説明

画像形成装置、画像形成方法およびプログラム

【課題】インクリボンの位置決め誤差による改質リボンへの保護材の付着を抑制可能な、画像形成装置、画像形成方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】記録用紙51とインクリボン30との間に改質リボン40を挟み、記録用紙の印画位置およびインク層33を印画開口部42に合わせ、インク層を記録用紙に熱転写して印画層51を形成し、記録用紙の印画位置および保護材層35を印画開口部に合わせ、保護材層を記録用紙に熱転写して保護層52を形成し、記録用紙の印画位置および保護材層を表面性改質部43に合わせ、熱転写済みの保護材層37を通して記録用紙に表面性改質部を押当てて加熱して保護層の表面性を改質することを含み、表面性改質領域ARの外周部AEに温度制限領域を設定し、温度制限領域内での表面性改質部の加熱は、保護材層に残留した保護材35の改質リボンへの付着を防止可能な上限値T2により制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置、画像形成方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、熱転写プリンタとしては、主に昇華方式、溶融方式、感熱方式のプリンタが知られている。ところで、熱転写プリンタでは、画像面に微細な凹凸が生じることで、画像の光沢性が損なわれてしまう場合がある。このため、従来、画像面に平坦面を加熱押圧することで、画像面を平坦化して画像の光沢性を向上させる場合がある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、インク層および保護材層を有する熱転写シートと、印画開口部および表面性改質部を有する改質シートとを用いて画像の光沢性を向上させる画像形成方法が開示されている。
【0004】
この方法では、まず、被記録媒体と熱転写シートとの間に改質シートが挟まれる。つぎに、印画開口部を介して、被記録媒体にインク層を転写して印画層(画像)が形成され、被記録媒体に保護材層を転写して印画層上に保護層が形成される。そして、熱転写シートと改質シートを位置合せし、保護材層を転写した後の保護材層領域(以下、転写済みの保護材層とも称する。)を通して表面性改質部の平坦面を保護層に押当てて加熱することで、保護層の表面性が改質される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−248520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、表面性改質処理では、転写済みの一様な状態にある保護材層を通して加熱押圧することが望ましい。これは、転写済みの一様な状態にない保護材層を通して加熱押圧すると、保護材層に残留している保護材が改質シートに付着しうるためである。
【0007】
しかし、現実的には、熱転写シートと改質シートの位置合せ誤差により、転写済みの一様な状態にない保護材層を通して加熱押圧が行われる場合がある。そして、改質シートに保護材が付着すると、保護材の付着領域と非付着領域との間で改質シートの熱特性が変化し、表面性の改質不良や改質シートの剥離不良が生じてしまう場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、熱転写シートの位置決め誤差による改質シートへの保護材の付着を抑制可能な、画像形成装置、画像形成方法およびプログラムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある観点によれば、被記録媒体を所定方向に搬送する搬送部と、印画層を形成するために被記録媒体に熱転写されるインク層と、保護層を形成するために被記録媒体に熱転写される保護材層とを有する熱転写シートと、熱転写シートを走行させる転写シート走行部と、インク層および保護材層を被記録媒体の表面に接触させるための印画開口部と、保護層の表面性を改質するための表面性改質部とを有する改質シートと、改質シートを走行させる改質シート走行部と、被記録媒体にインク層および保護材層を熱転写させるとともに、熱転写済みの保護材層を通して被記録媒体に表面性改質部を押当てて加熱するためのサーマルヘッドとを備え、表面性を改質する領域の外周部に温度制限領域が設定され、温度制限領域での表面性改質部の加熱は、保護材層に残留した保護材の改質シートへの付着を防止可能な上限値により制限される、画像形成装置が提供される。
【0010】
温度制限領域での表面性改質部の加熱は、保護層の表面性を改質可能な下限値により制限されてもよい。
