体の信号値に基づいて大域的なコントラストを算出しており、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを充分に考慮できていないという問題がある。乳腺の太さや病変の大きさを考慮すると、乳腺の重なりか病変かを見分けるためには、数mm単位の局所領域でのコントラストが重要である。
【0014】
また、前記従来技術の方法では、乳腺領域の抽出結果がそのまま信号値のヒストグラム形状に影響を与えてしまい、算出するコントラストも変化してしまうため、正確な乳腺領域の抽出が要求される。しかし、実際には乳腺と他の組織領域との境が明確でない場合もあり、正確な乳腺領域の抽出は非常に難しいという問題がある。
【0015】
さらに、前記従来技術の方法では、乳腺領域内のみの信号値に基づいてコントラストを算出しているため、周囲領域(脂肪領域)とのコントラストは充分に考慮できていない。そのため、見た目の印象と異なるコントラスト値が算出されることも度々起こり得る。
【0016】
例えば、図10(a)、(b)に2種類の乳房画像の元画像を示し、図11(a)、(b)にそれぞれに対して領域分割を行った結果を示す。また、さらに図12(a)、(b)にそれぞれの乳腺領域内のヒストグラムを示す。
【0017】
図10(a)に示す画像は、図10(b)の画像に比べて乳腺構造のコントラストは非常に高く見えるが、図12(a)に示すヒストグラムを見ると、図12(b)のヒストグラムと比べて乳腺領域内の信号値の広がりはあまり大きくないため、コントラストが低いと判断されてしまう。
【0018】
このように、従来は乳腺領域内のみの信号値に基づいてコントラストを算出していたので、元画像を見るとコントラストが高い画像でも誤ってコントラストが低いと判断されてしまう虞れがあるという問題があった。
【0019】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、個人差の大きな乳房画像に対して、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮し安定した画像処理結果を得るとともに局所的な乳腺構造や病変の見易さを考慮した画像処理を行うことのできる画像処理装置及び画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する画像取得手段と、前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する乳腺領域抽出手段と、前記乳腺領域抽出手段で抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する局所領域設定手段と、前記局所領域設定手段により設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する局所コントラスト値算出手段と、前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す画像処理手段と、を備えたことを特徴とする画像処理装置を提供する。
【0021】
これにより、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮できるとともに、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮した画像処理を行うことが可能となる。
【0022】
また、請求項2に示すように、前記局所コントラスト値算出手段は、前記局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出することを特徴とする。
【0023】
これにより、複数の領域の分散値を統合することにより、乳腺領域抽出の失敗やバラツキ、乳腺領域内の乳腺の偏りの影響を受けることなく安定的に乳腺内コントラスト値を算出することができる。
【0024】
また、請求項3に示すように、前記画像処理手段が行う画像処理は、階調変換処理あるいは周波数強調処理のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0025】
これにより、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮した画像処理を行うことが可能となる。
【0026】
また、請求項4に示すように、前記画像処理手段は、前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して階調変換処理を行い、前記局所コントラスト値が低い場合には、基準の階調変換曲線に対して傾きを大きくしてコントラストを大きくするとともに、高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるようにすることを特徴とする。
【0027】
これにより、コントラストを大きくするとともに、黒つぶれを防止した画像処理を行うことが可能となる。
【0028】
また、請求項5に示すように、前記画像処理手段は、前記乳腺領域の濃度が画像処理後の前記乳房画像の出力媒体に応じた所定の濃度範囲となるように階調シフト量を調整することを特徴とする。
【0029】
これにより、各領域の濃度値が適切になるように画像処理を行うことが可能となる。
【0030】
また、請求項6に示すように、前記所定の濃度範囲は、前記出力媒体がフィルムの場合、1.2〜1.59の範囲であることを特徴とする。
【0031】
これにより、適切な濃度で画像をフィルムに出力することができる。
【0032】
また同様に前記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する工程と、前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する工程と、前記抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する工程と、前記設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する工程と、前記算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す工程と、を備えたことを特徴とする画像処理方法を提供する。
【0033】
これにより、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮できるとともに、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮した画像処理を行うことが可能となる。
【0034】
また、請求項8に示すように、前記局所コントラスト値を算出する工程は、前記局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出する工程を含むことを特徴とする。
【0035】
これにより、複数の領域の分散値を統合することにより、乳腺領域抽出の失敗やバラツキ、乳腺領域内の乳腺の偏りの影響を受けることなく安定的に乳腺内コントラスト値を算出することができる。
【0036】
また、請求項9に示すように、前記画像処理を施す工程は、前記算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して階調変換処理を行い、前記局所コントラスト値が低い場合には、基準の階調変換曲線に対して傾きを大きくしてコントラストを大きくするとともに、高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるようにする工程を含むことを特徴とする。
【0037】
これにより、コントラストを大きくするとともに、黒つぶれを防止した画像処理を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮できるとともに、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮した画像処理を行うことが可能となる。また、局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出するようにした場合には、複数の領域の分散値を統合することにより、乳腺領域抽出の失敗やバラツキ、乳腺領域内の乳腺の偏りの影響を受けることなく安定的に乳腺内コントラスト値を算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る画像処理装置及び画像処理方法について詳細に説明する。
