説明

画像形成装置

【課題】画像形成装置(特にはキャリッジを備えたインクジェット記録装置)において、駆動ローラに対して従動ローラを加圧・解除する機構を簡単な構成にするとともに、画像形成装置(特にはキャリッジなどの)上方に配置されている部材との干渉を回避可能に構成することにより、装置の大型化を防止し、且つ、部品点数の低減を図る。
【解決手段】加圧解除機構32は、加圧ローラ30を駆動ローラ29上に保持するための加圧アームと、加圧アームを揺動自在に保持するための支点軸34と、支点軸34を保持するためのアームホルダと、加圧アームを介して加圧ローラ30を駆動ローラ29に加圧するための付勢力(加圧力)を発生させるための付勢部材36と、付勢部材36による加圧力の加圧・解除するための加圧解除部材37と、加圧解除部材37を揺動させるための回転軸とから主に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、複写機またはそれら複数の機能を組み合わせた複合機等の画像形成装置に関し、詳しくは、シートを画像形成部に搬送する駆動ローラへの従動ローラによる加圧・解除を行う加圧解除手段の構成部材が配設されている画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主走査方向に移動しながらインクを吐出して画像を記録する記録ヘッドを収容するキャリッジと、キャリッジに対する用紙搬送方向上流側に設けられる駆動ローラと従動ローラとで構成されるローラ対を有し、このローラ対により挟持・搬送された用紙を記録ヘッドに対向する記録位置へ搬送する画像形成装置としてのインクジェット記録装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1の図1に示されているように、駆動ローラ(同文献では搬送ローラ(27)に相当する)を記録ヘッド(7)と対向する側に配置し、従動ローラ(同文献では先端加圧コロ(25)に相当する)を記録ヘッド(7)側に配置するとともに、従動ローラを駆動ローラに加圧するリンク機構を従動ローラの上方に配置している。
【0003】
特許文献2には、その図1、図2に、シートを挟持搬送するローラ対(3,5)の一方のローラ(3)を他方のローラ(5)に付勢する構成が開示されている。図1には、回転可能に位置固定された一方のローラ(3)に対して、他方のローラ(5)の軸からシート搬送方向に延設された板バネ製のホルダ(6)の中ほどに対して偏芯カム(8)を介して、上方からローラ(5)を押付けることで、板バネ製のホルダ(6)の弾性変形により、ローラ(5)がローラ(3)に加圧されることが示されている。また、図2には、回転可能に位置固定されたローラ(5)に対して、上下方向に移動可能なローラ(3)が、ローラ(3)の下方に取り付けられたコイルバネ(22)により、ローラ(3)の下方からローラ(5)とのニップ部に向けて直接付勢されている構成が示されている。
【0004】
けれども、特許文献1および2の加圧構成だけでは、従動ローラと駆動ローラとの加圧力を解除する機構が開示されていないため、ジャム時に加圧力を解除することができず、シートに負荷を与えてしまう虞がある。そこで、例えば特許文献3に開示されているような、加圧手段と解除手段とが別の構成からなる加圧・解除機構(同文献の切替機構(5)に相当し、搬送ローラ(41)に対するニップローラ(42)の押し付けによる加圧・解除を行う機構を指す)を備えることで、ジャム発生時にシートに負荷を与えずシートを取り除くことが可能になる。
【0005】
一方、インクジェット記録装置、複写機、印刷機器などの画像形成装置において、多種類の記録紙(シート)サイズの搬送を行う手段を有するものに関して、サイズの異なる記録紙がスキューや斜行といった搬送不良を発生させずに、安定した搬送を実現するためのいくつかの方法が既に知られている(例えば、特許文献4参照)。
特許文献4には、長尺記録紙の出力を行う場合に一対のローラの両端、あるいはローラ軸方向全体の加圧力分布に起因する記録紙へのシワやひずみの発生を防止するという目的で、搬送ローラの加圧手段について、長手方向に複数に分割したローラのそれぞれの両端部にバネ圧を調整する機構を設けた構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的に、インクジェット記録装置等の画像形成装置では、上記した特許文献1の図1等に示されているようにローラ対(25,27)の用紙搬送方向上流側の上方(上側)に、キャリッジ(3)を主走査方向に案内するガイドレール(2)等のガイド部材(同公報の段落「0024」参照)、エンコーダセンサ(43)、キャリッジ筐体の一部が配置されているので、上記した特許文献3のような加圧・解除機構(切替機構(5))を設けると、加圧手段と解除手段とが別の構成であることにより、構成部品点数が多数必要となるとともに、上方に配置されているキャリッジ等の上記各種部材・部品と干渉してしまう。干渉しないようにするには、構成部品等を納めるために上方への空間を大きく確保する必要があるので、装置が大型化するという、問題点が生じる。
【0007】
一方、特許文献4記載の技術では、画像形成装置における記録紙の搬送手段は、特に記録紙を片側基準にセットして搬送する場合において、安定した搬送を行うために搬送ローラの軸方向にかかる加圧力を全て均等に調整することは手間がかかり極めて困難な作業であることが伺える。さらに、狭幅サイズの記録紙においては、そのような調整を行っても斜行を抑制できない場合がある、という問題点がある。
【0008】
また、特許文献4記載の技術を始めとした従来の技術では、搬送ローラの加圧力分布を目的の状態とするために、搬送ローラ(駆動ローラ)に対向する位置に複数に分割した加圧ローラを設ける搬送手段の構成の場合、それぞれの加圧ローラについて加圧力の微調整を行う必要があった。特に、搬送する記録紙にバックテンションが掛かる構成のために、搬送ローラをシートに対して摩擦力が大きく働く材質とする必要があるシート搬送装置を備えた画像形成装置においては、加圧ローラに作用する加圧力が記録紙の左右両端部でわずかな差があると、記録紙を搬送する力が不安定となり、記録紙の斜行を発生させる要因となってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、画像形成装置(特にはキャリッジを備えたインクジェット記録装置)において、駆動ローラ(駆動回転部材)に対して従動ローラ(従動回転部材)を加圧・解除する機構を簡単な構成にするとともに、画像形成装置(特にはキャリッジなどの)上方に配置されている部材との干渉を回避可能に構成することにより、装置の大型化を防止し、且つ、部品点数の低減を図ることを第1の目的とする。
【0010】
また、第1の目的に加えてまたは独立して、画像形成装置におけるシートの搬送手段において、搬送ローラ(従動回転部材)に与える加圧力の分布を均等に設定するのではなく、それぞれのシートサイズの中央部が最大となるように加圧力を切り替えることで、どのようなサイズのシートの場合でも安定したシートの搬送を得ることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するとともに上述した目的を達成するために、請求項ごとの発明では、以下のような特徴ある手段・発明特定事項(以下、「構成」という)を採っている。
請求項1記載の発明は、搬送されてきたシートに画像形成を行う画像形成部と、前記画像形成部におけるシート搬送方向上流側に配設され、前記画像形成部の画像形成領域へシートを搬送する駆動回転部材および該駆動回転部材に接離可能な従動回転部材からなる一対の回転部材と、前記従動回転部材を前記駆動回転部材に加圧およびその解除を行うための加圧解除手段とを有し、前記加圧解除手段は、一端が前記従動回転部材に取り付けられ、他端側が該一端と該他端との間に設けられた支点軸を中心にして前記一端と反対側に位置する付勢部材と、基端部が前記支点軸と前記付勢部材の前記他端との間に設けられた揺動軸に取り付けられ、前記加圧時に、先端部が前記付勢部材の前記他端を前記揺動軸を中心として揺動して押し込むことにより、前記支点軸を中心に該付勢部材を弾性変形させることで前記従動回転部材を前記駆動回転部材に加圧する加圧部、および該加圧部と一体的に形成され、前記加圧解除時に、前記付勢部材の前記他端を前記揺動軸を中心として前記加圧時と逆方向に揺動して押し込むことにより、前記一対の回転部材間に間隔を空けて保持する解除部を備えた加圧解除部材とを具備することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の画像形成装置において、前記加圧解除手段は、一端部が前記従動回転部材を回転可能に支持し、他端部が前記支点軸によって揺動可能に支持される支持部材を具備することを特徴とする画像形成装置。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の画像形成装置において、前記解除部と前記付勢部材の前記他端との係合が解除されたときであって、前記駆動回転部材と前記従動回転部材とが当接状態にあるとき、前記付勢部材の前記他端が前記一対の回転部材のニップ位置よりも下方に位置するように設定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1、2または3記載の画像形成装置において、前記解除部は、前記付勢部材の前記他端と当接する面よりも上方にオフセットした位置で当接する面を備えた段差部を有することを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の画像形成装置において、装置本体に取り付けられ、前記支点軸を保持する支点軸保持部材を有し、前記支点軸保持部材は、前記加圧解除時に、前記付勢部材が当接する当接部を備え、前記加圧解除部材は、前記加圧解除時に、前記付勢部材の前記他端が前記段差部と係合した後、前記支点軸保持部材と当接することで前記解除部のさらなる押し込みを規制する規制部を備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の画像形成装置において、前記支点軸保持部材には、前記当接部と、前記支点軸の変形を防止する軸変形防止部とが一体的に形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項1ないし6の何れか一つに記載の画像形成装置において、前記加圧解除部材は、前記加圧時に、前記加圧部が前記付勢部材と摺接する曲げR部と、装置本体と係合して前記加圧解除部材の前記揺動軸を中心とした揺動を規制する規制部とが一体的に形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項8記載の発明は、請求項1ないし7の何れか一つに記載の画像形成装置において、前記支点軸は、前記一対の回転部材のニップ位置よりも下方に配置されていることを特徴とする。
【0019】
請求項9記載の発明は、請求項1ないし8の何れか一つに記載の画像形成装置において、前記一対の回転部材は、シートを中央基準で搬送するよう構成されており、前記従動回転部材は、その軸方向に複数に分割された加圧ローラからなり、前記駆動回転部材は、前記加圧ローラと対向する位置に設けられた複数の駆動ローラからなり、前記付勢部材は、前記複数の加圧ローラに対応してバネ定数および形状が同じものが共通して用いられ、且つ、前記加圧部は、搬送するシートの中央部を最大加圧力とする略正規分布状に加圧力を付与するように、前記複数の加圧ローラに対応して前記押し込みの高さの異なるものが複数設けられていることを特徴とする。
【0020】