【0011】
温度制限領域の内側には、温度制限領域と他の領域との境界をなす緩衝領域が設定され、緩衝領域での表面性改質部の加熱は、温度制限領域と他の領域との間で生じる表面性改質部の加熱差を平滑化させるように制御されてもよい。
【0012】
温度制御領域は、表面性を改質する領域の外周部の少なくとも一辺に設定されてもよい。
【0013】
温度制御領域は、表面性を改質する領域の外周部を囲む四辺に設定されてもよい。
【0014】
また、本発明の別の観点によれば、被記録媒体と、インク層および保護材層を有する熱転写シートとの間に、印画開口部および表面性改質部を有する改質シートを挟み、被記録媒体、熱転写シートおよび改質シートを所定の方向に走行させ、被記録媒体の印画位置およびインク層を印画開口部に合わせ、インク層を被記録媒体に熱転写して印画層を形成し、被記録媒体の印画位置および保護材層を印画開口部に合わせ、保護材層を被記録媒体に熱転写して保護層を形成し、被記録媒体の印画位置および保護材層を表面性改質部に合わせ、熱転写済みの保護材層を通して被記録媒体に表面性改質部を押当てて加熱して保護層の表面性を改質することを含み、表面性を改質する領域の外周部に温度制限領域を設定し、温度制限領域内での表面性改質部の加熱は、保護材層に残留した保護材の改質シートへの付着を防止可能な上限値により制限される、画像形成方法が提供される。
【0015】
また、本発明の別の観点によれば、上記画像形成方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。ここで、プログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体を用いて提供されてもよく、通信手段等を介して提供されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、熱転写シートの位置決め誤差による改質シートへの保護材の付着を抑制可能な、画像形成装置、画像形成方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】画像形成装置の主要な構成の概略を示す図である。
【図2】インクリボンの構成を示す図である。
【図3】改質リボンの構成を示す図である。
【図4】画像形成処理の主要な工程を示すフロー図である。
【図5】画像形成処理の主要な工程を示す断面図である。
【図6】インクリボンの位置決め機構を示す図である。
【図7】位置決め誤差による保護材の付着状況を示す図である。
【図8】表面性改質処理時の熱伝達メカニズムを示す図である。
【図9】温度制限領域での温度制御範囲を示す図である。
【図10】温度制御範囲の設定状況を示す図である。
【図11】第1の実施形態に係る温度制限領域の設定例を示す図である。
【図12】第2の実施形態に係る緩衝領域の設定例を示す図である。
【図13】緩衝領域での温度制御例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
[1.画像形成装置1の構成]
まず、図1から図7を参照して、本発明を適用される画像形成装置1の一例について説明する。なお、以下では、画像形成装置1の一例として、昇華型プリンタの場合について説明する。図1には、画像形成装置1の主要な構成が示されている。
【0020】
図1に示すように、画像形成装置1には、サーマルヘッド11、被記録媒体50、熱転写シート30および改質シート40が設けられている。以下では、被記録媒体50を記録用紙50とも称し、熱転写シート30をインクリボン30とも称し、改質シート40を改質リボン40とも称する。
【0021】
サーマルヘッド11には、複数の発熱素子(不図示)がライン状に配列される。複数の発熱素子は、印画画像の階調レベルに応じて選択的に通電され、転写に用いる熱エネルギーを発生させる。サーマルヘッド11は、インクリボン30に形成されたインク層33(インク染料)を記録用紙50に転写させて、記録用紙50に印画層51(画像)を形成する。また、サーマルヘッド11は、インクリボン30に形成された保護材層35(保護材36)を記録用紙50に転写させて、記録用紙50に形成された印画層51上に保護層52を形成する。
【0022】
記録用紙50は、ロール紙として所定の位置に設置され、必要に応じて搬送される。記録用紙50は、例えばピンチローラ14およびキャプスタン15からなる搬送手段13により挟持され、搬送手段13の正逆回転駆動により上下流側に給送される。なお、上流側および下流側とは、記録用紙50の給紙側および排紙側を各々に意味する。記録用紙50は、搬送手段13により引出され、印画のためにサーマルヘッド11とプラテンローラ12の間を通過し、画像形成(印画層51、保護層52の形成および表面性改質処理)後に下流側でカッタC(図8、図11参照)により切断されて排紙される。
