説明

画像形成方法

【課題】複数の記録媒体の記録面同士を重ね合わせた状態で使用した場合に生じる「白もや」を抑制することができる画像形成方法を提供すること。
【解決手段】色材を含有するインクと、色材を含有せず前記インクとは反応しない液体組成物とを用いて、インク受容層を有する記録媒体にインクジェット方式で画像を形成する画像形成方法であって、記録面を互いに重ね合わせた状態で用いるための記録媒体Aと記録媒体Bにおいて、記録媒体Aに、特定の構造を有し25℃で固体である水溶性化合物を含有する前記液体組成物を付与し、かつ、記録媒体Bの非記録部と重なる記録媒体Aの領域には、記録媒体Bの記録部と重なる記録媒体Aの領域よりもその付与量を多くすることを特徴とする画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット方式による画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク滴を普通紙やインク受容層を有する紙などの記録媒体に付与して画像を形成する方法である。このインクジェット記録方法にて光沢紙や半光沢紙の記録媒体に写真画像を形成することができる。写真画像の画質を向上させるために、インクとは反応しない液体組成物を用いることについての種々の提案がなされている。一例として、ポリマーを含有する無色インクを有色インクの非記録部に付与することや、有色インクの記録デューティーに応じてポリマーを含有する無色インクの付与量を調整することに関する提案がなされている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−532924号公報
【特許文献2】特開2007−276482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、出力された画像の保存形式として、出力物を製本し、アルバムなどの形式とした、いわゆるフォトブックが急速に普及している。本発明者らもインクジェット記録方法にて光沢紙、半光沢紙に記録した画像のフォトブックを作成したところ、新たな課題を発見した。すなわち、画像と画像とを重ね合わせて製本を行った後に、しばらく放置すると、一方の記録媒体に接触していた他方の記録媒体における画像の形状として白いもや状のムラが生じるという現象が発生した。以降、本現象を「白もや」という。白もやが生じている領域では、ヘイズが高くなり、画像ににごりが発生しているように見える。
【0005】
そこで、本発明者らは、特許文献1及び2に示されているような樹脂成分を含有する液体組成物を非記録部に付与した。しかし、重ねた後の画像を確認してみたところ白もやはほとんど抑制されておらず、目視でも容易に確認できる程度であった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、インク受容層を有する、複数の記録媒体に記録した面同士を重ね合わせた状態で使用し場合に生じる、「白もや」を抑制することができる画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくとも色材を含有するインクと、色材を含有せず前記インクとは反応しない液体組成物とを用いて、インク受容層を有する記録媒体にインクジェット方式で画像を形成する画像形成方法であって、記録面を互いに重ね合わせた状態で用いるための記録媒体Aと記録媒体Bにおいて、記録媒体Aに、下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の水溶性化合物を含有する前記液体組成物を付与し、かつ、記録媒体Bの非記録部と重なる記録媒体Aの領域には、記録媒体Bの記録部と重なる記録媒体Aの領域よりもその付与量を多くすることを特徴とする画像形成方法を提供する。

(一般式(I)で表される化合物は25℃で固体であり、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、及び、置換若しくは無置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるいずれかを示し、R3は、−S−、−S(=O)、及び−S(=O)2のいずれかを示す。)

