説明

画像形成装置

【課題】キャンセル対象の印刷ジョブを選択する期間の有効利用が図られた画像形成装置を提供すること。
【解決手段】複写機100は,キャンセル要求を受け付けたことを契機に(S101:YES),ユーザにキャンセル対象の印刷ジョブを選択させる(S112)。その後,ユーザが印刷ジョブを選択した状態で,当該印刷ジョブのキャンセル実行を指示するキャンセル実行指示を受け付けたことを契機に(S113:YES),当該印刷ジョブをキャンセルする(S114)。そして,画像形成装置は,キャンセル要求を受け付けてからキャンセル実行指示を受け付けるまでの間に(S113:NO),後続の印刷ジョブの印刷準備を行う(S121)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の印刷ジョブを受け付け可能な画像形成装置に関する。さらに詳細には,受け付けた印刷ジョブの中からキャンセルする印刷ジョブを選択させ,選択された印刷ジョブのキャンセルを実行する画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,複数の印刷ジョブを受け付け,順次に印刷処理を実行する画像形成装置が知られている。また,受け付けた印刷ジョブを一覧表示し,印刷ジョブの選択が可能であり,選択された印刷ジョブをキャンセルする画像形成装置が知られている。このような画像形成装置としては,例えば特許文献1に,複数のジョブを受け付け,複数のジョブを並列処理する画像形成装置であって,ストップキーが押下されると,処理中のジョブが一覧表示され,その中からキャンセル対象のジョブを選択する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−003004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,前記した従来の画像形成装置には,次のような問題があった。すなわち,従来の画像形成装置では,ユーザがキャンセル対象の印刷ジョブを選択している期間を有効利用しているとは言い難い。例えば特許文献1では,キャンセル対象の印刷ジョブを選択している間,印刷ジョブの印刷を継続しているが,他の印刷ジョブについての処理は行われていない。そのため,実行中の印刷ジョブをキャンセルした場合,そのキャンセル後に次の印刷ジョブの印刷準備を開始することとなり,印刷開始が遅延する。
【0005】
本発明は,前記した従来の画像形成装置が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,キャンセル対象の印刷ジョブを選択する期間の有効利用が図られた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題の解決を目的としてなされた画像形成装置は,印刷ジョブのキャンセルを要求するキャンセル要求を受け付ける要求受付手段と,キャンセル要求を受け付けたことを契機にキャンセル対象の印刷ジョブを選択させ,選択された印刷ジョブのキャンセル実行を指示するキャンセル実行指示を受け付ける実行受付手段と,キャンセル要求を受け付けてからキャンセル実行指示を受け付けるまでの間に,キャンセル要求の受け付け時に印刷実行中であった印刷ジョブに後続する印刷ジョブに対しての印刷準備処理を実行する前準備手段とを備えることを特徴としている。
【0007】
本発明の画像形成装置は,キャンセル要求を受け付けたことを契機に,ユーザにキャンセル対象の印刷ジョブを選択させる。その後,ユーザが印刷ジョブを選択した状態で,当該印刷ジョブのキャンセル実行を指示するキャンセル実行指示を受け付けたことを契機に,選択されている印刷ジョブをキャンセルする。さらに,本発明の画像形成装置は,キャンセル要求を受け付けてからキャンセル実行指示を受け付けるまでの間,後続の印刷ジョブ(つまり,待機中の印刷ジョブ)の印刷準備を行う。印刷準備処理は,印刷を開始するまでに行う必要がある処理であり,例えば,印刷データのメモリ展開,カラー画像についての画調整(位置調整,濃度調整等)が該当する。
【0008】
すなわち,本発明の画像形成装置では,ユーザがキャンセル対象を選択している作業期間に,後続の印刷ジョブの印刷準備が行われる。これにより,後続の印刷ジョブの印刷をより早期に開始でき,結果として作業期間の有効活用を図ることができる。特に,キャンセル要求を受け付けたときは,キャンセル要求時に印刷実行中であった印刷ジョブがキャンセルされる可能性が高い。そのため,後続の印刷ジョブの印刷準備を前もって進めておくことが好ましい。
【0009】