【0040】
図1は、本発明の画像処理装置が適用される画像診断システムの全体構成図である。
【0041】
図1に示すように、画像診断システム1は、被写体の乳房の画像を撮影するマンモグラフィ装置10と、マンモグラフィ装置10によって撮影された乳房画像(画像データ)に対して画像処理を行う画像処理装置20と、診断を行うため画像処理装置20によって画像処理された画像を表示する画像診断装置30と、マンモグラフィ装置10によって撮影された乳房画像あるいは画像処理装置20で画像処理された画像をフィルム等に出力するプリンタ(画像出力装置)40と、診断結果を含む画像データを蓄積するサーバである画像メモリ50とを備え、これらがネットワーク60によって相互に接続されている。
【0042】
マンモグラフィ装置10は、詳しい構成についての説明は省略するが、簡単な乳房画像撮影の様子を図2に示す。
【0043】
図2に示すように、マンモグラフィ装置10は、X線源12、圧迫板14及びX線検出器16を有しており、圧迫板14とX線検出器16との間に乳房Bを挟み、X線源12からX線を照射し、乳房Bを透過したX線をX線検出器16で検出するようになっている。
【0044】
X線検出器16は、特に限定されるものではなく、例えば、蓄積性蛍光体を有してなるイメージングプレート(蓄積性蛍光体シート)IPでもよいし、半導体等を利用した極めて多数個のX線検出素子をX線検出面に2次元的に配列したフラットパネル型X線検出器(フラットパネルディテクタ)FPDであってもよい。
【0045】
マンモ(乳房B)の撮影方法としては、上部からX線を照射して撮影を行う頭尾方向(CC)撮影、側面からX線を照射して撮影を行う側面方向(ML)撮影、斜め方向からX線を照射して撮影を行う内外側斜位(MLO)撮影がある。
【0046】
図3に、画像処理装置20の概略構成を示す。
【0047】
図3に示すように、本実施形態の画像処理装置20は、画像取得手段21、乳腺領域抽出手段22、局所領域設定手段23、局所コントラスト値算出手段24及び画像処理手段25を備えている。
【0048】
画像取得手段21は、マンモグラフィ装置10が撮影した乳房画像をネットワーク60を介して取得するものである。
【0049】
乳腺領域抽出手段22は、画像取得手段21が取得した乳房画像を複数の組織領域に分割して乳腺領域を抽出するものである。
【0050】
局所領域設定手段23は、乳腺領域抽出手段22が抽出した乳腺領域に属する画素を中心とした局所領域を複数設定するものである。詳しくは後述するが、例えば、乳腺領域内の画素を500点程選び、それを中心とする5×5mmの正方形領域を各局所領域として設定する。しかし、局所領域の形状や大きさはこれに限定されるものではない。
【0051】
局所コントラスト値算出手段24は、局所領域内の乳腺構造のコントラストを算出するものである。本実施形態では、各局所領域において信号値の分散を算出し、複数の分散置の中央値を乳腺内コントラスト値として算出するようにしているが、局所領域内のコントラスト値の算出方法はこれに限定されるものではない。
【0052】
画像処理手段25は、算出された乳腺内コントラスト値に基づいて階調変換処理、周波数強調処理等の画像処理を行い、局所的な乳腺構造や病変の見やすい画像を得るものである。
【0053】
処理後の画像データは、ネットワーク60を介して画像メモリ50に蓄積されるとともに、画像診断装置30に送られ医師による画像診断に供せられ、また必要に応じてプリンタ40からフィルム等に出力される。
【0054】
以下、本実施形態の作用として、画像処理装置20で行われる画像処理方法について説明する。
【0055】
図4に、本実施形態の画像処理方法の処理の流れをフローチャートで示す。
【0056】
本発明は、読影時の見た目の印象と良く一致した乳腺コントラストの安定的な算出方法と、その結果を利用した適応的な画像処理方法を提供するものである。入力された乳房画像を解析して乳腺領域を抽出し、乳腺領域内の画素を中心とする局所領域のコントラストを複数画素に対して算出し、複数の局所コントラスト値の統計量(中央値、最頻値、平均値など)に基づいて画像処理を行うものである。以下、図4のフローチャートに沿って説明する。
【0057】
まず図4のステップS100において、画像取得手段21は、ネットワーク60を介してマンモグラフィ装置10が撮影した乳房画像を受け取る。
【0058】
次に、ステップS110において、乳腺領域抽出手段22は、画像取得手段21が取得した乳房画像を複数の組織領域に分割して乳腺領域を抽出する。乳腺領域の抽出に当たり、まず、乳房を構成する複数の組織領域に画像を分割する。ここで、「組織領域」とは、画像上の各組織が撮影されている領域を言う。各組織は、画像上にそれぞれ特有の濃度値、形状、位置を持って現れるので、濃度値、形状、位置などの情報に応じて各組織領域に分けられるが、他の組織との境が明確でない場合には、領域内に現れた組織の量に応じて各組織領域に分けても良い。
【0059】
ここでは、乳腺領域、脂肪領域、皮膚近傍の脂肪領域、大胸筋領域及び素抜け領域の5つの領域に分割する。すなわち、図5(a)に示すような乳房画像に対して、図5(b)に示すように、乳腺領域70、脂肪領域72、皮膚近傍の脂肪領域74、大胸筋領域76及び素抜け領域78の5つの領域に画像分割する。
【0060】
なお、図2に示すように、乳房Bは、一般的に圧迫して撮影されるため、厚みは一様になるが、図2に符号Cで示すように、乳房の端で厚みが薄くなる部分が生じる。画像上では、この領域は、一様な厚みの領域よりも黒く表現されるため、図5(b)に示すように、同じ脂肪組織の領域でも、皮膚近傍の脂肪領域74とそれ以外の脂肪領域72に分割することとする。
【0061】
以下、画像分割の方法について説明する。
【0062】
画像分割は、まず画像を被写体領域と、X線が直接照射されている被写体外領域である素抜け領域78とに分割する。素抜け領域78は、画像上で特に高濃度を呈しているため、画像全体の濃度ヒストグラムで高濃度側に現れるピークが素抜け領域78に相当する。そのピーク値から一定値を引いた値を閾値として2値化処理を行うことで、被写体領域と素抜け領域78に分割される。
【0063】
次に被写体領域をさらに2分割する。すなわち、被写体領域の濃度ヒストグラムから判別分析法によって閾値を決定し、その閾値により2値化処理を行うことで、皮膚近傍の脂肪領域74とそれ以外の領域に分割する。
【0064】
そして次に大胸筋領域76を抽出する。大胸筋領域76と、脂肪領域72及び皮膚近傍の脂肪領域74との境界は比較的エッジがはっきりしているため、微分オペレータによる走査を行い、大きな微分値を持つ点を大胸筋領域76の境界点として抽出する。抽出された境界点を結ぶ曲線を算出し、この曲線に関し素抜け領域78とは反対側(体側部)の画像の領域(図の右端側)を大胸筋領域76として抽出する。
【0065】
最後に、大胸筋領域76及びその近傍の脂肪領域72の濃度値から乳腺領域70を抽出するための閾値を算出し、乳腺領域70と脂肪領域72に分割する。
【0066】
この閾値の算出方法は特に限定されるものではないが、例えば、本出願人による出願に係る特開2005−65855号公報に記載されたように、乳房の側面画像中の略胸筋と脂肪とからなる領域をサンプリング領域として設定し、設定されたサンプリング領域における濃度の分布に基づいて、サンプリング領域中の胸筋部分と脂肪部分との境界に相当する濃度p1と、この胸筋部分の平均濃度p2とを求め、求められたp1およびp2を用いた所定の計算式に従って、側面画像中の乳腺領域と脂肪領域とを分離する濃度の閾値を算出する方法が好適に例示される。
【0067】
また、画像分割の後処理として、抽出した乳腺領域の微小な孤立領域を除去したり、領域の収縮・拡張を行うようにしても良い。
【0068】
次に、ステップS120において、局所領域設定手段23は、抽出した乳腺領域70に属する画素を中心とした局所領域を設定する。例えば、図6に示すように、局所領域80は、乳腺領域70に属する画素を中心とした微小な正方形の領域として設定される。そして、図6に矢印で示すように、乳腺領域70の全体に対して走査される。乳腺の太さは数mmであるため、局所領域80の大きさは乳腺構造と背景が両方含まれるような大きさに設定される。経験的には、5×5mm程度の大きさにするのが好ましい。
【0069】
また、各局所領域80を設定する際、必ずしも図6に示したように乳腺領域70内を順番に走査しなくても良い。乳腺領域70内にランダムに画素をとるようにしてもよいし、また各局所領域80同士が互いにきちんと隣接していなくとも、各局所領域80同士が離れていても、またあるいは各局所領域80同士の一部が重なっていて良い。