(一般式(II)で表される化合物は25℃で固体であり、R4は硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェット記録方法にてインク受容層を有する記録媒体に形成した複数の画像を、記録媒体に記録した面同士を重ね合わせた状態で使用する場合に生じる「白もや」の現象を抑制することができる画像形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明でいう「白もや」現象について説明した図である。
【図2】実施例の評価パターン及び評価方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
先ず、インクジェット方式によって形成された画像を重ね合わせた場合に発生する「白もや」という現象について説明する。図1(a)に示すように、記録部が全面に形成されている記録媒体(A面)と、記録部・非記録部が存在する記録媒体(B面)の記録面同士を重ね合わせ一定時間経過した後にそれぞれの記録媒体を確認してみる。すると、図1(b)に示すように、記録媒体(B面)の記録部と重なっていた記録媒体(A面)の領域に、B面に記録されていた画像の形状として白いもや状のムラが生じる。
【0011】
本発明者らは、上記で説明したような白もやが発生する原因を解析した。その結果、以下のようなメカニズムにより白もやが生じていることを突き止めた。インクジェット記録方法に用いるインクには一般的に、色材の他に、液体成分(水や、水に溶解した有機化合物、有機溶剤)などが含まれている。インク受容層を有する記録媒体にこのインクを用いて画像を形成すると、インクに含まれていた液体成分は、画像形成後の記録媒体の表面上にインクが存在しなくなった時点でも蒸発し切らず、インク受容層中に残存してしまう。これらのインク受容層中に残存した液体成分は、時間とともに徐々に蒸発するが、液体成分が蒸発し終わるまでにはかなりの時間を要する。通常、画像形成後にフォトブックを作製するような場合、液体成分が残留している状態で記録媒体の記録面を重ね合わせることになる。
【0012】
このとき、画像を形成した記録媒体の記録面同士を重ね合わせた場合には、これらの残存した液体成分は、蒸発により重ね合わせた互いの面を移動する場合がある。この移動の量や程度はインク受容層中に残存する液体成分の量に依存する。つまり、記録面内において記録デューティーが異なる画像においては、インク受容層中に残存する液体成分の量が記録面内で不均一となるため、重ね合わせた場合においても面間を移動する液体成分の量も不均一となる。その結果、記録媒体の領域によって、インク受容層内部に存在する液体成分の量が不均一となるため、インク受容層のヘイズが領域によって異なるようになり、これが白もやとして認識されるのである。なお、白もやが発生するような場合であっても、その領域には他方の画像の色は転写されていなかったため、色材の移動は生じないと言える。
【0013】
このメカニズムに基づいて、先の具体例において生じている現象をより詳細に説明する。図1(a)に示す通り、A面には記録面のほぼ全体に均一な画像が形成されており、B面には記録面の一部に画像が形成されている場合において説明する。B面において、画像が形成されていない部分(イ部)ではインク由来の液体成分が存在しないためB面からA面への液体成分の移動は発生しない。これに対し、画像が形成された部分(ロ部)にはインク由来の液体成分が僅かに存在するためその蒸発が起こり、B面からA面への液体成分の移動が発生してしまう。そのため、重ね合わせた後の図1(b)において、B面のハ部とニ部ではインク受容層中の液体成分の量が異なることとなる。そのため、インク受容層のヘイズも異なることとなり、結果として、A面にB面の画像の形状として白もやが認識されるようになる。
【0014】
上記メカニズムを確認するために、図1(a)に示すA面に比較的蒸気圧の高い2−ピロリドンが含まれないインクを付与して、さらにB面の(ロ)部に2−ピロリドンの40%水溶液(色材を含有しない液体組成物)を付与した。この2枚の記録媒体の記録面を重ね合わせて1日経過した後、画像を確認してみると、B面の記録部と重なっていたA面の領域(図1(b)のハ部)に白もやが発生していた。そして、白もやが生じた部分を解析したところ、B面だけに付与したはずの2−ピロリドンが検出された。これにより、B面からA面に2−ピロリドンが移動したことがわかる。2−ピロリドン以外の水溶性有機溶剤についても同様の検討を行ったところ、多くの水溶性有機溶剤でA面に白もやを生じさせることが確認された。しかし、本発明者らがさらに詳細に検討を行ったところ、驚くべきことに、下記の一般式(I)や一般式(II)で表される水溶性化合物であって、25℃で固体のものを用いた場合は、A面の(ハ)部のヘイズが低くなり、白もやが抑制された。
【0015】

(一般式(I)で表される化合物は25℃で固体であり、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、及び、置換若しくは無置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるいずれかを示し、R3は、−S−、−S(=O)、及び−S(=O)2のいずれかを示す。)