また,前準備手段は,キャンセル対象を選択するための操作の過程にある印刷ジョブを印刷準備処理の実行対象としないとよい。印刷ジョブがキャンセル操作の過程にある場合,その印刷ジョブはキャンセルされる可能性が高く,印刷準備処理が無駄になるおそれがある。そのため,そのような印刷ジョブについては,印刷準備処理を実行しない方が好ましい。なお,キャンセル対象を選択するための操作の過程にあることは,例えば,印刷ジョブを選択する選択手段の状態や,キャンセルの確認メッセージの表示によって判断できる。
【0010】
また,印刷準備処理は,印刷ジョブのデータの展開処理であるとよい。データの展開処理は,画像形成が必要ない内部的な処理である。そのため,実行が容易であり,ユーザへの影響が少ない。
【0011】
また,前準備手段は,印刷準備処理の負荷が大きい印刷ジョブを,負荷が小さい印刷ジョブよりも優先的に印刷準備処理の実行対象とするとよい。この構成によれば,メモリ展開が障害となって印刷開始が遅延する場合に,好適に対処できる。印刷準備処理の負荷の大きさは,例えば,データの種類やデータのサイズによって判断する。
【0012】
また,前準備手段は,複数の印刷ジョブの印刷準備処理を時分割で処理するとよい。この構成によれば,キャンセル後に残された印刷ジョブが,既に一部展開されているという状態が存在しやすくなる。すなわち,複数の印刷ジョブの印刷準備を並列に行うことで,そのうちの幾つかの印刷ジョブがキャンセルされたとしても,印刷準備が進んでいる印刷ジョブが残る可能性が高まる。
【0013】
また,前準備手段は,展開後のデータを記憶するメモリ容量が不足している場合に,他の印刷ジョブの展開後のデータの一部を上書きして展開データを記憶するとよい。この構成によれば,メモリに空きが無く,展開処理が実行できない事態を回避できる。
【0014】
また,前準備手段は,キャンセルが実行された後に,印刷待機となった印刷ジョブの展開データを消去するとよい。すなわち,キャンセル実行後に印刷待機となった印刷ジョブは,印刷準備処理としてデータを展開していたとしてもその展開データを直ちに利用することはない。そこで,そのような展開データを消去することで,メモリを開放して他の処理の負荷を軽減する。
【0015】
また,本発明の画像形成装置は,キャンセル要求を受け付けてからキャンセル実行指示を受け付けるまでの間,印刷動作を停止する停止手段を備えるとよい。この構成にすることで,ユーザにとって,キャンセル対象の印刷ジョブの選択を急かされずにすむ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,キャンセル対象の印刷ジョブを選択する期間の有効利用が図られた画像形成装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態にかかる複写機の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した複写機にかかる操作部の構成を示す図である。
【図3】図1に示した複写機の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】キャンセル要求後のキャンセルジョブ選択画面の一例(カーソル選択)を示す図である。
【図5】キャンセルジョブ選択後の確認画面の一例を示す図である。
【図6】複写機のキャンセル処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】複写機の印刷準備処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】複写機の準備対象ジョブ決定処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】印刷ジョブリストに登録されている印刷ジョブ例を示す図である。
【図10】キャンセル要求後のキャンセルジョブ選択画面の一例(チェックボックス選択)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明にかかる画像形成装置を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,複数の印刷ジョブを受け付け可能な複写機に本発明を適用したものである。
【0019】
[複写機の全体構成]
実施の形態の複写機100は,図1に示すように,周知の電子写真方式によって画像を形成する画像形成部10と,原稿の画像を読み取る画像読取部20とを備えている。また,画像読取部20の前面側には,液晶ディスプレイからなる表示部や,スタートボタン,ストップボタン,テンキー等から構成されるボタン群から構成される操作部40が設けられ,この操作部40により動作状況の表示やユーザによる入力操作が可能になっている。