【0023】
なお、記録用紙50は、ロール紙に限定されず、いわゆるカット紙等の非ロール紙でもよい。この場合、記録用紙50の切断が不要となるので、カッタCを省略することができる。
【0024】
インクリボン30は、供給リール17、巻取りリール18および複数のガイドローラ(不図示)からなるインクリボン走行手段16により給送される。インクリボン30は、供給リール17から引出され、ガイドローラに導かれてサーマルヘッド11とプラテンローラ12の間を通過し、巻取りリール18に順次巻取られる。
【0025】
改質リボン40は、記録用紙50とインクリボン30との間に介在するように配置される。改質リボン40は、供給リール20、巻取りリール21および複数のガイドローラ(不図示)からなる改質リボン走行手段19により給送される。改質リボン40は、供給リール20から引出され、ガイドローラに導かれてサーマルヘッド11とプラテンローラ12の間を通過し、巻取りリール21に巻取られる。改質リボン40は、上流側から下流側と、下流側から上流側との二方向で自在に給送される。
【0026】
なお、画像形成装置1には、画像形成装置1の動作を制御するためのコントローラ22が設けられている。コントローラ22は、ハードウェアおよび/またはソフトウェアとして構成される。コントローラ22は、CPU、ROM、RAM等を含み、CPUは、ROM等から読み出されたプログラムをRAM上に展開して実行することで、本発明に係る画像形成方法を実現してもよい。
【0027】
図2には、インクリボン30の構成が示されている。図2に示すように、インクリボン30には、基材31の一面に易接着層32が形成されている。易接着層32には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)のインク層33Y、33M、33Cが形成されるとともに、剥離層34を介して透明な保護材層35が形成されている。インク層33(インク層の総称)および保護材層35は、インク層33Y、33M、33C、保護材層35の順序で周期的に形成されている。インク層33は、昇華性染料等の染料を塗布して形成され、保護材層35は、透明なラミネート樹脂等の保護材36を塗布して形成されている。
【0028】
保護材層35は、インク層33の転写により記録用紙50に印画層51が形成された後に転写されることで、印画層51を保護するための保護層52を形成する。保護層52は、印画層51の耐薬品・溶剤性、耐油脂性および耐磨耗性等を向上させる。また、保護層52は、画像の光沢性および品質を向上させる。
【0029】
保護材層35は、剥離層34を介して易接着性層32に形成されている。このため、保護材層35の転写時には、剥離層34と保護材層35との界面で剥離が生じ、剥離層34がインクリボン30側に残留し、保護材層35(保護材36)が記録用紙50に転写される。よって、保護材層35の転写性を向上させる。
【0030】
なお、基材31の他面には、耐熱滑性層38が形成される。耐熱滑性層38は、サーマルヘッド11とインクリボン30との間の摩擦を低下させ、インクリボン30の走行を安定化させる。
【0031】
インク層33および保護材層35は、記録用紙50に実際に転写される領域よりも大きな領域として形成されている。インク層33および保護材層35は、実際に転写される領域を囲むように形成されている。インク層33および保護材層35には、インクリボン30の走行方向の始端側と終端側に転写開始位置/終了位置Ys/Ye、Ms/Me、Cs/Ce,Ls/Leが設定されている。
【0032】
インクリボン30には、インク層33Y,33M、33Cおよび保護材層35の位置決めに用いるマーカーM(マーカーの総称)が形成されている。マーカーMは、インク層33Y、33M、33Cおよび保護材層35の各々の位置を示すマーカーMY、MC、MMと、インク層33Y,33M,33Cおよび保護材層35からなる組合せの周期を示すマーカーMPからなる。
【0033】
図3には、改質リボン40の構成が示されている。図3に示すように、改質リボン40には、基材41に印画開口部42および表面性改質部43(表面性改質部の総称)が長手方向に並んで形成されている。基材41は、ポリイミド等の樹脂材により形成されている。
【0034】
印画開口部42には、記録用紙50にインクリボン30を接触させるための開口が形成されている。印画開口部42は、その幅Wがサーマルヘッド11の主走査方向の長さよりも若干大きめに形成されている。