【0070】
局所領域80が設定されると、次にステップS130において、局所コントラスト値算出手段24により、局所領域80内の乳腺構造のコントラスト値を算出するため、各局所領域80において信号値の分散が算出される。
【0071】
なお、乳腺領域70の全画素に対して分散値を算出する必要はなく、経験的には500点程度あれば十分である。
【0072】
また、局所領域80内に素抜け領域78や皮膚近傍の脂肪領域74や大胸筋領域76が含まれていると、分散値が極端に大きくなることがあるため、分散値の計算は乳腺領域70及び皮膚近傍以外の脂肪領域72の信号値のみを利用し、その他の領域の信号値は除くこととする。
【0073】
上記のように局所領域80で分散値を算出することで、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮することが可能となる。また、乳腺領域70内のみの信号値だけでなく、皮膚近傍以外の脂肪領域72の信号値も含めて計算することで、乳腺と周囲領域(脂肪領域72)とのコントラストも考慮することが可能となる。
【0074】
なお、局所領域内のコントラスト値を算出するために局所領域内の信号値の分散を算出することとしたが、分散を用いる方法に限定されることはなく、最大値と最小値との差分や、判別分析法で2クラスに分割したときの各クラスの平均信号値の差分などを求めるようにしても良い。
【0075】
そして、乳腺内コントラスト値を算出する。各局所領域80において、分散値が算出されると、それらを統合することでその画像の乳腺内コントラスト値が算出される。ここでは、複数の分散値の中央値を算出して、それを乳腺内コントラスト値とする。
【0076】
このように、複数の局所領域80の分散値を統合するようにしたことで、乳腺領域抽出の多少の失敗や、乳腺領域内の乳腺の偏り等の影響をあまり受けることなく、安定的に乳腺内コントラスト値を算出することが可能となる。
【0077】
なお、複数の分散値の中央値を算出することとしたが、最頻値や上下の値をカットした平均である調整平均値を求めるようにしても良い。
【0078】
次に、ステップS150において、画像処理手段25により、算出した乳腺内コントラスト値に基づいた画像処理が行われる。
【0079】
すなわち、算出した乳腺内コントラスト値に基づいて階調変換処理が行われる。階調変換曲線は図7(a)、(b)に示すように、階調タイプGT、回転量GA、回転中心GC、階調シフト量GSの4つのパラメータで決定される。乳腺内コントラスト値が低い場合は、図7(a)に符号Dの破線で示すように、基準の階調変換曲線に対して傾きGAを大きくすることでコントラストを大きくする。
【0080】
また、階調の傾きを大きくする程高濃度領域が黒つぶれしやすくなるため、同時に高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるように調整したり、高濃度領域での周波数強調処理を強めるように調整することで黒つぶれを防ぐようにする。
【0081】
また、コントラストだけでなく、乳腺領域70の濃度も被写体によって大きく変化するため、乳腺領域70の平均濃度値や脂肪領域72の平均濃度値等を算出することで、各領域の濃度値が適切になるように階調変換処理やダイナミックレンジ圧縮処理を行うようにする。
【0082】
例えば、乳房画像をフィルム出力する場合、乳腺領域70の濃度は、1.2〜1.59の範囲内であることが望ましいため、図7(b)に示すように、範囲内に収まるように階調シフト量GSを調整する。また、脂肪領域72の濃度値がある目標値になるように、ダイナミックレンジ圧縮処理の強調度を調整する。
【0083】
なお、低濃度領域(乳腺領域70)のコントラストは階調変換処理で調整し、高濃度領域(脂肪領域)のコントラストは周波数強調処理で調整する。これは乳房画像の病変は高周波数成分(石灰化)〜低周波成分(淡い腫瘤)まで幅広い周波数特性を持っているため、病変が存在する確率の高い低濃度領域では、特定の周波数成分を強調すると、特定の病変が見やすくなる代わりに、他の病変が見づらくなる可能性があるためである。
【0084】
なお、上記のように画像毎に階調変換曲線等を変化させると、処理構成が複雑になってしまうため、予め複数のパターンの画像処理条件を設定しておき、画像の解析結果(乳腺内コントラスト値や乳腺濃度、脂肪濃度等)に応じて、適切な画像処理条件を選択する構成にする方が望ましい。
【0085】
また、算出される乳腺内コントラスト値と乳腺領域の面積割合(乳腺割合とも言う)により、乳房の構成を精度良く分類できることが分かった。乳房の構成とは、乳房の乳腺実質の量と分布に関する評価で、病変が正常乳腺に隠されてしまう危険性の程度を表すものである。
【0086】
前にも述べたが、乳房画像は次のような(1)〜(4)の4つのタイプに分類される。
【0087】
(1)脂肪性タイプ:乳房は略完全に脂肪に置き換えられているタイプであり、この場合、病変が撮影範囲に入っていれば、検出は容易である。
【0088】
(2)乳腺散在タイプ:脂肪に置き換えられた乳房内に乳腺実質が散在しているタイプである。このタイプの場合、病変の検出は比較的容易である。
【0089】
(3)不均一高濃度タイプ:乳腺実質内に脂肪が混在し、不均一な濃度を呈するタイプである。このタイプでは、病変が正常乳腺に隠されている危険性がある。
【0090】
(4)高濃度タイプ:乳腺実質に脂肪の混在はほとんどないタイプであり、この場合、病変検出率は低い。
【0091】
ここで、複数の症例の画像に対して、乳腺内コントラスト値と乳腺割合を算出して調べた結果、乳腺割合と乳腺内コントラスト値には相関があるものの、一方の値のみで分類するよりも、2つの値を利用した方が精度良く分類できることが分かった。乳腺割合と乳腺内コントラスト値を特徴量とした線形判別分析により、乳房の構成が4つのタイプに分類される。
【0092】
そして、4つの乳房の構成毎にユーザが暫定画像処理条件を設定するようにしておき、乳腺内コントラスト値や乳腺濃度、脂肪濃度等に応じて、暫定画像処理条件を自動調整するようにする。このようにすると、複数パターンの画像処理条件をユーザが全て設定するのは非常に面倒であるが、4つの乳房の構成は技師や医師になじみの深いものであるため、比較的画像処理条件の検討を行いやすい。
【0093】
このようにすることで、暫定画像処理条件によりユーザの好みを反映させつつ、解析結果に応じた自動調整により適切な画像処理結果を得ることができる。
【0094】
画像処理が終了すると画像処理手段25から処理後の画像データが出力される。処理後の画像データは、ネットワーク60を介して画像診断装置30に送られ、医師による診断に供せられるとともに、画像メモリ50に送られ蓄積される。
【0095】
また、乳房画像の撮影では、一般的に左右乳房を2方向(MLO、CC)から撮影することが多い。そのため、画像処理装置には複数枚の組画像として入力されることが多い。読影時にはそれらの画像を並べて比較しながら読影するため、組画像に対しては同一の画像処理条件を適用することが望ましい。入力された画像を各々解析して乳腺内コントラスト値等を算出し、複数枚の平均値を用いて画像処理条件を決定する。
【0096】
ただし、処理時間短縮のため、より情報量の多いMLO画像の解析結果のみを利用して画像処理条件を決定するようにしても良い。また、左右乳房の解析結果を比較して、ある閾値以上の差がある場合は、解析結果を信用できないものとして、所定の画像処理条件を適用するようにしても良い。
【0097】
また、組画像に対して同一の画像処理条件を適用するか、個別に画像処理条件を決定するか、ユーザが選択できるようにしても良い。
【0098】
また、過去画像との比較においても、過去画像と同一の画像処理条件を適用することが望ましいが、個別に画像処理条件を決定するか、ユーザが選択できるようにしても良い。
【0099】
以上説明したように、従来乳腺領域全体の信号値に基づいて乳腺内コントラストを算出していたところ、本実施形態においては、乳腺の局所領域の信号値に基づいて乳腺内コントラストを算出するようにしたため、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮することができるようになった。
【0100】