(一般式(II)で表される化合物は25℃で固体であり、R4は硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖を示す。)
【0016】
一般式(I)や一般式(II)で表される25℃で固体の水溶性化合物を使用した場合に、白もやが低減される(ヘイズが低くなる)メカニズムについて詳細に説明する。先ず、ヘイズが低くなったA面の(ハ)部(白もやが低減された領域)を解析したところ、先述した2−ピロリドンなどとは異なり、これらの水溶性化合物はほとんど検出されなかった。すなわち、これらの水溶性化合物はA面にほとんど移動しないことがわかった。
【0017】
しかし、一般式(I)や一般式(II)で表される構造を有していても、25℃で液体の水溶性有機溶剤を用いた場合は、画像形成後に重ね合わせることでその移動が発生した。これは、一般式(I)や一般式(II)の構造を有していても、25℃で液体の水溶性有機溶剤は、本発明で用いる25℃で固体の化合物に比べて蒸気圧が高い。そのため、蒸気圧が高い水溶性有機溶剤がインク受容層中に残存した場合には、記録面を重ね合わせた際に、徐々に該水溶性有機溶剤が蒸発し、移動が発生し、白もやが生じてしまったためと考えられる。すなわち、本発明で用いる25℃で固体の水溶性化合物は、先ずは蒸気圧が低めであるために、その移動が極僅かなものとなり、他の水溶性有機溶剤の場合とは異なり、A面に白もやを生じさせなかったと考えられる。
【0018】
また、エチレン尿素やトリメチロールプロパンは25℃で固体であり、インクジェット用のインクに一般的に使用される水溶性有機化合物のなかでも蒸気圧が相対的に低い部類に属する。しかし、これらの化合物を含有するインクを用いても、画像を形成後に重ね合わせることで、移動が発生し、画像Aに白もやが生じた。このように、例え25℃で固体の化合物であったとしても移動が発生する場合もあり、その場合には、重ね合わせた後で白もやが発生してしまう。
【0019】
この違いは、上記一般式(I)及び一般式(II)で表わされる化合物の特異な構造に大きく依存しているものと推測している。すなわち、一般式(I)及び一般式(II)の化合物はいずれも、その構造中に硫黄原子を有する。この硫黄原子に、酸素原子が2つ又は1つ結合している場合には、その構造により上記化合物は極性を有しているものと考えられる。また、硫黄原子に酸素原子が結合していない場合、硫黄原子には非共有電子対が存在する。一方、記録媒体のインク受容層中には、色材の定着性向上などのためにカチオン性の部位を有する化合物が含有されている場合が多い。したがって、受容層中のカチオン部と、一般式(I)及び一般式(II)で表される化合物の極性又は非共有電子対とは、ファンデルワールス力などにより弱い結合を生成している。そのため、これらの化合物はインク受容層内に留まり、移動が発生し難いものとなっているものと本発明者らは推測している。さらに、これらの化合物は、吸水性があり、A面の水分を吸水したため、B面の記録部のヘイズが低くなったと考えられる。
【0020】
本発明者らは、この一般式(I)や一般式(II)で表される25℃で固体の水溶性化合物の特性を用いて「白もや」を低減することはできないかと考えた。一般的なインクでは、一般式(I)や一般式(II)で表される25℃で固体の水溶性化合物の総量よりもその他の水溶性有機溶剤の総量の方が多い。このため、A面のヘイズが高くなり、白もやを生じさせてしまうと考えられる。そこで、一般式(I)や一般式(II)で表される25℃で固体の水溶性化合物を含有する液体組成物をインクの記録部と同じ部分に付与することで白もやの発生を抑えられないかと考えた。
【0021】
本発明者らの検討の結果、上記課題は、以下の方法で解決できることがわかり、本発明に至ったものである。すなわち、これらの水溶性化合物を含有する液体組成物を、記録媒体Aに付与する。この際、もう一方の記録媒体Bの非記録部と重なる記録媒体Aの領域には、記録媒体Bの記録部と重なる記録媒体Aの領域よりも液体組成物の付与量を多くすることで「白もや」が抑えられることが本発明者らの検討で分かった。
【0022】
上記方法が好ましい理由について詳細に述べる。
先ず、2枚の記録媒体同士が重なる図2に示すCase1、Case2の2つパターンについて検証を行った。それぞれ、Case1、Case2のパターンを100%デューティにて記録媒体A、記録媒体Bにインクを付与して画像を記録した。これらの記録媒体の記録面が重なり合うようにして1日放置した後に、記録媒体A、記録媒体Bにおける白もやの評価を行った。なお、Case1は、記録媒体Aの記録部が記録媒体Bの記録部に全て重なるパターンである。また、Case2は、記録媒体Aの記録部が記録媒体Bの記録部と非記録部の両方に重なるパターンである。
Case1の場合、上述したように、通常は記録媒体Bの記録部に記録媒体Aの画像の形状として白もやが生じてしまう。
【0023】
先ず、記録媒体A、Bの全面に液体組成物を付与した。しかし、記録媒体Bの記録部に生じる白もやは低減されなかった。これは、記録媒体の全面に液体組成物を付与したことによって液体成分の移動が相殺されてしまい効果が得られなかったからであると考えられる。