【0035】
表面性改質部43には、記録用紙50に形成された保護層52の表面性を改質するための改質面が形成されている。改質面は、表面性改質処理時に記録用紙50に押当てられる側の面に形成されている。改質面は、画像形成された最終印画物の表面性の仕様に応じて、鏡面、マット上げの凹凸面、絹目仕上げの凹凸面等として形成されている。表面性改質部43には、インクリボン30の走行方向の始端側と終端側に改質開始位置/終了位置Rs/Reが設定されている。
【0036】
図3には、表面性改質部43として、超光沢面用の第1の表面性改質部43a、マット調面用の第2の表面性改質部43b、および絹目調用の第3の表面性改質部43cを形成する場合の例が示されている。しかし、表面性改質部43の数および種類は、この例に限定されるものではない。
【0037】
基材41には、例えば、印画開口部42および表面性改質部43a、43b、43cが周期的に形成されている。そして、印画層51および保護層52の形成時には、サーマルヘッド11の発熱素子に対応する位置に印画開口部42が位置し、表面性改質処理時には、発熱素子に対応する位置に表面性改質部43が位置するように、改質リボン40が適宜自由に走行される。改質リボン40は、繰返し利用可能である。
【0038】
[2.画像形成処理]
図4には、画像形成処理の主要な工程が示されている。図4に示すように、まず、画像形成処理に必要な初期化処理(ステップS11)が行われる。初期化処理には、インク層33Yの転写開始位置Ysと記録用紙50の印画開始位置の位置合せが含まれる。位置合せが完了すると、インク層33Yが記録用紙50に転写される(ステップS12)。同様に、インク層33M、インク層33Cおよび保護材層35についても、記録用紙50の巻戻しおよびインクリボン30の引出しにより位置合せ(ステップS13、S15、S17)が行われ、位置合せ後に転写(ステップS14、S16、S18)が行われる。
【0039】
画像の光沢性は、保護層52の形成によりある程度向上するが、必ずしも所望の光沢性を得ることができない場合がある。これは、保護層52の表面は、基材31に形成された不十分な平坦性を有する剥離層34から剥離した保護材層35の剥離面として形成されるためである。このため、所望の表面性を有する表面性改質部43を用いて、保護層52の表面性を改質するための表面性改質処理が行われる。
【0040】
印画層51および保護層52の形成が完了すると、記録用紙50およびインクリボン30が巻戻され(ステップS19)、改質リボン40が引出される(ステップS20)。そして、転写済みの保護材層37(図7参照)の転写開始位置Lsおよび表面性改質部43の改質開始位置Rsが位置決めされる(ステップS21、S22)。位置決めが完了すると、保護層52は、転写済みの保護材層37を通して表面性改質部43を押当てられた状態で加熱される。これにより、表面性改質部43の表面性が保護層52の表面に転写されて、保護層52の表面性が改質される(ステップS23)。
【0041】
表面性改質処理が完了すると、保護材層35が位置決めされ(ステップS24)、改質リボン40およびインクリボン30が巻戻しされる(ステップS25、S26)。つまり、改質リボン40は、発熱素子に対応する位置に印画開口部42が位置するように巻戻され、インクリボン30は、発熱素子に対応する位置に次の周期の未転写のインク層33Yが位置するように巻戻される。そして、記録用紙50が切断されて排紙され(ステップS27)、所定の終了処理(ステップS28)が行われる。
【0042】
図5には、画像形成処理の主要な工程が示されている。図5では、改質面として鏡面を有する表面性改質部43を用いて、保護層52の表面を超光沢面に改質する例が示されている。
【0043】
まず、状態1に示すように、インク層33の転写により記録用紙50上に印画層51が形成され、さらに保護材層35の転写により保護層52が形成される。ここで、インク層33および保護材層35の転写時には、インク層33および保護材層35が印画開口部42を介して記録用紙50と接触する。
【0044】
つぎに、改質処理の開始前に、インクリボン30と改質リボン40が位置合せされる。ここで、改質処理時には、表面性改質部43の改質面が記録用紙50と接触し、転写済みの保護材層37が表面性改質部43の他の面と接触する。このため、インクリボン30および改質リボン40は、インクリボン走行手段16および改質リボン走行手段19の回転駆動により、保護層52の転写開始位置Ls(転写済み保護材層37の開始位置に相当する。)と表面性改質部43の改質処理の改質開始位置Rsが極力一致するように位置合せされる。