請求項10記載の発明は、請求項1ないし8の何れか一つに記載の画像形成装置において、前記一対の回転部材は、シートを片側基準で搬送するよう構成されており、前記従動回転部材は、その軸方向に複数に分割された加圧ローラからなり、前記駆動回転部材は、前記加圧ローラと対向する位置に設けられた複数の駆動ローラからなり、搬送するシートサイズに応じて、前記複数の加圧ローラの軸方向における加圧力分布を切り替える切替手段を有することを特徴とする。
【0021】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の画像形成装置において、前記切替手段は、搬送するシートの中央部を最大加圧力とする略正規分布状に加圧力を付与することを特徴とする。
【0022】
請求項12記載の発明は、請求項10または11記載の画像形成装置において、前記切替手段は、レバー部材によって加圧力の切り替えを段階的に切り替え可能な構成であることにより、複数のシートサイズにおいて前記加圧力の変更が可能であることを特徴とする。
【0023】
請求項13記載の発明は、請求項10ないし12の何れか一つに記載の画像形成装置において、前記切替手段による前記加圧力分布の切り替え設定を、該画像形成装置で搬送可能なシートのサイズのうち、最大シートサイズの設定とすることで、シートの搬送基準が片側基準だけでなく、中央基準としても搬送可能に構成したことを特徴とする。
【0024】
請求項14記載の発明は、請求項1ないし13の何れか一つに記載の画像形成装置において、前記画像形成部は、液滴を吐出する記録ヘッドを収容し、前記画像形成領域よりもシート搬送方向上流側に設けられたガイド部材により主走査方向に移動しながら前記記録ヘッドによりシートに画像を記録するキャリッジを備え、前記加圧解除部材および前記付勢部材の他端側が前記ガイド部材の下方に配置され、前記加圧部は、前記加圧時に前記ガイド部材に近づくように揺動し、前記付勢部材の前記他端が前記ガイド部材の下端と離間した位置で保持されるように押し上げることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、前記課題を解決して新規な画像形成装置を実現し提供することができる。主な請求項ごとの効果を挙げれば次のとおりである。
請求項1、2、4ないし14記載の発明によれば、前記構成により、従動回転部材より上方に、加圧・解除する部材を納めるための大きな空間を確保しなくとも、従動回転部材による駆動回転部材への加圧、従動回転部材と駆動回転部材との間隔を空けた状態での保持を行うことができるとともに、従動回転部材とその周辺の上部スペースを圧縮することにより、画像形成部の小型化を行うことができる。また、回転部材対の直後に記録ヘッドを配置し、従動回転部材近傍の上方に画像形成部のガイド部材を配置することで、余白が少なく歪みの小さい印字を行うことができる。さらに、加圧解除部材を1つの部材にしたことで、装置構成の簡素化、構成部品点数の削減および装置の小型化を図ることができる。
【0026】
請求項3記載の発明によれば、前記構成により、加圧時に、付勢部材の一端と他端との間を弾性変形させるための空間を大きく確保することができるので、大きな加圧力を発生させることが可能となる。
【0027】
請求項9記載の発明によれば、前記構成により、シートの搬送基準が中央基準の場合に、構成部品点数を少なくして安定したシートの搬送状態を容易に得ることができる。
【0028】
請求項10ないし14記載の発明によれば、前記構成により、シートサイズが狭幅から広幅の何れの場合でも、主となる搬送力がそれぞれのシートサイズのシート中央部に付与されるように従動回転部材(加圧ローラ)の加圧力を切り替えられることにより、シートの搬送基準が片側基準の場合でも中央基準の場合でも、安定したシートの搬送状態を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すインクジェット記録装置の要部の外観斜視図である。
【図2】図1におけるインクジェット記録装置全体の模式的正面図である。
【図3】加圧解除機構の加圧解除時における要部構成および動作を示す一部断面斜視図である。
【図4】加圧解除機構の加圧解除時における要部構成および動作を示す一部断面正面図である。
【図5】加圧解除機構の加圧解除時における要部を装置後方右斜め上方から見た斜視図である。
【図6】加圧解除部材の要部を装置後方の右斜め上方から見た斜視図である。
【図7】付勢部材を取り外した状態での加圧解除機構の略全体を装置前方斜め上方から見た斜視図である。
【図8】付勢部材を装着した状態での図7の破線囲み部分Cの拡大斜視図である。
【図9】リンク機構を付設した状態を示す加圧解除機構の加圧時における構成および動作を示す一部断面正面図である。
【図10】中央部および両端部に配設されている加圧解除部材の加圧部での加圧状態を示す正面図である。
【図11】中央部に配設されている加圧解除部材の加圧部での加圧状態を示す正面図である。
【図12】両端部に配設されている加圧解除部材の加圧部での加圧状態を示す正面図である。
【図13】変形例1の加圧解除機構の原理的な構成を示す模式的正面図である。
【図14】変形例1の加圧解除機構での加圧時の動作を説明する模式的正面図である。
【図15】変形例1の加圧解除機構での加圧解除時の動作を説明する模式的正面図である。
【図16】第2の実施形態において、片側基準で搬送される用紙サイズごとの加圧力分布について説明する説明図である。
【図17】第2の実施形態における加圧解除機構の切替手段の模式的正面図である。
【図18】第2の実施形態における加圧解除機構の切替手段を装置後方右斜め上方から見た斜視図である。
【図19】(a)は圧切替部材の回転軸の角度に対応した形状を説明する側面図、(b)は用紙サイズに対応した加圧力分布を設定する圧切替部材の形状を示す外観斜視図である。
【図20】(a)〜(d)は用紙サイズに対応した加圧力分布を設定する圧切替部材の形状を簡略化して示す正面図である。
【図21】(a)〜(e)は切替手段により用紙サイズに対応して具体的な加圧力分布を切り替えたときの状態について説明する模式図である。
【図22】(a)は変形例2の切替手段の構成例を示す要部の外観斜視図、(b)は切替手段における回転軸方向の圧切替部材の形状を示す要部の外観斜視図である。
【図23】(a)〜(d)は図22(b)における回転軸方向の圧切替部材の断面形状を示す断面図である。
【図24】変形例3における加圧力補正機構の制御構成を含む要部構成および加圧動作の初期状態を表す一部断面正面図である。
【図25】同加圧力補正機構による加圧力増加状態の動作を表す一部断面正面図である。
【図26】同加圧力補正機構による加圧力減少状態の動作を表す一部断面正面図である。
【図27】図26の加圧力補正機構をV26方向から見たときの、制御構成を含む平面図である。
【図28】狙いの加圧力分布と実際の加圧力分布とのギャップを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図を参照して実施例を含む本発明の実施形態を詳細に説明する。各実施形態等に亘り、同一の機能および形状等を有する構成要素(部材や構成部品)等については、混同の虞がない限り一度説明した後では同一符号を付すことによりその説明を省略する。図および説明の簡明化を図るため、図に表されるべき構成要素であっても、その図において特別に説明する必要がない構成要素は適宜断わりなく省略することがある。
【0031】
(第1の実施形態)
図1〜図12を参照して、本発明の第1の実施形態を説明する。まず、図1および図2を参照して、第1の実施形態に係る画像形成装置の一例としてのインクジェット記録装置(以下、単に「記録装置」ともいう)について、全体構成とともに要部動作を説明する。図1は同記録装置の要部の構成を示す外観斜視図であり、図2は同記録装置の模式的正面図である。
【0032】
両図に示すインクジェット記録装置は、シリアル型インクジェット記録装置である。両図において、符号1は、同記録装置の骨組みをなす筺体状の装置本体を示す。装置本体1の内部には、画像形成部3、用紙吸引搬送部4、ロール紙収納部4などが配置されている。装置本体1の上部には、図1では省略しているが、図2に示す画像読取部(装置)2が配置されている。
画像読取部2は、原稿(図示せず)の画像を読み取る機能・構成を、画像形成部3は、搬送されてくるシート(記録媒体)としての用紙10に画像形成を行う機能・構成を有する。
【0033】
図1および図2における上下方向Zに直交する方向(以下、「副走査方向」ともいう)Xにおいて、図1における装置本体1の手前側が前面(正面)側(図2では左側)であり、反対側が後(奥)側(図2では右側)である。上下方向Zおよび副走査方向Xに直交するとともに図2の紙面を貫通する方向が主走査方向Y(図1参照)であり、シート幅方向に相当する。
【0034】
図2に示すように、画像読取部2は、装置本体1の前面から後側に向けて画像読取位置へ原稿を搬送すべく原稿をセットする原稿台11と、画像読取位置へ原稿を搬送する原稿搬送手段としての原稿給送ローラ12と、画像読取位置に配置され原稿の画像を読み取る画像読取手段としての密着イメージセンサ14と、画像読み取り終了後の原稿を排出する原稿排出手段としての原稿排出ローラ15と、排出された原稿を積載する原稿排出台16とを有する。
【0035】
原稿台11上に載置された原稿(図示せず)は原稿給送ローラ12により1枚ずつ原稿搬送路13に給送される。原稿給送ローラ12により給送されてきた図示しない原稿は原稿搬送路13の画像読取位置で密着イメージセンサ14によりその画像が読み取られ、この画像の読み取り終了後に、原稿排出ローラ15により原稿排出台16に排出される。
密着イメージセンサ14は、全体として主走査方向Y(図1参照)に長い形状をしており、原稿を照明する光源およびイメージセンサを有している。密着イメージセンサ14の上記光源で原稿搬送路13において原稿を照明し、該原稿からの反射光を、レンズアレイなどを通して上記イメージセンサ上に結像させて、光電変換を行うことにより画像信号を出力する。また、密着イメージセンサ14の上方近傍に設けられた原稿搬送路13を構成するコンタクトガラス(図示せず)に対向して、原稿を押圧する白色基準板を兼ねる圧板17が設けられている。
【0036】
図1に示すように、画像形成部3に対応した装置本体1の内部には、ガイドロッド18およびガイドレール(ガイド部材)19が図示しない側板に掛け渡され、これらのガイドロッド18およびガイドレール19にキャリッジ20が主走査方向Yに摺動可能に保持されている。キャリッジ20には、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色のインク滴を吐出する液体吐出ヘッドである液体記録ヘッド(図示せず、以下、単に「記録ヘッド」という)が搭載されている。各記録ヘッドには、図示しないが、各記録ヘッドにインクを供給するサブタンクが一体的に備えられている。また、記録ヘッドからの液滴の吐出方向は装置本体1における上下方向Zの下方向としている。
【0037】
キャリッジ20を主走査方向Yに移動走査する主走査機構は、主走査方向Yの一方側(図1において左斜め上方)に配置された駆動モータ21と、この駆動モータ21の出力軸に固設され同駆動モータ21によって回転駆動される駆動プーリ22と、主走査方向Yの他方側(図1において右斜め下方)に配置された従動プーリ23と、駆動プーリ22と従動プーリ23との間に巻き掛けられたベルト部材24とを備えている。従動プーリ23は、図示しないテンションスプリングによって外方、すなわち駆動プーリ22から離れる方向にテンションが掛けられている。
ベルト部材24は、キャリッジ20の背面側に設けられたベルト固定部にその一部分が固定保持されていることで、キャリッジ20を主走査方向Yに牽引するようになっている。
【0038】