【0020】
具体的に,操作部40は,図2に示すように,各種の設定画面やメッセージを表示する表示部41と,コピー開始等を指示するスタートボタン42と,印刷ジョブをキャンセルするストップボタン43と,設定画面中の項目選択の切り換えに利用する方向ボタン46と,数値入力に利用するテンキー47とを備えている。これらのボタンは,印刷ジョブをキャンセルする際にも利用される。
【0021】
また,複写機100は,複数の印刷ジョブを受け付け可能であり,受け付けた印刷ジョブは印刷ジョブリストに登録される。そして,複写機100は,受け付けた印刷ジョブ順に1つずつ印刷を実行する。他の印刷ジョブを印刷実行中に受け付けた印刷ジョブは,印刷の順番を待つ待機ジョブとなる。
【0022】
なお,印刷対象となる印刷データは,印刷開始までに記憶されていればよい。そのため,印刷データの受信は,印刷ジョブの受け付け時であってもよいし,印刷開始直前であってもよい。本形態では,受け付け時に印刷データを受信するものとして説明する。
【0023】
[複写機の電気的構成]
続いて,複写機100の電気的構成について説明する。複写機100は,図3に示すように,CPU31と,ROM32と,RAM33と,NVRAM(不揮発性RAM)34と,ASIC35と,ネットワークインターフェース36とを備えた制御部30を備えている。また,制御部30は,画像形成部10,画像読取部20,操作部40等と電気的に接続されている。画像形成部10,画像読取部20,および操作部40は,制御部30によって制御され,それぞれが独立して動作する。
【0024】
ROM32には,複写機100を制御するための各種制御プログラムや各種設定,初期値等が記憶されている。RAM33は,各種制御プログラムが読み出される作業領域として,あるいは画像データを一時的に記憶する記憶領域として利用される。
【0025】
CPU31は,ROM32から読み出した制御プログラムや各種センサから送られる信号に従って,その処理結果をRAM33またはNVRAM34に記憶させながら,複写機100の各構成要素(例えば,露光装置の点灯タイミング,用紙搬送用の各種ローラの駆動モータ(不図示),画像読取部20を構成するCCDユニットの移動用モータ(不図示))を,ASIC35を介して制御する。
【0026】
ネットワークインターフェース36は,LAN等のネットワークに接続され,複写機100用のドライバが組み込まれたPC200等との接続を可能にしている。複写機100は,ネットワークインターフェース36を介して印刷ジョブのやりとりを行うことができる。
【0027】
[複写機のキャンセル動作]
続いて,複写機100におけるキャンセル動作について説明する。複写機100は,操作部40に入力される指示によって,受け付けた印刷ジョブの中からユーザが希望する印刷ジョブをキャンセルすることができる。
【0028】
具体的に,複写機100は,印刷実行中にストップボタン43の押下を検知することで印刷を停止する。そして,図4に示すように,受け付け済みの印刷ジョブを表示部41に一覧表示し,キャンセルを希望する印刷ジョブの選択を可能にする。ユーザは,キャンセルを希望する印刷ジョブをカーソル411によって選択し,スタートボタン42を押下する。
【0029】
その後,複写機100は,図5に示すように,選択された印刷ジョブ,すなわちキャンセル対象となった印刷ジョブの確認を行う確認画面を表示する。この確認画面の表示によってユーザに注意を促し,誤操作によるキャンセルを防止する。その後,複写機100は,スタートボタン42の押下を再び検知することで,選択された印刷ジョブをキャンセルする。
【0030】
すなわち,複写機100では,印刷実行中でのストップボタン43の押下によって実行中の印刷ジョブを直ちにキャンセルするのではなく,キャンセル対象を選択する画面を表示する。つまり,印刷実行中でのストップボタン43の押下が,複写機100にとってのキャンセル要求になる。そして,ユーザの選択を待ち,さらに確認画面からの操作によって印刷ジョブのキャンセルを実行する。つまり,確認画面表示中でのスタートボタン42の押下が,複写機100にとってのキャンセル実行指示になる。
【0031】
[キャンセル処理]
以下,上述したキャンセル動作を実現するキャンセル処理(要求受付手段,実行受付手段,前準備手段,停止手段の一例)を,図6のフローチャートを参照しつつ説明する。なお,本キャンセル処理は,印刷ジョブを受け付けたことを契機に,制御部30によって実行される。
【0032】