【0045】
具体的には、保護材層35の形成直後には、インクリボン30上では、保護材層35の転写終了位置Leが発熱素子の位置に対応している。また、改質リボン40上では、印画開口部42が発熱素子の位置に対応している。このため、改質処理の開始時には、保護材層35の転写開始位置Lsが発熱素子の位置に対応するように、インクリボン30が走行される。また、所定の表面性改質部43の改質開始位置Rsが発熱素子の位置に対応するように、改質リボン40が走行される。
【0046】
位置合せが完了すると、状態2に示すように、記録用紙50に改質シート40を押当てて加熱して改質処理が行われる。改質処理は、サーマルヘッド11とプラテンローラ12により保護層52に表面性改質部43を押当て、発熱素子の熱エネルギーにより保護層52を約70℃〜120℃程度に加熱した状態で、記録用紙50、インクリボン30および改質リボン40を同時に移動させながら行われる。
【0047】
すると、状態3に示すように、保護層52は、ガラス転移温度近傍の温度となり、やや軟化した状態で表面性改質部43と密着することになる。これにより、保護層52の表面は、表面性改質部43の表面性を転写されて、所望の表面性に改質される。そして、保護層52がサーマルヘッド11から離れるに従って、改質処理された領域の温度が低下することで、保護層52から改質リボン40が順次に剥離する。結果として、状態4に示すように、保護層52の表面は、銀塩写真に匹敵する超光沢面に改質される。
【0048】
図6には、インクリボン30の位置決め機構の一例が示されている。図6に示すように、位置決め機構は、インクリボン30上のマーカーMを検知するマーカーセンサSM(SM1、SM2)と、巻取りリールRRの回転角度を検知するリールセンサSRからなる。
【0049】
マーカーセンサSMは、インクリボン30の走行経路上で、インクリボン30の一面側に配置されるLED等の発光部SM1と、他面側に配置される受光部SM2からなる。マーカーセンサSMは、発光部SM1から照射された光がマーカーMにより遮蔽された状態を検出することで、マーカーMを検知する。リールセンサSRは、巻取りリールRRの回転面に一定間隔で形成されたスリットSS等をカウントすることで、リールRRの回転角度を検知する。
【0050】
例えば保護材層35を位置決めする場合、保護材層35のマーカーMLが検知されるまで、モータEMおよびリール駆動系DSにより巻取りリールRRが正回転駆動され、マーカーMが検知されると、モータEMの駆動が停止される。そして、所定の回転角度が検知されるまで、モータEMおよびリール駆動系DSにより巻取りリールRRが逆回転駆動され、所定の回転角度が検知されると、モータEMの駆動が停止される。所定の回転角度は、マーカーMの位置から保護材層35の転写開始位置Lsまでの距離に基づき設定される。
【0051】
このため、インクリボン30の位置決めには、マーカーセンサSMおよびリールセンサSRの検出精度、リールセンサSRの分解能(スリットSSの間隔)およびリール駆動系DSの追従性等に起因して誤差ΔEが生じてしまう。そして、位置決め誤差ΔEによって、表面性改質処理時には、改質リボン40に保護材36が付着してしまう場合がある。
【0052】
図7には、位置決め誤差ΔEによる保護材36の付着状況を示す図である。図7には、インクリボン30および改質リボン40の平面図および断面図が示されている。
【0053】
インクリボン30上には、インク層33C、33Yおよび保護材層35が示されている。インク層33Cおよび保護材層35は、記録用紙50へ転写済みの状態にあり、インク層33Yは、未転写の状態にある。保護材層35では、転写開始位置Lsから転写終了位置Leまでの範囲で保護材36が転写により保護材層35から剥離しているが、他の範囲で保護材36が保護材層35に残留している。
【0054】
表面性改質部43は、転写済みの保護材層37を通して記録用紙50に押当てられ、サーマルヘッド11の熱エネルギーを保護層52に伝達する。表面性改質部43は、改質開始位置Rsから改質終了位置Reまでの範囲に亘って押当てられる。表面性改質処理時には、転写済みの一様な状態にある保護材層37を通して加熱押圧を行うために、保護材層35の転写開始位置Lsと表面性改質部43の改質開始位置Rsが位置合せされる。
【0055】