【0024】
そこで記録媒体Aの(ホ)だけに液体組成物を付与したところ、Case1の場合、記録媒体Bの記録部に生じる白もやが大きく低減された。これは、(ホ)に液体組成物を付与することによって、インク中の液体成分が移動して生じるヘイズを低くさせたからと考えられる。
【0025】
一方、Case2の場合はCase1の場合とは異なり、液体組成物を付与しないと記録媒体B側だけではなく記録媒体A側にも白もやが生じてしまう。そのため、記録媒体Bのヘイズを低くさせるために、記録媒体Bの記録部と重なる(ホ)に液体組成物を付与した。すると、記録媒体Bの記録部のヘイズは低くすることができた。しかし、(ホ)のヘイズが高くなり記録媒体Aに白もやが生じてしまう。これは、(ホ)に液体組成物を付与したことによって高まったヘイズと記録媒体Bからの液体成分の移動によって高まったヘイズが重なったことによってよりヘイズが高まったためと考えられる。
【0026】
そこで、Case2の場合には、(ヘ)に、(ホ)に付与した液体組成物よりも多くの液体組成物を付与したところ、記録媒体Aにおいても白もやが低減した。これは、記録媒体Bから液体成分の移動によって高まったヘイズの分だけ(ヘ)に液体組成物を多く付与することによって(ヘ)と(ホ)におけるヘイズとの差が減少したためと考えられる。
【0027】
なお、本発明において「デューティ」とは具体的には以下の式(1):
D=[N/(Lr×Wr)]×100 (1)
から算出することができる。前記式(1)において、Dはデューティであり、Nは単位面積あたりの実付与ドット数であり、Lrは単位面積あたりの縦解像度であり、Wrは単位面積当たりの横解像度である。
【0028】
<液体組成物の付与方法>
付与する順番はインクの後に液体組成物の順でもよいし、液体組成物の後にインクの順でもよい。インクを記録媒体に付与する方法はインクジェット記録方法であるが、液体組成物を記録媒体に付与する方法には、ローラーコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェット記録方法が挙げられる。本発明者らが付与方法を検討した結果、精度よく選択的に付着せしめるインクジェット記録方法が最も好ましい。
【0029】
本明細書中の非記録部とは、全く記録されていない部分だけでなく白もやが目立つデューティ未満のものとしてもよい。Case1の場合、液体組成物の付与量は、非記録部よりも記録部の方が多くなっていればよく、記録部に対して付与する液体組成物の量を均等にする必要はない。例えば、記録部に対してグラデーションを付けて液体組成物の付与量を変えても構わない。他には、境界の部分をスムージングして液体組成物の付与量を調整しても構わない。
【0030】
また同様に、Case2の場合、重ね合わせた際に「記録媒体Bの非記録部と重なる記録媒体Aの領域」(図2(ヘ))には、「記録媒体Bの記録部と重なる記録媒体Aの領域」(図2(ホ))よりも液体組成物の付与量が多くなっていればよい。ゆえに、付与する液体組成物の量はそれぞれ均等にする必要はない。例えば、記録部と重なる領域と非記録部と重なる領域の境界からグラデーションを付けて液体組成物の付与量を変えても構わない。他には、境界の部分をスムージングして液体組成物の付与量を調整しても構わない。
【0031】
液体組成物の付与量は、「記録媒体Bの非記録部と重なる記録媒体Aの領域」(図2(ヘ))は「記録媒体Bの記録部と重なる記録媒体Aの領域」(図2(ホ))よりも7.5%デューティから25%デューティ程度多く付与することが好ましい。7.5%デューティよりも少ないデューティでは記録媒体Bからの水溶性有機溶剤の移動によって高まるヘイズの方が液体組成物を付与することによって高まるヘイズよりも大きいため「白もや」を抑えることが困難である。また、25%デューティよりも多いと液体組成物を付与することによって高まるヘイズの方が、記録媒体Bからの水溶性有機溶剤の移動によって高まるヘイズよりも大きい。そのため、「記録媒体Bの非記録部と重なる記録媒体Aの領域」が「記録媒体Bの記録部と重なる記録媒体Aの領域」よりも白もやの程度が相対的に劣ってしまう。
【0032】
また、本発明では、記録媒体を重ね合わせたときに記録部がもう一方の記録媒体のどこの領域に重なり合うかということを予め把握する必要がある。したがって、これらを付与する前にその付与量を決定することが必要である。ここで計算を行った部分に先述した相当量の液体組成物を付与する。
【0033】
<液体組成物>
本発明は、記録媒体に記録されたインクと同一箇所に液体組成物を付与することで白もやの発生を低減する。このため、液体組成物は画像形成には関与しないものでなければならない。そのため、本発明の液体組成物は共に色材を含まず、液体組成物の色が画像形成に影響を与えない透明なものである。すなわち、可視領域の吸光度が0.1以下であることが好ましい。さらに、色材と凝集や架橋などを起こさないことが必須であるので、色材の凝集や架橋を生じ得るカチオン性ポリマーや多価金属イオンを含有しないことが好ましい。
【0034】
本発明においては、上述したように、液体組成物中に下記一般式(I)及び/又は一般式(II)で表される水溶性化合物を含有させる。

