画像加熱装置
【課題】耐久を通じ固定加圧部材において低い摩擦係数と高い離型性を維持することができ、通紙に伴う搬送性の劣化を抑制できる画像加熱装置を提供することにある。
【解決手段】定着パッドとして、凹凸付与加工により表面に凹凸構造が付与された基材と、前記基材の前記凹凸構造の少なくとも凹部に充填される離型層と、を有する。
【解決手段】定着パッドとして、凹凸付与加工により表面に凹凸構造が付与された基材と、前記基材の前記凹凸構造の少なくとも凹部に充填される離型層と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やLBP等、電子写真方式・静電記録方式等の作像プロセスを採用した画像形成装置に使用される画像加熱装置に関する。
【0002】
画像加熱装置としては、記録材上に形成した未定着トナー画像を固着画像として加熱定着する定着装置や、記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢度を増大させる光沢度増大装置等を挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
電子写真方式の複写機やプリンタに搭載する定着装置として、定着ローラと、定着ローラをその外部から加熱する加熱手段と、定着ローラと接してニップ部を形成する加圧ローラと、を有するものがある。この画像加熱装置は、ニップ部で記録材を挟持搬送しつつ記録材上の未定着トナー像を定着ローラの熱によって記録材上に加熱定着する。加熱手段としてセラミックヒータを用いて定着ローラの外周面(表面)を加熱するタイプの定着装置、加熱手段としてハロゲンヒータを内蔵した小径の加熱ローラを用いて定着ローラの外周面(表面)を加熱するタイプの定着装置が、それぞれ提案されている。
【0004】
これらの定着装置は、セラミックヒータや、ハロゲンヒータを内蔵した小径の加熱ローラなどにより、外部から定着ローラ表面を加熱するため、定着ローラ表面を急激に昇温させることが可能となる。そのため、複写機やプリンタの立ち上げの際に、定着ローラを室温からトナーの定着温度(目標温度)まで温めるためのウォームアップ 時間を短くできるという利点がある。
【0005】
定着ローラ表面を定着ローラ外部から加熱する定着装置では、定着ローラの回転中心軸の周囲に、熱伝導率の低いシリコーンゴムや発泡シリコーンゴムを用いて断熱弾性層を形成する。そして、熱伝導率の高いシリコーンゴムや金属を用いた熱伝導層、更にフッ素樹脂からなる離型層を順に形成している。
【0006】
上記定着装置においては、定着ローラが弾性を有するため、記録材上で加熱され軟らかくなったトナーを定着ローラにより包み込むことができ、定着ムラのない高画質な画像を形成することができる。また、定着ローラ表面を加熱する方式のため、定着ローラ表面下に断熱弾性層を有していても、定着ローラ表面を急激に昇温させることが可能となる。
【0007】
これらの定着装置に対し、特許文献1では、回転可能な加圧ローラに替えて熱容量の小さい加圧部材を定位置に固定して用いることで、加圧部材から大気中への放熱等による熱損失を減少させた定着装置が提案されている。これにより、更なるウォームアップ時間の短縮と省エネルギー化を実現させることができる。
【0008】
この、定着装置は未定着トナー像を担持した記録材を定着ニップ部に通紙し、固定された加圧部材に対して加熱回転体である定着ローラを摺擦しながら回転させる。そして、記録材は加圧部材との摺擦に伴い搬送されることから、記録材を安定して搬送させるために、加圧部材の表面は定着ローラ表面及び記録材との摩擦抵抗を低くすることが望ましいことが判明している。また、加圧部材の表面は記録材や定着ローラに付着したトナーと接触するため、トナーに対する離型性を有することが望ましいことも判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−20789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
摩擦抵抗が低くトナー離型性も有するPEEKやPTFE、PFA等のフッ素樹脂を含む樹脂材料を加圧部材の表面に離型層として配置すると、記録材の搬送性が安定化し、加圧部材へのトナー付着等も抑制できる。しかし、記録材摺擦搬送の繰り返しにより、記録材に含まれる炭酸カルシウム等で加圧部材表面離型層の樹脂材料が磨耗し、離型層の磨耗剥奪により基材ないし接着層等の露出に伴う摩擦抵抗の増大により、記録材の搬送に支障をきたす問題があった。
【0011】
本発明は上記従来技術の更なる改善である。そして、その目的は通紙に伴う搬送性の劣化を抑制できる画像加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、この発明に係わる画像加熱装置の代表的な構成は、加熱回転体と、前記加熱回転体に対向配置される固定加圧部材と、を有し、前記加熱回転体と前記固定加圧部材とで形成されるニップ部に画像を担持した記録材を通紙させて前記記録材を加熱する画像加熱装置において、前記固定加圧部材は、凹凸付与加工により表面に凹凸構造が付与された基材と、前記基材の前記凹凸構造の少なくとも凹部に充填される離型層と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磨耗による離型層の削れ或いは剥落による搬送性劣化の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態である定着装置の搬送方向における断面概略図である。
【図2】第1の実施形態における加熱ニップ部及びその近傍と温度制御系を表す概要図である。
【図3】第1の実施形態である定着装置の長手方向の断面概略図である。
【図4】本実施形態の凹凸構造における作用メカニズムに関し、(a)は凹凸構造を備えない比較例としての従来例の図、(b)は凹凸構造を備える本実施形態の図である。
【図5】(a)は凹凸構造を備える本実施形態の図、(b)、(c)、(d)は凹凸構造を備えずに離型層の厚さを変えた比較例の図である。
【図6】本実施形態における磨耗量dに関する説明図である。
【図7】第2の実施形態における定着パッドに関し、(a)は定着パッドの基材の外観斜視図、(b)は長手方向における断面概略図である。
【図8】第3の実施形態における定着パッドの断面概略図である。
【図9】(a)は比較例に関し、離型層の厚さが大き過ぎる場合にニップ形状が実質変化することを示す図、(b)は第3の実施形態に関し、離型層の厚さがゼロでニップ形状が変化しないことを示す図である。
【図10】定着パッドにおける凹凸構造を2次元的に分散させた場合を示す図である。
【図11】画像加熱装置としての定着装置を搭載した画像形成装置の構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一又は対応する部分には同一の符号を付す。
【0016】
《第1の実施形態》
(画像形成装置)
図11は、本発明に係る画像加熱装置の実施形態である画像加熱定着装置(定着器)を搭載する画像形成装置の一例の全体構成図である。この画像形成装置は電子写真方式を用いたレーザービームプリンタである。
【0017】
本実施形態に示すプリンタ1は、プリンタの筐体を構成するプリンタ本体(画像形成装置本体)1aの外部に設けられたホストコンピュータ等の画像情報提供装置(図示せず)から画像情報を入力する。そしてプリンタ1は、入力した画像情報に応じた画像をシート状の記録材(記録媒体)Pに形成して記録するという一連の画像形成プロセスを公知の電子写真方式に則り行う。
【0018】
プリンタ1は、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体2と、一次帯電機構8と、現像装置3と、を保持するプロセスカートリッジ4を備えている。また、画像情報提供装置から入力した画像情報に応じた露光処理工程により感光体2の外周面に画像情報に応じた静電潜像を形成するレーザスキャナユニット5を備えている。また、記録材Pに画像を転写する処理を施す転写体6と、画像転写処理済みの記録材Pに加熱及び加圧により定着処理を施す画像加熱装置としての定着装置7を備えている。
【0019】
カートリッジ4はプリンタ本体1aに取り外し可能に装着されている。感光体2の修理及び現像装置3への現像剤補給等のメンテナンスが必要であるときには、プリンタ本体1aに開閉自在に支持されているカバー9を開いた後、カートリッジ4ごと交換することによりメンテナンスの迅速化及び簡易化等が図られている。
【0020】
一次帯電機構8は、スキャナユニット5による露光処理工程前において商用電源等から規定のバイアスを印加されることにより、回転している感光体2の外周面(表面)を規定電位分布に帯電せしめるようになっている。
【0021】
スキャナユニット5は、画像情報提供装置からの画像情報の時系列的電気デジタル画素信号に応じて変調されたレーザLaを出力する。そしてそのレーザLaにより、カートリッジ4のカートリッジフレーム(図示せず)に設けられた窓4aを通して、感光体2表面の帯電処理済みの部位が走査及び露光される。これにより画像情報に応じた静電潜像が感光体2表面に形成される。
【0022】
次に、プリンタ1における一連の画像形成プロセスに関して説明する。プリンタ本体1aに設けられたスタートボタン等(図示せず)が押されるなどにより、感光体2の回転駆動が開始される。感光体2は矢印K1の時計方向に規定の周速度にて回転駆動される。これと共に、規定のバイアスが印加されている一次帯電機構8により感光体2表面が規定の電位分布に帯電せしめられる。
【0023】
次に、画像情報提供装置からの画像情報に応じて感光体2表面の帯電処理済みの部位がスキャナユニット5により走査及び露光される。これにより画像情報に応じた静電潜像が感光体2の前記部位に形成される。その静電潜像が現像装置3の現像剤により現像されて、トナー画像として可視像化される。
【0024】
一方、所定のタイミングにて駆動された給送ローラ12により給送カセット11から記録材Pが一枚分離給送される。給送カセット11には複数枚の記録材Pが積載収容されている。給送カセット11はプリンタ本体1aに取り外し可能に装着されている。給送カセット11から給送された記録材Pは、レジストローラ対13により所定の制御タイミングにて感光体2と転写体6との間に形成された転写ニップ部へと給送され、転写ニップ部を挟持搬送されていく。この挟持搬送過程において感光体2側のトナー画像が転写体6により記録材P側に順次に転写される。
【0025】
そして、転写処理済みの記録材Pは、定着装置7によりトナー画像の加熱定着処理が施されたのち、プリンタ本体1aにて回転自在に支持された定着排出部14を経由してプリンタ排出部15により機外へと排出される。排出された記録材Pは、プリンタ本体1aの上面に取り付けられたトレイ16上に積載される。以上により、一連の画像形成プロセスが終了することとなる。
(プロセスカートリッジ)
図11でカバー9の開閉により、プロセスカートリッジ4のプリンタ本体1aからの離脱、プリンタ本体1aへの挿入が行われる。
ここで、プロセスカートリッジとは、プロセス手段としての、帯電手段、現像手段、クリーニング手段の少なくとも一つと電子写真感光体ドラムとを一体的にカートリッジ化して、装置本体に取り外し可能に装着されるものである。
従って、プロセスカートリッジとは、プロセス手段としての現像手段と、前記電子写真感光体ドラムとを一体的にカートリッジ化して、電子写真画像形成装置の本体に取り外し可能に装着されるものも含まれる。
また、プロセスカートリッジとは、プロセス手段としての、帯電手段、現像手段またはクリーニング手段と、前記電子写真感光体ドラムとを一体的にカートリッジ化して、前記本体に取り外し可能に装着されるものも含まれる。
尚、電子写真感光体ドラムと現像手段とを一体的に有するプロセスカートリッジを所謂一体型と称する。また、電子写真感光体ドラムと現像手段以外のプロセス手段とを一体的に有するプロセスカートリッジを所謂分離型と称する。即ち、現像手段はプロセスカートリッジとは別の現像ユニットに設けて、この現像ユニットと対になって画像を形成するプロセスカートリッジを所謂分離型と称する。尚、前記プロセス手段は、前記電子写真感光体ドラムに作用するものである。
ここで前記プロセスカートリッジは、使用者自身によって本体に対する着脱を行うことができる。そのため、装置本体のメンテナンスを容易に行うことができる。