キャリッジ20の主走査方向Yに沿ってキャリッジ20の主走査位置を検知するためのエンコーダシート(図示せず)が配置され、キャリッジ20に設けられたエンコーダセンサ(図示せず)によって、上記エンコーダシートが読み取られる。このキャリッジ20における主走査領域のうち、記録領域では、ロール紙収納部5に収納されたロール紙6から後述するように繰り出され搬送されてきた用紙10が用紙吸引搬送部4の図示しない紙送り機構によって、キャリッジ20の移動方向である主走査方向Yと直交する副走査方向(以下、「シート搬送方向」ともいう)Xに間欠的に搬送される。
【0039】
また、主走査領域のうちの一方の端部側領域(図1において右斜め下方側領域)には、キャリッジ20内の各記録ヘッドの維持回復を行う維持回復機構25が配置され、さらに、各記録ヘッドのサブタンクに供給する各色のインクを収容したメインカートリッジ26が装置本体1に対して着脱自在に装着される。
【0040】
図2において、画像形成部3の図中矢印で示す出口前方には、用紙10を所定の長さに切断するシート切断手段としてのカッタ27が配置されている。このカッタ27は、複数のプーリ(そのうちの1つのプーリは駆動モータに連結されている)間に掛け渡されたワイヤに固定され、駆動モータによりプーリを介してワイヤが主走査方向Yに移動することで用紙を所定の長さに切断する公知のものからなる。
【0041】
次に、ロール紙収納部5について説明する。ロール紙収納部5は、フランジ7およびフランジ受け台8を介して、ロール紙6から用紙10を繰り出し可能にロール紙6を支持・収納する機能・構成を有する。
図1および図2に示すように、フランジ受け台8には、フランジ部材としてのフランジ7(図2では省略)を介してロール紙6がセットされているが、幅方向のサイズや紙種(シート種類)が異なるロール紙をセット可能である。幅方向のサイズとしては、例えばA0やA1に対応した大きいサイズやその他様々なサイズが、紙種としては光沢紙等の大変高価なものから普通紙等も用いられる。
【0042】
ロール紙は、通常、長尺の用紙が、厚紙などを材料として構成された紙管等の芯管(図示せず)に巻き付けられて形成されている。
図1および図2に示すように、装置本体1の前面は、フランジ7を介してロール紙6を前面側からフランジ受け台8へセット可能とする開口部9を有する。
【0043】
図1に示すように、本実施形態例ではロール紙6を装置本体1へセットする際は、フランジと呼ばれるガイド部材であるロール紙6用のフランジ7を、ロール紙6における前記紙管両端の内部に挿し込み、ロール紙6の両端に固定されたフランジ7をフランジ受け台8に落とし込んでセットする。上記のとおり、フランジ7は、ロール紙6(または下段ロール紙4b)の前記紙管(巻き芯)の軸方向に沿って両端にそれぞれ同軸上に固定される。フランジ7の外径は、ロール紙6の最大外径(未使用時)よりも小さく形成されている。
【0044】
ロール紙給紙方式には、大別して操作・作業性の良い上記フランジ方式と、金属製のスプールもしくはマンドリルシャフトとも呼ばれる、比較的重くて扱いにくい長尺シャフトをロール紙の紙管に差込・装着固定するスプール方式とがある。本実施形態例ではロール紙給紙方式としてフランジ方式で説明したが、本発明はスプール方式でも良いことは無論である。
【0045】
図1および図2を参照して、上述した構成を有する記録装置全体の動作を説明する。両図に示すように、フランジ受け台8にはフランジ7を介してロール紙6がセットされ、また図2に示すシート給送手段としての給紙ローラ対28からはロール紙6の用紙10の先端が給紙可能状態にセットされているものとする。
ユーザによって、画像読取部2の原稿台11に画像形成すべき原稿(図示せず)がセットされるとともに、画像読取部2近傍の装置本体1に配設された図示しない操作部のキー操作などが行われることで、各種の画像形成条件、例えばロール紙の選択や、カラー色の選択、画像形成枚数などが設定される。これらの信号が記録装置の制御部(図示せず)に入力されると、記録装置が作動する。すなわち、画像読取部2では上述した原稿画像の読み取りが行われて、密着イメージセンサ14から画像信号が出力される。
【0046】
そして、前記キー操作により、図示しないモータの回転駆動を介して給紙ローラ対28が回転されることで、フランジ受け台8上に載置されたフランジ7が用紙繰り出し方向に回転し、ロール紙6から用紙10が給送される。給紙ローラ対28から給送された用紙10は、装置後方から前方に向けて、レジスト手段を兼ねるシートの搬送手段としての駆動ローラ29およびこれに従動回転する加圧ローラ30からなる搬送ローラ対29,30によって、用紙(シート)搬送路を搬送されて画像形成部3における画像形成領域としてのインクジェット記録領域へ搬送される。すると、図1において、キャリッジ20が主走査方向Yに移動するとともに、前記図示しない送り機構によって用紙10がシート搬送方向Xに間欠的に送られながら、記録ヘッドが画像情報に応じて駆動されて液滴を吐出することによって、用紙10上に所要の画像が形成される。さらに、画像形成後の用紙10は、図2に示すカッタ27が主走査方向Yに移動することにより、所定の長さにカットされた後、シート排出方向Xaに送られ、装置正面側に配置される図示しない排紙トレイへ排出される。
画像情報(画像データ)としては、画像読取部2で読み取られる原稿画像によるものに限らず、記録装置に通信可能に接続されたパソコン等のコンピュータから送信されるものであって良いことは無論である。
【0047】
図2において、駆動ローラ29は、画像形成部3におけるシート搬送方向X上流側に配設され、画像形成部3のインクジェット記録領域へシートの一例である用紙10を搬送する本発明の駆動回転部材として機能し、加圧ローラ30は、駆動ローラ29に後述するように接離可能に構成されており、接している状態で従動回転する本発明の従動回転部材として機能する。これらローラ対29,30は、本発明における一対の回転部材として機能する。符号32は、加圧ローラ30を駆動ローラ29に加圧し、およびその解除を行うための加圧解除手段としての加圧解除機構を示す。
図1および図2に示すとおり、画像形成部3は、ローラ対29,30のニップ位置に対して一方の側である上方・上側に配置されているレイアウト構成である。
【0048】
図2〜図12を参照して、本実施形態の特徴部分である加圧解除手段としての加圧解除機構32を説明する。まず、図3〜図8を参照して、加圧解除機構32の主な構成を説明する。図3は加圧解除機構32の加圧解除時における要部構成および動作を示す一部断面斜視図、図4は加圧解除機構32の加圧解除時における要部構成および動作を示す一部断面正面図、図5は加圧解除機構32の加圧解除時における要部を装置後方右斜め上方から見た斜視図、図6は加圧解除部材の要部を装置後方の右斜め上方から見た斜視図、図7は付勢部材を取り外した状態での加圧解除機構32の略全体を装置前方斜め上方から見た斜視図、図8は付勢部材を取り付けた状態での図7の破線囲み部分Cの拡大斜視図である。
【0049】
図7および図8に示すように、一対の回転部材としてのローラ対29,30は、記録装置のシート搬送系を含めて用紙(シート)を中央基準CLで搬送するよう構成されており、加圧ローラ30は、その軸方向に複数に分割された加圧ローラ30(同図に示す例では4×4ユニットの16個に分割)からなり、駆動ローラ29は、加圧ローラ30と対向する位置に設けられた複数の駆動ローラ29(同図に示す例では4ユニットの加圧ローラ30に対応した4個)からなる。
【0050】
図3〜図7に示すように、加圧解除機構32は、加圧ローラ30を駆動ローラ29上に保持するための加圧アーム33と、加圧アーム33を揺動自在に保持するための支点軸34と、支点軸34を保持するためのアームホルダ35と、加圧アーム33を介して加圧ローラ30を駆動ローラ29に加圧するための付勢力(加圧力)を発生させるための付勢部材36と、付勢部材36による加圧力の加圧・解除するための加圧解除部材37と、加圧解除部材37を揺動させるための回転軸38とから主に構成されている。
【0051】
加圧アーム33は、分割された個々の加圧ローラ30に対応して設けられている。加圧アーム33は、一端部が個々の加圧ローラ30の軸30aの両端部を回転可能に支持し、他端部がシート搬送方向X上流側に延びて支点軸34によって揺動可能に支持される支持部材として機能する。加圧アーム33は、上記したように加圧ローラ30の軸30aの両端部および付勢部材36の一端36a等と摺接するために、摺動性に優れていて強度が高く耐久性のある、例えばポリアセタール樹脂(POM)などのエンジニアリングプラスチックが用いられて一体的に形成され、軽量化も図られている。
【0052】
支点軸34は、個々の加圧アーム33の他端部を揺動可能に支持するように貫通して配設されているとともに、本実施形態例では付勢部材36の一端36aと他端36bとの間の下方近傍に設けられている。支点軸34は、例えば鋼材やステンレススチール等の金属で形成されている。支点軸34は、図3に示すように、摺動性および耐久性に優れた適宜の樹脂(例えばポリアセタール樹脂:POMやポリアミド樹脂:PA)で形成された支点軸カバー50で部分的に覆われている。支点軸カバー50には、支点軸34の外周面を臨ませることにより、支点軸34と付勢部材36とを定位置で当接させるための切欠溝50aと、アームホルダ35の後述する軸変形防止部35aと支点軸34とを当接させるための切欠溝50bとが形成されている。
【0053】
支点軸34は、図4に示すように、アームホルダ35におけるシート幅方向Yの両端において止め輪で抜け止めされている。切欠溝50aは、位置精度が出ている支点軸34に付勢部材36を直接当接させることにより、付勢部材36の付勢力(弾性力)を加圧ローラ30を介して駆動ローラ29へ精度高く付与するためのものである。支点軸34は、一対の回転部材であるローラ対29,30のニップ位置よりも下方に配置されている。
【0054】
アームホルダ35は、装置本体1側に固着された本体フレーム31にネジ(図示せず)を介して取り付け・固定され、支点軸34を保持する支点軸保持部材として機能する。アームホルダ35には、加圧解除時に、付勢部材36が自身の自重で当接する当接部としての、略直角に折り曲げられた加圧解除支点部35b(図3、図4等参照)が形成されている。また、アームホルダ35には、上記した加圧解除支点部35bの他に、支点軸34の変形を防止する軸変形防止部35aとが一体的に形成されている。
アームホルダ35は、薄い板材である、例えば板金で上記した部位が一体的に形成されている。軸変形防止部35aを設けている理由は、支点軸34の両端部がアームホルダ35の両端で保持されているものの、加圧時には特に中央部付近の支点軸34に付勢部材36の当接による力が働くため、この変形を防止して支点軸34の位置精度を確保するためである。
【0055】
付勢部材36は、個々の加圧ローラ30および加圧アーム33に対応して設けられている。付勢部材36は、一端36aが加圧アーム33の一端部に揺動可能に取り付けられ、他端36b側が支点軸34の下側を通ってシート搬送方向X上流側に延び、支点軸34を中心にして一端36aと反対側に位置するように設定され取り付けられている。付勢部材36は、例えばバネ鋼からなる線バネが用いられ、平面視で「コ」の字形状に折り曲げられて形成されている。
【0056】
付勢部材36は後述のように加圧解除状態のある時、すなわち加圧解除部材37の解除部と付勢部材36の他端36bとの係合が解除されたときであって、駆動ローラ29と加圧ローラ30とが当接状態にあるとき、取り付けられていない方の他端36bがローラ対29,30のニップ位置より下方に位置するように設定されている。
付勢部材36は、個々の加圧ローラ30に対応してバネ定数および形状が同じものが共通して用いられていて共通化が図られているので、付勢部材36の部品点数削減とともに、その取り付け時に誤って異なるものを装着セットするなどのミス・不具合発生を未然に防止している。