まず,キャンセル要求を受け付けたか否かを判断する(S101)。キャンセル要求を受け付けていない場合には(S101:NO),待機ジョブを含めて印刷ジョブが有るか否か,すなわち全ての印刷ジョブの処理が終了したか否かを判断する(S102)。印刷ジョブが有る場合には(S102:YES),S101に戻る。印刷ジョブが無い場合には(S102:NO),本処理を終了する。
【0033】
一方,キャンセル要求を受け付けた場合には(S101:YES),現在実行中の印刷ジョブの印刷を停止する(S111)。そして,現在印刷対象となっている印刷ジョブを含む受け付け済みの印刷ジョブを,表示部41に一覧表示する(S112)。これにより,キャンセルする印刷ジョブの選択を可能にする。
【0034】
その後,キャンセル実行指示が受け付けたか否かを判断する(S113)。キャンセル実行指示を受け付けていない場合には(S113:NO),印刷の前準備を行う印刷準備処理を実行する(S121)。この印刷の前準備としては,例えば,圧縮状態で受信した印刷データの展開や,カラー画像であれば画調整(位置補正や濃度補正)用の補正値の更新が該当する。本形態では,印刷準備処理として,印刷データの展開を行う。
【0035】
ここで,S121の印刷準備処理の詳細について,図7のフローチャートを参照しつつ説明する。まず,印刷準備が実行開始済みであるか否かを判断する(S201)。印刷準備が実行開始済みであれば(S201:YES),その処理を優先して本処理を終了する。
【0036】
印刷準備が実行開始済みでなければ(S201:NO),印刷準備を行う印刷ジョブを決定する(S202)。本形態では,印刷待ちとなっている待機ジョブのうち,印刷優先順位が高い順に,2つの印刷ジョブを印刷準備の対象とする。なお,待機ジョブが1つしかない場合には,その1つのみが印刷準備の対象となる。また,ここでいう「待機ジョブ」は,停止中の先頭ジョブを包含しない。
【0037】
次に,印刷準備の対象が複数あるか否かを判断する(S203)。印刷準備の対象が複数ある場合には(S203:YES),複数の印刷ジョブの印刷準備を時分割で並列処理する時分割処理の設定が有るか否かを判断する(S204)。この設定は,設計段階で決定されるものであり,出荷前にROM32に記憶される。時分割処理の設定が有る場合には(S204:YES),印刷準備について時分割処理を行うように設定する(S204A)。これにより,本形態では2つの印刷ジョブについての印刷準備が並列に進行する。そのため,印刷準備途中に,一方の印刷ジョブについてのキャンセル実行指示を受け付けたとしても,その印刷ジョブについての印刷準備は無駄になるが,他方の印刷ジョブについては印刷準備が少なからず完了している状態になる。つまり,キャンセル実行後,少なくとも1つの印刷ジョブについては既に一部展開されている状態になる。一方,時分割処理の設定が無い場合には(S204:NO),複数の印刷ジョブの印刷準備を逐次処理するように設定する(S204B)。なお,印刷準備の対象が複数ない場合には(S203:NO),並列処理する必要はないため,時分割の設定は行わない。
【0038】
次に,メモリに十分な空きがあるか否かを判断する(S205)。メモリの空きの判断は,メモリの実際の空き容量と,展開される印刷データのサイズと比較して,メモリの空き領域に記憶可能か否かによって判断してもよいし,メモリの必要空き容量の閾値をあらかじめ用意し,その閾値以上か否かによって判断してもよい。
【0039】
メモリに十分な空きがある場合には(S205:YES),メモリの空き領域にデータを展開する方法を選択する(S206)。一方,メモリに十分な空きがない場合には(S205:NO),既存の展開データを上書きする方法を選択する(S211)。すなわち,キャンセルされる可能性が高い現在実行停止中の印刷ジョブの展開データを上書きする。これにより,メモリに空きが無く,展開処理が実行できない事態を回避する。
【0040】
なお,S211の上書方法を選択すると,上書きによって既存の展開データの一部がなくなることになるが,展開元の圧縮状態の印刷データについては少なくとも印刷が完了するまで削除されない。そのため,仮に現在実行停止中の印刷ジョブがキャンセルされずに印刷再開された場合には,展開データの一部がないという状態に陥る可能性があるが,展開処理を再度行うことで印刷を継続できる。
【0041】
S206あるいはS211で展開方法を決定した後は,S202で決定した印刷ジョブについての印刷準備を開始する(S207)。すなわち,現在実行停止中の印刷ジョブに後続する印刷ジョブの,データの展開処理を開始する。なお,S207では,印刷準備を開始するとともに,印刷準備を実行開始したことを記憶する。
【0042】