また、従来乳腺領域内の信号値のみに基づいて乳腺内コントラストを算出していたところ、本実施形態においては、局所領域に脂肪領域を含んでいてもよいようにしたため、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮できるようになった。
【0101】
さらに、従来一つの領域(乳腺領域)の信号値に基づいて乳腺内コントラストを算出していたところ、本実施形態においては、複数の局所領域における分散値を統合するようにしたため、乳腺領域抽出の失敗やバラツキ、乳腺領域内の乳腺の偏りの影響を受けにくくなった。
【0102】
以上、本発明の画像処理装置及び画像処理方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の画像診断装置が適用される画像診断システムの全体構成図である。
【図2】マンモグラフィ装置による乳房画像撮影の様子を示す説明図である。
【図3】画像処理装置の概略構成図である。
【図4】本実施形態の画像処理方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】(a)は乳房画像の例であり、(b)は画像分割の例を示す説明図である。
【図6】乳腺領域に対して局所領域を設定する様子を示す説明図である。
【図7】(a)、(b)は階調変換曲線の例を示す線図である。
【図8】乳房画像の例を示す説明図であり、(a)は高濃度タイプ、(b)は乳腺散在タイプを表すものである。
【図9】(a)は図8(a)に対するヒストグラム、(b)は図8(b)に対するヒストグラムである。
【図10】乳房画像の例を示す説明図であり、(a)は高コントラストの例、(b)は低コントラストの例を示すものである。
【図11】(a)は図10(a)に対する画像分割の例、(b)は図10(b)に対する画像分割の例を示す説明図である。
【図12】(a)は図10(a)に対するヒストグラム、(b)は図10(b)に対するヒストグラムである。
【符号の説明】
【0104】
1…画像診断システム、10…マンモグラフィ装置、12…X線源、14…圧迫板、16…X線検出器、20…画像処理装置、21…画像取得手段、22…乳腺領域抽出手段、23…局所領域設定手段、24…局所コントラスト値算出手段、25…画像処理手段、30…画像診断装置、40…プリンタ、50…画像メモリ、60…ネットワーク、70…乳腺領域、72…脂肪領域、74…皮膚近傍の脂肪領域、76…大胸筋領域、78…素抜け領域、80…局所領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置及び画像処理方法に係り、特に、乳房をX線で撮影した画像を用いて乳房診断を行うマンモグラフィにおいて個人差の大きな乳房画像に対して、安定した画像処理結果を得るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被写体を撮影して得た医用画像を用いて診断を行うものとして、例えばマンモグラフィ(乳房X線撮影)が知られている。乳房は大きさや乳腺量が人によって様々で、人体組織の中でも最も個人差の大きい臓器であると言われている。
【0003】
そのため、マンモグラフィで撮影された乳房画像の特徴も個人差が大きく、乳腺組織と脂肪組織の比率や、乳腺組織の分布状況などによって、画像の濃度/コントラストが大きく異なっている。例えば、若年者にみられる乳腺の量が多い乳房の画像は、乳腺の量が少ない乳房に比べてコントラストの低いボケた画像になり易い。
【0004】
乳房は乳腺組織と脂肪組織が混在しており、その割合や乳腺組織の分布状況によって、乳房画像を次の4つの乳腺タイプに分類することができる。すなわち、(1)乳房領域がほぼ完全に脂肪に置き換えられている脂肪性タイプ、(2)脂肪に置き換えられた乳房領域内に乳腺実質が散在している乳腺散在タイプ、(3)乳腺実質内に脂肪が混在し、不均一な濃度を呈する不均一高濃度タイプ、及び(4)乳腺実質内に脂肪の混在はほとんどない高濃度タイプの4つのタイプである。
【0005】
図8に、乳腺領域内の信号値分布の例を示す。図8(a)は、高濃度タイプの例であり、このような高濃度タイプの乳房の場合、乳腺組織の密度が高く同程度の画像信号値になり、充分なコントラストが得られないため、病変部の発見が困難である。これに対し、図8(b)は、乳腺散在タイプの例であり、このような乳腺散在タイプの乳房の場合、高濃度の脂肪領域が乳腺領域に混在し、乳腺組織の密度にバラツキが生じ、乳腺領域のコントラストがつきやすく病変部の発見は比較的容易である。
【0006】
また、図9に、上記図8(a)、(b)の各場合に対応する信号値のヒストグラム形状を示す。図9(a)に示すように、乳腺量が多い場合には信号値の分布が狭くなるのに対して、図9(b)の場合には、画像信号値にもバラツキが生じている。
【0007】
そこで従来より、このような乳腺領域内の信号値のバラツキを考慮した画像処理を行ない、乳房画像を詳細に解析することで各々の画像特徴に応じた好ましい画像処理を適用することが行われている。
【0008】
例えば、累積ヒストグラムの形状の違いに基づいて乳腺量を判断し、この乳腺量に応じて好ましい画像処理条件を設定する方法が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0009】
また、胸筋の濃度を基準として乳腺領域を抽出し、乳房内の乳腺量に応じて画像処理条件を変える方法が知られている(例えば、特許文献2等参照)。
【0010】
しかし、乳腺量や累積ヒストグラムの形状が類似していても、乳腺内のコントラストの違いなどにより、各々に適した画像処理条件が異なる場合がある。
【0011】
そこで、乳腺量だけでなく、乳腺内コントラストなどの信号値に関する情報も利用した画像処理方法として、具体的には、乳腺構造内の高濃度側10%の平均信号値と、乳腺構造内の低濃度側10%の平均信号値の差分をとることで乳腺内コントラストを算出し、乳腺内コントラストと乳腺量(乳腺領域の面積割合)に基づいて画像処理条件を決定するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献3等参照)。
【0012】
また、乳腺内コントラストとして乳腺領域内の画像信号値の分散を算出し、この画像信号値の分散及び乳房領域に対する乳腺領域の比率を縦軸横軸にとってプロットすることにより高濃度タイプとそれ以外とに分類するようにしたものが知られている(例えば、特許文献4等参照)。
【特許文献1】特開2002−8009号公報
【特許文献2】特開2002−125961号公報
【特許文献3】特開2006−122445号公報
【特許文献4】特開2006−263055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記従来技術の方法では、抽出した乳腺領域全体の信号値に基づいて大域的なコントラストを算出しており、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを充分に考慮できていないという問題がある。乳腺の太さや病変の大きさを考慮すると、乳腺の重なりか病変かを見分けるためには、数mm単位の局所領域でのコントラストが重要である。
【0014】
また、前記従来技術の方法では、乳腺領域の抽出結果がそのまま信号値のヒストグラム形状に影響を与えてしまい、算出するコントラストも変化してしまうため、正確な乳腺領域の抽出が要求される。しかし、実際には乳腺と他の組織領域との境が明確でない場合もあり、正確な乳腺領域の抽出は非常に難しいという問題がある。
【0015】
さらに、前記従来技術の方法では、乳腺領域内のみの信号値に基づいてコントラストを算出しているため、周囲領域(脂肪領域)とのコントラストは充分に考慮できていない。そのため、見た目の印象と異なるコントラスト値が算出されることも度々起こり得る。
【0016】
例えば、図10(a)、(b)に2種類の乳房画像の元画像を示し、図11(a)、(b)にそれぞれに対して領域分割を行った結果を示す。また、さらに図12(a)、(b)にそれぞれの乳腺領域内のヒストグラムを示す。
【0017】
図10(a)に示す画像は、図10(b)の画像に比べて乳腺構造のコントラストは非常に高く見えるが、図12(a)に示すヒストグラムを見ると、図12(b)のヒストグラムと比べて乳腺領域内の信号値の広がりはあまり大きくないため、コントラストが低いと判断されてしまう。
【0018】
このように、従来は乳腺領域内のみの信号値に基づいてコントラストを算出していたので、元画像を見るとコントラストが高い画像でも誤ってコントラストが低いと判断されてしまう虞れがあるという問題があった。