【0057】
加圧解除部材37は、図3、図4等に示すように、基端部が支点軸34と付勢部材36の他端36bとの間に設けられた揺動軸としての回転軸38に取り付けられ、加圧時に、先端部が付勢部材36の他端36bを回転軸38を中心として揺動して押し上げることにより、支点軸34下部の接触点に当接しここを中心に付勢部材36を弾性変形させることで個々の加圧ローラ30を駆動ローラ29に加圧する加圧部を構成する付勢部材押し上げ部39、および付勢部材押し上げ部39と一体的に形成され、加圧解除時に、付勢部材36の他端36bを回転軸38を中心として加圧時と逆方向に揺動して押し下げることにより、ローラ対29,30間に間隔を空けて保持する解除部を構成する付勢部材押し下げ部40を備えている。
【0058】
回転軸38の一端部には、図9に示すように、後述するリンク機構57を構成する出力レバー60が取り付け・固定されている。回転軸38は、本体フレーム31に揺動可能に保持されている。回転軸38は、例えば鋼材やステンレススチール等の金属で形成されている。
【0059】
加圧解除部材37は、図4、図7、図8等に示すように、その加圧部が搬送する用紙の中央部を最大加圧力とする略正規分布状に付勢部材36による加圧力(付勢力)を加圧ローラ30を介して駆動ローラ29に付与するように、各加圧ローラ30に対応して押し上げ(押し込み)の高さの異なる付勢部材押し上げ部39、および付勢部材押し下げ部40のみ一部形状の異なる2種類の加圧解除部材37A,37Bが一体的に形成されているが、特に区別して説明しなければならない場合を除き、総括的な符号「37」をもって説明するものとする。また、各図において、加圧解除部材37とともにその配置部位や種類を明示する必要があるときには、添え字符号「A」を加圧ローラ30の軸方向の中央部側を表すものとし、添え字符号「B」を加圧ローラ30の軸方向の両端部側を表すものとすることで、その部材の配置部位を区別するものとする。同様に、付勢部材36もその配置部位を示すために添え字符号「A」、「B」を適宜付加することで区別するときがある(付勢部材36は、上述したとおり、個々の加圧ローラ30に対応して共通使用されている)。
【0060】
加圧解除部材37Aは、図7に示す中央基準CLの中央部側に配置された2×4ユニット、計8個の加圧ローラ30に対応して設けられていて、付勢部材押し上げ部39が略平面視で加圧解除部材37Bにおけるシート搬送方向のその長さより長く形成されている。一方、加圧解除部材37Bは、図7の中央部側に配置された8個の加圧ローラ30の両端部に対応して4個ずつ計8個設けられていて、付勢部材押し上げ部39が略平面視で加圧解除部材37Aにおけるシート搬送方向の長さのそれより短く形成されている(図8参照)。
【0061】
加圧解除部材37は、図3〜図5等に示すように、基端部が回転軸38に固定されている。加圧解除部材37は、薄い板材である、例えば板金で上記および後記する部位が一体的に形成されている。
加圧解除部材37の解除部は、図3〜図8等に示すように、加圧解除時に、付勢部材36の他端36bと当接する面よりも上方にオフセットした位置で当接する面を備えた段差部としての付勢部材押し下げ部40と、付勢部材36の他端36b側が当接する当接部としての当接面37aと、他端36b側が付勢部材押し下げ部40(段差部)と係合した後、アームホルダ35側の本体フレーム31と当接することで解除部のさらなる押し下げを規制する規制部としての回転止め41(図4、図6等参照)とを備えている。
【0062】
加圧解除部材37の加圧部は、図3〜図8等に示すように、加圧時に、上記した付勢部材押し上げ部39の他に、付勢部材36の他端36b側と摺接する曲げR部39aと、本体フレーム31と係合して加圧解除部材37の回転軸38を中心とした揺動を規制する規制部としての回転止め42(図4、図6参照)とが一体的に形成されている。
付勢部材押し上げ部39は、付勢部材36を下から擦りながら押し上げるので板金に曲げを付け、その曲げにできた曲げR部39a(強度アップも兼ねる)で押し上げるようにしている。この曲げR部39aによって、付勢部材36を押し上げるとき、付勢部材36をエッジ等にかけることなくスムーズに動かすことができる。なお、曲げR部39aと付勢部材36との摩擦抵抗を減少すべく、油・グリース等の塗布や摺動性の良いコーティング等を施しても良い。
【0063】
図9を参照して、回転軸38を揺動・回転させるリンク機構57について説明する。図9はリンク機構57を付設した状態を示す加圧解除機構32の加圧時における構成および動作を示す一部断面正面図である。
回転軸38の一端部に形成されたDカット部(切り殺ぎ部)には、リンク機構57を構成する出力レバー60が取り付け・固定されている。装置本体1の前方側に配設された本体フレーム31に植設された固定ピン58aの回りには、操作レバー56が揺動自在に取り付けられている。
【0064】
リンク機構57は、上記した操作レバー56と、操作レバー56に揺動ピン58cを介して連結された第1リンク部材59aと、第1リンク部材59aに揺動ピン58cを介して連結されるとともに本体フレーム31に植設された固定ピン58bの回りに揺動自在に設けられた第2リンク部材59bと、第2リンク部材59bに揺動ピン58cを介して連結されるとともに出力レバー60に揺動ピン58cを介して連結された第3リンク部材59cと、上記した出力レバー60とから主に構成されている。
【0065】
第1リンク部材59a、第3リンク部材59cは、例えば板金で一体的に形成され、操作レバー56、第2リンク部材59b、出力レバー60は、適宜の樹脂で一体的に形成されている。
なお、本実施形態では、操作レバー56を手動操作することにより、リンク機構57を介して回転軸38に回転駆動力を伝達する手動駆動方式を採用しているが、回転軸38に直接あるいは出力レバー60を介してギヤ等の回転伝達手段を連結し、電動モータ等の駆動手段により回転駆動力を伝達する電動駆動方式により自動化を図っても良いことは無論である。
【0066】
次に、図3〜図12を参照して、加圧解除機構32の動作を説明する。図10は加圧解除部材37A,37Bの加圧部での加圧状態を示す正面図、図11は加圧解除部材37Aの加圧部での加圧状態を示す正面図、図12は加圧解除部材37Bの加圧部での加圧状態を示す正面図である。
なお、図9〜図12においては、加圧解除部材37A側と加圧解除部材37B側での加圧動作の違いを明確にするために、加圧解除部材37Aに一体的に形成されている付勢部材押し上げ部39、加圧解除部材37Aに対応して設けられている付勢部材36に添え字符号「A」を付加するとともに、加圧解除部材37Bに一体的に形成されている付勢部材押し上げ部39、加圧解除部材37Bに対応して設けられている付勢部材36に添え字符号「B」を付加することで区別することとする。
【0067】
まず、加圧時の動作を説明する。図9において、操作レバー56を同図においてA方向に揺動させて同図に示す位置に揺動させると、リンク機構57、出力レバー60を介して回転軸38がB方向(反時計回り)に揺動・回転して同図に示す位置を占め、加圧解除部材37A,38Bが同時に同図に示すように直立する方向に揺動する。
加圧解除部材37A,38Bが起き上がるに従い、上方に位置していた付勢部材36A,36Bを下から加圧解除部材37A,37Bの曲げR部39aで擦り上げつつ付勢部材押し上げ部39A,39Bで滑らせながら押し上げていく。付勢部材36A,36Bが押し上げられる過程の途中、付勢部材36A,36Bは支点軸34の接触点34aで接触する。付勢部材36A,36Bは支点軸34の接触点34aを支点とし、接触点34aと付勢部材押し上げ部39A,39Bとの間が上方に撓み始める。
【0068】
付勢部材36A,36Bが上方に撓み始めるにつれ、接触点34aと加圧アーム33の取り付け部の一端部が反力で下方に下がろうとする。それにより、加圧アーム33の一端部に取り付けられた加圧ローラ30が駆動ローラ29に押し付けられる。この際、それぞれ押し上げ高さの異なる付勢部材押し上げ部39A,39Bによる付勢部材36A,36Bの撓み変形で発生する付勢力によって、図7において中央基準CLの中央部側に配置された8個の加圧ローラ30には、加圧ローラ30の軸30a方向の両端部に配置された各4個の加圧ローラ30よりも高い加圧力で各駆動ローラ29に加圧されることとなる。
【0069】
操作レバー56を図9においてA方向にさらに揺動させることにより、リンク機構57、出力レバー60を介して回転軸38が同図に示すB方向(反時計回り)にさらに揺動・回転すると、図10〜図12に示すように、加圧解除部材37の回転止め42が本体フレーム31と当接することで、さらなる押し上げ変位が規制される。この回転止め42(規制部)に相当する構成は、図9に示した操作レバー56側の揺動規制部として設けることも可能である。
【0070】
次に、加圧解除時の動作を説明する。図9において、操作レバー56を同図においてB方向に揺動させると、リンク機構57、出力レバー60を介して回転軸38が同図に示すA方向(時計回り)に揺動・回転することとなり、加圧解除部材37A,38Bが同時に倒伏する方向に揺動する。加圧解除部材37A,37Bが倒伏していくに従い、上方に撓んでいる付勢部材36A,36Bの撓みが小さくなってくる。
付勢部材36A,36Bの撓みが無くなると、図3および図4に示すように、付勢部材36は自重で下方に落ちてくる。このとき、支点軸34と付勢部材36との接触点34a(図10等参照)での接触が解除される。
【0071】
自重で落ちてきた付勢部材36は、アームホルダ35の加圧解除支点部35bと接触し、落下が停止する。こうして停止した状態の付勢部材36には、回転軸38が図3および図4においてさらに時計回りに揺動・回転することにより、加圧解除部材37A,37Bの付勢部押し下げ部40が被さるように接触し始めることで、付勢部材36の他端36b側を押し下げることとなる。
加圧解除支点部35bと接触している状態で付勢部材36の他端36b側をさらに押し下げることで、加圧アーム33は駆動ローラ29から離間する方向に持ち上げられることとなる。この際、加圧アーム33は支点軸34に揺動自在に支持されているので、持ち上がる方向に対しては、付勢部材36は撓まずに押し下げた分だけ動くことができる。
【0072】
操作レバー56を図9においてB方向にさらに揺動させることにより、リンク機構57、出力レバー60を介して回転軸38が同図に示すA方向(時計回り)にさらに揺動・回転すると、図4に示すように、加圧解除部材37A,37Bの回転止め41が本体フレーム31と当接することで、さらなる押し下げ変位が規制される。規制部としての回転止め41は、これに限らず、図9に示した操作レバー56側に規制部として設けることも可能である。
【0073】
本実施形態によれば、上述した構成および動作により以下の特徴、諸利点を有する。
第1に、加圧解除手段としての加圧解除機構32を有することにより、加圧ローラ30(従動回転部材)より上方に、加圧・解除する部材を納めるための大きな空間を確保しなくとも、加圧ローラ30による駆動ローラ29(駆動回転部材)への加圧、加圧ローラ30と駆動ローラ29との間隔を空けた状態での保持を行うことができるとともに、加圧ローラ30とその周辺の上部スペースを圧縮することにより、画像形成部3の小型化を行うことができる。また、ローラ対29,30の直後に記録ヘッドを配置し、加圧ローラ30近傍の上方に画像形成部3のガイド部材としてのガイドレール19を配置することで、余白が少なく歪みの小さい印字を行うことができる。さらに、加圧解除部材37を実質的に1つの部材にしたことで、装置構成の簡素化、構成部品点数の削減および装置の小型化を図ることができる。