(一般式(I)で表される化合物は25℃で固体であり、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、及び、置換若しくは無置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるいずれかを示し、R3は、−S−、−S(=O)、及び−S(=O)2のいずれかを示す。)

(一般式(II)で表される化合物は25℃で固体であり、R4は硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖を示す。)
【0035】
一般式(I)におけるR1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、及び、置換若しくは無置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるいずれかを示し、R3は、−S−、−S(=O)、及び−S(=O)2のいずれかを示す。これらの基が置換基を有する場合の置換基としては、ヒドロキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、スルホニル基、及びこれらの基のうち少なくとも2つを組み合わせた基からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0036】
本発明においては、一般式(I)で表される化合物は25℃で固体である。したがって、一般式(I)において、R1及びR2が共に水素原子である場合、R1及びR2が共にヒドロキシ基である場合、並びに、R1及びR2の一方が水素原子であり他方がヒドロキシ基である場合、は少なくとも含まれない。
【0037】
一般式(II)におけるR4は硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖である。具体的には、アルキレン基などが挙げられ、アルキレン鎖を構成する炭化水素鎖の途中が他の原子(例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子など)で中断されていてもよい。また、アルキレン基は置換基を有していてもよく、この場合の置換基としては、上記のR1及びR2の置換基として挙げたものとすることができる。
【0038】
本発明においては、一般式(I)や一般式(II)で表される化合物の水性媒体への溶解性の観点より、R1〜R4が炭素原子を含む基である場合、それぞれ独立に、炭素原子の数が1乃至12のものであることが好ましい。また、同様の理由により、置換基としてヒドロキシ基やカルボキシル基といった親水性基を有しているものがより好ましい。
【0039】
一般式(I)、一般式(II)で表される水溶性化合物の具体的な例を下記に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。