【0019】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、個人差の大きな乳房画像に対して、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮し安定した画像処理結果を得るとともに局所的な乳腺構造や病変の見易さを考慮した画像処理を行うことのできる画像処理装置及び画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する画像取得手段と、前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する乳腺領域抽出手段と、前記乳腺領域抽出手段で抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する局所領域設定手段と、前記局所領域設定手段により設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する局所コントラスト値算出手段と、前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す画像処理手段と、を備えたことを特徴とする画像処理装置を提供する。
【0021】
これにより、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮できるとともに、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮した画像処理を行うことが可能となる。
【0022】
また、請求項2に示すように、前記局所コントラスト値算出手段は、前記局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出することを特徴とする。
【0023】
これにより、複数の領域の分散値を統合することにより、乳腺領域抽出の失敗やバラツキ、乳腺領域内の乳腺の偏りの影響を受けることなく安定的に乳腺内コントラスト値を算出することができる。
【0024】
また、請求項3に示すように、前記画像処理手段が行う画像処理は、階調変換処理あるいは周波数強調処理のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0025】
これにより、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮した画像処理を行うことが可能となる。
【0026】
また、請求項4に示すように、前記画像処理手段は、前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して階調変換処理を行い、前記局所コントラスト値が低い場合には、基準の階調変換曲線に対して傾きを大きくしてコントラストを大きくするとともに、高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるようにすることを特徴とする。
【0027】
これにより、コントラストを大きくするとともに、黒つぶれを防止した画像処理を行うことが可能となる。
【0028】
また、請求項5に示すように、前記画像処理手段は、前記乳腺領域の濃度が画像処理後の前記乳房画像の出力媒体に応じた所定の濃度範囲となるように階調シフト量を調整することを特徴とする。
【0029】
これにより、各領域の濃度値が適切になるように画像処理を行うことが可能となる。
【0030】
また、請求項6に示すように、前記所定の濃度範囲は、前記出力媒体がフィルムの場合、1.2〜1.59の範囲であることを特徴とする。
【0031】
これにより、適切な濃度で画像をフィルムに出力することができる。
【0032】
また同様に前記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する工程と、前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する工程と、前記抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する工程と、前記設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する工程と、前記算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す工程と、を備えたことを特徴とする画像処理方法を提供する。
【0033】
これにより、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮できるとともに、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮した画像処理を行うことが可能となる。
【0034】
また、請求項8に示すように、前記局所コントラスト値を算出する工程は、前記局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出する工程を含むことを特徴とする。
【0035】
これにより、複数の領域の分散値を統合することにより、乳腺領域抽出の失敗やバラツキ、乳腺領域内の乳腺の偏りの影響を受けることなく安定的に乳腺内コントラスト値を算出することができる。
【0036】
また、請求項9に示すように、前記画像処理を施す工程は、前記算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して階調変換処理を行い、前記局所コントラスト値が低い場合には、基準の階調変換曲線に対して傾きを大きくしてコントラストを大きくするとともに、高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるようにする工程を含むことを特徴とする。
【0037】
これにより、コントラストを大きくするとともに、黒つぶれを防止した画像処理を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮できるとともに、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮した画像処理を行うことが可能となる。また、局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出するようにした場合には、複数の領域の分散値を統合することにより、乳腺領域抽出の失敗やバラツキ、乳腺領域内の乳腺の偏りの影響を受けることなく安定的に乳腺内コントラスト値を算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る画像処理装置及び画像処理方法について詳細に説明する。
【0040】
図1は、本発明の画像処理装置が適用される画像診断システムの全体構成図である。
【0041】
図1に示すように、画像診断システム1は、被写体の乳房の画像を撮影するマンモグラフィ装置10と、マンモグラフィ装置10によって撮影された乳房画像(画像データ)に対して画像処理を行う画像処理装置20と、診断を行うため画像処理装置20によって画像処理された画像を表示する画像診断装置30と、マンモグラフィ装置10によって撮影された乳房画像あるいは画像処理装置20で画像処理された画像をフィルム等に出力するプリンタ(画像出力装置)40と、診断結果を含む画像データを蓄積するサーバである画像メモリ50とを備え、これらがネットワーク60によって相互に接続されている。
【0042】
マンモグラフィ装置10は、詳しい構成についての説明は省略するが、簡単な乳房画像撮影の様子を図2に示す。
【0043】
図2に示すように、マンモグラフィ装置10は、X線源12、圧迫板14及びX線検出器16を有しており、圧迫板14とX線検出器16との間に乳房Bを挟み、X線源12からX線を照射し、乳房Bを透過したX線をX線検出器16で検出するようになっている。
【0044】
X線検出器16は、特に限定されるものではなく、例えば、蓄積性蛍光体を有してなるイメージングプレート(蓄積性蛍光体シート)IPでもよいし、半導体等を利用した極めて多数個のX線検出素子をX線検出面に2次元的に配列したフラットパネル型X線検出器(フラットパネルディテクタ)FPDであってもよい。
【0045】
マンモ(乳房B)の撮影方法としては、上部からX線を照射して撮影を行う頭尾方向(CC)撮影、側面からX線を照射して撮影を行う側面方向(ML)撮影、斜め方向からX線を照射して撮影を行う内外側斜位(MLO)撮影がある。
【0046】
図3に、画像処理装置20の概略構成を示す。