プロセスカートリッジ4を有する画像形成部と、以下に示すような下流側に設けられる画像加熱装置としての定着装置7との間には、必要に応じて断熱部材が設けられる。これは特に両者が接近する場合などに有効であるが、プロセスカートリッジ内に収納されている現像剤(トナー)に、定着装置における熱源から発生する熱が伝わらないようにすることができるからである。
【0026】
(画像加熱装置)
画像加熱装置としての本実施形態に係る定着装置7について、図1乃至図3を用いて説明する。30は加熱回転体としての定着ローラである。21は定着ローラ30をその外部から加熱する加熱手段(加熱源)としてのヒータである。23は保持部材としてのヒータホルダーである。24は、加熱回転体である定着ローラ30に対向配置される固定されたヒータ側加圧部材(バックアップ部材)である。定着ローラ30とヒータ側加圧部材24は加熱ニップNhを形成する。
【0027】
一方、定着ローラ30と固定加圧部材40は定着ニップNtを形成し、トナーTを用いた未定着トナー画像を担持した記録材Pを通紙させることで、固着画像を得る。
【0028】
なお、これらの部材は何れも長手方向(記録材搬送方向に直交する方向)に細長い部材である。
【0029】
本実施形態の定着装置7は、定着ローラ30内部に加熱源を有しておらず、金属製のローラの内部にハロゲンランプ等の加熱源を有する加熱ローラを定着ローラとして用いる熱ローラ方式の定着装置と異なる。そのため、定着ローラ30の外径を小さくして低熱容量化が可能である。
【0030】
また、加熱ニップNh部と定着ニップNt部は、定着ローラ30の表面において異なる位置に形成される。加熱ニップNh部と定着ニップNt部との間の距離は短い方が、空気中への放熱、定着ローラ30内部への熱の逃げが少なく、より効率的に熱を運搬することができる。このようなことを考慮して、定着ローラ30の外径を10〜20mmの範囲で設定している。また、加圧部材40の構成が簡単であることから、装置全体の構成を簡略化できて小型化、低熱容量化が可能である。
【0031】
以上のように、本実施形態の定着装置7は、ウォームアップ時間の短縮と省エネルギー化に適した構成としている。
【0032】
a)定着ローラ30
定着ローラ30は、芯金31の周囲に熱伝導率の低い断熱弾性層32を有し、その断熱弾性層32の周囲に少なくとも1層の熱伝導層33を有する。芯金31の材料としてはアルミ、鉄、SUS(ステンレス)、SUM(快削鋼)材等が用いられる。芯金31はその周囲に設けられた断熱弾性層32によって定着ローラ30表面から断熱される為、低熱伝導性、低熱容量であってもその効果は少ない。従って芯金31の形態は中実であっても中空の筒状であっても良い。
【0033】
断熱弾性層32は、例えばシリコーンゴムなどに、マイクロバルーンなどの中空フィラーなどを配合したバルーンゴム層、または、吸水性ポリマーが含有されたシリコーンゴム層、シリコーンゴムを水素発泡させたスポンジゴム層とする。熱伝導性が低ければソリッドゴム層でも良い。
【0034】
熱伝導層33は、例えばシリコーンゴムやフッ素ゴムに高熱伝導フィラーを配合した高熱伝導弾性層などが好適である。蓄熱作用により記録材Pへの安定した熱供給が目的である。表面離型層34は、例えばフッ素樹脂にフィラーを配合した層で、トナー等に対する離型性と記録材Pを搬送するのに必要な摩擦力を得ることを両立させていることが求められる。表面離型層34は高熱伝導弾性層33を兼ねる構成であっても良い。この定着ローラ30は芯金31の長手方向両端部が、定着装置7の装置フレーム(図示せず)に軸受を介して回転自在に保持されている。
【0035】
b)ヒータ21
ヒータ21は、図2に示すように長手方向に細長いヒータ基板21aを有する。基板21aとして、アルミナや窒化アルミ等の絶縁性のセラミックス基板や、ポリイミド、PPS、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂基板が用いられる。基板21aの一面には、長手方向に沿って、例えばAg/Pd(銀パラジウム)、RuO2、Ta2N等の通電発熱抵抗層21bがスクリーン印刷等により線状もしくは細帯状に塗工して形成されている。抵抗層21bの厚さは10μm程度、幅は1〜5mm程度である。また、抵抗層21bの保護、及び絶縁の確保を目的として、例えばガラス、ポリイミド樹脂などからなる絶縁保護層21cを、抵抗層21bを覆うように基板21aの一面に設ける。その保護層21cの厚さは10μmから100μm程度とする。
【0036】
更に、定着ローラ30の外周面(表面)との摺動性を高め、かつ記録材P上の未定着トナーなどの付着を防ぐことを目的として、保護層21cを基板21aの一面から覆うように設けても良い。例えばフッ素樹脂などの摺動性、離型性が良好な材料からなる摺動層(図示せず)を用いる。或いは、抵抗層21bの上に直接フッ素樹脂などからなる厚さ10μmから100μm程度の保護層21cを形成し、その保護層21cで上記摺動層の機能を兼ねる構成としても良い。
【0037】
ヒータ21は保護層21cを定着ローラ30表面と対向させるように基板21aがホルダー23に保持されている。ホルダー23は、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂により形成され、熱伝導率が低いほど定着ローラ30の加熱に際する熱効率が高くなる。よって樹脂層の中に中空のフィラー、例えばガラスバルーン、シリカバルーン等を内包してあっても良い。
【0038】
ホルダー23は長手方向両端部が装置フレームに保持された定着ステー24と係合する。そして、図3に示すように加圧手段としての加圧バネ25が定着ステー24の長手方向両端部を加圧することによって、ホルダー23は定着ローラ30側に加圧される。定着ステー24は長手方向両端に受けた加圧力をホルダー23の長手方向に対して均一に伝えなければならないため、鉄、ステンレス、SUM、ジンコート鋼板等の剛性のある材料を使用し、横断面形状をコの字型等にすることで形状的にも剛性を高めている。これにより、ホルダー23の撓みを抑えた状態で、ヒータ21の保護層21c表面は定着ローラ30表面に加圧され、その加圧力により定着ローラ30の弾性層が変形して定着ローラ30表面に所定幅の加熱ニップNh部が略均一に形成できる。
【0039】
ここで、ヒータ21は抵抗層21bを基板21aの定着ローラ30側の面に形成しているが、熱伝導性の良好な窒化アルミ等を基板21aの材料として使用する場合には、抵抗層21bを基板21aの定着ローラ30側と反対側の面に形成してもよい。その場合、保護層21cを基板21aの定着ローラ30側と反対側の面に設け、摺動層を基板21aの定着ローラ30側の面に配置する。
【0040】
また、ヒータ21の基板21aは、定着ローラ30表面に沿う曲面形状であっても良い。定着ローラ30表面に沿いやすくなり、より軽い加圧力で、ニップNh部の幅を広く形成することができる。
【0041】
c)固定加圧部材40
定着パッドである固定加圧部材40は、図5(a)に示すように固定された加圧部材であり、長手方向に細長い基材41(表面に凹凸構造43を付与)と、その基材41の表面に形成された離型層42とから形成される。この加圧部材40は、定着ローラ30の径方向においてヒータ21と対向するように配置される。そして基材41の長手方向両端部が装置フレームに保持されると共に加圧手段としての加圧バネ44によって定着ローラ30側に加圧される。その加圧バネ44(図3)の加圧力により、加圧部材40は定着ローラ30表面と接し定着ローラ30の弾性層が変形して、加圧部材40と定着ローラ30表面とで所定幅の定着ニップNt部が形成される。
【0042】
c−1)離型層42
離型層42は、図5(a)に示すように凹凸構造43を内包する厚さDで、前記基材41の上方に設けられる。離型層42の材料は、記録材Pの搬送を妨げない低摩擦性と、記録材Pから定着ローラ30表面へ転移したトナーT等が付着しない離型性、および表面に凹凸構造43を付与した基材に対する十分な接着性とを有していることが好ましい。そこで、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PTFE(4フッ化エチレン樹脂)、FEP、PFAやPAI(ポリアミドイミド)、PI(ポリイミド)樹脂等、およびそれらの混合物を使用している。本実施形態ではPEEKにPFAを添加した樹脂層を離型層として用いた。
【0043】
定着ニップNt部における離型層42の占める面積割合は、第2の実施形態で詳述するが、基材表面凹凸構造43の形成方法/形状によらず、40%以上であることが好ましい。
【0044】
c−2)基材41
基材41の材料は、記録材Pおよび定着ローラ30との摺擦に対する耐磨耗性に優れているものであり、鉄、ステンレス、SUM、ジンコート鋼板等の金属が好ましい。
【0045】
c−3)凹凸構造43
凹凸付与加工により基材41の表面には凹凸構造43が付与される。即ち基材41と離型層42の境界となる基材表面部に、凹凸構造43が人工的に設けられる。凹凸構造43はブラスト処理、化学処理、ベルダー加工、グラインダー加工等によって形成するが、凹凸構造付与手段に制限はない。また、凹凸構造43においては、対象とする記録材等の研磨性に応じて、浸炭処理、窒化処理、焼き入れ処理などの表面強化処理を施しても良い。本実施形態ではジンコート鋼材を用い、表面酸化膜を高温還元した後にブラスト処理による表面に対する凹凸構造付与を行った。
【0046】
d)加圧バネ25、44
前述したように、図3に示す加圧バネ25は定着ステー24の長手方向の両端部を加圧することによって、ホルダー23は定着ローラ30側に加圧される。
【0047】
また加圧バネ44は、加圧部材40の長手方向の両端付近と中央付近の計3箇所に配置され、加圧部材40の撓みを抑えた状態で定着ローラ30に加圧し、これにより定着ニップNt部は所定幅に略均一に形成させることができる。
【0048】
(定着装置の加熱定着動作)
図1で、定着ローラ30は、芯金31端部に設けられた駆動ギア35(図3)が回転駆動系(図示せず)により駆動されることにより矢印方向に回転される。その状態で図2に示す制御手段としての温度制御部100が、通電駆動手段としてのトライアック素子101をONとする。そして、AC電源102よりヒータ21の基板21a長手方向端部に設けられた電極部(図示せず)を通じて抵抗層21bへの通電を開始する。抵抗層21bは通電されることで発熱し、その抵抗層21bの発熱に応じてヒータ21が昇温する。ヒータ21は、ヒータ21自体が低熱容量である為、温度立ち上がりが速い。
【0049】
そのヒータ21の立ち上がり温度は基板21aの他方の面に設けられたサーミスタ等の温度検知手段22(図2)により検知され、その検知信号を温度制御部100が取り込む。温度制御部100は、その検知信号に基づきトライアック素子101をON/OFFして抵抗層21bへの通電を制御することにより、ヒータ21を所定の温度(目標温度)に維持する温度制御を行う。そのヒータ21の熱で回転中の定着ローラ30表面が加熱されることによって、定着ローラ30表面は記録材Pのトナーを溶融し記録材P上に定着させる定着可能温度に保たれる。
【0050】
ヒータ21の温度制御方式としては、検知信号に応じて、抵抗層21bに印加される電圧のデューティー比や波数等を適切に制御することで、ヒータ21を所定の温度に温度制御する。ヒータ21の温度制御を行う他の構成として、定着ローラ30表面の温度を温度検知手段(図示せず)で検知する。そしてその検知信号に基づき温度制御部100によりトライアック素子101をON/OFFして抵抗層21bへの通電を制御することよって、ヒータ21を所定の温度に維持するようにしてもよい。
【0051】
上記のように定着ローラ30表面を定着可能温度とするように、ヒータ21を温度制御することによって、記録材Pの定着性を一定に保つことができるとともに、記録材Pに対し熱を与えすぎることによって発生するホットオフセットなどの画像不良も防止できる。
【0052】
定着ローラ30表面を定着可能温度に保った状態で、未定着トナー像Tを担持した記録材Pが固定された加圧部材40の離型層42に接しながら定着ニップNt部に導入される。その記録材Pは定着ニップNt部において定着ローラ30表面と離型層42とにより挟持搬送される。そして、その搬送過程において記録材P上の未定着トナー像Tを定着ローラ30の熱で記録材P上に加熱定着して固着画像とする。ここで、加圧部材40は熱容量が小さいため、定着ローラ30の熱は記録材Pに迅速に伝わり、短い接触時間でも、記録材P上のトナー画像Tを加熱定着することが可能である。
【0053】
(本実施形態における加圧部材の機能とメカニズム)