しかし、前述したインクリボン30の位置決め誤差ΔEにより表面性改質部43の改質開始位置Rsが保護材層35の転写開始位置Lsからずれてしまう場合がある。図7では、改質開始位置Rsは、転写開始位置Lsよりも上流側に位置決めされている。よって、インクリボン30の走行方向の上流側では、転写済み保護材層37以外の領域を通して加熱押圧が行われることで、保護材層35に残留している保護材36が改質リボン40に付着してしまうことになる。
【0056】
このため、本発明の実施形態に係る画像形成方法では、改質リボン40への保護材36の付着を防止するために、保護層52の表面性を改質する領域AR(表面性改質領域AR)の外周部AEでは、改質リボン40の加熱が制限される。ここで、表面性改質領域ARの外周部AEとは、インクリボン30の位置決め誤差ΔE等に起因して、保護材層35に残留している保護材36が改質リボン40に付着する可能性がある領域を意味する。そして、表面性改質領域ARの外周部AEは、保護材36が付着する可能性のない領域である、表面性改質領域ARの中央部ACと区別される。
【0057】
[3.第1の実施形態]
まず、図8から図11を参照して、本発明の第1の実施形態に係る画像形成方法について説明する。第1の実施形態では、表面性改質領域ARの外周部AEに温度制限領域が設定される。
【0058】
図8には、表面性改質処理時の熱伝達メカニズムが示されている。表面性改質処理時には、インクリボン30上の転写済みの保護材層37と改質リボン40上の表面性改質部43を介して、サーマルヘッド11から記録用紙50上の保護層52に熱伝達が生じる。サーマルヘッド11では、複数の発熱素子(不図示)が選択的に通電制御されて、所定の熱エネルギーが発生する。そして、熱エネルギーは、保護材層35および表面性改質部43を介して保護層52まで伝達されて、保護層52の表面を加熱する。
【0059】
ここで、サーマルヘッド11では、その表面温度が温度T´に制御されるが、表面性改質部43では、その表面温度が制御されることがない。よって、表面性改質部43の表面温度Tは、記録用紙50の搬送速度等により規定される熱エネルギーの伝達条件に左右されることになる。
【0060】
図9には、表面性改質領域ARの外周部AEに設定される温度制限領域での温度制御範囲が示されている。図9では、横軸が表面性改質部43の表面温度Tを示し、縦軸が表面性の改質度および保護材36の付着度を示している。表面性の改質度は、例えば保護層52表面の光沢性を表す指標であり、保護材36の付着度は、改質リボン40への保護材36の付着量を表す指標である。
【0061】
図9に示すように、表面性改質部43の温度がT1以上では、表面性の改質度が上昇するが、T1未満では、表面性が実質的に改質されることがない。同様に、保護層52の温度がT2以上では、保護材36の付着度が上昇するが、T2未満では、保護材36が実質的に付着することがない。
【0062】
温度制限領域では、第1に、改質リボン40への保護材36の付着を防止することが求められる。よって、温度制御範囲の上限値は、改質リボン40への保護材36の付着を防止可能な最高温度として求められる。なお、温度制御範囲の上限値は、表面性改質部43や保護材36の材料特性等に応じて適切に設定されることになる。
【0063】
温度制御領域では、第2に、保護層52の表面性をある程度まで改質することが求められる。よって、温度制御範囲の下限値は、保護層52の表面性をある程度まで改質可能な最低温度として設定される。ただし、表面性改質部43の加熱が制限されているので、保護層52の表面性は、表面性改質領域ARの中央部ACで求められる改質度を満たせなくなる。
【0064】
図10には、温度制御範囲の設定状況が示されている。図10では、横軸が表面性改質部43の表面温度Tを示し、縦軸が表面性の改質度を示している。
【0065】
図10に示すように、温度制御範囲の下限値は、保護層52の表面性を所定の閾値thまで改質可能な最低温度T1として設定されている。また、温度制御範囲の上限値は、改質リボン40への保護材36の付着を防止可能な最高温度T2として設定されている。つまり、表面性改質部43の温度がT1未満では表面性が改質されず、T2以上では保護材36が付着してしまう。一方、表面性改質部43の温度がT1以上T2未満では、保護材36の付着を防止しながら、保護層52の表面性をある程度まで改質することができる。
【0066】
温度制御範囲の下限値T1および上限値T2は、例えば、サーマルヘッド11による印画濃度の設定値が0〜255(最高濃度:0、最低濃度:255)の値として設定される場合であれば、T1=190、T2=177として設定される。ここでは、熱エネルギーの標準的な伝達条件を仮定した上で、下限値T1および上限値T2をサーマルヘッド11による印画濃度の設定値として設定している。
【0067】