【0047】
図3に示すように、本実施形態の画像処理装置20は、画像取得手段21、乳腺領域抽出手段22、局所領域設定手段23、局所コントラスト値算出手段24及び画像処理手段25を備えている。
【0048】
画像取得手段21は、マンモグラフィ装置10が撮影した乳房画像をネットワーク60を介して取得するものである。
【0049】
乳腺領域抽出手段22は、画像取得手段21が取得した乳房画像を複数の組織領域に分割して乳腺領域を抽出するものである。
【0050】
局所領域設定手段23は、乳腺領域抽出手段22が抽出した乳腺領域に属する画素を中心とした局所領域を複数設定するものである。詳しくは後述するが、例えば、乳腺領域内の画素を500点程選び、それを中心とする5×5mmの正方形領域を各局所領域として設定する。しかし、局所領域の形状や大きさはこれに限定されるものではない。
【0051】
局所コントラスト値算出手段24は、局所領域内の乳腺構造のコントラストを算出するものである。本実施形態では、各局所領域において信号値の分散を算出し、複数の分散置の中央値を乳腺内コントラスト値として算出するようにしているが、局所領域内のコントラスト値の算出方法はこれに限定されるものではない。
【0052】
画像処理手段25は、算出された乳腺内コントラスト値に基づいて階調変換処理、周波数強調処理等の画像処理を行い、局所的な乳腺構造や病変の見やすい画像を得るものである。
【0053】
処理後の画像データは、ネットワーク60を介して画像メモリ50に蓄積されるとともに、画像診断装置30に送られ医師による画像診断に供せられ、また必要に応じてプリンタ40からフィルム等に出力される。
【0054】
以下、本実施形態の作用として、画像処理装置20で行われる画像処理方法について説明する。
【0055】
図4に、本実施形態の画像処理方法の処理の流れをフローチャートで示す。
【0056】
本発明は、読影時の見た目の印象と良く一致した乳腺コントラストの安定的な算出方法と、その結果を利用した適応的な画像処理方法を提供するものである。入力された乳房画像を解析して乳腺領域を抽出し、乳腺領域内の画素を中心とする局所領域のコントラストを複数画素に対して算出し、複数の局所コントラスト値の統計量(中央値、最頻値、平均値など)に基づいて画像処理を行うものである。以下、図4のフローチャートに沿って説明する。
【0057】
まず図4のステップS100において、画像取得手段21は、ネットワーク60を介してマンモグラフィ装置10が撮影した乳房画像を受け取る。
【0058】
次に、ステップS110において、乳腺領域抽出手段22は、画像取得手段21が取得した乳房画像を複数の組織領域に分割して乳腺領域を抽出する。乳腺領域の抽出に当たり、まず、乳房を構成する複数の組織領域に画像を分割する。ここで、「組織領域」とは、画像上の各組織が撮影されている領域を言う。各組織は、画像上にそれぞれ特有の濃度値、形状、位置を持って現れるので、濃度値、形状、位置などの情報に応じて各組織領域に分けられるが、他の組織との境が明確でない場合には、領域内に現れた組織の量に応じて各組織領域に分けても良い。
【0059】
ここでは、乳腺領域、脂肪領域、皮膚近傍の脂肪領域、大胸筋領域及び素抜け領域の5つの領域に分割する。すなわち、図5(a)に示すような乳房画像に対して、図5(b)に示すように、乳腺領域70、脂肪領域72、皮膚近傍の脂肪領域74、大胸筋領域76及び素抜け領域78の5つの領域に画像分割する。
【0060】
なお、図2に示すように、乳房Bは、一般的に圧迫して撮影されるため、厚みは一様になるが、図2に符号Cで示すように、乳房の端で厚みが薄くなる部分が生じる。画像上では、この領域は、一様な厚みの領域よりも黒く表現されるため、図5(b)に示すように、同じ脂肪組織の領域でも、皮膚近傍の脂肪領域74とそれ以外の脂肪領域72に分割することとする。
【0061】
以下、画像分割の方法について説明する。
【0062】
画像分割は、まず画像を被写体領域と、X線が直接照射されている被写体外領域である素抜け領域78とに分割する。素抜け領域78は、画像上で特に高濃度を呈しているため、画像全体の濃度ヒストグラムで高濃度側に現れるピークが素抜け領域78に相当する。そのピーク値から一定値を引いた値を閾値として2値化処理を行うことで、被写体領域と素抜け領域78に分割される。
【0063】
次に被写体領域をさらに2分割する。すなわち、被写体領域の濃度ヒストグラムから判別分析法によって閾値を決定し、その閾値により2値化処理を行うことで、皮膚近傍の脂肪領域74とそれ以外の領域に分割する。
【0064】
そして次に大胸筋領域76を抽出する。大胸筋領域76と、脂肪領域72及び皮膚近傍の脂肪領域74との境界は比較的エッジがはっきりしているため、微分オペレータによる走査を行い、大きな微分値を持つ点を大胸筋領域76の境界点として抽出する。抽出された境界点を結ぶ曲線を算出し、この曲線に関し素抜け領域78とは反対側(体側部)の画像の領域(図の右端側)を大胸筋領域76として抽出する。
【0065】
最後に、大胸筋領域76及びその近傍の脂肪領域72の濃度値から乳腺領域70を抽出するための閾値を算出し、乳腺領域70と脂肪領域72に分割する。
【0066】
この閾値の算出方法は特に限定されるものではないが、例えば、本出願人による出願に係る特開2005−65855号公報に記載されたように、乳房の側面画像中の略胸筋と脂肪とからなる領域をサンプリング領域として設定し、設定されたサンプリング領域における濃度の分布に基づいて、サンプリング領域中の胸筋部分と脂肪部分との境界に相当する濃度p1と、この胸筋部分の平均濃度p2とを求め、求められたp1およびp2を用いた所定の計算式に従って、側面画像中の乳腺領域と脂肪領域とを分離する濃度の閾値を算出する方法が好適に例示される。
【0067】
また、画像分割の後処理として、抽出した乳腺領域の微小な孤立領域を除去したり、領域の収縮・拡張を行うようにしても良い。
【0068】
次に、ステップS120において、局所領域設定手段23は、抽出した乳腺領域70に属する画素を中心とした局所領域を設定する。例えば、図6に示すように、局所領域80は、乳腺領域70に属する画素を中心とした微小な正方形の領域として設定される。そして、図6に矢印で示すように、乳腺領域70の全体に対して走査される。乳腺の太さは数mmであるため、局所領域80の大きさは乳腺構造と背景が両方含まれるような大きさに設定される。経験的には、5×5mm程度の大きさにするのが好ましい。
【0069】
また、各局所領域80を設定する際、必ずしも図6に示したように乳腺領域70内を順番に走査しなくても良い。乳腺領域70内にランダムに画素をとるようにしてもよいし、また各局所領域80同士が互いにきちんと隣接していなくとも、各局所領域80同士が離れていても、またあるいは各局所領域80同士の一部が重なっていて良い。
【0070】
局所領域80が設定されると、次にステップS130において、局所コントラスト値算出手段24により、局所領域80内の乳腺構造のコントラスト値を算出するため、各局所領域80において信号値の分散が算出される。
【0071】
なお、乳腺領域70の全画素に対して分散値を算出する必要はなく、経験的には500点程度あれば十分である。
【0072】
また、局所領域80内に素抜け領域78や皮膚近傍の脂肪領域74や大胸筋領域76が含まれていると、分散値が極端に大きくなることがあるため、分散値の計算は乳腺領域70及び皮膚近傍以外の脂肪領域72の信号値のみを利用し、その他の領域の信号値は除くこととする。
【0073】
上記のように局所領域80で分散値を算出することで、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮することが可能となる。また、乳腺領域70内のみの信号値だけでなく、皮膚近傍以外の脂肪領域72の信号値も含めて計算することで、乳腺と周囲領域(脂肪領域72)とのコントラストも考慮することが可能となる。
【0074】
なお、局所領域内のコントラスト値を算出するために局所領域内の信号値の分散を算出することとしたが、分散を用いる方法に限定されることはなく、最大値と最小値との差分や、判別分析法で2クラスに分割したときの各クラスの平均信号値の差分などを求めるようにしても良い。
【0075】
そして、乳腺内コントラスト値を算出する。各局所領域80において、分散値が算出されると、それらを統合することでその画像の乳腺内コントラスト値が算出される。ここでは、複数の分散値の中央値を算出して、それを乳腺内コントラスト値とする。
【0076】