画像加熱装置において、加圧部材40を固定摺動加圧方式とする場合、搬送性とトナー付着等による汚れ及び耐久性が問題となる。要求される機能としては、安定した搬送性の為に定着ニップ(Nt)部の上流部および下流部におけるトナー付着など汚れ発生を抑制する高い離型性の維持である。
【0054】
記録材Pの搬送性に関わるのは摩擦抵抗であり、PEEKや各種フッ素系樹脂およびそれらの混合物が表面エネルギーの観点から優れる。また、トナー付着等による汚れに対しても同様の理由によりPEEKや各種フッ素系樹脂およびそれらの混合物が優れる。しかしながら、記録材Pは炭酸カルシウムに代表される研磨作用のある物質を含んでおり、記録材Pを長期に渡り摺擦させることから、樹脂系の材料ではニップNt部において磨耗による削れが起こる。これにより耐久性が問題として残る。
【0055】
本実施形態による固定加圧部材は、金属物質などから成る硬質材料を基材41とし、基材表面に凹凸構造43を付与した後にPEEKや各種フッ素系樹脂から成る離型層を形成することを特徴としている。これにより、記録材が接する表面は摺動性と離型性に優れた表面状態となる。
【0056】
定着ニップ部は圧力が高く、磨耗に対する耐久性が問題となるわけであるが、基材表面に付与した凹凸構造43の凸部により、磨耗削れの侵食を抑制することが可能となる。定着ニップ部においては、基材凹部に残る離型層により摩擦抵抗や離型性を保つことで搬送性を維持し、基材凸部によって磨耗侵食を抑制することにより耐久性を確保する。
【0057】
即ち、単純に基材41上に離型層を設けた従来例では、定着ニップNt部は削れにより離型層が容易に消失し、搬送能力不足となる。本実施形態では基材41表面に凹凸構造43を付与した上に離型層を設けることにより、ニップNt部では基材41凸部が現れた状態で削れが抑制され、離型層と基材が混在した状態が保持される。これにより、搬送能力が維持される。
【0058】
図4(a)は基材上に離型層を単純に配備した比較例としての従来例であり、図4(b)は基材表面に凹凸構造43を付与した本実施形態の場合で、それぞれ通紙耐久後における状態である。トナー付着等に代表される各種汚れは、ニップの上下流位置、とりわけ定着ニップNtの下流部に発生する場合が多い。本実施形態ではニップ部において基材41と離型層42の混合状態であり、ニップ外部においては離型層42が初期状態のまま維持されることから、耐汚れ性に関しても製品寿命を通じて良好な状態を保つことが可能である。以上により、画像加熱装置として記録材の安定した搬送性・耐久性・耐汚れ性を実現する。
【0059】
(比較実験)
本実施形態の定着装置7を備えたプリンタ1を用いて記録材Pの通紙耐久評価を行い、記録材Pの搬送性、加圧部材40の磨耗による削れおよび汚れ付着の有無の確認を行った。実験に使用した画像形成装置のプロセススピードは116mm/secであり、1分間に19枚のプリントを実施するレーザービームプリンタを用いた。まず、実験に用いた本実施形態の定着装置7の基本構成を以下に説明する。
【0060】
ヒータ21は、厚さ1.0mmのセラミック基板21a上に、抵抗層21bとして銀とパラジウムの発熱体ペーストを、厚さ10μmで形成したセラミックヒータを使用した。セラミックヒータは、ホルダー23としての、中空樹脂を含有する断熱性の液晶ポリマー部材によって保持される。セラミックヒータ表面には、発熱体を保護する為に保護層21cとして厚さ30μmの絶縁ガラス層を形成している。セラミック基板の裏側には、温度検知手段22として、セラミックヒータの温度制御用のサーミスタが当接されており、210℃の温度で制御されている。
【0061】
定着ローラ30は、外径6mmのSUM芯金31上に、断熱弾性層32として、厚み3.0mmのシリコーンゴム層を形成している。さらにそのシリコーンゴム層の外側には、熱伝導層33として、厚み100μmのシリコーンソリッドゴム層を、その外側に離型層として厚み20μmのフィラーを混合したフッ素樹脂コート層34を形成している。つまり定着ローラ30は3層構成の定着ローラである。
【0062】
加圧部材40は、板厚0.8mmのジンコート鋼板を基材とし、加熱処理により表層メッキ部を除去した後にブラスト処理を行い基材表面に凹凸構造43を付与する。ブラスト処理後の表面粗さはRa2μm、Rz10μmであった。
【0063】
ここで、Raとは、いわゆる「中心線平均粗さ」であり、粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表わしたものである。また、Rzとは、十点平均粗さをいい、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定する。そして、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和を求め、この値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【0064】
本実験では、凹凸構造43を付与した基材上にPEEK/PFA/導電材からなる、凸部を基準に厚さD=20μmの離型層をコーティングにより形成し、焼成した。本実施形態ではショットブラストによって凹凸構造43を付与したが、凹凸付与加工の手段は特に制限するものではない。
【0065】
以上の構成で、ヒータ21と定着ローラ30の間に49N(5kgf)の加圧力を付加して加熱ニップNh部を幅3mmで形成している。また、加圧部材40と定着ローラ30の間にも49N(5kgf)の加圧力を付加して加熱ニップNt部を幅3mmで形成している。そして、ヒータ21と加圧部材40は、定着ローラ30を中心に定着ローラ30の径方向で対向して配置してある。
【0066】
図5は本実施形態における加圧部材40の断面構成概略図及び比較実験に用いた加圧部材の構成概略図である。図5(a)は本実施形態を表すものであり、基材表層凹凸構造43の凸部を基準に、離型層の厚みDは20μmである。図5(b)は比較例1であり厚み100μmのPTFE樹脂バルク材をジンコート鋼板から成る基材41上に接着したものである。図5(c)は比較例2であり厚み20μmのPFA/PTFE/接着剤から成るフッ素樹脂系コートをジンコート鋼板から成る基材41上に直接コーティングしたものである。図5(d)は比較例3でありジンコート鋼板から成る基材41上にDLCコーティングを施したものである。
【0067】
本実施形態の定着装置7と比較例1、比較例2及び比較例3の定着装置7を備えたプリンタ1を用いて記録材Pの通紙耐久を行い、本実施形態の機能評価を実験により行った。加圧部材以外の構成は共通である。坪量75gのLTRサイズ普通紙に横線パターンを印字し、通紙耐久(新品状態、1000枚時点、5000枚時点、10000枚時点、30000枚時点)での記録材P搬送可否および図6に示すように、加圧部材40における摺動層42の磨耗量dを測定した。同時に、トナー付着汚れによって引き起こされる記録材P裏面先端部への汚れ有無の確認を行った。
【0068】
記録材P搬送可否は連続印字通紙においてスリップ、搬送路逸脱によるジャム等を含め、搬送状況に問題が無い場合は○、搬送に失敗した場合は×と記載するものとした。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
表1に示す結果より、本実施形態による記録材P搬送性能に関する安定性と耐久性の有意性が示された。本実施形態では30000枚の通紙耐久において安定して記録材Pを搬送したのに対し、各比較例では早期に搬送不良が発生した。比較例1では5000枚を越えた時点で、記録材がカールし搬送路から反れることによるジャムが散見されるようになり、基材露出に伴いスリップが発生するようになった。比較例2では1500枚程度でニップにおける離型層の剥落および基材の露出に伴いスリップが起こるようになった。比較例3においても2000枚を越えたあたりから後述の汚れ付着に起因すると考えられる搬送不良が起こった。
【0070】
加圧部材40の離型層42の磨耗量dは図6に示すように、定着ローラ30と対向する離型層42の初期状態を基準とした凹み量を測定した値として定義した。評価の結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
表2に示す結果より、本実施形態による耐久性の有意性が示された。本実施形態では加圧部材40の表層離型層は通紙初期において磨耗するものの、凹凸構造43を付与した基材の凸部によって磨耗進行が抑制されているのが実験結果より分かる。
【0072】
比較例1はPTFEのバルク材であることから耐久に伴い磨耗が進んでいるのが分かる。前述の表1に示す結果とも併せて分かるように、離型層42の厚みを増しても削れ自体は進行し磨耗量dの増大に伴い凹量が大きくなることから基材41の露出前であってもニップNt部の形状変化が大きく、カールやジャムといった問題が発生した。比較例2は1500枚程度で表層の離型層であるコーティングが磨耗によりニップNt部で消失することによって記録材Pがスリップにより搬送不能になったため、評価を終了した。比較例3は、DLCが非常に硬質であることから初期的には何ら磨耗は起こらなかったが、前述の通り2000枚を越えたあたりから搬送性に支障が出た。
【0073】
DLCは、離型性や摩擦抵抗の低さなどの観点ではPEEKやフッ素系の樹脂に劣ることから、本実験における構成では耐久に伴う汚れの付着による摩擦抵抗の増大及び定着ローラ30の搬送能力低下等により、搬送性能に差が現れたものと言える。
【0074】
記録材Pの裏面先端部への汚れ付着は、目視により汚れを観察し、汚れが分からない場合は○、凝視すると汚れているのが分かるが意識しないと気づかないレベルの場合は△、汚れが分かる場合は×とした。評価の結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
表3に示す結果より、本実施形態による耐汚れ性に関する有意性が示された。本実施形態では30000枚通紙時点においても排出された記録材P裏面先端部に汚れは見られなく、ニップNt上流部およびニップNt下流部においても汚れの付着は見られなかった。比較例1及び比較例2においても前述のように記録材Pの搬送性能に関しては問題が出たものの、記録材P裏面先端部の汚れに関しての問題は見られなかった。比較例3に関しては1000枚通紙時点で軽微な汚れが確認された。ニップNtを確認したところ、ニップNt下流部においてトナーの付着が見られた。離型性が十分でないことが要因であるといえる。
【0076】
すなわち、これらの結果より、以下のことが確認できた。基材41に凹凸構造43を設けない場合には、離型層42は耐久と共に削れていき、最終的にはニップNt部に離型層が存在しなくなってしまう。基材41自体は摩擦抵抗が大きいため、その様な状態においては搬送不良が発生する。一方、本実施形態のように基材41に凹凸構造43を設けた場合には、離型層42の削れは基材41の凸部が表面に現れたところで急激に抑制される。この時のニップNt部は、基材41と離型層42が混在した状態であり、基材41により磨耗が抑制され、離型層42により低摩擦/高離型性が維持されている。また、削れが抑制されることでニップNt部の形状変化が抑えられ、安定した搬送性能が得られる。
【0077】
以上のように、本実施形態の定着装置7は、基材の表面に凹凸構造43を付与した上に離型層を形成することにより、耐久を通じて低い摩擦係数を維持することができる。そして、記録材Pを安定搬送させると共にトナー付着等に起因する汚れの発生を抑制することができるのである。
【0078】
(加熱手段の他の構成例)
本実施形態の定着装置7では、加熱手段として、ヒータ21を定着ローラ30表面と摺動させながら接触させる構成を例として説明を行ったが、加熱手段はこれに限定されるものではない。
【0079】
加熱手段としては、例えば、ヒータ21と定着ローラ30表面との間に可撓性の定着フィルムを回転可能に配置した所謂フィルム加熱方式を用いる。或いは、中空芯金の内側にハロゲンヒータ等の加熱手段を配置した所謂熱ローラ加熱方式等を用いて、定着ローラ30表面を加熱してもよい。その他、非接触のハロゲン輻射、IH方式による非接触加熱であっても良い。
【0080】
(定着手段の他の構成例)
本実施形態の定着装置7では、定着回転体として、外部加熱方式の定着ローラ30を例として説明を行ったが、定着回転体はこれに限定されるものではない。定着回転体が加圧部材40と定着ニップNt部を形成して記録材P上のトナー画像Tを加熱定着するものであればよい。定着回転体としては、中空芯金の内側にハロゲンヒータ等の加熱手段を配置した所謂熱ローラを使用してもよい。