【0074】
第2に、加圧解除部材37の解除部と付勢部材36の他端36bとの係合が解除されたときであって、駆動ローラ29と加圧ローラ30とが当接状態にあるとき、付勢部材36の他端36bがローラ対29,30のニップ位置よりも下方に位置するように設定されていることにより、加圧時に、付勢部材36の一端36aと他端36bとの間を弾性変形させるための空間を大きく確保することができるので、大きな加圧力を発生させることが可能となる。
【0075】
第3に、加圧解除部材37の大型化を抑えつつ、必要な付勢部材36の撓み量を確保するために、最下点まで降りてきている付勢部材36に対して、回転軸38を近づけるとともに、加圧解除部材37を平行近くになるように配置したことにより、加圧解除部材37の回転中心(回転軸38)を付勢部材36の直近に設けることで、小さい回転半径で大きな撓み量を得ることができる。これにより、加圧解除部材37(37A,37B)の直立時の高さを圧縮できるので構成を小さくすることができる。
上記の理由により、加圧解除部材37(37A,37B)を、付勢部材36に対し平行近くに設けると、付勢部材36を押し下げるため付勢部材押し下げ部40が、加圧解除部材37(37A,37B)と回転軸38との接触面と同一平面上に位置する構成にした場合では、付勢部材36に引っ掛からなくなるので、付勢部材押し下げ部40を加圧解除部材37(37A,37B)と付勢部材36とが接する面より上方にオフセットさせた形状にした。これによって、加圧解除部材37(37A,37B)を平行近くに設けても、付勢部材36を押し下げることができる。
【0076】
第4に、以上より、加圧解除部材37の大型化を抑えながら、必要な加圧力を確保し、付勢部材36の押し下げ機能を持たせることができる。
なお、加圧解除部材37(37A,37B)の付勢部材押し下げ部(段差部)40を上方にオフセットさせず、付勢部材36の他端36b部を下方にオフセットさせる構成にするとともに、加圧解除部材37(37A,37B)の付勢部材押し下げ部40をストレート形状にすることも可能であるが、この場合、付勢部材36を取り付けする際に、付勢部材36の取り付け向きを考慮する必要があるので、作業性が悪くなる。
【0077】
第5に、図7に示したように実質的に1つの加圧解除部材37(37A,37B)で、4ユニット×加圧ローラ4個の加圧・解除を行うことができる。1つの加圧解除部材37には上記したとおり配置部位によって2種類の加圧解除部材37A,37Bがあるが、加圧解除部材37A,37Bは回転軸38の回転中心から付勢部材押し上げ部39までの高さ(長さ)がそれぞれ異なっていて、加圧ローラ30の加圧力が付勢部材36の撓み量で増減する構成であることにより、この異なった付勢部材押し上げ部39までの高さを持つ加圧解除部材37A,37Bを駆動ローラ29の軸方向へ配置することで、駆動ローラ29全体に対してかける加圧力の分布を略正規分布状に変更することができる。従って、シートの搬送基準が中央基準の場合に、構成部品点数を少なくして安定したシートの搬送状態を容易に得ることができる。
【0078】
第6に、付勢部材36に関しての特徴・利点を挙げると、次のとおりである。加圧アーム33に取り付けた付勢部材36の一端36a部のスラスト方向の動きによる脱落防止と、付勢部材36を押し下げるための押し下げ部の確保という2つの目的を達成するために付勢部材36は、加圧ローラ30の両端に荷重を加える2本の付勢部材と、その2本の付勢部材を取り付けている端部とは逆の端部で略「コ」の字形状に繋がっている構成にした。これによって、荷重を加える2本の付勢部材は、端部で互いに直角で繋がっている線と加圧アーム33の側壁によってスラスト方向の動きが規制される。また、端部を繋いでいる線に付勢部材押し下げ部40を引っ掛けることにより、付勢部材36を押し下げることができる。
【0079】
また、付勢部材36には線バネを使用しているので、変形することができる方向の自由度が高い。通常、加圧アーム33に取り付けているときはスラスト方向の規制によって外れにくいが、加圧アーム33内側方向に力を加えることで、付勢部材36を内側に撓ますことができるので、付勢部材36の取り付け、取り外しが行いやすくなる。このように、本実施形態では、線バネを採用してそのバネ定数を小さくしたことで、押し上げ高さの構成に関連する構成部品・部材等の個々のバラツキによる加圧力のバラツキを小さくすることができる。
【0080】
(第1の実施形態の変形例1)
図13〜図15を参照して、第1の実施形態の変形例1を説明する。図13は変形例1の加圧解除機構52の原理的な構成を示す模式的正面図、図14は加圧解除機構52での加圧時の動作を説明する模式的正面図、図15は加圧解除機構52での加圧解除時の動作を説明する模式的正面図である。
変形例1は、図13〜図15に示すように、図2〜図12に示した第1の実施形態の加圧解除機構32に代えて、加圧解除手段としての加圧解除機構52を用いる点のみ相違する。この相違点以外の変形例1の原理的な構成は、第1の実施形態の記録装置と同様である。
【0081】
加圧解除機構52は、第1の実施形態の加圧解除機構32と比較して、支点軸34に代えて、付勢部材36を貫通させる構成の回転軸54を用いる点が主に相違する。この相違点以外の変形例1の構成は、第1の実施形態と同様である。
回転軸54には、付勢部材36を貫通するための貫通孔54aが開けられている。付勢部材36が貫通孔54aを貫通する構成であることにより、駆動ローラ29への加圧ローラ30の加圧・解除時の付勢部材36の撓み、およびローラ対29,30からの加圧ローラ30の離間動作を行うための付勢部材36の支点が1つで賄われている。
【0082】
本変形例では支点軸としての回転軸54が必要であり、その回転軸54を貫通している付勢部材36が動作時にスベリを発生させる必要があるので、摺動性のある材質や、付勢部材36のスベリを妨げない形状の回転軸54を持つ構成とするのが良い。
変形例1によれば、上記構成により、第1の実施形態と同様の利点が得られる他、第1の実施形態と比較して、アームホルダ35を不要にすることができ、さらなる部品点数の削減ができ、装置の小型化が図れるという利点がある。
【0083】
以上述べたとおり、第1の実施形態の加圧解除機構32およびその変形例1の加圧解除機構52から、加圧解除手段として原理的に必須とする構成は、一端が従動回転部材(加圧ローラ30)に取り付けられ、他端側が該一端と該他端との間に設けられた支点軸を中心にして前記一端と反対側に位置する付勢部材と、基端部が前記支点軸と前記付勢部材の前記他端との間に設けられた揺動軸に取り付けられ、前記加圧時に、先端部が前記付勢部材の前記他端を前記揺動軸を中心として揺動して押し込むことにより、前記支点軸を中心に該付勢部材を弾性変形させることで前記従動回転部材を加圧する加圧部、および該加圧部と一体的に形成され、前記加圧解除時に、前記付勢部材の前記他端を前記揺動軸を中心として前記加圧時と逆方向に揺動して押し込むことにより、前記一対の回転部材間に間隔を空けて保持する解除部を備えた加圧解除部材とを具備すれば良いことが分かる(請求項1)。
【0084】
すなわち、加圧解除手段は、加圧解除機構32の構成に限らず、例えば、付勢部材の一端で従動回転部材(加圧ローラ30)を回転可能に支持することができるように構成するとともに、付勢部材の剛性(バネ定数や強度)を適宜設定すれば、駆動回転部材(駆動ローラ29)に対する接離時のニップ位置の変動をシートの搬送に影響を与えない範囲に抑えこむことが可能となるから、支持部材としての加圧アーム33は必須の構成ではないと言える(請求項1)。
【0085】
本発明の加圧解除部材は、第1の実施形態や変形例1の加圧解除部材に限定されず、例えば用紙サイズに応じて加圧解除部材の押し上げ高さ(押し込み高さ)を変更可能に構成しても良い。すなわち、加圧解除部材の付勢部材押し上げ部あるいは付勢部材押し下げ部を含めて着脱自在に構成したり、あるいは伸縮自在に構成したりすることにより、シートを中央基準で搬送する画像形成装置において、搬送する用紙サイズに応じてシートの中央部を最大加圧力とする略正規分布状に加圧力を付与することができることは比較的簡単に構成できる。
【0086】
(第2の実施形態)
図16〜図21を参照して、本発明の第2の実施形態を説明する。まず、図16を参照して、第2の実施形態において、片側基準で搬送される用紙(シート)サイズごとの加圧力分布について説明する。
図16に示すように、用紙10を搬送する場合において、用紙10に付与される加圧力は、シート搬送方向と直交する方向(「シート幅方向」に相当する)の長さの中央部を最も高い状態とすることで安定した搬送を行うことができる。そのためには、図16において、片側基準SLで用紙10を搬送するときに、加圧力が最大となる位置を用紙サイズに応じて変化させる必要がある。
【0087】
用紙10の中央部ではなく、シート幅方向の左右両端側の加圧力を高い状態とした場合、特に用紙10にバックテンションが掛かる画像形成装置におけるシート搬送装置においては、図示していない搬送ローラの材質を、用紙10に働く摩擦力の大きい材質としなければならない関係から、用紙10の左右両端部に付与される加圧力にわずかな差が生じてしまうと、搬送力のバランスが崩れて用紙10が斜行してしまい、不安定な搬送状態になり易く、紙詰まりや異常画像の発生につながってしまう。
また、通紙可能な最大サイズの用紙、例えばA0サイズ用に加圧力設定をすれば、最大サイズの用紙10に加圧力が付与される中央部と、シート搬送装置における搬送範囲の中央部が一致することによって、搬送基準を用紙中央とした搬送手段にも対応することが可能となる。
【0088】
図17および図18を参照して、本実施形態における切替手段を備えた加圧解除機構の基本的構成例について説明する。図17は本実施形態における片側基準で搬送する用紙サイズに応じて、複数の加圧ローラの軸方向における加圧力分布を切り替える切替手段を備えた加圧解除機構を説明する模式的正面図、図18は切替手段を備えた加圧解除機構の要部を装置後方右斜め上方から見た斜視図である。
第2の実施形態は、図1〜図12に示した第1の実施形態と比較して、加圧解除機構32に代えて、図17および図18に示すように、切替手段63を備えた加圧解除手段としての加圧解除機構62を用いる点が主に相違する。この相違点以外の第2の実施形態の構成は、第1の実施形態の記録装置と同様である。
【0089】
加圧解除機構62は、第1の実施形態の加圧解除機構32と比較して、図2〜図12に示した回転軸38、加圧解除部材37およびリンク機構57を除去しこれに代えて、切替手段63を用いる点が主に相違する。以下、第1の実施形態と相違する切替手段63の構成および動作を中心に説明することとし、第1の実施形態と同様の部材および構成、具体的には駆動ローラ29、シート幅方向に複数に分割された加圧ローラ30、個々の加圧ローラ30ごとに設けられた加圧アーム33、支点軸34、アームホルダ35、個々の加圧ローラ30ごとに設けられた付勢部材36については重複説明を避ける上からその説明を省略する。
第1の実施形態と同様に、加圧アーム33の加圧ローラ30取り付け部近傍に、付勢部材36の一端36aが揺動可能に取り付けられている。付勢部材36の他端36b側は支点軸34の下側を通り、加圧解除状態のときは図示を省略しているが、付勢部材36の他端36bがローラ対29,30のニップ位置よりも下方に位置するように付勢部材36の長さや重量が設定されている。
【0090】
切替手段63は、図17に示すように、付勢部材36の支点軸34を中心とした撓み変形を生じさせるための圧切替部材67と、圧切替部材67の用紙サイズに応じた切り替え操作を行うためのレバー部材64と、レバー部材64での操作状態を圧切替部材67に伝達するためのリンク部材65とから主に構成されている。