このように、複数の局所領域80の分散値を統合するようにしたことで、乳腺領域抽出の多少の失敗や、乳腺領域内の乳腺の偏り等の影響をあまり受けることなく、安定的に乳腺内コントラスト値を算出することが可能となる。
【0077】
なお、複数の分散値の中央値を算出することとしたが、最頻値や上下の値をカットした平均である調整平均値を求めるようにしても良い。
【0078】
次に、ステップS150において、画像処理手段25により、算出した乳腺内コントラスト値に基づいた画像処理が行われる。
【0079】
すなわち、算出した乳腺内コントラスト値に基づいて階調変換処理が行われる。階調変換曲線は図7(a)、(b)に示すように、階調タイプGT、回転量GA、回転中心GC、階調シフト量GSの4つのパラメータで決定される。乳腺内コントラスト値が低い場合は、図7(a)に符号Dの破線で示すように、基準の階調変換曲線に対して傾きGAを大きくすることでコントラストを大きくする。
【0080】
また、階調の傾きを大きくする程高濃度領域が黒つぶれしやすくなるため、同時に高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるように調整したり、高濃度領域での周波数強調処理を強めるように調整することで黒つぶれを防ぐようにする。
【0081】
また、コントラストだけでなく、乳腺領域70の濃度も被写体によって大きく変化するため、乳腺領域70の平均濃度値や脂肪領域72の平均濃度値等を算出することで、各領域の濃度値が適切になるように階調変換処理やダイナミックレンジ圧縮処理を行うようにする。
【0082】
例えば、乳房画像をフィルム出力する場合、乳腺領域70の濃度は、1.2〜1.59の範囲内であることが望ましいため、図7(b)に示すように、範囲内に収まるように階調シフト量GSを調整する。また、脂肪領域72の濃度値がある目標値になるように、ダイナミックレンジ圧縮処理の強調度を調整する。
【0083】
なお、低濃度領域(乳腺領域70)のコントラストは階調変換処理で調整し、高濃度領域(脂肪領域)のコントラストは周波数強調処理で調整する。これは乳房画像の病変は高周波数成分(石灰化)〜低周波成分(淡い腫瘤)まで幅広い周波数特性を持っているため、病変が存在する確率の高い低濃度領域では、特定の周波数成分を強調すると、特定の病変が見やすくなる代わりに、他の病変が見づらくなる可能性があるためである。
【0084】
なお、上記のように画像毎に階調変換曲線等を変化させると、処理構成が複雑になってしまうため、予め複数のパターンの画像処理条件を設定しておき、画像の解析結果(乳腺内コントラスト値や乳腺濃度、脂肪濃度等)に応じて、適切な画像処理条件を選択する構成にする方が望ましい。
【0085】
また、算出される乳腺内コントラスト値と乳腺領域の面積割合(乳腺割合とも言う)により、乳房の構成を精度良く分類できることが分かった。乳房の構成とは、乳房の乳腺実質の量と分布に関する評価で、病変が正常乳腺に隠されてしまう危険性の程度を表すものである。
【0086】
前にも述べたが、乳房画像は次のような(1)〜(4)の4つのタイプに分類される。
【0087】
(1)脂肪性タイプ:乳房は略完全に脂肪に置き換えられているタイプであり、この場合、病変が撮影範囲に入っていれば、検出は容易である。
【0088】
(2)乳腺散在タイプ:脂肪に置き換えられた乳房内に乳腺実質が散在しているタイプである。このタイプの場合、病変の検出は比較的容易である。
【0089】
(3)不均一高濃度タイプ:乳腺実質内に脂肪が混在し、不均一な濃度を呈するタイプである。このタイプでは、病変が正常乳腺に隠されている危険性がある。
【0090】
(4)高濃度タイプ:乳腺実質に脂肪の混在はほとんどないタイプであり、この場合、病変検出率は低い。
【0091】
ここで、複数の症例の画像に対して、乳腺内コントラスト値と乳腺割合を算出して調べた結果、乳腺割合と乳腺内コントラスト値には相関があるものの、一方の値のみで分類するよりも、2つの値を利用した方が精度良く分類できることが分かった。乳腺割合と乳腺内コントラスト値を特徴量とした線形判別分析により、乳房の構成が4つのタイプに分類される。
【0092】
そして、4つの乳房の構成毎にユーザが暫定画像処理条件を設定するようにしておき、乳腺内コントラスト値や乳腺濃度、脂肪濃度等に応じて、暫定画像処理条件を自動調整するようにする。このようにすると、複数パターンの画像処理条件をユーザが全て設定するのは非常に面倒であるが、4つの乳房の構成は技師や医師になじみの深いものであるため、比較的画像処理条件の検討を行いやすい。
【0093】
このようにすることで、暫定画像処理条件によりユーザの好みを反映させつつ、解析結果に応じた自動調整により適切な画像処理結果を得ることができる。
【0094】
画像処理が終了すると画像処理手段25から処理後の画像データが出力される。処理後の画像データは、ネットワーク60を介して画像診断装置30に送られ、医師による診断に供せられるとともに、画像メモリ50に送られ蓄積される。
【0095】
また、乳房画像の撮影では、一般的に左右乳房を2方向(MLO、CC)から撮影することが多い。そのため、画像処理装置には複数枚の組画像として入力されることが多い。読影時にはそれらの画像を並べて比較しながら読影するため、組画像に対しては同一の画像処理条件を適用することが望ましい。入力された画像を各々解析して乳腺内コントラスト値等を算出し、複数枚の平均値を用いて画像処理条件を決定する。
【0096】
ただし、処理時間短縮のため、より情報量の多いMLO画像の解析結果のみを利用して画像処理条件を決定するようにしても良い。また、左右乳房の解析結果を比較して、ある閾値以上の差がある場合は、解析結果を信用できないものとして、所定の画像処理条件を適用するようにしても良い。
【0097】
また、組画像に対して同一の画像処理条件を適用するか、個別に画像処理条件を決定するか、ユーザが選択できるようにしても良い。
【0098】
また、過去画像との比較においても、過去画像と同一の画像処理条件を適用することが望ましいが、個別に画像処理条件を決定するか、ユーザが選択できるようにしても良い。
【0099】
以上説明したように、従来乳腺領域全体の信号値に基づいて乳腺内コントラストを算出していたところ、本実施形態においては、乳腺の局所領域の信号値に基づいて乳腺内コントラストを算出するようにしたため、局所的な乳腺構造や病変の見やすさを考慮することができるようになった。
【0100】
また、従来乳腺領域内の信号値のみに基づいて乳腺内コントラストを算出していたところ、本実施形態においては、局所領域に脂肪領域を含んでいてもよいようにしたため、乳腺と脂肪領域とのコントラストを考慮できるようになった。
【0101】
さらに、従来一つの領域(乳腺領域)の信号値に基づいて乳腺内コントラストを算出していたところ、本実施形態においては、複数の局所領域における分散値を統合するようにしたため、乳腺領域抽出の失敗やバラツキ、乳腺領域内の乳腺の偏りの影響を受けにくくなった。
【0102】
以上、本発明の画像処理装置及び画像処理方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の画像診断装置が適用される画像診断システムの全体構成図である。
【図2】マンモグラフィ装置による乳房画像撮影の様子を示す説明図である。
【図3】画像処理装置の概略構成図である。
【図4】本実施形態の画像処理方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】(a)は乳房画像の例であり、(b)は画像分割の例を示す説明図である。
【図6】乳腺領域に対して局所領域を設定する様子を示す説明図である。
【図7】(a)、(b)は階調変換曲線の例を示す線図である。
【図8】乳房画像の例を示す説明図であり、(a)は高濃度タイプ、(b)は乳腺散在タイプを表すものである。
【図9】(a)は図8(a)に対するヒストグラム、(b)は図8(b)に対するヒストグラムである。
【図10】乳房画像の例を示す説明図であり、(a)は高コントラストの例、(b)は低コントラストの例を示すものである。
【図11】(a)は図10(a)に対する画像分割の例、(b)は図10(b)に対する画像分割の例を示す説明図である。
【図12】(a)は図10(a)に対するヒストグラム、(b)は図10(b)に対するヒストグラムである。
【符号の説明】
【0104】