【0081】
(基材表面凹凸構造43の粗さ度合いに関して)
加圧部材40の基層41表面における凹凸構造43付与においてRa2μm、Rz10μmの場合を例にあげたが、これに限るものではない。表面粗さの粗さ度合いが低い場合は基材と離型層の接着力が不足しニップNt部において基材のみ残存露出する場合があり、逆に粗さの度合いが高すぎる場合は局所的に基材の凸部が不均一に析出することで搬送性に影響がでる場合がある。
【0082】
ブラスト処理において粒径および吐出圧を変えることにより、基材41表面における凹凸構造43付与の度合いを振って通紙耐久による比較評価実験を行った。基材41表面に付与した凹凸構造43以外は共通であり、離型層42を凹凸構造43の凸部よりも実測20μm程度厚い状態にコーティングを施してある。凹凸構造43はRa0.5μm、Rz1.5μmの評価品1、Ra1μm、Rz3μmの評価品2、Ra2μm、Rz10μmの評価品3を用意した。更に、Ra8μm、Rz42μmの評価品4、Ra15μm、Rz58μmの評価品5、Ra20μm、Rz79μmの評価品6の6種類を用意した。各評価品を用いて実施形態1と同様に、記録材Pの搬送性評価をおこなった。搬送性の評価結果を表4に、各評価品の基材表面粗さ及び凸部高さムラと搬送性への影響をまとめたものを表5に示す。
【0083】
ここで、凸部ムラは基材凹凸構造43に関し、表面粗さプロファイルを長さ10mmに渡って測定した結果において凸部の5点平均位置を算出し、その最大値と最小値の差で規定した。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
表4における評価品1の結果はニップNt部における離型層42の剥落によるものであった。凹凸構造43の程度が低かったことから離型層の接着強度が不十分であったためと考えられる。評価品6はニップNt部の長手方向において基材41の析出にムラが起こることにより搬送不良が引き起こされたものと考えられる。表6に示すように、基材41の表面凹凸構造43の程度を大きくしたことにより、凹凸構造43の凸部の高さ位置バラツキが大きくなる。これにより基材41が局所的に析出することから記録材Pにかかる搬送抵抗に不均一性およびニップNt通過過程において記録材P先端部分の基材41局所析出部分に対する引っかかりによる搬送阻害が起こる確率が上がることが原因と考えられる。
【0086】
従って、加圧部材40の基材41における表面凹凸構造43に関しては、以下に示すRa、Rzにつき、
1μm≦Ra≦15μm、3μm≦Rz≦60μm程度の範囲が望ましい。
【0087】
なお、本実施形態で加工手番は増えるが、加圧部材40の基材41に対して凹凸構造43付与加工を施した後に、凸部の高さバラツキを抑えるために研磨処理などを施しても良く、その場合は表面粗さの上限に関しては前記の限りではない。表5の結果より、表面粗さに関しては1μm≦Ra、3μm≦Rzを満たしており、凸部の高さムラが20μm程度までに抑えることが望ましい。
【0088】
本実施形態によれば、基材表面に凹凸を付与した上に離型層を形成した固定加圧部材により、磨耗による離型層の削れと剥落を抑制することによって、製品寿命を延ばして良好な搬送性と離型性を備える画像加熱装置を提供することができる。
【0089】
《第2の実施形態》
図7に本発明第2の実施形態における、加圧部材40の概略図を示す。図7(a)は加圧部材40の基材41の凹凸構造43加工施行後における概略外観図であり、図7(b)は加圧部材40の長手方向断面構造の概要図である。図7(a)に示すように、本実施形態において、離型層42は凹凸構造43を内包する厚さで前記基材41の上方に設けられる。
【0090】
第1の実施形態では、ブラスト処理により基材41に凹凸構造43を付与した。しかし、ブラスト処理では一般に凹凸構造43を深く形成するのが難しい。また、凸部の高さムラを小さく抑えることが難しい。
【0091】
そこで、本実施形態ではベルダー加工により、スリット形状の凹凸構造43を付与した。これによって、凹凸構造43を深く形成することができ、かつ凸部の高さムラの発生を小さく抑えることができる。
【0092】
本実施形態では、加圧部材40は、板厚0.8mmのジンコート鋼板を基材とし、加熱処理により表層メッキ部を除去した後に、幅方向(短手方向)に対して平行なスリット形状となるようベルダー加工を施し基材41上に凹凸構造43を付与した。ベルダー加工後の長手方向における表面粗さはRa8μm、Rz42μmであった。凹凸構造43を付与した基材上にPEEK/PFAからなる離型層42をコーティングにより凸部を基準に20μmの厚みで形成し、焼成した。本実施形態ではベルダー加工により幅方向(短手方向)に対して方向性が一様な凹凸構造43を付与したが、加工方法は限定するものではない。
【0093】
本実施形態では使用に伴い、ニップNt部の離型層42の表層部分が磨耗した状態においては、幅方向(短手方向)に関して、断面構造は局所的に単一かつ平坦な状態である。また、長手方向に関しては図7(b)に示すように凹凸構造43形状による基材41と離型層42の混在状態となっている。これにより、ニップNt部においてブラスト処理による凹凸構造43形状付与の場合には、使用に伴い凹凸構造43の凸部で離散的に点接触となるのに対し、本実施形態ではスリットの凸部による線接触となる。
【0094】
本実施形態において、記録材Pの搬送性、磨耗量d、耐汚れ性に関して実験による比較評価を行った。結果を以下の表6に示す。
【0095】
【表6】
本実施形態では、加圧部材40の基材41にベルダー加工によりスリット状の凹凸構造43形状を付与したが、ニップNt部において基材41および離型層42が混在した状態である。表6から、通紙耐久実験を通じて、記録材Pの搬送性能、耐磨耗、耐汚れ性の観点において十分な性能であることが示された。
【0096】
また、本実施形態において、基材41の凹凸構造43の高さは第1の実施形態と同様であり、形成方法・形状によらず、前述した範囲であれば効果を発揮する。
【0097】
また、加圧部材40のニップNt部においては、使用に伴う磨耗作用により基材41と離型層42の混在状態となるが、基材41の占める割合が支配的になると記録材Pに対する摩擦抵抗が上昇し、搬送性に支障をきたす場合がある。ニップNtにおける基材41と離型層42の混合比の変化による影響を実験により評価した。
【0098】
簡単のため、基材41の表面凹凸構造43における凹部の占める割合で混合比を近似的に規定した。放電加工により幅70μm、高さ50μmの凸部を基材41に形成し、凸部の形成間隔を振ることにより磨耗が凸部に到達した段階での離型層混在比が80%、60%、40%、20%となるように加工を行った。加工の概要としては図7となる。これらの基材41に対し離型層42をコーティングし、通紙耐久による評価を行った。混在比(%)は通紙耐久後において、ニップNt部における離型層42の占める割合であり、100×離型層/(離型層+基材)で表される。離型層42は基材41の凸部より20μm程度の厚みと成るように形成した。30000枚通紙において問題なく搬送できれば○、スリップなど搬送に失敗した場合は×とした。実験結果を表7に示す。
【0099】
【表7】
表7に示すように、ニップNt部において離型層42の占める割合が多ければ、耐久を通じて搬送性は維持される。混在比が20%、つまり離型層42の占める比が低くなり基材41が析出した比が高くなると摩擦抵抗の上昇により記録材Pの搬送性等に影響が見られた。従って、ニップNt部においては離型層42の占める面積割合が40%以上であることが望ましい。
【0100】
また、第2の実施形態において、定着ニップNt部において基材表面の凹凸構造43がスリット状であると説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、凹凸構造43を2次元的に分散された配置(図では凸部を丸印で表記し、丸印の間が凹部となる)とすることもできる。
【0101】
《第3の実施形態》
第1、第2の実施形態では、基材41に凹凸構造43を設けることにより、離型層の削れが抑制され、低摩擦力を維持できることを説明した。しかし、図9(a)に示すように、離型層の厚みDが相当大きい場合には、初期状態と通紙耐久後の状態とでニップ形状の変化が大きくなってしまう。これにより、カールやジャムという問題が発生する場合があった。
【0102】
図9(b)に示す本実施形態では、加圧部材40のニップ部が初期から基材41と離型層42が混在することを特徴とする。これにより、初期から離型層の削れが抑制されるため、通紙耐久後のニップ形状の変化は少ない。即ち、初期から凹部に離型層が充填されるように構成される。
【0103】
図8に本実施形態における、加圧部材40の概略図を示す。本実施形態では、加圧部材40は、板厚0.8mmのジンコート鋼板を基材とし、加熱処理により表層メッキ部を除去した後に、ブラスト処理を行い基材表面に凹凸構造43を付与する。ブラスト処理後の表面粗さはRa2μm、Rz10μmであった。凹凸構造43を付与した基材上にPEEK/PFA/導電材からなる離型層をコーティングにより形成し焼成した後に、D=0μmかつ基材凹凸構造43の凸部高さムラを抑制するよう、バフ研磨を施した。研磨により削除した表層部分を図8の表層研磨削除部分45に示す。これにより、加圧部材40の表層摺動面は初期状態より、基材41と離型層42が共存した状態となっている。
【0104】
尚、本実施形態ではショットブラストによって凹凸構造43を付与したが、凹凸構造43付与加工の手段は特に制限するものではない。また、本実施形態においても、本発明の効果を得るためには、基材41の凹凸構造43の粗さ及び基材41と離型層42の面積割合は第1、第2の実施形態にて前述した範囲であれば効果を発揮する。本実施形態では表層の研磨においてバフ研磨を行ったが、研磨方法は特に制限するものではない。
【0105】
本実施形態では、研磨を行うことにより基材凹凸構造43の凸部高さムラを抑えることができる。それと共に、初期状態から基材41と離型層42の共存状態であることから、記録材Pの搬送に伴って引き起こされる磨耗が抑制され、ニップNt部の形状変化が耐久を通じて少なく、搬送性の安定化が達成される。
【0106】
(変形例)
以上、基材表面に凹凸構造を備え、その上に離型層を備える定着パッドにおいて、離型層として樹脂層が好ましいことを説明した。しかし、本発明はこれに限られない。
例えば、通紙の繰り返しによる磨耗を抑制するために、離型層として摩擦抵抗が低く表面硬度は高いDLCやTiN、CrN等のセラミックコーティング膜、金属物質を加圧部材の表面に配置することも考えられる。
【0107】
しかし、離型性が樹脂層ほど充分ではないため、通紙の繰り返しにより加圧部材のニップ部下流近傍にトナーや紙粉等が付着・堆積し、記録材の紙コバ等を汚してしまうことが考えられる。更に、記録材の搬送に対する摩擦抵抗に関しては前記樹脂材料に比べると高くなることが考えられる。
【0108】
即ち、基材表面に凹凸構造を備え、その上に離型層を備える定着パッドにおいて、離型層としては樹脂層がより好ましい
【符号の説明】
【0109】
21・・ヒータ、23・・ホルダー、24・・定着ステー、30・・定着ローラ、31・・芯金、32・・断熱弾性層、33・・熱伝導層、34・・表面離型層、40・・加圧部材、41・・基材、42・・離型層、43・・基材凹凸構造43付与面、Nh・・加熱ニップ、Nt・・定着ニップ、P・・記録材、T・・トナー画像
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やLBP等、電子写真方式・静電記録方式等の作像プロセスを採用した画像形成装置に使用される画像加熱装置に関する。
【0002】
画像加熱装置としては、記録材上に形成した未定着トナー画像を固着画像として加熱定着する定着装置や、記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢度を増大させる光沢度増大装置等を挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
電子写真方式の複写機やプリンタに搭載する定着装置として、定着ローラと、定着ローラをその外部から加熱する加熱手段と、定着ローラと接してニップ部を形成する加圧ローラと、を有するものがある。この画像加熱装置は、ニップ部で記録材を挟持搬送しつつ記録材上の未定着トナー像を定着ローラの熱によって記録材上に加熱定着する。加熱手段としてセラミックヒータを用いて定着ローラの外周面(表面)を加熱するタイプの定着装置、加熱手段としてハロゲンヒータを内蔵した小径の加熱ローラを用いて定着ローラの外周面(表面)を加熱するタイプの定着装置が、それぞれ提案されている。