圧切替部材67は、図17および18に示すように、付勢部材36と摺接・摺動するために、材質として、例えば摺動および耐久性に優れたポリアセタール樹脂(POM)を用いて一体に成型された物で回転軸68に取り付けられており、圧切替部材67を回動させて付勢部材36の加圧力の切り替えを行う。圧切替部材67としては、分割された板金材料を複数使用した形状で構成しても良い。なお、図18の斜視図において、図の簡明化のため、圧切替部材(外周に一体的に形成されているカム形状)を省略し、回転軸68の配置位置のみを示す。
【0091】
レバー部材64は、図17に示すように、本体フレーム31(図18参照)に植設された固定ピン66を介して連結されたリンク部材65によって、圧切替部材67と連結されている。レバー部材64をA方向またはB方向に揺動操作すると、それに応じて圧切替部材67が回転して、付勢部材36の支点軸34を中心とした撓み量が変化して駆動ローラ29の軸方向に付与される加圧力の分布が切り替えられる。
図17において、例えば、レバー部材64をB方向(反時計回り)に揺動操作すると、圧切替部材67がB方向(反時計回り)に回転して付勢部材36の支点軸34を中心とした撓み量が変化する。レバー部材64をA方向(時計回り)に揺動操作すると、圧切替部材67も同A方向に回転して付勢部材36の支点軸34を中心とした撓み量が変化する。
【0092】
レバー部材64の形状としては、棒状に限らず、ダイヤル式の形でも良い。リンク部材65は、歯車列に置き換えてレバー部材64の操作状態を圧切替部材67に伝達する構成でも良い。これらに限らず、レバー部材64の代わりに、駆動モータやソレノイド等の駆動源・駆動手段を設け、用紙サイズに合わせて自動で圧切替部材67を回動させる構成としても良い。
【0093】
なお、図18に示す付勢部材36の他端36b側において、付勢部材36が「コ」の字形状に繋がっているとはいえ、圧切替部材67が付勢部材36と直接摺接・摺動することを避ける上から、および圧解除時における付勢部材36の他端36b側の速やかな自重による落下を促すために、1組の付勢部材36ごとに錘を兼ねる板状部材で付勢部材36の下面で連結し、この板状部材を介して圧切替部材67が付勢部材36と間接的に摺接・摺動させる構成でも良い。
【0094】
図19および図20を参照して、加圧ローラ30の加圧力を切り替える圧切替部材67の形状について説明する。圧切替部材67は、回転軸68に偏芯して取り付けられており、圧切替部材67の回転角度によって付勢部材36の撓み量が変化して、加圧ローラ30が駆動ローラ29に与える加圧力の軸方向の分布が切り替わる。
【0095】
例えば、圧切替部材67の第1の角度における軸方向の断面A−A(圧切替部67a)は、搬送される用紙10のサイズがA3のときに対応した加圧力分布を設定するときの形状を簡略化して表したものである。
用紙10の搬送手段が片側基準SLであれば、用紙10のサイズがA3のとき、片側基準SL側からA3サイズ分の範囲だけ加圧力が付与される形状で、且つ、用紙10の中央部にかかる部分の加圧力が最も大きくなるように、付勢部材36を撓ませる形状の圧切替部67aとしている。
【0096】
同様に、圧切替部材67の第2の角度における軸方向の断面B−B(圧切替部67b)ではA2サイズ、第3の角度における軸方向の断面C−C(圧切替部67c)ではA1サイズ、第4の角度における軸方向の断面D−D(圧切替部67d)ではA0サイズに対応した形状として構成されている。
圧切替部材67は、上述の断面A−Aの圧切替部67a、B−Bの圧切替部67b、C−Cの圧切替部67c、D−Dの圧切替部67dの形状が一体として作られていて、圧切替部材67の軸方向に連続的、あるいは断続的な形状として構成される。
【0097】
図21を参照して、切替手段63により具体的な加圧力分布を切り替えたときの状態について説明する。図21(a)は加圧ローラ30の脱圧状態を示す模式図、図21(b)はA3サイズ(通紙・搬送可能な最小サイズ)のときの加圧状態を示す模式図、図21(c)はA2サイズのときの加圧状態を示す模式図、図21(d)はA1サイズのときの加圧状態を示す模式図、図21(e)はA0サイズ(通紙可能な最大サイズ)のときの加圧状態を示す模式図である。図21(a)〜図21(e)に模式的に示すバネの伸縮状態は、加圧力の強弱イメージを表している。
【0098】
(a)加圧ローラ30の脱圧状態について
圧切替部材67が、加圧解除位置を占めていて、付勢部材36が弾性変形する際の撓みから解放されている状態である。加圧ローラ30は駆動ローラ29から間隔を保持して離間している(脱圧状態)。紙詰まりの処理などの異常時において利用する。
【0099】
(b)A3サイズ(通紙・搬送可能な最小サイズ)のときの加圧状態について
圧切替部材67が図19(a)に示す第1の角度を占めていて、A3サイズの通紙範囲に配置されている加圧ローラ30に取り付けられた付勢部材36に撓み(弾性変形)を与えて加圧力を発揮する。このとき、圧切替部材67の第1の角度における圧切替部67aの形状によって、A3サイズの中央部に相当する付勢部材36の撓み量は最も大きく設定されて用紙に加圧力を付与する。
【0100】
(c)A2サイズのときの加圧状態について
圧切替部材67が図19(a)に示す第2の角度を占めていて、A2サイズの通紙範囲に配置されている加圧ローラ30に取り付けられた付勢部材36に撓みを与えて加圧力を発揮する。このとき、圧切替部材67の第2の角度における圧切替部67bの形状によって、A2サイズの中央部に相当する付勢部材36の撓み量は最も大きく設定されて用紙に加圧力を付与する。
【0101】
(d)A1サイズのときの加圧状態について
圧切替部材67が図19(a)に示す第3の角度を占めていて、A1サイズの通紙範囲に配置されている加圧ローラ30に取り付けられた付勢部材36に撓みを与えて加圧力を発揮する。このとき、圧切替部材67の第3の角度における圧切替部67cの形状によって、A1サイズの中央部に相当する付勢部材36の撓み量は最も大きく設定されて用紙に加圧力を付与する。
【0102】
(e)A0サイズ(通紙可能な最大サイズ)のときの加圧状態について
圧切替部材67が図19(a)に示す第4の角度を占めていて、A0サイズの通紙範囲に配置されている加圧ローラ30に取り付けられた付勢部材36に撓みを与えて加圧力を発揮する。このとき、圧切替部材67の第4の角度における圧切替部67dの形状によって、A0サイズの中央部に相当する付勢部材36の撓み量は最も大きく設定されて用紙に加圧力を付与する。
【0103】
駆動ローラ29は軸方向に一体の回転体(回転部材)であり、加圧ローラ30は軸方向に複数に分割されて配置されている回転体(回転部材)である。加圧ローラ30は付勢部材36の撓み量で決まる加圧力を発揮し、この加圧力を用紙10に付与して駆動ローラ29が駆動することで用紙10の搬送を行う。
付勢部材36の撓み量は、付勢部材36に接して加圧力を切り替える、圧切替部材67によって制御される。圧切替部材67は、紙詰まり処理時などの異常時には脱圧状態となる位置まで回転し、付勢部材36の撓みを解放する角度に設定することができる。用紙10の搬送を行うときは、レバー部材64を操作して、用紙10のサイズに対応した回転角度まで圧切替部材67を設定する。
【0104】
例えば、用紙10がA3サイズであった場合、圧切替部材67が第1の角度で付勢部材36に撓みを付与するようにレバー部材64を操作すると、複数に分割された加圧ローラ30のうち、片側基準SL側からA3サイズに相当する範囲の加圧ローラ30だけが加圧力を発揮し、且つ、用紙10の中央部にかかる加圧力が最も高い状態に設定される。このとき、図示しないロック部材によって、第1〜第4の角度それぞれの位置にレバー部材64を固定できるようになっており、これによりレバー部材64は第1の角度で固定される。このため、用紙10には中央部に主な搬送力が働くこととなり、シート幅方向の左右の加圧力のバランスが崩れて搬送力に差が生じて用紙10が斜行してしまう不具合を防止し、安定した搬送状態を作り出すことができる。
また、用紙10の搬送範囲外には加圧力が付与されない状態となるため、駆動ローラ29には必要以上の負荷がかかることが無くなり、そのため駆動ローラ29の図示していない駆動源の負荷も軽減される。
【0105】
(第2の実施形態の変形例2)
図22および図23を参照して、加圧力分布を切り替える切替手段の別の構成例である第2の実施形態の変形例2について説明する。変形例2は、図17〜図21に示した第2の実施形態と比較して、加圧解除機構62に代えて、図22および図23に示すように、切替手段73を備えた加圧解除手段としての加圧解除機構72を用いる点が主に相違する。
【0106】
加圧解除機構72は、第2の実施形態の加圧解除機構62と比較して、加圧解除部材70を付設した点、および圧切替部材67を備えた切替手段63に代えて、圧切替部材77を備えた切替手段73を用いる点が主に相違する。この相違点以外の変形例2の構成は、第2の実施形態の記録装置と同様である。以下、第2の実施形態と相違する加圧解除部材70、圧切替部材77を備えた切替手段73の構成および動作を中心に説明することとし、第2の実施形態と同様の部材および構成、具体的には駆動ローラ29、シート幅方向に複数に分割された加圧ローラ30、個々の加圧ローラ30ごとに設けられた加圧アーム33、支点軸34、アームホルダ35、個々の加圧ローラ30ごとに設けられた付勢部材36については重複説明を避ける上からその説明を省略する。なお、図22では支点軸34を保持するアームホルダ35の図示は省略されている。
【0107】
圧切替部材77は、図22および図23に示すように、複数に分割された構成、すなわち本変形例では4つに分割された圧切替部材77a,77b,77c,77dとしていて、搬送可能な用紙10のそれぞれのサイズに対応した回転軸68方向の位置に取り付けられている。加圧解除部材70は、各圧切替部材77a,77b,77c,77dと組み合わせて構成されている。
加圧解除部材70は、段差形状をなし、回転軸68方向の左右に近接した一対の各圧切替部材77a,77b,77c,77dの間に、回転軸68を回転可能に支持するように取り付けられている。
【0108】
図23に示すように、各圧切替部材77a,77b,77c,77dの回転角度が、加圧ローラ30の圧を解除する位置に操作されたとき、同図では省略されている付勢部材36の他端36aに加圧解除部材70の段差部が引っかかり、下方に下げる動きをすることで、加圧ローラ30を駆動ローラ29から離間・保持するように動作する。加圧状態の動作は、第2の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0109】
以上説明したとおり、本実施形態2およびその変形例2によれば、用紙サイズが狭幅から広幅の何れの場合でも、主となる搬送力がそれぞれの用紙サイズの用紙中央部に付与されるように加圧ローラ30の加圧力を切り替えられることにより、用紙の搬送基準が片側基準の場合でも中央基準の場合でも、安定した用紙の搬送状態を容易に得ることができる。
【0110】
(第1の実施形態の変形例3)
上述した第1の実施形態では、加圧力を用紙幅に対して均等に加圧するのではなく、用紙幅の中央付近の加圧力が最も高く、両端部に行くに従い加圧力を下げる略正規分布状になる構成になっており、加圧力を均等に揃えるよりも、調整の手間がかからず、安定した搬送を行うことができるものであった。しかしながら、付勢部材36A,36Bや加圧解除部材37A,37B等の部品毎の誤差や組み付けによるバラツキにより、加圧力のもっとも高い部分と用紙幅の中心線の位置との間に、搬送に支障が出るようなズレが発生した場合、そのズレを補正することが簡単にできない虞がある。また、狙いの圧力分布と異なる状態となってしまい、用紙搬送に不都合が生じた場合も同様である。