図6のキャンセル処理の説明に戻り,キャンセル実行指示を受け付けた場合には(S113:YES),選択された印刷ジョブのキャンセルを実行する(S114)。すなわち,選択された印刷ジョブの印刷データおよび展開データを消去し,当該印刷ジョブを印刷ジョブリストから削除する。
【0043】
次に,不要な展開データがあるか否かを判断する(S115)。不要な展開データとしては,例えば,キャンセル対象となった印刷ジョブの展開データが該当する。そのような展開データがある場合には(S115:YES),その展開データを削除する(S131)。
【0044】
なお,不要な展開データとして,キャンセル対象となった印刷ジョブの他,キャンセルが実行された後に待機ジョブとなった印刷ジョブの展開データを,削除対象としてもよい。つまり,キャンセル実行後に,すぐには印刷されない展開データが該当する。すぐに印刷されない展開データを残したままにしておくと,メモリを圧迫し,印刷処理や他の処理(スキャン処理やデータ送信処理等)に悪影響を与える。そのため,すぐには印刷されない展開データは削除して,メモリの空きを多く確保するとよい。
【0045】
S131にて展開データを削除した後,あるいはすぐには印刷されない印刷ジョブの展開データがない場合には(S115:NO),印刷処理を開始する(S116)。つまり,実行停止中の印刷ジョブ,あるいは実行停止中の印刷ジョブがキャンセルされた場合には次の印刷ジョブの,印刷を再開する。S116後は,S102に移行する。
【0046】
このように,本キャンセル処理では,キャンセル要求を受け付けてからキャンセル実行指示を受け付けるまでの間に,現在実行停止中の印刷ジョブに後続する印刷ジョブの印刷準備を実行する。その後,印刷を再開すると,少なくとも一部が展開済みの印刷ジョブが存在し,効率よく次の印刷ジョブの実行に移行できる。
【0047】
[印刷準備対象の決定方法]
続いて,印刷準備対象の決定方法の,別例について説明する。S202では,印刷優先順位を基準に印刷準備対象を決定している(第1の決定方法)が,印刷準備対象の決定方法は,これに限るものではない。
【0048】
例えば,印刷準備動作の処理時間の長さを基準とし,処理時間が長い印刷ジョブを処理時間が短い印刷ジョブよりも優先的に印刷準備の対象となるようにしてもよい。例えば,印刷準備動作の処理時間が最も長い印刷ジョブを印刷準備対象とする(第2の決定方法)。印刷準備動作の処理時間の長さは,例えば,データの種類(画像データは展開に時間がかかるが,テキストデータは時間がかからない。また圧縮方式の違いによっても展開時間が変わる)や,データサイズ(データそのもののサイズやページ数)を基準に判断できる。このように印刷準備動作の処理負荷を基準にすることで,例えばメモリ展開が障害となって印刷開始が遅延するという問題に好適に対処できる。
【0049】
また,キャンセル対象を選択するための操作の過程(以下,「キャンセル操作過程」とする)にあるか否かを条件としてもよい(第3の決定方法)。キャンセル操作過程にあるか否か判断は,例えば,図4のような一覧表示中にカーソルが選択されている印刷ジョブは,キャンセル操作過程にあると判断できる。また,図5のような確認表示中の印刷ジョブは,キャンセル操作過程にあると判断できる。
【0050】
そして,キャンセル操作過程にある印刷ジョブは,印刷準備対象から外すこととする。すなわち,印刷ジョブがキャンセル操作過程にある場合,その印刷ジョブはキャンセルされる可能性が高く,印刷準備処理が無駄になるおそれがある。そのため,そのような印刷ジョブについては,印刷準備処理を実行しない方が好ましい。
【0051】
また,印刷ジョブを選択する際,印刷ジョブのユーザ属性を考慮してもよい(第3の決定方法の応用例)。すなわち,同じユーザのユーザ属性を有する印刷ジョブは,纏めてキャンセルされる可能性が高い。そこで,キャンセル操作過程にある印刷ジョブと異なるユーザ属性を有する印刷ジョブの中で,最も印刷優先順位が高い印刷ジョブを印刷準備対象としてもよい。
【0052】
ここで,第3の決定方法の応用例をS202に適用した場合の手順を,図8のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0053】
まず,印刷優先順位が最も高い先頭の待機ジョブ(「先頭待機ジョブ」とする)がキャンセル操作過程にあるか否かを判断する(S221)。キャンセル操作過程になければ(S221:NO),その先頭待機ジョブを印刷準備処理の対象に決定する(S222)。
【0054】