【0004】
これらの定着装置は、セラミックヒータや、ハロゲンヒータを内蔵した小径の加熱ローラなどにより、外部から定着ローラ表面を加熱するため、定着ローラ表面を急激に昇温させることが可能となる。そのため、複写機やプリンタの立ち上げの際に、定着ローラを室温からトナーの定着温度(目標温度)まで温めるためのウォームアップ 時間を短くできるという利点がある。
【0005】
定着ローラ表面を定着ローラ外部から加熱する定着装置では、定着ローラの回転中心軸の周囲に、熱伝導率の低いシリコーンゴムや発泡シリコーンゴムを用いて断熱弾性層を形成する。そして、熱伝導率の高いシリコーンゴムや金属を用いた熱伝導層、更にフッ素樹脂からなる離型層を順に形成している。
【0006】
上記定着装置においては、定着ローラが弾性を有するため、記録材上で加熱され軟らかくなったトナーを定着ローラにより包み込むことができ、定着ムラのない高画質な画像を形成することができる。また、定着ローラ表面を加熱する方式のため、定着ローラ表面下に断熱弾性層を有していても、定着ローラ表面を急激に昇温させることが可能となる。
【0007】
これらの定着装置に対し、特許文献1では、回転可能な加圧ローラに替えて熱容量の小さい加圧部材を定位置に固定して用いることで、加圧部材から大気中への放熱等による熱損失を減少させた定着装置が提案されている。これにより、更なるウォームアップ時間の短縮と省エネルギー化を実現させることができる。
【0008】
この、定着装置は未定着トナー像を担持した記録材を定着ニップ部に通紙し、固定された加圧部材に対して加熱回転体である定着ローラを摺擦しながら回転させる。そして、記録材は加圧部材との摺擦に伴い搬送されることから、記録材を安定して搬送させるために、加圧部材の表面は定着ローラ表面及び記録材との摩擦抵抗を低くすることが望ましいことが判明している。また、加圧部材の表面は記録材や定着ローラに付着したトナーと接触するため、トナーに対する離型性を有することが望ましいことも判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−20789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
摩擦抵抗が低くトナー離型性も有するPEEKやPTFE、PFA等のフッ素樹脂を含む樹脂材料を加圧部材の表面に離型層として配置すると、記録材の搬送性が安定化し、加圧部材へのトナー付着等も抑制できる。しかし、記録材摺擦搬送の繰り返しにより、記録材に含まれる炭酸カルシウム等で加圧部材表面離型層の樹脂材料が磨耗し、離型層の磨耗剥奪により基材ないし接着層等の露出に伴う摩擦抵抗の増大により、記録材の搬送に支障をきたす問題があった。
【0011】
本発明は上記従来技術の更なる改善である。そして、その目的は通紙に伴う搬送性の劣化を抑制できる画像加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、この発明に係わる画像加熱装置の代表的な構成は、加熱回転体と、前記加熱回転体に対向配置される固定加圧部材と、を有し、前記加熱回転体と前記固定加圧部材とで形成されるニップ部に画像を担持した記録材を通紙させて前記記録材を加熱する画像加熱装置において、前記固定加圧部材は、凹凸付与加工により表面に凹凸構造が付与された基材と、前記基材の前記凹凸構造の少なくとも凹部に充填される離型層と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磨耗による離型層の削れ或いは剥落による搬送性劣化の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態である定着装置の搬送方向における断面概略図である。
【図2】第1の実施形態における加熱ニップ部及びその近傍と温度制御系を表す概要図である。
【図3】第1の実施形態である定着装置の長手方向の断面概略図である。
【図4】本実施形態の凹凸構造における作用メカニズムに関し、(a)は凹凸構造を備えない比較例としての従来例の図、(b)は凹凸構造を備える本実施形態の図である。
【図5】(a)は凹凸構造を備える本実施形態の図、(b)、(c)、(d)は凹凸構造を備えずに離型層の厚さを変えた比較例の図である。
【図6】本実施形態における磨耗量dに関する説明図である。
【図7】第2の実施形態における定着パッドに関し、(a)は定着パッドの基材の外観斜視図、(b)は長手方向における断面概略図である。
【図8】第3の実施形態における定着パッドの断面概略図である。
【図9】(a)は比較例に関し、離型層の厚さが大き過ぎる場合にニップ形状が実質変化することを示す図、(b)は第3の実施形態に関し、離型層の厚さがゼロでニップ形状が変化しないことを示す図である。
【図10】定着パッドにおける凹凸構造を2次元的に分散させた場合を示す図である。
【図11】画像加熱装置としての定着装置を搭載した画像形成装置の構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一又は対応する部分には同一の符号を付す。
【0016】
《第1の実施形態》
(画像形成装置)
図11は、本発明に係る画像加熱装置の実施形態である画像加熱定着装置(定着器)を搭載する画像形成装置の一例の全体構成図である。この画像形成装置は電子写真方式を用いたレーザービームプリンタである。
【0017】
本実施形態に示すプリンタ1は、プリンタの筐体を構成するプリンタ本体(画像形成装置本体)1aの外部に設けられたホストコンピュータ等の画像情報提供装置(図示せず)から画像情報を入力する。そしてプリンタ1は、入力した画像情報に応じた画像をシート状の記録材(記録媒体)Pに形成して記録するという一連の画像形成プロセスを公知の電子写真方式に則り行う。
【0018】
プリンタ1は、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体2と、一次帯電機構8と、現像装置3と、を保持するプロセスカートリッジ4を備えている。また、画像情報提供装置から入力した画像情報に応じた露光処理工程により感光体2の外周面に画像情報に応じた静電潜像を形成するレーザスキャナユニット5を備えている。また、記録材Pに画像を転写する処理を施す転写体6と、画像転写処理済みの記録材Pに加熱及び加圧により定着処理を施す画像加熱装置としての定着装置7を備えている。
【0019】
カートリッジ4はプリンタ本体1aに取り外し可能に装着されている。感光体2の修理及び現像装置3への現像剤補給等のメンテナンスが必要であるときには、プリンタ本体1aに開閉自在に支持されているカバー9を開いた後、カートリッジ4ごと交換することによりメンテナンスの迅速化及び簡易化等が図られている。
【0020】
一次帯電機構8は、スキャナユニット5による露光処理工程前において商用電源等から規定のバイアスを印加されることにより、回転している感光体2の外周面(表面)を規定電位分布に帯電せしめるようになっている。
【0021】
スキャナユニット5は、画像情報提供装置からの画像情報の時系列的電気デジタル画素信号に応じて変調されたレーザLaを出力する。そしてそのレーザLaにより、カートリッジ4のカートリッジフレーム(図示せず)に設けられた窓4aを通して、感光体2表面の帯電処理済みの部位が走査及び露光される。これにより画像情報に応じた静電潜像が感光体2表面に形成される。
【0022】
次に、プリンタ1における一連の画像形成プロセスに関して説明する。プリンタ本体1aに設けられたスタートボタン等(図示せず)が押されるなどにより、感光体2の回転駆動が開始される。感光体2は矢印K1の時計方向に規定の周速度にて回転駆動される。これと共に、規定のバイアスが印加されている一次帯電機構8により感光体2表面が規定の電位分布に帯電せしめられる。
【0023】
次に、画像情報提供装置からの画像情報に応じて感光体2表面の帯電処理済みの部位がスキャナユニット5により走査及び露光される。これにより画像情報に応じた静電潜像が感光体2の前記部位に形成される。その静電潜像が現像装置3の現像剤により現像されて、トナー画像として可視像化される。
【0024】
一方、所定のタイミングにて駆動された給送ローラ12により給送カセット11から記録材Pが一枚分離給送される。給送カセット11には複数枚の記録材Pが積載収容されている。給送カセット11はプリンタ本体1aに取り外し可能に装着されている。給送カセット11から給送された記録材Pは、レジストローラ対13により所定の制御タイミングにて感光体2と転写体6との間に形成された転写ニップ部へと給送され、転写ニップ部を挟持搬送されていく。この挟持搬送過程において感光体2側のトナー画像が転写体6により記録材P側に順次に転写される。
【0025】
そして、転写処理済みの記録材Pは、定着装置7によりトナー画像の加熱定着処理が施されたのち、プリンタ本体1aにて回転自在に支持された定着排出部14を経由してプリンタ排出部15により機外へと排出される。排出された記録材Pは、プリンタ本体1aの上面に取り付けられたトレイ16上に積載される。以上により、一連の画像形成プロセスが終了することとなる。
(プロセスカートリッジ)
図11でカバー9の開閉により、プロセスカートリッジ4のプリンタ本体1aからの離脱、プリンタ本体1aへの挿入が行われる。
ここで、プロセスカートリッジとは、プロセス手段としての、帯電手段、現像手段、クリーニング手段の少なくとも一つと電子写真感光体ドラムとを一体的にカートリッジ化して、装置本体に取り外し可能に装着されるものである。
従って、プロセスカートリッジとは、プロセス手段としての現像手段と、前記電子写真感光体ドラムとを一体的にカートリッジ化して、電子写真画像形成装置の本体に取り外し可能に装着されるものも含まれる。
また、プロセスカートリッジとは、プロセス手段としての、帯電手段、現像手段またはクリーニング手段と、前記電子写真感光体ドラムとを一体的にカートリッジ化して、前記本体に取り外し可能に装着されるものも含まれる。
尚、電子写真感光体ドラムと現像手段とを一体的に有するプロセスカートリッジを所謂一体型と称する。また、電子写真感光体ドラムと現像手段以外のプロセス手段とを一体的に有するプロセスカートリッジを所謂分離型と称する。即ち、現像手段はプロセスカートリッジとは別の現像ユニットに設けて、この現像ユニットと対になって画像を形成するプロセスカートリッジを所謂分離型と称する。尚、前記プロセス手段は、前記電子写真感光体ドラムに作用するものである。
ここで前記プロセスカートリッジは、使用者自身によって本体に対する着脱を行うことができる。そのため、装置本体のメンテナンスを容易に行うことができる。
プロセスカートリッジ4を有する画像形成部と、以下に示すような下流側に設けられる画像加熱装置としての定着装置7との間には、必要に応じて断熱部材が設けられる。これは特に両者が接近する場合などに有効であるが、プロセスカートリッジ内に収納されている現像剤(トナー)に、定着装置における熱源から発生する熱が伝わらないようにすることができるからである。
【0026】
(画像加熱装置)
画像加熱装置としての本実施形態に係る定着装置7について、図1乃至図3を用いて説明する。30は加熱回転体としての定着ローラである。21は定着ローラ30をその外部から加熱する加熱手段(加熱源)としてのヒータである。23は保持部材としてのヒータホルダーである。24は、加熱回転体である定着ローラ30に対向配置される固定されたヒータ側加圧部材(バックアップ部材)である。定着ローラ30とヒータ側加圧部材24は加熱ニップNhを形成する。
【0027】
一方、定着ローラ30と固定加圧部材40は定着ニップNtを形成し、トナーTを用いた未定着トナー画像を担持した記録材Pを通紙させることで、固着画像を得る。
【0028】
なお、これらの部材は何れも長手方向(記録材搬送方向に直交する方向)に細長い部材である。
【0029】
本実施形態の定着装置7は、定着ローラ30内部に加熱源を有しておらず、金属製のローラの内部にハロゲンランプ等の加熱源を有する加熱ローラを定着ローラとして用いる熱ローラ方式の定着装置と異なる。そのため、定着ローラ30の外径を小さくして低熱容量化が可能である。
【0030】