図11には、温度制限領域の設定例が示されている。図11に示す例では、表面性改質領域ARの四辺を囲むように温度制限領域が設定されている。なお、温度制限領域は、表面性改質領域ARの各辺で異なる幅を有する領域として設定されてもよい。また、温度制限領域は、表面性改質領域ARの四辺ではなく、例えば、記録用紙50の搬送方向に直交する辺にのみ設定されてもよく、搬送方向に平行する辺にのみ設定されてもよい。
【0068】
そして、表面性改質領域ARの外周部AEに相当する温度制限領域では、図10に示した温度制御範囲を満たすように、コントローラ22を通じて発熱素子の通電を制御することで、表面性改質部43の加熱が制限される。一方、表面性改質領域ARの中央部AC(温度制限領域以外の領域)では、改質リボン40への保護層52の付着を考慮せずに、保護層52の表面性を所望の水準まで改質可能な温度制御範囲で、コントローラ22を通じて発熱素子の通電が制御される。
【0069】
[4.第2の実施形態]
つぎに、図12および図13を参照して、本発明の第2の実施形態に係る画像形成方法について説明する。第2の実施形態では、表面性改質領域ARの外周部AEに温度制限領域が設定されるとともに、表面性改質領域ARの中央部ACに、温度制御領域に隣接して緩衝領域ABが設定される。
【0070】
第1の実施形態では、表面性改質領域ARの外周部AEに温度制限領域のみを設定したので、表面性改質領域ARの外周部AE(温度制限領域)と中央部AC(温度制限領域以外の領域)との間で表面性の改質度の差が大きくなる。よって、表面性改質領域ARの外周部AEと中央部ACとの境界では、画像の質感に顕著な差が生じてしまう場合がある。
【0071】
図12には、緩衝領域ABの設定例が示されている。図12に示す例では、表面性改質領域ARの外周部AEに温度制限領域が設定され、表面性改質領域ARの中央部ACに温度制御領域に隣接して緩衝領域ABが設定されている。なお、緩衝領域ABは、温度制限領域の設定状況に応じて、表面性改質領域ARの中央部ACに設定される。
【0072】
図13には、緩衝領域ABでの温度制御例が示されている。図13では、横軸が表面性改質領域ARの外周端からの距離を示し、縦軸が表面性改質部43の表面温度Tを示している。
【0073】
図13の状態1では、表面性改質領域ARの中央部ACに緩衝領域ABが設定されていない。このため、温度制限領域で表面性改質部43の加熱を制限することで、表面性改質領域ARの外周部AEと中央部ACとの間では、表面温度に大きな差が生じている。これにより、表面性改質領域ARの外周部AEと中央部ACとの境界では、表面性の改質度の差が大きくなり、画像の質感に顕著な差が生じてしまう場合がある。
【0074】
一方、状態2では、表面性改質領域ARの中央部ACに緩衝領域ABが設定されている。このため、緩衝領域ABで、表面温度の差を段階的に変化させるように、コントローラ22を通じて発熱素子の通電を制御することができる。ここで、発熱素子の通電は、表面性改質領域ARの外周部AEから中央部ACに向かって表面性改質部43の加熱温度が除々に高くなるように制御される。これにより、表面性改質領域ARの外周部AEと中央部ACとの境界では、表面性の改質度の差が小さくなり、画像の質感に顕著な差が生じることが抑制される。
【0075】
[5.まとめ]
以上説明したように、本発明の実施形態に係る画像形成方法によれば、表面性改質領域ARの外周部AEに設定される温度制限領域での表面性改質部43の加熱が、保護材層35に残留した保護材36の改質リボン40への付着を防止可能な上限値T2により制限される。これにより、インクリボン30の位置決め誤差ΔEが生じても、温度制限領域内に位置決め誤差ΔEを吸収できる場合には、改質リボン40への保護材36の付着を防止することができる。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0077】
例えば、上記説明では、本発明を昇華型プリンタに適用する場合について説明したが、本発明は、溶融型プリンタ、感熱型プリンタ等の熱転写プリンタにも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 画像形成装置
11 サーマルヘッド
12 プラテンローラ
13 搬送手段
16 インクリボン走行手段
19 改質リボン走行手段
22 コントローラ
30 インクリボン
33 インク層
35 保護材層
36 保護材
37 転写済みの保護材層
40 改質リボン
42 印画開口部
43 表面性改質部
50 記録用紙
51 印画層
52 保護層
AR 表面性改質領域
AE 表面性改質領域の外周部