【0040】
本発明においては、一般式(I)におけるR1及びR2がそれぞれ独立にヒドロキシアルキル基であることが好ましく、R1及びR2が共にヒドロキシエチル基であることがより好ましい。特には、一般式(I)で表される化合物が、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンであることが好ましい。
【0041】
これらの水溶性化合物を用いて液体組成物を調製する際、一般式(I)、一般式(II)で表される、25℃で固体の水溶性化合物以外のものを、ある程度含有させても構わない。その場合には、一般式(I)、一般式(II)の水溶性化合物の総量は、他の水溶性有機溶剤の総量よりも多くすることが好ましい。液体組成物に使用することができる、一般式(I)、一般式(II)で表される水溶性化合物以外の水溶性有機溶剤としては、後述するインクに使用可能な水溶性有機溶剤として挙げたものと同等のものが挙げられる。一般式(I)、一般式(II)で表される水溶性化合物を含む、液体組成物中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、2.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0042】
また液体組成物中の、一般式(I)、一般式(II)で表される水溶性化合物の総量は、液体組成物全質量を基準として、2.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。つまり、液体組成物中の水溶性有機溶剤の全てが、一般式(I)、一般式(II)で表される水溶性化合物であってもよい。また、液体組成物中の水の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、50.0質量%以上98.0質量%以下であることが好ましい。
【0043】
<インク>
本発明の画像形成方法において、上記液体組成物と併用するインクは、用いる原材料の特性や製造方法については、特に限定されるものではないが、好ましい形態の例を具体的に説明する。該インクは少なくとも色材と、水、又は、水及び水溶性有機溶剤との混合溶媒を含有できる。
【0044】
インクにも、一般式(I)又は一般式(II)の水溶性化合物を含有させてもよく、その場合、好ましくは、一般式(I)及び/又は一般式(II)で表される水溶性化合物の総量が、他の水溶性有機溶剤の総量よりも少ない方がよい。これは、一般式(I)及び/又は一般式(II)で表される水溶性化合物の含有量が少ないインクで記録された記録部に、上述した液体組成物を付与する方が、効果がより大きいからである。
【0045】
本発明で使用するインクにおいて使用可能な水溶性有機溶剤としては、以下のものが挙げられる。例えば、1価ないしは多価のアルコール類、ポリアルキレングリコール類、アルキレン基の炭素数が2乃至6のアルキレングリコール類、多価アルコールの低級アルキル(炭素数1乃至4)エーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。また、水としては、イオン交換水や脱イオン水を使用することが好ましい。
【0046】
インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0047】
(色材)
上記インクの色材としては、染料や顔料を用いることができる。インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0048】
染料としては、直接染料、酸性染料、反応性染料、塩基性染料などが挙げられ、カラーインデックスに掲載されている染料などを用いることができ、また、カラーインデックスに記載されていない染料であっても、水溶性を有するものであれば用いることができる。また、顔料の種類としては、有機顔料やカーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。顔料の分散方式は、分散剤を用いる樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散顔料)を利用することができる。また、顔料自体の分散性を高めて分散剤などを用いることなく分散可能とした、マイクロカプセル顔料や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散顔料)を用いてもよい。さらには、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基が化学的に結合している改質された顔料(樹脂結合型自己分散顔料)を用いることができる。もちろん、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて使用することも可能である。
【0049】
(その他の成分)
本発明で用いるインク及び液体組成物には、上記の成分の他に必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤及び水溶性ポリマーなど、種々の添加剤を添加することができる。また、本発明で用いるインク及び液体組成物には、アニオン性やノニオン性の界面活性剤を添加してもよい。この際、25℃におけるインクの表面張力は、10mN/m以上、さらには20mN/m以上、また、60mN/m以下となるように界面活性剤の添加量を決定することが好ましい。
【0050】
<記録媒体>
本発明において使用する記録媒体は、インクを付与して記録を行う記録媒体であり、インク受容層を有するものであればいずれのものでも用いることができる。特には、光沢ないしは半光沢の性状を有する表面を持つ記録媒体を用いることが好ましい。具体的には、支持体の少なくとも一方の面に、シリカ、アルミナ又はその水和物などの顔料を主体とし、必要に応じてバインダやカチオン性ポリマーなどの添加剤を含んで構成されるインク受容層を有する記録媒体を用いることが好ましい。このような記録媒体は、顔料粒子で構成される多孔質構造の空隙によりインクを吸収するものであり、形成した画像が高品位なものとなるため好適である。
【0051】
支持体としては、前記インク受容層を形成することが可能であって、かつ、インクジェット記録装置の搬送機構によって搬送可能な剛度を与えるものが好ましく、例えば、パルプや填料を含んで構成される紙などが挙げられる。また、支持体の少なくとも一方の面にポリオレフィンなどの樹脂層を設け、さらにその上にインク受容層が形成されている記録媒体であってもよい。さらに、支持体の両面にインク受容層を有する記録媒体を用いることもできる。
【0052】
なお、本発明において用いる記録媒体は、所望のサイズに予めカットされたものであっても、また、ロール状に巻かれたシートを用い、画像形成後に所望のサイズにカットされるものであってもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」又は「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
【0054】
<インク、液体組成物の調製>
下記表1に示す各成分(単位:%)を混合して十分撹拌し、ポアサイズ0.2μmのフィルターにて加圧ろ過を行い、インク及び液体組成物を調製した。
【0055】