そこで、本変形例3では、搬送する用紙幅の中心線に対して、加圧ローラの駆動ローラに対する加圧力の最も高い部分が用紙幅方向にズレた場合に、本来の狙いとする加圧力に自動的に調整・補正することにより、加圧力の最も高い部分と用紙幅の中心線とが一致するように補正したり、加圧力分布を適正な状態に修正したりすることで、安定した搬送を行うことを目的として創作した。
【0111】
図24〜図28を参照して、第1の実施形態の変形例3を説明する。図24は、変形例3における加圧力補正機構の制御構成を含む要部構成および加圧動作の初期状態を表す一部断面正面図、図25は、同加圧力補正機構による加圧力増加状態の動作を表す一部断面正面図、図26は、同加圧力補正機構による加圧力減少状態の動作を表す一部断面正面図、図27は、図26の加圧力補正機構をV26方向から見たときの、制御構成を含む平面図、図28は、狙いの加圧力分布と実際の加圧力分布とのギャップを説明する図である。なお、図27では、付勢部材36A等の図示が省略されている。
【0112】
変形例3は、図24〜図27に示すように、図2〜図12に示した第1の実施形態の加圧解除機構32の加圧部に代えて、加圧力補正手段としての加圧力補正機構78を備えた加圧部を用いる点が主に相違する。この相違点以外の変形例3の主な構成は、第1の実施形態の記録装置と同様である。変形例3では、第1の実施形態の加圧解除機構32における加圧解除部材37A,37Bの解除部に係る構成および動作は第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
加圧力補正機構78は、加圧時に、付勢部材36Aの他端36b側を回転軸38を中心として揺動して押し込む量を初期設定状態から変化させることで、加圧ローラ30の駆動ローラ29に対する加圧力を変更し補正する加圧力補正手段として機能する。
【0113】
加圧力補正機構78を備えた加圧部は、第1の実施形態の加圧解除機構32の加圧部と比較して、図11等に示した加圧解除部材37Aに一体的に形成された付勢部材押し上げ部39A(図7および図8では総括的な符号39で示す部位)を除去しこれに代えて、加圧解除部材37A’を用いる点、加圧解除部材37A’に設けられ加圧力補正部材79を具備する加圧力補正機構78を用いる点が主に相違する。すなわち、加圧解除部材37A’は、加圧解除部材37Aと比べて、加圧解除部材37Aに一体的に形成された付勢部材押し上げ部39Aが削除されている点のみ相違する。
加圧力補正機構78を備えた加圧部は、図7に示した第1の実施形態と同様に、搬送する用紙(シート)の中央部を最大加圧力とする略正規分布状に加圧力を付与するように予め設定されている。本変形例3では、説明の簡明化のため便宜的に、図7に示した中央基準CLの中央部右側における4ユニットの加圧ローラ30に対応した4箇所の加圧力補正機構78について説明するが、4×4ユニットの加圧ローラ30の全てに対応して、あるいはこれよりも多くのあるいは少ないユニットに対して、用途に応じて適宜配設しても良いことは無論である。
【0114】
加圧力補正機構78は、図24および図27に示すように、付勢部材36Aの他端36b側と接触し、付勢部材36Aの弾性変形量を増減させる方向に移動可能な複数の加圧力補正部材79と、各加圧力補正部材79と各付勢部材36Aの他端36b側とが接触する部分に設けられた複数の加圧力検知手段85と、個々の加圧力補正部材79をして付勢部材36Aの弾性変形量を増減させる方向に移動させる補正部材駆動ユニット80と、予め設定された加圧力分布データおよび補正値等を記憶する補正値記憶手段91と、各加圧力検知手段85からの信号に基づいて、狙いとする加圧力分布に自動的に補正する制御手段としての加圧力制御手段90と、加圧力の補正値を設定・入力する補正値入力手段95とを具備している。
【0115】
各加圧力補正部材79は、図24〜図27に示すように、正面視で略E字形状をなし、例えば薄い板材である板金で形成されている。各加圧力補正部材79には、図11等に示した加圧解除部材37Aの付勢部材押し上げ部39Aと同様に機能する2箇所の加圧フランジ79bと、付勢部材36Aの弾性変形量を増減させる方向に沿って長い2箇所の長孔79aとが一体的に形成されている。各加圧力補正部材79は、加圧解除部材37A’に螺合される2箇所の段付きネジ84により2箇所の長孔79aが案内されることで、付勢部材36Aの弾性変形量を増減させる方向にスライド可能に加圧解除部材37A’に支持されている。
上記したとおり、加圧解除部材37A’は、基端部が回転軸38に固定されており、回転軸38を回転させることで、先端部に可動に設けられた加圧力補正部材79とともに起き上がり、付勢部材36の他端36b側(コ字状に曲げられた2箇所)を押し上げることで、加圧ローラ30に加圧力を発生させるように構成されている。
【0116】
加圧力検知手段85は、各図において縦線ハッチで表されており、各加圧力補正部材79の2箇所の加圧フランジ79bの先端に固着されている。加圧力検知手段85としては、例えば半導体圧力センサなどが好ましく用いられる。
補正部材駆動ユニット80は、駆動手段としての正逆転可能なモータ81と、モータ81からの回転駆動力の大きさと方向とを変えるためのギヤボックス82と、加圧力補正部材79へのスライド・往復直線運動に変換するためのボールネジ83とから主に構成されている。ボールネジ83は、加圧力補正部材79の中央寄りのフランジ部に形成された雌ネジに螺合している。モータ81およびギヤボックス82の本体は、加圧解除部材37A’に取り付け・固定されている。
【0117】
加圧力制御手段90からの制御指令信号に基づいて、各補正部材駆動ユニット80を作動させること、すなわちモータ81を所定の回転数駆動させると、ギヤボックス82においてモータ81出力軸の回転方向が90度変更されるとともに、回転駆動力の大きさも適宜変更(通常は減速)された後、ボールネジ83の回転運動に変換されることにより、各加圧力補正部材79の位置を変更することができる。
なお、ボールネジ83に限らず、カム等を使用して付勢部材36Aの弾性変形量を増減させる方向(図24〜図26の略上下方向)に加圧力補正部材79をスライド移動させても良い。
【0118】
加圧力制御手段90には、補正値記憶手段91と補正値入力手段95とが電気的に接続されており、補正値入力手段95から入力された任意の補正値を、補正値記憶手段91に記憶することができる。
加圧力制御手段90および補正値記憶手段91は、例えばCPU、ROM、RAM、タイマ等を備えたマイクロコンピュータで構成することが可能である。
加圧力制御手段90は、補正値記憶手段91から動作プログラムや加圧力に係る補正値等を随時呼び出ながら、各加圧力検知手段85からの出力信号に基づいて、狙いとする加圧力分布に自動的に補正する制御手段として機能する。
【0119】
補正値記憶手段91を上記ROMで構成した場合には、補正した加圧力に係る値を補正値として記憶する機能の他に、上記CPUとしての加圧力制御手段90が発揮すべき制御・演算機能に必要な動作プログラムや関係データを予め記憶させても良い。また、補正値記憶手段91をフラッシュメモリなどのPROMで構成した場合には動作プログラムや関係データを任意に書き換えたりすることも可能である。関係データとしては、搬送する用紙の種類、用紙サイズごとに狙いの加圧力分布とするために予め設定されたデータテーブル(例えば図28に示すような狙いの加圧力分布)が挙げられる。
補正値入力手段95としては、操作部としての操作パネル等に配設されるテンキー等が挙げられる。補正値入力手段95によって、補正値記憶手段91に対して動作プログラムや関係データを任意に書き換えたりすることも可能である。
【0120】
本変形例3の加圧時の動作を、第1の実施形態の動作と相違する点を中心に説明する。なお、加圧解除部材38B側の動作および加圧解除時の動作は第1の実施形態の動作と同様であるため、その図示および説明を省略する。
図9において、操作レバー56を操作することにより、第1の実施形態の動作と同様に、リンク機構57、出力レバー60を介して回転軸38がB方向に揺動・回転すると、図24に示すように、加圧解除部材37A’が同図に示すように直立する方向に揺動し、加圧解除部材37A’が起き上がり、各加圧力検知手段85を介して加圧力補正部材79の加圧フランジ79bと付勢部材36の他端36b側とが接触する。このとき、各加圧力補正部材79の加圧フランジ79bは同図に示すような初期状態の位置を占めていて、各加圧力検知手段85は現在の加圧力を検知・測定し、加圧力制御手段90にその加圧力に係る信号を出力する。
加圧力制御手段90は、搬送される用紙に対して予め設定させている加圧力(補正値記憶手段91に記憶されている狙いとする加圧力分布)と加圧力検知手段85からの現在の加圧力とを比較・照合し、補正部材駆動ユニット80の制御を行う。ここで、加圧力制御手段90は設定された加圧力値(以下、「設定値」ともいう)と現在の加圧力とが異なっていると判断した場合、加圧力を上げて加圧増状態とするときには図25中矢印で示すように、補正部材駆動ユニット80を作動させ、加圧力補正部材79を上げる方向にスライド移動させる。逆に、加圧力を下げて加圧減状態とするときには図26中矢印で示すように、加圧力補正部材79を下げる方向にスライド移動させる。この際、ボールネジ83を使用しているので、設定値と現在の加圧力とが一致した時点で、補正部材駆動ユニット80を停止させれば加圧力補正部材79はその位置を保持しつづける。
また、設定値と異なる任意の加圧力にて用紙を搬送させたい場合、補正値入力手段95により、任意の補正値を加圧力制御手段90に入力することができ、その補正値を加圧力制御手段90と接続されている補正値記憶手段91に記憶させることで、2回目以降は入力する手間を省くことができる。
【0121】
図28に示すように、用紙を搬送するとき、搬送する用紙の種類、用紙サイズによって、狙いの加圧力分布が補正値記憶手段91に設定・記憶されているが、その狙いに対して実際の加圧力分布が、部品の誤差や組み付けのバラツキ等によってズレてしまっていることがある。このような場合には、図27に示すように、各加圧力補正部材79に設けられた各加圧力検知手段85からの信号を受けて、加圧力制御手段90は各補正部材駆動ユニット80を作動させ、各加圧力補正部材79の位置を図中太矢印のように下げて加圧力の調整を行うフィードバック制御を行う。加圧力制御手段90は上記フィードバック制御を行いながら目標とする狙いの加圧力に近づけていき、狙いとする加圧力を中心とする所定の範囲内に入ったと判断したとき、補正部材駆動ユニット80の作動を停止させることとなる。
【0122】
本変形例3によれば、上記構成および動作によって、加圧力を自動的に調整・補正することが可能であり、搬送する用紙幅の中心線に対して、加圧ローラの駆動ローラに対する加圧力が最も高い部分が用紙幅方向にズレた場合に、加圧力の最も高い部分と用紙幅の中心線とが一致するように補正したり、加圧力分布を適正な状態に修正したりすることで、安定した搬送を行うことができる。換言すれば、各付勢部材36Aの部品公差や、取り付け時のバラツキ等の誤差により、加圧力分布の最大加圧力の位置が狙いの位置から外れた場合や、圧力分布が異なってしまった場合でも、部品の交換や組み直しを行うことなく、各加圧力補正部材79の位置の修正を行えることで、良好な搬送性能を得ることができる。
また、加圧力補正手段としての加圧力補正機構78は、付勢部材36Aの他端36b側と接触し、付勢部材36Aの弾性変形量を増減させる方向に移動可能な加圧力補正部材79を具備していることにより、加圧解除部材37A’が加圧状態の位置であっても、その位置で付勢部材36Aの弾性変形量を調整することができるので、搬送する用紙の種類や幅が変更になっても、加圧力を解除せずに補正を行うことができる。