一方,キャンセル操作過程にあれば(S221:YES),次に印刷優先順位が高い待機ジョブ,つまり2番目に印刷優先順位が高い待機ジョブを抽出する(S231)。そして,抽出した待機ジョブ(「抽出待機ジョブ」とする)についてもキャンセル操作過程にあるか否かを判断する(S232)。キャンセル操作過程にあれば(S232:YES),S231に戻ってさらに次に印刷優先順位が高い待機ジョブを抽出する。
【0055】
キャンセル操作過程になければ(S232:NO),抽出待機ジョブのユーザ属性と,キャンセル操作過程にあるとされた待機ジョブ(例えば,先頭待機ジョブ)のユーザ属性とが同じであるか否かを判断する(S233)。同じであれば(S233:YES),S231に戻ってさらに次に印刷優先順位が高い待機ジョブを抽出する。
【0056】
同じでなければ(S233:NO),その抽出待機ジョブを印刷準備処理の対象に決定する(S234)。これにより,キャンセル操作過程にある印刷ジョブと異なるユーザ属性を有する印刷ジョブの中で,最も印刷優先順位が高い印刷ジョブが印刷準備処理の対象となる。
【0057】
このように,印刷準備の対象となる印刷ジョブは,現在実行停止中の印刷ジョブに後続する印刷ジョブであればよく,次に印刷予定の印刷ジョブに限らない。また,印刷準備の対象となる印刷ジョブは,1つや2つに限るものではない。すなわち,3つ以上であってもよい。
【0058】
ここで,上記各方法を採用した場合の具体例を説明する。本例では,図9に示すように,印刷ジョブリスト341に5つの印刷ジョブが登録されており,印刷準備対象として1つの印刷ジョブが選択されるものとする。本例では,先頭の印刷ジョブである「JOB1」が実行停止中の印刷ジョブであり,受付時間順に印刷優先順位が高いとする。
【0059】
本例で,第1の決定方法のように印刷優先順を基準とすると,受付時間が最も早い「JOB2」が印刷準備対象に決定される。一方,第2の決定方法のように印刷準備動作の処理時間の長さを基準(ここではデータサイズを基準)にすると,データサイズが最も大きい「JOB5」が印刷準備対象に決定される。
【0060】
また,第3の決定方法のように,基本は印刷優先順としつつ,キャンセル操作過程を考慮する場合,印刷優先順位が最も高い「JOB2」以外の印刷ジョブがキャンセル操作過程にあるならば,「JOB2」が印刷準備対象に決定される。一方,「JOB2」がキャンセル操作過程にあるならば,「JOB2」の次に印刷優先順位が高い「JOB3」が印刷準備対象に決定される。
【0061】
また,第3の決定方法の応用例のように,基本は印刷優先順としつつ,キャンセル操作過程を考慮し,さらにユーザ属性も考慮する場合,まず,印刷優先順位が最も高い「JOB2」のユーザ属性を取得する。そして,「JOB2」がキャンセル操作過程になければ,「JOB2」が印刷準備対象に決定される。一方,「JOB2」がキャンセル操作過程にあれば,「JOB2」の次に印刷優先順位が高い「JOB3」のユーザ属性と「JOB2」のユーザ属性とを比較する。ユーザ属性が異なれば,「JOB3」が印刷準備対象に決定される。一方,ユーザ属性が同じであれば,ユーザ属性が「JOB2」と異なる印刷ジョブであって,その中で最も印刷優先順位が高い印刷ジョブ(図9では「JOB4」)が印刷準備対象に決定される。
【0062】
以上詳細に説明したように本形態の複写機100では,キャンセル要求を受け付けてからキャンセル実行指示を受け付けるまでの間,すなわちユーザがキャンセル対象を選択している作業期間に,実行停止中の印刷ジョブに後続する印刷ジョブの印刷準備を行っている。これにより,後続の印刷ジョブの印刷をより早期に開始でき,結果として作業期間の有効活用を図ることができる。特に,キャンセル要求を受け付けたときは,キャンセル要求時に印刷実行中であった印刷ジョブがキャンセルされる可能性が高い。そのため,後続の印刷ジョブの印刷準備を前もって進めておくことで,効率よく次の印刷ジョブを実行できる。
【0063】
また,複写機100は,ユーザによる選択期間は印刷を停止していることから,現在印刷対象となっている印刷ジョブがキャンセル対象となったとしても,印刷を継続している場合と比較して印刷の無駄が少ない。また,印刷が停止していることから,ユーザにとって印刷ジョブの選択を急かされずにすむ。
【0064】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,複写機に限らず,複合機等,印刷機能を備えるものであれば適用可能である。また,プロセス部の画像形成方式は,電子写真方式に限らず,インクジェット方式であってもよい。
【0065】