【0056】
<評価1>
2枚の記録媒体A、Bに図2のCase1及び2に示すパターンで、インク1を100%デューティで記録した。インク1を記録した後、処理1から7のいずれかを行い、記録媒体A、Bの記録面同士を24時間重ねた。その後、重ね合わせていた記録媒体を開いて、記録媒体A、Bにおける白もやの状態について評価を行った。評価結果を下記表2に示す。
なお、図2(ホ)は、記録媒体Bの記録部と重なる記録媒体Aの領域を、図2(ヘ)は、記録媒体Bの非記録部と重なる記録媒体Aの領域を示す。
処理1:何もしない。
処理2:(ホ)だけ液体組成物1を50%デューティ付与する。
処理3:(ヘ)だけ液体組成物1を50%デューティ付与する。
処理4:記録媒体A、Bの記録部全てに液体組成物1を50%デューティで付与する。
処理5:(ホ)と(ヘ)に液体組成物1を付与するが、(ホ)の方は65%デューティ、(ヘ)の方は50%デューティで付与を行う。
処理6:(ホ)と(ヘ)に液体組成物1を50%デューティで付与する。
処理7:(ホ)と(ヘ)に液体組成物1を付与するが(ホ)の方は50%デューティ、(ヘ)の方は65%デューティで付与する。
【0057】
<評価基準>
A:記録部に白もやが確認できない。
B:記録部に白もやが多少確認できる。
C:記録部にはっきりと白もやが確認できる。
<総合評価>
A:Case1及び2の評価の中にB及びCが1つもない。
B:Case1及び2の評価の中にB及びCが1つ以上ある。
【0058】

【0059】
上記の表2に示すように、実施例1のような重ね合わせる記録媒体の片側の記録部に液体組成物1を付与し、さらに非記録部と重なる領域は記録部と重なる領域よりも液体組成物1を多く付与することで白もやを低減することができた。
【0060】
<評価2>
次に付与する液体組成物を変更したことによる効果について評価を行った。
2枚の記録媒体A、Bに対して、Case1及び2に示す画像をインク1でそれぞれ記録した。その後、表3に示す各液体組成物により処理7を行った。記録面同士を重ね合わせ1日後、実施例1と同様、画像を開き記録媒体A、Bにおける白もやの状態を確認した。結果を下記表3に示す。評価基準は評価1と同じである。
【0061】

【0062】
以上の結果から、ビスヒドロキシエチルスルホンやビス(2−ヒドロキシエチル)スルホキシドなどの一般式(I)、一般式(II)で表わされる水溶性化合物を含む液体組成物を付与すれば、白もやを抑制する効果があることがわかった。一方、液体組成物に2−ピロリドンのような蒸気圧が高い水溶性有機溶剤を用いた場合は効果が得られなかった。また、液体組成物にエチレン尿素のような蒸気圧が比較的低い水溶性有機化合物を用いても、一般式(I)、一般式(II)で表わされる水溶性化合物が持つ効果は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも色材を含有するインクと、色材を含有せず前記インクとは反応しない液体組成物とを用いて、インク受容層を有する記録媒体にインクジェット方式で画像を形成する画像形成方法であって、
記録面を互いに重ね合わせた状態で用いるための記録媒体Aと記録媒体Bにおいて、
記録媒体Aに、下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の水溶性化合物を含有する前記液体組成物を付与し、かつ、記録媒体Bの非記録部と重なる記録媒体Aの領域には、記録媒体Bの記録部と重なる記録媒体Aの領域よりもその付与量を多くすることを特徴とする画像形成方法。

(一般式(I)で表される化合物は25℃で固体であり、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、及び、置換若しくは無置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるいずれかを示し、R3は、−S−、−S(=O)、及び−S(=O)2のいずれかを示す。)

(一般式(II)で表される化合物は25℃で固体であり、R4は硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖を示す。)
【請求項2】
前記水溶性化合物が、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホキシド、及び4−(2−ヒドロキシエチル)チオモルホリン−1,1−ジオキシドから選ばれる少なくともいずれかである請求項1に記載の画像形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−16932(P2012−16932A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157241(P2010−157241)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】