また、加圧力補正機構78は、加圧力補正部材79と付勢部材36Aの他端36b側とが接触する部分に、加圧力検知手段85を具備していることにより、各加圧力検知手段85からの出力結果と狙いとする加圧力と加圧分布とを比較・照合し、加圧力補正を行うことが可能であるため、どの用紙幅を搬送しても、良好な搬送性能を得ることができる。
さらに、予め設定された加圧力に対して任意に補正を行い、補正した値を補正値として記憶する補正値記憶手段91を具備し、各加圧力検知手段85からの信号に基づいて、加圧力分布を自動的に補正する加圧力制御手段90を具備していることにより、事前に設定された加圧力に対して任意に補正を行い、補正した値を補正値として補正値記憶手段91に記憶し、予め装置に登録されている加圧力分布では対応できない用紙を搬送する際、個別に補正を行い記憶させることで、より多くの種類の用紙に対して良好な搬送性能を得ることができる。
【0123】
図2に示すとおり、実施形態1、2および変形例1〜3(以下、「実施形態1等」ともいう)の画像形成部3は、ローラ対29,30のニップ位置に対して一方の側である上方・上側に配置されているレイアウト構成であった。本発明では、画像形成部が一対の回転部材のニップ位置に対して一方の側である上方・上側に配置されているレイアウト構成に限らず、画像形成部が一方の側と反対の側である他方の側として定義される下方・下側または他側方に配置されている場合に、加圧解除部材および付勢部材の他端側が画像形成部のガイド部材と反対の側である一方の側としての上方・上側または一側方に配置されるレイアウト構成の場合にも適用できることは無論である。
同様の観点から、実施形態1等では下側に駆動ローラ29(駆動回転部材)が、加圧ローラ30(従動回転部材)が駆動ローラ29の上側に配置されているレイアウト構成であったが、これと反対の配置である駆動ローラ29が下側あるいは一側方に配置された場合に、加圧ローラ30が上側あるいは他側方に配置されるレイアウト構成の場合にも適用できることは無論である。
【0124】
以上説明したとおり、本発明を特定の実施形態や変形例等について説明したが、本発明が開示する技術的範囲は、上述した実施形態や変形例等に例示されているものに限定されるものではなく、それらを適宜組み合わせて構成してもよく、本発明の範囲内において、その必要性および用途等に応じて種々の実施形態や変形例あるいは実施例を構成し得ることは当業者ならば明らかである。
例えば、付勢部材36は、線バネに限らず、板バネ等を用いても良い。上記した構成部品や部材の材質は、それに限定されず、その機能をより良く発揮される公知の全てのものから選択できることは言うまでもない。また、画像形成部3は、シリアル型インクジェット記録装置に限定されず、ライン型インクジェット記録装置や電子写真方式による画像形成装置等またはそれら複数の機能を組み合わせた複合機あるいは印刷装置でも良い。
【符号の説明】
【0125】
1 装置本体
2 画像読取部
3 画像形成部
4 ロール紙収納部
6 ロール紙(シートロール)
7 フランジ(フランジ部材)
8フランジ受け台(シートロール支持部)
9 開口部
10 用紙(シート)
19 ガイドレール(ガイド部材)
20 キャリッジ
29 駆動ローラ(搬送手段、駆動回転部材)
30 加圧ローラ(搬送手段、従動回転部材)
31 本体フレーム
32、52、62、72 加圧解除機構(加圧解除手段)
33 加圧アーム(支持部材)
34 支点軸
35 アームホルダ(支点軸保持部材)
35a 軸変形防止部
35b 加圧解除支点部(当接部)
36 付勢部材
36a 付勢部材の一端
36b 付勢部材の他端
37、37A、37B、70 加圧解除部材
38 回転軸(揺動軸)
39 付勢部材押し上げ部
39a 曲げR部
40 付勢部材押し下げ部(段差部)
41 回転止め(加圧解除部の規制部)
42 回転止め(加圧部の規制部)
50 支点軸カバー
54 回転軸
56 操作レバー
57 リンク機構
63、73 切替手段
64 レバー部材
65 リンク部材
67、77 圧切替部材
68 回転軸
78 加圧力補正機構(加圧力補正手段)
79 加圧力補正部材
80 補正部材駆動ユニット
81 モータ
82 ギヤボックス
83 ボールネジ
85 加圧力検知手段
90 加圧力制御手段(制御手段)
91 補正値記憶手段
95 補正値入力手段
X 副走査方向・シート搬送方向
Y 主走査方向・シート幅方向
Z 上下方向・鉛直方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0126】
【特許文献1】特開2006−160507号公報
【特許文献2】特許第3782493号公報
【特許文献3】特開2006−231557号公報
【特許文献4】特許第2886451号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されてきたシートに画像形成を行う画像形成部と、
前記画像形成部におけるシート搬送方向上流側に配設され、前記画像形成部の画像形成領域へシートを搬送する駆動回転部材および該駆動回転部材に接離可能な従動回転部材からなる一対の回転部材と、
前記従動回転部材を前記駆動回転部材に加圧およびその解除を行うための加圧解除手段と、
を有し、
前記加圧解除手段は、
一端が前記従動回転部材に取り付けられ、他端側が該一端と該他端との間に設けられた支点軸を中心にして前記一端と反対側に位置する付勢部材と、
基端部が前記支点軸と前記付勢部材の前記他端との間に設けられた揺動軸に取り付けられ、前記加圧時に、先端部が前記付勢部材の前記他端を前記揺動軸を中心として揺動して押し込むことにより、前記支点軸を中心に該付勢部材を弾性変形させることで前記従動回転部材を前記駆動回転部材に加圧する加圧部、および該加圧部と一体的に形成され、前記加圧解除時に、前記付勢部材の前記他端を前記揺動軸を中心として前記加圧時と逆方向に揺動して押し込むことにより、前記一対の回転部材間に間隔を空けて保持する解除部を備えた加圧解除部材と、
を具備することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像形成装置において、
前記加圧解除手段は、一端部が前記従動回転部材を回転可能に支持し、他端部が前記支点軸によって揺動可能に支持される支持部材を具備することを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の画像形成装置において、
前記解除部と前記付勢部材の前記他端との係合が解除されたときであって、前記駆動回転部材と前記従動回転部材とが当接状態にあるとき、前記付勢部材の前記他端が前記一対の回転部材のニップ位置よりも下方に位置するように設定されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の画像形成装置において、
前記解除部は、前記付勢部材の前記他端と当接する面よりも上方にオフセットした位置で当接する面を備えた段差部を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項4記載の画像形成装置において、
装置本体に取り付けられ、前記支点軸を保持する支点軸保持部材を有し、
前記支点軸保持部材は、前記加圧解除時に、前記付勢部材が当接する当接部を備え、
前記加圧解除部材は、前記加圧解除時に、前記付勢部材の前記他端が前記段差部と係合した後、前記支点軸保持部材と当接することで前記解除部のさらなる押し込みを規制する規制部を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項5記載の画像形成装置において、
前記支点軸保持部材には、前記当接部と、前記支点軸の変形を防止する軸変形防止部とが一体的に形成されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一つに記載の画像形成装置において、
前記加圧解除部材は、前記加圧時に、前記加圧部が前記付勢部材と摺接する曲げR部と、装置本体と係合して前記加圧解除部材の前記揺動軸を中心とした揺動を規制する規制部とが一体的に形成されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一つに記載の画像形成装置において、
前記支点軸は、前記一対の回転部材のニップ位置よりも下方に配置されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか一つに記載の画像形成装置において、
前記一対の回転部材は、シートを中央基準で搬送するよう構成されており、
前記従動回転部材は、その軸方向に複数に分割された加圧ローラからなり、
前記駆動回転部材は、前記加圧ローラと対向する位置に設けられた複数の駆動ローラからなり、
前記付勢部材は、前記複数の加圧ローラに対応してバネ定数および形状が同じものが共通して用いられ、且つ、前記加圧部は、搬送するシートの中央部を最大加圧力とする略正規分布状に加圧力を付与するように、前記複数の加圧ローラに対応して前記押し込みの高さの異なるものが複数設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項1ないし8の何れか一つに記載の画像形成装置において、
前記一対の回転部材は、シートを片側基準で搬送するよう構成されており、
前記従動回転部材は、その軸方向に複数に分割された加圧ローラからなり、
前記駆動回転部材は、前記加圧ローラと対向する位置に設けられた複数の駆動ローラからなり、
搬送するシートサイズに応じて、前記複数の加圧ローラの軸方向における加圧力分布を切り替える切替手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
請求項10記載の画像形成装置において、
前記切替手段は、搬送するシートの中央部を最大加圧力とする略正規分布状に加圧力を付与することを特徴とする画像形成装置。
【請求項12】
請求項10または11記載の画像形成装置において、
前記切替手段は、レバー部材によって加圧力の切り替えを段階的に切り替え可能な構成であることにより、複数のシートサイズにおいて前記加圧力の変更が可能であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項13】
請求項10ないし12の何れか一つに記載の画像形成装置において、
前記切替手段による前記加圧力分布の切り替え設定を、該画像形成装置で搬送可能なシートのサイズのうち、最大シートサイズの設定とすることで、シートの搬送基準が片側基準だけでなく、中央基準としても搬送可能に構成したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項14】
請求項1ないし13の何れか一つに記載の画像形成装置において、
前記画像形成部は、液滴を吐出する記録ヘッドを収容し、前記画像形成領域よりもシート搬送方向上流側に設けられたガイド部材により主走査方向に移動しながら前記記録ヘッドによりシートに画像を記録するキャリッジを備え、
前記加圧解除部材および前記付勢部材の他端側が前記ガイド部材の下方に配置され、
前記加圧部は、前記加圧時に前記ガイド部材に近づくように揺動し、前記付勢部材の前記他端が前記ガイド部材の下端と離間した位置で保持されるように押し上げることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2011−152789(P2011−152789A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291244(P2010−291244)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】