また、加熱ニップNh部と定着ニップNt部は、定着ローラ30の表面において異なる位置に形成される。加熱ニップNh部と定着ニップNt部との間の距離は短い方が、空気中への放熱、定着ローラ30内部への熱の逃げが少なく、より効率的に熱を運搬することができる。このようなことを考慮して、定着ローラ30の外径を10〜20mmの範囲で設定している。また、加圧部材40の構成が簡単であることから、装置全体の構成を簡略化できて小型化、低熱容量化が可能である。
【0031】
以上のように、本実施形態の定着装置7は、ウォームアップ時間の短縮と省エネルギー化に適した構成としている。
【0032】
a)定着ローラ30
定着ローラ30は、芯金31の周囲に熱伝導率の低い断熱弾性層32を有し、その断熱弾性層32の周囲に少なくとも1層の熱伝導層33を有する。芯金31の材料としてはアルミ、鉄、SUS(ステンレス)、SUM(快削鋼)材等が用いられる。芯金31はその周囲に設けられた断熱弾性層32によって定着ローラ30表面から断熱される為、低熱伝導性、低熱容量であってもその効果は少ない。従って芯金31の形態は中実であっても中空の筒状であっても良い。
【0033】
断熱弾性層32は、例えばシリコーンゴムなどに、マイクロバルーンなどの中空フィラーなどを配合したバルーンゴム層、または、吸水性ポリマーが含有されたシリコーンゴム層、シリコーンゴムを水素発泡させたスポンジゴム層とする。熱伝導性が低ければソリッドゴム層でも良い。
【0034】
熱伝導層33は、例えばシリコーンゴムやフッ素ゴムに高熱伝導フィラーを配合した高熱伝導弾性層などが好適である。蓄熱作用により記録材Pへの安定した熱供給が目的である。表面離型層34は、例えばフッ素樹脂にフィラーを配合した層で、トナー等に対する離型性と記録材Pを搬送するのに必要な摩擦力を得ることを両立させていることが求められる。表面離型層34は高熱伝導弾性層33を兼ねる構成であっても良い。この定着ローラ30は芯金31の長手方向両端部が、定着装置7の装置フレーム(図示せず)に軸受を介して回転自在に保持されている。
【0035】
b)ヒータ21
ヒータ21は、図2に示すように長手方向に細長いヒータ基板21aを有する。基板21aとして、アルミナや窒化アルミ等の絶縁性のセラミックス基板や、ポリイミド、PPS、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂基板が用いられる。基板21aの一面には、長手方向に沿って、例えばAg/Pd(銀パラジウム)、RuO2、Ta2N等の通電発熱抵抗層21bがスクリーン印刷等により線状もしくは細帯状に塗工して形成されている。抵抗層21bの厚さは10μm程度、幅は1〜5mm程度である。また、抵抗層21bの保護、及び絶縁の確保を目的として、例えばガラス、ポリイミド樹脂などからなる絶縁保護層21cを、抵抗層21bを覆うように基板21aの一面に設ける。その保護層21cの厚さは10μmから100μm程度とする。
【0036】
更に、定着ローラ30の外周面(表面)との摺動性を高め、かつ記録材P上の未定着トナーなどの付着を防ぐことを目的として、保護層21cを基板21aの一面から覆うように設けても良い。例えばフッ素樹脂などの摺動性、離型性が良好な材料からなる摺動層(図示せず)を用いる。或いは、抵抗層21bの上に直接フッ素樹脂などからなる厚さ10μmから100μm程度の保護層21cを形成し、その保護層21cで上記摺動層の機能を兼ねる構成としても良い。
【0037】
ヒータ21は保護層21cを定着ローラ30表面と対向させるように基板21aがホルダー23に保持されている。ホルダー23は、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂により形成され、熱伝導率が低いほど定着ローラ30の加熱に際する熱効率が高くなる。よって樹脂層の中に中空のフィラー、例えばガラスバルーン、シリカバルーン等を内包してあっても良い。
【0038】
ホルダー23は長手方向両端部が装置フレームに保持された定着ステー24と係合する。そして、図3に示すように加圧手段としての加圧バネ25が定着ステー24の長手方向両端部を加圧することによって、ホルダー23は定着ローラ30側に加圧される。定着ステー24は長手方向両端に受けた加圧力をホルダー23の長手方向に対して均一に伝えなければならないため、鉄、ステンレス、SUM、ジンコート鋼板等の剛性のある材料を使用し、横断面形状をコの字型等にすることで形状的にも剛性を高めている。これにより、ホルダー23の撓みを抑えた状態で、ヒータ21の保護層21c表面は定着ローラ30表面に加圧され、その加圧力により定着ローラ30の弾性層が変形して定着ローラ30表面に所定幅の加熱ニップNh部が略均一に形成できる。
【0039】
ここで、ヒータ21は抵抗層21bを基板21aの定着ローラ30側の面に形成しているが、熱伝導性の良好な窒化アルミ等を基板21aの材料として使用する場合には、抵抗層21bを基板21aの定着ローラ30側と反対側の面に形成してもよい。その場合、保護層21cを基板21aの定着ローラ30側と反対側の面に設け、摺動層を基板21aの定着ローラ30側の面に配置する。
【0040】
また、ヒータ21の基板21aは、定着ローラ30表面に沿う曲面形状であっても良い。定着ローラ30表面に沿いやすくなり、より軽い加圧力で、ニップNh部の幅を広く形成することができる。
【0041】
c)固定加圧部材40
定着パッドである固定加圧部材40は、図5(a)に示すように固定された加圧部材であり、長手方向に細長い基材41(表面に凹凸構造43を付与)と、その基材41の表面に形成された離型層42とから形成される。この加圧部材40は、定着ローラ30の径方向においてヒータ21と対向するように配置される。そして基材41の長手方向両端部が装置フレームに保持されると共に加圧手段としての加圧バネ44によって定着ローラ30側に加圧される。その加圧バネ44(図3)の加圧力により、加圧部材40は定着ローラ30表面と接し定着ローラ30の弾性層が変形して、加圧部材40と定着ローラ30表面とで所定幅の定着ニップNt部が形成される。
【0042】
c−1)離型層42
離型層42は、図5(a)に示すように凹凸構造43を内包する厚さDで、前記基材41の上方に設けられる。離型層42の材料は、記録材Pの搬送を妨げない低摩擦性と、記録材Pから定着ローラ30表面へ転移したトナーT等が付着しない離型性、および表面に凹凸構造43を付与した基材に対する十分な接着性とを有していることが好ましい。そこで、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PTFE(4フッ化エチレン樹脂)、FEP、PFAやPAI(ポリアミドイミド)、PI(ポリイミド)樹脂等、およびそれらの混合物を使用している。本実施形態ではPEEKにPFAを添加した樹脂層を離型層として用いた。
【0043】
定着ニップNt部における離型層42の占める面積割合は、第2の実施形態で詳述するが、基材表面凹凸構造43の形成方法/形状によらず、40%以上であることが好ましい。
【0044】
c−2)基材41
基材41の材料は、記録材Pおよび定着ローラ30との摺擦に対する耐磨耗性に優れているものであり、鉄、ステンレス、SUM、ジンコート鋼板等の金属が好ましい。
【0045】
c−3)凹凸構造43
凹凸付与加工により基材41の表面には凹凸構造43が付与される。即ち基材41と離型層42の境界となる基材表面部に、凹凸構造43が人工的に設けられる。凹凸構造43はブラスト処理、化学処理、ベルダー加工、グラインダー加工等によって形成するが、凹凸構造付与手段に制限はない。また、凹凸構造43においては、対象とする記録材等の研磨性に応じて、浸炭処理、窒化処理、焼き入れ処理などの表面強化処理を施しても良い。本実施形態ではジンコート鋼材を用い、表面酸化膜を高温還元した後にブラスト処理による表面に対する凹凸構造付与を行った。
【0046】
d)加圧バネ25、44
前述したように、図3に示す加圧バネ25は定着ステー24の長手方向の両端部を加圧することによって、ホルダー23は定着ローラ30側に加圧される。
【0047】
また加圧バネ44は、加圧部材40の長手方向の両端付近と中央付近の計3箇所に配置され、加圧部材40の撓みを抑えた状態で定着ローラ30に加圧し、これにより定着ニップNt部は所定幅に略均一に形成させることができる。
【0048】
(定着装置の加熱定着動作)
図1で、定着ローラ30は、芯金31端部に設けられた駆動ギア35(図3)が回転駆動系(図示せず)により駆動されることにより矢印方向に回転される。その状態で図2に示す制御手段としての温度制御部100が、通電駆動手段としてのトライアック素子101をONとする。そして、AC電源102よりヒータ21の基板21a長手方向端部に設けられた電極部(図示せず)を通じて抵抗層21bへの通電を開始する。抵抗層21bは通電されることで発熱し、その抵抗層21bの発熱に応じてヒータ21が昇温する。ヒータ21は、ヒータ21自体が低熱容量である為、温度立ち上がりが速い。
【0049】
そのヒータ21の立ち上がり温度は基板21aの他方の面に設けられたサーミスタ等の温度検知手段22(図2)により検知され、その検知信号を温度制御部100が取り込む。温度制御部100は、その検知信号に基づきトライアック素子101をON/OFFして抵抗層21bへの通電を制御することにより、ヒータ21を所定の温度(目標温度)に維持する温度制御を行う。そのヒータ21の熱で回転中の定着ローラ30表面が加熱されることによって、定着ローラ30表面は記録材Pのトナーを溶融し記録材P上に定着させる定着可能温度に保たれる。
【0050】
ヒータ21の温度制御方式としては、検知信号に応じて、抵抗層21bに印加される電圧のデューティー比や波数等を適切に制御することで、ヒータ21を所定の温度に温度制御する。ヒータ21の温度制御を行う他の構成として、定着ローラ30表面の温度を温度検知手段(図示せず)で検知する。そしてその検知信号に基づき温度制御部100によりトライアック素子101をON/OFFして抵抗層21bへの通電を制御することよって、ヒータ21を所定の温度に維持するようにしてもよい。
【0051】
上記のように定着ローラ30表面を定着可能温度とするように、ヒータ21を温度制御することによって、記録材Pの定着性を一定に保つことができるとともに、記録材Pに対し熱を与えすぎることによって発生するホットオフセットなどの画像不良も防止できる。
【0052】
定着ローラ30表面を定着可能温度に保った状態で、未定着トナー像Tを担持した記録材Pが固定された加圧部材40の離型層42に接しながら定着ニップNt部に導入される。その記録材Pは定着ニップNt部において定着ローラ30表面と離型層42とにより挟持搬送される。そして、その搬送過程において記録材P上の未定着トナー像Tを定着ローラ30の熱で記録材P上に加熱定着して固着画像とする。ここで、加圧部材40は熱容量が小さいため、定着ローラ30の熱は記録材Pに迅速に伝わり、短い接触時間でも、記録材P上のトナー画像Tを加熱定着することが可能である。
【0053】
(本実施形態における加圧部材の機能とメカニズム)
画像加熱装置において、加圧部材40を固定摺動加圧方式とする場合、搬送性とトナー付着等による汚れ及び耐久性が問題となる。要求される機能としては、安定した搬送性の為に定着ニップ(Nt)部の上流部および下流部におけるトナー付着など汚れ発生を抑制する高い離型性の維持である。
【0054】
記録材Pの搬送性に関わるのは摩擦抵抗であり、PEEKや各種フッ素系樹脂およびそれらの混合物が表面エネルギーの観点から優れる。また、トナー付着等による汚れに対しても同様の理由によりPEEKや各種フッ素系樹脂およびそれらの混合物が優れる。しかしながら、記録材Pは炭酸カルシウムに代表される研磨作用のある物質を含んでおり、記録材Pを長期に渡り摺擦させることから、樹脂系の材料ではニップNt部において磨耗による削れが起こる。これにより耐久性が問題として残る。
【0055】
本実施形態による固定加圧部材は、金属物質などから成る硬質材料を基材41とし、基材表面に凹凸構造43を付与した後にPEEKや各種フッ素系樹脂から成る離型層を形成することを特徴としている。これにより、記録材が接する表面は摺動性と離型性に優れた表面状態となる。
【0056】
定着ニップ部は圧力が高く、磨耗に対する耐久性が問題となるわけであるが、基材表面に付与した凹凸構造43の凸部により、磨耗削れの侵食を抑制することが可能となる。定着ニップ部においては、基材凹部に残る離型層により摩擦抵抗や離型性を保つことで搬送性を維持し、基材凸部によって磨耗侵食を抑制することにより耐久性を確保する。
【0057】