また,実施の形態では,キャンセルする印刷ジョブを1つしか選択できないが,複数選択できるようにしてもよい。例えば,図10に示すようにチェックボックス412によって印刷ジョブ個々にキャンセルするか否かを選択し,複数の印刷ジョブを纏めてキャンセル可能にしてもよい。この場合,チェックボックス412がオンされた状態の印刷ジョブについては,キャンセル操作過程にあると判断できる。
【0066】
また,実施の形態では,印刷ジョブの受け付け時に印刷データを取得しているが,印刷時に取得するようにしてもよい。この場合,印刷準備処理として,未取得の印刷データを取得するようにしてもよい。
【0067】
また,実施の形態では,1回のキャンセル要求につき1回の印刷準備であり,印刷準備が実行開始済みであれば,それ以上の印刷準備を行っていないが,複数回の印刷準備を行ってもよい。すなわち,印刷準備が完了した後に,さらにメモリに余裕があり,待機ジョブの展開データを削除しない場合には,印刷準備を繰り返し行ってもよい。
【0068】
また,実施の形態では,印刷準備の対象が複数ある場合に,S204のように並列処理に切り換えているが,これに限るものではない。例えば,印刷優先順位に従って順番に処理してもよい。これにより,より優先順位が高い印刷ジョブについて印刷準備が完了する可能性が高まる。
【符号の説明】
【0069】
10 画像形成部
41 表示部
411 カーソル
42 スタートボタン
43 ストップボタン
100 複写機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷ジョブのキャンセルを要求するキャンセル要求を受け付ける要求受付手段と,
前記キャンセル要求を受け付けたことを契機にキャンセル対象の印刷ジョブを選択させ,選択された印刷ジョブのキャンセル実行を指示するキャンセル実行指示を受け付ける実行受付手段と,
前記キャンセル要求を受け付けてから前記キャンセル実行指示を受け付けるまでの間に,前記キャンセル要求の受け付け時に印刷実行中であった印刷ジョブに後続する印刷ジョブに対しての印刷準備処理を実行する前準備手段と,
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載する画像形成装置において,
前記前準備手段は,キャンセル対象を選択するための操作の過程にある印刷ジョブを印刷準備処理の実行対象としないことを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する画像形成装置において,
前記印刷準備処理は,印刷ジョブのデータの展開処理であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項3に記載する画像形成装置において,
前記前準備手段は,印刷準備処理の負荷が大きい印刷ジョブを,負荷が小さい印刷ジョブよりも優先的に印刷準備処理の実行対象とすることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載する画像形成装置において,
前記前準備手段は,複数の印刷ジョブの印刷準備処理を時分割で処理することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか1つに記載する画像形成装置において,
前記前準備手段は,展開後のデータを記憶するメモリ容量が不足している場合に,他の印刷ジョブの展開後のデータの一部を上書きして展開データを記憶することを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項3から請求項6のいずれか1つに記載する画像形成装置において,
前記前準備手段は,キャンセルが実行された後に,印刷待機となった印刷ジョブの展開データを消去することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1つに記載する画像形成装置において,
前記キャンセル要求を受け付けてから前記キャンセル実行指示を受け付けるまでの間,印刷動作を停止する停止手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1つに記載する画像形成装置において,
前記前準備手段は,印刷優先順位が高い印刷ジョブを,印刷優先順位が低い印刷ジョブよりも優先的に印刷準備処理の実行対象とすることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−107582(P2011−107582A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264872(P2009−264872)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】