AC 表面性改質領域の中央部
AB 緩衝領域
ΔE 位置決め誤差


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を所定方向に搬送する搬送部と、
印画層を形成するために前記被記録媒体に熱転写されるインク層と、保護層を形成するために前記被記録媒体に熱転写される保護材層とを有する熱転写シートと、
前記熱転写シートを走行させる転写シート走行部と、
前記インク層および前記保護材層を前記被記録媒体の表面に接触させるための印画開口部と、前記保護層の表面性を改質するための表面性改質部とを有する改質シートと、
前記改質シートを走行させる改質シート走行部と、
前記被記録媒体に前記インク層および前記保護材層を熱転写させるとともに、熱転写済みの保護材層を通して前記被記録媒体に前記表面性改質部を押当てて加熱するためのサーマルヘッドと
を備え、
前記表面性を改質する領域の外周部に温度制限領域が設定され、
前記温度制限領域での前記表面性改質部の加熱は、前記保護材層に残留した保護材の前記改質シートへの付着を防止可能な上限値により制限される、画像形成装置。
【請求項2】
前記温度制限領域での前記表面性改質部の加熱は、前記保護層の表面性を改質可能な下限値により制限される、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記温度制限領域の内側には、前記温度制限領域と他の領域との境界をなす緩衝領域が設定され、
前記緩衝領域での前記表面性改質部の加熱は、前記温度制限領域と前記他の領域との間で生じる前記表面性改質部の加熱差を平滑化させるように制御される、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記温度制御領域は、前記表面性を改質する領域の前記外周部の少なくとも一辺に設定される、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記温度制御領域は、前記表面性を改質する領域の前記外周部を囲む四辺に設定される、請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
被記録媒体と、インク層および保護材層を有する熱転写シートとの間に、印画開口部および表面性改質部を有する改質シートを挟み、
前記被記録媒体、前記熱転写シートおよび前記改質シートを所定の方向に走行させ、
前記被記録媒体の印画位置および前記インク層を前記印画開口部に合わせ、前記インク層を前記被記録媒体に熱転写して印画層を形成し、
前記被記録媒体の前記印画位置および前記保護材層を前記印画開口部に合わせ、前記保護材層を前記被記録媒体に熱転写して保護層を形成し、
前記被記録媒体の前記印画位置および前記保護材層を前記表面性改質部に合わせ、熱転写済みの保護材層を通して前記被記録媒体に前記表面性改質部を押当てて加熱して前記保護層の表面性を改質すること
を含み、
前記表面性を改質する領域の外周部に温度制限領域を設定し、
前記温度制限領域内での前記表面性改質部の加熱は、前記保護材層に残留した保護材の前記改質シートへの付着を防止可能に制限される、画像形成方法。
【請求項7】
被記録媒体と、インク層および保護材層を有する熱転写シートとの間に、印画開口部および表面性改質部を有する改質シートを挟み、
前記被記録媒体、前記熱転写シートおよび前記改質シートを所定の方向に走行させ、
前記被記録媒体の印画位置および前記インク層を前記印画開口部に合わせ、前記インク層を前記被記録媒体に熱転写して印画層を形成し、
前記被記録媒体の前記印画位置および前記保護材層を前記印画開口部に合わせ、前記保護材層を前記被記録媒体に熱転写して保護層を形成し、
前記被記録媒体の前記印画位置および前記保護材層を前記表面性改質部に合わせ、熱転写済みの保護材層を通して前記被記録媒体に前記表面性改質部を押当てて加熱して前記保護層の表面性を改質すること
を含み、
前記表面性を改質する領域の外周部に温度制限領域を設定し、
前記温度制限領域内での前記表面性改質部の加熱は、前記保護材層に残留した保護材の前記改質シートへの付着を防止可能な上限値により制限される、画像形成方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−51284(P2012−51284A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196650(P2010−196650)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】