即ち、単純に基材41上に離型層を設けた従来例では、定着ニップNt部は削れにより離型層が容易に消失し、搬送能力不足となる。本実施形態では基材41表面に凹凸構造43を付与した上に離型層を設けることにより、ニップNt部では基材41凸部が現れた状態で削れが抑制され、離型層と基材が混在した状態が保持される。これにより、搬送能力が維持される。
【0058】
図4(a)は基材上に離型層を単純に配備した比較例としての従来例であり、図4(b)は基材表面に凹凸構造43を付与した本実施形態の場合で、それぞれ通紙耐久後における状態である。トナー付着等に代表される各種汚れは、ニップの上下流位置、とりわけ定着ニップNtの下流部に発生する場合が多い。本実施形態ではニップ部において基材41と離型層42の混合状態であり、ニップ外部においては離型層42が初期状態のまま維持されることから、耐汚れ性に関しても製品寿命を通じて良好な状態を保つことが可能である。以上により、画像加熱装置として記録材の安定した搬送性・耐久性・耐汚れ性を実現する。
【0059】
(比較実験)
本実施形態の定着装置7を備えたプリンタ1を用いて記録材Pの通紙耐久評価を行い、記録材Pの搬送性、加圧部材40の磨耗による削れおよび汚れ付着の有無の確認を行った。実験に使用した画像形成装置のプロセススピードは116mm/secであり、1分間に19枚のプリントを実施するレーザービームプリンタを用いた。まず、実験に用いた本実施形態の定着装置7の基本構成を以下に説明する。
【0060】
ヒータ21は、厚さ1.0mmのセラミック基板21a上に、抵抗層21bとして銀とパラジウムの発熱体ペーストを、厚さ10μmで形成したセラミックヒータを使用した。セラミックヒータは、ホルダー23としての、中空樹脂を含有する断熱性の液晶ポリマー部材によって保持される。セラミックヒータ表面には、発熱体を保護する為に保護層21cとして厚さ30μmの絶縁ガラス層を形成している。セラミック基板の裏側には、温度検知手段22として、セラミックヒータの温度制御用のサーミスタが当接されており、210℃の温度で制御されている。
【0061】
定着ローラ30は、外径6mmのSUM芯金31上に、断熱弾性層32として、厚み3.0mmのシリコーンゴム層を形成している。さらにそのシリコーンゴム層の外側には、熱伝導層33として、厚み100μmのシリコーンソリッドゴム層を、その外側に離型層として厚み20μmのフィラーを混合したフッ素樹脂コート層34を形成している。つまり定着ローラ30は3層構成の定着ローラである。
【0062】
加圧部材40は、板厚0.8mmのジンコート鋼板を基材とし、加熱処理により表層メッキ部を除去した後にブラスト処理を行い基材表面に凹凸構造43を付与する。ブラスト処理後の表面粗さはRa2μm、Rz10μmであった。
【0063】
ここで、Raとは、いわゆる「中心線平均粗さ」であり、粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表わしたものである。また、Rzとは、十点平均粗さをいい、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定する。そして、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和を求め、この値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【0064】
本実験では、凹凸構造43を付与した基材上にPEEK/PFA/導電材からなる、凸部を基準に厚さD=20μmの離型層をコーティングにより形成し、焼成した。本実施形態ではショットブラストによって凹凸構造43を付与したが、凹凸付与加工の手段は特に制限するものではない。
【0065】
以上の構成で、ヒータ21と定着ローラ30の間に49N(5kgf)の加圧力を付加して加熱ニップNh部を幅3mmで形成している。また、加圧部材40と定着ローラ30の間にも49N(5kgf)の加圧力を付加して加熱ニップNt部を幅3mmで形成している。そして、ヒータ21と加圧部材40は、定着ローラ30を中心に定着ローラ30の径方向で対向して配置してある。
【0066】
図5は本実施形態における加圧部材40の断面構成概略図及び比較実験に用いた加圧部材の構成概略図である。図5(a)は本実施形態を表すものであり、基材表層凹凸構造43の凸部を基準に、離型層の厚みDは20μmである。図5(b)は比較例1であり厚み100μmのPTFE樹脂バルク材をジンコート鋼板から成る基材41上に接着したものである。図5(c)は比較例2であり厚み20μmのPFA/PTFE/接着剤から成るフッ素樹脂系コートをジンコート鋼板から成る基材41上に直接コーティングしたものである。図5(d)は比較例3でありジンコート鋼板から成る基材41上にDLCコーティングを施したものである。
【0067】
本実施形態の定着装置7と比較例1、比較例2及び比較例3の定着装置7を備えたプリンタ1を用いて記録材Pの通紙耐久を行い、本実施形態の機能評価を実験により行った。加圧部材以外の構成は共通である。坪量75gのLTRサイズ普通紙に横線パターンを印字し、通紙耐久(新品状態、1000枚時点、5000枚時点、10000枚時点、30000枚時点)での記録材P搬送可否および図6に示すように、加圧部材40における摺動層42の磨耗量dを測定した。同時に、トナー付着汚れによって引き起こされる記録材P裏面先端部への汚れ有無の確認を行った。
【0068】
記録材P搬送可否は連続印字通紙においてスリップ、搬送路逸脱によるジャム等を含め、搬送状況に問題が無い場合は○、搬送に失敗した場合は×と記載するものとした。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
表1に示す結果より、本実施形態による記録材P搬送性能に関する安定性と耐久性の有意性が示された。本実施形態では30000枚の通紙耐久において安定して記録材Pを搬送したのに対し、各比較例では早期に搬送不良が発生した。比較例1では5000枚を越えた時点で、記録材がカールし搬送路から反れることによるジャムが散見されるようになり、基材露出に伴いスリップが発生するようになった。比較例2では1500枚程度でニップにおける離型層の剥落および基材の露出に伴いスリップが起こるようになった。比較例3においても2000枚を越えたあたりから後述の汚れ付着に起因すると考えられる搬送不良が起こった。
【0070】
加圧部材40の離型層42の磨耗量dは図6に示すように、定着ローラ30と対向する離型層42の初期状態を基準とした凹み量を測定した値として定義した。評価の結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
表2に示す結果より、本実施形態による耐久性の有意性が示された。本実施形態では加圧部材40の表層離型層は通紙初期において磨耗するものの、凹凸構造43を付与した基材の凸部によって磨耗進行が抑制されているのが実験結果より分かる。
【0072】
比較例1はPTFEのバルク材であることから耐久に伴い磨耗が進んでいるのが分かる。前述の表1に示す結果とも併せて分かるように、離型層42の厚みを増しても削れ自体は進行し磨耗量dの増大に伴い凹量が大きくなることから基材41の露出前であってもニップNt部の形状変化が大きく、カールやジャムといった問題が発生した。比較例2は1500枚程度で表層の離型層であるコーティングが磨耗によりニップNt部で消失することによって記録材Pがスリップにより搬送不能になったため、評価を終了した。比較例3は、DLCが非常に硬質であることから初期的には何ら磨耗は起こらなかったが、前述の通り2000枚を越えたあたりから搬送性に支障が出た。
【0073】
DLCは、離型性や摩擦抵抗の低さなどの観点ではPEEKやフッ素系の樹脂に劣ることから、本実験における構成では耐久に伴う汚れの付着による摩擦抵抗の増大及び定着ローラ30の搬送能力低下等により、搬送性能に差が現れたものと言える。
【0074】
記録材Pの裏面先端部への汚れ付着は、目視により汚れを観察し、汚れが分からない場合は○、凝視すると汚れているのが分かるが意識しないと気づかないレベルの場合は△、汚れが分かる場合は×とした。評価の結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
表3に示す結果より、本実施形態による耐汚れ性に関する有意性が示された。本実施形態では30000枚通紙時点においても排出された記録材P裏面先端部に汚れは見られなく、ニップNt上流部およびニップNt下流部においても汚れの付着は見られなかった。比較例1及び比較例2においても前述のように記録材Pの搬送性能に関しては問題が出たものの、記録材P裏面先端部の汚れに関しての問題は見られなかった。比較例3に関しては1000枚通紙時点で軽微な汚れが確認された。ニップNtを確認したところ、ニップNt下流部においてトナーの付着が見られた。離型性が十分でないことが要因であるといえる。
【0076】
すなわち、これらの結果より、以下のことが確認できた。基材41に凹凸構造43を設けない場合には、離型層42は耐久と共に削れていき、最終的にはニップNt部に離型層が存在しなくなってしまう。基材41自体は摩擦抵抗が大きいため、その様な状態においては搬送不良が発生する。一方、本実施形態のように基材41に凹凸構造43を設けた場合には、離型層42の削れは基材41の凸部が表面に現れたところで急激に抑制される。この時のニップNt部は、基材41と離型層42が混在した状態であり、基材41により磨耗が抑制され、離型層42により低摩擦/高離型性が維持されている。また、削れが抑制されることでニップNt部の形状変化が抑えられ、安定した搬送性能が得られる。
【0077】
以上のように、本実施形態の定着装置7は、基材の表面に凹凸構造43を付与した上に離型層を形成することにより、耐久を通じて低い摩擦係数を維持することができる。そして、記録材Pを安定搬送させると共にトナー付着等に起因する汚れの発生を抑制することができるのである。
【0078】
(加熱手段の他の構成例)
本実施形態の定着装置7では、加熱手段として、ヒータ21を定着ローラ30表面と摺動させながら接触させる構成を例として説明を行ったが、加熱手段はこれに限定されるものではない。
【0079】
加熱手段としては、例えば、ヒータ21と定着ローラ30表面との間に可撓性の定着フィルムを回転可能に配置した所謂フィルム加熱方式を用いる。或いは、中空芯金の内側にハロゲンヒータ等の加熱手段を配置した所謂熱ローラ加熱方式等を用いて、定着ローラ30表面を加熱してもよい。その他、非接触のハロゲン輻射、IH方式による非接触加熱であっても良い。
【0080】
(定着手段の他の構成例)
本実施形態の定着装置7では、定着回転体として、外部加熱方式の定着ローラ30を例として説明を行ったが、定着回転体はこれに限定されるものではない。定着回転体が加圧部材40と定着ニップNt部を形成して記録材P上のトナー画像Tを加熱定着するものであればよい。定着回転体としては、中空芯金の内側にハロゲンヒータ等の加熱手段を配置した所謂熱ローラを使用してもよい。
【0081】
(基材表面凹凸構造43の粗さ度合いに関して)
加圧部材40の基層41表面における凹凸構造43付与においてRa2μm、Rz10μmの場合を例にあげたが、これに限るものではない。表面粗さの粗さ度合いが低い場合は基材と離型層の接着力が不足しニップNt部において基材のみ残存露出する場合があり、逆に粗さの度合いが高すぎる場合は局所的に基材の凸部が不均一に析出することで搬送性に影響がでる場合がある。
【0082】
ブラスト処理において粒径および吐出圧を変えることにより、基材41表面における凹凸構造43付与の度合いを振って通紙耐久による比較評価実験を行った。基材41表面に付与した凹凸構造43以外は共通であり、離型層42を凹凸構造43の凸部よりも実測20μm程度厚い状態にコーティングを施してある。凹凸構造43はRa0.5μm、Rz1.5μmの評価品1、Ra1μm、Rz3μmの評価品2、Ra2μm、Rz10μmの評価品3を用意した。更に、Ra8μm、Rz42μmの評価品4、Ra15μm、Rz58μmの評価品5、Ra20μm、Rz79μmの評価品6の6種類を用意した。各評価品を用いて実施形態1と同様に、記録材Pの搬送性評価をおこなった。搬送性の評価結果を表4に、各評価品の基材表面粗さ及び凸部高さムラと搬送性への影響をまとめたものを表5に示す。
【0083】