1…画像診断システム、10…マンモグラフィ装置、12…X線源、14…圧迫板、16…X線検出器、20…画像処理装置、21…画像取得手段、22…乳腺領域抽出手段、23…局所領域設定手段、24…局所コントラスト値算出手段、25…画像処理手段、30…画像診断装置、40…プリンタ、50…画像メモリ、60…ネットワーク、70…乳腺領域、72…脂肪領域、74…皮膚近傍の脂肪領域、76…大胸筋領域、78…素抜け領域、80…局所領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する画像取得手段と、
前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する乳腺領域抽出手段と、
前記乳腺領域抽出手段で抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する局所領域設定手段と、
前記局所領域設定手段により設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する局所コントラスト値算出手段と、
前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す画像処理手段と、
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記局所コントラスト値算出手段は、前記局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記画像処理手段が行う画像処理は、階調変換処理あるいは周波数強調処理のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記画像処理手段は、前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して階調変換処理を行い、前記局所コントラスト値が低い場合には、基準の階調変換曲線に対して傾きを大きくしてコントラストを大きくするとともに、高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるようにすることを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画像処理手段は、前記乳腺領域の濃度が画像処理後の前記乳房画像の出力媒体に応じた所定の濃度範囲となるように階調シフト量を調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記所定の濃度範囲は、前記出力媒体がフィルムの場合、1.2〜1.59の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する工程と、
前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する工程と、
前記抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する工程と、
前記設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する工程と、
前記算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す工程と、
を備えたことを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
前記局所コントラスト値を算出する工程は、前記局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出する工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の画像処理方法。
【請求項9】
前記画像処理を施す工程は、前記算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して階調変換処理を行い、前記局所コントラスト値が低い場合には、基準の階調変換曲線に対して傾きを大きくしてコントラストを大きくするとともに、高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるようにする工程を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の画像処理方法。
【請求項1】
乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する画像取得手段と、
前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する乳腺領域抽出手段と、
前記乳腺領域抽出手段で抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する局所領域設定手段と、
前記局所領域設定手段により設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する局所コントラスト値算出手段と、
前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す画像処理手段と、
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記局所コントラスト値算出手段は、前記局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記画像処理手段が行う画像処理は、階調変換処理あるいは周波数強調処理のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記画像処理手段は、前記局所コントラスト値算出手段で算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して階調変換処理を行い、前記局所コントラスト値が低い場合には、基準の階調変換曲線に対して傾きを大きくしてコントラストを大きくするとともに、高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるようにすることを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画像処理手段は、前記乳腺領域の濃度が画像処理後の前記乳房画像の出力媒体に応じた所定の濃度範囲となるように階調シフト量を調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記所定の濃度範囲は、前記出力媒体がフィルムの場合、1.2〜1.59の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
乳房を放射線撮影して得られる乳房画像を取得する工程と、
前記乳房画像から、乳腺領域を抽出する工程と、
前記抽出された乳腺領域に属する画素を中心とする局所領域を複数設定する工程と、
前記設定された前記複数の局所領域毎に、局所領域内のコントラスト値を算出する工程と、
前記算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して画像処理を施す工程と、
を備えたことを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
前記局所コントラスト値を算出する工程は、前記局所領域内のコントラスト値を算出するために、前記局所領域内の信号値の分散を算出する工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の画像処理方法。
【請求項9】
前記画像処理を施す工程は、前記算出された複数の局所コントラスト値に基づいて前記乳房画像に対して階調変換処理を行い、前記局所コントラスト値が低い場合には、基準の階調変換曲線に対して傾きを大きくしてコントラストを大きくするとともに、高濃度側のダイナミックレンジ圧縮処理を強めるようにする工程を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の画像処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−247521(P2009−247521A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97888(P2008−97888)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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