ここで、凸部ムラは基材凹凸構造43に関し、表面粗さプロファイルを長さ10mmに渡って測定した結果において凸部の5点平均位置を算出し、その最大値と最小値の差で規定した。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
表4における評価品1の結果はニップNt部における離型層42の剥落によるものであった。凹凸構造43の程度が低かったことから離型層の接着強度が不十分であったためと考えられる。評価品6はニップNt部の長手方向において基材41の析出にムラが起こることにより搬送不良が引き起こされたものと考えられる。表6に示すように、基材41の表面凹凸構造43の程度を大きくしたことにより、凹凸構造43の凸部の高さ位置バラツキが大きくなる。これにより基材41が局所的に析出することから記録材Pにかかる搬送抵抗に不均一性およびニップNt通過過程において記録材P先端部分の基材41局所析出部分に対する引っかかりによる搬送阻害が起こる確率が上がることが原因と考えられる。
【0086】
従って、加圧部材40の基材41における表面凹凸構造43に関しては、以下に示すRa、Rzにつき、
1μm≦Ra≦15μm、3μm≦Rz≦60μm程度の範囲が望ましい。
【0087】
なお、本実施形態で加工手番は増えるが、加圧部材40の基材41に対して凹凸構造43付与加工を施した後に、凸部の高さバラツキを抑えるために研磨処理などを施しても良く、その場合は表面粗さの上限に関しては前記の限りではない。表5の結果より、表面粗さに関しては1μm≦Ra、3μm≦Rzを満たしており、凸部の高さムラが20μm程度までに抑えることが望ましい。
【0088】
本実施形態によれば、基材表面に凹凸を付与した上に離型層を形成した固定加圧部材により、磨耗による離型層の削れと剥落を抑制することによって、製品寿命を延ばして良好な搬送性と離型性を備える画像加熱装置を提供することができる。
【0089】
《第2の実施形態》
図7に本発明第2の実施形態における、加圧部材40の概略図を示す。図7(a)は加圧部材40の基材41の凹凸構造43加工施行後における概略外観図であり、図7(b)は加圧部材40の長手方向断面構造の概要図である。図7(a)に示すように、本実施形態において、離型層42は凹凸構造43を内包する厚さで前記基材41の上方に設けられる。
【0090】
第1の実施形態では、ブラスト処理により基材41に凹凸構造43を付与した。しかし、ブラスト処理では一般に凹凸構造43を深く形成するのが難しい。また、凸部の高さムラを小さく抑えることが難しい。
【0091】
そこで、本実施形態ではベルダー加工により、スリット形状の凹凸構造43を付与した。これによって、凹凸構造43を深く形成することができ、かつ凸部の高さムラの発生を小さく抑えることができる。
【0092】
本実施形態では、加圧部材40は、板厚0.8mmのジンコート鋼板を基材とし、加熱処理により表層メッキ部を除去した後に、幅方向(短手方向)に対して平行なスリット形状となるようベルダー加工を施し基材41上に凹凸構造43を付与した。ベルダー加工後の長手方向における表面粗さはRa8μm、Rz42μmであった。凹凸構造43を付与した基材上にPEEK/PFAからなる離型層42をコーティングにより凸部を基準に20μmの厚みで形成し、焼成した。本実施形態ではベルダー加工により幅方向(短手方向)に対して方向性が一様な凹凸構造43を付与したが、加工方法は限定するものではない。
【0093】
本実施形態では使用に伴い、ニップNt部の離型層42の表層部分が磨耗した状態においては、幅方向(短手方向)に関して、断面構造は局所的に単一かつ平坦な状態である。また、長手方向に関しては図7(b)に示すように凹凸構造43形状による基材41と離型層42の混在状態となっている。これにより、ニップNt部においてブラスト処理による凹凸構造43形状付与の場合には、使用に伴い凹凸構造43の凸部で離散的に点接触となるのに対し、本実施形態ではスリットの凸部による線接触となる。
【0094】
本実施形態において、記録材Pの搬送性、磨耗量d、耐汚れ性に関して実験による比較評価を行った。結果を以下の表6に示す。
【0095】
【表6】
本実施形態では、加圧部材40の基材41にベルダー加工によりスリット状の凹凸構造43形状を付与したが、ニップNt部において基材41および離型層42が混在した状態である。表6から、通紙耐久実験を通じて、記録材Pの搬送性能、耐磨耗、耐汚れ性の観点において十分な性能であることが示された。
【0096】
また、本実施形態において、基材41の凹凸構造43の高さは第1の実施形態と同様であり、形成方法・形状によらず、前述した範囲であれば効果を発揮する。
【0097】
また、加圧部材40のニップNt部においては、使用に伴う磨耗作用により基材41と離型層42の混在状態となるが、基材41の占める割合が支配的になると記録材Pに対する摩擦抵抗が上昇し、搬送性に支障をきたす場合がある。ニップNtにおける基材41と離型層42の混合比の変化による影響を実験により評価した。
【0098】
簡単のため、基材41の表面凹凸構造43における凹部の占める割合で混合比を近似的に規定した。放電加工により幅70μm、高さ50μmの凸部を基材41に形成し、凸部の形成間隔を振ることにより磨耗が凸部に到達した段階での離型層混在比が80%、60%、40%、20%となるように加工を行った。加工の概要としては図7となる。これらの基材41に対し離型層42をコーティングし、通紙耐久による評価を行った。混在比(%)は通紙耐久後において、ニップNt部における離型層42の占める割合であり、100×離型層/(離型層+基材)で表される。離型層42は基材41の凸部より20μm程度の厚みと成るように形成した。30000枚通紙において問題なく搬送できれば○、スリップなど搬送に失敗した場合は×とした。実験結果を表7に示す。
【0099】
【表7】
表7に示すように、ニップNt部において離型層42の占める割合が多ければ、耐久を通じて搬送性は維持される。混在比が20%、つまり離型層42の占める比が低くなり基材41が析出した比が高くなると摩擦抵抗の上昇により記録材Pの搬送性等に影響が見られた。従って、ニップNt部においては離型層42の占める面積割合が40%以上であることが望ましい。
【0100】
また、第2の実施形態において、定着ニップNt部において基材表面の凹凸構造43がスリット状であると説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、凹凸構造43を2次元的に分散された配置(図では凸部を丸印で表記し、丸印の間が凹部となる)とすることもできる。
【0101】
《第3の実施形態》
第1、第2の実施形態では、基材41に凹凸構造43を設けることにより、離型層の削れが抑制され、低摩擦力を維持できることを説明した。しかし、図9(a)に示すように、離型層の厚みDが相当大きい場合には、初期状態と通紙耐久後の状態とでニップ形状の変化が大きくなってしまう。これにより、カールやジャムという問題が発生する場合があった。
【0102】
図9(b)に示す本実施形態では、加圧部材40のニップ部が初期から基材41と離型層42が混在することを特徴とする。これにより、初期から離型層の削れが抑制されるため、通紙耐久後のニップ形状の変化は少ない。即ち、初期から凹部に離型層が充填されるように構成される。
【0103】
図8に本実施形態における、加圧部材40の概略図を示す。本実施形態では、加圧部材40は、板厚0.8mmのジンコート鋼板を基材とし、加熱処理により表層メッキ部を除去した後に、ブラスト処理を行い基材表面に凹凸構造43を付与する。ブラスト処理後の表面粗さはRa2μm、Rz10μmであった。凹凸構造43を付与した基材上にPEEK/PFA/導電材からなる離型層をコーティングにより形成し焼成した後に、D=0μmかつ基材凹凸構造43の凸部高さムラを抑制するよう、バフ研磨を施した。研磨により削除した表層部分を図8の表層研磨削除部分45に示す。これにより、加圧部材40の表層摺動面は初期状態より、基材41と離型層42が共存した状態となっている。
【0104】
尚、本実施形態ではショットブラストによって凹凸構造43を付与したが、凹凸構造43付与加工の手段は特に制限するものではない。また、本実施形態においても、本発明の効果を得るためには、基材41の凹凸構造43の粗さ及び基材41と離型層42の面積割合は第1、第2の実施形態にて前述した範囲であれば効果を発揮する。本実施形態では表層の研磨においてバフ研磨を行ったが、研磨方法は特に制限するものではない。
【0105】
本実施形態では、研磨を行うことにより基材凹凸構造43の凸部高さムラを抑えることができる。それと共に、初期状態から基材41と離型層42の共存状態であることから、記録材Pの搬送に伴って引き起こされる磨耗が抑制され、ニップNt部の形状変化が耐久を通じて少なく、搬送性の安定化が達成される。
【0106】
(変形例)
以上、基材表面に凹凸構造を備え、その上に離型層を備える定着パッドにおいて、離型層として樹脂層が好ましいことを説明した。しかし、本発明はこれに限られない。
例えば、通紙の繰り返しによる磨耗を抑制するために、離型層として摩擦抵抗が低く表面硬度は高いDLCやTiN、CrN等のセラミックコーティング膜、金属物質を加圧部材の表面に配置することも考えられる。
【0107】
しかし、離型性が樹脂層ほど充分ではないため、通紙の繰り返しにより加圧部材のニップ部下流近傍にトナーや紙粉等が付着・堆積し、記録材の紙コバ等を汚してしまうことが考えられる。更に、記録材の搬送に対する摩擦抵抗に関しては前記樹脂材料に比べると高くなることが考えられる。
【0108】
即ち、基材表面に凹凸構造を備え、その上に離型層を備える定着パッドにおいて、離型層としては樹脂層がより好ましい
【符号の説明】
【0109】
21・・ヒータ、23・・ホルダー、24・・定着ステー、30・・定着ローラ、31・・芯金、32・・断熱弾性層、33・・熱伝導層、34・・表面離型層、40・・加圧部材、41・・基材、42・・離型層、43・・基材凹凸構造43付与面、Nh・・加熱ニップ、Nt・・定着ニップ、P・・記録材、T・・トナー画像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱回転体と、
前記加熱回転体に対向配置される固定加圧部材と、
を有し、前記加熱回転体と前記固定加圧部材とで形成されるニップ部に画像を担持した記録材を通紙させて前記記録材を加熱する画像加熱装置において、
前記固定加圧部材は、
凹凸付与加工により表面に凹凸構造が付与された基材と、
前記基材の前記凹凸構造の少なくとも凹部に充填される離型層と、
を有することを特徴とする画像加熱装置。
【請求項2】
前記離型層は前記凹凸構造を内包する厚さで前記基材の上方に設けられることを特徴とする請求項1に記載の画像加熱装置。
【請求項3】
前記離型層は樹脂層であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像加熱装置。
【請求項4】
前記基材は金属で形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の画像加熱装置。
【請求項1】
加熱回転体と、
前記加熱回転体に対向配置される固定加圧部材と、
を有し、前記加熱回転体と前記固定加圧部材とで形成されるニップ部に画像を担持した記録材を通紙させて前記記録材を加熱する画像加熱装置において、
前記固定加圧部材は、
凹凸付与加工により表面に凹凸構造が付与された基材と、
前記基材の前記凹凸構造の少なくとも凹部に充填される離型層と、
を有することを特徴とする画像加熱装置。
【請求項2】
前記離型層は前記凹凸構造を内包する厚さで前記基材の上方に設けられることを特徴とする請求項1に記載の画像加熱装置。
【請求項3】
前記離型層は樹脂層であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像加熱装置。
【請求項4】
前記基材は金属で形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の画像加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−73344(P2012−73344A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217069(P2010−217069)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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